(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079376
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】プラズマ生成装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20230601BHJP
H05H 1/30 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
H05H1/24
H05H1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192822
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】白石 勝彦
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084AA07
2G084BB01
2G084BB03
2G084BB04
2G084CC04
2G084CC06
2G084CC14
2G084CC34
2G084DD04
2G084DD12
2G084DD42
2G084DD55
2G084DD66
2G084FF02
2G084FF14
2G084FF39
2G084GG02
2G084GG08
2G084GG18
(57)【要約】
【課題】プラズマ温度の低温化と活性種の生成効率の向上を実現し、プラズマ生成部で生成したプラズマの高速化を抑制して、対象物にプラズマを照射できる、プラズマ生成装置を提供する。
【解決手段】プラズマ生成部の内部にガスを供給するガス供給源と、プラズマ生成部の内部に高周波電力を供給する高周波電源と、プラズマ生成部内に配置されてプラズマを発生する放電用アンテナを備えたプラズマ発生装置であって、プラズマ生成部内の放電用アンテナとそれを囲む金属筐体との間に絶縁物を配置し、絶縁物の内部のガス流路が、ガス上流側から順にガス滞留部、先細部、スロート部、末広部で構成されており、放電用アンテナの先端が先細部の入口とスロート部との間に配置されていることを特徴とするプラズマ発生装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ生成部の内部にガスを供給するガス供給源と、プラズマ生成部の内部に高周波電力を供給する高周波電源と、プラズマ生成部内に配置されてプラズマを発生する放電用アンテナを備えたプラズマ生成装置であって、
前記プラズマ生成部内の前記放電用アンテナとそれを囲む金属筐体との間に絶縁物を配置し、絶縁物の内部のガス流路が、ガス上流側から順にガス滞留部、先細部、スロート部、末広部で構成されており、前記放電用アンテナの先端が前記先細部の入口と前記スロート部との間に配置されていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ生成装置であって、
前記放電用アンテナは、前記絶縁物の内部のガス流路に沿って配置された1本のアンテナであり、前記放電用アンテナの外部をガスが流れることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項3】
請求項1に記載のプラズマ生成装置であって、
プラズマ送出部の背圧が大気圧であり、前記先細部と、前記スロート部と、前記末広部における、前記絶縁物内のガス流の流速が数m/sであることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置であって、
細胞培養に使われる有機材料で形成された培養基材を対象物としてプラズマ照射するようにされたことを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項5】
請求項4に記載のプラズマ生成装置であって、
プラズマ照射するときの速度は、プラズマの照射により対象物である培養基材が、飛散し移動しない速度とされていることを特徴とするプラズマ生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを生成するプラズマ生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧プラズマは、真空容器や排気設備が不要であり、減圧環境に比べてプラズマ内の活性種の粒子密度が高く、高速処理が可能であるという利点がある。プラズマの生成法にマイクロ波を使った場合、放電プラズマは空間に放射されるマイクロ波の電界により電子にエネルギーを与え、中性粒子を電離することにより生成される。
【0003】
マイクロ波放電では、大気圧プラズマ生成でよく知られた誘電体バリア放電に必要となる電極やプラズマに接する誘電体(絶縁体)が不要であり、プラズマへの不純物の混入を抑制することができる。
【0004】
また、マイクロ波放電によって生成されたプラズマをガス流によって放電部から移送することで、プラズマ生成部と照射部を分離したリモート処理を行うことが可能であり、原理的には対象物の寸法やどのような形状の表面でも処理することができる。リモート処理に用いられる方式の一つに低周波大気圧プラズマジェットがあるが、低周波大気圧プラズマジェットの場合、放電ガスがヘリウムに限定される。
【0005】
一方、マイクロ波プラズマ発生装置では、アルゴン、窒素、水素、空気など、多くのガス種によるプラズマ生成実績があり、様々なプラズマ照射条件に対応できる利点がある。
【0006】
プラズマを点的に照射し得るプラズ処理装置が特許文献1に記載されている。この特許文献1には、「トーチ型の筐体内に、高周波信号を入力して放射するアンテナ(放射器)と絶縁体を備え、プラズマが発生する部位の内径よりも一端部の内径の方が小径となるように絶縁体を形成する。これにより、アンテナの周囲に十分なスペースを確保して十分な量のプラズマ放電用ガスをアンテナの周囲に位置させることができ、さらには、処理対象体上の極く狭い領域に対してプラズマを点的に照射することができる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、プラズマが発生する部位の内径よりも一端部の内径の方が小径となるような絶縁管を使用することで、各種径のプラズマを点的に照射するプラズマ処理装置が記載されている。
【0009】
この場合、プラズマが発生する部位の内径が広いためアンテナ先端の高電界部での流速が遅く相互作用するガス流量が少ないため、生成されるプラズマのガス温度が上昇し、さらには活性種の生成効率が抑制される。また、高速の大気圧プラズマが、点的に対象物にあたると、対象物が飛散、移動してしまうという問題があった。
【0010】
以上のことから本発明の目的は、プラズマ温度の低温化と活性種の生成効率の向上を実現することができるプラズマ生成装置を提供することにある。さらには、プラズマ生成部で生成したプラズマの高速化を抑制して、対象物にプラズマを照射できる、プラズマ生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上のことから本発明においては、「プラズマ生成部の内部にガスを供給するガス供給源と、プラズマ生成部の内部に高周波電力を供給する高周波電源と、プラズマ生成部内に配置されてプラズマを発生する放電用アンテナを備えたプラズマ発生装置であって、プラズマ生成部内の放電用アンテナとそれを囲む金属筐体との間に絶縁物を配置し、絶縁物の内部のガス流路が、ガス上流側から順にガス滞留部、先細部、スロート部、末広部で構成されており、放電用アンテナの先端が先細部の入口とスロート部との間に配置されていることを特徴とするプラズマ発生装置」としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プラズマ温度の低温化と活性種の生成効率の向上を実現することができ、さらには、プラズマ生成部で生成したプラズマの高速化を抑制して、対象物にプラズマを照射できる。
【0013】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1に係るプラズマ生成に係るプラズマ生成装置の概略の構成を示す正面の断面図。
【
図2】アンテナ長に対する伝送路のSパラメータの周波数特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
ただし、本発明は以下に示す実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0017】
本発明のプラズマ生成装置は、細胞培養に使われる有機材料で形成された培養皿などの培養基材を対象物として、その表面改質による親水性の向上などに使用することを想定している。
【0018】
この場合、プラズマ照射により、有機材料である培養基材の変形・変質がないためには、プラズマの低温化が必要である。さらに、培養基材の表面改質には、プラズマ中に生成され、化学反応を起こしやすい活性種が重要である。活性種の生成は、アンテナ先端の高電界部とガスとの相互作用を増やすことで生成効率を高めることができる。活性種の寿命は1μsから1msと短く、プラズマ生成部と照射部との距離が長くなるとプラズマ中の活性種の割合は急激に少なくなる。
【0019】
プラズマの対象物までの到達時間を短くするために高速流とすると、重量の軽い対象物の場合には、飛散や移動が問題になる場合がある。
【実施例0020】
実施例では、上記した用途に好適なプラズマ生成装置について説明する。
図1は、本発明の実施例に係るプラズマ生成装置100の構成例を示す正面の断面図である。
【0021】
本実施例に係るプラズマ生成装置100は、プラズマ生成部1と、プラズマ生成部1の内部に動作ガスを供給するガス供給源60と、プラズマ生成部1の内部にプラズマを発生させるための電力を供給する高周波電源50を備えている。
【0022】
このプラズマ生成装置100では、プラズマ生成部1の内部にガス供給源60から動作ガスを供給し、高周波電源50から発振された高周波電力をプラズマ励起部90に供給してプラズマを生成し、生成したプラズマを、プラズマ送出部91を通して送出して被処理物に照射しプラズマによる処理を行う。
【0023】
プラズマ生成部1は、
図1に示すように、外部導体3、同軸ケーブル51、同軸コネクタ52、供給導体10、放射導体としてのアンテナ11、絶縁筒5、保持導体70を備えている。
【0024】
このうち外部導体3は、少なくとも片側が開口した導電性の筒体になっており、開口部に絶縁筒5によって構成された、プラズマ送出部91が形成されている。
【0025】
絶縁筒5は、石英管やアルミナ管などの誘電体で構成されている。絶縁筒5は、Oリング40a、40bを設置した保持導体70でアンテナ11と同軸に配置される。Oリング40a、40bは、保持導体70に設けた凹部70.71に装着された状態で絶縁筒5の外周面に密着している。例えば、Oリング40a、40bは、耐熱性の高い、誘電体である。
【0026】
アンテナ11の一端は、外部導体3の筒体の内部の底面301の中心に固定され、他端は外部導体3の内部に装着された保持導体70に保持されている絶縁筒5の内部に突出するように配置されている。この状態で、絶縁筒5の中心軸とアンテナ11の中心軸が一致する構成となっている。
【0027】
Oリング40aは、保持導体70に形成された凹部71に装着された状態で、外部導体3の筒体の底面301に近い側の絶縁筒5の端部5aより下側で、アンテナ11の絶縁筒5内に突出したアンテナ11の先端部11aの位置と同じか、それよりも上側(外部導体3の筒体の底面301に近い側)に配置される。
【0028】
高周波電源50は、準マイクロ波帯(1GHz~3GHz)またはマイクロ波帯(3GHz~30GHz)の高周波信号を所定の電力で生成すると共に、同軸ケーブル51を介して同軸コネクタ52で外部導体を接続されてプラズマ生成部1に高周波電力を出力する。同軸ケーブル51の終端を供給導体10と接続して逆L字で外部導体3の底面301と短絡させることで、供給導体10と隣接して平行に設置したアンテナ11へマイクロ波エネルギーを集中的に送ることができるように構成されている。
【0029】
このような構成において、電流が流れる軸を中心に同心円状に磁場が発生するので、一例として、2.45GHzマイクロ波の場合、その波長の1/4(30.6mm)に値する長さのアンテナ11との共振が起き、アンテナ11の先端部11aでマイクロ波電界が作られ、プラズマが発生する。このとき、高周波電源50からプラズマを生成する高周波信号の供給効率を高めるため、高周波電源50とプラズマ生成部1との間に整合器を配設することもできる。
【0030】
プラズマ放電用の動作ガスは、ガス供給部60からガス配管61を通してマスフローコントローラ62で流量が調整されたうえで、外部導体3に設けたガス導入管63を介して外部導体3内のガス整流部92に導入される。絶縁筒5の内部のプラズマ励起部90で発生したプラズマ99は、ガス供給源60から供給され、絶縁筒5の内部に設けた流路で制御された流れに沿って、プラズマ送出部91からプラズマ生成部1の外部に流れ出る。
【0031】
絶縁筒5の内部は、端部5aから下流のプラズマ送出部91に向かって先細末広ノズル形状となっている。端部5aから下流にガス滞留部200があり、続いて先細部201と、スロート部202と、末広部203が設けられている。
【0032】
このとき、先細部201の入り口とスロート部202の入り口の間にアンテナ11の先端部11aが配置されている。これにより、プラズマが生成されるアンテナ11の先端部11aに向かって流れが早くなるとともに、流れが集中して、アンテナ11の先端部11a近傍の高電界部と相互作用するガス流量が増加することで、プラズマの生成効率を高めることができる。さらに、高電界部で発生したプラズマの滞在時間が短くなるため、プラズマが高温になることを抑制することができる。また、一般に、ガスよりも熱伝導率の高い絶縁物をプラズマ生成部の近傍に配置して、放熱効率を高めることでもプラズマの低温化をはかることができる。
【0033】
絶縁筒5の内部の先細末広ノズル形状は、プラズマ照射が低速になるように決める。ここで低速でのプラズマ照射とは、プラズマの照射により対象物である培養基材が、特別な治具で抑えなくても飛散や移動が問題にならない速度を想定している。このときの適切な速度は、対象物の表面処理の仕方に応じても変わるため、適宜に設定されるのがよいが、具体的な数値としては、対象物に届く時の流速が数m/s以下であることが望ましい。
【0034】
照射プラズマの流速が数m/s以下になるように、絶縁筒5の内部の先細末広ノズル形状の各部の流路面積は決められる。マスフローコントローラ62で調整された動作ガスの流量をQL/min、ガス導入管63の流路面積をS1m3とすると、ガスの流速v1は、v1=Q/(60×S1)m/sとなる。各流路での流量が保存されるとして、絶縁筒5の端部5aの流路面積をS2、ノズルスロート202の入口の流路面積をS3、末広部出口のプラズマ送出部91の流路面積をS4とすると、低速でのプラズマ照射を実現するため、各部の流路面積の関係をS2>S4>S3>S1とする。例えば、流量2L/minで、ガス導入管63の内径が2mmで流路面積が3.14mm2の場合、動作ガスの流速は10.6m/sとなる。ガス導入管63の流路面積に対して、絶縁筒5の端部5aの流路面積を25倍にすると流速は0.4m/s、ノズルスロート202の入口の流路面積を2倍とすると流速は5.2m/s、末広部出口の流路面積を150倍とすれば流速は0.1m/sとなる。
【0035】
図2は、一例として、2.45GHzのマイクロ波に対する伝送路の反射電力を評価するSパラメータの周波数特性である。マイクロ波の伝送路の特性を表すSパラメータ(S11=反射波/入射波)の吸収ピークの周波数が2.45 GHzに近く、また、吸収が大きいほど供給した電力がアンテナ先端部で消費されていることを表すため、吸収ピークは負に大きいほど伝送路インピーダンス整合が良いと言える。吸収ピークが2.45GHzからずれてしまうような場合には、プラズマの点火の不具合が発生し、あるいは伝送路の反射電力が大きくなってプラズマの生成効率が低下してしまう。
【0036】
絶縁筒5の端部5aから下流にガス滞留部200を設けることで、ガスの流れを良くするのと合わせて、アンテナ11と絶縁物5との距離を確保することができるので、伝送路の反射電力を抑えるための伝送路インピーダンス整合の調整が容易になる。
【0037】
上記した本発明の実施例によれば、このような構成にすることで、アンテナ先端の高電界部のガス流量を増やすことでプラズマ温度の低温度化と、アンテナ先端の高電界部とガスとの相互作用が増えるので、高い活性種の生成効率が実現でき、さらにはスロート部から末広部にガスを流すことで、低速でのプラズマ照射を実現できるプラズマ生成装置を提供することができる。
【0038】
以上本発明の実施例について説明した。この構造は、絶縁筒5の内部が先細末広ノズル形状になっている点において特許文献1の構造と共通するが、大きく以下の2点で相違する。第1点は先細部201の入り口とスロート部202の入り口の間(別な言い方をすると先細部201内)にアンテナ11の先端部11aが配置されていることであり、この点特許文献1のものはガス滞留部200内にアンテナ11の先端部11aが配置されている。また第2点は、アンテナ11の形状であり、特許文献1では絶縁筒5の内部周囲に配置された2つのアンテナ間をガス流が通過するに対し、本発明では1つの棒状のアンテナの周囲をガス流が通過するようにされたことである。
【0039】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。