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  • 特開-日本酒の火入れ装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079236
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】日本酒の火入れ装置
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/022 20190101AFI20230601BHJP
【FI】
C12G3/022 119S
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192597
(22)【出願日】2021-11-27
(71)【出願人】
【識別番号】591012680
【氏名又は名称】柳井電機工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594137993
【氏名又は名称】八鹿酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】深井 愼司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 速士
(72)【発明者】
【氏名】神尾 修
(72)【発明者】
【氏名】吉村 美保
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115CN88
(57)【要約】      (修正有)
【課題】効率性や精度を向上させた日本酒の火入れ装置を提供する。
【解決手段】本発明の日本酒の火入れ装置は、日本酒の原酒を輸送する輸送管2と、輸送管の周囲に温水を接触させる温水接触部3と、温水接触部での接触の後に、輸送管の周囲に冷水を接触させる冷水接触部4と、輸送管を経た原酒を回収する回収部5と、を備え、輸送管は、温水接触部から回収部まで、冷水接触部を介して連続しており、原酒は、温水接触部での接触により、第1温度に昇温され、原酒は、冷水接触部での接触により、第2温度に降温され、第1温度は、原酒に含まれる火落菌の殺菌および酵素の不活化の少なくとも一方を可能とする温度である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
日本酒の原酒を輸送する輸送管と、
前記輸送管の周囲に温水を接触させる温水接触部と、
前記温水接触部での接触の後に、前記輸送管の周囲に冷水を接触させる冷水接触部と、
前記輸送管を経た前記原酒を回収する回収部と、を備え、
前記輸送管は、前記温水接触部から前記回収部まで、前記冷水接触部を介して連続しており、
前記原酒は、前記温水接触部での接触により、第1温度に昇温され、
前記原酒は、前記冷水接触部での接触により、第2温度に降温され、
前記第1温度は、前記原酒に含まれる火落菌の殺菌および酵素の不活化の少なくとも一方を可能とする温度である、日本酒の火入れ装置。
【請求項2】
前記第2温度は、前記原酒の保存に適した温度である、請求項1記載の日本酒の火入れ装置。
【請求項3】
前記第1温度は、65℃~70℃である、請求項1または2記載の日本酒の火入れ装置。
【請求項4】
前記第2温度は、10℃~15℃である、請求項1から3のいずれか記載の日本酒の火入れ装置。
【請求項5】
前記温水接触部での温水の温度は、80℃~90℃である、請求項1から4のいずれか記載の日本酒の火入れ装置。
【請求項6】
前記冷水接触部での冷水の温度は、5℃以下である、請求項1から5のいずれか記載の日本酒の火入れ装置。
【請求項7】
前記温水接触部は、前記輸送管路の外部を覆って前記輸送管路の外部に熱を加え、
前記温水接触部に温水を循環供給する温水供給部を、更に備える、請求項1から6のいずれか記載の日本酒の火入れ装置。
【請求項8】
前記冷水接触部は、前記輸送管路の外部を覆って前記輸送管路の外部を冷却し、
前記冷水接触部に冷水を循環供給する冷水供給部を、更に備える、請求項1から7のいずれか記載の日本酒の火入れ装置。
【請求項9】
前記輸送管は、少なくとも一部において、螺旋形状を有する、請求項1から8のいずれか記載の日本酒の火入れ装置。
【請求項10】
前記少なくとも一部は、前記温水接触部と接触する部分および前記冷水接触部と接触する部分を含む、請求項9記載の日本酒の火入れ装置。
【請求項11】
前記冷水接触部での冷却時間は、前記温水接触部での加熱時間よりも長い、請求項1から10のいずれか記載の日本酒の火入れ装置。
【請求項12】
前記輸送管に接触する冷水接触部の数は、前記輸送管に接触する温水接触部の数よりも多い、請求項11記載の日本酒の火入れ装置。
【請求項13】
前記原酒は、前記輸送管を複数回にわたって循環し、前記温水接触部での温水との接触および前記冷水接触部での冷水との接触を、複数回において受ける、請求項1から12のいずれか記載の日本酒の火入れ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日本酒の製造工程の一つである火入れ工程に用いられる日本酒の火入れ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国においては、伝統的に日本酒が製造、販売されている。米や米麹を主原料として、長い伝統の製造方法や新しい工夫などが施されて、様々な種類の日本酒が作られるようになってきている。過去においては、特級酒や一級酒といった分け方であったが、近年はそのような区別ではなく、純米酒や吟醸酒といった分類で製造、販売されている。
【0003】
日本酒は、日本伝統のお酒であるので、日本において長い期間にわたって嗜好されてきた。お祝いの席、宴会の席などに加えて、日常においてもたしなまれることが多くあった。過去には、日本酒の製造者(蔵元)の数が少なかったり、戦後の物資不足により人工的な醸造アルコールを加えた日本酒が多かったりした。このため、日本酒の広がりが不十分である状態が続いていた。また、工業的に大量製造される状況もあり、特徴のある日本酒が作られにくい状況もあった。
【0004】
このような中、この数10年において、原料へのこだわり、醸造アルコールの不使用、製造方法の工夫などを通じて、特徴ある日本酒造りが行われるようになってきている。小規模な蔵元などをはじめとして、蔵元の特徴を出す日本酒造りが広まってきており、地域性などと相まって、料理との相性なども含めた日本酒が製造販売されるようになってきている。
【0005】
このような努力の結果、様々な地域で様々な特徴を持った日本酒が製造されるようになってきている。また、地域に赴いて、あるいは全国的な流通によって、様々な産地の日本酒を楽しむことができるようになってきている。
【0006】
さらには、近年においては、日本酒が海外にも輸出されるようになってきている。世界的な和食ブームと相まって、日本酒が海外の消費者に受け入れられるようになってきているからである。この結果、日本酒の広がりや種類の増加が進歩していくと考えられている。
【0007】
このような日本酒は、米を麹で発酵させることを含み、様々な工程を含んだ製造工程で製造される。製造工程は、より美味しい日本酒を製造するために一定に定められた工程を含み、製造者はそれぞれの日本酒の特徴を出すために、いずれかの工程に特徴を持たせたり、種々の工夫を行なったりする。また、使用する原料や麹の選別や、温度や時間管理などに工夫を行って、独自色のある日本酒を製造している。
【0008】
この日本酒の製造工程において、「火入れ工程」という工程がある。火入れ工程では、日本酒の原酒を加熱することで、原酒に含まれる「火落菌」を殺菌し、「酵素」を不活化させる工程である。この火入れ工程を経ることが、日本酒製造には必要である。
【0009】
このような工程を含む日本酒製造についての技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006-333736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1は、容器に密封後、アルコール濃度が8~12%、好ましくは9~10%、日本酒度が-40~-50、酸度が2~3、アミノ酸度が1.8~2.5、ガス圧が1.3~1.7kg/cm2、好ましくは1.6~1.7kg/cm2となったとき、60~65℃で5分間火入れを行い、後発酵を停止すること、を特徴とする清酒の製造方法を開示する。
【0012】
特許文献1では、火入れ工程を含むことを製造方法として開示するだけで、その火入れ方法についての詳細については開示が無い。
【0013】
従来技術においては、例えば、日本酒の原酒を一升瓶などの容器に小分けして入れ、複数の容器を温水の中につけて湯煎して火入れ工程を行うことが行われていた。このような容器に詰めて湯煎する火入れ工程は、手間が大きくなる問題がある。容器への詰め込み、湯煎装置への配置、湯煎、取り出し、容器から戻すなどの手間が大きいからである。
【0014】
また、容器の形状により、火入れによる加熱ムラが生じる問題もある。例えば、容器が瓶であれば、首の細い部分と胴の太い部分とでは、加熱レベルに違いが生じてしまう。これによる加熱ムラが生じる。
【0015】
また、火入れ工程では、火落菌の殺菌と酵素の不活化が重要である。加熱後の冷却も必要であるが、湯煎装置での湯煎では、加熱後の冷却を適切に行えない問題も生じる。あるいは、別に冷却用の装置を備える必要なども生じてしまう。
【0016】
また、容器への移し替えや容器からの移し替えなどで、外気に触れる時間や機会が多くなり、品質への悪影響が懸念される。
【0017】
容器を大きくすれば、移し替えなどの効率化は図れるが、加熱精度を落とすことに繋がる。十分な加熱が行きわたらずに火落菌の殺菌などが不十分になる可能性もある。
【0018】
以上のように、従来技術の火入れ工程においては、効率性や精度における問題があった。
【0019】
本発明は、これらの課題に鑑み、効率性や精度を向上させた日本酒の火入れ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題に鑑み、本発明の日本酒の火入れ装置は、日本酒の原酒を輸送する輸送管と、
前記輸送管の周囲に温水を接触させる温水接触部と、
前記温水接触部での接触の後に、前記輸送管の周囲に冷水を接触させる冷水接触部と、
前記輸送管を経た前記原酒を回収する回収部と、を備え、
前記輸送管は、前記温水接触部から前記回収部まで、前記冷水接触部を介して連続しており、
前記原酒は、前記温水接触部での接触により、第1温度に昇温され、
前記原酒は、前記冷水接触部での接触により、第2温度に降温され、
前記第1温度は、前記原酒に含まれる火落菌の殺菌および酵素の不活化の少なくとも一方を可能とする温度である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の日本酒の火入れ装置は、原酒を輸送管の中に通じて移動させ、移動させる過程で加熱と冷却との両方を行える。これにより、詰め替えなどを行う手間を省くことができ効率が高まる。また、連続して加熱と冷却を行えるので、作業効率が更に高い。
【0022】
また、詰め替えなどを必要としないので、外気に触れる機会や時間を減らすことができ、品質への影響を低減できる。
【0023】
また、輸送管を通じた加熱と冷却を連続的に行えるので、大量の原酒の火入れ工程を、連続的に実行できる。また、加熱後の冷却もできるので、火落菌の殺菌と酵素の不活化が行われた原酒は、冷却されて次の工程に繋げられることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態1における日本酒の火入れ装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の第1の発明に係る日本酒の火入れ装置は、日本酒の原酒を輸送する輸送管と、
前記輸送管の周囲に温水を接触させる温水接触部と、
前記温水接触部での接触の後に、前記輸送管の周囲に冷水を接触させる冷水接触部と、
前記輸送管を経た前記原酒を回収する回収部と、を備え、
前記輸送管は、前記温水接触部から前記回収部まで、前記冷水接触部を介して連続しており、
前記原酒は、前記温水接触部での接触により、第1温度に昇温され、
前記原酒は、前記冷水接触部での接触により、第2温度に降温され、
前記第1温度は、前記原酒に含まれる火落菌の殺菌および酵素の不活化の少なくとも一方を可能とする温度である。
【0026】
この構成により、日本酒の原酒の火入れ工程を確実に実行できる。これを、原酒の輸送をしながら行うことができ効率的である。
【0027】
本発明の第2の発明に係る日本酒の火入れ装置では、第1の発明に加えて、前記第2温度は、前記原酒の保存に適した温度である。
【0028】
この構成により、加熱により火落菌の殺菌などが行われた後の原酒を、適切に保存することに繋げることができる。
【0029】
本発明の第3の発明に係る日本酒の火入れ装置では、第1または第2の発明に加えて、前記第1温度は、65℃~70℃である。
【0030】
この構成により、温水接触での、火落菌の殺菌および酵素の不活化を確実に実現できる。
【0031】
本発明の第4の発明に係る日本酒の火入れ装置では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、前記第2温度は、10℃~15℃である。
【0032】
この構成により、冷水接触での、原酒の必要な冷却が可能となる。
【0033】
本発明の第5の発明に係る日本酒の火入れ装置では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、前記温水接触部での温水の温度は、80℃~90℃である。
【0034】
この構成により、温水接触での加熱工程で、原酒の第1温度への昇温が確実に行える。
【0035】
本発明の第6の発明に係る日本酒の火入れ装置では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、前記冷水接触部での冷水の温度は、5℃以下である。
【0036】
この構成により、冷水接触部で、原酒は確実に第2温度へ降温できる。
【0037】
本発明の第7の発明に係る日本酒の火入れ装置では、第1から第6のいずれかの発明に加えて、前記温水接触部は、前記輸送管路の外部を覆って前記輸送管路の外部に熱を加え、
前記温水接触部に温水を循環供給する温水供給部を、更に備える。
【0038】
この構成により、温水接触を連続的に行うことができる。また、温水接触部に温水が供給されることで、温水接触部での温水接触の能力が維持される。
【0039】
本発明の第8の発明に係る日本酒の火入れ装置では、第1から第7のいずれかの発明に加えて、前記冷水接触部は、前記輸送管路の外部を覆って前記輸送管路の外部を冷却し、
前記冷水接触部に冷水を循環供給する冷水供給部を、更に備える。
【0040】
この構成により、冷水接触を連続的に行うことができる。また、冷水接触部に冷水が供給されることで、冷水接触部での冷水接触の能力が維持される。
【0041】
本発明の第9の発明に係る日本酒の火入れ装置では、第1から第8のいずれかの発明に加えて、前記輸送管は、少なくとも一部において、螺旋形状を有する。
【0042】
この構成により、輸送管での輸送における加熱や冷却の効果を高めることができる。輸送管全体の長さを少なくでき、火入れ装置全体の大きさを小さくできる。
【0043】
本発明の第10の発明に係る日本酒の火入れ装置では、第9の発明に加えて、前記少なくとも一部は、前記温水接触部と接触する部分および前記冷水接触部と接触する部分を含む。
【0044】
この構成により、温水接触での加熱や冷水接触での冷却の能力が高まる。
【0045】
本発明の第11の発明に係る日本酒の火入れ装置では、第1から第10のいずれかの発明に加えて、前記冷水接触部での冷却時間は、前記温水接触部での加熱時間よりも長い。
【0046】
この構成により、急速冷却が可能となり、原酒の品質維持を行える。
【0047】
本発明の第12の発明に係る日本酒の火入れ装置では、第11の発明に加えて、前記輸送管に接触する冷水接触部の数は、前記輸送管に接触する温水接触部の数よりも多い。
【0048】
この構成により、急速冷却が可能となる。
【0049】
本発明の第13の発明に係る日本酒の火入れ装置では、第1から第12のいずれかの発明に加えて、前記原酒は、前記輸送管を複数回にわたって循環し、前記温水接触部での温水との接触および前記冷水接触部での冷水との接触を、複数回において受ける。
【0050】
この構成により、昇温した原酒の冷却が十分に行われる。
【0051】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0052】
(実施の形態1)
【0053】
(全体概要)
図1は、本発明の実施の形態1における日本酒の火入れ装置の模式図である。以下、日本酒の火入れ装置については、必要に応じて「火入れ装置」と略す。図1を用いて、火入れ装置1の全体概要について説明する。
【0054】
日本酒の火入れ装置1は、輸送管2、温水接触部3、冷水接触部4、回収部5を備える。
【0055】
輸送管2は、日本酒の原酒を輸送する。原酒は、発酵工程などが終わった日本酒の原酒であり、火落菌を含んでいる。また酵素もまだ活性状態である。このような状態の原酒を輸送する。この輸送管2は、後述するが、図1に示されるように温水接触部3から(冷水接触部4を経て)回収部5まで連続している。この連続している管路として、輸送管2内部を、原酒は移動できる。
【0056】
輸送管2は、ガラス、樹脂、金属、合金など衛生面と熱伝導性のよい素材により形成されればよい。ただ、内容物である原酒の移動状態を視認できるように、透明もしくは半透明である素材であることが好適である。例えば、ガラスや樹脂などである。
【0057】
また、輸送管2に原酒を供給する供給部が備わっていることも好適である。供給部は、吸引機能を有していて、原酒が冷却保管されているタンクなどから吸い上げた原酒を、輸送管2に送り込むことでもよい。
【0058】
温水接触部3は、輸送管2の周囲に温水を接触させる。図1にあるように、輸送管2の途中において輸送管2に温水を接触させる構造を持っている。温水接触部3は、輸送管2の外部の一部に温水を接触させて、輸送管2内部を移動する原酒を昇温させる。
【0059】
このとき、温水接触部3は、原酒を第1温度まで昇温する。輸送管2に供給された直後の原酒の温度は、冷却保管されていたため、低い。この状態から、温水接触部3は、原酒の温度を第1温度まで昇温させる。このとき、原酒は、輸送管2内部を移動する過程で、昇温される。すなわち、従来技術のように、瓶に注ぎ分けられた上で、加熱時間により昇温されるよりも効率的である。輸送管2の移動中に第1温度まで昇温され、そのまま移動した後に冷水接触部4で降温もされる。
【0060】
このように、輸送管2を移動する過程で、昇温と降温とができ、火入れ工程が一度で終了するメリットがある。
【0061】
温水接触部3の後段に冷水接触部4が備わる。冷水接触部4は、輸送管2の周囲に冷水を接触させる。図1に示されるように、輸送管2の外周に冷水を接触させる。この冷水の接触により、原酒を冷却する(降温させる)。冷水接触部4は、原酒を第2丼℃まで降温させる。
【0062】
ここで第1温度 > 第2温度 である。
【0063】
温水接触部3が、温水との接触により輸送管2を移動する間に、原酒を第1温度の昇温することで、火落菌が殺菌されると共に酵素が不活化される。その後、第2温度まで降温されることで、火入れ工程の終わった原酒を、次の工程に進めさせることができる(次の工程に合わせて保管することができる)。
【0064】
冷水接触部4は、輸送管2の外周に冷水を接触させる。このとき、冷水接触部4は、温水接触部3の後段(移動経路としての後段)に備わる。これにより、温水接触部3において第1温度の昇温した原酒を、第2温度まで降温させる。冷水接触部4も、輸送管2を移動する過程での冷却なので、詰め替え作業などを不要である。
【0065】
また、原酒を入れた容器を手作業あるいは機械作業で、温水や冷水に着けるなどの作業も不要なので、効率的である。特に、容器に詰め替えするなどの作業が無いことで、原酒を空気に触れさせる時間や機会を減少させることができる。結果として、原酒の品質を低下させることを防止できる。
【0066】
温水接触部3において温水との接触で第1温度まで昇温されることで、原酒に含まれる火落菌が殺菌されることおよび酵素が不活化されることの少なくとも一方が実現される。第1温度は、火落菌の殺菌および酵素の不活化の少なくとも一方を可能とする温度である。結果として、温水接触部3において、火入れ工程で必要となる火落菌の殺菌と酵素の不活化が実現できる。
【0067】
この原酒は、そのまま同じ輸送管2内部を移動して、後段に備わる冷水接触部4に到達する。この冷水接触部4において、第1温度まで昇温された原酒は、第2温度まで降温される。この降温により、火入れ工程が終わった後の原酒の保存に適した温度としての原酒となる。この温度への降温により火入れ工程の次の行程への移行が可能となる。
【0068】
冷水接触部4で第2温度まで降温された原酒(火落菌の殺菌が終わっている原酒)は、輸送管2を更に移動して回収部5に回収される。回収部5は、そのまま火入れ工程の終わった原酒を保存してもよいし、次の行程までの一時保管を行ってもよい。
【0069】
このように回収部5まで連続する輸送管2の途中に、温水接触部3と冷水接触部4が備わることで、火落菌の殺菌と酵素の不活化を実現したうえで冷却して、火入れ工程を完了させることができる。連続的な移動の過程で、火入れ工程が完了する。
【0070】
次に、各部の詳細について説明する。
【0071】
(温水接触部)
【0072】
温水接触部3は、温水を接触させて、輸送管2を移動する原酒を第1温度まで昇温させる。第1温度は、65℃~70℃であることが好ましい。
【0073】
原酒がこの温度まで昇温されることで、原酒に含まれる火落菌が殺菌され酵素が不活化される。これにより、火入れ工程の目的が達成できる。温水接触部3は、輸送管2の一部の外部を覆って、輸送管2の外部から熱を加える。このとき、図1のように、温水接触部3は、輸送管2の外部に温水を付与する内部空間を持った外部部材である。この内部空間に温水が循環することで、温水が輸送管2の外部を温める。
【0074】
この温水による温めにより、この部位における原酒は、第1温度まで昇温する。
【0075】
また、温水接触部3に温水を循環供給する温水供給部31が更に備わっている。温水供給部31は、温水接触部3に温水を循環供給する。この温水の循環供給がされることで、温水接触部3は、昇温に必要な温度を持った温水接触を維持できる。
【0076】
この維持の結果、原酒に含まれる火落菌の殺菌および酵素の不活化を、十分に行うことができる。また、原酒が次々と輸送管2により輸送されてきても、これを連続的に加熱できる。すなわち、連続的に火入れ工程を実現できる。
【0077】
温水供給部31は、温水を連続的に供給できるように加熱器などの温水生成手段を備えていることも好適である。
【0078】
温水接触部3の温水の温度は、80℃~90℃であることが好適である。この範囲の温度であることで、原酒を第1温度まで十分に昇温させることができる。
【0079】
また、温水接触部3の内部空間の体積と、温水接触部3が覆う輸送管2の面積や長さなどを適切に制御する。加えて、輸送管2での原酒の移動速度や温水の循環速度や量を適切に制御する。これらの制御によって、温水接触部3による第1温度までの原酒の昇温が適切に実現される。
【0080】
第1温度までの昇温がされれば、原酒に含まれる火落菌の殺菌および酵素の不活化が実現できる。
【0081】
(冷水接触部)
冷水接触部4は、原酒を輸送する輸送管2の外部に冷水を接触させる。冷水接触部4は、原酒の移動方向において、温水接触部3の後段に備わる。すなわち、火入れ装置1としては、まず原酒を温水で昇温させて、次いで冷水で降温させる。火落菌の殺菌および酵素の不活化を行った後で、次の工程に対応する温度に下げる。
【0082】
冷水接触部4は、原酒を第2温度まで降温させる。第2温度としては、一例として10℃~15℃である。第2温度は、原酒の保存に適した温度である。原酒の温度に適した第2温度まで降温されることで、回収部5における原酒の保存(一時的な保管も含む)が適切に行える。
【0083】
冷水接触部4は、冷水を接触させて原酒を第2温度まで降温させる。これに対応するため、冷水接触部4での冷水の温度は、5℃以下であることが好ましい。5℃以下の冷水が接触することで、確実に第2温度まで降温させる。
【0084】
図1に示されるように、冷水接触部4は、輸送管2の外部を覆って輸送管2の外部を冷却する。冷水接触部4は、冷水が循環する内部空間を有する構成を持っている。この内部空間に冷水が循環して、輸送管2の外部を冷却することができる。外部から冷却することで、温水接触部3で温度上昇している原酒を冷却できる。
【0085】
また、冷水接触部4(の内部空間)に、冷水を循環供給する冷水供給部41を更に備える。冷水供給部41は、冷水接触部4に冷水を連続的に循環供給させる。これにより、冷水接触部4は、十分に低い温度の冷水を輸送管2の外部に接触させることができる。この接触により、原酒の冷却ができる。
【0086】
特に、連続的に冷水が供給されることで、輸送管2を移動してくる原酒の冷却を継続できる。
【0087】
冷水接触部4の内部空間の体積、長さ、輸送管2との接触面積、冷水の温度、冷水の循環速度などの制御により、冷水接触部における第2温度への降温が適切に実現される。
【0088】
また、冷水供給部41による冷水供給能力の変化などを通じて、第2温度への降温が適切に実現される。必要に応じて、冷水供給能力を上下させて、高温の適性を維持すればよい。
【0089】
冷水供給部41は、循環する冷水を冷却する冷却機構を備えていてもよい。これにより、十分な低温である冷水の循環供給が維持できる。
【0090】
また、冷水接触部4は、冷水以外に冷媒を用いてもよい。同様に、温水接触部3も、加熱された冷媒が使用されてもよい。
【0091】
(輸送管)
輸送管2は、原酒を移動させて、移動過程で加熱と冷却を受ける。輸送管2は、原酒を回収部5まで移動させる過程で、原酒の火入れ工程を完了させる。
【0092】
輸送管2は、原酒の投入、温水接触部3,冷水接触部4、回収部5までにおいて連続している。この連続状態において、原酒を移動させる。移動過程での温水接触と冷水接触を行わせる。
【0093】
輸送管2は、少なくとも一部において螺旋形状を有することも好適である。図1に示されるように、温水接触部3および冷水接触部4の部位において、輸送管2は螺旋形状を有することも好適である。温水接触部3および冷水接触部4においての加熱と冷却効果を高めることができる。
【0094】
温水接触部3において、輸送管2が螺旋形状であることで、温水接触部3において温水との接触面積が増加する。これにより、温水接触部3は、効率的に原酒を昇温させる。
【0095】
冷水接触部4において、輸送管2が螺旋形状であることで、冷水接触部4において冷水との接触面積が増加する。これにより、冷水接触部4は、効率的に原酒を降温させる。
【0096】
輸送管2は、温水接触部3および冷水接触部4以外においては、螺旋形状ではなくストレート形状であることもよい。輸送管2での原酒の輸送を効率化するためである。
【0097】
以上のように、実施の形態1の日本酒の火入れ装置1は、効率的に火入れ工程を実現できる。また、原酒の詰め替えなどで、原酒を空気に触れさせる機会を減らすことができ、品質向上にも資する。
【0098】
(実施の形態2)
【0099】
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2では追加的な工夫などについて説明する。
【0100】
(加熱時間と冷却時間)
【0101】
温水接触部3は、温水を接触させることで、原酒を加熱して火落菌の殺菌と酵素の不活化を実現する。温水接触部3での加熱では、加熱時間において、加熱される。一方、冷水接触部4は、冷水を接触させることで、原酒を冷却する。冷水接触部4での冷却は、冷却時間をもって、原酒を冷却する。
【0102】
ここで、冷水接触部4での冷却時間は、温水接触部3での加熱時間よりも長いことが好適である。冷却時間が長いことで、温度上昇した原酒の急速冷却が可能となるからである。日本酒の製造工程では、原酒の温度は低温で管理されていることが好ましい。勿論、保管工程でも低温で管理されていることが好ましい。
【0103】
このような点から、昇温した原酒は、急速に冷却されることが好ましい。この急速な冷却を可能とするため、冷却時間が加熱時間よりも長いことが好ましい。
【0104】
加熱時間よりも冷却時間を長くするために、輸送管2に接触する冷水接触部4の数は、輸送管2に接触する温水接触部3の数よりも多いことが好適である。冷水接触部4の数が多ければ、それだけ冷却時間を長くすると共に冷却能力を向上させることができる。これにより、温度上昇した原酒を、短時間で冷却でき、次の工程や保管工程に適した状態を作ることができる。
【0105】
冷却効率が高いことは、日本酒製造の質を向上させることができる。
【0106】
(複数回の循環)
同じ原酒が、輸送管2を複数回にわたって循環することも好適である。回収部5で回収された原酒が、再び輸送管2の入り口から供給される。これにより、原酒は、複数回において、温水接触部3での加熱と冷水接触部4での冷却を受ける。
【0107】
原酒の火入れ工程としてのより十分な処理が実現できる。
【0108】
原酒が複数回において加熱を受けることで、火落菌の殺菌と酵素の不活化が確実に行える。また、都度、冷却されて加熱に戻ることで、原酒の品質維持も十分に行える。
【0109】
このとき、温水接触部3での接触回数よりも冷水接触部4での接触回数が多いことも好適である。これにより、急速冷凍と十分な殺菌とのバランスが実現できる。
【0110】
温水接触部3での昇温により火落菌の殺菌および酵素の不活化が行われた後で、冷水接触部4での、より回数の多い降温が行われて、確実に保存に適した第2温度への降温が実現される。この第2温度への降温が確実に行われて回収部5に原酒が回収される。この降温された原酒が回収されて、次の工程に向けて保管される。
【0111】
以上のように、効率的に火落菌の殺菌および酵素の不活化が行われ、品質を損なうことなく降温された原酒が、次工程に引き渡される。
【0112】
なお、実施の形態1~2で説明された日本酒の火入れ装置は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0113】
1 日本酒の火入れ装置
2 輸送管
3 温水接触部
31 温水供給部
4 冷水接触部
41 冷水供給部
5 回収部
図1