(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079486
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】触覚提示装置
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20230601BHJP
【FI】
G06F3/041 480
G06F3/041 590
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192976
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】518078142
【氏名又は名称】上海天馬微電子有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】竹内 伸
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 浩史
(57)【要約】
【課題】パネルの表面の触覚提示領域において、触覚を与える位置を適切に制御する。
【解決手段】触覚提示装置は、パネルと、パネルの第1端部を固定支持する第1支持部と、パネル上においてユーザによるタッチの対象となる対象領域を挟んで第1支持部と対向する位置に配置された振動発生装置と、振動発生装置に駆動信号を与える駆動制御装置と、を含む。駆動制御装置は、振動発生装置のみを振動させて、対象領域を含む振動発生装置と第1端部との間の領域に、定在波を形成する。振動発生装置からの伝搬波の第1端部における第1振動反射率は負である。振動発生装置を挟んで、第1端部の反対側のパネルの第2端部における振動発生装置からの伝搬波の第2振動反射率は、第1振動反射率より大きい。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触覚提示装置であって、
パネルと、
前記パネルの第1端部を固定支持する第1支持部と、
前記パネル上において、ユーザによるタッチの対象となる対象領域を挟んで、前記第1支持部と対向する位置に配置された振動発生装置と、
前記振動発生装置に駆動信号を与える駆動制御装置と、
を含み、
前記駆動制御装置は、前記振動発生装置のみを振動させて、前記対象領域を含む前記振動発生装置と前記第1端部との間の領域に、定在波を形成し、
前記振動発生装置からの伝搬波の前記第1端部における第1振動反射率は負であり、
前記振動発生装置を挟んで、前記第1端部の反対側の前記パネルの第2端部における前記振動発生装置からの伝搬波の第2振動反射率は、前記第1振動反射率より大きい、
触覚提示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の触覚提示装置であって、
前記第2振動反射率の絶対値は、前記第1振動反射率の絶対値より小さい、
触覚提示装置。
【請求項3】
請求項2に記載の触覚提示装置であって、
前記第2端部を支持する第2支持部をさらに含み、
前記第2支持部の前記パネルと接触する部分の弾性率は、前記第1支持部の前記パネルと接触する部分の弾性率より小さく、
前記第2支持部の前記パネルと接触する部分の粘性率は、前記第1支持部の前記パネルと接触する部分の粘性率より小さい、
触覚提示装置。
【請求項4】
請求項1に記載の触覚提示装置であって、
前記駆動制御装置は、
前記パネル上で検出された複数の同時タッチ位置において、触覚不提示のタッチ位置を決定し、
前記触覚不提示のタッチ位置が節となる定在波が生成されるように前記振動発生装置を駆動制御する、
触覚提示装置。
【請求項5】
請求項4に記載の触覚提示装置であって、
前記駆動制御装置は、前記触覚不提示のタッチ位置が節となる複数の定在波において、前記振動発生装置の振動が基準振動数に最も近くなる定在波を選択し、
前記基準振動数において、前記振動発生装置から伝搬波と前記第2端部での反射波とは、前記振動発生装置と前記第1端部との間で強め合う、
触覚提示装置。
【請求項6】
請求項5に記載の触覚提示装置であって、
前記第2振動反射率は正であり、
前記振動発生装置の中心と前記第2端部における反射端との間の距離は、前記振動発生装置により発生する定在波の波長の(n/2-1/6からn/2+1/6)倍であり、nは0以上の整数である、
触覚提示装置。
【請求項7】
請求項5に記載の触覚提示装置であって、
前記第2振動反射率は負であり、
前記振動発生装置の中心と前記第2端部における反射端との間の距離は、前記振動発生装置により発生する定在波の波長の(n/2+1/12からn/2+5/12)倍であり、nは0以上の整数である、
触覚提示装置。
【請求項8】
請求項4に記載の触覚提示装置であって、
前記振動発生装置は、前記対象領域を挟んで前記第1支持部と対向する位置に配置された第1内部振動装置と第2内部振動装置とを含み、
前記第1内部振動装置は、前記第2内部振動装置と前記対象領域との間に配置され、
前記駆動制御装置は、前記触覚不提示のタッチ位置が節となる複数の定在波において、前記振動発生装置の振動が基準振動数に最も近くなる定在波を選択し、
前記基準振動数において、前記第1内部振動装置からの伝搬波と前記第2内部振動装置前記第2端部での反射波とは、前記振動発生装置と前記第1端部との間で強め合う、
触覚提示装置。
【請求項9】
請求項8に記載の触覚提示装置であって、
前記第1内部振動装置と前記第2内部振動装置との間の距離は、前記振動発生装置により発生する定在波の波長の(n/2+1/6からn/2+1/3)倍であり、nは0以上の整数である、
触覚提示装置。
【請求項10】
請求項1に記載の触覚提示装置であって、
前記振動発生装置は第1振動発生装置であり、
前記触覚提示装置は、第2振動発生装置と第2支持部をさらに含み、
前記第1振動発生装置は、前記パネルの第1辺の近傍に配置され、
前記第2振動発生装置は、前記第1辺の前記パネルの隣接辺の近傍に配置され、
前記第2支持部は、前記対象領域を挟んで、前記第2振動発生装置と対向する位置に配置され、
前記駆動制御装置は、前記第1振動発生装置と前記第2振動発生装置から選択した一方のみを駆動する、
触覚提示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、触覚提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン及びカーナビゲーション等、タッチパネルを搭載する電子機器が普及している。ユーザが、タッチパネルを介して表示されるユーザインタフェースに含まれるアイコン等のオブジェクトを操作した場合、電子機器は、当該オブジェクトに対応する機能を作動させる。
【0003】
タッチパネルの表面は一様に硬いため、ユーザの指がタッチパネルのどの部分に触れても同じ触覚を与える。そのため、オブジェクトの存在を知覚させる、又は、オブジェクトに対応する機能が作動した場合そのための操作を受け付けたことを知覚させる、フィードバックを、ユーザに提供する技術が知られている。当該技術は、タッチパネルの表面を振動させることで、タッチしている指に触覚を提示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0115734号
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/0081542号
【特許文献3】特開2017-49829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触覚提示装置において、パネル上の特定の領域がタッチされた場合に触覚を提示し、それらの領域外では触覚を提示しないことが求められることがある。例えば、タッチパネル付き表示装置において、ユーザの選択肢を示すUI(User Interface)部品と、それ以外の背景領域が表示されることがある。UI部品の一つがユーザによりタッチされると、表示装置を含むシステムは、タッチされたUI部品に応じた処理を行う。このような構成において、システムは、UI部品において触覚を提示し、背景領域においては触覚を提示しない。
【0006】
上記例において、UI部品と背景領域とが、異なる指によって同時にタッチされることがある。このような場合、システムは、UI部品をタッチしている指には触覚を与え、背景領域をタッチしている指には触覚を提示しないことが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様の触覚提示装置は、パネルと、前記パネルの第1端部を固定支持する第1支持部と、前記パネル上においてユーザによるタッチの対象となる対象領域を挟んで前記第1支持部と対向する位置に配置された振動発生装置と、前記振動発生装置に駆動信号を与える駆動制御装置と、を含む。前記駆動制御装置は、前記振動発生装置のみを振動させて、前記対象領域を含む前記振動発生装置と前記第1端部との間の領域に、定在波を形成する。前記振動発生装置からの伝搬波の前記第1端部における第1振動反射率は負である。前記振動発生装置を挟んで、前記第1端部の反対側の前記パネルの第2端部における前記振動発生装置からの伝搬波の第2振動反射率は、前記第1振動反射率より大きい。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様は、パネルの表面の触覚提示領域において、触覚を与える位置を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本明細書の一実施形態に係る触覚提示装置の斜視図を示す。
【
図1B】
図1AにおけるIB-IB切断線での触覚提示装置の断面図を示す。
【
図2】本明細書の一実施形態に係る触覚提示装置10の構成例を模式的に示す。
【
図3】触覚提示装置10の駆動制御を説明するための模式図である。
【
図4】波形合成装置による駆動信号の生成及び振動発生装置の振動による定在波を説明するための模式図である。
【
図5】触覚提示パネルにおけるパネル面の定在波の振動を模式的に示す。
【
図6】定在波の周波数と、定在波の節の位置との関係を模式的に示す。
【
図7A】自由端の定在波の腹振幅及び節振幅の実験結果のグラフを示す。
【
図7B】固定端の定在波の腹振幅及び節振幅の実験結果のグラフを示す。
【
図7C】吸収端の定在波の腹振幅及び節振幅の実験結果のグラフを示す。
【
図8】制御回路による上記方法を説明するための図である。
【
図9】振動発生装置側端が自由端の特性を有し、その反射率が正である構成における、振動発生装置の位置を示す。
【
図10】
図9の状態において、振動発生装置が振動を開始してからの伝搬波、反射波及び合成波の変化を示す。
【
図11】振動発生装置側端が固定端の特性を有し、その反射率が負である構成における、振動発生装置の位置を示す。
【
図12】
図11の状態において、振動発生装置が振動を開始してからの伝搬波、反射波及び合成波の変化を示す。
【
図13】直列に配列された振動発生装置を含む触覚提示装置の構成例を模式的に示す。
【
図14A】本明細書の一実施形態に係る触覚提示装置の構成例の動作を示す。
【
図14B】本明細書の一実施形態に係る触覚提示装置の構成例の動作を示す。
【
図15】は、本明細書の一実施形態に係る触覚提示装置の構成例の動作を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、図面を参照して実施形態を具体的に説明する。各図において共通の構成については同一の参照符号が付されている。説明をわかりやすくするため、図示した物の寸法、形状については、誇張して記載している場合もある。
【0011】
以下において、パネルにタッチしている指示体、例えば指に触覚を提示する触覚提示装置が説明される。触覚提示装置において、パネル上の特定の領域がタッチされた場合に触覚を提示し、それらの領域外では触覚を提示しないことが求められることがある。例えば、タッチパネル付き表示装置において、ユーザの選択肢を示す選択肢領域と、それ以外の背景領域が表示されることがある。
【0012】
選択肢領域の一つがユーザによりタッチされると、システムは、タッチされた選択肢に応じた処理を行う。このような構成において、システムは、選択肢領域において触覚を提示し、背景領域においては触覚を提示しない。上記例において、選択肢を示す領域とそれ以外の領域とが、異なる指によって同時にタッチされることがある。このような場合、システムは、選択肢領域をタッチしている指には触覚を与え、背景領域をタッチしている指には触覚を提示しないことが求められる。
【0013】
表示される画像は一定であるとは限らない。表示画像が変化すると、触覚を提示する選択肢領域と、触覚を提示しない背景領域も変化し得る。また、タッチ面を同時にタッチしている複数の指において、触覚を提示する指と触覚を提示しない指の位置は、常に一定ではない。タッチされている指の位置に応じて、触覚を提示する位置と触覚を提示しない位置とを制御することが求められることがあり得る。
【0014】
本明細書の一実施形態の触覚提示装置は、パネル上に、触覚提示領域を挟んで対向する振動発生装置と支持部とを含む。この振動発生装置と支持部との間に他の振動発生装置は存在しない。振動発生装置からの伝搬波によって、触覚提示領域に、支持部の近傍に節を有する定常波が形成される。触覚提示装置は、振動発生装置の振動数を制御することで、定在波の節の位置を制御することができる。触覚提示装置は、定常波の節の位置を制御することで、パネルにおける複数のタッチ位置から選択したタッチ位置のみに触覚を提示することができる。
【0015】
<装置構成>
図1A及び1Bは、本明細書の一実施形態に係る触覚提示装置10の構成例を模式的に示す。
図1Aは、触覚提示装置10の斜視図を示し、
図1Bは、
図1AにおけるIB-IB切断線での触覚提示装置10の断面図を示す。
図1A及び1Bにおいて、触覚提示装置10を駆動制御する駆動制御装置は省略されている。
【0016】
触覚提示装置10は、ユーザに対して、少なくとも一つのオブジェクト(画像)を含むUI(ユーザインタフェース)を提示し、UIを介した操作を受け付ける。また、触覚提示装置10は、UIに含まれるオブジェクトの操作を知覚させるための触覚をユーザに提供する。
図1A及び1Bに示す触覚提示装置10の構成要素は、例えば、任意の筐体内に格納されてよい。
【0017】
触覚提示装置10は、触覚提示パネル100及び表示装置103を含む。
図1Aに示すように、触覚提示パネル100の表面に、タッチ対象領域104が存在する。タッチ対象領域104は、ユーザによってタッチされる対象となる領域であって、触覚を提示する触覚提示領域である。タッチ対象領域104において実際に触覚が提示される位置(触覚提示部分領域)及び触覚が提示されない位置(触覚不提示部分領域)は動的に変化し得る。
【0018】
以下において、説明の容易化のため、触覚提示パネル100をタッチする指示体が指であるとする。
図1Aにおいて、二本の指111、112によって同時に、タッチ対象領域104内の異なる位置がタッチされている。
【0019】
図1Bに示すように、触覚提示パネル100は、ガラスや樹脂で形成された絶縁基板102と絶縁基板102上に形成されたタッチ電極パターン101を含む。触覚提示パネル100は、触覚提示パネルであると同時に、タッチパネルでもある。タッチ電極パターン101は、その前面であるタッチ面にタッチしたユーザの指の位置を検知することを可能とする。タッチ電極パターン101の一部又は全部は、タッチ対象領域104内に存在する。
【0020】
タッチ電極パターン101は、指示体による触覚提示パネル100のタッチ位置を検出することを可能とする。タッチ電極パターン101によるタッチ検出は、任意の方式により実現可能であり、例えば、抵抗膜方式、表面静電容量方式又は投影静電容量方式を使用することができる。
【0021】
触覚提示パネル100の後側(背面側)に、表示装置103が配置されている。以下において、触覚提示パネル100を使用するユーザが位置する側を、前側と呼ぶ。前側の反対側を、後側又は背面側と呼ぶ。
【0022】
表示装置103は、タッチ対象領域104において、オブジェクトを含むUI画像を表示する。表示装置103は、任意のタイプの表示装置であってよく、例えば、OLED(Organic Light Emitting Diode)表示装置、液晶表示装置、又はマイクロLED表示装置を使用することができる。
【0023】
触覚提示装置10は、触覚提示パネル100の第1端部を固定する固定部材107、第1端部と対向する第2端部に装着された振動吸収部材108を含む。固定部材107は、第1端部に直接に接触し、第1端部において触覚提示パネル100の表面の伝搬波(伝搬振動)が実質的に固定端反射するように、第1端部を固定して支持する。固定部材107は、例えば樹脂又は金属で形成することができるがこれらに限定されない。
【0024】
振動吸収部材108は、第2端部に接触し、第2端部において触覚提示パネル100の表面の伝搬波をより多く吸収し、反射波がより多く減衰できるように、粘弾性を有する。振動吸収部材108における伝搬波の吸収率は、固定部材107より大きく、第2端部における伝搬波の反射率の絶対値は、第1端部より小さい。振動吸収部材108の弾性率は固定部材107より小さく、振動吸収部材108の粘性率は固定部材107より小さい。第2端部は、振動吸収部材108を介して不図示の支持部材により支持される。
【0025】
振動吸収部材108は、ゴム、エラストマ、又は樹脂で形成することができるが、これらに限定するものではない。振動吸収部材108、粘弾性のある材料で構成される又はその構造によって粘弾性の性質が実現されてもよい。
【0026】
振動吸収部材108とタッチ対象領域104との間に、振動発生装置105が配置されている。振動発生装置105は、振動することによってタッチ対象領域104の表面を振動させ、タッチしている指示体に触覚を提示することを可能とする。
【0027】
図1A及び1Bに示す構成例において、触覚を提示するために触覚提示パネル100を振動させる振動発生装置は、振動発生装置105のみである。タッチ対象領域104及び固定部材107とタッチ対象領域104と間の領域から、振動する素子(振動発生素子)は、除外されている。なお、振動発生装置105は、1又は複数の振動発生素子を含み得る。
【0028】
本構成例において、触覚提示パネル100は矩形であり、固定部材107は触覚提示パネル100の直線状の1辺に装着され、振動吸収部材108は対向する1辺に装着されている。振動発生装置105は、一つの振動発生素子で構成され、タッチ対象領域104の辺に沿って延びている。振動発生装置105は、タッチ対象領域104を挟んで、固定部材107と対向する位置に配置されている。
【0029】
振動発生装置105は、例えば、圧電装置であり、触覚提示パネル100の主面に垂直な方向に振動する。なお、後述するように振動発生装置105と固定部材との間に定在波を形成することができれば、振動発生装置105の振動態様は任意である。振動発生装置105は、予め形成された装置を絶縁基板102上に配置することで実装してもよく、絶縁基板102上に薄膜形成プロセスにより直接形成してもよい。
【0030】
後述するように、振動発生装置105が振動することによって、振動発生装置105と固定部材107との間に縞状の定在波を形成することができる。固定部材107で固定された端部は、固定端であって、定在波の節となる。固定端は、伝搬波を反射する反射端でもある。定在波の振幅は触覚提示パネルの主面に垂直な方向(
図1BにおけるZ軸方向)である。例えば、固定部材107から振動発生装置105に向かう方向(
図1AにおけるX軸方向)に、節と腹とが交互に現れる。腹と節は、固定部材107が延びる方向(
図1AにおけるY軸方向)に沿って延びる。なお、定在波のパターンは設計により決定され得る。
【0031】
振動発生装置105の振動数が変化すると、定在波の節と腹の位置が変化する。このため、振動発生装置105の振動数を制御することで、タッチ対象領域104において触覚を提示する位置(領域)と触覚不提示の位置(領域)とを制御することができる。
【0032】
図2は、本明細書の一実施形態に係る触覚提示装置10の構成例を模式的に示す。
図1Aに示す構成例との相違は、振動発生装置115の構造である。
図2の構成例において、振動発生装置115は、振動吸収部材108及びタッチ対象領域104の間において、これらに沿って配列された複数の振動発生素子で構成されている。これにより、小さい振動発生素子しか準備できない場合でも、タッチ対象領域104全体に所望の定在波を形成することができる。複数の振動発生素子は、例えば、同様に(同一の周波数、振幅及び位相で)振動するように駆動される。
【0033】
上述のように、触覚提示パネルの片端を固定部材で固定支持し、対向端に振動吸収部材を配置し、対向端近傍に振動発生装置を配置することで、触覚提示パネル表面上の振動発生装置と固定部材との間の領域に、振動発生装置の周波数に応じた任意波長の安定した定在波を発生させることができる。
【0034】
定在波は、振幅が大きい位置と振幅が小さい位置が存在するため、触覚提示位置の振幅が大きく、触覚不提示位置の振幅が小さい定在波を生成することで、同時にタッチしている指の一方のみに触覚を提示することができる。なお、対向端に振動吸収部材を配置せず、対向端が開放された自由端であってもよい。後述するように、対向端に吸収部材を配置する又は開放状態とすることで、対向端を他端と同様に固定部材で直接支持する構成と比較して、安定した定在波を生成することが可能となる。
【0035】
<駆動制御構成>
図3は、触覚提示装置10の駆動制御を説明するための模式図である。触覚提示装置10の駆動制御装置は、制御装置201及び駆動装置である波形合成装置203を含む。制御装置201は、表示装置103を制御して所望の画像を触覚提示パネルの透明絶縁基板102を介してユーザに提示する。
【0036】
制御装置201は、プログラムを実行する1以上の演算装置と1以上の記憶装置を含むことができる。演算装置は、例えば、プロセッサ、GPU(Graphics Processing Unit)、及びFPGA(Field Programmable Gate Array)等を含むことができる。記憶装置は、制御装置201が使用するプログラム及びデータを格納する。記憶装置は、揮発性又は不揮発性メモリを含むことができる。記憶装置は、プログラムが使用するワークエリアを含む。
【0037】
制御装置201は、表示装置103及び触覚提示パネル100を制御するための機能部(モジュール)として動作する。具体的には、制御装置201は、タッチ検出、表示制御及び触覚制御を行う。表示制御は、表示装置103でのUIの表示を制御する。具体的には、表示制御は、UIの設定情報を記憶装置から取得し、当該情報に基づいて、少なくとも一つのオブジェクトを含むUIが表示されるように表示装置103を制御する。
【0038】
制御装置201は、タッチ電極パターン101を駆動し、タッチ電極パターン101から受信した信号に基づいて、絶縁基板102上で1又は複数の指にタッチされている位置を検出する。制御装置201は、検出した指のタッチ位置にもとづいて表示装置103で表示する画像を制御すると共に、振動発生装置105を制御する。
【0039】
例えば、指112が特定のオブジェクト画像と対応する位置をタッチし、指111が背景領域をタッチしているとする。制御装置201は、指112における振幅が大きく、指111における振幅が小さい定在波を生成するように、振動発生装置105を制御する。
【0040】
制御装置201は、波形合成装置203を制御することによって、振動発生装置105を所望の周波数で振動するように駆動信号Vを生成する。波形合成装置203は、搬送波発振器211と変調波発生器212とを含む。搬送波発振器211は、制御装置201から指定された周波数の正弦波を搬送波Wとして出力する。変調波発生器212は、搬送波Wを変調する変調波Sを出力する。変調波は所定の窓関数を有する。搬送波Wと変調波Sの剛性波が振動発生装置105を駆動する駆動信号Vである。
【0041】
触覚提示パネル100(絶縁基板102)は、両端を支持部231及び232でそれぞれ支持されている。支持部231は固定部材107で構成され、支持部232は振動吸収部材108及び支持部材235で構成されている。支持部材235は、例えば、固定部材107と同材料で形成されてよい。支持部232は、振動吸収部材108を介して、支持部材235によって絶縁基板102の端部を支持する。
【0042】
上述のように、支持部231に指示された絶縁基板102の第1端部は、伝番波の固定端として機能する。一方、支持部232に支持された絶縁基板102の第2端部は、固定端より伝番波をより大きく吸収する吸収端として機能する。振動発生装置105は、支持部231より支持部232に近い位置に配置されている。
【0043】
振動発生装置105と支持部231との間の領域に、支持部231により支持された端部を節とする定在波251が生成される。定在波251は、定在波の最大振幅を示している。定在波251の周波数は、振動発生装置105の周波数に依存する。振動発生装置105の周波数を変化させることで、所望の周波数の定在波を生成することができる。
【0044】
複数の指がタッチ対象領域104をタッチしているとき、定在波の周波数を選択することで、特定の指に選択的に触覚、例えば、クリック感を提示することができる。具体的には、クリック感を与える指の位置が腹の位置に近く、クリック感を与えない指の位置が節の近くになる定在波が生成される。
【0045】
なお、触覚提示パネル100は、さらに、力センサを含んでもよい。力センサは、触覚提示パネル100の主面に垂直な方向に対してユーザに加えられた力を検知する。触覚制御部113は、例えば、タッチ電極パターン101上で特定領域がタッチされ、かつ、力センサにより検知された値が閾値を超える場合に、振動発生装置105を振動させる。なお、制御装置201が有する各機能部については、複数の機能部を一つの機能部にまとめてもよいし、一つの機能部を機能毎に複数の機能部に分けてもよい。
【0046】
<駆動波形の生成>
図4は、波形合成装置203(
図3参照)による駆動信号Vの生成及び振動発生装置105の振動による定在波を説明するための模式図である。制御装置201(
図3参照)は、タッチを検出した近接した2本の指のうち、触覚を知覚させない指の位置が定在波の節の近傍になるように、振動発生装置105の振動の周波数を決定する。これにより、近接した2本の指のうち片方の指にのみ触覚を知覚させることが可能となる。
【0047】
制御装置201は、タッチ電極パターン101からの信号に基づき、同時に絶縁基板102をタッチしている2本の指のタッチ位置を検出する。設定に従って、制御装置201は、2つの指のうち触覚を提示しない指を決定する。例えば、背景領域をタッチしている指が選択される。
【0048】
制御装置201は、振動発生装置105へ与える駆動信号の周波数と生成される定在波の節の位置とを関連づける情報を予め保持している。制御装置201は、例えば、検出された一方の指の位置が節から所定距離内にあり、他方の指の位置が節から所定距離より離れた位置にある定在波を選択する。制御装置201は、その定在波に対応する駆動信号Vを生成するように、波形合成装置203を制御する。このように、制御装置201は、近接した2本の指のうち片方の指にのみ振動を伝えることが可能となる。すなわち、任意の場所で振動を起こし、同時に任意の場所で振動をなくすことが可能となる。
【0049】
図4に示すように、搬送波発振器211は、制御装置201からの指示に従って、周波数fcの正弦波Wを生成する。周波数fcは、例えば、数100Hzから数kHzの範囲内にある。
【0050】
変調波発生器212は、予め設定された変調波Sを生成して出力する。変調波Sは、漸増及び漸減する窓関数波形を有する。窓関数波形は、触覚刺激を特徴づける2Hz~100Hzの周波数成分により構成される波形とする。これにより、より適切に選択的な指への触覚提示が可能となる。
【0051】
周波数fcの正弦波Wは、触感を知覚させる波形を有する変調波Sで変調され、駆動信号である、合成波形Vが生成される。駆動信号Vは、振動発生装置105に与えられ、振動発生装置105は、駆動信号Vに応じて振動する。
【0052】
振動発生装置105からから絶縁基板102に振動が伝わり、定在波251が形成される。振動源である振動発生装置105から、絶縁基板102の表面を伝搬する波は、固定部材107により支持された固定端で反射し、定在波251を形成する。指112は、定在波251の節から外れた位置にある。また、
図4の例において、指112は、定在波251の腹の近傍に位置する。指112の位置において大きな振動が発生し、包絡線の振動がユーザに知覚される。一方、指111は、定在波251の節の近傍位置をタッチしている。節においては、伝搬波が打ち消しあうため、振動が非常に小さい。そのため、指111は、絶縁基板102表面での振動を感じない。
【0053】
<パネル振動>
図5は、触覚提示パネル100におけるパネル面(タッチ面)の定在波の振動を模式的に示す。
図5は、異なる振動状態S11からS18を示す。
図5において、破線271は定在波の最大振幅を示す。実線272は、各振動状態での定在波の実際の波形を示す。
図5において、一つの破線及び一つの実線が、例として、符号271及び272で指示されている。
【0054】
振動状態S11からS18は、異なる位相の定在波の状態を示す。具体的には、振動状態S11から18は。それぞれ、位相φ=0°、45°、90°、135°、180°、225°、270°、315°での定在波の状態を示す。定在波の最大振幅は、例えば、2μmから100μmの範囲内である。パネル面は、指112の位置では大きく振動するが、指111の位置ではほとんど振動しない。そのため、ユーザは、指112でのみ振動を知覚する。
【0055】
図6は、定在波の周波数と、定在波の節の位置との関係を模式的に示す。グラフ300A、300B、300Cは、異なる周波数を有する定在波の、パネル表面上の位置と最大振幅との関係を示す。グラフ300A、300B、300Cは、それぞれ、定在波の最大振幅の波形301A、301B、301Cを示す。グラフ300Aの定在波301Aの周波数が最も小さく、グラフ300Cの定在波301Cの周波数が最も大きい。パネル上の位置は、例えば、
図1A、1Bに示すX軸上の位置である。
【0056】
破線303A、303B、303Cは、定在波の周波数の変化に対する、節の位置の変化を示す。破線303Aは、固定端の次の節(1番目の節)の、各周波数の定在波での位置を示す。破線303Bは、2番目の節の、各周波数の定在波での位置を示す。破線303Cは、3番目の節の、各周波数の定在波での位置を示す。
【0057】
図6に示すように、定在波の周波数に応じて、節の数及び位置は変化する。節の位置は、振動発生側端部の振動吸収率に依存せず、独立である。制御装置201は、振動発生装置105の駆動信号の周波数fcと節の位置とを関連づける管理情報を保持している。この管理情報の生成においては、定在波の周波数を介して、駆動信号の周波数fcと節の位置とを関連付けることができる。
【0058】
<振動吸収部の作用>
次に、振動吸収部材108の効果について説明する。振動発生装置105が設置されている側(振動発生装置側)の端部が、固定端、吸収端、又は自由端のいずれであっても、振動発生装置105と反対側の固定端(固定部材107)との間には定在波が形成され得る。しかし、発明者らの研究によれば、振動発生装置側端部の状態によって、定在波の振幅の安定性が大きく異なることが分かった。
【0059】
具体的には、振動発生装置側端部が吸収端である場合に、定在波の振幅が最も安定であり、振動発生装置側端部が固定端である場合に定在波の振幅が最も不安定であることがわかった。振幅が安定であることは、振動発生装置の振動周波数、つまり、定在波の周波数に対する振幅の変化が小さいことを意味する。つまり、振動発生装置側端部が吸収端である場合に、振動周波数に対する振幅の変化が最も小さく、振動発生装置側端部が固定端である場合に、振動周波数に対する振幅の変化が最も大きい。
【0060】
吸収端は、振動吸収部(振動吸収部材又は振動吸収機構)により支持された端部において構成され、伝搬波の反射率の絶対値を低減することができる。理想的な吸収端は、伝搬波の反射率が0である。理想的な固定端の伝搬波の反射率は-1であり、理想的な自由端の伝搬波の反射率は1である。反射率が負であることは、反射波の位相が入射波の位相と逆、つまり、変位の方向が逆であることを意味する。
【0061】
図7Aは、自由端の定在波の腹振幅及び節振幅の実験結果のグラフを示す。横軸は定在波の周波数を示し、縦軸は振幅を示す。線321Aは、周波数に対する腹振幅の変化を示す。線323Aは、周波数に対する節振幅の変化を示す。全周波数帯域において最も大きい腹の振幅を1として、腹及び節の振幅がプロットされている。
【0062】
図7Bは、固定端の定在波の腹振幅及び節振幅の実験結果のグラフを示す。横軸は定在波の周波数を示し、縦軸は振幅を示す。線321Bは、周波数に対する腹振幅の変化を示す。線323Bは、周波数に対する節振幅の変化を示す。全周波数帯域において最も大きい腹の振幅を1として、腹及び節の振幅がプロットされている。
【0063】
図7Cは、吸収端の定在波の腹振幅及び節振幅の実験結果のグラフを示す。横軸は定在波の周波数を示し、縦軸は振幅を示す。線321Cは、周波数に対する腹振幅の変化を示す。線323Cは、周波数に対する節振幅の変化を示す。全周波数帯域において最も大きい腹の振幅を1として、腹及び節の振幅がプロットされている。
【0064】
図7Aから7Cを参照して、いずれの条件においても、腹の振幅と節の振幅との間に相応の差異が存在している。自由端、固定端、吸収端のいずれの場合も、定在波による触覚局在化が可能な周波数領域においては、腹と節の振幅差が20dB以上である。
図7Aの自由端のグラフと
図7Bの固定端のグラフを比較して、自由端の腹振幅及び節振幅の周波数に対する変動は、固定端の腹振幅及び節振幅の周波数に対する変動より小さい。そのため、振動発生装置側が自由端の構成は、振動発生装置側が固定端の構成よりも、周波数に対してより安定した定在波を生成することができる。
【0065】
また、
図7Cの吸収端のグラフと、
図7Aの自由端のグラフ又は
図7Bの固定端のグラフを比較する。吸収端の腹振幅及び節振幅の周波数に対する変動は、固定端の腹振幅及び節振幅の周波数に対する変動より小さい。さらに、吸収端の腹振幅及び節振幅の周波数に対する変動は、自由端の腹振幅及び節振幅の周波数に対する変動より小さい。
【0066】
制御装置201は、パネル面をタッチしている指の位置や表示画像に応じて振動発生装置105の振動周波数を変化させて、触覚提示位置及び触覚不提示位置を変化させる。そのため、異なる振動周波数における腹及び節の振幅の差異が小さいことが、より適切な触覚提示制御にとって重要である。
【0067】
上述のように、定在波は、振動発生装置側端における反射波の影響を受ける。振動発生素子側端を自由端、さらには、吸収端とすることによって、反射波と振動発生装置105からの伝搬波との共振を抑制することができる。これにより、振動周波数に対する腹振幅及び節振幅の変動を低減し、どのような周波数でも触覚提示パネル上で、固定端を基準とした安定した定在波を形成することができる。なお、両端に振動発生装置を配置する構成は、節位置を変化させることができるが、節位置の移動条件が複雑になり、その制御は非常に困難なものとなる。
【0068】
<定在波周波数の選択>
次に、定在波の周波数について説明する。振動発生装置105の振動周波数は、駆動信号Vの周波数fcに対応する。fcの増減に応じて振動周波数が増減する。また、振動発生装置105の振動数の増減に応じて、定在波の周波数が増減する。触覚提示装置10は、上述のように、近接する2本の指において片方の指にのみ定在波を用いることで触覚を提示することができる。
【0069】
指の大きさは一般に1~2cm程度であるので、定在波の波長が2本の指の最小間隔の4倍より小さいと、触覚提示の局在化が困難になる。また、定在波を発生させる搬送波Wの周波数は、触覚を特徴づける変調波Sの窓関数(数Hz~100Hz)に対して、十分高い周波数であることが求められる。従って、搬送波の周波数は、例えば、数100HZ以上の値から選択される。
【0070】
図7Aから7Cのグラフから理解されるように、周波数が3kHzを超えると、定在波が不明確になる。上記指のサイズについて考察から、定在波の波長は8cm以上であることが望ましい。タッチ面を与える絶縁基板102は一般的にガラスで形成され、その波長を周波数との関係を考慮すると、定在波の周波数は、例えば、300Hz~2kHzの範囲で選択される。
【0071】
定在波の周波数が異なると感じる触感が異なってくる。そのため、制御装置201は、予め設定された基準周波数を保持してもよい。同一位置に節を有する異なる周波数の定在波が存在し得る。制御装置201は、所望位置に節を有する定在波の決定時、できるだけ基準周波数に近い周波数の定在波を選択する。これにより、より均質な触感で指に触覚を与えることができる。
【0072】
<搬送波周波数の選択>
次に、制御装置201による、触覚を提示しない指の位置に対する搬送波発振器211の周波数fcの選択方法を説明する。
図8は、制御装置201による上記方法を説明するための図である。定在波の周波数、振動発生装置105の周波数、及び搬送波の周波数fcは、共通である。
【0073】
図8において、グラフは、定在波の節位置と、触覚提示パネル100上の位置との関係を示す。横軸は、固定部材107により支持された固定端からの距離を示す。
図1A又は2Bに示すX軸上の位置に対応する。縦軸は、搬送波発振器211の周波fcを示す。グラフにおける三つの線は、定在波の固定端からの順番が異なる節の周波数と位置との関係を示す(
図6参照)。
【0074】
ここで、制御装置201が使用する、搬送波発振器211の基準周波数を、800Hzとする。制御装置201は、所望位置に節を有する定在波を選択するとき、基準周波数800Hzに最も近い周波数fcを選択する。振動発生装置105は、基準周波数に対応する基準振動数で振動する。
【0075】
指112が80mmの位置、指111が125mmの位置と検出され、制御装置201は、指112には触覚を提示し、指111には触覚を提示しないと決定したとする。
図8のグラフから、周波数220Hzの定在波と、周波数730Hzの定在波において、指111の位置が節となることがわかる。
【0076】
制御装置201は、基準周波数800Hzに近い730Hzの搬送波周波数を選択する。指111の位置が節となる定在波により、指112のみに触覚を提示することができる。
図8に示す例において、380Hz~1350Hzの搬送波周波数を選択することで、25mm~300mmの範囲におけるいずれの位置においても、定在波の節を形成できる。
【0077】
<振動発生装置の位置>
次に、振動発生装置105の配置位置を説明する。上述のように、振動発生装置側端部での反射を振動吸収部材により減衰させることによって、使用する周波数帯域で振幅変化の少ない安定した定在波を形成することが可能となる。実際の装置において、振動吸収部材によって反射波を完全に消すことは困難である。
【0078】
そのため、振動吸収部材に支持されている振動発生装置側端部は、自由端と固定端の中間の特性を持つ。吸収端の特性が自由端に近い場合、その反射率は正である。一方、吸収端の特性が固定端に近い場合、その反射率は負である。
【0079】
振動発生装置側端部の反射率の絶対値は、固定部材107に支持されている対向端部の反射率の絶対値より小さい。理想的な吸収端に近づく程、反射率は0に近づく。上述のように、固定部材107に支持されている対向端部の反射率は負である。理想的な固定端に近づく程、その反射率の絶対値は-1に近づく。一方、端部が何よっても支持されておらず開放されている場合、その端部での反射率は正となる。理想的な自由端に近づく程、その端部での反射率は1に近づく。
【0080】
本明細書の一実施形態において、振動発生装置側端の性質に応じて、振動発生装置105の設置位置が決定される。これにより、振動発生装置側端での反射波によるタッチ対象領域104での定在波への影響を低減することができる。
【0081】
図9は、振動発生装置側端が自由端の特性を有し、その反射率が正である構成における、振動発生装置105の位置を示す。
図9は、説明のため、理想的な自由端での伝搬波を示す。
図9において、実線431は振動発生装置105からの伝搬波を示す。二点鎖線432は、振動発生装置側端(反射端)401での反射波を示す。破線433は、伝搬波431と反射波432の合成波を示す。
【0082】
本明細書の一実施形態において、振動発生装置105の中心位置(X軸での中心位置)から振動発生装置側端401までの距離は、振動発生装置の振動により発生する定在波の波長の(n/2)倍である。ここでnは0以上の整数である。この条件は、振動発生装置105から固定部材107への伝搬波を強くすることができる。
【0083】
図10は、
図9の状態において、振動発生装置105が振動を開始してからの伝搬波431、反射波432及び合成波433の変化を示す。
図10の上から下に向かって、時間経過に伴う波形の変化を示す。
図9と同様に、実線431は振動発生装置105からの伝搬波を示す。二点鎖線432は、振動発生装置側端401での反射波を示す。破線433は、伝搬波431と反射波432の合成波を示す。
図10において、破線451A及び451Bは、振動発生装置105からの伝搬波431の先端を示す。破線453は、反射波432の先端を示す。
【0084】
図10が示すように、振動発生装置105と自由端401との間において、伝搬波と反射波とが合成されて、振動発生装置105と自由端401とを腹とする定在波が生成される。振動発生装置105と固定部材107との間において、伝搬波と反射が強め合ってより大きい振幅の固定部材107方向への伝搬波を生成することができる。
【0085】
逆に振動発生装置105の中心位置(X軸での中心位置)から振動発生装置側端401までの距離が、振動発生装置105の振動により発生する定在波の波長の(n/2+1/4)倍になると、固定部材107方向への伝搬波を弱めることになる。従って、その位置を避けて振動発生装置105を配置することで、伝搬波の減衰を抑制できる。
【0086】
固定部材107方向への伝搬波を弱めない条件は振動発生装置105の中心位置(X軸での中心位置)から振動発生装置側端401までの距離の範囲は振動発生装置の振動により発生する定在波の波長の(n/2-1/6~n/2+1/6)倍となる。振動発生装置の振動は基準周波数を中心とした一定の範囲で変化する。本明細書の一実施形態において、使用するいずれの周波数においてもこの条件を満たす。
【0087】
図11は、振動発生装置側端が固定端の特性を有し、その反射率が負である構成における、振動発生装置105の位置を示す。
図11は、説明のため、理想的な自由端での伝搬波を示す。絶縁基板102の振動発生装置側端(反射端)411は、固定部材501によって固体端として機能する。
【0088】
図11において、実線511は振動発生装置105からの伝搬波を示す。二点鎖線512は、振動発生装置側端401での反射波を示す。破線513は、伝搬波511と反射波512の合成波を示す。
【0089】
本明細書の一実施形態において、振動発生装置105の中心位置(X軸での中心位置)から振動発生装置側端411までの距離は、振動発生装置の振動により発生する定在波の波長の(n/2+1/4)倍である。ここでnは0以上の整数である。この条件は、振動発生装置105から固定部材107への伝搬波を強くすることができる。
【0090】
図12は、
図11の状態において、振動発生装置105が振動を開始してからの伝搬波511、反射波512及び合成波513の変化を示す。
図12の上から下に向かって、時間経過に伴う波形の変化を示す。
図11と同様に、実線511は振動発生装置105からの伝搬波を示す。二点鎖線512は、振動発生装置側端411での反射波を示す。破線513は、伝搬波431と反射波432の合成波を示す。
図12において、破線531A及び531Bは、振動発生装置105からの伝搬波511の先端を示す。破線533は、反射波512の先端を示す。
【0091】
図12が示すように、振動発生装置105と固定端411との間において、伝搬波と反射波とが合成されて、振動発生装置105と固定端411とを腹とする定在波が生成される。振動発生装置105と固定部材107との間において、伝搬波と反射が強め合ってより大きい振幅の固定部材107方向への伝搬波を生成することができる。
【0092】
逆に振動発生装置105の中心位置(X軸での中心位置)から振動発生装置側端401までの距離が振動発生装置の振動により発生する定在波の波長の(n/2)倍になると固定部材107方向への伝搬波を弱めることになる。従って、その位置を避けて振動発生装置105を配置することで、伝搬波の減衰を抑制できる。
【0093】
固定部材107方向への伝搬波を弱めない条件は振動発生装置105の中心位置(X軸での中心位置)から振動発生装置側端401までの距離の範囲は振動発生装置の振動により発生する定在波の波長の(n/2+1/12~n/2+5/12)倍となる。振動発生装置の振動は基準周波数を中心とした一定の範囲で変化する。本明細書の一実施形態において、使用するいずれの周波数においてもこの条件が満たされる。
【0094】
上述のように、振動吸収部により支持された端部は、自由端と固定端の中間の特性を持ち、その反射率は、固定端の性質を示す負の値になる場合と自由端の性質を示す正の値になる場合がある。それらの反射率に応じて適切に振動発生装置の位置を設計することで、残留する端部からの反射波によって固定部材107方向への伝搬波を減衰させることがないようにすることができる。
【0095】
具体的には、反射端から振動発生装置105の振動中心までの距離は、反射端の特性が自由端に近い場合(反射率が0%より大きく100%以下)は、振動により発生する定在波の波長の(n/2-1/6からn/2+1/6)とすることでタッチ対象領域方向への伝搬波を減衰させない。反射端の特性が固定端に近い場合(反射率が-100%以上0%未満)は、基準周波数における定在波の波長の(n/2+1/12からn/2+5/12)倍とする。
【0096】
これにより、振動発生装置105(振動源)から伝搬するタッチ対象領域での波を減衰させないことができる。反射率が0%の場合、いずれの位置に振動発生装置105が配置されていても、タッチ対象領域での波を減衰させることはない。
【0097】
<振動装置の多重化>
以下において、直列に配置された複数の振動発生装置からの伝搬波によって定在波を生成する構成を説明する。複数の振動発生装置は、伝搬波の進行方向、つまり、定在波の腹と節の配列方向において、配列されている。多重配置された複数の振動発生装置は、定在波の振幅を増大させることができる。
【0098】
図13は、直列に配列された内部振動装置からなる振動発生装置を含む触覚提示装置の構成例を模式的に示す。振動発生装置155は、直列に配列された第1内部振動装置151A及び第2内部振動装置151Bで構成されている。第1内部振動装置151A及び第2内部振動装置151Bは、例えば、
図1A及び1Bに示す振動発生装置105のように単一の振動発生素子で構成されても、
図2にように並列に配列された複数の振動発生素子で構成されてもよい。また第1内部振動装置151A及び第2内部振動装置151Bで発生する振動の位相差は、内部振動装置151A、151Bから固定部材107方向への伝搬波が同位相になるよう調整される。
【0099】
図13において、実線601は第1内部振動装置151Aからの伝搬波を示す。二点鎖線602は、第2内部振動装置151Bからの伝搬波を示す。破線603は、伝搬波601と伝搬波602の合成波を示す。
【0100】
本明細書の一実施形態において、第1内部振動装置151Aの中心位置(X軸での中心位置)と第2内部振動装置151Bの中心との距離は、基準周波数における定在波の波長の(n/2+1/4)倍である。この条件で、基準周波数における定在波を発生させた場合、内部振動装置151A、151Bから固定部材107への伝搬波のみを強くすることができる。内部振動装置151A、151Bから反射端611への伝搬波は互いに弱めあう。
【0101】
本実施形態では、振動発生装置の振動は基準周波数を中心とした一定の範囲で変化する。内部振動装置151A、151Bから固定部材107の距離が、発生した定在波のn/2+1/6からn/2+1/3)の範囲に入っていれば、振動発生装置側の反射端611方向への伝搬波は弱められ、不要な振動の発生を抑えることができる。
【0102】
図13は、多重配置の振動発生装置として、二つの振動装置を直列に配置する二重配置の振動発生装置の例を示す。他の構成例において、3以上の振動発生装置が直列に配置されてもよい。隣接する振動発生装置の各ペアにおいて、上記距離の条件が満たされることで、多重配置振動発生装置から固定部材107への伝搬波のみを強くすることができる。
【0103】
<複数方向定在波>
上記構成例は、タッチ対象領域104の一辺にのみ配置された1又は複数方向の振動発生装置によって、タッチ対象領域104における定在波を生成する。本明細書の一実施形態において、タッチ対象領域104の複数の辺それぞれに振動発生装置が配置される。これにより、複数の指のタッチ位置の関係によらず選択的に触覚を指に提示することができる。
【0104】
図14A及び14Bは、本明細書の一実施形態に係る触覚提示装置10の構成例の動作を示す。触覚提示装置10は、二つ振動発生装置105A、105B、二つの固定部材107A、107B、及び二つの振動吸収部材108A、108Bを含む。振動発生装置105A及び固定部材107Aは、第1振動発生装置及び第1支持部である。振動発生装置105B及び固定部材107Bは、第2振動発生装置及び第2支持部である。
【0105】
振動発生装置105A、固定部材107A、及び振動吸収部材108Aの関係は、これまでに説明した振動発生装置105、固定部材107、及び振動吸収部材108の関係と同様である。また、振動発生装置105B、固定部材107B、及び振動吸収部材108Bの関係は、これまでに説明した振動発生装置105、固定部材107、及び振動吸収部材108の関係と同様である。
【0106】
図14A、14Bに示す構成例において、絶縁基板102は、四辺形である。振動発生装置105Aは、絶縁基板102のY軸に沿ったY軸辺の近傍に配置され、その辺に沿って延びている。固定部材107Aは、上記Y軸辺と対向するY軸辺を支持し、その対向Y軸辺に沿って延びている。振動発生装置105Aと固定部材107Aは、
図14A及び14Bにおいて不図示のタッチ対象領域を挟んで、X軸に沿った方向において対向している。
【0107】
振動吸収部材108Aは、上記Y軸辺を支持している。振動吸収部材108Aは、固定部材107A(タッチ対象領域)と反対側において、X軸に沿った方向において振動発生装置105Aと対向している。振動吸収部材108Aは、上記Y軸辺に沿って延びている。
【0108】
振動発生装置105Bは、絶縁基板102のX軸に沿ったX軸辺の近傍に配置され、その辺に沿って延びている。固定部材107Bは、上記X軸辺と対向するX軸辺を支持し、その対向X軸辺に沿って延びている。振動発生装置105Bと固定部材107Bは、タッチ対象領域を挟んで、Y軸に沿った方向において対向している。
【0109】
振動吸収部材108Bは、上記X軸辺を支持している。振動吸収部材108Bは、固定部材107B(タッチ対象領域)と反対側において、Y軸に沿った方向において振動発生装置105Bと対向している。振動吸収部材108Bは、上記X軸辺に沿って延びている。
【0110】
制御装置201は、振動発生装置105Aと振動発生装置105Bとを選択的に振動させる。
図14Aは、振動発生装置105Aを振動させることで生成された定在波651Aを示し、
図14Bは、振動発生装置105Bを振動させることで生成された定在波を651B示している。このように、触覚提示装置10は、節と腹が並ぶ方向が異なる2面の定在波を生成することができる。
図14Aの状態においては、縦縞上の定在波651Aが生成され、
図14Bの状態では横縞状の定在波651Bが生成されている。
【0111】
制御装置201は、例えば、タッチしている指の位置に応じて又は表示される画像に応じて一方の振動発生装置のみを振動させる。
図14A及び14Bは、2本の指111、112のタッチ位置に基づいて振動させる振動発生装置を選択する制御例を示す。制御装置201は、指111、112のX軸に沿った距離が、Y軸に沿った距離にくらべて大きいとき、振動発生装置105Aを振動させる。反対に、指111、112のY軸に沿った距離が、X軸に沿った距離にくらべて大きいとき、振動発生装置105Bを振動させる。
【0112】
図14Aにおいて、指111、112のタッチ位置は、Y軸において略同一であり、X軸においてわずかにずれている。制御装置201は、振動発生装置105Aを振動させ、縦縞定常波を生成する。定常波の腹と節とは、X軸に沿って配列されるため、X軸において異なる位置にある指111、112の一方のみに触覚を提示することができる。
【0113】
図14Bにおいて、指111、112のタッチ位置は、X軸において略同一であり、Y軸においてわずかにずれている。制御装置201は、振動発生装置105Bを振動させ、横縞定常波を生成する。定常波の腹と節とは、Y軸に沿って配列されるため、Y軸において異なる位置にある指111、112の一方のみに触覚を提示することができる。
【0114】
図15は、本明細書の一実施形態に係る触覚提示装置10の構成例の動作を示す。触覚提示装置10は、二つ振動発生装置105C、105D、二つの固定部材107C、107D、及び二つの振動吸収部材108C、108Dを含む。振動発生装置105C及び固定部材107Cは、第1振動発生装置及び第1支持部である。振動発生装置105D及び固定部材107Dは、第2振動発生装置及び第2支持部である。
【0115】
振動発生装置105C、固定部材107C、及び振動吸収部材108Cの関係は、これまでに説明した振動発生装置105、固定部材107、及び振動吸収部材108の関係と同様である。また、振動発生装置105D、固定部材107D、及び振動吸収部材108Dの関係は、これまでに説明した振動発生装置105、固定部材107、及び振動吸収部材108の関係と同様である。
【0116】
絶縁基板651は、六角形である。振動発生装置105Cは、絶縁基板651の第1辺の近傍に配置され、その辺に沿って延びている。固定部材107Cは、上記辺と平行であって対向する辺を支持し、その対向辺に沿って延びている。振動発生装置105Cと固定部材107Cは、
図15において不図示のタッチ対象領域を挟んで対向している。
【0117】
振動吸収部材108Cは、上記第1辺を支持している。振動吸収部材108Cは、固定部材107C(タッチ対象領域)と反対側において、振動発生装置105Cと対向している。振動吸収部材108Cは、上記第1辺に沿って延びている。
【0118】
振動発生装置105Dは、絶縁基板102の第1辺と隣接する第2辺の近傍に配置され、その辺に沿って延びている。固定部材107Dは、上記第2辺と平行であって対向する辺を支持し、その対向辺に沿って延びている。振動発生装置105Dと固定部材107Dは、タッチ対象領域を挟んで対向している。
【0119】
振動吸収部材108Dは、上記第2辺を支持している。振動吸収部材108Dは、固定部材107D(タッチ対象領域)と反対側において、振動発生装置105Bと対向している。振動吸収部材108Dは、上記第2辺に沿って延びている。
【0120】
制御装置201は、振動発生装置105Cと振動発生装置105Dとを選択的に振動させる。振動発生装置105Cを振動させることで、定在波651Cが生成される。振動発生装置105Dを振動させることで、定在波を651Dが生成される。二つの定在波の振動発生装置からの伝搬波のベクトルの角度は、90度より小さい。このように、触覚提示装置10は、節と腹が並ぶ方向が異なる2面の定在波を生成することができる。制御装置201は、
図14A、14Bを参照して説明したように、振動発生装置105A、105Bを制御することができる。
【0121】
以上、本願の実施形態を説明したが、本開示が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本開示の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0122】
10 触覚提示装置
100 触覚提示パネル
101 タッチ電極パターン
102 絶縁基板
103 表示装置
104 タッチ対象領域
105、105A-105D、115 振動発生装置
107、107A-107D 固定部材
108、108A-108D 振動吸収部材
201 制御装置
203 波形合成装置
231、232 支持部
251、651A-651D 定在波