(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079788
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート部材の局所的構造及び鉄筋コンクリート部材の局所的構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/16 20060101AFI20230601BHJP
E01D 19/02 20060101ALI20230601BHJP
E04C 3/34 20060101ALI20230601BHJP
E04C 5/07 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
E04B1/16 F
E01D19/02
E04C3/34
E04C5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193425
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠倉 亮太
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 俊之
【テーマコード(参考)】
2D059
2E163
2E164
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059GG55
2E163FA02
2E163FD01
2E163FD11
2E163FD23
2E163FD32
2E163FD44
2E163FD46
2E164AA25
(57)【要約】
【課題】局所的に設けられる塑性ヒンジ領域の変形抑制とじん性の向上を図れるとともに、せん断補強鉄筋の鉄筋量の増加を抑えて、施工性を向上させることが可能な鉄筋コンクリート部材の局所的構造を提供する。
【解決手段】軸方向に延伸される鉄筋コンクリート部材の局所的構造である。
そして、軸方向に略直交する断面内において、軸方向に向けて断面内に間隔を置いて配置される主鉄筋2と、高強度コンクリートによって製作されて、断面内の圧縮が起きる範囲に配置されるコア材3と、主鉄筋及びコア材の周囲に充填されるコンクリート4とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延伸される鉄筋コンクリート部材の局所的構造であって、
前記軸方向に略直交する断面内において、
前記軸方向に向けて前記断面内に間隔を置いて配置される主鉄筋と、
高強度コンクリートによって製作されて、前記断面内の圧縮が起きる範囲に配置されるコア材と、
前記主鉄筋及び前記コア材の周囲に充填されるコンクリートとを備えたことを特徴とする鉄筋コンクリート部材の局所的構造。
【請求項2】
前記断面内の圧縮が起きる範囲は、曲げ耐力算出時の等価応力ブロック高さaで設定される範囲であることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート部材の局所的構造。
【請求項3】
前記コア材は、前記鉄筋コンクリート部材の前記軸方向における塑性ヒンジ領域に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄筋コンクリート部材の局所的構造。
【請求項4】
前記コア材は、前記軸方向に略直交する断面の高さDの1倍以上の前記軸方向の範囲に連続して配置されることを特徴とする請求項3に記載の鉄筋コンクリート部材の局所的構造。
【請求項5】
前記コア材は、前記断面内に複数体が配置されるものであって、隣接する前記コア材間の間隔が前記コンクリートの最大骨材径以上となるように配置されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート部材の局所的構造。
【請求項6】
前記コア材は、隣接する前記主鉄筋間に配置されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート部材の局所的構造。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の構築方法であって、
前記主鉄筋が前記軸方向に向けて突出された基面を形成する工程と、
前記基面の所定の位置に前記コア材を配置する工程と、
前記主鉄筋及び前記コア材の周囲にコンクリートを充填する工程とを備えたことを特徴とする鉄筋コンクリート部材の局所的構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向に延伸される鉄筋コンクリート部材の局所的構造、及びその構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁や高架橋など構造物における橋脚や柱などの鉄筋コンクリート部材は、大規模地震時に部材端部を局所的に塑性化させ、塑性ヒンジを形成させることで、地震時のエネルギーを吸収する構造とするのが一般的である(非特許文献1参照)。
【0003】
ここで、鉄道構造物や道路構造物の耐震設計では、地震時の躯体の変形と塑性ヒンジ領域の変形を考慮して、変形性能を評価している。このため、塑性ヒンジ領域の変形を抑制してじん性を向上させることで、地震時の変形性能の向上を図ることができるものと考えられる。
【0004】
そこで、一般的には、帯鉄筋や中間帯鉄筋などのせん断補強鉄筋の鉄筋量を増加させることで、軸方向鉄筋(主鉄筋)の座屈を防止して、塑性ヒンジ領域の変形を抑制することが行われる。
【0005】
また、特許文献1には、鉄筋コンクリート製の柱の内部に、スパイラル筋を配置することで、塑性ヒンジ領域のじん性を高めるとともに、塑性ヒンジ領域以外の領域における破壊を生じにくくしたコンクリート部材が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献2には、繊維補強コンクリートを用いて柱の中心部に構築されるコア部材と、コア部材を被覆する流動性が高いコンクリートを用いて製作される外殻部材とによって柱を構成することで、せん断耐力を確保しつつ、施工不良が生じ難いコンクリート部材にできることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-247297号公報
【特許文献2】特開2020-159069号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】星隈外3名、軸方向鉄筋の配置方法に基づくRC橋脚の耐震性能の向上に関する実験的研究、土木学会論文集 No.745/I-65、pp.1-14、2003.10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、帯鉄筋などのせん断補強鉄筋が塑性ヒンジ領域に多量に配置されると、配筋作業が複雑になるうえに、コンクリートの打込み作業など施工性が低下する要因が増えることになる。
【0010】
また、特許文献1のようなスパイラル筋による補強は、コアコンクリートの拘束効果が間接的かつ限定的になる可能性がある。さらに、特許文献2のコンクリート部材は、繊維補強コンクリートを現場で打設することになるが、繊維補強コンクリートは圧送抵抗が大きく、効率よく施工することが難しい。また、主鉄筋やせん断補強鉄筋などが埋設された外殻部材をプレキャスト化した場合、製作コストが増加することになる。
【0011】
そこで本発明は、局所的に設けられる塑性ヒンジ領域の変形抑制とじん性の向上を図れるとともに、せん断補強鉄筋の鉄筋量の増加を抑えて、施工性を向上させることが可能な鉄筋コンクリート部材の局所的構造、及びその構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の鉄筋コンクリート部材の局所的構造は、軸方向に延伸される鉄筋コンクリート部材の局所的構造であって、前記軸方向に略直交する断面内において、前記軸方向に向けて前記断面内に間隔を置いて配置される主鉄筋と、高強度コンクリートによって製作されて、前記断面内の圧縮が起きる範囲に配置されるコア材と、前記主鉄筋及び前記コア材の周囲に充填されるコンクリートとを備えたことを特徴とする。
【0013】
ここで、前記断面内の圧縮が起きる範囲は、曲げ耐力算出時の等価応力ブロック高さaで設定される範囲であることが好ましい。また、前記コア材は、前記鉄筋コンクリート部材の前記軸方向における塑性ヒンジ領域に配置されることが好ましい。さらに、前記コア材は、前記軸方向に略直交する断面の高さDの1倍以上の前記軸方向の範囲に連続して配置される構成とすることができる。
【0014】
また、前記コア材は、前記断面内に複数体が配置されるものであって、隣接する前記コア材間の間隔が前記コンクリートの最大骨材径以上となるように配置されることが好ましい。さらに、前記コア材は、隣接する前記主鉄筋間に配置される構成とすることができる。
【0015】
また、鉄筋コンクリート部材の局所的構造の構築方法の発明は、上記いずれかに記載の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の構築方法であって、前記主鉄筋が前記軸方向に向けて突出された基面を形成する工程と、前記基面の所定の位置に前記コア材を配置する工程と、前記主鉄筋及び前記コア材の周囲にコンクリートを充填する工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
このように構成された本発明の鉄筋コンクリート部材の局所的構造は、軸方向に延伸される鉄筋コンクリート部材の軸直交方向の断面内の圧縮が起きる範囲に、高強度コンクリートによって製作されたコア材が配置される。
【0017】
このコア材が配置されるのが、鉄筋コンクリート部材に局所的に設けられる塑性ヒンジ領域であれば、その領域の変形を抑制し、じん性を向上させることができる。また、せん断補強鉄筋の鉄筋量を増やす必要がないので、施工性を向上させることができる。
【0018】
そして、鉄筋コンクリート部材の局所的構造の構築方法の発明では、コア材を配置する以外は、通常の鉄筋コンクリート部材の構築方法と同じであるため、熟練が必要なく簡単に施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の構成を模式的に説明する図であって、(a)は横断面図、(b)は縦断面図である。
【
図2】鉄筋コンクリート部材の断面計算を模式的に示した説明図である。
【
図3】等価応力ブロック高さaの値を例示する図であって、(a)は主鉄筋の規格がSD345の場合のグラフ、(b)は主鉄筋の規格がSD390の場合のグラフ、(c)は主鉄筋の規格がSD490の場合のグラフである。
【
図4】既往の実験データに基づいて求められる等価応力ブロック高さa’の値を例示するグラフである。
【
図5】高強度コンクリートの種類と特性を示した説明図である。
【
図6】本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の変形性能を確認した実験結果のグラフである。
【
図7】本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造が設けられる橋梁の説明図である。
【
図8】本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の断面を例示する図であって、(a)は橋脚の断面例1を示した説明図、(b)は橋脚の断面例2を示した説明図である。
【
図9】本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の断面を例示する図であって、(a)は橋脚の断面例3を示した説明図、(b)は橋脚の断面例4を示した説明図である。
【
図10】本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造が設けられる高架橋の説明図である。
【
図11】本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の断面を例示する図であって、(a)は柱の断面例5を示した説明図、(b)は柱の断面例6を示した説明図である。
【
図12】本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の断面を例示する図であって、(a)は柱の断面例7を示した説明図、(b)は柱の断面例8を示した説明図である。
【
図13】本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の構築方法を、柱の断面例7で説明する説明図である。
【
図14】本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の構築方法を、柱の断面例8で説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の構成を模式的に説明する図である。
【0021】
本実施の形態で説明する鉄筋コンクリート部材には、軸方向に延伸される長尺状の柱、梁、橋脚、板状部材などが該当する。こうした鉄筋コンクリート部材は、軸方向に略直交する断面内に、圧縮が起きる範囲が存在する。
【0022】
本実施の形態では、まずは鉄筋コンクリート部材である橋脚1を例に、構成について説明する。
図1(a)は、本実施の形態の橋脚1の横断面図、
図2(b)は橋脚1の縦断面図を示している。
【0023】
また、本実施の形態では、大規模地震時に、地震によるエネルギーを吸収させるために、橋脚1の局所的な部分である端部を塑性化させる、塑性ヒンジ領域11が設定された橋脚1について説明する。
図1(b)は、フーチング12の上に設けられる橋脚1の塑性ヒンジ領域11を示している。
【0024】
本実施の形態の橋脚1の塑性ヒンジ領域11の断面構造(軸直交方向となる横断面構造)は、
図1(a)に示すように、橋脚1の軸方向に向けて断面内に間隔を置いて配置される主鉄筋2と、後述するコア材3と、主鉄筋2及びコア材3の周囲に充填されるコンクリート4とを備えている。
【0025】
主鉄筋2は、平面視略長方形の橋脚1の断面内の縁部に沿って、間隔を置いて配筋されれる。
図1(a)の模式図では、1段の主鉄筋2が橋脚1の内周を囲繞するように配置された例を示しているが、これに限定されるものではなく、複数列の主鉄筋2が配筋される橋脚1の断面であってもよい。
【0026】
主鉄筋2の外側を囲むように、せん断補強鉄筋となる帯鉄筋21が配筋される。また、平面視略長方形の帯鉄筋21の内空を区切るように、せん断補強鉄筋となる中間帯鉄筋22が架け渡される。
【0027】
帯鉄筋21は、
図1(b)に示すように、上下方向に間隔を置いて、複数が配筋される。また、帯鉄筋21の各段には、それぞれ中間帯鉄筋22も配筋される。ここで、橋脚1の塑性ヒンジ領域11は、横断面の高さである断面高さDの1倍以上の高さに設定される。
【0028】
塑性ヒンジ領域11を、断面高さDの1倍以上でどの程度の範囲までとするかは、基準とする設計指針によって異なる。例えば、道路構造物の耐震設計では、橋脚基部(フーチング12の上面)からの慣性力の作用位置をhとした場合に、0.15h以下(1Dより小さい場合は1D)に設定する。一方、鉄道構造物の耐震設計では、2D以下とする。
【0029】
そして、橋脚1の横断面内(
図1(a))において、主鉄筋2,2間や主鉄筋2で囲まれた断面内の圧縮が起きる範囲に、1体又は複数体のコア材3が配置される。そこで、断面内の圧縮が起きる範囲について、
図2を参照しながら説明する。
【0030】
図2は、鉄筋コンクリート部材の断面計算を模式図を使って説明する一般的な説明図である。
図2(a)は、単鉄筋の鉄筋コンクリート部材の長方形断面を示している。ここで、dは鉄筋コンクリート断面の有効高さ、bは断面幅、A
sは引張鉄筋の断面積を示す。
【0031】
図2(b)は、梁状の鉄筋コンクリート部材に、下側が引張で上側が圧縮となる曲げが作用したときに、断面内に生じるひずみ分布を示している。そして、
図3(c)が、曲げ耐力算出時の等価応力ブロック高さaの範囲を示している。この等価応力ブロック高さaの範囲が、断面内の圧縮が起きる範囲となる。
【0032】
a=1.18(fyd / f’cd)pd
ここで、pは引張鉄筋比でAs /bdによって算出される。また、fydは主鉄筋の設計降伏強度、f’cdはコンクリートの設計圧縮強度を示している。
【0033】
図3は、等価応力ブロック高さaの値を例示する図である。
図3(a)は、主鉄筋の規格がSD345の場合のグラフ、
図3(b)は、主鉄筋の規格がSD390の場合のグラフ、
図3(c)は、主鉄筋の規格がSD490の場合のグラフである。また、それぞれのグラフは、3種類の設計圧縮強度(f’
cd=24 N/mm
2、f’
cd=27 N/mm
2、f’
cd=30 N/mm
2)のコンクリートについて作成している。
【0034】
一方、
図4は、既往の実験データに基づいて求められる等価応力ブロック高さa’の値を例示するグラフである。すなわち、a’=0.136pdによって、等価応力ブロック高さaの範囲を設定することもできる。
【0035】
本実施の形態の橋脚1の局所的構造には、等価応力ブロック高さaの範囲以上で、かつコンクリート部材として確保が求められるかぶりや鉄筋を避けた位置に、コア材3が配置される。
【0036】
コア材3は、高強度コンクリートによって、円柱状、角柱状など、様々な平面形の柱状又は塊状に製作される。要するにコア材3は、橋脚1に局所的に設けられる塑性ヒンジ領域11に連続して配置されるように、塑性ヒンジ領域11の高さと同程度の長さに形成される。
【0037】
図5は、コア材3に使用できる高強度コンクリートの種類と特性を示した説明図である。コア材3は、複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材(HPFRCC)や超高強度繊維補強コンクリート(UFC)を含む繊維補強セメント複合材料(FRCC)によって製作することができる。また、圧縮強度80 N/mm
2程度以上のポリマーコンクリートや高強度コンクリートによって製作することもできる。例えば、コア材3を、超高強度繊維補強コンクリート(UFC)を使って製作する。
【0038】
コア材3は、鉄筋が配筋されていないプレキャスト部材で、橋脚1を構築する現場以外の工場や製作ヤードで製作される。コア材3には、配筋がされていないので、使用される高強度コンクリートに高い流動性は求められない。要するに、繊維補強セメント複合材料(FRCC)の流動性が低くても、使用できる。
【0039】
コア材3は、上述したように、断面内では等価応力ブロック高さaの範囲に配置する。また、これ以外の範囲にも配置することができる。
図1(a)では、等価応力ブロック高さaの範囲又はそれに隣接する範囲に、複数の円柱状のコア材3を並べた配置を例示している。
【0040】
ここで、本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の変形性能について、
図6の実験結果を参照しながら説明する。変形性能を確認する実験では、コア材3を配置しない「コア材無」の場合と、コア材3を配置した「コア材有」の場合とを比較した。
【0041】
「コア材有」の場合は、長方形断面の上下の等価応力ブロック高さaの範囲に対して、それぞれ25%の面積、合計50%の面積にコア材が配置された供試体の実験結果を示している。また、コア材の設計圧縮強度は78 N/mm2、その周囲のコンクリート及び「コア材無」のコンクリートの設計圧縮強度は34 N/mm2、主鉄筋の設計降伏強度は345 N/mm2とした。
【0042】
実験は、載荷と除荷を繰り返して変形性能を確認する繰り返し載荷試験を行い、横軸を水平変位(mm)、縦軸を荷重(kN)としたグラフに、「コア材有」は実線で、「コア材無」は破線で実験結果を示した。この図の実線(コア材有)と破線(コア材無)とを比較すると、「コア材有」の方がじん性が向上していることが確認できる。
【0043】
これは、大きな圧縮力が作用した際に、コア材3が配置されていることによってコンクリート部分の圧縮変形が抑えられることで主鉄筋2の座屈抑制がされたものと考えられ、じん性を向上させることができたと言える。
【0044】
次に、本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の実施例について説明する。
図7は、本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造が設けられる橋梁10の説明図である。
【0045】
この橋梁10は、杭で支持されるフーチング12に設けられた橋脚1や橋台1Aに、桁が架け渡された構造となっている。そして、橋脚1及び橋台1Aが、上下方向となる軸方向に延伸される鉄筋コンクリート部材となる。
【0046】
この橋脚1及び橋台1Aには、フーチング12に隣接した局所的な部分に塑性ヒンジ領域11が設けられており、この塑性ヒンジ領域11が、コア材3が配置される本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造となる。
【0047】
図8には、橋脚1の塑性ヒンジ領域11の2つの断面例を示した。
図8(a)は、円柱状のコア材3を配置した断面例1を示している。ここで、橋脚1の断面は、断面高さDの長方形断面となっている。
【0048】
断面例1では、かぶりを除いた有効高さdの範囲であって、等価応力ブロック高さaの範囲に、コア材3を配置した例を示している。詳細には、主鉄筋2の断面より一回り断面が大きなコア材3を、主鉄筋2,2間に配置している。
【0049】
要するに、少なくとも1部の断面寸法が主鉄筋2間隔以下となるコア材3を、断面の引張側と圧縮側に1列に配筋された主鉄筋2に沿って、主鉄筋2と交互に配置している。ここで、一方向の外力の作用によって圧縮側となる橋脚1の断面の範囲は、反対方向の外力の作用によって引張側となるので、断面の引張側と圧縮側の両方に、主鉄筋2及びコア材3が配置されることになる。
【0050】
また、コア材3,3間の間隔は、コンクリート4の最大骨材径以上とする。すなわち、コア材3の周囲にはコンクリート4が充填されることになるので、最大の骨材であっても通過できるだけの間隔を確保しておく。
【0051】
橋脚1の基部が設けられるフーチング12の上面(基面)からは、主鉄筋2が上方に向けて突出されているので、その主鉄筋2の列に沿って、基面の所定の位置にコア材3を配置する。そして、主鉄筋2及びコア材3の周囲にコンクリート4を充填することで、橋脚1の塑性ヒンジ領域11を構築する。
【0052】
一方、
図8(b)は、直方体(四角柱状)のコア材3Aを配置した断面例2を示している。断面例2は、コア材3Aの形状以外は断面例1と同じであるため、その他の構成及び構築方法などについては、説明を省略する。
【0053】
図9にも、橋脚1の塑性ヒンジ領域11の別の2つの断面例を示した。
図9(a)は、平面視略長円の小断面の柱状のコア材3Bと、同じく平面視略長円の大断面の柱状のコア材3Cとを配置した断面例3を示している。
【0054】
断面例3では、断面の引張側と圧縮側に、それぞれ3列に主鉄筋2が配筋されている。そして、その3列の主鉄筋2と交互に、小断面の柱状のコア材3Bを配置している。さらに、断面例3では、3列の主鉄筋2よりも断面の中央側に、大断面の柱状のコア材3Cを配置している。
【0055】
要するに断面例3の等価応力ブロック高さaの範囲は、断面例1よりも広く、断面中央寄りの主鉄筋2が配置されていない範囲にも、高強度コンクリートによって製作されたコア材3Cを配置する。このコア材3Cの断面形状は、中間帯鉄筋22の間隔以下とする。なお、その他の構成及び構築方法などについては、断面例1と同じとなるため、説明を省略する。
【0056】
一方、
図9(b)は、平面視略長方形の四角柱状の小断面のコア材3D及び大断面のコア材3Eを配置した断面例4を示している。断面例4は、コア材3D,3Eの形状以外は断面例3と同じであるため、その他の構成及び構築方法などについては、説明を省略する。
【0057】
図10は、本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造が設けられる高架橋50の説明図である。この高架橋50は、柱5と主桁53や基礎梁54とが剛結構造となったラーメン橋である。そして、柱5が、上下方向となる軸方向に延伸される鉄筋コンクリート部材となる。また、主桁53や基礎梁54は、水平方向となる軸方向に延伸される鉄筋コンクリート部材となる。
【0058】
この柱5には、基礎梁54に隣接する下端部や主桁53に隣接する上端部に塑性ヒンジ領域51が設けられており、この塑性ヒンジ領域51が、コア材3が配置される本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造となる。なお、主桁53や基礎梁54の塑性ヒンジ領域52にもコア材を配置して、本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造とすることができる。
【0059】
図11には、柱5の塑性ヒンジ領域51の2つの断面例を示した。
図11(a)は、円柱状のコア材3を配置した断面例5を示している。ここで、橋脚1の断面は、1辺が断面高さDとなる正方形断面となっている。
【0060】
柱5には、4辺のすべての方向から外力が作用するので、等価応力ブロック高さaで設定される圧縮が起きる範囲は、すべての辺に沿って発生する。要するに、正方形の断面の内周縁を囲繞するように、主鉄筋2及びコア材3が配置されることになる。
【0061】
断面例5では、かぶりを除いた有効高さdの範囲であって、4辺に沿った等価応力ブロック高さaの範囲のすべてに、コア材3を配置した例を示している。詳細には、主鉄筋2の断面より一回り断面が大きなコア材3を、主鉄筋2,2間に配置している。なお、その他の構成及び構築方法などについては、断面例1と同じとなるため、説明を省略する。
【0062】
一方、
図11(b)は、直方体(四角柱状)のコア材3Aを配置した断面例6を示している。断面例6は、コア材3Aの形状以外は断面例5と同じであるため、その他の構成及び構築方法などについては、説明を省略する。
【0063】
図12にも、柱5の塑性ヒンジ領域51の別の2つの断面例を示した。
図12(a)は、平面視略円形の小断面の柱状のコア材3と、同じく平面視略円形の大断面の柱状のコア材3Fとを配置した断面例7を示している。
【0064】
断面例7では、正方形断面の4辺に沿ってそれぞれ主鉄筋2が配筋されている。そして、その主鉄筋2と交互に、小断面の柱状のコア材3を配置している。さらに、断面例7では、主鉄筋2よりも断面の中央側に、大断面の柱状のコア材3Fを配置している。
【0065】
要するに断面例7の等価応力ブロック高さaの範囲は、断面例5よりも広く、断面中央寄りの主鉄筋2が配置されていない範囲にも、高強度コンクリートによって製作されたコア材3Fを配置する。このコア材3Fの断面形状は、中間帯鉄筋22の間隔以下とする。なお、その他の構成及び構築方法などについては、断面例5と同じとなるため、説明を省略する。
【0066】
一方、
図12(b)は、平面視略正方形の四角柱状の小断面のコア材3A及び大断面のコア材3Gを配置した断面例8を示している。断面例8は、コア材3A,3Gの形状以外は断面例7と同じであるため、その他の構成及び構築方法などについては、説明を省略する。
【0067】
次に、本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の構築方法について、
図13及び
図14を参照しながら説明する。ここで、
図13に示した横断面構造は、上述した
図12(a)の断面例7であり、
図14に示した横断面構造は、上述した
図12(b)の断面例8である。
【0068】
まず最初の工程では、高架橋50の基礎梁54(
図10参照)の上面(基面)から主鉄筋2が上方に向けて突出されるように、基礎梁54を構築する。一方、工場や現場の製作ヤードでは、高強度コンクリートである超高強度繊維補強コンクリート(UFC)を使用して、コア材3,3F(3A,3G)を製作する。
【0069】
次の工程では、基面上の主鉄筋2,2の間に、主鉄筋2の列に沿って、コア材3(3A)を配置して、主鉄筋2に番線などで固定する。一方、大断面のコア材3F(3G)については、主鉄筋2よりも断面中央側の所定の位置に、コンクリート4の最大骨材径以上の間隔を置いて、正方形断面の内周を囲繞するように配置する。ここで、コア材3,3F(3A,3G)を配置する際には、主鉄筋2や中間帯鉄筋22と干渉しない位置に設置する。
【0070】
さらに、配置した大断面のコア材3F(3G)に対して、保持材6を取り付ける。保持材6には、並べられたコア材3F(3G)の平面中心を通るように平面視略正方形に形成された枠材などが使用できる。そして、鋼材などによって製作された保持材6と、それぞれのコア材3F(3G)とを、接合部61で接合させる。こうすることによって、複数体のコア材3F(3G)が保持材6によって一体化されて、設置された基面上の位置から移動することを防ぐことができるようになる。
【0071】
続く工程では、主鉄筋2及びコア材3,3F(3A,3G)の周囲にコンクリート4を充填することで、柱5の塑性ヒンジ領域51を構築する。この際、小断面のコア材3(3A)は、主鉄筋2に番線などで固定されており、大断面のコア材3F(3G)は、保持材6で連結されて一体化されているので、コンクリート4の充填圧によって所定の位置から移動してしまうことはない。
【0072】
次に、本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造及び鉄筋コンクリート部材の局所的構造の構築方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造は、軸方向に延伸される鉄筋コンクリート部材の軸直交方向の断面内の圧縮が起きる範囲(等価応力ブロック高さaの範囲)に、高強度コンクリートによって製作されたコア材3(3A-3G)が配置される。
【0073】
このコア材3(3A-3G)が配置されるのが、橋脚1や柱5などの局所的な部分である塑性ヒンジ領域11,51であれば、その領域の変形を抑制し、じん性を向上させることができる。すなわち、大きな圧縮力が作用した際に、コア材3(3A-3G)が配置されていることによって、塑性ヒンジ領域11,51の圧壊の発生が防止されて変形を抑制することができる。さらに主鉄筋2の座屈も抑制されるので、じん性を向上させることができる。
【0074】
また、せん断補強鉄筋(21,22)などの鉄筋量を増やす必要がないので、過密配筋とならず、施工性を向上させることができる。特に、鉄筋量を増加させることで変形抑制を行った場合は、軸方向鉄筋の破断によって、急激な耐力低下が生じる可能性があるが、本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造であれば、そのようなリスクを低減することができる。さらに、高強度コンクリートによって配筋の無い無筋で製作されるコア材3(3A-3G)であれば、容易かつ安価に製造することができる。
【0075】
そして、本実施の形態の鉄筋コンクリート部材の局所的構造の構築方法では、コア材3(3A-3G)を配置する以外は、通常の鉄筋コンクリート部材の構築方法と同じであるため、熟練が必要なく簡単に施工することができる。
【0076】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0077】
例えば、前記実施の形態では、橋脚1や柱5の局所的構造について詳細に説明したが、これに限定されるものではなく、例えばボックスカルバートの床版、壁、頂版などの鉄筋コンクリート部材の塑性ヒンジとなる局所的構造にも、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 :橋脚(コンクリート部材)
1A :橋台(コンクリート部材)
11 :塑性ヒンジ領域
2 :主鉄筋
3,3A-3G:コア材
4 :コンクリート
5 :柱(コンクリート部材)
51,52:塑性ヒンジ領域
D :断面高さ
a :等価応力ブロック高さ