(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079698
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】リミット型変位検出装置、構造物モニタリングシステム及び構造物評価システム
(51)【国際特許分類】
G01H 11/08 20060101AFI20230601BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20230601BHJP
G01L 1/16 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
G01H11/08
G01M99/00 Z
G01L1/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193290
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下井 信浩
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA15
2G024CA13
2G024DA12
2G024FA06
2G024FA15
2G064AA05
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA07
2G064BA08
2G064BA21
2G064BD18
(57)【要約】
【課題】長期にわたり動的な振幅の大きさによる危険度を検知することができるリミット型変位検出装置、構造物モニタリングシステム及び構造物評価システムを提供する。
【解決手段】リミット型変位検出装置21は、両端が構造物に取り付けられ、弾性変形可能な弾性材料からなる基材24と、圧電素子23を密着して覆った状態で基材24に固定され、この基材24に伝達された振幅で振動し圧電素子23に振動を伝達する伝達振動部材25と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に付与された振幅の大きさを圧電素子で検出するリミット型変位検出装置であって、
両端が前記構造物に取り付けられ、弾性変形可能な弾性材料からなる基材と、
前記圧電素子を密着して覆った状態で前記基材に固定され、該基材に伝達された振幅で振動し前記圧電素子に前記振動を伝達する伝達振動部材と、を備えることを特徴とするリミット型変位検出装置。
【請求項2】
前記圧電素子とともに前記伝達振動部材を覆い、所定値以上の振幅で破断する易破断部材を備えることを特徴する請求項1に記載のリミット型変位検出装置。
【請求項3】
少なくとも2つの構造部材が接合部で接合されて前記構造物が形成され、
前記基材は、ばね鋼板又は強化プラスチックからなる長尺板状で、中間部に支持板部が設けられ、該支持板部の両端に固定板部が設けられ、
前記支持板部には、前記圧電素子と、前記伝達振動部材と、前記易破断部材とが支持され、
前記固定板部で2つの前記構造部材にそれぞれ固定され、
前記基材は、2つの前記構造部材に付与された振幅で撓み可能であり、
前記圧電素子は、前記構造部材に付与された振幅に応じた検出信号を出力することを特徴とする請求項2に記載のリミット型変位検出装置。
【請求項4】
前記基材は、ばね鋼板又は強化プラスチックからなる筒状で、内側中心部に前記伝達振動部材に覆われた前記圧電素子が配置され、
前記伝達振動部材と前記基材の内面との間に前記易破断部材が設けられ、
前記基材は、前記構造物に付与された振幅で撓み可能であり、
前記圧電素子は、前記構造物に付与された振幅に応じた検出信号を出力することを特徴とする請求項2に記載のリミット型変位検出装置。
【請求項5】
前記易破断部材が所定値以上の振幅で破断するよう、前記基材の板厚、形状及び材質が設定されており、
前記基材の板厚、形状及び材質を変更することにより前記所定値を変更可能であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のリミット型変位検出装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のリミット型変位検出装置と、
地震加速度を検出する地震センサと、
前記地震センサが検出した地震加速度が所定の閾値以上である場合に、前記圧電素子が出力する検出信号を外部に出力する外部出力部と、を備えたことを特徴とする構造物モニタリングシステム。
【請求項7】
前記外部出力部の信号出力の外部電源として、再生可能エネルギを用いて電力を発電する発電装置を備えることを特徴とする請求項6に記載の構造物モニタリングシステム。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の構造物モニタリングシステムと、
前記構造物モニタリングシステムと通信可能なクラウドシステムと、
前記クラウドシステムと通信可能な表示装置と、を備え、
前記構造物モニタリングシステムは、前記検出信号を前記クラウドシステムに送信可能であり、
前記クラウドシステムは、前記構造物モニタリングシステムから前記検出信号を受信すると、前記構造物のFEM解析を実行可能なソフトへのリンクを実施し、受信した前記検出信号に基づき前記FEM解析により得られた前記構造物の解析結果を、画像化又は可視化して前記表示装置に表示させることを特徴とする構造物評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等によって加速度が付与された動的振動に対応して構造物の健全性をモニタリングするリミット型変位検出装置、構造物モニタリングシステム及び構造物評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨で造られた構造物においては、露出型柱脚構造が多く採用されており、この露出型柱脚構造は、鉄筋コンクリートの基礎に埋め込まれたアンカーボルトと、鉄骨の柱脚に溶接されたベースプレートとをナットで締結することで、建築物を基礎に接合するようになっている。又は免震構造のダンパーと結合している。
【0003】
地震等により設計者の意図しない態様で柱脚部が変形又は破損された場合、構造物の倒壊を引き起こすことがある。このため、構造物の健全性を保つためには、柱脚部だけでなく他の重要な接合部が破損されていないことも要求される。また、建築物等の構造物についても、地震により設計者の意図しない態様で柱や梁が破損された場合、構造物が破損されていないことが要求される。したがって、構造物の状態をモニタリングすることが必要となる。
【0004】
そこで、本発明者は、特許文献1に記載の静的荷重に対応したリミット型変位検出装置を提案した。特許文献1のリミット型変位検出装置は、建築物の接合部に跨がって固定された専用取付金具と、建築物の健全性を損なう加力によって塑性変形する金属からなる金属管と、金属管に固定され、建築物の健全性を損なう加力によって破損する脆性部材からなる硬質ガラス管と、硬質ガラス管の表面に密着して接合されることで硬質ガラス管および金属管により形状が拘束され、金属管が塑性変形する際の硬質ガラス管の破損の進行に応じた検出信号を発生する圧電素子とを備えている。そして、圧電素子からの検出信号から構造物の健全性を容易に判定することができ、構造物の破壊限界に至る全期に渡って金属の降伏点と完全破壊時に検出信号の電圧出力を発生することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、地震等によって生じる振幅には加速度が加わるので地震の大きさによってこの振幅が大きくなる。しかしながら、上記従来のリミット型変位検出装置では、地震によって生ずる動的振動によって金属管が繰り返し塑性変形すると、その塑性変形が積み重なってしまい、構造物の健全性に影響のないような地震が生じた場合であっても硬質ガラス管が破損して圧電素子から検出信号が出力されてしまうおそれがある。従って、静的荷重に対応した従来のリミット型変位検出装置では、構造物が健全な状態で長期にわたって動的な振幅を計測することは困難である。
【0007】
そこで、本発明は、長期にわたり動的な振幅の大きさによる危険度を検知することができるリミット型変位検出装置、構造物モニタリングシステム及び構造物評価システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のリミット型変位検出装置の第1の態様は、構造物に付与された振幅の大きさを圧電素子で検出するリミット型変位検出装置であって、両端が前記構造物に取り付けられ、弾性変形可能な弾性材料からなる基材と、前記圧電素子を密着して覆った状態で前記基材に固定され、該基材に伝達された振幅で振動し前記圧電素子に前記振動を伝達する伝達振動部材と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の態様は、前記圧電素子とともに前記伝達振動部材を覆い、所定値以上の振幅で破断する易破断部材を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の態様は、少なくとも2つの構造部材が接合部で接合されて前記構造物が形成され、前記基材は、ばね鋼板又は強化プラスチックからなる長尺板状で、中間部に支持板部が設けられ、該支持板部の両端に固定板部が設けられ、前記支持板部には、前記圧電素子と、前記伝達振動部材と、前記易破断部材とが支持され、前記固定板部で2つの前記構造部材にそれぞれ固定され、前記基材は、2つの前記構造部材に付与された振幅で撓み可能であり、前記圧電素子は、前記構造部材に付与された振幅に応じた検出信号を出力することを特徴とする。
【0011】
本発明の第4の態様は、前記基材は、ばね鋼板又は強化プラスチックからなる筒状で、内側中心部に前記伝達振動部材に覆われた前記圧電素子が配置され、前記伝達振動部材と前記基材の内面との間に前記易破断部材が設けられ、前記基材は、前記構造物に付与された振幅で撓み可能であり、前記圧電素子は、前記構造物に付与された振幅に応じた検出信号を出力することを特徴とする。
【0012】
本発明の第5の態様は、前記易破断部材が所定値以上の振幅で破断するよう、前記基材の板厚、形状及び材質が設定されており、前記基材の板厚、形状及び材質を変更することにより前記所定値を変更可能であることを特徴とする。
【0013】
本発明の構造物モニタリングシステムの第1の態様は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のリミット型変位検出装置と、地震加速度を検出する地震センサと、前記地震センサが検出した地震加速度が所定の閾値以上である場合に、前記圧電素子が出力する検出信号を外部に出力する外部出力部と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明の構造物モニタリングシステムの第2の態様は、外部電源として、再生可能エネルギを用いて電力を発電する発電装置を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の構造物評価システムは、請求項6又は請求項7に記載の構造物モニタリングシステムと、前記構造物モニタリングシステムと通信可能なクラウドシステムと、前記クラウドシステムと通信可能な表示装置と、を備え、前記構造物モニタリングシステムは、前記検出信号を前記クラウドシステムに送信可能であり、前記クラウドシステムは、前記構造物モニタリングシステムから前記検出信号を受信すると、前記構造物のFEM解析を実行可能なソフトへのリンクを実施し、受信した前記検出信号に基づき前記FEM解析により得られた前記構造物の解析結果を、画像化又は可視化して前記表示装置に表示させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、長期にわたり動的な振幅の大きさによる危険度を検知することができるリミット型変位検出装置、構造物モニタリングシステム及び構造物評価システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明のリミット型変位検出装置の第1実施形態を示し、(a)は(b)のI-I線に沿って切断した断面図、(b)は平面図である。
【
図2】
図2は、本発明のリミット型変位検出装置の第1実施形態を示し、リミット型変位検出装置を構造物に取り付けた状態を示す側面図である。
【
図3】
図3は、本発明のリミット型変位検出装置の第1実施形態を示し、リミット型変位検出装置を構造物に取り付けた状態を示す正面図である。
【
図4】
図4は、本発明のリミット型変位検出装置の第2実施形態を示し、(a)は(b)のIV-IV線に沿って切断した断面図、(b)は平面図である。
【
図5】
図5は、本発明のリミット型変位検出装置の第2実施形態を示し、リミット型変位検出装置を構造物に取り付けた状態を示す側面図である。
【
図6】
図6は、本発明のリミット型変位検出装置の第2実施形態の変形例を示し、(a)は(b)のVII-VII線に沿って切断した断面図、(b)は平面図である。
【
図7】
図7は、本発明のリミット型変位検出装置の第3実施形態を示し、(a)は(b)のVIII-VIII線に沿って切断した断面図、(b)は一部を破断した側面図である。
【
図8】
図8は、本発明のリミット型変位検出装置の第3実施形態を示し、リミット型変位検出装置を構造物に取り付けた状態を示す側面図である。
【
図9】
図9は、本発明のリミット型変位検出装置の第3実施形態を示し、リミット型変位検出装置を構造物に取り付けた状態を示す正面図である。
【
図10】
図10は、本発明のリミット型変位検出装置の第2実施形態を例に、構造物が振動した際の様子を示す側面図である。
【
図11】
図11は各種パラメータの遷移を示す図であって、(a)は、地震等によって構造物に付与された振動の加速度を示す加速度波形図、(b)は、地震等によって構造物に付与された振動の速度を示す速度波形図、(c)は、地震等によって構造物に付与された振動で構造物の変位を示す変位波形図である。
【
図12】
図12は、本発明の構造物モニタリングシステム及び構造物評価システムの一実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のリミット型変位検出装置の実施形態について以下に説明する。
[第1実施形態]
第1実施形態に係るリミット型変位検出装置(以下「検出装置」という)1は、構造物2(
図2参照)に取り付けられて、構造物2に付与された振幅を圧電素子3で検出し、構造物2の健全性を検知する。
図1(a)、(b)に示すように、検出装置1は、両端が構造物2に取り付けられ、弾性変形可能な弾性材料からなる基材4と、圧電素子3を密着して覆った状態で基材4に固定され、この基材4に伝達された振幅で振動し圧電素子3に振動を伝達する伝達振動部材5と、基材4とで圧電素子3とともに伝達振動部材5を覆い、所定値以上の振幅で破断する易破断部材6と、からなる。
【0019】
図2及び
図3に示すように、構造物2は、床面8上に一つの構造部材9が垂直に立設されており、この構造部材9及び床面8に検出装置1が、固定部材10を介して設置される。検出装置1は、構造部材9の中心軸(
図3中、一点鎖線で示す)と検出装置1の中心軸とが一致するように設置される。なお、検出装置1は、基材4を固定部材として構造部材9に設置されてもよい。
【0020】
基材4は、ばね鋼板又は強化プラスチックからなる長尺板状で、中間部に支持板部11が設けられ、この支持板部11の両端に固定板部12、13が設けられている。また、基材4は、構造物2の健全性を損なう所定値以上の振幅で塑性変形する構成であってもよい。なお、基材4は、易破断部材6が所定値以上の振幅で破断するよう、その板厚、形状及び材質が設定されており、基材4の板厚、形状及び材質を変更することにより前述の所定値を変更可能である。
【0021】
また、支持板部11には、ウレタンからなる伝達振動部材5に挟持された圧電素子(ピエゾ素子)3と、伝達振動部材5と圧電素子3を覆うガラス板からなる易破断部材6とが支持されている。基材4は、固定板部12、13で構造部材9にそれぞれ固定された状態では、構造部材9に付与された振幅で撓み可能であり、圧電素子3は、構造部材9に付与された振幅に応じた検出信号を出力する。圧電素子3からの検出信号については後述する。なお、伝達振動部材5の両側において易破断部材6と基材4との間はUV接着剤7によって接着されている。
【0022】
[第2実施形態]
次に
図4、
図5を用いて第2実施形態について説明する。第2実施形態の検出装置21の取り付けられる構造物22の構造が異なる。
図4(a)、(b)に示すように、第2実施形態に係る検出装置21は、第1実施形態の検出装置1と略同一の構成であるが、基材24の形状が異なる。
【0023】
図5に示すように、構造物22は、2つの長尺状の構造部材29a、29bが直交した状態で接合部27によって接合されている。基材24の固定板部32、33は支持板部31に対して135度の角度(最適な角度)で同方向に折り曲げられている。そして、
図4及び
図5に示すように、一方の固定板部33は構造部材29aに、他方の固定板部32は構造部材29bに固定されて、検出装置21が構造物22に取り付けられる。
【0024】
第2実施形態の検出装置21は、第1実施形態の検出装置1と同様に、両端が構造物22に取り付けられ、弾性変形可能な弾性材料からなる基材24と、圧電素子23を密着して覆った状態で基材24に固定され、この基材24に伝達された振幅で振動し圧電素子23に振動を伝達する伝達振動部材25と、基材24とで圧電素子23と共に伝達振動部材25を覆い、所定値以上の振幅で破断する易破断部材26と、からなる。なお、伝達振動部材25の長手方向の両側であって易破断部材26と基材24との間はUV接着剤28により接着されている。基材24は、構造物22の健全性を損なう所定以上の振幅で塑性変形する構成であってもよい。なお、基材24は、易破断部材26が所定値以上の振幅で破断するよう、その板厚、形状及び材質が設定されており、基材24の板厚、形状及び材質を変更することにより前述の所定値を変更可能である。
【0025】
第1実施形態の検出装置1と同様に、基材24の支持板部31には、ウレタンからなる伝達振動部材25に挟持された圧電素子(ピエゾ素子)23と、伝達振動部材25と圧電素子23を覆うガラス板からなる易破断部材26とが支持されている。基材24は、固定板部32、33で構造部材29a、29bにそれぞれ固定された状態では、構造部材29a、29bに付与された振幅で撓み可能であり、圧電素子23は、構造部材29a、29bに付与された振幅に応じた検出信号を出力する。圧電素子23からの検出信号については後述する。
【0026】
なお、本実施形態において、易破断部材26は、その長手方向の両端が固定板部32、33のそれぞれに接する程度まで延在しているが、これに限らず、両端が固定板部32、33から離隔していてもよい。つまり、易破断部材26は、その長手方向の長さが例えば伝達振動部材25と同程度の長さであってもよい。
【0027】
また、本実施形態においては、易破断部材26を有する構成としたが、例えば、
図6(a)、(b)に示すように、圧電素子23を一対のウレタン部材125で挟み込み、下層のウレタン部材125を基材24の支持板部31に固定する構成であってもよい。
【0028】
[第3実施形態]
次に
図7、
図8、
図9を用いて第3実施形態について説明する。本実施形態の検出装置41は、構造物42に付与された振幅を圧電素子43で検出し、構造物42の健全性を検知する。
図7(a)、(b)に示すように本実施形態の検出装置41は、全体形状が筒状で、両端が構造物42に取り付けられている。具体的には、検出装置41は、一対の支持部材50によって、一端(上方の端部)が構造部材49に固定され、他端(下方の端部)が床面48に固定されている。また、検出装置41は、構造部材49の中心軸(
図9中、一点鎖線で示す)と検出装置41の中心軸とが一致するように設置される。検出装置41は、弾性変形可能な弾性材料からなる基材44と、圧電素子43を密着して覆った状態で基材44に固定され、この基材44に伝達された振幅で振動し圧電素子43に振動を伝達する伝達振動部材45と、伝達振動部材45を外周側から覆い、所定の振幅で破断する易破断部材46と、からなる。
【0029】
基材44は、ばね鋼板又は強化プラスチックからなる筒状で、内側中心部に伝達振動部材45に覆われた圧電素子43が配置され、伝達振動部材45と基材44の内面との間に易破断部材46が設けられている。また、基材44は、構造物42に付与された振幅で撓み可能である。また、基材44は、構造物42の健全性を損なう所定値以上の振幅で塑性変形する構成であってもよい。なお、基材44は、易破断部材46が所定値以上の振幅で破断するよう、その板厚、形状及び材質が設定されており、基材44の板厚、形状及び材質を変更することにより前述の所定値を変更可能である。圧電素子43は、構造物42に付与された振幅に応じた検出信号を出力する。圧電素子43からの検出信号については後述する。
【0030】
本実施形態の伝達振動部材45も、上記第1、第2実施形態の伝達振動部材5、25と同様に、ウレタンで形成され、易破断部材46も、上記第1、第2実施形態の易破断部材6、26と同様に、ガラスで形成されている。そして、圧電素子43、伝達振動部材45、易破断部材46は、円筒状の基材44の内部に密着して収容されるように、円筒状に形成されている。
【0031】
[検出装置の作用]
次に、構造物2、22、42に地震等により振幅が付与された場合に、圧電素子3、23、43からの出力について説明する。以下、第2実施形態の構造物22に振幅が付与された場合について説明する。
【0032】
図10に示すように、構造物22に
図10中、左右方向に振幅が付与されると、構造部材29aが接合部27を支点に変位することで構造物22が振動し、この振動により構造物22に取り付けられている検出装置21の基材24が振動する。基材24が振動すると、この振動が伝達振動部材25を介して圧電素子23に伝達され、圧電素子23が振動により電圧を発生させる。
【0033】
このとき、構造物22に付与された振幅が構造物22の健全性を損なうような力を伴わない場合には、基材24は振動に合わせて弾性変形し、振動が収まると、その復元力により元の形状に復帰する。
【0034】
これに対し、構造物22に付与された振幅が構造物22の健全性を損なうような力を伴う場合には、基材24が塑性変形し、易破断部材26が破損する。このときの易破断部材26の破損は、部分的な小さな亀裂から全体的な大きな亀裂に至るように段階的に進行する。これにより、易破断部材26と基材24とがほぼ同じタイミングで変形して、易破断部材26のみが破損し、基材24の拘束から圧電素子23が徐々に解放され、圧電素子23が易破断部材26の損傷に比例した出力電圧を発生する。つまり、易破断部材26が破損すると、圧電素子23が構造物の健全性を損なうような振幅に対応した電圧を出力する。このため、圧電素子23が出力する電圧は、増幅装置により増幅しなくとも、後述する構造物モニタリングシステムにおいて検出可能な大きな値となる。
【0035】
以下、
図11(a)から
図11(c)を用いて、構造物の健全性を損なうような規模の地震等によって構造物に付与された加力の加速度、速度、構造物の変位、リミット型変位検出装置の出力(以下、「センサ出力」ともいう)について説明する。
図11(a)から
図11(c)の各図における横軸は、時間である。なお、以下においては、地震等によって第2実施形態の構造物22に加力が付与された場合を例に説明する。
【0036】
図11(a)は、地震等により構造物22に付与される加力の加速度を示す。
図11(a)に示すように、初期に最大の加速度が構造物22に加わり、次第に加速度が小さくなり、減衰していく。
【0037】
図11(b)は、地震等によって構造物22に付与された加力の速度を示す。
図11(b)に示すように、構造物22に伝達された加力の初期では速度が大きく、次第に小さくなり、減衰していく。
【0038】
図11(a)、(b)に示す加速度、速度の加力が構造物22に付与されると、構造物22は、
図11(c)に示すように、初期に小さく一方側に揺れた後に他方側に大きく変位する(揺れる)ことがわかる。このとき、検出装置21からのセンサ出力は、
図11(c)に細実線で示すように、一方側の小さな変位によるセンサ出力Aであり、他方側の大きな変位によるセンサ出力Bとなる。
【0039】
地震が発生すると、構造物22には地震による振動が伝達され、
図11(a)、(b)に示す振動によって、
図11(c)に示すように変位する。すなわち、地震等の振動により構造物22には、
図11(a)に示すような加速度の力が加わる。構造物22に力が加わると、構造物22が揺れ、構造物22が揺れる際の振幅の大きさが圧電素子23から、
図11(c)に示すように出力(
図11(c)中、細実線で示す「センサ出力」)される。
【0040】
図11(c)の例によれば、センサ出力Aが検知された一方側への変位の後に他方側に大きく変位した際に、易破断部材26が破損し、当該易破断部材26の破損によって大きなセンサ出力Bが検知される。このとき、基材24は、他方側に大きく変位したタイミングで塑性変形し、
図11(c)中、太実線で示すようにその後、復元せずに変位した状態のままとなる。
【0041】
これに対し、
図11(a)から
図11(c)に示す例が構造物22の健全性を損なうような規模の地震でなかった場合には、基材24の弾性変形により他方側に大きく変位したタイミングでセンサ出力Bが検知されるが、その後、基材24はその復元力によって、
図11(c)中、破線で示すように元の状態に戻る。なお、地震発生後の構造物22の状態によっては、例えば、
図11(c)中、一点鎖線や二点鎖線で示すような変位を示すこともある。
【0042】
[各実施形態の作用効果]
以上説明したように、上述の各実施形態に係るリミット型変位検出装置は、弾性材料からなる基材4、24、44に圧電素子3、23、43、伝達振動部材5、25、45、易破断部材6、26、46を設けたので、構造物の健全性を損なう振幅が構造物に付与されないかぎり、構造物に付与された振幅を長期にわたり検知して、巨大地震や応力破壊が起きない限り長期にわたり構造物の健全性を検知することができる。つまり、長期にわたり動的な振幅の大きさによる危険度を検知することができる。
【0043】
[構造物モニタリングシステム]
次に、
図12を参照して、本発明に係る構造物モニタリングシステムの一実施形態について、リミット型変位検出装置21に適用した場合を例に説明する。
【0044】
図12に示すように、本実施形態の構造物モニタリングシステム100は、リミット型変位検出装置21と、外部出力部としてのRFIDタグ101と、出力装置102と、地震センサ103と、を含んで構成されている。
【0045】
RFIDタグ101は、例えば、リミット型変位検出装置21に一体に取り付けられ、又は、リミット型変位検出装置21とは別体でリミット型変位検出装置21の近傍に設けられている。
【0046】
RFIDタグ101は、リミット型変位検出装置21の圧電素子23に電気的に接続されており、圧電素子23から検出信号として出力電圧が入力されるようになっている。RFIDタグ101は、アクティブタイプのRFIDタグによって構成されており、RFIDタグ101の信号出力の外部電源として太陽光パネル104に接続されている。外部電源としては、再生可能エネルギを用いて電力を発電する発電装置であれば、太陽光パネルに限らず、風力、振動、バイオ等を用いた発電装置を用いることも可能である。なお、RFIDタグ101は、パッシブタイプのRFIDタグによって構成されていてもよい。この場合、外部電源は不要である。
【0047】
出力装置102は、RFIDタグ101と通信を行うリーダライタ102aを備えており、当該リーダライタ102aはRFIDタグ101の数に応じて複数備えていてもよい。
【0048】
出力装置102には、地震センサ103が接続されている。地震センサ103は、構造物22に設けられている。地震センサ103は、例えば加速度計によって構成されており、地震加速度を検出するようになっている。地震センサ103としては、加速度計に限らず、例えば変位計や速度計を用いて地震動を検出する構成のものを用いてもよい。
【0049】
また、出力装置102は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、入力ポートと、出力ポートと、通信モジュールとを備えたコントローラ102bを備えている。
【0050】
コントローラ102bは、地震センサ103が検出した地震加速度が所定の閾値以上である場合に、圧電素子23が出力する検出信号を外部に出力するようになっている。すなわち、コントローラ102bは、後述するクラウドシステム120を介して外部の集計用サーバ106と無線通信が可能となっており、上述したタイミングで集計用サーバ106と無線通信を行い、圧電素子23が出力する検出信号を集計用サーバ106に出力する。圧電素子23から出力された検出信号は、出力装置102において所定の信号処理がなされた後、集計用サーバ106に出力されてもよい。
【0051】
上述の所定の閾値としては、例えば、構造物22の健全性に影響を与える可能性のある震度に相当する地震加速度の下限値を設定することができる。また、所定の閾値は、構造物モニタリングシステム100の用途に応じて任意の地震加速度に設定可能である。
【0052】
上述の構造物モニタリングシステム100によれば、地震センサ103が検出した地震加速度が所定の閾値以上である場合に、圧電素子23が出力する検出信号を外部に出力するので、無用な出力を回避して、例えば構造物22の健全性の確認が必要なときにのみ圧電素子23の検出信号を出力することができる。また、データ通信として、RFIDタグ101を用いたタグ通信を利用するので、通信容量と通信電力の消費を大幅に低減することができる。これにより、効率的に、長期にわたり動的な振幅の大きさによる危険度を検知することができる。
【0053】
[構造物評価システム]
次に、
図12を参照して、本発明に係る構造物評価システムの一実施形態について、構造物モニタリングシステム100に適用した場合を例に説明する。
【0054】
図12に示すように、本実施形態の構造物評価システム200は、上述の構造物モニタリングシステム100と、構造物モニタリングシステム100と通信可能なクラウドシステム120と、クラウドシステム120と通信可能な表示装置107と、を含んで構成されている。
【0055】
構造物モニタリングシステム100は、圧電素子23の検出信号を出力装置102からクラウドシステム120に送信可能である。
【0056】
クラウドシステム120は、構造物モニタリングシステム100から圧電素子23の検出信号を受信すると、構造物22のFEM解析を実行可能なソフトへのリンクを実施し、受信した上記検出信号に基づきFEM解析により得られた構造物22の解析結果を、画像化又は可視化して表示装置107に表示させる。例えば、FEM解析を実行可能なソフトへのリンクには、予め構造物22に関する設計構造上の図面データが登録されている。当該リンクには、構造物22以外の他の構造物の図面データも予め登録されており、例えば、構造物モニタリングシステムから出力されるデータに基づき、登録済みの図面データの中からモニタリング対象の構造物と一致する図面データが読み出されるようになっている。クラウドシステム120では、圧電素子23の検出信号を受信すると、検出信号が出力されたモニタリング対象の構造物の図面データが読み出され、当該検出信号と当該図面データとを用いてFEM解析が実施され、その解析結果が画像化又は可視化されて表示装置107に表示される。
【0057】
表示装置107としては、例えばタブレット端末やスマートフォン端末などの携帯用端末、又は管理者用のパソコン等を用いることができる。集計用サーバ106は、クラウドシステム120に含まれる構成であってもよい。
【0058】
上述のとおり、本発明の実施の形態を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、構造物として一般家屋、ビルディング、橋梁及び遊具等に付与された振動や加力による構造物の健全性を長期にわたり検知して、長期にわたり構造物の危険度を表示することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1、21、41 リミット型変位検出装置
2、22、42 構造物
3、23、43 圧電素子
4、24、44 基材
5、25、45 伝達振動部材
6、26、46 易破断部材
100 構造物モニタリングシステム
101 RFIDタグ(外部出力部)
102 出力装置
102a リーダライタ
102b コントローラ
103 地震センサ
104 太陽光パネル
107 表示装置
120 クラウドシステム
200 構造物評価システム