(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079444
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】電動車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20230601BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20230601BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20230601BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20230601BHJP
B60W 20/13 20160101ALI20230601BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20230601BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60L50/61
B60L58/12
B60W10/26 900
B60W20/13 ZHV
B60K6/46
H01M10/48 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192926
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 学
(72)【発明者】
【氏名】小熊 孝弘
【テーマコード(参考)】
3D202
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB16
3D202BB21
3D202CC02
3D202DD01
3D202DD02
3D202DD05
3D202DD24
3D202DD44
3D202DD45
5H030AA04
5H030AS08
5H030FF41
5H030FF52
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BC05
5H125CA01
5H125DD06
5H125EE27
5H125EE31
5H125EE42
(57)【要約】
【課題】変化率を制限した損失電力が実際の損失電力を大きく下回っても、車両にショックが生じるのを抑制できる電動車両の走行制御装置を提供する。
【解決手段】電動車両の走行制御装置は、駆動用バッテリの電池出力が予め定めた第1所定値以下であるか否かを判定する変化率制限判定部と、変化率制限判定部が第1所定値以下であると判定した場合に、モータの損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように変化率を制限した損失電力とする変化率制限部と、を備え、変化率制限判定部は、更に、駆動用バッテリの電池出力が第1所定値よりも小さい予め定めた第2所定値以下であるか否かを判定し、変化率制限部は、変化率制限判定部が駆動用バッテリの電池出力が第2所定値以下であると判定した場合に、変化率の制限を無効化する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動用バッテリからモータに電力が供給される電動車両の走行制御装置であって、
前記モータに供給される電力と前記モータの損失電力の差分である上限駆動軸モータ電力を算出する上限駆動軸モータ電力算出部と、
前記上限駆動軸モータ電力算出部で算出された上限駆動軸モータ電力を前記モータの上限駆動軸トルクに変換する上限駆動軸トルク変換部と、
前記上限駆動軸トルク変換部で変換された前記上限駆動軸トルクの範囲内でドライバが要求する駆動軸トルクを出力する駆動軸トルク出力制御部と、
前記駆動用バッテリの電池出力が予め定めた第1所定値以下であるか否かを判定する変化率制限判定部と、
前記変化率制限判定部が前記第1所定値以下であると判定した場合に、前記モータの損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように変化率を制限した損失電力とする変化率制限部と、
を備え、
前記変化率制限判定部は、更に、前記駆動用バッテリの電池出力が前記第1所定値よりも小さい予め定めた第2所定値以下であるか否かを判定し、
前記変化率制限部は、更に、前記変化率制限判定部が前記駆動用バッテリの電池出力が前記第2所定値以下であると判定した場合に、前記変化率の制限を無効化することを特徴とする、
電動車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記変化率制限判定部は、更に、前記駆動用バッテリの充電率が予め定めた第3所定値未満であるか否かを判定し、
前記変化率制限部は、更に、前記駆動用バッテリの充電率が前記第3所定値未満であると判定した場合に、前記変化率の制限を有効化することを特徴とする、
請求項1に記載の電動車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記第1所定値は、前記電動車両の発進時において前記モータが前記ドライバの要求する駆動軸トルクを出力するための電力値であることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の電動車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記電動車両は、エンジンによってジェネレータが駆動され、前記ジェネレータから前記モータに電力が供給されるハイブリッド車両であって、
前記電動車両の発進時において前記エンジンによって前記ジェネレータが発電を開始する場合に、前記変化率制限部は、アクセル開度が0から前記ジェネレータが発電電力を出力するまでの間、前記モータの損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように変化率を制限した損失電力とすることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか一項に記載の電動車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両の走行に使える駆動軸トルクの上限(以下「上限駆動軸トルク」という)は、車両の駆動に使える電力(以下「上限駆動軸モータ電力」という)によって定まり、ドライバが上限駆動軸トルク以上の駆動軸トルクを要求しても上限駆動軸トルク以上の駆動軸トルクを出力できない。上限駆動軸モータ電力は駆動用バッテリの電池出力とモータの損失電力の差分となるため、モータの損失電力が大きいほど上限駆動軸モータ電力は小さくなり上限駆動軸トルクも小さくなる。モータの損失電力は低回転域で大きく変動し、低回転域を超えると安定する。よって、モータが低回転域となる、駆動用バッテリの電池出力が所定値よりも小さい場合にもモータの損失電力は大きく変動する。
【0003】
そこで、本願発明者らは、駆動用バッテリの電池出力が所定値以下の場合に、モータの損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように変化率を制限した損失電力(以下「仮想損失電力」という)として上限駆動軸トルクを算出し、この上限駆動軸トルクの範囲内でドライバが要求する駆動軸トルクを出力するものとした(例えば、特願2020-126408号参照)。
【0004】
尚、特許文献1には電気自動車の駆動システムにおいて損失電力を変化させる技術が開示されているが、かかる損失電力は電力を直交変換する電力変換器で発生する損失電力であり、モータの損失電力とは直接関係するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許出願に係る電動車両の走行制御装置では、駆動用バッテリが劣化し、かつ、駆動用バッテリの温度が低温となる場合のように、仮想損失電力が実際の損失電力を大きく下回ると、電動車両が実際に出力可能な駆動軸トルクを上限駆動軸トルク(モータが出力可能であると算出された駆動軸トルク)が大きく上回るので、ドライバが実際に出力可能な駆動軸トルクを超えて駆動軸トルク(例えば、上限駆動軸トルク)を要求すると駆動用バッテリを構成するセルの過放電閾値を超えて駆動用バッテリからモータに電力が供給されることになる。この場合には、電池保護制御が働き、駆動用バッテリからモータに電力が供給されることはないが、車両にショック(衝撃)が生じることがある。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、変化率を制限した損失電力が実際の損失電力を大きく下回っても、車両にショック(衝撃)が生じるのを抑制できる、電動車両の走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る電動車両の走行制御装置は、駆動用バッテリからモータに電力が供給される電動車両の走行制御装置であって、前記モータに供給される電力と前記モータの損失電力の差分である上限駆動軸モータ電力を算出する上限駆動軸モータ電力算出部と、前記上限駆動軸モータ電力算出部で算出された上限駆動軸モータ電力を前記モータの上限駆動軸トルクに変換する上限駆動軸トルク変換部と、前記上限駆動軸トルク変換部で変換された前記上限駆動軸トルクの範囲内でドライバが要求する駆動軸トルクを出力する駆動軸トルク出力制御部と、前記駆動用バッテリの電池出力が予め定めた第1所定値以下であるか否かを判定する変化率制限判定部と、前記変化率制限判定部が前記第1所定値以下であると判定した場合に、前記モータの損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように変化率を制限した損失電力とする変化率制限部と、を備え、前記変化率制限判定部は、更に、前記駆動用バッテリの電池出力が前記第1所定値よりも小さい予め定めた第2所定値以下であるか否かを判定し、前記変化率制限部は、更に、前記変化率制限判定部が前記駆動用バッテリの電池出力が前記第2所定値以下であると判定した場合に、前記変化率の制限を無効化する。
【0009】
上記(1)の構成によれば、駆動用バッテリの電池出力が第2所定値以下である場合に、実際のモータの損失電力を用いて実際の上限駆動軸トルクが算出され、実際の上限駆動軸トルクの範囲内でドライバが要求する駆動軸トルクを出力する。これにより、駆動用バッテリの過放電閾値を超えて駆動用バッテリからモータに電力が供給されることが抑制され、電池保護制御が働くことも抑制される。この結果、変化率を制限した損失電力が実際の損失電力を大きく下回っても、電動車両にショック(衝撃)が生じるのを抑制できる。
【0010】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、前記変化率制限判定部は、更に、前記駆動用バッテリの充電率が予め定めた第3所定値未満であるか否かを判定し、前記変化率制限部は、更に、前記駆動用バッテリの充電率が前記第3所定値未満であると判定した場合に、前記変化率の制限を有効化する。
【0011】
上記(2)の構成によれば、駆動用バッテリの電池出力が第2所定値以下であっても駆動用バッテリの充電率が第3所定値未満である場合に、モータの損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように制限した損失電力とする。よって、電動車両がハイブリッド自動車であって、駆動用バッテリの電池出力が第2所定値以下であって駆動用バッテリの充電率が第3所定値未満である場合に、エンジンが始動することで駆動用バッテリへの充電が開始される。このとき、駆動用バッテリには充電方向に電流が流れるために、モータの損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように制限した損失電力としても、駆動用バッテリが過放電状態となり難い(電池保護制御が働くことも抑制される)。
【0012】
また、駆動用バッテリの充電率が第3所定値未満の領域では、高充電率(第3所定値以上)の領域に比べて駆動用バッテリの内部抵抗が小さく、駆動用バッテリが電圧降下し難く、駆動用バッテリが過放電になりにくい。そこで、駆動用バッテリの充電率が第3所定値未満と判定した場合に変化率制限を有効化することで、モータの損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように制限する。これにより、モータに要求する駆動軸トルクはドライバの加速要求に近づけることができる。
【0013】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、前記第1所定値は、前記電動車両の発進時において前記モータが前記ドライバの要求する駆動軸トルクを出力するための電力値である。
【0014】
上記(3)の構成によれば、電動車両の発進時においてモータがドライバの要求するための電力値よりも駆動用バッテリの電池出力が小さい場合に、変化率制限部がモータの損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように制限した損失電力とする。これにより、上限駆動軸トルクの変動が小さくなり、電動車両の発進時において、モータがドライバの要求する駆動軸トルクを出力するための電力値よりも駆動用バッテリの電池出力が小さくても電動車両の振動を抑制できる。
【0015】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)から(3)のいずれか一つの構成において、前記電動車両は、エンジンによってジェネレータが駆動され、前記ジェネレータから前記モータに電力が供給されるハイブリッド車両であって、前記電動車両の発進時において前記エンジンによって前記ジェネレータが発電を開始する場合に、前記変化率制限部は、アクセル開度が0から前記ジェネレータが発電電力を出力するまでの間、前記モータの損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように変化率を制限した損失電力とする。
【0016】
上記(4)の構成によれば、アクセル開度が0からジェネレータが発電電力を出力するまでの間、モータの損失電力の変化は小さくなり、上限駆動軸モータ電力及び上限駆動軸トルクの変化も小さくなる(安定する)。よって、アクセル開度が0からジェネレータが発電電力を出力するまでの間、モータから出力される駆動軸トルクも安定し、電動車両の前後Gも安定し、電動車両に生じるドライバが感じる程度のショックを抑制できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、変化率を抑制した損失電力が実際の損失電力を大きく下回っても、車両にショック(衝撃)が生じるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る電動車両の走行制御装置が採用されるハイブリッド車両の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図2】
図1に示したハイブリッド車両の走行制御装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図3】
図2に示した変化率制限部及び変化率制限判定部を示すブロック図である。
【
図4】
図3に示した変化率制限部が制限するモータの損失電力の変化率を説明するための図である。
【
図5】
図3に示した変化率制限判定部が変化率制限部を無効化する第2所定値及び第3所定値を説明するための図である。
【
図6】
図2に示したハイブリッド車両の走行制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図7】
図3に示した変化率制限部がモータの損失電力の変化率を制限した場合における駆動用バッテリの電池出力、モータの損失電力、駆動用バッテリのセル電圧及びショック(衝撃)を示す図である。
【
図8】
図3に示した変化率制限部がモータの損失電力の変化率の制限を無効化した場合における駆動用バッテリの電池出力、モータの損失電力、駆動用バッテリのセル電圧及びショック(衝撃)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して実施形態に係る電動車両の走行制御装置ついて説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0020】
図1に示すように、実施形態に係る走行制御装置1は、駆動用バッテリ21からモータ31に電力が供給される電動車両に適用される。実施形態に係る電動車両は、エンジン41によって発電されるハイブリッド自動車(HV)であるが、これに限られるものではなく、例えば、電気自動車(EV)にも適用可能である。ハイブリッド自動車は、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHEV,PHV)であるが、プラグインハイブリッド自動車に限られるものではない。
【0021】
[電動車両の構成]
実施形態に係る走行制御装置1が適用される電動車両は、駆動用バッテリ21、及びモータ31のほか、エンジン41及びジェネレータ51、並びに補機61を備えている。
【0022】
駆動用バッテリ21は、複数(多数)個のバッテリセルが一つの容器に収容されたバッテリパックによって構成される。このように構成された駆動用バッテリ21は、バッテリコントローラユニット23によって管理される。例えば、バッテリコントローラユニット23は、駆動用バッテリ21の電池出力(SOPout)及び充電率(SOC(State Of Charge))を管理し、電池出力及び充電率を走行制御装置1に通知する一方、駆動用バッテリ21を構成するバッテリセルが過放電閾値を超えて放電する場合に駆動用バッテリ21を保護すべく駆動用バッテリ21の放電(例えば、モータ31への電力供給)を停止する(電池保護制御)。
【0023】
モータ31は、駆動用バッテリ21から供給された電力を駆動軸トルクに変換し、タイヤ(駆動輪)71を回転駆動するもので、モータコントローラユニット33によって制御される。例えば、モータコントローラユニット33は、走行制御装置1から要求(出力)された駆動軸トルクをモータ31が出力するようにモータ31を制御し、モータ31の実際の損失電力を走行制御装置1に通知する。エンジン41は、ジェネレータ51を駆動するもので、エンジンコントローラユニット43によって制御される。ジェネレータ51は、駆動用バッテリ21に充電する電力を発電するもので、エンジン41に接続され、ジェネレータコントローラユニット53によって制御される。例えば、エンジンコントローラユニット43及びジェネレータコントローラユニット53は、走行制御装置1から要求された発電電力をジェネレータ51が発電するようにエンジン41及びジェネレータ51を制御する。
【0024】
補機61は、例えば、電動ヒータ、電動エアコン及びDCDCコンバータであり、駆動用バッテリ21から電力(補機消費電力)が供給され、補機61から走行制御装置1に補機消費電力が通知される。
【0025】
上述した実施形態に係る走行制御装置1は、例えば、演算装置、命令や情報を格納するレジスタ、周辺回路等から構成されるプロセッサ(図示せず)、ROM(Read Only Memory)やRAM((Random Access Memory)等のメモリ(図示せず)のほか入出力インターフェース(図示せず)によって構成される。
【0026】
[走行制御装置1の構成]
図2に示すように、実施形態に係る走行制御装置1は、上限駆動軸モータ電力算出部11、上限駆動軸トルク変換部13、及び駆動軸トルク出力制御部15のほか、変化率制限判定部17(
図3参照)及び変化率制限部19を備えている。
【0027】
上限駆動軸モータ電力算出部11は、モータ31に供給される電力とモータ31の損失電力の差分である上限駆動軸モータ電力を算出する部分である。モータ31に供給される電力は、駆動用バッテリ21の電池出力(SOPout)から補機消費電力(図示せず)を控除したものであるが、ハイブリッド自動車では、供給電力算出部12において発電電力が加算される。
【0028】
上限駆動軸トルク変換部13は、上限駆動軸モータ電力算出部11で算出された上限駆動軸モータ電力をモータ31の上限駆動軸トルクに変換する部分である。上限駆動軸トルクは、下記の数式1によって変換される。
【0029】
【0030】
駆動軸トルク出力制御部15は、上限駆動軸トルク変換部13で変換された上限駆動軸トルクの範囲内でドライバが要求する駆動軸トルクを出力する部分である。ドライバが要求する駆動軸トルクは、ドライバ要求駆動軸トルク算出部16において電動車両の車速及びアクセルポジション(アクセル開度)に基づいて算出される。
【0031】
図3に示すように、変化率制限判定部17は、駆動用バッテリ21の電池出力(SOPout)が予め定めた所定値(以下「第1所定値」という)以下であるか否かを判定する部分である。
【0032】
第1所定値は、電動車両の発進時においてモータ31の損失電力が大きく変動する範囲を特定する電力値(電池出力値)であり、例えば、電動車両の発進時においてドライバが要求する駆動軸トルクをモータ31が出力するための電力値である。第1所定値は、例えば、モータ31の実際の損出電力によって出力可能な上限駆動軸トルクで発進した場合にショック(衝撃)を生じる範囲を特定する試験によって定められるが、これに限定されるものではない。第1所定値は、例えば、固定値であるが(
図5参照)、車速及びアクセルポジション、又は、ドライバが要求する駆動軸トルクによって変動する変動値であってもよい。
【0033】
変化率制限部19は、変化率制限判定部17が駆動用バッテリ21の電池出力が第1所定値以下であると判定した場合に、モータ31の損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように変化率を制限した損失電力(仮想損失電力)とする部分である。例えば、変化率制限部19は、変化率制限判定部17が駆動用バッテリ21の電池出力が第1所定値以下であると判定した場合であって、電動車両の発進時においてエンジン41によってジェネレータ51が発電を開始する場合に、アクセル開度が0からジェネレータ51が発電電力を出力するまで、モータ31の損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように変化率を制限した損失電力(仮想損失電力)とする。
【0034】
モータ31の損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように制限する変化率(
図3参照)は、時間当たりの損失電力の変化量が所定値以下となるように制限される。例えば、
図4に示すように、実際の損失電力がA時間にBkW増加した場合に、A時間を細分化(n,n+1,n+2,・・・n+7)し、細分化した時間(例えば10msec)ごとに損失電力が階段状に変化するように制限される。例えば、電動車両の発進時においてエンジン41によってジェネレータ51が発電を開始する場合に、アクセル開度が0からジェネレータ51が発電電力を出力するまで、細分化した時間当たりの損失電力が所定値以下となるように制限される。例えば、
図4に示す例では、A時間がアクセル開度0からジェネレータ51が発電電力を出力するまでの時間であり、BkWが発電電力を出力した後の損失電力である。
【0035】
上述した変化率制限判定部17は、更に、駆動用バッテリ21の電池出力(SOPout)が第1所定値よりも小さい予め定めた所定値(以下「第2所定値」という)以下であるか否かを判定する。第2所定値は、電動車両の発進時において変化率を制限した損失電力と実際の損失電力とが乖離することによって駆動用バッテリ21を構成するバッテリセルが過放電閾値を超えて放電する電力値(電池出力値)である。第2所定値は、例えば、電池出力(SOPout)と充電率(SOC)とのマップ(
図5参照)で与えられるが、これに限定されるものではない。第2所定値は、例えば、変化率を制限したモータ31の損失電力によって出力可能な上限駆動軸トルクで電動車両が発進した場合に実際の損失電力と乖離することによって駆動用バッテリ21を構成するバッテリセルが過放電閾値を超えて放電した場合の電池保護制御によるショック(衝撃)を生じる範囲を特定する試験によって定められるが、これに限定されるものではない。
【0036】
上述した変化率制限部19は、更に、変化率制限判定部17が駆動用バッテリ21の電池出力(SOPout)が第2所定値以下であると判定した場合に、変化率の制限を無効化する。
【0037】
また、上述した変化率制限判定部17は、更に、駆動用バッテリ21の充電率(SOC)が予め定めた所定値(以下「第3所定値」という)未満であるか否かを判定する。第3所定値は、例えば、電池出力(SOPout)と充電率(SOC)とのマップ(
図5参照)で与えられるが、これに限定されるものではない。第3所定値は、例えば、電動車両がハイブリッド自動車である場合に、エンジンが始動することで駆動用バッテリへの充電が開始される充電率であり、例えば、駆動用バッテリ21の電池温度と充電率とによって定められるが、これに限定されるものではない。
【0038】
また、上述した変化率制限部19は、更に、駆動用バッテリ21の充電率(SOC)が第3所定値未満である場合に、変化率の制限を有効化する。
【0039】
[走行制御装置1の動作]
図6に示すように、実施形態に係る走行制御装置1は、まず、バッテリコントローラユニット23から通知された駆動用バッテリ21の電池出力(SOPout)に基づいて走行制御装置1がジェネレータ51に要求する発電電力を算出する(ステップS1)。次に、供給電力算出部12がモータ31に供給される電力を算出する(ステップS2)。モータ31に供給される電力は、上述したように、駆動用バッテリ21の電池出力から補機消費電力を控除したものであるが、ジェネレータ51に要求する発電電力が加算される。
【0040】
次に、変化率制限判定部17がバッテリコントローラユニット23から通知された駆動用バッテリ21の電池出力が第1所定値以下であるか否かを判定する(ステップS31)。駆動用バッテリ21の電池出力が第1所定値以下である場合は(ステップS31:Yes)、変化率制限部19がモータ31の損失電力の変化率を予め定めた所定値以下に制限し(ステップS32)、モータ31の損失電力(MTR損失電力)を変化率が制限された損失電力(仮想損失電力)とする(ステップS33)。駆動用バッテリ21の電池出力が第1所定値以下でない場合(ステップS31:No)、すなわち、第1所定値を超える場合は、変化率制限部19がモータ31の変化率を制限することなく、モータ31の損失電力(MTR損失電力)を実際の損失電力(MTR実損失電力)とする。
【0041】
次に、変化率制限判定部17がバッテリコントローラユニット23から通知された駆動用バッテリ21の電池出力が第2所定値以下であるか否かを判定する(ステップS34)。駆動用バッテリ21の電池出力が第2所定値以下の場合(ステップS34:Yes)は、変化率制限部19が変化率の制限を無効化し(ステップS35)、モータ31の損失電力(MTR損失電力)を実際の損失電力(MTR実損失電力)とする(ステップS36)。駆動用バッテリ21の電池出力が第2所定値を超える場合(ステップS34:No)には、変化率制限部19が変化率の制限を無効化することなく、モータ31の損失電力(MTR損失電力)を変化率が制限された損失電力(仮想損失電力)のままとする。
【0042】
次に、変化率制限判定部17がバッテリコントローラユニット23から通知された駆動用バッテリ21の充電率が第3所定値未満であるか否かを判定する(ステップS37)。駆動用バッテリ21の充電率が第3所定値未満の場合(ステップS37:Yes)は、変化率制限部19が変化率の制限を有効化し(ステップS38)、モータの損失電力(MTR損失電力)を変化率が制限された損失電力とする(ステップS39)。駆動用バッテリ21の充電率が第3所定値以上である場合(ステップS37:No)には、変化率制限部19が変化率の制限を有効化することなく、モータの損失電力(MTR損失電力)を実際の損失電力(MTR実損失電力)とする。
【0043】
次に、上限駆動軸モータ電力算出部11が上限駆動軸モータ電力を算出する(ステップS4)。上限駆動軸モータ電力は、モータ31に供給される電力とモータ31の損失電力の差分であり、モータ31に供給される電力は上述した供給電力算出部12から出力された電力が用いられ、モータ31の損失電力は上述した変化率制限部19から出力された損失電力が用いられる。
【0044】
次に、上限駆動軸モータ電力をモータ31の上限駆動軸トルクに変換する(ステップS5)。上限駆動軸トルクは、上述した数式1によって変換される。
【0045】
次に、ドライバ要求駆動軸トルク算出部16がドライバの要求する駆動軸トルクを算出する(ステップS6)。ドライバが要求する駆動軸トルクは、電動車両の車速及びアクセルポジションに基づいて算出される。
【0046】
次に、駆動軸トルク出力制御部15が上限駆動軸トルクの範囲内でドライバが要求する駆動軸トルクを出力する(ステップS7)。以下、ステップS1からステップS7までを繰り返すことで、電動車両の発進時におけるショック(衝撃)が抑制される。
【0047】
[走行制御装置1の効果]
[駆動用バッテリ21の電池出力が第1所定値以下の場合]
図7に示すように、駆動用バッテリ21の電池出力が第1所定値以下である場合は、モータ31の損失電力が二点鎖線L1で示すように大きく変動する。よって、モータ31に供給される電力とモータ31の損失電力の差分である上限駆動軸モータ電力も大きく変動し、上限駆動軸モータ電力を変換したモータ31の上限駆動軸トルクも二点鎖線L2で示すように大きく変動する。
【0048】
ドライバの要求する駆動軸トルクは、電動車両の速度とアクセル開度によって定まるが、モータ31から出力可能な駆動軸トルクはモータ31の上限駆動軸トルクの範囲内に制限される。よって、ドライバの要求する駆動軸トルクが大きく変動しない場合であっても、上限駆動軸トルクが大きく変動すると、モータ31から出力される駆動軸トルクも大きく変動する。これにより、電動車両の前後Gに二点鎖線L3に示すように変動が生じ、電動車両にドライバが感じる程度のショック(衝撃)が生じる。
【0049】
そこで、本願発明者らは、駆動用バッテリ21の電池出力が第1所定値以下であると判定した場合に、モータ31の損失電力を実線で示すように実際の変化率よりも小さくなるように変化率を制限した損失電力(仮想損失電力)とした。モータ31の損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように変化率を制限した損失電力(仮想損失電力)とすると、モータ31の損失電力の変化は小さくなり、上限駆動軸モータ電力及び上限駆動軸トルクの変化も小さくなる(安定する)。よって、モータ31から出力される駆動軸トルクも安定し、電動車両の前後Gも安定し、電動車両に生じるドライバが感じる程度のショックを抑制できる。
【0050】
電動車両の発進時において、駆動用バッテリ21の電池出力が予め定めた発電閾値に満たない場合や駆動用バッテリ21の電池温度が予め定めた温度閾値に満たない場合に、エンジン41によってジェネレータ51が発電を開始するが、エンジン41の応答速度よりもモータ31の応答速度のほうが速いために発電量が追いつかない。この場合にモータ31の損失電力も大きく変動するので、モータ31から出力される駆動軸トルクも大きく変動する。これにより、電動車両の前後Gに変動が生じ、電動車両にドライバが感じる程度のショック(衝撃)が生じる。
【0051】
そこで、本願発明者らは、電動車両の発進時においてエンジン41によってジェネレータ51が発電を開始する場合に、アクセル開度が0(T1)からジェネレータ51が発電電力を出力する(T2)までの間、モータ31の損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように変化率を制限した損失電力(仮想損失電力)とした。このようにすると、アクセル開度が0からジェネレータ51が発電電力を出力するまでの間、モータ31の損失電力の変化は小さくなり、上限駆動軸モータ電力及び上限駆動軸トルクの変化も小さくなる(安定する)。よって、アクセル開度が0からジェネレータ51が発電電力を出力するまでの間、モータ31から出力される駆動軸トルクも安定し、電動車両の前後Gも安定し、電動車両に生じるドライバが感じる程度のショックを抑制できる。
【0052】
[駆動用バッテリ21の電池出力が第2所定値以下の場合]
図8に示すように、駆動用バッテリ21の電池出力が第1所定値以下の場合に、モータ31の損失電力を二点鎖線L4で示すような仮想損失電力としても、駆動用バッテリ21が劣化し、かつ、駆動用バッテリ21の温度が低温となる場合のように、仮想損失電力が実際の損失電力を大きく下回ると、電動車両が実際に出力可能な駆動軸トルクを上限駆動軸トルク(モータ31が出力可能であると算出された駆動軸トルク)が大きく上回るので、ドライバが実際に出力可能な駆動軸トルクを超えて駆動軸トルク(例えば、上限駆動軸トルク)を要求すると駆動用バッテリ21を構成するバッテリセルの過放電閾値を超えて駆動用バッテリ21からモータ31に電力が供給されることになる(セル電圧の二点鎖線L5を参照)。この場合には、電池保護制御が働き、駆動用バッテリ21からモータ31に電力が供給されることはないが、駆動軸トルクに二点鎖線L6に示すような大きな変動が生じる。これにより、前後Gにも二点鎖線L7で示すような大きな変動が生じ、電動車両にドライバが感じる程度のショック(衝撃)が生じる。
【0053】
そこで、本願発明者らは、駆動用バッテリ21の電池出力が第2所定値以下である場合に、変化率の制限を無効化することにした。よって、駆動用バッテリ21の電池出力が第2所定値以下である場合に、実際のモータ31の損失電力を用いて実際の上限駆動軸トルクが算出され、実際の上限駆動軸トルクの範囲内でドライバが要求する駆動軸トルクを出力する。これにより、駆動用バッテリ21を構成するバッテリセルの過放電閾値を超えて駆動用バッテリ21からモータ31に電力が供給されることが抑制され、電池保護制御が働くことも抑制される。この結果、変化率を制限した損失電力が実際の損失電力を大きく下回っても、電動車両にショック(衝撃)が生じるのを抑制できる。
【0054】
[駆動用バッテリ21の充電率が第3所定値未満の場合]
電動車両がハイブリッド自動車であって、駆動用バッテリ21の充電率(SOC)が第3所定値未満である場合に、エンジンが始動することで駆動用バッテリ21への充電が開始される。このとき、駆動用バッテリ21には充電方向に電流が流れるために、モータの損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように制限した損失電力としても、駆動用バッテリ21が過放電状態となり難い(電池保護制御が働くことも抑制される)。
【0055】
また、駆動用バッテリ21の充電率(SOC)が第3所定値未満の領域では、高充電率(第3所定値以上)の領域に比べて駆動用バッテリ21の内部抵抗が小さく、駆動用バッテリ21が電圧降下し難く、駆動用バッテリ21が過放電になり難い。
【0056】
そこで、本願発明者らは、駆動用バッテリ21の充電率(SOC)が第3所定値未満であると判定した場合に変化率制限を有効化することで、モータの損失電力を実際の変化率よりも小さくなるように制限することにした。これにより、モータに要求する駆動軸トルクをドライバの加速要求に近づけることができる。
【0057】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0058】
1 走行制御装置
11 上限駆動軸モータ電力算出部
12 供給電力算出部
13 上限駆動軸トルク変換部
15 駆動軸トルク出力制御部
16 ドライバ要求駆動軸トルク算出部
17 変化率制限判定部
19 変化率制限部
21 駆動用バッテリ
23 バッテリコントローラユニット
31 モータ
33 モータコントローラユニット
41 エンジン
43 エンジンコントローラユニット
51 ジェネレータ
53 ジェネレータコントローラユニット
61 補機
71 タイヤ(駆動輪)