(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079192
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】3Dプリンターで作製した成形型による成形品の製造方法及び成形品
(51)【国際特許分類】
B29C 51/36 20060101AFI20230531BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230531BHJP
B29C 51/10 20060101ALI20230531BHJP
B29C 51/26 20060101ALI20230531BHJP
B29C 70/44 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
B29C51/36
B33Y80/00
B29C51/10
B29C51/26
B29C70/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186282
(22)【出願日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2021191673
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [開催日] 令和3年12月1日(水)~令和3年12月3日(金) [集会名] Japan International SAMPE symposium & Exhibition 17th [開催場所] 東京ビッグサイト 西展示棟 [タイトル] VACUUM-ASSISTED PRESS FORMING FOR WOVEN CARBON FIBER REINFORCED PLASTICS(1A-03) [開催日] 令和3年12月8日(水)~令和3年12月10日(金) [集会名] China-Germany-Japan Workshop on Advanced Manufacturing of New Energy Vehicles [開催場所] Zoomによるオンライン開催 [タイトル] Advanced Deep Drawing of Carbon Fiber Reinforced Thermoplastic [発行者名] 日本機械学会 [刊行物名] 日本機械学会誌、2022年、125巻、1242号、P33-35 [発行年月日] 令和4年5月5日 [論文名] 炭素繊維強化プラスチックのリサイクル材と真空成形への応用 [開催日] 令和4年9月14日(水)~令和4年9月16日(金) [集会名] 14th International Conference on Textile Composites [開催場所] 京都工芸繊維大学 [タイトル] Enhancement of deep-drawing capability of woven carbon reinforced thermoplastic polymer by 3D-printed architecture mold [開催日] 令和4年9月20日(火)~令和4年9月21(水) [集会名] 第47回 複合材料シンポジウム [開催場所] 二日市温泉 大観荘 [タイトル] 真空成形を用いた織物炭素繊維強化プラスチックの高賦形成形(B104)
(71)【出願人】
【識別番号】593171411
【氏名又は名称】株式会社漆原
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】漆原 和告
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 輝行
(72)【発明者】
【氏名】上田 政人
(72)【発明者】
【氏名】淺野 友軌
【テーマコード(参考)】
4F202
4F205
4F208
【Fターム(参考)】
4F202AA24
4F202AA28
4F202AA29
4F202AB16
4F202AB25
4F202AH42
4F202AH56
4F202AR06
4F202AR12
4F202CA17
4F202CB01
4F202CD28
4F202CK12
4F205AA13
4F205AA24
4F205AA28
4F205AA29
4F205AA32
4F205AA40
4F205AD16
4F205AG28
4F205HA08
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4F205HA34
4F205HA45
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4F205HC05
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4F205HK04
4F208AA09
4F208AA11
4F208AA20
4F208AA24
4F208AA28
4F208AA29
4F208AA32
4F208AB25
4F208AC03
4F208AD16
4F208AG07
4F208AH56
4F208AR06
4F208AR12
4F208MA01
4F208MB01
4F208MC01
4F208MC02
4F208MC03
4F208MD10
4F208MH06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コーナー部が極端に肉薄になったり穴が開いたりすることがなく、成形品の表面に表れる織物配列の乱れがなく曲線部が綺麗な仕上がり感を有しており、成形時に織物強化熱可塑性樹脂シートが層間剥離しない、織物強化熱可塑性樹脂シート成形品、及び、前記成形品を効率的に製造する製造方法を提供する。
【解決手段】熱溶融積層法(3Dプリンター)で作製した無数の微細孔を有する成形型を、雌型あるいは雄型、または雌型及び雄型に用いて、織物強化熱可塑性樹脂シートを真空成形することを特徴とする、織物強化熱可塑性樹脂シート成形品の製造方法、ならびに、織物強化熱可塑性樹脂シートを真空成形した成形品であって、真空成形用の成形型のうち、雌型あるいは雄型、または雌型及び雄型として、熱溶融積層法で作製した無数の微細孔を有する成形型を用いたことを特徴とする、織物強化熱可塑性樹脂シート成形品。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融積層法(3Dプリンター)で作製した無数の微細孔を有する成形型を、雌型あるいは雄型、または雌型及び雄型に用いて、織物強化熱可塑性樹脂シートを真空成形することを特徴とする、織物強化熱可塑性樹脂シート成形品の製造方法。
【請求項2】
前記成形型が、短繊維強化材を10質量%~35質量%含有する熱可塑性樹脂組成物で形成されており、該成形型の密度が成形前の該成形型の材料の密度の60%~95%である、
請求項1に記載の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品の製造方法。
【請求項3】
前記成形型を形成する熱可塑性樹脂が、該熱可塑性樹脂Aの融点をTA、前記織物強化熱可塑性樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂Bの融点をTBとしたとき、
(TA-TB)≧0℃ の関係を満たす、
請求項2に記載の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品の製造方法。
【請求項4】
前記成形型を形成する熱可塑性樹脂Aが、ABS樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂またはポリエーテルイミド樹脂から選ばれた1種であり、
前記短繊維強化材が、繊維長0.05mm~1mmの非溶融繊維である、
請求項3に記載の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品の製造方法。
【請求項5】
前記織物強化熱可塑性樹脂シートが、厚みが0.5mm~3.0mmで、繊維の体積含有率(Vf)が15%~55%である、
請求項1に記載の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品の製造方法。
【請求項6】
織物強化熱可塑性樹脂シートを真空成形した成形品であって、
真空成形用の成形型のうち、雌型あるいは雄型、または雌型及び雄型として、熱溶融積層法(3Dプリンター)で作製した無数の微細孔を有する成形型を用いたことを特徴とする、織物強化熱可塑性樹脂シート成形品。
【請求項7】
前記成形品の底面からの高さ(深さ)が40mm以上である、請求項6に記載の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品。
【請求項8】
前記織物強化熱可塑性樹脂シートを構成する織物が、炭素繊維織物、植物繊維織物及びフラットヤーン織物から選択される少なくとも1種である、
請求項6に記載の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品。
【請求項9】
前記織物強化熱可塑性樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂Bが、融点120℃~220℃の樹脂である、
請求項6に記載の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂Bが、ポリオレフィン系樹脂またはポリアミド系樹脂である、
請求項9に記載の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品。
【請求項11】
前記織物強化熱可塑性樹脂シートが加飾性シートであり、
前記加飾性シートは、前記織物強化熱可塑性樹脂シートの片面(成形品の表面になる側)に、透明熱可塑性樹脂フィルムと無延伸熱可塑性樹脂フィルムのラミネートフィルムを、該透明熱可塑性樹脂フィルムが外側になるように積層したものである、
請求項6に記載の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品。
【請求項12】
前記透明熱可塑性樹脂フィルムが、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルムまたはホモポリプロピレン樹脂フィルムから選ばれた1種であり、
前記無延伸熱可塑性樹脂フィルムが、ポリプロピレン系樹脂フィルム、エチレン-プロピレンランダム共重合体フィルム、エチレン-プロピレンブロック共重合体フィルムから選ばれた1種である、
請求項11に記載の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品。
【請求項13】
前記成形品が、カメラケース、レンズケース、アタッシェケース、スーツケース、楽器ケースから選ばれた少なくとも1種である、
請求項6~12いずれかに記載の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶融積層法(3Dプリンター)で作製した成形型を用いて真空成形を行う織物強化熱可塑性樹脂シート成形品の製造方法、及び、真空成形された織物強化熱可塑性樹脂シートの成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂シートに炭素繊維織物等の強化織物を積層した織物強化熱可塑性樹脂シートは、高い引張強度を有するとともに織物の織り目が良好な意匠性を有することから、自動車用インストルメントパネル、家具、スポーツ用具、楽器ケース、スーツケース等に用いられている。
【0003】
しかしながら、織物強化熱可塑性樹脂シートを用い真空成形によって、スーツケース、カメラケース、楽器ケース等の深さとコーナー部を有する成形品を作製した場合、成形品のコーナー部に皺が発生する、あるいは、コーナー部のシートが引き延ばされて薄くなりコーナー部の強度が極端に低下する、あるいは、織物強化熱可塑性樹脂シートが層間剥離する等の問題点があり、現状、満足できる成形品は得られていない。
【0004】
本発明者は、炭素繊維織物が有する意匠性を損なわず、軽量で、耐擦傷性があり、真空成形後の層間剥離や反りがないシートとして、熱可塑性樹脂を含浸させた炭素繊維織物の両面に、透明熱可塑性樹脂フィルムと無延伸熱可塑性樹脂フィルムのラミネートフィルムを積層し、無延伸熱可塑性樹脂フィルム側に炭素繊維織物を接着させた成形用シート等を提案した(特許文献1)。この成形用シートは、金属製金型により成形したときに生じる、層間剥離、炭素繊維織物の織目の歪みと言った問題の克服を主目的とするものである。しかし、未だ満足できる結果に至っていない。
【0005】
一方で、3Dプリンターによる積層造形をプラスチックの成形金型の作製に応用する試みは、これまで多数報告されている(特許文献2~4、非特許文献1~2等参照)。
【0006】
例えば、特許文献2には、三次元積層造形法により製造した成形金型を用いて、真空成形法により、熱可塑性樹脂シートを成形型の形状に成形する方法が開示されている。特許文献3には、ABS樹脂を用いて真空成形用の成形型を作製し、ポリスチレンやポリプロピレンを素材とする厚さ約0.5mmの合成紙を、真空によって型面に吸着する方法が開示されている。
【0007】
さらに特許文献4には、ポリアミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂粉末に、離型性を良くするために球状カーボン10~80質量%を混合した複合材料粉末を用い、積層造形法により作製された成形型が開示されている。この成形型は、真空成形にも使用できると記載されているが、実際に作製されているのは射出成形用の型である(
図1参照)。成形材料については全く開示がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-059036号公報
【特許文献2】特開2001-030267号公報
【特許文献3】特開2006-167947号公報
【特許文献4】特開2010-234800号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】安齋正博,「3Dプリンティング技術のものづくりへの活用方法」日本ゴム協会誌,Vol.87,No.9,p376,2014
【非特許文献2】渡辺崇史,「3Dプリンターの基礎知識」日本義肢装具学会誌,Vol.32,No.3,p148,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の通り、先行技術文献には、熱可塑性樹脂を用いた、真空成形にも応用できる成形用金型が開示されているが、織物強化熱可塑性樹脂シートのような高剛性の複合材料の真空成形については、全く開示されていない。
即ち、織物強化熱可塑性樹脂シートの真空成形品であって、成形品の表面に表れる織物配列の乱れが抑制されている(意匠性が良い)、コーナー部が極端に肉薄になることがない(強度を維持できる)、曲線部の仕上がりが綺麗(美的外観に優れる)、さらには成形後に織物強化熱可塑性樹脂シートが層間剥離しない(外観・強度に優れる)ものは開示されていない。
【0011】
したがって、織物強化熱可塑性樹脂シートを用いて、カメラケース、レンズケース等の小型サイズの成形品から、スーツケース等の中型サイズの成形品に至るまで、種々の真空成形品を製造することができれば、意匠性があって、軽量性と高強度性を兼備する利便性の良い成形品の効率的な提供が可能になる。
一方で、熱可塑性樹脂製の成形型では、従来から耐用回数の問題が指摘されているが、真空成形品(商品)の生産計画数と成形型の耐用回数との関係で、高価な金属金型を使うよりも経済的に有利になることもある。
【0012】
本発明の目的は、上記事情に鑑みてなされたものであり、コーナー部が極端に肉薄になったり穴が開いたりすることがなく、成形品の表面に表れる織物配列の乱れがなく、曲線部が綺麗な仕上がり感を有しており、成形時に織物強化熱可塑性樹脂シートが層間剥離しない、織物強化熱可塑性樹脂シート成形品、及び、前記成形品を製造する製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、織物強化熱可塑性樹脂シートを、3Dプリンターを用いて熱溶融積層法により作製した熱可塑性樹脂製の成形型を用いて真空成形することにより、上記課題を一挙に解決し得ることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、本発明は、熱溶融積層法(3Dプリンター)で作製した無数の微細孔を有する成形型を、雌型あるいは雄型、または雌型及び雄型に用いて、織物強化熱可塑性樹脂シートを真空成形することを特徴とする、織物強化熱可塑性樹脂シート成形品の製造方法を提供する。
また、本発明は、織物強化熱可塑性樹脂シートを真空成形した成形品であって、真空成形用の成形型のうち、雌型あるいは雄型、または雌型及び雄型として、熱溶融積層法(3Dプリンター)で作製した無数の微細孔を有する成形型を用いたことを特徴とする、織物強化熱可塑性樹脂シートの成形品を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コーナー部が極端に肉薄になったり穴が開いたりすることがなく、成形品の表面に表れる織物配列の乱れがなく曲線部の仕上がり感が綺麗であると共に、織物強化熱可塑性樹脂シートが層間剥離することがない、織物強化熱可塑性樹脂シート成形品を製造できる。
【0016】
また、繊維強化材を含有する熱可塑性樹脂を用いて、熱溶融積層法(3Dプリンターを用いて射出、積層する操作を繰り返して成形型を造形する方法)により作製した成形型は、多数の微細孔を有している。従来の金型ように予め成形型に真空孔を設けなくても、成形型の全面にほぼ均一に形成された、型表面から空洞部まで貫通する微細孔を通して真空引きすることができ、成形型を通じて、空洞内の空気をほぼ完全に近い状態で排気できるため、織物強化熱可塑性樹脂シートのような硬いシートであっても、成形型の形状に追随させることができる。それにより、成形品コーナー部での皺・穴の発生やシートの層間剥離が無く、機械的強度及び外観に優れ、織物が有する意匠性が損なわれない織物強化熱可塑性樹脂シート成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】本発明の成形型の一例である設計済みのスーツケースのシェル(雄型)の斜視図。
【
図5A】実施例1で成形したトリミング前のシェル外観写真。
【
図5B】実施例1で成形したトリミング前のシェルのコーナー部周辺の外観写真。
【
図6】実施例2で成形したトリミング前のシェル外観写真。
【
図7A】実施例3で成形したトリミング前のシェル外観写真。
【
図7B】実施例3で成形したトリミング前のシェルのコーナー部周辺の外観写真。
【
図8】実施例4で成形したスーツケースの外観写真。
【
図9】本発明の成形型の一例である雌型表面の走査型電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品(以下、「成形品」と称することがある。)は、熱溶融積層法(3Dプリンター)で作製した無数の微細孔を有する成形型を用いて、織物強化熱可塑性樹脂シートを真空成形することにより作製される。
成形型としては、雌型及び雄型があるが、本発明の成形品及び成形品の製造方法では、熱溶融積層法(3Dプリンター)で作製した無数の微細孔を有する成形型を、雌型あるいは雄型のいずれかに使用することができる。または、雌型及び雄型の両方に使用することもできる。
【0019】
[成形型]
成形型としては、短繊維強化材と熱可塑性樹脂(以下、「熱可塑性樹脂A」と称する。)を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いて熱溶融積層法で作製した成形型を用いることが好ましい。前記短繊維強化材は、造形した成形型の強度を保持するために用いられる。該短繊維強化材がない場合、成形時の圧力に耐えられるだけの強度を有する成形型が得られ難くなる。前記熱可塑性樹脂組成物には、紫外線吸収剤、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤等の添加剤が配合されていても良い。
【0020】
前記短繊維強化材を構成する繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、鉱物繊維等の高強度、かつ、熱で溶融しない非溶融繊維が好ましい。短繊維強化材の繊維長(平均繊維長)は、0.05mm~1mmが好ましい。短繊維の繊維長が0.05mm以上あると熱可塑性樹脂を補強する効果があり、1mm以下であると3Dプリンターを用いて熱溶融積層法により成形型を作製する際に、短繊維がプリンターノズルに詰まる心配がない。より好ましくは0.05mm~0.8mm、さらに好ましくは0.1mm~0.4mmである。短繊維強化材としては、粉砕品であっても繊維形状を維持でき、熱的性質、寸法安定性、強度、弾性率等を向上できる点から、通常、ミルド繊維(ガラス繊維、炭素繊維等を粉砕したもの)を用いるが、チョップド繊維を用いても良い。
【0021】
成形型に用いる熱可塑性樹脂Aとしては、特に限定されず、公知の熱可塑性樹脂を使用できるが、熱溶融積層法(3Dプリンター)での成形型の造形容易性、後述する成形品の成形温度に耐えられる点から、ABS樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂や、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等を使用する。
【0022】
ポリアミド系樹脂の具体例としては、例えば、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンジアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリアミド46、ナイロン6/66、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)等が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、熱溶融積層法による成形型の造形し易さ、及び、織物強化熱可塑性樹脂シート真空成形時における溶融安定性が高く(即ち、熱溶融しない)、かつ、高強度、耐摩耗性、耐衝撃性に優れる点より、ナイロン6、ナイロン66、MXナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等のスーパーエンジニアリング樹脂が好ましい。
【0024】
織物強化熱可塑性樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂を幅広く選択することができる点及び成形温度との関係で成形性が著しく悪化しない点より、熱可塑性樹脂Aの融点(TA)は215℃以上であることが好ましい。TAは、より好ましくは215℃~340℃である。
なお、本発明において、熱可塑性樹脂の融点は、JIS K 7121に準じて、示差走査熱量測定(DSC)により測定した時の最大ピーク時の温度の値(Tm)を言う。
【0025】
短繊維強化材と熱可塑性樹脂Aの比率(質量比)は、10:90~35:65が好ましく、より好ましくは15:85~35:65、さらに好ましくは20:80~30:70である。短繊維強化材の比率が少なすぎると、造形した成形型の強度が真空成形に必要な強度を維持することが困難になる。一方、短繊維強化材の比率が多くなりすぎると、3Dプリンターのノズルからの射出する熱可塑性樹脂の挙動が不安定になる。
【0026】
短繊維強化材を含有する熱可塑性樹脂組成物は、市販品を用いることができ、通常、フィラメントの形態で市販されているものを用いるのが良い。フィラメント径は、3Dプリンターのノズル径によって異なるため特に限定されないが、例えば、市販の3Dプリンター用フィラメントとして一般的である1.75mmのもの等を挙げることができる。
【0027】
本発明の成形型は、融点が215℃以上の熱可塑性樹脂と、短繊維強化材と、を必須成分として含有し、前記短繊維強化材の含有量が10質量%~35質量%である熱可塑性樹脂組成物を用いて、熱溶融積層法により作製されたものが好ましい。前記成形型は、表面及び内部に無数の微細孔を有し、該微細孔は成形型全体にほぼ均一に形成されており、型表面から内部まで貫通している。そのため、真空成形時に、当該微細孔を通じてほぼ完全に近い状態で真空引きすることができる。また、前記成形型を用いることで厚さが1mm以上の硬いシートであっても成形することができる。
【0028】
真空成形用の成形型(雄型及び雌型)の作製方法は、従来公知の方法あるいはそれに準ずる方法を採用すれば良い。例えば、目的とする成形品の設計データを3DCADデータとして取り込み、3Dプリンターのノズルより、短繊維強化材を含有する熱可塑性樹脂組成物を、組成物中の熱可塑性樹脂Aを溶融させた状態で射出し積層する操作を繰り返す方法(積層造形法)により造形される。
【0029】
成形型の作製に使用する3Dプリンターのノズル径は、空孔形成性、空孔の大きさ、成形型の強度等の観点より、0.2mm~1.2mmの範囲の押出しノズルを用いることが好ましい。ノズル径が0.2mm以上であると、射出する熱可塑性樹脂組成物の径が極端に小さくなることがなく、また、射出した熱可塑性樹脂A同士が融着し、成形型に空孔が形成されなくなることで、真空成形時の空気排気が極端に困難になる等の不都合がない。また、積層数が多くなることで、成形型の造形に長時間を要するという不都合を回避できる。一方、ノズル径が1.2mm以下であれば、射出する熱可塑性樹脂組成物の径が極端に大きくなることがなく、内部に空洞を有しながら表面形状がなめらかな型を成形することができる。3Dプリンターのノズル径は、より好ましくは0.3mm~1.1mm、さらに好ましくは0.4mm~1.0mmである。
【0030】
溶融した短繊維強化材含有熱可塑性樹脂組成物を、3Dプリンターのノズルから射出する際のノズル温度は、熱可塑性樹脂Aの種類により異なるが、270℃~310℃が好ましく、より好ましくは280℃~300℃である。また、溶融した短繊維強化材含有熱可塑性樹脂組成物を積層するベッドの温度は80℃~90℃が好ましい。ベッドの材料は特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、ガラス、セラミック等が挙げられる。
【0031】
3Dプリンターを用いて造形した雌型及び雄型は、積層した短繊維強化材含有熱可塑性樹脂組成物のフィラメントの長さ方向に対して直交する方向(即ち、型壁を貫通する方向)に多数の微細な空孔を有する状態で造形される。フィラメントの長さ方向に対して直交する方向に微細な空孔が形成される理由は明確ではないが、射出した熱可塑性樹脂Aの吐出量のばらつき、3Dプリンターの動作の変動等によるものと推察される。本発明の成形型における空孔数、空孔の大きさは定かでないが、通常、該成形型の密度が成形前の該成形型の材料の密度の60%~95%のものが得られる。前記密度比が60%未満であると、成形型の強度が不十分となり、真空成形時に成形型が変形する恐れがある。一方、密度比が95%を超えると、成形型が緻密になり過ぎるため十分な空気を吸引できず、真空成形ができない恐れがある。より好ましくは65%~95%、さらに好ましくは75%~95%である。成形型の密度は、内部に空孔が形成されるように3Dデータを作成して、3Dプリントすることで調節することができる。
【0032】
なお、成形型の材料及び成形型の密度は、例えば、JIS K 7112:1999「プラスチック-非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」に準じて測定できる。
【0033】
成形型の表面には微細な凹凸が形成されているため、外表面に、ルーター、パフ、サンドペーペー、サンダー等による仕上げ加工を施すことが好ましい。これら仕上げ加工は、1つ、または、複数を行うことができる。
【0034】
本発明では、真空成形用の成形型を、雌型あるいは雄型、または雌型及び雄型として用いることができる。雌型あるいは雄型は、上型あるいは下型のいずれに配置しても良い。例えば、雌型のみに本発明の成形型を用いる場合、雄型には石膏、木型、金型あるいは、木屑(プラウッド)、ツーリングプラスチックス、低融点合金等で作製した型等を用いることができる。また、逆に雄型のみに本発明の成形型を用いる場合は、雌型には石膏、木型、あるいは、木屑(プラウッド)、ツーリングプラスチックス、低融点合金等で作製した型等を用いることができる。
【0035】
上記形態の中でも、本発明の成形型は、雌型として用いることが好ましく、雌型を下型として用いることが、より好ましい。雌型として用いた場合は、成形後に、繊維強化熱可塑性樹脂シートが離型しなくなる現象が生じない。
【0036】
一方、雄型として用いた場合は、型に繊維強化熱可塑性樹脂シートが接着することで、離型性が不良になる傾向がある。したがって、雄型としては、木型や金型を使用することが望ましく、急激な冷却を防止でき熱収縮率が小さいという観点より、金型が好ましい。また、雄型の外表面を、マスキング材で部分的に被覆することにより、離型性をさらに向上させることができる。この際、用いるマスキング材としては、温度上昇(約150~200℃)に耐え得る材料であれば、どのような材料でも良く、例えば、アルミ箔、テフロンテープ、エポキシパテ、シリコンシーラー等が挙げられる。
【0037】
また、成形型から織物強化熱可塑性樹脂シート成形品が剥がれやすくなるように、成形型にふっ素系、シリコーン系、ワックス系、界面活性剤系等の離型剤を、通常使用される量、塗布しても良い。
【0038】
本発明で用いる成形型(雄型及び雌型)の一例を
図1及び
図2に示す。
図3は、本発明の成形型の一例である設計済みのスーツケースのシェル(雄型)を示す図である。また、
図4は、スーツケース(シェル)の抽出要素を示す説明図であり、円で囲んだ部分(コーナー部、キャスター取付け部、側面の段差及び全周リブ部)が
図1の成形型に反映されている。
図1及び
図2に示す成形型は、短繊維強化材として、粉末状の炭素繊維を20質量%含有する熱可塑性樹脂組成物で形成したものである。なお、粉末状炭素繊維の繊維長(平均繊維長)は定かではないが、0.05mm~0.2mm程度と推察される。
【0039】
本発明の成形品は、上記成形型を用いて得られる、コーナー部(直角に近い角部)やキャスター取付け部を有する形状の成形品において、従来の成形型(金型)で真空成形した成形品に見られる欠点が著しく改善される点に特徴がある。
【0040】
つまり、従来の金型では、例えば、炭素繊維織物強化熱可塑性樹脂シートを用いて深絞り成形する場合、成形品の底面からの高さ(深さ)は20mm~30mmが限界である。しかし、本発明の成形型を用いることで、成形品の高さ(深さ)を40mm以上、望ましくは50mm~100mmまで深絞り成形することが可能となる。
【0041】
また、本発明の成形品によれば、従来の金型で成形した場合の短所であった、成形品のコーナー部やキャスター取付け部における肉薄化や穴あき現象、成形品表面の織物組織の乱れ、成形物全体の歪み等を著しく改善できる。成形品の用途が箱型形状のケース類、かばん類等である場合、通常、コーナー部は8箇所存在するため、従来金型の短所の改善効果が顕著に現れる。
【0042】
[成形方法]
本発明の成形品の製造方法では、熱溶融積層法(3Dプリンター)で作製した無数の微細孔を有する成形型を用いること以外は、従来公知の真空成形装置及び成形方法を適用できる(特許第6890035号公報等参照)。
【0043】
即ち、本発明の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品の製造方法は、熱溶融積層法で作製した無数の微細孔を有する成形型を用い、織物強化熱可塑性樹脂シートを成形型の全面から真空引きして成形することにより製造する。
【0044】
本発明によれば、真空成形用の雄型及び雌型が、フィラメントの長さ方向に直交する方向に多数の微細な空孔を有しているため、真空成形により織物強化熱可塑性樹脂成形品を成形する際に成形型のコーナー部や屈曲部の空気も効果的に排気されるため、織物強化熱可塑性樹脂シートが成形型に密着し、皺等の発生がない、強度及び意匠性に優れた成形品を得ることができる。
【0045】
成形温度は、織物強化熱可塑性樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂(以下、「熱可塑性樹脂B」と称する。)の融点近傍の温度とすることが望ましい。ここで、成形温度とは、織物強化熱可塑性樹脂シート(材料)表面温度の最高温度を言い、非接触温度測定器にて測定した値である。
【0046】
成形型の熱安定性と成形性とのバランスを図る観点より、成形温度と熱可塑性樹脂Aの融点の差は、10℃以上あることが好ましく、20℃~90℃であることがより好ましい。また、成形温度は、前記熱可塑性樹脂Bのビカット軟化点以上であることが望ましい。材料加熱時間は、特に限定されないが、通常、30秒~300秒間加熱する。
【0047】
真空成形時における雄型と雌型の間のクリアランスは、成形に用いる織物強化熱可塑性樹脂シートの厚みにより異なるが、通常、該シートの厚みの80%~90%となるように設計することが好ましい。また、雄型及び雌型の壁厚は、目的とする織物強化熱可塑性樹脂成形品の種類により異なるが、雄型の壁厚は2~5mm、雌型の壁厚は2~5mmにすることが好ましい。
そして、雄型(または雌型)の上に織物強化熱可塑性樹脂シートを載置し、雌型(または雄型)を押し込みながら、雄型(または雌型)の下部より真空引きして成形することで、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品が得られる。
【0048】
[織物強化熱可塑性樹脂シート]
本発明において、繊維強化熱可塑性樹脂シート成形品の材料として用いる織物強化熱可塑性樹脂シートは、織物と熱可塑性樹脂の複合シートを広く用いることができる。
織物強化熱可塑性樹脂シートに用いる織物としては、引張伸びが小さく、引張強度が高い繊維で製織した織物が好ましく、例えば、炭素繊維織物、植物繊維織物、フラットヤーン織物等を挙げることができる。そのなかでも、繊維の強度、優れた意匠性の点より、炭素繊維織物、フラットヤーン織物がより好ましく、特に炭素繊維織物が好ましい。
なお、フラットヤーン織物としては、特許第6890035号公報に記載されているもの等を用いることができる。
【0049】
前記の炭素繊維織物、植物繊維織物及びフラットヤーン織物は、炭素繊維、植物繊維あるいはフラットヤーンを通常の方法で製織した織物であってよく、平織物、綾織物、朱子織物等を挙げることができる。前記織物は、成形品の形状安定性及び強度に優れているだけでなく、意匠性にも優れている。
【0050】
織物の目付としては、30g/m2~200g/m2が好ましく、40g/m2~150g/m2がより好ましく、50g/m2~100g/m2が特に好ましい。目付が大きすぎると、織物強化熱可塑性樹脂シートの成形性が不良になる傾向があり、反対に目付けが小さすぎると、成形品の強度が不十分になる。織物を構成する糸幅は、意匠性や成形性の観点より、1mm~5mmが好ましく、2mm~5mmがより好ましい。
【0051】
織物強化熱可塑性樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂Bとしては、シートの成形温度との兼ね合いより、融点(TB)が120℃~220℃の樹脂が好ましい。樹脂のコスト、成形性及び表面外観の観点より、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂及びこれらの変性樹脂が好ましい。
TAとTBの融点の差(TA-TB)は、真空成形時の安定性を維持する観点より、(TA-TB)≧0℃であることが好ましい。上記の織物強化熱可塑性樹脂シートを構成する好ましい熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂やポリアミド系樹脂である点、また、成形型を形成する熱可塑性樹脂の好ましい融点(TA)が215℃以上である点等を考慮すると、TAとTBの差(TA-TB)は10℃~20℃であることが好ましく、20℃~30℃であることがより好ましい。
【0052】
織物強化熱可塑性樹脂シートは、織物と熱可塑性樹脂とから構成されるシートであれば特に限定されず、市販品を用いることもできる。織物強化熱可塑性樹脂シートの厚みは、成形可能な厚みであれば特に限定されない。一般的には、0.5mm~3mmが好ましい。厚みが小さすぎると、成形品に穴あき、皺が発生し易くなり、成形品強度も低下する。一方、厚みが大きすぎると、成形自体が困難になる。織物強化熱可塑性樹脂シートの厚みは、より好ましくは0.75mm~2.8mm、さらに好ましくは1mm~2.5mmである。
【0053】
織物強化熱可塑性樹脂シートにおける繊維の体積含有率(Vf)は、15%~55%が好ましい。繊維の体積含有率が高すぎると、織物内部に熱可塑性樹脂Bが侵入し難くなることで織物と熱可塑性樹脂シートの密着性が低下する虞がある。一方、繊維の体積含有率が低すぎると、成形時に織物の配向が乱れやすい、成形品の強度が低下する等の不都合が生じやすい。繊維の体積含有率(Vf)は、より好ましくは20%~50%、さらに好ましくは30%~50%、特に好ましくは40%~50%である。
【0054】
織物強化熱可塑性樹脂シートを構成する織物としては、特許第4324649号公報等に記載されている、熱可塑性樹脂を含浸させた炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを細幅テープ状に切断した細幅シートを製織してなる炭素繊維織物、あるいは、炭素繊維織物に予め熱可塑性樹脂を含浸させた炭素繊維織物を用いても良い。あらかじめ熱可塑性樹脂を含浸させた織物を用いることは、成形品におけるボイドの発生防止、成形用シートの剥離防止に効果がある。しかも、繊維の配向を乱すことなく積層一体化できるため、意匠性に優れる成形品が得られやすい。前記の細幅シートを得るための炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートとしては、例えば、複数本の炭素繊維束を開繊させた繊維シートに、熱可塑性樹脂の不織布あるいはシートを重ね合わせ、加熱しつつ加圧することにより、炭素繊維中に溶融した熱可塑性樹脂Bを含浸させたもの等が挙げられる。
【0055】
また、織物強化熱可塑性樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂シートとして、少なくとも片面に、最外層として透明樹脂フィルム層が積層され、これらが積層一体化されてなる加飾性シートを用いても良い(例えば、特開2021-059036号公報を参照)。最外層に透明樹脂フィルムを積層することで、成形品の耐擦傷性、加飾性等を向上させることができる。
【0056】
前記透明樹脂フィルム層を構成する透明熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)系フィルム、ポリアミド(PA)系フィルム、ポリプロピレン(PP)系フィルム等の透明度が高く、加飾性に優れている樹脂フィルムが好ましい。さらに好ましいのは、非晶性でガラスに匹敵する透明性及び表面光沢性を有しているAPETフィルムやGPETフィルム、あるいは2軸延伸PETフィルムである。
前記透明樹脂フィルム層は、透明熱可塑性樹脂フィルムと無延伸熱可塑性樹脂フィルムとが、ドライラミネートまたは熱ラミネートされたものがより好ましい。この場合、炭素繊維織物等は、透明樹脂フィルム層を構成する無延伸熱可塑性樹脂フィルムと積層される。なお、炭素繊維織物と無延伸熱可塑性樹脂フィルムは、接着性樹脂を介して積層されていても良い。あらかじめラミネートされたフィルムを用いることで、透明熱可塑性樹脂フィルム(外層フィルム)と無延伸熱可塑性樹脂フィルム(内層フィルム)を、確実に接着することができる。また、外層フィルムを高融点樹脂、内層フィルムを低融点樹脂で構成することにより、成形時に、炭素繊維織物等と接着していない外層フィルムに皺が発生するのを防止でき、成形品の強度及び加飾性を保持することができる。さらに、内層フィルムとして、炭素繊維織物との接着性が良い熱可塑性樹脂を選定することができる。
【0057】
透明熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、成形品の最外層としての加飾性、成形性、強度等を考慮すると、15μm~50μmが好ましく、20μm~40μmがさらに好ましい。厚みが小さすぎるとシートにピンホールが発生して加飾性が低下することが懸念され、反対に厚みが大きすぎると成形型に追随し難くなり成形品のコーナー部や屈曲部あるいは曲面に皺が発生し、やはり加飾性が低下する虞がある。
【0058】
無延伸熱可塑性樹脂フィルムとしては、透明で炭素繊維織物等との接着性に優れた樹脂からなるフィルムが用いられ、樹脂としてはポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、あるいはこれらの酸変性物が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がさらに好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレンを主成分とする単独又は共重合体であり、具体的には、ホモポリプロピレン樹脂、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体、及びプロピレンと炭素数4~20のα-オレフィン(ブテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1又はオクテン-1等)の共重合体等であり、ポリプロピレン系樹脂の柔軟化に通常用いられる改質剤が添加されていても良い。ポリプロピレン系樹脂フィルムは、キャストポリプロピレン(CPP)フィルムが好ましい。CPPフィルムの厚みは、15μm~80μmが好ましく、20μm~50μmがさらに好ましい。
【0059】
炭素繊維織物と無延伸熱可塑性樹脂フィルムを接着するために接着性樹脂を用いる場合において、接着性樹脂としては、透明性及び接着性に優れていることから、変性ポリオレフィン系樹脂が好ましい。変性ポリオレフィン系樹脂は、公知のものから適宜選択して用いることができるが、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の酸変性ポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。接着性樹脂はフィルム状に成形したものを用いる。
【0060】
上記の加飾性シートは、前記の透明熱可塑性樹脂シートと無延伸熱可塑性樹脂シートをラミネートした透明樹脂フィルムの無延伸熱可塑性樹脂シート側に、例えば炭素繊維織物を積層し、該炭素繊維織物の上に無延伸熱可塑性樹脂シート側が積層されるように透明樹脂シートを重ね、加熱加圧して炭素繊維織物と無延伸熱可塑性樹脂シートを接着することで形成することができる。
【0061】
加飾性シートの厚みは、目的とする繊維強化熱可塑性樹脂成形品により異なるが、通常、0.5mm~3mmが好ましい。
目的とする成形品の厚みに応じて、加飾性シートを複数枚重ね合わせて用いることもできる。この場合、最外層の透明熱可塑性樹脂シート同士を重ね合わすことになるので、接着性樹脂を介して積層することができる。接着性樹脂としては、前記の炭素性織物等と無延伸熱可塑性樹脂シートの接着に用いたのと同じ接着性樹脂シートを用いることができる。
【0062】
なお、本発明の織物強化熱可塑性樹脂シートを構成する各材料には、本発明の効果を損なわない範囲で紫外線吸収剤、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、顔料、着色剤、核剤等の添加剤が配合されていても良い。着色剤を添加する場合は最外層フィルムに配合することが望ましい。
【0063】
本発明の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品の製造方法は、真空成形をはじめ、圧空真空成形にも適用できる。
【0064】
また、本発明の織物強化熱可塑性樹脂シート成形品は、コーナー部や屈曲部での皺や穴あきがなく、強度と意匠性を付与することができるので、自動車用のインストルメントパネル、家具、スポーツ用具、楽器等の装飾用シートとして、あるいは、スーツケース、アタッシェケース、ウエストポーチ、財布、カメラケース、レンズケース、楽器ケース等の収納ケース類;スイッチ等のカバー類;自動車、航空機、船等の内装品及び外装品;電子機器類のハウジング、筐体、壁材、天井材、パネル、自転車のパーツ;等として好適に使用できる。
【実施例0065】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0066】
(製造例1)
[3Dプリンターによる雄型及び雌型の造形]
(1)製作形状
形状設計には Autodesk Fusion360 を用いた。
・雄型 170mm×170mm×80mm 試作型形状(
図1)
・雌型 200mm×200mm×95mm 試作型形状(
図2)
・雄型 360mm×480mm×100mm スーツケース型形状(
図3)
・雌型 390mm×510mm×115mm スーツケース型形状
雄型の壁の厚みは2.4mm、雌型の壁の厚みは2.4mmとし、雄型と雌型のクリアランスが1mmになるように設計した。
【0067】
(2)使用機材
・3Dプリンター;NJB-777(NINJABOT製)(印刷可能領域;700mm×700mm×700mm)
・ノズル直径:0.8mm
・吐出速度:30mm/sec
・フィラメント;Polymaker製 PA6-CF(ミルド炭素繊維:ナイロン6樹脂=20:80(質量比)、直径:1.75mm(商品名:PolyMide PA6-CF)
【0068】
(3)モデリング
試作型形状の雄型(
図1)及び雌型(
図2)の形状は、設計済みのスーツケース型形状(
図3)をベースとして、必要な形状のみを抽出し、再設計を行ったものである。抽出した要素は、以下の通りである。
図4に示す丸で囲った箇所は、抽出要素を示している。
・四隅の形状(キャスター取付け部含む)
・側面の段差
・全周リブ形状
・キャスター取付け部
【0069】
ベッド(ガラス繊維/エポキシ樹脂)温度を80℃、3Dプリンターのノズル温度を300℃に設定し、炭素繊維含有熱可塑性樹脂層の厚みが0.4mmとなるように吐出しながらベッド上に積層し、雄型及び雌型を造形した(
図1~
図2)。
なお、雄型(
図1)の造形に要した時間は約12時間、雌型(
図2)の造形に要した時間は約18時間であった。
【0070】
(実施例1)
3Dプリンターを用いて試作型形状に造形した雄型及び雌型の成形型を使用した。抽出要素は、全ての要素(4要素)を抽出した。
造形した雌型の上に下記織物強化熱可塑性樹脂シート1を載置した。その後、雄型(上型)が下降を開始して前記シート1と接触する前に、雌型(下型)表面から真空吸引を行い、雄型表面からの真空吸引は、型合わせされた直後に開始し、雌雄金型の真空吸引に1秒前後の時間差を設けた。成形時のシート1の表面温度は130~150℃、加熱時間は60秒であった。
成形品の外観を目視で観察した結果、成形品の表面及び四隅のコーナー部には皺がなく、織物の目ずれも少なく織目模様が明確に確認できた。コーナー部が肉薄になることはなく、穴は開いていなかった。また、織物強化熱可塑性樹脂シートの層間剥離は見られなかった。成形品の外観を
図5に示す。
織物強化熱可塑性樹脂シートの厚さは、成形型のクリアランスより大きかったが、シートが柔軟であったため成形が容易であった。
【0071】
[織物強化熱可塑性樹脂シート1]
押出ラミネート法により製造された、4枚のフラットヤーン織布間に熱可塑性樹脂層が介挿、接着され、さらに最外層が積層、接着されたフラットヤーンラミネートシート(厚さ:1.8mm、Vf:40%)。
フラットヤーンラミネートシートの材料構成は以下の通りである。
・フラットヤーン織布;融点160℃のポリプロピレンスリットヤーンの延伸糸条からなるフラットヤーン(糸幅:3mm、繊度:1,500dtex)の綾織物(目付重量:110g/m2)
・熱可塑性樹脂層;融点146℃のエチレン-プロピレンランダム共重合体樹脂
・接着性樹脂層;市販の極性ポリオレフィン
・最外層;厚さ50μmのA-PET
【0072】
(実施例2)
抽出要素として、四隅の形状(キャスター取付け部を除く)を抽出して造形した成形型を使用した。成形型は、実施例1と同様の方法(3Dプリンター)で造形した。
造形した雌型の上に下記織物強化熱可塑性樹脂シート2を載置した。その後、雄型(上型)が下降を開始して前記シート2と接触する前に、雌型(下型)表面から真空吸引を行い、雄型表面からの真空吸引は、型合わせされた直後に開始し、雌雄金型の真空吸引に1秒前後の時間差を設けた。シート2の表面温度は145~200℃、加熱時間は45~75秒であった。
成形品の外観を目視で観察した結果、成形品の表面及び四隅のコーナー部には皺がなく、織物の目ずれも少なく織目模様が明確に確認できた。コーナー部が肉薄になることはなく、穴は開いていなかった。また、織物強化熱可塑性樹脂シートの層間剥離は見られなかった。ただし、シート2の上型からの離型性が劣っていた。成形品の外観を
図6に示す。
【0073】
[織物強化熱可塑性樹脂シート2]
融点220℃のポリアミド樹脂(ナイロン6)を含浸させた炭素繊維織物(綾織物)シート(厚さ:1mm、Vf:45%)。なお、炭素繊維織物は平織物であっても良い。
【0074】
(実施例3)
抽出要素として、四隅の形状(キャスター取付け部を除く)、側面の段差及び全周リブ形状を抽出して造形した成形型を使用した。雄型(上型)はプラウッド(木屑)製の型を使用し、雌型(下型)は実施例1と同様の方法(3Dプリンター)で造形した。本実施例では、雄型と雌型のクリアランスを1.5mmにした。
雌型の上に下記織物強化熱可塑性樹脂シート3を載置した。その後、雄型が下降を開始して前記シート3と接触する前に、雌型表面から真空吸引を行い、雄型表面からの真空吸引は、型合わせされた直後に開始し、雌雄金型の真空吸引に1秒前後の時間差を設けた。シート3の表面温度は185~195℃、加熱時間は70~120秒であった。
成形品の外観を目視で観察した結果、成形品の表面及び四隅のコーナー部には皺がなく、織物の目ずれも少なく織目模様が明確に確認できた。コーナー部が肉薄になることはなく、穴は開いていなかった。織物強化熱可塑性樹脂シートの層間剥離は見られなかった。また、シート3の上型からの離型性も良好であった。成形品の外観を
図7に示す。
【0075】
[織物強化熱可塑性樹脂シート3]
融点220℃のポリアミド樹脂(ナイロン6)を含浸させた炭素繊維織物(綾織物)シート(厚さ:1.3mm、Vf:46%)。なお、炭素繊維織物は平織物であっても良い。
【0076】
(実施例4)
スーツケース型形状に造形した雄型及び雌型を使用した。雄型(上型)としてプラウッド(木屑)製の型を用い、雌型(下型)として3Dプリンターによる成形型を使用した。本実施例では、雄型と雌型のクリアランスを1.5mmにした。
雌型の上に下記織物強化熱可塑性樹脂シート4を載置した。その後、雄型が下降を開始して前記シート4と接触する前に、雌型表面から真空吸引を行い、雄型表面からの真空吸引は、型合わせされた直後に開始し、雌雄金型の真空吸引に1秒前後の時間差を設けた。シート4の表面温度は130~150℃、加熱時間は28~35秒であった。
成形品の外観を目視で観察した結果、成形品の表面には皺が全くなかったが、四隅のコーナー部に若干の皺が見られた。織物の目ずれはなく織目模様が明確に確認できた。コーナー部が肉薄になることはなく、穴は開いていなかった。また、織物強化熱可塑性樹脂シートの層間剥離は見られなかった。得られた成形品で作製したスーツケースの外観を
図8に示す。
【0077】
[織物強化熱可塑性樹脂シート4]
融点160℃のポリプロピレン樹脂を含浸させた炭素繊維織物(綾織物)シート(厚さ:0.75mm、Vf:46%)。
【0078】
(試験例1)
製造例1で造型した雌型及び雄型を使用し、織物強化熱可塑性樹脂シート4を、該シートの表面温度150℃、加熱時間50秒間で真空成形したが、成形が型形状に沿わず、成形品が得られなかった。
【0079】
(試験例2)
製造例1で造形した雌型及び雄型を使用し、織物強化熱可塑性樹脂シート4を、該シートの表面温度150~170℃、加熱時間60~70秒間で真空成形した。成形品を得ることはできたが、シートが上型から離型できなかった。
【0080】
上記の結果より、本発明の製造方法によれば、成形品の表面に表れる織物配列の乱れがなく意匠性に優れ、コーナー部等の曲線部に皺がよりづらく、仕上がりが綺麗で美的外観に優れるとともに、コーナー部が極端に肉薄になることがないため強度が低下せず、成形後の織物強化熱可塑性樹脂シートが層間剥離しないため外観、強度に優れる成形品を得られることがわかる。これは、3Dプリンターにより造形した成形型は、無数の細かな孔が開いている状態にあり、該成形型を用いて真空成形を行うことで、該微細孔により均一に真空引きでき、成形型内の空気を万遍なく型外に出すことができることにより、シートを成形型に密着させることができたためと推察される。
【0081】
(試験例3)
実施例3と同様の成形型を使用して、融点225℃、ビカット軟化点195~205℃のナイロン6樹脂に炭素繊維カットファイバを配合した、短繊維強化熱可塑性樹脂シート(厚さ:1mm、Vf:20%)を真空成形した。
【0082】
上型(雄型)及び下型(雌型)のヒーター設定温度、短繊維強化熱可塑性樹脂シートの加熱時間及び材料表面の測定温度を、表1に示す値に設定した以外は、実施例3と同様の方法で真空成形を行った。その結果を表1にまとめて示す。
【0083】
【0084】
表1の結果より、ナイロン6樹脂のビカット軟化点より高い温度で、かつ融点より低い温度で成形することにより、シートの割れ、破損が無い成形品が得られることがわかる。また、融点近傍温度で成形した成形品は、表面外観特性に優れていることがわかる。
通常の材料(ポリプロピレン、ABS、ポリカーボネート等のソリッドの材料)では材料が融け落ちる温度で成形しても、非溶融繊維(炭素繊維)を含む熱可塑性樹脂シートでは、樹脂単体の成形温度よりも高い成形温度が望ましいことがわかった。
【0085】
(製造例2)
製造例1において、ナイロン6樹脂の替わりに、MXナイロン:三菱ガス化学株式会社製、商品名:MXD6ナイロンS6121(融点:237℃、ガラス転移温度:85℃)を用いた以外は、製造例1と同様の方法で雄型及び雌型を造形した。造形した雌型について、表面、裏面、側面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を
図9~
図11に示す。
【0086】
図9~11から、成形型の表面、裏面、側面には、樹脂と樹脂の間に約500μmの空間が存在していた。成形型は、真空成形に使用可能であったことから、前記空間は連続して形成されていると推定できた。
本発明の成形型を用いることで、織物強化熱可塑性樹脂シートを成形品の底面からの高さ(深さ)を50mm~100mmまで深絞りした成形品を得ることができる。しかも、成形された織物強化熱可塑性樹脂シート成形品は、コーナー部や屈曲部に穴が開いたり、極端に肉薄の状態になったりすることがない。したがって、従来深絞り成形できなかった各種製品の成形に幅広く利用できる可能性がある。