(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079835
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】電池用炭素集電体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20230601BHJP
C04B 35/528 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
H01M4/66 A
C04B35/528
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193495
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】村田 達哉
【テーマコード(参考)】
5H017
【Fターム(参考)】
5H017AA02
5H017BB05
5H017BB06
5H017BB12
5H017BB14
5H017CC15
5H017EE06
5H017EE07
5H017EE09
5H017HH01
5H017HH03
(57)【要約】
【課題】本発明では、良好な電気的特性及び機械的特性を兼ね備えた、電池用炭素集電体を提供する。
【解決手段】本発明の電池用炭素集電体は、
無機結合材の焼結物と、前記無機結合材の焼結物中に均一に分散した炭素粉末とを含む、電池用炭素集電体であって、
前記炭素粉末が黒鉛粉末を含み、かつ
レーザー回折法により測定した前記黒鉛粉末の粒子径の頻度分布において、頻度ピークが少なくとも2つ存在しており、かつ
前記黒鉛粉末の含有率が、前記電池用炭素集電体の質量に対して、60質量%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機結合材の焼結物と、前記無機結合材の焼結物中に均一に分散した炭素粉末とを含む、電池用炭素集電体であって、
前記炭素粉末が黒鉛粉末を含み、かつ
レーザー回折法により測定した前記黒鉛粉末の粒子径の頻度分布において、頻度ピークが少なくとも2つ存在しており、かつ
前記黒鉛粉末の含有率が、前記電池用炭素集電体の質量に対して、60質量%以上である、電池用炭素集電体。
【請求項2】
前記黒鉛粉末の粒子径の頻度分布において、前記頻度ピークに対応する少なくとも2つの粒子径のうち、最も大きい粒子径が、最も小さい粒子径の2倍以上である、請求項1に記載の電池用炭素集電体。
【請求項3】
前記黒鉛粉末の粒子径の頻度分布において、前記頻度ピークに対応する少なくとも2つの粒子径のうち、最も大きい粒子径と、最も小さい粒子径との差が、10μm以上である、請求項1又は2に記載の電池用炭素集電体。
【請求項4】
前記黒鉛粉末の粒子径の頻度分布において、前記頻度ピークに対応する少なくとも2つの粒子径が、いずれも150μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電池用炭素集電体。
【請求項5】
レーザー回折法により測定した前記無機結合材の粒子径の頻度分布における頻度ピークに対応する粒子径が、前記炭素粉末の前記頻度ピークに対応する少なくとも2つの粒子径のうちの最も小さい粒子径よりも小さい、請求項1~4のいずれか一項に記載の電池用炭素集電体。
【請求項6】
前記炭素粉末の質量の、前記無機結合材の焼結物に対する比が、1.5~6.0である、請求項1~5のいずれか一項に記載の電池用炭素集電体。
【請求項7】
前記無機結合材の焼結物は、カオリナイト系、セリサイト系、モンモリロナイト系、及びベントナイト系の粘土類、ゼオライト、ケイソウ土、活性白土、シリカ、リン酸アルミニウム、シリコーン樹脂、並びにシリコーンゴムからなる群から選択される少なくとも一種の無機結合材の焼結物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の電池用炭素集電体。
【請求項8】
炭素粉末と無機結合材粉末とを混合して、混合物を提供すること、
前記混合物を成形して、所望の形状の成形物を提供すること、並びに
前記成形物を乾燥及び焼成すること
を含む、電池用炭素集電体の製造方法であって、
前記炭素粉末が、少なくとも2種類の黒鉛粉末を含み、
前記少なくとも2種類の黒鉛粉末の、レーザー回折法により測定した粒子径の頻度分布における頻度ピークに対応する粒子径が、互いに異なっており、かつ
前記黒鉛粉末の含有率が、前記電池用炭素集電体の質量に対して、60質量%以上である、
電池用炭素集電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用炭素集電体、特に円筒状乾電池用の棒状炭素集電体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、携帯機器および情報機器等の電子機器の電源として、マンガン乾電池が広く用いられている。マンガン乾電池では、有底円筒形の負極缶内に円筒形の正極合剤が収納されている。正極合剤と負極缶との間にセパレータが配置されている。正極合剤の中央部には、正極集電体として機能する炭素棒が圧入されている。炭素棒は、電池缶の開口部を覆う正極端子板に電気的に接続されている。このような炭素棒として、種々のものが開示されている。
【0003】
特許文献1では、黒鉛、カーボンブラック、コークス等の炭素質粉末と粘土を混合し、焼成して得られる炭素棒(電池用炭素集電体)が開示されている。特許文献1では、上記の炭素棒をマンガン乾電池に用いた場合に、電解液の浸透性を抑制できるとしている。
【0004】
特許文献2では、無機結合材の焼結物と、前記無機結合材の焼結物中に均一に分散した炭素粉末とを含む乾電池用炭素集電体が開示されている。特許文献2では、炭素粉末と無機結合材と添加剤と水とを混合し、この混合物を減圧・脱気し、圧縮成形した後、乾燥焼成することにより、この乾電池用炭素集電体を得ることが開示されている。また、特許文献2では、上記の混合物における炭素粉末の含有率は、過半であることが記載されている。
【0005】
なお、特許文献3では、無機結合材の焼成物と、該焼成物中に均一に分散した炭素粉末とを含む摺動材料が開示されている。特許文献3では、無機結合材に炭素粉末を混合し、所望の形状に賦形後、非酸化性雰囲気中で焼成することを含む方法により、炭素系固体摺動材料を製造することが開示されている。特許文献3では、無機結合材の含有量を50質量%以上にすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-97897号公報
【特許文献2】特開2012-204080号公報
【特許文献3】特開2008-207998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法では、焼成時に割れが生じ、炭素棒(電池用炭素集電体)が得られないことがあり、また、得られた電池用炭素集電体は、電池を組み立てるのに十分な強度が得られないことがあった。
【0008】
特許文献2に記載の発明によれば、電気的特性が良好であり、かつ機械的特性も幾らか良好である乾電池用の集電棒(電池用炭素集電体)が得られている。この場合、焼成時の割れ等は少なくなったものの、それでもなお、電池を組み立てるのに十分な強度が得られないことがあった。
【0009】
そこで、本発明では、良好な電気的特性及び機械的特性を兼ね備えた、電池用炭素集電体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈態様1〉無機結合材の焼結物と、前記無機結合材の焼結物中に均一に分散した炭素粉末とを含む、電池用炭素集電体であって、
前記炭素粉末が黒鉛粉末を含み、かつ
レーザー回折法により測定した前記黒鉛粉末の粒子径の頻度分布において、頻度ピークが少なくとも2つ存在しており、かつ
前記黒鉛粉末の含有率が、前記電池用炭素集電体の質量に対して、60質量%以上である、電池用炭素集電体。
〈態様2〉前記黒鉛粉末の粒子径の頻度分布において、前記頻度ピークに対応する少なくとも2つの粒子径のうち、最も大きい粒子径が、最も小さい粒子径の2倍以上である、態様1に記載の電池用炭素集電体。
〈態様3〉前記黒鉛粉末の粒子径の頻度分布において、前記頻度ピークに対応する少なくとも2つの粒子径のうち、最も大きい粒子径と、最も小さい粒子径との差が、10μm以上である、態様1又は2に記載の電池用炭素集電体。
〈態様4〉前記黒鉛粉末の粒子径の頻度分布において、前記頻度ピークに対応する少なくとも2つの粒子径が、いずれも150μm以下である、態様1~3のいずれか一項に記載の電池用炭素集電体。
〈態様5〉レーザー回折法により測定した前記無機結合材の粒子径の頻度分布における頻度ピークに対応する粒子径が、前記炭素粉末の前記頻度ピークに対応する少なくとも2つの粒子径のうちの最も小さい粒子径よりも小さい、態様1~4のいずれか一項に記載の電池用炭素集電体。
〈態様6〉前記炭素粉末の質量の、前記無機結合材の焼結物に対する比が、1.5~6.0である、態様1~5のいずれか一項に記載の電池用炭素集電体。
〈態様7〉前記無機結合材の焼結物は、カオリナイト系、セリサイト系、モンモリロナイト系、及びベントナイト系の粘土類、ゼオライト、ケイソウ土、活性白土、シリカ、リン酸アルミニウム、シリコーン樹脂、並びにシリコーンゴムからなる群から選択される少なくとも一種の無機結合材の焼結物である、態様1~6のいずれか一項に記載の電池用炭素集電体。
〈態様8〉炭素粉末と無機結合材粉末とを混合して、混合物を提供すること、
前記混合物を成形して、所望の形状の成形物を提供すること、並びに
前記成形物を乾燥及び焼成すること
を含み、
前記炭素粉末が、少なくとも2種類の黒鉛粉末を含み、
前記少なくとも2種類の黒鉛粉末の、レーザー回折法により測定した粒子径の頻度分布における頻度ピークに対応する粒子径が、互いに異なっており、かつ
前記黒鉛粉末の含有率が、前記電池用炭素集電体の質量に対して、60質量%以上である、
電池用炭素集電体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な電気的特性及び機械的特性を兼ね備えた、電池用炭素集電体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明における黒鉛粉末の粒度分布における、頻度ピーク及びこれに対応する粒子径の説明図である。
【
図2】
図2は、実施例における黒鉛A(D50:38.8μm)の粒度分布を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例における黒鉛B(D50:4.8μm)の粒度分布を示す図である。
【
図4】
図4は、2種類の黒鉛を等量で混合させたものの粒度分布(頻度)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《電池用炭素集電体》
本発明の電池用炭素集電体は、
無機結合材の焼結物と、前記無機結合材の焼結物中に均一に分散した炭素粉末とを含む、電池用炭素集電体であって、
前記炭素粉末が黒鉛粉末を含み、かつ
レーザー回折法により測定した前記黒鉛粉末の粒子径の頻度分布において、頻度ピークが少なくとも2つ存在しており、かつ
前記黒鉛粉末の含有率が、前記電池用炭素集電体の質量に対して、60質量%以上である。
【0014】
従来、特許文献2でのように、炭素質の粒子の含有率を多くすることにより、電気的特性を向上させることができること、及び特許文献3でのように、機械的特性を向上させるには無機結着剤の含有率を多くすることにより、機械的特性を向上させることができることが知られている。しかしながら、電気的特性と機械的特性とを両方向上させることは困難であった。
【0015】
これに対し、本発明者らは、鋭意研究を行った結果、驚くべきことに、複数の異なる粒子径の黒鉛を均一に混合して用いることにより、電気的特性などを損なうことなく、機械的特性を向上させることが可能となることを見出した。特に、本発明の電池用炭素集電体は、電池の組み立ての際の正極端子板を被せる時等の割れを抑制するのに十分な圧縮強度を有することができる。
【0016】
理論に拘束されていることを望まないが、このような作用は、粒子径の大きい黒鉛の間に生じる空洞に、粒子径の小さい黒鉛が入り込んだ結果、黒鉛が密な配置をとり、更にその間を無機結合材が埋めることにより、少ない無機結合材の含有量でも高い機械的強度が得られること、高い導電性及び可撓性を有する黒鉛粒子が多量に含有されていることによって電池用炭素集電体全体としても高い導電性及び可撓性を有すること等によると考えられる。
【0017】
本発明において、「頻度分布」とは、レーザー回折法により粒度分布を得たときに、横軸を粒子径の対数とし、縦軸を頻度としてデータのプロットを行って得たグラフを意味するものである。
【0018】
図1に示す頻度分布において、頻度の極大値A1、A2を「頻度ピーク」と称し、これらの頻度ピークをとる粒子径B1、B2を、「頻度ピークに対応する粒子径」と称する。
【0019】
本明細書に記載の粒子径に関し、「Dx」(xは0超100未満の数字)とは、レーザー回折法により粒度分布を得たときに、頻度の累積がx%になる粒子径を示すものである。例えば、D10及びD50は、頻度の累積がそれぞれ10%及び50%になる粒子径を示すものである。特に、D50は、中位径(メジアン径)と称されることがある。
【0020】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
【0021】
〈無機結合材の焼結物〉
本発明において、無機結合材の焼結物は、無機結合材の融点以下の温度で、炭素粉末と共に無機結合材を焼成して、無機結合材を焼結させて得たものである。
【0022】
このような無機結合材としては、カオリナイト系、セリサイト系、モンモリロナイト系、ベントナイト系の粘土類、ゼオライト、ケイソウ土、活性白土、シリカ、リン酸アルミニウム、シリコーン樹脂、並びにシリコーンゴムからなる群から選択される少なくとも一種の無機結合材を用いることができる。
【0023】
レーザー回折法により測定した無機結合材の粒子径の頻度分布における頻度ピークに対応する粒子径は、炭素粉末の頻度ピークに対応する少なくとも2つの粒子径のうちの最も小さい粒子径よりも小さいことが、電池用炭素集電体の機械的特性を良好にする観点から好ましい。
【0024】
例えば、炭素粉末の頻度ピークに対応する少なくとも2つの粒子径のうちの最も小さい粒子径が6μmである場合には、レーザー回折法により測定した無機結合材の粒子径の頻度分布における頻度ピークに対応する粒子径は、1μm以上、2μm以上、又は3μm以上であってよく、また6μm未満、5μm以下、又は4μm以下であってよい。
【0025】
〈炭素粉末〉
炭素粉末は、無機結合材の焼結物中に均一に分散した炭素粉末である。この炭素粉末は、黒鉛粉末を含む。
【0026】
また、炭素粉末は、黒鉛粉末以外の他の炭素粉末を含んでいてもよい。
【0027】
炭素粉末の含有率は、電池用炭素集電体の質量に対して、60質量%以上、65質量%以上、67質量%以上、又は70質量%以上であることが、得られた電池用炭素集電体の電気的特性を良好にする観点から好ましい。この含有率は、85質量%以下、83質量%以下、80質量%以下、77質量%以下、又は75質量%以下であることが、得られた電池用炭素集電体の機械的特性を良好にする観点から好ましい。
【0028】
電池用炭素集電体における、炭素粉末の質量の、無機結合材の焼結物の質量に対する比は、1.5以上、1.7以上、2.0以上、2.3以上、2.5以上、3.0以上、又は3.5以上であることが、得られた電池用炭素集電体の電気的特性を良好にする観点から好ましい。この比は、6.0以下、5.5以下、5.0以下、4.7、4.5以下、又は4.0以下であることが、得られた電池用炭素集電体の機械的特性を良好にする観点から好ましい。
【0029】
(黒鉛粉末)
黒鉛粉末としては、例えば人造黒鉛、天然黒鉛を用いることができる。
【0030】
黒鉛粉末の含有率は、電池用炭素集電体の質量に対して、60質量%以上である。この含有率は、65質量%以上、67質量%以上、又は70質量%以上であることが、得られた電池用炭素集電体の機械的強度を良好にする観点から好ましい。この含有率は、85質量%以下、80質量%以下、77質量%以下、又は75質量%以下であってよい。
【0031】
レーザー回折法により測定した黒鉛粉末の粒子径の頻度分布においては、頻度ピークが少なくとも2つ存在している。
【0032】
例えば、平均粒子径が互いに相違する少なくとも2種類の黒鉛粉末、例えば、レーザー回折法による累積分布により測定したD50が互いに相違する少なくとも2種類の黒鉛粉末を用いることにより、頻度ピークの上記の状態を得ることができる。
【0033】
黒鉛粉末の粒子径の頻度分布において、頻度ピークに対応する少なくとも2つの粒子径のうち、最も大きい粒子径は、最も小さい粒子径の2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、又は10倍以上であることが、黒鉛粉末の機械的特性を良好にする観点から好ましい。最も大きい粒子径は、最も小さい粒子径の20倍以下、又は15倍以下であってよい。
【0034】
黒鉛粉末の粒子径の頻度分布において、頻度ピークに対応する少なくとも2つの粒子径のうち、最も大きい粒子径と、最も小さい粒子径との差は、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、35μm以上、40μm以上、45μm以上、50μm以上、55μm以上、又は60μm以上であることが、黒鉛粉末の機械的特性を良好にする観点から好ましい。上記の差は、100μm以下、90μm以下、80μm以下、75μm以下、70μm以下、又は65μm以下であってよい。
【0035】
黒鉛粉末の粒子径の頻度分布において、頻度ピークに対応する少なくとも2つの粒子径は、いずれも150μm以下、130μm以下、110μm以下、100μm以下、90μm以下、80μm以下、又は70μm以下であることが、黒鉛粉末の機械的特性を良好にする観点から好ましい。
【0036】
頻度ピークに対応する粒子径と、黒鉛粉末のD50とは、必ずしも対応していないが、両者の間に正の相関関係が存在している。頻度ピークに対応する粒子径に関する上記の関係は、黒鉛粉末のD50の差を、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、又は30μm以上で、かつ60μm以下、55μm以下、50μm以下、45μm以下、40μm以下、又は35μm以下とすることにより得ることができる。
【0037】
黒鉛粉末のうちの最も平均粒子径が大きいもののD50は、例えば20μm以上、23μm以上、25μm以上、28μm以上、30μm以上、33μm以上、35μm以上、又は38μm以上であってよく、また100μm以下、90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、55μm以下、50μm以下、45μm以下、42μm以下、又は40μm以下であってよい。
【0038】
また、黒鉛粉末のうちの最も平均粒子径が小さいもののD50は、1μm以上、2μm以上、3μm以上、又は4μm以上であってよく、また20μm以下、18μm以下、15μm以下、13μm以下、10μm以下、8μm以下、6μm以下、又は5μm以下であってよい。
【0039】
(他の炭素粉末)
他の炭素粉末としては、例えばカーボンブラック等の球状炭素粉末、並びにカーボンナノチューブ、ミルドファイバー、及びチョップドファイバー等の線状炭素粉末等を用いることができる。
【0040】
他の炭素粉末のD50は、例えば1μm以下、900nm以下、850nm以下、800nm以下、750nm以下、700nm以下、650nm以下、600nm以下、550nm以下、500nm以下、450nm以下、400nm以下、350nm以下、又は300nm以下であってよく、また10nm以上、30nm以上、50nm以上、70nm以上、100nm以上、120nm以上、150nm以上、180nm以上、又は200nm以上であってよい。
【0041】
《電池用炭素集電体の製造方法》
電池用炭素集電体を製造する本発明の方法は、
炭素粉末と無機結合材粉末とを混合して、混合物を提供すること、
前記混合物を成形して、所望の形状の成形物を提供すること、並びに
前記成形物を乾燥及び焼成すること
を含む、電池用炭素集電体の製造方法であって、
前記炭素粉末が、少なくとも2種類の黒鉛粉末を含み、
前記少なくとも2種類の黒鉛粉末の、レーザー回折法により測定した粒子径の頻度分布における頻度ピークに対応する粒子径が、互いに異なっており、かつ
前記黒鉛粉末の含有率が、前記電池用炭素集電体の質量に対して、60質量%以上である。
【0042】
〈混合物の提供〉
混合物の提供は、炭素粉末と無機結合材粉末とを混合することにより行う。炭素粉末及び無機結合材としては、電池用炭素集電体の記載を参照することができる。
【0043】
無機結合材の種類に応じ、混合物には、水を更に添加してもよい。
【0044】
また、混合物には、随意の添加剤を更に混合させてもよい。添加剤としては、例えばβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩等の界面活性剤、アラビアガム等の増粘剤等を用いることができる。
【0045】
混合の手段は、特に限定されず、例えばニーダー、ディスパー等の公知の混合手段であってよい。
【0046】
少なくとも2種類の黒鉛粉末のうちの、頻度ピークに対応する粒子径のうち、最も小さい粒子径を有する黒鉛粉末の質量をmCminとし、頻度ピークに対応する粒子径のうち最も大きい粒子径を有する黒鉛粉末の質量をmCMAXとしたときに、質量比mCmin/mCMAXは、0.2以上、0.3以上、0.5以上、0.7以上、又は0.9以上であり、かつ5.0以下、4.0以下、3.0以下、2.0以下、1.5以下、1.2以下、又は1.1以下であることが、頻度分布において複数の頻度ピークを生じさせる観点からこのましい。
【0047】
〈成形物の提供〉
成形物の提供は、混合物を成形することにより行う。
【0048】
成形の手段は、特に限定されず、例えばTダイ等の公知の押出成形機であってよい。
【0049】
〈成形物の乾燥及び焼成〉
成形物の乾燥及び焼成は、公知の手段を用いて行うことができる。
【0050】
焼成の温度は、無機結合材の焼結を行うことができる温度であれば、特に限定されず、例えば600℃以上、650℃以上、700℃以上、750℃以上、又は800℃以上、850℃以上、又は900℃以上であり、かつ1200℃以下、1150℃以下、1100℃以下、1050℃以下、又は1000℃以下であってよい。
【実施例0051】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0052】
《電池用炭素集電体の作製》
〈実施例1〉
以下の材料を、以下の質量部でオープンニーダーを用いて60分間混合し、加熱しながら水分量を20.0質量%に調整して、混合物を作製した。
無機結合材:ベントナイト系粘土、30質量部
炭素粉末:黒鉛A(GREEN LIMITED COMPANY、GRAPHITE C92、D50:38.8μm)、17.5質量部
炭素粉末:黒鉛B(興和社、LG-92、D50:4.8μm)、52.5質量部
界面活性剤:β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、2質量部
増粘剤:アラビアガム粉末、4質量部
水:30質量部
【0053】
次いで、上記水分調整した混合物を、押出成形機を用いて、断面が円形状になるように押出成形した。次いで、押出成形した上記混合物を、所望の長さに切断した後、乾燥機に入れて150℃で水分を蒸発せしめて乾燥させ、直径3mm、長さ180mmの円柱状の成形体を得た。
【0054】
得られた成形体を、非酸化性雰囲気下で1150℃迄昇温して焼成し、徐冷することにより実施例1の電池用炭素集電体を得た。なお、この焼成により、ベントナイト系粘土の質量は、焼成前の95%となる。
【0055】
〈実施例2~4及び比較例1~6〉
各成分の添加量を、表1に示すように変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例2~4及び比較例1~6の電池用炭素集電体を得た。なお、表1における「黒鉛C」は、小林商事社からのAGP-40(D50:131μm)を示している。
【0056】
また、上記の焼成により、カオリナイト系粘土の質量は、焼成前の88%となる。
【0057】
《頻度ピークの測定》
粒子径分布測定装置(MT3000、マイクロトラック・ベル社)により、用いた黒鉛A及びBについて、レーザー回折法により粒度分布を測定した。黒鉛A及びBの粒度分布を、それぞれ
図2及び3に示す。
【0058】
得られた粒度分布におけるデータを合算して正規化することにより、実施例3及び4で用いた、黒鉛A及びBを等量で混合させて得た黒鉛の混合物の頻度分布を得た。これを
図4に示す。黒鉛A及びBの頻度ピークに対応する粒子径は、それぞれ6.00μm及び67.86μmであった。
【0059】
図4から、実施例3では、頻度ピークが2つ存在していることが確認できよう。これらの頻度ピークに対応する粒子径は、6.54μm及び67.86μmであった。なお、図示していないが、実施例1及び2についても、頻度ピークが少なくとも2つ存在することが推測できよう。
【0060】
また、図示していないが、ベントナイト系粘土及びカオリナイト系粘土についても、同様に粒度分布を測定した。ベントナイト系粘土及びカオリナイト系粘土の頻度ピークに対応する粒子径は、それぞれ3.27μm及び3.57μmであった。
【0061】
《評価》
〈曲げ強さ〉
得られた電池用炭素集電体の曲げ強さを、JIS K 7074に準拠して測定した。具体的には、両端を単純支持された試験片の1点に荷重(3点曲げ)を加え、所定の試験速度で試験片をたわませて得られた破壊時加重又は最大荷重を用いて、曲げ強さσb(MPa)を以下の式で求めた。
σb=(3PbL)/(2bh2)
式中、Lは支点間距離(mm)、bは試験片の幅(mm)、hは試験片の厚さ(mm)、Pbは破壊時加重又は最大荷重(N)を意味する。
【0062】
〈軸方向の圧縮強度〉
得られた電池用炭素集電体の軸方向圧縮強度を、JIS R 1608に準拠して測定した。具体的には軸方向に固定した試験片に加圧板で荷重を加え、所定の試験速度で試験片を圧縮し、試験片が圧縮破壊するまでの最大荷重を測定した。
【0063】
〈抵抗率〉
電圧計の一対の端子を、炭素棒の長手方向に沿って、互いに所定距離Lだけ離して、所定位置に取り付けた。炭素棒の径Dは3mm、距離Lは30mmであった。炭素棒に電流を供給するための電源を準備し、その一対の端子を、炭素棒の両端に取り付けた。炭素棒と電源との間に、電源より供給される電流値を測定するための電流計を取り付けた。炭素棒に電流I(1.0A)を流し、その時の電圧Eを測定した。
【0064】
電流値I、電圧値E、炭素棒の直径D、及びおよび電圧計の一対の端子間の距離Lを用いて、下記式(1)より電気抵抗Rを求めた。
R=(πD2/4)×(E/LI)・・・(1)
【0065】
実施例及び比較例の各構成及び評価結果を表1に示す。なお、表1において、mCminは、頻度ピークに対応する粒子径のうち、最も小さい粒子径を有する黒鉛粉末の質量を意味しており、mCMAXは、頻度ピークに対応する粒子径のうち最も大きい粒子径を有する黒鉛粉末の質量を意味している。
【0066】
【0067】
表1から、実施例1~4の電池用炭素集電体は、良好な電気的特性及び機械的特性を兼ね備えたものであることが理解できよう。中でも、炭素粉末の含有率を70質量%とすると、圧縮強度が良好となり、炭素粉末の含有率を80質量%とすると、抵抗率が低くなった。
【0068】
一方、黒鉛粉末を2種類含んでいない比較例1~5の電池用炭素集電体は、機械的特性が良好ではなかった。また、黒鉛粉末を2種類含んでいるものの、黒鉛粉末の含有率が55質量%である比較例6の電池用炭素集電体も、機械的特性が良好ではなかった。