(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080000
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】潜在性硬化剤及びその製造方法、並びに硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/40 20060101AFI20230601BHJP
C08G 65/18 20060101ALI20230601BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230601BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230601BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20230601BHJP
C08J 3/11 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
C08G59/40
C08G65/18
C08L63/00
C08L71/02
C08J3/12 A CFF
C08J3/12 101
C08J3/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122430
(22)【出願日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2021192704
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】神谷 和伸
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J005
4J036
【Fターム(参考)】
4F070AA53
4F070AC32
4F070AC53
4F070AC75
4F070AE16
4F070AE27
4F070AE28
4F070AE30
4F070CA02
4F070CB05
4F070CB12
4F070DA34
4F070DA48
4F070DB03
4F070DC02
4F070DC11
4J002CD021
4J002CD051
4J002CD061
4J002CD111
4J002CH031
4J002FB086
4J002FB096
4J002FB266
4J002FD146
4J002GJ00
4J005AA07
4J036AD08
4J036AK15
4J036DA01
4J036DC48
4J036JA06
(57)【要約】
【課題】従来に比べてより低温での硬化が可能となり、1液保存安定性が大幅に向上した潜在性硬化剤及びその製造方法、並びに硬化性組成物の提供。
【解決手段】アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子と、前記多孔質粒子の表面に、ポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有する被膜と、を有する潜在性硬化剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子と、
前記多孔質粒子の表面に、ポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有する被膜と、を有することを特徴とする潜在性硬化剤。
【請求項2】
前記多孔質粒子の平均面粗さが5nm以下である、請求項1に記載の潜在性硬化剤。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂が、脂肪族環状ポリオレフィン樹脂及びα-オレフィン共重合体の少なくともいずれかである、請求項1から2のいずれかに記載の潜在性硬化剤。
【請求項4】
前記脂肪族環状ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度が140℃以下である、請求項3に記載の潜在性硬化剤。
【請求項5】
前記脂肪族環状ポリオレフィン樹脂が、シクロオレフィン共重合体(COC)及びシクロオレフィン単独重合体(COP)の少なくともいずれかである、請求項3に記載の潜在性硬化剤。
【請求項6】
前記α-オレフィン共重合体の融点が100℃以下である、請求項3に記載の潜在性硬化剤。
【請求項7】
前記多孔質粒子がポリウレア樹脂で構成される、請求項1から2のいずれかに記載の潜在性硬化剤。
【請求項8】
更に前記多孔質粒子が、長鎖構造を有するラジカル重合性モノマーの重合物を含む、請求項7に記載の潜在性硬化剤。
【請求項9】
前記多孔質粒子がシラノール化合物を保持する、請求項1から2のいずれかに記載の潜在性硬化剤。
【請求項10】
有機溶剤中にポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有する処理液中に、アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子を分散させた分散液を噴霧乾燥することを特徴とする潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項11】
前記多孔質粒子の平均面粗さが5nm以下である、請求項10に記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項12】
前記処理液中のポリオレフィン樹脂の含有量が1.5質量%以下である、請求項10から11のいずれかに記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項13】
前記処理液中のイソシアネート基を有するシランカップリング剤の含有量が0.5質量%以下である、請求項10から11のいずれかに記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項14】
請求項1から2のいずれかに記載の潜在性硬化剤と、カチオン硬化性化合物とを含有することを特徴とする硬化性組成物。
【請求項15】
前記カチオン硬化性化合物が、エポキシ化合物又はオキセタン化合物である、請求項14に記載の硬化性組成物。
【請求項16】
更にシラノール化合物を含有する、請求項14に記載の硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜在性硬化剤及び潜在性硬化剤の製造方法、並びに硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミニウムキレート剤は、シラノール化合物と共に混合するとエポキシ樹脂を低温で硬化することが可能なカチオン種(ブレンステッド酸)を形成する(下記反応式参照)が、潜在性がないため、その実用化は困難であった。
【0003】
【0004】
そこで、前記アルミニウムキレート剤を、ポリウレア樹脂を含む熱応答性樹脂によりマイクロカプセル化すること(
図1参照)により、特定の温度にてエポキシ樹脂を低温速硬化することが可能となり、かつエポキシ樹脂中での1液保存安定性を実現することができる。マイクロカプセルの調製には、イソシアネート化合物を用いた界面重合法を応用している。なお、
図1は、マイクロカプセル化した触媒粒子の断面模式図(多孔質構造)である。
また、マイクロカプセル内のアルミニウムキレート剤については、重合時に溶媒を揮発除去することで形成される細孔(多孔質構造)に保持された状態で存在する(マルチコア型)。
【0005】
前記ポリウレア樹脂をガラス転移温度(Tg)以上の温度に加熱した場合、水素結合が破壊され分子間距離が開き、物質透過性が増加する。この機構を触媒粒子の熱応答に応用している。即ち、エポキシ樹脂側にシラノール化合物を配合しておき、特定の温度にて、マイクロカプセル内のアルミニウムキレート剤とマイクロカプセル外のシラノール化合物とを接触させ、エポキシ樹脂の硬化を開始することが可能となる。
【0006】
関連する先行技術文献として、例えば、50℃~130℃の融点を有する有機化合物(α-オレフィン重合体)を溶解した溶液にカチオン重合開始剤(スルホニウム塩化合物)を懸濁分散した後、懸濁液をスプレードライヤーにて噴霧乾燥(溶媒除去)することで、カチオン重合開始剤をコア成分とし、これを内包する有機化合物をシェル成分とするマイクロカプセル型硬化剤の製造方法及びその樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、水溶性の硬化剤(硬化促進剤を含む)と水溶性ポリマーを用いて調製した水溶液を非極性溶媒(実施例では、イソパラフィン系)に乳化分散させて得た乳化液から水を減圧除去することで、水溶性ポリマーからなるシェルに水溶性硬化剤(あるいは、硬化促進剤)を内包させるカプセル型硬化剤(硬化促進剤を含む)の製造法、及びその樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この提案では、耐性向上のため、マイクロカプセルの外側に疎水性ポリマーを含有する外層を形成させている。外層の形成例としては、アゾ開始剤を用いてのポリベンジルメタクリレート層形成や、COC(エチレン-ノルボルネン共重合体)溶液にカプセル型硬化剤を分散し、スプレードライヤーで噴霧乾燥することにより、マイクロカプセル表面にCOC被膜を形成する方法が開示されている。
【0008】
また、本発明者は、先に、アルミニウムキレート剤とトリフェニルシラノールを用いて調製したポリウレア系多孔質硬化剤にアルミニウムキレート剤を含浸処理により、追加充填した後、脂環式エポキシ樹脂を反応させることで、硬化剤粒子表面に未反応の脂環式エポキシ化合物を含む脂環式エポキシ化合物による重合被膜を形成する技術に基づく潜在性硬化剤、及びその製造方法、並びに熱硬化型エポキシ樹脂組成物を提案している(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
また、本発明者は、先に、アルミニウムキレート剤とトリフェニルシラノールを用いて調製したポリウレア系多孔質硬化剤にアルミニウムキレート剤を含浸処理により、追加充填した後、エポキシアルコキシシランカップリング剤を含む溶液で処理し、エポキシアルコキシシランカップリング剤のエポキシ部位重合による重合被膜を形成する技術に基づくアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の製造方法及び熱硬化型エポキシ樹脂組成物を提案している(例えば、特許文献4参照)。
【0010】
また、本発明者は、先に、アルミニウムキレート剤とトリフェニルシラノールを用いて調製したポリウレア系多孔質硬化剤にアルミニウムキレート剤を含浸処理により、追加充填した後、アルミナゾル中で処理することにより、硬化剤粒子表面にアルミナ被膜を形成する技術に基づくアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の製造方法及び熱硬化型エポキシ樹脂組成物を提案している(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012-140574号公報
【特許文献2】特開2017-222782号公報
【特許文献3】特許第6670688号公報
【特許文献4】特許第6875999号公報
【特許文献5】特開2020-139169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1では、カチオン重合開始剤は、有機化合物中に懸濁分散しているのみであるため、当然、マイクロカプセル型硬化剤の表面部位にも存在することになるので、この特許文献1の製法では、十分な1液保存安定性を得ることはできない。また、有機溶媒をスプレードライヤーで乾燥除去する際に、高温処理(実施例の場合、トルエンを用いて110℃にて乾燥)が必要となるため、熱に不安定な活性硬化剤は、適用することができない。また、スプレードライヤーの噴霧液滴サイズは、最低でも数十ミクロンクラス以上となるため、この特許文献1の製法による硬化剤は、応用範囲が限定的となる。即ち、ファインピッチな接合剤用途への適用は不可である。
【0013】
また、上記特許文献2に記載の潜在化可能な材料は、水溶性硬化剤、又は水溶性硬化促進剤に限定される。具体的には、イミダゾール化合物、アミン化合物、ヒドラジド化合物、又はフェノール系化合物などとなる。従って、アルミニウムキレート化合物のように水と反応する高活性硬化剤や、アミンアダクト等のように水に不溶な硬化剤は、応用することができない。また、脱水処理時に加温が必要であるため(実施例では、減圧下70℃にて処理)熱に不安定な硬化剤についても応用することはできない。
【0014】
また、上記特許文献3に記載の硬化剤の被膜は、極性を有する脂環式エポキシ化合物からなる重合被膜であるため、極性溶剤の配合系や、低粘度エポキシ配合系で、潜在性が十分とならないという課題がある。
【0015】
また、上記特許文献4に記載の硬化剤の被膜は、単官能エポキシ化合物の重合物からなるため、極性溶剤の配合系や、低粘度エポキシ配合系で、潜在性が十分とならないという課題がある。
【0016】
また、上記特許文献5に記載の硬化剤粒子表面のアルミナ被膜は、熱応答性を示さないため、被膜形成後は硬化剤の硬化温度が高温化してしまうという課題がある。
【0017】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、従来に比べてより低温での硬化が可能となり、1液保存安定性が大幅に向上した潜在性硬化剤及び前記潜在性硬化剤の製造方法、並びに前記潜在性硬化剤を含有する硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子と、
前記多孔質粒子の表面に、ポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有する被膜と、を有することを特徴とする潜在性硬化剤である。
<2> 前記多孔質粒子の平均面粗さが5nm以下である、前記<1>に記載の潜在性硬化剤である。
<3> 前記ポリオレフィン樹脂が、脂肪族環状ポリオレフィン樹脂及びα-オレフィン共重合体の少なくともいずれかである、前記<1>から<2>のいずれかに記載の潜在性硬化剤である。
<4> 前記脂肪族環状ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度が140℃以下である、前記<3>に記載の潜在性硬化剤である。
<5> 前記脂肪族環状ポリオレフィン樹脂が、シクロオレフィン共重合体(COC)及びシクロオレフィン単独重合体(COP)の少なくともいずれかである、前記<3>に記載の潜在性硬化剤である。
<6> 前記α-オレフィン共重合体の融点が100℃以下である、前記<3>に記載の潜在性硬化剤である。
<7> 前記多孔質粒子がポリウレア樹脂で構成される、前記<1>から<2>のいずれかに記載の潜在性硬化剤である。
<8> 更に前記多孔質粒子が、長鎖構造を有するラジカル重合性モノマーの重合物を含む、前記<7>に記載の潜在性硬化剤である。
<9> 前記多孔質粒子がシラノール化合物を保持する、前記<1>から<2>のいずれかに記載の潜在性硬化剤である。
<10> 有機溶剤中にポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有する処理液中に、アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子を分散させた分散液を噴霧乾燥することを特徴とする潜在性硬化剤の製造方法である。
<11> 前記多孔質粒子の平均面粗さが5nm以下である、前記<10>に記載の潜在性硬化剤の製造方法である。
<12> 前記処理液中のポリオレフィン樹脂の含有量が1.5質量%以下である、前記<10>から<11>のいずれかに記載の潜在性硬化剤の製造方法である。
<13> 前記処理液中のイソシアネート基を有するシランカップリング剤の含有量が0.5質量%以下である、前記<10>から<11>のいずれかに記載の潜在性硬化剤の製造方法である。
<14> 前記<1>から<2>のいずれかに記載の潜在性硬化剤と、カチオン硬化性化合物とを含有することを特徴とする硬化性組成物である。
<15> 前記カチオン硬化性化合物が、エポキシ化合物又はオキセタン化合物である、前記<14>に記載の硬化性組成物である。
<16> 更にシラノール化合物を含有する、前記<14>に記載の硬化性組成物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、従来に比べてより低温での硬化が可能となり、1液保存安定性が大幅に向上した硬化剤及び前記硬化剤の製造方法、並びに前記硬化剤を含有する硬化性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、アルミニウムキレート剤の潜在化の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の潜在性硬化剤の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、比較例1及び比較例2の硬化剤を含む硬化性組成物のDSC測定の結果を示すチャートである。
【
図4】
図4は、比較例1及び比較例2の硬化剤を含む硬化性組成物の粘度変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、比較例3及び比較例4の硬化剤を含む硬化性組成物のDSC測定の結果を示すチャートである。
【
図6】
図6は、比較例3及び比較例4の硬化剤を含む硬化性組成物の粘度変化を示すグラフである。
【
図7】
図7は、触媒粉Aの平均面粗さをAFMで測定した結果を示す図である。
【
図8】
図8は、触媒粉Bの平均面粗さをAFMで測定した結果を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、触媒粉AのSEM写真(35,000倍)である。
【
図9B】
図9Bは、触媒粉AのSEM写真(100,000倍)である。
【
図11】
図11は、実施例1及び比較例3の硬化剤を含む硬化性組成物のDSC測定の結果を示すチャートである。
【
図12】
図12は、実施例2及び比較例3の硬化剤を含む硬化性組成物のDSC測定の結果を示すチャートである。
【
図13】
図13は、実施例1、実施例2及び比較例3の硬化剤を含む硬化性組成物の粘度変化を示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施例1、実施例2及び比較例3の硬化剤についての体積基準の粒度分布を示すグラフである。
【
図15A】
図15Aは、実施例1の潜在性硬化剤のSEM写真(3,000倍)である。
【
図15B】
図15Bは、実施例1の潜在性硬化剤のSEM写真(12,000倍)である。
【
図16A】
図16Aは、実施例2の潜在性硬化剤のSEM写真(3,000倍)である。
【
図16B】
図16Bは、実施例2の潜在性硬化剤のSEM写真(12,000倍)である。
【
図17】
図17は、実施例3及び比較例5の硬化剤を含む硬化性組成物のDSC測定の結果を示すチャートである。
【
図18】
図18は、実施例3及び比較例5の硬化剤を含む硬化性組成物の粘度変化を示すグラフである。
【
図19】
図19は、実施例3及び比較例5の硬化剤についての体積基準の粒度分布を示すグラフである。
【
図20A】
図20Aは、実施例3の潜在性硬化剤のSEM写真(5,000倍)である。
【
図20B】
図20Bは、実施例3の潜在性硬化剤のSEM写真(20,000倍)である。
【
図21】
図21は、COC樹脂濃度とTG(mg)の相関関係を示すグラフである。
【
図22】
図22は、実施例4、比較例1及び比較例2の硬化剤を含む硬化性組成物のDSC測定の結果を示すチャートである。
【
図23】
図23は、実施例4、比較例1及び比較例2の硬化剤を含む硬化性組成物の粘度変化を示すグラフである。
【
図24】
図24は、実施例5及び比較例3の硬化剤を含む硬化性組成物のDSC測定の結果を示すチャートである。
【
図25】
図25は、実施例5及び比較例3の硬化剤を含む硬化性組成物の粘度変化を示すグラフである。
【
図26】
図26は、実施例5及び比較例3の硬化剤についての体積基準の粒度分布を示すグラフである。
【
図27A】
図27Aは、実施例5の潜在性硬化剤のSEM写真(3,000倍)である。
【
図27B】
図27Bは、実施例5の潜在性硬化剤のSEM写真(12,000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(潜在性硬化剤)
本発明の潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子と、前記多孔質粒子の表面に、ポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有する被膜と、を有する。
【0022】
ここで、
図2は、本発明の潜在性硬化剤の一例を示す模式図である。この
図2の潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子の表面に、ポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有する被膜が形成されている。前記イソシアネート基を有するシランカップリング剤を含むことにより、密着性及び接着性に乏しいポリオレフィン樹脂を含む被膜を、多孔質粒子表面に均一形成することが可能となる。また、ポリオレフィン樹脂は極性溶剤の耐性に優れ、かつイソシアネート基を有するシランカップリング剤は触媒粉表面に残留するアルミニウムキレート化合物の活性を下げる効果があるため、本発明の潜在性硬化剤は室温下で優れた1液保存安定性を示す。更に、前記多孔質粒子表面の被膜は、低ガラス転移温度(Tg)を有する脂肪族環状ポリオレフィン樹脂、又は低融点(Tm)を有するα-オレフィン共重合体からなり、かつ薄膜であるため、触媒本来の低温活性を保持した状態での高潜在化が可能となる。
【0023】
本発明においては、多孔質粒子の表面にポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を有する。ポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を有するとは、多孔質粒子の表面にポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤が存在していれば特に制限はなく、ポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有する被膜を形成していることが好ましいが、付着、凝着、吸着、ファンデルワールス結合等の任意の相互作用によって多孔質粒子の表面にポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤が保持されていてもよい。
前記ポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤が多孔質粒子の表面に被膜を形成している場合には、前記被膜は前記多孔質粒子の表面の少なくとも一部に形成されていればよく、前記多孔質粒子の全表面を被覆して形成されていてもよい。また、前記被膜は連続膜として形成されていてもよく、少なくとも一部が不連続膜を含んでいてもよい。
【0024】
前記多孔質粒子の表面にポリオレフィン樹脂が存在していることの分析方法としては、ポリオレフィン樹脂を選択的に溶解する溶剤で多孔質粒子上のポリオレフィン樹脂を溶解し、この溶液中のポリオレフィン樹脂を熱重量示差熱分析装置(TG/DTA)などで分析する方法などが挙げられる。なお、前記ポリオレフィン樹脂を選択的に溶解する溶剤としては、例えば、シクロヘキサン、クロロベンゼンなどが挙げられる。
また、前記多孔質粒子の表面にイソシアネート基を有するシランカップリング剤が存在していることの分析方法としては、前記多孔質粒子の表面に存在するイソシアネート基を有するシランカップリング剤由来のSi原子をX線光電子分光分析法(XPS)などで分析する方法などが挙げられる。
【0025】
<アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子>
前記多孔質粒子は、ポリウレア樹脂で構成される。
前記多孔質粒子は、アルミニウムキレート化合物を保持する。
前記多孔質粒子は、例えば、その細孔内に前記アルミニウムキレート化合物を保持する。言い換えれば、ポリウレア樹脂で構成された多孔質粒子マトリックス中に存在する微細な孔に、アルミニウムキレート化合物が取り込まれて保持されている。
前記多孔質粒子の平均面粗さは5nm以下であることが好ましい。このように平均面粗さが小さくアンカー効果が得られ難い多孔質粒子の表面であっても、イソシアネート基を有するシランカップリング剤を添加することによって、密着性及び接着性に乏しいポリオレフィン樹脂を含む被膜を均一に形成することが可能となる。
前記多孔質粒子の平均面粗さは、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)により測定することができる。
【0026】
-ポリウレア樹脂-
前記ポリウレア樹脂とは、その樹脂中にウレア結合を有する樹脂である。
前記多孔質粒子を構成する前記ポリウレア樹脂は、例えば、多官能イソシアネート化合物を乳化液中で重合させることにより得られる。その詳細は後述する。前記ポリウレア樹脂は、樹脂中に、イソシアネート基に由来する結合であって、ウレア結合以外の結合、例えば、ウレタン結合などを有していてもよい。なお、ウレタン結合を含む場合には、ポリウレアウレタン樹脂と称することもある。
【0027】
-アルミニウムキレート化合物-
前記アルミニウムキレート化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表される、3つのβ-ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物が挙げられる。ここで、アルミニウムにはアルコキシ基は直接結合していない。直接結合していると加水分解し易く、乳化処理に適さないからである。
【0028】
【0029】
前記一般式(1)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、アルキル基又はアルコキシ基を表す。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられる。
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、オレイルオキシ基などが挙げられる。
【0030】
前記一般式(1)で表される錯体化合物としては、例えば、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(オレイルアセトアセテート)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記アルミニウムキレート化合物は、水と接触すると発熱分解してしまうので、水に溶解すること自体ができない化合物である。したがって、アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子は、禁水性の硬化触媒である。
【0032】
前記多孔質粒子における前記アルミニウムキレート化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0033】
前記多孔質粒子の細孔の平均細孔直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm以上300nm以下が好ましく、5nm以上150nm以下がより好ましい。
【0034】
前記多孔質粒子の体積平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましく、1μm以上5μm以下が特に好ましい。
【0035】
前記多孔質粒子は、長鎖構造を有するラジカル重合性モノマーの重合物(ポリマー)を含むことが好ましい。前記多孔質粒子が長鎖構造を有するラジカル重合性モノマーの重合物を含むことにより、架橋点間距離を長くし、低温反応性を向上させることができる。
前記長鎖構造を有するラジカル重合性モノマーとしては、少なくとも1個の付加重合可能なエチレン基を有し、例えば、ポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び「メタクリレート」の包括的名称として使用される。
【0036】
前記ポリオキシアルキレン基とは、オキシアルキレン基を繰り返し単位として有する基である。ポリオキシアルキレン基としては、下記式(E)で表される基が好ましい。
-(A-O)m-・・・式(E)
Aは、アルキレン基を表す。アルキレン基中の炭素数は特に制限されないが、1~4が好ましく、2~3がより好ましい。例えば、Aが炭素数1のアルキレン基の場合、-(A-O)-はオキシメチレン基(-CH2O-)を、Aが炭素数2のアルキレン基の場合、-(A-O)-はオキシエチレン基(-CH2CH2O-)を、Aが炭素数3のアルキレン基の場合、-(A-O)-はオキシプロピレン基(-CH2CH(CH3)O-、-CH(CH3)CH2O-又は-CH2CH2CH2O-)を示す。なお、アルキレン基は、直鎖状でも、分岐鎖状でもよい。
【0037】
mは、オキシアルキレン基の繰り返し数を表し、2以上の整数を表す。繰り返し数mは、連結鎖の主鎖の原子数が25個~100個の範囲内となるように制限される。
なお、複数のオキシアルキレン基中のアルキレン基の炭素数は、同一であっても異なっていてもよい。例えば、式(E)においては、-(A-O)-で表される繰り返し単位が複数含まれており、各繰り返し単位中のアルキレン基中の炭素数は、同一であっても異なっていてもよい。例えば、式(E):-(A-O)m-において、オキシメチレン基とオキシプロピレン基とが含まれていてもよい。
また、複数種のオキシアルキレン基が含まれる場合、それらの結合順は特に制限されず、ランダム型でもブロック型でもよい。
【0038】
前記ポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
前記多孔質粒子はシラノール化合物を保持することが好ましい。前記多孔質粒子がシラノール化合物を保持することにより、エポキシ樹脂側にシラノール化合物を配合することなく、潜在性硬化剤単独でのエポキシ硬化が可能となる。
前記シラノール化合物としては、後述する硬化性組成物におけるシラノール化合物と同様のものを用いることができる。
【0040】
[アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子の製造方法]
前記アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子の製造方法は、多孔質粒子作製工程を含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0041】
-多孔質粒子作製工程-
前記多孔質粒子作製工程は、乳化液作製処理と、重合処理とを少なくとも含み、好ましくは、高含浸処理を含み、更に必要に応じて、その他の処理を含む。
【0042】
--乳化液作製処理--
前記乳化液作製処理は、アルミニウムキレート化合物と、多官能イソシアネート化合物と、有機溶剤と、好ましくはラジカル重合性化合物とを混合して得られる液を乳化処理して乳化液を得る処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ホモジナイザーを用いて行うことができる。
なお、低温高活性型の触媒粉(多孔質粒子)を製造する場合には、シラノール化合物を添加し、シラノール化合物を内包させる。シラノール化合物としては、例えば、トリフェニルシラノールなどが挙げられる。
【0043】
前記アルミニウムキレート化合物としては、本発明の前記潜在性硬化剤の説明における前記アルミニウムキレート化合物が挙げられる。
【0044】
前記乳化液における油滴の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5μm以上100μm以下が好ましい。
【0045】
--多官能イソシアネート化合物--
前記多官能イソシアネート化合物は、一分子中に2個以上のイソシアネート基、好ましくは3個のイソシアネート基を有する化合物である。このような3官能イソシアネート化合物の更に好ましい例としては、トリメチロールプロパン1モルにジイソシアネート化合物3モルを反応させた下記一般式(2)のTMPアダクト体、ジイソシアネート化合物3モルを自己縮合させた下記一般式(3)のイソシアヌレート体、ジイソシアネート化合物3モルのうちの2モルから得られるジイソシアネートウレアに残りの1モルのジイソシアネートが縮合した下記一般式(4)のビュウレット体が挙げられる。
【0046】
【0047】
前記一般式(2)~(4)中、置換基Rは、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた部分である。このようなジイソシアネート化合物の具体例としては、トルエン2,4-ジイソシアネート、トルエン2,6-ジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ-m-キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニル-4,4’-ジイソシアネートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
前記アルミニウムキレート化合物と前記多官能イソシアネート化合物との配合割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アルミニウムキレート化合物の配合量が、少なすぎると、硬化させるべきカチオン硬化性化合物の硬化性が低下し、多すぎると、得られる潜在性硬化剤の潜在性が低下する。その点において、前記多官能イソシアネート化合物100質量部に対して、前記アルミニウムキレート化合物10質量部以上500質量部以下が好ましく、10質量部以上300質量部以下がより好ましい。
【0049】
前記ラジカル重合性化合物としては、例えば、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。なお、低温活性を示す触媒粉(多孔質粒子)を製造する場合には、ジビニルベンゼンの代わりに長鎖構造を有するラジカル重合性モノマーを添加する。前記長鎖構造を有するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレートなどが挙げられる。
【0050】
--有機溶剤--
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、揮発性有機溶剤が好ましい。
前記有機溶剤は、前記アルミニウムキレート化合物、及び前記多官能イソシアネート化合物のそれぞれの良溶媒(それぞれの溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶剤)以上)であって、水に対しては実質的に溶解せず(水の溶解度が0.5g/ml(有機溶剤)以下)、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような揮発性有機溶剤の具体例としては、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類などが挙げられる。これらの中でも、高極性、低沸点、貧水溶性の点で酢酸エチルが好ましい。
【0051】
前記有機溶剤の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0052】
-重合処理-
前記重合処理としては、前記乳化液中で前記多官能イソシアネート化合物を重合させて多孔質粒子を得る処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0053】
前記多孔質粒子は、前記アルミニウムキレート化合物を保持する。
前記重合処理においては、前記多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基の一部が加水分解を受けてアミノ基となり、そのアミノ基と前記多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基とが反応してウレア結合を生成して、ポリウレア樹脂が得られる。ここで、前記多官能イソシアネート化合物が、ウレタン結合を有する場合には、得られるポリウレア樹脂は、ウレタン結合も有しており、その点において生成されるポリウレア樹脂は、ポリウレアウレタン樹脂と称することもできる。
【0054】
前記重合処理における重合時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1時間以上30時間以下が好ましく、2時間以上10時間以下がより好ましい。
前記重合処理における重合温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30℃以上90℃以下が好ましく、50℃以上80℃以下がより好ましい。
重合処理後に、多孔質粒子に保持されるアルミニウムキレート化合物の量を増加させるため、アルミニウムキレート化合物の高含浸処理を行うことができる。
【0055】
-高含浸処理-
前記高含浸処理としては、前記重合処理により得られた前記多孔質粒子にアルミニウムキレート化合物を追加で充填する処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウムキレート化合物を有機溶剤に溶解して得られる溶液に、前記多孔質粒子を浸漬させた後に、前記溶液から前記有機溶剤を除去する方法などが挙げられる。
【0056】
前記高含浸処理を行うことにより、前記多孔質粒子に保持されるアルミニウムキレート化合物の量が増加する。なお、アルミニウムキレート化合物が追加充填された前記多孔質粒子は、必要に応じて濾別し、洗浄し乾燥した後、公知の解砕装置で一次粒子に解砕することができる。
【0057】
前記高含浸処理において追加で充填されるアルミニウムキレート化合物は、前記乳化液となる前記液に配合される前記アルミニウムキレート化合物と同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、前記高含浸処理においては水を使用しないため、前記高含浸処理に使用するアルミニウムキレート化合物は、アルミニウムにアルコキシ基が結合したアルミニウムキレート化合物であってもよい。そのようなアルミニウムキレート化合物としては、例えば、ジイソプロポキシアルミニウムモノオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムビス(オレイルアセトアセテート)、モノイソプロポキシアルミニウムモノオレエートモノエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノラウリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノステアリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノイソステアリルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムモノ-N-ラウロイル-β-アラネートモノラウリルアセトアセテートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記乳化液作製処理の説明において例示した前記有機溶剤などが挙げられる。好ましい態様も同じである。
【0059】
前記溶液から前記有機溶剤を除去する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記溶液を前記有機溶剤の沸点以上に加熱する方法、前記溶液を減圧させる方法などが挙げられる。
【0060】
前記アルミニウムキレート化合物を前記有機溶剤に溶解して得られる前記溶液における前記アルミニウムキレート化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%以上80質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましい。
【0061】
<ポリオレフィン樹脂>
前記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、脂肪族環状ポリオレフィン樹脂、α-オレフィン共重合体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
-脂肪族環状ポリオレフィン樹脂-
前記脂肪族環状ポリオレフィン樹脂は、極性溶剤に対する耐性に優れた熱可塑性樹脂であり、脂肪族環状オレフィン構造を有する重合体樹脂を表す。
前記脂肪族環状ポリオレフィン樹脂としては、例えば、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィンの重合体、(3)環状共役ジエンの重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及び前記(1)~(4)の水素化物などが挙げられる。
本発明において好ましい重合体は下記一般式(II)で表される繰り返し単位を少なくとも1種以上含む付加(共)重合体環状ポリオレフィン、及び必要に応じ、下記一般式(I)で表される繰り返し単位の少なくとも1種以上を更に含んでなる付加(共)重合体環状ポリオレフィンである。また、下記一般式(III)、及び(IV)で表される環状繰り返し単位を少なくとも1種含む開環(共)重合体も好適に使用することができる。これらの中でも、シクロオレフィン共重合体(シクロオレフィンコポリマー(COC樹脂)、エチレン-ノルボルネン共重合体)及びシクロオレフィン単独重合体(シクロオレフィンポリマー(COP樹脂))の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
ただし、前記一般式(I)から(IV)において、mは0~10の整数を表す。
R1~R7は水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す。
X1~X2、及びY1は水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換された炭素数1~10の炭化水素基、-(CH2)nCOOR8、-(CH2)nOCOR9、-(CH2)nNCO、-(CH2)nNO2、-(CH2)nCN、-(CH2)nCONR10R11、-(CH2)nNR10R11、-(CH2)nOZ、-(CH2)nW、又はX1とY1あるいはX2とY1から構成された(-CO)2O、(-CO)2NR12を示す。なお、R8,R9,R10,R11,R12は水素原子、炭素数1~20の炭化水素基、Zは炭素数1~10の炭化水素基又はハロゲンで置換された炭素数1~10の炭化水素基、WはSiR13
pD3-p(R13は炭素数1~10の炭化水素基、Dはハロゲン原子、-OCOR14又はOR14、pは0~3の整数を示す)を表す。R14は水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基、nは0~10の整数を示す。
【0068】
前記ノルボルネン系重合体水素化物は、特開平1-240517号公報、特開平7-196736号公報、特開昭60-26024号公報、特開昭62-19801号公報、特開2003-1159767号公報、又は特開2004-309979号公報などに開示されているように、多環状不飽和化合物を付加重合あるいはメタセシス開環重合した後、水素添加することにより合成される。
前記ノルボルネン系重合体において、R5~R7は水素原子又は-CH3が好ましく、X2は水素原子、Cl、-COOCH3が好ましく、その他の基は適宜選択される。
前記ノルボルネン系樹脂は、JSR株式会社からアートン(Arton)という商品名で市販されており、また日本ゼオン株式会社からゼオノア(Zeonor)、ゼオネックス(Zeonex)という商品名で市販されている。
【0069】
前記ノルボルネン系付加(共)重合体は、特開平10-7732号公報、特表2002-504184号公報、US2004229157A1号公報、又はWO2004/070463A1号などに開示されている。ノルボルネン系多環状不飽和化合物同士を付加重合することによって得られる。また、必要に応じて、ノルボルネン系多環状不飽和化合物と、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、イソプレンのような共役ジエン;エチリデンノルボルネンのような非共役ジエン;アクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、無水マレイン酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイミド、酢酸ビニル、塩化ビニルなどの線状ジエン化合物とを付加重合することもできる。
前記ノルボルネン系付加(共)重合体としては、三井化学株式会社よりアペルの商品名で市販されている。また、ポリプラスチックス株式会社よりTOPASの商品名でペレットが市販されている。
【0070】
前記脂肪族環状ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度(Tg)は140℃以下が好ましく、135℃以下がより好ましく、120℃以下が更に好ましい。前記ガラス転移温度が140℃以下である低Tgの脂肪族環状ポリオレフィン樹脂を用いることにより、アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子が有している温度応答性(水素結合の破壊に基づく)を脂肪族環状ポリオレフィン樹脂で被覆しても阻害しないという効果が得られる。
【0071】
-α-オレフィン共重合体-
α-オレフィン共重合体は、α-オレフィン由来の構成単位と該α-オレフィンと異なる他のオレフィン由来の構成単位とを含む共重合体であることが好ましい。
前記α-オレフィンとしては、通常、炭素数2~20のα-オレフィンを1種単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。これらの中でも、好ましいα-オレフィンは、炭素数が3以上であるα-オレフィンであり、炭素数3~8のα-オレフィンが特に好ましい。
【0072】
前記α-オレフィンとして、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、入手の容易さの観点から、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンが好ましい。
【0073】
前記α-オレフィンと異なる他のオレフィンとしては、炭素数2~4のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテンなどが挙げられる。
【0074】
前記α-オレフィン共重合体としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-1-ブテン共重合体(EBR)、エチレン-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体(EOR)、プロピレン-1-ブテン共重合体(PBR)、プロピレン-1-ペンテン共重合体、プロピレン-1-オクテン共重合体(POR)などが挙げられる。これらの中でも、炭素数2~8のα-オレフィン由来の構成単位と炭素数2~3のオレフィン由来の構成単位とを含む共重合体が好ましい。
【0075】
前記α-オレフィン共重合体は、ランダム共重合体を形成してもよく、ブロック共重合体を形成してもよい。
【0076】
前記α-オレフィン共重合体の融点は100℃以下が好ましく、50℃以上100℃以下がより好ましい。前記融点が100℃以下のα-オレフィン共重合体は、ポリウレア樹脂よりも低い温度の融点を有しているので、ポリウレア系多孔質粒子の表面で被膜化した場合、その温度応答性を阻害することなく、被膜化することが可能となる。
前記融点は、示差走査熱量測定(DSC)によって吸熱曲線に現れる最大ピーク位置の温度Tmとして求められる値である。
【0077】
前記α-オレフィン共重合体としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、三井化学株式会社製のタフマー(登録商標)シリーズ(例えば、タフマーXM-7070、タフマーXM-7080、タフマーXM-7090)などが挙げられる。
【0078】
前記潜在性硬化剤における前記ポリオレフィン樹脂の付着量(被覆量)としては、従来に比べてより低温での硬化が可能となり、1液保存安定性が大幅に向上するという効果が得られることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0079】
<イソシアネート基を有するシランカップリング剤>
イソシアネート基を有するシランカップリング剤は、1分子中に少なくとも1個のイソシアネート基を有するシランカップリング剤である。前記イソシアネート基を有するシランカップリング剤が1分子中に有するイソシアネート基の数は、1個~3個が好ましく、1個がより好ましい。なお、イソシアネート基を有するシランカップリング剤は、「イソシアネートシランカップリング剤」と称することもある。
【0080】
前記イソシアネート基を有するシランカップリング剤としては、例えば、トリメトキシシリルメチルイソシアネート、トリエトキシシリルメチルイソシアネート、トリプロポキシシリルメチルイソシアネート、2-トリメトキシシリルエチルイソシアネート、2-トリエトキシシリルエチルイソシアネート、2-トリプロポキシシリルエチルイソシアネート、3-トリメトキシシリルプロピルイソシアネート、3-トリエトキシシリルプロピルイソシアネート、3-トリプロポキシシリルプロピルイソシアネート、4-トリメトキシシリルブチルイソシアネート、4-トリエトキシシリルブチルイソシアネート、4-トリプロポキシシリルブチルイソシアネートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記イソシアネート基を有するシランカップリング剤としては、市販品を用いることができ、前記市販品としては、例えば、KBE-9007N(信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0081】
前記イソシアネート基を有するシランカップリング剤は、シクロヘキサンやメチルシクロヘキサン等の溶媒を用いて調製したポリオレフィン樹脂溶液中に相溶化することができる。
前記イソシアネート基を有するシランカップリング剤は、下記化学式に示すように、シラノール生成後、触媒粒子表面のウレア部位と水素結合させることができる。
【0082】
【0083】
上記効果により、密着性や接着性に乏しいポリオレフィン樹脂層を、ウレア構造を有する触媒粒子表面に均一形成することが可能となる。
前記イソシアネート基を有するシランカップリング剤は、シラノール生成後、触媒粒子表面のアルミニウムキレート剤と相互作用することで、活性種を形成する(下記反応式参照)。
【0084】
【0085】
生成した活性種は、イソシアネート基を有するシランカップリング剤の加水分解や、イソシアネート化合物とシラノール化合物との反応(金属錯体によるウレタン化反応)に使用されるため、イソシアネート基を有するシランカップリング剤を用いることで、触媒粒子表面のアルミニウムキレート化合物の活性を下げることができる。
【0086】
前記潜在性硬化剤における前記イソシアネート基を有するシランカップリング剤の付着量(被覆量)としては、従来に比べてより低温での硬化が可能となり、1液保存安定性が大幅に向上するという効果が得られることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0087】
(潜在性硬化剤の製造方法)
本発明の潜在性硬化剤の製造方法は、有機溶剤中にポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有する処理液中に、アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子を分散させた分散液を噴霧乾燥する。
有機溶剤中のポリオレフィン樹脂の含有量は1.5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましく、0.3質量%以下が特に好ましい。前記含有量の下限値は、0.01質量%以上が好ましい。
有機溶剤中のポリオレフィン樹脂の含有量が1.5質量%を超えると、噴霧乾燥時の糸引きや粗粒体の形成、回収不良(固着)等の不具合が生じることがある。
有機溶剤中のイソシアネート基を有するシランカップリング剤の含有量は0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましい。前記含有量の下限値は、0.01質量%以上が好ましい。
有機溶剤中のイソシアネート基を有するシランカップリング剤の含有量が0.5質量%を超えると、ジェットミル解砕時、液状成分添加による解砕不良(固着)等の不具合が生じることがある。
前記分散液中におけるアルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子の含有量は、5質量%以上30質量%以下が好ましい。
前記多孔質粒子の平均面粗さは5nm以下であることが好ましい。
【0088】
前記有機溶剤としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素系溶剤;炭素数3~12の鎖状炭化水素、炭素数3~12の環状炭化水素、炭素数6~12の芳香族炭化水素、エステル、ケトン、及びエーテルから選ばれる溶剤が好ましい。なお、前記エステル、ケトン、及びエーテルは、環状構造を有していてもよい。
前記炭素数3~12の鎖状炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、オクタン、イソオクタン、デカンなどが挙げられる。
前記炭素数3~12の環状炭化水素類としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン又はこれらの誘導体などが挙げられる。
前記炭素数6~12の芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
前記エステルとしては、例えば、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどが挙げられる。
【0089】
噴霧乾燥は、特に制限はなく、公知の噴霧乾燥装置を用いて行うことができる。
得られた潜在性硬化剤は、必要に応じて有機溶剤で洗浄、及び粗解砕し、乾燥した後、公知の解砕装置で一次粒子に解砕することができる。
前記洗浄に用いる有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、非極性溶剤が好ましい。前記非極性溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤などが挙げられる。前記炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどが挙げられる。
【0090】
(硬化性組成物)
本発明の硬化性組成物は、本発明の前記潜在性硬化剤と、エポキシ樹脂とを含有し、シラノール化合物を含有することが好ましく、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0091】
<潜在性硬化剤>
前記硬化性組成物が含有する潜在性硬化剤は、本発明の前記潜在性硬化剤である。
【0092】
前記硬化性組成物における前記潜在性硬化剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、1質量部以上70質量部以下が好ましく、1質量部以上50質量部以下がより好ましい。前記含有量が、1質量部未満であると、硬化性が低下することがあり、70質量部を超えると、硬化物の樹脂特性(例えば、可とう性)が低下することがある。
【0093】
<エポキシ樹脂>
前記エポキシ樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、又は、これらを溶剤に溶解した溶剤含有エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0094】
前記脂環式エポキシ樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニルシクロペンタジエンジオキシド、ビニルシクロヘキセンモノ乃至ジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、エポキシ-[エポキシ-オキサスピロC8-15アルキル]-シクロC5-12アルカン(例えば、3,4-エポキシ-1-[8,9-エポキシ-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3-イル]-シクロヘキサン等)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボレート、エポキシC5-12シクロアルキルC1-3アルキル-エポキシC5-12シクロアルカンカルボキシレート(例えば、4,5-エポキシシクロオクチルメチル-4’,5’-エポキシシクロオクタンカルボキシレート等)、ビス(C1-3アルキル-エポキシC5-12シクロアルキルC1-3アルキル)ジカルボキシレート(例えば、ビス(2-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート等)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0095】
なお、前記脂環式エポキシ樹脂としては、市販品として入手容易である点から、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(株式会社ダイセル製、商品名:セロキサイド♯2021P、エポキシ当量:128~140)が好ましく用いられる。
【0096】
なお、上記例示中において、C8-15、C5-12、C1-3との記載は、それぞれ、炭素数が8~15、炭素数が5~12、炭素数が1~3、であることを意味し、化合物の構造の幅があることを示している。
【0097】
前記脂環式エポキシ樹脂の一例の構造式を、以下に示す。
【化10】
【0098】
前記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、もしくはグリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、液状でも固体状でもよく、エポキシ当量が通常100~4,000程度であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フタル酸エステル型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、樹脂特性の点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を好ましく使用できる。また、これらのエポキシ樹脂にはモノマーやオリゴマーも含まれる。
【0099】
<シラノール化合物>
前記シラノール化合物としては、例えば、アリールシラノール化合物などが挙げられる。
前記アリールシラノール化合物は、例えば、下記一般式(A)で表される。
【0100】
【化11】
ただし、前記一般式(A)中、mは2又は3、好ましくは3であり、なお、mとnとの和は4である。Arは、置換基を有していてもよいアリール基である。
前記一般式(A)で表されるアリールシラノール化合物は、モノオール体又はジオール体である。
【0101】
前記一般式(A)におけるArは、置換基を有していてもよいアリール基である。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基(例えば、1-ナフチル基、2-ナフチル基等)、アントラセニル基(例えば、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、ベンズ[a]-9-アントラセニル基等)、フェナリル基(例えば、3-フェナリル基、9-フェナリル基等)、ピレニル基(例えば、1-ピレニル基等)、アズレニル基、フロオレニル基、ビフェニル基(例えば、2-ビフェニル基、3-ビフェニル基、4-ビフェニル基等)、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリジル基などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、入手容易性、及び入手コストの観点から、フェニル基が好ましい。m個のArは、いずれも同一でもよく異なっていてもよいが、入手容易性の点から同一であることが好ましい。
【0102】
これらのアリール基は、例えば、1~3個の置換基を有することができる。
前記置換基としては、例えば、電子吸引基、電子供与基などが挙げられる。
前記電子吸引基としては、例えば、ハロゲン基(例えば、クロロ基、ブロモ基等)、トリフルオロメチル基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、ホルミル基などが挙げられる。
前記電子供与基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)、ヒドロキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基(例えば、モノメチルアミノ基等)、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基等)などが挙げられる。
【0103】
置換基を有するフェニル基の具体例としては、例えば、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2-エチルフェニル基、4-エチルフェニル基などが挙げられる。
【0104】
なお、置換基として電子吸引基を使用することにより、シラノール基の水酸基の酸度を上げることができる。置換基として電子供与基を使用することにより、シラノール基の水酸基の酸度を下げることができる。そのため、置換基により、硬化活性のコントロールが可能となる。
ここで、m個のAr毎に、置換基が異なっていてもよいが、m個のArについて入手容易性の点から置換基は同一であることが好ましい。また、一部のArだけに置換基があり、他のArに置換基が無くてもよい。
【0105】
これらの中でも、トリフェニルシラノール、ジフェニルシランジオールが好ましく、トリフェニルシラノールが特に好ましい。
【0106】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、オキセタン化合物、シランカップリング剤、充填剤、顔料、帯電防止剤などが挙げられる。
【0107】
<<オキセタン化合物>>
前記硬化性組成物において、前記エポキシ樹脂に前記オキセタン化合物を併用することで、発熱ピークをシャープにすることができる。
前記オキセタン化合物としては、例えば、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、1,4-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、4,4’-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4-ベンゼンジカルボン酸ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)]メチルエステル、3-エチル-3-(フェノキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、ジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル、3-エチル-3-{[3-(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0108】
前記硬化性組成物における前記オキセタン化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下が好ましく、10質量部以上50質量部以下がより好ましい。
【0109】
<<シランカップリング剤>>
前記シランカップリング剤は、特開2002-212537号公報の段落[0007]~[0010]に記載されているように、アルミニウムキレート化合物と共働してエポキシ樹脂のカチオン重合を開始させる機能を有する。従って、このような、シランカップリング剤を少量併用することにより、エポキシ樹脂の硬化を促進するという効果が得られる。このようなシランカップリング剤としては、分子中に1~3の低級アルコキシ基を有するものであり、分子中に反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよい。なお、アミノ基やメルカプト基を有するカップリング剤は、本発明の潜在性硬化剤がカチオン型硬化剤であるため、アミノ基やメルカプト基が発生カチオン種を実質的に捕捉しない場合に使用することができる。
【0110】
前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-スチリルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0111】
前記硬化性組成物における前記シランカップリング剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記硬化剤100質量部に対して、1質量部以上300質量部以下が好ましく、1質量部以上100質量部以下がより好ましい。
【0112】
本発明の硬化性組成物は、従来に比べてより低温での硬化が可能となり、1液保存安定性が大幅に向上しており、利便性が高いので、各種分野に幅広く好適に用いることができる。
【実施例0113】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0114】
(潜在性硬化剤の製造例1)
<触媒粉Aの製造>
<<多孔質粒子作製工程>>
-水相の調製-
蒸留水800質量部と、界面活性剤(ニューレックスR-T、日油株式会社製)0.05質量部と、分散剤としてポリビニルアルコール(PVA-205、株式会社クラレ製)4質量部とを、温度計を備えた3リットルの界面重合容器に入れ、均一に混合し、水相を調製した。
【0115】
-油相の調製-
次に、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24質量%イソプロパノール溶液(アルミキレートD、川研ファインケミカル株式会社製)100質量部と、メチレンジフェニル-4,4’-ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(多官能イソシアネート化合物、D-109、三井化学株式会社製)70質量部と、ラジカル重合性化合物としてのジビニルベンゼン(メルク株式会社製)30質量部と、ラジカル重合開始剤(パーロイルL、日油株式会社製)をラジカル重合性化合物の1質量%相当量(0.3質量部)と、を酢酸エチル100質量部に溶解し、油相を調製した。
【0116】
-乳化-
調製した前記油相を、先に調製した前記水相に投入し、ホモジナイザー(10,000rpm/5分、T-50、IKAジャパン株式会社製)で混合し、乳化して、乳化液を得た。
【0117】
-重合-
調製した前記乳化液を、80℃で6時間、界面重合とラジカル重合を行った。反応終了後、重合反応液を室温(25℃)まで放冷し、生成した重合粒子を濾過により濾別し、室温(25℃)下で自然乾燥することにより、塊状の硬化剤を得た。得られた塊状の硬化剤を、解砕装置(A-Oジェットミル、株式会社セイシン企業製)を用いて一次粒子に解砕することにより、粒子状硬化剤を得た。
【0118】
-アルミニウムキレート化合物の高含浸処理-
得られた粒子状硬化剤15.0質量部を、アルミニウムキレート系溶液[アルミニウムキレート化合物(アルミキレートD、川研ファインケミカル株式会社製)12.5質量部と、別のアルミニウムキレート化合物(ALCH-TR、川研ファインケミカル株式会社製)25.0質量部とを酢酸エチル62.5質量部に溶解させた溶液]に投入し、80℃で9時間、酢酸エチルを揮散させながら200rpmの撹拌速度で撹拌した。
撹拌終了後、濾過処理し、シクロヘキサンで洗浄することにより塊状の硬化剤を得た。得られた塊状の硬化剤を、30℃で4時間真空乾燥した後、解砕装置(A-Oジェットミル、株式会社セイシン企業製)を用いて一次粒子に解砕することにより、アルミニウムキレート化合物を高含浸処理した触媒粉A(多孔質粒子)17.0質量部を得た。
【0119】
(潜在性硬化剤の製造例2)
<触媒粉Bの製造;低温活性タイプ>
潜在性硬化剤の製造例1における「油相の調製」において、ジビニルベンゼンを、ポリエチレングリコール鎖を有する二官能アクリレート(ライトアクリレート4EG-A、共栄社化学株式会社製)に代えた以外は、潜在性硬化剤の製造例1と同様にして、触媒粉B(多孔質粒子)を得た。
【0120】
(触媒粉の製造例3)
<触媒粉Cの製造;低温高活性アルミニウムキレート化合物及びシラノール化合物の両内包タイプ>
蒸留水850質量部と、界面活性剤(ニューレックスR-T、日油株式会社製)0.05質量部と、分散剤としてポリビニルアルコール(PVA-205、株式会社クラレ製)4質量部とを、温度計を備えた3リットルの界面重合容器に入れ、均一に混合し水相を調製した。
この水相に、更に、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24質量%イソプロパノール溶液(アルミキレートD、川研ファインケミカル株式会社製)20質量部と、メチレンジフェニル-4,4’-ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D-109、三井化学ポリウレタン株式会社製)10質量部と、トリフェニルシラノール(TPS、東京化成工業株式会社製)20質量部とを、酢酸エチル70質量部に溶解した油相を投入し、ホモジナイザー(10,000rpm/5分)で乳化混合後、80℃で6時間、酢酸エチルを留去しながら界面重合を行った。
反応終了後、重合反応液を室温まで放冷し、重合粒子を濾過により濾別し、自然乾燥することにより、触媒粉C(多孔質粒子)を得た。
【0121】
(実施例1)
<高潜在化処理溶液の調製>
脂肪族環状ポリオレフィン樹脂としてAPL6509T(COC樹脂、ガラス転移温度(Tg):80℃、三井化学株式会社製)をメチルシクロヘキサンで0.1質量%の濃度になるように溶解した。その後、イソシアネートシランカップリング剤(KBE-9007N、信越化学工業株式会社製)を0.1質量%の濃度となるよう添加し、超音波で溶解することで、高潜在化処理溶液とした。
【0122】
<噴霧乾燥用処理液の調製>
触媒粉Bを10質量%濃度で高潜在化処理溶液中に超音波分散したものを噴霧乾燥用処理液とした。
【0123】
<噴霧乾燥処理>
噴霧乾燥装置(ミニスプレードライヤーB-290、日本ビュッヒ株式会社製)を用いて、噴霧乾燥用処理液の噴霧乾燥(溶媒除去)を行い、粗粒の硬化剤を得た。乾燥室の入口温度は45℃とした。得られた粗粒の硬化剤を、解砕装置(A-Oジェットミル、株式会社セイシン企業製)を用いて一次粒子に解砕することにより、粒子状硬化剤を得た。以上により、実施例1の潜在性硬化剤を得た。
【0124】
-脂肪族環状ポリオレフィン樹脂の定量-
高潜在化処理した触媒をクロロベンゼンに25質量%濃度で分散し、室温下、7日間、200rpmで撹拌し、脂肪族環状ポリオレフィン樹脂を含む高潜在性樹脂層を溶解した。その後、0.45μmフィルター処理で触媒粒子を除いた後、回収した液中に含まれる脂肪族環状ポリオレフィン量をTG/DTAを用いて測定した。実施例1の潜在性硬化剤のCOC樹脂比率は0.24質量%であった。
【0125】
-イソシアネートシランカップリング剤の濃度-
高潜在化処理溶液中のイソシアネートシランカップリング剤の濃度が0.5質量%を超えた場合、ジェットミル解砕時、液状成分添加による解砕不良(固着)が見られたため、イソシアネートシランカップリング剤の濃度は、0.5質量%以下に設定することとした。以下、イソシアネートシランカップリング剤の濃度0.1質量%での処理結果について示す。
【0126】
(実施例2)
実施例1における<高潜在化処理溶液の調製>において、APL6509TをARTON RX4500(COP樹脂、Tg:132℃、JSR株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の潜在性硬化剤を得た。
【0127】
(実施例3)
実施例1において、触媒粉Bを触媒粉Cとし、<高潜在化処理溶液の調製>でAPL6509Tを1.5質量%の濃度とした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の潜在性硬化剤を得た。
【0128】
(実施例4)
実施例1において、触媒粉Bを触媒粉Aに代えた以外は、実施例1と同様にして、実施例4の潜在性硬化剤を得た。
【0129】
(実施例5)
実施例1における<高潜在化処理溶液の調製>において、APL6509Tをタフマー XM-7070(α-オレフィン共重合体、Tm:75℃、三井化学株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の潜在性硬化剤を得た。
【0130】
(比較例1)
実施例1において、触媒粉Bを触媒粉Aに代え、高潜在化処理溶液を用いた噴霧乾燥処理を実施しなかった(触媒粉A:未処理)以外は、実施例1と同様にして、比較例1の硬化剤を得た。
【0131】
(比較例2)
実施例1において、触媒粉Bを触媒粉Aに代え、<高潜在化処理溶液の調製>において、イソシアネートシランカップリング剤(KBE-9007N、信越化学工業株式会社製)を添加しない以外は、実施例1と同様にして、比較例2の硬化剤を得た。
【0132】
(比較例3)
実施例1において、高潜在化処理溶液を用いた噴霧乾燥処理を実施しなかった(触媒粉B:未処理)以外は、実施例1と同様にして、比較例3の硬化剤を得た。
【0133】
(比較例4)
実施例1における<高潜在化処理溶液の調製>において、イソシアネートシランカップリング剤(KBE-9007N、信越化学工業株式会社製)を添加しない以外は、実施例1と同様にして、比較例4の硬化剤を得た。
【0134】
(比較例5)
実施例3において、高潜在化処理溶液を用いた噴霧乾燥処理を実施しなかった(触媒粉C:未処理)以外は、実施例3と同様にして、比較例5の硬化剤を得た。
【0135】
<比較例1及び2のDSC測定>
触媒粉Aの場合は、イソシアネートシランカップリング剤を用いない場合でも、良好な高潜在性を示した。
比較例1及び比較例2の硬化剤について、以下のようにして、DSC測定を行った。結果を表1に示した。また、比較例1及び比較例2のDSCチャートを
図3に示した。
【0136】
―DSC測定用組成物-
質量比で、EP828:トリフェニルシラノール:潜在性硬化剤=80:8:4となるように調製した組成物をDSC測定の試料として用いた。
・EP828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)
・トリフェニルシラノール(東京化成工業株式会社製)
・硬化剤:比較例1及び比較例2の硬化剤
【0137】
-DSC測定条件-
・測定装置:DSC6200(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
・評価量:5mg
・昇温速度:10℃/min
【0138】
【0139】
図3及び表1の結果から、比較例1と比較例2とを対比すると、高潜在化処理を実施することにより、発熱開始温度が10℃以上高温化することがわかった。
【0140】
<比較例1及び2の室温(25℃)保管液ライフ>
次に、比較例1及び比較例2の硬化剤について、以下のようにして、粘度変化による1液保存安定性を評価した。結果を表2に示した。また、比較例1及び比較例2の粘度変化を
図4に示した。
【0141】
-保存安定性測定用組成物-
質量比で、EP807:CEL2021P:KBM-403:トリフェニルシラノール:硬化剤=50:50:0.5:7:2となるように調製した組成物を保存安定性測定用の試料として用いた。
・EP807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)
・CEL2021P(脂環式エポキシ樹脂、株式会社ダイセル製)
・KBM-403(シランカップリング剤、信越化学工業株式会社製)
・トリフェニルシラノール(東京化成工業株式会社製)
・硬化剤:比較例1及び比較例2の硬化剤
【0142】
-保存安定性の条件-
・保存温度:25℃
・保存期間:24時間
・粘度測定:SV-100(音叉振動式粘度計、株式会社エー・アンド・デイ製)
・測定温度:20℃
【0143】
【0144】
表2及び
図4の結果から、高潜在化処理を実施していない比較例1については、測定開始時から測定液の増粘が見られ、室温保管4時間後は、高増粘により、測定不可となった。一方、高潜在化処理を実施した比較例2に関しては、良好な1液保存性を示していることがわかる。高潜在化処理品の24時間後の粘度倍率は、初期比2倍未満を示した。
【0145】
<比較例3及び4のDSC測定>
ポリエチレングリコール鎖を有する二官能アクリレートを用いて調製した低温活性触媒を使用した比較例3及び比較例4の硬化剤について、比較例1及び比較例2と同様にして、DSC測定を行った。結果を表3に示した。また、比較例3及び比較例4のDSCチャートを
図5に示した。
【0146】
【0147】
図5及び表3の結果から、比較例3と比較例4とを対比すると、低温活性を示す触媒粉Bを高潜在化処理した場合、DSCチャートの変化は見られなかった。
【0148】
<比較例3及び4の室温(25℃)保管液ライフ>
次に、比較例3及び比較例4の硬化剤について、比較例1及び比較例2と同様にして、粘度変化による1液保存安定性を評価した。結果を表4に示した。また、比較例3及び比較例4の粘度変化を
図6に示した。
【0149】
【0150】
表4及び
図6の結果から、高潜在化処理を実施していない比較例3と比較して高潜在化処理を実施した比較例4は潜在性が向上していないことがわかった。
この要因について、原子間力顕微鏡(AFM)により触媒粒子表面の表面粗さ(凹凸性)について分析した結果を以下に示す。
【0151】
<触媒粉A及びBの表面の凹凸分析>
脂肪族環状ポリオレフィン樹脂であるCOCは、もともと密着性及び接着性に乏しい材料であるが、触媒粒子の表面が粗面となっている場合、アンカー効果により、密着性が向上することが考えられる。触媒粉A及びBのAFM測定結果を
図7及び
図8に示す。
【0152】
-AFMによる平均面粗さの測定-
・AFM(SPA400、株式会社日立ハイテクノサイエンス)
【0153】
図7及び
図8のAFM測定の結果、触媒粉Aの平均面粗さは6nm~7nm程度、触媒粉Bの平均面粗さは3nm程度で触媒粉Aの方が粗面であることがわかった。
【0154】
<触媒粉A及び触媒粉BのSEM(走査型電子顕微鏡)観察>
次に、触媒粉A及び触媒粉Bについて、Helios G5UC(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)で撮影したSEM写真を示す。
図9Aは触媒粉Aの35,000倍のSEM写真、
図9Bは触媒粉Aの100,000倍のSEM写真である。
図10Aは触媒粉Bの25,000倍のSEM写真、
図10Bは触媒Bの100,000倍のSEM写真である。
SEM写真の結果からも触媒粉Bの方が、表面の凹凸が少ないことがわかる。従って、触媒粉Bを処理した場合は、COC被膜の形成が十分とならず、高潜在化効果が得られなかったことが考えられた。
【0155】
次に、脂肪族環状ポリオレフィン樹脂と共にイソシアネートシランカップリング剤(IS)を用いて、触媒粉Bを処理した場合の結果について、以下に示す。
【0156】
<実施例1及び比較例3のDSC測定>
次に、脂肪族環状ポリオレフィン樹脂としてCOCを用いた実施例1及び比較例3の硬化剤について、比較例1及び比較例2と同様にして、DSC測定を行った。結果を表5に示した。また、実施例1及び比較例3のDSCチャートを
図11に示した。
【0157】
【0158】
図11及び表5の結果から、イソシアネートシランカップリング剤(IS)を配合することで、発熱開始温度が2℃程度高温化することを確認した。また、高潜在化処理により発熱ピーク温度は変化が見られなかった。
【0159】
<実施例2及び比較例3のDSC測定>
次に、脂肪族環状ポリオレフィン樹脂としてCOPを用いた実施例2及び比較例3の硬化剤について、比較例1及び比較例2と同様にして、DSC測定を行った。結果を表6に示した。また、実施例2及び比較例3のDSCチャートを
図12に示した。
【0160】
【0161】
図12及び表6の結果から、イソシアネートシランカップリング剤(IS)を配合することで、発熱開始温度が3℃程度高温化することを確認した。また、高潜在化処理により発熱ピーク温度は変化が見られなかった。
【0162】
<実施例1、2及び比較例3の室温(25℃)保管液ライフ>
実施例1、実施例2、及び比較例3の硬化剤について、比較例1及び比較例2と同様にして、粘度変化による1液保存安定性を評価した。結果を表7に示した。また、実施例1、実施例2、及び比較例3の粘度変化を
図13に示した。
【0163】
【0164】
表7及び
図13の結果から、脂肪族環状ポリオレフィン樹脂と共にイソシアネートシランカップリング剤(IS)を配合した高潜在化処理溶液を用いることで、表面の凹凸が少なく、かつ低温活性な触媒粉Bを用いた場合でも、良好な1液保存安定性を示す高潜在性触媒粒子に調製することができた。実施例1及び2のいずれも、室温4時間放置での増粘は、見られなかった。また、24時間放置後の増粘倍率も2倍程度の値を示した。
【0165】
<実施例1、2及び比較例3の粒度分布(解砕後)>
実施例1、実施例2、及び比較例3の硬化剤について、MT3300EXII(レーザー回折・散乱法、マイクロトラック・ベル株式会社)を用い、体積基準の粒度分布を測定した。結果を表8及び
図14に示した。
【0166】
【表8】
表8及び
図14の結果から、高潜在化処理を行った実施例1及び2は、解砕後、一次粒子状態を示していることがわかった。
【0167】
<実施例1及び2のSEM(走査型電子顕微鏡)観察>
次に、実施例1及び実施例2について、JSM-6510A(日本電子株式会社製)で撮影したSEM写真を示す。
図15Aは実施例1の潜在性硬化剤の3,000倍のSEM写真、
図15Bは実施例1の潜在性硬化剤の12,000倍のSEM写真である。
図16Aは実施例2の潜在性硬化剤の3,000倍のSEM写真、
図16Aは実施例2の潜在性硬化剤の12,000倍のSEM写真である。
図15A、
図15B、
図16A及び
図16Bの結果から、実施例1及び実施例2の潜在性硬化剤は、凝集体やバルク体の形成は見られず、高潜在化処理後も良好な一次粒子状態を示していることがわかる。
【0168】
続いて、低温高活性触媒粉である触媒粉Cを脂肪族環状ポリオレフィン樹脂とIS配合系で処理した実施例3の結果について示す。
【0169】
<実施例3及び比較例5のDSC測定>
次に、触媒粉Cを用い脂肪族環状ポリオレフィン樹脂としてCOCを用いた実施例3及び比較例5の硬化剤について、比較例1及び比較例2と同様にして、DSC測定を行った。なお、触媒粉Cは低温高活性触媒粉であるため、COCは1.5質量%濃度とした。結果を表9に示した。また、実施例3及び比較例5のDSCチャートを
図17に示した。
【0170】
【0171】
図17及び表9の結果から、低温高活性触媒粉である触媒粉Cを用いた場合も、COCとイソシアネートシランカップリング剤(IS)配合系で処理することで、発熱開始温度が5℃程度高温化することを確認した。なお、実施例1及び2と同様に、高潜在化処理により、発熱ピーク温度は、ほとんど変化しなかった。
【0172】
<実施例3及び比較例5の室温(25℃)保管液ライフ>
実施例3及び比較例5の硬化剤について、エポキシ樹脂組成以外は、比較例1及び比較例2と同様にして、粘度変化による1液保存安定性を評価した。結果を表10に示した。また、実施例3及び比較例5の粘度変化を
図18に示した。
【0173】
-保存安定性測定用組成物-
質量比で、EP807:KBM-403:トリフェニルシラノール:硬化剤=100:0.5:7:2となるように調製した組成物を保存安定性測定の試料として用いた。
・EP807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)
・KBM-403(シランカップリング剤、信越化学工業株式会社製)
・トリフェニルシラノール(東京化成工業株式会社製)
・硬化剤:実施例3及び比較例5の硬化剤
【0174】
【0175】
表10及び
図18の結果から、触媒粉Cは、DSC測定時の発熱開始温度が低温を示す低温高活性触媒粉であるが、COC及びISを混合溶解した溶液を用いて高潜在化処理をすることで、エポキシ樹脂中での1液保存安定性が向上していることがわかる。未処理品は、室温保管4時間で増粘倍率2.5倍を示したが、処理品の室温保管4時間後の粘度倍率は、1.5倍未満を示した。
【0176】
<実施例3及び比較例5の粒度分布(解砕後)>
実施例3及び比較例5の硬化剤について、MT3300EXII(レーザー回折・散乱法、マイクロトラック・ベル株式会社)を用い、体積基準の粒度分布を測定した。結果を表11及び
図19に示した。
【0177】
【表11】
表11及び
図19の結果から、比較例5と実施例3とは体積平均粒子径の値が処理前後で同等であることから、高潜在化処理、続いての解砕処理後も粒度状態は、大きく変化せず、一次粒子状態を示していることがわかった。
【0178】
<実施例3のSEM(走査型電子顕微鏡)観察>
次に、実施例3について、JSM-6510A(日本電子株式会社製)で撮影したSEM写真を示す。
図20Aは実施例3の潜在性硬化剤の5,000倍のSEM写真、
図20Bは実施例3の潜在性硬化剤の20,000倍のSEM写真である。
図20A及び
図20Bの結果から、高潜在性樹脂層が触媒粉表面を被覆している状態を確認することができた。
【0179】
<実施例1及び実施例3の高潜在性樹脂層の定量>
まず、COC樹脂(APL6509T、ガラス転移温度Tg:80℃、三井化学株式会社製)について、以下の条件でTGを測定したところ、400℃~500℃にかけて、約92%重量減少することを確認した。
【0180】
-TG測定条件-
・TG/DTA6200(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
・昇温速度:10℃/min
・測定重量:5mg
【0181】
続いて、これを応用して測定したCOC樹脂濃度とTG(mg)の相関グラフを
図21に示す。測定は、COC樹脂をクロロベンゼンに溶解したものを用いた。TGは400℃~500℃範囲での重量減少値をプロットした。
【0182】
<高潜在化処理触媒のCOC含有量の定量>
TG/DTAの測定値から、測定液中のCOC濃度を、上記COC濃度-TG相関グラフを用いて算出した。その後、処理触媒量、及び液量から、触媒が含有するCOC樹脂比率を算出した。結果を表12に示す。
【0183】
【表12】
*表12中のTG*(mg)は、400℃~500℃間での重量減少量を示す。
表12の結果から、実施例1の潜在性硬化剤のCOC樹脂比率は0.24質量%、実施例3の硬化剤のCOC樹脂比率は2.11質量%を示した。従って、高潜在性樹脂は、触媒粒子表面を薄層状態で覆っていることを確認できた。
【0184】
<実施例1、2及び比較例3のXPSによる表面元素分析>
実施例1、実施例2、及び比較例3の硬化剤について、以下の条件でXPSによる表面元素分析を行った。結果を表13に示した。
【0185】
-XPS測定条件-
測定装置としては、XPS(PHI 5000 Versa ProbeIII、アルバックファイ株式会社製)を用いた。X線源としては、AlKα、測定条件としては、電流値34mA、加速電圧値15kV、スキャン速度1eVを用いた。
【0186】
【表13】
表13の結果から、高潜在化処理品である実施例1及び2は、触媒粒子表面の炭素(C)が増加し、アルミニウム(Al)が減少傾向となっていることを確認した。これは触媒粒子表面に高潜在性樹脂層が形成されたことを示唆している。また、高潜在化処理品は、IS由来のSiが触媒粒子表面から検出されていることがわかる。
【0187】
<実施例3及び比較例5のXPSによる表面元素分析>
実施例3及び比較例5の硬化剤について、実施例1、実施例2、及び比較例3と同様にして、XPSによる表面元素分析を行った。結果を表14に示した。
【0188】
【表14】
表14の結果から、実施例3についても高潜在化処理後、触媒粒子表面の炭素(C)が増加し、アルミニウム(Al)が減少傾向となっていることがわかる。また、実施例3の方が、脂肪族環状ポリオレフィン樹脂の処理濃度が高いため、Cの増加率とAlの減少率が実施例1、2と比べて多めとなったと考えることができる。
【0189】
<実施例4、比較例1、及び比較例2のDSC測定>
触媒粉Aを用いた実施例4、比較のため、処理前の硬化剤(触媒粉;比較例1)、及びイソシアネートシランカップリング剤(IS)を添加しないで処理した比較例2の各硬化剤について、上記比較例1及び比較例2と同様にして、DSC測定を行った。結果を表15に示した。また、実施例4、比較例1及び比較例2のDSCチャートを
図22に示した。
【0190】
【0191】
図22及び表15の結果から、COCのみで処理した比較例2と同様に、COCと共にイソシアネートシランカップリング剤(IS)を用いて処理した実施例4の硬化剤は、処理前(比較例1)と比較して、DSC開始温度が高温化した。開始温度の高温化量は10℃程度であった。なお、COCのみで処理した比較例2と比較して、ISを添加して処理した実施例4の方が均一な被膜を形成するためか、DSC開始温度、及びピーク温度の高温化量を低く抑えることができた。
【0192】
<実施例4、比較例1、及び比較例2の室温(25℃)保管液ライフ>
実施例4、比較例1、及び比較例2の硬化剤について、上記比較例1及び比較例2と同様にして、粘度変化による1液保存安定性を評価した。結果を表16に示した。また、実施例4、比較例1、及び比較例2の粘度変化を
図23に示した。
【0193】
【0194】
表16及び
図23の結果から、触媒粉Aの場合、IS添加ありなしに関わらず、良好な高潜在化を確認した。特にイソシアネートシランカップリング剤(IS)を添加した実施例4については、配合後4時間の室温保管で、ほぼ増粘しない程の液安定性を示した。
【0195】
<実施例5及び比較例3のDSC測定>
実施例5及び比較例3の硬化剤について、比較例1及び比較例2と同様にして、DSC測定を行った。結果を表17に示した。また、実施例5及び比較例3のDSCチャートを
図24に示した。
【0196】
【0197】
図24及び表17の結果から、実施例5は低いポリオレフィン濃度での処理、かつ低融点を示すα-オレフィン共重合体を用いているため、高潜在化処理前後での発熱開始温度、及び発熱ピーク温度の上昇幅は、+3℃未満に調整することができた。
【0198】
<実施例5及び比較例3の室温(25℃)保管液ライフ>
実施例5及び比較例3の硬化剤について、比較例1及び比較例2と同様にして、粘度変化による1液保存安定性を評価した。結果を表18に示した。また、実施例5及び比較例3の粘度変化を
図25に示した。
【0199】
【0200】
表18及び
図25の結果から、α-オレフィン共重合体を用いて高潜在化処理を行った実施例5は、良好な1液保存安定性を示す高潜在性触媒粒子とすることができた。また、実施例5は実施例1、2と同様に室温4時間放置での増粘は、見られなかった。更に、室温24時間放置後の増粘倍率も2倍程度に抑えることができた。
【0201】
<実施例5及び比較例3の粒度分布(解砕後)>
実施例5及び比較例3の硬化剤について、MT3300EXII(レーザー回折・散乱法、マイクロトラック・ベル株式会社)を用い、体積基準の粒度分布を測定した。結果を表19及び
図26に示した。
【0202】
【0203】
表19及び
図26の結果から、α-オレフィン共重合体を用いて高潜在化処理を行った実施例5は、解砕後、一次粒子状態を示していることがわかった。
【0204】
<実施例5のSEM(走査型電子顕微鏡)観察>
実施例5について、JSM-6510A(日本電子株式会社製)で撮影したSEM写真を示す。
図27Aは実施例5の潜在性硬化剤の3,000倍のSEM写真、
図27Bは実施例5の潜在性硬化剤の12,000倍のSEM写真である。
図27A及び
図27Bの結果から、α-オレフィン共重合体を用いて高潜在化処理を行った実施例5においても、凝集体やバルク体の形成は見られず、高潜在化処理後も良好な一次粒子状態を示していることがわかった。
【0205】
以上説明したように、アルミニウムキレート化合物を保持する多孔質粒子と、前記多孔質粒子の表面に、脂肪族環状ポリオレフィン樹脂及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤を含有する被膜とを有する潜在性硬化剤は、従来に比べてより低温での硬化が可能となり、また、前記潜在性硬化剤を配合することにより1液保存安定性が大幅に向上したエポキシ樹脂組成物が得られることがわかった。
また、脂肪族環状ポリオレフィン樹脂の代わりにα-オレフィン共重合体を用いた潜在性硬化剤についても、高潜在化が可能であることがわかった。α-オレフィン共重合体は、ポリウレア樹脂よりも低い温度で融点を有しているので、ポリウレア系多孔質粒子の表面で被膜化した場合、その温度応答性を阻害することなく、被膜化することが可能となる。