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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079785
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】スクリュ圧縮機の漏出油回収構造
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/02 20060101AFI20230601BHJP
   F04C 27/00 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
F04C29/02 351D
F04C27/00 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193420
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000241795
【氏名又は名称】北越工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】弁理士法人小倉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 翔
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA03
3H129AA17
3H129AB01
3H129BB16
3H129CC19
3H129CC44
3H129CC45
(57)【要約】      (修正有)
【課題】軸封部からの漏出油を効率的に回収することができるスクリュ圧縮機の漏出油回収構造を提供する。
【解決手段】ケーシングに設けた軸孔32と駆動軸20間を軸封装置60によって封止し,該軸封装置60に対しケーシングの外側寄りで駆動軸20の周囲に,軸封装置60より漏出した潤滑油を回収する油回収空間34を設ける。駆動軸20には,軸封装置60側に小径部Nd,ケーシング外側寄りに大径部Wdが設けられ,小径部Ndと大径部Wdの境界23が油回収空間34内に配置されていると共に,この境界23における大径部Wdの端面23aより突出する円筒状の反し部24を設け,小径部Ndの端部外周をこの反し部24で包囲して油溜まり26が形成されている。この反し部24の先端24a側には,先端24a側に向かい徐々に内径を広げる形状の傾斜部25が設けられている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングに設けた軸孔の内周と,前記軸孔に挿入される駆動軸の外周間の間隔を,軸封装置によって封止した軸封部を有するスクリュ圧縮機の漏出油回収構造において,
前記軸封装置に対し前記ケーシングの外側寄りの位置における前記駆動軸の周囲に,前記軸封装置より漏出した潤滑油を回収する油回収空間を設け,
前記駆動軸に,前記軸封装置側に配置される小径部と,該小径部の外径よりも大径で,かつ,前記ケーシング外側寄りに配置される大径部を連続して設け,前記小径部と前記大径部の境界を前記油回収空間内に配置すると共に,前記境界における前記大径部の端面に,先端を前記軸封装置側に向けて突出する円筒状の反し部を設け,前記小径部の前記大径部側の端部外周を所定の間隔を介して前記反し部によって包囲することで,前記反し部の内周面と,前記反し部で包囲された部分の前記小径部の外周面間に油溜まりを形成し,
前記反し部の前記先端から所定の範囲に,前記端面側から前記先端側に近付くに従い徐々に内径を広げる形状の傾斜部を設けたことを特徴とするスクリュ圧縮機の漏出油回収構造。
【請求項2】
前記反し部に設けた前記傾斜部を,前記先端に向かって徐々に肉厚を薄くするテーパ形状に形成したことを特徴とする請求項1記載のスクリュ圧縮機の漏出油回収構造。
【請求項3】
上端を前記油回収空間の底部に連通させた排出流路を設け,
前記油回収空間に対する前記排出流路の連通口を,前記駆動軸の軸線と直交し,且つ,前記反し部の前記先端を通る垂線上で開口させたことを特徴とする請求項1又は2記載のスクリュ圧縮機の漏出油回収構造。
【請求項4】
駆動軸本体に円筒状部材を外嵌することにより前記大径部を形成すると共に,該円筒状部材に前記反し部を設けたことを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載のスクリュ圧縮機の漏出油回収構造。
【請求項5】
前記大径部の前記端面側においてシール材を前記小径部の外周面と前記反し部の内周面間に挟持させたことを特徴とする請求項4記載のスクリュ圧縮機の漏出油回収構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスクリュ圧縮機の漏出油回収構造に関し,より詳細には,圧縮機本体のケーシングを貫通する軸孔と,該軸孔内に挿入された駆動軸,及び前記軸孔と駆動軸間の隙間を封止する軸封装置を備えた軸封部を有するスクリュ圧縮機において,前記軸封部からの漏出油を回収するための漏出油回収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリュ圧縮機100の構成例を図6に基づいて説明すると,スクリュ圧縮機100は,図示せざるモータやエンジン等の駆動源で発生した回転駆動力によってケーシング130内に形成されたロータ室131内に収容されたスクリュロータ110,111を回転させるために,ケーシング130を貫通する軸孔132と,この軸孔132を介してケーシング130内外を連通する駆動軸120を備えている。
【0003】
図示の例では,オスロータ110又はメスロータ111のいずれか一方(図示の例ではオスロータ110)の吸入側に設けたロータ軸を駆動軸本体121とし,この駆動軸本体121のケーシング130外に突出した端部側にプーリやスプロケット,ギヤ,カップリング等の動力伝達手段122(図示の例ではプーリ)を取り付けてエンジンやモータなどの駆動源(図示せず)の回転駆動力をスクリュロータ110,111に伝達する駆動軸120としている。
【0004】
このように,駆動軸120が挿入される軸孔132は,ケーシング130内外を貫通する貫通孔として形成されていることから,この軸孔132を介してスクリュ圧縮機100内で圧縮された気体や潤滑油等が機外に漏出することがないよう,軸孔132の内周と駆動軸120の外周間の隙間は,軸封装置160によってシールされている。
【0005】
このような軸封装置160としては,オイルシールやメカニカルシール等の接触式の軸封装置(図示の例ではオイルシール161)が広く使用されていることから,軸封装置160がオイルシール161である場合には駆動軸120の外周と摺接するシールリップ部を潤滑するために,メカニカルシールである場合には固定リングと回転リングとの摺接面を潤滑するために,いずれの場合にも微量の潤滑油を供給して潤滑する必要がある。
【0006】
そのため,前述した軸封装置160がメカニカルシールである場合には,メカニカルシールの摺接部の潤滑に使用した微量の潤滑油が継続的に機外に漏出することとなり,特に,経時に伴い軸封装置160の摺接面の摩耗や傷の発生等により漏出する潤滑油量も増加する。
【0007】
また,前述した軸封装置160がオイルシール161である場合,オイルシール161によって通常時は潤滑油の漏出は防止されているものの,経時による摺動面の摩耗やキズの発生により潤滑油の漏出が生じ得る。
【0008】
このように,軸封装置160を設けることによっても微量の潤滑油の漏出が起こり得ることから,潤滑油の漏出位置にある動力伝達手段122や,その周辺にある機器が潤滑油によって汚染される等の不都合が生じ得る。
【0009】
また,機外に漏出することによって潤滑油の循環系内より潤滑油が失われるため,潤滑油の漏出量が増えれば,失われた分の潤滑油を循環系に対し頻繁に補充する必要性がある等,メンテナンスの面でも煩雑である。
そのため,軸封装置160より漏出した潤滑油が,更に機外に漏出する前に回収する回収構造を備えたスクリュ圧縮機100も提案されている。
【0010】
このような潤滑油の回収構造を備えたスクリュ圧縮機100の一例として,後掲の特許文献1には,図6及び図7に示すように,軸封装置160に対しケーシング130の外側寄りの位置における前記駆動軸120の周囲に,軸封装置160より漏出した潤滑油を回収する油回収空間134を設ける構成を採用する。
【0011】
そして,図7に示すように,この油回収空間134内に配置される部分の駆動軸120のうち,軸封装置160側に配置される部分を相対的に外径の小さな小径部Ndと成すと共に,ケーシング130外側寄りに配置される部分を相対的に外径が大きい大径部Wdとして,油回収空間134内に前記小径部Ndと大径部Wdの境界部分に生じた段差部123を配置する構成が採用されており,図示の例では,駆動軸本体121のうち軸封装置160(オイルシール161)のリップが摺接される位置に設けたカーラー121aの取り付け部分を前述の小径部Ndと成すと共に,動力伝達手段122(プーリ)のボス部の取り付け部分を前述の大径部Wdとすることで,新たな部品の追加や駆動軸本体121の新たな加工等を行うことなく,前述した段差部123を設けることができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2014-145315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上で説明した従来の漏出油回収構造を備えたスクリュ圧縮機100のように,駆動軸120のうち油回収空間134内に配置された部分に前述の段差部123を設けた構成では,軸封装置160より漏出した潤滑油が駆動軸120の外周(小径部Ndの外周)を伝って機外側に移動しても,この潤滑油は段差部123に衝突することで駆動軸120の軸線方向への移動が規制される。
【0014】
そして,段差部123に到達した潤滑油は,駆動軸120の回転に伴う遠心力を受けて小径部Ndとの境界を成す大径部Wdの端面123aを伝って駆動軸120の軸線方向に対し直交方向へとその移動方向を変え,端面123aの外周縁に至ると油滴となって駆動軸の外周方向に飛散することで,段差部123において駆動軸120の油切りが行われる。
【0015】
その結果,軸封装置160より漏出して駆動軸120の表面を伝って機外側へ移動する潤滑油は,段差部123においてその大部分が油回収空間134内に回収されることで機外に対する潤滑油の漏出が防止されている。
【0016】
また,油回収空間134に回収された潤滑油を,油回収空間134に連通された排出流路135を介して潤滑油の循環系内に戻すことで,循環系内より失われる潤滑油の量を減少させることで,潤滑油の補充頻度を減らすことができる等,メンテナンス面においても優れたものとすることができる。
【0017】
このように,前掲の特許文献1に記載の漏出油回収構造では,軸封装置160より漏出した潤滑油を効率的に回収することができるものとなっている。
【0018】
しかし,このような漏出油回収構造を備えたスクリュ圧縮機100であっても,駆動軸120を伝った潤滑油の漏出を完全に防止することができず,依然として僅かながら潤滑油が機外へ漏出してプーリなどの動力伝達手段122や周辺機器を汚す事例が確認されており,潤滑油の機外への漏出防止という課題を完全には解消することができるものではなかった。
【0019】
そこで,前述したように油回収空間134内の駆動軸120に段差部123を設けた構成においても依然として機外に潤滑油が漏出する原因を検討したところ,以下のようにして段差部123を超えて大径部Wdの表面に到達した潤滑油が機外に漏出しているものと考えられる。
【0020】
すなわち,軸封装置160を通過して駆動軸120の段差部123に至った潤滑油は,遠心力の作用によってその殆どが大径部Wdの端面123aを伝って外周方向に飛散されることで駆動軸120の表面より除去されるものの,この遠心力の作用によっても粘性流体である潤滑油を駆動軸120の表面より完全には除去することができず,駆動軸120の表面に僅かに残った潤滑油が依然として段差部123を超えて大径部Wdの表面に到達しているものと考えられる。
【0021】
また,スクリュ圧縮機100の停止時,駆動軸120の小径部Nd外周に付着していた潤滑油は自重によって下方に流下するが,このとき,段差部123の下端角部が駆動軸120中で最も低い位置となるため,駆動軸120の表面を流下した潤滑油は,段差部123の下端角部に溜まる。
【0022】
このようにして段差部123の下端角部に溜まった潤滑油の大部分は油滴として下方に落下するものの,段差部123の下端角部の下側を回り込んで大径部Wdの表面に到達する潤滑油が僅かながら存在するものと考えられる。
【0023】
このように,図6及び図7を参照して説明した漏出油回収構造を備えたスクリュ圧縮機100では,潤滑油の機外への漏出を完全には防止できるものとなっておらず,軸封装置160より漏出した潤滑油をより確実に油回収空間134内で回収して,機外への漏出を防止できる漏出油回収構造の開発が要望されている。
【0024】
なお,図6及び図7を参照して行った説明では,漏出油回収構造をオス又はメスのいずれか一方のスクリュロータ110,111のロータ軸(図示の例ではオスロータ110のロータ軸)が貫通する軸孔132に設ける構成について説明した。
【0025】
しかし,例えばスクリュ圧縮機100が駆動ギヤと従動ギヤから成る増速装置を備える場合のように,ロータ軸を直接ケーシング外に突設せず,増速装置を介してロータ軸に連結された駆動軸をケーシング外に突設した構成では,このような増速装置に設けた駆動軸がケーシングを貫通する部分についても同様に軸封装置を設けて封止を行う必要があると共に,この軸封装置より漏出した潤滑油についても漏出油回収構造を設けて回収する必要があり,前述した従来技術の問題は,図示の例に限定されず,スクリュ圧縮機のケーシングを貫通して設けられた軸孔における軸封部全般に生じ得る。
【0026】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するために成されたものであり,ケーシングを貫通して設けられたスクリュ圧縮機の軸孔に設けた軸封部において,軸封装置を通過した潤滑油を効率的に回収することで機外への漏出をより確実に防止することのできるスクリュ圧縮機の軸封部における漏出油回収構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするために記載したものであり,言うまでもなく,本発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0028】
上記目的を達成するために,本発明の漏出油回収構造は,
ケーシング30に設けた軸孔32の内周と,前記軸孔32に挿入される駆動軸20の外周間の間隔を,軸封装置60によって封止した軸封部を有するスクリュ圧縮機1の漏出油回収構造において,
前記軸封装置60に対し前記ケーシング30の外側寄りの位置における前記駆動軸20の周囲に,前記軸封装置60より漏出した潤滑油を回収する油回収空間34を設け,
前記駆動軸20に,前記軸封装置60側に配置される小径部Ndと,該小径部Ndの外径よりも大径で,かつ,前記ケーシング30外側寄りに配置される大径部Wdを連続して設け,前記小径部Ndと前記大径部Wdの境界23を前記油回収空間34内に配置すると共に,前記境界23における前記大径部Wdの端面23aに,先端24aを前記軸封装置60側に向けて突出する円筒状の反し部24を設け,前記小径部Ndの前記大径部Wd側の端部外周を所定の間隔を介して前記反し部24によって包囲することで,前記反し部24の内周面と,前記反し部24で包囲された部分の前記小径部Ndの外周面間に油溜まり26を形成し,
前記反し部24の前記先端24aから所定の範囲に,前記端面23a側から前記先端24a側に近付くに従い徐々に内径を広げる形状の傾斜部25を設けたことを特徴とする(請求項1)。
【0029】
前記反し部24に設けた前記傾斜部25は,前記先端24aに向かって徐々に肉厚を薄くするテーパ形状に形成することができる(請求項2)。
【0030】
上端を前記油回収空間34の底部に連通させた排出流路35を設け,
前記油回収空間34に対する前記排出流路35の連通口35aを,前記駆動軸20の軸線と直交し,且つ,前記反し部24の前記先端24aを通る垂線VL上で開口させるものとしても良い(請求項3)。
【0031】
駆動軸本体21に,プーリやスプロケット,ギヤ,カップリング等の動力伝達手段のボスである円筒状部材22(図1~4参照)や,スペーサ等の円筒状部材22’(図5参照)を外嵌することにより前記大径部Wdを形成すると共に,該円筒状部材22,22’に前記反し部24を設けるものとしても良い(請求項4)。
【0032】
このように円筒状部材22,22’の取り付けにより大径部Wdを形成する場合,前記大径部Wdの前記端面23a側,好ましくは該端面23aと接触させた状態でOリングなどのシール材28を前記小径部Ndの外周面と前記反し部24の内周面間に挟持させることが好ましい(請求項5:図4参照)。
【発明の効果】
【0033】
以上で説明した本発明の漏出油回収構造を備えたスクリュ圧縮機1では,以下の効果を得ることができた。
【0034】
図6及び図7を参照して説明した従来の漏出油回収構造では,軸封装置160を通過した潤滑油は,駆動軸120の小径部Ndの外周面から大径部Wdの外周面に移動することで機外に漏出するものとなっていた。
【0035】
しかし,本発明の構成では,駆動軸20の小径部Ndと大径部Wdの境界23にある大径部Wdの端面23aより先端24aを軸封装置60に向けて突出する円筒状の反し部24を設けて小径部Ndの大径部Wd側の端部を,所定間隔を介して包囲することにより,反し部24の内周面と,反し部24で包囲された部分の小径部Ndの外周面間に油溜まり26を形成したことで,駆動軸20の小径部Ndの表面を伝って機外側へ移動する潤滑油があったとしても,この潤滑油は油溜まり26内に確実に捕集されることで,この油溜まり26を越えて更に大径部Wdの外周に到達することはできず,その結果,軸封装置60を通過した潤滑油が駆動軸20の表面を伝って機外側へ移動して漏出することを防止することができた。
【0036】
このようにして機外側への移動が規制され,油溜まり26内に捕集された潤滑油は,駆動軸20の回転に伴う遠心力によって反し部24の先端24aより油滴として外周方向に飛散することで駆動軸20表面より潤滑油が除去されると共に,駆動軸20の表面より除去された潤滑油は油回収空間34内に回収され,油回収空間34内に回収された潤滑油は,排出流路35を介して,例えば潤滑油の循環系(図示せず)等に回収することができる。
【0037】
しかも,油溜まり26は軸封装置60側(ケーシングの内側)に向いて開口しているため,油溜まり26より排出されて飛散する油滴は,ケーシング外の空間と連通する隙間Δとは反対側に飛散することで,飛散した油滴が隙間Δを介して漏出することもない。
【0038】
反し部24の先端24a側の所定の範囲の内周面は,先端24a側に向かって徐々に内径を広げる傾斜形状を有する傾斜部25とされていることから,油溜まり26内に捕集された潤滑油は,遠心力を受けた際にこの傾斜部25の傾斜に案内されて反し部24の先端24a側に円滑に移動することで,油溜まり26からの潤滑油の排出についても容易に行うことができた。
【0039】
特に,傾斜部25を,先端24aに向かうに従い肉厚を減じるテーパ状とした構成では,反し部24はその先端24aにおいて最も薄肉となることで,反し部24の先端24aに至った潤滑油は,この部分において張力を発揮できずに油滴となって飛散することで油切れ性を向上させることができ,これにより,漏出した潤滑油を,より一層円滑に回収できるものとなっている。
【0040】
また,軸封装置60を通過して小径部Ndの外周面と反し部24の内周面間に形成された油溜まり26に捕集されていた潤滑油は,スクリュ圧縮機1が停止して駆動軸20が回転を停止すると自重により下方に流下するが,このような潤滑油の移動に際しても,潤滑油は,油溜まり26を越えて大径部Wdに到達することができず,駆動軸20が回転を停止した際に最下部に配置された反し部24の先端部分より油滴として落下する。
【0041】
最下部に配置された反し部24の傾斜部25は,先端24a側に向かって下向きに傾斜した形状となるため,このようにして自重によって流下する場合にも,潤滑油は反し部24の先端24a側から円滑に排出されて油回収空間34に回収できるようになっている。
【0042】
また,傾斜部25を先端24aに行くに従い肉薄となるテーパ形状に形成した構成では,このような自重により落下する潤滑油の油切れ性についても向上させることができた。
【0043】
前記駆動軸20の軸線と直交し,前記反し部24の前記先端24aを通る垂線VL上で,油回収空間34の底部に連通する排出流路35を開口させた構成では,反し部24の先端24aから滴下した潤滑油を,直接,排出流路35内に落下させることができ,油回収空間34からの潤滑油の排出についても極めて円滑に行うことができた。
【0044】
なお,前述した大径部Wdを,駆動軸本体21に外嵌した円筒状部材22,22’によって形成する構成では,駆動軸本体21を直接加工する必要がなく,予め反し部24を形成しておいた円筒状部材22,22’を取り付けるだけで駆動軸20に反し部24を容易に設けることができた。
【0045】
また,前記大径部Wdの前記端面23a側においてOリング等のシール材28を前記小径部Ndの外周面と前記反し部24の内周面間に挟持させた構成では,大径部Wdを前述した円筒状部材22,22’の取り付けによって形成した場合であっても,軸封装置60を通過した潤滑油が,駆動軸本体21と前記円筒状部材22,22’間の隙間を介して機外側に漏出することも防止できた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の漏出油回収構造を備えたスクリュ圧縮機の縮尺断面図。
図2図1の矢示II部分の拡大図。
図3】軸封部の要部拡大図。
図4図3の変形例(シール材を追加した構成)を示す要部拡大図。
図5図3の別の変形例(スペーサを大径部とした構成)を示す要部拡大図。
図6】従来の漏出油回収構造を備えたスクリュ圧縮機の縮尺断面平面図(特許文献1の図1に対応)。
図7図6のスクリュ圧縮機の軸封部の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0047】
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら説明する。
【0048】
図1において符号1は,軸封部に本発明の漏出油回収構造を備えたスクリュ圧縮機であり,このスクリュ圧縮機1は,オスロータ10及びメスロータ11(メスロータ11はオスロータ10の紙面裏側に隠れている)から成る一対のスクリュロータと,このスクリュロータ10,11を噛み合い状態で収容するロータ室31を備えたケーシング30を備えている。
【0049】
このケーシング30の吸入側の端部には,オスロータ10のロータ軸21を受け入れてケーシング30外に突出させるための貫通孔である軸孔32が形成されていると共に,この軸孔32内に,オスロータのロータ軸21を,図示せざる駆動源からの回転駆動力を入力するための駆動軸本体21として挿入している。
【0050】
ケーシング30に設けた軸孔32に挿入された駆動軸本体21は,軸孔32内に設けられた軸受33によって回転可能に軸承されていると共に,該軸受33に対し機外側の位置において駆動軸20の外周と軸孔32の内周間が,オイルシールやメカニカルシールなど既知の軸封装置60によって封止されている。
【0051】
この軸封装置60に対しケーシング30の外側寄りの位置には,軸封装置60を介して漏出した潤滑油を回収するための,油回収空間34を前記軸孔32内に周方向に連続して形成している。
【0052】
この油回収空間34には,図2及び図3に示すように,その底部において排出流路35が連通されており,この排出流路35を介して油回収空間34に回収された潤滑油を排出することができるように構成されている。
【0053】
前述の駆動軸20には,軸封装置60側に相対的に小さな外径を有する小径部Ndが設けられていると共に,ケーシング30の外側寄りには,前記小径部Ndに対し相対的に大きな外径を有する大径部Wdが設けられており,この小径部Ndと大径部Wdの境界23が,前述の油回収空間34内に収容されている。
【0054】
この小径部Ndと大径部Wdは,いずれか一方,又は双方共に切削加工等により駆動軸本体21の外周に直接形成するものとしても良いが,本実施形態では,軸封装置60であるオイルシール61のリップとの接触部分にカーラー21aを取り付けてこのカーラー21aの取り付け部分を小径部Ndとした。
【0055】
また,本実施形態では,駆動軸本体21に円筒状部材22,22’を外嵌することによりこの円筒状部材22,22’を取り付けた部分を前述の大径部Wdとした。
【0056】
この大径部Wdは,図1図4に示すように,例えば駆動軸本体21の端部に取り付けたプーリや,スプロケット,ギヤ,カップリング等の動力伝達手段のボス部(図1に示す実施形態にあってはプーリのボス部)を前述の円筒状部材22としてこの部分を大径部Wdとすることができ,または,図5に示すように,小径部Ndと動力伝達手段のボス部の間で駆動軸本体21に円筒状のスペーサを取り付け,このスペーサを円筒状部材22’としてこの部分を大径部Wdとすることもできる。
【0057】
この大径部Wdの端面23aには,先端24aを軸封装置60側に向けて突出する円筒状の反し部24が設けられており,この反し部24によって,前述の小径部Ndの大径部Wd側の端部外周が所定間隔を介して包囲されることで,反し部24の内周面と,反し部24で包囲された部分の小径部Ndの外周面間に油溜まり26が形成されている。
【0058】
この反し部24の先端24aから所定の範囲は,先端24a側に近付くに従い徐々に内径を広げる形状に形成されており,これにより反し部24の先端24a側の内周面が駆動軸20の軸線方向に傾斜する,傾斜部25が設けられている。
【0059】
図示の実施形態では,この傾斜部25を,先端24aから反し部24の全長の1/2程度の範囲に設けているが,この構成に限定されず,傾斜部25は反し部24のより広い範囲又は狭い範囲に形成するものとしても良く,または,反し部24の全長に亘って傾斜部を形成するものとしても良い。
【0060】
このように反し部24に傾斜部25を設けることで,小径部Ndの外周面と反し部24の内周面間に形成された油溜まり26に捕集された潤滑油は,駆動軸20の回転時,遠心力を受けた際に傾斜面に案内されて反し部24の先端24a側に円滑に移動する。
【0061】
図示の実施形態では,前述の傾斜部25の形成部分も含めて反し部24の外径をその全長に亘り大径部Wdの外径と同一径としており,これにより前述の傾斜部25の形成部分において,反し部24は先端24aに向かうに従い徐々に薄肉となるテーパ形状となっている。
【0062】
しかしながら,反し部24の形状はこれに限定されず,反し部24を大径部Wdの外径よりも小さな外径で形成するものとしても良く,また,反し部24の外径は必ずしも一定径である必要はなく,例えば傾斜部25の形成位置において先端24a側に向かうに従い徐々に外径を拡大する形状に形成するものとしても良い。
【0063】
なお,傾斜部25を前述したテーパ形状として反し部24の先端24aを薄肉とする構成の採用は,反し部24の先端24aに到達した潤滑油が張力を発揮し難くなることで反し部24の先端24aにおける油切れ性を向上させることができる点で好ましい。
【0064】
前述したように油回収空間34の底部で開口する排出流路35を設けた構成では,好ましくは図2図5に示すように駆動軸20の軸線と直交すると共に反し部24の先端24aを通る垂線VL上で排出流路35の連通口35aが油回収空間34内で開口するように,反し部24の先端24a位置を設計する。
【0065】
このように構成することで,スクリュ圧縮機1の停止時に反し部24の先端24aより下方に滴下した潤滑油を,排出流路35内に直接導入することができ,油回収空間34からの潤滑油の排出を極めて円滑に行うことができる。
【0066】
この排出流路35の他端は,ケーシング30外に配置された回収容器(図示せず)に連通して油回収空間34内に回収された潤滑油をこの回収容器に回収するよう構成するものとしても良いが,スクリュ圧縮機1が圧縮作用空間の潤滑,冷却及び密封のために,潤滑油と共に被圧縮気体を圧縮する油冷式のスクリュ圧縮機である場合,排出流路35の他端をスクリュ圧縮機1の吸入側に連通して,油回収空間34に回収された潤滑油を,吸入側を介して圧縮作用空間内に導入するようにしても良く,このように構成することで,軸封装置60より漏出した潤滑油を再度,潤滑油の循環系に戻すことができ,潤滑油の循環系より失われる潤滑油量を減少させて潤滑油の補充サイクルを長くしてメンテナンス性を向上させることができる。
【0067】
なお,図1図4を参照して説明した実施形態では,大径部Wdを成す円筒状部材22を,駆動軸本体21に取り付けた動力伝達手段(プーリ)のボスによって形成した例を示したが,この構成に代えて,図5に示すように,動力伝達手段のボスと,小径部Ndを成すカーラー21aの間に,別途,前述した反し部24を備えたスペーサを取り付け,このスペーサを円筒状部材22’として大径部Wdを形成するものとしても良い。
【0068】
このように構成することで,既にカーラー21aと動力伝達手段のボス間にスペーサが取り付けられているスクリュ圧縮機1にあっては,既設のスペーサを,反し部24を備えたスペーサに交換するだけで,本発明の漏出油回収構造を備えたスクリュ圧縮機を得ることができる。
【0069】
このように,駆動軸本体21に動力伝達部材のボス(図1~4参照)やスペーサ(図5参照)などの円筒状部材22,22’を外嵌して大径部Wdとした構成では,図4に示すように大径部Wdの端面23a寄りの位置,好ましくは端面23aと接触させた状態でOリング等のシール材28を小径部Ndの外周面と反し部24の内周面間に挟持させることが好ましい。このように構成することで,駆動軸本体21の外周と円筒状部材22,22’の内周間の隙間を介した潤滑油の漏出についても防止することができる。
【0070】
以上のように,軸封部に本発明の漏出油回収構造を備えたスクリュ圧縮機1では,前述の駆動軸20に対し図示せざるモータやエンジン等の駆動源からの回転駆動力を入力すると,オス,メス一対のスクリュロータ10,11が噛み合い回転を開始して,被圧縮流体の圧縮が開始される。
【0071】
駆動軸20の外周と軸孔32の内周間の間隔は,オイルシール61やメカニカルシール等の軸封装置60(図示の実施形態ではオイルシール61)によって潤滑油等が漏出しないようにシールされているが,このような軸封装置60では,摺接面の潤滑に潤滑油を必要とすることから,微量の潤滑油が軸封装置60より漏出して駆動軸20の表面を伝い,機外側に向かって移動する。
【0072】
しかし,本発明の漏出油回収構造を備えたスクリュ圧縮機1では,小径部Ndと大径部Wdの境界23には,小径部Ndの外周面と反し部24の内周面間に形成された油溜まり26が存在していることから,軸封装置60を通過した潤滑油は,この油溜まり26内に捕集されることで油溜まり26を越えて更に大径部Wdの外周面に到達することができず,機外への潤滑油の漏出が防止される。
【0073】
そして,油溜まり26に捕集された潤滑油は,駆動軸20の回転に伴う遠心力によって,反し部24の傾斜部25に形成された内周面の傾斜に案内されて反し部24の先端24a側に移動し,先端24aに至ると油滴となって外周方向に飛散して,油回収空間34内に回収される。
【0074】
特に,前述の傾斜部25を先端に向かって徐々に薄肉となるテーパ形状とした構成では,反し部24はその先端24aにおいて最も薄肉となっていることから,先端24aに移動した潤滑油は張力を維持できずに油滴を形成し易くなる。
【0075】
その結果,反し部24の先端24aの油切れ性が向上して,潤滑油の回収性を一層向上させることができる。
【0076】
一方,スクリュ圧縮機が停止すると,潤滑油に対する遠心力の作用が消失する一方,重力が作用して油溜まり26内に捕集されていた潤滑油は,自重により下方に移動するが,このような移動に際しても,潤滑油が油溜まり26を越えて大径部Wdの外周面に到達することはない。
【0077】
しかも,最下端位置において反し部24の傾斜部25は先端24aに向かって下向きに傾斜する形状となっていることから,油溜まり26内の潤滑油はこの傾斜に案内されて,反し部24の先端24aより円滑に排出されて油滴として下方に落下して油回収空間34内に回収される。
【0078】
特に,反し部24の傾斜部25をテーパ形状とした構成では,このような自重による落下の際の油切れ性についても向上させることができる。
【0079】
油回収空間34の底部には,排出流路35との連通口35aが開口されており,油回収空間34内に回収された潤滑油は,この排出流路35を介して排出される。
【0080】
特に,駆動軸20の軸線と直交し,且つ,反し部24の先端24aを通る垂線VL上で排出流路35の連通口35aを開口させた構成では,駆動軸20が回転を停止した際に最下部に位置した反し部24の先端24aの真下で排出流路35が開口するため,反し部24の先端24aより落下した潤滑油は直接,排出流路35内に落下するため,油回収空間34からの潤滑油の排出を極めて円滑に行うことができる。
【符号の説明】
【0081】
1 スクリュ圧縮機
10 オスロータ
11 メスロータ
20 駆動軸
21 駆動軸本体(ロータ軸)
21a カーラー
22 円筒状部材(プーリのボス部)
22’ 円筒状部材(スペーサ)
23 境界(小径部と大径部の)
23a 端面(大径部の)
24 反し部
24a 先端(反し部の)
25 傾斜部
26 油溜まり
28 シール材(Oリング)
30 ケーシング
31 ロータ室
32 軸孔
33 軸受
34 油回収空間
35 排出流路
35a 連通口
60 軸封装置
61 オイルシール
100 スクリュ圧縮機
110 オスロータ
111 メスロータ
120 駆動軸
121 駆動軸本体(ロータ軸)
121a カーラー
122 動力伝達手段(プーリ)
123 段差部
123a 端面(大径部の)
130 ケーシング
131 ロータ室
132 軸孔
134 油回収空間
135 排出流路
160 軸封装置
161 オイルシール
Nd 小径部
Wd 大径部
VL 垂線

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7