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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079534
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】ガラス材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20230601BHJP
   C03C 3/095 20060101ALI20230601BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20230601BHJP
   G02F 1/09 20060101ALN20230601BHJP
【FI】
C03C3/068
C03C3/095
C03C3/097
G02F1/09 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193036
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太志
【テーマコード(参考)】
2K102
4G062
【Fターム(参考)】
2K102AA27
2K102BA01
2K102BB05
2K102BC09
2K102CA11
2K102CA28
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4G062MM02
4G062NN22
(57)【要約】
【課題】 光透過率の高いガラス材の製造方法を提供する。
【解決手段】 ガラス材の製造方法であって、ガラス材は、常磁性ガラス材であり、FeO及び/又はFeを含有するガラス原料にCeOを添加する工程、真空雰囲気、不活性雰囲気又は還元雰囲気において、CeOを添加したガラス原料を溶融する溶融工程を備える、ガラス材の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス材の製造方法であって、
前記ガラス材は、常磁性ガラス材であり、
FeO及び/又はFeを含有するガラス原料にCeOを添加する工程、
真空雰囲気、不活性雰囲気又は還元雰囲気において、CeOを添加した前記ガラス原料を溶融する溶融工程を備える、ガラス材の製造方法。
【請求項2】
前記CeOの添加量が、外割のモル%で0.001%~1%である、請求項1に記載のガラス材の製造方法。
【請求項3】
前記常磁性ガラス材が、Tb系ガラス材である、請求項1または2に記載のガラス材の製造方法。
【請求項4】
前記Tb系ガラス材が、モル%で、Tb 10%~90%、B+Al+SiO+P 1%~89%、FeO+Fe 0.01ppm~100ppmを含有し、さらに外割でCeO 0.001%~1%を含有する、請求項2に記載のガラス材の製造方法。
【請求項5】
前記溶融工程においてFe2+をFe3+に酸化し、Tb4+をTb3+に還元する、請求項2~4のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス原料が前駆体ガラスである、請求項1~5のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項7】
さらに、CeOを除くガラス原料を溶融して前駆体ガラス材を準備する工程を備える、請求項6に記載のガラス材の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス材が、Sb及びAsを実質的に含有しない、請求項1~7のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項9】
前記ガラス材の全Tbに対するTb3+の割合が、モル%で55%以上である、請求項2~8のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項10】
前記ガラス材の波長532nmにおける光透過率が、70%以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
常磁性ガラス材は、磁気光学効果の一つであるファラデー効果を示すことが知られている。ファラデー効果は、磁場中に置かれた材料を通過する直線偏光を回転させる効果である。この効果を利用した磁気光学素子(例えば、ファラデー回転子)は、光アイソレータなどの磁気光学デバイスに使用される。
【0003】
常磁性ガラス材として、例えば、SiO-B-Al-Tb系(特許文献1)、P-B-Tb系(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭51-46524号公報
【特許文献2】特公昭52-32881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年は磁気光学デバイスに照射されるレーザー光が高出力化している。レーザー光の出力が増加すると磁気光学素子の温度が上昇し、熱レンズ効果によるビーム径変化が生じやすい。そのため、熱レンズ効果を低減する観点から、磁気光学素子の光透過率向上が求められている。
【0006】
以上に鑑み、本発明は光透過率の高いガラス材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ガラス材の製造方法であって、ガラス材は、常磁性ガラス材であり、FeO及び/又はFeを含有するガラス原料にCeOを添加する工程、真空雰囲気、不活性雰囲気又は還元雰囲気において、CeOを添加したガラス原料を溶融する溶融工程を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明のガラス材の製造方法は、CeOの添加量が、外割のモル%で0.001%~1%であることが好ましい。
【0009】
本発明のガラス材の製造方法は、常磁性ガラス材が、Tb系ガラス材であることが好ましい。
【0010】
本発明のガラス材の製造方法は、Tb系ガラス材が、モル%で、Tb 10%~90%、B+Al+SiO+P 1%~89%、FeO+Fe 0.01ppm~100ppmを含有し、さらに外割でCeO 0.001%~1%を含有することが好ましい。
【0011】
本発明のガラス材の製造方法は、溶融工程においてFe2+をFe3+に酸化し、Tb4+をTb3+に還元することが好ましい。
【0012】
本発明のガラス材の製造方法は、ガラス原料が前駆体ガラスであることが好ましい。
【0013】
本発明のガラス材の製造方法は、さらに、CeOを除くガラス原料を溶融して前駆体ガラス材を準備する工程を備えることが好ましい。
【0014】
本発明のガラス材の製造方法は、ガラス材の全Tbに対するTb3+の割合が、モル%で55%以上であることが好ましい。
【0015】
本発明のガラス材の製造方法は、ガラス材の波長532nmにおける光透過率が、70%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光透過率の高いガラス材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のガラス材の製造方法は、ガラス材が常磁性ガラス材であり、FeO及び/又はFeを含有するガラス原料にCeOを添加する工程、真空雰囲気、不活性雰囲気又は還元雰囲気において、CeOを添加したガラス原料を溶融する溶融工程を備えることを特徴とする。なお、以下の説明において、特に断りのない限り「%」は「モル%」を意味する。また、以下の説明における「可視~近赤外波長域」は、可視~近赤外レーザーに使用される波長域であり、特に断りのない限り、300nm~2000nm、特に300nm~1100nmの波長域を意味する。
【0018】
本発明のガラス材の製造方法は、常磁性ガラス材の製造に好適である。常磁性ガラス材は、酸化により構成成分の価数が変化して、特性(例えば、光透過率)が変化することがある。そのため、本発明の製造方法を用いれば、後述する理由により、過剰な酸化を抑制し、特性変化を抑制しやすくなる。常磁性ガラス材は特に限定されないが、例えば、Tb系ガラス材、Pr系ガラス材、EuO系ガラス材が挙げられる。
【0019】
<ガラス原料の準備>
はじめに、所望の常磁性ガラス組成を有するガラス原料を準備する。ガラス原料は、FeO及び/又はFeを含有する。本発明において、ガラス原料としては、天然原料、化成原料等の原料粉末や、これらを溶融、ガラス化したガラス材(以下、前駆体ガラス材という)等が使用できるが、後述する理由から、前駆体ガラス材を使用することが好ましい。
【0020】
FeO及びFeは可視~近赤外波長域における光透過率を低下させ、熱レンズ効果を生じさせやすい成分である。具体的に述べると、FeO(Fe2+)は波長1200nm付近にピークを有するブロードな吸収を有する。そのため、ガラス材が可視~近赤外波長域のレーザー光を吸収して発熱し、熱レンズ効果が発生しやすい。また、Fe(Fe3+)は、溶融の過程において還元されてFeOとなる恐れがある。そのため、FeO+Feの含有量(FeOとFeの合量)が、0.01ppm~100ppmであり、0.01ppm~20ppm、0.05ppm~15ppm、0.1ppm~14ppm、0.2ppm~13ppm、0.3ppm~11ppm、0.4ppm~10ppm、0.5ppm~9ppm、特に1ppm~8ppmであることが好ましい。なお、FeO+Feの含有量が少なすぎると、製造コストが増大しやすい。
【0021】
次に、ガラス原料にCeOを添加する。CeOは酸化剤として機能する成分である。これにより、FeO及び/又はFeによる光透過率の低下を抑制しやすくなる。具体的に述べると、CeOはガラス中に含まれるFe2+をFe3+に酸化させ、波長300nm~1100nmにおける光吸収を抑制しやすい。よって、光透過率の高いガラス材を得やすくなる。また、ガラス材の光透過率が高いため、熱レンズ効果によるレーザー光のビームプロファイル変形を抑制しやすくなる。
【0022】
CeOの添加量は、モル%で、0.001%~1%、0.01%~1%、0.05%~0.9%、0.1%~0.8%、特に0.1%~0.7%であることが好ましい。CeOの添加量が少なすぎると、ガラス中に含まれるFe2+をFe3+に酸化させる効果が小さくなる。CeOの添加量が多すぎると、溶融ガラスが過剰に酸化されやすくなり、かえってガラス材の光透過率が低下しやすくなる。例えば、Tb3+がTb4+に酸化されることにより、Tb4+に起因してガラス材の光透過率が低下しやすくなる。なお、上記添加量は、ガラス原料に対して外割で添加された値を意味する。すなわち、モル%で、CeO以外の成分の含有量の合量100%に対して、CeOの含有量が0.001%~1%である(つまり、総量で100.001%~101%となる)ことを意味する。
【0023】
CeOの添加量(含有量)とFeO+Feの含有量の比CeO/(FeO+Fe)は、10~10000、30~10000、100~7500、100~5000、特に100~3000であることが好ましい。CeOの添加量(含有量)とFeO+Feの含有量が上記比率を満たすことにより、熱レンズ効果を抑制しやすくなる。
【0024】
<溶融工程>
次に、CeOを添加したガラス原料を溶融し、ガラス材を得る。溶融雰囲気は、真空雰囲気、不活性雰囲気又は還元性雰囲気であり、特に不活性雰囲気であることが好ましい。これにより、溶融ガラスの過剰な酸化を抑制し、ガラス材の光透過率低下を抑制しやすくなる。なお、溶融ガラスを冷却固化する際の雰囲気は、大気雰囲気、真空雰囲気、不活性雰囲気又は還元性雰囲気のいずれでもよいが、製造を容易にする観点からは、大気雰囲気とすることが好ましい。
【0025】
溶融工程において、溶融時間は、3時間以上、4時間以上、特に5時間以上であることが好ましい。また、15時間以下、10時間以下、特に9時間以下であることが好ましい。溶融時間が短すぎると、溶融ガラスの清澄が不十分になり、残留泡が多くなりやすくなる。溶融時間が長すぎると、溶融容器の構成成分が溶融ガラス中に溶け込みやすくなる。例えば、白金るつぼを用いてガラス原料を溶融する場合に、溶融ガラス中に微細なPtブツが生じて、ガラス材の光透過率が低下しやすくなる。また、石英るつぼを用いてガラス原料を溶融する場合に、溶融ガラス中にSiOが溶けだして、所望の組成を有するガラス材が得づらくなる。
【0026】
溶融工程は、溶融容器を用いてガラス原料を溶融することが好ましい。溶融容器は、溶融ガラスが接触する面が白金又は白金合金で構成されていることが好ましい。例えば、白金るつぼ、白金ロジウムるつぼ、強化白金るつぼ、白金又は白金合金で内張された溶融炉等を溶融容器として用いることが好ましい。なお、石英るつぼを用いてもよい。なお、溶融容器を用いない、いわゆる無容器浮遊法でガラス原料を溶融してもよい。
【0027】
得られたガラス材に対して、アニールすることが好ましい。これにより、ガラス材の歪みを取り除くことができる。なお、アニール時の雰囲気は、大気雰囲気、還元雰囲気、不活性雰囲気のいずれでもよいが、製造を容易にする観点からは、大気雰囲気で行うことが好ましい。
【0028】
このように、本発明のガラス材の製造方法は、ガラス原料中に酸化剤として機能するCeOを添加した状態で、真空雰囲気、不活性雰囲気又は還元性雰囲気にてガラス原料を溶融する。当該構成により、溶融ガラスの過剰な酸化を抑制することができる。これにより、Tb系ガラス材の製造において、Fe2+をFe3+に酸化しつつ、Tb3+がTb4+に酸化されることを抑制することができる。
【0029】
本発明における酸化還元現象について詳細に述べると、以下の通りである。第1に、ガラス原料にCeOを添加することにより、ガラス中に含まれるFe2+をFe3+に酸化させる。これにより、Fe2+に起因する波長300nm~1100nmの光吸収を抑制しやすくなる。第2に、CeOを添加したガラス原料を真空雰囲気、不活性雰囲気又は還元性雰囲気で溶融することにより、溶融ガラスの過剰な酸化を抑制する。例えば、常磁性ガラス材であるTb系ガラス材において、Tb3+がTb4+に酸化されることを抑制する。これにより、Tb4+に起因する波長300nm~1100nmの光吸収を抑制しやすくなる。すなわち、本発明のガラス材の製造方法によれば、可視~近赤外波長域に吸収を有するFe2+及びTb4+の含有量を低減することができ、光透過率の高いガラス材を製造することができる。
【0030】
<前駆体ガラス材作製工程>
本発明のガラス材の製造方法では、ガラス原料として前駆体ガラス材を使用することが好ましい。これにより、均質性の高いガラス材を得やすくなる。なお、本発明において、前駆体ガラス材とは、CeOを除く成分が目的とするガラス材の成分割合と同等であるガラスカレットを意味する。
【0031】
前駆体ガラス材は、所定のガラス組成となるようガラス原料を調合し、ガラス原料を溶融することにより製造することができる。以下では、前駆体ガラス材作製工程の好ましい条件について記載する。
【0032】
前駆体ガラス材作製工程において、溶融時間は、3時間未満、2時間以下、特に1時間以下であることが好ましい。また、5分以上、10分以上、特に20分以上であることが好ましい。溶融時間が短すぎると、ガラス原料の溶融が不十分になり、組成の均一な前駆体ガラス材が得づらくなる。溶融時間が長すぎると、溶融容器の構成成分が溶融ガラス中に溶け込みやすくなる。
【0033】
前駆体ガラス材作製工程において、溶融容器を用いてガラス原料を溶融し前駆体ガラス材を作製することが好ましい。溶融容器は、溶融ガラスが接触する面が石英、白金又は白金合金で構成されていることが好ましい。例えば、石英るつぼ、白金るつぼ、白金ロジウムるつぼ、強化白金るつぼ、白金又は白金合金で内張された溶融炉等を溶融容器として用いることが好ましい。なお、溶融容器を用いない、いわゆる無容器浮遊法で前駆体ガラス材を作製してもよい。
【0034】
前駆体ガラス材作製工程において、溶融雰囲気は、大気雰囲気、真空雰囲気、不活性雰囲気又は還元性雰囲気であることが好ましく、大気雰囲気であることがより好ましい。これにより製造コストを低減しやすくなる。また、溶融ガラスを冷却固化する際の雰囲気は、製造を容易にする観点から、大気雰囲気とすることが好ましい。
【0035】
溶融ガラスを所望の冷却方法により固化させることで、前駆体ガラス材を得ることができる。冷却方法は特に限定されないが、例えば、水冷、ローラー急冷を行うことができる。これらの方法により、破片状やフレーク状の前駆体ガラス材を得ることができる。これらの形状の前駆体ガラス材を用いることで、溶融工程においてガラス材を溶融しやすくなる。
【0036】
<ガラス組成>
本発明のガラス材の製造方法では、常磁性ガラス材を好適に製造することができる。例えば、モル%で、Tb 10%~90%、B+Al+SiO+P 1%~89%、FeO+Fe 0.01ppm~100ppmを含有し、さらに外割でCeO 0.001%~1%を含有するTb系ガラス材を好適に製造することができる。上記組成を満たすガラス材は、可視~近赤外波長域において高い光透過率を示しやすい。
【0037】
以下、各成分の含有量について説明する。FeO+Feの含有量は上述した通りであり、ここでは記載を省略する。なお、以下のガラス組成は、本発明により製造されるガラス材の好適な組成であるが、前駆体ガラス材についてもCeOを除いて同様の組成を有することが好ましい。具体的に述べると、前駆体ガラス材は、例えば、モル%で、Tb 10%~90%、B+Al+SiO+P 1%~89%、FeO+Fe 0.01ppm~100ppmを含有することが好ましい。
【0038】
Tbはベルデ定数の絶対値を大きくしてファラデー効果を高める成分である。Tbの含有量は、10%~90%、15%~49%、16%~46%、18%~45%、20%~44%、21%~43%、22%~41%、25%超~41%、特に26%~40%であることが好ましい。なお、特にベルデ定数を高めたい場合には、Tbの含有量は52%~80%、53%~75%、54%~71%、55%~69%、56%~67%、57%~65%、特に58%~64%であることが好ましい。Tbの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。Tbの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなり、るつぼ溶融時に失透しやすくなる。また、ガラス材の光透過率が低下しやすくなる。なお、Tbは3価や4価の状態でガラス中に存在するが、本発明ではこれら全てをTbとして表す。
【0039】
全Tbに対するTb3+の割合は、モル%で55%以上、60%以上、70%以上、80%以上、特に90%以上であることが好ましい。これにより、全Tbに対するTb4+の割合を低下させることができる。Tb4+は波長300nm~1100nmに吸収を有し、ガラス材の光透過率を低下させやすい。そのため、全Tbに対するTb3+の割合を上記値とすることにより、可視~近赤外波長域におけるレーザー光の吸収を抑制し、ガラス材の発熱を抑制しやすくなる。よって、熱レンズ効果を抑制しやすくなる。
【0040】
CeOは酸化剤として機能する成分である。CeOの含有量は、外割で、0.001%~1%であり、0.01%~0.9%、0.02%~0.8%、0.04%~0.7%、0.04%~0.5%、特に0.04%~0.4%であることが好ましい。CeOの添加量が少なすぎると、ガラス中に含まれるFe2+をFe3+に酸化させる効果が小さくなる。CeOの添加量が多すぎると、かえってガラス材の光透過率が低下しやすくなる。
【0041】
、Al、SiO、Pはガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げてガラス化を安定にする成分である。B+Al+SiO+Pの含有量(B、Al、SiO、Pの合量)は1%~89%であり、1%~86%、6%~85%、11%~83%、16%~81%、21%~79%、26%~77%、31%~75%、36%~74%、41%~74%、46%~74%、50%~74%、51%~74%、55%~74%、特に60%~74%であることが好ましい。B+Al+SiO+Pの含有量が少なすぎると、ガラス化しづらくなる。B+Al+SiO+Pの含有量が多すぎると、十分なファラデー効果が得られにくくなる。なお、各成分の好ましい範囲は以下の通りである。
【0042】
の含有量は、0%~89%、0%~88%、0%~87%、0%~85%、0%~75%、0%~70%、0%~66%、0%~56%、0%~51%、1%~44%、1%~40%、1%~40%、2%~40%、4%~40%、5%~40%、10%~40%、12%超~40%、特に13%~40%であることが好ましい。
【0043】
Alの含有量は、0%~89%、0%~88%、0%~87%、0%~85%、0%~75%、0%~70%、0%~66%、0%~56%、0%~51%、1%~44%、1%~40%、1%~30%、特に1%~20%であることが好ましい。
【0044】
SiOの含有量は、0%~89%、0%~88%、0%~87%、0%~85%、0%~75%、0%~70%、0%~66%、0%~56%、0%~51%、0%~50%、0%~49%、0%~40%、1%~40%、5%~40%、特に10%~40%であることが好ましい。
【0045】
の含有量は、0%~89%、0%~88%、0%~87%、0%~85%、0%~75%、0%~70%、0%~66%、0%~56%、0%~51%、0%~40%、0%~30%、0%~25%、0%~20%、0%~20%、0%~15%、0%~10%、0%~5%、特に1%~5%であることが好ましい。
【0046】
本発明のガラス材には、上記成分に加えて、下記成分を含有させることができる。
【0047】
GeOはガラス骨格となりガラス化範囲を広げてガラス化を安定にする成分である。GeOの含有量は0%~60%、0%~55%、0%~50%、0%~45%、0%~40%、特に0%~35%であることが好ましい。GeOの含有量が多すぎると、十分なファラデー効果が得られにくくなる。
【0048】
ZnOはガラス化を安定にする成分である。ZnOの含有量は0%~20%、0%~15%、0%~13%、0~10%、0~8%、特に0%~5%であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。また、十分なファラデー効果が得られにくくなる。
【0049】
La、Gd、Y、Ybはガラス化を安定にする成分である。La、Gd、Y、Ybの含有量は、それぞれ10%以下、7%以下、5%以下、4%以下、2%以下、特に1%以下であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、かえってガラス化しにくくなる。La、Gd、Y、Ybの含有量の下限は特に限定されないが、例えば、それぞれ0.1%以上である。
【0050】
Dy、Eu、Pr、Smは可視~近赤外波長域に光吸収を有する。そのため、Dy、Eu、Pr、Smの含有量は、それぞれ5%未満、3%以下、2%以下、1%以下、500ppm以下、特に100ppm以下であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、可視~近赤外波長域における光透過率が低下しやすくなる。なお、ガラス中に存在するDy、Eu、Pr、Smは2価、3価、4価の状態で存在するが、本発明ではこれらをそれぞれDy、Eu、Pr、Smとして表す。Dy、Eu、Pr、Smの含有量の下限は特に限定されないが、例えば、それぞれ0.001ppm以上である。
【0051】
MgO、CaO、SrO、BaOはガラス化を安定にするとともに、化学的耐久性を高めやすい成分である。MgO、CaO、SrO、BaOの含有量は、それぞれ0%~10%、特に0%~5%であることが好ましい。これらの成分の含有量が多すぎると、十分なファラデー効果が得られにくくなる。
【0052】
Gaはガラス化を安定にするとともに、ガラス化範囲を広げやすい成分である。Gaの含有量は、0%~6%、0%~5%、0%~4%、特に0%~2%であることが好ましい。Gaの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。また、十分なファラデー効果が得られにくくなる。
【0053】
フッ素はガラス形成能を高め、ガラス化範囲を広げやすい成分である。フッ素の含有量(F換算)は、0%~10%、0%~7%、0%~5%、0%~3%、0%~2%、特に0%~1%であることが好ましい。フッ素の含有量が多すぎると、溶融中に成分が揮発してガラス化に悪影響を及ぼすおそれがある。また、脈理が生じやすくなる。
【0054】
ガラス材は、波長1064nmにおいて光透過率が70%以上、75%以上、80%以上、特に83%以上であることが好ましい。また、波長633nmにおいて、光透過率が60%以上、65%以上、70%以上、特に75%以上であることが好ましい。さらに、波長532nmにおいて、光透過率が30%以上、50%以上、60%以上、特に70%以上であることが好ましい。なお、上記の光透過率は、ガラス材の厚みが1mmであるときの値である。
【0055】
本発明により製造されるガラス材は、上記構成を有することにより、熱レンズ効果が抑制されている。よって、本発明により製造されるガラス材は、光アイソレータ、光サーキュレータ、磁気センサ等の磁気デバイスを構成する磁気光学素子(例えば、ファラデー回転子)に好適に用いることができる。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
表1~3は本発明の実施例1~14及び比較例15を示している。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
実施例1~14は以下のように作製した。はじめに、表1~3に示す前駆体ガラス材の組成となるよう原料を調合し、300gのガラス原料を得た。ガラス原料を石英るつぼに入れて、大気雰囲気、1350℃で1時間溶融を行った。溶融後、溶融ガラスを大気雰囲気で水冷し固化させることにより、前駆体ガラス材を得た。このとき、前駆体ガラス材は破片状であった。
【0062】
次に、得られた前駆体ガラス材に対して、CeOを外割のモル%で表1~3に示す割合で添加し、混合した。次に、CeO添加前駆体ガラス材を白金るつぼに100g入れて、表1~3に記載の条件で溶融を行った。溶融後、溶融ガラスを大気雰囲気でカーボン板上に流し出し、ガラス材を得た。得られたガラス材に対して大気雰囲気、770℃にて1時間アニールを行った。
【0063】
実施例1~14と同様の手順で前駆体ガラス材を得た後、大気雰囲気にて、CeOを添加せずに溶融したガラス材を比較例15とした。
【0064】
得られたガラス材に対して、ベルデ定数、光透過率、全Tbに対するTb3+の割合についてそれぞれ測定を行った。結果を表1~3に示す。
【0065】
ベルデ定数は、回転検光子法を用いて測定した。具体的には、得られたガラス材を1mmの厚さとなるよう研磨加工し、10kOeの磁場中で波長400nm~1100nmの範囲におけるファラデー回転角を測定し、波長532nmでのベルデ定数を算出した。
【0066】
光透過率は、分光光度計(日本分光社製V-670)を用いて測定した。具体的には、得られたガラス材を1mmの厚さとなるよう研磨加工し、光透過率曲線から波長532nmにおける光透過率を読み取った。なお、光透過率は反射も含んだ外部透過率である。
【0067】
全Tbに対するTb3+の割合は、X線吸収微細構造解析(XAFS)を用いて測定した。具体的には、X線吸収端構造領域(XANES)のスペクトルを得て、各Tbイオンのピーク位置のシフト量から全Tbに対するTb3+の割合を算出した。
【0068】
表1~3に示すように、実施例1~14のガラス材は、波長532nmにおいて、ベルデ定数の絶対値が0.531~0.822min/Oe・cmであった。また、光透過率はいずれも波長532nmにおいて70%以上となり、良好な光透過率を示した。一方、表3に示すように、比較例15は波長532nmにおける光透過率が55%と低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の製造方法で作製したガラス材は、光アイソレータ、光サーキュレータ、磁気センサ等の磁気デバイスを構成する磁気光学素子(例えば、ファラデー回転子)に好適に用いることができる。