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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079389
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/233 20060101AFI20230601BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20230601BHJP
   B60R 21/203 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
B60R21/233
B60R21/207
B60R21/203
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192845
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229955
【氏名又は名称】日本プラスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智貴
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA02
3D054AA03
3D054AA07
3D054AA13
3D054AA21
3D054BB01
3D054CC04
3D054CC06
3D054CC16
3D054CC47
3D054EE19
3D054EE20
3D054EE26
(57)【要約】
【課題】エアバッグ本体部内の複数のチャンバーの内圧を適切に維持することができるエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】エアバッグ装置1は、内部を第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とに分割する隔壁部13を含み、折り畳まれた状態からガスの流入により膨張するエアバッグ本体部10と、エアバッグ本体部10が膨張したときにエアバッグ本体部10に向けて進入してくる進入対象との接触範囲10aに設けられ、エアバッグ本体部10の外側を通じて第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とを連通させる連通部14と、第1チャンバーC1又は第2チャンバーC2にガスを導入するインフレータ17とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を第1チャンバーと第2チャンバーとに分割する隔壁部を含み、折り畳まれた状態からガスの流入により膨張するエアバッグ本体部と、
前記エアバッグ本体部が膨張したときに前記エアバッグ本体部に向けて進入してくる進入対象との接触範囲に設けられ、前記エアバッグ本体部の外側を通じて前記第1チャンバーと前記第2チャンバーとを連通させる連通部と、
前記第1チャンバー又は前記第2チャンバーに前記ガスを導入するインフレータと、を備えるエアバッグ装置。
【請求項2】
前記連通部は、一方の端部が前記第1チャンバーと連通し、他方の端部が前記第2チャンバーと連通するダクト形状を有し、折り畳まれた状態から前記ガスの流入により膨張する、請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグ本体部は、車両の座席に設置され、前記車両の側面衝突時に前記座席に着座している乗員の側部を保護する展開形状を有し、
前記進入対象は、前記車両のドアトリム、又は、前記乗員である、請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に設けられ、車両が衝突した際の衝撃から乗員を保護するエアバッグ装置がある。特許文献1は、エアバッグ本体部の内部が仕切り布によって上方チャンバーと下方チャンバーとに分割されているエアバッグ装置に関する技術を開示している。インフレータから下方チャンバーに流入されたガスは、仕切り布に設けられた逆止弁を通じて上方チャンバーに流入するため、上方チャンバーは、下方チャンバーに遅れて膨張する。このエアバッグ装置では、乗員を拘束するときにエアバッグ本体部が受ける圧迫により逆止弁を機能させることで、各チャンバーの内圧が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-51744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のエアバッグ装置では、逆止弁は、エアバッグ本体部が圧迫されたときの上方チャンバーの内圧によって一部が潰されることで閉塞する構成となっているが、エアバッグ本体部が複数のチャンバーを有するようなエアバッグ装置では、より安定して各チャンバーの内圧を維持することができる技術が求められている。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、エアバッグ本体部内の複数のチャンバーの内圧を適切に維持することができるエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエアバッグ装置は、内部を第1チャンバーと第2チャンバーとに分割する隔壁部を含み、折り畳まれた状態からガスの流入により膨張するエアバッグ本体部と、エアバッグ本体部が膨張したときにエアバッグ本体部に向けて進入してくる進入対象との接触範囲に設けられ、エアバッグ本体部の外側を通じて第1チャンバーと第2チャンバーとを連通させる連通部と、第1チャンバー又は第2チャンバーにガスを導入するインフレータと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エアバッグ本体部内の複数のチャンバーの内圧を適切に維持することができるエアバッグ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るエアバッグ装置を示す概略図である。
図2】第1実施形態におけるエアバッグ本体部の膨張開始時の断面図である。
図3図1のIII-III断面に対応したエアバッグ本体部の展開時の断面図である。
図4】展開形状となった直後のエアバッグ本体部の状態を示す図である。
図5】ドアトリムが進入してきたときのエアバッグ本体部の状態を示す図である。
図6】ドアトリムが連通部を圧し潰したときの状態を示す図である。
図7】第1実施形態におけるチャンバーごとの内圧の変化を示すグラフである。
図8】第2実施形態に係るエアバッグ装置を示す概略図である。
図9図8のX-X断面に対応したエアバッグ本体部の膨張時の断面図である。
図10】展開形状となった直後のエアバッグ本体部の状態を示す図である。
図11】乗員胸部が進入してきたときのエアバッグ本体部の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本実施形態に係るエアバッグ装置について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0010】
また、各図面では、XYZの各方向を参照のために例示する。X方向は、エアバッグ装置が採用される自動車等の車両の車幅方向に概ね沿っている。Y方向は、XZ平面に対して垂直な方向であり、車両の直進方向に概ね沿っている。Z方向は、XY平面と平行な、乗員の座席100(図1等参照)が設置される床面に対して垂直な方向であり、車両の上下方向に概ね沿っている。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るエアバッグ装置1を示す概略図である。エアバッグ装置1は、車両の側面衝突時に、座席100に着座している乗員Hの側部を保護する、いわゆるサイドエアバッグ装置である。エアバッグ装置1は、例えば、座席100の背もたれ100aにおける、ドアトリム110(図4参照)に面する側の側部に設置される。なお、エアバッグ装置1が設置される座席は、運転席、助手席又は後部座席のいずれであってもよい。以下、エアバッグ装置1が車両の左座席に設置されている場合を例に説明する。図1では、衝突を受けたドアトリム側から見た、車両の側面衝突に伴って作動したエアバッグ装置1が描画されている。
【0012】
エアバッグ装置1は、エアバッグ本体部10と、連通部14と、インフレータ17とを備える。
【0013】
図2は、エアバッグ本体部10の膨張開始時の断面図である。図3は、図1のIII-III断面に対応し、図2に示す状態から内部へのガスの流入に伴って膨張した、エアバッグ本体部10の展開時の断面図である。図1のIII-III断面は、YZ平面と交差し、かつ、背もたれ100aの傾斜面におおよそ沿っている。エアバッグ本体部10は、単数又は複数の基布により形成される袋体であり、エアバッグ装置1が作動していない通常時には、背もたれ100aの側部に折り畳まれた状態で収納されている。エアバッグ本体部10は、車両が側方から大きな衝撃を受けた際、ガスの流入により膨張し展開する。
【0014】
エアバッグ本体部10は、例えば、第1パネル11と第2パネル12との二枚の基布が重ね合わされ、互いの外周縁が縫製、接着又は溶着などにより接合されることで、全体として袋状に形成される。本実施形態では、第1パネル11は、ドアトリム110に対向する側の基布である。第2パネル12は、乗員Hに対向する側の基布である。第1パネル11と第2パネル12とは、互いに同様の円形状又は楕円形状であり、エアバッグ本体部10の展開時に乗員Hの肩部から腰部までの範囲を拘束し得る程度の大きさを有する。
【0015】
また、エアバッグ本体部10は、内部を第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とに分割する隔壁部13を含む。隔壁部13は、全体として楕円形状の基布である。隔壁部13の外周縁のうち、おおよそ半分の部分は、第1パネル11の内面に縫製等により接合され、残りの部分は、第2パネル12の内面に縫製等により接合される。つまり、隔壁部13は、エアバッグ本体部10の内部で第1パネル11と第2パネル12とをつなぐテザーとしても機能する。
【0016】
第1チャンバーC1は、エアバッグ本体部10の内部においてZ方向の下側に位置する膨張部である。エアバッグ本体部10の展開時に第1チャンバーC1が拘束する乗員Hの身体部位としては、腰部等が想定される。一方、第2チャンバーC2は、エアバッグ本体部10の内部においてZ方向の上側に位置する膨張部である。エアバッグ本体部10の展開時に第2チャンバーC2が拘束する乗員Hの身体部位としては、肩部、胸部又は腹部等が想定される。
【0017】
ここで、第1チャンバーC1と第2チャンバーC2との内部形状は、保護対象とする身体部位に合わせて設定される。本実施形態では、チャンバーの内部形状に関する垂直方向と水平方向との寸法(以下、「V/Hサイズ」という。)と、エアバッグ本体部10の展開時のチャンバーの内圧との間には、次のような関係がある。第1チャンバーC1のV/Hサイズは、第2チャンバーC2のV/Hサイズよりも小さくなるように予め設定されてもよい。この場合、第1チャンバーC1の内圧は、第2チャンバーC2の内圧よりも高くなる。第1チャンバーC1の内圧が比較的高圧となることで、第1チャンバーC1は、乗員Hの腰部等を保護するのに好適となり得る。一方、第2チャンバーC2の内圧が比較的低圧となることで、乗員Hが受ける衝撃を第1チャンバーC1よりも和らげることができるので、乗員Hの肩部、胸部又は腹部等を保護するのに好適となり得る。
【0018】
第1パネル11は、後述する連通部14の端部と連通させる二つの連通口を有する。第1連通口11aは、第1チャンバーC1の内部空間に連通する貫通孔である。第2連通口11bは、第2チャンバーC2の内部空間に連通する貫通孔である。また、第1パネル11は、展開後のエアバッグ本体部10の内部空間から外部にガスを排出させる二つの排出口を有する。第1排出口11cは、第1チャンバーC1の内部空間が外部に開放される貫通孔である。第2排出口11dは、第2チャンバーC2の内部空間が外部に開放される貫通孔である。なお、このような排出口は、ベントホールと呼ばれることもある。
【0019】
また、第2パネル12は、後述するインフレータ17を取り付ける不図示の取付口を有する。なお、第2パネル12においてインフレータ17が取り付けられる位置については、以下、インフレータ17の説明と併せて詳説する。
【0020】
連通部14は、エアバッグ本体部10の外側を通じて、第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とを連通させる。連通部14は、内部をガスGの連通空間Sとするダクト形状を有する。連通部14の一方の端部である第1端部14aは、第1端部14aの開口が第1連通口11aと対向するように、第1パネル11の外面に縫製等により接合される。連通部14の他方の端部である第2端部14bは、第2端部14bの開口が第2連通口11bと対向するように、第1パネル11の外面に縫製等により接合される。つまり、第1端部14aは、第1チャンバーC1と連通し、第2端部14bは、第2チャンバーC2と連通する。また、連通部14は、例えば布製であり、折り畳まれた状態から連通空間SにガスGが流入することにより膨張する。
【0021】
また、連通部14は、エアバッグ本体部10が膨張したときにエアバッグ本体部10に向けて進入してくる進入対象との接触範囲10aに設けられる。ここで、エアバッグ本体部10が膨張したときとは、エアバッグ装置1が作動したとき、すなわち、エアバッグ装置1を搭載している車両が側面衝突を受けたときである。そこで、本実施形態では、進入対象として、車両の側部にあるドアトリム110を想定する。この場合、接触範囲10aは、図1において二点鎖線で示すように、側面衝突に伴ってエアバッグ本体部10に進入してくると想定されるドアトリム110の変形部位の少なくとも一部と対向する範囲に相当する。つまり、側面衝突に伴ってドアトリム110の変形部位がエアバッグ本体部10に進入してきたとき、エアバッグ本体部10では、接触範囲10aの方が、接触範囲10a以外の範囲よりも先にドアトリム110の変形部位に接触する可能性が高い。
【0022】
インフレータ17は、いわゆるシリンダ型であり、エアバッグ本体部10の内部にガス(膨張ガス)を導入する装置である。例えば、インフレータ17は、点火器やガス発生剤等を備える。インフレータ17は、車両の側面衝突などを検知又は予測したときに発せられる電気信号を受信し、受信した電気信号に基づいて点火器がガス発生剤を燃焼させることで、エアバッグ本体部10の内部に向けて急速にガスを導入させる。
【0023】
本実施形態では、インフレータ17は、背もたれ100aの側部にスタッドボルトを介して接続される。インフレータ17は、この車両側での接続位置に合わせて、エアバッグ本体部10における直進方向での後ろ側に位置するように、第2パネル12に取り付けられる。また、本実施形態では、インフレータ17は、第1チャンバーC1にのみガスを導入させる。そこで、隔壁部13の一部は、図1に示すように、インフレータ17が第1チャンバーC1内に含まれるように、インフレータ17の取り付け位置を回避しつつ接合されてもよい。
【0024】
次に、エアバッグ本体部10の展開形状について説明する。
【0025】
インフレータ17から第1チャンバーC1内にガスが導入されると、第1チャンバーC1が膨張を開始し、エアバッグ本体部10は、折り畳み状態から、図2の例示に近い形状となる。ただし、図2に示す膨張開始時のエアバッグ本体部10の形状は、図3に示す膨張後のエアバッグ本体部10の展開形状と比較するための例示であり、実際の膨張開始時では、第1チャンバーC1の方が第2チャンバーC2よりも先に膨張する。また、第1チャンバーC1の膨張が開始された直後では、連通部14内の連通空間SにはガスGが流入されていないことから、連通部14は膨張を開始していない。
【0026】
第1チャンバーC1の膨張が進むと、第1チャンバーC1内に流入したガスGは、第1連通口11aを通じて連通部14内の連通空間Sに流入し、連通部14自体が膨張するとともに、引き続き、第2連通口11bを通じて第2チャンバーC2内に流入する。このように第2チャンバーC2内にガスGが流入することで、エアバッグ本体部10は、図3に示すように、第1チャンバーC1、第2チャンバーC2及び連通部14がそれぞれ膨張したような形状に展開する。
【0027】
次に、エアバッグ装置1の作用について説明する。
【0028】
図4は、車両が側面衝突を受けて展開形状となった直後のエアバッグ本体部10の状態を示す図である。図4では、エアバッグ装置1の作動時における、車両の前側から後ろ側を直進方向に沿ってみた場合のエアバッグ本体部10の側面が示されている。また、図4では、車幅方向に沿って外方から外面部110aに衝撃力Fを受けるドアトリム110の概略断面と、エアバッグ本体部10に設定されている接触範囲10aとが示されている。
【0029】
車両が側面衝突を受けた直後では、衝撃力Fを受けたドアトリム110には、未だ大きな変形が生じていない。そのため、展開形状となった直後のエアバッグ本体部10には、進入対象としてのドアトリム110が進入していない。また、エアバッグ本体部10の接触範囲10aに設けられている連通部14は、連通空間S内にガスGを流通させた状態で膨張したままである。
【0030】
図5は、図4に対応して描画され、展開形状となった後に、衝撃力Fを受けて変形したドアトリム110が進入してきたときのエアバッグ本体部10の状態を示す図である。
【0031】
図4に示す状態から変形を開始したドアトリム110は、エアバッグ本体部10の接触範囲10aに向けて進入してくることが想定される。ここで、エアバッグ本体部10の接触範囲10aには、連通部14が設けられているので、ドアトリム110の内面部110bは、エアバッグ本体部10のうち連通部14と最初に接触し、図5に示すように、膨張していた連通部14を圧し潰す。
【0032】
図6は、図3に対応して描画され、展開形状となっているエアバッグ本体部10において、ドアトリム110の内面部110bが連通部14を圧し潰したときの状態を示す断面図である。
【0033】
ドアトリム110の内面部110bが連通部14を圧し潰すと、図6に示すように、内部の連通空間Sが閉塞状態となるため、第1チャンバーC1内のガスGは、もはや、連通空間Sを通じて第2チャンバーC2に向かうことができない。したがって、すでに膨張している第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とは、互いに独立した気室となる。その結果、第1チャンバーC1と第2チャンバーC2との各々の内圧は、予め目標とされている内圧に維持される。
【0034】
次に、エアバッグ装置1の効果について説明する。
【0035】
エアバッグ装置1は、内部を第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とに分割する隔壁部13を含み、折り畳まれた状態からガスの流入により膨張するエアバッグ本体部10を備える。エアバッグ装置1は、エアバッグ本体部10が膨張したときにエアバッグ本体部10に向けて進入してくる進入対象との接触範囲10aに設けられ、エアバッグ本体部10の外側を通じて第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とを連通させる連通部14を備える。また、エアバッグ装置1は、第1チャンバーC1にガスを導入するインフレータ17を備える。
【0036】
このエアバッグ装置1では、エアバッグ本体部10は、車両の座席100に設置され、車両の側面衝突時に座席100に着座している乗員Hの側部を保護する展開形状を有してもよい。この場合、上記の進入対象は、車両のドアトリム110であってもよい。
【0037】
エアバッグ本体部10の内部には、第1チャンバーC1と第2チャンバーC2との少なくとも二つの気室が設けられる。そして、上記例示のように、エアバッグ装置1がサイドエアバッグ装置である場合、インフレータ17から下側の第1チャンバーC1に流入されたガスは、連通部14を通じて上側の第2チャンバーC2にもガスが流入する。ここで、連通部14は、エアバッグ本体部10の接触範囲10aに設けられているので、車両の側面衝突時には、ドアトリム110は、最初に連通部14と接触し、連通部14を圧し潰す。圧し潰された連通部14の内部は、閉塞状態となるため、第1チャンバーC1内のガスGは、第2チャンバーC2に向かうことができない。したがって、このエアバッグ装置1によれば、進入対象であるドアトリム110がエアバッグ本体部10に進入してきたときに、すでに膨張している第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とを互いに独立した気室とすることができる。つまり、第1チャンバーC1と第2チャンバーC2との各々の内圧を、それぞれ、乗員Hの保護対象とする身体部位ごとに適した内圧に設定することができる。
【0038】
また、エアバッグ装置1の作動時にインフレータ17からいずれか一方のチャンバーに流入されたガスGを他方のチャンバーに流入させる連通部14は、エアバッグ本体部10の外側で、かつ、接触範囲10aに設けられている。そのため、エアバッグ本体部10の展開時には、連通部14が進入対象により圧し潰される可能性が高く、結果として、第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とが互いに独立した気室となる可能性が高い。したがって、このエアバッグ装置1によれば、エアバッグ本体部10の展開時の第1チャンバーC1と第2チャンバーC2と各々の内圧を予め目標とされている内圧に維持することに係る確実性が向上する。
【0039】
図7は、車両の側面衝突に伴ってエアバッグ装置1が作動した時間に対する第1チャンバーC1と第2チャンバーC2との内圧の変化を示すグラフである。図7において、第1チャンバーC1の内圧変化は実線で、第2チャンバーC2の内圧変化は破線で、それぞれ示されている。また、時間T1は、進入対象であるドアトリム110が連通部14を圧し潰し、第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とが互いに独立した気室となったタイミングである。時間T1以降では、第1チャンバーC1の内圧は、目標とされている高圧に維持されている。一方、第2チャンバーC2の内圧は、目標とされている低圧に維持されている。このような結果は、図7から、時間T1以降においてそれぞれ二点鎖線で囲まれた二つの部分で示されているとおり、第1チャンバーC1と第2チャンバーC2との内圧差が明確に表れている点から実証され得る。
【0040】
このように、本実施形態によれば、エアバッグ本体部10内の複数のチャンバーの内圧を適切に維持することができるエアバッグ装置1を提供することができる。
【0041】
また、エアバッグ装置1では、連通部14は、一方の端部である第1端部14aが第1チャンバーC1と連通し、他方の端部である第2端部14bが第2チャンバーC2と連通するダクト形状を有し、折り畳まれた状態からガスGの流入により膨張してもよい。
【0042】
連通部14は、このようなダクト形状を有することで、エアバッグ本体部10の展開時には進入対象に向けて突出するような形状で膨張するため、進入対象によって圧し潰されやすくなる。つまり、エアバッグ本体部10の展開時の第1チャンバーC1と第2チャンバーC2と各々の内圧を維持することに係る確実性が、より向上する。したがって、このエアバッグ装置1によれば、複数のチャンバーの内圧を、より適切に維持することができる。
【0043】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態に係るエアバッグ装置2を示す正面図である。エアバッグ装置2は、車両の正面衝突時に、運転席である座席100(図10参照)に着座している乗員Hの前部を保護する、いわゆるドライバーエアバッグ装置(DAB)である。エアバッグ装置2は、ステアリングホイール120(図10参照)の中心部に設置される。図8では、乗員H側から見た、車両の正面衝突に伴って作動したエアバッグ装置2において展開したエアバッグ本体部20の正面が描画されている。
【0044】
図9は、図8のX-X断面に対応し、内部へのガスの流入に伴って膨張した、エアバッグ本体部20の展開時の断面図である。図8のX-X断面は、YZ平面と平行で、かつ、ステアリングホイール120の中心軸を通る。
【0045】
エアバッグ装置2は、エアバッグ本体部20と、連通部24と、インフレータ27と、リテーナ28とを備える。
【0046】
エアバッグ本体部20は、単数又は複数の基布により形成される袋体であり、エアバッグ装置2が作動していない通常時には、ステアリングホイール120の中心部に折り畳まれた状態で収納されている。エアバッグ本体部20は、車両が前方から大きな衝撃を受けた際、ガスの流入により膨張し展開する。また、エアバッグ本体部20は、第1実施形態におけるエアバッグ本体部10と同様に、第1パネル21と第2パネル22との二枚の基布が重ね合わされて、互いの外周縁が接合されることで、全体として袋状に形成される。本実施形態では、第1パネル21は、乗員Hに対向する側の基布である。第2パネル22は、ステアリングホイール120に対向する側の基布である。第1パネル21と第2パネル22とは、互いに同様の円形状であり、エアバッグ本体部20の展開時に乗員Hの頭部から腹部までの前部全体の範囲を拘束し得る程度の大きさを有する。
【0047】
また、エアバッグ本体部20は、内部を第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とに分割する隔壁部23を含む。隔壁部23の形状及び機能は、第1実施形態における隔壁部13と同様である。
【0048】
第1チャンバーC1は、エアバッグ本体部20の内部においてZ方向の下側に位置する膨張部である。エアバッグ本体部20の展開時に第1チャンバーC1が拘束する乗員Hの身体部位としては、腹部又は胸部等が想定される。一方、第2チャンバーC2は、エアバッグ本体部20の内部においてZ方向の上側に位置する膨張部である。エアバッグ本体部20の展開時に第2チャンバーC2が拘束する乗員Hの身体部位としては、頭部又は胸部等が想定される。第1チャンバーC1及び第2チャンバーC2に関して、内部形状、及び予め目標とされる内圧は、第1実施形態と同様に、保護対象とする身体部位に合わせて設定されてもよい。
【0049】
第1パネル21は、後述する連通部24の端部と連通させる二つの連通口を有する。第1連通口21aは、第2チャンバーC2の内部空間に連通する貫通孔である。第2連通口21bは、第1チャンバーC1の内部空間に連通する貫通孔である。
【0050】
また、第2パネル22は、後述するインフレータ27を取り付ける取付口22aを有する。取付口22aは、第2パネル22のおおよそ中央部分で、かつ、第2チャンバーC2の内部空間と連通するように形成される。また、第2パネル22は、ベントホールとしての二つの排出口を有する。第1排出口22bは、第2チャンバーC2の内部空間が外部に開放される貫通孔である。第2排出口22cは、第1チャンバーC1の内部空間が外部に開放される貫通孔である。
【0051】
連通部24は、第1実施形態における連通部14と同様に、エアバッグ本体部20の外側を通じて第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とを連通させる。また、連通部24の形状及び材質等も、第1実施形態における連通部14と同様であり、例えば、内部をガスGの連通空間Sとするダクト形状を有し、かつ、折り畳まれた状態から連通空間SにガスGが流入することにより膨張する。
【0052】
また、連通部24の一方の端部である第1端部24aは、第1端部24aの開口が第1連通口21aと対向するように、第1パネル21の外面に縫製等により接合される。連通部24の他方の端部である第2端部24bは、第2端部24bの開口が第2連通口21bと対向するように、第1パネル21の外面に縫製等により接合される。つまり、本実施形態では、第1実施形態における連通部14とは反対に、第1端部24aは、第2チャンバーC2と連通し、第2端部24bは、第1チャンバーC1と連通する。
【0053】
更に、連通部24は、第1実施形態における連通部14と同様に、エアバッグ本体部20が膨張したときにエアバッグ本体部20に向けて進入してくる進入対象との接触範囲20aに設けられる。ただし、エアバッグ本体部20が膨張したときとは、エアバッグ装置2が作動したとき、すなわち、本実施形態では、エアバッグ装置2を搭載している車両が正面衝突を受けたときである。そこで、本実施形態では、進入対象として、運転席としての座席100に着座している乗員Hを想定する。この場合、接触範囲20aは、図8において二点鎖線で示すように、正面衝突に伴ってエアバッグ本体部20に進入してくると想定される乗員Hの胸部H1(図10参照)と対向する範囲に相当する。つまり、正面衝突に伴って乗員Hの胸部H1がエアバッグ本体部20に進入してきたとき、エアバッグ本体部20では、接触範囲20aの方が、接触範囲20a以外の範囲よりも先に乗員Hの胸部H1に接触する可能性が高い。
【0054】
インフレータ27は、第1実施形態におけるインフレータ17と同様に、エアバッグ本体部20の内部にガスを導入する装置である。インフレータ27は、ステアリングホイール120での接続位置に合わせて、第2パネル22に形成されている取付口22aに取り付けられる。取付口22aは、上記のとおり、第2チャンバーC2の内部空間と連通するように形成されているので、インフレータ27は、第2チャンバーC2にのみガスを導入させることになる。
【0055】
また、リテーナ28は、エアバッグ本体部20及びインフレータ27をステアリングホイール120に取り付けるための枠体である。
【0056】
次に、エアバッグ本体部20の展開形状について説明する。
【0057】
インフレータ27から第2チャンバーC2内にガスが導入されると、第2チャンバーC2が膨張を開始する。第2チャンバーC2の膨張が進むと、第2チャンバーC2内に流入したガスGは、第1連通口21aを通じて連通部24内の連通空間Sに流入し、連通部24自体が膨張するとともに、引き続き、第2連通口21bを通じて第1チャンバーC1内に流入する。このように第1チャンバーC1内にガスGが流入することで、エアバッグ本体部20は、図9に示すように、第1チャンバーC1、第2チャンバーC2及び連通部24がそれぞれ膨張したような形状に展開する。
【0058】
次に、エアバッグ装置2の作用について説明する。
【0059】
図10は、車両が正面衝突を受けて展開形状となった直後のエアバッグ本体部20の状態を示す図である。図10では、エアバッグ装置2の作動時における、車両の側方からみた場合のエアバッグ本体部20の側面が示されている。また、図10では、エアバッグ本体部20に設定されている接触範囲20aが示されている。
【0060】
車両が正面衝突を受けた直後では、展開形状となった直後のエアバッグ本体部20には、進入対象としての乗員Hが進入していない。また、エアバッグ本体部20の接触範囲20aに設けられている連通部24は、連通空間S内にガスGを流通させた状態で膨張したままである。
【0061】
図11は、図10に対応して描画され、展開形状となった後に、進入してきた乗員Hを拘束し始めたときのエアバッグ本体部20の状態を示す図である。
【0062】
正面衝突によって乗員Hがステアリングホイール120側に押し出されると、乗員Hの身体部位のうち、特に胸部H1が、エアバッグ本体部20の接触範囲20aに向けて進入してくることが想定される。ここで、エアバッグ本体部20の接触範囲20aには、連通部24が設けられているので、胸部H1は、エアバッグ本体部20のうち連通部24と最初に接触し、図11に示すように、膨張していた連通部24を圧し潰す。
【0063】
胸部H1が連通部24を圧し潰すと、内部の連通空間Sが閉塞状態となるため、第2チャンバーC2内のガスGは、もはや、連通空間Sを通じて第1チャンバーC1に向かうことができない。したがって、すでに膨張している第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とは、互いに独立した気室となる。その結果、第1チャンバーC1と第2チャンバーC2との各々の内圧は、予め目標とされている内圧に維持される。
【0064】
次に、エアバッグ装置2の効果について説明する。
【0065】
エアバッグ装置2は、内部を第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とに分割する隔壁部23を含み、折り畳まれた状態からガスの流入により膨張するエアバッグ本体部20を備える。エアバッグ装置2は、エアバッグ本体部20が膨張したときにエアバッグ本体部20に向けて進入してくる進入対象との接触範囲20aに設けられ、エアバッグ本体部20の外側を通じて第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とを連通させる連通部24を備える。また、エアバッグ装置2は、第2チャンバーC2にガスを導入するインフレータ27を備える。
【0066】
ここで、エアバッグ本体部20は、車両のステアリングホイール120に設置され、車両の正面衝突時に運転席に着座している乗員Hの前部を保護する展開形状を有し、進入対象は、乗員Hであってもよい。
【0067】
このようなドライバーエアバッグ装置の例としてのエアバッグ装置2も、サイドエアバッグ装置の例として説明した第1実施形態におけるエアバッグ装置1と同様に作用する。したがって、本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、エアバッグ本体部20内の複数のチャンバーの内圧を適切に維持することができるエアバッグ装置2を提供することができる。
【0068】
なお、上記説明では、第1実施形態に係るエアバッグ装置1では、連通部14がエアバッグ本体部10の第1パネル11側に設けられ、作動時にエアバッグ本体部10に進入する進入対象が車両のドアトリム110である場合を例示した。しかし、このような構成に代えて、連通部14がエアバッグ本体部10の第2パネル12側に設けられ、作動時にエアバッグ本体部10に進入する進入対象が乗員Hであってもよい。
【0069】
また、上記説明では、各実施形態に係るエアバッグ装置1等が、サイドエアバッグ装置又はドライバーエアバッグ装置である場合を例示したが、例えば、自動車のインストルメントパネルに設置される助手席用のエアバッグ装置として採用されてもよい。
【0070】
また、上記説明では、各実施形態におけるエアバッグ本体部10等が、第1チャンバーC1と第2チャンバーC2との二つのチャンバーを有する場合を例示した。しかし、エアバッグ本体部10等では、少なくとも二つのチャンバー同士で上記説明した構造及び作用の関係が成立すればよいので、エアバッグ本体部10等は、三つ以上の複数のチャンバーを有してもよい。
【0071】
更に、上記説明では、各実施形態における隔壁部13等が、第1チャンバーC1と第2チャンバーC2とをほぼ完全に隔離させる部材として例示した。しかし、例えば、第1チャンバーC1と第2チャンバーC2との間で内圧差をより適切に調整させるために、隔壁部13等には、第1チャンバーC1と第2チャンバーC2との間で貫通する、比較的小さな貫通孔が形成されていてもよい。
【0072】
また、上記開示内容に基づいて、実施形態の修正又は変形をすることが可能である。また、上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1,2 エアバッグ装置
10,20 エアバッグ本体部
10a,20a 接触範囲
13,23 隔壁部
14,24 連通部
14a,24a 第1端部
14b,24b 第2端部
17,27 インフレータ
100 座席
110 ドアトリム
120 ステアリングホイール
C1 第1チャンバー
C2 第2チャンバー
H 乗員
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11