(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079893
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20230601BHJP
【FI】
H01G9/00 290A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193588
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩平
(72)【発明者】
【氏名】上田 政弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊幸
(57)【要約】
【課題】電解コンデンサの製造において、陽極体の化成処理時における化成液と陽極電極との短絡を抑制する。
【解決手段】開示される製造方法は、陽極体1を含む陽極部と、陰極部と、陽極体の表面に形成された誘電体層と、を備える電解コンデンサの製造方法であって、陽極体1の化成処理を多孔質体106が浸漬された化成液102中で行うことにより、陽極体1の表面の少なくとも一部を酸化して誘電体層を形成する化成処理工程を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体を含む陽極部と、陰極部と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、を備える電解コンデンサの製造方法であって、
前記陽極体の化成処理を多孔質体が浸漬された化成液中で行うことにより、前記陽極体の表面の少なくとも一部を酸化して前記誘電体層を形成する化成処理工程を有する、電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記化成処理工程は、
前記陽極体を第1の電極に電気的に接続する工程(i)と、
前記第1の電極に電気的に接続された前記陽極体を化成槽内の前記化成液に浸漬した状態で、前記第1の電極と第2の電極との間に直流電圧を印加することによって前記陽極体の表面の少なくとも一部を酸化して前記誘電体層を形成する工程(ii)と、を含む、請求項1に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記多孔質体は、前記陽極体と前記第2の電極とを結ぶ直線を遮らない位置に配置される、請求項2に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記多孔質体は、前記化成槽の側壁面の少なくとも一部に沿って配置される、請求項3に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記多孔質体は、前記化成槽の底面に配置される、請求項3または4に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記第1の電極は、アルミニウムを含む、請求項2~5のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
前記工程(i)において、複数の前記陽極体を所定の方向に沿って間隔をおいて並べて陽極体群とした状態で、前記陽極体群の前記陽極体のそれぞれを前記第1の電極に電気的に接続する、請求項2~6のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記陽極部は、前記陽極体から植立した陽極ワイヤを含み、
前記工程(i)において、前記陽極ワイヤが前記第1の電極と接続される、請求項2~7のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記多孔質体が、三次元的に延びる連通孔を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項10】
前記多孔質体の材料が、セラミックス、炭素材料、前記陽極体に使用される金属、樹脂、およびガラスからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~9のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、陽極体と陽極体の表面に形成された誘電体層とを含む。一般的に、誘電体層は、陽極体の表面を陽極酸化(化成処理)することによって形成されている。
【0003】
特許文献1には、陽極体に陽極リードを設けてコンデンサ素子を形成する工程と、化成槽内に化成液を入れ、化成液の液面に断熱効果を有する複数のビーズを浮かせて、ビーズにて化成液の液面を覆う工程と、化成液にビーズを通って陽極体を浸し、陽極リードに通電して、陽極体の表面に誘電体酸化被膜を形成する工程を有する、固体電解コンデンサの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
陽極体を陽極酸化する際に、陰極側では水が電気分解され水素が発生する。発生した水素は、最初は化成液に吸収されるが、化成液に溶けきれなくなると、水素ガスを含む気泡が液面まで到達し、気泡が破裂することで化成液が陽極体に電圧を印加するキャリアバーに飛散、付着して、キャリアバーと化成液とが短絡することがある。短絡電流により、本来陽極体に流れるべき電流量が減少し、化成処理に時間を要し、あるいは、誘電体酸化被膜の形成が不完全になる場合がある。
【0006】
加えて、短絡電流によりキャリアバーに含まれる金属成分(例えば、アルミニウム)が化成液中に溶出し、金属成分が陽極体内に混入して、漏れ電流の増加などの電解コンデンサの特性低下を引き起こす場合もある。
【0007】
これに対し、特許文献1に記載されているビーズを化成液の液面に浮かせることで、気泡の破裂によるキャリアバーと化成液との短絡を抑制することは可能である。しかしながら、陽極体を化成液中に浸漬する、あるいは、化成液から陽極体を取り出す際にビーズが障害になる。また、化成液から取り出した陽極体にビーズが付着することも考えられ、作業性が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一局面は、陽極体を含む陽極部と、陰極部と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、を備える電解コンデンサの製造方法であって、前記陽極体の化成処理を多孔質体が浸漬された化成液中で行うことにより、前記陽極体の表面の少なくとも一部を酸化して前記誘電体層を形成する化成処理工程を有する、電解コンデンサの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、化成処理時における化成液と陽極電極との短絡が抑制され、かつ陽極体の化成処理による誘電体層の形成を、作業性を低下させることなく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の製造方法の一例を説明する、化成処理時における化成槽内の状態を模式的に示す図である。
【
図2】本開示の製造方法で製造される電解コンデンサのコンデンサ素子の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】本開示の製造方法で製造される電解コンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本開示に係る製造方法の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値B」という記載は、数値Aおよび数値Bを含み、「数値A以上で数値B以下」と読み替えることが可能である。
【0012】
<電解コンデンサの製造方法>
電解コンデンサを製造するための本実施形態の方法は、陽極体を含む陽極部と、陰極部と、陽極体の表面に形成された誘電体層と、を備える電解コンデンサの製造方法であって、陽極体の化成処理を多孔質体が浸漬された化成液中で行うことにより、陽極体の表面の少なくとも一部を酸化して誘電体層を形成する化成処理工程を有する。なお、別の観点では、上記製造方法は、電解コンデンサの部材(表面に誘電体層が形成された陽極体)の製造方法である。
【0013】
多孔質体が浸漬された液中で化成処理を行うことにより、陰極側で発生する気泡が小さくなり、気泡が液面に到達して破裂する場合であっても、化成液の飛散が抑制され、陽極体と接続する陽極電極と化成液との短絡が抑制される。
【0014】
化成処理により、陽極側では陽極体の表面が酸化され、誘電体酸化被膜が形成されるとともに、陰極側では水が電気分解され、水素が発生する。発生した水素は化成液中に溶解し得るが、化成液に溶けきれなくなった水素は気泡となって液面に向かって浮上する。気泡は、水素のほか、酸素、窒素などを含み得る。
【0015】
化成槽内に多孔質体が存在すると、細孔を有する多孔質体の表面にて気泡が成長し、表面から浮上する。気泡は、細孔による微細な凹部分に沿って成長し、ある一定の径に達すると多孔質体から離脱し、浮上する。このため、浮上時の気泡の大きさ(径)は、多孔質体の細孔径に対応した大きさとなる。結果、気泡は、微細な泡の状態で化成液の液面に浮上するため、浮上時に気泡が破裂したときの化成液の飛散が穏やかになり、化成液と陽極電極との短絡が抑制される。
【0016】
多孔質体の材料については特に限定されないが、例えば、セラミックス、炭素材料、前記陽極体に使用される金属、樹脂、およびガラスからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。電解コンデンサの陽極体を給電用の陽極電極に電気的に接続することなく化成槽内に浸漬し、多孔質体として用いてもよい。セラミックス、炭素材料、金属、樹脂、ガラスなどは、それぞれの粉体の少なくとも1種の成形体もしくは焼結体であってもよい。セラミックスは、ゼオライト、メソポーラスシリカなどの分子ふるい材料であってもよい。炭素材料は、活性炭であってもよい。
【0017】
多孔質体は、三次元的に延びる連通孔(細孔)を有し、三次元的な網目構造が形成されているものが好ましい。多孔質体の細孔径は、例えば、10μm以下が好ましく、比表面積(BET比表面積)は、例えば、0.5m2/g以上が好ましい。
【0018】
化成処理工程は、例えば、陽極体を第1の電極(陽極電極)に電気的に接続する工程(i)と、第1の電極に電気的に接続された陽極体を化成槽内の化成液に浸漬した状態で、第1の電極と第2の電極(陰極電極)との間に直流電圧を印加することによって陽極体の表面の少なくとも一部を酸化して誘電体層を形成する工程(ii)と、を含む。
【0019】
(工程(i))
先ず、陽極体を第1の電極に電気的に接続する。例えば、陽極部が、多孔質の陽極体と、陽極体の一主面である植立面から植立した陽極ワイヤを有する構成の場合、陽極ワイヤを第1の電極と接続する。これにより、陽極ワイヤを介して、陽極体が第1の電極と電気的に接続される。陽極体および陽極ワイヤに限定はなく、公知の陽極体および陽極ワイヤを用いてもよい。あるいは、公知の方法で陽極部を作製してもよい。陽極体および陽極ワイヤの例、およびその形成方法の例については後述する。
【0020】
このとき、複数の陽極体を所定の方向に沿って間隔をおいて並べて陽極体群とした状態で、陽極体群における陽極体のそれぞれを第1の電極に電気的に接続する。例えば、陽極部が陽極ワイヤを有する場合、複数の陽極部を所定の方向に沿って間隔をおいて並べた状態で、複数の陽極体に接続された複数の陽極ワイヤのそれぞれを第1の電極に接続する。複数の陽極体は、一列に並べられてもよいし、マトリクス状に並べられてもよい。複数の陽極部が配置される間隔は、全ての陽極部において同じであってもよく、ある陽極部とそれに隣接する陽極部との間隔が他と異なっていてもよい。
【0021】
第1の電極の形状は、陽極体群の配置に応じて選択される。例えば、複数の陽極体が一列に並べられている場合、第1の電極は、直線状の形状(例えば棒状や板状)を有してもよい。複数の陽極体がマトリクス状に並べられている場合、第1の電極は、複数の直線状の電極で構成されてもよいし、格子状の電極であってもよい。第1の電極と陽極ワイヤとは、電気的に接続される。通常、陽極ワイヤは、溶接などの方法によって第1の電極に固定される。第1の電極の材質に特に限定はなく、導電性を有する金属(例えば、鉄、鉄合金、アルミニウムなど)であってもよい。
【0022】
第1の電極としては、軽量で作業性に優れることから、金属アルミニウムおよびその合金が好ましく用いられ得る。一方で、金属アルミニウムおよびその合金は化成液と反応し、腐食し易く、化成液中に溶解したアルミニウムイオンが陽極体内に侵入し、電解コンデンサの特性を低下させ易い。しかしながら、化成槽内に多孔質体を配置することによって、化成液が飛散し、第1の電極に付着することが抑制される。結果、第1の電極と電解液が短絡することが抑制される。よって、金属アルミニウムが化成液と反応し、溶解することが抑制され、電解コンデンサの特性の低下が抑制される。
【0023】
陽極体群に含まれる陽極体の数に限定はなく、10~200の範囲(例えば40~100の範囲)にあってもよい。隣接する陽極体の間隔も特に限定はない。当該間隔は、1~20mmの範囲(例えば2~6mmの範囲)にあってもよい。通常、当該間隔は一定であるが、間隔は一定でなくてもよい。
【0024】
(工程(ii))
次に、第1の電極に電気的に接続された陽極体を化成槽内の化成液に浸漬した状態で、第1の電極と第2の電極との間に直流電圧を印加する。これにより、陽極体の表面の少なくとも一部を酸化(陽極酸化)し、誘電体層を形成する。
【0025】
工程(ii)では、陽極体の表面が酸化されて誘電体層に変化する。例えば、陽極体がタンタルからなる場合には、陽極体の表面に酸化タンタル層が形成される。化成液に特に限定はなく、電解コンデンサの陽極体の化成処理に用いられている公知の化成液を用いてもよい。例えば、化成液には、酸性水溶液、中性水溶液、塩基性水溶液のいずれを用いてもよい。酸性水溶液の例には、リン酸水溶液、硝酸水溶液、酢酸水溶液、硫酸水溶液などが含まれる。化成液の他の例には、酒石酸塩の水溶液、シュウ酸塩の水溶液、四ホウ酸塩の水溶液などが含まれる。
【0026】
第2の電極は、化成液に接触するように配置される。例えば、第2の電極を化成液に浸漬してもよい。あるいは、化成液が配置される電解槽の少なくとも一部を第2の電極として用いてもよい。第2の電極の材質には、化成時に安定な金属を用いることが好ましい。第2の電極の材質の例には、鉄合金、ニッケル、クロム、金、白金、タンタル、チタン、カーボンなどが含まれる。第2の電極は、板状であってもよいし、メッシュ状であってもよい。
【0027】
化成液には、多孔質体が浸漬されている。多孔質体は、化成槽の底部に設けられていてもよく、化成槽内において、化成液の液面と化成槽の底面との間の任意の位置に設けられていればよい。多孔質体は、第2の電極と接触していてもよく、第2の電極と接触していなくてもよい。多孔質体は、第2の電極の化成液の液面と対向する(すなわち、陽極体群と対向する)面上において、第2の電極と接触していてもよい。
【0028】
第2の電極は、化成液に接触するとともに陽極体群に沿うように配置され得る。
【0029】
一方、多孔質体は、第1の電極と第2の電極との間に形成される電界を妨げないように、陽極体と第2の電極とを結ぶ直線を遮らない位置に配置されることが好ましい。
【0030】
なお、多孔質体が陽極体と第2の電極とを結ぶ直線を遮らない位置にあるとは、以下の条件を満たす場合をいう。
陽極体の表面上の点Pを考える。点Pから第2の電極までの距離が最短となる、第2の電極の表面上の点Qを求める。任意の陽極体の表面上の点Pについて、点Pに対応する第2の電極の表面上の点Qを求め、直線PQの集合により形成される直線群を考える。多孔質体がこの直線群に含まれるいずれの直線PQとも重ならない(交わらない)場合、多孔質体は、陽極体と第2の電極とを結ぶ直線を遮らない位置にある。つまり、この直線群により形成される空間をSとするとき、多孔質体が陽極体と第2の電極とを結ぶ直線を遮らないとは、多孔質体が占める空間が空間Sと重ならないことも意味する。
【0031】
上記定義より、多孔質体が陽極体と第2の電極とを結ぶ直線を遮らない位置にあるとは、特に、第2の電極が化成液の液面に平行な方向に延びる場合には、多孔質体が、化成液の液面に垂直な方向から見て、第2の電極と重ならない位置に配置されることを意味する。
【0032】
多孔質体は、第1の電極と第2の電極との間に形成される電界を妨げない点で、化成槽の側壁面の少なくとも一部に沿って配置されてもよく、化成槽の底面に配置されてもよい。多孔質体は、化成液が循環する循環経路上に配置されていればよく、例えば化成液を循環させるパイプ内、ポンプ内、電解液を調合する化成液タンク内などに配置されていてもよい。
【0033】
図1は、本実施形態に係る電解コンデンサの製造方法の化成処理工程を説明する模式図であり、第1の電極104と第2の電極105との間に直流電圧を印加して、化成処理が行われているときの化成槽101内の状態を模式的に示す図である。陽極体1と陽極ワイヤ2をそれぞれ有する複数の陽極部が、所定の間隔で、第1の電極(陽極電極)104に沿って等間隔に並べられ、陽極ワイヤ2を介して第1の電極104と電気的に接続されている。複数の陽極部における陽極体1のそれぞれは、化成液102に浸漬され、化成液102と接触している。第1の電極104は、化成液102の液面102aに平行な一方向に延びており、キャリアバーとも呼ばれる。複数の陽極部の配列方向は、第1の電極104が延びる方向と同じであり、化成液102の液面102aに平行である。
【0034】
化成槽101の底部には、第2の電極(陰極電極)105が配置されている。第2の電極105は、化成液102と接触している。第2の電極105は、化成槽101内において化成液102の液面102aに平行な方向に延びている。化成槽内101には、多孔質体106が配されている。多孔質体106は、陽極体1と第2の電極105とを結ぶ直線から外れた位置に(すなわち、化成液の液面102aに垂直な方向から見て、第2の電極105と重ならない位置に)配置されている。
【0035】
第1の電極104と第2の電極105との間に直流電圧を印加すると、陽極体1の表面が酸化され、誘電体酸化被膜が形成される。一方、陰極側では、第2の電極105と電気的に接続する化成液102中の水が電気分解され、水素が発生する。発生した水素は、最初は化成液中に溶解するが、それが溶けきれなくなると多孔質体106の表面で成長し、多孔質体106の細孔径に応じた細かな気泡103となって化成槽101内を浮上し、化成液の液面102aに到達する。これにより、気泡103が液面102aに到達したときの化成液102の飛散が抑制され、化成液102と第1の電極104との短絡が抑制される。
【0036】
第1の電極と化成液の液面との距離が短いほど、気泡が液面に到達するときに化成液が第1の電極に付着し、化成液と第1の電極とが短絡し易くなる。陽極ワイヤの材料が高価であるため、コスト削減のために、陽極ワイヤの長さ(陽極体から植立する植立部分の長さ)を短くすることが考えられる。しかしながら、陽極ワイヤの長さを短くするほど、化成処理工程において第1の電極と化成液の液面との距離が短くなり、気泡が液面に到達するときに化成液が飛散し、化成液と第1の電極とが短絡し易くなる。
【0037】
本実施形態に係る電解コンデンサの製造方法によれば、陽極ワイヤの長さを短くし、この結果第1の電極と化成液の液面との距離が短くなる場合においても、気泡が液面に到達するときの化成液の飛散が抑制され、化成液と第1の電極との短絡が抑制される。よって、第1の電極の成分が陽極体内部に侵入することによる電解コンデンサの特性低下を抑制できる。
【0038】
工程(ii)において、第1の電極と化成液の液面との距離は、10mm以下であってもよく、5mm以下であってもよい。
【0039】
工程(i)および工程(ii)を含む工程によって、表面に誘電体層が形成された陽極部が得られる。そのため、1つの観点では、本開示は、表面に誘電体層が形成された陽極部の製造方法を提供する。当該製造方法は、上述した工程(i)および(ii)を含む。
【0040】
工程(ii)の後は、電解コンデンサに必要な部分を形成する工程を実施することによって電解コンデンサが得られる。それらの工程に限定はなく、公知の方法を適用してもよい。
【0041】
陽極体が焼結体である電解コンデンサの一例の製造方法では、誘電体層上に電解質層を形成し、電解質層上に陰極部を形成する。このようにしてコンデンサ素子が作製される。次に、陽極ワイヤに陽極リード端子を接続し、陰極部に陰極リード端子を接続する。そして、コンデンサ素子、陽極リード端子の一部、および陰極リード端子の一部を覆うように外装体を形成する。このようにして、電解コンデンサが得られる。
【0042】
陽極体が、金属箔の巻回体である電解コンデンサの一例の製造方法では、工程(i)において、陽極体(金属箔)とセパレータと陰極箔とを巻回した巻回体を準備する。巻回体は陽極部を含む。陽極部は、陽極体(金属箔)と、陽極体の第1の端面(巻回された陽極体の第1の端面)から突き出した陽極ワイヤとを含む。通常、陽極体(金属箔)の表面には誘電体層が形成されているが、陽極体の端面の少なくとも一部には誘電体層が形成されていない。そのため、誘電体層が形成されていない部分にも誘電体層を形成するために、上記工程(ii)によって誘電体層を形成する。誘電体層を形成した後は、巻回体の内部に電解質層を形成することによってコンデンサ素子を作製する。作製されたコンデンサ素子をケース内に封入することによって、巻回式の電解コンデンサが得られる。電解質層は、固体電解質層であってもよいし、液体成分を含む電解質層であってもよい。それらの構成要素および形成方法に特に限定はなく、公知の構成要素および形成方法を用いてもよい。
【0043】
<電解コンデンサ>
本開示の製造方法で製造される電解コンデンサの構成および構成要素の例として、焼結式の陽極体を用いる場合の一例を以下に説明する。以下で説明する一例の電解コンデンサは、コンデンサ素子、外装体、陽極リード端子、および陰極リード端子を含む。なお、本開示の方法で製造される電解コンデンサの構成および構成要素は、以下の例に限定されない。
【0044】
図2は、本実施形態に係る製造方法により製造される電解コンデンサのコンデンサ素子の一例を模式的に示す断面図である。
図3は、本実施形態に係る製造方法により製造される電解コンデンサの断面模式図である。しかしながら、本発明はこれらの図面で表される構成に限定されるものではない。
【0045】
電解コンデンサ20は、陽極部6および陰極部7を有するコンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を封止する外装体11と、陽極部6と電気的に接続し、かつ、外装体11から一部が露出する陽極リード端子13と、陰極部7と電気的に接続し、かつ、外装体11から一部が露出する陰極リード端子14と、を備えている。陽極部6は、陽極体1と陽極ワイヤ2とを有する。陽極体の表面に誘電体層3が形成されている。陰極部7は、誘電体層3の少なくとも一部を覆う固体電解質層4と、固体電解質層4の表面の少なくとも一部を覆う陰極層5とを有する。
【0046】
(コンデンサ素子)
以下、コンデンサ素子10について、電解質として固体電解質層を備える場合を例に挙げて、詳細に説明する。
【0047】
(陽極部)
陽極部6は、陽極体1と、陽極体1の一面から延出して陽極リード端子13と電気的に接続する陽極ワイヤ2と、を有する。
陽極体1は、例えば、金属粒子を焼結して得られる直方体の多孔質焼結体である。上記金属粒子として、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)などの弁作用金属の粒子が用いられる。陽極体1には、1種または2種以上の金属粒子が用いられる。金属粒子は、2種以上の金属からなる合金であってもよい。例えば、弁作用金属と、ケイ素、バナジウム、ホウ素等とを含む合金を用いることができる。また、弁作用金属と窒素等の典型元素とを含む化合物を用いてもよい。弁作用金属の合金は、弁作用金属を主成分とし、例えば、弁作用金属を50原子%以上含む。
【0048】
陽極ワイヤ2は、導電性材料から構成されている。陽極ワイヤ2の材料は特に限定されず、例えば、上記弁作用金属の他、ニオブ、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。陽極体1および陽極ワイヤ2を構成する材料は、同種であってもよいし、異種であってもよい。陽極ワイヤ2は、陽極体1の一面から陽極体1の内部へ埋設された第一部分2aと、陽極体1の上記一面から延出した第二部分2bと、を有する。陽極ワイヤ2の断面形状は特に限定されず、円形、トラック形(互いに平行な直線とこれら直線の端部同士を繋ぐ2本の曲線とからなる形状)、楕円形、矩形、多角形等が挙げられる。
【0049】
陽極部6は、例えば、第一部分2aを上記第1金属の粒子の粉体中に埋め込んだ状態で直方体状に加圧成形し、焼結することにより作製される。これにより、陽極体1の一面から、陽極ワイヤ2の第二部分2bが植立するように引き出される。第二部分2bは、溶接等により、陽極リード端子13と接合されて、陽極ワイヤ2と陽極リード端子13とが電気的に接続する。溶接の方法は特に限定されず、抵抗溶接、レーザー溶接等が挙げられる。
【0050】
陽極体1の表面には、誘電体層3が形成されている。誘電体層3は、例えば、金属酸化物から構成されている。誘電体層3は、上述の化成処理工程を施すことにより、化成液中に陽極体1を浸漬して陽極体1の表面を陽極酸化することにより形成される。
【0051】
(陰極部)
陰極部7は、固体電解質層4と、固体電解質層4を覆う陰極層5とを有している。固体電解質層4は、誘電体層3の少なくとも一部を覆うように形成されている。
【0052】
固体電解質層4には、例えば、マンガン化合物や導電性高分子が用いられる。導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、導電性高分子は、2種以上のモノマーの共重合体でもよい。導電性に優れる点で、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールであってもよい。特に、撥水性に優れる点で、ポリピロールであってもよい。
【0053】
上記導電性高分子を含む固体電解質層4は、例えば、原料モノマーを誘電体層3上で重合することにより、形成される。あるいは、上記導電性高分子を含んだ液を誘電体層3に塗布することにより形成される。固体電解質層4は、1層または2層以上の固体電解質層から構成されている。固体電解質層4が2層以上から構成されている場合、各層に用いられる導電性高分子の組成や形成方法(重合方法)等は異なっていてもよい。
【0054】
なお、本明細書では、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリンなどは、それぞれ、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリンなどを基本骨格とする高分子を意味する。したがって、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリンなどには、それぞれの誘導体も含まれ得る。例えば、ポリチオフェンには、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などが含まれる。
【0055】
導電性高分子を形成するための重合液、導電性高分子の溶液または分散液には、導電性高分子の導電性を向上させるために、様々なドーパントを添加してもよい。ドーパントは、特に限定されないが、例えば、ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸などが挙げられる。
【0056】
導電性高分子が、粒子の状態で分散媒に分散している場合、その粒子の平均粒径D50は、例えば0.01μm以上、0.5μm以下である。粒子の平均粒径D50がこの範囲であれば、陽極体1の内部にまで粒子が侵入し易くなる。
【0057】
陰極層5は、例えば、固体電解質層4を覆うように形成されたカーボン層5aと、カーボン層5aの表面に形成された金属ペースト層5bと、を有している。カーボン層5aは、黒鉛等の導電性炭素材料と樹脂を含む。金属ペースト層5bは、例えば、金属粒子(例えば、銀)と樹脂とを含む。なお、陰極層5の構成は、この構成に限定されない。陰極層5の構成は、集電機能を有する構成であればよい。
【0058】
(陽極リード端子)
陽極リード端子13は、陽極ワイヤ2の第二部分2bを介して、陽極体1と電気的に接続している。陽極リード端子13の材質は、電気化学的および化学的に安定であり、導電性を有するものであれば特に限定されない。陽極リード端子13は、例えば銅等の金属であってもよいし、非金属であってもよい。その形状は平板状であれば、特に限定されない。陽極リード端子13の厚み(陽極リード端子13の主面間の距離)は、低背化の観点から、25μm以上、200μm以下であってよく、25μm以上、100μm以下であってよい。
【0059】
陽極リード端子13の一端は、導電性接着材やはんだにより、陽極ワイヤ2に接合されてもよいし、抵抗溶接やレーザ溶接により、陽極ワイヤ2に接合されてもよい。陽極リード端子13の他方の端部は、外装体11の外部へと導出されて、外装体11から露出している。導電性接着材は、例えば後述する熱硬化性樹脂と炭素粒子や金属粒子との混合物である。
【0060】
(陰極リード端子)
陰極リード端子14は、接合部14aにおいて陰極部7と電気的に接続している。接合部14aは、陰極層5と陰極層5に接合された陰極リード端子14とを、陰極層5の法線方向からみたとき、陰極リード端子14の陰極層5に重複する部分である。
【0061】
陰極リード端子14は、例えば、導電性接着材8を介して、陰極層5に接合される。陰極リード端子14の一方の端部は、例えば接合部14aの一部を構成しており、外装体11の内部に配置される。陰極リード端子14の他方の端部は、外部へと導出されている。そのため、陰極リード端子14の他方の端部を含む一部は、外装体11から露出している。
【0062】
陰極リード端子14の材質も、電気化学的および化学的に安定であり、導電性を有するものであれば、特に限定されない。陰極リード端子14は、例えば銅等の金属であってもよいし、非金属であってもよい。その形状も特に限定されず、例えば、長尺かつ平板状である。陰極リード端子14の厚みは、低背化の観点から、25μm以上200μm以下であってもよく、25μm以上100μm以下であってもよい。
【0063】
(外装体)
外装体11は、陽極リード端子13と陰極リード端子14とを電気的に絶縁するために設けられており、絶縁性の材料(外装体材料)から構成されている。外装体材料は、例えば、熱硬化性樹脂を含む。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、不飽和ポリエステル等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本開示は、電解コンデンサの製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0065】
20:電解コンデンサ
10:コンデンサ素子
1:陽極体
2:陽極ワイヤ
2a:第一部分
2b:第二部分
3:誘電体層
4:固体電解質層
5:陰極層
5a:カーボン層
5b:金属ペースト層
6:陽極部
7:陰極部
8:導電性接着材
11:外装体
12:樹脂保護層
13:陽極リード端子
14:陰極リード端子
14a:接合部
101:化成槽
102:化成液
102a:液面
103:気泡
104:第1の電極(陽極電極)
105:第2の電極(陰極電極)
106:多孔質体