(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079478
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】チャック装置
(51)【国際特許分類】
B23B 31/14 20060101AFI20230601BHJP
B23B 31/175 20060101ALI20230601BHJP
B23B 31/18 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
B23B31/14
B23B31/175
B23B31/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192968
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000215763
【氏名又は名称】帝国チャック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】信廣 良二
【テーマコード(参考)】
3C032
【Fターム(参考)】
3C032GG33
3C032HH06
3C032HH11
3C032HH16
3C032HH24
(57)【要約】
【課題】ワークの把持力を切り替える際の作業を簡素化し、遠心力に伴って把持爪によるワークの把握が緩まないようにする。
【解決手段】チャック本体1の中心軸6の軸方向に沿って進退するドローバ8と、チャック本体1に揺動自在に支持されたジョウアクチュエータ10と、ジョウアクチュエータ10の前端に設けられた把持部15と、ジョウアクチュエータ10の後端11に設けられた係合凸部13と、ドローバ8の外周に設けられ係合凸部13が係合する係合凹部5とを備え、係合凸部13は係合凹部5に対して径方向へ移動可能であり、ドローバ8の軸方向への進退によって係合凸部13を軸方向へ押圧することでジョウアクチュエータ10を径方向へ揺動させて把持部15でワークWを把持し、ジョウアクチュエータ10はその後端11にウェイト20を備え、ウェイト20は、チャック本体1に対して付勢手段30によって軸方向前方へ付勢されているチャック装置とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャック本体(1)の中心軸(6)の軸方向に沿って進退するドローバ(8)と、
前記チャック本体(1)に揺動自在に支持されたジョウアクチュエータ(10)と、
前記ジョウアクチュエータ(10)の前端に設けられた把持部(15)と、
前記ジョウアクチュエータ(10)の後端(11)に設けられた係合凸部(13)と、
前記ドローバ(8)の外周に設けられ前記係合凸部(13)が係合する係合凹部(5)と、を備え、
前記係合凸部(13)は前記係合凹部(5)に対して径方向へ移動可能であり、
前記ドローバ(8)の軸方向への進退によって前記係合凸部(13)を軸方向へ押圧することで前記ジョウアクチュエータ(10)を径方向へ揺動させて前記把持部(15)でワーク(W)を把持し、
前記ジョウアクチュエータ(10)はその後端(11)にウェイト(20)を備え、前記ウェイト(20)は、前記チャック本体(1)に対して付勢手段(30)によって軸方向前方へ付勢されているチャック装置。
【請求項2】
前記把持部(15)は前記ジョウアクチュエータ(10)に対して軸方向に平行な揺動中心線周りに揺動自在であり、
前記把持部(15)と前記ジョウアクチュエータ(10)のいずれか一方に底部に向かうにつれて内径が小さくなるすり鉢状の収容凹部(44)を、他方に前記収容凹部(44)に入り込むプランジャ(42)を備え、前記プランジャ(42)は弾性部材(41)によって前記凹部(44)に向かって軸方向へ押圧されている請求項1に記載のチャック装置。
【請求項3】
前記ジョウアクチュエータ10、前記把持部(15)、前記ウェイト(20)、及び、前記把持部(15)並びに前記ウェイト(20)を前記ジョウアクチュエータ(10)に固定するための部材の重量のうち、前記ジョウアクチュエータ(10)の揺動中心(P)より前方側に位置する前方側部分にあたる前方側重量と、前記揺動中心(P)から前記前方側部分の重心位置(G1)までの距離(L1)との積と、前記揺動中心(P)より後方側に位置する後方側部分にあたる後方側重量と、前記揺動中心(P)から前記後方側部分の重心位置(G2)までの距離(L2)との積が等しく設定されている請求項1又は2に記載のチャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、揺動引き込み式のチャック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な揺動引き込み式チャックは、例えば、特許文献1,2に示すように、チャック本体の前面に、ジョウアクチュエータが、チャック本体の中心軸周りに等分方位に複数組配設されている。その各ジョウアクチュエータの前端に、ワークを把持する把持爪が設けられている。
【0003】
各ジョウアクチュエータ中程には、その外面が球面で構成された球状部が設けられている。球状部には、チャック本体の中心軸及びチャック半径方向の双方に直交する揺動軸が挿通されている。ジョウアクチュエータは、その揺動軸を揺動中心として、チャック本体に対して揺動可能に支持されている。また、各ジョウアクチュエータの後端部は、スライディングボールと呼ばれる球面状の外周を有する支持部材を介してアクチュエータフランジの支持穴に挿入されており、その支持穴の球面状の内周と支持部材の球面状の外周とが噛み合って両者が摺動可能に接続されている。
【0004】
アクチュエータフランジは、チャック本体の中心に接続されたドローバにより、チャックの中心軸に沿って軸方向に進退可能となっている。アクチュエータフランジが軸方へ進退するとともに噛み合った球面同士が摺動し、各ジョウアクチュエータの後端部を揺動軸周りに動作させ、チャック本体の径方向へと揺動させる。この揺動により、各ジョウアクチュエータの前端部に取り付けられた把持爪が、ワークを均等な力で、且つ、ワークの軸心をチャック本体の中心軸に一致させて把持できるようになっている。この種のチャック装置は、ワークの軸心をチャック本体の中心軸に一致させた状態でワークを把持する目的に使用されるため、センタライジング(求心)型チャックと総称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-309507号公報(第8頁、第9図参照)
【特許文献2】特開2006-102858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の揺動引き込み式のチャック装置では、ワークを把持する力の強さを変更する際に、掴み直しを必要とする。具体的には、ワークの把持力を高圧から低圧へ切り替える際に、ワークの把持を一旦解放することで、ジョウアクチュエータ等に生じているロック作用を解除した後、所望の把持力で掴み直しを行っている。このような掴み直しの作業は煩雑であり、また作業時間の増大にもつながっている。なお、低圧から高圧へと力を強くする切り替えの場合は、ロック作用を解放しなくてもそのまま把持力を強くできるため、一般的に掴み直しは不要である。
【0007】
また、従来の揺動引き込み式のチャック装置では、チャックの高速回転に伴う遠心力に伴って、把持爪によるワークの把握が緩むことがある。この現象は、特に高い把持爪(径方向への突出長さの大きい把持爪)を使用した場合ほど顕著になる傾向がある。
【0008】
さらに、従来の揺動引き込み式のチャック装置では、把持爪は、リストリクタースプリングによる首振り機構を採用している。このため、把持爪の首振りには抵抗が大きく、特に薄肉ワークに対して歪みを生じさせてしまう恐れがあった。
【0009】
そこで、この発明の課題は、ワークの把持力を切り替える際の作業を簡素化することを第一の課題とし、遠心力に伴って把持爪によるワークの把握が緩まないようにすることを第二の課題とし、把持爪の首振り機能によってワークに歪みを生じさせないようにすることを第三の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明は、チャック本体の中心軸の軸方向に沿って進退するドローバと、前記チャック本体に揺動自在に支持されたジョウアクチュエータと、前記ジョウアクチュエータの前端に設けられた把持部と、前記ジョウアクチュエータの後端に設けられた係合凸部と、前記ドローバの外周に設けられ前記係合凸部が係合する係合凹部とを備え、前記係合凸部は前記係合凹部に対して径方向へ移動可能であり、前記ドローバの軸方向への進退によって前記係合凸部を軸方向へ押圧することで前記ジョウアクチュエータを径方向へ揺動させて前記把持部でワークを把持し、前記ジョウアクチュエータはその後端にウェイトを備え、前記ウェイトは、前記チャック本体に対して付勢手段によって軸方向前方へ付勢されているチャック装置を採用した。
【0011】
ここで、前記把持部は前記ジョウアクチュエータに対して軸方向に平行な揺動中心線周りに揺動自在であり、前記把持部と前記ジョウアクチュエータのいずれか一方に底部に向かうにつれて内径が小さくなるすり鉢状の凹部を、他方に前記凹部に入り込むプランジャを備え、前記プランジャは弾性部材によって前記凹部に向かって軸方向へ押圧されている構成を採用できる。
【0012】
このとき、前記ジョウアクチュエータ、前記把持部、前記ウェイト、及び、前記把持部並びに前記ウェイトを前記ジョウアクチュエータに固定するための部材の重量のうち、前記ジョウアクチュエータの揺動中心より前方側に位置する前方側部分にあたる前方側重量と、前記揺動中心から前記前方側部分の重心位置までの距離との積と、前記揺動中心より後方側に位置する後方側部分にあたる後方側重量と、前記揺動中心から前記後方側部分の重心位置までの距離との積が等しく設定されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、以下に示す効果の少なくとも1つを発揮できる。すなわち、ワークの把持力を切り替える際の作業を簡素化することができ、又は、遠心力に伴って把持爪によるワークの把握が緩まないようにでき、又は、把持爪の首振り機能によってワークに歪みを生じさせないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図9A】引き込み機能を設定する場合に用いる支持部材の拡大断面図
【
図9B】引き込み機能を設定しない場合に用いる支持部材の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態の揺動引き込み式チャック装置(以下、単にチャック装置Aと称する)は、
図1に示すように、チャック本体1の中心軸6上にドローバ8を備え、ドローバ8はチャック本体1の中心軸6に沿って進退可能となっている。ドローバ8は、その前方寄りに固定ボルト8aを介してサポートドローバ9を同心に備えている。以下、ドローバ8と、ドローバ8と一体に軸方向へ進退するサポートドローバ9等を含めて、単にドローバ8と称する。また、チャック本体1の中心軸6の方向を軸方向と称し、中心軸6の中心線を軸心と称し、軸心に直交する方向を径方向と称する。
【0016】
ドローバ8には、ジョウアクチュエータ10が接続されている。ジョウアクチュエータ10は、その先端にワークWに当接する把持部15を備えている。この実施形態では、
図2に示すように、把持部15はチャック本体1の軸心周り等分方位に3つ設けられている。把持部15は、ジョウアクチュエータ10毎に1つずつ設けられるので、ジョウアクチュエータ10もチャック本体1の軸心周り等分方位に同数(3つ)設けられている。ただし、把持部15及びジョウアクチュエータ10の数や方位は、把持対象となるワークやチャック装置Aの仕様に応じて適宜設定される。把持部15の先端15aには、必要に応じて超硬インサートが取り付けられて、ワークWに対する把持トルクの向上、ワークWに接触する把持爪の耐久性向上を図っている。
【0017】
ジョウアクチュエータ10は、チャック本体1に対して径方向へ揺動可能に支持されている。その支持方法は、
図1に示すように、長手状の部材であるジョウアクチュエータ10の長手方向中程に形成された球状部12が、チャック本体10に取り付けられた支持部材(ベアリングレース)16の球面状の内周16aと噛み合って、両者が摺動可能となっている。これにより、ジョウアクチュエータ10の前端は、チャック本体1に対して径方向へ揺動自在である。また、ジョウアクチュエータ10の後端11には、内径側へ伸びる係合凸部13が設けられている。支持部材16は、ハウジング2の端面側より軸回り等分方位の位置に加工された穴18に挿入されて、ハウジング2に対してボルトにて固定されている。なお、チャック本体1の前面には、間隔材4を介してストッパ3が固定されている。ストッパ3は、ワークWに当接することでそのワークWを軸方向に位置決めする。また、実施形態では3つの穴18が設定されているが、穴18の数は、設定するジョウアクチュエータ10の数に合わせて任意に設定できる。
【0018】
ハウジング2は、チャック本体1の前面側に位置する前部ハウジング2aと、後面側に位置する後部ハウジング2bとで構成され、その内側に空間7が形成されている。ジョウアクチュエータ10の後端11は、この空間7内に収納されている。ジョウアクチュエータ10の係合凸部13は、軸方向両側に端面13a,13bを有して、その端面13a,13b間が内径側へ突出している。サポートドローバ9の外周には、係合凹部5が形成されており、ジョウアクチュエータ10の係合凸部13が係合凹部5に収納されている。係合凹部5は、その底面の軸方向両側から外径方向に立ち上がる端面5a,5bを備えている。係合凸部13の外面の端面13a,13bは、係合凹部5の内面の端面5a,5bにそれぞれ摺接するようになっている。また、係合凸部13の内面13cと係合凹部5の底面5cとの間には、隙間aを介在している(
図1参照)。これにより、係合凸部13はサポートドローバ9に対して径方向に移動可能、軸方向へ移動不能である。
【0019】
ドローバ8とともに軸方向へ進退することにより、ジョウアクチュエータ10の係合凸部13が軸方向へ押圧される。この押圧により、ジョウアクチュエータ10の球状部12の外面12aと支持部材16の球面状の内面16aとが摺動し、ジョウアクチュエータ10は球状部12の中心(揺動中心P)回りに揺動する。これにより、前端の把持部15が径方向へ移動する。把持部15の径方向への移動により、把持部15はワークWの外周を把持し、また、その把持を解放することができる。すなわち、ドローバ8とジョウアクチュエータ10との動作機構として、ロック作用のないカムレバー構造を採用している。
【0020】
ここで、ロック作用について説明する。従来のチャック装置では、ジョウアクチュエータが後方へ伸びる軸部を備え、その軸部をドローバ等によって動作するアクチュエータで支持している。このため、チャック本体の軸心方向に対してジョウアクチュエータの軸部の軸線方向が傾斜している(特許文献1,2参照)。アクチュエータがチャック本体の軸心方向に沿って後方へ引かれた場合、互いのクサビ効果によってドローバ及びアクチュエータとジョウアクチュエータとが互いに噛み合ってロックした状態となる。このようなロック作用は、前述のように、ワークの把持力を高圧から低圧へ切り替える際に問題となりやすく、そのロック作用を解除するためには、ワークの把持を一旦解放した後、所望の把持力で掴み直しを行う必要がある。
【0021】
これに対して、この発明のチャック装置では、クサビ効果が発生するような傾斜した軸部がなく、ロック作用が生じない。このため、高圧から低圧への把持力の切り替えの際に掴み直しが不要である。
【0022】
その作用を具体的に説明すると、ワークWが把持される際は、ドローバ8が
図3に示す左側(矢印B)へ後退し、ジョウアクチュエータ10の係合凸部13もその後退方向へ押圧される。このとき、係合凹部5の端面5a,5bと係合凸部13の端面13a,13bとが摺接しながら、ジョウアクチュエータ10は揺動中心P回り(矢印C)に揺動し、前端の把持部15が径方向内側へ移動する(矢印D)。これにより、把持部15はワークWの外周を把持する。このとき、ワークWは把持部15によりやや後方側へ引き込まれて把持され、また、ワークWは前面のストッパ3に当接して軸方向へ位置決めされる。
【0023】
ここで、ジョウアクチュエータ10が揺動する際、係合凸部13は、サポートドローバ9の係合凹部5内で径方向に僅かに移動し、隙間aが拡縮する。係合凸部13が径方向へ移動可能であることから、ワークWの外周の形状に合わせて緩やかな力でワークWを把持し、いわゆる心補償機能を発揮する。心補償機能とは、チャック本体1の軸心とそのワークWの基準点が一致した状態で、ワークWは、その周囲で均等な力で把持されている状態とする機能である。ここで、ジョウアクチュエータ10の係合凸部13は内径側へ突出しており、その係合凸部13が収納される係合凹部5は外径側に向かって開口している。このような係合構造を採用したことにより、従来のチャック装置のようなクサビ効果が発生せず、ロック作用が生じない。
【0024】
また、特に、ジョウアクチュエータ10の係合凸部13の突出方向は、ドローバ8と一体のサポートドローバ9の軸心方向に対して直交している。また、
図8に示すように、ジョウアクチュエータ10及び把持部15は、揺動中心Pを挟んで把持部15の先端15aへ向かう方向線Xと、サポートドローバ9の係合凹部5の中心5a(係合凹部5の軸方向に対する中心線である軸方向中心線Fと係合凹部5の底面との交点)へ向かう方向線Yとが屈曲した状態(内径側へ向く交差角α>90°)であって、テコの原理を利用したカムレバー構造となっている。このような構造を採用したことにより、前述のクサビ効果によるロック作用をより確実に回避できる。
【0025】
一方、ワークWの把持が解放される際は、ドローバ8が
図3に示す右側(矢印Bの反対方向)へ前進し、ジョウアクチュエータ10の係合凸部13もその前進方向へ押圧される。ジョウアクチュエータ10は揺動中心P回り(矢印Cの反対方向)に揺動し、前端の把持部15が径方向外側(矢印Dの反対方向)へ移動する。これにより、把持部15によるワークWの把持が解放される。
【0026】
また、ジョウアクチュエータ10は、その後端11にウェイト20を備えている。ウェイト20は、
図4に示すように、チャック本体1のハウジング2に対して付勢手段30によって軸方向前方へ付勢されている。
【0027】
ウェイト20は、ジョウアクチュエータ10の後端11に設けられた凸状部14が嵌合する凹状部23を備えている。凸状部14は、ジョウアクチュエータ10の後端11において後方へ突出する矩形断面であり、その端面14a、内径面14b、外径面14cはそれぞれフラット面となっている。また、凹状部23は、矩形断面の凹部が後方へ向かって凹む形状であり、その底面23a、内径面23b、外径面23cはそれぞれフラット面となっている。凸状部14が凹状部23に嵌合した状態で、端面14a、内径面14b、外径面14cは、それぞれ底面23a、内径面23b、外径面23cに面接触している。さらに、ウェイト20とジョウアクチュエータ10とは、後方から前方へ向かってねじ込まれたボルト26によって一体化されている。このとき、ジョウアクチュエータ10の凸状部14の外径側に設けられた段部10aの端面11aと、ウェイト20の凹状部23の外径側に設けられた突出部24の端面21bとは隙間をもって対向している。また、ジョウアクチュエータ10の凸状部14の内径側に設けられた段部10bの端面11bと、ウェイト20の凹状部23の内径側に設けられた突出部25の端面21cとは隙間をもって対向している。
【0028】
付勢手段30は、ウェイト20の後端面21aに開口して設けられた孔22内に収容された弾性部材31と、その弾性部材31に接続されたキャップ部材32とを備えている。この実施形態では、弾性部材31としてコイルバネを採用しているが、他の形態からなるバネ、弾性体でもよい。キャップ部材32は、筒状部32aの後端が頭部32bで閉じられ、前端は開放されたキャップ形状である。弾性部材31の前端は孔22の底22aに当接し、弾性部材31の後端はキャップ部材32の前端の開口から内部に入り込んで頭部32b側の底に当接している。キャップ部材32の頭部32bは、前端はウェイト20の後端面21aよりも後方側へ突出しており、その頭部32bは、ハウジング2の奥端面7aに当接している。このとき、弾性部材31は自然長よりもやや圧縮された状態である。このため、ウェイト20は、チャック本体1に対して付勢手段30によって軸方向前方へ付勢された状態である。なお、キャップ部材32の頭部32bを球面状とすると、ハウジング2の奥端面7aに点接触できるので好ましい。
【0029】
この発明によれば、ジョウアクチュエータ10をロック作用のないカムレバー構造を用いて動作するようにしたので、ワークWを把持する力の強さを変更する際に、掴み直しを必要としない。すなわち、ワークWの把持力を高圧から低圧へ切り替える際に、ワークWの把持を一旦解放することなく、そのまま所望の把持力に移行できる。また、ウェイト20を通じてジョウアクチュエータ10は軸方向前方へ付勢されているので、この点においてもワークWの把持力の増減がスムーズである。
【0030】
また、この発明によれば、ジョウアクチュエータ10の後端側にウェイト20を備えているので、チャックの高速回転に伴う遠心力に伴って、把持部15によるワークWの把握が緩むことがない。ジョウアクチュエータ10の揺動中心Pを挟んで、前端の把持部15とは反対側である後端11側にウェイト20を備えたことが、遠心力による把持部15の開き(緩み)防止に有効であり、さらに、回転数変化による把握力の増減が少なくなることによって、回転数の変更に伴って生じるワーク歪みを抑制することができる。
【0031】
ここで、ジョウアクチュエータ10、把持部15、ウェイト20、及び、把持部15並びにウェイト20をジョウアクチュエータ10に固定するための部材の重量のうち、ジョウアクチュエータ10の揺動中心Pより前方側に位置する前方側部分にあたる前方側重量と、揺動中心Pから前方側部分の重心位置G1までの距離L1との積と、揺動中心Pより後方側に位置する後方側部分にあたる後方側重量と、揺動中心Pから後方側部分の重心位置G2までの距離L2との積が等しく設定されていることが望ましい。
【0032】
すなわち、
図8に示すように、軸心を通る任意の断面において、揺動中心Pよりも前方側の部分(前方側部分と称する)の重量、すなわち、ジョウアクチュエータ10、及び、後述の把持部15のベース部15cと爪部材15b、把持部15をジョウアクチュエータ10に固定するための装着部17、プランジャ42、ウェイト20、ウェイト20をジョウアクチュエータ10に固定するためのボルト等の重量のうち、揺動中心Pより前方側に位置する部分の部材の合計重量(前方側重量と称する)と、揺動中心Pから前方側部分の重心位置G1までの距離L1との積と、揺動中心Pよりも後方側の部分(後方側部分と称する)の重量、すなわち、ジョウアクチュエータ10、及び、後述の把持部15のベース部15cと爪部材15b、把持部15をジョウアクチュエータ10に固定するための装着部17、プランジャ42、ウェイト20、ウェイト20をジョウアクチュエータ10に固定するためのボルト等の重量のうち、揺動中心Pより後方側に位置する部分の部材の合計重量(後方側重量と称する)と、揺動中心Pから後方側部分の重心位置G2までの距離L2との積が等しくなる配置、又は、重量であることが望ましい。すなわち、チャック本体1の回転時に、揺動中心Pを支点として、前方側部分にあたる前方側重量と後方側部分にあたる後方側重量がその遠心力で釣り合う状態であれば、把持部15に作用する遠心力が相殺されるため、安定した望ましい把持状態となり得る。この状態とするために、ジョウアクチュエータ10の後端11側にウェイト20を備えることが有効である。以上のように設定することで、把持部15に作用する遠心力(把持部15が外径側へ開こうとする力)を、ウェイト20に作用する遠心力によって相殺する効果をより高めることができる。
【0033】
なお、
図8では、揺動中心Pと重心G1を結ぶ線と、揺動中心Pと重心G2を結ぶ線が一直線上にあり、また、その方向が軸方向に平行となっており、前方側と後方側とで遠心力のバランスを考慮すると、このような態様が望ましい。ただし、揺動中心Pと重心G1を結ぶ線と、揺動中心Pと重心G2を結ぶ線の両方、又は、そのいずれかが軸方向に対して角度をもっている態様を採用してもよい。
【0034】
また、この発明によれば、ジョウアクチュエータ10を前方へ付勢する付勢手段30を備えたことにより、支持部材16であるベアリングレースの交換によりチャックの引き込み機能の有無も切り替え可能である。
図7は、ワークWの把持を解除したアンクランプ状態を示している。
図8は、ワークWを把持したクランプ状態を示している。
図7及び
図8において、支持部材16として、引き込み機能に対応した
図9Aに示すものを用いている。
図9Aに示す支持部材16は、その内面が、球面部16aと円筒面部16bとで構成されている。球面部16aは、中央の円筒面部16bを挟んで前方側と後方側に分断されて設けられている。円筒面部16bは、チャック本体1の前後方向に対して微小な長さvとなっている。
【0035】
アンクランプ状態では、
図7に示すように、ジョウアクチュエータ10は、付勢手段30の付勢力によって前方側へ移動している。このため、ジョウアクチュエータ10の球状部12の後方側において、支持部材16との間で隙間w1が介在している。クランプ状態になると、
図8に示すように、ジョウアクチュエータ10は、付勢手段30の付勢力に抗して後方側へ移動している。このため、ジョウアクチュエータ10の球状部12の前方側において、支持部材16との間で隙間w2が介在している。この後方側への移動により、ワークWは、チャック本体1の前面のストッパ3側に引き込まれた状態で把持される。なお、引き込み機能を求めない場合は、
図9Bに示す支持部材16を用いることができる。
図9Bに示す支持部材16は、円筒面部16bを備えず、球面部16aのみで内面が構成されている。
【0036】
また、この実施形態では、把持部15はそれぞれ首振機構40を備えている。首振機構40は、ワークWの種別やチェック装置Aの仕様に応じて選択的に採用できる。
【0037】
把持部15は、
図1及び
図5に示すように、ジョウアクチュエータ10の前端に設けられた装着部17に着脱可能に取り付けられている。装着部17は、
図5及び
図6に示すように、両側側方(チャック本体1の円周方向)へ突出する張り出し部56と、その張り出し部56よりも後方に位置する溝部57を備えている。把持部15は、
図1に示すように、装着部17に固定されるベース15cと、そのベース部15cに固定される爪部材15bとを備えている。爪部材15bの内径側端がワークWを把持する先端15aである。ベース部15cは、首振機構40の一部を構成する支持部材51を介して、装着部17に固定されている。
【0038】
支持部材51は、
図6に示すように、装着部17を囲む凹状の断面形状となっている。支持部材51は、装着部17の張り出し部56が入り込む溝部55と、装着部17の溝部57に入り込む張り出し部54を、それぞれ両側に備えている。装着部17の張り出し部56が支持部材51の溝部55に嵌合し、装着部の溝部57に支持部材51の張り出し部54が嵌合した状態で、支持部材51とジョウアクチュエータ10(装着部17)とは、前方から後方へ向かってねじ込まれたボルト17aによって一体化されている。
【0039】
装着部17の張り出し部56の先端面と支持部材51の溝部55の底面との間、及び、装着部17の溝部57の底面と支持部材51の張り出し部54の先端面との間には、それぞれ、隙間w1,w2,w3,w4が設定されている。このため、装着部17に対して支持部材51は、その隙間w1,w2,w3,w4を拡縮する方向へ首振り自在である。その首振り方向は、
図2に示す矢印X、Y方向に相当する。なお、ボルト53aとナット53bとからなるロック手段53を用いれば、装着部17に対して支持部材51を任意の揺動位置でロックでき、首振り機能を停止できる。
【0040】
ここで、首振機構40は、把持部15とジョウアクチュエータ10のいずれか一方に底部に向かうにつれて内径が小さくなるすり鉢状の凹部44を、他方にその凹部44に入り込むプランジャ42を備えている。プランジャ42は弾性部材41によって凹部44に向かって軸方向へ押圧されている。この実施形態では、
図6に示すように、装着部17側に凹部44を支持部材51側にプランジャ42を設けたが、これを逆にして、装着部17側にプランジャ42を支持部材51側に凹部44を設けてもよい。
【0041】
プランジャ42は、支持部材51の後端面に開口して設けられた孔内に収容された弾性部材41と、その弾性部材41に接続されたキャップ部材42とを備えている。この実施形態では、弾性部材41としてコイルバネを採用しているが、他の形態からなるバネ、弾性体でもよい。キャップ部材42は、筒状部42aの後端が頭部42bで閉じられ、前端は開放されたキャップ形状である。弾性部材41の前端は、孔の底を塞ぐように支持部材51に固定された閉塞板52に当接している。弾性部材41の後端はキャップ部材42の前端の開口から内部に入り込んで頭部42b側の底に当接している。キャップ部材42の頭部42bは、すり鉢状の凹部44に入り込んでいる。このとき、弾性部材41は自然長よりもやや圧縮された状態である。
【0042】
支持部材51が把持部15とともに、
図2に示す矢印X、又は、矢印Y方向へ首振りしようとすると、プランジャ42の頭部42bが凹部44内から離脱する方向に移動しようとする。しかし、プランジャ42は、チャック本体1の軸方向に沿って後方側に付勢されているので、プランジャ42の頭部42bが凹部44の最深部(中立位置と称する)に戻る方向に支持部材51を付勢する。この付勢方向は、
図2に示す矢印Xとは逆向き、又は、矢印Y方向とは逆向きであるので、ワークWの形状に合わせて把持部15が首振りしようとする動きに対し、把持部15は中立位置に戻ろうとする方向への緩やかな弾性力でもって、ワークWを把持することができる。
【0043】
従来の揺動引き込み式のチャック装置では、把持爪に設定される首振り機構としてリストリクタースプリング(例えば、把持爪の首振り方向に沿ってコイル軸心を配置したコイルバネ等)を採用していたため、把持爪の首振りには抵抗が大きく、特に薄肉ワークに対して歪みを生じさせてしまう恐れがあった。しかし、この発明によれば、把持部15の首振りに際し、チャック本体1の軸方向へ弾性力が作用する弾性部材及びプランジャを採用したので、緩やかな弾性力でもってワークWを把持し、ワークWに歪みを生じさせない。
【0044】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び、その範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0045】
1 チャック本体
2 ハウジング
5 係合凹部
6 中心軸
8 ドローバ
10 ジョウアクチュエータ
11 後端
12 球状部
13 係合凸部
15 把持部
41 弾性部材
42 プランジャ
44 収容凹部
A チャック装置
F 軸方向中心線
G 重心
P 揺動中心
W ワーク