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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079695
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】手押車
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/04 20060101AFI20230601BHJP
   B62B 3/02 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
A61H3/04
B62B3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193285
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】500259902
【氏名又は名称】ウィズワン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】宮城 潔
【テーマコード(参考)】
3D050
4C046
【Fターム(参考)】
3D050AA03
3D050CC05
3D050DD01
3D050EE08
3D050EE15
4C046AA24
4C046BB07
4C046CC02
4C046DD26
4C046DD27
4C046DD33
4C046DD46
(57)【要約】
【課題】簡便な構成で素早い展開・格納操作ができ車両剛性の高い手押車の提供。
【解決手段】開閉可能な左右前脚L1,L2及び左右後脚L3,L4と、一端が左右後脚L3,L4に軸支され、他端が左右前脚L1,L2に摺動する左右スライダS1,S2に軸支された左右開脚材L5,L6と、一端が左右前脚L1,L2のうち左右スライダS1,S2の移動領域より上部に軸支され、他端が右左開脚材L6,L5に軸支された左右斜材L7,L8と、左右斜材L7,L8の中間位置どうしを枢支する展開軸Pa、及び、両端が左右斜材L7,L8の下部に軸支され途中に回動軸Pcを持つ展開リンクrと、展開軸Paと回動軸Pcに連結され左右斜材L7,L8の交差状態を変更する操作リンクRとを備えており、左右前脚L1,L2に対して左右斜材L7,L8が左右方向の回転軸心P2の周りに回動する手押車C。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左前輪を支持する左前脚、および、右前輪を支持する右前脚と、
前記左前脚に対して前後方向に開閉自在に軸支され左後輪を支持する左後脚、および、前記右前脚に対して前後方向に開閉自在に軸支され右後輪を支持する右後脚と、
一端が前記左後脚に軸支され他端が前記左前脚に対して摺動する左スライダに軸支された左開脚材、および、一端が前記右後脚に軸支され他端が前記右前脚に対して摺動する右スライダに軸支された右開脚材と、
一端が前記左前脚のうち前記左スライダの移動領域よりも上部に軸支され、他端が前記右開脚材に軸支された左斜材、および、一端が前記右前脚のうち前記右スライダの移動領域よりも上部に軸支され、他端が前記左開脚材に軸支された右斜材と、
前記左斜材の中間位置と前記右斜材の中間位置とを相対回転可能に支持する展開軸、および、
一端が前記左斜材のうち前記展開軸よりも下部に軸支され、他端が前記右斜材のうち前記展開軸よりも下部に軸支されると共に、途中に回動軸を備えた展開リンクと、
前記展開軸と前記回動軸とに連結され、前記展開軸と前記回動軸との距離を変更して前記左斜材と前記右斜材との交差状態を変更する操作リンクとを備えており、
前記左前脚に対する前記左斜材の軸支、および、前記右前脚に対する前記右斜材の軸支が、左右方向に延出する回転軸心の周りに回動可能に行われる手押車。
【請求項2】
前記左前脚と前記左斜材との間、および、前記右前脚と前記右斜材との間に第1軸受部材が設けられ、前記回転軸心が、前記第1軸受部材に設けられた軸部あるいは軸孔によって形成される請求項1に記載の手押車。
【請求項3】
前記右開脚材に対する前記左斜材の端部、および、前記左開脚材に対する前記右斜材の端部に、前記左斜材および前記右斜材が展開状態にあるとき、前記右開脚材の一部あるいは前記左開脚材の一部に当接して、前記右開脚材と前記左斜材との相対移動および前記左開脚材と前記右斜材との相対移動を低減する保持部が各別に設けられている請求項1または2に記載の手押車。
【請求項4】
前記保持部がコの字形の断面形状を有し、前記左開脚材あるいは前記右開脚材を包持可能である請求項3に記載の手押車。
【請求項5】
前記保持部が、前記左斜材と前記右開脚材との間に、あるいは、前記右斜材と前記左開脚材との間に設けられた補剛部材に形成され、
前記補剛部材は、自身の前側の端部に設けられた左右方向に沿う軸部によって前記右開脚材あるいは前記左開脚材と揺動可能であり、前記保持部に隣接する位置に設けられた前後方向に沿う軸部によって前記右斜材あるいは前記左斜材と揺動可能である請求項4に記載の手押車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は四輪を備えた手押車であって、展開ハンドルの操作により左右の前脚および左右の後脚を一度に開閉することができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような手押車としては例えば特許文献1に示すものがある(〔0021〕~〔0022〕および図1参照)。
【0003】
この手押車は、上端にハンドルを備え、夫々車輪を支持する左右の前脚杆と左右の後脚杆を備えている。左右の夫々において前脚杆と後脚杆には前後方向に延出する横杆が設けられている。左右の横杆は、後脚杆に対しては所定位置に枢支され、前脚に対してはスライド移動可能なスライダに支持されている。
【0004】
車両を展開するには、左右の前脚杆の上部位置と同じく左右の前脚杆の下部位置とに交差した状態で取り付けられた二本の斜杆の姿勢を変更する。二本の斜杆は、上端は所定位置に枢支され、下端は、横杆が取り付けられたスライダに接続されている。ハンドル操作により後述のハジキ杆を押し下げることで二本の斜杆が互いに略直交する姿勢に設定され、左右の前脚杆が開き操作される。この開き操作によってスライダが前脚杆に沿って上昇し、横杆が水平姿勢に変化して前脚杆に対して後脚杆を後方に開く。
【0005】
ハジキ杆は左右のスライダどうしに接続されており、中央に折曲り軸を有する。また、このハジキ杆には左右の底杆が接続されている。底杆の他端は、後脚杆に対する横杆の取付位置に接続されている。例えば、車両を格納する際には、ハンドル操作によってハジキ杆が下方に折り畳まれ、これに伴って底杆の端部が下方に引かれる。二本の底杆がV字状に閉じることで、後脚杆が前方且つ左右中央側に揺動し、車両が格納姿勢となる。
【0006】
本構成であれば、車両の展開・格納操作が簡単に行えると共に、展開状態では車両の剛性を高めることができる。例えば、左右の前脚杆どうしに斜杆を接続してあるため、左右の前脚杆どうしの展開が容易となる。このため、ハンドル操作に要する力は、後方に伸びる横杆や底杆の展開操作にも十分に伝達され、車両の展開操作を円滑に行われる。
【0007】
また、展開状態における後脚杆は、前方向に延出する横杆と斜め前方に延出する底杆によって位置固定されるから特に後脚杆の姿勢が安定する。よって、四輪全てを展開・格納可能な手押車でありながら、展開姿勢の剛性を良好に維持することができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-300629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の手押車にあっては、展開時において特に後脚杆を位置保持するために二本の底杆が用いられる。この底杆は左右の後脚杆から斜め前方に延出するため、後脚杆どうしの間の領域を幾分占有し、手押車の利用者の足が干渉する可能性がある。
【0010】
また、車両を展開する際には、ハンドル操作によって二本の斜杆を動作させる他に横杆や底杆を移動させる必要があるため作動対象部位の点数が増える。よって、展開・格納操作を容易に行うにも限界がある。さらに、底杆等の部品点数が多くなるため製造組み立てが煩雑となりコストアップも招来する。
【0011】
このように、従来の手押車では種々の解決すべき課題を有しており、簡便な構成でありながら展開・格納操作が素早く行え、展開状態にあっては車両剛性に優れた手押車の提供が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(特徴構成)
本発明に係る手押車の特徴構成は、
左前輪を支持する左前脚、および、右前輪を支持する右前脚と、
前記左前脚に対して前後方向に開閉自在に接続され左後輪を支持する左後脚、および、前記右前脚に対して前後方向に開閉自在に接続され右後輪を支持する右後脚と、
一端が前記左後脚に接続され他端が前記左前脚に対して摺動する左スライダに接続された左開脚材、および、一端が前記右後脚に接続され他端が前記右前脚に対して摺動する右スライダに接続された右開脚材と、
一端が前記左前脚のうち前記左スライダの移動領域よりも上部に接続され、他端が前記右開脚材に接続された左斜材、および、一端が前記右前脚のうち前記右スライダの移動領域よりも上部に接続され、他端が前記左開脚材に接続された右斜材と、
前記左斜材の中間位置と前記右斜材の中間位置とを相対回転可能に支持する展開軸、および、
一端が前記左斜材のうち前記展開軸よりも下部に接続され、他端が前記右斜材のうち前記展開軸よりも下部に接続されると共に、途中に回動軸を備えた展開リンクと、
前記展開軸と前記回動軸とに連結され、前記展開軸と前記回動軸との距離を変更して前記左斜材と前記右斜材との交差状態を変更する操作リンクとを備えており、
前記左前脚に対する前記左斜材の接続部、および、前記右前脚に対する前記右斜材の接続部が、左右方向に延出する回転軸心の周りに回動可能に構成されている点に特徴を有する。
【0013】
(効果)
本構成の手押し車は、左前脚と左後脚および右前脚と右後脚が前後に開閉可能であり、左前脚と右前脚が左斜材と右斜材との姿勢変化によって左右に開閉可能である。よって本構成の手押し車は、操作リンクを操作することで左前脚~右後脚を一度に開閉することができる。尚、左斜材および右斜材の回動に係る左右方向の回転軸心は、通常の軸支部の他に、弾性材の変形により回転するような明確な軸部を持たない構造も含む趣旨である。
【0014】
このような構成において、特に本手押し車では、左斜材の下端が右開脚材の途中の位置に接続され、右斜材の下端が左開脚材の途中の位置に接続される。このため、左前脚~右後脚を展開した状態では、左斜材の下端および右斜材の下端が夫々右開脚材、左開脚材の途中を押すことになり、つまりは、左開脚材,右開脚材の夫々に接続される左前脚と左後脚および右前脚と右後脚に対して同時に押圧力を作用させることができる。この結果、展開・格納操作が素早く行え、展開状態にあっては車両剛性に優れた手押車を得ることができる。
【0015】
また、本構成であれば、従来の手押車で用いられていた、例えば左後脚から右斜め前方に延出する左底杆、および、右後脚から左斜め前方に延出していた右底杆が省略できる。よって、手押車の構成部品点数が削減され、車体の軽量化を図ることができる。
【0016】
(特徴構成)
本発明に係る手押車にあっては、前記左前脚と前記左斜材との間、および、前記右前脚と前記右斜材との間に第1軸受部材が設けられ、前記回転軸心が、前記第1軸受部材に設けられた軸部あるいは軸孔によって形成されていると好都合である。
【0017】
(効果)
本構成の手押し車では、車体の開閉時に左スライダおよび右スライダが夫々左前脚および右前脚に沿って移動する。その結果、左開脚材の左前脚に対する角度および右開脚材の右前脚に対する姿勢が変化する。左開脚材および右開脚材の姿勢が変化すると、左開脚材に対する右斜材の接続位置と左前脚との距離、および、右開脚材に対する左斜材の接続位置と右前脚との距離が変化する。つまり、車体の開閉に際して、左斜材は左前脚に対する接続部において左右方向の軸芯周りに回転し、右斜材は右前脚に対する接続部において左右方向の軸芯周りに回転対する。
【0018】
本構成では、この回転を実現するため、左前脚と左斜材との間、および、右前脚と右斜材との間に第1軸受部材を設けておき、第1軸受部材に設けた軸部あるいは軸孔によって左右方向の軸心を形成するようにしてある。本構成であれば、左前脚に対する第1軸受部の回転および右前脚に対する第1軸受部材の回転が正確かつ円滑にガタなく行われる。よって、車両の迅速な開閉が可能でありながら質感の高い手押し車を得ることができる。
【0019】
(特徴構成)
本発明に係る手押車にあっては、前記右開脚材に対する前記左斜材の端部、および、前記左開脚材に対する前記右斜材の端部に、前記左斜材および前記右斜材が展開状態にあるとき、前記右開脚材の一部あるいは前記左開脚材の一部に当接して、前記右開脚材と前記左斜材との相対移動および前記左開脚材と前記右斜材との相対移動を低減する保持部が各別に設けられていると好都合である。
【0020】
(効果)
本構成の手押車にあっては、左斜材の端部が右開脚材に接続され、右斜材の端部が左開脚材に接続されている。この接続によって、左斜材と右開脚材との相対姿勢および右斜材と左開脚材との相対姿勢が規定されるから、展開時の車両は所定の剛性を備えたものとなる。しかし、手押車に対しては、時には使用者の体重が作用するから、左斜材と右開脚材との接続部および右斜材と左開脚材との接続部においては角変形が生じ易く車両の剛性が必ずしも十分とは言えない。
【0021】
そこで、本構成では、左斜材および右斜材の端部に夫々右開脚材あるいは左開脚材に対する保持部を設け、左斜材と右開脚材との相対姿勢および右斜材と左開脚材との相対姿勢が変化し難くしてある。これにより、より質感の高い手押車を得ることができる。
【0022】
(特徴構成)
本発明に係る手押車にあっては、前記保持部にコの字形の断面形状を備え、前記左開脚材あるいは前記右開脚材を包持可能に構成することができる。
【0023】
(効果)
本構成であれば、車両が展開状態にあるとき、コの字形の保持部が左開脚材あるいは右開脚材を挟持することができる。よって、左斜材と右開脚材との相対姿勢変化および右斜材と左開脚材との相対姿勢変化が確実に阻止され、手押車の質感をさらに高めることができる。
【0024】
(特徴構成)
本発明に係る手押車にあっては、前記保持部が、前記左斜材と前記右開脚材との間に、あるいは、前記右斜材と前記左開脚材との間に設けられた補剛部材に形成され、前記補剛部材は、自身の前側の端部に設けられた左右方向に沿う軸部によって前記右開脚材あるいは前記左開脚材と揺動可能であり、前記保持部に隣接する位置に設けられた前後方向に沿う軸部によって前記右斜材あるいは前記左斜材と揺動可能に構成されていると好都合である。
【0025】
(効果)
本構成のように、左斜材と右開脚材との間、および、右斜材と左開脚材との間にこれ等とは別体の補剛部材を介装する構成とすることで、補剛部材の形状や強度の設定等につき自由度が高まる。例えば、左開脚材や右開脚材に対する保持部の長さを任意に設定することができる他、コの字形状の保持部によって左開脚材や右開脚材を所定の力で挟持するように構成することも容易となる。また、このような補剛部材は各種の樹脂成形技術を用いて効率的に生産することもできる。よって、車体の剛性や意匠の設定範囲が広がり、付加価値の高い手押車を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る手押車の外観を示す斜視図
図2】本発明に係る手押車の車輪ブレーキ構造を示す斜視図
図3】本発明に係る手押車の格納操作時の外観を示す斜視図
図4】連結部の要部を示す分解斜視図
図5】格納時における斜材の動作態様を示す説明図
図6】操作リンクの動作態様を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔第1の実施形態〕
(概要)
本発明の手押車Cの外観を図1に示す。この手押車Cは、展開ハンドルHの操作により左前脚L1および左後脚L3、右前脚L2、右後脚L4を一度に開閉することができる。開閉の際には、展開ハンドルHによって左前脚L1と左後脚L3および右前脚L2と右後脚L4が前後に開閉する。同時に左斜材L7と右斜材L8との交差角度が変更され、左前脚L1と右前脚L2との左右幅が変更される。本発明の手押車Cは、このような展開・格納が容易でありながら構成部品点数が少なく十分な車両強度を保持するものである。
【0028】
この手押車Cの基本構成として、左前脚L1および右前脚L2には操行切替機構が設けられている。また、左後脚L3および右後脚L4には走行ブレーキおよび駐車ブレーキが設けられている。
【0029】
(操向切替機構)
操行切替機構は左右とも同じ構成であるから、ここでは左前輪T1について説明する。図1に示すように、左前輪T1はフォーク部材fによって左前脚L1に支持されている。このフォーク部材fと左前脚L1との間には車輪の操向切替機構Skが設けられている。操向切替機構Skは従来の機構であり、フォーク部材fに対して左右約30度および左右約60度の範囲で回転する二つの基部が設けられている。夫々の基部からは前方に凸部(不図示)が形成され、左前脚L1に設けられた二つのレバーによって何れかの凸部の回転を規制することで左前輪T1の角度範囲を大小に切り替え、あるいは、両方を規制することで左前輪T1を固定するように構成してある。
【0030】
(ブレーキ機構)
ブレーキ機構については右後輪T4の構成を例示する。図1および図2に示すように、右後輪T4は右後脚L4に走行方向が固定された状態で支持されている。右後脚L4には筒状の本体を有するブレーキホルダBhが挿通してあり、右ハンドルh2に設けたブレーキレバーBRによって操作可能である。
【0031】
図2に示すように、ブレーキホルダBhの上方には、車輪のリムTaの内面に対して上向きに当接する走行ブレーキ用のパッドBpが設けてある。一方、ブレーキホルダBhの下方には駐車ブレーキ用の凸部Btが設けてある。この凸部Btは、車輪のボス部Tbの外面に設けた複数の凹部Tcに対して下向きに係合可能である。
【0032】
ブレーキホルダBhは、例えば右後脚L4に内蔵したコイルスプリング(図外)を用いて右後脚L4の下方に常時付勢されている。ブレーキホルダBhとブレーキレバーBRとの間には操作用のワイヤーYが接続されている。駐車ブレーキを操作するには、ブレーキレバーBRの横のボタンBRaを押すことでブレーキレバーBRの姿勢を下方に解放する。これにより、ワイヤーYによるブレーキホルダBhの引き上げが解消され、コイルスプリングの付勢力によってブレーキホルダBhが下降して駐車ブレーキが入り状態となる。
【0033】
一方、走行ブレーキを操作するには、ブレーキレバーBRを握り、右ハンドルh2に引き付ける。これにより右ハンドルh2が走行姿勢にロックされ、ワイヤーYがブレーキホルダBhを一定高さまで引き上げた状態となり駐車ブレーキが解除される。さらにブレーキレバーBRを握ると、ブレーキホルダBhがコイルスプリングの付勢力に抗って引き上げられ、パッドBpがリムTaに当接して走行ブレーキが作用する。
【0034】
これら操向機構およびブレーキ機構は左右で独立である。よって、後述する車体の展開・格納に対して特段の影響はない。
【0035】
(左右ハンドルの伸縮機構)
左前脚L1に設けられた左ハンドルh1および右前脚L2に設けられた右ハンドルh2は伸縮調整可能である。例えば左ハンドルh1については、図1に示すように、左前脚L1の上部にスライド可能に取り付けられている。具体的には、左前脚L1の上部に取り付けられた第1軸受部材J1に、ハンドル軸hjを挿通可能な筒状の上側ガイドg1が形成され、ハンドル軸hjの下端部には、左前脚L1に外挿する筒状部を備えた下側ガイドg2が取り付けられている。
【0036】
ハンドル軸hjの後部表面には高さ位置を決定する複数の孔部hj1が形成され、第1軸受部材J1に挿通保持されたネジ部材hj2を孔部hj1の何れかに係合させる。右ハンドルh2の高さ調整機構も同様である。
【0037】
また、下側ガイドg2の内面にはスラスト溝g2aが形成してあり、左前脚L1の外面に固定した長尺状のガイド部材g2bを係合させる。これにより、左前脚L1に対するハンドル軸hjの回転が阻止され、ネジ部材hj2の調整操作が確実に行えるうえハンドル操作を安定化することができる。
【0038】
(車体の展開構造)
本実施形態の手押車Cを展開し格納する構成として、図1に示すように左前脚L1と左後脚L3および右前脚L2と右後脚L4を前後に開閉する左開脚材L5および右開脚材L6を備えている。左前脚L1と左後脚L3および右前脚L2と右後脚L4は、夫々上方の端部近傍で互いに軸支されている。例えば右前脚L2と右後脚L4についてみると、樹脂製の第1軸受部材J1が用いられ、右前脚L2が第1軸受部材J1に挿通固定され、第1軸受部材J1に形成された第1軸受P1に右後脚L4の端部が軸支される。第1軸受P1の軸心の方向は左右方向である。左前脚L1と左後脚L3についても同様の構成である。
【0039】
右前脚L2と右後脚L4の開閉動作は、これらの部材に亘って設けられる右開脚材L6の姿勢変化によって決定される。右開脚材L6の後端は右後脚L4に軸支され、前端は右前脚L2に対して摺動する右スライダS2に軸支されている。何れの軸支部においても軸心の方向は車両の左右方向である。
【0040】
手押車Cを展開する際には、図1に示すように、左斜材L7および右斜材L8が互いに直交する程度に姿勢変化させる。右斜材L8の上側端部は右前脚L2のうち右スライダS2の移動領域よりも上部に接続される。本実施形態では、右斜材L8の接続部は、前述の第1軸受部材J1に形成してある。図3および図4(a)に示すように、この第1軸受部材J1に対し、右斜材L8の先端にコの字形の第2軸受部材J2を前後方向に沿う軸部材によって枢支し、さらにこの第2軸受部材J2の底部に設けた軸孔P2aを用いて、第2軸受部材J2を回転軸心P2の周りに回転可能となるよう第1軸受部材J1に枢支する。この構造により右斜材L8は右前脚L2に対して前後方向および左右方向に回動自在となる。
【0041】
図1に示すように、左斜材L7および右斜材L8の下端部は右開脚材L6あるいは左開脚材L5に軸支する。この場合、両斜材L7,L8の端部は、両開脚材L6、L5の両端部ではなく途中の部位に枢支される。具体的には、開脚材L6に設けた支持点L6aと開脚材L5に設けた支持点L5aとにおいて枢支される。本構成であれば手押車Cを展開した状態で車体の剛性が向上する。即ち、展開状態にあるとき、左右の斜材L7,L8の上端は、左前脚L1および右前脚L2の上方に軸支され、下端は右前脚L2および左前脚L1から後方に偏位した位置に接続される。
【0042】
この構成で展開した手押車Cを上方から見ると、左前脚L1から後方に延出した左開脚材L5および右前脚L2から後方に延出した右開脚材L6は、前脚L1,L2に対して左右に揺動し易い状態となる。しかし、左斜材L7および右斜材L8が、夫々、右開脚材L6の支持点L6a、左開脚材L5の支持点L5aに左右方向から接続されるため、前脚L1,L2に対する両開脚材L5,L6の左右の振れが大幅に低減される。この結果、手押車Cの剛性が向上する。
【0043】
また図3および図4(b)に示すように、例えば右開脚材L6には、右補剛部材G2が取り付けてある。右補剛部材G2は例えば樹脂材料で構成され、断面形状がコの字形の保持部Gaを備えている。この保持部Gaの内面が右開脚材L6を左右方向から挟持する。
【0044】
具体的には、例えば右補剛部材G2の保持部Gaに隣接して一対のフランジGbを備えている。フランジGbの夫々には軸孔が形成してある。左斜材L7の下端部には、左斜材L7の長尺方向に略直交しつつ所定長さを有する下支持部L7aが設けてある。この下支持部L7aが一対のフランジGbに軸支される。また、右補剛部材G2の前方部には支持点Gcとして左右方向に貫通する孔部が設けてあり、ここに軸部材Gdを挿通して右開脚材L6に枢支してある。
【0045】
保持部Gaは右開脚材L6を挟持するように寸法設定されており、手押車Cが展開状態にある場合には右補剛部材G2と右開脚材L6とが密に嵌合して手押車Cの剛性が維持される。これにより左斜材L7と右開脚材L6との相対姿勢変化が確実に阻止され手押車Cの質感を高めることができる。
【0046】
図3に示すように、左斜材L7および右斜材L8の閉じ操作に際しては、例えば、右補剛部材G2の軸部材Gdを介して右開脚材L6の前方を下方にスライドさせ、それに伴って右開脚材L6が右補剛部材G2の保持部Gaから解放される。これによりこの後の格納に要する力が少なくて済み、格納操作が容易となる。
【0047】
図5に示すように、格納時に例えば左開脚材L5の前端が下方にスライド移動する。これに伴い、右斜材L8の下端と左前脚L1との前後方向の距離が短くなる。つまり、左開脚材L5の前端は左スライダS1に軸支されており、左スライダS1が下方に移動することで左右方向視において左開脚材L5が左スライダS1に対して回転し、左開脚材L5の姿勢が左前脚L1と平行に近付くからである。ただし、この場合には、図4(a)に示すように、右斜材L8の上端に設けた第2軸受部材J2が左右方向の軸孔P2a即ち回転軸心P2の周りに回転する。よって、右斜材L8は円滑に姿勢変更することができる。
【0048】
また、本構成のように、左斜材L7と右開脚材L6との間、および、右斜材L8と左開脚材L5との間にこれ等とは別体の補剛部材Gを介装する構成とすることで、補剛部材Gの形状や強度の設定等につき自由度が高まる。例えば、左開脚材L5や右開脚材L6に対する保持部Gaの長さを任意に設定することができる他、左開脚材L5や右開脚材L6を挟持する力の設定も容易である。また、このような補剛部材Gは各種の樹脂成形技術を用いて効率的に生産することもできる。よって、手押車Cの剛性や意匠の設定範囲が広がり、付加価値の高い手押車Cを得ることができる。
【0049】
(展開操作)
図6には操作リンクRを前方から見た状態を示す。図6(a)が展開状態であり、図6(b)が格納途中の状態である。左斜材L7の中間位置と右斜材L8の中間位置とが交差する位置には、両者を相対回転可能に支持するよう前後方向に延出する展開軸Paが設けてある。この展開軸Paには左斜材L7と右斜材L8の相対角度を変化させる操作リンクRが取り付けられている。操作リンクRは、一端が展開軸Paに軸支され他端に展開ハンドルHが取り付けられた第1レバーR1と、第1レバーR1のうち展開ハンドルHの近傍に一端が軸支され、他端が後述の展開リンクrの回動軸Pcに軸支された第2レバーR2とを備えている。
【0050】
展開リンクrは、中央の回動軸Pcによって左右のリンク部材r1,r2を軸支接続したものであり、リンク部材r1,r2の両端は夫々、左斜材L7のうち展開軸Paから下方の位置と、右斜材L8のうち展開軸Paから下方の位置に軸支してある。
【0051】
図6(a)の展開状態の場合、第2レバーR2が回動軸Pcを上方に引き上げ、二つのリンク部材r1,r2を略直線状に配置することで左開脚材L5と右開脚材L6とが最大幅に設定される。このとき、左開脚材L5と右開脚材L6は、図1に示すように前方に傾斜した姿勢から水平に延出する姿勢に変化する。これに伴い、左斜材L7および右斜材L8の下端が右前脚L2および左前脚L1に対して後退するが、左斜材L7および右斜材L8が第2軸受部材J2を中心に回転することで当該後退動作が吸収される。
【0052】
展開状態において、二つのリンク部材r1,r2は僅かに下方に折り曲げられた状態となる。第2レバーR2に軸支された第1レバーR1は展開軸Paに対して直上の位置から僅かに左側に偏位し、左斜材L7に設けられたストッパ3に当接して、さらに下方に回転することが阻止されている。
【0053】
この状態では、操作リンクRがオーバーセンター状態となり展開ハンドルHの位置が安定化する。図6に示すように、展開ハンドルHのオーバーセンター位置を安定化させるのは、リンク部材r2の先端に設けた当接部r2aである。展開ハンドルHが最も高い位置、即ち、第2レバーR2が回動軸Pcと展開軸Paとの延長線上を通過するとき、当接部r2aがリンク部材r2の下面に当接し、リンク部材r1、r2がさらに上向きに曲がらないように規制する。第2レバーR2は、このリンク部材r1、r2による曲がり抵抗に抗ってオーバーセンター位置を行き来する。
【0054】
操作リンクRおよび展開リンクrによる展開状態の安定は以下の様に発揮される。例えば使用者が手押車Cのハンドルhに力を掛け、左前脚L1と右前脚L2が近接しようとする場合には、展開リンクrが下方に折れ曲がろうとする。しかし、操作リンクRの回転がストッパ3によって阻止されているため展開リンクrの更なる折れ曲がりが阻止される。一方、左前脚L1および右前脚L2が更に広がろうとする場合には、展開リンクrが直線となる位置で手押車Cの幅が最大となる。よって、回動軸Pcの更なる上下移動は生じず操作リンクRの状態も変化しない。
【0055】
本実施形態においては、操作リンクRおよび展開リンクrは、左斜材L7および右斜材L8の前面側に設けてある。左斜材L7および右斜材L8が左前脚L1および右前脚L2に対して後方側に偏位しているので、操作リンクRおよび展開リンクrは左前脚L1および右前脚L2で構成される平面とほぼ同じ位置かこれよりも後方に位置する。このため左前脚L1および右前脚L2の前方にバッグ等を装着する場合でも、展開ハンドルHがバッグ等に干渉することがなく、操作リンクRおよび展開リンクrを円滑に操作することができる。
【0056】
また、図3に示すように、左斜材L7と右斜材L8とが展開軸Paに垂直な平面内で姿勢変化するように、左斜材L7と右斜材L8には展開軸Paを中心とした当接板1が設けられている。図5に示すように左斜材L7には第1当接板1aが固定され、右斜材L8には第2当接板1bが固定されている。さらに、第1当接板1aと第2当接板1bの間には、例えば樹脂製の中間板2が配置されている。
【0057】
これら当接板1および中間板2を設けることで、左斜材L7および右斜材L8の回動軌跡が確実に一つの平面内に収まることとなり、手押車Cが展開状態あるいは格納状態の何れにおいても全体の剛性を高く維持することができる。また、中央に樹脂製の中間板2を配置することで、特に第1当接板1aと第2当接板1bを金属で構成した場合でも展開ハンドルHの動きが滑らかになる。操作をより円滑にするには、中間板2は、低摩擦係数を有する部材で構成するのが好ましい。
【0058】
尚、左斜材L7と右斜材L8との間に当接板1および中間板2を配置する場合、展開軸Paの近傍部位につき前後方向の体格が大きくなってしまう。左斜材L7および右斜材L8の両端部は、当接板1および中間板2を間に挟みつつ同一平面内に位置する必要があるため、展開軸Paの近傍では、左斜材L7および右斜材L8には曲げ加工が必要となる。この結果、左斜材L7および右斜材L8の端部に対して展開軸Paの近傍部位が前方に張り出し気味になる。
【0059】
しかし、本実施形態の構成では、左斜材L7の下端および右斜材L8の下端が右前脚L2および左前脚L1から後方に偏位するから、左斜材L7および右斜材L8の曲げ加工部がバッグなどに干渉することはない。つまり、本実施形態の手押車Cであれば、従来の手押車Cで行われていたような省スペース化を図るための左斜材L7および右斜材L8の断面を扁平に潰す加工も不要となり、強度的にも優れた手押車Cを得ることができる。
【0060】
一方、手押車Cを格納する際には、図6(b)に示すように、展開ハンドルHをストッパ3と反対方向に回転させ、第2レバーR2を介して回動軸Pcを押し下げ、展開リンクrを下方に折り曲げる。これにより、左斜材L7および右斜材L8の相対角度が変化し手押車Cが折り畳まれる。
【0061】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態にあっては、例えば左斜材L7を左前脚L1に対して左右方向の軸芯周りに回転させるために、左前脚L1に軸支されたコの字形の第2軸受部材J2を用いた。しかし、このような第2軸受部材J2を設けずに、例えば左斜材L7の上端をを第1軸受部材J1に対して左右への開閉のみを可能に構成しておき、代わりに、左前脚L1およびハンドル軸hjが第1軸受部材J1に対して前後方向に揺動可能に構成してあっても良い。
【0062】
また、各部材どうしの接続は、各図に示したような軸支部によって構成するのではなく、例えばボールジョイントのような揺動方向が特に限定されない接続部材を用いるものであっても良い。
【0063】
要するに、左前脚L1および左後脚L3、左斜材L7が集まる部位においては、夫々の部材が所期の回転動作を行えるように連結されたものであれば何れの構成であっても良い。この構成は右前脚L2および右後脚L4、右斜材L8についても同じである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る構成は、レバー操作により四つの車輪に係る車体フレームを同時に展開・格納する手押車に搭載することができる。
【符号の説明】
【0065】
C 手押車
G 補剛部材
Ga 保持
Gc 補剛部材の軸部材
J1 第1軸受部材
L1 左前脚
L2 右前脚
L3 左後脚
L4 右後脚
L5 左開脚材
L6 右開脚材
L7 左斜材
L8 左斜材
P2 回転軸心
P2a 軸孔
Pa 展開軸
Pc 回動軸
R 操作リンク
r 展開リンク
S1 左スライダ
S2 右スライダ
T1 左前輪
T2 右前輪
T3 左後輪
T4 右後輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6