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  • 特開-試料積載プレート及びその製造方法 図1
  • 特開-試料積載プレート及びその製造方法 図2
  • 特開-試料積載プレート及びその製造方法 図3
  • 特開-試料積載プレート及びその製造方法 図4
  • 特開-試料積載プレート及びその製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079464
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】試料積載プレート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/04 20060101AFI20230601BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20230601BHJP
【FI】
H01J49/04 180
G01N27/62 G
G01N27/62 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192948
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高野 晋一郎
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041JA07
(57)【要約】
【課題】 試料積載部に試料を適切に保持することが可能な試料積載プレート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 基板1上に親水性表面を有する試料積載部6を備えた試料積載プレートにおいて、前記親水性表面より親水性の高い親水部材5が前記親水性表面に部分的に埋設されている試料積載プレート10とする。前記試料積載プレート10は、前記親水部材5を投射して前記試料積載部6に前記親水部材5を埋設する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に親水性表面を有する試料積載部を備えた試料積載プレートにおいて、
前記親水性表面より親水性の高い親水部材が前記親水性表面に部分的に埋設されていることを特徴とする試料積載プレート。
【請求項2】
前記親水性表面は、前記試料積載部周囲の前記基板の表面より表面粗さの大きい粗面であることを特徴とする請求項1に記載の試料積載プレート。
【請求項3】
前記試料積載部は前記基板の一部をブラスト加工することで形成され、前記親水部材は前記ブラスト加工における投射材であることを特徴とする請求項2に記載の試料積載プレート。
【請求項4】
前記試料積載部は、底面部と側面部を備えたウェルであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の試料積載プレート。
【請求項5】
前記試料積載部の周囲における前記基板表面に撥水膜を備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の試料積載プレート。
【請求項6】
基板上に親水性表面を有する試料積載部を備えた試料積載プレートの製造方法において、
前記親水性表面に前記親水性表面より親水性の高い親水部材を投射して前記試料積載部を形成するブラスト加工工程を備え、
当該ブラスト加工工程は、前記親水性表面に前記親水部材を埋設する工程であることを特徴とする試料積載プレートの製造方法。
【請求項7】
前記ブラスト加工工程は、前記親水性表面の表面粗さを粗面化する工程であることを特徴とする請求項6に記載の試料積載プレートの製造方法。
【請求項8】
前記ブラスト加工工程の前、または前記ブラスト加工工程の後に、前記基板の表面に撥水膜を形成する撥水膜形成工程を備えることを特徴とする請求項6または7に記載の試料積載プレートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を積載する試料積載プレート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病原菌や細菌を迅速かつ正確に診断することが可能な質量分析のイオン化法の一つとして、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI=Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法が知られている。
【0003】
MALDI法は、レーザ光を吸収しにくい、またはレーザ光で損傷を受けやすい分析対象物を分析するために、レーザ光を吸収しやすくかつイオン化しやすい物質(マトリックス)に試料をあらかじめ混合しておき、これにレーザ光を照射することで試料をイオン化する方法である。
【0004】
MALDI法による質量分析装置では、一般に、被分析物とマトリックスをあらかじめ混合し、溶媒により液状化したもの(以下「試料」と呼ぶ)を積載するターゲットプレートと呼ばれる金属製のプレート(以下、「試料積載プレート」と呼ぶ)を装置内に配置し、試料積載プレート上に積載した試料に対してレーザ光を所定時間照射して試料を脱離イオン化する。このとき、金属製の試料積載プレートには電圧が印加され、脱離イオン化した試料に電界が与えられることによって脱離イオン化した試料を加速用の電極に向けて飛行しやすくしている。
【0005】
試料積載プレートは、試料を積載するための試料載置領域を複数備えており、測定する複数の試料を所定の試料積載部に滴下させ乾燥化(結晶化)させた状態で質量分析装置内に配置し、試料積載プレートを移動させることにより複数の試料にレーザを照射するようになっている。
【0006】
例えば特許文献1には、試料積載プレート上の試料積載部に対応する表面を親水性に改質した親水性改質層とすることで滴下した試料を試料積載部に保持する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-57148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
試料積載プレートは、試料積載プレートの試料積載部に液状の試料を搭載した状態で乾燥化等のため搬送される。その際、試料積載プレートは水平に保持されず傾斜したり搬送に伴う振動が印加されたりすることがある。試料積載プレートでは、この試料積載プレートの傾斜や振動の印加により試料積載部に保持されるべき試料が試料積載部から零れ落ちることや試料積載部以外の領域に試料が濡れ広がることがあり、その場合、試料の分析も適切に行うことができない。このような問題に対し従来から試料積載部を親水性とすることが試みられているが、例えばMALDI法等による質量分析では試料に対しレーザ光が照射されるため試料積載部の材質にも制約があり、試料積載部に試料を保持し得るのに十分な親水性を確保することに課題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、試料積載部に試料を適切に保持することが可能な試料積載プレート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
基板上に親水性表面を有する試料積載部を備えた試料積載プレートにおいて、前記親水性表面より親水性の高い親水部材が前記親水性表面に部分的に埋設されている試料積載プレートとする。前記親水性表面は、前記試料積載部周囲の前記基板の表面より表面粗さの大きい粗面としてもよい。前記試料積載部は前記基板の一部はブラスト加工することで形成され、前記親水部材は前記ブラスト加工における投射材であってもよい。前記試料積載部は、底面部と側面部を備えたウェルであってもよい。前記試料積載部の周囲における前記基板表面に撥水膜を備えた構成としてもよい。
また、基板上に親水性表面を有する試料積載部を備えた試料積載プレートの製造方法において、前記親水性表面に前記親水性表面より親水性の高い親水部材を投射して前記試料積載部を形成するブラスト加工工程を備え、前記ブラスト加工工程は、前記親水性表面に前記親水部材を埋設する工程である試料積載プレートの製造方法とする。前記ブラスト加工工程は、前記親水性表面の表面粗さを粗面化する工程であってもよい。前記ブラスト加工工程の前または後に、前記基板の表面に撥水膜を形成する撥水膜形成工程を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の試料積載プレート及びその製造方法によれば、試料積載部に搭載される試料を適切に保持できる試料積載プレートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の試料積載プレートの一実施例を示す図である。
図2】本発明における試料積載プレートの試料載置部に試料を載置した状態を説明する断面模式図である。
図3】本発明の試料積載プレートの製造方法を示す模式図である。
図4】本発明の別の実施例による試料積載プレートを示す図である。
図5】本発明の別の実施例による試料積載プレートの製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための形態を、図面を用いて説明する。また図面においては各構成をわかりやすくするために実際の形状や実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。図1は、本発明の試料積載プレートの一実施例を示す図であり、(a)は試料積載プレートの平面図であり、(b)は(a)のA-Aの断面図である。
【0014】
図1に示す試料積載プレート10は、基板1に底面部6aと側面部6bを有するウェル6を複数備える。ウェル6は被分析対象を含む試料を基板1上に保持するための試料積載部であり、ウェル6の底面部6a及び側面部6bの表面には、親水性の性質を持つ親水部材5が部分的に埋設されている。基板1は、親水性かつ導電体を有する部材、例えば、ステンレスまたはアルミニウムまたはアルミニウム合金などの金属からなり、外形約120mm×80mm程度の略長方形の平板であり、厚みは約2mmである。基板1に形成されたウェル6は、直径0.8mm、深さ0.1mmである。基板1のウェル6を除く部分の表面の算術平均粗さRaは0.1μm、ウェル6の底面部6aの算術平均粗さRaは2.0μm、側面部6bの算術平均粗さRaは2.5μmであり、ウェル6はウェル6を除く部位と比較し粗面となっており、ウェル6の側面部6bは底面部6aより粗面となっている。また、親水部材5は、基板1より親水性の高い、例えば、粒径が約27~74μmの二酸化ケイ素や酸化アルミニウム、酸化チタンの粒子からなり、その外表面の一部が外部に露出した状態でウェル6に埋設されている。
【0015】
図2は、試料積載プレート10に試料を積載した状態を示す断面図である。試料積載部であるウェル6に滴下された試料30は、重力及び表面張力により放射状に濡れ広がり、試料30とウェル6やその周辺の基板1表面との間の表面自由エネルギーの均衡がとれたところで濡れ広がりがとまる。ここで本実施例の試料積載プレート10では、ウェル6の底面部6a及び側面部6bがウェル6周囲の基板1表面より粗い面を有し、基板1のウェル6周囲より親水性が高いため、試料30をウェル6に保持する効果(アンカー効果)が高い。さらに本実施例では、ウェル6の底面部6a及び側面部6bに親水部材5がその表面の一部が外部に露出するように埋設されている。親水部材5は基板1の表面(及びウェル6の表面)よりも親水性の高い部材であり、さらにそれをウェル6に埋設することで、親水部材5を埋設していない場合と比較して試料積載部の表面露出面積が増加し、ウェル6が粗面であることと加えてより高いアンカー効果を実現している。また、親水部材5に光触媒である酸化チタン等を採用することで、長期的に安定した親水性を得る(アンカー効果を得る)ことも可能である。
【0016】
次に試料積載プレート10の製造方法について図面を用いて説明する。図3は試料積載プレート10の製造方法を示す模式図である。図1に示す試料積載プレート10は以下の工程により製造される。
【0017】
[基板準備工程:図3(a)]
先ず、基板1を準備する。本実施例における基板1は外形約120mm×80mm、厚み約2mmの基板である。基板1は、例えば、ステンレスまたはアルミニウムまたはアルミニウム合金などが好ましい。
【0018】
[ブラスト加工工程:図3(b)]
次に、ブラスト加工により基板1に試料積載部であるウェル6を形成する(加工後の状態は図3(c)参照)。この工程では、ブラスト加工装置のノズル4より、親水部材5を基板1に投射してウェル6を形成するとともにウェル6の表面を粗面化し、さらにウェル6の底面部6a及び側面部6bに親水部材5を埋設する。ウェル6は、ノズル4より投射される親水部材5により基板1が削られることで形成される。親水部材5の基板1への投射は、ノズル4より投射された親水部材5の一部がウェル6の底面部6a及び側面部6bの表面に埋め込まれウェル6表面に残留するように、投射速度や投射距離、投射角度等が決定される。また本実施例では、親水部材5を基板1に対して傾斜させ投射している。そのため、底面部6aに埋設している親水部材5よりも側面部6bに埋設している親水部材5の方が多くなっており、その結果、側面部6bの親水性は底面部6aの親水性よりも高くなっている。このようにブラスト加工に形成されたウェル6は、底面部6a及び側面部6bの表面粗さが基板1の表面粗さより大きな粗面となっており、親水部材5を傾斜させ投射したことで底面6aより側面6bの方が粗面となっている。なおこの工程では、ウェル6の形成と同時に親水部材5をウェル6に埋設しており、それぞれを別工程として行った場合より効率的に試料積載部の形成が可能である。なお、本工程では、基板1のウェル6に対応する位置に開口部を有するマスクを配置してノズル4より親水部材5を投射してもよい。このようにすることでより精度が高い加工が可能となる。
【0019】
[洗浄工程:図3(c)]
最後に、試料積載プレート10を洗浄液で洗浄することでウェル6の底面部6a及び側面部6bの表面に埋設されず付着した親水部材5を除去する。この洗浄工程では、ウェル6に埋設された親水部材5は十分なエネルギーを持ってウェル6に埋設されているため、その大部分は除去されることはない。以上の工程により、本実施例の試料積載プレート10が得られる。
【0020】
次に本発明の別の実施形態について図面を用いて説明する。図4は本発明の試料積載プレート20を示す図であり、(a)は試料積載プレートの平面図であり、(b)は(a)のA-Aの断面図である。なお、ここでは先に説明した実施例と同様の構成については同一の符号を用い、構成が重複する部分については説明を省略する。本実施例における試料積載プレート20は、基板1に試料積載部となるウェル6と、ウェルの底面部6a及び側面部6bの表面に埋設された親水部材5、撥水膜2を備える。撥水膜2は、ウェル6を除く基板1表面の全体に形成されており、ウェル6の周囲は撥水膜2で囲まれている。撥水膜2は、例えば、炭素(C)、フッ素(F)またはシリコン(Si)を含む撥水材またはそれらの複合された撥水材であり、その厚みは例えば5nmである。本実施例では、ウェル6の周囲が撥水膜2で囲まれていることより、試料積載プレート10と比較し試料30の濡れ広がりを小さくできる点で有利であり、これにより複数の試料積載部のそれぞれの間における試料の接触の恐れが少なくなる。
【0021】
次に試料積載プレート20の製造方法について図面を用いて説明する。図5は本発明の試料積載プレート20の製造方法を示す模式図である。図4に示す試料積載プレート20は以下の工程により製造される。なお、図3に示す試料積載プレート10の製造方法と同一の工程についてはその説明を一部省略することがある。
【0022】
[撥水膜形成工程:図5(a)]
先ず、基板1を準備し、基板1の一方の面の全面に撥水膜2を形成する。撥水膜2は、例えば、真空蒸着等の成膜方法によって行う。
【0023】
[マスク配置工程:図5(b)]
次に、基板1の撥水膜2が形成された面に開口部を有するマスク3を配置する。開口部を有するマスク3は金属製のマスク3若しくは公知のフォトリソグラフィ技術を用いたレジスト膜からなるマスク3である。マスク3の開口部は、試料積載プレート20のウェル6を含む領域であり、後述する基板1への親水部材5の投射領域に相当する。本実施例では、ウェル6を形成する際にマスク3を用いているが、マスク3を用いず基板1へ親水部材5を投射しても構わない。
【0024】
[ブラスト加工工程:図5(c-1),図5(c-2)]
次に、基板1のウェル6に対応する位置(マスク3の開口部)にノズル4より、親水部材5を投射する(図5(c-1)参照)。この工程では、ウェル6形成部位の撥水膜2を除去するとともに底面部6a及び側面部6bが粗面であるウェル6を形成し、それと同時にウェル6に親水部材5を埋設する(加工後の状態は図5(c-2)参照)。
【0025】
[洗浄工程:図5(d)]
最後に、基板1に配置したマスク3を撤去し、試料積載プレート20を洗浄液で洗浄することでウェル6の底面部6a及び側面部6bの表面に埋設されず付着した親水部材5を除去する。この洗浄では、ウェル6に埋設された親水部材5は十分なエネルギーを持ってウェル6に埋設されているため、その大部分は除去されることはない。以上の工程により、本実施例の試料積載プレート20が得られる。
【0026】
以上、本発明の試料積載プレート及び試料積載プレートの製造方法について、実施例に基づき説明してきたが本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。例えば、試料積載プレート20の製造方法において、基板1に撥水膜2を形成後にウェル6を形成したが、ウェル6を形成後にウェル6を覆うマスクを配置してウェル6の周囲に撥水膜2を形成してもよい。また、試料積載部は底面部6a及び側面部6bを備えたウェル6としたが、試料積載部の中心に向かう傾斜面を備えたすり鉢状の試料積載部としてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 基板
2 撥水膜
3 マスク
4 ノズル
5 投射材
6 ウェル
6a 底面部
6b 側面部
10、20 試料積載プレート
30 試料

図1
図2
図3
図4
図5