(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079325
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】緩み止め装置
(51)【国際特許分類】
F16B 39/18 20060101AFI20230601BHJP
F16B 39/12 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
F16B39/18
F16B39/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192741
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】391006636
【氏名又は名称】ハードロック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】若林 克彦
(57)【要約】
【課題】凸部12と凹部22との偏心嵌合によって緩み止め効果を発揮する緩み止め装置において、締結状態における下ナット10の座面圧を均一化する。
【解決手段】下ナット10の凸部12と上ナット20の凹部22とが偏心嵌合した状態で、下ナット10の座面圧が不均一となることを防止するために、凸部12の外周に周方向溝14を設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸に螺合するねじ孔を有する下ナットと、前記ねじ軸に螺合するねじ孔を有する上ナットを備え、
前記下ナット及び前記上ナットのいずれか一方は、他方に向かって軸方向に突出する凸部を有し、該凸部は、所定のテーパー角を有するテーパー状外周面を有し、
前記他方のナットは、前記凸部が嵌合する凹部を有し、該凹部は、所定のテーパー角を有するテーパー状内周面を有し、
前記凸部のテーパー状外周面が前記凸部を有するナットのねじ孔に対して偏心されているか、若しくは、前記凹部のテーパー状内周面が前記凹部を有するナットのねじ孔に対して偏心されており、
前記ねじ軸に螺合された下ナットと前記ねじ軸に螺合された上ナットとが締結された状態において、前記凸部と前記凹部とが偏心嵌合して、前記下ナット及び前記上ナットに前記偏心方向に沿う押圧力が生じるように前記凸部の周方向一部において前記テーパー状外周面と前記テーパー状内周面とが干渉するように構成されている、緩み止め装置において、
前記凸部を有するナットは、前記凸部の外周に形成された周方向溝を更に有していることを特徴とする、緩み止め装置。
【請求項2】
前記凸部のテーパー状外周面は、前記周方向溝よりも前記凸部の突出先端側に位置する、請求項1に記載の緩み止め装置。
【請求項3】
前記周方向溝は、前記テーパー状外周面と前記テーパー状内周面とが干渉する前記周方向一部を通って設けられている、請求項1又は2に記載の緩み止め装置。
【請求項4】
前記周方向一部において前記周方向溝の溝深さが最も大きく、前記周方向一部から周方向に離れるにしたがって前記周方向溝の溝深さが徐々に小さくなる、請求項1,2又は3に記載の緩み止め装置。
【請求項5】
前記周方向一部の縦断面において前記周方向溝の軸方向中央部に前記凸部を有するナットのねじ孔の雌ねじ谷底が位置する、請求項1~4のいずれか1項に記載の緩み止め装置。
【請求項6】
前記凸部のテーパー状外周面が前記凸部を有するナットのねじ孔に対して偏心されており、前記凹部のテーパー状内周面が前記凹部を有するナットのねじ孔に対して同心状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の緩み止め装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩み止め特殊ダブルナットとして好適に実施し得る緩み止め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、従来より、高い緩み止め機能を発揮する緩み止めナットであるハードロックナット(「ハードロック」は本願出願人の商標)の開発を行っており、例えば後述の特許文献1~4に開示している。
【0003】
このハードロックナットは、ねじ軸に螺合するねじ孔を有する下ナットと、ねじ軸に螺合するねじ孔を有する上ナットとから構成される。
【0004】
下ナット及び上ナットのいずれか一方のナットには、他方のナットに向かって軸方向に突出する円錐台形状の凸部が設けられる。凸部は、先端側に至るにしたがって徐々に小径となる所定のテーパー角を有するテーパー状外周面を有する。上記ねじ孔は凸部を軸方向に沿って貫通している。
【0005】
他方のナットは、凸部が嵌合する凹部を有する。凹部は、凸部の外周面のテーパー角に適合するテーパー角、好ましくは同じテーパー角を有するテーパー状内周面を有する。他方のナットのねじ孔は凹部の底面に開口している。
【0006】
ハードロックナットは、凸部と凹部とを偏心嵌合させることによって、恰もねじ軸外周とナットのねじ孔内周との間にクサビを打ち込んだような応力状態を生じさせ、かかるクサビ作用により強力な緩み止め効果を発揮させている。
【0007】
凸部と凹部との偏心嵌合は、凸部を有するナットのねじ孔に対して凸部の外周面を偏心させて形成するか、或いは、凹部を有するナットのねじ孔に対して凹部の内周面を偏心させて形成することによって実現される。凸部の外周面を偏心させる場合は、凹部の内周面と、凹部を有するナットのねじ孔とを、同心状とする。一方、凹部の内周面を偏心させる場合は、凸部の外周面と、凸部を有するナットのねじ孔とを同心状とする。
【0008】
ハードロックナットでは、ねじ軸に螺合された上下ナットの凸部と凹部とが偏心嵌合した状態で、上下ナットのそれぞれに前記偏心方向に沿う押圧力が生じるように凸部の外周面と凹部の内周面とが周方向一部において干渉する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6762591号公報
【特許文献2】特開2016-125622号公報
【特許文献3】特開2016-133136号公報
【特許文献4】特開2002-195236号公報
【特許文献5】特開昭61-244912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のハードロックナットは、凸部と凹部との偏心嵌合によって強力なクサビ作用を生じさせるように、凸部と凹部との嵌合状態で凸部のテーパー状外周面と凹部のテーパー状内周面とが周方向一部において僅かに干渉するよう設計されている。
【0011】
したがって、上記特許文献1においても既に言及しているように、凸部を有する下ナットをねじ軸に締結した後、凹部を有する上ナットを締結していくと、実際の締結状態においては特許文献1の
図8に示すように上ナットがねじ軸及び下ナットに対して傾いた状態となる。さらに、下ナットにも凸部と凹部とが干渉する周方向の一部において径方向及び軸方向の押圧力が作用し、これにより、下ナットの座面圧が周方向に一定とならず、周方向一部において座面圧が大きくなるという問題があった。
【0012】
ベアリング用の固定部材としてハードロックナットを用いた場合、下ナットの座面圧が周方向に一定でないと、ベアリングの周方向の部位毎に生じる応力も不安定となり、ベアリングの寿命を短くする要因となる。
【0013】
本発明は、締結状態における下ナットの座面圧を均一化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の緩み止め装置は、ねじ軸に螺合するねじ孔を有する下ナットと、前記ねじ軸に螺合するねじ孔を有する上ナットを備える。
【0015】
下ナット及び上ナットのいずれか一方は、他方に向かって軸方向に突出する凸部を有する。該凸部は、所定のテーパー角を有するテーパー状外周面を有する。前記凸部を有するナットの前記ねじ孔は前記凸部を軸方向に沿って貫通していてよい。
【0016】
前記他方のナットは、前記凸部が嵌合する凹部を有する。該凹部は、所定のテーパー角を有するテーパー状内周面を有する。前記他方のナットの前記ねじ孔は前記凹部の底面に開口していてよい。
【0017】
本発明の緩み止め装置では、前記凸部のテーパー状外周面が前記凸部を有するナットのねじ孔に対して偏心されているか、若しくは、前記凹部のテーパー状内周面が前記凹部を有するナットのねじ孔に対して偏心されている。
【0018】
また、前記凸部のテーパー状外周面が前記凸部を有するナットのねじ孔に対して同心状であるか、若しくは、前記凹部のテーパー状内周面が前記凹部を有するナットのねじ孔に対して同心状である。
【0019】
本発明の緩み止め装置は、前記ねじ軸に螺合された下ナットと前記ねじ軸に螺合された上ナットとが締結された状態において、前記凸部と前記凹部とが偏心嵌合して、前記下ナット及び前記上ナットに前記偏心方向に沿う押圧力が生じるように前記凸部の周方向一部において前記テーパー状外周面と前記テーパー状内周面とが干渉するように構成されている。
【0020】
前記凸部を有するナットは、前記凸部の外周に形成された周方向溝を更に有していてよい。前記凸部のテーパー状外周面は、前記周方向溝よりも前記凸部の突出先端側に位置する。
【0021】
好ましくは、前記周方向溝は、前記テーパー状外周面と前記テーパー状内周面とが干渉する前記周方向一部を通って設けられる。好ましくは、前記周方向一部において前記周方向溝の溝深さが最も大きく、前記周方向一部から周方向に離れるにしたがって前記周方向溝の溝深さが徐々に小さくなる。好ましくは、前記周方向一部の縦断面において前記周方向溝の軸方向中央部に凸部を有するナットのねじ孔の雌ねじ谷底が位置する。好ましくは、前記凸部のテーパー状外周面が前記凸部を有するナットのねじ孔に対して偏心されており、前記凹部のテーパー状内周面が前記凹部を有するナットのねじ孔に対して同心状である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、凸部外周に周方向溝を設けたので、周方向溝を設けた箇所のナットの肉厚(すなわち、ねじ孔内周面と周方向溝の底面との間の肉厚)が薄くなり、凸部のテーパー状外周面と凹部のテーパー状内周面との干渉によって凸部に生じる軸方向押圧力が周方向溝の近傍で分散又は吸収され、凸部を有するナットの座面圧が不均一になることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係る緩み止め装置の使用状態断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係る緩み止め装置の下ナットの左側面側から視た斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係る緩み止め装置の下ナットの右側面側から視た斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例に係る緩み止め装置の下ナットの6面図(背面図は省略)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は本発明の一実施形態に係る緩み止め装置1を示している。この緩み止め装置1は、ねじ軸Sに螺合するねじ孔11を有する下ナット10と、ねじ軸Sに螺合するねじ孔21を有する上ナット20とから構成される。
【0025】
下ナット10は、
図2~
図6に詳細に示すように、上ナット20に向かって軸方向に突出する円錐台形状の凸部12を有する。凸部12は、ナット本体13の上面から突設されている。ナット本体13は、典型的には六角ナットの形態であるが、適宜の外周面形状を有することができる。
【0026】
凸部12は、先端側に至るにしたがって徐々に小径となる所定のテーパー角を有するテーパー状外周面12aを有する。テーパー状外周面12aのテーパー角は、好ましくは10°以上30°以下であり、より好ましくは15°以上25°以下であり、さらに好ましくは18°以上22°以下である。
【0027】
下ナット10のねじ孔11は、ナット本体13及び凸部12に亘って設けられている。すなわち、ねじ孔11は、凸部12及びナット本体13を軸方向に沿って貫通している。また、ねじ孔11は、凸部12のテーパー状外周面12aよりも径方向内側に設けられている。
【0028】
ねじ孔11の雌ねじとねじ軸Sの雄ねじとの間には、所定量の遊びを設けることができる。これにより、ナット10をねじ軸Sに締結すると、雄ねじ及び雌ねじの荷重側フランク同士が圧接され、遊び側フランク間に微小隙間が形成される。なお、雄ねじと雌ねじとの間に遊びが設けられていなくてもよく、この場合は何らかの焼き付き防止策を講じる必要があるが、緩みにくいねじ締結構造が得られるとともに、下ナット10のねじ軸Sに対する傾きがより生じにくくなる。
【0029】
図示例では、下ナット10のテーパー状外周面12aは、下ナット10のねじ孔11に対して微少量aだけ偏心されている。すなわち、テーパー状外周面12aの軸心O1は、ねじ孔11の軸心O2と平行であり、軸心O1と軸心O2との間の距離がaである。
【0030】
下ナット10は、凸部12の外周に形成された周方向溝14を更に有している。凸部12のテーパー状外周面12aは、周方向溝14よりも凸部12の突出先端側に位置する。図示例では、凸部12の基部外周に周方向溝14が設けられている。
【0031】
周方向溝14は、テーパー状外周面12aとテーパー状内周面22aとが干渉する周方向一部を通って設けられている。図示例では、
図5に示すように、前記周方向一部(すなわち、凸部12の偏心方向一側部)において周方向溝14の溝深さが最も大きく、前記周方向一部から周方向に離れるにしたがって周方向溝14の溝深さが徐々に小さくなっている。
図2に示すように、凸部12の偏心方向他側部においては周方向溝14が設けられていなくてよい。
図6に示すように、凸部12の周方向一部の縦断面において周方向溝の軸方向中央部に下ナット10のねじ孔11の雌ねじ谷底が位置するようにねじ孔11を形成することができ、これにより、凸部12の周方向一部を最も肉厚が小さい部位とすることができる。
【0032】
上ナット20は、凸部12が嵌合する凹部22を有する。凹部22は、凸部12の突出高さと同程度、若しくは、凸部12の突出高さよりも所定量大きい深さを有する。なお、上ナット20は、典型的には六角ナットの形態であるが、適宜の外周面形状を有することができる。また、好ましくは上ナット20の下端外周部に、上記特許文献4に開示されるようにフランジ状当接部を設けることができる。
【0033】
凹部22の内周面は、凸部12の外周面のテーパー角に適合するテーパー角、好ましくは同じテーパー角を有するテーパー状内周面22aを含む。
【0034】
上ナット20のねじ孔21は凹部22の底面に開口している。すなわち、ねじ孔21は、上ナット20の外側面のうち最も小径の部位よりも径方向内方に位置する。
【0035】
本実施例の緩み止め装置は、下ナット10の凸部12と上ナット20の凹部22とが偏心嵌合することによって、恰もねじ軸Sとナット10,20のそれぞれとの間にクサビを打ち込んだような応力状態を生じさせ、かかるクサビ作用により強力な緩み止め効果を発揮する。
【0036】
図示例では、凸部12と凹部22との偏心嵌合を実現するために、下ナット10の凸部12のテーパー状外周面12aをねじ孔11に対して偏心させているとともに、凹部22のテーパー状内周面22aとねじ孔21とを同心状に設けている。これにより、ねじ軸Sに螺合された下ナット10の凸部12と上ナット20の凹部22とが偏心嵌合した状態で、上下ナット10,20に前記偏心方向に沿う反撥力が生じるように凸部12の外周面と凹部22の内周面とが周方向一部において干渉する。なお、凸部12のテーパー状外周面部分12aの最大径部位は、凹部22のテーパー状内周面部分22aの最大径部位と実質的に同じ径を有しており、これにより凸部12の凹部22に対する嵌合深さが大きくなる程、上記の偏心方向に沿う反撥力が大きくなるようにしている。
【0037】
図1に示す上下ナット10,20の締結状態は、先ず下ナット10をねじ軸Sに対して所定の締結トルクで締結した後、上ナット20をねじ軸Sに対して所定の締結トルクで締結することによって得られる。この場合、下ナット10のねじ孔11がねじ軸Sに対して同心状となるように下ナット10が締結され、これによりねじ軸Sに軸力が生じるとともに、下ナット10の座面に大きな摩擦力が生じる。このときの下ナット10の座面圧は周方向に均一である。
【0038】
上ナット20を締結すると、凸部12と凹部22との偏心嵌合によって下ナット10の凸部12の周方向一部に
図1において斜め左下方向に向く押圧力が作用するが、その直下に周方向溝14が設けられているため、凸部12に作用する軸方向の押圧力は周方向溝14を設けたことによる薄肉部近傍の変形により吸収されるか、或いは、より厚肉となる周方向全周に上記押圧力が分散される。これにより、下ナット10のナット本体13の周方向一部のみに偏心嵌合に起因する大きな軸方向押圧力が生じることが抑制され、下ナット10の座面圧を均一化できる。
【0039】
本発明は上記実施例構造に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で適宜設計変更できる。例えば、下ナットに凹部を設け、上ナットに凸部を設けてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 緩み止め装置
10 下ナット
11 ねじ孔
12 凸部
12a テーパー状外周面
14 周方向溝
20 上ナット
21 ねじ孔
22 凹部
22a テーパー状内周面