(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079384
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】振動情報推定装置およびサスペンション装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20230601BHJP
【FI】
B60G17/015
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192838
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】石田 優
(72)【発明者】
【氏名】久保 大和
(72)【発明者】
【氏名】安原 智哉
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA03
3D301AA04
3D301DA01
3D301DA31
3D301EA04
3D301EA10
3D301EA19
3D301EC01
3D301EC06
3D301EC08
3D301EC55
3D301EC56
3D301EC62
3D301EC66
(57)【要約】
【課題】車両進行方向に対する後輪側の振動情報を精度よく推定できる振動情報推定装置を提供する。また、車両における乗心地を向上できるサスペンション装置を提供する。
【解決手段】振動情報推定装置1は、車体Bのロール加速度φを検知するロール加速度検知部2と、後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下加速度αzrl,αzrrを検知する上下加速度検知部3と、ロール加速度φに基づいて上下加速度αzrl,αzrrを補正する補正部4と、補正部4で補正した上下加速度αzrla,αzrraを入力として1輪モデル5aの状態方程式に基づいて車両Vの車体Bと後輪Wrl,Wrrとの上下方向の相対的な振動情報を推定するオブザーバ5とを備える。また、サスペンション装置Sdは、振動情報推定装置1と、制御装置Cと、緩衝器D或いはアクチュエータとを備え、制御装置Cが振動情報に基づいて緩衝器D或いはアクチュエータを制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後左右に車輪を有する車両における車体のロール方向の加速度であるロール加速度を検知するロール加速度検知部と、
前記車両の進行方向の後輪の直上の車体の上下方向の加速度である上下加速度を検知する上下加速度検知部と、
前記ロール加速度に基づいて前記上下加速度を補正する補正部と、
前記補正部で補正した上下加速度を入力として、1輪モデルの状態方程式に基づいて前記車両の前記車体と前記後輪との上下方向の相対的な振動情報を推定するオブザーバとを備えた
ことを特徴とする振動情報推定装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記後輪が前記車両における進行方向の前輪が通過した路面と同一路面を通過すると仮定して、前記前輪が前記同一路面を通過した際に取得されたロール加速度に基づいて、前記同一路面を前記後輪が通過する際に検知される上下加速度を補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の振動情報推定装置。
【請求項3】
前記車体と前記後輪との間に介装される減衰力調整可能な緩衝器或いは推力調整可能なアクチュエータと、
前記緩衝器或いは前記アクチュエータを制御する制御装置と、
請求項1または2に記載の振動情報推定装置とを備え、
前記制御装置は、前記振動情報推定装置が推定した前記振動情報に基づいて前記緩衝器或いは前記アクチュエータを制御する
ことを特徴とするサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動情報推定装置およびサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両における乗心地の向上等を目的として、車両の車体と車輪との間に介装される減衰力可変の緩衝器と、前記緩衝器が発揮する制御力をスカイフック制御則に則って制御する制御装置とを備えたサスペンション装置では、車体の上下方向の速度とサスペンション装置のストローク速度とを検知する必要がある。
【0003】
車体の上下方向の速度を得るには、車体に設けた加速度センサで検知した車体の上下方向の加速度を積分して得ることができる。また、前記ストローク速度を得るには、車体と車輪との間の相対変位を検知するストロークセンサを設けて前記ストローク変位を検知して当該ストローク変位を微分するか、或いは、車体と車輪のそれぞれに上下方向の加速度を検知する加速度センサを設けて、検知した車体と車輪の加速度との双方を積分した後、両者の差を求めてストローク速度を得るのが一般的である。
【0004】
このように車体の上下方向の速度とストローク速度を得るには、センサが少なくとも2つ必要となるため、緩衝器を制御する制御装置が高価となるだけでなく、センサを設置するためにスペースも必要となるため、安価かつ省スペースな制御装置が要望される。
【0005】
このような要望に応えるため、観測量を車体の上下方向の加速度としてストローク変位を状態量として推定する1輪モデルのオブザーバを利用した振動情報推定装置を制御装置に適用する提案がある。このように構成された振動情報推定装置では、1つの車輪と車体との間のストローク変位の推定に必要なのは、1つの加速度センサのみとなるので、制御装置が安価かつ省スペースとなる。
【0006】
具体的には、振動情報推定装置は、緩衝器の非線形特性をマップの形としてオブザーバのモデルに組み込んで、緩衝器の減衰係数或いは緩衝器の減衰バルブに与える制御指令の大きさに応じてオブザーバゲインを適正な値に保持する補償を行って、ストローク変位の推定精度を高めている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の振動情報推定装置では、1輪モデルのオブザーバを利用してストローク変位を推定するため、車体の左右方向のロールについて何ら考慮されていない。
【0009】
そのため、たとえば、四輪の車両が左右で逆位相となる正弦波状路を走行する場合、前輪が正弦波状路を走行した際に生じる車体のロールの影響によって、推定した後輪側のストローク変位の位相が実測値に対して遅れてしまうという問題があった。
【0010】
よって、従来の振動情報推定装置では、ストローク変位、ストローク速度といった振動情報を精度よく推定することが難しく、振動情報推定装置が推定した振動情報を利用するサスペンション装置にあっては、振動情報の実測値と推定値の誤差によって車体の振動を効果的に抑制できず、より一層の車両における乗心地の向上が望まれる。
【0011】
そこで、本発明の目的は、車両進行方向に対する後輪側の振動情報を精度よく推定できる振動情報推定装置の提供であり、また、他の目的は、車両における乗心地を向上できるサスペンション装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の課題解決手段における振動情報推定装置は、前後左右に車輪を有する車両における車体のロール方向の加速度であるロール加速度を検知するロール加速度検知部と、車両の進行方向の後輪の直上の車体の上下方向の加速度である上下加速度を検知する上下加速度検知部と、ロール加速度に基づいて上下加速度を補正する補正部と、補正部で補正した上下加速度を入力として、1輪モデルの状態方程式に基づいて車両の車体と後輪との上下方向の相対的な振動情報を推定するオブザーバとを備えて構成されている。
【0013】
このように構成された振動情報推定装置によれば、ロール加速度に基づいて上下加速度を補正する補正部を備えているので、上下加速度からオブザーバによるストローク変位の推定に邪魔となるロールによる加速度成分を取り除くことができる。
【0014】
また、振動情報推定装置における補正部は、後輪が車両における進行方向の前輪が通過した路面と同一路面を通過すると仮定して、前輪が同一路面を通過した際に取得されたロール加速度に基づいて、同一路面を後輪が通過する際に検知される上下加速度を補正してもよい。このように構成された振動情報推定装置によれば、前輪と後輪とが同一路面を通過する場合、前輪が同一路面を走行した際に得られるロール角速度を用いて上下加速度を補正できるので、より正確に振動情報を推定できる。
【0015】
さらに、サスペンション装置は、車体と後輪との間に介装される減衰力調整可能な緩衝器或いは推力調整可能なアクチュエータと、緩衝器或いはアクチュエータを制御する制御装置と、振動情報推定装置とを備え、制御装置は、振動情報推定装置が推定した振動情報に基づいて緩衝器或いはアクチュエータを制御してもよい。このように構成されたサスペンション装置によれば、精度よく推定された振動情報に基づいて緩衝器或いはアクチュエータを制御できるので、車体の振動を効果的に抑制でき、車両における乗心地を向上できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の振動情報推定装置によれば、車両進行方向に対する後輪側の振動情報を精度よく推定できる。また、本発明のサスペンション装置によれば、車両における乗心地を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】車両に搭載された一実施の形態のサスペンション装置を示した図である。
【
図2】一実施の形態における振動情報推定装置の構成を示した図である。
【
図3】一実施の形態におけるサスペンション装置における制御装置の構成を示した図である。
【
図4】一実施の形態における振動情報推定装置および制御装置のハードウェア構成例を示した図である。
【
図5】振動情報推定装置および制御装置の処理を行う演算処理装置の構成を示した図である。
【
図7】一実施の形態における振動情報推定装置の処理手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1および
図2に示すように、振動情報推定装置1は、前後左右に車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrを有する車両Vにおける車体Bのロール方向の加速度であるロール加速度φを検知するロール加速度検知部2と、車両Vの進行方向の後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下方向の加速度である上下加速度αzrl,αzrrを検知する上下加速度検知部3と、ロール加速度φに基づいて上下加速度を補正する補正部4と、補正部4で補正した上下加速度αzrl,αzrrを入力として1輪モデルの状態方程式に基づいて車両Vの車体Bと後輪Wrl,Wrrとの上下方向の相対的な振動情報としてストローク変位Xl,Xrを推定するオブザーバ5とを備えて構成されている。なお、振動情報は、車体Bと後輪Wrl,Wrrとの上下方向の相対変位であるストローク変位の他、両者の相対速度或いは相対加速度といった両者の相対的な振動を把握可能な情報であればよい。また、車両Vの前後は、車両Vの進行方向を基準にして定義されており、車両Vの進行方向の前側に配置される車輪を前輪とし、車両Vの進行方向の後側に配置される車輪を後輪としている。
【0019】
さらに、本実施の形態のサスペンション装置Sdは、
図1および
図3に示すように、車体Bと後輪Wrl,Wrrとの間に介装される減衰力調整可能な緩衝器Dと、緩衝器Dを制御する制御装置Cと、振動情報推定装置1とを備えており、振動情報推定装置1が求めた振動情報であるストローク変位に基づいて制御装置Cにより緩衝器Dを制御する。
【0020】
制御装置Cは、
図3に示すように、車体Bと前輪Wfl,Wfrとの間のストローク変位を推定するストローク変位推定装置30と、ストローク変位推定装置30が推定した前輪Wfl,Wfrのストローク変位と振動情報推定装置1が推定した後輪Wrl,Wrrのストローク変位を利用して目標減衰力Ffl,Ffr,Frl,Frrを求める目標減衰力演算部20と、目標減衰力Ffl,Ffr,Frl,Frrから4輪各輪Wfl,Wfr,Wrl、Wrrの各ダンパDの減衰力調整部Fへ供給すべき目標電流Ifl,Ifr,Irl,Irrを求める指令電流決定部21とを備えている。
【0021】
車両Vは、車体Bと車体Bの前後左右の車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrとの間に緩衝器Dに並列に介装される懸架ばねSを備えており、車体Bが懸架ばねSによって弾性支持されている。緩衝器Dは、詳しくは図示しないが、内部に減衰力調整部Fを備えており、制御装置Cが減衰力調整部Fへ供給する電流に応じて減衰力を変化させることができる。このように、緩衝器Dの減衰力は、制御装置Cによって制御される。減衰力調整部Fは、たとえば、供給される電流に応じて開口面積或いは開弁圧を調整する電磁弁とされている。なお、減衰力調整部Fは、減衰弁と、減衰弁における弁体を弁座に向けて付勢する背圧の調整を電磁弁とを備えたバルブユニットであってもよい。
【0022】
なお、振動情報推定装置1は、
図4に示すように、ハードウェアとしては、車体Bに設けられて車体Bへの設置位置における上下方向の加速度を検知する加速度センサ10,11,12および加速度センサ10,11,12が検知した加速度から振動情報を推定する処理を行う演算処理装置13とを備えており、演算処理装置13の処理によって振動情報推定装置1の各部が実現される。また、本実施の形態のサスペンション装置Sdにおける制御装置Cは、ハードウェアとしては、振動情報推定装置1と一部を共有しており、前述の加速度センサ10,11,12と緩衝器Dが発生すべき目標減衰力を求める処理を行う演算処理装置13と、演算処理装置13からの指令によって減衰力調整部Fへ電流を供給する駆動回路14とを備えている。
【0023】
演算処理装置13は、
図5に示すように、CPU(Central Processing Unit)13aと、CPU13aが振動情報推定装置1および制御装置Cとしての処理を行うためのプログラムを記憶するとともにCPU13aの処理に必要な記憶領域を提供するメモリ13bと、CPU13a、メモリ13b、加速度センサ10,11,12および駆動回路14との間での信号のやり取りを可能とするインターフェース13cと、これら装置を互いに通信可能に接続するバス13dとを備えている。駆動回路14は、車体Bと車両Vの4輪各輪Wfl,Wfr,Wrl、Wrrとの間に介装された4つの緩衝器D毎に1つずつ設けられており、演算処理装置13からの指令に応じて指令が指示する電流値の電流を減衰力調整部Fに供給する。駆動回路14は、たとえば、PWM駆動を行う駆動回路以外の駆動回路であってもよい。
【0024】
CPU13aは、オペレーティングシステムおよび他のプログラムの実行によって加速度センサ10,11,12が検知する車体Bの上下方向の加速度α1,α2,α3を処理するとともにメモリ13bを制御する。メモリ13bは、ROM(Read Only Memory)の他に、CPU13aの演算処理に必要な記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)を備えており、CPU13aの演算処理に使用されるプログラムをROMに格納している。なお、CPU13aの演算処理に使用されるプログラムは、メモリ13b以外に設けられる記憶装置に格納しておき、実行時にメモリ13bにおけるRAMに読み出して、RAM上で実行してもよい。
【0025】
以下、振動情報推定装置1の各部について、詳細に説明する。ロール加速度検知部2は、車体Bのロール方向の加速度であるロール加速度φを検知する。また、上下加速度検知部3は、車両Vの進行方向の後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下方向の加速度である上下加速度αzrl,αzrrを検知する。ロール加速度検知部2と上下加速度検知部3は、車体Bに設置した3つの加速度センサ10,11,12を備えており、これら加速度センサ10,11,12が検知した車体Bの3箇所の上下方向の加速度である上下加速度α1,α2,α3から車体Bのロール方向の加速度であるロール加速度φと上下加速度αzrl,αzrrを検知する。ロール加速度検知部2における処理と上下加速度検知部3の処理は、より、具体的には、演算処理装置13が加速度α1,α2,α3を処理することで実現される。
【0026】
3つの加速度センサ10,11,12は、車体Bの前後または左右方向の同一直線上にない任意の3箇所に設置されており、それぞれ、設置された位置における車体Bの上下方向の加速度α1,α2,α3を検知する。
【0027】
演算処理装置13は、加速度センサ10,11,12が検知した加速度α1,α2,α3から車体Bの後輪Wrl,Wrrの直上の上下加速度αzrl,αzrrを求める。具体的には、演算処理装置13は、車体Bを剛体と見なして、車体Bの前後または左右方向の同一直線上にない任意の3箇所の上下方向の加速度を得れば、車体Bの上下方向、前後方向回転および横方向回転の各加速度が得られる。よって、演算処理装置13は、これらの加速度から車体Bの重心位置における上下方向の加速度であるバウンス加速度と、当該重心位置の前後方向回転の角加速度であるピッチ加速度と、当該重心位置の横方向回転の角加速度であるロール加速度φを求める。
【0028】
演算処理装置13は、バウンス加速度、ピッチ加速度およびロール加速度φを求めた後、後輪Wrl,Wrrのドレッドの値Ltおよびホイールベースの値Lhを用いて、後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下加速度αzrl,αzrrを求める。車体Bが車両進行方向に対して左側へ回転する方向のロール加速度を正とすると、後輪Wrlの直上の車体Bの上下加速度αzrlは、バウンス加速度の値、ピッチ加速度にLh/2を乗じた値およびロール加速度φにLt/2を乗じた値を加算することで求められる。また、後輪Wrrの直上の車体Bの上下加速度αzrrは、バウンス加速度の値とピッチ加速度にLh/2を乗じた値との合計値からロール加速度φにLt/2を乗じた値を減算することで求められる。
【0029】
このように、演算処理装置13は、加速度センサ10,11,12が検知した加速度α1,α2,α3を処理することでロール加速度検知部2および上下加速度検知部3としての処理を行う。なお、演算処理装置13は、所定のサンプリング周期で、ロール加速度φおよび後輪Wrl,Wrrの直上の上下加速度αzrl,αzrrを検知する。また、演算処理装置13は、メモリ13bに求めたロール加速度φを記憶させる。メモリ13bには、数秒程度の間に求められるロール加速度φを記憶するための領域が設けられており、領域が一杯になると、順次、古いロール加速度φから順番に新しいロール加速度φに上書きてメモリ13b内のロール加速度φの値が更新される。
【0030】
なお、後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下加速度を加速度センサで検知する場合、加速度センサが検知する加速度は、後輪Wrl,Wrrの直上の上下加速度αzrl,αzrrであるため、上下加速度検知部3をこれらの加速度センサで構成すればよい。また、加速度センサで後輪Wrl,Wrrの直上の上下加速度αzrl,αzrrを直接に検知する場合、演算処理装置13は、上下加速度αzrl,αzrrの差を後輪Wrl,Wrr間のトレッドの値Ltで除して車体Bのロール加速度φを求めてロール加速度検知部2を実現してもよい。また、後述するように、本実施の形態のサスペンション装置Sdは、4輪Wfl,Wfr,Wrl,WrrのダンパDを制御するため、4輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下加速度αzfl,αzfr,αzrl,αzrrを検知する必要があるので、4輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの直上の車体Bの4箇所に加速度センサを設置して、4つの加速度センサで4輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下加速度αzfl,αzfr,αzrl,αzrrを検知してもよい。しかしながら、3つの加速度センサ10,11,12で検知した加速度α1,α2,α3を処理して、バウンス加速度、ピッチ加速度およびロール加速度φを求めれば、4輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下加速度αzfl,αzfr,αzrl,αzrrを求め得るので加速度センサの設置数が1つ少なくて済むのでサスペンション装置Sdが安価となる。
【0031】
なお、車両Vが振動情報推定装置1とは別に、車体Bの上下方向の加速度を検知する加速度センサを備えている場合、CAN(Controller Area Network)バスや車両Vに搭載されているオン・ボード・ダイアグノーシス(OBD)を通じて、車両Vから前輪Wfl,Wfrおよび後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下方向加速αzfl,αzfr,αzrl,αzrrを得てもよい。
【0032】
つづいて、補正部4は、ロール加速度φと車両Vの速度vとに基づいて補正値を求める補正値演算部4aと、後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下加速度αzrl,αzrrと補正値演算部4aが求めた補正値に基づいて補正後の上下加速度αzrla,αzrraを求める加減算器4bとを備えている。なお、車両Vの速度vについては、一般的に車両Vにて検知する情報であるので、CANバス或いはOBDを通じて車両Vから入手してもよいが、
図2に示したように、車両Vの速度vを検知する速度センサ7を設けて速度vを入手してもよい。
【0033】
具体的には、補正部4の各部の処理は演算処理装置13によって実行される。演算処理装置13は、車両Vの速度vを検知する速度センサ7と、ロール加速度検知部2で検知したロール加速度φと、速度センサ7が検知した速度vとを処理して、後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下加速度を補正する。このように、演算処理装置13は、前記処理を実行することで後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下加速度を補正する補正部4を実現する。
【0034】
補正部4は、車両Vが走行中に、後輪Wrl,Wrrが車両Vの進行方向の前輪Wfl,Wfrが通過した路面と同一路面を通過すると仮定して、前輪Wfl,Wfrが同一路面を通過した際に取得されたロール加速度φに基づいて、同一路面を後輪Wrl,Wrrが通過する際に検知される上下加速度αzrl,αzrrを補正する。つまり、補正部4は、後輪Wrl,Wrrが前輪Wfl,Wfrと同じ路面を通過する際に生じるだろう車体Bのロール加速度φの影響を、後輪Wrl,Wrrの上下加速度αzrl,αzrrから取り除く処理を行う。
【0035】
車両Vが走行中、前輪Wfl,Wfrがある地点の路面に到達し、これを通過した後、車両Vが直進すると、その前輪Wfl,Wfrの車両Vの前後方向に沿う同一線上であって当該前輪Wfl,Wfrの後方に設けられた後輪Wrl,Wrrは、何秒後かに前輪Wfl,Wfrが通過した路面と同一の路面を通過することになる。車両Vの速度vが一定である場合、車両Vの前輪Wfl,Wfrと後輪Wrl,Wrrとの距離であるホイールベースの値Lhは既知であるので、前輪Wfl,Wfrがある路面を通過してから後輪Wfl,Wfrが同一の路面に到達するまでの遅延時間tは、Lh/vを演算すれば求め得る。前輪Wfl,Wfrがある路面を通過した後に、車両Vの速度vが変化した場合、速度vを監視して、前輪Wfl,Wfrが当該路面の通過後の速度vの積分値がホイールベースの値Lhに等しくなった時点が、後輪Wrl,Wrrが同一の路面に到達するときである。前記のごとく仮定することで、後輪Wrl,Wrrが同一路面に到達する時点から何秒前に前輪Wfl,Wfrが同一路面を通過したかが分かる。そして、後輪Wrl,Wrrが前輪Wfl,Wfrと同一の路面を通過したときの車体Bのロール加速度φは、前輪Wfl,Wfrが同一の路面を通過する際のロール加速度と同様であると予想されることから、前輪Wfl,Wfrが同一路面を通過した際のロール加速度φを後輪Wrl,Wrrが同一路面を通過した際のロール加速度φと推定することができる。
【0036】
以上より、補正値演算部4aは、車両Vの速度vとホイールベースの値Lhとから前輪Wfl,Wfrがある路面を通過した時点から後輪Wrl,Wrrがこれと同一の路面を通過すると考えられる時点までの遅延時間tを求める。前述した通り、後輪Wrl,Wrrが前輪Wfl,Wfrが通過した路面と同一の路面を通過すると考えられる時点において、当該遅延時間tだけ前の時点に得られたロール加速度φは、後輪Wrl,Wrrが同一路面を通過する際のロール加速度であると看做せる。したがって、補正値演算部4aは、時間tだけ前の時点に得られたロール加速度φを用いて上下加速度αzrl,αzrrに含まれるロールによる加速度成分を補正値αφとして求める。具体的には、演算処理装置13は、補正値αφ=φ×(Lt/2)を演算して前記加速度成分を求めて補正値演算部4aを実現する。さらに、加減算器4bは、左後輪Wrlの直上の車体Bの上下加速度αzrlに補正値αφを加算して、左後輪Wrlの直上の車体Bの上下加速度αzrlに含まれているロールによる加速度成分を取り除くとともに、右後輪Wrrの直上の車体Bの上下加速度αzrrに時間tだけ前の時点に得られた補正値αφを減算して、右後輪Wrrの直上の車体Bの上下加速度αzrrに含まれているロールによる加速度成分を取り除く。加減算器4bにおける処理についても演算処理装置13が前述の演算処理を実行することによって実現される。補正部4は、このように演算処理装置13が前述の演算処理を行うことで実現されており、補正後の上下加速度αzrla,αzrraをオブザーバ5に入力する。ただし、αzrla=αzrl+αφ、αzrra=αzrr-αφである。
【0037】
具体的には、演算処理装置13は、前述の時間tを車両Vの速度vとホイールベースの値Lhとから求め、補正後の上下加速度αzrla,αzrraを求める時点から時間t前に得られたロール加速度φの値をメモリ13bから読み込んで、上下加速度αzrl,αzrrを補正する。このように、補正部4は、補正後の上下加速度αzrla,αzrraを求める際に、時間t前に得られたロール加速度φの値を必要とするので、演算処理装置13は、ロール加速度φをメモリ13bに記憶させる際にロール加速度φが検知された時刻を関連付けてもよい。なお、補正後の上下加速度αzrla,αzrraを求める時点から時間tを遡った時刻丁度に得られたロール加速度φがない場合、当該時刻に一番近い時刻に得られたロール加速度φの値を用いるか、或いは、当該時刻の前後に得られたロール加速度φの平均値を用いて補正後の上下加速度αzrla,αzrraを求めてもよい。
【0038】
前述した通り、本実施の形態の振動情報推定装置1では、速度vおよびホイールベースLhの値から遅延時間tを求めて、補正部4の処理を行う時刻よりも遅延時間tだけ遡った時刻に得られたロール加速度φを利用し、補正値αφを求めている。つまり、この上下加速度αzrl,αzrrからオブザーバ5を用いてストローク変位を推定する場合、前述の遅延時間tだけ前に検知されたロール加速度φが影響するために、補正部4では遅延時間tだけ前に検知されたロール加速度φを用いて補正値αφを求めている。ところで、上下加速度αzrl,αzrrとロール加速度φとは、前述した通り、同じ時刻に得られた加速度α1,α2,α3を処理して得られる。上下加速度αzrl,αzrrと同時に得られたロール加速度φにそのままLt/2を乗じて補正値αφを求めると、ロール加速度φの位相が遅れているので正確にストローク変位を推定できない。よって、上下加速度αzrl,αzrrと同時に得られたロール加速度φを用いる場合には、車両Vの速度vに応じて当該ロール加速度φをフィルタ処理して位相をストローク変位の推定に適切となるように調整してやればよい。よって、補正部4では遅延時間tだけ前に検知されたロール加速度φを用いて補正値αφを求める以外にも、上下加速度αzrl,αzrrと同時に得られたロール加速度φをその位相を速度vに応じて調節する処理を行ったうえで利用して補正値αφを求めてもよい。制御安定性の観点から、ロール加速度φのフィルタ処理では、位相遅れ補償と位相進み補償のいずれか適切な一方を行えばよい。
【0039】
このようにして、演算処理装置13は、車両Vの速度vと車両Vのホイールベースの値Lhとに基づいて、後輪Wrl,Wrrの上下加速度αzrl,αzrrからロール加速度φの影響を取り除く処理を行って補正後の上下加速度αzrla,αzrraを求める補正部4として機能する。
【0040】
オブザーバ5は、推定対象である車体Bに対する後輪Wrl,Wrrの上下方向の運動のみに限定した特性を表す1輪モデル5aと、1輪モデル5aに入力する緩衝器Dの減衰係数を決定する減衰係数マップ5bと、オブザーバゲイン設定部5cと、微分器5dとを備えており、演算処理装置13がオブザーバ5の各部の処理を行うことで実現されている。
【0041】
1輪モデル5aは、
図6に示したように、ばね上部材Uと、ばね下部材Wと、ばね上部材Uとばね下部材Wとの間に介装される緩衝器Dおよび懸架ばねSと、ばね下部材Wと路面Rとの間のタイヤTiとを備えたモデルとなっている。1輪モデル5aには、補正後の上下加速度αzrla(αzrra)とオブザーバゲイン設定部5cが出力するオブザーバゲインGとが入力され、1輪モデル5aは、ストローク変位を推定して出力する。
【0042】
ばね上部材Uの質量をMu、ばね下部材Wの質量をMw、懸架ばねSのばね定数をKs、タイヤTiのばね定数をKt、ばね上部材Uの変位をXu、ばね下部材Wの変位Xw、路面Rの変位をXrとすると、ばね上部材Uの運動方程式は以下の式(1)で示され、ばね下部材Wの運動方程式は以下の式(2)で示される。なお、式(1)、(2)中で、Cd(i)は、緩衝器Dの減衰係数を示しているが、(i)は減衰力調整部Fへ与える電流iによって減衰係数が変化することを示している。
【0043】
【0044】
【数2】
1輪モデル5aで推定する状態量をxとし、観測量をy1とし、オブザーバ5で推定する出力をyとし、補正後の上下加速度αzrla(αzrra)を既知の入力uとするとき、1輪モデル5aの状態方程式と観測方程式は、以下の式(3)および式(4)で示される。なお、式(3)および式(4)におけるA、B、C、Dは係数行列であり、Gは前述のオブザーバゲインである。
【0045】
【0046】
【数4】
今回、オブザーバ5における1輪モデル5aで推定する変数ベクトルxを4つの状態量とし、制御対象の出力にあたるy1とオブザーバ5の出力にあたるyを後輪Wrl(Wrr)の直上の車体Bの上下加速度とすると、変数ベクトルxは、以下の式(5)で示せる。なお、式(5)中の変数ベクトルxにおいて、Xw-Xrはばね下部材Wと路面Rとの間の変位を、Xu-Xwはばね上部材Uとばね下部材Wとの間の変位であるストローク変位を、Xuの微分値はばね上部材Uの上下方向の速度を、Xwの微分値はばね下部材Wの上下方向の速度をそれぞれ示している。また、オブザーバ5における1輪モデル5aでは、出力をばね上部材Uの上下加速度としており、1輪モデル5aの出力は以下の式(6)で演算できる。ばね上部材Uは、後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bであり、ばね下部材Wは、後輪Wrl,Wrrである。よって、ばね上部材Uとばね下部材Wとの間の変位は、車体Bと後輪Wrl(Wrr)との上下方向のストローク変位に他ならない。また、1輪モデル5aが出力する上下加速度は、後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下加速度を推定した値となる。
【0047】
【0048】
【数6】
よって、演算処理装置13は、前述の式(4)を演算することで所望するストローク変位の他にも、ばね下部材Wと路面Rとの間の変位、ばね上部材Uの上下方向の速度、ばね下部材Wの上下方向の速度といった状態量の他、式(5)を演算することでばね上部材Uの上下加速度を求める。このように演算処理装置13が演算処理を行うことで、オブザーバ5における1輪モデル5aが実現され、ストローク変位、ばね下部材Wと路面Rとの間の変位、ばね上部材Uの上下方向の速度、ばね下部材Wの上下方向の速度といった状態量の他、後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下加速度が推定される。
【0049】
減衰係数マップ5bは、緩衝器Dのストローク速度と、減衰力調整部Fに供給される電流iと減衰係数Cd(i)との関係を示すマップを保有している。なお、減衰係数マップ5bの前段に微分器5dが設けられており、微分器5dによって1輪モデル5aで推定されたストローク変位を微分して得たストローク速度が減衰係数マップ5bに入力される。また、減衰力調整部Fに供給される電流iについては、制御装置Cが駆動回路14へ与える指令が指示する電流の値を用いており、指令が指示する電流の値が電流iとして減衰係数マップ5bに入力される。具体的には、演算処理装置13は、1輪モデル5aで推定されたストローク変位を微分してストローク速度を求め、ストローク速度と電流iとをパラメータとしてマップ演算を行って、減衰係数Cd(i)を求めることで減衰係数マップ5bおよび微分器5dとを実現している。
【0050】
オブザーバゲイン設定部5cは、1輪モデル5aで推定した後輪Wrl(Wrr)の直上の車体Bの上下加速度と補正後の上下加速度αzrla(αzrra)との偏差を求める加算器5c1と、加算器5c1で求めた偏差と、減衰係数マップ5bが出力する減衰異数Cd(i)との入力により、オブザーバゲインGを求めて1輪モデル5aに入力するゲイン演算部5c2とを備えている。
【0051】
ゲイン演算部5c2は、加算器5c1が求めた偏差が0に収束するようにオブザーバゲインGを求める。本実施の形態の振動情報推定装置1では、ゲイン演算部5c2は、減衰係数マップ5bの出力値である減衰係数Cd(i)が取り得る最小値と最大値と、共分散行列Q、RからオブザーバゲインGを求める。加算器5c1およびゲイン演算部5c2の処理は、演算処理装置13の演算処理によって実現される。
【0052】
オブザーバ5の処理は、左後輪Wrlの補正後の上下加速度αzrlaと、右後輪Wrrの補正後の上下加速度αzrraとの入力に対してそれぞれ実行されて、演算処理装置13は、車体Bと左後輪Wrlとの間のストローク変位と、車体Bの右後輪Wrrとの間のストローク変位とを、所定の演算周期でそれぞれ求める。
【0053】
こうして求められた車体Bと左後輪Wrlとの間のストローク変位と、車体Bの右後輪Wrrとの間のストローク変位は、後輪Wrl,Wrrの上下加速度αzrl、αzrrとともに制御装置Cにおける目標減衰力演算部20に入力される。
【0054】
また、本実施の形態では、制御装置Cは、車両Vにおける車体Bと前輪Wfl,Wfrとの間にそれぞれ介装された緩衝器Dの減衰力を制御するために、前輪Wfl,Wfrの直上の車体Bの上下加速度αzfl、αzfrを検知する上下加速度検知部31と、車体Bと前輪Wfl,Wfrとの間のストローク変位を推定するストローク変位推定装置30を備える。前述した通り、制御装置Cは、ストローク変位推定装置30を備える他、振動情報推定装置1で推定した後輪Wrl,Wrrのストローク変位およびストローク変位推定装置30が推定した前輪Wfl,Wfrのストローク変位を利用して目標減衰力Ffl,Ffr,Frl,Frrを求める目標減衰力演算部20と目標減衰力Ffl,Ffr,Frl,Frrから4輪各輪Wfl,Wfr,Wrl、Wrrの各ダンパDの減衰力調整部Fへ供給すべき目標電流Ifl,Ifr,Irl,Irrを求める指令電流決定部21とを備えている。
【0055】
ここで、車体Bと車両Vの進行方向の前輪Wfl,Wfrとの間のストローク変位を推定する際には、ロール加速度による加速度成分を除去しなくとも推定するストローク変位の位相が遅れない。よって、車体Bと車両Vの進行方向の前側に配置されている前輪Wfl,Wfrとの間のストローク変位を推定する処理では、振動情報推定装置1の構成から補正部4の処理が不要となる。前輪側のストローク変位推定装置30は、図示はしないが、振動情報推定装置1の構成からロール加速度検知部2および補正部4を省略した構成となっており、検知する上下加速度を補正せずにオブザーバ5に入力してストローク変位を推定する。
【0056】
よって、ストローク変位推定装置30では、オブザーバ5における1輪モデル5aに、前輪Wfl,Wfrの直上の車体Bの上下加速度αzfl,αzfrを補正せずに入力して車体Bと前輪Wfl,Wfrとの間のストローク変位を推定する。なお、前輪Wfl,Wfrの直上の車体Bの上下加速度αzfl,αzfrについては、演算処理装置13が前述のように求めたバウンス加速度、ピッチ加速度およびロール加速度φと、前輪Wfl,Wfrのドレッドの値Ltfおよびホイールベースの値Lhとを用いて求めればよく、この演算処理装置13の処理によって上下加速度検知部31が実現される。
【0057】
このようにしてストローク変位推定装置30で推定した車体Bと前輪Wfl,Wfrとの間のストローク変位と前輪Wfl,Wfrの直上の車体Bの上下加速度αzfl,αzfrとは、ともに制御装置Cの目標減衰力演算部20に入力される。また、目標減衰力演算部20には、振動情報推定装置1が推定した後輪Wrl,Wrrにおけるストローク変位および後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下加速度αzrl,αzrrが入力される。
【0058】
目標減衰力演算部20は、カルノップ則に基づくスカイフック制御によって車体Bの振動を抑制するために、前後左右の4輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの緩衝器Dの目標減衰力Ffl,Ffr,Frl,Frrを求める。具体的には、目標減衰力演算部20は、4輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrにおけるストローク変位を微分してストローク速度Szfl,Szfr,Szrl,Szrrを得るとともに、各上下加速度αzfl,αzfr,αzrl,αzrrを積分して得た上下速度Vzfl、Vzfr,Vzrl,Vzrrにそれぞれスカイフック減衰係数Csを乗じて必要減衰力Ffl*,Ffr*,Frl*,Frr*を求める。
【0059】
緩衝器Dは、伸長作動時に伸長を助長する方向の力を発揮できず、収縮作動時に収縮を助長する方向の力を発揮できない。そのため、目標減衰力演算部20で求めた必要減衰力Ffl*,Ffr*,Frl*,Frr*の方向が、緩衝器Dが力を発揮できない方向である場合、カルノップ則にしたがって緩衝器Dの減衰力を最小にして車体Bを緩衝器Dが発揮する減衰力で加振しないようにする必要がある。たとえば、前輪Wflの緩衝器Dについての必要減衰力Ffl*の方向が、緩衝器Dが力を発揮できない方向であるか否かは、前輪Wflにおけるストローク速度Szflと対応する上下速度Vzflとの積の値の符号により判定できる。車体Bが上方へ移動する速度の方向を正とし、緩衝器Dの伸長時のストローク速度を正とすると、車体Bの速度も緩衝器Dのストローク速度も正の値である場合、緩衝器Dは車体Bの上昇を抑制する減衰力を発揮できる状況である。車体Bの速度も緩衝器Dのストローク速度も負の値である場合、緩衝器Dは車体Bの下降を抑制する減衰力を発揮できる状況である。車体Bの速度と緩衝器Dのストローク速度との値の符号が異なっている場合には、緩衝器Dが発揮する減衰力で車体Bの上昇或いは下降を助長する状況となる。よって、車体Bの速度と緩衝器Dのストローク速度との積の値が正である場合には、前輪Wflの緩衝器Dの減衰力の発生方向が必要減衰力Ffl*の方向に一致することが分かる。残りの3輪Wfr,Wrl,Wrrについても、同様の判定を行って、緩衝器Dが必要減衰力Ffr*,Frl*,Frr*の方向と一致する方向の減衰力を発生可能か判定できる。
【0060】
目標減衰力演算部20は、4輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの各輪の緩衝器Dについて必要減衰力Ffl*,Ffr*,Frl*,Frr*の方向と一致する方向の減衰力を発生可能と判定する場合、必要減衰力Ffl*,Ffr*,Frl*,Frr*をそれぞれ目標減衰力Ffl,Ffr,Frl,Frrとする。
【0061】
他方、目標減衰力演算部20は、4輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの各輪の緩衝器Dについて必要減衰力Ffl*,Ffr*,Frl*,Frr*の方向と一致する方向の減衰力を発生できないと判定する場合、目標減衰力Ffl,Ffr,Frl,Frrを緩衝器Dが発生可能な最小値に設定する。
【0062】
目標減衰力演算部20は、このように車体Bの振動を抑制することを目的としたスカイフック制御による目標減衰力を求めているが、当該スカイフック制御に加えて、或いは、これに代えて、車輪Wfl、Wfr,Wrl、Wrrの振動を抑制するため制御則や車体Bの姿勢を安定させるための制御則に基づいて最終的な目標減衰力を求めてもよい。
【0063】
目標減衰力演算部20が求めた目標減衰力Ffl,Ffr,Frl,Frrは、指令電流決定部21に入力される。指令電流決定部21は、4輪の各輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの各緩衝器Dが目標減衰力Ffl,Ffr,Frl,Frr通りに減衰力を発揮するために減衰力調整部Fへ供給すべき目標電流Ifl,Ifr,Irl,Irrを求める。指令電流決定部21は、たとえば、目標減衰力をパラメータとして目標電流を求めるためのマップ或いは関数を保有しており、マップ或いは関数を用いて目標減衰力Ffl,Ffr,Frl,Frrから目標電流Ifl,Ifr,Irl,Irrを求める。なお、緩衝器Dのストローク速度によって減衰力調整部Fを通過する流量が変化して、電流に対して緩衝器Dが発生する減衰力が変化する場合、指令電流決定部21は、ストローク速度と目標減衰力をパラメータとして電流を求めるためのマップ或いは関数を用いて目標電流Ifl,Ifr,Irl,Irrを求めてもよい。この制御装置Cの各部の処理は、具体的には演算処理装置13が実行するので、制御装置Cは演算処理装置13の処理によって実現される。
【0064】
このように制御装置Cは、車両Vにおける4輪Wfl,Wfr,Wrl、Wrrの直上の車体Bの上下加速度αzfl,αzfr,αzrl,αzrrとストローク変位の入力を受けて目標電流Ifl,Ifr,Irl,Irrを求めて、電流を指示する指令を各駆動回路14へ出力する。なお、電流を指示する指令は、オブザーバ5における減衰係数マップ5bにも入力されて減衰係数マップ5bにおける減衰係数を求める演算に使用される。そして、駆動回路14は、指令が指示する電流値の電流を減衰力調整部Fに供給する。よって、緩衝器Dと、振動情報推定装置1および制御装置Cを備えたサスペンション装置Sdは、順次検知される上下加速度αzfl,αzfr,αzrl,αzrrを処理して緩衝器Dが発生する減衰力を制御して車体Bの振動を抑制して車両Vにおける乗心地を向上できる。
【0065】
以上、サスペンション装置Sdにおける振動情報推定装置1、制御装置Cおよび緩衝器Dの各部の構成を説明したが、以下に、振動情報推定装置1を実現するための演算処理装置13における処理を
図7に示したフローチャートを用いて説明する。
【0066】
演算処理装置13は、所定の演算周期で、以下のステップF1からステップF7までの処理を繰り返し実行する。まず、演算処理装置13は、加速度センサ10,11,12が検知した各加速度α1,α2,α3から後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下加速度αzrl,αzrrおよびロール加速度φを求める(ステップF1)。つづいて、演算処理装置13は、車両Vの速度v、ロール加速度φ、ホールベースLhおよびトレッドLtの値に基づいて補正値αφを求める(ステップF2)。
【0067】
つづいて、演算処理装置13は、上下加速度αzrl,αzrrに対して前述したように補正値αφを加減算して補正後の上下加速度αzrla,αzrraを求める(ステップF3)。そして、演算処理装置13は、補正後の上下加速度αzrla,αzrraと、前回の演算周期で求めた上下加速度の推定値との偏差を求める(ステップF4)。
【0068】
さらに、演算処理装置13は、制御装置Cとしての処理を行って求めた緩衝器Dの減衰力調整部Fへ与える電流iを指示する指令と、前回の演算周期で求めたストローク変位を微分して得たストローク速度とをパラメータとしてマップ演算を行って減衰係数Cd(i)を求める(ステップF5)。
【0069】
そして、演算処理装置13は、ステップF4で求めた偏差とステップF5で求めた減衰係数Cd(i)とからオブザーバゲインGを求め(ステップF6)、オブザーバ5のオブザーバゲインGを設定し、補正後の上下加速度αzrla,αzrraを用いてオブザーバ5としての処理に必要な演算を実行してストローク変位を算出する(ステップF7)。
【0070】
演算処理装置13は、所定の演算周期で、ステップF1からステップF7までの処理を繰り返し実行して、上下加速度αzrl,αzrrおよびロール加速度φからストローク変位を求める。このように、演算処理装置13がステップF1からステップF7までの処理を行うことで振動情報推定装置1の各部が実現される。
【0071】
以上、本実施の形態の振動情報推定装置1は、前後左右に車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrを有する車両Vにおける車体Bのロール方向の加速度であるロール加速度φを検知するロール加速度検知部2と、車両Vの進行方向の後輪Wrl,Wrrの直上の車体Bの上下方向の加速度である上下加速度αzrl,αzrrを検知する上下加速度検知部3と、ロール加速度φに基づいて上下加速度αzrl,αzrrを補正する補正部4と、補正部4で補正した上下加速度αzrla,αzrraを入力として、1輪モデル5aの状態方程式に基づいて車両Vの車体Bと後輪Wrl,Wrrとの上下方向の相対的なストローク変位(振動情報)を推定するオブザーバ5とを備えて構成されている。
【0072】
このように構成された振動情報推定装置1によれば、ロール加速度φに基づいて上下加速度αzrl,αzrrを補正する補正部4を備えているので、上下加速度αzrl,αzrrからオブザーバ5によるストローク変位の推定に邪魔となるロールによる加速度成分を取り除くことができる。よって、振動情報推定装置1によれば、上下加速度αzrl,αzrrからロールによる加速度成分を排除できるので、オブザーバ5が推定するストローク変位(振動情報)の位相が実際のストローク変位に対して遅れることがなくなるので、精度よくストローク変位(振動情報)を推定できる。
【0073】
また、本実施の形態の振動情報推定装置1では、補正部4は、後輪Wrl,Wrrが車両Vにおける進行方向の前輪Wfl,Wfrが通過した路面と同一路面を通過すると仮定して、前輪Wfl,Wfrが同一路面を通過した際に取得されたロール加速度φに基づいて、同一路面を後輪Wrl,Wrrが通過する際に検知される上下加速度αzrl,αzrrを補正する。このように構成された振動情報推定装置1によれば、前輪Wfr,Wfrと後輪Wrl,Wrrとが同一路面を通過する場合、前輪Wfr,Wfrが同一路面を走行した際に得られるロール角速度φを用いて上下加速度αzrl,αzrrを補正できるので、より正確にストローク変位(振動情報)を推定できる。
【0074】
さらに、本実施の形態のサスペンション装置Sdは、車体Bと後輪Wrl,Wrrとの間に介装される減衰力調整可能な緩衝器Dと、緩衝器Dを制御する制御装置Cと、振動情報推定装置1とを備え、制御装置Cは、振動情報推定装置1が推定したストローク変位(振動情報)に基づいて緩衝器Dを制御する。このように構成されたサスペンション装置Sdによれば、精度よく推定されたストローク変位(振動情報)に基づいて緩衝器Dが制御されるので、車体Bの振動を効果的に抑制でき、車両における乗心地を向上できる。なお、本実施の形態のサスペンション装置Sdでは、緩衝器Dを備えて制御装置Cが緩衝器Dを制御しているが、緩衝器Dに代えて発生する推力の調整を可能とするアクチュエータを備えて制御装置Cがアクチュエータを制御してもよい。このようにしても、サスペンション装置Sdは、精度よく推定されたストローク変位(振動情報)に基づいてアクチュエータを制御できるので、車体Bの振動を効果的に抑制でき、車両における乗心地を向上できる。なお、アクチュエータを制御する場合、振動情報推定装置1における減衰係数マップ5bに代えてアクチュエータが発生する推力を求めるマップや関数を設ければよい。
【0075】
また、前述したところでは、振動情報をストローク変位としているが、オブザーバ5で推定する振動情報は、ストローク速度或いはストローク加速度であってもよい。また、オブザーバ5では、ストローク変位やストローク速度の他にも、車体Bの上下方向の速度や変位、車輪Wfr,Wfr,Wrl,Wrrの加速度、速度や変位を推定してもよい。なお、振動情報に何を選ぶかは、サスペンション装置Sdの制御で使用する状態量に応じて決定すればよい。
【0076】
なお、本実施の形態のサスペンション装置Sdでは、前輪Wfl,Wfrのストローク変位については補正部4の処理を行わないストローク変位推定部30で推定しているが、車両Vの前輪Wfl,Wfrおよび後輪Wrl,Wrrのいずれのストローク変位(振動情報)についても振動情報推定装置1としての処理を行えるようにしておき、車両Vの進行方向に応じて、進行方向の前側の車輪については補正部4の処理を行わずにストローク変位(振動情報)を推定し、進行方向の後側の車輪については補正部4の処理を行ってストローク変位(振動情報)の推定を行うようにしてもよい。
【0077】
さらに、本実施の形態のサスペンション装置Sdにあっては、振動情報推定装置1と制御装置Cとの各部が演算処理装置13の処理によって実現されているが、振動情報推定装置1と制御装置Cとはハードウェアとして互いに別個独立していてもよいし、振動情報推定装置1と制御装置Cとの各部が異なるハードウェアによって構成されていてもよい。
【0078】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1・・・振動情報推定装置、2・・・ロール加速度検知部、3・・・上下加速度検知部、4・・・補正部、5・・・オブザーバ、5a・・・1輪モデル、
B・・・車体、C・・・制御装置、D・・・緩衝器、Sd・・・サスペンション装置、V・・・車両、Wfl,Wfr・・・前輪、Wrl,Wrr・・・後輪、