(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080025
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】極限環境ウイルス粒子のタンパク質又はその修飾型からなる桿状粒子、その製造方法、及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/34 20060101AFI20230601BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230601BHJP
C07K 14/01 20060101ALI20230601BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20230601BHJP
【FI】
C12N15/34
C12N15/63 Z ZNA
C07K14/01
C12P21/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179368
(22)【出願日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2021193199
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、国際科学技術協力基盤整備事業、国際緊急共同研究・調査支援プログラム(J-RAPID)、「超好熱古細菌ウイルスを用いた抗原提示システムの開発:ワクチン緊急大量生産に向けて」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】里村 武範
(72)【発明者】
【氏名】末 信一朗
(72)【発明者】
【氏名】望月 智弘
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】極限環境ウイルス由来のタンパク質からなる桿状粒子を提供すること
【解決手段】Clavaviridae科ウイルスAeropyrum pernix bacilliform virus 1の4種類のビリオンタンパク質のうちの一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方が集合してなる桿状粒子であって、前記一部のビリオンタンパク質及びその修飾タンパク質が、それぞれ以下の(a)のタンパク質及び(b)のタンパク質である、桿状粒子。(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aeropyrum pernix bacilliform virus 1の4種類のビリオンタンパク質のうちの一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方が集合してなる桿状粒子であって、前記一部のビリオンタンパク質及びその修飾タンパク質が、それぞれ以下の(a)のタンパク質及び(b)のタンパク質である、桿状粒子。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質
【請求項2】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を含まない請求項1に記載の桿状粒子。
【請求項3】
前記桿状粒子が前記(a)のタンパク質を含む請求項1又は2に記載の桿状粒子。
【請求項4】
前記(a)のタンパク質又は前記(b)のタンパク質は、標的部位と結合可能な部位を有する請求項1又は2に記載の桿状粒子。
【請求項5】
前記標的部位と結合可能な部位は、桿状粒子の外表面に位置する請求項4に記載の桿状粒子。
【請求項6】
前記標的部位と結合可能な部位は、47位のシステイン、リジン又はFlag配列である請求項5に記載の桿状粒子。
【請求項7】
前記標的部位と結合可能な部位は、(a)のタンパク質又は(b)のタンパク質のN末端又はC末端に結合されている請求項4に記載の桿状粒子。
【請求項8】
金属が結合されている請求項1又は2に記載の桿状粒子。
【請求項9】
薬剤を内包している請求項1又は2に記載の桿状粒子。
【請求項10】
Aeropyrum pernix bacilliform virus 1の4種類のビリオンタンパク質のうちの一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方をコードするヌクレオチド配列を含むベクターであって、前記一部のビリオンタンパク質又はその修飾タンパク質が、以下の(a)のタンパク質又は(b)のタンパク質である、ベクター。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質
【請求項11】
桿状粒子を製造する方法であって、
請求項10に記載のベクターで宿主細胞を形質転換する工程、及び
前記宿主細胞を培養し、桿状粒子を培養物から回収する工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極限環境ウイルス粒子のタンパク質又はその修飾型からなる桿状粒子、その製造方法、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
90℃以上に最適生育温度を持つ極限環境微生物であるAeropyrum pernix に感染する桿状ウイルスであるClavaviridae科Aeropyrum pernix bacilliform virus 1 (APBV1)が鹿児島県指宿市の陸上温泉より分離された(特許文献1)。本ウイルスは、100℃、3 時間処理を行った後でも宿主への感染能を有しており、70%エタノール処理後でも感染能を失わない。また、
図1(A)に示されるように、クライオ電子顕微鏡によりAPBV1 の詳細な粒子構造も明らかとなっている(特許文献2)。
【0003】
APBV1 は5,278 塩基からなる二本鎖環状DNA をゲノムとして有しており、14 種類のオープンリーディングフレーム(ORF1~14)から構成されたウイルスであることが明らかにされている(
図1(B))。そのうち、APBV1 の粒子構成タンパク質は、ORF6-81, ORF7-201, ORF8-93, ORF9-99タンパク質の4 種類であることが報告されており、これらORF6-81,ORF7-201, ORF8-93, ORF9-99タンパク質をコードする遺伝子と相同性を示す遺伝子は、公共遺伝子データベースからは見出されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mochizuki T et al., Virology 402, 347-354. (2010)
【非特許文献2】Ptchelkine D et al., Nature Communications 8, 1436. (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
APBV1 のウイルス粒子の構成タンパク質や立体構造、生化学的な特性の解析は行われているが、高温環境で生育する宿主に感染させたのちウイルス粒子を調製しなければならないため、ウイルス粒子の大量調製が困難である。また、APBV1 粒子構成タンパク質を組換えタンパク質として発現し、ウイルス様粒子(VLP: Virus Like Particle)の再構成に成功したという報告例はない。
【0006】
本発明が解決すべき課題は、APBV1の粒子構成タンパク質又はその修飾型からなる桿状粒子、その製造方法、及びその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題解決のため鋭意検討した結果、驚くべきことに、APBV1 の主要な粒子構成タンパク質の一つであるORF6-81タンパク質をベクターに入れて発現させたところ、桿状粒子を製造することができ、APBV1 の粒子構成タンパク質の一部のみを発現させても桿状粒子が構成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
【0009】
項1.Aeropyrum pernix bacilliform virus 1の4種類のビリオンタンパク質のうちの一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方が集合してなる桿状粒子であって、前記一部のビリオンタンパク質及びその修飾タンパク質が、それぞれ以下の(a)のタンパク質及び(b)のタンパク質である、桿状粒子。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質
【0010】
項2.配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を含まない項1に記載の桿状粒子。
【0011】
項3.前記桿状粒子が前記(a)のタンパク質を含む項1又は2に記載の桿状粒子。
【0012】
項4.前記(a)のタンパク質又は前記(b)のタンパク質は、標的部位と結合可能な部位を有する項1~3のいずれか一項に記載の桿状粒子。
【0013】
項5.前記標的部位と結合可能な部位は、桿状粒子の外表面に位置する項4に記載の桿状粒子。
【0014】
項6.前記標的部位と結合可能な部位は、47位のシステイン、リジン又はFlag配列である項5に記載の桿状粒子。
【0015】
項7.前記標的部位と結合可能な部位は、(a)のタンパク質又は(b)のタンパク質のN末端又はC末端に結合されている項4~6のいずれか一項に記載の桿状粒子。
【0016】
項8.金属が結合されている項1~7のいずれか一項に記載の桿状粒子。
【0017】
項9.薬剤を内包している項1~7のいずれか一項に記載の桿状粒子。
【0018】
項10.Aeropyrum pernix bacilliform virus 1の4種類のビリオンタンパク質のうちの一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方をコードするヌクレオチド配列を含むベクターであって、前記一部のビリオンタンパク質又はその修飾タンパク質が、以下の(a)のタンパク質又は(b)のタンパク質である、ベクター。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質
【0019】
項11.桿状粒子を製造する方法であって、
項10に記載のベクターで宿主細胞を形質転換する工程、及び
前記宿主細胞を培養し、桿状粒子を培養物から回収する工程
を含む方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、組み換え技術により、極限環境ウイルス粒子のタンパク質の一部の配列情報を利用して、桿状粒子を容易かつ大量に製造することができる。さらには、そのような桿状粒子のタンパク質の一部に標的部位と結合可能な部位を設けることにより、各種機能を持たせることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(従来技術)(a)APBV1の電子顕微鏡写真。(B)APBV1ゲノムDNAの遺伝子地図。
【
図2】ORFタンパク質のアミノ酸の修飾について説明する模式図。
【
図3】本発明において組換えタンパク質発現用ベクターとして用いたpET15b の遺伝子地図。T7プロモータは453-469(ヌクレオチドの位置、以下同様)、T7翻訳開始部位は452、ヒスチジン(His)タグコード配列は362-380、マルチプルクローニングサイト(Nde I-BamH I)は319-335、T7ターミネーター配列は213-259、LacIコード配列は866-1945、pBR322複製起点は3882、blaコード配列は4643-5500である。
【
図4】APBV1タンパク質発現系(大腸菌)の構築。
【
図5】(A)本発明により製造したrORFで構成される桿状粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像。(B)
図5を拡大した画像。(C)複数の桿状粒子が集合した状態。
【
図6】(A)本発明の実施例にて製造したrORFで構成される桿状粒子の原子間顕微鏡(AFM)画像。(B)
図4 (B)の赤枠を拡大した画像。
【
図7】本発明の実施例の、rORF-Lys から構成されるウイルス粒子のAFM画像。
【
図8】(A) rORF6-Flagタンパク質のアミノ酸配列(配列番号19)。(B)
図8(A)のタンパク質の立体構造のリボン図、(C)本発明の実施例にて製造したrORF-Flagで構成される桿状粒子のTEM画像。
【
図9】(A)アミノ基反応性PES(arPES, 1-[3-(Succinimidyloxycarbonyl)propoxy]-5-ethylphenazinium triflate)の構造式。(B)本発明の実施例の、rORF-Lys-PESで構成されるウイルス粒子のAFM画像。
【
図10】rORF-Lys-PESで構成されるウイルス粒子のTEM画像。
【
図11】(A)金属非内包ORF6-81桿状粒子と銅内包ORF6-81桿状粒子のサイクリックボルタモグラム。(B)金属非内包ORF6-81-Lys桿状粒子と銅内包ORF6-81-Lys桿状粒子のサイクリックボルタモグラム。
【
図12】(A)種々の溶媒におけるORF6-81桿状粒子の動的光散乱のグラフ。(B) 種々の溶媒におけるORF6-81-Lys桿状粒子の動的光散乱のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
極限環境微生物であるAeropyrum pernix に感染する桿状ウイルスであるAeropyrum pernix bacilliform virus 1 (APBV1)は、5278 塩基からなる二本鎖環状DNA をゲノムとして有しており、14 種類のオープンリーディングフレーム(ORF1~14)から構成されたウイルスである (
図1(b))。そのうち、APBV1 の粒子構成タンパク質は、ORF6-81,ORF7-201, ORF8-93, ORF9-99タンパク質の4 種類であることが報告されている。また、ORF6-81,ORF7-201, ORF8-93, ORF9-99タンパク質のうち、主要な構造タンパク質は、アミノ酸81残基、8.3 kDa の分子量を有するORF6-81タンパク質である。
【0023】
ORF6-81,ORF7-201, ORF8-93, ORF9-99タンパク質は、それぞれ配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列場号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
MAPKATLVKKFKGLAVGVGALLAAPPIMGLASYAVNGISSYLSITINSTTYDFAPLAQAVMVFGGIGLVAYGLHRILGRGL (配列番号1)
MNLKAWAISIGVGVGLLVILPTLAGLLDMAVNSIPAPSTINWSKVGTIDPNNNTSIQVSTTTPMLIKLEVTEWNLVIVMKQYKDTDGAIRASHEYIDDPNGYVTGWNWDPNEGVIMTSPKIGFDTTEGSGQVEWYYGAGALEYNLTTLPASVDVYIAEGVDKYDPMAESGLGDLGILARVVAVFGLLAALAVAFHKVGGGL(配列番号2)
MRLVPISLRRIQASGQGEGSVLREFRTLLIGVALLFLAPTLISVITGLADITLAVDVDGDGTTEDLSALLKIMALIGPVLLVAGALDAVINRG(配列番号3)
MKVAEPLKLAIIFFFIVIVYYGLLFDLVVDMLNQAVSLIDSYGLLTVNVPMKDWDPANQVWVDSSKQVNLSGVAQALANLLAYAAPFIPFISFMRRRIF(配列番号4)
【0024】
本発明らは、期せずして、APBV1 のウイルス粒子の4つの粒子構成タンパク質のうちのORF6-81タンパク質をコードするヌクレオチドのみをベクターに挿入し、宿主菌を形質転換してORF6タンパク質のみを発現させても、APBV1のキャプシドタンパク質と外観が類似した桿状粒子(VLP)を製造することができることを発見した。そして、ORF6-81タンパク質による組換えタンパク質の発現系の構築と発現タンパク質のウイルス粒子再構成法の確立し、これまで宿主細胞に感染させ煩雑な調製方法を用いなければ得ることができなかったウイルス粒子と類似した構造から成るウイルス様粒子(VLP)を簡便かつ大量に調製することに成功した。さらには、ORF6-81タンパク質をコードするヌクレオチドに遺伝子変異を導入すること、及び遺伝子変異を導入して再構成したウイルス粒子の表面にチオール基、アミノ基などの化学官能基を修飾し、APBV1 には無い新たな特性を付与した機能性ウイルス様粒子を構築することにも成功した。
【0025】
本発明の第一の態様によれば、Aeropyrum pernix bacilliform virus 1の4種類のビリオンタンパク質のうちの一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方が集合してなる桿状粒子であって、前記一部のビリオンタンパク質及びその修飾タンパク質が、それぞれ以下の(a)のタンパク質及び(b)のタンパク質である、桿状粒子が提供される。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質
【0026】
上記態様の桿状粒子は、ウイルス様粒子である。すなわち、ウイルスビリオンに類似した形状を有するが、ORF6-81以外、またはその一部の構造タンパク質を欠き、またウイルスゲノムを持たないために感染力はない。
【0027】
本明細書において、Aeropyrum pernix bacilliform virus 1(APBV1)4種類のビリオンタンパク質のうちの一部とは、APBV1 のウイルス粒子の4つの粒子構成タンパク質のうちの全部ではなく、一部のみを指し、4種類のうちの1種類、2種類、又は3種類を含む。
【0028】
一つの実施形態において、上記一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を含む。
【0029】
上記実施形態において、桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が占める数の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%以上である。桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が占める数の割合が高いほど、桿状粒子の形成の点で好ましい。
【0030】
別の実施形態において、上記一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を含み、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を含まない。
【0031】
上記実施形態において、桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が占める数の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%以上である。桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が占める数の割合が高いほど、桿状粒子の形成の点で好ましい。
【0032】
別の実施形態において、上記一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質のみからなる。
【0033】
上記実施形態において、桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が占める数の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%以上である。桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が占める数の割合が高いほど、桿状粒子の形成の点で好ましい。
【0034】
一つの実施形態において、上記一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方は、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質を含む。
【0035】
上記実施形態において、桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質が占める数の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%以上である。桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質が占める数の割合が高いほど、桿状粒子の形成の点で好ましい。
【0036】
別の実施形態において、上記一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方は、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質を含み、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を含まない。
【0037】
上記実施形態において、桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質が占める数の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%以上である。桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質が占める数の割合が高いほど、桿状粒子の形成の点で好ましい。
【0038】
別の実施形態において、上記一部ビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方は、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質のみからなる。
【0039】
上記実施形態において、桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質が占める数の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%以上である。桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質が占める数の割合が高いほど、桿状粒子の形成の点で好ましい。
【0040】
一つの実施形態において、上記一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質とを含む。
【0041】
上記実施形態において、桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質とが占める合計数の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%以上である。桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、合計と配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質とが占める合計数の割合が高いほど、桿状粒子の形成の点で好ましい。
【0042】
別の実施形態において、上記一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質とを含み、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を含まない。
【0043】
上記実施形態において、桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質とが占める合計数の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%以上である。桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質とが占める合計数の割合が高いほど、桿状粒子の形成の点で好ましい。
【0044】
別の実施形態において、上記一部ビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質のみからなる。
【0045】
上記実施形態において、桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質とが占める合計数の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%以上である。桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質とが占める合計数の割合が高いほど、桿状粒子の形成の点で好ましい。
【0046】
一つの実施形態において、Aeropyrum pernix bacilliform virus 1の4種類のビリオンタンパク質のうちの一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方が集合してなる桿状粒子は、前記一部のビリオンタンパク質及びその修飾タンパク質が、それぞれ以下の(a)のタンパク質及び(b)のタンパク質であり、かつ配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を含まない。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質
【0047】
上記実施形態において、桿状粒子は、上記(a)のタンパク質、上記(b)のタンパク質、又はその両方を含み、桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、上記(a)のタンパク質、上記(b)のタンパク質、又はその両方の総数の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、又は100%以上である。桿状粒子を構成するタンパク質の総数のうち、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が占める数の割合が高いほど、桿状粒子の形成の点で好ましい。
【0048】
上記(a)のタンパク質、上記(b)のタンパク質、又はその両方が集合することによって1個の桿状粒子を形成する場合、タンパク質の総数は2個以上であれば特に限定されない。例えば上限は5000個以下である。
【0049】
上記(b)のタンパク質の、置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸の数は、1~20個であることが好ましく、1~10個であることがより好ましく、1~5個であることがより好ましく、1個、2個、3個、4個又は5個であることがより好ましい。置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加等の修飾が少ないほど、桿状粒子の形成の点で好ましい。
【0050】
本発明の桿状粒子は、桿状粒子が構成できる限り、上記(a)のタンパク質、上記(b)のタンパク質、又はその両方のタンパク質内のアミノ酸配列を改変又は修飾することができる。例えば、標的部位と結合可能な部位を有するように、上記(a)のタンパク質、上記(b)のタンパク質、又はその両方のタンパク質内のアミノ酸配列を改変又は修飾することができる。好ましくは、そのような標的部位と結合可能な部位は、上記(a)のタンパク質、上記(b)のタンパク質、又はその両方のアミノ酸配列のN末端、C末端、及び/又は桿状粒子の外表面上に位置する。また、標的部位と結合可能な部位は、上記(a)のタンパク質、上記(b)のタンパク質、又はその両方のタンパク質に結合されてもよいし、上記(a)のタンパク質、上記(b)のタンパク質、又はその両方のタンパク質内にアミノ酸配列として組み込まれてもよい。
【0051】
上記(a)のタンパク質、上記(b)のタンパク質、又はその両方のタンパク質内のアミノ酸配列における、標的部位と結合可能な部位は、タンパク質(アミノ酸の数が100個以上)、ポリペプチド(アミノ酸の数が10個以上100個未満)、ペプチド(アミノ酸の数が2個以上10個未満)、アミノ酸、ペプチド、アミノ酸、糖、ポリヌクレオチド、重合体(ポリマー)、標識分子(例えばフルオレセイン、ビオチン、ジゴキシゲニン)、金属イオン、化学反応基(例えばアミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基、グアニジル基、ヒスチジル基、又はこれらの組合せ)などであってよい。
【0052】
標的部位は、標的分子又はその一部であってよく、タンパク質(アミノ酸の数が100個以上)、ポリペプチド(アミノ酸の数が10個以上100個未満)、ペプチド(アミノ酸の数が2個以上10個未満)、アミノ酸、糖、ポリヌクレオチド、重合体(ポリマー)、標識分子(例えばフルオレセイン、ビオチン、ジゴキシゲニン)、金属イオン、化学反応基(例えばアミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基、グアニジル基、ヒスチジル基、又はこれらの組合せ)などであってよい。
【0053】
標的部位と、標的部位と結合可能な部位との結合は、2つの分子がともに結合するすべての可能な方法、好ましくは化学的な相互作用を指す。化学的な相互作用には共有的相互作用及び非共有的相互作用が含まれる。非共有的相互作用の典型的な例は、イオン性相互作用、疎水性相互作用、又は水素結合であり、一方、共有的相互作用は、例として共有結合、例えばエステル、エーテル、リン酸エステル、アミド、ペプチド、炭素-リン結合、炭素-イオウ結合、例えばチオエーテル、又はイミド結合である。
【0054】
標的部位と、標的部位と結合可能な部位の組み合わせの例としては、金属イオン(Fe2+, Fe3+, Co2+,Ni2+, Cu2+, Zn2+)-ポリヒスチジン、グルタチオン-グルタチオンSトランスフェラーゼ、キチン-キチン結合タンパク質、抗Flag抗体-Flagタグ、ビオチン-アビジン、ビオチン-ストレプトアビジンなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0055】
APBV1のウイルス粒子の標的部位と結合可能な部位は、桿状粒子の外表面上に位置することが知られている(
図2(a)(b))。一実施形態において、桿状粒子は、上記 (b)のタンパク質を含み、上記(b)のタンパク質における標的部位と結合可能な部位は、桿状粒子の外表面上に位置する。そのような外表面上に位置するアミノ酸は、例えば開始コドンに対応するメチオニンから数えて47位のアスパラギン酸であり(
図2(c))、アスパラギン酸は、システイン、リジン、又はFlag配列(DYKDDDDK)に置換することができる(
図2(d))。
【0056】
ORF6-81タンパク質の47番目のアミノ酸は、桿状粒子の外側に位置することが知られており、このため標的部位(標的分子を含む)と接触する確率が高い。47番目のアミノ酸を、標的部位に対してより反応性の高いアミノ酸に改変することにより、化学官能基を導入し、特定の標的部位と結合させることができる。上記実施形態では、再構成した桿状粒子の外表面に、システイン残基に由来するチオール基や、リジン残基に由来するアミノ基、又はFlag配列が提示される。
【0057】
リジン残基に由来するアミノ基は、例えばN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)基と結合することができる。チオール基((SH基,スルフヒドリル基)は、マレイミド基と結合して、チオエーテルを形成することができる。さらには、チオール基は、金との結合親和性が高いため、金ナノ粒子などの金を含有する機能性化合物とも結合することができる。Flag配列は、当該技術分野で周知のペプチドタグであり、桿状粒子のタンパク質にFlag配列を付加することで、粒子の外表面に、Flag配列に特異的に結合する、特定の機能を付与した抗体を付加することが可能となる。また、桿状粒子のタンパク質を他のタンパク質と区別して検出することができる。
【0058】
特定の実施形態において、桿状粒子は、上記 (b)のタンパク質を含み、該(b)のタンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の47位のアスパラギン酸のみがシステイン、リジン、又はFlag配列(DYKDDDDK)に置換されたタンパク質である。つまり、桿状粒子は、配列番号1で表されるアミノ酸配列のみからなるタンパク質に対して、47位のアミノ酸のみが変異されたタンパク質を、桿状粒子の構成タンパク質として有する。
【0059】
一実施形態において、桿状粒子は、上記 (a)のタンパク質、上記 (b)のタンパク質、又はその両方を含み、その各々における標的部位と結合可能な部位は、金属イオン(Fe2+, Fe3+, Co2+,Ni2+, Cu2+, Zn2+)と結合可能な、ヒスチジン含有タグである。そのようなヒスチジン含有タグとしては、Hisタグ(ポリヒスチジンタグとも称する、HHHHHH)、HQタグ(HQHQHQ)、HNタグ(HNHNHNHNHNHN)、HATタグ(KDHLIHNVHKEEHAHAHNK)などが挙げられる。ヒスチジン含有タグは好ましくはHisタグであり、金属イオンは好ましくは二価の金属イオン(Fe2+, Co2+,Ni2+, Cu2+)である。好ましくは、これらのペプチドタグは、タンパク質のN末端又はC末端のアミノ酸に取り付けられ、より好ましくは、タンパク質のN末端に取り付けられる。ヒスチジン含有タグの付加は当該技術分野において周知である。
【0060】
特定の実施形態において、桿状粒子は、上記 (a)のタンパク質を含み、該(a)のタンパク質のN末端アミノ酸にHisタグが付加されている。
【0061】
特定の実施形態において、桿状粒子は、上記 (b)のタンパク質を含み、該(b)のタンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の47位のアスパラギン酸のみがシステイン、リジン、又はFlag配列(DYKDDDDK)に置換されたタンパク質であり、該(b)のタンパク質のN末端アミノ酸にHisタグが付加されている。
【0062】
桿状粒子を構成するタンパク質である上記 (a)のタンパク質又は上記(b)のタンパク質のN末端側は粒子を形成した際、粒子内部に折りたたまれている。このため、組換えタンパク質のN端にヒスチジン含有タグ(特にはHis タグ)を付加することにより、ヒスチジン含有タグ(特にはHis タグ)と特異的に配位結合できる金属イオン(特には二価の金属イオンCu2+、Ni2+、Fe2+、Co2+など)を、再構成された粒子に内包することができる。
【0063】
本発明の第二の態様によれば、金属が結合されている第一の態様の桿状粒子が提供される。金属は、金属イオンを含む。上述したように、上記 (a)のタンパク質又は上記(b)のタンパク質の47位のアスパラギン酸をシステインに置換して、チオール基を導入することにより金と結合可能としたり、ヒスチジン含有タグを上記 (a)のタンパク質又は上記(b)のタンパク質のN末端に付加して金属イオンとの結合可能とすることで、金属が結合されている第一の態様の桿状粒子が得られる。このような金属イオンを含有する桿状粒子は、導電性を有し得る。電子伝達メディエータであるPES(例えばアミノ基反応性PES 1-[3-(Succinimidyloxycarbonyl)propoxy]-5-ethylphenazinium triflate、チオール基反応性PES 1-[3-(2-Maleimidoethylcarbamoyl)propoxy]-5-ethylphenazinium trifrat)を付与したrORF6-81で構成された桿状粒子に金属を内包させれば導電性電子伝達ナノ粒子として電池やバイオセンサなどに用いる電子機器用ナノ材料として利用できる。
従来、導電性のカーボンナノチューブ(CNT)が、電極の修飾により電極の比表面積の向上及び/又は導電性の向上の目的で使用されている。CNTを電極に修飾する場合、CNTは有機溶媒などに分散した後に電極に修飾しなければならない。この際に酵素とCNTを一緒に電極へ修飾するとCNTの分散剤である有機溶媒によって酵素が変性失活してしまう。よって、CNTを電極に修飾したものを作成した後、酵素を修飾しなければならない。
PESを付与したあるいは、金属を内包させた導電性の桿状粒子は、有機溶媒を用いなくても水溶液中に分散可能であるため、酵素と桿状粒子を同時に修飾することができる。
【0064】
本発明の第三の態様によれば、薬剤を内包している第一の態様の桿状粒子が提供される。本発明の第一の態様の桿状粒子は、APBV1のORF6-81タンパク質、又はその変異型であって集合して桿状粒子を形成できるものから構成されているため、高温条件下において安定であり、粒子内に存在する分子を安定に存在させる機能を有する。それゆえ、例えば桿状粒子の内部に薬剤を充填することができる。このような桿状粒子は、ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System:DDS) に利用可能である。
一つの実施形態において、本発明の第一の態様の桿状粒子は、特定のタンパク質変性剤や有機溶媒に対して安定であり、変性が起こりにくいか、そのような溶媒に対して難溶又は不溶である。このため、薬剤を溶解する有機溶媒に対して本発明の第一の態様の桿状粒子も安定に使用することができる。
【0065】
本発明の第四の態様によれば、Aeropyrum pernix bacilliform virus 1の4種類のビリオンタンパク質のうちの一部のビリオンタンパク質、その修飾タンパク質、又はその両方をコードするヌクレオチド配列を含むベクターであって、前記一部のビリオンタンパク質又はその修飾タンパク質が、以下の(a)のタンパク質又は(b)のタンパク質である、ベクターが提供される。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、集合することによって桿状粒子を形成するタンパク質
【0066】
(a)のタンパク質及び(b)のタンパク質については第一の態様の桿状粒子に関して説明した通りである。
【0067】
上記ヌクレオチド配列には、DNA(例えばcDNA(相補DNA:complementary DNA、ゲノムDNA)のヌクレオチド配列が含まれる。ベクターは、上記(a)のタンパク質又は (b)のタンパク質をコードする配列以外の配列を含んでもよい。
【0068】
本発明の第五の態様によれば、桿状粒子を製造する方法であって、上記第四の態様のベクターで宿主細胞を形質転換する工程、及び宿主細胞を培養し、桿状粒子を培養物から回収する工程を含む方法が提供される。
【0069】
上記ベクターは、まず、公知の方法で宿主細胞に組み込まれる。宿主細胞としては、細菌細胞(例えば大腸菌)、酵母細胞、動物細胞などが挙げられる。最も好ましくは宿主は大腸菌である。
【0070】
Aeropyrum pernix bacilliform virus 1の4種類のビリオンタンパク質のうちの一部、特には上記(a)のタンパク質又は (b)のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を転写、翻訳し、当該ヌクレオチド配列がコードするタンパク質を生産及び精製すれば、桿状粒子の構成タンパク質を容易かつ大量に取得することができる。
【0071】
なお、ヌクレオチド配列を宿主細胞に組み入れる場合には、確実にヌクレオチド配列を発現させるために宿主細胞の種類に応じて適宜プロモーター配列を選択し、これと該ヌクレオチド配列を各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。また、上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換方法も特に限定されず、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0072】
本態様におけるヌクレオチド配列が宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。例えば、宿主細胞中で欠失している遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと該ヌクレオチド配列とを含むプラスミドを発現ベクターとして宿主細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現から、ヌクレオチド配列の導入を確認することができる。あるいは、上記(a)のタンパク質又は (b)のタンパク質を融合タンパク質として発現させてもよい。
【0073】
宿主細胞を培養し、上記(a)のタンパク質及び/又は (b)のタンパク質を組み換え発現させた後、形質転換体を公知の懸濁液に懸濁し、超音波処理により細胞壁を破砕し、未破砕残渣を遠心分離によって除去し、上澄みを、上記(a)のタンパク質及び/又は(b)のタンパク質を含む粗タンパク質液として回収する。この粗タンパク質液を一定期間放置すると、上記(a)のタンパク質及び/又は (b)のタンパク質は集合して、自発的に桿状粒子が形成される。そして、桿状粒子が培養物から回収される。産生されたタンパク質を回収する方法は、用いた宿主細胞、タンパク質の性質によって異なるが、例えば上述したタグの利用などにより、比較的容易に精製することが可能である。
【0074】
また、変異タンパク質である(b)のタンパク質を作製する方法についても、特に限定されるものではない。例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR法など等を利用してヌクレオチド配列に点変異を導入し、変異タンパク質を作製してもよい。あるいは、トランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの、周知の変異タンパク質作製法を用いてもよい。このように、(a)のタンパク質をコードするヌクレオチド配列に、1 またはそれ以上の塩基が置換、欠失、挿入、及び/ 又は付加されるように改変を加えれば、容易に変異タンパク質を作製することができる。さらに、変異タンパク質の作製には、市販のキットを利用してもよい。
【0075】
本発明によれば、組み換え技術により、極限環境ウイルス粒子のタンパク質の一部の配列情報を利用して、桿状粒子を容易かつ大量に製造することができる。さらにはそのような桿状粒子のタンパク質の一部に標的部位と結合可能な部位を設けることにより、各種機能を持たせることもできる。
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例0077】
実施例1 rORF6 の組換えタンパク質発現系の構築
APBV1 のゲノムDNA を鋳型にして、ORF6-81 の翻訳領域を含むDNA 断片(
図4(b))を、以下のプライマーを用いてPCR法によって増幅した。PCR条件も示す。
5’側プライマー(InORF6F):
5’- CCGCGCGGCAGCCATATGGCCCCTAAGGCT- 3’ (配列番号5)
3’側プライマー(InORF6R):
5’- TTAGCAGCCGGATCCCTAGAGCCCCCTACC- 3’ (配列番号6)
PCR 条件:PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase によって94℃、1 分:98℃、10 秒→55℃、10 秒→72℃、30 秒(30 サイクル)
次いで、ORF6 を組換えタンパク質として発現させるための大腸菌用組換えタンパク質発現用ベクターであるpET15b (
図3; Invitrtogen 社,
図4(a))を、以下のプライマーを用いてPCR 法によって増幅した。PCR 条件も示す。
5’側プライマー(pET15bF):
5’- GGATCCGGCTGCTAACAAAGCCCGAAAGGA- 3’ (配列番号7)
3’側プライマー(pET15bR):
5’- ATGGCTGCCGCGCGGCACCAGGCCGCTGCT- 3’ (配列番号8)
PCR 条件:PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase によって94℃、1 分:98℃、10 秒→55℃、10 秒→72℃、6 分(30 サイクル)
なお、上記において( )内はプライマー名称である。
【0078】
PCR 法によって増幅したpET15b ベクターは制限酵素Dpn I によって鋳型DNA を切断し、PCR 増幅産物のみ回収した。
【0079】
PCR 法によって増幅ししたORF6-81 DNA 断片(約250 bp)を上記の方法で処理したpET15b Nde I 処理済DNA断片(約6000 bp)にIn-Fusion(登録商標)HDCloning Kit (Takara Bio)を用いて挿入して、pET15b-rORF6 を構築した(
図4(c))。ORF6 が正しくpET15b に挿入されたか確認するために以下のプライマーを用いてBigDye
TM Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit を用いて塩基配列の確認を行った。
5’側プライマー(T7F):5’- TTAATACGACTCACTATA 3’ (配列番号9)
【0080】
ORF6-81の内部塩基配列が確認できたpET15b-rORF6 を大腸菌BL21(DE3)CodonPlus IRPL(Novagen 社)に導入して(
図4(d))、得られた形質転換体をAuto-inducing LB 培地に植菌し30℃、20 時間培養し(
図4(e))、集菌後、超音波破砕によって細胞を破砕しホモジネートとした(
図4(f))。超音波破砕後、10000×g、10分間遠心分離(
図4(g))を行うことによって上澄み(Supernatant)と沈殿(Pellet)に分画し(
図4(h))し組換えORF6-81の発現に成功した。また、pET15b-rORF6 を用いて発現した組換えタンパク質はN 末端にHis タグが挿入された形で発現する(配列番号10)。
【0081】
Auto-inducing LB 培地は、T7 RNA ポリメラーゼを大腸菌内でIPTG によって発現誘導可能な大腸菌組換えタンパク質発現系において、組換えタンパク質発現誘導を自動的に行えるように調製された培養システムである(Studier FW. Protein Expr. Purif. 41, 207-234. (2005)。
【0082】
MGSSHHHHHHSSGLVPRGSHMAPKATLVKKFKGLAVGVGALLAAPPIMGLASYAVNGISSYLSITINSTTYDFAPLAQAVMVFGGIGLVAYGLHRILGRGL (配列番号10)
【0083】
実施例2 rORF6-Lys の組換えタンパク質発現系の構築
pET15b-rORF6 のプラスミドDNAを鋳型にしてORF6-81 の翻訳領域を含むDNA 断片を、以下のプライマーを用いてPrimeSTAR(登録商標)Mutagenesis Basal Kit によって増幅した。PCR 条件も示す。
5’側プライマー(ORF6-81 N-K F):
5’- ACCATAAAAAGCACAACCTACGATTTT- 3’ (配列番号11)
3’側プライマー(ORF6-81 N-K R):
5’- TGTGCTTTTTATGGTTATGCTTAGGTA- 3’ (配列番号12)
PCR 条件:PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase によって94℃、1 分:98℃、10 秒→55℃、10 秒→72℃、6 分(30 サイクル)
【0084】
PCR 法によって増幅したPCR 産物は制限酵素Dpn I によって鋳型DNAを切断し、PCR 増幅産物のみ回収した。回収したPCR 産物を大腸菌DH5αに形質転換し、ORF6 の47 番目のアスパラギン残基がリジン残基に置換された組換えタンパク質を発現するpET15b- rORF6-Lys の抽出を行った(配列番号13)。実施例1と同様の方法で内部塩基配列の確認を行い、組換えタンパク質の発現を行った。
【0085】
MGSSHHHHHHSSGLVPRGSHMAPKATLVKKFKGLAVGVGALLAAPPIMGLASYAVNGISSYLSITIKSTTYDFAPLAQAVMVFGGIGLVAYGLHRILGRGL (配列番号13)
(下線部:置換アミノ酸残基)
【0086】
実施例3 rORF6-Cys の組換えタンパク質発現系の構築
pET15b-rORF6 のプラスミドDNA を鋳型にしてORF6 の翻訳領域を含むDNA断片を、以下のプライマーを用いてPrimeSTAR(登録商標) Mutagenesis Basal Kit によって増幅した。PCR 条件も示す。
5’側プライマー(ORF6 N-C F):
5’- ACCATATGCAGCACAACCTACGATTTT 3’ (配列番号14)
3’側プライマー(ORF6 N-C R):
5’- TGTGCTGCATATGGTTATGCTTAGGTA- 3’ (配列番号15)
PCR 条件:PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase によって94℃、1 分:98℃、10 秒→55℃、10 秒→72℃、6 分(30 サイクル)
【0087】
PCR 法によって増幅したPCR 産物は制限酵素Dpn I によって鋳型DNAを切断し、PCR 増幅産物のみ回収した。回収したPCR 産物を大腸菌DH5αに形質転換し、ORF6-81 の47 番目のアスパラギン残基がシステイン残基に置換された組換えタンパク質を発現するpET15b- rORF6-Cys の抽出を行った(配列番号16)。実施例1と同様の方法で内部塩基配列の確認を行い、組換えタンパク質の発現を行った。
【0088】
MGSSHHHHHHSSGLVPRGSHMAPKATLVKKFKGLAVGVGALLAAPPIMGLASYAVNGISSYLSITICSTTYDFAPLAQAVMVFGGIGLVAYGLHRILGRGL (配列番号16)
(下線部:置換アミノ酸残基)
【0089】
実施例4 rORF6-Flag の組換えタンパク質発現系の構築
pET15b-rORF6 のプラスミドDNAを鋳型にしてORF6-81 の翻訳領域を含むDNA 断片を、以下のプライマーを用いてPrimeSTAR(登録商標)Mutagenesis Basal Kit によってタンパク質標識タグであるFlag-tag(配列:DYKDDDDK)が挿入された遺伝子を増幅した。PCR 条件も示す。
5’側プライマー(ORF6 Flag F):
5’- ATAGTGGATTACAAGGATGACGACGATAAGAGCACAACCTACGATTTTGC- 3’ (配列番号17)
3’側プライマー(ORF6 Flag R):
5’- GCTCTTATCGTCGTCATCCTTGTAATCCACTATGGTTATGCTTAGGTAGG- 3’ (配列番号18)
PCR 条件:PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase によって94℃、1 分:98℃、10 秒→55℃、10 秒→72℃、6 分(30 サイクル)
【0090】
PCR 法によって増幅したPCR 産物は制限酵素Dpn I によって鋳型DNAを切断し、PCR 増幅産物のみ回収した。回収したPCR 産物を大腸菌DH5αに形質転換し、ORF6 の47 番目のアスパラギン残基の部位にFlag-tagが挿入された組換えタンパク質を発現するpET15b- rORF6-Flagの抽出を行った(配列番号19)。実施例1と同様の方法で内部塩基配列の確認を行い、組換えタンパク質の発現を行った。
【0091】
MGSSHHHHHHSSGLVPRGSHMAPKATLVKKFKGLAVGVGALLAAPPIMGLASYAVNGISSYLSITIVDYKDDDDKSTTYDFAPLAQAVMVFGGIGLVAYGLHRILGRGL (配列番号19)
(下線部:挿入Flag-tag)
【0092】
実施例5 粗タンパク質液でのrORF6 の粒子製造
上記の実施例1のようにAuto-inducing LB 培地によってrORF6 の発現誘導を行った。大腸菌形質転換体を遠心分離機(10000×g、10 分、4℃)で集菌後、緩衝液A(10 mM Tris-HCl Buffer (pH7.2)、1% (w/v) Triton X100、1M NaCl)に懸濁した。
【0093】
懸濁した形質転換体を超音波処理により破砕し、未破砕残渣を遠心分離(10000×g、10 分、4℃)によって除去し、上澄みを粗タンパク質液とした。この粗タンパク質を室温(25℃付近)で2日間放置してrORF6が自己会合させることによって粒子を形成させた。遠心分離(10000×g、10 分、4℃)によって粒子は沈殿画分に回収されるため、遠心分離後の沈殿画分を10 mMTris-HCl Buffer (pH7.2)で懸濁後、さらに同様の遠心分離を行い、粒子懸濁溶液を10 mM Tris-HCl Buffer (pH7.2)に置換した。
【0094】
rORF6 の粒子形成の確認は原子間力顕微鏡(AFM)、ネガティブ染色法を用いた透過型電子顕微鏡(TEM)によって行った。形成されたウイルス粒子は160 nm×16 nm の桿状構造を取っており、天然型のAPBV1 とほぼ同じ大きさの桿状の粒型を取っていた(
図5(A)-(B)、
図6(A)-(C))。
【0095】
また、実施例2のrORF6-Lys、実施例3のrORF6-Cys、実施例4のrORF6-Flagの発現と粗タンパク質液での粒子形成は上記と全く同じ方法で行った。rORF6-Lys およびrORF6-FlagはAFM、TEMによる観察を行ったところ、rORF6とほぼ同じ構造の粒子が認められた(
図7及び
図8(C))。rORF6-Cys に関しては、rORF6、rORF6-Lys と同様に粒子を形成する際に認められる溶液の白濁が確認できた(データ非図示)。
【0096】
実施例6 ウイルス粒子表面への機能性付与
rORF6-Lys を用いて再構成したウイルス様粒子にアミノ基と特異的に反応し架橋を形成するNHS 基が導入された酸化還元色素であるarPES(Dojindo 社製)(
図9(A))を添加し、以下の条件で反応させ粒子表面にPES を付与した。arPES を付与した粒子は遠心分離(10000×g、10 分、4℃)によって回収後、沈殿画分を10 mM Tris-HCl Buffer (pH7.2)で懸濁後、さらに同様の遠心分離を行い、粒子懸濁溶液を10 mM Tris-HCl Buffer (pH7.2)に置換した。この懸濁液をAFM、TEM によって観察した。その結果、rORF6-Lysと同様に粒子状の形態を維持しており懸濁液もPES 由来の赤色を確認した(
図9(B),
図10)。
反応条件:25℃、1 時間
33 mM PKB (pH7.0)
1.3 mM arPES
rORF6-Lys
【0097】
実施例7 導電性電子伝達ナノ粒子の製造
実施例1で製造した組換えタンパク質ORF6-81及び実施例2で製造した組み換えタンパク質ORF6-81-Lysの各々を遠心分離し、得られる1 mg分の沈殿に50 mM塩化銅水溶液を1 ml加え、懸濁後、室温で一晩放置した。その後、遠心分離し、沈殿を10 mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)緩衝液に懸濁し、再度遠心分離し沈殿を回収することを2回繰り返し、結合していない銅を取り除いた。
電気化学測定は、Electrochemical Analyzer Model 1205Bを用い、参照極Ag/AgC電極、対極にPt wire、作用極にGlassy carbon electrode (GCE, OD:6.0 mm ID:3.0 mm)を用いた三電極方式によってCV測定を行った。50 mM リン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)を電解液として、室温(25℃)で窒素バブリングを行いながら嫌気的にCV測定を行った。CVの測定は、初期電位 -0.4 V、掃引幅 -0.4 V~+0.4 V (vs Ag/AgCl)、掃引速度100 mV/sとした。
洗浄したGCE上にウイルス粒子分散液(1 mg/ml)を10μl滴下し、一晩風乾したものを作用電極として用いた。
銅イオン(Cu
2+)を内包しないORF6-81及びORF6-81-Lysでは電極電位を掃引しても変化がほとんど観察されないのに対し、銅イオンを内包するORF6-81-Cu及びORF6-81-Lys-Cuでは正方向への掃引に伴い電流値が増大した(
図11(A),(B))。このように、銅イオンを内包するORF6-81タンパク質及び修飾ORF6-81タンパク質からなる桿状粒子は、導電性電子伝達ナノ粒子として作用する。
【0098】
実施例8 動的光散乱法による粒子径の解析方法
溶液中の組換えタンパク質ナノ粒子ORF6-81及びORF6-81-Lysのそれぞれの安定性を、Zetasizer Nano-ZSP(Malvern Instruments、Malvern、UK)を用いて動的光散乱(DLS)解析により評価した。組換えウイルスタンパク質 粒子 (0.5 mg) を遠心分離 (10,000 × g、20 分) によって回収し、得られた沈殿物を超音波処理によって 3 mL の種々の溶液に懸濁した。 懸濁に使用した溶液は以下の通りである。100 % (v/v) N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)
10 mM Tris-HCl 緩衝液 (pH 7.2)
6 M 塩化グアニジン
8 M 尿素
70% (v/v) エタノール
70% (v/v) 2-プロパノール。
調製したORF6-81粒子の分散は、25°Cで後方散乱角173°でのDLS測定で決定した。 ナノ粒子の平均粒径 (Dh) と多分散指数 (PDI) は、Zeta Software バージョン 7.04 を用いて実験的相関関数のキュムラント分析を使用して計算した。
塩化グアニジン及び尿素はタンパク質の変性剤として周知であり、DMF、エタノール、2-プロパノールは有機溶媒である。組換えタンパク質ナノ粒子ORF6-81及びORF6-81-Lysはいずれも、試験した溶液では安定であった(
図12(A),(B))。ORF6-81-Lysの粒径分布がORF6-81の粒径分布と比較していくつかの溶媒で大きい傾向があるのは、ナノ粒子同士が会合している可能性がある。