(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079670
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】探査システム、シールド掘削機及び探査方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/093 20060101AFI20230601BHJP
E21D 9/06 20060101ALI20230601BHJP
E21D 9/10 20060101ALI20230601BHJP
G01V 1/00 20060101ALI20230601BHJP
G01S 15/10 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
E21D9/093 F
E21D9/06 301A
E21D9/10 Z
G01V1/00 B
G01S15/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193250
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000216025
【氏名又は名称】鉄建建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 隆
(72)【発明者】
【氏名】竹田 茂嗣
(72)【発明者】
【氏名】山田 宣彦
(72)【発明者】
【氏名】谷崎 英典
(72)【発明者】
【氏名】浅田 昭
(72)【発明者】
【氏名】村越 誠
【テーマコード(参考)】
2D054
2G105
5J083
【Fターム(参考)】
2D054AC04
2D054AC05
2D054AC20
2D054AD02
2D054BA03
2D054GA15
2D054GA17
2D054GA65
2D054GA83
2D054GA94
2G105AA02
2G105BB02
2G105CC01
2G105DD02
2G105EE01
2G105LL03
2G105LL04
2G105LL05
2G105LL06
2G105LL08
5J083AB12
5J083AB20
5J083AC28
5J083AC32
5J083AD04
5J083AE06
5J083AF14
5J083BA02
5J083BB12
5J083CA01
5J083CA12
(57)【要約】
【課題】シールド発進後に、送受信器に不具合が発生しても容易に対処できるとともに、シールド掘削機の機外における地中の未掘削領域までの距離を精度よく算出できる探査システム、シールド掘削機及び探査方法を提供することを目的とする。
【解決手段】泥土圧式シールド掘削機1の前胴20においてスキンプレート21や隔壁22を構成する鋼製部材の機内側に取付けられ、機外に向けて音波を送信するとともに、機外で反射した反射波を受信する送受信器101と、送受信器101における少なくとも受信波信号Rに基づいて、地中における緩み部Xaまでの距離を演算するPC107とが設けられた探査システム100であって、送受信器101は、所定の周波数帯域において、所定の周波数ピッチ毎のパルス波を順次音波として送信する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘削機の胴体部において外殻や隔壁を構成する鋼製部材の機内側に取付けられ、機外に向けて音波を送信するとともに、前記機外で反射した反射波を受信する送受信器と、前記送受信器における少なくとも受信情報に基づいて、地中における掘削範囲を演算する演算器とが設けられ、該演算器が、前記シールド掘削機の前記機外における地中の未掘削領域までの距離を算出する探査システムであって、
前記送受信器は、
所定の周波数帯域において、所定の周波数ピッチ毎のパルス波を順次前記音波として送信する構成である
探査システム。
【請求項2】
前記送受信器は、
所定の周波数ピッチ毎の前記パルス波を複数波ずつ順次送信する構成である
請求項1に記載の探査システム。
【請求項3】
前記送受信器が、所定の周波数ピッチ毎の前記パルス波を複数波ずつ所定の周波数帯域の全域に亘って送信するとともに、
前記送受信器は、所定の周波数ピッチ毎の前記パルス波を前記複数波と異なる波数ずつ所定の周波数帯域の全域に亘ってさらに送信する
請求項2に記載の探査システム。
【請求項4】
前記送受信器が機外に向けて音波を送信するとともに、前記機外で反射した前記反射波を受信した結果である前記受信情報を記憶する記憶部が設けられ、
前記送受信器が、所定の周波数帯域において、所定の周波数ピッチ毎のパルス波を順次前記音波として送信し、前記反射波を受信した前記周波数ピッチ毎の前記受信情報を個別データとして前記記憶部に記憶し、
前記演算器は、
前記所定の周波数帯域の全域に亘るとともに波数の異なる前記周波数ピッチ毎の前記個別データをデータセットとするとともに、前記データセットに基づいて特定データを生成し、
異なるデータセットの特定データと、生成した前記特定データとを比較し、前記異なるデータセットの特定データと、生成した前記特定データとの差分を抽出する
請求項1乃至請求項3のうちいずれかに記載の探査システム。
【請求項5】
前記送受信器から前記受信情報を前記記憶部に伝送する伝送路が設けられ、
前記送受信器に、前記受信情報を増幅する増幅器が設けられるとともに、
前記受信情報を前記記憶部に伝送する前記伝送路に、
前記増幅器で増幅され、前記伝送路を伝送された前記受信情報を減衰する減衰器が設けられた
請求項4に記載の探査システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちいずれかに記載の探査システムにおける前記送受信器が前記鋼製部材の機内側に取付けられた
シールド掘削機。
【請求項7】
シールド掘削機の胴体部において外殻や隔壁を構成する鋼製部材の機内側に取付けられた送受信器から機外に向けて音波を送信するとともに、前記機外で反射した反射波を受信し、前記シールド掘削機の前記機外における地中の未掘削領域までの距離を算出する探査方法であって、
所定の周波数帯域において、所定の周波数ピッチ毎のパルス波を順次前記音波として送信する
探査方法。
【請求項8】
所定の周波数ピッチ毎の前記パルス波を複数波ずつ順次送信する
請求項7に記載の探査方法。
【請求項9】
所定の周波数ピッチ毎の前記パルス波を複数波ずつ所定の周波数帯域の全域に亘って送信するとともに、
所定の周波数ピッチ毎の前記パルス波を前記複数波と異なる波数ずつ所定の周波数帯域の全域に亘ってさらに送信する
請求項8に記載の探査方法。
【請求項10】
前記送受信器が機外に向けて音波を送信するとともに、前記機外で反射した前記反射波を受信した結果である受信情報を記憶する記憶部に、前記送受信器が、所定の周波数帯域において、所定の周波数ピッチ毎のパルス波を順次前記音波として送信し、前記反射波を受信した前記周波数ピッチ毎の前記受信情報を個別データとして記憶し、
演算器が、
前記所定の周波数帯域の全域に亘るとともに波数の異なる前記周波数ピッチ毎の前記個別データをデータセットとするとともに、前記データセットに基づいて特定データを生成するとともに、
異なるデータセットの特定データと、生成した前記特定データとを比較し、前記異なるデータセットの特定データと、生成した前記特定データとの差分を抽出する
請求項7乃至請求項9のうちいずれかに記載の探査方法。
【請求項11】
前記送受信器から前記受信情報を前記記憶部に伝送する伝送路が設けられ、
前記送受信器で前記受信情報を増幅するとともに、
前記伝送路を伝送された前記受信情報を減衰して、前記記憶部に記憶する
請求項10に記載の探査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前記シールド掘削機の機外における地中の未掘削領域までの距離を算出する探査システム、シールド掘削機及び探査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に隧道を構築する密閉型のシールド掘削機では、掘削面が全て掘進機で覆われており、地山状況を目視で確認することができず、切羽崩壊の兆候を捉えることが困難であるため、土被りや地質調査資料を基に算出した切羽設定圧を維持しながら施工する。
【0003】
また、実際にはシールド掘削機の推力やカッター部の回転トルクなどの運転データや掘削排土量、地表面変位量などの計測結果に基づいて、適宜その設定圧を調整しながら掘削する。しかしながら、シールド掘削機の運転データは、土質変化を判断する間接的な指標でしかなく、掘削排土量は土質によりほぐし率が異なるため土質変化を伴う区間では切羽設定圧と、掘削状況に応じた適正な切羽圧との乖離を評価することが難しかった。そのため、地表面や埋設物、近接構造物の変状を観察してその乖離を評価することも行われているが、地表面等に変状が現われるまでには時間差があるため、広範囲にわたって沈下又は隆起を及ぼす可能性があった。
【0004】
そこで、例えば、カッターヘッドに電磁波レーダを搭載して、シールド掘削機近傍の地山状態の直接的に計測することが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に記載の電磁波レーダは、機外のカッターヘッドに取付けられているため、シールド掘削機の発進後は加圧下の泥水(または泥土)中であるため、電磁波レーダに不具合が生じても対処することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、シールド発進後に、送受信器に不具合が発生しても容易に対処できるとともに、シールド掘削機の機外における地中の未掘削領域までの距離を精度よく算出できる探査システム、シールド掘削機及び探査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、シールド掘削機の胴体部において外殻や隔壁を構成する鋼製部材の機内側に取付けられ、機外に向けて音波を送信するとともに、前記機外で反射した反射波を受信する送受信器と、前記送受信器における少なくとも受信情報に基づいて、地中における掘削範囲を演算する演算器とが設けられ、該演算器が、前記シールド掘削機の前記機外における地中の未掘削領域までの距離を算出する探査システムであって、前記送受信器は、所定の周波数帯域において、所定の周波数ピッチ毎のパルス波を順次前記音波として送信する構成であること、さらには上記探査システムにおける前記送受信器が前記鋼製部材の機内側に取付けられたシールド掘削機であることを特徴とする。
【0008】
またこの発明は、シールド掘削機の胴体部において外殻や隔壁を構成する鋼製部材の機内側に取付けられた送受信器から機外に向けて音波を送信するとともに、前記機外で反射した反射波を受信し、前記シールド掘削機の前記機外における地中の未掘削領域までの距離を算出する探査方法であって、所定の周波数帯域において、所定の周波数ピッチ毎のパルス波を順次前記音波として送信することを特徴とする。
【0009】
上記シールド掘削機は、土圧バランス式、加泥式、土圧加水式などの泥土圧式シールド掘削機や泥水加圧式シールド掘削機であってもよく、さらには、密閉式であればTBM等であってもよい。
上記送受信器は、音波を送信する送信機能と受信する受信機能とを有する一体型送受信器であってもよいし、音波を送信する送信器と受信する受信機とが別体構成されていてもよい。また、上記送受信器は1台であってもよいし、複数台を併用してもよい。
【0010】
この発明により、シールド発進後に、前記送受信器に不具合が発生しても容易に対処できるとともに、前記シールド掘削機の前記機外における地中の未掘削領域までの距離を精度よく算出することができる。
詳述すると、機外に向けて音波を送信するとともに、前記機外で反射した反射波を受信する送受信器をシールド掘削機の胴体部において外殻や隔壁を構成する鋼製部材の機内側に取付けているため、シールド発進後に、前記送受信器に不具合が発生しても容易に対処できる。
【0011】
その反面、鋼製部材の機内側に取付けた送受信器から機外に向けて音波を送信するとともに、前記機外で反射した反射波を受信する際に、鋼製部材を透過した音波を送受信するため、前記シールド掘削機の前記機外における地中の未掘削領域までの距離を精度よく算出することが困難になる。
【0012】
しかしながら、本発明における前記送受信器は、所定の周波数帯域において、所定の周波数ピッチ毎のパルス波を順次前記音波として送信する、つまり、周波数の異なるパルス波を音波として送受信器から機外に向けて順次送信する。
【0013】
前記機外における地中の未掘削領域で送信した音波が反射しやすかったり、掘削土で音波が伝播しやすかったりなど前記機外における地中の未掘削領域までの距離を算出するために適した音波の周波数が土質や周辺環境によって異なる。これに対し、上述のように、所定の周波数帯域において、所定の周波数ピッチ毎のパルス波を順次前記音波として送信するため、地中の未掘削領域までの距離の算出に適した周波数や当該周波数に近似する周波数のパルス波を送受信器から送信することができる。そのため、前記機外における地中の未掘削領域までの距離を精度よく算出することができる。したがって、機外において掘削に伴って緩んだ箇所や余掘り部分などの余掘り領域の大きさを把握することができ、例えば地山崩壊の兆候の有無を評価することができる。
【0014】
なお、一般的に、前記機外における地中の未掘削領域までの距離を算出するために適した音波の周波数としては幅があり、例えば、90kHz前後であることがあり、所定の周波数帯域としては、80kHz~100kHzとし、所定の周波数ピッチとしては1kHzとすることができる。上述のような周波数帯域や周波数ピッチであれば、計測時間が膨大になることなく、前記機外における地中の未掘削領域までの距離を精度よく算出することができる。
【0015】
また、上記システムは、送受信器をシールド掘削機の機内に取付けるため、施工中の送受信器の点検、交換などのメンテナンス、送受信器の取付け位置の変更などに柔軟に対応することができる。
また、上記構成により、送受信器による計測や、送受信器の取付けに関して、シールド掘削機に特別な構造を要することなく、前記シールド掘削機の前記機外における地中の未掘削領域までの距離を精度よく算出することができる。
【0016】
なお、特別な構造としては、掘削土や未掘削領域に送受信器を直接接触させるための窓や孔、あるいはそれらの止水構造、さらには、音波の伝達効率を向上するための、材質の異なる導波材を鋼製部材に組込むことなどが挙げられる。
【0017】
この発明の態様として、前記送受信器は、所定の周波数ピッチ毎の前記パルス波を複数波ずつ順次送信する構成であってもよい。
上述の所定の周波数ピッチ毎の前記パルス波を複数波ずつ順次送信とは、各周波数で一度に連続して送信するパルス波の波数を意味する。
【0018】
この発明により、前記機外における地中の未掘削領域までの距離を安定して精度よく算出することができる。
詳述すると、所定の周波数帯域において、所定の周波数ピッチ毎のパルス波を順次前記音波として送信する際に、パルス波をひと波ずつ送信する場合、充分な出力や安定した出力でパルス波を送信することが困難であり、前記機外における地中の未掘削領域までの距離を精度よく算出することが困難になるおそれがある。
【0019】
これに対し、所定の周波数ピッチ毎の前記パルス波を複数波ずつ順次送信することにより、充分な出力や安定した出力でパルス波を送信することができ、前記機外における地中の未掘削領域までの距離を安定して精度よく算出することができる。
【0020】
なお、複数波としては、4波のパルス波が挙げられる。例えば、3波のパルス波の場合、ひと波やふた波の場合に比べて充分な出力や安定した出力でパルス波を送信することができるものの、充分な出力を安定して出力することが困難となる。また、未掘削領域までの距離によるが、5波以上のパルス波を出力すると、未掘削領域で反射する反射波と送信波とが干渉して地中の未掘削領域までの距離を精度よく算出することが困難になるおそれがある。
【0021】
またこの発明の態様として、前記送受信器が、所定の周波数ピッチ毎の前記パルス波を複数波ずつ所定の周波数帯域の全域に亘って送信するとともに、前記送受信器は、所定の周波数ピッチ毎の前記パルス波を前記複数波と異なる波数ずつ所定の周波数帯域の全域に亘ってさらに送信する構成であってもよい。
【0022】
この発明により、機外の土質や周辺環境、あるいは、未掘削領域までの距離などによって、一度に送信する適切な波数が異なるものの、複数の波数でパルス波を送信するため、前記機外における地中の未掘削領域までの距離を安定して精度よく算出することができる。
【0023】
またこの発明の態様として、前記送受信器が機外に向けて音波を送信するとともに、前記機外で反射した前記反射波を受信した結果である前記受信情報を記憶する記憶部が設けられ、前記送受信器が、所定の周波数帯域において、所定の周波数ピッチ毎のパルス波を順次前記音波として送信し、前記反射波を受信した前記周波数ピッチ毎の前記受信情報を個別データとして前記記憶部に記憶し、前記演算器は、前記所定の周波数帯域の全域に亘るとともに波数の異なる前記周波数ピッチ毎の前記個別データをデータセットとするとともに、前記データセットに基づいて特定データを生成し、異なるデータセットの特定データと、生成した前記特定データとを比較し、前記異なるデータセットの特定データと、生成した前記特定データとの差分を抽出する構成であってもよい。
【0024】
この発明により、機外の土質や周辺環境による適切なパルス波の周波数や、さらには、未掘削領域までの距離などによる適切なパルス波の波数が異なるものの、ある周波数のパルス波をある波数で送信し、その反射波として受信した受信情報である個別データを、複数の周波数及び異なる波数分記憶部に記憶することができる。そして、複数の周波数及び異なる波数分が記憶された個別データをまとめてひとつのデータセットとすることで、適切な周波数、及び適切な波数でのパルス波による個別データが含まれるデータセットを得ることができる。より具体的には、適切な波数でのパルス波による個別データにおける正確性が十分でない波数目のデータを除外し、適切な波数目のみの個別データを生成することができる。
【0025】
また、適切な周波数、及び適切な波数でのパルス波による個別データが含まれるデータセットを、異なるタイミングで取得したデータセットと比較し、前記異なるデータセットの特定データと、生成した前記特定データとの差分を抽出することで、前記機外における地中の未掘削領域までの距離をさらに精度よく算出することができる。
【0026】
具体的には、前記異なるデータセットの特定データと、生成した前記特定データとを比較した比較結果が一致する場合であっても、異なる場合であっても、シールド掘削機の胴体部において外殻や隔壁を構成する鋼製部材の内部を反射する反射波の成分は、前記異なるデータセットの特定データと、生成した前記特定データの両方に含まれる。
【0027】
なお、シールド掘削機の胴体部において外殻や隔壁を構成する鋼製部材の内部を反射する反射波の成分は、鋼製部材を透過し、前記機外で反射した反射波の成分に比べて大きく、前記機外で反射した反射波の成分が鋼製部材の内部を反射する反射波の成分に埋もれてしまうおそれがある。
【0028】
そこで、前記異なるデータセットの特定データと、生成した前記特定データとの差分を抽出することで、シールド掘削機の胴体部において外殻や隔壁を構成する鋼製部材の内部を反射する反射波の成分を除外し、前記機外で反射した反射波の成分のみを顕在化することができる。そして、前記機外で反射した反射波の成分のみで、前記機外における地中の未掘削領域までの距離をさらに精度よく算出することができる。
【0029】
またこの発明の態様として、前記送受信器から前記受信情報を前記記憶部に伝送する伝送路が設けられ、前記送受信器に、前記受信情報を増幅する増幅器が設けられるとともに、前記受信情報を前記記憶部に伝送する前記伝送路に、前記増幅器で増幅され、前記伝送路を伝送された前記受信情報を減衰する減衰器が設けられてもよい。
なお、増幅器は送受信器と一体で構成してもよいし、別体で構成してもよい。
【0030】
この発明により、伝送路を伝送する受信情報が微弱な信号情報であり、伝送中の伝送損失や電気ノイズの混信等が生じるおそれがあっても、増幅器で前記受信情報を増幅して伝送し、伝送された前記受信情報を減衰器で減衰するため、前記受信情報を正確に記憶部に記憶することができる。したがって、正確に記憶された受信情報に基づいて、前記機外における地中の未掘削領域までの距離を精度よく算出することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、本発明は、シールド発進後に、送受信器に不具合が発生しても容易に対処できるとともに、シールド掘削機の機外における地中の未掘削領域までの距離を精度よく算出できる探査システム、シールド掘削機及び探査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】地中における泥土圧式シールド掘削機の概略縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
この発明の一実施形態を、
図1乃至
図5とともに説明する。
なお、
図1は地中における泥土圧式シールド掘削機1の概略縦断面図を示し、
図2は
図1におけるA-A矢視図を示し、
図3は探査システム100の概略ブロック図を示している。
【0034】
図4及び
図5は探査システム100での探査方法のフロー図を示している。
なお、
図1において後述する前胴20に対するカッターヘッド10の側を前方Fとし、前胴20に対する後胴30の側を後方Bとしている。
【0035】
図1及び
図2に示す泥土圧式シールド掘削機1は、中折れ後胴押し方式の泥土圧式シールド掘削機である。泥土圧式シールド掘削機1は、ベントナイトなどの添加材を注入しながら地山Xを回転するカッターヘッド10で切削し、切羽の土圧に対して泥土圧式シールド掘削機1の推進力や排土量等で土圧バランスをとりながら掘進する。泥土圧式シールド掘削機1は、前方Fから後方Bに向かって、カッターヘッド10、前胴20、後胴30で構成され、側面視円形状である。
【0036】
カッターヘッド10は、径外側のリング部11と、リング部11と中央軸部12とを径方向に結ぶ複数本のスポーク13とで構成され、スポーク13とリング部11とに所定間隔を隔てて複数の切削ビット14が設けられている。なお、複数の切削ビット14は、スポーク13においてカッターヘッド10の中心からの位置が調整され、回転するカッターヘッド10の全面を切削することができる。
【0037】
さらに、中央軸部12の前方Fにフィッシュテール15が設けられている。このように構成されたカッターヘッド10は、図示省略するが、カッターヘッド10の前方Fに添加材を注入する注入口が設けられている。
【0038】
前胴20は、倒位の円筒状である鋼製のスキンプレート21と、スキンプレート21における前方Fの端部より後方Bに所定分入り込んだ位置に設けられた隔壁22とで構成されている。なお、隔壁22の前方Fであって、カッターヘッド10の後方Bの空間にチャンバー40を構成している。
【0039】
隔壁22の側面視中央には、カッターヘッド10の中央軸部12が貫通しており、その周囲にカッターヘッド10を回転させるモータ23が同芯状に複数配置されている。
また、隔壁22の下方に接続され、後胴30の後方まで延びるスクリューコンベア24が設けられている。スクリューコンベア24は、前方Fが隔壁22を貫通し、前方Fから後方Bに向かって上方に傾斜している。スクリューコンベア24は、前方Fの端部がチャンバー40まで延びる軸付スクリュー241を内部に備えている。
【0040】
また、スキンプレート21の内側には、複数本の中折れジャッキ25を備えている。
中折れジャッキ25は、前方Fが隔壁22の後方Bに軸支され、後方Bが後述する後胴30の前方Fに軸支される態様で周方向に複数配置され、中折れジャッキ25の伸縮量によって、後胴30に対する前胴20の向きを調整するためのジャッキである。
また、隔壁22の上方には、開放することで機外となるチャンバー40に通じ、密閉可能に封止するハッチ27を備えている。
【0041】
後胴30は、内部でセグメントSを組み付ける円筒状の鋼製部材であるスキンプレート31の内部に、複数ピースに分割されたセグメントSを組み付けるためのエレクター32を前方Fに備えている。また、後胴30は、スキンプレート31の後方Bの内周面に、組み付けられたSの外面との隙間を埋める周方向に連続するテールブラシ33を前後方向に複数段設けている。
【0042】
また、スキンプレート31の内側には、複数本の推進ジャッキ34を備えている。
推進ジャッキ34は、後胴30の内部で組み付けられたセグメントSの前方Fの端面に押付けて、セグメントSを反力として泥土圧式シールド掘削機1を前方Fに前進させるためのジャッキであり、周方向に所定間隔を隔てて複数配置している。なお、推進ジャッキ34は、前胴20に設けてもよい。
【0043】
このように構成された泥土圧式シールド掘削機1の後方Bには、組み付けたセグメントSの内部に、後続台車が設けられ、スクリューコンベア24から排出された掘削土を搬出するズリ台車が走行する軌道等の設備が設けられる。また、組み付けたセグメントSの真円度を確保するための形状保持装置や、換気設備など適宜の装置や設備が設けられてもよい。
【0044】
このように構成された泥土圧式シールド掘削機1は、図示省略する注入口から切羽に向かって添加材を注入しながらカッターヘッド10を回転させ、回転する切削ビット14で地山Xを切削する。
切削ビット14によって切削された掘削土は、チャンバー40で攪拌され、チャンバー40の内部まで延びる軸付スクリュー241によってスクリューコンベア24から機内に取り込まれる。スクリューコンベア24から排出された掘削土をズリ台車で坑道外に搬出する。
【0045】
なお、スクリューコンベア24から排出された掘削土の搬出は、ズリ台車だけでなく、スクリューコンベア24の後方にベルトコンベアや、圧送管(排土管)に接続された圧送ポンプ等を設置して、ベルトコンベアや圧送管で搬出してもよい。
【0046】
このようなカッターヘッド10による地山Xの掘削に伴って推進ジャッキ34を伸長制御し、組み付けられたセグメントSを反力として、泥土圧式シールド掘削機1を前進させる。泥土圧式シールド掘削機1がセグメントSのリング長分前進すると、カッターヘッド10による地山Xの切削を停止し、後胴30の内部において、複数に分割されたピースをエレクター32で組み付けてセグメントSを完成させる。
【0047】
泥土圧式シールド掘削機1は、このような施工を1サイクルとして繰り返して掘進する。なお、カッターヘッド10による地山Xの掘削において、通常、切削ビット14の軌跡(
図1に示す軌跡ラインL参照)で切羽が切削される。しかしながら、地山Xの地質状態によっては、例えば、切削ビット14の軌跡を越えて余分に掘削される。このように、切削ビット14の軌跡を越えて余分に掘削されると、泥土圧式シールド掘削機1の上部などに、掘削に伴って緩んだ箇所や余掘り部分などの緩み部Xaが形成されることがある。
【0048】
緩み部Xaが大きくなると、切羽が崩壊するおそれがあるため、密閉型である泥土圧式シールド掘削機1の機外に形成され、泥土圧式シールド掘削機1の機内から目視できない緩み部Xaの大きさを把握することは重要である。そこで、緩み部Xaを探査する探査システム100について以下で説明する。
【0049】
探査システム100は、
図3に示すように、ソーナーと呼ばれる複数の送受信器101、プリアンプ102、マルチプレクサ103、アッテネータ104、パルサーレシーバ105、これらやパーソナルコンピュータ107(以下においてPC107という)を接続する伝送路106及びPC107で構成されている。
【0050】
送受信器101は、泥土圧式シールド掘削機1の内部(以下において、機内という)に配置され、地中に向かってパルス波を送信するとともに、地中で反射した反射波を受信する。なお、送受信器101は複数設けられ、各送受信器101に対してプリアンプ102が接続されている。
【0051】
プリアンプ102は、各送受信器101に対して設けられるとともに、マルチプレクサ103に接続され、送受信器101が受信した受信波信号Rを増幅してマルチプレクサ103に伝達する。
【0052】
マルチプレクサ103は、複数の送受信器101、各送受信器101に接続されたプリアンプ102及びアッテネータ104やパルサーレシーバ105に接続される。
マルチプレクサ103は、接続された複数の送受信器101のそれぞれに対して、パルス超音波の送信波信号Tを伝達するとともに、送受信器101で受信されたパルス超音波の受信波信号Rをまとめ、アッテネータ104を介してパルサーレシーバ105に伝達するように構成されている。なお、マルチプレクサ103は、多重器、多重装置、多重化装置、合波器とも呼ばれる。
アッテネータ104は、プリアンプ102で増幅され、マルチプレクサ103から伝達されたパルス波である受信波信号Rを減衰してパルサーレシーバ105に伝達する減衰器である。
【0053】
パルサーレシーバ105は、上述したように、伝送路106を介してPC107に接続され、PC107の制御によって、送信波信号Tとしてのパルス波を発生させてマルチプレクサ103に伝達するように構成している。
【0054】
また、パルサーレシーバ105は、プリアンプ102で増幅され、マルチプレクサ103から伝達され、さらに、アッテネータ104によって減衰されたパルス波である受信波信号Rを、後述する伝送路106を介してPC107に伝達するように構成している。
伝送路106は、送受信器101、プリアンプ102、マルチプレクサ103、アッテネータ104、パルサーレシーバ105及びPC107のそれぞれの間を、電気信号を伝送可能に接続している。
【0055】
PC107は、受信波信号Rを記憶する記憶部として機能するとともに、パルサーレシーバ105に対して出力した送信制御情報やパルサーレシーバ105から伝達された受信波信号R等に基づいて緩み部Xaの外側の地山Xの境界面Xbまでの距離や掘削土の伝播速度を算出する演算器として機能する。
【0056】
なお、プリアンプ102、マルチプレクサ103、アッテネータ104及びパルサーレシーバ105、伝送路106及びPC107は、送受信器101とともに、機内に配置され、図示省略するLAN回路などを介して機外の坑道内や坑道外の管理室に配置された管理PCと通信可能に構成されている。
【0057】
上述の送受信器101について以下でさらに詳述する。送受信器101(101a,101b)は、
図1及び
図2に図示するように、スキンプレート21及び隔壁22に取付けられ、主としてパルス波形を示す音波(以下においてパルス波という)を送信する。また、送受信器101(101a,101b)は、緩み部Xaと地山Xとの境界面Xb等で反射した反射波を受信するよう構成されている。
【0058】
具体的には、送受信器101aは、泥土圧式シールド掘削機1における隔壁22の機内側上部に取付けられ、前方Fに向かってパルス波である送信波を送信する。また、送受信器101aは、前方Fの地山Xで反射したパルス波である反射波を受信する。
【0059】
また、送受信器101bは、スキンプレート21の内周面の上部に取付けられ、前胴20の前方Fの上部に形成される緩み部Xaに向けてパルス波である送信波を送信する。また、送受信器101bは、緩み部Xaの外側の地山Xとの境界面Xbで反射したパルス波である反射波を受信する。なお、送受信器101bは、
図2に図示するように、周方向に所定間隔を隔てて複数設けている。
【0060】
このように、隔壁22やスキンプレート21の内面に取付けられる送受信器101は、隔壁22の機内側面や、スキンプレート21の内周面に対して、隙間が空かないように密着させて取付けている。
そのため、送受信器101の取付面を、隔壁22の機内側面やスキンプレート21の内周面の形状に沿うように形成している。また、隔壁22の隔壁22の機内側面やスキンプレート21の内周面と送受信器101との間に高耐久性であるジェル状のシート(図示省略)を介在させて取付けている。なお、数百kN程度の反力が生じるように螺子止め可能な取付台(図示省略)やマグネット式の取付け治具(図示省略)で、隔壁22やスキンプレート21に対して送受信器101を取付けてもよい。
【0061】
このように構成された探査システム100は、PC107の送信制御により、パルサーレシーバ105がパルス波である送信波信号Tを発生させ、マルチプレクサ103に伝達する。パルサーレシーバ105から送信波信号Tを伝達されたマルチプレクサ103は、複数の送受信器101に対して送信波信号Tを伝達する。
【0062】
送信波信号Tが伝達された送受信器101aは、隔壁22を介して前方Fに向けてパルス波である送信波を送信する。同様に、送信波信号Tが伝達された送受信器101bは、スキンプレート21を介して前胴20の機外に向けて送信波を送信する。
【0063】
緩み部Xaとその外側の固結した地山Xとでは音響インピーダンスが異なる。そのため、送受信器101から送信された送信波は、緩み部Xaを通り、緩み部Xaと地山Xとの境界面Xbで反射する。緩み部Xaと地山Xとの境界面Xbで反射したパルス波である反射波を隔壁22やスキンプレート21を介して送受信器101で受信する。
【0064】
送受信器101で受信した反射波を受信波信号Rとしてプリアンプ102で増幅してマルチプレクサ103に伝達し、マルチプレクサ103が伝達された受信波信号Rを、アッテネータ104を介してパルサーレシーバ105に伝達する。PC107は、パルサーレシーバ105から伝達された受信波信号Rに基づいて、緩み部Xaの長さを算出する。
【0065】
以下において、
図4及び
図5とともに、詳細に説明する。
まず、送受信器101から所定周波数のパルス波を所定波数分(まずは3波)、機外に向けて送信する(ステップs1)。なお、具体的には、80kHz~100kHzの周波数帯域において、1kHzずつ周波数を変化させる。また、1回のパルス波の送信において、3波ずつの送信と4波ずつの送信とを上記周波数帯域の全域において行い1セットとする。そのため、周波数を変化させて21回送信し、それを、波数を替えて行い、全部で42回の計測を1セットする。そのため、まずは80kHzのパルス波を連続して3波分送信する。
【0066】
送信した送信波が地中で反射した反射波を送受信器101で受信波信号Rとして受信し(ステップs2)、送受信器101で受信した受信波信号Rをプリアンプ102で増幅し、マルチプレクサ103及びアッテネータ104を介して伝送路106で伝送する(ステップs3)。
【0067】
伝送路106で伝送された受信波信号Rは、プリアンプ102で増幅されているため、アッテネータ104で減衰し(ステップs4)、減衰された受信波信号Rを個別データとして、パルサーレシーバ105を介して、記憶部として機能するPC107に記憶する(ステップs5)。
【0068】
そして、所定の周波数帯域(80kHz~100kHz)の全範囲の計測が完了していない場合(ステップs6:No)、所定の周波数ピッチ(1kHz)分変更した周波数を設定し(ステップs7)、ステップs1に戻って送受信器101から設定された周波数のパルス波を所定波数で送信する。これを所定の周波数帯域(80kHz~100kHz)の全範囲に亘って所定の周波数ピッチずつ変化させながら繰り返す。
【0069】
所定の周波数帯域(80kHz~100kHz)の全範囲の計測が完了すると(ステップs6:Yes)、設定された波数(3波及び4波)での計測が完了しているかどうか判定する。
設定された波数(3波及び4波)での計測が完了していない場合(ステップs8:No)、設定された波数(4波)に波数を変更し(ステップs9)、ステップs1に戻って、設定された波数で所定の周波数帯域における所定の周波数のパルス波を送受信器101から送信する。これを所定の周波数帯域(80kHz~100kHz)の全範囲に亘って所定の周波数ピッチずつ変化させながら繰り返す。
【0070】
変更した波数での所定の周波数帯域(80kHz~100kHz)の全範囲に亘って所定の周波数ピッチずつ変化させた計測が完了すると(ステップs8:Yes)、つまり1セットの計測が完了すると、PC107は、全ての個別データをデータセットとし、データセットにおける全ての個別データをブレンドして特定データを生成し、PC107に記憶する(ステップs10)。
【0071】
なお、全ての個別データをブレンドして特定データを生成する方法としては、データセットにおいて、正確性が低い1波目、2波目及び3波目の計測結果の影響を除外するため、計測結果に1波目、2波目、3波目及び4波目の成分からなる4波の計測結果から1波目、2波目及び3波目の成分を除く。具体的には、1波目、2波目、3波目及び4波目の成分からなる4波の計測結果から、1波目、2波目、及び3波目の成分からなる3波の計測結果を除算するブレンドを行い、特定データを生成する。これにより、正確性の高い4波目のみからなる特定データを生成することができる。
【0072】
演算器として機能するPC107は、別のデータセットの特定データが記憶されているか判定し、別のデータセットの特定データがPC107に記憶されていない場合(ステップs11:No)、ステップs1に戻って計測を再開する。なお、別のデータセットとは、別のタイミングで計測を行った結果、つまり、直前のタイミングで行った計測結果のデータセットである。
【0073】
別のデータセットの特定データがPC107に記憶されている場合(ステップs11:Yes)、PC107は、記憶された別のデータセットの特定データと、ステップs10で生成した特定データを比較する(ステップs12)。
【0074】
そして、比較した結果が一致するかPC107が判定し、一致する場合(ステップs13:Yes)は、受信波信号Rの状況が変化していないため、ステップs1に戻って計測を再開する。
【0075】
逆に、PC107による判定結果が一致しない場合(ステップs13:No)、別のデータセットの特定データと、生成した特定データとの差分を抽出し、未掘削領域までの距離を算出する(ステップs14)。
【0076】
詳述すると、別のデータセットの特定データと、生成した特定データとを比較した比較結果が一致する場合であっても、異なる場合であっても、泥土圧式シールド掘削機1の前胴20においてスキンプレート21の内部を反射する反射波の成分は、別のデータセットの特定データと、生成した特定データの両方に含まれる。
【0077】
なお、泥土圧式シールド掘削機1の前胴20においてスキンプレート21の内部を反射する反射波の成分は、スキンプレート21を透過し、前胴20の機外で反射した反射波の成分に比べて大きく、前胴20の機外で反射した反射波の成分がスキンプレート21の内部を反射する反射波の成分に埋もれてしまうおそれがある。
【0078】
そこで、別のデータセットの特定データと、生成した特定データとの差分を抽出することで、泥土圧式シールド掘削機1の前胴20においてスキンプレート21の内部を反射する反射波の成分を除外し、前胴20の機外で反射した反射波の成分のみを顕在化することができる。そして、前胴20の機外で反射した反射波の成分のみで、スキンプレート21から地山Xまでの距離、つまり緩み部Xaの長さ(区間長lM)をさらに精度よく算出することができる。
【0079】
なお、未掘削領域までの距離を算出方法としては、いろいろな方法があるが、例えば、以下の方法で算出することができる。
具体的には、PC107は、ステップs14における計測結果情報に含まれる計測時間(t)と、伝播速度CMとに基づいて、スキンプレート21から地山Xまでの距離、つまり緩み部Xaの長さ(区間長lM)を算出する。
【0080】
なお、計測時間(t)はパルス波である送信波を送信してから反射波を受信するまでの時間であり、伝播速度CMはパルス波(送信波及び反射波)が掘削土を伝播する速度である。
また、掘削土を伝播する伝播速度CMは、試掘等によって採取した施工箇所の土質に基づいて予め設定してもよいが、チャンバー40内部の掘削土を伝播する伝播速度を用いてもよい。
【0081】
上述したように、泥土圧式シールド掘削機1の前胴20においてスキンプレート21を構成する鋼製部材の機内側に取付けられ、機外に向けて音波を送信するとともに、機外で反射した反射波を受信する送受信器101と、送受信器101における少なくとも受信波信号Rに基づいて、地中における緩み部Xaを演算するPC107とが設けられ、PC107が、泥土圧式シールド掘削機1の機外における地中の地山Xまでの距離を算出する探査システム100は、送受信器101が、所定の周波数帯域において、所定の周波数ピッチ毎のパルス波を順次音波として送信するため、泥土圧式シールド掘削機1の発進後に、送受信器101に不具合が発生しても容易に対処できるとともに、泥土圧式シールド掘削機1の機外における地中の地山Xまでの距離、つまり緩み部Xaの長さを精度よく算出することができる。
【0082】
詳述すると、泥土圧式シールド掘削機1の機外に向けて音波を送信するとともに、泥土圧式シールド掘削機1の機外で反射した反射波を受信する送受信器101を泥土圧式シールド掘削機1の前胴20においてスキンプレート21や隔壁22などの機内側に取付けているため、泥土圧式シールド掘削機1の発進後に、送受信器101に不具合が発生しても容易に対処できる。
【0083】
その反面、鋼製部材である前胴20の機内側に取付けた送受信器101から機外に向けて音波を送信するとともに、機外で反射した反射波を受信する際に、鋼製部材を透過した音波を送受信するため、泥土圧式シールド掘削機1の機外における地中の地山Xまでの距離、つまり緩み部Xaの長さ(区間長lM)を精度よく算出することが困難になる。
【0084】
しかしながら、送受信器101は、所定の周波数帯域(80kHz~100kHz)において、所定の周波数ピッチ(1kHz)毎のパルス波を音波として送信する、つまり、周波数の異なるパルス波を音波として送受信器101から機外に向けて送信する。
【0085】
機外における地中の地山Xで送信した音波が反射しやすかったり、掘削土で音波が伝播しやすかったりなど機外における地中の地山Xまでの距離を算出するために適した音波の周波数が土質や周辺環境によって異なる。これに対し、上述のように、所定の周波数帯域(80kHz~100kHz)において、所定の周波数ピッチ(1kHz)毎のパルス波を音波として送信するため、地中の地山Xまでの距離の算出に適した周波数や周波数に近似する周波数のパルス波を送受信器101から送信することができる。
【0086】
そのため、周波数の違いによる鋼板の外への透過反射特性の違いから、シールドマシンの外側の切削ミキシング砂泥礫を透過し、基盤面の反射を適切に捉える周波数と波長を選定解析することができる。また、鋼板の厚さ断面内の多重反射の減衰効果が大きい周波数帯域を活用することができる。
【0087】
さらに、鋼板の厚みの往復に掛かる時間差、つまり位相差が減衰効果を生み、鋼板内の多重反射を抑制し、外側の砕けた砂泥礫層の厚み、つまり、その先の基盤面の反射を適切にとらえることができる。
【0088】
よって、機外における地中の地山Xまでの距離を精度よく算出することができる。したがって、機外において掘削に伴って緩んだ箇所や余掘り部分などの余掘り領域の大きさを把握することができ、例えば地山崩壊の兆候の有無を評価することができる。
【0089】
また、送受信器101は、所定の周波数ピッチ(1kHz)毎のパルス波を複数波(3波、4波)ずつ送信するため、機外における地中の地山Xまでの距離を安定して精度よく算出することができる。
【0090】
詳述すると、所定の周波数帯域(80kHz~100kHz)において、所定の周波数ピッチ(1kHz)毎のパルス波を音波として送信する際に、パルス波をひと波ずつ送信する場合、充分な出力や安定した出力でパルス波を送信することが困難であり、機外における地中の地山Xまでの距離を精度よく算出することが困難になるおそれがある。
【0091】
これに対し、所定の周波数ピッチ(1kHz)毎のパルス波を複数波(3波、4波)ずつ送信することにより、充分な出力や安定した出力でパルス波を送信することができ、機外における地中の地山Xまでの距離を安定して精度よく算出することができる。
【0092】
なお、複数波が3波のパルス波の場合、ひと波やふた波の場合に比べて充分な出力や安定した出力でパルス波を送信することができるものの、充分な出力を安定して出力することが困難である。また、地山Xまでの距離によるが、5波以上のパルス波を出力すると、地山Xで反射する反射波と送信波とが干渉して地中の地山Xまでの距離を精度よく算出することが困難になるおそれがある。
【0093】
また、送受信器101が、所定の周波数ピッチ(1kHz)毎のパルス波を複数波(3波)ずつ所定の周波数帯域(80kHz~100kHz)の全域に亘って送信するとともに、送受信器101は、所定の周波数ピッチ(1kHz)毎のパルス波を複数波と異なる波数(4波)ずつ所定の周波数帯域(80kHz~100kHz)の全域に亘って送信するため、機外の土質や周辺環境、あるいは、地山Xまでの距離などによって、一度に送信する適切な波数が異なるものの、複数の波数(3波、4波)でパルス波を送信するとともに、ブレンドして、正確性の低いひと波目、ふた波目及び3波目の影響を除外するため、機外における地中の地山Xまでの距離を安定して精度よく算出することができる。
【0094】
また、送受信器101が機外に向けて音波を送信するとともに、機外で反射した反射波を受信した結果である受信波信号Rを記憶するPC107が設けられ、送受信器101が、所定の周波数帯域(80kHz~100kHz)において、所定の周波数ピッチ(1kHz)毎のパルス波を音波として送信し、反射波を受信した周波数ピッチ(1kHz)毎の受信波信号Rを個別データとしてPC107に記憶し、PC107は、所定の周波数帯域(80kHz~100kHz)の全域に亘る周波数ピッチ(1kHz)毎且つ全波数(3波、4波)の個別データをデータセットとするとともに、データセットに基づいて特定データを生成し、異なるデータセットの特定データと、生成した特定データとを比較し、異なるデータセットの特定データと、生成した特定データとの差分を抽出する構成である。
【0095】
そのため、機外の土質や周辺環境による適切なパルス波の周波数や、さらには、地山Xまでの距離などによる適切なパルス波の波数が異なるものの、ある周波数のパルス波をある波数で送信し、その反射波として受信した受信波信号Rである個別データを、複数の周波数及び異なる波数分PC107に記憶することができる。そして、複数の周波数及び異なる波数分が記憶された個別データをまとめてひとつのデータセットとすることで、適切な周波数、及び適切な波数でのパルス波による個別データが含まれるデータセットを得ることができる。
【0096】
また、適切な周波数、及び適切な波数でのパルス波による個別データが含まれるデータセットを、異なるタイミングで取得したデータセットと比較し、異なるデータセットの特定データと、生成した特定データとの差分を抽出することで、つまりデータセット同士の差分を抽出することで、機外における地中の地山Xまでの距離をさらに精度よく算出することができる。
【0097】
具体的には、異なるデータセットの特定データと、生成した特定データとを比較した比較結果が一致する場合であっても、異なる場合であっても、泥土圧式シールド掘削機1の前胴20においてスキンプレート21の内部を反射する反射波の成分は、異なるデータセットの特定データと、生成した特定データの両方に含まれる。
【0098】
なお、泥土圧式シールド掘削機1の前胴20においてスキンプレート21の内部を反射する反射波の成分は、スキンプレート21を透過し、機外で反射した反射波の成分に比べて大きく、機外で反射した反射波の成分がスキンプレート21の内部を反射する反射波の成分に埋もれてしまうおそれがある。
【0099】
そこで、異なるデータセットの特定データと、生成した特定データとの差分を抽出することで、泥土圧式シールド掘削機1の前胴20においてスキンプレート21の内部を反射する反射波の成分を除外し、機外で反射した反射波の成分のみを顕在化することができる。そして、機外で反射した反射波の成分のみで、機外における地中の未掘削領域までの距離をさらに精度よく算出することができる。
【0100】
また、送受信器101から受信波信号RをPC107に伝送する伝送路106が設けられ、送受信器101に、受信波信号Rを増幅するプリアンプ102が設けられるとともに、マルチプレクサ103とパルサーレシーバ105の間に、プリアンプ102で増幅され、伝送路106を伝送された受信波信号Rを減衰するアッテネータ104が設けられている。そのため、伝送路106を伝送する受信波信号Rが微弱な信号情報であり、伝送中の伝送損失や電気ノイズの混信等が生じるおそれがあっても、プリアンプ102で受信波信号Rを増幅して伝送し、伝送された受信波信号Rをアッテネータ104で減衰するため、受信波信号Rを正確にPC107に記憶することができる。したがって、正確に記憶された受信波信号Rに基づいて、機外における地中の地山Xまでの距離を精度よく算出することができる。
【0101】
上述したように、泥土圧式シールド掘削機1の前胴20におけるスキンプレート21や隔壁22に取付けられ、機外に向けてパルス波を送信するとともに、機外で反射した反射波を受信する送受信器101が設けられている。また、送受信器101における少なくとも受信波信号Rに基づいて、地中における緩み部Xaの長さ(区間長lM)を演算するPC107が設けられている。
【0102】
PC107が、計測時間(t)と、パルス波が掘削土を伝播する伝播速度CMとに基づいて、泥土圧式シールド掘削機1の機外における地中の地山Xまでの距離を精度よく算出する。なお、計測時間(t)はパルス波を送信してから反射波として受信するまでの時間である。
【0103】
つまり、PC107は、上述のパラメータによって、掘削に伴って緩んだ箇所や余掘り部分などの緩み部Xaの長さ(区間長lM)を算出でき、緩み部Xaの大きさを把握することができる。したがって、地山崩壊の兆候の有無を評価することができる。
【0104】
また、送受信器101を泥土圧式シールド掘削機1の機内に取付けるため、発進後であっても、送受信器101の点検、交換などのメンテナンス、送受信器101の取付け位置の変更などに柔軟に対応することができる。
【0105】
また、上記構成により、送受信器101による計測や、送受信器101の取付けに関して、特別な構造を要することなく、泥土圧式シールド掘削機1の機外における地中の地山Xまでの緩み部Xaの長さ(区間長lM)を算出することができる。なお、特別な構造としては、掘削土や地山Xに送受信器101を直接接触させるための窓や孔、あるいはそれらの止水構造、さらには、音波の伝達効率を向上するための、材質の異なる導波材をスキンプレート21や隔壁22に組込むことなどがあげられる。
【0106】
また、音波としてパルス波を送受信するため、送受信器101でパルス波を送受信して、緩み部Xaの長さ(区間長lM)を精度よく算出することができる。
また、泥土圧式シールド掘削機1で掘削した掘削土における伝播速度CMを用いて算出するため、緩み部Xaの長さ(区間長lM)をさらに精度よく算出することができる。
【0107】
詳述すると、施工によって掘削された掘削土をパルス波が伝播する伝播速度CMに基づいて、緩み部Xaの長さ(区間長lM)を算出するため、予め設定された伝播速度に基づいて算出する場合に比べて精度よく算出することができる。
【0108】
また、パルス波がスキンプレート21や隔壁22を伝播しやすくなるように送受信器101をスキンプレート21や隔壁22に対して密着させて取付けるため、緩み部Xaの長さ(区間長lM)を高精度で確実に算出することができる。
【0109】
詳述すると、送受信器101をスキンプレート21や隔壁22に密着させて取付けることで、送受信器101で送受信するパルス波がスキンプレート21や隔壁22を伝播しやすくなる。そのため、例えば、送受信器101とスキンプレート21や隔壁22との間に隙間が生じるような不具合の発生を防止し、緩み部Xaの長さ(区間長lM)を高精度で確実に算出することができる。
【0110】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、この発明のシールド掘削機は泥土圧式シールド掘削機1に対応し、
以下同様に、
胴体部は前胴20に対応し、
外殻はスキンプレート21に対応し、
隔壁は隔壁22に対応し、
送受信器は送受信器101に対応し、
受信情報は受信波信号Rに対応し、
掘削範囲は緩み部Xaに対応し、
演算器はパーソナルコンピュータ107(PC107)に対応し、
未掘削領域は地山Xに対応し、
探査システムは探査システム100に対応し、
記憶部はPC107に対応し、
伝送路は伝送路106に対応し、
増幅器はプリアンプ102に対応し、
減衰器はアッテネータ104に対応するが、この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0111】
例えば、上述の説明では、機外に向けてパルス波を送信する送信機能と、機外で反射した反射波を受信する受信機能とを備えた送受信器101を用いたが、スキンプレート21や隔壁22に取付けられ、機外に向けてパルス波を送信する送信器と、機外で反射した反射波を受信する受信器とで別体構成してもよい。
【0112】
また、チャンバー40の内部の掘削土をパルス波が伝播する伝播速度CMをPC107で算出したが、緩み部Xaの長さ(区間長lM)を算出するPC107とは別に、チャンバー40内部の掘削土をパルス波が伝播する伝播速度CMを算出するPC(演算器)を設けてもよい。
【0113】
また、上述の説明では、複数の送受信器101と、それぞれ別体構成したプリアンプ102、マルチプレクサ103、アッテネータ104、パルサーレシーバ105及びパーソナルコンピュータ107で探査システム100を構成している。これに対し、探査システム100のうちプリアンプ102、マルチプレクサ103、アッテネータ104、パルサーレシーバ105及びパーソナルコンピュータ107を一体構成してもよい。さらには、探査システム100のうちプリアンプ102、マルチプレクサ103、アッテネータ104及びパルサーレシーバ105を一体構成してもよい。
【0114】
また、上述の説明では、ステップs1で3波のパルス波を送信し、ステップs9で波数を変えて4波のパルス波を送信し、データセットを取得したが、ステップs1で4波のパルス波を送信し、ステップs9で波数を変えて3波のパルス波を送信してもよい。
【0115】
また、ステップs1やステップs9で所定波数のパルス波を80kHz~100kHzの周波数帯域において、1kHzずつ周波数を変化させて発信したが、上記周波数帯域や周波数ピッチは上記数値に限定されず、適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0116】
1…泥土圧式シールド掘削機
20…前胴
21…スキンプレート
100…探査システム
101…送受信器
102…プリアンプ
104…アッテネータ
106…伝送路
107…パーソナルコンピュータ(PC)
R…受信信号
X…地山
Xa…緩み部