(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079639
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】車載装置、忘れ物通知方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B60R 11/02 20060101AFI20230601BHJP
G08B 21/24 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
B60R11/02 W
G08B21/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193196
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【弁理士】
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】藤本 篤人
(72)【発明者】
【氏名】服部 敏和
【テーマコード(参考)】
3D020
5C086
【Fターム(参考)】
3D020BA06
3D020BB01
3D020BC01
3D020BE03
5C086AA21
5C086BA22
5C086CA06
5C086DA08
5C086EA40
5C086EA45
5C086FA02
5C086FA06
5C086FA11
5C086FA17
(57)【要約】
【課題】車両内の忘れ物を精度よく検知する観点、または、忘れ物検知の実現容易性の観点から好適な車載装置を実現する技術を提供する。
【解決手段】車載装置14は、車両10の乗員の端末(ユーザ端末12)と無線通信を行い、ユーザ端末12との無線通信における電界強度を電界強度保持部34に記憶させる。車載装置14は、車両10の電源の状態が所定の状態になった際の電界強度保持部34に記憶された第1の電界強度に関する値と、車両10から乗員が降車した際の記憶部に記憶された第2の電界強度に関する値とに基づいて、ユーザ端末12が車両10内に存在するか否かを判定する。車載装置14は、車両10が車両10内に存在すると判定された場合、乗員に所定の通知を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員の端末と無線通信を行い、前記端末との無線通信における電界強度を記憶部に記憶させる通信部と、
前記車両の電源の状態が所定の状態になった際の前記記憶部に記憶された第1の電界強度に関する値と、前記車両から前記乗員が降車した際の前記記憶部に記憶された第2の電界強度に関する値とに基づいて、前記端末が前記車両内に存在するか否かを判定する判定部と、
前記端末が前記車両内に存在すると判定された場合、前記乗員に所定の通知を行う通知部と、
を備える車載装置。
【請求項2】
前記車両の電源の状態が前記所定の状態になった際の前記記憶部に記憶された複数の第1の電界強度のデータに基づいて、前記第1の電界強度に関する統計量を算出する演算部をさらに備え、
前記判定部は、前記第1の電界強度に関する統計量と、前記第2の電界強度に関する値とに基づいて、前記端末が車両内に存在するか否かを判定する、
請求項1に記載の車載装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記第1の電界強度に関する統計量として、前記第1の電界強度の平均と標準偏差を算出し、
前記判定部は、前記第1の電界強度の平均と標準偏差とに基づいて前記第2の電界強度の値を標準化し、標準化した値が所定の閾値以下である場合、前記端末が車両内に存在すると判定する、
請求項2に記載の車載装置。
【請求項4】
前記閾値は、前記第1の電界強度の標準正規分布における標準偏差に基づく値である、
請求項3に記載の車載装置。
【請求項5】
前記閾値は、前記第1の電界強度の平均に基づく値である、
請求項3または4に記載の車載装置。
【請求項6】
前記車両の電源の状態に関する前記所定の状態は、前記車両のアクセサリー電源がオフの状態である、
請求項1から5のいずれかに記載の車載装置。
【請求項7】
車両の乗員の端末と無線通信を行い、前記端末との無線通信における電界強度を記憶部に記憶させる処理と、
前記車両の電源の状態が所定の状態になった際の前記記憶部に記憶された第1の電界強度に関する値と、前記車両から前記乗員が降車した際の前記記憶部に記憶された第2の電界強度に関する値とに基づいて、前記端末が前記車両内に存在するか否かを判定する処理と、
前記端末が前記車両内に存在すると判定された場合、前記乗員に所定の通知を行う処理と、
を車載装置が実行する忘れ物通知方法。
【請求項8】
車両の乗員の端末と無線通信を行い、前記端末との無線通信における電界強度を記憶部に記憶させる処理と、
前記車両の電源の状態が所定の状態になった際の前記記憶部に記憶された第1の電界強度に関する値と、前記車両から前記乗員が降車した際の前記記憶部に記憶された第2の電界強度に関する値とに基づいて、前記端末が前記車両内に存在するか否かを判定する処理と、
前記端末が前記車両内に存在すると判定された場合、前記乗員に所定の通知を行う処理と、
を車載装置に実行させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はデータ処理技術に関し、特に車載装置、忘れ物通知方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の中をカメラで撮影し、カメラによる撮影画像と基準画像を比較して、車両の中に忘れ物があるか否かを検出し、忘れ物が検出された場合、乗客または運転者に忘れ物があることを知らせる車内忘れ物防止装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カメラを用いた物体検知では、物陰に隠れた物体を検知しにくいという課題がある。また、画像処理は、CPUの処理負荷が大きく、メモリの使用量も大きい。
【0005】
本開示はこうした課題に鑑みてなされたものであり、1つの目的は、車両内の忘れ物を精度よく検知する観点、または、忘れ物検知の実現容易性の観点から好適な車載装置を実現する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の車載装置は、車両の乗員の端末と無線通信を行い、端末との無線通信における電界強度を記憶部に記憶させる通信部と、車両の電源の状態が所定の状態になった際の記憶部に記憶された第1の電界強度に関する値と、車両から乗員が降車した際の記憶部に記憶された第2の電界強度に関する値とに基づいて、端末が車両内に存在するか否かを判定する判定部と、端末が車両内に存在すると判定された場合、乗員に所定の通知を行う通知部とを備える。
【0007】
本開示の別の態様は、忘れ物通知方法である。この方法は、車両の乗員の端末と無線通信を行い、端末との無線通信における電界強度を記憶部に記憶させる処理と、車両の電源の状態が所定の状態になった際の記憶部に記憶された第1の電界強度に関する値と、車両から乗員が降車した際の記憶部に記憶された第2の電界強度に関する値とに基づいて、端末が車両内に存在するか否かを判定する処理と、端末が車両内に存在すると判定された場合、乗員に所定の通知を行う処理とを車載装置が実行する。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を、システム、コンピュータプログラム、コンピュータプログラムを記録した記録媒体などの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の技術によれば、車両内の忘れ物を精度よく検知する観点、または、忘れ物検知の実現容易性の観点から好適な車載装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】車載装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】ACCオフ直前の車両内電界強度の正規分布のグラフを示す図である。
【
図4】ACCオフ直前の車両内電界強度を標準正規分布に変換したグラフを示す図である。
【
図5】警報先端末としてのスマートキーを示す図である。
【
図6】ACCオフ直前の車両内電界強度の分布と車外電界強度とを示す図である。
【
図7】ACCオフ直前の車両内電界強度の分布と車外電界強度とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示における装置または方法の主体は、コンピュータを備えている。このコンピュータがプログラムを実行することによって、本開示における装置または方法の主体の機能が実現される。コンピュータは、プログラムにしたがって動作するプロセッサを主なハードウェア構成として備える。プロセッサは、プログラムを実行することによって機能を実現することができれば、その種類は問わない。プロセッサは、半導体集積回路(Integrated Circuit)(IC)、またはLSI(Large Scale Integration)を含む1つまたは複数の電子回路で構成される。ここではICあるいはLSIと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)もしくはUSLI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれるものであってもよい。LSIの製造後にプログラムされる、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(Field Programmable Gate Array)(FPGA)、またはLSI内部の接合関係の再構成またはLSI内部の回路区画のセットアップができる再構成可能な論理デバイスも同じ目的で使うことができる。複数の電子回路は、1つのチップに集積されてもよいし、複数のチップに設けられてもよい。複数のチップは1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に備えられていてもよい。プログラムは、コンピュータが読み取り可能なROM(Read Only Memory)、光ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録されてもよいし、コンピュータが読み取り可能なRAM(Random Access Memory)などの一時的記憶媒体に記録されてもよい。プログラムは、記録媒体に予め格納されていてもよいし、インターネット等を含む広域通信網を介して記録媒体もしくは記憶媒体に供給されてもよい。
【0012】
まず実施例の概要を説明する。車両内の忘れ物を検知する従来技術の多くは、カメラにより撮影された画像(以下「カメラ画像」とも呼ぶ。)を用いて車両内の物体を検知するものであった。カメラ画像を用いた車両内の忘れ物検知には、以下の課題がある。
(1)カメラ画像の場合、物陰に隠れた物体を検知することが困難である。
(2)車両内に複数のカメラを設置することはユーザにとって煩わしい。
(3)画像処理は、車載装置のCPU処理の負荷が大きい。
(4)画像や映像はデータ量が大きく、車載装置のメモリの消費が大きい。
【0013】
実施例の車載装置は、乗員の端末(例えばスマートフォン等)との無線通信における電界強度をもとに、当該端末が車両内にあるか、または車両外にあるかを判定する。この構成によると、乗員の端末が物陰に隠れていても検知が容易であり、また、車載装置のCPU処理の負荷およびメモリの消費量を低減することができる。また、乗員の端末は、一般的な無線通信機能を備えればよく、乗員の端末への特別なアプリケーションの導入が不要というメリットもある。実施例では、車載装置と乗員の端末とは、Bluetooth Low Energy(「Bluetooth」および「Bluetooth Low Energy」は登録商標)(以下「BLE」と呼ぶ。)による近距離無線通信(以下「BLE通信」と呼ぶ。)を行う。
【0014】
実施例の詳細を説明する。
図1は、実施例の車両10の構成を示す。車両10は、ユーザ端末12、車載装置14、警報先端末16を備える。ユーザ端末12は、車両10の乗員(運転者等)により操作される端末である。車両10の乗員は、車両10の外から中にユーザ端末12を持ち込み、車両10で移動後、車両10の中から外にユーザ端末12を持ち出す。ユーザ端末12は、例えば、スマートフォンやタブレット端末、ウェアラブルデバイスであってもよい。実施例では、ユーザ端末12は、車載装置14による忘れ物検知の対象となる。
【0015】
車載装置14は、車両10内の忘れ物を検知する情報処理装置であり、実施例では、車両10内でのユーザ端末12の置き忘れを検知し、そのことを警報先端末16を介して乗員に通知する。車載装置14は、例えば、カーナビゲーション装置や車載インフォテインメント装置であってもよい。
【0016】
警報先端末16は、車載装置14により検知された車両10内の忘れ物が通知される端末であり、実施例では、車両10内でのユーザ端末12の置き忘れが通知される端末である。警報先端末16は、例えば、車両10と触れることなく車両10のドアの解錠および施錠が可能なスマートキーであってもよい。
【0017】
図1は、ユーザ端末12、車載装置14、警報先端末16の機能ブロックを示すブロック図を含む。本開示のブロック図において示される各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPU・メモリをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0018】
ユーザ端末12は、BLE通信部20を備える。BLE通信部20は、車載装置14とBLE通信を行う。
【0019】
警報先端末16は、BLE通信部22と警報部24を備える。BLE通信部22は、車載装置14とBLE通信を行う。警報部24は、車載装置14から送信された、車両10内に忘れ物があることを示す信号(以下「忘れ物通知信号」とも呼ぶ。)が受信された場合に、車両10内に忘れ物があることを乗員に報知するための処理を実行する。例えば、警報部24は、LEDランプを含んでもよく、忘れ物通知信号が受信された場合に、車両10内に忘れ物があることを示す所定の態様でLEDランプを発光させてもよい。
【0020】
車載装置14は、表示部30、対象端末情報保持部32、電界強度保持部34、車両電源管理部36、BLE通信部38、電界強度分布演算部40、忘れ物判定部42を備える。
【0021】
表示部30は、各種情報を表示し、また、乗員による操作を受け付ける。表示部30は、タッチスクリーンを含んでもよい。
【0022】
対象端末情報保持部32は、忘れ物検知の対象となる端末(実施例ではユーザ端末12)に関する情報を記憶する。実施例では、対象端末情報保持部32は、ユーザ端末12に関する情報として、ユーザ端末12のBD(Bluetooth Device)アドレスを記憶する。BDアドレスは、Bluetooth対応デバイスを識別するために使用されるデータである。
【0023】
電界強度保持部34は、ユーザ端末12のBDアドレスに対応付けて、ユーザ端末12とのBLE通信における電界強度の値を記憶する。電界強度保持部34に記憶される電界強度の値の個数は、所定個数に制限されてもよい。所定個数は、電界強度に関する妥当な統計量を算出可能な個数であってもよく、例えば100個程度であってもよい。
【0024】
車両電源管理部36は、車両10の電源の状態を管理する。例えば、車両電源管理部36は、イグニッション(IG)電源のオン/オフ、および、アクセサリー(ACC)電源のオン/オフを管理する。
【0025】
BLE通信部38は、ユーザ端末12および警報先端末16とBLE通信を行う。BLEの規格上、BLE通信部38は、ユーザ端末12から定期的(例えば10ミリ秒おき)に送信される、BLE接続が継続していることを示す信号を受信する。この信号は、ユーザ端末12のBDアドレスを含む。BLE通信部38は、受信した上記信号に基づいて、ユーザ端末12とのBLE通信における電界強度を導出する。BLE通信部38は、ユーザ端末12のBDアドレスと電界強度とを対応付けて電界強度保持部34に記憶させる。
【0026】
忘れ物判定部42は、車両10の電源の状態が所定の状態(実施例ではACC電源オフ)になった際の電界強度保持部34に記憶された第1の電界強度に関する値と、車両10から乗員が降車した際の電界強度保持部34に記憶された第2の電界強度に関する値とに基づいて、ユーザ端末12が車両10内に存在するか否かを判定し、言い換えれば、ユーザ端末12が車両10内に置き忘れられたか否かを判定する。第1の電界強度は、車両10のACC電源がオンからオフに切り替わる直前のユーザ端末12とのBLE通信における電界強度であり、以下「車両内電界強度」とも呼ぶ。第2の電界強度は、乗員が降車直後のユーザ端末12とのBLE通信における電界強度であり、以下「車両外電界強度」とも呼ぶ。
【0027】
BLE通信部38は、通知部として、忘れ物判定部42によりユーザ端末12が車両10内に存在すると判定された場合、車両10から降車した乗員に所定の通知を行う。
【0028】
具体的には、電界強度分布演算部40は、車両10の電源の状態が所定の状態(実施例ではACC電源オフ)になった際の電界強度保持部34に記憶された複数の車両内電界強度のデータに基づいて、車両内電界強度に関する統計量を算出する。すなわち、電界強度分布演算部40は、車両10の電源の状態がACC電源オンからACC電源オフに切り替わる際に、それまでのユーザ端末12の車両内電界強度に関する統計量を算出する。忘れ物判定部42は、車両内電界強度に関する統計量と、車両外電界強度に関する値とに基づいて、ユーザ端末12が車両10内に存在するか否かを判定する。
【0029】
さらに具体的には、電界強度分布演算部40は、車両内電界強度に関する要約統計量を算出し、実施例では、車両内電界強度の平均と標準偏差を算出する。忘れ物判定部42は、車両内電界強度の平均と標準偏差とに基づいて車両外電界強度の値を標準化し、標準化した値が所定の閾値以下である場合、ユーザ端末12が車両内に存在すると判定する、
【0030】
対象端末情報保持部32および電界強度保持部34は、車載装置14のストレージにより実現されてもよい。また、車両電源管理部36、BLE通信部38、電界強度分布演算部40、忘れ物判定部42の機能を実装したコンピュータプログラムが車載装置14のストレージにインストールされてもよい。車載装置14のプロセッサ(CPU等)は、上記コンピュータプログラムをメインメモリに読み出して実行することにより、車両電源管理部36、BLE通信部38、電界強度分布演算部40、忘れ物判定部42の機能を発揮してもよい。
【0031】
以上の構成による車載装置14、ユーザ端末12、警報先端末16の動作を説明する。
図2は、車載装置14の動作を示すフローチャートである。車載装置14のBLE通信部38は、ユーザ端末12のBLE通信部20とBLE接続を確立する(S10)。また、車載装置14のBLE通信部38は、警報先端末16のBLE通信部22ともBLE接続を確立する。
【0032】
図2には不図示だが、車載装置14の表示部30は、ユーザ端末12とBLE接続を確立した旨を画面に表示するとともに、ユーザ端末12を忘れ物検知の対象端末とするか否かの問い合わせを画面に表示する。乗員が、ユーザ端末12を忘れ物検知の対象端末として設定する操作を表示部30に入力すると、車載装置14の対象端末情報保持部32は、忘れ物検知の対象端末の識別情報として、ユーザ端末12の識別情報(実施例ではBDアドレス)を記憶する。
【0033】
ユーザ端末12のBLE通信部20は、定期的に(例えば10ミリ秒おきに)、BLE接続が継続していることを示す信号(BLE通信のデータパケット)を車載装置14のBLE通信部38へ送信する。BLE通信部20は、このデータパケットに乗せて電界強度を示す情報を車載装置14のBLE通信部38に通知する。車載装置14のBLE通信部38は、ユーザ端末12から送信されたデータパケットが示す電界強度の値を、車両内電界強度の値として、ユーザ端末12のBDアドレスに対応付けて電界強度保持部34に記憶させる(S11)。
【0034】
乗員により車両10のACC電源をオンからオフに切り替える操作(以下「ACCオフ操作」とも呼ぶ。)が未入力の間(S12のN)、典型的には車両10の走行中には、定期的にS11の処理を繰り返す。電界強度保持部34には、ユーザ端末12の車両内電界強度の値として、直近の値から過去の値が所定個数(例えば100個)を上限として記憶される。
【0035】
乗員によりACCオフ操作が入力されると(S12のY)、車載装置14の車両電源管理部36は、そのことを検出し、BLE通信部38にACCオフを通知する。BLE通信部38は、忘れ物検知の対象端末の情報(実施例ではユーザ端末12のBDアドレス)を対象端末情報保持部32から取得し、ユーザ端末12のBDアドレスを指定した電界強度分布作成要求を電界強度分布演算部40へ送信する。電界強度分布演算部40は、電界強度保持部34に記憶された、ACCオフ直前のユーザ端末12の車両内電界強度を複数個取得する。実施例では、電界強度保持部34に記憶されたユーザ端末12の車両内電界強度の100サンプルを取得する。そして、電界強度分布演算部40は、ユーザ端末12の車両内電界強度の平均μと標準偏差σを算出し、記憶する(S13)。
【0036】
車載装置14(例えば車両電源管理部36またはBLE通信部38)は、ドアロック要求を受け付けるまで待機する(S14のN)。乗員は車両10から降車し、警報先端末16を兼ねたスマートキーを用いて車両10のドアを施錠する。スマートキーは、ドアロック要求を車載装置14の車両電源管理部36へ送信する。車両電源管理部36は、ドアロック要求を受け付けると(S14のY)、その旨をBLE通信部38へ通知する。BLE通信部38は、忘れ物検知の対象端末の情報(実施例ではユーザ端末12のBDアドレス)を対象端末情報保持部32から取得する。
【0037】
車載装置14のBLE通信部38は、ユーザ端末12から送信された、BLE接続が継続していることを示す信号(BLE通信のデータパケット)を所定時間以内に受信しなければ(S15のN)、ユーザ端末12からのデータパケットを受信しなくなった旨を忘れ物判定部42に通知する。忘れ物判定部42は、忘れ物検知の対象端末であるユーザ端末12が車両10の外に持ち出されたと判定し、本図の処理を終了する(S16)。
【0038】
車載装置14のBLE通信部38は、ユーザ端末12から送信されたデータパケットを所定時間以内に受信すると(S15のY)、ユーザ端末12からのデータパケットが示す電界強度の値を、車両外電界強度の値として電界強度保持部34に記憶させる(S17)。BLE通信部38は、ユーザ端末12のBDアドレスを指定した忘れ物判定要求を電界強度分布演算部40へ送信し、電界強度分布演算部40は、忘れ物判定要求を忘れ物判定部42へ送信する。忘れ物判定部42は、ユーザ端末12の車両外電界強度(R_outside)を標準化した値(Z_outside)を電界強度分布演算部40に要求する。
【0039】
電界強度分布演算部40は、電界強度保持部34に記憶されたユーザ端末12の車両外電界強度(R_outside)を取得する。電界強度分布演算部40は、S13で導出したユーザ端末12の車両内電界強度の平均μと標準偏差σをもとにZ_outsideを算出する。具体的には、以下の式1により、Z_outsideを算出する(S18)。
【数1】
【0040】
電界強度分布演算部40は、Z_outsideを忘れ物判定部42へ通知する。忘れ物判定部42は、車両内外を判別するための予め定められた閾値Zと、Z_outsideの絶対値とを大小比較する。閾値Zは、開発者の知見や実験により適切な値が決定されてもよい。また、閾値Zは、車両10の種別やサイズごとに異なる値が設定されてもよい。
【0041】
図3は、ACCオフ直前の車両内電界強度の正規分布のグラフを示す。
図4は、ACCオフ直前の車両内電界強度を標準正規分布(平均0、標準偏差1)に変換したグラフを示す。閾値Zは、平均からの距離を定めたものと言える。
図4に示すように、Z_outsideの絶対値が閾値Zを超過した場合(S19のY)、忘れ物判定部42は、忘れ物検知の対象端末であるユーザ端末12が車両10の外に持ち出されたと判定し、本図の処理を終了する(S20)。
【0042】
Z_outsideの絶対値が閾値Z以下である場合(S19のN)、忘れ物判定部42は、忘れ物検知の対象端末であるユーザ端末12が車両10の中に置き忘れられたと判定する(S21)。忘れ物判定部42は、車両10内に忘れ物があることを電界強度分布演算部40に通知し、電界強度分布演算部40は、車両10内に忘れ物があることをBLE通信部38に通知する。
【0043】
BLE通信部38は、車両10内に忘れ物があることを示す信号(忘れ物通知信号)を警報先端末16へ送信する(S22)。警報先端末16のBLE通信部22は、忘れ物通知信号を受信し、警報先端末16の警報部24は、忘れ物を通知するための所定の動作を実行する。
図5は、警報先端末16としてのスマートキーを示す。警報先端末16の警報部24は、忘れ物通知信号が受信された場合に、LEDランプ26を所定の態様で発光させる。
【0044】
実施例の車載装置14によると、ユーザ端末12とのBLE通信における電界強度の変化に基づいて、車両10内にユーザ端末12が置き忘れられたことを精度よく検知でき、また、忘れ物検知の実現容易性を担保できる。また、ACCオフ直前(言い換えれば乗員が降車する直前)の電界強度の統計量を忘れ物検知に用いることにより、忘れ物検知の精度およびロバスト性を向上できる。
【0045】
次に、車両内外を判別するための閾値Zの設定例について説明する。
閾値Zには、ACCオフ直前の車両内電界強度の標準正規分布における標準偏差に基づく値が設定されてもよい。例えば、(1)閾値Z=1.0(すなわち1σ)であってもよい。この場合、Z_outsideの絶対値が閾値Z以下であれば、ユーザ端末12が車両10内に存在する確率は68%と言える。また、(2)閾値Z=2.0(すなわち2σ)であってもよい。この場合、Z_outsideの絶対値が閾値Z以下であれば、ユーザ端末12が車両10内に存在する確率は95%と言える。
【0046】
また、閾値Zには、正規分布作成(言い換えれば平均および標準偏差の算出)のためにサンプリングした車両内電界強度の大きさに応じた値が設定されてもよい。具体的には、(3)閾値Zには、ACCオフ直前の車両内電界強度の平均に基づく値が設定されてもよい。この場合、車載装置14の忘れ物判定部42は、ACCオフ直前の車両内電界強度の平均に基づいて、閾値Zの値を動的に調整してもよい。
【0047】
ここでは前提として、電界強度を計測するBLE受信機(車載装置14のBLE通信部38に対応)は、一般的なカーナビゲーション装置と同様に、車両10の前方に設置されることとする。ユーザ端末12が車両10の後方やシートの下などにある場合、障害物の影響によりBLE受信機で検知される車両内電界強度が低くなることがある。車両内電界強度が低くなることは、ユーザ端末12が車両10の中か外かの判定の精度が低下することにつながる。そこで、車両10のACCオフ直前に取得された車両内電界強度の平均値が低い場合には、閾値Zの値を小さくすることで誤判定を防止しやすくなる。
【0048】
ケース1として、ACCオフ直前に取得した車両内電界強度の平均値が相対的に高い場合を説明する。
図6は、ACCオフ直前の車両内電界強度の分布と車外電界強度とを示す。同図は、ケース1に関する、ACCオフ直前の車両内電界強度の正規分布のグラフと、ACCオフ直前の車両内電界強度を標準正規分布(平均0、標準偏差1)に変換したグラフを示している。
【0049】
ACCオフ直前に取得された車両内電界強度の平均値が所定の閾値(この閾値は開発者の知見や実験により決定されてよい)より高い場合、忘れ物判定部42は、閾値Zを相対的に大きい値とする。例えば、閾値Z=2.0(すなわち2σ)に設定してもよい。車両内外での電界強度の差が大きくなるため、閾値Zを大きくしても誤検知は生じにくいからである。
【0050】
ケース2として、ACCオフ直前に取得した車両内電界強度の平均値が相対的に低い場合を説明する。
図7は、ACCオフ直前の車両内電界強度の分布と車外電界強度とを示す。同図は、ケース2に関する、ACCオフ直前の車両内電界強度の正規分布のグラフと、ACCオフ直前の車両内電界強度を標準正規分布(平均0、標準偏差1)に変換したグラフを示している。
【0051】
ACCオフ直前に取得された車両内電界強度の平均値が相対的に低い場合、車両内外での電界強度の差が小さくなる。そのため、閾値Zが大きいと、ユーザ端末12が車両10内に存在すると誤検知される可能性が高くなる。言い換えれば、閾値Zが大きいと、乗員がユーザ端末12を車両10の外に持ち出したにもかかわらず、乗員に対して忘れ物通知がなされやすくなる。
【0052】
そこで、ACCオフ直前に取得された車両内電界強度の平均値が上記閾値(ケース1に既述の閾値)より小さい場合、忘れ物判定部42は、閾値Zを相対的に小さい値とする。例えば、閾値Z=1.0(すなわち1σ)に設定してもよい。閾値Zの値を小さくすることで車両内外の誤検知を防止しやすくなる。なお、閾値Zが小さすぎると、ユーザ端末12が車両10内に置き忘れられたにもかかわらず、車両10の外にあると判定されてしまうため、実験等により閾値Zの適切な値(下限値や上限値等)を定めることが望ましい。また、車載装置14は、通常時は上記(1)の閾値Z=1.0(すなわち1σ)を採用しつつ、誤検知が多い旨のフィードバックが運転者等から入力された場合、上記(3)を採用して閾値Zを可変に切り替え可能な構成であってもよい。
【0053】
以上、本開示を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、実施例の各構成要素あるいは各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0054】
変形例を説明する。上記実施例では、車両10内に忘れ物があることを乗員に報知するために、警報先端末16のLEDランプを発光させた。変形例として、警報先端末16は、忘れ物通知信号に応じて、所定態様で振動し、または、所定の音声を出力することで乗員に忘れ物を通知してもよい。また、車載装置14の通知部は、車両10のクラクションを作動させ、または、車両10のライトやハザードランプ等を所定の態様で点灯させることで乗員に忘れ物を通知してもよい。また、車載装置14の通知部は、乗員により予め指定された外部装置に対して、車両10内に忘れ物があることを示すメッセージを送信してもよい。
【0055】
別の変形例を説明する。上記実施例では言及していないが、複数の端末(ここでは第1ユーザ端末、第2ユーザ端末と呼ぶ。)が、忘れ物検知の対象端末として指定可能であってもよい。車載装置14は、第1ユーザ端末の識別情報(例えばBDアドレス)に対応付けて第1ユーザ端末とのBLE通信の車両内電界強度を記憶し、また、第2ユーザ端末の識別情報に対応付けて第2ユーザ端末とのBLE通信の車両内電界強度を記憶してもよい。車載装置14は、ACC電源オフ時に、第1ユーザ端末の車両内電界強度の平均値と標準偏差を算出するとともに、第2ユーザ端末の車両内電界強度の平均値と標準偏差を算出してもよい。
【0056】
続いて、車載装置14は、スマートキーからドアロック要求を受信した際に、第1ユーザ端末の車両外電界強度を取得し、その車両外電界強度を標準化して閾値(Z)と比較することにより、車両10内に第1ユーザ端末が置き忘れられたか否かを判定してもよい。それとともに、車載装置14は、第2ユーザ端末の車両外電界強度を取得し、その車両外電界強度を標準化して同じ閾値(Z)と比較することにより、車両10内に第2ユーザ端末が置き忘れられたか否かを判定してもよい。車載装置14は、第1ユーザ端末と第2ユーザ端末のうち少なくとも1つが車両10内に置き忘れられたと判定した場合に、車両10内に忘れ物があることを警報先端末16に通知してもよい。
【0057】
さらに別の変形例を説明する。上記実施例では、忘れ物検知対象の端末(実施例ではユーザ端末12)と車載装置14は、BLEを用いて通信した。実施例に記載の技術思想は、忘れ物検知の対象端末と車載装置14がBLE以外の方式で無線通信を行う場合にも有用である。例えば、忘れ物検知の対象端末と車載装置14は、Bluetooth Basic Rate/Enhanced Data Rate、無線LAN、Wi-Fi(登録商標)、ワイヤレスUSBのいずれかを用いて無線通信を行ってもよい。
【0058】
上述した実施例および変形例の任意の組み合わせもまた本開示の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施例および変形例それぞれの効果をあわせもつ。また、請求項に記載の各構成要件が果たすべき機能は、実施例および変形例において示された各構成要素の単体もしくはそれらの連携によって実現されることも当業者には理解されるところである。本明細書または請求項中における「第1」、「第2」等の用語は、特に言及がない限り、いかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
【0059】
実施例および変形例に記載の技術は、以下の各項目に記載の態様にて特定されてもよい。
[項目1]
車両の乗員の端末と無線通信を行い、前記端末との無線通信における電界強度を記憶部に記憶させる通信部と、
前記車両の電源の状態が所定の状態になった際の前記記憶部に記憶された第1の電界強度に関する値と、前記車両から前記乗員が降車した際の前記記憶部に記憶された第2の電界強度に関する値とに基づいて、前記端末が前記車両内に存在するか否かを判定する判定部と、
前記端末が前記車両内に存在すると判定された場合、前記乗員に所定の通知を行う通知部と、
を備える車載装置。
この車載装置によると、乗員が車両内に端末を置き忘れた場合に、置き忘れられた端末の存在を精度よく検知して乗員に通知することができる。また、端末との無線通信における電界強度をもとに置き忘れの有無を判断するため、車載装置の処理負荷および処理に要するリソース量を低減することができる。
[項目2]
前記車両の電源の状態が前記所定の状態になった際の前記記憶部に記憶された複数の第1の電界強度のデータに基づいて、前記第1の電界強度に関する統計量を算出する演算部をさらに備え、
前記判定部は、前記第1の電界強度に関する統計量と、前記第2の電界強度に関する値とに基づいて、前記端末が車両内に存在するか否かを判定する、
項目1に記載の車載装置。
この車載装置によると、車両内に置き忘れられた端末の存在を一層精度よく検知することができる。
[項目3]
前記演算部は、前記第1の電界強度に関する統計量として、前記第1の電界強度の平均と標準偏差を算出し、
前記判定部は、前記第1の電界強度の平均と標準偏差とに基づいて前記第2の電界強度の値を標準化し、標準化した値が所定の閾値以下である場合、前記端末が車両内に存在すると判定する、
項目2に記載の車載装置。
この車載装置によると、車両内に置き忘れられた端末の存在を一層精度よく検知することができる。
[項目4]
前記閾値は、前記第1の電界強度の標準正規分布における標準偏差に基づく値である、
項目3に記載の車載装置。
この車載装置によると、乗員の端末が車両内に存在するかを判定するための閾値を適切に設定できる。
[項目5]
前記閾値は、前記第1の電界強度の平均に基づく値である、
項目3または4に記載の車載装置。
この車載装置によると、乗員の端末が車両内に存在するかを判定するための閾値を適切に設定できる。
[項目6]
前記車両の電源の状態に関する前記所定の状態は、前記車両のアクセサリー電源がオフの状態である、
項目1から5のいずれかに記載の車載装置。
この車載装置によると、アクセサリー電源のオフ直前の第1の電界強度に関する値を忘れ物検知にも知いることにより、忘れ物検知の精度およびロバスト性を向上することができる。
[項目7]
車両の乗員の端末と無線通信を行い、前記端末との無線通信における電界強度を記憶部に記憶させる処理と、
前記車両の電源の状態が所定の状態になった際の前記記憶部に記憶された第1の電界強度に関する値と、前記車両から前記乗員が降車した際の前記記憶部に記憶された第2の電界強度に関する値とに基づいて、前記端末が前記車両内に存在するか否かを判定する処理と、
前記端末が前記車両内に存在すると判定された場合、前記乗員に所定の通知を行う処理と、
を車載装置が実行する忘れ物通知方法。
この忘れ物通知方法によると、乗員が車両内に端末を置き忘れた場合に、置き忘れられた端末の存在を精度よく検知して乗員に通知することができる。また、端末との無線通信における電界強度をもとに置き忘れの有無を判断するため、車載装置の処理負荷および処理に要するリソース量を低減することができる。
[項目8]
車両の乗員の端末と無線通信を行い、前記端末との無線通信における電界強度を記憶部に記憶させる処理と、
前記車両の電源の状態が所定の状態になった際の前記記憶部に記憶された第1の電界強度に関する値と、前記車両から前記乗員が降車した際の前記記憶部に記憶された第2の電界強度に関する値とに基づいて、前記端末が前記車両内に存在するか否かを判定する処理と、
前記端末が前記車両内に存在すると判定された場合、前記乗員に所定の通知を行う処理と、
を車載装置に実行させるコンピュータプログラム。
このコンピュータプログラムによると、乗員が車両内に端末を置き忘れた場合に、置き忘れられた端末の存在を精度よく検知して乗員に通知することができる。また、端末との無線通信における電界強度をもとに置き忘れの有無を判断するため、車載装置の処理負荷および処理に要するリソース量を低減することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 車両、 12 ユーザ端末、 14 車載装置、 16 警報先端末、 34 電界強度保持部、 38 BLE通信部、 40 電界強度分布演算部、 42 忘れ物判定部。