(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079862
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】縦揺れ免震装置
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230601BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20230601BHJP
F16F 9/34 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
F16F15/023 A
F16F9/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193539
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】508364886
【氏名又は名称】坂本 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 祥一
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AD03
2E139CA06
2E139CA26
2E139CA30
2E139CB01
2E139CB04
2E139CB07
2E139CB20
2E139CC02
2E139CC11
3J048AA02
3J048AC04
3J048BC02
3J048BE03
3J048CB21
3J048EA38
3J069AA50
3J069EE02
(57)【要約】
【課題】地震の縦揺れを効果的に緩和でき、人の移動や荷物の運び入れ等により建物の重量が増加しても建物が振動しないようにできる縦揺れ免震装置を提供する。
【解決手段】上基礎と構築物との間に設けられる縦揺れ免震装置であって、内部に液体が満たされるシリンダと、シリンダを第1隔室と第2隔室に区画するピストンと、一端がピストンに連結され、他端がシリンダの外側の構築物に連結されるピストンロッドと、ピストンロッドに取り付けられる主圧縮ばねと、第1連通路と第2連通路からなり、ピストンを貫通する連通路と、ピストンの第1隔室側に設けられ、第1連通路を開閉する圧力調整弁と、ピストンの第2隔室側に設けられ、第2連通路を開閉する戻り弁と、ピストンを上下方向に貫通するオリフィスと、第1連通路に隣接して設けられる弁制御孔と、これに連通する圧力同調室と、圧力同調室に伝達された第2隔室の圧力により、圧力調整弁を閉じるように押圧するプランジャーと、からなる弁押え機構と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に設けられる下基礎に対向して設けられる上基礎と、前記上基礎の上側に配置される構築物との間に設けられる縦揺れ免震装置であって、
前記上基礎と前記構築物の間に配置され、底部が前記上基礎に連結され、内部に液体が満たされるシリンダと、
前記シリンダを上側の第1隔室と下側の第2隔室に区画するピストンと、
一端が前記ピストンに連結され、他端が前記シリンダの外側に延びて前記構築物に連結されるピストンロッドと、
前記ピストンロッドに取り付けられる主圧縮ばねと、
第1連通路と第2連通路からなり、前記ピストンを上下方向に貫通する連通路と、
前記ピストンの前記第1隔室側に設けられ、開口孔を有する枠体の内部に設けられた押えばねで支持され、前記第1連通路を開閉する圧力調整弁と、
前記ピストンの前記第2隔室側に設けられ、開口孔を有する枠体の内部に設けられた押えばねで支持され、前記第2連通路を開閉する戻り弁と、
前記ピストンを上下方向に貫通するオリフィスと、
前記第1連通路に隣接して設けられ前記ピストンを上下方向に貫通する弁制御孔と、前記弁制御孔に連通する圧力同調室と、前記圧力同調室に伝達された第2隔室の圧力により、前記圧力調整弁を閉じるように押圧するプランジャーと、からなる弁押え機構と、
を備えることを特徴とする縦揺れ免震装置。
【請求項2】
前記上基礎と前記下基礎の間に注入する空気の圧縮タンクと、前記上基礎と前記下基礎の間の外側を覆い、注入した空気が外に漏れないように封じる封止部材を備え、地震の際に前記上基礎を前記下基礎から浮上させて横揺れを緩和する水平免震装置が設けられていることを特徴とする請求項1の縦揺れ免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦揺れ免震装置に関し、より詳細には、地震が発生したときに建物を縦揺れから保護することができる縦揺れ免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、地震の際、下基礎4と上基礎6の間に圧縮空気を注入し建物を浮上させる空気断震建築物を提案(特許文献1参照)した。特許文献1の空気断震建築物は、下基礎4と上基礎6の間に金属板22からなる封止部材を取り付けて、注入した空気が外に漏れないように周囲を覆い、地震で地盤と下基礎側が水平方向に動いても、封止部材が下基礎4の上を滑り、浮上させた上基礎と建物に揺れが伝わらない構造としている。しかしながら、縦揺れは横揺れより早く伝わるので、下基礎4と上基礎6の間の空気層による免震では十分ではない場合がある。そのため、その対応が求められていた。
【0003】
特許文献2には、ビルの底部に設けられた免震構造物が示される。免震構造物は、地震の横揺れに対応するシリンダとピストンからなる免震ダンパーと、地震の縦揺れに対応する積層ゴム体とが備えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3207823号公報
【特許文献2】特開2015-203452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、地震の縦揺れを緩和でき、多数の人の移動や荷物の運び入れ等により建物の重量が変化しても作動しない縦揺れ免震装置を提供することにある。
詳しくは、建物の重量が変化した分は、微小なオリフィスを介して液体が第1隔室と第2隔室の間を移動させ、主圧縮ばねと建物の重量が釣り合う位置にする。一方、建物の重量が変化する時は圧力調整弁を閉じておき、連通路を介して液体が第1隔室と第2隔室の間を移動することがなく建物を振動させないようにする。急激な地震の変動時は、圧力調整弁が開き、連通路を介して液体が第1隔室と第2隔室の間を移動させて、地震の縦揺れを緩和させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による縦揺れ免震装置は、地盤に設けられる下基礎に対向して設けられる上基礎と、前記上基礎の上側に配置される構築物との間に設けられる縦揺れ免震装置であって、前記上基礎と前記構築物の間に配置され、底部が前記上基礎に連結され、内部に液体が満たされるシリンダと、前記シリンダを上側の第1隔室と下側の第2隔室に区画するピストンと、一端が前記ピストンに連結され、他端が前記シリンダの外側に延びて前記構築物に連結されるピストンロッドと、前記ピストンロッドに取り付けられる主圧縮ばねと、第1連通路と第2連通路からなり、前記ピストンを上下方向に貫通する連通路と、前記ピストンの前記第1隔室側に設けられ、開口孔を有する枠体の内部に設けられた押えばねで支持され、前記第1連通路を開閉する圧力調整弁と、前記ピストンの前記第2隔室側に設けられ、開口孔を有する枠体の内部に設けられた押えばねで支持され、前記第2連通路を開閉する戻り弁と、前記ピストンを上下方向に貫通するオリフィスと、前記第1連通路に隣接して設けられ前記ピストンを上下方向に貫通する弁制御孔と、前記弁制御孔に連通する圧力同調室と、前記圧力同調室に伝達された第2隔室の圧力により、前記圧力調整弁を閉じるように押圧するプランジャーと、からなる弁押え機構と、を備えることを特徴とする。
【0007】
前記上基礎と前記下基礎の間に注入する空気の圧縮タンクと、前記上基礎と前記下基礎の間の外側を覆い、注入した空気が外に漏れないように封じる封止部材を備え、地震の際に前記上基礎を前記下基礎から浮上させて横揺れを緩和する水平免震装置が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明による縦揺れ免震装置によれば、[A]、[B]の効果を有する。
[A]地震の縦揺れで、地盤と下基礎が急激に上昇すると、シリンダ内の第2隔室が圧縮され、急激に第2隔室の圧力が上昇する。そのため、第1連通路の圧力調整弁が開き、第2隔室の流体が第1連通路を経由して第1隔室に抵抗を持って流れ込む。よって、ピストンとその上部の構築物の上昇が緩和される。すなわち構築物への衝撃が緩和できる。
また、地震の縦揺れで、地盤と下基礎が急激に下降すると、逆に第1隔室が圧縮され、急激に第1隔室の圧力が第2隔室より上昇する。そのため、戻り弁が開くので、第1隔室の流体が第2連通路を経由して第2隔室に流れ込む。よって、構築物の下降が緩和される。
[B]人の移動や荷物の運び込みで建物の重量が増加するような場合、第1連通路に隣接して設けられ、ピストンを貫通する弁制御孔と、弁制御孔に連通する圧力同調室と、圧力同調室に伝達された第2隔室の圧力により、圧力調整弁を閉じるように押圧するプランジャーと、を設けたので、圧力調整弁が閉じたままなので、建物が振動しないようにできる。
【0009】
上基礎と下基礎の間に注入する空気の圧縮タンクと、上基礎と下基礎の間の外側を覆い、注入した空気が外に漏れないように封じる封止部材とを備えたので、地震の際に上基礎を下基礎から浮上させて横揺れを緩和することができる。縦揺れと横揺れの両方を効果的に緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明による縦揺れ免震装置の構造図である。
【
図2】第1隔室側に設けられ、第1連通路を開閉する圧力調整弁とその周囲の動作説明図(例1)である。
【
図3】第1隔室側に設けられ、第1連通路を開閉する圧力調整弁とその周囲の動作説明図(例2)である。
【
図4】第1隔室側に設けられ、第1連通路を開閉する圧力調整弁とその周囲の動作説明図(例3)である。
【
図5】第2隔室側に設けられ、第2連通路を開閉する戻り弁とその周囲の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明による縦揺れ免震装置について説明する。
【実施例0012】
図1は、本発明による縦揺れ免震装置100の構造図である。縦揺れ免震装置100は、上基礎19と建物である構築物1との間に設けられる。
図1は、構築物1の左下部を示す。構築物1の底面には、例として複数の、例えば前後左右の4箇所に縦揺れ免震装置100が設けられる。上基礎19は、地盤24の下基礎20の上側に対向して設けられる。縦揺れ免震装置100は、内部に液体14が満たされて底部が上基礎19に連結されるシリンダ3と、シリンダ3を上側の第1隔室17と下側の第2隔室18に区画するピストン4を備える。縦揺れ免震装置100は、さらに、一端がピストン4に連結され、他端がシリンダの外側に延びて構築物1に連結されるピストンロッド5と、ピストンロッド5に取り付けられる主圧縮ばね2を備える。液体14は、不燃性のオイルや不凍液を使用することができる。
【0013】
ピストン4には、上下方向に貫通する第1連通路15と第2連通路16が設けられる。第1連通路15を開閉する圧力調整弁7は、ピストン4の第1隔室17側に設けられ、開口孔21を有する枠体22の内部に設けられた押えばね6で支持される。第2連通路16を開閉する戻り弁8は、ピストン4の第2隔室18側に設けられ、開口孔を有する枠体22’の内部に設けられた押えばね6’で支持される。最初のピストン4がシリンダ3に組み込まれた状態では、ピストン4がシリンダ3の中央付近にあって、ピストンロッド5の主圧縮ばね2は縮んでいない状態にある。次に構築物1の荷重がピストンロッド5にかかると、主圧縮ばね2が縮んで、ピストン4が第2隔室18の液体14を押圧し、ピストン4は少し下降した位置でバランスする。構築物1の荷重は、シリンダ3を介して上基礎19と下基礎20で支えられる。
【0014】
弁制御孔9は第1連通路15に隣接して設けられ、ピストン4を上下方向に貫通する。弁制御孔9に連通して第1隔室側に圧力同調室10が設けられる。圧力同調室10に伝達された第2隔室18の圧力により、プランジャー23が圧力調整弁7を閉じるように押圧する。弁制御孔9と、圧力同調室10と、プランジャー23と、は、圧力調整弁7を閉じるように押圧するので、押さえばね6に直列に設けられた弁押え機構26である。
【0015】
オリフィス25は、ピストン4を上下方向に貫通する細い孔である。第1隔室17と第2隔室18の間に圧力差がある場合、オリフィス25の細い孔を介して、時間をかけて液体14が圧力の高い隔室から低い隔室にゆっくりと移動し、第1隔室17と第2隔室18が同じ圧力になる。
【0016】
図1に示すように、上基礎19と下基礎20の間の隙間には、圧縮タンク13から空気(エアー12)が注入される。空気の注入は地震のP波を制御装置が検知すると開始され、S波の横波に備えられる。上基礎19と下基礎20の間は、外側が、注入した空気が外に漏れないように封止部材11で覆われている。隙間に空気が注入されると上基礎19並びに構築物1が下基礎20から浮くので、地盤の横揺れを受けないようにできる。すなわち、上基礎19と下基礎20の間に空気を注入し、水平免震装置として使用できる。
【0017】
図2は、第1隔室17側に設けられ、第1連通路15を開閉する圧力調整弁7とその周囲の動作説明図(例1)である。例1は、第1隔室17の圧力P1と、第2隔室18の圧力P2が等しい場合(P1=P2)とする。この場合、圧力同調室10の圧力はP2で、圧力調整弁7は、押えばね6が伸びて第1連通路15を閉じた状態を維持する。プランジャー23は、上部が突起でブロックされている。よって押えばね6が伸びると圧力調整弁7を押える。
図2に示すように、第1連通路15と弁制御孔9の上部に、枠体22を配置した。枠体22は、内部に弁制御孔9に連通する圧力同調室10があり、その下側にプランジャー23と、押えばね6と、圧力調整弁7を配置し、側壁には第1隔室17に開口する開口孔21を設けている。
【0018】
図3は、第1隔室17側に設けられ、第1連通路15を開閉する圧力調整弁7とその周囲の動作説明図(例2)である。例2は、第1隔室17の圧力P1より、第2隔室18の圧力P2が大きい(P1<P2)場合とする。例えば、建物に荷物が運び込まれ、構築物1の重量が増加したような場合がある。その時、ピストン4が第2隔室18を押圧するので、第2隔室18の圧力P2が、第1隔室17の圧力P1より大きく(P1<P2)なる。この場合、圧力同調室10の圧力もP2となる。その場合、プランジャー23上側の圧力P2は、プランジャー23下側の圧力P1より大きいので、押えばね6を縮めてプランジャー23を下降させる。そのため圧力調整弁7は第1連通路15を閉じた状態に維持する。これによれば、建物に荷物が運び込まれた場合や、多数の人が建物に入ったような場合に、わずかであっても建物が振動するという不安を与えないようにできる。
【0019】
図4は、第1隔室17側に設けられ、第1連通路15を開閉する圧力調整弁7とその周囲の動作説明図(例3)である。例3は、第1隔室17の圧力P1より、第2隔室18の圧力P2が格段に大きい(P1<<P2)場合とする。例えば、地震の縦揺れで地盤24が上昇し、下基礎20と上基礎19が持ち上げられ、シリンダ3が突き上げられる。その場合、ピストン4は元の位置のままなので、第2隔室18の圧力P2が急激に上昇する。圧力同調室10の圧力は、弁制御孔9を介して伝えられるので、遅延してすぐにはP2にはならない。そのため、圧力調整弁7の下側がP2、上側がP1で、しかもP2がP1より格段に大きいので、圧力調整弁7が上昇し、押えばね6を押し上げ、プランジャー23も押し上げる。これにより、圧力調整弁7が第1連通路15を開いた状態にする。第2隔室18の液体14が第1連通路15を通過して、開口孔21を通り、第1隔室17に移動するから、それだけ縦揺れが緩和される。
【0020】
図5は、第2隔室18側に設けられ、第2連通路16を開閉する戻り弁8とその周囲の動作説明図である。
図5(a)は、戻り弁8が第2連通路16を閉じている場合を示す。
図5(b)は、戻り弁8が第2連通路16を開いている場合を示す。第2連通路16の第2隔室18側に枠体22’を配置した。枠体22’の内部に、押えばね6’と、戻り弁8を配置し、側壁には第2隔室18に開口する開口孔21’を設けている。
図5(a)は、第1隔室17の圧力P1と、第2隔室18の圧力P2が等しい場合(P1=P2)である。この場合、戻り弁6は、第2連通路16を閉じた状態を維持する。すなわち、戻り弁6の上側と下側の圧力が略同じで、戻り弁6は押えばね6’で押さえられている。
図5(b)は、第1隔室17の圧力P1が、第2隔室18の圧力P2より格段に大きい場合(P1>>P2)とする。例えば、地震の縦揺れで地盤24と下基礎20と上基礎19とシリンダ3が下降した場合がある。この場合、ピストン4は同じ位置なので、第1隔室17の圧力P1が高くなる。戻り弁6の上側がP1で、下側がP2で、しかもP1>>P2であるから、戻り弁6は下降する。そのため、第1隔室17の液体14が、第2連通路16を通過し、開口孔21’から第2隔室18に流れる。これにより縦揺れが緩和される。
本発明によれば、地震が発生した時に建物の縦揺れを緩和でき、また、荷物等で建物の重量が増加しても、建物が振動しないようにできる縦揺れ免震装置として好適である。水平免震装置と合わせて使用することで、地震の横揺れも緩和できる。