(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079907
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】基板の切断方法、及び、基板小片の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20230601BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20230601BHJP
B32B 38/18 20060101ALI20230601BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20230601BHJP
C03B 33/09 20060101ALI20230601BHJP
C03B 33/07 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
H01L21/78 V
H01L21/78 B
B23K26/53
B32B38/18 C
B32B17/06
C03B33/09
C03B33/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193608
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 宇航
(72)【発明者】
【氏名】井上 修一
【テーマコード(参考)】
4E168
4F100
4G015
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AE01
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(57)【要約】
【課題】半導体単結晶からなる第1層(劈開性を有する層)と、第1層の表面に形成されたガラスの第2層(劈開性を有しない層)と、を有する基板を、より少ないプロセス数で、複雑な装置の調整を必要としないで切断する。
【解決手段】劈開性を有する層からなる第1層LA1と、第1層LA1上に形成された劈開性を有さない層である第2層LA2と、を有する基板Sの切断方法は、第2層LA2のみに対してスクライブラインSLを形成するステップと、基板SをスクライブラインSLに沿って切断するステップと、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体単結晶からなる第1層と、前記第1層上に形成されたガラスの層である第2層と、を有する基板の切断方法であって、
前記第2層のみに対してスクライブラインを形成するステップと、
前記基板を前記スクライブラインに沿って切断するステップと、
を備える切断方法。
【請求項2】
前記基板は、前記第1層の前記第2層が形成された側とは反対側に形成されたガラスの層である第3層を有し、
前記スクライブラインを、前記第2層と前記第3層に対して形成する、請求項1に記載の切断方法。
【請求項3】
劈開性を有する第1層と、前記第1層上に形成された劈開性を有しない第2層と、を有する基板の切断方法であって、
前記第2層のみに対してスクライブラインを形成するステップと、
前記基板を前記スクライブラインに沿って切断するステップと、
を備える切断方法。
【請求項4】
前記基板は、前記第1層の前記第2層が形成された側とは反対側に形成された劈開性を有しない第3層を有し、
前記スクライブラインを、前記第2層と前記第3層に対して形成する、請求項3に記載の切断方法。
【請求項5】
前記切断するステップにおいて、前記スクライブラインを押すことで、前記基板を前記スクライブラインに沿って切断する、請求項1~4のいずれかに記載の切断方法。
【請求項6】
前記第2層の厚みは、前記第3層の厚みよりも小さく、
前記基板の切断は、前記第2層側から前記基板を押すことで実行される、請求項2又は4に記載の切断方法。
【請求項7】
前記スクライブラインを形成するステップにおいて、前記スクライブラインは、ピコ秒オーダーのパルス幅を有するレーザ光を、前記スクライブラインを形成しようとする層に照射することによって形成される、請求項1~5のいずれかに記載の切断方法。
【請求項8】
前記レーザ光は、赤外領域の波長を有する、請求項7に記載の切断方法。
【請求項9】
前記第1層はシリコン基板である、請求項1~8のいずれかに記載の切断方法。
【請求項10】
半導体単結晶からなる第1層と、前記第1層上に形成されたガラスの層である第2層と、を有する基板から基板小片を製造する方法であって、
前記第2層のみに対してスクライブラインを形成するステップと、
前記基板を前記スクライブラインに沿って切断するステップと、
を備える基板小片の製造方法。
【請求項11】
前記基板は、前記第1層の前記第2層が形成された側とは反対側に形成されたガラスの層である第3層を有し、
前記スクライブラインを、前記第2層と前記第3層に形成する、請求項10に記載の基板小片の製造方法。
【請求項12】
劈開性を有する層からなる第1層と、前記第1層上に形成された劈開性を有しない層である第2層と、を有する基板から基板小片を製造する方法であって、
前記第2層のみに対してスクライブラインを形成するステップと、
前記基板を前記スクライブラインに沿って切断するステップと、
を備える基板小片の製造方法。
【請求項13】
前記基板は、前記第1層の前記第2層が形成された側とは反対側に形成された劈開性を有しない第3層を有し、
前記スクライブラインを、前記第2層と前記第3層に形成する、請求項12に記載の基板小片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体単結晶からなる第1層と、第1層の表面に形成されたガラスの層と、を有する基板を切断する方法、及び、当該基板から基板小片を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Siなどの半導体単結晶からなる基板の表面にガラスの層を形成した積層基板を切断する方法として、半導体単結晶からなる基板とその上のガラスの層の両方にレーザ光を照射して、半導体単結晶からなる基板とガラスの層の両方に加工予定線に沿って改質層を形成し、積層基板に局所的に温度変化を与えることにより生じる熱応力によって改質部を切断起点として積層基板を加工予定線に沿って切断する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来の切断方法では、半導体単結晶からなる基板とガラスの層の両方に改質層を形成するために、同じ加工予定線に沿って複数回の改質層の形成プロセス(レーザ光の照射)を実行する必要がある。また、半導体単結晶からなる基板にレーザ光を照射するためには、レーザ光の焦点を、ガラスの層を介して、半導体単結晶からなる基板の表面に位置合わせする必要がある。ガラスの層を介した焦点位置の調整は、ガラスの層の厚みのバラツキ、レーザ光が通過する媒体の屈折率の違いなどのために困難である。すなわち、従来の切断方法は、多くのプロセスを必要とし、複雑な装置の調整を必要とする。
【0005】
本発明の目的は、半導体単結晶からなる第1層と、第1層の表面に形成されたガラスの層と、を有する基板を、より少ないプロセス数で、複雑な装置の調整を必要としないで切断することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地に係る基板の切断方法は、半導体単結晶からなる第1層と、第1層上に形成されたガラスの層である第2層と、を有する基板の切断方法である。基板の切断方法は、以下のステップを備える。
◎第2層のみに対してスクライブラインを形成するステップ。
◎基板をスクライブラインに沿って切断するステップ。
【0007】
上記の基板の切断方法では、ガラスの層である第2層のみに対してスクライブラインを形成するプロセスを実行し、その後、スクライブラインに沿って第1層側から又は第2層側から基板を切断している。なお、基板の切断は、第2層側から行うことが好ましい。スクライブラインを押すことで基板をスクライブラインに沿って切断する場合はスクライブラインを第1層側から押すことで基板の切断を第2層側から行うことができる。半導体単結晶からなる第1層とガラスの層である第2層とを有する基板においては、第2層にスクライブラインを形成しておけば、基板の切断時において、第1層は第2層の切断に従って劈開性によって切断される。このように、上記の切断方法は、第1層に対してスクライブラインを形成する必要がないので、従来よりも少ないプロセスで、ガラスの層を介した焦点位置の調整といった複雑な調整を必要とすることなく上記基板を切断できる。すなわち、本発明は、劈開性を有する層と、劈開性を有する層上に形成された劈開性を有し例えば、スクライブラインを押すことで基板をスクライブラインに沿って切断する場合、第1層側からない層と、を有する基板の切断方法として、理解することもできる。なお、スクライブラインは、スクライブラインが形成された層の表面側から裏面側にいたる平面(スクライブラインが形成された層の主面に対して垂直方向に交わる面)に沿って形成された所定厚さの改質層であることができる。また、スクライブラインは、スクライブラインが形成された層の表面側から内部又は裏面側にいたる垂直クラック(スクライブラインが形成された層の主面に対して垂直方向に伸展したクラック)を伴うものであることができる。
【0008】
基板は、第1層の第2層が形成された側とは反対側に形成されたガラスの層である第3層を有してもよい。この場合、スクライブラインを、第2層と第3層に対して形成してもよい。これにより、ガラスの層である第2層と第3層の両方にスクライブラインが形成されるので、ブレイク時に基板を切断しやすくなる。第3層のスクライブラインは、第2層のスクライブラインと同様の方法で形成することができる。
【0009】
本発明の他の見地に係る基板の切断方法は、劈開性を有する第1層と、第1層上に形成された劈開性を有しない第2層と、を有する基板の切断方法である。基板の切断方法は、以下のステップを備える。
◎第2層のみに対してスクライブラインを形成するステップ。
◎基板をスクライブラインに沿って切断するステップ。
【0010】
上記の基板の切断方法では、劈開性を有しない第2層のみに対してスクライブラインを形成するプロセスを実行し、その後、スクライブラインに沿って第1層側から又は第2層側から基板を切断している。劈開性を有する第1層と劈開性を有しない第2層とを有する基板においては、劈開性を有しない第2層にスクライブラインを形成しておけば、基板の切断時において、第1層は第2層の切断に従って劈開性によって切断される。このように、上記の切断方法は、第1層に対してスクライブラインを形成する必要がないので、従来よりも少ないプロセスで、第2層を介した焦点位置の調整といった複雑な調整を必要とすることなく上記基板を切断できる。
【0011】
基板は、第1層の第2層が形成された側とは反対側に形成された劈開性を有しない第3層を有してもよい。この場合、スクライブラインを、第2層と第3層に対して形成してもよい。これにより、劈開性を有しない第2層と第3層の両方にスクライブラインが形成されるので、ブレイク時に基板を切断しやすくなる。また、第2層及び第3層にスクライブラインを形成した後、第2層側又は第3層側からスクライブラインを押すことで、基板を切断することができる。
【0012】
切断するステップにおいて、スクライブラインを押すことで、基板をスクライブラインに沿って切断してもよい。これにより、スクライブラインを押すとの容易な方法で、基板を切断できる。
【0013】
第2層と第3層とを有する基板において、第2層の厚みは、第3層の厚みよりも小さくてもよい。この場合、基板の切断は、第2層側から基板を押すことで実行されてもよい。これにより、スクライブラインに沿って基板が切断されやすくなる。
【0014】
スクライブラインを形成するステップにおいて、スクライブラインは、ピコ秒オーダー(例えば、0.1ピコ秒以上、100ピコ秒以下、特に1ピコ秒以上、50ピコ秒以下)のパルス幅を有するレーザ光を第2層に照射することによって形成されてもよい。これにより、ガラスの層である第2層に選択的にスクライブライン(例えば、改質層からなるスクライブライン)を形成できる。
【0015】
上記のレーザ光は、赤外領域の波長(例えば、750nm以上、4000nm以下、特に750nm以上、2500nm以下、具体的にはYAGレーザの基本波)を有してもよい。これにより、ガラスの層である第2層に適切にスクライブライン(例えば、改質層からなるスクライブライン)を形成できる。
【0016】
第1層はシリコン基板であってもよい。これにより、第1層はシリコン基板の劈開性を用いて切断できるので、基板を適切に切断できる。
【0017】
本発明のさらに他の見地に係る製造方法は、半導体単結晶からなる第1層と、第1層上に形成されたガラスの層である第2層と、を有する基板から基板小片を製造する方法である。基板小片の製造方法は、以下のステップを備える。
◎第2層のみに対してスクライブラインを形成するステップ。
◎基板をスクライブラインに沿って切断するステップ。
【0018】
上記の基板小片の製造方法では、半導体単結晶からなる第1層と、ガラスの層である第2層とを有する基板に対してスクライブラインを形成するプロセスを、ガラスの層である第2層に対してのみ実行している。その後、スクライブラインに沿って第1層側又は第2層側からスクライブラインを押して基板を切断することで、基板から基板小片を切り出している。半導体単結晶からなる第1層とガラスの層である第2層とを有する基板においては、第2層にスクライブラインを形成しておけば、基板の切断時において、第1層は第2層の切断に従って劈開性によって切断される。このように、上記の基板小片の製造方法は、第1層に対してスクライブラインを形成する必要がないので、従来よりも少ないプロセスで、ガラスの層を介した焦点位置の調整といった複雑な調整を必要とすることなく基板小片を製造できる。
【0019】
基板は、第1層の第2層が形成された側とは反対側に形成されたガラスの層である第3層を有してもよい。この場合、スクライブラインを、第2層と第3層に形成してもよい。これにより、ガラスの層である第2層と第3層の両方にスクライブラインが形成されるので、ブレイク時に基板を切断しやすくなる。
【0020】
本発明のさらに他の見地に係る基板小片の方法は、劈開性を有する層からなる第1層と、第1層上に形成された劈開性を有しない層である第2層と、を有する基板から基板小片を製造する方法である。基板小片の製造方法は、以下のステップを備える。
◎第2層のみに対してスクライブラインを形成するステップ。
◎基板をスクライブラインに沿って切断するステップ。
【0021】
上記の基板小片の製造方法では、劈開性を有する層からなる第1層と、劈開性を有しない層である第2層とを有する基板に対してスクライブラインを形成するプロセスを、劈開性を有しない第2層に対してのみ実行している。その後、スクライブラインに沿って第1層側又は第2層側からスクライブラインを押して基板を切断することで、基板から基板小片を切り出している。劈開性を有する第1層と劈開性を有しない第2層とを有する基板においては、第2層にスクライブラインを形成しておけば、基板の切断時において、第1層は第2層の切断に従って劈開性によって切断される。このように、上記の基板小片の製造方法は、第1層に対してスクライブラインを形成する必要がないので、従来よりも少ないプロセスで、第2層を介した焦点位置の調整といった複雑な調整を必要とすることなく基板小片を製造できる。
【0022】
基板は、第1層の第2層が形成された側とは反対側に形成された劈開性を有しない第3層を有してもよい。この場合、スクライブラインを、第2層と第3層に形成してもよい。これにより、劈開性を有しない第2層と第3層の両方にスクライブラインが形成されるので、ブレイク時に基板を切断しやすくなる。
【発明の効果】
【0023】
半導体単結晶からなる第1層と、第1層の表面に形成されたガラスの第2層と、を有する基板、又は劈開性を有する第1層と、第1層の表面に形成された劈開性を有しない第2層と、を有する基板を、より少ないプロセス数で複雑な装置の調整を必要としないで切断できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.第1実施形態
(1)基板
以下、本開示に係る基板Sから基板小片SSを切り出して製造する方法を説明する。基板小片SSを切り出す対象の基板Sは、平面視では、縦横に並んで形成された複数の構造物(例えば、MEMSデバイス)を有している。基板小片SSは、この構造物を所定個数含む四角形を有する。
【0026】
一方、基板Sの断面は、
図1に示すような構造を有している。なお、基板Sから切り出された基板小片SSも、同様の断面構造を有する。
図1は、基板の断面構造を示す図である。基板Sは、第1層LA1と、第2層LA2と、第3層LA3と、を有する積層基板である。
【0027】
第1層LA1は、劈開性を有する基板である。具体的には、第1層LA1は、半導体単結晶からなる板状の基板である。第1層LA1は、例えば、シリコン(Si)基板である。シリコン基板である第1層LA1の結晶方位は(111)であり、特定の方向に割れやすい性質(劈開性)がある。第2層LA2は、第1層LA1の第1表面SU1上に固定されることで積層された、劈開性を有さない層である。第2層LA2は、例えば、ガラス製の板状の基板である。一般にガラス製の基板は劈開性がない。
【0028】
第3層LA3は、第1層LA1の第1表面SU1とは反対側の第2表面SU2上に固定されることで積層された、劈開性を有さない層である。第3層LA3は、例えば、ガラス製の板状の基板である。第2層LA2の厚みは、第3層LA3の厚みよりも小さくなっている。
【0029】
上記のように、本開示において加工対象となる基板Sは、劈開性を有する板状の第1層LA1が、劈開性を有しない板状の第2層LA2及び第3層LA3(ガラスの層)に挟まれた構造を有している。この基板Sから基板小片SSを切り出す際には、基板小片SSの境界線に沿って、ガラスの層である第2層LA2及び第3層LA3に対してのみスクライブラインSLを形成するプロセスを実行する。つまり、第1層LA1に対してはスクライブラインSLを形成するプロセスを実行しない。その後、形成されたスクライブラインSLに沿って基板Sをブレイクすることで、基板Sから基板小片SSを切り出すことができる。
【0030】
なお、上記のスクライブラインSLは、スクライブラインSLが形成された層(第2層LA2、第3層LA3)の表面側から裏面側にいたる平面(スクライブラインSLが形成された層の主面に対して垂直方向に交わる面)に沿って形成された所定厚さの改質層である。また、スクライブラインSLは、スクライブラインSLが形成された層の表面側から内部又は裏面側にいたる垂直クラック(すなわち、スクライブラインSLが形成された層の主面に対して垂直方向に伸展したクラック)を伴っていてもよい。
【0031】
(2)スクライブライン形成装置
以下、
図2を用いて、基板Sの第2層LA2及び第3層LA3にスクライブラインSLを形成するスクライブライン形成装置100を説明する。
図2は、スクライブライン形成装置の模式図である。スクライブライン形成装置100は、ガラスの層である第2層LA2及び第3層LA3にレーザ光を照射することで、第2層LA2及び第3層LA3にスクライブラインSLを形成する装置である。スクライブライン形成装置100は、レーザシステム1と、加工テーブル3と、テーブル駆動部5と、制御部7と、を備える。
【0032】
レーザシステム1は、基板SにスクライブラインSLを形成するためのレーザ光(加工レーザ光L1と呼ぶ)を出力する。具体的には、レーザシステム1は、レーザ装置11と、伝送光学系13と、駆動機構15と、を有する。レーザ装置11は、伝送光学系13に入射させるレーザ光L2を出力する。レーザ装置11は、レーザ発振器11aと、レーザ制御部11bと、を有する。レーザ発振器11aは、赤外領域の波長を有するパルス状のレーザ光L2を、所定の照射周期にて出力する。レーザ発振器11aは、例えば、YAGレーザ発振器である。このレーザ発振器11aは、YAGレーザの基本波をレーザ光L2として出力する。このレーザ発振器11aから出力される波長は、例えば、750nm以上、4000nm以下である。より好ましくは、750nm以上、2500nm以下である。
【0033】
なお、上記の照射周期は、1つのレーザ光パルスを出力してから次のレーザ光パルスを出力するまでの時間を言う。
【0034】
レーザ発振器11aからのレーザ光L2のパルス幅は、ピコ秒オーダーに設定される。具体的には、レーザ光L2(加工レーザ光L1)のパルス幅は、100フェムト秒以上、100ピコ秒以下に設定される。より好ましくは、1ピコ秒以上、50ピコ秒以下に設定される。このようなピコ秒オーダーのパルス幅を有する加工レーザ光L1は、ガラスを透過する波長域を有し、かつ、ピークエネルギーが高いため、ガラスの層の厚み方向の全域に改質層である加工痕(すなわち、スクライブラインSL)を形成することが可能となる。一方、シリコンは、ピコ秒オーダーのパルス幅を有する加工レーザ光L1を入射面で吸収するため、シリコンの内部に加工痕は形成されない。このため、スクライブラインSLを形成するプロセスに、ピコ秒オーダーのパルス幅を有する加工レーザ光L1を用いることで、ガラスの層にはスクライブラインSLとなる加工痕が形成されやすい一方で、第1層LA1には加工痕(スクライブラインSL)が形成されにくい。すなわち、ピコ秒オーダーのパルス幅を有する加工レーザ光L1を用いることで、ガラスの層にのみスクライブラインSLを形成できる。
【0035】
レーザ制御部11bは、レーザ光L2の発生条件(照射周期、レーザ光L2の強度等)に従って、レーザ発振器11aを制御する。
【0036】
伝送光学系13は、レーザ装置11から出力されたレーザ光L2を入射し、基板S上におけるビーム径が調整されたレーザ光L2を出力する。具体的には、伝送光学系13は、
図3に示すように、アキシコンレンズ131と、縮小光学系133と、を有する。
図3は、伝送光学系の構成を示す図である。
【0037】
アキシコンレンズ131は、レーザ光L2を入射し、入射したレーザ光L2を、レーザ光の伝搬方向においてリング幅wが一定であるリングビームL3に変換する。縮小光学系133は、リングビームL3を入射し、入射したリングビームL3を縮小して、基板S上におけるビーム径が調整された加工レーザ光L1を形成する。縮小光学系133は、例えば、複数のレンズにより構成される。
【0038】
伝送光学系13が上記の構成を有することにより、レーザ装置11から出力されたレーザ光L2を、スクライブラインSLの形成に最適な加工レーザ光L1に変換できる。
【0039】
なお、伝送光学系13は、アキシコンレンズ131、縮小光学系133以外に、例えば、λ/4波長板、ビームエクスパンダー、プリズムなどの他の光学部材を含んでいてもよい。
【0040】
駆動機構15は、基板S上における加工レーザ光L1のビーム径を調整するために、伝送光学系13に備わるレンズ(アキシコンレンズ131、縮小光学系133)の光軸方向(レーザ光L2の伝搬方向)における位置を変更する。
【0041】
加工テーブル3は、基板Sを載置するテーブルである。テーブル駆動部5(駆動部の一例)は、加工テーブル3をレーザシステム1(伝送光学系13)に対して移動させる。テーブル駆動部5は、例えば、ガイドレール、モータ等を有する公知の機構である。
【0042】
制御部7は、プロセッサ(例えば、CPU)と、記憶装置(例えば、ROM、RAM、HDD、SSDなど)と、各種インターフェース(例えば、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、通信インターフェースなど)を有するコンピュータシステムである。制御部7は、記憶部(記憶装置の記憶領域の一部又は全部に対応)に保存されたプログラムを実行することで、スクライブライン形成装置100における各種制御動作を行う。制御部7は、単一のプロセッサで構成されていてもよいが、各制御のために独立した複数のプロセッサから構成されていてもよい。
【0043】
制御部7は、例えば、レーザ制御部11bに対してレーザ光L2の出力条件の設定値を出力する。また、制御部7は、駆動機構15を制御することで、加工レーザ光L1の基板Sにおけるビーム径を調整する。
【0044】
さらに、制御部7は、テーブル駆動部5を制御することで加工テーブル3を水平方向に移動させ、基板Sを加工レーザ光L1に対して移動させる。すなわち、制御部7は、基板Sを加工レーザ光L1に対して移動させて、加工レーザ光L1を基板S上にて走査させる。また、制御部7は、加工テーブル3の水平方向における移動速度を調整することで、基板S上における加工レーザ光L1の走査速度を制御する。
【0045】
図示しないが、制御部7には、基板Sの大きさ、形状及び位置を検出するセンサ、スクライブライン形成装置100の各部の状態を検出するためのセンサ及びスイッチ、並びに情報入力装置が接続されている。
【0046】
(3)ブレイク装置
次に、
図4を用いて、スクライブラインSLに沿って基板Sをブレイクするためのブレイク装置200を説明する。
図4は、ブレイク装置の構成を示す概略図である。ブレイク装置200は、三点曲げブレイクにより基板Sを切断する装置である。すなわち、ブレイク装置200は、基板SのスクライブラインSLの形成箇所を押すことで、基板SをスクライブラインSLに沿って切断するための装置である。ブレイクプレート21と、一対の受刃23と、を有する。
【0047】
ブレイクプレート21は、基板SのスクライブラインSLの形成箇所を、一対の受刃23に向けて押して基板SをスクライブラインSLに沿って切断するための部材である。ブレイクプレート21は、例えば、ジルコニア製の部材である。一対の受刃23は、所定の間隔(例えば、数mm程度)を空けて配置され、基板Sを保持するための部材である。ブレイク装置200において、基板Sは、スクライブラインSLが一対の受刃23の間の空隙部分に配置されるよう位置合わせされる。
【0048】
ブレイク装置200を用いて基板Sをブレイクする場合、ブレイクプレート21と対向する側の基板Sの表面は、ウエハーテープWTにより保護される。一方、一対の受刃23と対向する側の基板Sの表面は、ウエハーリングWRと一対の受刃23との間に配置された保護フィルムFにより保護される。
【0049】
(4)基板の切断方法
図5及び
図6を用いて、基板Sを加工予定線に沿って切断して基板小片SSを切り出す方法を説明する。
図5は、基板の切断方法を示すフローチャートである。
図6は、基板の切断方法を模式的に示す図である。まず、加工対象の基板Sを、劈開性を有さないガラスの層である第2層LA2側が加工レーザ光L1の照射面となるよう、加工テーブル3上に載置する。
【0050】
その後、ステップS1において、レーザ装置11から所定の照射周期にてレーザ光L2を発生させ、伝送光学系13から所定のビーム径を有する加工レーザ光L1を基板Sの第2層LA2の表面に向けて出射させる。加工レーザ光L1を出射しつつテーブル駆動部5を駆動して加工テーブル3を水平方向に移動させることで、基板S上において基板小片SSを切り出すための加工予定線に沿って加工レーザ光L1を走査する。具体的には、基板小片SSの縦辺と横辺となる2方向に加工レーザ光L1を走査する。
【0051】
上記にて説明したように、加工レーザ光L1は、ピコ秒オーダーのパルス幅を有する赤外領域のレーザ光である。そのため、
図6の(1)に示すように、加工レーザ光L1は、劈開性を有さないガラスの層である第2層LA2にはスクライブラインSLを形成できるが、劈開性を有するシリコン基板である第1層LA1にはスクライブラインSLはほとんど形成されない。
【0052】
第2層LA2にスクライブラインSLを形成後、
図6の(2)に示すように、基板Sを反転させて第3層LA3を加工レーザ光L1の照射面とし、第3層LA3の表面に加工レーザ光L1を照射する。これにより、劈開性を有さないガラスの層である第3層LA3にスクライブラインSLが形成される。
【0053】
なお、スクライブラインSLの形成順は、上記に限られず、第3層LA3に先に加工レーザ光L1を照射してスクライブラインSLを形成し、その後、第2層LA2に加工レーザ光L1を照射してスクライブラインSLを形成してもよい。
【0054】
第2層LA2及び第3層LA3にスクライブラインSLを形成後、ステップS2において、ブレイク装置200を用いて、基板SをスクライブラインSLに沿って切断することで、基板Sから基板小片SSを切り出す。具体的には、ブレイクプレート21により、基板SのスクライブラインSLを一対の受刃23に向けて押すことで、基板SはスクライブラインSLに沿って切断される。
【0055】
ブレイク装置200により基板Sをブレイクする際に、
図6の(3)及び(4)に示すように、厚さが小さいガラスの層である第2層LA2側から基板Sを押圧することが好ましい。厚さが大きいガラスの層である第3層LA3側から基板Sを押圧して基板Sをブレイクすることも可能であるが、本発明者らは、一般的に、厚さが大きい第3層LA3側から基板Sをブレイクするよりも、小さい厚みを有する第2層LA2側から基板Sのブレイクを実行することで、基板Sが切断されやすい傾向にあることを発見した。
【0056】
(5)実施例
以下、上記の基板Sの切断方法により、基板Sから基板小片SSを切り出す実施例を説明する。本実施例では、加工対象の基板Sとして、ガラスの層(第2層LA2)、シリコン基板(第1層LA1)、ガラスの層(第3層LA3)を順次積層した積層基板を用いた。ガラスの層(第2層LA2)、シリコン基板(第1層LA1)、ガラスの層(第3層LA3)の厚さは、それぞれ、300μm、150μm、500μmである。
【0057】
また、加工レーザ光L1として、15ピコ秒以下のパルス幅を有する、波長が1060nmの赤外光を用いた。加工レーザ光L1の1パルス当たりのエネルギーは340μJである。この加工レーザ光L1を、1秒当たり22500回出力しつつ、毎秒100mmの走査速度でスクライブラインSLに沿って出力した。また、加工レーザ光L1は、スクライブラインSLに沿って1回だけ走査した。
【0058】
基板Sから四角形の基板小片SSを切り出すために、基板小片SSの縦辺と横辺に沿って、第2層LA2と第3層LA3に加工レーザ光L1を照射した。その後、ブレイク装置200を用いて基板Sを縦横のスクライブラインSLに沿って切断して、基板小片SSを切り出した。基板Sのブレイクは、厚さが小さい第2層LA2側から行った。
【0059】
なお、例えば、劈開性を有さないガラスの層である第2層LA2及び/又は第3層LA3の厚さが厚いこと等により、加工レーザ光L1の1回だけの走査で形成されたスクライブラインSLでは、ブレイク装置200による基板Sの切断をしにくい場合には、加工レーザ光L1を複数回走査してスクライブラインSLを形成してもよい。これにより、第2層LA2及び/又は第3層LA3の厚さ方向にさらに伸長したスクライブラインSLを形成できるので、ブレイク装置200により基板Sを切断しやすくできる。
【0060】
基板Sから切り出した後の基板小片SSの切断面の顕微鏡像を
図7に示す。
図7の(1)は、基板小片SSの縦辺又は横辺の一方に沿った切断面であり、
図7の(2)は、基板小片SSの他方の辺に沿った基板小片SSの切断面である。
図7は、基板小片の切断面の顕微鏡像である。
【0061】
図7に示すように、基板小片SSの縦辺と横辺のいずれの方向にも基板Sを切断できている。ただし、縦辺と横辺では、第1層LA1の切断面の状態が異なっていた。具体的には、一方の切断面には切り残しが見られない一方で、他方の切断面には若干の切り残しが見られた。これは、半導体単結晶からなる第1層LA1の劈開性により、縦辺に沿った方向と横辺に沿った方向とで第1層LA1の割れやすさや割れやすい位置とスクライブラインSLとの相対的な位置に違いがあったためと考えられる。
【0062】
上記のとおり、本開示の基板Sの切断方法では、ガラスの層である第2層LA2及び第3層LA3にのみ加工レーザ光L1を照射し、これにより形成されたスクライブラインSLに沿って基板Sをブレイクするだけで、基板Sを切断することができる。つまり、本開示の基板Sの切断方法では、より少ないプロセスで、複雑な装置の調整を必要とすることなく、基板Sを切断できる。
【0063】
2.他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施例及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
(A)第1層LA1は、シリコン基板以外の半導体単結晶からなる基板であってもよく、また、シリコン基板以外の劈開性を有する基板であってもよい。
【0064】
(B)基板Sは、ガラスの層又は劈開性を有しない層として第2層LA2のみを有してもよい。すなわち、第1層LA1の片面のみにガラスの層又は劈開性を有しない層が形成されていてもよい。この場合、第2層LA2のみにスクライブラインSLを形成(加工レーザ光L1を照射)すればよい。この場合、ブレイクによる基板Sの切断は、劈開性を有しない第1層LA1側から行うことが好ましい。スクライブラインSLを押すことで基板SをスクライブラインSLに沿って切断する場合は、スクライブラインSLを第1層LA1側から押すことで基板Sの切断を第2層LA2側から行うことができる。
【0065】
(C)ガラスの層又は劈開性を有しない層である第2層LA2及び/又は第3層LA3へのスクライブラインSLの形成は、ピコ秒オーダーのパルス幅を有するレーザ光の照射以外の方法により行ってもよい。例えば、スクライブホイールを用いた方法によりスクライブラインSLを形成してもよい。
【0066】
(D)基板Sのブレイクは、三点曲げブレイクに限られない。例えば、テーブルブレイク(テーブル上に配置した基板Sに形成されたスクライブラインSLをブレイクプレートで押すことによって切断するブレイク方法)などの他のブレイク方法を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、半導体単結晶からなる第1層と、第1層の表面に形成されたガラスの層と、を有する基板の切断に広く適用できる。また、本発明は、劈開性を有する第1層と、第1層の表面に形成された劈開性を有しない層と、を有する基板の切断に広く適用できる。
【符号の説明】
【0068】
100 スクライブライン形成装置
1 レーザシステム
11 レーザ装置
11a レーザ発振器
11b レーザ制御部
13 伝送光学系
131 アキシコンレンズ
133 縮小光学系
15 駆動機構
L1 加工レーザ光
L2 レーザ光
L3 リングビーム
3 加工テーブル
5 テーブル駆動部
7 制御部
200 ブレイク装置
21 ブレイクプレート
23 受刃
F 保護フィルム
WR ウエハーリング
WT ウエハーテープ
S 基板
SS 基板小片
SU1 第1表面
SU2 第2表面
LA1 第1層
LA2 第2層
LA3 第3層
SL スクライブライン