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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079715
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】弁構造体
(51)【国際特許分類】
   F16K 47/02 20060101AFI20230601BHJP
   F16K 51/00 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
F16K47/02 D
F16K51/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193314
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 優也
(72)【発明者】
【氏名】木田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】稲木 秀介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 琢也
(72)【発明者】
【氏名】中村 昭夫
【テーマコード(参考)】
3H066
【Fターム(参考)】
3H066AA01
3H066BA33
3H066BA34
3H066BA38
(57)【要約】
【課題】弁構造体の摺動部のグリス切れや、異物や摩耗粉の堆積を抑制する。
【解決手段】弁構造体は、流体が流入する流入路、流体が流出する流出路、および、流入路と流出路とを連通させる弁体収容空間を有するハウジングと、弁体収容空間の中心軸に沿って移動する弁体とを備える。ハウジングは、弁体の移動によって弁体に摺動する被摺動面を有し、弁体は、弁体の移動によって被摺動面に摺動する摺動面を有し、摺動面と被摺動面との間にはグリスが配置されており、摺動面と被摺動面とのうちの少なくとも一方は、凹凸構造を有し、凹凸構造は、上記中心軸を中心とする周方向に沿って並ぶ複数の凹部によってそれぞれ構成された複数の凹部列を有し、複数の凹部列は上記中心軸に沿った方向における位置を互いに異ならせて配置され、隣り合う凹部列のうちの一方は、隣り合う凹部列のうちの他方を構成する凹部とは周方向における位置の異なる凹部を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁構造体であって、
流体が流入する流入路と、前記流体が流出する流出路と、前記流入路と前記流出路とを連通させる円柱状の弁体収容空間とを有するハウジングと、
前記弁体収容空間に配置され、前記弁体収容空間の中心軸に沿って移動する弁体と、
を備え、
前記ハウジングは、前記弁体の移動によって前記弁体に摺動する被摺動面を有し、
前記弁体は、前記弁体の移動によって前記被摺動面に摺動する摺動面を有し、
前記摺動面と前記被摺動面との間には、グリスが配置されており、
前記摺動面と前記被摺動面とのうちの少なくとも一方は、凹凸構造を有し、
前記凹凸構造は、前記中心軸を中心とする周方向に沿って並ぶ複数の凹部によってそれぞれ構成された複数の凹部列を有し、
前記複数の凹部列は、前記中心軸に沿った方向における位置を互いに異ならせて配置され、
前記複数の凹部列のうちの隣り合う凹部列のうちの一方は、前記隣り合う凹部列のうちの他方を構成する前記凹部とは前記周方向における位置の異なる前記凹部を有する、
弁構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の弁構造体であって、
前記凹凸構造は、全ての前記凹部を前記中心軸に垂直な投影面に投影した場合に、全ての前記凹部を前記投影面に投影することで得られる投影像が前記周方向において途切れずに環状に繋がるように構成されている、弁構造体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の弁構造体であって、
前記流入路に配置されたフィルタを備え、
前記周方向に沿った前記凹部の幅は、前記フィルタの目の最大幅よりも広い、弁構造体。
【請求項4】
請求項3に記載の弁構造体であって、
前記凹部の深さは、前記フィルタの目の最大幅よりも深い、弁構造体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の弁構造体であって、
前記弁体収容空間から前記流入路に向かって前記弁体を付勢する弾性部材を備える、弁構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弁構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、NC旋盤などの工作機械の振動を減衰させる制振デバイスが開示されている。この制振デバイスの摺動部には、摺動部の摩擦係数を調整するための凹凸構造が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-076497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願の発明者等は、上記文献の制振デバイスの摺動部のように、バルブの摺動部に凹凸構造を設けることを検討した。そして、バルブの摺動部では、異物が流入することや、摺動部に塗布されたグリスが局所的に欠乏することなどの問題が生じ得るので、凹凸の形態に工夫の余地があることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、弁構造体が提供される。この弁構造体は、流体が流入する流入路と、前記流体が流出する流出路と、前記流入路と前記流出路とを連通させる円柱状の弁体収容空間とを有するハウジングと、前記弁体収容空間に配置され、前記弁体収容空間の中心軸に沿って移動する弁体と、を備える。前記ハウジングは、前記弁体の移動によって前記弁体に摺動する被摺動面を有し、前記弁体は、前記弁体の移動によって前記被摺動面に摺動する摺動面を有し、前記摺動面と前記被摺動面との間には、グリスが配置されており、前記摺動面と前記被摺動面とのうちの少なくとも一方は、凹凸構造を有し、前記凹凸構造は、前記中心軸を中心とする周方向に沿って並ぶ複数の凹部によってそれぞれ構成された複数の凹部列を有し、前記複数の凹部列は、前記中心軸に沿った方向における位置を互いに異ならせて配置され、前記複数の凹部列のうちの隣り合う凹部列のうちの一方は、前記隣り合う凹部列のうちの他方を構成する前記凹部とは前記周方向における位置の異なる前記凹部を有する。
この形態の弁構造体によれば、摺動面と被摺動面とのうちの少なくとも一方に設けられた凹凸構造は、弁体収容空間の中心軸を中心とする周方向に沿って並ぶ複数の凹部によってそれぞれ構成された複数の凹部列を有しており、複数の凹部列のうちの隣り合う凹部列のうちの一方は、隣り合う凹部列のうちの他方を構成する凹部とは周方向における位置の異なる凹部を有している。そのため、摺動面と被摺動面との間にて局所的なグリスの欠乏が生じたとしても、上記中心軸に沿って弁体が移動することにより、グリスの欠乏する部分に対して、凹部に入り込んだグリスを供給することができ、さらに、上記中心軸に沿って弁体が移動することにより、異物や摩耗粉を凹部に捕集することができる。
(2)上記形態の弁構造体において、前記凹凸構造は、全ての前記凹部を前記中心軸に垂直な投影面に投影した場合に、全ての前記凹部を前記投影面に投影することで得られる投影像が前記周方向において途切れずに環状に繋がるように構成されてもよい。
この形態の弁構造体によれば、グリスの欠乏する部分への凹部からのグリスの供給漏れや、凹部への異物や摩耗粉の捕集漏れが生じることを抑制できる。
(3)上記形態の弁構造体は、前記流入路に配置されたフィルタを備え、前記周方向に沿った前記凹部の幅は、前記フィルタの目の最大幅よりも広くてもよい。
この形態の弁構造体によれば、フィルタを通過した異物を凹部に捕集しやすくできる。
(4)上記形態の弁構造体において、前記凹部の深さは、前記フィルタの目の最大幅よりも深くてもよい。
この形態の弁構造体によれば、1つの異物だけで凹部が埋まることを抑制できる。そのため、凹部が異物で埋まることによって、凹部の異物を捕集する機能が失われにくくできる。
(5)上記形態の弁構造体は、前記弁体収容空間から前記流入路に向かって前記弁体を付勢する弾性部材を備えてもよい。
この形態の弁構造体によれば、グリスの欠乏や、摺動面や被摺動面に異物や摩耗粉が付着することに起因して、弾性部材によって付勢される弁体が中心軸に沿って振動するチャタリングが生じやすくなることを抑制できる。
本開示は、弁構造体以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、逆止弁などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態の弁構造体の構成を模式的に示す説明図。
図2】第1実施形態の逆止弁部の構成を示す断面図。
図3】第1実施形態の凹凸構造の構成を示す第1の説明図。
図4】第1実施形態の凹凸構造の構成を示す第2の説明図。
図5】第1実施形態の凹凸構造の構成を示す第3の説明図。
図6】第1実施形態の逆止弁部の開閉の様子を示す断面図。
図7】第2実施形態の凹凸構造の構成を示す説明図。
図8】第3実施形態の凹凸構造の構成を示す説明図。
図9】第4実施形態の凹凸構造の構成を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における弁構造体300の構成を模式的に示す説明図である。本実施形態では、弁構造体300は、水素タンク200と燃料電池400とを搭載した燃料電池車両10に設けられている。弁構造体300は、水素タンク200の端部に設けられた口金に固定されている。燃料電池車両10の車体には、水素充填口100が設けられている。水素充填口100には、例えば、水素ステーションに設置された水素供給装置が接続される。水素充填口100は、第1配管110を介して、弁構造体300に接続されている。弁構造体300は、第2配管410を介して、燃料電池400に接続されている。
【0009】
弁構造体300は、第1流入路310と、フィルタ315と、逆止弁部350と、第1流出路320と、第2流入路330と、開閉弁部360と、第2流出路340とを有している。第1流入路310は、第1配管110と逆止弁部350とを連通させている。フィルタ315は、第1流入路310に設けられており、水素充填口100から流入した異物を捕集する。フィルタ315は、例えば、金属製あるいは樹脂製のメッシュフィルタによって構成されている。逆止弁部350は、第1流入路310に流入した水素ガスを第1流出路320に導く機能と、第1流出路320から第1流入路310への水素ガスの逆流を防止する機能とを有している。第1流出路320は、逆止弁部350と水素タンク200とを連通させている。
【0010】
第2流入路330は、水素タンク200と開閉弁部360とを連通させている。開閉弁部360は、第2流入路330から第2流出路340への水素ガスの流入を開始および停止させる機能を有している。開閉弁部360は、例えば、ソレノイドによって駆動される電磁弁として構成されている。第2流出路340は、開閉弁部360と第2配管410とを連通させている。
【0011】
水素充填口100に供給された水素ガスは、第1配管110、第1流入路310、逆止弁部350、および、第1流出路320をこの順に流れて、水素タンク200に貯蔵される。水素タンク200に貯蔵された水素ガスは、第2流入路330、開閉弁部360、第2流出路340、および、第2配管410をこの順に流れて、燃料電池400に供給される。
【0012】
図2は、本実施形態における逆止弁部350の構成を示す断面図である。本実施形態における逆止弁部350は、ハウジング20と、弁体60と、バネ70とを備えている。ハウジング20は、弁体収容空間41を有している。本実施形態では、弁体収容空間41は、中心軸CL1を中心とする円柱状に構成されている。以下の説明では、弁体収容空間41の中心軸CL1に沿った方向のことを軸方向ADと呼び、弁体収容空間41の中心軸CL1を中心とする円の半径に沿った方向のことを径方向RDと呼び、弁体収容空間41の中心軸CL1を中心とする円の円周に沿った方向のことを周方向CDと呼ぶ。
【0013】
ハウジング20は、弁体収容空間41を囲む内壁面の一端に、流入穴31と弁座35とを有している。流入穴31は、第1流入路310の端部を構成している。弁座35は、流入穴31の開口部を囲むように設けられている。ハウジング20は、弁体収容空間41を囲む内壁面の他端に、流出穴51とバネ支持面55とを有している。流出穴51は、第1流出路320の端部を構成している。本実施形態では、バネ支持面55は、流入穴31の開口部を囲むように設けられている。
【0014】
ハウジング20は、弁体収容空間41を囲む内壁面に、被摺動面45を有している。被摺動面45は、弁体60に摺動する面である。摺動とは、一方の物体が他方の物体に直接接触している状態において一方の物体が他方の物体の上を滑るように移動することだけではなく、一方の物体が他方の物体にグリスなどの潤滑剤を介して接触している状態において一方の物体が他方の物体の上を滑るように移動することをも含む意味である。本実施形態では、被摺動面45は、弁体収容空間41を囲む内壁面の側面部に設けられている。つまり、本実施形態では、被摺動面45は、弁体収容空間41の中心軸CL1を中心とする円筒状に構成されている。
【0015】
本実施形態では、ハウジング20は、第1部材30、第2部材40、および、第3部材50を含む複数の部材を組み合わせて構成されている。第2部材40には、貫通穴が設けられている。第1部材30は、第2部材40の貫通穴の一端を塞ぐように配置されており、圧入によって第2部材40に固定されている。第3部材50は、第2部材40の貫通穴の他端を塞ぐように配置されており、圧入によって第2部材40に固定されている。第1部材30と第3部材50とが第2部材40に固定されることによって、弁体収容空間41が形成されている。被摺動面45は、第2部材40に設けられている。流入穴31および弁座35は、第1部材30に設けられている。流出穴51およびバネ支持面55は、第3部材50に設けられている。本実施形態では、第2部材40および第3部材50は、アルミニウム合金で形成されており、第1部材30は、エステル系の樹脂材料で形成されている。
【0016】
弁体60は、弁体収容空間41に配置されている。弁体60は、中心軸CL2を中心とする軸状に構成されている。弁体60の中心軸CL2が弁体収容空間41の中心軸CL1に重なるように、弁体60が弁体収容空間41に配置されている。弁体60は、弁体収容空間41の中心軸CL1に沿って移動することができる。弁体60の先端部61が弁座35に接触することによって、流入穴31が閉塞される。弁体60の先端部61が弁座35から離れることによって、流入穴31が開放される。
【0017】
弁体60は、摺動面65を有している。摺動面65は、弁体60の外壁面のうち、被摺動面45に摺動する面である。本実施形態では、摺動面65は、弁体60のうちの先端部61と後端部62との間の拡径された部分に設けられており、弁体60の中心軸CL2を中心とする円筒状に構成されている。摺動面65の直径は、被摺動面45の直径よりも、例えば、数十マイクロメートルから数百マイクロメートル小さい。
【0018】
弁体60には、弁体60のうちの先端部61以外の部分が中空に構成されることによって、内部流路68が設けられている。弁体60のうちの先端部61と摺動面65との間の側面部には、弁体収容空間41と内部流路68とを連通させる連通穴69が設けられている。本実施形態では、弁体60は、ステンレス鋼で形成されている。
【0019】
バネ70は、弁体収容空間41に配置されている。バネ70は、弁体収容空間41の中心軸CL1に沿って伸縮する。バネ70は、弁体収容空間41から流入穴31に向かって弁体60を付勢している。つまり、バネ70は、弁体60を弁座35に向かって付勢している。本実施形態では、バネ70は、圧縮コイルバネである。バネ70の一端は、弁体60のうちの摺動面65と後端部62との間に設けられた段差部に接触しており、バネ70の他端は、バネ支持面55に接触している。なお、バネ70のことを弾性部材と呼ぶことがある。他の実施形態では、バネ70に代えて、例えば、エラストマで形成された弾性部材によって弁体60が弁座35に向かって付勢されてもよい。
【0020】
図3は、本実施形態における凹凸構造90の構成を示す第1の説明図である。図4は、本実施形態における凹凸構造90の構成を示す第2の説明図である。図5は、本実施形態における凹凸構造90の構成を示す第3の説明図である。図3には、図2において二点鎖線で囲まれたP部の部分拡大図が表されている。図3に示すように、本実施形態では、弁体60の摺動面65には、凹凸構造90が設けられている。凹凸構造90は、摺動面65の全域に設けられている。凹凸構造90は、複数の凹部95と、凹部95同士を隔てる凸部96とを有している。ハウジング20の被摺動面45には、凹凸が設けられておらず、被摺動面45は、滑らかな面として構成されている。なお、凹凸構造90のことを表面テクスチャリングと呼ぶことがある。
【0021】
図4には、図3とは異なる方向から視たP部の部分拡大図が表されている。本実施形態では、各凹部95は、径方向RDに沿った中心軸を有する円筒状の窪みとして構成されている。各凹部95の直径Dは、逆止弁部350に対して上流に配置されたフィルタ315の目の最大幅よりも大きい。図3に示す各凹部95の深さHは、フィルタ315の目の最大幅よりも大きい。後述するように、フィルタ315を通過した異物を凹部95に捕集しやすくするためには、各凹部95の直径Dは、フィルタ315の目の最大幅の2倍以上であることが好ましく、各凹部95の深さHは、フィルタ315の目の最大幅の2倍以上であることが好ましい。
【0022】
図4に示すように、凹凸構造90は、複数の凹部列91を有している。本実施形態では、例えば、数個から数千個の凹部列91を有している。各凹部列91は、周方向CDに沿って並ぶ複数の凹部95によって構成されている。各凹部列91は、軸方向ADにおける位置を互いに異ならせて配置されている。隣り合う凹部列91のうちの一方は、隣り合う凹部列91の他方を構成する凹部95とは周方向CDにおける位置の異なる凹部95を有している。本実施形態では、各凹部列91において、各凹部95は、等間隔に並んで配置されている。各凹部列91において、隣り合う凹部95のピッチL1は、凹部95の直径Dの3倍である。弁体60は、軸方向ADに沿って、凹部列91のピッチL2の3倍以上移動することができる。
【0023】
本実施形態では、レーザ加工によって、弁体60の摺動面65に複数の窪みが形成されることによって、凹凸構造90が形成されている。窪みが形成された部分が凹部95であり、窪みが形成されていない部分が凸部96である。なお、他の実施形態では、弁体60を製造するための金型に凹凸が設けられて、弁体60の製造時に、金型に設けられた凹凸が弁体60に転写されることによって、摺動面65に凹凸構造90が形成されてもよい。
【0024】
図5には、軸方向ADに垂直な投影面SCに投影された凹部95の投影像PJ1~PJ3,PJAが表されている。図5には、弁体60の先端部61側から1列目の凹部列91を投影面SCに投影することで得られる凹部95の投影像PJ1と、2列目の凹部列91を投影面SCに投影することで得られる凹部95の投影像PJ2と、3列目の凹部列91を投影面SCに投影することで得られる凹部95の投影像PJ3と、全ての凹部列91を投影面SCに投影することで得られる凹部95の投影像PJAとが表されている。本実施形態では、凹凸構造90は、全ての凹部95を軸方向ADに垂直な投影面SCに投影した場合に、全ての凹部95を投影面SCに投影することで得られる投影像PJAが周方向CDにおいて途切れずに環状に繋がるように構成されている。
【0025】
図3に示すように、摺動面65と被摺動面45との間には、グリス80が配置されている。本実施形態では、摺動面65にグリス80が塗布されており、摺動面65は、グリス80を介して被摺動面45に摺動する。本実施形態では、弁体収容空間41への弁体60の挿入に先立って、摺動面65にグリス80が塗布される。摺動面65にグリス80が塗布された弁体60が弁体収容空間41に挿入された後、例えば、数回、弁体60をバネ70に押し付ける慣らし運転が行われる。慣らし運転の終了後には、グリス80は、凸部96を覆っており、各凹部95に入り込んでいる。本実施形態では、後述するように、軸方向ADに沿って弁体60が移動することにより、グリス80の欠乏する部分に対して、凹部95に入り込んだグリス80を供給することができるので、摺動面65にグリス80を塗布するときのグリス80の膜厚の管理を簡易化できる。本実施形態では、グリス80は、フッ素系グリスである。なお、他の実施形態では、グリス80は、フッ素系グリスではなく、例えば、シリコーン系グリスやエステル系グリスでもよい。
【0026】
図6は、本実施形態における逆止弁部350が開閉する様子を示す断面図である。図2に示したように、水素充填口100に水素ガスが供給されていないときには、弁体60の先端部61が弁座35に接触している。なお、逆止弁部350において、弁体60の先端部61が弁座35に接触している状態のことを閉弁状態と呼ぶ。
【0027】
水素充填口100に水素ガスの供給が開始されると、水素ガスは、第1配管110と第1流入路310とをこの順に流れる。水素ガスに混入した異物は、第1流入路310に設けられたフィルタ315によって捕集される。弁体60の先端部61から後端部62に向かって水素ガスが弁体60を押す力が、弁体60の摺動面65とハウジング20の被摺動面45との間に働く摩擦力とバネ70が弁体60を弁座35に押し付ける力との合力を上回ると、図6に示すように、弁体60の先端部61が弁座35から離れて、弁体収容空間41に水素ガスが流入する。図6に破線で示すように、弁体収容空間41に流入した水素ガスは、弁体60に設けられた連通穴69と内部流路68とをこの順に流れて、流出穴51から水素タンク200に流れる。なお、逆止弁部350において、弁体60の先端部61が弁座35から離れている状態のことを開弁状態と呼ぶ。
【0028】
水素充填口100への水素ガスの供給が停止されると、弁体60がバネ70によって押し戻されて、図2に示すように、弁体60の先端部61が弁座35に接触する。そのため、水素タンク200から第1配管110や水素充填口100に水素ガスが逆流することが防止される。また、本実施形態では、摺動面65には凹凸構造90が設けられているので、流体動圧効果によって、摺動面65と被摺動面45との間に働く摩擦力を低減できる。
【0029】
以上で説明した本実施形態における弁構造体300によれば、逆止弁部350の弁体60の摺動面65には、凹凸構造90が設けられており、凹凸構造90は、軸方向ADにおける位置を互いに異ならせて配置された複数の凹部列91を有している。各凹部列91は、周方向CDに沿って並ぶ複数の凹部95によって構成されており、隣り合う凹部列91は、周方向CDにおける各凹部95の位置を互いに異ならせて配置されている。そのため、摺動面65と被摺動面45との間にて局所的なグリス80の欠乏が生じたとしても、軸方向ADに沿って弁体60が移動することにより、グリス80の欠乏する部分に対して、凹部95に入り込んだグリス80を供給することができる。さらに、弁構造体300では、フィルタ315を通過した異物が摺動面65と被摺動面45との間に入り込むことや、摺動面65や被摺動面45の摩耗によって摩耗粉が生じることがある。本実施形態では、隣り合う凹部列91が周方向CDにおける各凹部95の位置を互いに異ならせて配置されているので、軸方向ADに沿って弁体60が移動することによって、凸部96上に滞留する異物や摩耗粉を凹部95に捕集することができる。したがって、グリス80の欠乏や、異物や摩耗粉の滞留に起因して摺動面65と被摺動面45との間に働く摩擦力が増加することを抑制して、逆止弁部350の耐久性を向上させることができる。
【0030】
また、本実施形態では、凹凸構造90は、全ての凹部95を軸方向ADに垂直な投影面SCに投影した場合に、全ての凹部95を投影面SCに投影することで得られる投影像PJAが周方向CDにおいて途切れずに環状に繋がるように構成されている。そのため、グリス80の欠乏する部分への凹部95からのグリス80の供給漏れや、凹部95への異物や摩耗粉の捕集漏れが生じることを抑制できる。
【0031】
また、本実施形態では、各凹部95の直径Dがフィルタ315の目の最大幅の2倍以上になるように凹凸構造90が構成されている。そのため、異物がフィルタ315を通過したとしても、凹部95に異物を捕集しやすくできる。
【0032】
また、本実施形態では、各凹部95の深さHがフィルタ315の目の最大幅の2倍以上になるように凹凸構造90が構成されている。そのため、1つの異物によって凹部95が埋まって凹部95に異物を捕集する機能が失われることを抑制できる。
【0033】
また、本実施形態では、バネ70が弁体60を弁座35に向かって付勢している。水素ガスが弁体60を押す力と、摺動面65と被摺動面45との間に働く摩擦力とバネ70が弁体60を押し返す力との合力とが拮抗しているときには、弁体60が軸方向ADに沿って振動して弁座35に繰り返し衝突するチャタリングが発生しやすい。摺動面65にグリス80が満遍なく塗布されている場合には、水素ガスが弁体60を押す力が比較的小さいとき、つまり、水素充填口100に供給される水素ガスの流量が比較的小さいときに、チャタリングが生じやすい。しかしながら、グリス80が局所的に欠乏した場合や、摺動面65や被摺動面45に異物や摩耗粉が付着した場合には、摺動面65が被摺動面45から受ける摩擦力が増加するので、チャタリングが生じる水素ガスの流量の下限値が高くなって、チャタリングが生じやすくなる。本実施形態では、上述したとおり、グリス80の欠乏や、摺動面65や被摺動面45に異物や摩耗粉が付着することに起因して摺動面65と被摺動面45との間に働く摩擦力が増加することを抑制できるので、チャタリングが生じやすくなることを抑制できる。
【0034】
B.第2実施形態:
図7は、第2実施形態における凹凸構造90bの構成を示す説明図である。第2実施形態では、凹凸構造90bの各凹部95bの開口形状が円形ではなく、周方向CDに沿った長手方向を有する長円形であることが第1実施形態とは異なる。その他の構成については、特に説明しない限り、第1実施形態と同じである。
【0035】
この形態の凹凸構造90bによっても、グリス80の欠乏や、異物や摩耗粉の滞留に起因して摺動面65と被摺動面45との間に働く摩擦力が増加することを抑制できるので、チャタリングが生じやすくなることを抑制できる。なお、軸方向ADにおける凹部95bの幅Wa、および、周方向CDにおける凹部95bの幅Wcは、フィルタ315の目の最大幅の2倍以上であることが好ましい。なお、他の実施形態では、各凹部95bの開口形状は、周方向CDに沿った長手方向を有する長円形ではなく、軸方向ADに沿った長手方向を有する長円形であってもよい。
【0036】
C.第3実施形態:
図8は、第3実施形態における凹凸構造90cの構成を示す説明図である。第3実施形態では、凹凸構造90cの凹部95cの開口形状が円形ではなく、四角形であることが第1実施形態とは異なる。その他の構成については、特に説明しない限り、第1実施形態と同じである。
【0037】
この形態の凹凸構造90cによっても、グリス80の欠乏や、異物や摩耗粉の滞留に起因して摺動面65と被摺動面45との間に働く摩擦力が増加することを抑制できるので、チャタリングが生じやすくなることを抑制できる。なお、軸方向ADにおける凹部95cの幅Wa、および、周方向CDにおける凹部95cの幅Wcは、フィルタ315の目の最大幅の2倍以上であることが好ましい。
【0038】
D.第4実施形態:
図9は、第4実施形態における凹凸構造90dの構成を示す説明図である。第4実施形態では、凹凸構造90dの凹部95dの開口形状が円形ではなく、三角形であることが第1実施形態とは異なる。その他の構成については、特に説明しない限り、第1実施形態と同じである。
【0039】
この形態の凹凸構造90dによっても、グリス80の欠乏や、異物や摩耗粉の滞留に起因して摺動面65と被摺動面45との間に働く摩擦力が増加することを抑制できるので、チャタリングが生じやすくなることを抑制できる。なお、軸方向ADにおける凹部95dの幅Wa、および、周方向CDにおける凹部95dの幅Wcは、フィルタ315の目の最大幅の2倍以上であることが好ましい。本実施形態のように、凹部95dの開口形状が三角形である場合には、三角形の内接円の直径がフィルタ315の目の最大幅の2倍以上であることがさらに好ましい。
【0040】
E.他の実施形態:
(E1)上述した各実施形態の弁構造体300では、凹凸構造90~90dは、弁体60の摺動面65に設けられている。これに対して、凹凸構造90~90dは、ハウジング20の被摺動面45に設けられてもよい。この場合でも、グリス80の欠乏や、異物や摩耗粉の滞留に起因して摺動面65と被摺動面45との間に働く摩擦力が増加することを抑制できるので、チャタリングが生じやすくなることを抑制できる。また、摺動面65と被摺動面45との両方に凹凸構造90~90dが設けられてもよい。例えば、摺動面65のうちの流入穴31側の部分には凹凸構造90~90dが設けられ、摺動面65のうちの流出穴51側の部分は滑らかに構成され、被摺動面45のうちの摺動面65の凹凸構造90~90dに向かい合う部分は滑らかに構成され、被摺動面45のうちの摺動面65の凹凸構造90~90dに向かい合わない部分には凹凸構造90~90dが設けられてもよい。
【0041】
(E2)上述した各実施形態の弁構造体300では、凹凸構造90~90dは、全ての凹部95~95dを軸方向ADに垂直な投影面SCに投影した場合に、全ての凹部95~95dを投影面SCに投影することで得られる投影像PJAが周方向CDにおいて途切れずに環状に繋がるように構成されている。これに対して、凹凸構造90~90dは、全ての凹部95~95dを軸方向ADに垂直な投影面SCに投影した場合に、全ての凹部95~95dを投影面SCに投影することで得られる投影像PJAが周方向CDにおいて途切れずに環状に繋がるように構成されていなくてもよい。
【0042】
(E3)上述した各実施形態の弁構造体300では、凹部95の直径Dや周方向CDにおける凹部95b~95dの幅Wcは、フィルタ315の目の最大幅の2倍以上である。これに対して、凹部95の直径Dは、フィルタ315の目の最大幅の2倍未満でもよいし、周方向CDにおける凹部95b~95dの幅Wcは、2倍未満でもよい。
【0043】
(E4)上述した各実施形態の弁構造体300では、凹部95~95dの深さHは、フィルタ315の目の最大幅の2倍以上である。これに対して、凹部95~95dの深さHは、フィルタ315の目の最大幅の2倍未満でもよい。
【0044】
(E5)上述した各実施形態の弁構造体300では、第1流入路310にフィルタ315が設けられている。これに対して、第1流入路310にフィルタ315が設けられていなくてもよい。
【0045】
(E6)上述した各実施形態の弁構造体300では、弁体60がバネ70によって弁座35に向かって付勢されている。これに対して、弁体60がバネ70などの弾性部材によって弁座35に向かって付勢されていなくてもよい。例えば、モータによって弁体60が軸方向ADに沿って移動するように構成されてもよい。この場合には、チャタリングは問題とならないが、異物や摩耗粉の滞留に起因して摺動面65と被摺動面45との間に働く摩擦力が増加することを抑制できるので、モータの消費電力を低減できる。
【0046】
(E7)上述した各実施形態の弁構造体300は、第1流入路310と、逆止弁部350と、第1流出路320と、第2流入路330と、開閉弁部360と、第2流出路340とを備えている。これに対して、弁構造体300は、第2流入路330と、開閉弁部360と、第2流出路340とを備えていなくてもよい。
【0047】
(E8)上述した各実施形態では、弁構造体300の内部を水素ガスが流れる。これに対して、弁構造体300の内部を水素ガス以外の流体が流れてもよい。
【0048】
(E9)上述した各実施形態では、水素タンク200の口金に設けられた弁構造体300の逆止弁部350に、凹凸構造90~90dが設けられている。これに対して、例えば、水素充填口100に逆止弁が設けられて、この逆止弁の弁体の摺動面、あるいは、弁体を収容するハウジングの被摺動面に、凹凸構造90~90dと同様の凹凸構造が設けられてもよい。
【0049】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
10…燃料電池車両、20…ハウジング、30…第1部材、31…流入穴、35…弁座、40…第2部材、41…弁体収容空間、45…被摺動面、50…第3部材、51…流出穴、55…バネ支持面、60…弁体、61…先端部、62…後端部、65…摺動面、68…内部流路、69…連通穴、70…バネ、80…グリス、90…凹凸構造、91…凹部列、95…凹部、96…凸部、100…水素充填口、110…第1配管、200…水素タンク、300…弁構造体、310…第1流入路、315…フィルタ、320…第1流出路、330…第2流入路、340…第2流出路、350…逆止弁部、360…開閉弁部、400…燃料電池、410…第2配管
図1
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図7
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図9