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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079959
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】地震予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/00 20060101AFI20230601BHJP
【FI】
G01V1/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021204639
(22)【出願日】2021-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】521549763
【氏名又は名称】坂尾 正昭
(72)【発明者】
【氏名】坂尾 正昭
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB03
2G105EE02
2G105MM03
(57)【要約】
【課題】地震予知方法には電磁気学的地震予知と力学的地震予知とがあるが、前者は実施の難易度において誰でも容易に実施できるものではなく、また、直前でないと予知できない場合や巨大地震でないと予知できない場合がある。また、後者は短期的地震発生の予知が困難である場合が多い。誰でも簡易な方法で実施できる短期的地震発生予知方法の確立が必要である。
【解決手段】地震予知方法の提供には困難が多いが、太陽光発電システムを利用した地震予測システムを用いて地震予知のレベルに近い地震予測方法を提供することにより、専門家でなくても簡易な方法で短期的地震発生の予測が可能となり、将来的には地震予知実現へと高めることができる可能性がある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光発電システムにより発電電力を計測し、前記太陽光発電システムの太陽電池容量に対する発電電力の割合があらかじめ設定した第一基準値以上である場合に地震が発生すると推定する地震予測方法。
【請求項2】
複数箇所に分散設置した太陽光発電システムにより発電電力及び日射強度を計測し、データ集計場所に計測時刻、発電電力、日射強度のデータ伝送を行い、発電電力を日射強度1kW/mの場合に比例換算した値の太陽電池容量に対する割合があらかじめ設定した第二基準値以上である太陽光発電システムが1箇所以上存在する場合に地震が発生すると推定する地震予測方法。
【請求項3】
請求項2に記載の地震予測方法において、あらかじめ設定した第三基準値以上の値の計測地点数の全計測地点数に占める割合があらかじめ設定した第四基準値以上の割合である場合に地震が発生すると推定する地震予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽光発電システムを利用した地震予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震予知には電磁気学的地震予知と力学的地震予知とがあり、下記特許文献1及び非特許文献1は電磁気学的地震予知である。特許文献1は電磁気学的異常と地震との関連を明らかにしたものであり、電磁ノイズを測定し、通信状態が悪い通信基地局付近において短期的地震発生の可能性が高いとするものである。これを活用しての地震予知は、機器製作、システム構築、データ解析のための費用や難易度を考えると、専門家でない者が容易に実施できるものではない。
【0003】
非特許文献1は、巨大地震の前に電離圏において擾乱が生じ、電離圏全電子数に異常が生じたとするものである。東北地方太平洋沖地震発生40分前に電離層全電子数に異常が発生したとされており、当該地震の場合は地震発生直前になって異常が発生したことになる。また、地震の前兆としての電離圏全電子数の異常発生は巨大地震発生前に限られる可能性があり、巨大地震ほどの規模ではないが被害発生が予想される大地震の予知が可能かどうか明らかではない。なお、この明細書では、巨大地震とはマグニチュード(以下Mという)8.0以上、大地震とはM7.0以上M8.0未満、中小地震とはM7.0未満の地震を指すものとする。
【0004】
非特許文献2は力学的地震研究であり、ひずみの分析により地震予知を行うものである。中長期的な地震発生地域の特定において有効な方法であるが、短期的地震予知は容易ではないものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許 5920810
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日置幸介 「巨大地震直前に増える電離圏の電子」 地震ジャーナル53号 p.19~25 地震予知総合研究振興会 2012年6月
【非特許文献2】西村卓也 「南海トラフ地震震源域のひずみ蓄積状況」 地震ジャーナル62号 p.1~7 地震予知総合研究振興会 2016年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、専門家でなくても簡易に短期的地震予測ができる方法を提供することにある。太陽光発電システムがあれば新規投資不要で専門家でなくても簡易な方法で数値による短期的地震予測が可能である。異常値発生の場合、高確率で翌々日までに日本付近で一定規模以上の地震が発生すると推定するものである。また、太陽電池容量が明らかで、正確な日射強度及び発電電力の計測が可能である複数箇所に分散設置した太陽光発電システム(以下複数分散システムという)のデータにより、専門家でなくても数値により短期的地震予測が可能である。計測結果が異常状態であると判定されれば、異常値計測場所に近いエリアで短期的に地震が高確率で発生するとの推定が可能である。いずれの請求項も短期的地震予測であるが、地震発生の直前でないと地震予測ができないものではなく、それ以前から予測が可能である場合が多い。また、巨大地震でなくても、大地震やM4.5以上M7未満程度の中小地震についても予測が可能である場合が多い。いつ、どこで、どの程度の規模の地震が発生するかの一部については精度が高いとまでは言えず、予知ではなく予測であるとしているが、請求項2、請求項3については、予知にまで高めることができる可能性がある。太陽電池容量とは、太陽光発電システムを構成する太陽電池モジュールの公称最大出力の合計値のことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
太陽光発電は太陽光のエネルギーを電力に変える発電方法で、太陽電池モジュールの公称最大出力は、JIS C8918で規定するエアマス1.5、放射照度(日射強度)1kW/m、モジュール温度25℃での値である。自宅の太陽光発電システム(以下自宅システムという)のメーカー製品パンフレットによると、発電電力は、太陽電池損失すなわち太陽電池モジュール表面温度上昇による損失、パワーコンディショナ損失、その他損失により、最大でも太陽電池容量の70%~80%程度であり、太陽電池容量3.7kWである自宅システムにおいては最大でも2.59kWから2.96kW程度となる。
【0009】
自宅システムにおいて、太陽電池容量の80%、2.96kWを大きく上回る発電電力を記録することがあり、日射強度、太陽電池モジュール表面の温度や汚れの大小、太陽光の太陽電池モジュールへの照射角度など、発電電力に影響を与える要因はあるものの、好条件が揃ったとしてもメーカー製品パンフレット記載内容を大きく超える発電電力の出現は考えにくい。他メーカーの太陽光発電システムにおいても、発電電力の最大値は太陽電池容量の70%~80%程度であるとされており、これを大きく超える発電電力の出現は考えにくい。
【0010】
日射強度は太陽光の強さであり、単位はkW/mである。快晴時の日射強度は約1kW/mであるとされており、また、太陽光発電システムにおける発電電力は日射強度にほぼ比例する。太陽光発電システムにおいては、発電電力は付属モニターで計測可能であり、複数分散設置システムにおいては、発電電力の他、太陽電池モジュール設置角度と同一角度で設置した日射計により、日射強度の計測が可能である。太陽電池モジュールの公称最大出力は放射照度1kW/mでの値であること、発電電力は日射強度にほぼ比例すること、発電電力は最大でも太陽電池容量の80%以下であるとされていること、以上より、複数分散設置システムにおいては、発電電力を日射強度1kW/mの場合に比例換算した値の太陽電池容量に対する割合は、通常であれば80%以下となる。
【0011】
太陽光発電システムにおけるメーカーパンフレット記載内容を大きく超える発電電力の出現は、同一日射強度であってもより大きな発電電力が出現する場合が存在することを意味する。日射計を備えた商業施設の太陽光発電システム、及びネット上で発電データが公開されている日射計を備えた太陽光発電システムにおいては、発電電力と日射強度の計測タイミング不一致や、雲の影響による不均一な日射強度発生が生じているものと考えられ、発電電力と日射強度の計測結果をそのまま地震予測に使用することができない場合がある。しかし、店頭やネット掲載のデータを見ると、日射強度に対する発電電力の割合の変化はゆるやかではあるが変動幅は大であることがわかる。同一日射強度であっても発電電力に大きな差があること、及び、発電電力を日射強度1kW/mの場合に比例換算した値の太陽電池容量に対する割合が大きく変動することは理論的に説明がつかず、発電電力を増加させる何らかの解明されていない原因が存在することを示している。
【0012】
本発明において必要な機器は、請求項1への記載内容においては、発電電力を表示するモニターを備えた一般的な太陽光発電システムである。太陽電池容量に対する発電電力の割合があらかじめ設定した第一基準値以上である場合に、短期的に一定規模以上の地震が発生すると推定するものである。
【0013】
複数分散設置システムにおいては、日射強度と発電電力の計測機能を備えた複数の太陽光発電システムと、それぞれの太陽光発電システムからデータを集計場所に伝送するシステム、集計場所においてデータの集計と計算を行い地震を予測するシステムが必要である。目視において同程度に見える日射の場合でも、ある日と翌日の同一時間帯の発電電力の最大値が大きく異なることがある。異常値出現時には短期的地震発生確率が高いことから、複数分散設置システムにおいては、発電電力を日射強度1kW/mの場合に比例換算した値の太陽電池容量に対する割合があらかじめ設定した第二基準値以上である太陽光発電システムがi箇所以上存在することにより、短期的に一定規模以上の地震が発生すると推定するものである。第二基準値をどう設定するかにより、中小地震を含む一定規模以上の地震の予測、大地震以上の規模の地震に絞った地震の予測、いずれも可能である。また、あらかじめ設定した第三基準値以上の値の計測地点数の全計測地点数に占める割合が、あらかじめ設定した第四基準値以上の割合である場合に、短期的に地震が発生すると推定するものである。第三基準値は第二基準値より低い値を設定し、第三基準値以上の計測地点の分布が多地点広範囲であれば、短期的に地震が発生すると推定するものである。第三基準値をどう設定するかにより、中小地震を含む一定規模以上の地震の予測、大地震以上の規模の地震に絞った地震の予測、いずれも可能である。複数分散設置システムにおける地震予測において、短期的とは多くの場合、翌々日までを想定しているが、大地震以上の規模の地震の前兆は早めに出現する可能性がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、専門家でなくても簡易に短期的地震予測が可能となる。また、公的機関による地震予測情報の発令が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
請求項1に記載の地震予測方法の実施にあたっての必要事項は次のとおりである。
第一に、発電電力を表示するモニターのある太陽光発電システムであること。第二に、太陽電池容量以上の定格出力電力であるパワーコンディショナを使用すること。太陽電池容量に対する発電電力の大小で地震予測を行うため、十分な定格出力電力を持つパワーコンディショナが必要である。定格の高いパワーコンディショナであることが望ましいが、主として家庭用太陽光発電システムを想定しているため、現実的に考えられる最低限の条件を示した。第三に、太陽電池モジュールを南または南に近い向きに設置すること。設置方向が南向きから離れるほど1日の発電電力の最大値が小さくなり、発電電力と太陽電池容量との比較において、出現した発電電力が異常であるかどうかの判定が困難となるからである。第四に、設置傾斜角度を30°前後とすること。日本付近においては、0°や90°などの極端な角度では、太陽光と太陽電池モジュールとの角度が最適な発電に適さない季節が存在することとなり、年間を通じて実施する地震予測に適さない。また、角度が浅い場合、降雨で太陽電池モジュール表面の汚れが流されにくく、表面の汚れによる発電電力低下の可能性がある。第五に、すべての太陽電池モジュールを同一方向同一傾斜角度で設置すること。太陽電池モジュールにより設置方向や設置角度が異なると、異なる条件での発電データが混在することになり、発電電力が異常であるかどうかの正確な判定ができないからである。第六に当日の最大発電電力の把握が可能であり、小数点以下1桁まで計測できること。当日の最大発電電力を記録する機能付の製品もあるが、この機能がなくても目視によるモニターの確認でも可である。また、精度の高いデータを得るため、小数点以下1桁までの計測が可能である必要がある。第七に、電力会社による出力制御を受けないこと。第八に、太陽電池モジュールに陰がかからないこと。雲の陰の影響による太陽光モジュールの日射強度不均一はやむを得ないが、近隣の建物や電柱、大木などによる陰の発生は発電電力計測に適していない。第九に、太陽電池モジュール表面の汚れが少ないこと。汚れは通常降雨で洗い流され、また、積雪はやむを得ないが、落葉や鳥の糞の付着などが認められる場合には除去する必要がある。第十に、精度の高いデータを得るため、太陽電池容量は3kW以上程度とすること。第十一に、設置から15年以内程度の経年劣化していない太陽光発電システムであること。以上、11の条件を満たすものとする。
【0016】
自宅システムの概要は、太陽電池モジュールの設置方向南南東向き、設置傾斜角度24.2°、太陽電池容量3.7kW、パワーコンディショナ定格出力電力4.0kW(実力値4.1kW)、多結晶シリコンタイプであり、必要事項を満たしている。具体的な事例として、2011年3月11日14時46分発生のM9.0の東北地方太平洋沖地震発生当日、地震発生前の正午前後に発電電力4.1kWを記録した。これは太陽電池容量の約111%の出力であり、かつ、自宅システムのパワーコンディショナの定格出力電力による制約上の最大値であり、通常あり得ない異常に高い発電電力である。パワーコンディショナの制約がなければさらに大きな発電電力となっていた可能性がある。自宅システムによる計測は2011年3月11日に開始したばかりであり、異常に高い発電電力は前日以前から発生していた可能性もある。また、その後も規模の大きな余震が多数発生し、その際にも3.8kW程度の発電電力を記録している。異常に高い発電電力は一定規模以上の地震との関連があるとの仮説を立て、発電電力と地震発生との関連について検証を行った。メーカーパンフレットによると、発電電力は最大でも太陽電池容量の80%以下であるとされており、太陽光の太陽電池モジュールへの照射角度が直角に近い、低温である、雨後で太陽電池モジュール表面に汚れが少ないなどの好条件が揃ったとしても、太陽電池容量の111%もの発電電力の出現は通常の状態ではあり得ないと考えられる。発電電力は日射強度にほぼ比例するが、快晴時の日射強度は約1kW/mであるとされており、地震の前兆として日射強度が1kW/mを大きく超えることはなく、各種損失もあるため、太陽電池容量の111%もの発電電力は通常出現しない。
【0017】
そこで、自宅システムの太陽電池容量の90%の発電電力、すなわち3.4kWの発電電力をあらかじめ第一基準値として設定し、3.4kW以上の発電電力を異常値であると定義し、地震との関連について検証した。また、自宅付近が晴天で計測条件が良好であるにもかかわらず、発電電力が太陽電池容量の80%未満、2.9kW以下である場合を通常値であると定義し、地震との関連について検証した。対象とする地震は日本付近で発生したM4.5以上の地震とし、北方四島、サハリン、台湾を含むものとする。M4.5以上の地震を対象とする理由は、日本付近では地震発生が多くこれよりも小規模な地震を対象に含めると対象地震の発生回数が多くなり、異常値と地震との関連がわかりにくいためである。また、対象とする地震の規模を大きくすると対象地震発生回数が少なくなり、異常値に対応する地震は大地震であるとは限らないため、この場合も地震との関連がわかりにくくなる。このため、検証を行う上での対象地震の規模をM4.5以上とした。
【0018】
自宅システムにおける発電電力異常値出現と一定規模以上の地震との間に関連があることを三つの手法により検証し、太陽電池容量の90%以上、すなわちあらかじめ設定した第一基準値である3.4kW以上の発電電力出現時には、翌々日までに日本付近において高確率でM4.5以上の地震が発生していることを検証する。第一は、異常値出現時のその後のM4.5以上の地震発生割合と、異常値が出現しない通常値の場合のその後のM4.5以上の地震発生割合との比較、第二は、異常値とM4.5以上の地震との個別の対応関連事例、第三はM4.5以上の地震の発生頻度と異常値発生頻度との関連の分析である。地震予知の定義は、気象庁によると、地震の起こる時、場所、大きさの三つの要素を精度よく限定して予測することであり、本発明の請求項1は、場所と大きさにおいてこれを十分満たしているとはいえないため、地震予知ではなく地震予測であるとしているが、太陽光発電システムにおける異常値出現と一定規模以上の地震発生との間には関連があることが明らかになるため、今後の地震予知実現のため意義がある。
【0019】
第一に、自宅システムにおける異常値出現時における、その後のM4.5以上の地震の発生状況について検証を行う。2020年の自宅システムでの計測実施は253日、うち晴天で計測条件良好日が170日であり、このうち異常値出現日は60日、好天で計測条件が良好であるにもかかわらず発電電力が2.9kW以下の日は57日であった。異常値出現後の当日、翌日まで、翌々日までのM4.5以上の地震発生日数はそれぞれ、当日15日、翌日まで31日(当日15翌日16)、翌々日まで42日(当日15翌日16翌々日11)であり、当日のM4.5以上の地震発生確率は25.0%(60日中15日)、翌日までの発生確率51.7%(60日中31日)、翌々日までの発生確率70.0%(60日中42日)である。これに対し、自宅システムにおいて好天で計測条件が良好であるにもかかわらず発電電力が2.9kW以下である場合のM4.5以上の地震発生日数は、当日7日、翌日まで20日(当日7翌日13)、翌々日まで30日(当日7翌日13翌々日10)であり、発生確率はそれぞれ12.3%(57日中7日)、35.1%(57日中20日)、52.6%(57日中30日)である。比較すると、25.0%>12.3%、51.7%>35.1%、70.0%>52.6%となり、いずれも自宅システムにおける異常値出現時の方が通常値出現時に比べM4.5以上の地震の発生割合が大である。なお、異常値出現後、翌々日までに複数のM4.5以上の地震が発生した場合は、最初のM4.5以上の地震のみをカウントしている。
【0020】
2021年についても同様の検証を継続実施している。1月から10月までの自宅システムでの計測実施は204日、うち計測条件良好日が131日、このうち異常値出現日は49日、計測条件良好にもかかわらず発電電力が2.9kW以下の日は53日であった。異常値出現後の当日、翌日まで、翌々日までのM4.5以上の地震発生日数はそれぞれ、当日18日、翌日まで38日(当日18翌日20)、翌々日まで42日(当日18翌日20翌々日4)であり、当日のM4.5以上の地震発生確率は36.7%(49日中18日)、翌日までの発生確率77.6%(49日中38日)、翌々日までの発生確率85.7%(49日中42日)である。これに対し、計測条件良好にもかかわらず発電電力が2.9kW以下である場合のM4.5以上の地震発生日数は、当日16日、翌日まで32日(当日16翌日16)、翌々日まで39日(当日16翌日16翌々日7)であり、発生確率はそれぞれ30.2%(53日中16日)、60.4%(53日中32日)、73.6%(53日中39日)である。比較すると、36.7%>30.2%、77.6%>60.4%、85.7%>73.6%となり、いずれも自宅システムにおける異常値出現時の方が通常値出現時に比べM4.5以上の地震の発生割合が大である。
【0021】
第二に、自宅システムにおける異常値と一定規模以上の地震との関連について例を記載する。東北地方太平洋沖地震発生前の当日正午前後に4.1kW(太陽電池容量の約111%)を記録したことについては既に述べたが、他の事例について五例記載する。
【0022】
一例目は、日本時間2018年2月7日午前0時50分に発生した台湾東部を震源とするM6.4の花蓮地震で、その後2月8日早朝にもM6.1の地震が発生している。この時の計測結果は、地震発生前々日の2月5日に3.8kW(同 約103%)、前日の2月6日に4.0kW(同 約108%)、その後のM6.1の地震前日の2月7日に3.8kW(同 約103%)を記録しており、これらの著しい異常値は当該地震の前兆であったものと考えられる。
【0023】
二例目は、2019年4月28日午前2時25分に発生した十勝地方南部を震源とするM5.6の地震で、前日の4月27日に3.5kW(同 約95%)の異常値を記録している。
【0024】
三例目は、2021年3月3日午前6時23分に発生した北海道東方沖を震源とするM5.8の地震で、前日の3月2日に3.9kW(同 約105%)の異常値を記録している。
【0025】
四例目は、M4.5以上ではないが、自宅近くの福岡市東区奈多の北方沖、自宅から震源までの距離約10Kmの地震について記載する。2020年3月16日20時42分にM3.8の地震が発生し、当日の地震前に自宅システムにおいて4.0kW(同約108%)の著しい異常値を記録している。規模の大きくない地震であっても震源が近い場合は前兆が大となる例であると考えられる。
【0026】
五例目は、2021年11月11日午前0時45分に発生した沖縄本島南東沖を震源とするM6.6の地震で、前日の11月10日に3.8kW(同 約103%)の異常値を記録している。以上の五例は、いずれも、あらかじめ設定した第一基準値以上の発電電力出現時には、翌々日までに日本付近でM4.5以上の地震が発生、またはそれに類することが発生していることを示している。
【0027】
第三に、M4.5以上の地震の多い月には異常値発生が多いことについて述べる。
2020年においては、一定規模以上の地震発生が多い月として4月、7月が該当する。逆に一定規模以上の地震発生が少ない月として11月が該当する。これらの月の状況について説明する。これらは、あらかじめ設定した第一基準値以上の発電電力出現とM4.5以上の地震との関連を直接示すものではないが、M4.5以上の地震の頻度と異常値発生頻度との関連より、第一基準値以上の発電電力出現時には、翌々日までに日本付近でM4.5以上の地震が高確率で発生することの確かさの説明となる。
【0028】
2020年4月にはM4.5以上の地震が22回発生している。自宅における計測日のうち好天で計測条件良好な日が17日、うち自宅システムにおける異常値発生は8日であり、これは47.1%で高い比率である。2020年の年間での自宅付近好天で計測に適した日数170日中、異常値の出現は60日で割合は35.3%であるから、47.1%の異常値発生率は高いといえる。
【0029】
2020年7月においても、M4.5以上の地震発生が17回と多く、計測条件良好日9日に対し、自宅システム異常値出現が5日であり、異常値出現率は55.6%となり、高いといえる。
【0030】
一定規模以上の地震発生が少ない月として2020年11月が該当し、M4.5以上の地震発生は8回、計測条件良好日14日に対し自宅システム異常値出現が2日であり、異常値出現率は14.3%にとどまり、低い値である。一定規模以上の地震の少ない月には異常値出現が少ないことがわかる例である。
【0031】
三つの手法により、自宅システムにおける異常値出現と一定規模以上の地震との間に関連が存在することがわかる。以上が、太陽電池容量に対する発電電力の割合があらかじめ設定した第一基準値である90%以上である場合に地震が発生すると推定する地震予測方法である。第一基準値以上の発電電力出現時には、翌々日までに日本付近でM4.5以上の地震が高確率で発生することの推定が可能である。高確率とは、2020年の場合、70.0%であり、2021年1月から10月までの場合は85.7%である。この方法では精度の高い地震予測を行う上での制約はあるものの、異常値出現時には翌々日までに日本付近でM4.5以上の地震が高確率で発生するとの地震予測は、地震予知であるとまではいえないものの、今後の地震予知実現につながる意義ある地震予測方法であるといえる。
【0032】
請求項1に記載の地震予測方法にはいくつかの課題がある。第一に、目視により天候が計測に適しているかどうかの判定を行うため、この判定を誤ると正確な地震予測ができないことである。第二に、日射強度の計測を実施しないため、十分な日射がない場合や、日射はあるが太陽高度が低く発電電力が小である時間帯には、発電電力が異常値であるかどうかの判定が難しいことである。ただし、日射が十分あり太陽高度が高くない時間帯については、過去の月別時刻別発電電力との比較による予測は不可能ではない。第三に、この方法は主として一箇所での計測を想定しているが、一箇所での計測では他の地域における状況が不明であり、広域的な地震の前兆の把握ができず、特に地震の規模や震源については予測精度が高いとはいえないことである。第四に、太陽の方向により発電しない時間帯があること、及び日没後と日の出前には発電しないことである。
【0033】
これらの課題の多くを解決するのが、複数分散設置システムによる地震予測である。日射強度と発電電力を同一タイミングで計測できる太陽光発電システムを広範囲かつ多地点に設置することにより、以下の効果がある。第一に、発電電力、日射強度、太陽電池容量から算出される数値を地震予測に使用するため、客観的な数値による地震予測が可能となる。第二に、太陽光により発電されていれば天候にかかわらず計測が可能となり計測時間の長時間化が可能となる。第三に、多地点計測により広範囲における地震の前兆の有無判定が可能となり、総合的な地震予測により予測精度が向上し、地震の規模や震源についての予測精度が向上する。請求項1に記載の地震予測方法の課題の第四点については、複数分散設置システムにおいても、日没後と日の出前には発電しないため計測は不可であり、解決しない。また、太陽電池モジュールの設置角度固定式の場合には日射があっても太陽の方向によっては発電しない時間帯があり計測が不可であるが、太陽追尾式であればこの課題の解消は可能である。
【0034】
太陽光発電システムにおいて、晴天時の発電電力の太陽電池容量に対する割合はほぼ一定ではなくかなりの幅があること、そして、太陽電池容量の90%以上の発電電力が出現する場合には一定規模以上の地震が高確率で発生することが判明した。また、あらかじめ判明していることとして、発電電力は日射強度にほぼ比例すること、太陽電池モジュールの公称最大出力は放射照度(日射強度)1kW/mの場合の数値であること、以上2点がある。このことから、日射計を備えた太陽光発電システムにおいて、発電電力を日射強度1kW/mの場合に比例換算した値の太陽電池容量に対する割合はほぼ一定ではなくかなりの幅で変動し、その値が異常値である場合には高確率で一定規模以上の地震が発生することになる。複数分散設置システムにより日射計を備えた複数の太陽光発電システムを広範囲に分散して設置すれば、ある時刻における日射強度と発電電力との関係の分布状況が把握できるため、地震の前兆把握が可能となる。
【0035】
複数分散設置システムにおける必要事項は次のとおりである。第一に、同一条件により計測し信頼性の高いデータを入手するため、太陽光発電システムに日射計を備えたそれぞれのシステムは同一仕様であること。第二に、日射計の設置方向と設置傾斜角度は太陽電池モジュールの設置方向・設置傾斜角度と同一であること。第三に、地震予測対象範囲をカバーし精度の高い地震予測を実施するため、島嶼部を含む広範囲に分散して太陽光発電システムをできるだけ多数設置し、最低でも日本国内に20箇所以上設置すること。第四に、太陽電池容量以上の発電に対応し大地震以上の規模の地震の発生予測に対応するため、太陽電池容量の130%以上の定格出力電力であるパワーコンディショナを使用すること。第五に、太陽光発電システムは太陽電池モジュール設置方向と角度の固定式、または太陽追尾式、いずれも可であるが、いずれかに統一すること。太陽電池モジュール固定式の場合の設置角度はすべての太陽電池モジュールについて30°前後の同一傾斜角度とし、太陽電池モジュールの設置方向は南向きとすること。第六に、太陽電池モジュールに建物や電柱、大木などによる陰がかからないこと。第七に、太陽電池モジュール表面を汚れが少ない状態に保つこと。第八に、電力会社による出力制御を受けないこと。第九に、気温計を設置すること。太陽電池損失すなわち太陽電池モジュール表面温度上昇による損失が存在するため、補正の実施に備えて気温計を設置するものとする。第十に、日本標準時による正確な観測を可能とするため、それぞれの太陽光発電システムにおいて標準電波の受信が可能であるシステムとし、1分に一度以上の頻度で、正確に同一タイミングで日射強度と発電電力を計測し、計測時刻、気温とともに、集計場所に伝送すること。第十一に、集計場所においてデータの集計と計算が実施できること。第十二に、精度の高いデータを得るため、太陽電池容量は50kW以上程度とすること。第十三に、発電電力(単位kW)は小数点以下1桁まで、日射強度(単位kW/m)は小数点以下2桁まで計測できること。第十四に、設置から15年以内程度の、経年劣化していない太陽光発電システムであること。第十五に、将来のさらに高度な地震予測に対応するため、各計測地点における日別時刻別の太陽の方向及び太陽高度をデータベースとして集計場所に備えること、以上、15の条件を満たすものとする。
【0036】
複数分散設置システムにおける短期的地震予測のために必要な数値の算出方法について述べる。それぞれの太陽光発電システムの太陽電池容量(kW)をa、ある時刻の日射強度(kW/m)をb、発電電力(kW)をcとする。発電電力は日射強度にほぼ比例するため、完全に比例するものとみなし、「日射強度が1kW/mであるとした場合に換算した発電電力(kW)は太陽電池容量a(kW)に対し何%であるか」の値をd(%)とする。dの値は、d=((c/b)/a))×100により求められる。
【0037】
太陽電池モジュールの公称最大出力は放射照度、すなわち日射強度が1kW/mの場合の発電電力であるとされており、かつ発電電力は日射強度にほぼ比例するため、dの値は発電電力を1kW/mの日射強度の場合に換算した値が太陽電池容量に対し何%であるかを示していることになる。たとえば太陽電池容量50kW、日射強度0.50kW/m、発電電力20.0kWの場合は、dの値は=80.0%となる。dは小数点以下1桁までの算出とする。発電電力は最大でも太陽電池容量の80%であるとされていることから、dの値は通常80%以下となる。
【0038】
dの値の精度を保つため、次の二つの作業を行うものとする。第一に、日射強度が0.10kW/m未満の場合の計測データを無効とし除外すること。第二に、dの値の変化がゆるやかではなく、同一タイミングで日射強度と発電電力が計測されていないことが疑われる場合、または雲の陰の影響による太陽電池モジュールの日射強度不均一が疑われる場合、または積雪その他により正確なデータが入手できない場合には、該当データを無効とし除外すること。以上が必要である。
【0039】
太陽電池損失すなわち太陽電池モジュール表面温度上昇による損失を考慮してdの値を補正することの要否については、データ蓄積が十分ではないため、断定的なことは言えない。複数分散設置システムを構成するそれぞれの太陽光発電システムに気温計を設置し、集計場所に気温データの伝送を行い、必要に応じて使用するものとする。データを蓄積し、その結果必要が生じれば、地域別月別に補正係数を設定するなどして補正を行うものとする。また、地震前には太陽と地球との間に発電電力を増加させる何らかの原因が存在すると考えられるため、各計測地点における月日別時刻別の太陽の方向及び太陽高度をデータベースとして集計場所に備え、将来的にdの値の補正に使用できるものとする。
【0040】
地震発生が近い場合のdの値の分布は1箇所にピークがある等高線型であるのか高い値の散在分布型であるのか、地表からどの程度の距離の上空に発電電力を増加させる原因が存在しているのか、また、震源から見てどの方向において発電電力を増加させる原因が最大となるのかなど、不明な点は多い。いずれにしても、地震の規模が大であればあるほど前兆としてのdの値が大である箇所が存在し、また、高い数値を示す地点数が多く存在することが推定され、中小規模の地震に比べ前兆の出現時期が早いことも推定される。第二基準値、第三基準値は、予測したい地震の規模に応じて設定できる。
【0041】
大地震以上の規模の地震を対象として予測する場合、自宅システムにおいて東北地方太平洋沖地震前に太陽電池容量の約111%の発電電力を記録したことから考えて、予測例として、ある時刻においてdの値が110%以上である地点が存在する場合は、短期的にdの値の最も高い地点に比較的近い場所で大地震以上の規模の地震が発生すると推定することが考えられる。また、dの最高値が110%には達していないが、100%以上である地点数が全体の25%以上存在する場合は、短期的にdの値が高い地点に比較的近い場所で大地震以上の規模の地震が発生すると推定することが考えられる。例として記載した110%が第二基準値、100%が第三基準値、25%が第四基準値である。たとえばある日の正午前後において、dの値が東京で95.0%、大阪で100.0%、高知で120.0%、宮崎で110.0%であれば、dの値が110%以上の地点が存在するため、短期的に大地震以上の規模の地震が発生することが予測され、震源は四国南方沖から九州南方沖である可能性が高いものと考えられる。また、dの値は110%以上ではないが100%以上を計測した地点が全計測地点の25%以上存在し、dの値の広がりがある場合にも、短期的に大地震以上の規模の地震が発生することが予測される。たとえば計測地点の数が20箇所、ある日の正午前後において、高知、宮崎で105%、その他の近畿以西の計測地点3箇所で100%であれば、dの値の最大値は110%以上ではないが、100%以上の計測地点が5箇所、全体の25%存在し、やはり短期的に四国南方沖から九州南方沖を震源として大地震以上の規模の地震が発生することが予測される。短期的とは多くの場合翌々日までであるが、大規模以上の規模の地震の前兆は早めに出現する可能性がある。
【0042】
M7.0未満の中小地震も含めて予測する場合は、例として、第二基準値を95%に設定すれば、M4.5程度以上の中小地震の発生を推定することが可能となり、第三基準値を90%、第四基準値を25%とすれば、同様にM4.5程度以上の中小地震の発生を推定することが可能である。地震の規模は概ねdの最大値に連動すると考えられ、また、震源はdの値の高い地点に近い場所であると考えられる。
【0043】
dの値による色別表示も、地震予測をわかりやすくするひとつの方法である。110%以上を極端に著しい異常、100%以上110%未満を著しい異常、95%以上100%未満を異常、90%以上95%未満をやや異常、80%以上90%未満を高め、70%以上80%未満を通常、70%未満を低めとして地震の前兆の大小の程度を定義し、色別表示としてそれぞれ赤、オレンジ、黄、黄緑、緑、水色、青を割り当て、ネット活用によるパソコンやスマホでの表示、または、公的機関や気象情報会社によるテレビでの色別表示を可能とし、大地震以上の規模の地震の前兆の大小の程度を知らせることができる。また集計場所における計算結果の公的機関での利用による地震予測情報の発令、気象情報会社への提供による地震予測情報サービスが可能となり、また、データの公表により、専門家でなくても簡易に短期的地震予測が可能となる。
【0044】
複数分散設置システムにおける短期的地震予測については、商業施設店頭のデータやネット掲載のデータの考察への使用が認められないため、地震予測の考え方について記載した。何をもって適正な基準値とするかについて断定的なことは言えないが、計測実績と発生地震との関連から必要により基準値の見直しを行うことにより、地震予測精度の向上を図るものとする。自宅システムにおける計測実績から、短期的とは大地震以上の規模の地震発生直前にならないと予測できないとの意味ではなく、それ以前に予測できる可能性が高いと考えられ、また、地震の規模が大きいほど前兆の出現は早いと考えられる。請求項2、請求項3、ともに地震予知ではなく地震予測であるとしているが、dの値及びその分布状況の他、気温、太陽の方向や高度による補正を加え、地震予測の精度を地震予知へと高めることができる可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0045】
気象情報会社による地震予測情報サービスが可能となる他、地震予測機能付家庭用太陽光発電システムの提供が可能であり、発電電力及び日射強度の高精度計測が可能になれば、地震予測機能付腕時計や地震予測機能付スマートホン、地震予測機能付自動車など、地震予測装置の製品化が実現し、産業上の利用可能性がある。