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特開2023-79636固体高分子形燃料電池用セパレータ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079636
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池用セパレータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20230601BHJP
   C25D 5/14 20060101ALI20230601BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20230601BHJP
   C25D 5/28 20060101ALI20230601BHJP
   C25D 5/30 20060101ALI20230601BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20230601BHJP
   H01M 8/021 20160101ALI20230601BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20230601BHJP
【FI】
H01M8/0228
C25D5/14
C25D5/26 Q
C25D5/26 Z
C25D5/28
C25D5/30
H01M8/10 101
H01M8/021
H01M8/0206
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193188
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100173462
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100194179
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】長尾 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】ホ シリ
【テーマコード(参考)】
4K024
5H126
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AB02
4K024BA01
4K024BA04
4K024BA06
4K024BA08
4K024BB25
4K024CA01
4K024CA02
4K024CA04
4K024CA05
4K024DA03
4K024DA04
4K024DA05
4K024GA03
4K024GA16
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD05
5H126DD17
5H126EE03
5H126GG02
5H126HH03
5H126JJ03
5H126JJ05
5H126JJ06
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】耐腐食性に優れ、界面接触抵抗値が低い固体高分子形燃料電池用セパレータ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】固体高分子形燃料電池用セパレータ40の製造方法は、塩酸と塩化ニッケルとを含む第1のニッケルめっき溶液に金属板100を浸漬してニッケルめっきを施し、金属板100の上に第1のニッケル層120を形成する第1のニッケルめっき処理工程と、硫酸ニッケルとホウ酸とを含む第2のニッケルめっき溶液に第1のニッケル層120が形成された金属板100を浸漬してニッケルめっきを施し、第1のニッケル層120の上に第1のニッケル層120よりも厚い第2のニッケル層130を形成する第2のニッケルめっき処理工程と、を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸と塩化ニッケルとを含む第1のニッケルめっき溶液に金属板を浸漬してニッケルめっきを施し、前記金属板の上に第1のニッケル層を形成する第1のニッケルめっき処理工程と、
硫酸ニッケルとホウ酸とを含む第2のニッケルめっき溶液に前記第1のニッケル層が形成された前記金属板を浸漬してニッケルめっきを施し、前記第1のニッケル層の上に前記第1のニッケル層よりも厚い第2のニッケル層を形成する第2のニッケルめっき処理工程と、
を含む固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記第1のニッケルめっき溶液の塩酸濃度は、2.0mol/L以上3.5mol/L以下であり、
前記第1のニッケルめっき溶液の塩化ニッケル濃度は、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であり、
前記第2のニッケルめっき溶液の硫酸ニッケル濃度は、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であり、
前記第2のニッケルめっき溶液のホウ酸濃度は、0.10mol/L以上1.50mol/L以下である、
請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
前記第1のニッケルめっき溶液に前記金属板を浸漬する際の前記第1のニッケルめっき溶液の温度は、15℃以上50℃以下であり、
前記第2のニッケルめっき溶液に前記第1のニッケル層が形成された前記金属板を浸漬する際の前記第2のニッケルめっき溶液の温度は、45℃以上65℃以下である、
請求項1又は2に記載の固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
前記第1のニッケルめっき処理工程は、電解めっき工程であり、電流密度は0.15A/cm以上0.4A/cm以下であり、
前記第2のニッケルめっき処理工程は、電解めっき工程であり、電流密度は0.15A/cm以上0.4A/cm以下である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記金属板は、ステンレス、アルミニウム、マグネシウム、及びチタンからなる群から選ばれる1種から構成される、請求項1から4のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項6】
金属板と、
前記金属板の上に形成された第1のニッケル層と、
前記第1のニッケル層の上に形成された第2のニッケル層と、を備え、
前記第1のニッケル層の厚さが0.01μm以上1.0μm以下であり、
前記第2のニッケル層の厚さが2.0μm以上であり、
腐食電流密度が0.001μA/cm以上1.100μA/cm以下であり、
界面接触抵抗値が0.01mΩ・cm以上1.00mΩ・cm以下である、
固体高分子形燃料電池用セパレータ。
【請求項7】
70℃の1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後の界面接触抵抗値が10.0mΩ・cm以下である、請求項6に記載の固体高分子形燃料電池用セパレータ。
【請求項8】
前記金属板は、ステンレス、アルミニウム、マグネシウム、及びチタンからなる群から選ばれる1種から構成される、請求項6又は7に記載の固体高分子形燃料電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用セパレータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池はCO削減の効果が高く、家庭用の電源、自動車用の電源などとして利用されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、負極と、正極と、これらの電極の上に設けられたセパレータと、を含む。負極は水素と反応し、正極は水や酸素と反応するため、それらの周囲は強い酸性又はアルカリ性となる。このため、セパレータは、酸又はアルカリにより腐食されやすく、耐腐食性に優れていることが必要となる。また、固体高分子形燃料電池で生成した電力を低損失で外部回路に供給するために、セパレータの界面接触抵抗値は低いことが好ましい。
【0004】
特許文献1には、固体高分子形燃料電池で使用される耐腐食性のセパレータが開示されている。このセパレータは、アルミニウム基板と、銅層と、錫層と、チタン、バナジウムなどから形成された金属層とが積層された構成を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-198573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたセパレータは、その表面が腐食されることで、表面の材料組織が変化し、伝導性が失われるため、界面接触抵抗値が高くなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、耐腐食性に優れ、界面接触抵抗値が低い固体高分子形燃料電池用セパレータ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のとおりである。
[1]本発明に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法は、塩酸と塩化ニッケルとを含む第1のニッケルめっき溶液に金属板を浸漬してニッケルめっきを施し、前記金属板の上に第1のニッケル層を形成する第1のニッケルめっき処理工程と、硫酸ニッケルとホウ酸とを含む第2のニッケルめっき溶液に前記第1のニッケル層が形成された前記金属板を浸漬してニッケルめっきを施し、前記第1のニッケル層の上に前記第1のニッケル層よりも厚い第2のニッケル層を形成する第2のニッケルめっき処理工程と、を含む。
【0009】
また、[2]前記第1のニッケルめっき溶液の塩酸濃度は、2.0mol/L以上3.5mol/L以下であり、前記第1のニッケルめっき溶液の塩化ニッケル濃度は、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であり、前記第2のニッケルめっき溶液の硫酸ニッケル濃度は、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であり、前記第2のニッケルめっき溶液のホウ酸濃度は、0.10mol/L以上1.50mol/L以下である、ようにしてもよい。
【0010】
また、[3]前記第1のニッケルめっき溶液に前記金属板を浸漬する際の前記第1のニッケルめっき溶液の温度は、15℃以上50℃以下であり、前記第2のニッケルめっき溶液に前記第1のニッケル層が形成された前記金属板を浸漬する際の前記第2のニッケルめっき溶液の温度は、45℃以上65℃以下である、ようにしてもよい。
【0011】
また、[4]前記第1のニッケルめっき処理工程は、電解めっき工程であり、電流密度は0.15A/cm以上0.4A/cm以下であり、前記第2のニッケルめっき処理工程は、電解めっき工程であり、電流密度は0.15A/cm以上0.4A/cm以下である、ようにしてもよい。
【0012】
また、[5]前記金属板は、ステンレス、アルミニウム、マグネシウム、及びチタンからなる群から選ばれる1種から構成される、ようにしてもよい。
【0013】
また、[6]本発明に係る固体高分子形燃料電池用セパレータは、金属板と、前記金属板の上に形成された第1のニッケル層と、前記第1のニッケル層の上に形成された第2のニッケル層と、を備え、前記第1のニッケル層の厚さが0.01μm以上1.0μm以下であり、前記第2のニッケル層の厚さが2.0μm以上であり、腐食電流密度が0.001μA/cm以上1.100μA/cm以下であり、界面接触抵抗値が0.01mΩ・cm以上1.00mΩ・cm以下である。
【0014】
また、[7][6]に記載の固体高分子形燃料電池用セパレータは、70℃の1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後の界面接触抵抗値が10.0mΩ・cm以下である。
【0015】
また、[8]前記金属板は、ステンレス、アルミニウム、マグネシウム、及びチタンからなる群から選ばれる1種から構成される、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐腐食性に優れ、界面接触抵抗値が低い固体高分子形燃料電池用セパレータ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の実施形態に係る第1のニッケルめっき処理工程で使用するめっき処理装置の概略図である。
図2】この発明の実施形態に係る第2のニッケルめっき処理工程で使用するめっき処理装置の概略図である。
図3】この発明の実施形態に係る第2のニッケルめっき処理工程で使用することができる他のめっき処理装置の概略図である。
図4】固体高分子形燃料電池用セパレータの概略上面図である。
図5図4のV-V線矢視断面図である。
図6】アニオン交換型固体高分子形燃料電池の概略断面図である。
図7】(a)は実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの構成とターフェルプロット(固体高分子形燃料電池用セパレータが酸化還元反応により変化した電流の対数値と電位との関係でプロットしたもの)との関係を示す図であり、(b)は実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの腐食電位、腐食電流密度、アノード・ターフェル定数、カソード・ターフェル定数、及び分極抵抗を示した図である。
図8】(a)~(d)は、実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの接触角を示す図である。
図9】実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの構成と界面接触抵抗値との関係を示すグラフである。
図10】(a)は実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの第2のニッケルめっき処理工程における通電時間とターフェルプロットとの関係を示す図であり、(b)は実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの腐食電位、腐食電流密度、アノード・ターフェル定数、及びカソード・ターフェル定数を示した図である。
図11】実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの第2のニッケルめっき処理工程における通電時間と界面接触抵抗値との関係を示すグラフである。
図12】(a)は実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの第2のニッケルめっき処理工程における処理温度とターフェルプロットとの関係を示す図であり、(b)は実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの腐食電位、腐食電流密度、アノード・ターフェル定数、及びカソード・ターフェル定数を示した図である。
図13】実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの第2のニッケルめっき処理工程における処理温度と界面接触抵抗値との関係を示すグラフである。
図14】(a)は実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの第2のニッケルめっき処理工程における参照電極(銀/塩化銀電極(Ag/AgCl電極))に対する金属板の電位とターフェルプロットとの関係を示す図であり、(b)は実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの腐食電位、腐食電流密度、アノード・ターフェル定数、及びカソード・ターフェル定数を示した図である。
図15】実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの第2のニッケルめっき処理工程における参照電極(銀/塩化銀電極(Ag/AgCl電極))に対する金属板の電位と界面接触抵抗値との関係を示すグラフである。
図16】(a)は実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの第1のニッケルめっき処理工程における第1のニッケルめっき溶液の塩酸濃度とターフェルプロットとの関係を示す図であり、(b)は実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの腐食電位、腐食電流密度、アノード・ターフェル定数、及びカソード・ターフェル定数を示した図である。
図17】実施例及び比較例に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの第1のニッケルめっき処理工程における第1のニッケルめっき溶液の塩酸濃度と界面接触抵抗値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0019】
[固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法]
実施形態に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法は、塩酸と塩化ニッケルとを含む第1のニッケルめっき溶液に金属板を浸漬してニッケルめっきを施し、金属板の上に第1のニッケル層を形成する第1のニッケルめっき処理工程と、ホウ酸と硫酸ニッケルとを含む第2のニッケルめっき溶液に第1のニッケル層が形成された金属板を浸漬してニッケルめっきを施し、第1のニッケル層の上に第1のニッケル層よりも厚い第2のニッケル層を形成する第2のニッケルめっき処理工程と、を含む。
【0020】
以下、各処理工程の詳細を順に説明する。
(第1のニッケルめっき処理工程)
第1のニッケルめっき処理工程においては、めっき処理装置10を使用する。めっき処理装置10は、図1に示すように、めっき浴槽部150と、制御計測部160と、を備える。
【0021】
めっき浴槽部150は、固体高分子形燃料電池用セパレータを形成するために、原材料である金属板(ワーク)100の上に第1のニッケル層を形成するための第1のニッケルめっき溶液153を収容するめっき浴槽151と、めっき浴槽151を加温するヒータ152と、を含む。
【0022】
めっき浴槽151には、第1のニッケルめっき溶液153が満たされている。第1のニッケルめっき溶液153には、ニッケルイオンを溶出するニッケル板140、ニッケルめっきされる金属板100、及び、温度計167が浸漬されている。
【0023】
金属板100は、固体高分子形燃料電池用セパレータの材料となる平面視矩形の金属板である。金属板100は、ステンレス、アルミニウム、マグネシウム、及びチタンからなる群から選ばれる1種から構成される。なお、実施形態の金属板100の形状は平面視矩形を例にして説明しているが、形状は適宜選択することができる。金属板100の厚みは、適宜選択することができる。
【0024】
ニッケル板140は、第1のニッケルめっき溶液153中にニッケルイオンを供給するものである。金属板100の上に第1のニッケル層を効率よく形成する観点から、ニッケルの純度が99%以上であることが好ましい。ニッケル板140の厚みや形状は、適宜選択することができる。
【0025】
ヒータ152は、めっき浴槽151を加熱することができる装置であれば特に限定されず、例えば、電熱ヒータ、めっき浴槽151全体を加熱するウォターバス、オイルバスなどが挙げられる。
【0026】
制御計測部160は、計測部161と、電源部162と、制御部163とを含む。
【0027】
計測部161は、温度計167と電流計168の測定データを取り込む。
【0028】
温度計167は、第1のニッケルめっき溶液153の温度を計測する。電流計168は、電源部162、ニッケル板140、金属板100、電源部162の順で流れる電流を計測する。
【0029】
電源部162は、外部電源170からの電力を用いて、制御部163の制御に従って、ヒータ152に電力を供給する。また、電源部162は、外部電源170からの電力を用いて、制御部163の制御に従って、金属板100とニッケル板140との間に印加する電圧を制御する。
【0030】
電源部162は、例えば、制御部163の制御に従って、外部電源170からの電圧をヒータ152に印加する電圧に変換する第1のDC/DCコンバータと、制御部163の制御に従って、外部電源170の電圧を金属板100とニッケル板140との間に印加する電圧に変換する第2のDC/DCコンバータと、から構成される。
【0031】
外部電源170は、例えば、バッテリ、ACアダプタなどから構成され、電源部162に電力を供給する。
【0032】
制御部163は、コンピュータなどから構成される。制御部163には、計測部161を介して、温度計167と電流計168との測定データが供給される。
【0033】
制御部163は、温度計167の測定温度に基づいて、例えば、PID(Proportional-Integral-Differentia)制御により、第1のニッケルめっき溶液153の温度を、例えば、45℃以上65℃以下のほぼ一定温度に維持するように、電源部162を制御する。電源部162は、制御部163の制御に従って、ヒータ152に供給する電圧を調整し、第1のニッケルめっき溶液153の温度をほぼ一定値に維持する。
【0034】
また、制御部163は、電流計168の測定値に基づいて、例えば、PID制御により、金属板100に流れる単位面積あたりの電流をめっきに適した0.15A/cm以上0.4A/cm以下のほぼ一定値に維持するように、電源部162を制御する。電源部162は、制御部163の制御に従って、金属板100とニッケル板140との間に印加する電圧を調整し、金属板100の電流密度を調整する。
【0035】
第1のニッケルめっき溶液153は、金属板100の上にニッケルイオンを析出させるための溶液である。第1のニッケルめっき溶液153は、塩酸(HCl)と、塩化ニッケル(NiCl)と、を含む水溶液である。第1のニッケルめっき溶液153の塩酸濃度は、金属板100の上に第1のニッケル層を効率よく形成する観点から、2.0mol/L以上3.5mol/L以下であることが好ましく、3.0mol/L以上3.5mol/L以下であることがより好ましい。塩化ニッケル濃度は、金属板100の上に第1のニッケル層を効率よく形成する観点から、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上1.5mol/L以下であることがより好ましい。
【0036】
第1のニッケルめっき溶液153は、ヒータ152により加温され、例えば、15℃以上50℃以下、望ましくは、20℃以上35℃以下に維持されている。
【0037】
次に、めっき処理装置10により金属板100の上に第1のニッケル層を形成する工程を説明する。
【0038】
図1に示すようにワークに相当する金属板100とニッケル板140を、第1のニッケルめっき溶液153に浸漬する。
【0039】
この状態で、制御部163は電源部162を起動して、金属板100に負極性、ニッケル板140に正極性の電圧を印加する。すると、ニッケル板140中のニッケル原子は、電子を放出してニッケルイオンとなり、第1のニッケルめっき溶液153に溶出する。放出された電子は、電源部162を介して金属板100に流れ込み、過剰電子となる。溶出したニッケルイオンは、正に帯電しており、負極性の金属板100に引き寄せられ、金属板100の過剰電子と結合して、表面に析出する。これにより金属板100上に第1のニッケル層が形成される。
【0040】
処理の間、制御部163は、第1のニッケルめっき溶液153の温度を15℃以上50℃以下、望ましくは、20℃以上35℃以下の一定に保つために、電源部162を介してヒータ152の発熱量を制御する。また、制御部163は、処理の間、電流計168で測定される電流値が、金属板100に流れる単位面積あたりの電流を0.15A/cm以上0.4A/cm以下に相当するほぼ一定値となるように、電源部163を介して、金属板100とニッケル板140との間に印加する電圧を制御する。
【0041】
制御部163は、通電時間をカウントし、第1のニッケル層が厚さ0.01μm以上1.0μm以下の所定の厚さに達したタイミングに相当するカウント値に達すると、電源部162を制御して通電を停止する。これにより、第1のニッケル層の成長は停止する。
【0042】
第1のニッケル層の成長時間、即ち、通電時間は、金属板100を流れる電流の電流密度と、第1のニッケルめっき溶液153の温度、及び、第1のニッケルめっき溶液153中の塩酸濃度と塩化ニッケル濃度、形成するニッケル層の厚さに応じて変化する。このため、予め、実験、シミュレーションなどにより通電時間を求めておき、この通電時間だけ通電したところで、通電を停止するようにすればよい。例えば、第1のニッケルめっき溶液153の塩酸濃度が3.5mol/L、及び塩化ニッケル濃度が1.0mol/Lであり、金属板100のサイズが10×20mmで、電流が0.35Aであるときに、30秒以上120秒以下であることが好ましく、40秒以上70秒以下がより好ましい。
【0043】
上述の第1のニッケルめっき処理工程を経た金属板100は、金属板100の上に形成された第1のニッケル層120を備える。
【0044】
なお、第1のニッケルめっき処理工程におけるニッケルめっきは、ストライクめっきとも呼ばれる。
【0045】
(第2のニッケルめっき処理工程)
次に、実施形態に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法の第2のニッケルめっき処理工程について説明する。
【0046】
第2のニッケルめっき処理工程においては、めっき処理装置20を使用する。めっき処理装置20は、めっき浴槽部150内の第1のニッケルめっき液153を第2のニッケルめっき溶液154に置換している点以外はめっき処理装置10と実質同一である。
【0047】
第2のニッケルめっき溶液154は、第1のニッケル層120の上にニッケルイオンを析出させるための溶液であり、硫酸ニッケル(NiSO)と、ホウ酸(HBO)と、を含む水溶液である。硫酸ニッケル濃度は、第2のニッケル層を第1のニッケル層120の上に効率よく形成する観点から、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましく、0.75mol/L以上1.25mol/L以下であることがより好ましい。ホウ酸濃度は、第2のニッケル層を第1のニッケル層120の上に効率よく形成する観点から、0.10mol/L以上1.50mol/L以下であることが好ましく、0.25mol/L以上0.75mol/L以下であることがより好ましい。
【0048】
制御部163は、第2のニッケルめっき溶液154の温度を、例えば、45℃以上65℃以下のほぼ一定温度に維持するように、電源部162を制御する。
【0049】
また、制御部163は、電源部162、ニッケル板140、金属板100、電源部162の順で流れる電流を、金属板100に流れる単位面積あたりの電流を0.15A/cm以上0.4A/cm以下のほぼ一定値に維持するように、電源部162を制御する。
【0050】
次に、めっき処理装置20により第1のニッケル層120の上に第2のニッケル層を形成する工程を説明する。
【0051】
第1のニッケル層120が形成されている金属板100とニッケル板140を、第2のニッケルめっき溶液154に浸漬する。
【0052】
この状態で、制御部163は電源部162を起動して、金属板100に負極性、ニッケル板140に正極性の電圧を印加する。すると、ニッケル板140中のニッケル原子は、電子を放出してニッケルイオンとなり、第2のニッケルめっき溶液154に溶出する。溶出したニッケルイオンは、負極性の金属板100に引き寄せられ、金属板100の過剰電子と結合して、第1のニッケル層120の上に析出する。これにより第1のニッケル層120上に第2のニッケル層が形成される。
【0053】
処理の間、制御部163は、第2のニッケルめっき溶液154の温度を45℃以上65℃以下、望ましくは、55℃以上60℃以下の一定に保つために、電源部162を介してヒータ152の発熱量を制御する。また、制御部163は、処理の間、電流計168で測定される電流値が、金属板100に流れる単位面積あたりの電流を0.15A/cm以上0.4A/cm以下に相当するほぼ一定値となるように、電源部163を介して、金属板100とニッケル板140との間に印加する電圧を制御する。
【0054】
制御部163は、第2のニッケル層が厚さ2.0μm以上の所定の厚さに達したタイミングで、電源部162を制御して通電を停止する。これにより、第2のニッケル層の成長は停止する。
【0055】
第2のニッケル層の成長時間、即ち、通電時間は、金属板100を流れる電流の電流密度と、第2のニッケルめっき溶液154の温度、及び、第2のニッケルめっき溶液154中の硫酸ニッケル(NiSO)濃度とホウ酸(HBO)濃度に応じて変化する。このため、予め、実験、シミュレーションなどにより求めておく。例えば、第2のニッケルめっき溶液154の硫酸ニッケル濃度が2.0mol/L、及びホウ酸濃度が0.75mol/Lであり、金属板100のサイズが10×20mmで、電流が0.35Aであるときに、1000秒以上1400秒以下であることが好ましく、1100秒以上1300秒以下であることがより好ましい。
【0056】
このようにして、図4及び図5に示すような、矩形平板状で、金属板100と、金属板100の上に形成された第1のニッケル層120と、第1のニッケル層120の上に形成された第2のニッケル層130を備える固体高分子形燃料電池用セパレータ40が得られる。この固体高分子形燃料電池用セパレータ40は、第1のニッケルめっき処理工程と第2のニッケルめっき処理工程を順次実行するため、金属板100と第1のニッケル層120との密着性、及び、第1のニッケル層120と第2のニッケル層130との密着性が高くなる。また、第1のニッケル層120は酸性溶液やアルカリ性溶液による金属板100の腐食を防止するため、固体高分子形燃料電池用セパレータ40は耐腐食性に優れる。また、第1のニッケル層120が金属板100の表面を活性化するため、第1のニッケル層120よりも緻密な第2のニッケル層130が形成され、界面接触抵抗値が低いという特性を有する。
【0057】
第1のニッケルめっき処理工程において、ニッケル板140の代わりに、白金(Pt)などの貴金属で被覆された金属板を用いることができる。この場合、第1のニッケルめっき溶液153に存在するニッケルイオンを一定にするために、塩化ニッケル(NiCl)を第1のニッケルめっき溶液153に定期的に添加する必要がある。
【0058】
第2のニッケルめっき処理工程においても、ニッケル板140の代わりに、白金(Pt)などの貴金属で被覆された金属板を用いることができる。この場合、第2のニッケルめっき溶液154に存在するニッケルイオンを一定にするために、硫酸ニッケル(NiSO)を第2のニッケルめっき溶液154に定期的に添加する必要がある。
【0059】
第1のニッケルめっき処理工程において、金属板100を第1のニッケルめっき溶液153に浸漬する前に、金属板100の表面を粗くする粗化処理工程を更に含んでもよい。金属板100の表面を粗化することにより、第1のニッケル層と金属板100との密着性が向上する。金属板100の表面を粗くする方法としては、例えば、小さな砂粒を金属板100の表面に吹き付けて表面を荒らす方法や、目の細かい紙やすりで金属板100の表面を磨く方法が挙げられる。目の細かい紙やすりの番手は、C800(#800)、C2000(#2000)が挙げられる。
【0060】
金属板100の表面の油分を除去する観点から第1のニッケルめっき溶液153に浸漬する前に、金属板100の表面を、アセトン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤で洗浄してもよい。これにより金属板100の上にニッケルめっきが形成されやすくなる。また、洗浄は、超音波を使うことが好ましく、粗化処理工程を含む場合は粗化処理工程の後に洗浄することが好ましい。
【0061】
金属板100を第1のニッケルめっき溶液153に浸漬する前に、金属板100を、塩酸濃度1.0mol/Lの水溶液に浸漬し、その後、体積換算でエタノールと水とが50:50の割合で含まれる溶液で洗浄してもよい。これにより、金属板100の表面が化学的に改質され、第1のニッケル層120と金属板100との密着性が向上する。この処理を行う場合は、第1のニッケルめっき処理工程の直前で行うことがより好ましい。
【0062】
第2のニッケルめっき溶液154に代わる別の溶液としては、塩化ニッケル(II)と硫酸ニッケルとスルファミン酸ニッケルとを含む水溶液、塩化ニッケル(II)と硫酸ニッケルと硝酸ニッケル(II)とを含む水溶液、塩化ニッケル(II)とスルファミン酸ニッケルとホウ酸とを含む水溶液、が挙げられる。
【0063】
実施形態の第1及び第2のニッケルめっき処理工程において、温度及び電流を一定にして説明したが、時間軸上で温度及び電流を変化させてもよい。
【0064】
実施形態において、第2のニッケルめっき処理工程を電解めっきを例に説明したが、無電解ニッケルめっきで第1のニッケル層120の上に第2のニッケル層を形成してもよい。無電解ニッケルめっきによるめっき処理装置30は、例えば、図3に示すように、めっき浴槽部159と、温度計320と、を備える。
【0065】
めっき浴槽部159は、金属板100の上に形成された第1のニッケル層120の上に、更に第2のニッケル層を形成するための第3のニッケルめっき溶液310を収容するめっき浴槽158と、めっき浴槽158を加温するヒータ157と、を含む。
【0066】
めっき浴槽158には、第3のニッケルめっき溶液310が収容されている。第3のニッケルめっき溶液310には、第1のニッケル層120が形成された金属板100、及び、第3のニッケルめっき溶液310の温度を計測する温度計320が浸漬されている。
【0067】
ヒータ157は、めっき浴槽158を加熱する。
【0068】
第3のニッケルめっき溶液310は、ニッケルイオンと、次亜リン酸塩と、を含む水溶液である。第3のニッケルめっき溶液310は、ニッケルが第1のニッケル層120の上に析出する反応が進むと、水溶液中のニッケルイオン及び次亜リン酸塩の濃度が低下するため、硫酸ニッケル、次亜リン酸塩、及び、pH調節剤としての水酸化ナトリウムを添加することが好ましい。
【0069】
めっき処理装置30を用いた第2のニッケルめっき処理工程において、第2のニッケル層は、第1のニッケル層120の上に、以下のように形成される。ニッケルイオンと還元剤としての例えば次亜リン酸とを含む第3のニッケルめっき溶液310の中に、第1のニッケル層120が形成された金属板100を浸漬すると、次亜リン酸から電子が放出される。この電子がニッケルイオンと結合し、金属としてのニッケルが第1のニッケル層120の上に析出する。これにより第1のニッケル層120の上に第2のニッケル層が形成される。
【0070】
第1のニッケル層120が形成された金属板100を第3のニッケルめっき溶液310に浸漬する時間は、第2のニッケル層を第1のニッケル層よりも厚くする観点から、60分以上120分以下であることが好ましく、80分以上100分以下であることがより好ましい。
【0071】
第3のニッケルめっき溶液310の温度は、第2のニッケル層を第1のニッケル層120の上に効率よく形成する観点から、70℃以上90℃以下であることが好ましい。
【0072】
第3のニッケルめっき溶液310に代わる別の溶液としては、硫酸ニッケルと還元剤としてのジメチルアミンボランと酸化剤としてのクエン酸三ナトリウムとpH調節剤としての水酸化ナトリウムとを含む水溶液が挙げられる。この水溶液中でニッケルめっきを施す場合の条件は、温度が70℃、pHが8~10である。
【0073】
[固体高分子形燃料電池用セパレータ]
次に、上述の製造方法により製造された固体高分子形燃料電池用セパレータ40について説明する。固体高分子形燃料電池用セパレータ40は、プロトン交換型の高分子電解質膜を使用するプロトン交換型固体高分子形燃料電池のセパレータ、及び、アニオン交換型の高分子電解質膜を使用するアニオン交換型固体高分子形燃料電池のセパレータとして用いることができる。固体高分子形燃料電池用セパレータは、第1のニッケル層よりも第2のニッケル層が厚く耐腐食性を有するため、特にアニオン交換型固体高分子形燃料電池のセパレータとして好適に用いることができる。
【0074】
以下、図6に示すアニオン交換型固体高分子形燃料電池50を例に説明する。アニオン交換型固体高分子形燃料電池50は、アノード電極400と、カソード電極420と、高分子電解質膜410と、固体高分子形燃料電池用セパレータ41と、固体高分子形燃料電池用セパレータ42と、を備える。
【0075】
アノード電極400は、高分子電解質膜410から近い順に、アノード触媒層43と、ガス拡散層45と、が積層された構成を備える。
【0076】
カソード電極420は、高分子電解質膜410から近い順に、カソード触媒層44と、ガス拡散層46と、が積層された構成を備える。
【0077】
アノード触媒層43の一例としては、20% Platinum on Vulcan XC-72R(FC Catalyst社製)が挙げられる。
【0078】
カソード触媒層44の一例としては、20% Platinum on Vulcan XC-72R(FC Catalyst社製)が挙げられる。
【0079】
ガス拡散層45及びガス拡散層46の一例としては、炭素繊維から構成される多孔質シート(カーボンペーパー)、具体的には、TGP-H-030(東レ社製)、TGP-H-060(東レ社製)が挙げられる。
【0080】
高分子電解質膜410の一例としては、FFA3アニオン交換膜(Fumatech社製)が挙げられる。
【0081】
固体高分子形燃料電池用セパレータ41及び固体高分子形燃料電池用セパレータ42
は、それぞれ、固体高分子形燃料電池セパレータ40から構成される。ただし、隣接するアノード電極400又はカソード電極420との接触面に、燃料431、燃料433を流すための凹形状の溝が形成されている。
【0082】
次に、アニオン交換型固体高分子形燃料電池50が起電力を生ずる仕組みを説明する。
【0083】
カソード電極420側において、外部から供給された酸素(O)や水(HO)などの燃料431は、固体高分子形燃料電池用セパレータ42の厚さ方向に設けられた図示しない燃料流路を通過し、ガス拡散層46側に到達し、固体高分子形燃料電池用セパレータ42に形成された凹形状の溝を経由して、ガス拡散層46の主面全体に広がりながらガス拡散層46を通過し、カソード触媒層44へ到達する。燃料431(酸素と水)は、カソード触媒層44において以下の反応をする。
【0084】
+2HO+4e→4OH
ここで、eは電子を表し、OHは、水酸化物イオンを表す。
この反応により、水酸化物イオンが生成される。生成された水酸化物イオンは、高分子電解質膜410を移動して、アノード触媒層43に到達する。また、反応せずに残った燃料432は、アニオン交換型固体高分子形燃料電池50の外に排出される。
【0085】
アノード電極400側において、外部から供給された水素(H)などの燃料433は、固体高分子形燃料電池用セパレータ41の厚さ方向に設けられた図示しない燃料流路を通過し、ガス拡散層45側に到達する。燃料433は、固体高分子形燃料電池用セパレータ41に形成された凹形状の溝を経由して、ガス拡散層45の主面全体に広がりながらガス拡散層45を通過し、アノード触媒層43へ到達する。アノード触媒層43に到達した燃料433と、カソード触媒層44から高分子電解質膜410を経由してアノード触媒層43に到達した水酸化物イオンとがアノード触媒層43において以下の反応をする。
【0086】
2H+4OH→4HO+4e
この反応により、水と電子が発生する。電子は、方向440に流れ、外部回路430を経由して、アニオン交換型固体高分子形燃料電池50に戻り、上述した反応を繰り返す。生成された水と反応せずに残った燃料434は、アニオン交換型固体高分子形燃料電池50の外に排出される。
【0087】
このように、カソード電極420に面する固体高分子形燃料電池用セパレータ42、及びアノード電極400に面する固体高分子形燃料電池用セパレータ41は、アニオン交換型固体高分子形燃料電池50の内部で発生した水酸化物イオンと接触するため、腐食されやすい。
【0088】
実施形態に係る固体高分子形燃料電池用セパレータ40(41、42)は、金属板100の上に、第1のニッケル層120、第2のニッケル層130の順でめっき層が形成され、第1のニッケル層120よりも第2のニッケル層130が厚いため耐腐食性を有する。よって、実施形態に係る固体高分子形燃料電池用セパレータ40は、アニオン交換型固体高分子形燃料電池50に適した固体高分子形燃料電池用セパレータとなる。
【0089】
また、実施形態に係る固体高分子形燃料電池用セパレータ40は、金属板100の上に、第1のニッケル層120、第2のニッケル層130の順でめっき層が形成され、第1のニッケル層120よりも第2のニッケル層130が厚いため、界面接触抵抗値が0.01mΩ・cm以上1.00mΩ・cm以下と低くなる。このため、アニオン交換型固体高分子形燃料電池50で生成した電力を低損失で外部回路430に供給することができる。
【0090】
また、固体高分子形燃料電池用セパレータ40を構成する第1のニッケル層120の厚さが0.1μm以上1.0μm以下であり、第1のニッケル層120の上に形成された第2のニッケル層130の厚さが2.0μm以上であることにより、固体高分子形燃料電池用セパレータ40の腐食電流密度が0.001μA/cm以上1.100μA/cm以下、界面接触抵抗値が0.01mΩ・cm以上1.00mΩ・cm以下、固体高分子形燃料電池用セパレータ40を70℃の1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後の界面接触抵抗値が10.0mΩ・cm以下となる。ここで、水酸化ナトリウム水溶液の温度と濃度は、アニオン交換型固体高分子形燃料電池内部のアルカリ存在下における状況を再現したものである。
【0091】
以上、実施形態に係る固体高分子形燃料電池用セパレータ40は、耐腐食性に優れ、界面接触抵抗値が低いものとなる。また、実施形態に係る固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法により、固体高分子形燃料電池用セパレータ40を提供することができる。
【実施例0092】
以下の実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0093】
(実施例p4)
実施例p4のサンプルは以下の手順で作製した。まず、実施例p4のサンプルを構成する金属板としてステンレス板を準備し、前処理を行った。次に、第1のニッケルめっき処理、第2のニッケルめっき処理の順でステンレス板にめっきを施し、実施例p4のサンプルを得た。
【0094】
(1)前処理
金属板としてステンレス板(厚さ1mm、SS304)を準備し、10×20mmの正方形に切り出して、その表面を、紙やすりC800番で削った。その後、アセトン及びメタノールで洗浄した。次に、ステンレス板の表面に形成されている酸化膜を除去するために、ステンレス板を1mol/Lの塩酸水溶液に10分間浸漬した。その後、超音波洗浄装置(ASONE社製US-1R)を用いて15分間洗浄し、真空定温乾燥器(東京理化器械社製VOM-1000)を用いて乾燥させた。このステンレス板を前処理後のステンレス板とした。
【0095】
(2)第1のニッケルめっき処理
前処理後のステンレス板、及びニッケル板を、制御計測機としての電気化学分析器(BAS社製701C)の3電極(対極、参照電極、作用電極)システムに接続し、3.5mol/Lの塩酸(HCl)と1.0mol/Lの塩化ニッケル(NiCl)と含む水溶液が満たされた容器に浸漬した。ここで、ニッケル板は対極として使用し、銀/塩化銀電極(Ag/AgCl電極)は参照電極として使用し、ステンレス板は作用電極として使用した。次に、水溶液の温度が23℃、電流-0.35A、参照電極に対するステンレス板(作用電極)の電位が-1.0V、60秒間の条件で前処理後のステンレス板にニッケルめっきを施した。その後、脱イオン水で洗浄して、ステンレス板の上に第1のニッケル層が形成されたステンレス板を得た。また、カラー3Dレーザ顕微鏡VK-9700(キーエンス社製)で第1のニッケル層の厚さを測定したところ、0.1μm以上1.0μm以下であった。なお、ステンレス板の電位を測定するために3電極システムに接続して第1のニッケルめっき処理を行った。また、電流は、3電極(対極、参照電極、作用電極)システムであるため-0.35Aの条件で行った。
【0096】
(3)第2のニッケルめっき処理
第1のニッケルめっき処理がされたステンレス板、及びニッケル板を、制御計測機として電気化学分析器(BAS社製701C)の3電極(対極、参照電極、作用電極)システムに接続し、1mol/Lの硫酸ニッケル(NiSO)と0.5mol/Lのホウ酸(HBO)とを含む水溶液が満たされた容器に浸漬した。ここで、ニッケル板は対極として使用し、銀/塩化銀電極(Ag/AgCl電極)は参照電極として使用し、ステンレス板は作用電極として使用した。次に、水溶液の温度が60℃に達したら、電流-0.35A、参照電極に対するステンレス板(作用電極)の電位が-1.0V、1200秒間の条件で第1のニッケルめっき処理がされたステンレス板にニッケルめっきを施した。その後、超純水で洗浄し、真空定温乾燥機で23℃、120分で乾燥させ、第1のニッケル層の上に第2のニッケル層が形成されたステンレス板を得た。これをサンプルとした。また、段差計DEKTAK 3030(Dektak社製)で第1のニッケル層の厚さ及び第2のニッケル層の厚さの合計厚さを測定したところ、17.0μmであった。なお、ステンレス板の電位を測定するために3電極システムに接続して第2のニッケルめっき処理を行った。また、電流は、3電極(対極、参照電極、作用電極)システムであるため-0.35Aの条件で行った。
【0097】
(比較例p1~比較例p3、及び比較例p24~比較例p31)
比較例p1~比較例p3及び比較例p24~比較例p31のサンプルを、表1~表2に示す第1のニッケルめっき処理の条件及び第2のニッケルめっき処理の条件に従い、実施例p4と同じ作製手順で作製した。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
次に、サンプルの腐食電流密度、サンプルとカーボンペーパーとの間における界面接触抵抗値、及びサンプルの接触角の測定方法について説明する。
【0101】
<腐食電流密度>
腐食電流密度の測定は、高性能電気化学測定システム(Bio-logic社製VMP300)の3電極システムを用いて行った。3電極システムを構成する3つの電極(対極、参照電極、作用電極)として、白金メッシュを対極として使用し、塩化カリウム(KCl)で飽和された飽和カロメル電極(SCE電極)、又は銀/塩化銀電極(Ag/AgCl電極)を参照電極として使用し、サンプルを作用電極として使用した。測定は、各電極を70℃の1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液が満たされた容器に浸漬させた状態で、ポテンシャルスキャン速度を1mV/sに設定して行った。腐食電流密度の数値は、Bio-logic社製の解析ソフトEC-labを用いて読み取った。
【0102】
<界面接触抵抗値(ICR)>
界面接触抵抗値の測定は、2450ソースメータ(ケースレー社製)及び2182Aナノボルトメータ(ケースレー社製)を用いて行った。まず、カーボンペーパー(東レ社製TGP-H-030)を銅板(厚さ1mm)とサンプルとの間に挟み込み、その後、全圧1.4MPaの荷重を加えた状態で、1mAの電流を流し、サンプルとカーボンペーパーとの間の電圧を測定することにより、界面接触抵抗値を測定した。
【0103】
また、実施例及び比較例では、耐腐食性を確認するために、70℃の1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する前のサンプルの界面接触抵抗値(以下、界面接触抵抗値、又は浸漬前の界面接触抵抗値ともいう。)、及び、70℃の1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に90分浸漬した後のサンプルの界面接触抵抗値(以下、浸漬後の界面接触抵抗値ともいう。)を測定した。なお、浸漬した後のサンプルは、超純水で洗浄し、真空定温乾燥機で23℃、120分で乾燥させたものを使用した。
【0104】
<接触角>
接触角は、接触角計(協和界面科学社製BM-501)を用いて測定した。接触角の測定前にサンプルの表面の埃を除去した後、接触角計のサンプルホルダーに設置した。次に、シリンジをゆっくり押して2.0μLの水滴をサンプル表面に滴下した。接触角は、水滴とサンプルの表面とがなす角度とし、協和界面科学社製の解析ソフトFAMASを用いて読み取った。
【0105】
(実験結果)
表1及び図7(b)に示すように、実施例p4は腐食電流密度(Icorr(μA/cm))が0.973μA/cmであり、ステンレス板の上に第1のニッケル層のみが形成された比較例p2、ステンレス板の上に第2のニッケル層のみが形成された比較例p3、めっき処理がされていないステンレス板のみの比較例p1に比べて小さくなることがわかった。なお、腐食電流密度が小さいほど耐腐食性に優れていることを示す。
【0106】
ここで、図7(a)のグラフは、70℃の1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に対極、参照電極、及び作用電極を浸漬させたときの酸化還元反応で変化した電流の対数値と作用電極の電位との関係を、高性能電気化学測定システムを用いてプロットしたものである。このプロットはターフェルプロットと呼ばれる。また、縦軸は上述した電流の対数値(Log(i/mA))であり、横軸は作用電極の電位(V)である。また、電流の対数値がもっとも小さくなったときの作用電極の電位(V)、即ち、酸化速度と還元速度が等しいときの電位が腐食電位である。なお、図7(a)の作用電極の電位(V)において対比する参照電極はSCE電極を用いたが、図10(a)、図12(a)、図14(a)、図16(a)の作用電極の電位(V)において対比する参照電極は銀/塩化銀電極(Ag/AgCl電極)を用いた。
【0107】
図7(a)で求められた腐食電位は、図7(b)に示すEcorr(mV vs.SCE)と呼ばれ、数値が高いほど耐腐食性が良好となる。また、βa(mV)はアノード・ターフェル定数を表し、βc(mV)はカソード・ターフェル定数を表す。βa(mV)及びβc(mV)は、図7(a)に示すターフェルプロットから求められ、高性能電気化学測定システムの3電極システム内において、電流を10倍にする前と後の電圧差を測定した値であり、腐食電流密度(Icorr(μA/cm))を算出する際に使用される。また、Rp(Ωcm)は分極抵抗を表し、腐食電位(Ecorr(mV vs.SCE))近傍のごく狭い範囲における分極曲線の接線の傾きである。
【0108】
上述したグラフの意味、及び用語の説明は、他の図においても同じである。
【0109】
また、表1及び図8に示すように、実施例p4は接触角が101.7度であり、比較例p1、比較例p2、比較例p3に比べて大きくなることがわかった。
【0110】
また、表1及び図9に示すように、実施例p4は、70℃の1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する前の界面接触抵抗値が0.75mΩ・cmであり、70℃の1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後の界面接触抵抗値は3.7mΩ・cmであり、比較例p1、比較例p2、比較例p3と比べて小さくなることがわかった。
【0111】
さらに、第2のニッケルめっき溶液に、第1のニッケル層が形成されたステンレス板を浸漬させ、第2のニッケルめっき溶液の硫酸ニッケル濃度及びホウ酸濃度、及び、ステンレス板に流れる電流を一定にした状態で通電時間を変えたときの固体高分子形燃料電池用セパレータ40の腐食電流密度、界面接触抵抗値、及び接触角の違いを見た。表2、図10(b)及び図11に示すように、実施例p4の腐食電流密度(Icorr(μA/cm))は、比較例P24に比べて約1/5となった。また、通電時間が1200秒である実施例p4の界面接触抵抗値(ICR(mΩ・cm))は、通電時間が400秒である比較例p24、通電時間が800秒である比較例p25に比べて約1/3以下となった。
【0112】
さらに、第2のニッケルめっき溶液の温度を変えたときの固体高分子形燃料電池用セパレータ40の腐食電流密度、界面接触抵抗値、及び接触角の違いを見た。表2、図12(b)及び図13に示すように、実施例p4の腐食電流密度(Icorr(μA/cm))は、比較例p26に比べて約1/4となった。また、温度が60℃である実施例p4の界面接触抵抗値(ICR(mΩ・cm))は、温度が25℃である比較例p26に比べて約1/3以下となった。
【0113】
さらに、第2のニッケルめっき処理工程において、ステンレス板とニッケル板との距離を10mm、ステンレス板に流れる電流を-0.35Aにした状態で、参照電極に対するステンレス板(作用電極)の電位を変えたときの固体高分子形燃料電池用セパレータ40の腐食電流密度、界面接触抵抗値、及び接触角の違いを見た。表2、図14(b)及び図15に示すように、実施例p4の腐食電流密度(Icorr(μA/cm))は、比較例p28に比べて約3/5となった。電位が-1.0Vである実施例p4の界面接触抵抗値(ICR(mΩ・cm))は、電位が-0.5Vである比較例p28に比べて約1/4以下となった。
【0114】
さらに、第1のニッケルめっき溶液中の塩酸濃度を変えたときの固体高分子形燃料電池用セパレータ40の腐食電流密度、界面接触抵抗値、及び接触角の違いを見た。表2、図16(b)及び図17に示すように、実施例p4の腐食電流密度(Icorr(μA/cm))は、比較例p30に比べて約3/5となった。塩酸濃度が3.5mol/Lである実施例p4の界面接触抵抗値(ICR(mΩ・cm))は、塩酸濃度が1.0mol/Lである比較例p30に比べて約1/3以下となった。
【0115】
以上のことから、実施形態に係る固体高分子形燃料電池用セパレータ40は、強アルカリの存在下において腐食電流密度が1.100μA/cm以下であることから、特に固体高分子形燃料電池用セパレータの周囲が強アルカリとなるアニオン交換型固体高分子形燃料電池において、腐食性に優れた固体高分子形燃料電池用セパレータを提供することができる。
【0116】
また、実施形態に係る固体高分子形燃料電池用セパレータ40は、70℃の1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液が満たされた容器に浸漬する前の界面接触抵抗値が1.00mΩ・cm以下であり、70℃の1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液が満たされた容器に浸漬した後の界面接触抵抗値が10.0mΩ・cm以下であることから、固体高分子形燃料電池で生成された電気を損失することなく外部回路へ供給することができる。
【0117】
さらに、実施形態に係る固体高分子形燃料電池用セパレータ40は、固体高分子形燃料電池内部で生成した水が固体高分子形燃料電池用セパレータの表面に付着しても、接触角が大きいため、効率よく排出することができる。
【0118】
従って、実施形態に係る固体高分子形燃料電池用セパレータ40は、耐腐食性に優れ、界面接触抵抗値が低い固体高分子形燃料電池用セパレータを提供することができる。
【0119】
以上、本発明によれば、耐腐食性に優れ、界面接触抵抗値が低い固体高分子形燃料電池用セパレータ及びその製造方法を提供することができる。
【0120】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変更が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0121】
10、20、30 めっき処理装置、
100 金属板、120 第1のニッケル層、130 第2のニッケル層、
140 ニッケル板、
150 めっき浴槽部、151 めっき浴槽、153 第1のニッケルめっき溶液、154 第2のニッケルめっき溶液、310 第3のニッケルめっき溶液、152 ヒータ、
160 制御計測部、161 計測部、162 電源部、163 制御部、
170 外部電源、
168 電流計、
167、320 温度計、
40、41、42 固体高分子形燃料電池用セパレータ、
43 アノード触媒層、44 カソード触媒層
45、46 ガス拡散層
431、432、433、434 燃料、
50 アニオン交換型固体高分子形燃料電池、
400 アノード電極、420 カソード電極、
410 高分子電解質膜、430 外部回路、440 方向。
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