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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079417
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】橋梁の架替え工法
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20230601BHJP
   E01D 24/00 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
E01D22/00 Z
E01D24/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192893
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩城 孝之
(72)【発明者】
【氏名】仲田 宇史
(72)【発明者】
【氏名】村上 隆弘
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059BB37
2D059CC07
2D059GG40
2D059GG41
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】既設床版橋の架替え工事を迅速に行い、既存交通への影響を最小限に抑える。
【解決手段】既設橋梁の上部工を撤去し、新設上部工に架替える橋梁の架替え工法であって、既設の前記上部工と下部工との間に、新設支承装置を設ける新設支承設置工程と、前記新設支承装置の上方に位置する既設の前記上部工を撤去する上部工撤去工程と、前記上部工の撤去跡に、新設上部工を設ける新設上部工設置工程と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設橋梁の上部工を撤去し、新設上部工に架替える橋梁の架替え工法であって、
既設の前記上部工と下部工との間に、新設支承装置を設ける新設支承設置工程と、
前記新設支承装置の上方に位置する既設の前記上部工を撤去する上部工撤去工程と、
前記上部工の撤去跡に、新設上部工を設ける新設上部工設置工程と、
を備えることを特徴とする橋梁の架替え工法。
【請求項2】
請求項1に記載の橋梁の架替え工法において、
前記上部工撤去工程で、前記上部工と併せて前記新設支持装置のソールプレートを撤去し、
前記新設上部工設置工程で、前記ソールプレートが撤去された状態の前記新設支承装置に、前記ソールプレートを装着することを特徴とする橋梁の架替え工法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の橋梁の架替え工法において、
前記上部工を橋軸直角方向に分割し、複数の断面分割体を設ける分割工程を備えるとともに、
前記新設上部工を、複数の前記断面分割体に対応する複数の新設断面分割体で構成し、
前記新設支承設置工程で、前記新設支承装置を複数の前記断面分割体各々が独立可能な位置に配置したのち、
前記断面分割体ごとに、前記上部工撤去工程と前記新設上部工設置工程を繰り返すことを特徴とする橋梁の架替え工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設橋梁の上部工を撤去し、新設上部工に架替える橋梁の架替え工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より橋梁の架替え工事において、劣化した上部工を耐久性の高い新設上部工へ架替えるための様々な工法が検討されている。例えば、特許文献1には、既設橋梁をプレキャスト横桁とプレキャスト縦桁を採用して架替える方法が開示されている。
【0003】
具体的には、架替え予定の既設橋梁に対して一般車両の通行規制を行って全面通行止めとしたのち、既設の中空床版と鋼製支承を撤去する。次に、橋台や橋脚などの下部構造物上に、橋軸直角方向からみて1点の支承装置を介して橋軸直角方向に延在するプレキャスト横桁を設ける。こののち、橋軸方向に隣り合うプレキャスト横桁間に複数のプレキャスト縦桁を並列架設し、各プレキャスト縦桁の端部とプレキャスト横桁との間に連結用コンクリートを打設する。
【0004】
連結用コンクリートが硬化したのち、並列架設した隣り合う複数のプレキャスト縦桁を一体化するようPC鋼材を緊張する。こうして新設上部工が完成したのち、プレキャスト横桁及びプレキャスト縦桁に渡って舗装を設ける。最後に、一般車両の通行規制を解除して、全面交通開放する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-256873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、橋軸直角方向からみて1点の支承装置を介して下部構造物上に設けた橋軸直角方向に延在するプレキャスト横桁に、複数のプレキャスト縦桁を並列架設する。このため、下部構造物に支承装置を介してプレキャスト縦桁を並列架設する場合と比較して、支承装置の数量を大幅に減らすことができ、工費削減を実現できる。しかし、架替えに係る工程数が多いため、作業が煩雑であるとともに工期が長期化する恐れが生じる。
【0007】
また、上記の工法を採用する場合、既設の中空床版及び鋼製支承を撤去する工程から、新設のプレキャスト横桁及びプレキャスト縦桁に舗装を設ける工程に至る全工程で、一般車両の通行止めが必要となる。このような一般車両の通行止めや通行規制など工事交通規制を伴う工事は、工期が長期化すると周辺の交通環境に多大な影響を及ぼすことから、既存交通にできる限り影響を与えないよう、工事交通規制時間の短縮化を図ることのできる橋梁の架替え工事が望まれている。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、既設橋梁の架替え作業に伴う、既存交通への影響を最小限に抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明の橋梁の架替え工法は、既設橋梁の上部工を撤去し、新設上部工に架替える橋梁の架替え工法であって、既設の前記上部工と下部工との間に、新設支承装置を設ける新設支承設置工程と、前記新設支承装置の上方に位置する既設の前記上部工を撤去する上部工撤去工程と、前記上部工の撤去跡に、新設上部工を設ける新設上部工設置工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の橋梁の架替え工法によれば、既設の前記上部工と下部工との間に、新設支承装置を設けたのち、既設の前記上部工を撤去し、その撤去跡に新設上部工を設ける。これにより、既設の上部工を撤去したのちに新設支承装置を設置する場合と比較して、一般車両の通行を規制する期間を大幅に短縮することができ、周辺の交通環境に及ぼす影響を最小限に抑えることが可能となる。
【0011】
本発明の橋梁の架替え工法は、前記上部工撤去工程で、前記上部工と併せて前記新設支持装置のソールプレートを撤去し、前記新設上部工設置工程で、前記ソールプレートが撤去された状態の前記新設支承装置に、前記ソールプレートを装着することを特徴とする。
【0012】
本発明の橋梁の架替え工法によれば、上部工の撤去作業は、新設支承装置からソールプレートを分離させて上部工を揚重すればよく、迅速に上部工を撤去することが可能となる。また、新設上部工の設置作業も、下部工にあらかじめ設置された新設支承装置の上部に設置すればよく、一般車両の通行規制が必要となる上部工撤去工程及び新設上部工設置工程の作業時間をともに短縮でき、工事交通規制時間を大幅に削減することが可能となる。
【0013】
本発明の橋梁の架替え工法は、前記上部工を橋軸直角方向に分割し、複数の断面分割体を設ける分割工程を備えるとともに、前記新設上部工を、複数の前記断面分割体に対応する複数の新設断面分割体で構成し、前記新設支承設置工程で、前記新設支承装置を複数の前記断面分割体各々が独立可能な位置に配置したのち、前記断面分割体ごとに、前記上部工撤去工程と前記新設上部工設置工程を繰り返すことを特徴とする。
【0014】
本発明の架替え工法によれば、上部工を橋軸直角方向に複数分割し、分割した断面分割体ごとに独立して成り立つ構造となるよう新設支承装置を配置し、断面分割体ごとに、上部工撤去工程と前記新設上部工設置工程を繰り返し実施する。これにより、例えば、上部工を橋軸直角方向に2分割すれば、分割した一方側で一般車両を通行させつつ、他方側で上部工撤去工程と新設上部工設置工程を実施する。こののち、一般車両の通行を他方側に切り替え、一方側で上部工撤去工程と新設上部工設置工程を実施するといった、いわゆる半断面架替え工事を実施することが可能となる。
【0015】
また、分割工程では上部工の幅員に応じて上部工の分割数を増加させることもできる。したがって、幅員の大きい大規模な橋梁であっても、既設橋梁の架替え作業を一般車両を共用しながら実施でき、周辺の交通環境に及ぼす影響を抑制しつつ、橋梁の架替え工事を実施することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、既設の上部工と下部工との間に新設支承装置を設けたのちに一般車両の通行を規制して、既設の上部工を撤去及び新設上部工を設置できることから、一般車両の通行を規制する期間を大幅にする短縮でき、既存交通への影響を最小限に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態における橋梁の架替え工法(全断面架替え)の概略を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における新設支承装置(可動ゴム支承装置)の詳細を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における橋梁の架替え工法(半断面架替え)の概略を示す図である(その1)。
図4】本発明の実施の形態における橋梁の架替え工法(半断面架替え)の概略を示す図である(その2)。
図5】本発明の実施の形態における新設断面分割体の他の事例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における新設支承設置工程の詳細を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における上部工撤去工程の詳細を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における新設上部工設置工程の詳細を示す図である(その1)。
図9】本発明の実施の形態における新設上部工設置工程の詳細を示す図である(その2)。
図10】本発明の実施の形態における新設上部工設置工程の詳細を示す図である(その3)。
図11】本発明の実施の形態における新設断面分割体の接合工程の詳細を示す図である。
図12】本発明の実施の形態における橋梁の架替え工法の他の事例(既設の支承装置が存在しない事例)を示す図である。
図13】本発明の実施の形態における新設支承装置(固定ゴム支承装置)の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、橋梁の架替え工事のなかでも、特にコンクリート橋の架替え工事に関するものであって、上部工(床版及び主桁を含む)の撤去に先立って新設支承装置を設置することで、工事に伴う交通規制期間の短縮化を図り、既存交通への影響を最小限に抑えるものである。
【0019】
以下に、橋梁の架替え工法を、中空床版橋の上部工を撤去し、版桁橋に架替える場合を事例に挙げ、図1図13を参照しつつその詳細を説明する。
【0020】
≪≪≪橋梁の架替え工法(全断面)の概略≫≫≫
既設橋梁100は、図1(a)で示すように、橋台や橋脚などの下部工10と、中空床版を含む上部工20と、下部工10と上部工20との間に設けられる支承装置30とを備える。橋梁の架替え工法では、このような構造の既設橋梁100の上部工20と支承装置30とを、図1(b)で示す手順で更新する。
【0021】
≪≪新設支承設置工程及び上部工撤去工程≫≫
まず、支承装置30を撤去し、新設上部工50に対応した位置に新設支承装置40を設置する。次に、上部工20を、新設支承装置40の一部をなすソールプレート41とともに撤去する。
【0022】
≪新設支承装置:可動ゴム支承装置≫
新設支承装置40は、いわゆる可動ゴム支承装置を採用している。その構成は、図2(a)で示す橋軸方向から見た図で示すように、下部工10にアンカーボルト461を介して固定されるベースプレート46と、既設の上部工20もしくは新設断面分割体51にアンカーボルト411を介して固定されるソールプレート41を備える。
【0023】
また、ソールプレート41の下面にスライディングプレート42が設けられ、スライディングプレート42の下面に接する弾性荷重支持体45が、ベースプレート46の上面に設けられている。さらに、図2(c)で示すように、ベースプレート46の上面には、弾性荷重支持体45を囲うように設けられたストッパー44と、ストッパー44を挟んで橋軸直角方向に対をなして配置され、スライディングプレート42の移動方向を規制するサイドブロック43が設けられている。
【0024】
上記の新設支承装置40は、ソールプレート41に固定されたスライディングプレート42が、サイドブロック43により橋軸直角方向の移動を規制されつつ、弾性荷重支持体45の上面を橋軸方向に移動可能に構成されている。つまり、上部工20から伝達される荷重を下部工10に伝達する荷重伝達機能に加え、地震時に生じる上部工20と下部工10の相対的な変位に追随する変位追随機能を有している。
【0025】
また、図2(b)で示すように、ソールプレート41に対してスライディングプレート42がボルト47を介して着脱自在に固定されている。これにより、上部工撤去工程では、新設支承装置40からソールプレート41を容易に取り外すことが可能となっている。
【0026】
≪≪新設上部工設置工程≫≫
上部工20を撤去したのち、図1(b)で示すようにまずは先行して、ソールプレート41を撤去された状態で下部工10上に残置された新設支承装置40に、新たなソールプレート41(もしくは上部工20とともに撤去したソールプレート41)を装着する。そして、新設支承装置40上に新設上部工50を設置し、新設支承装置40を介して新設上部工50の荷重を下部工10に伝達させる。最後に、新設上部工50に、舗装工60などの橋面施工を実施する。
【0027】
上記の手順によれば、上部工20を撤去する前にあらかじめ新設支承設置工程を実施することから、一般車両の通行止めは、上部工20を撤去する上部工撤去工程と、新設上部工50を設置し舗装工60を行う新設上部工設置工程を実施する期間のみに設定すればよい。このため、上部工20を撤去したのちに支承装置30を新設支承装置40に交換する場合と比較して、一般車両の通行止め期間を大幅に短縮することが可能となる。
【0028】
また、上部工20を撤去するまえに新設支承設置工程を実施すると、新設支承装置40の配置位置を、新設上部工50に対応した位置に配置するだけでなく、新設支承装置40の配置位置を適宜調整し、いわゆる半断面架替え工事を実施可能な位置に設置することもできる。
【0029】
例えば、図3(a)で示すような、走行車線と追越車線を1車線ずつ有する2車線道路において、図3(b)で示すように、上部工20を橋軸直角方向に2分割して2つの断面分割体21としても、走行車線側と追越車線側がそれぞれ独立して成り立つ位置に、新設支承装置40を配置することができる。こうすると、例えば、追越車線側の断面分割体21を利用して一般車両を共用させつつ、走行車線側で上記の上部工撤去工程と新設上部工設置工程を実施することができる。
【0030】
≪≪≪橋梁の架替え工法(断面分割)の概略≫≫≫
そこで、図3(a)で示す既設橋梁100の上部工20上に、走行車線と追越車線を備える2車線道路が設けられている場合を事例に挙げ、以下に、橋梁の架替え工法により、上部工20を半断面ずつ更新する手順の概略を、図3(b)及び図4を参照しつつ説明する。
【0031】
≪≪新設支承設置工程及び分割工程≫≫
まず、図3(b)で示すように、支承装置30を撤去し、新設支承装置40を設置する。新設支承装置40は、上述したように上部工20を2つの断面分割体21に分割した際、断面分割体21各々を支持可能な位置に設置する。こののち、上部工20に橋軸方向に延在する切断線Cを設けて橋軸直角方向に分割し、2つの断面分割体21を形成する。なお、支承装置30が2つの断面分割体21を各々支持できる位置にある場合には、新設支承設置工程に先立って分割工程を実施してもよい。
【0032】
≪≪上部工撤去工程≫≫
次に、走行車線側の断面分割体21を、新設支承装置40の一部をなすソールプレート41とともに撤去する。このとき、追越車線側の断面分割体21は、交換した新設支承装置40を介してその荷重を下部工10に伝達させた状態のままとしておく。
【0033】
≪≪新設上部工設置工程≫≫
そして、図4で示すように、まずは先行して、ソールプレート41を撤去された状態で下部工10上に残置された新設支承装置40に、新たなソールプレート41(もしくは断面分割体21とともに撤去したソールプレート41)を装着する。こののち、断面分割体21の撤去跡に新設断面分割体51を設置して、その荷重を新設支承装置40を介して下部工10に伝達させる。新設断面分割体51は、新設上部工50を、断面分割体21に対応する形状に分割して製作したものである。
【0034】
次に、新設断面分割体51に、舗装工60などの橋面施工を実施する。こうして、走行車線側の断面分割体21を新設断面分割体51に架替えたのち、同様の手順により、追越車線側の断面分割体21を新設断面分割体51に架替える。
【0035】
≪≪接合工程≫≫
最後に、一般車両を走行させたまま、橋軸直角方向に隣り合う断面分割体21を接合し、新設上部工50を構築する。このように、上部工20を半断面ずつ更新すると、工事期間中に実施する工事交通規制期間を、一般車両の通行止めではなく車線規制にとどめた状態で、工事を実施することができる。
【0036】
つまり、走行車線側の断面分割体21を新設断面分割体51に取り替える作業中は、追越車線側の断面分割体21を利用して一般車両を通行させる車線交通規制を実施する。次に、車線交通規制の切り替えを行って、走行車線側に構築した新設断面分割体51を利用して一般車両を通行させ、追越車線側の断面分割体21を新設断面分割体51に取り替える作業を行う。
【0037】
こうすると、既設橋梁100の架替え作業を、一般車両を共用しながら実施できることから、既存交通への影響を最小限に抑えることが可能となる。
【0038】
なお、図3及び図4では、上部工20に橋軸方向に延在する切断線Cを1本だけ設けて橋軸直方向に2分割し、2体の断面分割体21を設けた。しかし、分割数はこれに限定するものではなく、上部工20の幅員に応じて切断線Cを2本以上設けて橋軸直方向に複数分割し、断面分割体21を複数設けてもよい。
【0039】
また、図5(a)で示すように、断面分割体21を支持できるよう新設支承装置40の設置位置を調整したことで、その設置位置が、断面分割体21の撤去跡に設置する新設断面分割体51におけるT型断面の主桁52と合致しない場合がある。
【0040】
この場合には、図5(b)で示すように、新設断面分割体51の隣り合うT型断面の主桁52どうしを連結するように横げた53を設ける。そして、この横げた53を利用して新設断面分割体51と新設支承装置40とを接続させてもよい。
【0041】
≪≪≪橋梁の架替え工法(断面分割)の詳細≫≫≫
上記の橋梁の架替え工法(断面分割)において実施する新設支承設置工程、分割工程、上部工撤去工程、新設上部工設置工程、及び接合工程について、その詳細な手順を、上記の工法の概略と同様に、上部工20を2分割して半断面ずつ取り替える場合を事例に挙げ、以下に説明する。なお、橋梁の架替え工法を全断面で実施する場合も新設支承設置工程、上部工撤去工程、及び新設上部工設置工程は、同様の手順で実施すればよい。
【0042】
≪≪準備工≫≫
架替え工事を始めるにあたって、図7(a)で示すように、隣り合う下部工10を連結するようにして、上部工20の下方側に仮受け支保工Sを設置しておく。またあらかじめ、前述した新設支承装置40の製作、新設支承装置40の設置位置の設定、新設断面分割体51(セグメント511)の製作など事前準備を実施しておく。
【0043】
≪新設支承装置の設置位置の設定≫
図3(b)で説明したように、上部工20に橋軸方向の切断線Cを設けて橋軸直角方向に隣り合う2つの断面分割体21を形成した際、これらを支持可能な新設支承装置40の設置位置をあらかじめ決定しておく。
【0044】
≪新設断面分割体(セグメント)の製作≫
図4で説明したように、新設上部工50を、断面分割体21に対応する複数の新設断面分割体51を接合してなる構造とし、新設断面分割体51を工場製作しておく。本実施の形態では、中空床版橋である既設橋梁100を、ポストテンション方式の版桁橋に架替えることから、新設断面分割体51を、T型断面の主桁52を複数備えたプレキャスト部材により構成している。
【0045】
また、新設断面分割体51は橋軸直角方向から見ると、橋軸方向に連続する複数のセグメント511により構成されている。そして、これら複数のセグメント511は、その配置位置に対応して少なくとも4種類が準備されている。
【0046】
具体的には、図9(a)で示すように、支間に配置される標準セグメント511a、下部工10のうちの橋台11上に配置される端支点セグメント511b、橋脚12上に配置される支点セグメント511c、及び支点セグメント511cを挟んだ両側に配置され対をなす支点脇セグメント511d、の4種類である。
【0047】
また、4種類のセグメント511のうち端支点セグメント511b及び支点セグメント511cには、それぞれ横げた54が設けられている。また、すべてのセグメント511各々には、橋軸方向に貫通するシース管(図示せず)が埋設されている。シース管としては、図9(a)及び10(a)で示すような1次鋼材55が収納されるものと、図9(b)及び図10(b)で示すような2次鋼材56が収納されるものの2種類が設けられている。
【0048】
≪≪新設支承設置工程≫≫
上記の準備工を実施したうえで、図3(b)で説明した新設支承設置工程は、次の手順により実施する。
【0049】
まず、図6(a)で示すように、上部工20と下部工10との間の適切な位置にジャッキJを複数セットし、上部工20の荷重を支承装置30からこれら複数のジャッキJを介して下部工10に伝達する。次に、下部工10における新設支承装置40のあらかじめ設定した設置予定位置近傍を斫り取り、新設支承装置40の設置空間70を確保する。
【0050】
この設置空間70は、作業員による新設支承装置40の設置や既設の支承装置30を撤去する際の作業空間を兼用している。このため、設置空間70の開口を広く確保している。そして、作業空間を兼用する設置空間70を利用して、上部工20の下面にアンカー孔22を設ける。アンカー孔22には、図2(a)で示したような、新設支承装置40のソールプレート41を設置する際に用いるアンカーボルト411が固着される。
【0051】
また、図6(b)で示すように、既設の支承装置30を撤去するとともに、設置空間70内に架台Mを配置する。架台Mは、新設支承装置40を所定の高さ位置に据え付けるために用いられる。こののち、アンカー孔22とアンカーボルト411の間に無収縮モルタルもしくはエポキシ樹脂を充填して、ソールプレート41を上部工20の下面に設置する。
【0052】
また、図6(c)で示すように、架台Mにソールプレート41が取り外された新設支承装置40を設置し、図6(d)で示すように、設置空間70内を必要に応じて配筋したのちモルタルやコンクリートなどの充填材Fで充填する。また、図2(b)で示すように、ソールプレート41にスライディングプレート42をボルト47を介して設置する。これにより、上部工20と下部工10との間に新設支承装置40が設置されるから、ジャッキJを撤去して上部工20の荷重を新設支承装置40を介して下部工10に伝達させる。このような作業を繰り返し、すべての支承装置30を撤去し、新設支承装置40に交換する。
【0053】
≪≪分割工程≫≫
新設支承装置40が設置されたところで、図3(b)で説明した上部工20の分割工程を実施する。上部工20の断面分割作業は、橋軸方向に切断線Cを設けることができれば、いずれの手段にて断面分割作業を実施してもよい。こうして形成された2体の断面分割体21はそれぞれ独立して成り立つから、まずは、追越車線側の断面分割体21を利用して一般車両を共用させつつ、走行車線側で上部工撤去工程を開始する。
【0054】
≪≪上部工撤去工程≫≫
一般車両に追越車線を通行させる工事通行規制を布いたのち、図3(b)で説明した上部工撤去工程は、次の手順により実施する。まず、図7(b)で示すように、分割工程で作成した断面分割体21に橋軸直角方向に延在する切断線を複数設けて、搬送車両Vの荷台に積層可能な大きさの分割ブロック23を複数形成する。
【0055】
これと前後して、分割ブロック23を搬出する作業に用いる揚重装置80を据え付ける。揚重装置80は、分割ブロック23を揚重し搬送車両Vに積載できる機能を有していればいずれの装置を採用してもよい。図7(b)では、橋軸方向に断面分割体21を挟んで前方ベント81及び後方ベント82を設置するとともに、これらにエレクションガーダー83を架設し、このエレクションガーダー83に沿って移動する吊り装置84を設けた装置を採用している。
【0056】
このエレクションガーダー83と吊り装置84を利用して、図7(c)で示すように、複数の分割ブロック23を順次吊り上げたのち搬送車両Vに積み込み、搬送車両Vにより搬出する。こうして、走行車線側に位置する断面分割体21を分割して形成したすべての分割ブロック23を撤去する。
【0057】
搬出撤去された分割ブロック23のうち、下部工10上に位置していたものは、図8(a)で示すように、新設支承設置工程で設けた新設支承装置40のソールプレート41が固定されている。このため、分割ブロック23を撤去する際には、新設支承装置40のソールプレート41とスライディングプレート42とを接合しているボルト47を取り外しておく。
【0058】
これにより、新設支承装置40からソールプレート41のみを容易に分離することができ、ソールプレート41が設置された状態の分割ブロック23を、手間を要せずに撤去することができる。したがって、分割ブロック23の撤去作業を迅速に実施することが可能となり、断面分割体21の撤去作業に係る時間短縮に寄与できる。
【0059】
≪≪新設上部工設置工程≫≫
走行車線側の断面分割体21が撤去されたところで、図4で説明した新設上部工設置工程は、次の手順により実施する。
【0060】
まず、図8(b)で示すように、下部工10に残置され、ソールプレート41が撤去された状態の新設支承装置40のスライディングプレート42にボルト47を介して新たなソールプレート41を設置し、新設支承装置40を再度組立てる。新設支承装置40の組立ては、分割ブロック23とともに撤去したソールプレート41を再利用してよいし、新たなソールプレート41を別途準備し、これを組立てに利用してもよい。
【0061】
新設支承装置40を組立てたのち、上部工撤去工程で使用した揚重装置80を利用して、断面分割体21の撤去跡に新設断面分割体51を配置する。新設断面分割体51は、前述したように4種のセグメント511(標準セグメント511a、端支点セグメント511b、支点セグメント511c、及び支点脇セグメント511d)を備える。したがって、これら4種類の中から、配置位置に対応したセグメント511を適宜選択し配置する。
【0062】
このとき、端支点セグメント511bは橋台11上に配置されるから、図8(c)で示すようなアンカー孔57をあらかじめ設けておく。そして、端支点セグメント511bを設置する際には、このアンカー孔57にソールプレート41に設けたアンカーボルト411を挿入させて新設支承装置40上に載置する。この状態でアンカー孔57に無収縮モルタルを充填し、ソールプレート41を端支点セグメント511bの下面に設置する。これらの作業は、橋脚12上に配置される支点セグメント511cも同様である。
【0063】
セグメント511を配置したのち、まず、図9(a)で示すように、橋脚12を挟んだ一方側(紙面の左側)について、複数の標準セグメント511aのシース管(図示せず)に挿通した1次鋼材55に、プレストレスを導入する。これと前後してもしくは同時に、支点セグメント511cと橋脚12を挟んで対をなす支点脇セグメント511dのシース管(図示せず)に挿通した1次鋼材55に、プレストレスを導入する。
【0064】
次に、図9(b)で示すように、標準セグメント511aと端支点セグメント511b及び支点脇セグメント511dとの間各々に設けた調整目地に、間詰め材58を注入する。こののち、端支点セグメント511b、複数の標準セグメント511a、及び支点セグメント511c及び支点脇セグメント511dのシース管(図示せず)に挿通した2次鋼材56に、プレストレスを導入する。
【0065】
また、図10(a)で示すように、上記の橋脚12を挟んだ他方側(紙面の右側)について、複数の標準セグメント511aのシース管(図示せず)に挿通した1次鋼材55を緊張して、プレストレスを導入する。そして、図10(b)で示すように、標準セグメント511aと端支点セグメント511b及び支点脇セグメント511dの間各々に設けた調整目地に、間詰め材58を注入する。
【0066】
最後に、端支点セグメント511b、複数の標準セグメント511a、支点セグメント511c及び支点脇セグメント511dと、橋脚12を挟んだ一端側(紙面の左側)の支点脇セグメント511dに隣接する1つの標準セグメント511aに渡ってシース管(図示せず)挿通した2次鋼材56を緊張して、プレストレスを導入する。
【0067】
なお、図9及び図10は2径間の場合を例示しているが、3径間以上の場合には、図9(a)(b)の作業を各径間ごとに順次(紙面の左側から右側に向けて)繰り返して、プレストレスを導入する。こののち、図10(a)(b)の作業を実施すればよい。
【0068】
こうして、図4で示すように、走行車両側に新設断面分割体51が構築され、その荷重は新設支承装置40を介して下部工10に伝達される。そして、この新設断面分割体51に舗装工60などの橋面施工を実施する。
【0069】
これにより、走行車線側は、新設断面分割体51上で、一般車両の通行が可能となるから、車線交通規制の切り替えを行って、一般車両の通行を走行車線側のみに規制する。この切り替え後に、上記の手順で、追越車線側の断面分割体21を撤去し、撤去跡に新設断面分割体51を構築する。
【0070】
≪≪接合工程≫≫
走行車線側及び追越車線側の両者に新設断面分割体51が構築されたところで、図4で説明した新設断面分割体51の接合工程は、次の手順で実施する。
【0071】
図11で示すように、橋軸直角方向に隣り合う新設断面分割体51の対向面512各々にシアコッターを形成する。また、対向面512各々から、接合鉄筋513を橋軸直角方向に突出させて、いわゆるあき重ね継手を形成する。そのうえで、接合鉄筋513を埋設するようにして対向面512間に充填材514を充填する。充填材514には、例えば常温硬化型の超高強度繊維補強コンクリートを採用すると、熱養生なしで高い強度を発揮できるため、迅速な施工が可能となる。
【0072】
上記の橋梁の架替え工法によれば、既設の上部工20と下部工10との間に、新設支承装置40を設けたのち、一般車両の通行を規制して、既設の上部工20を撤去してその撤去跡に新設上部工50を設けることができる。これにより、一般車両の通行を規制する期間を大幅に短縮できる。
【0073】
また、新設支承装置40の設置位置を適宜調整することにより、いわゆる半断面架替え工事を実施することも可能となる。これにより、既設橋梁100の架替え作業を一般車両を共用しながら実施でき、既存交通への影響を最小限に抑えることが可能となる。
【0074】
≪≪既設の支承装置が存在しない既設橋梁の架替え方法≫≫
上記の図1図11では、既設の上部工20と下部工10との間に既設の支承装置30が介装されている既設橋梁100を事例に挙げた。しかし、橋梁の架替え工法は、これに限定されるものではなく、既設の支承装置30が存在しない既設橋梁100にも適用可能である。
【0075】
例えば、図12(a)で示すように、上部工20と下部工10との間にいわゆるメナーゼヒンジ鉄筋110が配設されている場合には、新設支承設置工程で、メナーゼヒンジ鉄筋110を切断し、新設支承装置90を設ければよい。新設支承装置90には、固定ゴム支承装置を採用する。
【0076】
≪新設支承装置:固定ゴム支承装置≫
新設支承装置90は、図13(a)で示す橋軸方向から見た図で示すように、下部工10にアンカーボルト961を介して固定されるベースプレート96と、既設の上部工20もしくは新設断面分割体51にアンカーボルト911を介して固定されるソールプレート91を備える。また、ソールプレート91の下面に上沓92が設けられ、ベースプレート96の上面には、下沓95が設けられている。
【0077】
さらに、下沓95には中央に貫通孔が設けられており、この貫通穴にシンボウ93の下端が挿入されている。そして、シンボウ93には図13(c)で示すように、これを貫通するドーナツ形状の弾性荷重支持板94が装着され、その下面と下沓95の上面が当接している。また、弾性荷重支持板94の上面は上沓92の下面に当接し、シンボウ93の上端は、図13(a)(b)で示すように上沓92に貫入している。
【0078】
このような構成の新設支承装置90は、上部工20から伝達される鉛直力の支持に弾性荷重支持板94が採用され、地震時に生じる上部工20と下部工10の相対的な変位により生じる全方向の水平力にはシンボウ93で抵抗する。
【0079】
そして、図13(b)で示すように、ソールプレート91に対して上沓92がボルト97を介して着脱自在に固定されている。これにより、上部工撤去工程では、新設支承装置90からソールプレート91を容易に取り外すことが可能となっている。
【0080】
≪新設支承設置工程:既設の支承装置30が存在しない場合≫
上記の新設支承装置90を設置する手順は、次のとおりである。まず、図12(a)で示すように、下部工10の側面にブラケット13を構築するとともにその上面にジャッキJを据え付ける。これらジャッキJ及びブラケット13を介して上部工20の荷重を下部工10に伝達した状態で、メナーゼヒンジ鉄筋110を切断する。
【0081】
次に、図12(b)で示すように、新設支承装置40の設置予定位置近傍を斫り取って設置空間70を確保するとともに、下部工10の上端を新設支承装置40の高さにあわせて斫り取る。こののち、上部工20の下面に設けたアンカー孔22とアンカーボルト911との間にエポキシ樹脂もしくは無収縮モルタルを充填して、ソールプレート91を上部工20の下面に設置する。
【0082】
また、設置空間70内に設置した架台Mにソールプレート91が取り外された新設支承装置90を設置し、図12(c)で示すように、設置空間70内を必要に応じて配筋したのちモルタルやコンクリートなどの充填材Fで充填する。また、図13(b)で示すように、ソールプレート91に上沓92をボルト97を介して設置する。これにより、上部工20と下部工10との間に新設支承装置90が設置されるから、ジャッキJ及びブラケット13を撤去して上部工20の荷重を新設支承装置90を介して下部工10に伝達させる。以降、上部工撤去工程及び新設上部工設置工程は、上述したとおりである。
【0083】
本発明の橋梁の架替え工法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0084】
例えば、本実施の形態では、既設橋梁100が中空床版橋であり、これを版桁橋に架替える場合を事例に挙げて橋梁の架替え工法を説明した。しかし、橋梁の架替え工法は、これに限定されるものではなく、架替えの前後ともにコンクリート橋であればいずれの種類にも適用可能である。
【0085】
また、図2で可動ゴム支承装置よりなる新設支承装置40を例示し、また図13で固定ゴム支承装置よりなる新設支承装置90を例示した。しかし、その構造は何ら限定されるものではなく、それぞれ可動ゴム支承装置もしくは固定ゴム支承装置して機能すれば、いずれの構造を採用してもよい。
【0086】
さらに、本本実施の形態では、既設の支承装置30を撤去し新設支承装置40を設置するに際し、新設支承装置40として可動ゴム支承装置を採用する場合を事例に挙げた。しかし、既設の支承装置30が固定ゴム支承装置である場合には、図13を参照し説明した固定ゴム支承装置を、新設支承装置40として採用してもよい。
【符号の説明】
【0087】
100 既設橋梁
10 下部工
11 橋台
12 橋脚
20 上部工
21 断面分割体
22 アンカー孔
23 分割ブロック
30 支承装置
40 新設支承装置
41 ソールプレート
411 アンカーボルト
42 スライディングプレート
43 サイドブロック
44 ストッパー
45 弾性荷重支持体
46 ベースプレート
461 アンカーボルト
47 ボルト
50 新設上部工
51 新設断面分割体
511 セグメント
511a 標準セグメント
511b 端支点セグメント
511c 支点セグメント
511d 支点脇セグメント
512 対向面
513 接合鉄筋
514 充填材
52 主桁
53 横げた
54 横げた
55 1次鋼材
56 2次鋼材
57 アンカー孔
58 間詰め材
60 舗装工
70 設置空間
80 揚重装置
81 前方ベント
82 後方ベント
83 エレクションガーダー
84 吊り装置
90 新設支承装置
91 ソールプレート
911 アンカーボルト
92 上沓
93 シンボウ
94 弾性荷重支持板
95 下沓
96 ベースプレート
961 アンカーボルト
97 ボルト
100 既設橋梁
C 切断線
J ジャッキ
M 架台
F 充填材
V 搬送車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13