(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079662
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】飛行安定装置またはそれを取り付けた飛翔体
(51)【国際特許分類】
B64C 11/18 20060101AFI20230601BHJP
【FI】
B64C11/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193239
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】521520027
【氏名又は名称】橋本 誠也
(71)【出願人】
【識別番号】521521758
【氏名又は名称】林田 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134669
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 道彰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 誠也
(57)【要約】
【課題】 飛行速度の変化による旋回風速の変化があってもその影響を受けずに旋回風をキャンセルできる飛行安定装置および飛翔体を提供する。
【解決手段】 プロペラ体の回転を駆動力とする飛翔体に装着し、主羽根体により生じる旋回風の影響を低減する飛行安定装置である。
プロペラ体に装着可能な装着部110と、装着部110から延設された複数枚の短羽根体120と、短羽根体120に設けられ風速を調整する整流体130と、短羽根体120の外周先端に取り付けられた円弧仕切体140を備えている。整流体130によって後方に中心風101を生じせしめ機体胴体周りを覆う。中心風101の風速はプロペラ体の主羽根体210の回転で得られる推進風201の風速よりも遅く調整され、円弧仕切体140により中心風101が推進風201とは仕切られて流れる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主羽根体を備えたプロペラ体の回転を駆動力とする飛翔体に装着し、前記主羽根体により生じる旋回風の影響を低減する飛行安定装置であって、
前記プロペラ体に装着可能な装着部と、
前記装着部から延設された複数枚の短羽根体と、
前記短羽根体に設けられ風速を調整する整流体と、
前記短羽根体の外周先端に取り付けられた円弧仕切体を備え、
前記短羽根体によって生じた機体胴体周りを覆う中心風の風速が、前記整流体によって、前記プロペラ体の前記主羽根体の回転で前記中心風より外側に生じる推進風の風速よりも遅く調整され、
前記円弧仕切体により、前記中心風が前記推進風とは仕切られて流れることを特徴とする飛行安定装置。
【請求項2】
前記短羽根体の延設箇所が、前記主羽根体と前記短羽根体との配設が周回上均等角度になるように調整されていることを特徴とする請求項1に記載の飛行安定装置。
【請求項3】
前記主羽根体の長さと前記短羽根体の長さの比が5:1~2:1に調整されていることを特徴とする請求項1または2に記載の飛行安定装置。
【請求項4】
前記円弧仕切体の壁面が前端エッジから後端エッジにかけて曲面を備え、前記曲面が前記前端エッジから前記後端エッジにかけて前記飛翔体の推進方向に対する迎え角が拡がるように設けられたものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の飛行安定装置。
【請求項5】
前記整流体が、前記短羽根体の外表面において、立設されたフランジと前記フランジに隣接した溝状のスリットが1または複数セット設けられたものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の飛行安定装置。
【請求項6】
前記フランジおよび前記スリットが回転方向に対して所定の迎え角をもって形成されていることを特徴とする請求項5に記載の飛行安定装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の飛行安定装置をプロペラに装着した飛翔体。
【請求項8】
前記飛翔体が、プロペラ式有人飛行機、プロペラ式無人飛行機、プロペラ式模型飛行機、プロペラ式有人ヘリコプター、プロペラ式無人ヘリコプター、プロペラ式模型ヘリコプターのいずれかである請求項7に記載の飛翔体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロペラ飛行機のプロペラ後流の悪影響を低減し安定飛行を可能にするための飛行安定装置およびそれを取り付けた飛翔体に関する。
【背景技術】
【0002】
プロペラ式の有翼の飛行機は、プロペラを回転させて後方に推進風を吹き出して後方へ流れる空気流を形成し、主翼の上下面を流れる空気流の速度の差に基づいて主翼上面に発生する負圧(揚力)により機体を空中に維持しつつ前方へ推進する。プロペラ式飛行機で得られる推進風はプロペラの回転により得られるものであるので後方へ流れる旋回風である。
従来技術におけるプロペラ式の有翼の飛行機における課題の1つは、この旋回風が機体の飛行に悪影響を与える点である。例えば左旋回風となって機体に衝突すれば飛行機の飛行方向が左側に傾く傾向が出てしまい安定飛行を妨げてしまう。
【0003】
図5は、従来技術におけるプロペラ式の有翼の飛行機のプロペラ回転により生じる推進風が左旋回風となる様子を分かりやすく示した図である。
図5において、プロペラ式の有翼の飛行機はごく単純化して描いている。
図6は、従来技術におけるプロペラ式の有翼の飛行機に及ぼす左旋回風の影響を分かりやすく示した図である。
図6でもプロペラ式の有翼の飛行機はごく単純化して描いている。
【0004】
図5に示すように、プロペラが進行方向(機体側からみて)時計回りに回転していると、プロペラにより生じる推進風が(機体側からみて)左旋回流となる。このように機体が左旋回流の中を飛行すると左側から風を受け、
図6に示すように、特に後尾が進行方向の右側へ流れてしまう影響が出やすくなる。
このように、プロペラ回転により生じる推進風の流れには、直進方向へのベクトル成分が大きいものの左側から右側への横方向のベクトル成分も存在する。これら推進風の流れはプロペラの回転速度とプロペラの羽根の迎え角の大きさによって変化する。
【0005】
ここで、プロペラ式飛行機において、離着陸時や飛行航行中において速度を上げたり下げたりする必要がありプロペラの回転速度を様々に変化せざるを得ない。
そこで、従来技術において、プロペラの羽根の迎え角を可変とする『可変ピッチ機構』が知られていた(特許文献1:特開2018-47905号公報、特許文献2:特開2021-147038)。この可変ピッチ機構とはプロペラの迎え角を調節する機構である。可変ピッチ機構を搭載すれば、プロペラが得るトルクや、プロペラから後方へ推進風を吹き出すことにより得られる推進力や、衝突する空気から受ける摩擦などの複数の要因の影響を加味してプロペラの羽根の迎え角を調整できる。
【0006】
また、従来技術において、このプロペラ機に見られる旋回風速に対する対処方法として、推進方向に対して飛行方向が左に曲がってしまう影響を織り込んで垂直尾翼を右側に向けておく『垂直尾翼による曲がり補正』や、プロペラ軸を右側に傾けておいて左側に曲がる影響を打ちけるようにサイドスラストを付ける『プロペラ軸の曲がり補正』の工夫を施すことも考えられる。
【0007】
【特許文献1】特開2018-047905号公報
【特許文献2】特開2021-147038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、プロペラ式飛行機が得る推進風は、
図5および
図6に示したように、機体の左側に衝突する左旋回風となる。プロペラ式飛行機の飛行速度を上げるためにプロペラの回転速度を上げると得られる旋回風である推進風において左方向への旋回風速も大きくなってしまう。
従来技術の『可変ピッチ機構』は重く、複雑でありかつコストも掛かる。そのため可変ピッチ機構を搭載せずプロペラの迎え角は固定されている飛行機が多い。
従来技術の『垂直尾翼による曲がり補正』や『プロペラ軸の曲がり補正』についても同様であり、それら曲がり補正の角度は固定的では速度変化の影響を吸収できず、飛行速度に応じてそれら曲がり補正角を的確に変更する必要が出てくるが、飛行速度に応じて変更する構造が複雑となりコスト増を招くため困難である。
そこで、飛行速度の変化による左旋回風の旋回風速の変化があってもその影響を受けずに左旋回風の旋回風の影響をキャンセルする方法が求められていた。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点を解決するために鑑み案出されたものであって、飛行速度の変化による左旋回風の旋回風速の変化があってもその影響を受けずに左旋回風の旋回風をキャンセルできる飛行安定装置およびその飛行安定装置を搭載した飛翔体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の飛行安定装置は、主羽根体を備えたプロペラ体の回転を駆動力とする飛翔体に装着し、前記主羽根体により生じる旋回風の影響を低減する飛行安定装置であって、前記プロペラ体に装着可能な装着部と、
前記装着部から延設された複数枚の短羽根体と、前記短羽根体に設けられ風速を調整する整流体と、前記短羽根体の外周先端に取り付けられた円弧仕切体を備え、前記短羽根体によって生じた機体胴体周りを覆う中心風の風速が、前記整流体によって、前記プロペラ体の前記主羽根体の回転で前記中心風より外側に生じる推進風の風速よりも遅く調整され、前記円弧仕切体により、前記中心風が前記推進風とは仕切られて流れることを特徴とする飛行安定装置である。
【0011】
上記構成により、本発明の飛行安定装置は、機体周囲を中心風で覆って外側の推進風とは仕切ることができ、推進風の旋回風の影響が機体に及ぶことがないよう抑制できる。推進風からは前方への推進力のみがプロペラ軸を介して機体に与えられ、また主翼に発生する揚力が主翼躯体を介して機体に与えられ、安定した飛行を行うことができる。
【0012】
なお、短羽根体もプロペラの回転に合わせて旋回するが、短羽根体はプロペラの回転の中心付近に位置しているので回転速度が、主羽根体の外周付近の回転速度に比べて十分に遅く、後方へ流れる中心風には旋回風速が十分小さくなっている。そのため、中心風の風速は推進風に比べて比較的に遅く、推進風からみれば機体の周囲を覆う保護空気塊のように働き、推進風の旋回風が機体へ近づくことを抑制できる。
【0013】
上記の飛行安定装置の構成において、短羽根体の枚数について制限はなく何枚であっても良い。また、飛翔体の主羽根体の枚数についても制限はなく何枚であっても良い。
前記短羽根体の枚数と延設箇所については、前記主羽根体と前記短羽根体との配設が周回上均等角度になるように調整されていることが好ましい。
例えば、主羽根体が2枚で180度開いたいわゆる「二葉プロペラ」である場合には、配設する短羽根体が2枚であれば主羽根体に対して90度開いた角度に配設し、主羽根体と短羽根体の合計4枚の羽根体が90度ずつ開いて配設されるように調整する。
例えば、主羽根体が2枚で180度開いたいわゆる「二葉プロペラ」である場合には、配設する短羽根体が4枚であれば、主羽根体の間に60度と120度開いた角度に配設し、主羽根体と短羽根体の合計6枚の羽根体が60度ずつ開いて配設されるように調整する。
同様に、主羽根体が2枚で短羽根体が6枚の場合であれば、主羽根体と短羽根体の合計8枚の羽根体が45度ずつ開いて配設されるように調整すれば良く、主羽根体が4枚で短羽根体が4枚の場合であれば、主羽根体と短羽根体の合計8枚の羽根体が45度ずつ開いて配設されるように調整すれば良い。
上記工夫により、プロペラの回転に応じて、主羽根体と短羽根体が一体となって回転するため、それぞれの羽根体が回転軸に対して均等角度に配設されておれば、中心風内部に発生する乱流が小さくなる。
【0014】
次に、上記の飛行安定装置の構成において、前記主羽根体の長さと前記短羽根体の長さの比としては、5:1~2:1に調整されていることが好ましい。中心風の速度が推進風よりも遅く、かつ、中心風と推進風との風速差が生じるようにする範囲としては、上記範囲あたりが好ましい。さらに5:1~3:1の範囲、4:1~3:1の範囲も好ましい。なお、範囲外である5:1~3:2や、10:1~2:1の範囲などを除外するものではない。
【0015】
次に、上記の円弧仕切体の工夫として、前記円弧仕切体の壁面が前端エッジから後端エッジにかけて曲面を備え、前記曲面が前記前端エッジから前記後端エッジにかけて前記飛翔体の推進方向に対する迎え角が拡がるように設けられたものであることが好ましい。
上記構成により、中心風が外周方向へ拡がるように吹き出される。プロペラの後方に生じる中心風の径に比べて後方の尾翼の高さが大きい場合もあり、中心風が外周方向へ拡がるように後方に吹き出されれば、中心風による保護空気塊の外方に位置したり旋回風の影響を受けたりすることを回避することができる。
【0016】
次に、上記の整流体の工夫として、前記整流体が、前記短羽根体の外表面において、立設されたフランジと前記フランジに隣接した溝状のスリットが1または複数セット設けられたものであることが好ましい。さらに、前記フランジおよび前記スリットが回転方向に対して所定の迎え角をもって形成されていることが好ましい。
上記構成により、整流体により短羽根体により形成される中心風の風速がさらに減速され、推進風からみて中心風の風速が遅くなり、中心風と推進風との風速差が生じ、中心風による保護空気塊の効果を大きくすることができる。
【0017】
次に、本発明の飛翔体は、上記構成の本発明の飛行安定装置をプロペラに装着することにより得られる。
飛翔体としては、例えば、プロペラ式有人飛行機、プロペラ式無人飛行機、プロペラ式模型飛行機、プロペラ式有人ヘリコプター、プロペラ式無人ヘリコプター、プロペラ式模型ヘリコプターなどがあり得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明の飛行安定装置によれば、機体周囲を中心風で覆うことにより推進風とは仕切って旋回風である推進風の影響が機体に及ぶことがないよう抑制できる。
中心風の風速は推進風に比べて比較的に遅く、推進風からみれば機体の周囲を覆う保護空気塊のように働き、推進風の旋回風が機体へ近づくことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の飛行安定装置100の構成例を簡単に示す図である。
【
図2】本発明の飛行安定装置100により生成された中心風が機体胴体周りを覆う様子を簡単に示す図である。
【
図3】中心風によってプロペラ体の主羽根体210による生成される推進風である左旋回風の影響が抑制される様子を簡単に示す図である。
【
図4】主羽根体210の長さ:短羽根体120の長さ(飛行安定装置100の径)の比率を正面から簡単に図示したものである。
【
図5】従来技術におけるプロペラ式の有翼の飛行機のプロペラ回転により生じる推進風が左旋回風となる様子を分かりやすく示した図である。
【
図6】従来技術におけるプロペラ式の有翼の飛行機に及ぼす左旋回風の影響を分かりやすく示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の飛行安定装置の実施形態を説明する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に示した具体的な用途や形状・寸法などには限定されない。
【実施例0021】
実施例1として本発明の飛行安定装置100の構成例を示す。
飛行安定装置100は2本以上の主羽根体210を備えたプロペラ体の回転を駆動力とする飛翔体200に装着するものとなっている。
図1は、本発明の飛行安定装置100の構成例を簡単に示す図である。
図1に示すように、飛行安定装置100は、装着部110、短羽根体120、整流体130、円弧仕切体140を備えた構成となっている。なお、
図1には、飛行安定装置100を取り付ける飛翔体200のプロペラである主羽根体210(飛行安定装置100近隣の部分のみ)も併せて示している。
【0022】
各構成要素を設する。
装着部110は、飛翔体200のプロペラ体に装着可能なアタッチメントである。飛翔体200のプロペラ体の回転を邪魔せず、かつ飛翔体200のプロペラ体の回転とともに回転できるようなアタッチメントであれば良い。この例では、飛翔体200のプロペラ体の主羽根体210の中心付近の外形状と嵌合できる切れ込み形状を備えたものとなっており、飛翔体200のプロペラ体の主羽根体210の中心付近に被せることにより嵌合装着するものとなっている。
図1には図示していないが脱着可能なように飛翔体200のプロペラ体の主羽根体210の中心付近に螺着するものであっても良い。
【0023】
短羽根体120は、装着部110から外周に向けて延設された複数枚の短羽根体である。短羽根体120はプロペラの回転面に対して所定の迎え角を持つように配設されており、後述するようにプロペラの回転に応じて推進風となる中心風を形成することができるものとなっている。
この短羽根体120には外表面に整流体130が設けられ、外周端部に円弧仕切体140が取り付けられている。
【0024】
短羽根体の枚数については制限なく何枚であっても良い。
この短羽根体120の延設箇所は、主羽根体210と短羽根体120との配設位置が周回上均等角度になるように調整されている。
図1の例では、主羽根体210が2枚で180度開いたいわゆる「二葉プロペラ」の例であり、配設する短羽根体120が4枚の例となっている。この場合、主羽根体の間に60度と120度開いた角度に短羽根体120が配設されており、
図1に示すように、主羽根体と短羽根体の合計6枚の羽根体が60度ずつ均等に開いて配設されるように調整されている。
図示は省略するが、同様に、配設する短羽根体120が2枚であれば主羽根体210に対して90度開いた角度に配設し、主羽根体と短羽根体の合計4枚の羽根体が90度ずつ均等に開いて配設されるように調整すれば良い。また、図示は省略するが、同様に、短羽根体が6枚の場合であれば、主羽根体と短羽根体の合計8枚の羽根体が45度ずつ開いて配設されるように調整すれば良い。
もし、主羽根体が4枚であるいわゆる「四葉プロペラ」であり、配設する短羽根体が4枚の場合であれば、主羽根体と短羽根体の合計8枚の羽根体が45度ずつ均等に開いて配設されるように調整すれば良い。
このように、主羽根体と短羽根体が回転軸に対して均等角度に配設されておれば、均質に推進風となる中心風を発生させることができ、中心風内部に発生する乱流が小さくなる。
なお、ヘリコプターのようなプロペラについても同様に考えれば良い。
【0025】
次に、整流体130は、短羽根体120の外表面に設けられ風速を調整するものである。この整流体により、飛行安定装置100の後方に生じる推進風である中心風が遅くなるように調整される。
整流体の形状例としては、短羽根体120の外表面において、立設されたフランジ131を持つものがある。フランジ131がプロペラの回転方向に対して所定の迎え角をもって形成されていれば、短羽根体120の回転によりその表面で発生する空気の流れを当該フランジ131が迎え角の分だけ抵抗を与えることとなり、短羽根体120で発生する推進風である中心風を遅く調整できる。
【0026】
ここで、このフランジ131の高さが高くなり過ぎると飛翔体の飛行に伴って空気抵抗となって推進エネルギーのロスにもつながるため、フランジに隣接した溝状のスリット132を設ける工夫も好ましい。フランジに隣接した溝状のスリット132もフランジ131同様、その迎え角の分だけ短羽根体120の表面で発生する空気の流れに対して抵抗を与えることとなり、短羽根体120で発生する推進風である中心風を遅く調整できる。
これらフランジ131とスリット132はセットとして設けることができ、1または複数セット設けることもできる。
図1の例では、4セット(4列)設けた例となっている。
【0027】
なお、フランジ131やスリット132は、短羽根体120と同様のものを主羽根体210の相当箇所(プロペラ軸からみて短羽根体120と同様の位置)にも設けておく構成も可能である。主羽根体210の相当箇所(プロペラ軸からみて短羽根体120と同様の位置)からも中心風の一部が形成されるので、中心風として周回状に均質なものが生成される方が好ましいからである。なお、本発明の飛行安定装置100を取り外した状態で飛翔体を飛行させる可能性があれば、主羽根体210にフランジ131やスリット132を設けると邪魔になる場合もあり得るので、飛翔体200に本発明の飛行安定装置100を装着することを前提とした場合であれば主羽根体210にもフランジ131やスリット132を設ける構成は好ましい。もっとも、主羽根体210も、フランジ131やスリット132ありのタイプと、フランジ131やスリット132なしのタイプを用意しておき適宜取り替えるという使用方法もあり得る。
このように、整流体130によって、短羽根体120で生成される推進風(中心風)は、後述するように、主羽根体210で生成される推進風よりも比較的遅くなるように調整できる。
【0028】
円弧仕切体140は、短羽根体120の外周先端に取り付けられた円弧状の仕切体である。円弧仕切体140がプロペラの回転に伴って描く軌跡はプロペラ軸を中心とした周回軌跡となっている。円弧仕切体140はその内周側に短羽根体120が位置し、その外周側に主羽根体210の主要部が位置するように仕切るものとなっている。もっとも主羽根体210のうちプロペラ軸に近い内周側は円弧仕切体140の内周側に位置することとなる。このエリアが存在してもプロペラの回転速度が大きくなれば、円弧仕切体140の仕切りの効果は周回状に生じ得る。
このように、円弧仕切体140により、短羽根体120により生成される推進風である中心風と、主羽根体210で生成される推進風が、それぞれ仕切られた状態で後方に流れやすくなる。
【0029】
短羽根体120で生成される中心風は速度が遅く、主羽根体210で生成される推進風は速度が速く、両者には差があるところ、これら両者の境界を円弧仕切体140により一旦明確に設けておくことにより、後方で両者が接近しても中心風は一種の空気の塊として流れ、機体の周囲を覆う保護空気塊のように働き、推進風の旋回風が機体へ近づくことを抑制できる。
【0030】
ここで、円弧仕切体140における更なる工夫について述べておく。
図1に示すように、円弧壁面体140の壁面が前端エッジから後端エッジにかけて曲面を備えており、この曲面が前端エッジから後端エッジにかけて飛翔体200の推進方向に対する迎え角が拡がるように設けられたものとする。
図1の例ではさらにプロペラの回転に伴って円弧壁面体140の壁面の曲面の迎え角が推進方向に対して拡がってゆくように周回方向にも“捻じり”が付けられており、プロペラの回転に伴って発生する中心風が拡がるように工夫されている。
【0031】
次に、飛行安定装置100を飛翔体200のプロペラに装着した飛行時における中心風と推進風の動きを説明する。
図2は、本発明の飛行安定装置100により生成された中心風が機体胴体周りを覆う様子を簡単に示す図である。
図2において飛翔体200はプロペラ式の有翼の飛行機の例となっており、その飛行機はごく単純化して描かれている。
図3は、機体胴体周りを覆う中心風によって、外側で発生しているプロペラ体の主羽根体210による生成される推進風である左旋回風の影響が抑制される様子を簡単に示す図である。
図3でも飛翔体200はプロペラ式の有翼の飛行機の例となっており、その飛行機はごく単純化して描かれている。
【0032】
図2に示すように、飛翔体200にはプロペラの回転により、速度と流れるエリアが異なる2種類の推進風が形成されており、飛行安定装置100により生成される機体を覆うように流れる内側の中心風101と、その中心風の外側を流れる主羽根体210により生成された推進風201が形成されている。中心風101は短羽根体120により推進風201よりも遅く生成され、かつ短羽根体120の外表面の整流体130によってより遅く整流されている。中心風は機体の周囲を保護するように覆いながら後方へ流れている。
【0033】
一方、主羽根体210により生成される推進風は、本来は左旋回風であるが、内部に速度の遅い中心風が機体を覆っているため、中心方向(機体方向)には近づけず、本発明の飛行安定装置100を取り付けない従来の旋回風(
図5に図示した従来の補整前の旋回風)に比べて旋回が小さくなるよう補整されて後方へ流れて行くことが分かる。
【0034】
図3は上記の効果を上面から単純に示したものとなっている。
図3に示すように、本発明の飛行安定装置100により生成される中心風101は、外側の推進風201よりも比較的遅い速度で拡がりながら機体を包み込んで後方へ流れて行くが、主羽根体210により生成される推進風201は左旋回風(左方向から機体に吹き付ける旋回風)ではあるが、中央に中心風が機体を包み込むように存在するために機体側には寄りにくくなっており、本発明の飛行安定装置100を取り付けない従来の旋回風(
図5に図示した従来の補整前の旋回風)に比べて旋回が小さくなるよう補整されて後方へ流れて行くことが分かる。
【0035】
次に、主羽根体210に対する短羽根体120との長さの比率について述べる。この比率は言い換えれば、プロペラの主羽根体210の外周が描く回転軌跡の径と円弧仕切体140が描く回転軌跡の径の比率でもある。
主羽根体210の長さと短羽根体120の長さの比率は限定されないが、中心風は機体を覆うように得られ、かつ主羽根体210で十分な推進力を得られる推進風が形成される範囲とする必要がある。
そこで、主羽根体210の長さに対する短羽根体120の長さの比率は、5:1~2:1に調整することが好ましい。
【0036】
図4は、主羽根体210の長さ:短羽根体120の長さ(飛行安定装置100の径)の比率を正面から簡単に主羽根体と飛行安定装置の大きさの比率として簡単に図示したものである。
まず、上限としては、生成される推進風の速度はプロペラの主羽根体210の周回速度に依存するところ、主羽根体210の表面の周回速度は外周に近いほど速くなる。つまり、推進風を発生させる主要部分は主羽根体210の外周近くあたりとなる。
そこで、できるだけ短羽根体120の長さを長く確保した場合の主羽根体210の長さ:短羽根体120の長さ(飛行安定装置100の径)の比率としては、
図4(a)に示すように、主羽根体210の外側1/2と残りの内側1/2で分けることは適当な範囲と言える(つまり主羽根体210の長さ:短羽根体120の長さの比率が2:1)。
【0037】
次に、下限としては、生成される推進風の風力エネルギーはその断面積にも依存するため、推進風の断面積を大きく採ることを考慮すれば、主羽根体210の長さ:短羽根体120の長さ(飛行安定装置100の径)の比率は、
図4(b)に示すように、主羽根体210の外側4/5と残りの内側1/5で分けることは適当な範囲と言える(つまり主羽根体210の長さ:短羽根体120の長さの比率が5:1)。
つまり、主羽根体210の長さに対する短羽根体120の長さ(飛行安定装置100の径)の比率は、5:1~2:1に調整することが好ましい。
【0038】
なお、短羽根体120で生成される機体を覆う中心風のサイズと、主羽根体210で得られる推進風の風速と風力エネルギーとのバランスを考慮すると、さらにその比率の範囲を絞って主羽根体210の長さに対する短羽根体120の長さの比率をさらに5:1~3:1の範囲、4:1~3:1の範囲も好ましい。なお、範囲外である5:1~3:2や、10:1~2:1の範囲などを除外するものではない。
【0039】
以上が本発明の飛行安定装置100の構成例と、本発明の飛行安定装置100を取り付けた飛翔体200に得られる飛行安定効果である。
【0040】
ここで、本発明の飛行安定装置100は、様々なプロペラ式の推進機構をもつ飛翔体200に適用できる。
例えば、プロペラ式有人飛行機、プロペラ式無人飛行機、プロペラ式模型飛行機、プロペラ式有人ヘリコプター、プロペラ式無人ヘリコプター、プロペラ式模型ヘリコプターなどがあり得る。その他にもプロペラ式の推進機構をもつ飛翔体であれば取り付けることができる。
【0041】
以上、本発明の飛行安定装置における好ましい実施例を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
本発明は、プロペラ式有人飛行機、プロペラ式無人飛行機、プロペラ式模型飛行機、プロペラ式有人ヘリコプター、プロペラ式無人ヘリコプター、プロペラ式模型ヘリコプターなどに広く適用することができる。