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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079790
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】細胞捕集材及び細胞捕集用カラム
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20230601BHJP
   A62D 3/11 20070101ALI20230601BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
A61M1/36 165
A62D3/11
B01J20/26 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193428
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺本 和雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 靖
(72)【発明者】
【氏名】石垣 宏仁
(72)【発明者】
【氏名】仲山 美沙子
【テーマコード(参考)】
4C077
4G066
【Fターム(参考)】
4C077AA30
4C077BB03
4C077EE01
4C077KK13
4C077MM04
4C077NN02
4C077PP08
4C077PP13
4C077PP15
4G066AC31C
4G066AC33C
4G066AD07B
4G066AD11B
4G066BA03
4G066CA54
4G066DA12
4G066EA04
4G066FA05
(57)【要約】
【課題】免疫抑制性細胞を選択的に捕集する性能が向上した免疫抑制性細胞捕集材、及び該捕集材が充填された免疫抑制性細胞捕集用カラムを提供する。
【解決手段】主鎖の芳香族残基に以下の一般式(1)で表される置換基を有するポリマーを表面に備えた、ポリマーの成型体からなる免疫抑制性細胞捕集材、及び該捕集材が充填された免疫抑制性細胞捕集用カラム。
φ-R-X-Y-Z (1)
〔式中、φは主鎖の芳香核を示し、Rは-CH2-、-CH2NHCOCH2-、又は-CH2NHCOCH2CH2-を示し、Xは-NH(CH2)n-A-(CH2)mNH-を示し、n及びmは同一又は異なって2又は3を示し、Aは-NH-又は-NH-(CH2CH2)p-NH-を示し、pは2~4の整数を示し、Yはカルボニル基、-CH2CONH-又は-CH2CH2CONH-基を示し、Zは炭素数3~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。〕
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖の芳香族残基に以下の一般式(1)で表される置換基を有する芳香族ポリマーを表面に備えた成型体からなる免疫抑制性細胞捕集材。
φ-R-X-Y-Z (1)
〔式中、φは主鎖の芳香核を示し、
Rは-CH2-、-CH2NHCOCH2-、又は-CH2NHCOCH2CH2-を示し、
Xは-NH(CH2)n-A-(CH2)mNH-を示し、n及びmは同一又は異なって2又は3を示し、Aは-NH-又は-NH-(CH2CH2)p-NH-を示し、pは2~4の整数を示し、
Yはカルボニル基、-CH2CONH-又は-CH2CH2CONH-基を示し、
Zは炭素数3~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。〕
【請求項2】
前記一般式(1)で表される置換基が芳香核100個当たり1個以上50個以下の頻度で結合している、請求項1に記載の捕集材。
【請求項3】
前記Xがジエチレントリアミン残基、ビス(3-アミノプロピル)アミン残基又は1,5,8,12-テトラアザドデカン残基である、請求項1又は2に記載の捕集材。
【請求項4】
前記Zがイソアミル基又はペンチル基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の捕集材。
【請求項5】
前記芳香族ポリマーがポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド又はこれらの誘導体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の捕集材。
【請求項6】
前記芳香族ポリマーを繊維に塗布してなる成型体からなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の捕集材。
【請求項7】
前記免疫抑制性細胞がレイタンシイ・アソシエイティッド・プロテインを細胞表面に有するリンパ球である、請求項1~6のいずれか一項に記載の捕集材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の捕集材が充填された免疫抑制性細胞捕集用カラム。
【請求項9】
体外循環用である、請求項8に記載のカラム。
【請求項10】
細胞治療用である、請求項8に記載のカラム。
【請求項11】
感染症の治療、日和見感染症の治療、火傷の治療、癌の摘出手術後の癌の再発予防、癌の治療、又は敗血症予防に使用される、請求項8~10のいずれか一項に記載のカラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として医療用途に用いる免疫抑制性細胞捕集材、及び該捕集材が充填された免疫抑制性細胞捕集用カラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医学の進んだ現在でも新しいウイルスや細菌などによる新型感染症が次々と登場し、人々の生命を脅かしている。また、がんによる死者は年間30万人を超える。感染症やがんの克服には免疫の強化が必要である。一方、免疫が昂進し過ぎて免疫細胞が自己の組織を攻撃することによる自己免疫疾患も増加している。免疫の維持で重要な働きをする白血球サブクラスは、病原菌やウイルスを排除するキラーT細胞(CTL)、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、抗体を産生するB細胞及びこれらの細胞の働きを助けるヘルパーT細胞等がある。また、免疫の暴走を抑える細胞としては制御性T細胞、制御性B細胞、免疫抑制性顆粒球等が知られている。制御性T細胞としては細胞内に転写因子Foxp3を発現するCD4+T細胞(Treg)がある(非特許文献1)。また、レイタンシイ・アソシエイティッド・ペプチド(latency associated peptide)(以下、LAPと略称する)を細胞表面に持つLAP+CD4+T細胞、LAP+CD8+T細胞、LAP+B細胞等がある。Foxp3とLAPの関係は、Tregが活性化するとLAPを細胞表面に発現することが報告されている(非特許文献2)。
【0003】
本発明者等は免疫抑制性の細胞に対する高い選択を持つ吸着材を開発すれば、癌や感染症及び自己免疫疾患の治療に利用できると考え、LAP陽性細胞に対する吸着材の開発を行ってきた。そして、吸着リガンドとしてジエチレントリアミノ基を有するポリスルホンを塗布した繊維を充填したカラムで担癌ラットを体外循環治療すると、腫瘍の増殖抑制や生存期間の延長が得られることを見出した(特許文献1)。さらに、ロイシン残基結合ジエチレントリアミン基を有するポリスルホンを塗布した繊維を充填したカラムはLAP陽性細胞に対する吸着性が向上しており、敗血症モデルラットの救命に著効があることを見出した(特許文献2)。
【0004】
免疫に関係する細胞を吸着対象とする吸着材としては、アダカラムがある。これは活性化顆粒球の吸着材であり、免疫抑制性リンパ球の吸着機能があることは報告されていない。この他、関連のある治療技術としては、ポリミキシンB固定化繊維カラム“トレミキシン”が敗血症治療用体外循環カラムとして実用化されている。これはエンドトキシン吸着能を持つので、敗血症初期にはエンドトキシンによる炎症を抑える効果があると考えられる。しかし、米国での多施設ランダム化比較臨床試験結果によると、免疫低下者が多数を占める28日までの生存率の基準では従来の薬剤治療と大きな差がない結果であったので、敗血症後期の免疫低下時には治療効果が小さいと考えられる(非特許文献3)。
【0005】
最近、敗血症による死亡は免疫の低下が原因であるという考え方から、メラノーマ等の癌の治療薬として登場した抗PD-1抗体等のチェックポイント抗体薬が敗血症治療に試みられ始めているが、自己免疫疾患発症などの副作用の出現が危惧される。
【0006】
その他、グラム陽性菌感染治療にはマンノース結合レクチンをリガンドとするエンテロトキシン吸着カラムが提案されている。これらは毒素を除去する目的で使用される。また、全身性炎症反応症候群(SIRS)は感染症から誘起される炎症性サイトカインが異常に増加する重篤な症状であるが、この病因物質の一つがヒストンであることから治療用にヒストン除去カラムが提案されている(特許文献3)。このように発病原因となっている液性の病因物質を除去する方法が多数提案されて来たが、十分な治療効果があったとは言い難い。
【0007】
そこで、我々は、さらに有効な方法として免疫抑制性細胞を直接除去する方法を提供してきた。これまで抗体を吸着リガンドとしてビーズ等に固定化したカラムを除けば、有効な吸着材が無かった。そして、吸着リガンドとして人工物を利用した吸着材は、抗体を固定した吸着材と比較した場合、高圧蒸気滅菌できるので、医療用材料として使用できる長所があるが、吸着選択性が低い短所があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5916712号公報
【特許文献2】特開2019-205552号公報
【特許文献3】国際公開第2016/013540号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M. Beyer and J. L. Schultze, Blood 2006: 108: 804-811
【非特許文献2】K. Nakamura, A. Kitani, I. Fuss, A. Pedersen, N. Harada, H. Nawata and W. Strober, The Journal of Immunology 2004: 172: 834-842
【非特許文献3】R. Phillip Dellinger at al, Journal American Medical Association 2018: 320(14): 1455-1463.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、免疫抑制性細胞を選択的に捕集する性能が向上した免疫抑制性細胞捕集材、及び該捕集材が充填された免疫抑制性細胞捕集用カラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は抗体並みの選択性が得られるリガンドが開発できないか鋭意検討した結果、アミノ基と置換基先端のアルキル基の構造を最適化することによって抗体並みの選択性が得られることを見出した。すなわち、炭素数3以上8以下のアルキル基を結合したポリアミン含有連結基を有する直鎖状芳香族ポリマーを使用することによって、顕著に免疫抑制性細胞を選択的に捕集できるという知見を得た。
【0012】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の免疫抑制性細胞捕集材、及び免疫抑制性細胞捕集用カラムを提供するものである。
【0013】
(I) 免疫抑制性細胞捕集材
(I-1) 主鎖の芳香族残基に以下の一般式(1)で表される置換基を有する芳香族ポリマーを表面に備えた成型体からなる免疫抑制性細胞捕集材。
φ-R-X-Y-Z (1)
〔式中、φは主鎖の芳香核を示し、
Rは-CH2-、-CH2NHCOCH2-、又は-CH2NHCOCH2CH2-を示し、
Xは-NH(CH2)n-A-(CH2)mNH-を示し、n及びmは同一又は異なって2又は3を示し、Aは-NH-又は-NH-(CH2CH2)p-NH-を示し、pは2~4の整数を示し、
Yはカルボニル基、-CH2CONH-又は-CH2CH2CONH-基を示し、
Zは炭素数3~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。〕
(I-2) 前記一般式(1)で表される置換基が芳香核100個当たり1個以上50個以下の頻度で結合している、(I-1)に記載の捕集材。
(I-3) 前記Xがジエチレントリアミン残基、ビス(3-アミノプロピル)アミン残基又は1,5,8,12-テトラアザドデカン残基である、(I-1)又は(I-2)に記載の捕集材。
(I-4) 前記Zがイソアミル基又はペンチル基である、(I-1)~(I-3)のいずれか一項に記載の捕集材。
(I-5) 前記芳香族ポリマーがポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド又はこれらの誘導体である、(I-1)~(I-4)のいずれか一項に記載の捕集材。
(I-6) 前記芳香族ポリマーを繊維に塗布してなる成型体からなる、(I-1)~(I-5)のいずれか一項に記載の捕集材。
(I-7) 前記免疫抑制性細胞がレイタンシイ・アソシエイティッド・プロテインを細胞表面に有するリンパ球である、(I-1)~(I-6)のいずれか一項に記載の捕集材。
【0014】
(II) 免疫抑制性細胞捕集用カラム
(II-1) (I-1)~(I-7)のいずれかに記載の捕集材が充填された免疫抑制性細胞捕集用カラム。
(II-2) 体外循環用である、(II-1)に記載のカラム。
(II-3) 細胞治療用である、(II-1)に記載のカラム。
(II-4) 感染症の治療、日和見感染症の治療、火傷の治療、癌の摘出手術後の癌の再発予防、癌の治療、又は敗血症予防に使用される、(II-1)~(II-3)のいずれか一項に記載のカラム。
【発明の効果】
【0015】
本発明の捕集材及びカラムは、血液中から免疫抑制性細胞を選択的に捕集することができ、その濃度を下げ、免疫を上げることができる。そのため、本発明の捕集材及びカラムは重症感染症や癌の治療への適用が期待される。
【0016】
更に、本発明の捕集材は、非タンパク質性の材料を使用しているので滅菌操作が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について更に詳細に説明する。
【0018】
免疫抑制性細胞捕集材
本発明の免疫抑制性細胞捕集材は、主鎖の芳香族残基に以下の一般式(1)で表される置換基を有する芳香族ポリマーを表面に備えた成型体からなることを特徴とする。
φ-R-X-Y-Z (1)
〔式中、φは主鎖の芳香核を示し、
Rは-CH2-、-CH2NHCOCH2-、又は-CH2NHCOCH2CH2-を示し、
Xは-NH(CH2)n-A-(CH2)mNH-を示し、n及びmは同一又は異なって2又は3を示し、Aは-NH-又は-NH-(CH2CH2)p-NH-を示し、pは2~4の整数を示し、
Yはカルボニル基、-CH2CONH-又は-CH2CH2CONH-基を示し、
Zは炭素数3~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示す。〕
【0019】
本発明の免疫抑制性細胞捕集材は、芳香核置換基として一般式(1)で表される基を芳香核100個当たり1個以上50個以下の頻度で結合していることが望ましい。
【0020】
(捕集材の構成)
本発明における捕集対象細胞である免疫抑制性細胞とは、LAPを細胞表面に有する細胞であるLAP+CD4+制御性T細胞及びLAP+CD8+制御性T細胞、LAP陽性のB細胞、LAP陽性の単球細胞及び顆粒球細胞などを挙げることができる。これらの細胞の存在はフローサイトメーター分析で確認することが可能である。LAP+CD4+制御性T細胞及びLAP+CD8+制御性T細胞の末梢血液中の存在量は個々の生体により異なるが、一般的にはそれぞれのT細胞サブセット中の5%~30%である。B細胞ではLAP陽性の割合は5%~60%である。
【0021】
本発明の捕集材はLAP陽性リンパ球に対する選択吸着性が高い。とりわけ、LAP陽性CD4+T細胞を選択的に吸着する。LAP陽性細胞に対する選択性の大きさはCD4+T細胞とCD8+T細胞は同程度で、これらと比べるとB細胞は少し低い。
【0022】
一般式(1)のZは炭素数3~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、具体的には、イソブチル基、n-ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられ、好ましくはイソアミル基又はペンチル基である。分岐鎖状のアルキル基の方が選択性が高く、ブチル基よりイソブチル基の方が選択性が高い。鎖長の短いエチル基では、選択性が下がる。一方、鎖長の長いデカノイル基ではLAP陽性細胞吸着性が低下する。また、アルキル鎖が長くなると、血小板の捕捉率が高くなる欠点がある。
【0023】
一般式(1)のXは直鎖状のポリアミン鎖であり、塩基性アミノ基が2個以上あることが必要である。塩基性アミノ基が多すぎると、アルブミンなどの血漿タンパク質の吸着性が大きくなることや細胞吸着性の選択性が低下するので、2個以上4個以下が好ましい。Xの具体例として、ジエチレントリアミン残基、ビス(3-アミノプロピル)アミン残基、ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン残基等を挙げることができる。
【0024】
本発明における「選択的に捕捉する」とは、捕集材を充填したカラムに血液を通した時、通過した血液中の免疫抑制性細胞の存在比率が通過前より減少し、捕捉された細胞中の免疫抑制性細胞の存在比率が通過前より増加することを意味する。
【0025】
細胞選択性は高い方が医学的安全上好ましいが、細胞選択性を向上させるためには一般的にアミノ基の塩基性度が低い方が良く、且つ存在密度が低い方が良い。また、体外循環のように血液を直接処理して、生体に戻す使用方法の場合は、とりわけ、捕集材に捕捉された細胞を捕集材のアミノ基が刺激して、炎症性サイトカインを放出させることや吸着細胞にネクローシスを起こさせることは医学的安全上避けなければならない。これらの観点から、本発明の成型体中のアミノ基の量が成型体1 g中、150μmol以下であり、110μmol以下、より好ましくは1~110μmolである成型体が好ましい。
【0026】
本発明における芳香族ポリマーとは、ポリマー主鎖が直鎖状で成形可能な芳香族ポリマーを意味する。さらに、特にガンマー線滅菌や高圧蒸気滅菌の条件に耐え得るポリマーが好ましい。有機溶媒に可溶であると、他の成型品の表面に塗布することができるので、好ましい。特にフイルム形成性があると加工品の機械的安定性が増すと共に、成型品からの微粒子の剥離の確率が低くなるので、安全上好ましい。ポリマーの具体例としては、ビスフェノールAとジフェニルスルホンからなるポリスルホン-{(p-C6H4)-SO2-(p-C6H4)-O-(p-C6H4)-C(CH3)2-(p-C6H4)-O}n-、ポリ(p-フェニレンエーテルスルホン)-{(p-C6H4)-SO2-(p-C6H4)-O-(p-C6H4)-O}n-、-{(p-C6H4)-SO2-(p-C6H4)-O-(p-C6H4)-C(CF3)2-(p-C6H4)-O}n-などで代表される芳香族ポリスルホン重合体、ポリエーテルイミド、ポリイミド、及びこれらの誘導体を挙げることができる。中でも、ポリスルホンは、安価で加工性が高く、自身の機械的強度も高く、多種類の有機溶媒にも可溶で、強靭なフイルムを形成する能力があるので医療用材料として優れており、また官能基を導入し易いので、特に好ましい。また、上記ポリマーの中でも、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキサイド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどの非塩素系且つ低毒性の溶媒に溶解するものが、環境汚染防止や労働衛生維持上、特に好ましい。当該ポリマーの分子量は、成型できる範囲であれば特に制限はないが、成形性の良さから、通常1万~500万、特に2万~20万が好ましい。
【0027】
本発明の成型体の形状としては、特に限定されないが、繊維状、不織布状、膜状、中空糸状、粒状、及びこれらの高次加工品が挙げられ、形状は用途に応じ適宜選択される。本発明の成型体としては、芳香族ポリマー自体を成形した物、芳香族ポリマーを他の成型品の表面に塗布した物などが挙げられる。
【0028】
当該成型品の形状としては、繊維状、不織布状、膜状、中空糸状、粉粒状、これらの高次加工品などが挙げられる。成型品の材料としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンなどが挙げられる。ポリエステルの具体例としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を挙げることができる。ポリアミドの具体例としては、ナイロン-6、ポリヘキサメチレンアジパミド等を挙げることができる。このようなポリマーの分子量は、成形できる範囲であれば特に制限されない。
【0029】
本発明の捕集材は、多種類の血液細胞からなる細胞液から免疫抑制性細胞を選択的に捕捉することができる。また、本発明の捕集材はタンパク質成分を含まないので、高圧蒸気滅菌や放射線滅菌などの滅菌操作で機能を失わない。
【0030】
(捕集材の製造方法)
本発明の免疫抑制性細胞捕集材の最も簡便な製造方法の例としては、反応性官能基を持つ芳香族ポリマーにH-X-Y-Z分子を反応させることによる方法が挙げられる。H-X-Y-Z分子は、H-X-H分子とCl-Y-Z分子を反応させることにより得ることができる。いずれの反応も室温から100℃以下の温度で行うことができる。
【0031】
上記反応性官能基を持つ芳香族ポリマーとしては、クロロメチル基、ハロアセトアミドメチル基、ハロアセトアミドエチル基等の反応性官能基を芳香核置換基として持つポリマーが挙げられ、反応性の高さと加工中の安定性のバランスから、クロロアセトアミドメチル基を持つポリマーが特に好ましい。これはポリスルホンのニトロベンゼン溶液にN-ヒドロキシメチル-2-クロロアセトアミドの硫酸溶液を加えることによって容易に合成できる。このクロロ基はヨウ化カリウムのエタノール溶液と混合することにより容易にヨード基に変換できる。
【0032】
また、一般式(1)で表される置換基を有する芳香族ポリマーの製造方法としては、クロロメチル基、ハロアセトアミドメチル基、ハロアセトアミドエチル基等の反応性官能基を有するポリスルホン等のポリマーの溶液又は成型体にH-X-Y-Z分子の溶液を加えることによって達成できる。捕集材は、このポリマーを繊維状等に成型するか成型品の表面に被覆することにより製造することができる。
【0033】
ポリマーでの被覆の方法としては、成型品をポリマー溶液に浸した後、溶媒を蒸発除去する方法を使用することができる。以下に具体例を示すが、これに限定されるものではない。
【0034】
まず、ポリスルホンに0.5倍モルのN-ヒドロキシメチル-2-クロロアセトアミドを反応させて、置換率50モル%のクロロアセトアミドメチルポリスルホンを調製する。次に、このポリマーをジメチルアセトアミドに溶解して、ポリマー溶液を調製し、この溶液にポリエチレンテレフタレート不織布を浸した後、ジメチルアセトアミドを減圧下に蒸発させて、ポリマー塗布不織布を得る。次に、当該ポリマー塗布不織布をH-X-Y-Zの化学構造のリガンド分子を溶解した溶媒に20-80℃で1-30時間浸漬することによって本発明の捕集材が得られる。溶媒としては塗布ポリマー及びリガンド分子と反応せず、かつ塗布ポリマーを溶解しないが、リガンド分子を溶解するものであれば、特に制限はなく使用することができ、通常、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物が毒性が低く、取り扱い容易なので、好ましく用いられる。この他、当該ポリマー塗布不織布をH-X-Hの化学構造のポリアミンを含む溶媒に20-80℃で1-30時間浸漬してポリアミンを結合させてから、水洗後、Cl-CH2CONH-Z又はCH2=CHCONH-Zの化学構造のリガンド分子を溶解した溶媒に20-80℃で1-30時間浸漬することによっても本発明の捕集材が得られる。溶媒には通常、水、メタノール、エタノール及びこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0035】
上記の被覆するポリマーの被覆量は、成型品に対して0.1~50質量%の量が好ましく、5~20質量%がより好ましく用いられる。
【0036】
免疫抑制性細胞捕集用カラム
本発明の免疫抑制性細胞捕集用カラムは、上記の免疫抑制性細胞捕集材が充填されたものであることを特徴とする。
【0037】
本発明の捕集材が繊維状や不織布の形状の場合、カラムに充填する本発明の捕集材の充填密度は、好ましくは30~1,000 mg/cm3、特に好ましくは150~600 mg/cm3である。この範囲であると、細胞捕集効率、選択率、及び通液時の圧損が適切な範囲となる。圧損が大きくなると、赤血球が溶血する。特に、溶血は体外循環では禁忌である。圧損は充填密度と血液流速に正の相関がある。ヒトで体外循環を2時間以内に終了するためには血液流速を少なくとも30 mL/分にする必要があるので、赤血球が溶血しないためには圧損を100 mmHg以下にすることが必要である。
【0038】
本発明のカラムは、体外循環用カラムとして使用することで、血液中から免疫抑制性細胞を選択的に捕集することができ、その濃度を下げることができる。また、本発明のカラムで処理した血液から調製した白血球及び予め単離した白血球を当カラムで処理した白血球は抗腫瘍活性が向上しているので、本発明のカラムは癌等の疾患に対する細胞治療用カラムとしても使用できる。
【0039】
本発明のカラムに吸着された細胞を脱離することにより免疫抑制性細胞が得られるので、この細胞をin vitroで増加させれば、濃縮免疫抑制性細胞が得られるので、自己免疫疾患の細胞治療に用いることができる。フローサイトメーターや磁気ビーズを用いる従来の免疫抑制性細胞回収法では細胞に抗体を結合させるが、本発明でカラムから回収される細胞は、抗体が結合していない無傷の細胞であることを特徴とする。
【0040】
本発明の捕集材を充填する容器としては、例えば、ガラス製、プラスチック製、ステンレス製等のものが挙げられ、容器のサイズは使用目的に応じて適宜選択される。
【0041】
本発明のカラムは、免疫抑制性細胞を選択的に捕集することができることから、免疫が低下したことによる感染症(特に重症感染症、日和見感染)、抗生物質が効かない細菌感染、(重度の外傷、手術、火傷などの際の)感染症の予防、(重度の外傷後の)敗血症の予防などに用いられる。また、癌の治療、及び癌の摘出手術後の癌の再発予防のためにも用いることができる。本発明のカラムを癌治療用に適用した場合、手術療法、放射線療法、抗癌剤療法、活性化白血球療法、ワクチン療法等と併用すれば、これらの治療効果向上に役立ち、特に転移及び再発の予防にも役立つと考えられる。ショック状態でも体外循環できるので、本発明のカラムは安全なカラムと言える。
【0042】
本発明のカラムを適用する癌の種類としては、胃癌、大腸癌(直腸癌、結腸癌)、小腸癌、肝臓癌、膵臓癌、肺癌、咽頭癌、食道癌、腎癌、胆のう及び胆管癌、頭頸部癌、皮膚癌、膀胱癌、前立腺癌、乳癌、子宮癌(子宮頸癌、子宮体癌)、卵巣癌、脳腫瘍、胸腺腫、白血病、悪性リンパ腫等が挙げられる。
【実施例0043】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0044】
なお、本実施例中のアミノ基量の測定、細胞表面抗原の解析、敗血症ラットの調製、ラットの体外循環、及びIn vitro吸着試験は、特に記載しない限り以下の方法で行った。
【0045】
1.ピクリン酸吸着量の測定
検体0.1 gを0.1M ピクリン酸・70%エタノール溶液10 mLに浸し、2時間緩やかに振とうした。次に、検体を70%エタノール溶液で洗浄し、洗浄液の黄色が消えるまで洗った。次に、検体を10~50 mLの1重量%ジエチルアミン・70%エタノール溶液に浸し、ピクリン酸を溶出させた。320 nmの吸光度からピクリン酸濃度を求め、吸着量を正確な検体重量で除して1グラム当たりのピクリン酸吸着量とした。この値はアミノ基量に相当する。
【0046】
2.細胞表面抗原の解析
細胞の表面抗原の分析はベックマン・コールター社製のマルチレーザー・マルチカラーフローサイトメーター CytoFlex Sを用いて行なった。7色~9色でのマルチカラー測定を行なった。細胞表面染色用抗体としては、e-Bioscience社のフルオロセイン・イソチオシアネイト(FITC)標識抗ラット顆粒球マーカー(HIS48)抗体、フィコエリスリン-シアニン7(PE-Cy7)標識抗ラットCD4抗体、Biolegend社のペリジニン・クロロフィル・プロテイン-シアニン5.5 (PerCP-Cy5.5)標識抗ラットCD45RA、フィコエリスリン(PE)標識抗ラットCD3抗体、アロフィコシアニン(APC)標識抗マウスLAP抗体、Alexa Fluor700標識抗ラットCD45抗体、及びベクトン・ディッキンソン社のV450標識抗ラットCD8a抗体を用いた。
【0047】
血液100μLを15 mLの試験管に採取し、蛍光抗体を溶解した100μLの10%マウス血清入りファックス緩衝液(0.1%ウシ血清アルブミン含有市販ダルペッコのリン酸緩衝液)を添加した後、室温で30分間静置した。次に、遠心して得られた細胞ペレットに1 mLのベクトン・ディッキンソン社製溶血液を加え、20分間振盪した。ファックス緩衝液で洗浄した後、200μLのファックス緩衝液に分散して、フローサイトメーターで測定した。CD45のゲートを掛けて、5万個の細胞を採取して、測定し、以下の様に解析した。
【0048】
FCS(前方散乱)-SSC(側方散乱)ドットプロット図における顆粒球とリンパ球の分布から溶血が正常に行われたことを確認した。CD45陽性の細胞のシングレット細胞についてCD3陽性CD4陽性細胞をCD4+T細胞とし、CD3陽性CD8a陽性細胞をCD8+T細胞とした。CD3陰性CD45RA陽性細胞をB細胞とした。また、His陽性細胞を顆粒球とし、その発現細胞がFSC-SSCドットプロット図と一致することを確認した。
【0049】
3.敗血症ラットの調製
リポポリサッカライド(大腸菌O111由来、フェノール抽出品;富士フイルム和光純薬社125-05201;以下LPSと略称する)を生理食塩水に溶解して10 mg/mLの濃度とし、0.22μmの膜(MILLEX(登録商標)-GVフィルター・ユニット)で滅菌ろ過してLPS溶液とした。体外循環の4時間前に、WKAH/Hkmラット(雄、10~12週令)の腹腔内にLPS溶液を体重1 kg当たり1 mL注射して、敗血症ラットを調製した。
【0050】
4.ラットの体外循環
(体外循環カラムの調製)
捕集材0.3 gを内径1 cm、内容積2 mLのポリプロピレン製円筒形カラムに充填し、体外循環カラムを作製した。カラムと回路に70%アルコールを通液して滅菌した後、体外循環直前にヘパリン添加生理食塩液(5単位/mL) 40 mLを2 mL/分の速度で流して前処理した。
【0051】
(体外循環)
体重350~450 gのラットを三種混合麻酔薬(生理食塩水 1 L当たり、ドミトール7.5 mg、ミダゾラム「サンド」 400 mg、ベトルファール 500 mg含有;ラット体重 1 kg当たりドミトール0.375 mgの液を皮下注射)で全身麻酔し、左大腿の動脈と静脈にカニュレーションし、動脈から脱血し、マイクロチューブポンプを用いて、体外循環カラムを通過させ、静脈に返血した。血流速度2 mL/分で30分間体外循環した。体外循環中ヘパリンを輸液ポンプ(テルフュージョン小型シリンジポンプTE-361N; テルモ社)を用いて100単位/時間で持続投与した。ただし、敗血症ラットの麻酔の場合は、通常の使用量の90%量の麻酔薬を用いた。
【0052】
体外循環終了後、メデトミジン拮抗薬(生理食塩水 1 L当たり、アンチセダン 150 mg含有する液)をラット体重1 kg当たりアンチセダン0.75 mgの割合で皮下注射して覚醒させた。
【0053】
5.In vitro吸着試験
(吸着材のLAP陽性細胞吸着能の評価)
Donryuラット又はWKAH/Hkmラットから全採血し、捕集材評価に用いた。捕集材0.1 gを生理食塩水中で蒸気滅菌(120℃×15分)した。この吸着材とラット血液2 mLを50 mL容のポリプロピレン製遠心チューブに入れ、37℃で20分間振盪した。吸着後の血液を集め、フローサイトメーターで表面抗原を測定した。
【0054】
[製造例]
<クロロアセトアミドメチル化ポリスルホンの調製>
(ポリマー1の調製)
ニトロベンゼン60 mLと硫酸120 mLとの混合溶液を0℃に冷却後、13.6 g (0.11モル)のN-ヒドロキシメチル-2-クロロアセトアミドを0~10℃の温度で加えて溶解し、この溶液をポリスルホン(Sigma-Aldrich-428302: 平均分子量~35000)のニトロベンゼン溶液(22.1 g:0.05モル/200 mL)に強く撹拌しながら加えた。更に、20℃で2時間撹拌した後、反応混合物を大過剰の冷メタノール中に入れ、ポリマーを沈殿させた。沈殿物をニトロベンゼン臭が無くなるまでメタノールで抽出した後、乾燥して24.3 gのポリマーを得た。このポリマーを150 mLのジメチルアセトアミドに溶解し、大過剰のメタノール中に入れて再沈殿させた。このポリマーはクロロアセトアミドメチル基の一部が加水分解されて、アミノメチル基になっているので、クロロアセトアミドメチル基に戻すために、次の処理を行なった。すなわち、24 gのポリマーを150 mLのジメチルアセトアミドに溶解し、氷水上、撹拌下に1 mLのクロロアセチルクロライドを滴下して、20時間反応させた。反応混合物を大過剰の水中に入れ、ポリマーを沈殿させ、3 gの炭酸水素ナトリウムを加えた2 Lの水に5時間浸漬した。このポリマーをジメチルホルムアミドに溶解し、メタノール中に入れ、ポリマーを再度、沈殿させ、真空乾燥し、27 gの被覆用ポリマー1を得た。
【0055】
得られたポリマーはジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド、塩化メチレン及びテトラヒドロフランには溶解した。元素分析:N: 2.6% Cl: 6.1%。この赤外線吸収スペクトルから3290-3310、1670、1528 cm-1の吸収によりアミド基の存在を確認した。重水素化クロロホルム溶液の1HNMRスペクトルを測定し、ポリスルホン主鎖のイソプロピリデン基水素(6H)由来ピーク(1.66 ppm;シングレット)の面積に対するアミドメチル基のベンジル基のメチレン基水素(2H)由来のピーク(4.22 ppm)の面積の比率から繰り返し単位当たりの置換率が200%であることを確認した。
【0056】
(ポリマー2の調製)
ニトロベンゼン30 mLと硫酸60 mLとの混合溶液を0℃に冷却後、6.8 g (0.055モル)のN-ヒドロキシメチル-2-クロロアセトアミドを0~10℃の温度で加えて溶解し、この溶液をポリスルホン(Sigma-Aldrich-428302: 平均分子量~35000)のニトロベンゼン溶液(44.2 g:0.1モル/1600 mL)によく撹拌しながら加えた。更に、20℃で2時間撹拌した後、反応混合物を大過剰の冷メタノール中に入れ、ポリマーを沈殿させた。沈殿物をニトロベンゼン臭が無くなるまでメタノールで抽出した後、乾燥して48.1 gのポリマーを得た。このポリマー47 gを300 mLのジメチルアセトアミドに溶解し、撹拌下に1 mLのクロロアセチルクロライドを滴下して、20時間反応させた。反応混合物を大過剰の水中に入れ、ポリマーを沈殿させ、3 gの炭酸水素ナトリウムを加えた2 Lの水に5時間浸漬した。大過剰の水中に入れて再沈殿させ、48 gのポリマー2を得た。このポリマーはジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド及びテトラヒドロフランに溶解した。この赤外線吸収スペクトルからアミド基の存在を確認した。重水素化クロロホルム溶液の1HNMRスペクトルから繰り返し単位当たりの置換率が50%であることを確認した。
【0057】
(ポリマー3の調製)
ニトロベンゼン15 mLと硫酸30 mLとの混合溶液を0℃に冷却後、2.7 g (0.022モル)のN-ヒドロキシメチル-2-クロロアセトアミドを0~10℃の温度で加えて溶解し、この溶液をポリスルホン(Sigma-Aldrich-428302: 平均分子量~35000)のニトロベンゼン溶液(44.2 g:0.1モル/400 mL)によく撹拌しながら加えた。更に、20℃で2時間撹拌した後、反応混合物を大過剰の冷メタノール中に入れ、ポリマーを沈殿させた。沈殿物をニトロベンゼン臭が無くなるまでメタノールで抽出した後、乾燥して44.0 gのポリマーを得た。このポリマー40 gを300 mLのジメチルアセトアミドに溶解し、大過剰のメタノール中に入れ、ポリマーを沈殿させ、42 gのポリマー3を得た。このポリマーはジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド及びテトラヒドロフランに溶解した。この赤外線吸収スペクトルからアミド基の存在を確認した。重水素化クロロホルム溶液の1HNMRスペクトルから繰り返し単位当たりの置換率が20%であることを確認した。
【0058】
(ポリマー4の調製)
ニトロベンゼン15 mLと硫酸30 mLとの混合溶液を0℃に冷却後、1.3 g (0.01モル)のN-ヒドロキシメチル-2-クロロアセトアミドを0~10℃の温度で加えて溶解し、この溶液をポリスルホン(Sigma-Aldrich-428302: 平均分子量~35000)のニトロベンゼン溶液(88.4 g:0.2モル/800 mL)によく撹拌しながら加えた。更に、20℃で2時間撹拌した後、反応混合物を大過剰の冷メタノール中に入れ、ポリマーを沈殿させた。沈殿物をニトロベンゼン臭が無くなるまでメタノールで抽出した後、乾燥して88.0 gのポリマーを得た。このポリマー40 gを300 mLのジメチルアセトアミドに溶解し、大過剰のメタノール中に入れ、ポリマーを沈殿させ、39 gのポリマー4を得た。このポリマーはジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフランに溶解した。この赤外線吸収スペクトルからアミド基の存在を確認した。重水素化クロロホルム溶液の1HNMRスペクトルから繰り返し単位当たりの置換率が5%であることを確認した。
【0059】
<捕集材担体の調製>
(不織布洗浄処理)
繊維の表面に付着している油剤等の異物を取り除くため、ポリエチレンテレフタレート繊維不織布(密度48 mg/cm3;日本バイリーン社) 88.2 gを0.5重量%ジエチレントリアミン・ジメチルスルホキサイド溶液2 Lに浸し、105℃で20分間加熱した。水洗後、乾燥して87.2 gの洗浄不織布を得た。ピクリン酸吸着量は1μmol/gであった。
【0060】
(被覆不織布-1)
先に調製したポリマー4の7.5 gを300 mLのテトラヒドロフランに溶解し、この溶液に先に調製した洗浄不織布の50 gを浸し、24時間静置した後、フラスコ内で回転させながらテトラヒドロフランを蒸発させた。その後、真空乾燥して、57.5 gの被覆不織布-1を得た。
【0061】
(被覆不織布-2)
先に調製した被覆不織布-1の28.3 gをジエチレントリアミンの5%エタノール溶液1 Lに浸し、50℃で2時間加熱した。水洗後、真空乾燥した後、ポリマー1の2.5 gを500 mLのジメチルスルホキサイドに溶解した溶液に先に調製した洗浄不織布の50 gを浸し、24時間静置した。そして、液きりさせた後、真空乾燥して、29.8 gの被覆不織布-2を得た。
【0062】
(被覆不織布-3)
先に調製したポリマー2の4.5 gを300 mLのジメチルアセトアミドに溶解し、この溶液に先に調製した洗浄不織布の30.7 gを浸し、24時間静置した後、ロータリーエバポレーターを用い、不織布をフラスコ内で回転させながら真空下でジメチルアセトアミドを蒸発させた。これを真空乾燥して、35.1 gの被覆不織布-3を得た。
【0063】
(被覆不織布-4)
先に調製したポリマー3の3.1 gを100 mLの塩化メチレンに溶解し、この溶液に先に調製した洗浄不織布の20 gを浸し、24時間静置した。そして、フラスコ内で回転させながら塩化メチレンを蒸発させた後、真空乾燥して、23.1 gの被覆不織布-4を得た。
【0064】
(被覆不織布-5)
先に調製したポリマー2の3.1 gを100 mLの塩化メチレンに溶解し、この溶液に先に調製した洗浄不織布の20 gを浸し、24時間静置した。そして、フラスコ内で回転させながら塩化メチレンを蒸発させた後、真空乾燥して、23.1 gの被覆不織布-5を得た。
【0065】
<本発明捕集材-1(イソアミル基型-1)の作製>
ジエチレントリアミノ-アセチル-イソアミルアミド(ジエチレントリアミンとN-イソアミル-クロロアセトアミドを当モル比で反応させて調製) 2 g (9.6 mmol)、2N-NaOH 4 mL及び70%エタノール40 mLからなる溶液に4.8 gの被覆不織布-2を浸し、50℃の水浴中で7時間加熱した。不織布を70%エタノールで洗浄後、水洗した。乾燥して、リガンドがジエチレントリアミノ-アセチル-イソアミルアミド基(芳香核置換基としては2,5,8,11,14-ペンタアザ-3,13-ジオキソ-17-メチルオクタデカニル基である)である不織布(本発明捕集材-1) 4.6 gを得た。ピクリン酸吸着量は45.2μmol/gであった。
【0066】
<本発明捕集材-2(イソアミル基型-2)の作製>
ジエチレントリアミノ-アセチル-イソアミルアミドの1 g (9.6 mmol)、2N-NaOH 2 mL及び50%ジメチルスルホキサイド水40 mLからなる溶液に4.6 gの被覆不織布-2を浸し、50℃の水浴中で4時間加熱した。不織布を70%エタノールで洗浄後、水洗した。乾燥して、リガンドがジエチレントリアミノ-アセチル-イソアミルアミド基(芳香核置換基としては2,5,8,11,14-ペンタアザ-3,13-ジオキソ-17-メチルオクタデカニル基である)である不織布(本発明捕集材-2) 4.3gを得た。ピクリン酸吸着量は50.0μmol/gであった。
【0067】
<本発明捕集材-3(イソアミル基型-3)の作製>
ジエチレントリアミノ-アセチル-イソアミルアミドの2 g (9.6 mmol)、2N-NaOH 4 mL及び70%エタノール40 mLからなる溶液に4.3 gの被覆不織布-1を浸し、50℃の水浴中で7時間加熱した。不織布を70%エタノールで洗浄後、水洗した。乾燥して、リガンドがジエチレントリアミノ-アセチル-イソアミルアミド基(芳香核置換基としては2,5,8,11,14-ペンタアザ-3,13-ジオキソ-17-メチルオクタデカニル基である)である不織布(本発明捕集材-3) 4.1 gを得た。ピクリン酸吸着量は31.4μmol/gであった。
【0068】
<本発明捕集材-4(ヘキシル基型-1)の作製>
ビス(3-アミノプロピル)アミン-アセチル-ヘキシルアミド(ビス(3-アミノプロピル)アミンに等モルのN-ヘキシル-クロロアセトアミドを反応させて調製)の1 g (3.7 mmol)、2N-NaOH 1 mL及び70%エタノール40 mLからなる溶液に3.1 gの被覆不織布-3を浸し、50℃の水浴中で4時間加熱した。不織布を70%エタノールで洗浄後、水洗した。乾燥して、リガンドがビス(3-アミノプロピル)アミン-アセチル-ヘキシルアミド基(芳香核置換基としては2,5,9,13,16-ペンタアザ-3,15-ジオキソ-ドコサニル基である)である不織布(本発明捕集材-4) 3.1 gを得た。ピクリン酸吸着量は10.7μmol/gであった。
【0069】
<本発明捕集材-5(オクチル基型-1)の作製>
ビス(3-アミノプロピル)アミン-アセチル-オクチルアミド(ビス(3-アミノプロピル)アミンに等モルのN-オクチル-クロロアセトアミドを反応させて調製)の1 g (3.3 mmol)、2N-NaOH 1 mL及び70%エタノール40 mLからなる溶液に3.2 gの被覆不織布-5を浸し、50℃の水浴中で4時間加熱した。不織布を70%エタノールで洗浄後、水洗した。乾燥して、リガンドがビス(3-アミノプロピル)アミン-アセチル-オクチルアミド基(芳香核置換基としては2,5,9,13,16-ペンタアザ-3,15-ジオキソ-テトラコサニル基である)である不織布(本発明捕集材-4) 3.1 gを得た。ピクリン酸吸着量は8.04μmol/gであった。
【0070】
<本発明捕集材-6(ヘキサノイル基型-1)の作製>
ジエチレントリアミン-ヘキサノイルアミド(ジエチレントリアミンに等モルのヘキサノイルクロライドを反応させて調製) 1 g (3.3 mmol)、2N-NaOH 1 mL及び50%ジメチルスルホキサイド水40 mLからなる溶液に4.9 gの被覆不織布-2を浸し、50℃の水浴中で4時間加熱した。不織布を70%エタノールで洗浄後、水洗した。乾燥して、リガンドがジエチレンアミントリアミン-ヘキサノイルアミド基(芳香核置換基としては2,5,9,13-テトラアザ-3,14-ジオキソ-ノナデカノイル基である)である不織布(本発明捕集材-6) 4.8 gを得た。ピクリン酸吸着量は30.2μmol/gであった。
【0071】
<本発明捕集材-7(ヘキサノイル基型-2)の作製>
ジエチレントリアミン-ヘキサノイルアミド1 g (3.3 mmol)、2N-NaOH 1 mL及び50%ジメチルスルホキサイド40 mLからなる溶液に3.8 gの被覆不織布-3を浸し、50℃の水浴中で4時間加熱した。不織布を70%エタノールで洗浄後、水洗した。乾燥して、リガンドがジエチレントリアミン-ヘキサノイルアミド基(芳香核置換基としては2,5,9,13-テトラアザ-3,14-ジオキソ-ノナデカノイル基である)である不織布(本発明捕集材-7) 3.8 gを得た。ピクリン酸吸着量は5.2μmol/gであった。
【0072】
<本発明捕集材-8(ヘキサノイル基型-3)の作製>
ジエチレントリアミン-ヘキサノイルアミド1 g (3.3 mmol)、2N-NaOH 1 mL及び50%ジメチルスルホキサイド水40 mLからなる溶液に4.4 gの被覆不織布-4を浸し、50℃の水浴中で4時間加熱した。不織布を70%エタノールで洗浄後、水洗した。乾燥して、リガンドがジエチレントリアミン-ヘキサノイルアミド基(芳香核置換基としては2,5,9,13-テトラアザ-3,14-ジオキソ-ノナデカノイル基である)である不織布(本発明捕集材-8) 4.4 gを得た。ピクリン酸吸着量は2.4μmol/gであった。
【0073】
<本発明捕集材-9(ヘキサノイル基型-4)の作製>
ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン-ヘキサノイルアミド(ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミンに等モルのヘキサノイルクロライドを反応させて調製) 1 g (3.3 mmol)、2N-NaOH 1 mL及び70%エタノール40 mLからなる溶液に2.9 gの被覆不織布-3を浸し、50℃の水浴中で4時間加熱した。不織布を70%エタノールで洗浄後、水洗した。乾燥して、リガンドがビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン-ヘキサノイルアミド基(芳香核置換基としては2,5,9,13-テトラアザ-3,14-ジオキソ-ノナデカノイル基)である不織布(本発明捕集材-9) 2.9 gを得た。ピクリン酸吸着量は11.5μmol/gであった。
【0074】
<本発明捕集材-10(イソブチリル基型-1)の作製>
ジエチレントリアミン-イソブチリルアミド(ジエチレントリアミンに等モルのイソブチリルクロライドを反応させて調製) 1 g (5.7 mmol)、2N-NaOH 1 mL及び70%エタノール40 mLからなる溶液に3.6 gの被覆不織布-3を浸し、50℃の水浴中で4時間加熱した。不織布を70%エタノールで洗浄後、水洗した。乾燥して、リガンドがジエチレントリアミン-イソブチリルアミド基(芳香核置換基としては2,5,8,11-テトラアザ-3,12-ジオキソ-13-メチル-テトラデカノイル基である)である不織布(本発明捕集材-10) 3.6 gを得た。ピクリン酸吸着量は4.7μmol/gであった。
【0075】
<比較捕集材-1(ロイシン基型)の作製>
ジエチレントリアミン2 mL (20 mmol)、水200 mL及びジメチルスルホキサイド200 mLからなる溶液にクロロアセチル-L-ロイシン2.0 g (10 mmol)を加え、室温で3時間撹拌した後、20 gの被覆不織布-2を浸し、40℃の水浴中で2時間振盪した。不織布を水洗後、60℃の温水で3回抽出した後、乾燥して、リガンドがアセチル-L-ロイシンとジエチレントリアミンの混合物でそのモル比率が1:2である不織布(比較捕集材-1) 20 gを得た。ピクリン酸吸着量は159μmol/gであった。
【0076】
<比較捕集材-2(デカノイル基型)の作製>
ビス(アミノプロピル)エチレンジアミン-デカノイルアミド(ビス(アミノプロピル)エチレンジアミンに等モルのデカノイルクロライドを反応させて調製) 1 g (3.0 mmol)、2N-NaOH 1 mL及びエタノール40 mLからなる溶液に3.0 gの被覆不織布-3を浸し、50℃の水浴中で4時間加熱した。不織布を70%エタノールで洗浄後、水洗した。乾燥して、リガンドがビス(アミノプロピル)エチレンジアミン-デカノイルアミド基(芳香核置換基としては2,5,9,12,16-ペンタアザ-3,17-ジオキソ-ヘキサコサン基である)である不織布(比較捕集材-2) 2.9 gを得た。ピクリン酸吸着量は16.1μmol/gであった。
【0077】
<比較捕集材-3(ジエチレントリアミン基型)の作製>
ジエチレントリアミン1 g (3.0 mmol)とジメチルスルホキサイド40 mLとからなる溶液に3.0 gの被覆不織布-2を浸し、50℃の水浴中で4時間加熱した。不織布を水で洗浄後、乾燥して、リガンドがジエチレントリアミノ基(芳香核置換基としては10-アミノ-2,5,8-トリアゾ-3-オキソデカン基である)である不織布(比較捕集材-3) 3.0 gを得た。ピクリン酸吸着量は108μmol/gであった。
【0078】
<比較捕集材-4(ビスアミノプロピルアミン基型)の作製>
ビス(3-アミノプロピル)アミン1 g (3.0 mmol)と50%ジメチルスルホキサイド水溶液40 mLとからなる溶液に3.0 gの被覆不織布-3を浸し、50℃の水浴中で4時間加熱した。不織布を水で洗浄後、乾燥して、リガンドがビス(3-アミノプロピル)アミノ基(芳香核置換基としては12-アミノ-2,5,9-トリアゾ-3-オキソドデカノ基である)である不織布(比較捕集材-4) 3.0 gを得た。ピクリン酸吸着量は3.8μmol/gであった。
【0079】
<比較捕集材-5(ポリミキシンB型)の作製>
ポリミキシンBの0.2 g及び2N-NaOH 0.5 mLを含む水溶液40 mLに3.0 gの被覆不織布-3を浸し、50℃の水浴中で4時間加熱した。不織布を水で洗浄後、乾燥して、リガンドがポリミキシンBである不織布(比較捕集材-5) 3.0 gを得た。ピクリン酸吸着量は2.1μmol/gであった。
【0080】
[試験例1](in vitro LAP細胞吸着評価)
正常Donryuラット又はWKAH/Hkmラットから採血した血液2 mLに0.1 gの捕集材を入れ、37℃で20分間振盪(120 rpm)した。LAP細胞の吸着率と細胞捕集材のLAP陽性細胞選択率とを求めた。併せて、体外循環材料としての適正度を示す血小板残存率も求めた。CD4+T細胞についての結果を表1に、CD8+T細胞についての結果を表2に、B細胞についての結果を表3に示す。ただし、Donryuラットから採血した血液にはD、WKAH/Hkmラットから採血した血液にはKの頭文字を付し、数字はラットの番号を示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
[試験例2](敗血症治療実験)
敗血症ラットを麻酔し、LPS投与後、2時間後に本発明捕集材-1のカラム、本発明捕集材-6のカラム、又は捕集材の入っていない空カラムで体外循環治療を30分間施行し、生存率を比較した。また、体外循環前後に動脈血を0.5 mLずつ採取し、CD4+T細胞のLAP陽性率を求めた。それらの結果を表4に示す。本発明捕集材-1と本発明捕集材-6を充填したカラムで治療したラットは3匹全てが生存したが、空のカラムで治療した3匹のラットや無治療の3匹のラットは全数が翌日までに死亡した。
【0085】
【表4】