(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007958
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】イオンセンサ、イオンセンサの製造方法及びイオンの測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/333 20060101AFI20230112BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20230112BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
G01N27/333 331M
G01N27/30 311Z
G01N27/416 351B
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111142
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 順子
(72)【発明者】
【氏名】内山 兼一
(72)【発明者】
【氏名】本郷 沙也加
(57)【要約】
【課題】電位のばらつきを低減させたイオンセンサ、イオンセンサの製造方法及びイオンの測定方法を提供すること。
【解決手段】第1のインサーション材料及び第1のイオン伝導性セラミックスを含有する第1の内部固体層と、第1の内部固体層上に配置されたイオン選択膜と、を含むイオン選択性電極と、第2のインサーション材料及び第2のイオン伝導性セラミックスを含有する第2の内部固体層と、第2の内部固体層上に配置されたイオン液体含有膜と、を含む参照電極と、イオン選択性電極及び参照電極が配置された絶縁体と、を含むイオンセンサ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のインサーション材料及び第1のイオン伝導性セラミックスを含有する第1の内部固体層と、前記第1の内部固体層上に配置されたイオン選択膜と、を含むイオン選択性電極と、
第2のインサーション材料及び第2のイオン伝導性セラミックスを含有する第2の内部固体層と、前記第2の内部固体層上に配置されたイオン液体含有膜と、を含む参照電極と、
前記イオン選択性電極及び前記参照電極が配置された絶縁体と、を含むイオンセンサ。
【請求項2】
前記第1のイオン伝導性セラミックス及び前記第2のイオン伝導性セラミックスは、カリウムイオン伝導性セラミックス、ナトリウムイオン伝導性セラミックス、又はリチウムイオン伝導性セラミックスである、請求項1に記載のイオンセンサ。
【請求項3】
前記第1のイオン伝導性セラミック及び前記第2のイオン伝導性セラミックは、β”アルミナ又はβアルミナである、請求項1又は2に記載のイオンセンサ。
【請求項4】
前記第1のインサーション材料及び前記第2のインサーション材料は、金属酸化物、酸素レドックス材料、又はプルシアンブルー類似体である、請求項1~3のいずれか一項に記載のイオンセンサ。
【請求項5】
前記第1のインサーション材料及び前記第2のインサーション材料は、イオン-電子伝導体である、請求項1~4のいずれか一項に記載のイオンセンサ。
【請求項6】
前記第1のインサーション材料及び前記第2のインサーション材料は、カリウムイオン、ナトリウムイオン、又はリチウムイオンに対するイオン-電子伝導体である、請求項5に記載のイオンセンサ。
【請求項7】
前記第1のインサーション材料及び前記第2のインサーション材料は、金属酸化物である、請求項1~6のいずれか一項に記載のイオンセンサ。
【請求項8】
前記金属酸化物は、MxMnO2(MはNa又はKを示し、xは任意の正数を示す。)である、請求項7に記載のイオンセンサ。
【請求項9】
前記xは、0.2~0.5である、請求項8に記載のイオンセンサ。
【請求項10】
前記イオン選択性電極及び前記参照電極は、電極材を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のイオンセンサ。
【請求項11】
前記第1のインサーション材料、前記第2のインサーション材料、前記第1のイオン伝導性セラミックス及び前記第2のイオン伝導性セラミックスは、粒子である、請求項1~10のいずれか一項に記載のイオンセンサ。
【請求項12】
前記第1のイオン伝導性セラミックスの平均粒径は、前記第1のインサーション材料の平均粒径より小さく、且つ前記第2のイオン伝導性セラミックスの平均粒径は、前記第2のインサーション材料の平均粒径より小さい、請求項11に記載のイオンセンサ。
【請求項13】
前記第1のインサーション材料と前記第1のイオン伝導性セラミックスとの質量比及び前記第2のインサーション材料と前記第2のイオン伝導性セラミックスの質量比は、2:1~1:2である、請求項1~12のいずれか一項に記載のイオンセンサ。
【請求項14】
前記第1の内部固体層及び前記第2の内部固体層は、結着剤及び導電剤を含有する、請求項1~13のいずれか一項に記載のイオンセンサ。
【請求項15】
前記結着剤は、
(a)ポリフッ化ビニリデン、
(b)スチレンブタジエンラテックス及びカルボキシメチルセルロースを含有する混合剤、
(c)ポリアミド、ポリイミド、及びカルボジイミドを含有する混合剤、
(d)ポリテトラフルオロエチレン、又は
(e)アクリルエマルジョンである、請求項14に記載のイオンセンサ。
【請求項16】
前記導電剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボン粉末、又はグラファイト粉末である、請求項14又は15に記載のイオンセンサ。
【請求項17】
前記イオン選択膜は、イオノフォアを含有する、請求項1~16のいずれか一項に記載のイオンセンサ。
【請求項18】
前記イオン液体含有膜は、イオン液体を含有するゲル膜である、請求項1~17のいずれか一項に記載のイオンセンサ。
【請求項19】
前記第1の内部固体層の組成と前記第2の内部固体層の組成は、実質的に同じである、請求項1~18のいずれか一項に記載のイオンセンサ。
【請求項20】
前記イオン選択性電極及び前記参照電極は、前記絶縁体の同一面側に配置されている、請求項1~19のいずれか一項に記載のイオンセンサ。
【請求項21】
絶縁体上に、第1のインサーション材料及び第1のイオン伝導性セラミックスを含有する第1の内部固体層と、イオン選択膜と、を含むイオン選択性電極を形成する工程と、
前記絶縁体上に、第2のインサーション材料及び第2のイオン伝導性セラミックスを含有する第2の内部固体層と、イオン液体含有膜と、を含む参照電極を形成する工程と、を含む、イオンセンサの製造方法。
【請求項22】
前記第1の内部固体層及び前記第2の内部固体層の形成方法は、静電塗布である、請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】
請求項1~22のいずれかに記載のイオンセンサを用いたイオンの測定方法であって、
前記イオン選択性電極と前記参照電極に試料を接触させる工程と、
前記イオン選択性電極と前記参照電極との間の電位を測定する工程と、を含む、イオンの測定方法。
【請求項24】
前記試料を接触させる工程において、前記試料をイオンセンサ上に供給する、請求項23に記載のイオンの測定方法。
【請求項25】
前記試料を接触させる工程において、前記試料を前記イオン選択性電極が配置された位置から前記参照電極が配置された位置に向かって流動させる、請求項23に記載のイオンの測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンセンサ、イオンセンサの製造方法及びイオンの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポテンショメトリーによりイオンを測定するイオンセンサが知られている。イオンセンサは作用極であるイオン選択性電極と参照電極を含み、いずれにも内部液を用いたものが古くから使用されてきた。例えば、参照電極としては、Ag/AgClの電極に接するように飽和濃度や3M程度の濃厚なKCl溶液を内部液として持つ参照電極が多用されている。内部液を用いた内部液型イオンセンサでは、内部液の濃度が変化しないように高濃度のイオン電解質を含む必要があり、サンプル溶液の汚染、液絡部での結晶化による目詰まりなどの問題が生じることがあり、メンテンナンスが煩雑となる。また、電極内部に液体を使用した場合、構造が複雑になることから大量生産に向かないという問題がある。
【0003】
上記問題を解決するために、イオン選択性電極と参照電極のいずれにも内部液を用いない全固体型イオンセンサが知られている。全固体型イオンセンサでは、内部液を用いないために大量生産には向くものの、イオンセンサ間での電位のばらつきが大きいという課題を有している。イオンセンサ間での電位のばらつきが大きい場合には、使用前にキャリブレーション用の液体を用いて事前にキャリブレーションする必要が生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ACS Appl. Nano Mater. 2018, 1, 293-301.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1には、内部固体層に、CIMカーボンを使用した全固体型イオンセンサが報告されている。非特許文献1のイオンセンサでは、キャリブレーションフリーとするために、[CoIII(C9,C9-bipy)3](トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン)2、[CoIII(C9,C9-bipy)3](トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン)3、又はカリウム-テトラシアノキノジメタン錯塩を電極に含ませることを必要としている。しかしながら、非特許文献1の[CoIII(C9,C9-bipy)3](トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン)2、[CoIII(C9,C9-bipy)3](トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン)3、又はカリウム-テトラシアノキノジメタン錯塩は、サンプル溶液に溶出してしまうため、溶出した成分がイオンセンサの電位にばらつきを生じさせてしまう。
【0006】
本発明は、電位のばらつきを低減させたイオンセンサ、イオンセンサの製造方法及びイオンの測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、第1のインサーション材料及び第1のイオン伝導性セラミックスを含有する第1の内部固体層と、第1の内部固体層上に配置されたイオン選択膜と、を含むイオン選択性電極と、第2のインサーション材料及び第2のイオン伝導性セラミックスを含有する第2の内部固体層と、第2の内部固体層上に配置されたイオン液体含有膜と、を含む参照電極と、イオン選択性電極及び参照電極が配置された絶縁体と、を含むイオンセンサ、イオンセンサの製造方法及びイオンの測定方法であれば上記課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電位のばらつきを低減させたイオンセンサ、イオンセンサの製造方法及びイオンの測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(A)実施例1で得られたイオンセンサの平面図を示す。(B)実施例1で得られたイオンセンサの断面図を示す。
【
図2】実施例1で得られたイオンセンサの参照電極の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)画像と、SEM画像のエネルギー分散形X線分光器(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectrometer)を用いた元素分布図を示す。
【
図3】実施例2の開放回路電位測定を示す図である。
【
図4】同じ方法で独立して作製された8個の参照電極の電位応答時間曲線を示す。
【
図6】実施例4におけるKCl測定性能結果を示す。各イオン選択性電極に対する電位Eを測定した。(a) 参照電極に対するイオン選択性電極の検量線を示す。C
KはK
+濃度(mol dm
3)を示す。(b) 各KCl溶液における電位の標準偏差を示す。(c) 参照値として、(1)は非特許文献1の全固体型イオンセンサの電位標準偏差を示し、(2)は米国の連邦規則である42 CFR § 493.931 - Routine chemistryにおいてカリウムイオン測定の場合に許容される電位標準偏差を示す。
【
図7】実施例5における血清測定性能結果を示す。各イオン選択性電極に対する電位Eを測定した。(a) 参照電極に対するイオン選択性電極の検量線を示す。C
KはK
+濃度(mol dm
3)を示す。(b) 各血清における電位の標準偏差を示す。(c) 参照値として、(1)は非特許文献1の全固体型イオンセンサの電位標準偏差を示し、(2)は米国の連邦規則である42 CFR § 493.931 - Routine chemistryにおいてカリウムイオン測定の場合に許容される電位標準偏差を示す。
【
図8】実施例6のイオンセンサを用いたイオンの測定方法を示す図である。
【
図9】実施例6における、イオン選択性電極に対する電位Eを測定した結果を示す。横軸は溶液がセンサに接して停止してからの経過時間(分)を示す。縦軸は1分後の測定値に対する電位差を示す。
【
図10】イオン選択性電極の一例を示す模式的な断面図である。
【
図11】参照電極の一例を示す模式的な断面図である。
【
図12】イオン選択性電極の一例を示す模式的な断面図である。
【
図13】参照電極の一例を示す模式的な断面図である。
【
図14】本発明のイオンセンサの一例を示す模式的な断面図である。
【
図15】本発明のイオンセンサを用いて試料中のイオンを測定する実施態様の一例を示す模式図である。
【
図16】左側の図は、本発明のイオンセンサの一例を示す模式的な平面図である。右側の図は、本発明のイオンセンサの使用態様を示す模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.イオンセンサ
本発明は、第1のインサーション材料及び第1のイオン伝導性セラミックスを含有する第1の内部固体層と、第1の内部固体層上に配置されたイオン選択膜と、を含むイオン選択性電極と、第2のインサーション材料及び第2のイオン伝導性セラミックスを含有する第2の内部固体層と、第2の内部固体層上に配置されたイオン液体含有膜と、を含む参照電極と、イオン選択性電極及び参照電極が配置された絶縁体と、を含むイオンセンサ(本明細書において、「本発明のイオンセンサ」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0011】
以下の説明においては、「第1のインサーション材料」と「第2のインサーション材料」をまとめて、「インサーション材料」と示すことがある。「第1のイオン伝導性セラミックス」と「第2のイオン伝導性セラミックス」をまとめて「イオン伝導性セラミックス」と示し、「第1の内部固体層」と「第2の内部固体層」をまとめて「内部固体層」と示すことがある。
【0012】
「第1のインサーション材料」と「第2のインサーション材料」とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。「第1のイオン伝導性セラミックス」と「第2のイオン伝導性セラミックス」とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。「第1の内部固体層」と「第2の内部固体層」とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0013】
内部固体層は、インサーション材料及びイオン伝導性セラミックスを含有する層である。
【0014】
インサーション材料は、イオンセンサの電極に使用可能な材料である限り、特に制限されない。インサーション材料として、好適には、電気化学的な反応により、構造内で測定イオンの挿入(インサーション)・脱離を行うことができるもの(イオン-電子伝導体)を使用することができる。
【0015】
本明細書において、測定イオンとしては、特に制限されないが、例えばカリウムイオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等、好ましくはカリウムイオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン等、特に好ましくはカリウムイオンが挙げられる。
【0016】
インサーション材料は、無機インサーション材料であることが好ましい。無機インサーション材料は、イオンセンサの電極に使用可能な無機材料である限り、特に制限されない。
【0017】
インサーション材料として、具体的には、例えば金属酸化物、酸素レドックス材料、プルシアンブルー類似体等が挙げられ、これらの中でも好ましくは金属酸化物が挙げられる。これらは、測定イオンに応じて、適宜選択することができる。
【0018】
金属酸化物として、具体的には、例えばMxMnO2、MxNiO2、MxCoO2、MxNi0.5Mn0.5O2、MxFeO2、M2/3Fe1/3Mn2/3O2、MxNi1/3Co1/3Mn1/3O2、MxNi0.5Ti0.5O2、MxVO2、MxCrO2、MxFePO4(式中、Mは、それぞれ独立に、Na又はKであり、xは任意の正数を示す。)等が挙げられる。これらの中でも、より好ましくはMxMnO2が挙げられ、特に好ましくはNaxMnO2が挙げられる。
【0019】
xは、通常は0<x≦1である。xは、好ましくは0.15~0.66であり、より好ましくは0.2~0.5であり、さらに好ましくは0.22~0.28、0.30~0.36、又は0.41~0.47であり、特に好ましくは0.245~0.255、0.325~0.335、又は0.435~0.445である。
【0020】
金属酸化物の結晶構造は、イオンセンサの電極として使用可能なものである限り、特に制限されない。結晶構造としては、例えば直方晶系結晶構造、正方晶系結晶構造、三方晶系結晶構造、六法晶系結晶構造、立法晶系結晶構造、三斜晶系結晶構造、単斜晶系結晶構造等が挙げられ、これらの中でも好ましくは直方晶系結晶構造が挙げられる。
【0021】
酸素レドックス材料は、遷移金属だけでなく酸化物イオンの酸化還元反応を利用することができる材料であり、この限りにおいて特に制限されない。酸素レドックス材料として、具体的には、例えばNa2Mn3O7、Na2/3Mg0.28Mn0.72O2、Na2RuO3、Na1.3Nb0.3Mn0.4O2、Na0.6Li0.2Mn0.8O2等が挙げられる。
【0022】
プルシアンブルー類似体は、シアノ基が遷移金属イオンを架橋した構造体であり、この限りにおいて特に制限されない。プルシアンブルー類似体して、具体的には、例えばNa2Mn[Fe(CN)6]、NayCO[Fe(CN)6]0.90・2.9H2O(式中、yは任意の正数を示す。)、K-FeHCF(鉄ヘキサシアノ鉄カリウム)、K-NiHCF(ニッケルヘキサシアノ鉄カリウムK-CuHCF(銅ヘキサシアノ鉄カリウム)、Na-NiHCF(ニッケルヘキサシアノ鉄ナトリウム)、Ca-NiHCF(ニッケルヘキサシアノ鉄カルシウム)等が挙げられる。
【0023】
インサーション材料の形態は特に制限されないが、インサーション材料は好ましくは粒子である。インサーション材料の粒子は、例えばウロコ状、柱状、球状、楕円体状など任意の形状である。
【0024】
インサーション材料の粒子の平均粒径は、イオン伝導性セラミックスとの密着性を高め、イオンセンサの電極としての性能を高めることができるという観点から、好ましくは1~20μm、より好ましくは2~15μm、さらに好ましくは5~12μmである。なお、平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定することができる。
【0025】
インサーション材料の材質及び形状は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0026】
インサーション材料の含有量は、内部固体層100質量部に対して、例えば20~70質量部、好ましくは25~65質量部、より好ましくは30~60質量部である。
【0027】
イオン伝導性セラミックスは、イオンが伝導可能な固体である限り、特に制限されない。イオン伝導性セラミックスとして、測定イオンを伝導可能なものを使用することができる。
【0028】
イオン伝導性セラミックスとしては、例えばカリウムイオン伝導性セラミックス、ナトリウムイオン伝導性セラミックス、リチウムイオン伝導性セラミックス、カルシウム伝導性セラミックス、マグネシウム伝導性セラミックス等、好ましくはカリウムイオン伝導性セラミックス、ナトリウムイオン伝導性セラミックス、リチウムイオン伝導性セラミックス等、特に好ましくはカリウムイオン伝導性セラミックスが挙げられる。
【0029】
イオン伝導性セラミックスは、測定イオンに応じて、適宜選択することができる。イオン伝導性セラミックスとして、具体的には、例えばβ”アルミナ、βアルミナ、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、ガーネット型酸化物等の酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、安定化ジルコニア、イオン交換体等が挙げられる。なお、イオン交換体としては、イオン交換現象を示す物質である限り特に制限されず、例えばゼオライト(ゼオライトは内部にNaイオン、Kイオン、Hイオンなどカチオンを含むことができる)、イオン交換樹脂酸等が挙げられる。
【0030】
イオン伝導性セラミックスの中でも、水に対する安定性が高く、イオンセンサの電極として好適に使用できるという観点から、特に好ましくはβ”アルミナ、βアルミナ、ゼオライト等が挙げられる。
【0031】
β”/βアルミナは、イオン伝導層とスピネルブロックとからなる層状構造を含み、イオン伝導層内でイオン(測定イオン)の移動が起こる。β”アルミナとβアルミナとは結晶構造において相違しており、これらの内β”アルミナの方が、結晶構造内のナトリウムイオン含有量が高く、また、相対的にイオン導電性が高い。β”/βアルミナは、好ましくは、ナトリウムイオンが伝導することができるNa-β”/βアルミナである。Na-β”アルミナは、通常、化学組成がNa2O・xAl2O3(x=5~7)である物質である。また、Na-βアルミナは、通常、化学組成がNa2O・xAl2O3(x=9~11)である物質である。
【0032】
イオン伝導性セラミックスの形態は特に制限されないが、好ましくは粒子である。イオン伝導性セラミックスの粒子は、例えばウロコ状、柱状、球状、楕円体状など任意の形状である。
【0033】
イオン伝導性セラミックスの粒子の平均粒径は、インサーション材料との密着性を高め、イオンセンサの電極としての性能を高めることができるという観点から、本発明においては、好ましくは0.02~3μm、より好ましくは0.1~1μm、さらに好ましくは0.15~0.5μmである。イオン伝導性セラミックスの粒子の平均粒径は、同様の観点から、本発明においては、好ましくは0.02~7μm、より好ましくは0.05~5μm、さらに好ましくは0.1~3μmである。なお、平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定することができる。
【0034】
内部固体層においては、イオン伝導性セラミックスの平均粒径がインサーション材料の平均粒径より小さいことが好ましい。具体的には、インサーション材料の平均粒径に対するイオン伝導性セラミックスの平均粒径(=イオン伝導性セラミックスの平均粒径/インサーション材料の平均粒径)は、例えば0.001~0.3、好ましくは0.005~0.1、より好ましくは0.01~0.05である。或いは、インサーション材料の平均粒径に対するイオン伝導性セラミックスの平均粒径(=イオン伝導性セラミックスの平均粒径/インサーション材料の平均粒径)は、例えば0.001~0.7、好ましくは0.005~0.6、より好ましくは0.01~0.05である。
【0035】
イオン伝導性セラミックスの材質及び形状は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0036】
イオン伝導性セラミックスの含有量は、内部固体層100質量部に対して、例えば15~70質量部、好ましくは20~65質量部、より好ましくは25~60質量部である。
【0037】
内部固体層におけるインサーション材料とイオン伝導性セラミックスとの質量比(インサーション材料:イオン伝導性セラミックス)は、例えば5:1~1:5、好ましくは2:1~1:2、より好ましくは1.5:1~1:1.5、さらに好ましくは1.2:1~1:1.2、よりさらに好ましくは1.1:1~1:1.1である。
【0038】
内部固体層は、導電剤を含有することが好ましい。これにより、内部固体層の導電性を向上させ、イオンの出入りによる体積変化に対する緩衝作用を向上させ、測定の再現性を高めることができる。
【0039】
導電剤としては、特に制限されないが、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボン粉末、及びグラファイト粉末等の炭素材料、金属繊維等の導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウム等の金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー類、酸化チタン等の導電性金属酸化物、フェニレン誘導体、グラフェン誘導体等の有機導電性材料等を用いることができる。これらの中でも、好ましくは炭素材料が挙げられる。
【0040】
導電剤の成分及び形状は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0041】
導電剤の含有量は、内部固体層100質量部に対して、例えば0.1~20質量部、好ましくは1~15質量部、より好ましくは2~10質量部である。
【0042】
内部固体層におけるインサーション材料と導電剤との質量比(インサーション材料:導電剤)は、例えば20:1~1:1、好ましくは15:1~3:1、より好ましくは10:1~6:1である。
【0043】
内部固体層におけるイオン伝導性セラミックスと導電剤との質量比(イオン伝導性セラミックス:導電剤)は、例えば20:1~1:1、好ましくは15:1~3:1、より好ましくは10:1~6:1である。
【0044】
内部固体層は、結着剤を含有することが好ましい。これにより、内部固体層内の各成分をより強固に結着させることができる。
【0045】
結着剤としては、特に制限されないが、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、アクリルエマルジョン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルスルホン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース等の重合体や、これらの重合体と同様の骨格を持つ類似化合物、さらには複数の重合体からなるの複合剤を用いることができる。これらの中でも、好ましくは(a)ポリフッ化ビニリデン、(b)スチレンブタジエンラテックス及びカルボキシメチルセルロースを含有する混合剤、(c)ポリアミド、ポリイミド、及びカルボジイミドを含有する混合剤、(d)ポリテトラフルオロエチレン、(e)アクリルエマルジョン等が挙げられ、より好ましくはポリフッ化ビニリデンが挙げられる。
【0046】
結着剤の成分は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0047】
結着剤の含有量は、内部固体層100質量部に対して、例えば0.1~20質量部、好ましくは1~15質量部、より好ましくは2~10質量部である。
【0048】
内部固体層におけるインサーション材料と結着剤との質量比(インサーション材料:結着剤)は、例えば20:1~1:1、好ましくは15:1~3:1、より好ましくは10:1~6:1である。
【0049】
内部固体層におけるイオン伝導性セラミックスと結着剤との質量比(イオン伝導性セラミックス:結着剤)は、例えば20:1~1:1、好ましくは15:1~3:1、より好ましくは10:1~6:1である。
【0050】
内部固体層には、上記以外の他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えばMnCO3、Na2CO3、Al2O3等が挙げられる。
【0051】
内部固体層における、インサーション材料及びイオン伝導性セラミックスの合計含有量(さらに、導電剤、結着剤を含有する場合は、それらも含めた合計含有量)は、内部固体層100質量部に対して、例えば70~100質量部、好ましくは80~100質量部、より好ましくは90~100質量部、さらに好ましくは95~100質量部、よりさらに好ましくは99~100質量部である。
【0052】
内部固体層においては、各成分が混合状態であることが好ましい。
【0053】
内部固体層の層構造は特に制限されない。内部固体層は、単一の組成からなる1つの層からなる単層構造であってもよいし、互いに同一又は異なる組成からなる複数の層からなる複層構造であってもよい。
【0054】
内部固体層の厚み(=内部固体層の最も広い面に対して垂直方向の長さ)は、導電性が著しく損なわれない限り、特に制限されない。該厚みは、例えば1~200μmである。製造効率、製造コスト等の観点から、該厚みは、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~50μm、さらに好ましくは1~20μmである。
【0055】
第1の内部固体層の作製において配合する成分と第2の内部固体層の作製において配合する成分とは同じであることが好ましい。この場合において、第1の内部固体層における各成分の含有割合は、第2の内部固体層における対応する成分の含有割合100%に対して、例えば50~200%、好ましくは60~180%、より好ましくは70~140%、さらに好ましくは80~120%であり、これらの範囲の中でも、好ましくは90~110%、より好ましくは95~105%、さらに好ましくは98~102%、特に好ましくは99~101%である。
【0056】
本発明において、第1の内部固体層の組成と第2の内部固体層の組成が実質的に同じであることが好ましい。「組成が実質的に同じ」とは、不純物や残留溶媒等の微量成分以外の組成が同じであることを示す。例えば、第1の内部固体層の組成と第2の内部固体層とを、同じ混合組成物を使用して作製した場合は、得られた第1の内部固体層の組成と第2の内部固体層の組成とは実質的に同じであるということができる。
【0057】
イオン選択性電極は、第1の内部固体層とイオン選択膜とを含む。イオン選択膜は、イオン選択性物質を含有する。
【0058】
イオン選択性物質としては、従来公知のイオノフォア又は合成物質が広く使用できる。イオン選択性物質は、測定イオンに応じて選択することができる。イオン選択性物質としては、イオノフォアが好適に用いられる。イオノフォアとしては、バリノマイシン、モネシン、ロドプシン、ノナクチン、モナクチン、イオノマイシン、グラミシジンA、ナイジェリシン、CCCP(カルボニルシアニド-m-クロロフェニルヒドラゾン)、FCCP(カルボニルシアニド-p-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン)、などが挙げられる。また合成物質としては、クラウンエーテル(一群の大環状ポリエーテル)、更には非環状のノニルフェノキシポリエタノール等が挙げられる。イオン選択性物質は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。イオン選択性物質としては具体的には、DD16C5、Bis-12Crown-4、12-Crown-4、15-Crown-5、18‐Crown-6、カレックスアレンなどが挙げられる。
【0059】
イオン選択膜は、通常、バインダ樹脂を含有する。バインダ樹脂は、特に限定されるものではない。バインダ樹脂は、具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、シリコンエラストマー、ポリビニルアルコール、セルロースエステル、ポリカーボネート、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体等が挙げられる。バインダ樹脂の成分は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0060】
イオン選択膜は、好ましくは可塑剤を含有する。可塑剤により、イオン選択膜の柔軟性が高められるため、例えば、イオン選択膜の割れの発生が抑制させることができる。可塑剤としては、特に制限されないが、例えばTEHP(りん酸トリス(2-エチルヘキシル))、NPOE(2-ニトロフェニルオクチルエーテル)、DOP(フタル酸ジオクチル)、DOS(セバシン酸ジオクチル)、DBE(二塩基酸エステル)、BA(アクリル酸ブチル)等が挙げられる。可塑剤は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0061】
イオン選択膜は、好ましくはアニオン排除剤を含有する。アニオン排除剤は、測定イオンに応じて選択することができる。アニオン排除剤としては、例えばテトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸ナトリウム(Na-TCPB)、テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム(K-TCPB)、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸ナトリウム(Na-TFPB)、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸カリウム(K-TFPB)、テトラフェニルホウ酸カリウム(K-TPB)、テトラフェニルホウ酸ナトリウム(Na-TPB)、テトラキス[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ酸ナトリウム等のテトラフェニルボレート塩が挙げられる。アニオン排除剤の成分は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0062】
上記成分の含有量は、イオン選択膜が機能できる限りにおいて、特に制限されない。イオン選択膜100質量部に対する含有量は、イオン選択性物質が例えば1~10質量部、バインダ樹脂が例えば15~45質量部、可塑剤が例えば50~80質量部、アニオン排除剤が例えば0.1~5質量部である。
【0063】
イオン選択膜の層構造は特に制限されない。イオン選択膜は、単一の組成からなる1つの層からなる単層構造であってもよいし、互いに同一又は異なる組成からなる複数の層からなる複層構造であってもよい。
【0064】
イオン選択膜の厚み(=イオン選択膜の最も広い面に対して垂直方向の長さ)は、特に制限されない。該厚みは、例えば50~300μmである。
【0065】
イオン選択膜の用途は、特に限定されず、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン等の陽イオン選択膜である。
【0066】
イオン選択膜は、内部固体層上に配置される。好ましくは、内部固体層上に直接、イオン選択膜が配置される。イオン選択性電極の模式図を
図10に示す。
図10において、イオン選択性電極Dは、内部固体層A上に直接、イオン選択膜C1が配置されてなる、2層構造である。イオン選択性電極Dにおいては、内部固体層Aが露出しないように、例えばイオン選択膜C1を内部固体層Aの側面も覆うように配置すること、側壁を設けることが好ましい。
【0067】
参照電極は、第2の内部固体層とイオン液体含有膜とを含む。
【0068】
イオン液体としては、特に制限されないが、例えば、陽イオンが、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、4級アンモニウムカチオン、フォスフォニウムカチオン又はアルゾニウムカチオンの少なくとも1つ以上であり、陰イオンが、[R1SO2NSO2R2]-(R1、R2はそれぞれ炭素数1~5のパーフルオロアルキル基)、フッ素及び4価のホウ素を含むボレートイオン、ビス(2-エチルヘキシル)スルホサクシネイト、AlCl4
-、Al3Cl7
-、NO3
-、BF4
-、PF6
-、CH3COO-、CF3COO-、CF3SO3
-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、AsF6
-、SbF6
-、F(HF)n-、CF3CF2CF2CF2SO3
-、(CF3CF2SO2)2N-、又はCF3CF2CF2COO-の少なくとも1つ以上である疎水性イオン液体が挙げられる。
【0069】
イオン液体含有膜は、イオン液体を含有するゲル膜であることが好ましい。
【0070】
疎水性イオン性液体をゲル化する方法としては特に限定されないが、高分子化合物を用いてゲル化することができる。このような高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリブチルアクリレート、ポリビニルピリジン、有機電解質オリゴマー(主鎖カチオン部分がPICPM構造を有するもの等)、ポリ塩化ビニル、その他の合成ゴム等が挙げられる。高分子とともに架橋剤を用いてもよく、例えば、複数のフルオロアルキル化スルホニルアミド基を有する架橋剤と、当該架橋剤とオニウム塩を形成可能な基を有する高分子化合物とを含むゲル化剤等を用いてもよい。また、高分子とともに可塑剤を用いてもよく、例えばポリ塩化ビニルに可塑剤を混合し乾燥させてゲル化してもよい。可塑剤としては、イオン選択膜に使用される上述の可塑剤と同様のものを使用することができる。
【0071】
上記成分の含有量は、イオン液体含有膜が機能できる限りにおいて、特に制限されない。イオン液体含有膜100質量部に対する含有量は、イオン液体が例えば1~15質量部、高分子化合物が例えば15~45質量部、可塑剤が例えば50~80質量である。イオン液体含有膜100質量部に対するイオン液体の含有量は、イオン液体の溶出を抑制し、イオン測定に与える影響をより抑えるという観点から、好ましくは1~10質量部、より好ましくは1~6質量部である。
【0072】
イオン液体含有膜の層構造は特に制限されない。該層は、単一の組成からなる1つの層からなる単層構造であってもよいし、互いに同一又は異なる組成からなる複数の層からなる複層構造であってもよい。
【0073】
イオン液体含有膜は、内部固体層上に配置される。好ましくは、内部固体層上に直接、イオン液体含有膜が配置される。参照電極を
図11に示す。
図11において、参照電極Eは、内部固体層A上に直接、イオン液体含有膜C2が配置されてなる、2層構造である。参照電極Eにおいては、内部固体層Aが露出しないように、例えばイオン液体含有膜C2を内部固体層Aの側面も覆うように配置すること、側面に側壁を設けることが好ましい。
【0074】
イオン選択性電極及び参照電極は、内部固体層中に導電性材料が含まれている限り、電極として機能することが可能である。電極としての機能をより向上させる、或いは電極としての機能を付与する観点から、イオン選択性電極及び参照電極は、電極材を含むことが好ましい。
【0075】
電極材は、導電性材料を含有するものである限り、特に制限されない。導電性材料としては、例えば白金、金、銀、銅、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケルなどの金属、炭素、これらの金属及び/又は炭素の少なくとも1つを含む物質(合金等)、これらの金属の塩化物などの金属ハロゲン化物などが挙げられる。これらの中でも、好ましくは白金、金、銀、パラジウム、アルミニウム、ニッケル、炭素等が挙げられる。導電性材料は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0076】
導電性材料の含有量は、電極材100質量部に対して、例えば70~100質量部、好ましくは85~100質量部、より好ましくは95~100質量部である。
【0077】
電極材の形状は特に制限されないが、通常は扁平状である。
【0078】
電極材の層構造は特に制限されない。電極材は、単一の組成からなる1つの層からなる単層構造であってもよいし、互いに同一又は異なる組成からなる複数の層からなる複層構造であってもよい。
【0079】
電極材の厚み(=電極材の最も広い面に対して垂直方向の長さ)は、電極としての機能をより向上させる、或いは電極としての機能を付与することができる限り、特に制限されない。該厚みは、例えば1~10μmである。製造効率、製造コスト等の観点から、該厚みは、好ましくは1~5μm。
【0080】
電極(イオン選択性電極、参照電極)が電極材を含む場合、通常、電極材上に直接、又は他の層を介して内部固体層が配置されている。この場合、好ましくは、電極材上に直接、内部固体層が配置されている。電極材を含む場合のイオン選択性電極を
図12に示す。
図12において、イオン選択性電極Dは、電極材B上に直接、内部固体層Aが配置され、さらに内部固体層Aの電極材Bとは反対側の表面上に直接、イオン選択膜C1が配置されてなる、3層構造である。電極材を含む場合の参照電極を
図13に示す。
図13において、参照電極Eは、電極材B上に直接、内部固体層Aが配置され、さらに内部固体層Aの電極材Bとは反対側の表面上に直接、イオン液体含有膜C2が配置されてなる、3層構造である。これらの電極においては、電極材が露出しないように、例えば内部固体層Aを電極材Bの側面も覆うように配置すること、側壁を設けることが好ましい。
【0081】
本発明のイオンセンサは、イオン選択性電極と参照電極のいずれにも内部液を用いない全固体型イオンセンサとすることができる。
【0082】
本発明のイオンセンサは、イオン選択性電極、参照電極、並びに絶縁体を含む。
【0083】
絶縁体は、電極の導電性に影響を与えない絶縁性材料を含むものである限り、特に制限されない。絶縁性材料としては、例えばポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリイミド、ガラスエポキシ樹脂、ガラス、セラミック、紙などの繊維基材などが挙げられる。
【0084】
本発明のイオンセンサにおいて、イオン選択性電極及び参照電極は絶縁体上に配置されている。本発明のイオンセンサの模式的な断面図を
図14に示す。
図14においては、絶縁体F上に、イオン選択性電極D及び参照電極Eが配置されている。
【0085】
本発明のイオンセンサにおいて、イオン選択性電極と参照電極との距離(すなわち、イオン選択性電極の端部と参照電極の端部との最短距離である。例えば
図14の断面図においては、イオン選択性電極の端部Z1と参照電極Eの端部Z2との距離である。)は、イオン測定における電位変化をより抑えるという観点から、2mm以上であることが好ましい。当該距離は、より好ましくは3mm以上、さらに好ましくは4mm以上、よりさらに好ましくは5mm以上である。当該距離の上限は、より少ない同一試料を、イオン選択性電極と参照電極の両方に同時に接触させることができることができる程度の距離であることが望ましく、この観点から、例えば20mm、15mm、10mm、8mm、又は6mmである。
【0086】
イオン選択性電極及び参照電極は、絶縁体の同一面側に配置されていることが好ましい。
図14においては、イオン選択性電極D及び参照電極Eは、絶縁体Fの同一面側に配置されている。
【0087】
本発明のイオンセンサは、イオン選択性電極を1つのみ有することができるし、イオン選択性電極を2つ以上(例えば2~5)有することもできる。また、本発明のイオンセンサは、参照電極を1つのみ有することができるし、参照電極を2つ以上(例えば2~5)有することもできる。
【0088】
本発明のイオンセンサは、好ましくはカリウムイオンセンサとして使用することができる。高カリウム血症患者は、高カリウム食の過剰摂取等の血中カリウムを増加させる行動により、心電図に異常が現れる程度に心臓の電気的活動が変動したり、場合によっては致死的不整脈を起こす可能性が高い一方、血中カリウムレベルが高くない状態で投薬、透析等を行うと、過剰に血中カリウムの低下を引き起こし、それにより麻痺や筋肉痙攣が起こり、場合によっては死亡することがある。血中カリウムレベルは、患者の体質、病態、日常の食事内容等に応じて異なるので、血中カリウムレベルの過剰低下や過剰増加を起こさないように、血中カリウムレベルを患者自身が測定した上で、投薬タイミング、投薬量、食事内容等を適宜調節できることが望ましい。本発明のイオンセンサは、電位のばらつきが低減されており、キャリブレーションの必要性がより低い(キャリブレーションフリーも可能な)イオンセンサであるので、高カリウム血症患者による測定(通常、キャリブレーションのような煩雑且つ専門的な作業は困難)に使用するカリウムイオンセンサとして、特に適している。
【0089】
図16に本発明のイオンセンサJの使用例を示す。絶縁体Fにイオン選択性電極D及び参照電極Eが配置されたイオンセンサJを、
図16の右側に示されるように、別途準備した電位差計Gにセットすることにより、イオン濃度を測定することができる。具体的には、イオンセンサJの接続端子Kを電位差計G内の接続端子に接続し、電位差計Gに接続されたイオンセンサJの先端Lを血液に接触させることにより、血液が流路Mを介して毛細管現象によって吸引される。吸引された血液は、イオン選択性電極D及び参照電極Eに接触することにより、電位差計Gによって電位差が計測され、イオン濃度が算出される。なお、イオンセンサJは、使い捨てのイオンセンサとして、測定後に廃棄することができる。
【0090】
2.イオンセンサの製造方法
本発明は、絶縁体上に、第1のインサーション材料及び第1のイオン伝導性セラミックスを含有する第1の内部固体層と、イオン選択膜と、を含むイオン選択性電極を形成する工程と、絶縁体上に、第2のインサーション材料及び第2のイオン伝導性セラミックスを含有する第2の内部固体層と、イオン液体含有膜と、を含む参照電極を形成する工程と、を含む、イオンセンサの製造方法、に関する。
【0091】
電極(イオン選択性電極、参照電極)の形成方法は、特に制限されない。好適には、絶縁体上(或いは絶縁体上に形成された電極材上)にインサーション材料及びイオン伝導性セラミックスを含有する内部固体層を形成すること、及び内部固体層上にイオン選択膜/イオン液体含有膜を形成すること、を含む方法により、電極を製造することができる。
【0092】
内部固体層の形成方法は特に制限されない。好ましくは、インサーション材料及びイオン伝導性セラミックスを(好ましくは混合状態で)含有する組成物を絶縁体上(或いは絶縁体上に形成された電極材上)に成膜、乾燥することにより、内部固体層を形成することができる。成膜方法としては、静電塗布、ディスペンサでの塗布、スクリーン印刷、スパッタ、蒸着、ホットプレスなどを採用することができるが、インサーション材料とイオン伝導性セラミックスとの密着性を高めることができるという観点から、静電塗布が好ましい。
【0093】
イオン選択膜、イオン液体含有膜等の他の層の形成方法としては、上記に準じた方法を採用することができる。すなわち、層を構成する各成分を含有する組成物(ペースト、溶液等)を内部固体層上に成膜、乾燥することにより、形成することができる。
【0094】
3.イオン測定方法
本発明は、本発明のイオンセンサを用いたイオンの測定方法であって、イオン選択性電極と参照電極に試料を接触させる工程と、イオン選択性電極と参照電極との間の電位を測定する工程と、を含む、イオンの測定方法(本明細書において、「本発明の測定方法」と示すこともある。)に関する。
【0095】
試料は、イオンの測定対象であり、イオンを含み得るものである限り特に制限されず、液体、半固体等であることができる。試料としては、例えば体液又は体液を保持する物質等が挙げられる。体液としては、例えば全血、血清、血漿、経血、唾液、尿、組織液、汗、涙、唾液等が挙げられる。試料としては、他にも、例えば飲食品等が挙げられる。
【0096】
電位の測定は、公知の方法に従って又は準じて、測定することができる。例えば、
図15に示すように、イオン選択性電極Dと参照電極Eとの間に導線Hを介して電位差計Gを配置し、電位を測定することができる。電位の測定は、イオン選択性電極Dと参照電極Eに試料Iが接触している状態で行う。得られた測定値に基づいて試料I中のイオン濃度を算出することができる。
【0097】
本発明において、試料を接触させる工程において、試料をイオンセンサ上に供給することを含むことができる。
【0098】
また、本発明においては、イオン液体のイオン選択性電極への接触を抑止し、イオン測定における電位変化をより抑えるという観点から、試料をイオン選択性電極が配置された位置から参照電極が配置された位置に向かって流動させることが好ましい。本発明においては、試料を最初にイオン選択性電極に接触させ、その後、イオン選択性電極から参照電極方向への試料の流動により、試料を参照電極にも接触させることができる。試料の流動の動力は、電位測定に著しい影響を与えないものである限り特に制限されず、例えば毛細管現象、重力等が挙げられる。
【0099】
本発明のイオンセンサは、電位のばらつきが低減されており、キャリブレーションの必要性がより低い(キャリブレーションフリーも可能な)イオンセンサであるので、これを使用する本発明の測定方法は、高カリウム血症患者自身による血中カリウムレベルのモニタリング測定に、特に適している。
【実施例0100】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0101】
実施例1.イオンセンサの構造と作製方法
図1(A)、(B)を用いてイオンセンサの構造について説明する。
図1(A)は、実施例1で得られたイオンセンサの平面図を示しており、
図1(B)は
図1(A)の1B-1B´線に沿ったイオンセンサの断面図を示している。イオンセンサ1は、絶縁体であるアルミナ基板11の同一面側に形成された凹部112、111のそれぞれ対向する位置に、イオン選択性電極52及び参照電極51が配置されている。イオン選択性電極52は、アルミナ基板11に近い方から順に、白金電極22、内部固体層32、イオン選択膜42がアルミナ基板11上に配置された構造である。参照電極51は、アルミナ基板11に近い方から順に、白金電極21、内部固体層31、イオン液体含有膜41がアルミナ基板11上に配置された構造である。白金電極21、22は、凹部111、112に埋め込まれており、上面視で円形状の直径1.7mm(φ1.7mm)を有している。イオン選択膜42は、内部固体層32の上面及び側面を覆うようにアルミナ基板11上に配置されている。イオン液体含有膜41は、内部固体層31の上面及び側面を覆うようにアルミナ基板11上に配置されている。イオン選択性電極52の内側端部62と参照電極51の内側端部61との間の距離は5.6mmである。内部固体層32(厚さ約15μm)とイオン選択膜42(厚さ約15μm)の総厚さは約30μmであり、内部固体層31(厚さ約15μm)とイオン液体含有膜41(厚さ約15μm)の総厚さは約30μmである。アルミナ基板11の同一面側に凹部112、111を形成した場合には、イオン選択性電極52及び参照電極51の形状に応じた作製が容易となる。なお、イオンセンサ1は、凹部112、111が形成されていないアルミナ基板11に、イオン選択性電極52及び参照電極51が配置されていてもよい。
【0102】
次に、イオンセンサの作製方法について説明する。インサーション材料(Na0.33MnO2(直方晶系結晶構造、平均粒径8.9μm、ウロコ状))、イオン伝導性セラミックス(β”アルミナ:Na2Al10.6O15.9、平均粒径0.26μm)、導電剤(アセチレンブラック)、結着剤(ポリフッ化ビニリデン)、及び溶媒である1-メチル-2-ピロリドンを、インサーション材料:イオン伝導性セラミックス:導電剤:結着剤=8:8:1:1の組成比で混合し、内部固体層31及び内部固体層32の素材を調製する。調製した素材を、アルミナ基板11上の白金電極21及び白金電極22それぞれの上に、静電気力により材料をターゲットに塗布する静電塗布により積層した後、真空乾燥炉で完全に乾燥させて内部固体層31及び内部固体層32を作製する。
【0103】
アルミナ基板11上に内部固体層31及び内部固体層32を形成した後、内部固体層32上に、イオノフォア(バリノマイシン)3質量部、可塑剤(リン酸トリス(2-エチルへキシル))67.9質量部、アニオン排除剤(テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム)0.3質量部、及びバインダ樹脂(ポリ塩化ビニル)28.8質量部を含有するテトラヒドロフラン溶液を積層して乾燥させてイオン選択膜42を形成し、イオン選択性電極52を得る。
【0104】
次に、内部固体層31上に、イオン液体([TBMOEP+][C1C1N-]:トリブチル(2-メトキシエチル)ホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)4質量部、可塑剤(リン酸トリス(2-エチルへキシル))64質量部、及びゲル化用高分子化合物(ポリ塩化ビニル)32質量部を含有するテトロヒドロフラン溶液を積層して乾燥させてイオン液体含有膜としてのイオン液体含有膜41を形成し、参照電極51を得る。
【0105】
参照電極51の断面形態を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM, S-4800, Hitachi High-Technologies Corporation)とエネルギー分散型X線分光法(EDS, XFlash 6130, Bruker AXS)で分析した。
【0106】
参照電極51の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)画像と、SEM画像のエネルギー分散形X線分光器(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectrometer)を用いた元素分布図を
図2に示す。インサーション材料33であるNa
0.33MnO
2はMnとNaの元素分布で、イオン伝導性セラミックス34であるβ”アルミナはAlとNaの元素分布で、可塑剤であるリン酸トリス(2-エチルへキシル)はPの元素分布で、ゲル化用高分子化合物であるポリ塩化ビニルはClの元素分布で示されている。Mnの元素分布及びAlの元素分布を比較すると、Mnの分布部分(すなわちインサーション材料33)の周囲にAl(すなわちイオン伝導性セラミックス34)が分布していることから、インサーション材料33周囲をイオン伝導性セラミックス34が覆っていることが確認できた。また、インサーション材料33とイオン伝導性セラミックス34の間のNa
+のやり取りのため、イオン選択性電極52と同じように可塑剤がインサーション材料33の間に入っていることが必要であるが、Pの元素分布およびClの元素分布においてはP及びClが比較的均一に分布していることから、可塑剤とゲル化用高分子化合物がインサーション材料33の間隙に設計通り入り込んでいることが確認された。
【0107】
実施例2.イオンセンサによる電位差測定1
イオンセンサ1(実施例1)のイオン選択性電極52及び参照電極51それぞれの開放回路電位を、
図3に示すようにして、Ag/AgCl参照電極78(飽和KCl、ダブルジャンクションNaCl 140 mmol dm
-3)に対して3分間測定した。具体的には、イオン選択性電極52と参照電極51との間が電位差計75を介して接続させ、さらにイオン選択性電極52とAg/AgCl参照電極78との間、及び参照電極51とAg/AgCl参照電極78との間も電位差計752、751を介して接続させ、電位を測定した。イオン選択性電極52及び参照電極51をアルミナ基板11の同一面上に集積したイオンセンサ1の評価において、イオン選択性電極52と参照電極51との間の電位(E)は、イオン選択性電極52の電位(E
W)から参照電極51の電位(E
R)を差し引いて算出し、E
RとE
WはそれぞれAg/AgCl 参照電極78との間で測定した。各測定において、事前のコンディショニング(測定対象イオン(カリウムイオン)が含まれる溶液に電極を一定時間接触させる作業)を行っていない乾燥状態のセンサに試料溶液を滴下し、50~60秒、110~120秒、170~180秒の平均値を、それぞれ1分、2分、3分の測定値として測定した。KCl測定用のサンプル液には、KCl 1, 10, 100 mmol dm
-3および140 mmol dm
-3のNaCl電解質が含まれていた。血清測定には、血清標準液(JCTCM 130-4)Low(L)、Middle(M)、High(H)を購入し、LとM、MとHを混合して他の濃度レベルの試料を調製した。表1に、血清サンプルの各イオン濃度を示す。
【0108】
【0109】
10 mmol dm
-3 KClおよび140 mmol dm
-3 NaCl水溶液とAg/AgCl参照電極78を用いて測定した8個の参照電極51(それぞれ同じ方法で独立して作製された8個の参照電極51)の電位差応答を
図4に示す。電位応答波形から、応答時間は45秒程度であった(
図4)。8個のセンサ間の標準電位(E
o) の再現性は、1分で標準偏差 ± 0.6 mV、2分で ± 0.7 mV、3分で± 0.6 mV となり、非常に良好であった(表2)また、1-100 mmol dm
-3のK
+が存在している場合でも電極電位は標準偏差 ± 0.3 mV となり、参照電極51の測定電位はKCl濃度に依存しないことが分かった(表3)
【0110】
【0111】
【0112】
実施例3.イオンセンサによる電位差測定2
イオンセンサ1の電極間距離5.6mmの妥当性を評価するために、イオンセンサ1(実施例1)と、参照電極51を備えない以外はイオンセンサ1(実施例1)と同じ構成のイオンセンサ2(
図5)を用意した。イオンセンサ1及びイオンセンサ2それぞれのイオン選択性電極の開放回路電位を、実施例2(
図3)と同様にしてAg/AgCl参照電極78に対して3分間測定し、検量線を得て、傾き、標準電位、選択性(Kpot K
+,Na
+)などのパラメータが両者で異なるかどうかを評価した。
【0113】
結果を表4に示す。表4は、参照電極51を備えないイオンセンサ2と、参照電極51を備えたイオンセンサ1をそれぞれ3個ずつ測定し、2種類のイオンセンサについて個別に求めた1)傾き、2)標準電位、3)選択性係数の平均値と標準偏差を示す(平均値±標準偏差)。サンプル溶液のK+濃度は、140 mmol dm3のNaClを含むKCl溶液の場合、1、10、100 mmol dm3であり、1個のセンサに低濃度から順番に3種類の液を滴下して測定した。
【0114】
【0115】
参照電極51の有無によって傾き、電位、選択性に有意な差はなかった(表4)。
【0116】
実施例4.イオンセンサによる電位差測定3
イオンセンサ1(実施例1)がディスポ―ザブルセンサーとして、キャリブレーションフリー測定が可能かどうか確認するために、イオンセンサ1(実施例1)1つで1回のみKCl溶液を測定し、検量線を取得した。溶液毎に3つずつのイオンセンサ1を使用し、合計15個のイオンセンサ1を使用した。これら15個のイオンセンサ1は、同じ方法でそれぞれ独立して作製されたものであった。
【0117】
KCl溶液測定時における、参照電極51に対するイオン選択性電極52の検量線を
図6(a)に示す。KClの1-100 mmol dm
-3における傾きは53.2 mV/decadeであり、直線性はR2=0.999と良好であった。
【0118】
非特許文献1では、全固体型イオンセンサを用いて、電極のコンディショニング(電極を1mM KCl溶液に24時間浸漬)なしでKCl溶液を測定した場合の電位のばらつき(標準偏差)が4.3mVであったことが報告されている(
図6(c)の(1))。なお、コンディショニング(電極を1mM KCl溶液に24時間浸漬)後にKCl溶液を測定した場合の電位のばらつき(標準偏差)は14mVとなり、ばらつきが拡大していた。また、米国の連邦規則である42 CFR § 493.931 - Routine chemistryにおいてカリウムイオン測定の場合に許容される電位のばらつき(標準偏差)は2.3mVである(
図6(c)の(2))。よって、本実施例における電位の標準偏差(0.4-1.3 mV)は、米国の連邦規則である42 CFR § 493.931 - Routine chemistryの許容値以下であり、さらに全固体型イオンセンサの従来技術の標準偏差よりも低い、非常に良好な値であった(
図6(b))。
【0119】
実施例5.イオンセンサによる電位差測定4
イオンセンサ1(実施例1)の性能を血液の血清サンプルでテストした。K+, Na+, Cl-の濃度が異なる一連の血清サンプルを用意した(表1)。
【0120】
血清検体に対するイオンセンサ1の検量線を
図7(a)に示す。実施例1と同じイオンセンサ1を用いて、イオン選択性電極52の電位値Eと参照電極51の関係を測定した。血清試料に対する応答の傾きは51.7mV/decadeであり、KCl 1-10mmol dm
-3の範囲で観測された応答の傾き51.2mV/decadeと大きな違いはなかった。
【0121】
非特許文献1では、全固体型イオンセンサを用いて、電極のコンディショニング(電極を1mM KCl溶液に24時間浸漬)なしで10%血清を測定した場合の電位のばらつき(標準偏差)が4.4mVであったことが報告されている(
図7(c)の(1))。なお、コンディショニング(電極を1mM KCl溶液に24時間浸漬)後に10%血清を測定した場合の電位のばらつき(標準偏差)は19mVとなり、ばらつきが拡大していた。また、米国の連邦規則である42 CFR § 493.931 - Routine chemistryにおいてカリウムイオン測定の場合に許容される電位のばらつき(標準偏差)は2.3mVである(
図7(c)の(2))。よって、本実施例における電位の標準偏差(0.2-2.2 mV)は、米国の連邦規則である42 CFR § 493.931 - Routine chemistryの許容値以下であり、さらに全固体型イオンセンサの従来技術の標準偏差よりも低い、非常に良好な値であった(
図7(b))。
【0122】
実施例6.カリウムイオンセンサによる電位差測定5
イオンセンサ1(実施例1)のイオン液体含有膜41上に、さらにイオン液体70質量%のイオン液体含有膜43を積層したイオンセンサ3(実施例6)を用いて、
図8で示す系にて測定を行った。具体的には、参照電極51とAg/AgCl参照電極78とを電位差計75を介して接続させ、電位を測定した。
【0123】
測定溶液としてKCl 1 mmol dm
-3の溶液を100μL使用し、溶液がイオンセンサ1に接して停止してからの3分間、Ag/AgCl電極78に対して参照電極51の電位を測定した。イオン液体含有膜41を積層した参照電極51側からイオン選択性電極52側に測定溶液を流した場合(ケース1)とイオン選択性電極52側から参照電極51側に測定溶液を流した場合(ケース2)の3分間の電位変化ΔE(1分後の測定値に対する電位差)を
図9に示す。ケース2では3分間安定した電位を示すのに対し、ケース1では溶液中に溶けだしたイオン液体がイオン選択性電極52の膜に影響を与え、徐々に電位が低下した。