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特開2023-79818直動案内ユニットへの給脂方法および給脂用インジェクタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079818
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】直動案内ユニットへの給脂方法および給脂用インジェクタ
(51)【国際特許分類】
   F16N 21/00 20060101AFI20230601BHJP
   F16C 29/06 20060101ALI20230601BHJP
   F16N 5/02 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
F16N21/00
F16C29/06
F16N5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193474
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】奈良 嗣由
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀行
【テーマコード(参考)】
3J104
【Fターム(参考)】
3J104AA02
3J104AA03
3J104AA23
3J104AA36
3J104AA69
3J104AA74
3J104AA75
3J104CA23
3J104DA05
3J104DA06
3J104EA10
(57)【要約】
【課題】直動案内ユニットへの給脂が容易である給脂方法、および、給脂用インジェクタを提供すること。
【解決手段】レールと、レールに跨架されたスライダとを備え、前記スライダの端面に給脂孔を有する直動案内ユニットに対してグリースを供給する方法である。当該方法は、グリースを収容し、ニードルを備えるインジェクタを準備するステップと、前記ニードルを前記給脂孔に挿入するステップと、前記グリースを前記直動案内ユニットの内部に注入するステップと、を含む。前記ニードルは、先端から5~10mmの位置において30~60°屈曲した形状を有する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールと、レールに跨架されたスライダとを備え、前記スライダの端面に給脂孔を有する直動案内ユニットに対してグリースを供給する方法であって、
グリースを収容し、ニードルを備えるインジェクタを準備するステップと、
前記ニードルを前記給脂孔に挿入するステップと、
前記グリースを前記直動案内ユニットの内部に注入するステップと、
を含み、
前記ニードルは、先端から5~10mmの位置において30~60°屈曲した形状を有する、
直動案内ユニットへの給脂方法。
【請求項2】
前記スライダの内部に潤滑部材が備えられ、
前記スライダの端面から前記潤滑部材の内側端面までの長さnと、
前記ニードルの先端から前記ニードルの屈曲部までの長さmとは、
m>nの関係である、
請求項1に記載の直動案内ユニットへの給脂方法。
【請求項3】
前記ニードルは、弾性材料で構成されたアダプタを備え、
前記アダプタは、前記ニードルの外周を取り巻くチューブ状または環状の部材であって、
前記ニードルの先端は、前記アダプタから5~7mm露出しており、
前記グリースを前記直動案内ユニットの内部に注入するステップにおいて、
前記アダプタを前記スライダの端面に押し付けながら、前記グリースを注入する、
請求項1に記載の直動案内ユニットへの給脂方法。
【請求項4】
前記アダプタの先端側の端面は、前記ニードルの先端の延びる方向に対して直交する面である、
請求項3に記載の直動案内ユニットへの給脂方法。
【請求項5】
シリンジと、
前記シリンジに取り付けられたニードルと、
前記ニードルに取り付けられたアダプタと、
を備えるインジェクタであって、
前記ニードルは、先端から5~10mmの位置において30~60°屈曲した形状を有し、
前記アダプタは、弾性材料で構成され、前記ニードルの外周を取り巻く環状またはチューブ状の部材であって、
前記ニードルの先端は、前記アダプタから5~7mm露出している、
給脂用インジェクタ。
【請求項6】
前記アダプタの先端側の端面は、前記ニードルの先端の延びる方向に対して直交する面である、請求項5に記載の給脂用インジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内ユニットへの給脂方法および給脂用インジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
レールと、レール上を摺動するスライダと、を備える直動案内ユニットにおいて、スライダの長手方向端面に、直動案内ユニットの内部に潤滑剤を供給するための給脂孔が設けられる。給脂孔にグリースニップルが取り付けられる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
グリースニップルから給脂を行うとき、グリースガンを用いてグリースを注入することが知られている。また、注射器を用いてグリースを注入することも知られている。例えば特許文献2には、直動案内装置の給脂孔に栓部材が配置されており、栓部材に注射器の先端のノズルを挿通して、注射器内の潤滑剤を給脂孔に注入することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-351251号公報
【特許文献2】特開2011-2254096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直動案内ユニットへの給脂が容易であることが望ましい。そこで、本発明は、直動案内ユニットへの給脂が容易である給脂方法、および、給脂用インジェクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った直動案内ユニットへの給脂方法は、レールと、レールに跨架されたスライダとを備え、前記スライダの端面に給脂孔を有する直動案内ユニットに対してグリースを供給する方法である。前記方法は、(1)グリースを収容し、ニードルを備えるインジェクタを準備するステップと、(2)前記ニードルを前記給脂孔に挿入するステップと、(3)前記グリースを前記直動案内ユニットの内部に注入するステップと、を含む。前記ニードルは、先端から5~10mmの位置において30~60°屈曲した形状を有する。
【0007】
本開示に従った給脂用インジェクタは、シリンジと、前記シリンジに取り付けられたニードルと、前記ニードルに取り付けられたアダプタと、を備える。前記ニードルは、先端から5~10mmの位置において30~60°屈曲した形状を有する。前記アダプタは、弾性材料で構成され、前記ニードルの外周を取り巻く環状またはチューブ状の部材である。前記ニードルの先端は、前記アダプタから5~7mm露出している。
【発明の効果】
【0008】
上記直動案内ユニットへの給脂方法によれば、直動案内ユニットへの給脂が容易である。また、上記給脂用インジェクタを用いて、容易に直動案内ユニットに給脂できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、給脂の対象となる直動案内ユニットを示す斜視図である。
図2図2は、直動案内ユニットのスライダの一部を取り出して示す斜視図である。
図3図3は、図2から一部の構成を取り除き、エンドキャップの内部を示す斜視図である。
図4図4は、図3のエンドキャップを別の方向から見る斜視図である。
図5図5は、本開示にかかる給脂方法に用いるインジェクタの概要を示す平面図である。
図6図6は、図5のインジェクタの一部の構成を取り出し、拡大して示す平面図である。
図7図7は、本開示にかかるインジェクタの一部を拡大して示す斜視図である。
図8図8は、本開示にかかる給脂方法における一状態を示す斜視図である。
図9図9は、本開示にかかる給脂方法における一状態を示す斜視図である。
図10図10は、本開示にかかる給脂方法における一状態を示す断面模式図である。
図11図11は、本開示にかかる給脂方法に用いるインジェクタの製造方法の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に従った方法は、レールと、レールに跨架されたスライダとを備え、前記スライダの端面に給脂孔を有する直動案内ユニットに対してグリースを供給する方法である。前記方法は、(1)グリースを収容し、ニードルを備えるインジェクタを準備するステップと、(2)前記ニードルを前記給脂孔に挿入するステップと、(3)前記グリースを前記直動案内ユニットの内部に注入するステップと、を含む。前記ニードルは、先端から5~10mmの位置において30~60°屈曲した形状を有する。
【0011】
直動案内ユニットを円滑に動作させるために、潤滑剤が用いられる。潤滑剤は直動案内ユニットの稼働に従って消費されることから、必要に応じて機器の外部から内部へ潤滑剤を供給できることが望まれる。従来、直動案内ユニットにおいて、スライダの長手方向の端面に給脂孔を設けること、この給脂孔に注射器のニードルを差し込んで給脂を行うことが知られている(例えば特許文献2)。給脂孔はスライダ端面に対して垂直に、すなわち、レールに対して平行に形成されている。このため、レールと注射器とが平行になるように注射器を保持しつつ、注射器のニードルを給脂孔に差し込む必要があった。
【0012】
ところで、直動案内ユニットのレールやスライダの寸法は様々である。また、直動案内ユニットが設置される場所、直動案内ユニットが設置される向きも様々である。例えば、直動案内ユニットのすぐ近くに別装置が位置することがある。また、基台の側面や裏面など、作業者の手が届きにくい場所や向きで直動案内ユニットが設置されることもある。このような場合、給脂孔にニードルを差し込むことが難しいことがあった。とりわけ、小型の直動案内ユニットは、狭い場所に設置されることが多い上に、レールの上面とスライダの給脂孔との距離が短い。このため、給脂を行おうとすると、シリンジ自体が邪魔になってニードルを給脂孔に差し込み難いことがあった。
【0013】
本開示の給脂方法では、インジェクタに備えられるニードルが、先端から5~10mmの位置において30~60°屈曲した形状を有する。このため、シリンジとレールとを平行に保持する必要がない。また、直動案内ユニットの周囲の状況に合わせて、直動案内ユニットに対して斜めの位置からニードルを給脂孔に挿入できる。本開示にかかる給脂方法では、小型の直動案内ユニットや手の届きにくい場所に設置された直動案内ユニットに対しても、容易に給脂を行える。さらに、直動案内ユニットの構成を何ら変更することなく、直動案内ユニットへの給脂をより容易に行える。
【0014】
前記の方法において、前記スライダの内部に潤滑部材が備えられてもよい。また、前記スライダの端面から前記潤滑部材の内側端面までの長さnと、前記ニードルの先端から前記ニードルの屈曲部までの長さmとは、m>nの関係であってよい。スライダの内部に潤滑部材が備えられている場合、グリースを注入する際に、注入されたグリースに圧迫されて潤滑部材が変形するおそれがあった。潤滑部材が変形すると、潤滑部材が適切に機能しなくなり、直動案内ユニットの走行に影響を及ぼす可能性がある。この点、スライダの端面から潤滑部材の内側端面までの長さnよりもニードルの先端からニードルの屈曲部までの長さmが大きいと、潤滑部材よりも奥までニードルの先端を挿入できる。このため、ニードルの先端から吐出されるグリースが潤滑部材を直接圧迫することがない。この構成によって、グリースを供給する際に潤滑部材が変形することが防止され、直動案内ユニットに不具合が生じる可能性を低減できる。
【0015】
前記の方法において、前記ニードルは、弾性材料で構成されたアダプタを備えてもよい。前記アダプタは、前記ニードルの外周を取り巻く環状またはチューブ状の部材であって、前記ニードルの先端は、前記アダプタから5~7mm露出してもよい。前記グリースを前記直動案内ユニットの内部に注入するステップにおいて、前記アダプタを前記スライダの端面に押し付けながら、前記グリースを注入してもよい。ニードルに弾性を有するアダプタが備えられており、このアダプタをスライダの端面に押し付けると、ニードルが挿入された給脂孔の周囲がアダプタによって封止される。このため、グリースを給脂孔から注入するときに給脂孔からグリースが外に漏れ出すことが防止され、効率的に給脂できる。
【0016】
前記アダプタの先端側の端面は、前記ニードルの先端の延びる方向に対して直交する面であってよい。このとき、より確実に給脂孔の周囲を封止し、グリースの漏れを防止できる。
【0017】
また、本開示に従った給脂用インジェクタは、シリンジと、前記シリンジに取り付けられたニードルと、前記ニードルに取り付けられたアダプタと、を備える。前記ニードルは、先端から5~10mmの位置において30~60°屈曲した形状を有する。前記アダプタは、弾性材料で構成され、前記ニードルの外周を取り巻く環状またはチューブ状の部材である。前記ニードルの先端は、前記アダプタから5~7mm露出している。この構成の給脂用インジェクタを用いると、直動案内ユニットの給脂孔に対して斜めの位置にシリンジを保持した状態で、給脂を行える。また、アダプタを直動案内ユニットの端面に押し付けるようにして給脂を行うと、給脂孔からグリースが漏れ出すことを防止できる。
【0018】
前記の給脂用インジェクタにおいて、前記アダプタの先端側の端面は、前記ニードルの先端の延びる方向に対して直交する面であってよい。この構成であれば、ニードルを直動案内ユニットのスライダに設けられた給脂孔に差し込んだとき、スライダとアダプタの端面が密着しやすく、給脂孔からグリースが漏れ出すことをより確実に防止できる。
【0019】
[実施形態の具体例]
次に、本開示の直動案内ユニットの具体的な実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0020】
(直動案内ユニット)
図1は、本開示にかかる給脂方法の対象となる直動案内ユニットの一例である、直動案内ユニット1の斜視図である。まず直動案内ユニット1の全体について説明する。図1を参照して、直動案内ユニット1は、レール10と、スライダ20と、を備える。スライダ20はレール10に跨架されており、レール10に対して摺動自在である。
【0021】
スライダ20は、上面である台状部と、台状部の両側端から垂下する袖部とを有する。スライダ20は、ケーシング21と、エンドキャップ22と、エンドシール23と、を含む。ケーシング21の上面には、ワークや機器等の外部部材を取り付けるための取り付け穴28が複数、形成されている。エンドキャップ22は、ケーシング21の長手方向の両端面のそれぞれに接して備えられている。エンドシール23は、エンドキャップ22のケーシング21と接する側と逆側の端面に接して、備えられている。エンドシール23とエンドキャップ22は、2箇所のねじ15によってケーシング21に固定されている。エンドシール23の幅方向の中央部に、給脂孔55が形成されている。
【0022】
レール10は、長手方向に沿う両側面にそれぞれ、上下の軌道面10a、10bを有する。ケーシング21における、軌道面10a、10bに対向する位置に、一対の軌道面が形成されている。軌道面10a、10bとケーシング21に形成される一対の軌道面とによって、負荷領域である2列の軌道路が形成される。すなわち、直動案内ユニット1は、上下2列の軌道路を有する。2列の軌道路内にそれぞれ転動体であるローラが挿入されている。スライダ20の移動に従って、ローラが軌道路を転走する。
【0023】
レール10には、厚み方向に貫通する取り付け穴18が複数形成されている。取り付け穴18を利用して、レール10が基台や外部装置に固定される。いったんレール10が固定され、直動案内ユニット1が運用開始されると、レール10は原則的に取り外されない。すなわち、通常、レール10が固定された場所で給脂が行われる。レールの寸法は特に制限されないが、例えばレールの幅は5~25mm程度であってよい。本開示にかかる給脂方法は、小型の直動案内ユニットに好適である。
【0024】
なお、直動案内ユニット1は、転動体がローラであり2列の軌道路を備えているが、これに制限されない。例えば、本開示の給脂方法の対象となる直動案内ユニットの転動体はボールであってもよく、軌道路は1列であってもよい。転動体や転走溝の具体的な形状は、特に制限されない。
【0025】
図2は、直動案内ユニット1のスライダ20の一部を取り出して示す斜視図である。図2を参照して、エンドシール23は、スライダ20の最も外側に位置する部材である。なお、スライダ20において、スライダ20の長手方向における中心に近い側を内側、スライダ20の長手方向における中心から遠い側を外側と称する。エンドシール23は、鋼板で構成されていてもよく、金属板をシリコンゴム等の樹脂材料で被覆した材料で構成されていてもよい。
【0026】
エンドシール23におけるレール10(図1)を囲う部分には、リップ24が形成されている。リップ24によって、機器外部からの埃等の侵入を防止するとともに、機器内部からのグリース漏れを防止する。リップ24の上辺24aは、レール10の上面10c(図1)と近接する。リップ24の上辺24aの上部に、給脂孔55が形成されている。給脂孔55は例えば直径が0.6~0.8mm程度で、エンドシール23の厚み方向に貫通する貫通孔である。エンドシール23は、一体の部材から構成されてもよく、2以上の部材から構成されてもよい。
【0027】
図3は、図2からエンドシール23およびねじ15を含む一部の構成を取り除き、エンドキャップ22の内部を示す斜視図である。図3を参照して、エンドキャップ22の外側内部に形成された窪みに、潤滑部材31が収容されている。エンドキャップ22は、例えば、一体成形された硬質樹脂からなる。エンドキャップ22は、エンドシール23の給脂孔55に連通する位置に、給脂孔225が形成されている。図3に示すエンドキャップ22の外側端面において、給脂孔225の長手方向に直交する断面は、下部が開いた円弧状である。給脂孔225の下部にある開口部225aには、潤滑部材31が露出している。
【0028】
潤滑部材31は、グリース等の潤滑剤が含浸された多孔質部材である。潤滑部材31は多孔質の焼結樹脂部材であってよい。焼結樹脂部材は、例えば合成樹脂の微粒子を所定の金型に充填して加熱成形することによって、多孔質構造に焼結されたものである。具体的には、超高分子量ポリエチレン樹脂の微粒子を焼結して成形したものを使用できる。多孔質構造としては、空間率が例えば40~50%のオープンポアから成る構造を用いることができる。潤滑部材31はこの構造ゆえに、圧力を受けると変形する可能性がある。
【0029】
図4は、図3のエンドキャップ22を別の方向から見る斜視図である。図4は、エンドキャップ22の内側端面(ケーシング21に接する側の面)を主に示す。図4を参照して、エンドキャップ22の内側端面において、給脂孔225の長手方向に直交する断面は、円形である。つまり、給脂孔225の開口部225aは、エンドキャップ22の外側端面から厚み方向(長手方向)に延び、厚み方向の途中に終端を有する。給脂孔225に連通して、油溝222が形成されている。油溝222は、エンドキャップ22に形成される転動体の方向転換路102に連通する。給脂孔225から供給されたグリースは、油溝222を通って、転動体に供給される。また、潤滑部材31(図3)は開口部223から方向転換路102に露出し、方向転換路102を通過する転動体に接触する。この構成によって、潤滑部材31を介してグリースが転動体に供給される。
【0030】
(インジェクタ)
図5は、本開示にかかるインジェクタの概要を示す平面図である。図5を参照して、インジェクタ50は、シリンジ51と、シリンジ51に取り付けられたニードル52と、を備える。ニードル52は、接続部53を介してシリンジ51に取り付けられている。シリンジ51は、グリースが収容される本体部58と、内周面にねじ溝が形成された筒先56と、指を掛けるためのフランジ部57と、を含む。本体部58にプランジャ54が挿入されている。本体部58にグリースが収容された状態でプランジャ54を手で押し込むと、グリースはニードル52の先端から押し出される。シリンジ51およびプランジャ54は、ポリプロピレン樹脂等の樹脂製であってよい。ニードル52および接続部53は、ステンレス(例えばSUS404)等の金属製であってよい。
【0031】
インジェクタ50の具体的な寸法は特に制限されないが、例えば、1.5~12mLのグリースを収容できることが好ましい。例えばインジェクタの容量が2.5mLであるとき、本体部58の直径は10mm程度、フランジ部57の最大幅は20mm程度となる。例えばインジェクタの容量が10mLであるとき、本体部58の直径は17mm程度、フランジ部57の最大幅は30mm程度となる。
【0032】
図6は、インジェクタ50の一部の構成を取り出し、拡大して示す平面図である。ニードル52は、全体が同じ外径に形成された中空円筒状のニードルである。図6を参照して、ニードル52は、接続部53と連続し直線的に延びる部分である第1部分521と、屈曲部である第2部分522と、直線的に延びる先端部である第3部分523と、を含む。ニードル52は、途中に屈曲部が形成されたアングル付きの管である。直動案内ユニットに対して給脂を行う際には、第3部分523が直動案内ユニットの給脂孔55(図1)に挿入され、屈曲部である第2部分522で止まる。第1部分521と第3部分523とがなす角θは、インジェクタ50では45°である。すなわち、ニードル52は、第2部分522にて45°屈曲している。第3部分523の長さLは、8.5mmである。すなわち、ニードル52は先端から8.5mmの位置において屈曲している。
【0033】
ニードルの屈曲する角度や先端部の長さはこれに限定されない。例えば、第1部分521と第3部分523とがなす角θは、30~60°であってよい。この範囲であれば、直動案内ユニットに対する給脂が容易になり、また、ニードルの孔を潰すことなくニードルの屈曲部を形成できる。また、先端から屈曲部までの長さは5mm~10mmであってよい。この範囲であれば、屈曲部を設ける効果が得られる。また、ニードルを給脂孔に挿入した時にニードルの先端が潤滑部材よりも奥に位置する。このため、ニードルから吐出された潤滑剤によって潤滑部材が変形することを防止できる。
【0034】
ニードル52に屈曲部が形成されていることによって、直動案内ユニットに対して斜めの位置にインジェクタを保持した状態で、ニードル52の先端を給脂孔55に挿入できる(例えば図8参照)。この構成によって、狭い場所や手の届きにくい向きに設置された直動案内ユニットや小型の直動案内ユニットに対しても、容易に給脂が行える。
【0035】
図7は、本開示にかかるインジェクタ60の一部を拡大して示す斜視図である。インジェクタ60のシリンジおよびプランジャは、インジェクタ50のシリンジ51およびプランジャ54(図5)と同様であり、図示を省略する。図7を参照して、インジェクタ60は、ニードル52と、接続部53と、ニードル52に取り付けられたアダプタ61と、を含む。ニードル52および接続部53の構成は、インジェクタ50と同様であり説明を省略する。インジェクタ60は、アダプタ61を有する点においてインジェクタ50と相違する。
【0036】
アダプタ61は、例えばフッ素ゴムである弾性材料で構成された弾性部材である。アダプタを構成する材料はフッ素ゴムに限らず、シリコンゴムやエラストマー等の弾性材料を用いることもできる。アダプタ61は、ニードル52の外周を取り巻くようにニードル52の外周に挿入されたゴムチューブである。アダプタ61は弾性部材であるため、ニードル52の屈曲に沿って曲がった状態になっている。アダプタ61の基端側の端面61aは、接続部53に含まれるナット部531と当接している。アダプタ61の先端側の端面61bはニードル52の第3部分523に至っている。アダプタ61の先端側の端面61bは、ニードル52の第3部分523が延びる方向に対して直交する。ニードル52の先端がアダプタ61から露出する長さLは、5mmである。Lの長さは発明の効果を得られる限り特に制限されないが、例えば5mm~7mm程度とできる。
【0037】
(給脂方法)
本開示にかかる直動案内ユニットへの給脂方法は、(1)グリースを収容し、ニードルを備えるインジェクタを準備するステップと、(2)ニードルを給脂孔に挿入するステップと、(3)グリースを直動案内ユニットの内部に注入するステップと、を含む。ニードルは、先端から5~10mmの位置において30~60°屈曲した形状を有する。
【0038】
ステップ(1)において、例えばインジェクタ50,60のシリンジ51にグリースを入れる。また、あらかじめグリースが充填されたシリンジ51を入手して用いてもよい。グリースの種類は特に制限されず、直動案内ユニットの構成や用途に応じて公知のグリースを選択して用いればよい。ニードルとしては具体的には例えばニードル52を用いることができる。シリンジとニードルはあらかじめセットアップされていてもよく、使用前にシリンジとニードルを取り付けて用いてもよい。
【0039】
ステップ(1)に続いてステップ(2)を実施する。ステップ(2)では、直動案内ユニットの給脂孔にニードルを挿入する。ニードルは屈曲部を有するため、先端から屈曲部までが給脂孔に挿入される。図8はステップ(2)の一状態を示す斜視図である。図8では、ニードル52の第3部分523の途中までが挿入されている。図8に示されるとおり、ニードル52は屈曲しているため、直動案内ユニット1に対して斜めの位置にインジェクタ50を保持しながら、ニードル52を給脂孔55に挿入できる。直動案内ユニット1に対してインジェクタ50を保持する位置は1つのポジションに制限されず、直動案内ユニット1の向きや周囲の状況に応じて作業しやすいポジションをとることができる。
【0040】
図9は、インジェクタとしてインジェクタ60を用いた場合のステップ(2)の一状態を示す斜視図である。インジェクタ60はアダプタ61を有しており、給脂孔にニードルを挿入すると、アダプタ61の端面61bがエンドシール23の端面に当接して止まる。アダプタ61は弾性部材で構成されているため、エンドシール23に沿うように変形しうる。このため、給脂孔55の周囲が端面61bによって封止される。
【0041】
図10は、本開示にかかる給脂方法における一状態を示す断面模式図である。図10は、図9の一部を拡大した断面図である。前述のとおり、エンドキャップ22の内部には潤滑部材31が備えられている。エンドキャップ22の給脂孔225の下面の開口部225aから、潤滑部材31が給脂孔225に露出している。また、給脂孔225に挿入されたニードル52の先端は、潤滑部材31よりも奥まで達している。すなわち、ニードル52の先端がアダプタ61から露出する長さLは、スライダの端面(すなわちエンドシール23の端面)から潤滑部材31の内側端面までの長さnよりも長い。さらに、ニードル52の先端からニードルの屈曲部までの長さmは、スライダの端面から潤滑部材31の内側端面までの長さnよりも長い。この構成によって、アダプタ61の有無に関わらず、ニードル52の先端が潤滑部材31よりも奥まで達する。
【0042】
ステップ(2)に続いてステップ(3)を実施する。ステップ(3)では、インジェクタのプランジャを手で押し込み、シリンジに収容されたグリースをニードル先端から吐出させる。吐出されたグリースは、給脂孔225から油溝222(図4)を通って方向転換路102に至る。また、吐出されたグリースが給脂孔225内に溜まり、潤滑部材31に含浸される。ニードル52の先端が潤滑部材31よりも奥まで達している場合、吐出されたグリースによって潤滑部材31が直接圧迫されることがない。また、給脂孔55の周囲がアダプタ61によって封止されているので、給脂孔55からグリースが漏れ出すことが防止される。
【0043】
(変形例)
上述の実施形態は一例に過ぎず様々な変形が可能である。例えば、ニードルに取り付けられるアダプタは、断面の外形が円形に限られず、断面の外形が四角形や六角形のチューブであってもよい。また、アダプタはチューブ状の部材に限られず、ニードルの長さ方向の所定の位置に嵌められたリングであってもよい。
【0044】
(製造方法)
本開示にかかるインジェクタは、市場から入手可能であるインジェクタのニードルを曲げることによって製造可能である。製造方法の一例を述べる。図11は、本開示にかかる給脂方法に用いるインジェクタの製造方法の概要を示す模式図である。図11を参照して、ステンレス(具体的には例えばSUS404)製のノズル部材70を準備する。ノズル部材70は、ニードル72と接続部73とを含む。概要的には、下型81、上型82および押型83から構成されるプレスユニット80を用いてニードル72をプレスすることによって、屈曲部を有するニードルを作製する。屈曲部が形成されたニードルを、シリンジやアダプタ等の部品と組み合わせることで、本開示にかかるインジェクタを得る。
【0045】
下型81の上面81bには、凹部81aが設けられている。凹部81aに、ニードル72の基端に連結された接続部73を載置する。下型81は、ニードル72に屈曲部を形成するための第1型面81cを有する。下型81において、上面81bと第1型面81cのなす角θは、屈曲部の設定角度θに対して、θよりも15~25°程度大きく屈曲させるように設定することが好ましい。例えば、θ=180-(θ+20)としてもよい。プレス工程では設定角度θよりも15~25°程度大きな角度に屈曲させることで、プレス後のニードル72の屈曲部が所望の設定角度θを有するようになる。第1型面81cの一端から、第1受け面81dが延びる。
【0046】
上型82の下面82bには、凹部82aが設けられている。凹部82aは凹部81aと対向する位置にある。凹部81aと凹部82aとによって、接続部73が動かないように保持される。上型82の端面82cは、押型83を上方から組み合わせることができるように、下面82bに対して垂直に設けられている。下型81にノズル部材70を載置し、上型82を被せて、下型81と上型82とを互いに固定することによって、ノズル部材70がプレスユニット80に固定される。
【0047】
ノズル部材70がプレスユニット80に固定されると、ニードル72の先端の一部が、下型81と上型82から飛び出した状態となる。ここに押型83を圧接させてプレスする。押型83は、溝83aが形成された第2型面83cを有する。第2型面83cは第1型面81cと対向する。押型83の下面83dが下型81の第1受け面81dに接する位置まで、押型83を上方から押し付ける。プレス状態では、第1型面81cと第2型面83cとが密着する。このとき、ニードル72が溝83aに沿うように変形し、屈曲部が形成される。溝83aの径は、例えば、ニードル72の径よりも5%程度(例えば0.5mm程度)大きくすることが好ましい。ニードルに対してわずかにクリアランスをもたせることによって、一定の角度の屈曲部を形成できると同時に、ニードルに個体差がある場合などでもニードルの中空部を潰すことなく所望の角度を有する屈曲部を形成できる。
【0048】
押型83の溝83aは、第2型面83cにわたって延在する。このため、上型82の端面82cと溝83aとの間に、逃げ部87が形成される。逃げ部87によって、ニードル72を屈曲させる時に屈曲部に過度の応力が発生することが防止され、均一に屈曲したニードル72を効率的に作製できると考えられている。所定の圧力を加えた後、プレスユニット80を分解して、屈曲部が形成されたニードル72を得る。
【0049】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
1 直動案内ユニット、10 レール、10a、10b 軌道面、10c 上面、15 ねじ、18 取り付け穴、20 スライダ、21 ケーシング、22 エンドキャップ、23 エンドシール、24 リップ、24a 上辺、28 取り付け穴、31 潤滑部材、50、60 インジェクタ、51 シリンジ、52 ニードル、521 第1部分、522 屈曲部、522 第2部分、523 第3部分、531 ナット部、53 接続部、54 プランジャ、55 給脂孔、56 筒先、57 フランジ部、58 本体部、61 アダプタ、61a、61b 端面、70 ノズル部材、72 ニードル、73 接続部、80 プレスユニット、81 下型、81a、82a 凹部、81b 上面、81d 第1受け面、82 上型、82b 下面、82c 端面、83 押型、83a 溝、83c 第2型面、83d 下面、87 逃げ部、102 方向転換路、222 油溝、223 開口部、225 給脂孔、225a 開口部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11