(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080068
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】生体細胞間相互作用を決定する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20230601BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
G01N33/48 M
C12Q1/06
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023035429
(22)【出願日】2023-03-08
(62)【分割の表示】P 2019546197の分割
【原出願日】2018-02-23
(31)【優先権主張番号】17157806.5
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】523082716
【氏名又は名称】エクセンシア ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】ニコラウス クラル
(57)【要約】
【課題】本発明は、少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む一集団の細胞において細胞間相互作用の傾向を決定する方法に関する。また、本発明は、細胞提供者の病気または病気の素因を診断する方法に関する。
【解決手段】前記方法は、前記提供者から得た一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向を決定することを含み、前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む。本発明はまた、病気を発症している、あるいはその素因を持つ対象者から得た一集団の細胞において細胞が相互作用する傾向の変化を決定することで前記対象者が治療薬による治療に反応する、あるいは反応性を持つか否かを決定する方法を提供する。前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む。また、本発明は、1種以上の試験物質が前記細胞の相互作用傾向を変化させるか否かを決定することを含む、治療薬のスクリーニング方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向を決定する方法であって、前記方法は
(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定する工程、
(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記集団の細胞における相互作用の数を決定する工程(ここで、前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の数と同じである)、および
(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程(ここで、前記傾向は得られた数字につれて高くなる)を含む、方法。
【請求項2】
細胞提供者が病気を発症しているか、あるいは病気を発症する素因を持っているかを決定するのに用いる細胞提供者から得た一集団の細胞であり、前記決定は、前記集団内の細胞間相互作用の傾向を決定することを含み、前記集団は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記方法は
(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定する工程、
(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記集団の細胞における相互作用の数を決定する工程(ここで、前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の数と同じである)、
(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程(ここで、前記傾向は得られた数字につれて高くなる)、および
(d)前記細胞間相互作用の傾向に基づいて前記細胞提供者が病気を発症しているか、あるいは病気を発症する素因があるかを決定する工程を含む、細胞。
【請求項3】
細胞提供者の病気または病気に対する素因を診断する方法であって、前記方法は、前記提供者から得た一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向を決定することを含み、前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記方法は
(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定する工程、
(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記集団の細胞における相互作用の数を決定する工程(ここで、前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の数と同じである)、
(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程(ここで、前記傾向は得られた数字につれて高くなる)、および
(d)前記細胞間相互作用の傾向に基づいて前記細胞提供者が病気を発症しているか、あるいは病気を発症する素因を持っているかを決定する工程を含む、方法。
【請求項4】
病気を発症しているか、あるいは発症する素因を持っている対象者から得た一集団の細胞で細胞間相互作用の傾向の変化を決定することで前記対象者が治療薬による治療に反応する、あるいは反応性を持つか否かを決定する方法であって、前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記方法は
(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定する工程、
(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記集団の細胞における相互作用の数を決定する工程(ここで、前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の絶対数は、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の数と同じである)、
(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程(ここで、前記傾向は得られた数字につれて高くなる)、および
(d)前記治療薬を添加する前の傾向と前記治療薬を添加した後の傾向を比較することで細胞間相互作用の傾向の変化を決定し、それにより前記対象者が前記治療薬に反応するか、あるいは反応性を持っているかを決定する工程を含む、方法。
【請求項5】
病気を発症しているか、あるいは発症する素因を持っている対象者が治療薬による治療に反応するか、あるいは反応性を持つか否かを決定する診断法で用いられる細胞提供者から得た一集団の細胞であって、前記決定は、単層での細胞間相互作用の傾向を決定することを含み、前記単層は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記方法は
(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定する工程、
(b)前記細胞試料に含まれる細胞を前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記細胞試料中での相互作用の数を決定する工程(ここで、前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の数と同じである)、
(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程(ここで、前記傾向は得られた数字につれて高くなる)、および
(d)前記治療薬を添加する前の傾向と前記治療薬を添加した後の傾向を比較することで細胞間相互作用の傾向の変化を決定し、それにより前記対象者が前記治療薬に反応するか、あるいは反応性を持っているかを決定する工程を含む、細胞。
【請求項6】
1種以上の試験物質の添加による一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向の変化を決定することで治療薬のスクリーニングを行う方法であって、前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記方法は
(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定する工程、
(b)前記細胞試料に含まれる細胞を前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記細胞試料中での相互作用の数を決定する工程(ここで、前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の数と同じである)、
(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程(ここで、前記傾向は得られた数字につれて高くなる)、および
(d)前記1種以上の試験物質を添加する前の傾向と前記1種以上の試験物質を添加した後の傾向を比較することで細胞間相互作用の傾向の変化を決定し、それにより前記1種以上の試験物質が治療薬として適格であるか否かを決定する工程を含む、方法。
【請求項7】
1種以上の試験物質の添加による一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向の変化を決定することによる治療薬のスクリーニングでの使用のための集団の細胞であって、前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記方法は
(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定する工程、
(b)前記細胞試料に含まれる細胞を前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記細胞試料中での相互作用の数を決定する工程(ここで、前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の細胞の数と同じである)、
(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程(ここで、前記傾向は得られた数字につれて高くなる)、および
(d)前記1種以上の試験物質を添加する前の傾向と前記1種以上の試験物質を添加した後の傾向を比較することで細胞間相互作用の傾向の変化を決定し、それにより前記1種以上の試験物質が治療薬として適格であるか否かを決定する工程を含む、細胞。
【請求項8】
前記第一および第二の識別可能な亜集団は同じである、請求項1、3、4、6の何れか一項に記載の方法、あるいは請求項2、5、または7に記載の集団の細胞。
【請求項9】
工程(b)を繰り返して決定された相互作用の数を平均し、好ましくは工程(b)を少なくとも1000回繰り返す、請求項1、3、4、6、8の何れか一項に記載の方法、あるいは請求項2、5、7、または8に記載の集団の細胞。
【請求項10】
前記細胞は(a)末梢血単核球(PBMC)細胞または(b)骨髄細胞である、請求項1、3、4、6、8、9の何れか一項に記載の方法、あるいは請求項2、5、7、8、9に記載の集団の細胞。
【請求項11】
前記病気は骨髄増殖性障害、炎症性障害、潜在的ウイルス感染、細胞増殖障害、細胞走化性障害、代謝性障害、または自己免疫疾患である、請求項1、3、4、6、8、9、10の何れか一項に記載の方法、あるいは請求項2、5、7、8、9、または10に記載の集団の細胞。
【請求項12】
前記病気は白血病またはリンパ腫である、請求項10に記載の方法、あるいは請求項10に記載の集団の細胞。
【請求項13】
前記細胞は単層の形態で存在する、請求項1、3、4、6、8、9、10の何れか一項に記載の方法、あるいは請求項2、5、7、8、9、または10に記載の集団の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の少なくとも2つの識別可能な亜集団を含む一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向を決定する方法に関する。また、本発明は、細胞提供者の病気または細胞提供者が持つ病気の素因を診断する方法を提供する。この方法は、前記提供者から得た集団の細胞における細胞間相互作用の傾向を決定することを含み、前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む。また、本発明は、病気を発症している、あるいはその素因を持つ対象者から得た一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向の変化を決定することで前記対象者が治療薬による治療に反応する、あるいは反応性を持つか否かを決定する方法を提供する。ここで、前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む。また、本発明は、治療薬のスクリーニング方法に関する。上記方法は、1種以上の試験物質が前記細胞間相互作用の傾向を変化させるか否かを決定することを含む。
【0002】
生物学的薬剤および小分子などの様々な刺激で摂動した後の細胞の全体的な挙動についての理解は、細胞同士の関係の分析を含む単細胞レベルの分析により大きく進展している。ハイコンテント画像処理(多数の細胞減少を同時に処理する技術)の分野は、希な事象を決定し、集団レベルの表現型を完全に理解するには、集団の細胞の表現型の詳細な分析における細胞間の多様性および細胞の微小環境が必要であるという証拠を提供し続けている(Snijder et al. (2011) Nature Reviews 12, 119でのリビュー)。細胞の表現型の包括的な変動は、発達中の集団の細胞に本来備わっている特性によって主に決定される。この集団の細胞は、細胞密度、細胞間の接触、相対的な位置、および細胞空間を含む特化したニッチな微小環境を形成している。また、単細胞レベルでは、同じ摂動に対する細胞応答の不均一性を特徴付けることができる(Slack et al. (2008) PNAS 105(49): 19306-11)。(癌細胞が抗癌剤に反応する程度の調査に関して)細胞間で見られる不均一性の複雑さから、治療中の患者が持つかも知れない細胞レベルに及ぼし得る広範な効果に対する機能的有意性が解明される。しかしながら、細胞内解像度および単細胞解像度による集団特徴分析に基づく研究は遺伝的に同一の細胞株に依存しているが、ヒトの健康および病気については生理学的に適切ではなく、通常、さらなる細胞性過程および汎細胞性過程を進めるために生体内で起こる集団内の情報交換に欠けている。
【0003】
免疫系は、1)可溶性シグナル伝達分子、および2)物理的細胞間相互作用によって調節されている。免疫系を調節する可溶性シグナル伝達分子としては、例えば、サイトカイン、ケモカインが挙げられる。これにはアデノシンなどの小分子も含まれる。細胞間相互作用が免疫機能を調節する例としては、細胞表面受容体と相互作用する細胞表面結合リガンドが挙げられる。例えば、MHCとT細胞受容体との相互作用や、PD-1とそのリガンドであるPD-L1との相互作用で、いずれも目的の応答すなわち制御応答を導くのに必要である。さらに、可溶性因子は、2種類の異なる標的細胞表面にある受容体と相互作用して、これら受容体を空間的に接近させ、シグナル伝達事象を誘導することができる。そのような例として、一方の細胞表面のFc受容体に結合して、他方の細胞表面の標的抗原を認識するような抗体が挙げられる。具体的には、これは標的抗原が免疫調節剤や新しい分野の生物学的医薬品(例えば、ブリナツモマブ(二重特異性抗体;CD19/CD3)またはリツキシマブ(抗CD20抗体)に接近した場合である。可溶性因子は離れて作用することができるが、細胞表面結合調節分子が作用するためには細胞が空間的に近づいて来なければならない。この後者の因子、すなわち、受容体媒介シグナル伝達による免疫細胞の物理的相互作用は、誘導された強い免疫応答および細胞除去/プログラムされた細胞死を行うのに必須である。さらに、細胞間接触によるコミュニケーションは、上記の生物学的免疫調節剤の作用反応機構の基礎となっている。
【0004】
ELISA、ELISPOT、およびAlpha Screenなど、可溶性シグナル伝達因子の濃度を測定して免疫機能または活性を評価するために確立された手段が多くある。免疫調節に関与する可溶性因子を追跡することは、病気診断法および他の健康関連生物学に一般に用いられている。しかしながら、そうであったとしても、生物学的医薬品、薬物、または他の小分子化合物によって変化させた細胞間接触レベルでの免疫調節を高処理で堅牢な方法(in a high-throughput and robust manner)で決定する能力は現在では限定されたものである。従って、体系的に細胞間接触を測定する能力および目的の分子で系を摂動した際の細胞間接触の変化から、特定の分子が免疫調節特性を持つか否かを明らかにすることができる。逆に、既知の免疫調節効果を持つ分子で系を試験した場合、細胞間接触における変化としてその効果を観察することでモデル系の状態に関する情報を明らかにすることができる。
【0005】
細胞内小器官の相互作用を決定する方法がHelmuth et al. (2010) BMC Bioinformatics 2010, 11: 372によって提案されている。この方法は、2組の細胞内の対象XとYとの誘引を分析するための統計的枠組みを導き出すものである。しかしながら、この文献で用いられるように、細胞内誘引は、本明細書で用いられる細胞間接触とは生物学的に異なっている。また、Helmuth et al.は、Ctと呼ばれる複数の対象間の「最近傍共局在化尺度」を規定して、これを用いて多数の分析対象について最近傍距離分布の分析に一般化することができる。この方法は、Helmuth et al.が説明するように、細胞間接触を検出する目的でPBMC(末梢血単核球)/複合細胞混合物に応用する場合には適切ではない。というのは、相互作用する細胞の数は典型的にはすべての細胞のうちの小さな部分集団であるためである。Helmuth et al.によって用いられる最近傍分布分析は、相互作用する細胞の小さな部分集団を見落としやすく、これら2つの部分集団の細胞間での全体的な群形成すなわち誘引に注目するものである。さらに、この技術的解決法は、他の対象がその生物学的系の空間を占めているかもしれないという事実を無視して、対象XとYとの間の観察された最近傍距離分布p(d)を起こりうる対象Yからの距離q(d)の相対度数と比較する。従って、この手法は、全体的な群形成の傾向を補正しない。しかしながら、細胞間接触では、PBMCまたは複合細胞混合物の2つの部分集団の分析において全体の群形成を補正することが重要である。というのは、これは、主に、目的の生物学的因子ではなく実験的因子によって決定されるからである。
【0006】
細胞間相互作用を処理するさらなる方法がWO2016/046346に開示されている。この方法は、ある細胞が接触している細胞の数に関わらず、別の細胞と接触している細胞の数を決定することを含む。
【0007】
このような観点において、生体試料、特にPBMCまたは骨髄細胞を含む試料中での細胞間相互作用を高処理でコスト効率よく決定する手段および方法が求められている。
【0008】
従って、本発明の基礎となる技術的問題は、細胞間相互作用の傾向を決定するための向上した手段および方法を提供することである。
【0009】
この技術的問題は、請求項で特徴付けられる実施形態を提供することで解決される。
【0010】
従って、本発明は、一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向を決定する方法に関し、前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む。前記方法は、(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞間の相互作用の数を決定する工程、(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記集団の細胞における相互作用の数を決定する工程(ここで、前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞中の細胞の絶対数は、(a)の第一および第二の識別可能な亜集団の細胞中の細胞の数と一致する)、および(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程(ここで、傾向は得られた数字につれて高くなる)工程を含む。好ましい一実施形態では、工程(b)を繰り返して、決定された相互作用の数を平均する。工程(b)を少なくとも1000回超、少なくとも2000回、または少なくとも3000回繰り返すことが好ましい。
【0011】
添付の実施例に示すように、本発明の方法は、とりわけ、生物学的設定で細胞間相互作用のより堅牢、正確で、その結果向上した尺度を提供する。上記のWO2016/046346など、従来技術の方法は、別の細胞と接触している亜集団の細胞の割合を決定することに依存している。従って、従来の方法によっては、少なくとも1個の別の細胞と接触している各細胞を数えることを含む。これにより、「相互作用している」と「相互作用していない」という2つの状態が存在する。従来技術のさらなる方法では、Lachmanovich et al. (Journal of Microscopy, 212, 2003, pp. 122-131)は、顕微鏡の一つのチャネルにある対象と重なっている(すなわち重複ピクセルを持つ)か隣接している(すなわち境界ピクセルを持つ)もう一つのチャネルにある対象の百分率を決定することにより、顕微鏡画像中の対象の共局在度を測定した。この方法は、他の対象と重なっているか、密接している対象の数を数えることに基づいており、生画素データを用いて無作為相互作用の帰無仮説を生成する。
【0012】
別の手法は、上で引用したHelmuth et al..によって提供された方法など、最近傍距離に依存している。
【0013】
従来の方法についての優れた総説は、Bolte et al. (Journal of Microscopy, 224, 2006, pp. 213-232)に提示されている。彼らは共局在解析に用いられる方法を総説している。対象に基づく共局在解析について、もっぱら最近傍分析に基づく方法を報告している。従って、そのような分析で最近傍に注目することは、従来用いられてきた一般的な基準と見なされる。
【0014】
相互作用する細胞すなわち対象の傾向を決定する別の方法は、(a)好適な手法(例えば、Kolmogorov-Smirnovの検定)により2つの対象型間または2つの識別可能な集団の細胞間の距離分布を比較し、観察した距離分布を帰無仮説分布と比較する、あるいは(b)2つの識別可能な集団の細胞間で細胞表面が接している程度を測定することに基づいている。
【0015】
ここで本発明者らによって見出されたように、本発明の方法は、従来の方法に比べて予期しない大きな利点がある。特に、本発明の方法は、一般に試料特性に関して堅牢であるという点で従来技術に記載した方法および代替可能な手法よりも優れている。例えば、本発明の方法は、本明細書で開示されるように、高い対象密度(例えばPBMCや骨髄単層)の設定でより信頼性の高い結果が得られる。さらに、本発明の方法は、細胞の数の変化に対してより堅牢であり、従って、ダイナミックレンジが高い(測定できる範囲が広い)。さらに、本発明の方法とは異なり、当該分野で記載の方法はいずれも、相互作用の傾向を決定しようとする対象(すなわち細胞)以外の対象(すなわち細胞)を考慮していない。しかしながら、特に本明細書で記載する単層におけるこれら対象(すなわち細胞)は空間を占めており、従って、より信頼性の高い結果を得るためにはこれらを考慮しなければならない。さらに、当該分野で記載の方法とは異なり、本発明の方法は、異なる集団の細胞の大きさ、特に小さいものでは約100個から100,000個の細胞、大きいものでは1,000,000個超の細胞などで堅牢で効率的に機能する。最後に、本発明の方法は、従来の方法に比べて結果の改善が見られるが、コンピュータに基づく算法を用いた高速設定でより効率的に用いることができる。すなわち、従来の方法に比べて、本発明の方法は必要な時間が短く、従ってコスト面でもより効率的である。
【0016】
上記の本発明の方法の予期しない大きな利点が得られるのは、従来の方法に対して、一個の細胞が第二の亜集団の2個以上の細胞と相互作用する状況を考慮して、第一の亜集団中の一個の細胞と第二の亜集団中の複数の細胞との細胞間相互作用の総数を決定するからである。従って、本発明の方法は、相互作用の傾向が決定される方向(すなわち、亜集団Bの細胞と相互作用する細胞を亜集団Aから決定するか、あるいは亜集団Aの細胞と相互作用する亜集団Bの細胞を決定するか)とは無関係である。2個の細胞間の物理的相互作用には、生物学的方向性はない(すなわち、第一の細胞が第二の細胞と相互作用する場合、第二の細胞は第一の細胞と同じように相互作用する)ので、これは上記技術的利点をもたらす基礎となる生物学的効果のより正確な数値表現である。これは、本明細書およびWO2016/046346で記載する単層などの天然の状態を人工的に表現する際に特に重要である。従って、本発明の方法は細胞間相互作用を決定する方向とは無関係なので、特に単発の実験ではより信頼性が高い相互作用値が得られる。すなわち、本発明の方法で細胞間相互作用の総数を単発で決定することは、実験が第一または第二の識別可能な亜集団の細胞に注目しているかということとは無関係である。従って、上記特性について改良されていることに加えて、本発明の方法は、細胞間相互作用を決定するより高速で容易で、かつ/またはよりコスト面で効率的な方法を提供する。
【0017】
従って、本発明の方法および集団の細胞において、第一および第二の識別可能な亜集団を入れ替えても細胞間相互作用の傾向は同じである。従って、特に好ましい一実施形態では、本発明は、少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向を決定する方法に関する。前記記方法は、(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞間の相互作用の数を決定する工程、(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記集団の細胞における相互作用の数を決定する工程(ここで、第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである)、および(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程(ここで、傾向は得られた数字につれて高まり、第一および第二の識別可能な亜集団を入れ替えても工程(c)で決定された傾向は同じである)を含む。この傾向は、相互作用を第一の識別可能な亜集団から第二の識別可能な亜集団に、あるいはその反対方向に決定することとは無関係なので、単発の実験で十分である。これにより、従来の方法に比べてより高速で容易、かつ/またはよりコスト面で効率的な実験の設定が可能になる。
【0018】
本発明の方法は、2個の細胞間に相互作用が存在するか否かを決定するのに用いられる方法とは無関係である。好ましい一実施形態では、本発明は、細胞の顕微鏡画像を利用して、2個の細胞間の相互作用が存在するか否かを決定する。より好ましい一実施形態では、本方法は、例えば、WO2016/046346など当該分野で記載の方法により準備された単層の細胞の顕微鏡画像を利用する。細胞表面マーカーに対して蛍光標識した抗体などの好適な色素を用いて、細胞表面を当該分野でよく知られた方法により顕微鏡画像でこれら細胞の輪郭を取ることができ、2個の細胞の細胞表面は物理的に接触していることが分かる。あるいは、細胞核の間の距離を決定して、その距離が典型的な細胞直径の大きさを持つ切り捨て値未満である場合、細胞は相互作用していると決定することができる。この近似の妥当性は、以下の2つの論拠から推測することができる。(i)T細胞と抗原提示細胞(APC)など、相互作用している細胞は、典型的には相互作用が増えたり減ったりする一定の過程(この過程は、「スキャニング」とも言われる)にあり、解離し、再会合し、再解離している可能性がある。従って、相互作用間の細胞の動きを酔歩モデルにすると、より頻繁に会合する(すなわち、互いにより高い親和性を持つ)細胞同士は他の細胞よりも互いに統計的に接近している。(ii)ほぼ等しい直径を持つ丸い細胞の集団で実際の切り捨て値が約1~3の平均細胞直径の範囲で変動する場合、相互作用値は大きく変化しないことが示される。
【0019】
さらに、本発明は、細胞提供者が病気を発症しているか、あるいは病気を発症する素因を持っているかを決定するのに用いる細胞提供者から得た集団の細胞に関する。前記決定は、前記集団内の細胞間相互作用の傾向を決定することを含み、前記集団は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む。前記方法は、(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定すること、(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて、前記集団の細胞における相互作用の数を決定すること(ここで、第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数はそれぞれ、(a)の第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである)、(c)(a)を(b)で除して細胞間相互作用の傾向を決定すること(ここで、傾向は得られた数字につれて高くなる)、および(d)前記細胞間相互作用の傾向に基づいて前記細胞提供者が病気を発症しているか、あるいは病気を発症する素因があるかを決定することを含む。
【0020】
また、本発明は、細胞提供者の病気または病気に対する素因を診断する方法を提供する。前記方法は、前記提供者から得た集団の細胞における細胞間相互作用の傾向を決定することを含み、前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む。前記方法は、(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞間の相互作用の数を決定すること、(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記集団の細胞における相互作用の数を決定すること(ここで、第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである)、(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定すること(ここで、傾向は得られた数字につれて高くなる)、および(d)前記細胞間相互作用の傾向に基づいて前記細胞提供者が病気を発症しているか、あるいは病気を発症する素因を持っているかを決定することを含む。
【0021】
また、本発明は、病気を発症しているか、あるいは発症する素因を持っている対象者から得た一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向の変化を決定することで前記対象者が治療薬による治療に反応する、あるいは反応性を持つか否かを決定する方法に関する。前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む。前記方法は、(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞間の相互作用の数を決定すること、(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記集団の細胞における相互作用の数を決定すること(ここで、第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数は、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである)、(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定すること(ここで、傾向は得られた数字につれて高くなる)、および(d)前記治療薬を添加する前の傾向と前記治療薬を添加した後の傾向を比較することで前記対象者が前記治療薬に反応するか、あるいは反応性を持っているかを決定して、細胞間相互作用の傾向の変化を決定することを含む。
【0022】
また、本発明は、病気を発症しているか、あるいは発症する素因を持っている対象者が治療薬による治療に反応するか、あるいは反応性を持つか否かを決定する診断法で用いられる細胞提供者から得た一集団の細胞に関する。前記決定は、単層での細胞間相互作用の傾向を決定することを含み、前記単層は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む。前記方法は、(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞間の相互作用の数を決定すること、(b)前記細胞試料に含まれる細胞を前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記細胞試料中での相互作用の数を決定すること(ここで、第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである)、(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定すること(ここで、傾向は得られた数字につれて高くなる)、および(d)前記治療薬を添加する前の傾向と前記治療薬を添加した後の傾向を比較することで前記対象者が前記治療薬に反応するか、あるいは反応性を持っているかを決定して、細胞間相互作用の傾向の変化を決定することを含む。
【0023】
さらに、本発明は、1種以上の試験物質の添加による一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向の変化を決定することで治療薬のスクリーニングを行う方法を提供する。前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記方法は、(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞間の相互作用の数を決定すること、(b)前記細胞試料に含まれる細胞を前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記細胞試料中での相互作用の数を決定すること(ここで、第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである)、(c) (a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定すること(ここで、傾向は得られた数字につれて高くなる)、および(d)前記1種以上の試験物質を添加する前の傾向と前記1種以上の試験物質を添加した後の傾向を比較することで前記1種以上の試験物質が治療薬として適格であるか否かを決定して、細胞間相互作用の傾向の変化を決定することを含む。
【0024】
さらに、本発明は、1種以上の試験物質の添加による一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向の変化を決定することで治療薬のスクリーニングに使用するための集団の細胞に関する。前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む。前記方法は、(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞間の相互作用の数を決定する工程、(b)前記細胞試料に含まれる細胞を前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記細胞試料中での相互作用の数を決定する工程(ここで、第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである)、(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程(ここで、傾向は得られた数字につれて高くなる)、および(d)1種以上の試験物質を添加する前の傾向と1種以上の試験物質を添加した後の傾向を比較することで前記1種以上の試験物質が治療薬として適格であるか否かを決定して細胞間相互作用の傾向の変化を決定する工程とを含む。
【0025】
一実施形態では、第一および第二の識別可能な亜集団は同じである。
【0026】
本発明の好ましい一実施形態では、工程(b)を繰り返して、決定された相互作用の数を平均する。工程(b)を少なくとも1000回超、少なくとも2000回、または少なくとも3000回繰り返すのが好ましい。
【0027】
本発明の好ましい一実施形態では、本発明の方法で用いる細胞または本発明の集団の細胞中の細胞は、末梢血単核球(PBMC)または骨髄細胞である。
【0028】
本発明で診断される病気は、骨髄増殖性障害、炎症性障害、潜在的ウイルス感染、細胞増殖障害、細胞走化性障害、代謝性障害または自己免疫疾患;あるいは白血病またはリンパ腫であることが好ましい。
【0029】
従って、本発明は、細胞間相互作用の本来の傾向、すなわち細胞の物理的相互作用、特に、末梢血単核球(PBMC)、骨髄、または他の多系統一次哺乳類材料(例えば、材料の画像での検出など、診断目的で採取した任意の単核細胞を含む試料など)を定量する方法に関する。本発明の方法は単層の細胞を含む細胞試料と好適な画像処理技術(例えば、共焦点顕微鏡)を用いて行うのが好ましい。分析対象の試料中に含まれる細胞、例えば単層は蛍光色素または当該分野で既知の他のマーカーを用いて同定してもよく、従ってこれにより区別してもよい。従って、本明細書で用いられる用語「識別可能な亜群」は、大きな集団の一部である細胞を指し、細胞マーカーによってその集団内の他の細胞と識別することができる。すなわち、2つの識別可能な亜群の中の細胞は、同じ細胞種に属していてもよく、共焦点顕微鏡などの画像処理技術を用いて識別可能である細胞マーカーの発現プロファイルが異なる限り異なる細胞種に属していてもよい。細胞がある亜群の細胞に属しているか否かを容易に決定するため、細胞を単層として提供することが好ましい。添付の実施例で示すように、単層は、当該分野で既知の方法、好ましくはWO2016/046346で教示された方法を用いて形成してもよい。従って、本発明の好ましい一実施形態では、本発明の方法は、工程(a)の前に用いられる細胞試料の細胞を含む単層を形成することをさらに含む。
【0030】
本発明では、細胞間相互作用の傾向は相互作用値として表される。従って、細胞密度および量などの細胞間相互作用に影響を及ぼす外因性因子に対して、付着分子の発現、受容体-リガンドの対、および細胞間相互作用を媒介する他の細胞由来の因子、または物理的に細胞を架橋する薬剤(例えば、特定の抗体、二重特異性抗体、または生物学的医薬品)など生物学的原因による細胞間相互作用の傾向を相互作用値として表す。従って、また、本発明は、病気の試料および/または健康な試料が治療薬および/または薬物に反応する、あるいは反応しないかを細胞間相互作用の傾向の測定値としての相互作用値によってどのように決定することができるかということにも関する。本発明はさらに、患者および/または提供者の病気あるいは病気の素因を診断するための相互作用値の使用に関する。本発明はまた、病気が治療薬による治療に反応する、あるいは反応性を持つか否かを決定する、かつ/または可能性のある新規な治療薬または薬物の反応機構および効果を見出し、試験するために相互作用値を用いる方法(スクリーニング法)を提供する。この点で、可能性のある新規な治療薬/薬物としての試験対象である治療薬/薬物および/または化学物質に対して病気の細胞が反応性を持つ、すなわちその相互作用値が変化するか否かを試験する本発明の方法は、一般に基準試料の使用に依存している。健康な細胞または病気の細胞が反応する(すなわち、相互作用値が変化する)という試験に関して、この基準試料は、DMSOまたはPBSを媒体とした刺激など、基準の対称刺激と比較される。相互作用値を用いて病気の素因を決定する、あるいは病気と診断する場合、基準試料は健康な提供者からのものである。従って、好ましい一実施形態では、本明細書で提供される診断法および提供者が治療に反応するか否かを決定する方法に基準提供者から得た試料を用いる。本明細書で規定する相互作用値は、これらに限定されないが、1)免疫調節薬物の発見 (すなわち、免疫系細胞の特性および/または挙動を変えて保証された転帰が得られるような薬物または他の治療法)、2)既知の免疫調節剤による治療法の作用機序の規定、3)生体外の患者の試料中での薬物の感受性または機能の規定のために画像中の細胞の位置(すなわち、空間配置)を分析する。従って、新規で発明性のある本発明の方法は、例えば、単層の細胞、特にPBMCまたは骨髄細胞の画像処理など、画像処理技術と組み合わせて用いてもよい。また、本発明の方法を用いて、細胞同士の関係、および化学物質(例えば、小分子、生物学的医薬品、または他の可溶性因子)でインキュベーションした後の関係の変化を決定してもよい。また、本発明の方法を用いて細胞試料に含まれる集団における変化を決定してもよい。また、本発明の方法を用いて病気の素因を決定してもよい。
【0031】
従って、本発明は、とりわけ、細胞提供者の病気または病気の素因を診断する方法に関する。前記方法は、前記提供者から得た一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向を決定することを含み、前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む。前記方法は、(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定する工程、(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記集団の細胞における相互作用の数を決定する工程(ここで、第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである)、(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程(ここで、傾向は得られた数字につれて高くなる)、および(d)前記細胞間相互作用の傾向に基づいて前記細胞提供者が病気を発症しているか、あるいは病気を発症する素因を持っているかを決定する工程を含む。好ましい一実施形態では、工程(b)を繰り返して、決定された相互作用の数を平均する。工程(b)を少なくとも1000回超、少なくとも2000回、または少なくとも3000回繰り返すことが好ましい。
【0032】
また、本発明の方法を用いて、細胞間の物理的相互作用を定量することで薬物または治療の治療価値を決定し、予測してもよい。従って、また、本発明は、病気を発症している、あるいはその素因を持つ対象者から得た一集団の細胞において細胞が相互作用する傾向の変化を決定することで前記対象者が治療薬による治療に反応する、あるいは反応性を持つか否かを決定する方法に関する。前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記方法は、(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定する工程、(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記集団の細胞における相互作用の数を決定する工程(ここで、第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数は(a)の前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである)、(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程(ここで、傾向は得られた数字につれて高くなる)、および(d)前記治療薬を添加する前の傾向と前記治療薬を添加した後の傾向を比較することで前記対象者が前記治療薬に反応するか、あるいは反応性を持っているかを決定して、細胞間相互作用の傾向の変化を決定する工程を含む。好ましい一実施形態では、工程(b)を繰り返して、決定された相互作用の数を平均する。工程(b)を少なくとも1000回超、少なくとも2000回、または少なくとも3000回繰り返すことが好ましい。
【0033】
また、本発明は以下の図面によりいくつかの態様が例示される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】384ウェルプレートからのPBMC単層の画像(三色、10倍)を3チャネルに分割した例である。
【0035】
【
図2】本発明の設定および細胞間相互作用の傾向と免疫的な可能性に対する関係の測定を示す図である。
【0036】
【
図3】A細胞とB細胞の真の相互作用の傾向P(a-b)の関数としてA、B、およびCという種類の細胞を含む合成データセットで測定された相互作用の傾向である。この傾向は、細胞が1個以上の相手と相互作用している状態でWO2016/046346、本発明、およびHelmuth et al.に従って決定された。
【0037】
【
図4】A細胞とB細胞との真の相互作用の傾向P(a-b)の関数としてA、B、およびCという種類の細胞を含む合成データセットで測定された相互作用の傾向である。この傾向は、細胞が2個以上の相手と相互作用している状態でWO2016/046346、本発明、およびHelmuth et al.に従って決定された。
【0038】
【
図5】総細胞のうちのA細胞とB細胞の分率F(A)およびF(B)の関数としてA、B、およびCという種類の細胞を含む合成データセットで測定された相互作用の傾向である。この傾向は、細胞が2個以上の相手と相互作用している状態でWO2016/046346、本発明、およびHelmuth et al.に従って決定された。
【0039】
【
図6】決定されたK562とNK細胞との相互作用傾向を用いて、本発明を用いて、NK細胞が媒介してK562腫瘍細胞を殺す調節剤を同定した。
【0040】
【
図7】T細胞に向けられたリガンドで活性化して測定したT細胞の部分集合(CD4またはCD8+)と樹状細胞(CD11c+)の間の相互作用傾向(Log2相互作用値として表記)である。PBSは対照すなわち基準であり、TcactはT細胞活性剤である。
【0041】
【
図8】そのような単球群形成を誘導することが分かっているグラム陰性内毒素、LPS(リポ多糖)で刺激した後に測定したCD14+単球同士の相互作用傾向(Log2相互作用値として表記)である。基準はPBS対照である。
【0042】
【
図9】臨床的に承認された生物学的薬物ブリナツモマブの濃度を増加させながら測定したCD3細胞とCD20細胞の間の相互作用傾向(Log2相互作用値として表記)である。溶媒のみを対照(0)とした。ブリナツモマブは、この相互作用により細胞毒性または他のT細胞および癌性B細胞を集めて癌細胞の殺傷を誘導し、それによって癌性の負荷を低減する作用機序が分かっている。
【0043】
【
図10】小分子クリゾチニブで治療した後に測定したCD11c細胞とCD3細胞の間の相互作用傾向(Log2相互作用値として表記)である。クリゾチニブは非小細胞肺癌に対して承認されたALK阻害剤で、本発明の相互作用値の前はその作用機序に対応する免疫調節成分が見つかっておらず、スクリーニング期間中に同定された。
【0044】
【
図11】臨床的に承認されている生物学的薬物リツキシマブの濃度を増加させながら測定したCD19細胞とCD56細胞の間の相互作用傾向(Log2相互作用値として表記)である。溶媒のみを対照(0)とした。リツキシマブの作用機序は分かっており、NK細胞と癌性B細胞を集めて、この相互作用により癌細胞の死滅を誘導する。
【
図12】本発明の方法を用いて24時間のブリナツモマブ治療に応答したB細胞リンパ腫患者の試料において、病理学的概観によって腫瘍細胞を含むCD10+陽性標的細胞とCD3+T細胞の間の相互作用を測定し、相互作用値として定量した。健康な患者の血液では健康なB細胞とT細胞はブリナツモマブにより架橋し、本発明を用いて決定されたB細胞とT細胞の間の対応する相互作用は増加したが、この患者では増加しなかった。この患者は、後にブリナツモマブに反応しないことが分かった。これらのグラフは、患者の胸水(PE)から単離した細胞を同じ患者由来の対応するPBMCとそれぞれ異なる量で混合したことを示している。
【0045】
【
図13】48時間の異なるサイトカイン(5ng/mL)での治療に応答した単層のPBMCにおける異なる識別可能な亜集団の細胞間の相互作用の傾向の変化である。本発明によって個々の相互作用の傾向を決定し、log2相互作用値として定量した。温度分布図では、PBS対照に対して相互作用傾向が高かったものに陰をつけている。相互作用傾向は、「+」または「-」の記号で示している。
【発明を実施するための形態】
【0046】
添付の実施例に示すように、本発明の方法は、特に生物学的、生化学的、および生物物理学的研究に用いることができる固有のスクリーニングシステムを提供することができる。また、本発明の方法を、例えば、自動化医療診断およびスクリーニング法などの医療診断およびスクリーニング法に用いてもよい。実施例5を参照のこと。本明細書で提供される方法は、提供者からの最少量の材料を必要とする。例えば、通常の診断分析プロトコルで得た細胞の数を用いて、1提供材料当たり、当該分野で既知である現在の方法で可能であるよりも多い数の摂動(例えば個々の試験条件など)を試験または分析してもよい。具体的には、好ましい一実施形態では、本発明の方法で用いられる本発明の集団の細胞は約100細胞/mm2(培養面積)~約30000細胞/mm2(培養面積)の密度で培養装置にて培養された細胞を用いて形成した細胞の単層という形態である。より好ましくは、密度が約500細胞/mm2(培養面積)~約20000細胞/mm2(培養面積)、約1000細胞/mm2(培養面積)~約10000細胞/mm2(培養面積)、約1000細胞/mm2(培養面積)~約5000細胞/mm2(培養面積)、または約1000細胞/mm2(培養面積)~約3000細胞/mm2(培養面積)である。最も好ましいのは、細胞を約2000細胞/mm2(培養面積)の密度で培養することである。上記のような密度で細胞を培養すると、細胞の単層が形成される。細胞は、本発明の方法を用いた分析の前に染色、固定、および/または画像処理されてもよい。
【0047】
本明細書で用いられる用語「細胞間相互作用」は、特に、多細胞生物の発達および機能に重要な役割を果たす細胞表面間の直接相互作用を指す。これらの相互作用により、細胞はその微小環境の変化に反応して情報交換することができる。そのような細胞間相互作用は、細胞接合で行われるなど、安定している可能性がある。これらの接合は、特に組織内の細胞同士の情報交換および組織化に関与している。その他は、免疫系の細胞同士の相互作用や組織の炎症に関与する相互作用など一過性または一時的なものである。この種の細胞間相互作用は、細胞と細胞外基質との相互作用など他の種のものと区別される。
【0048】
本発明の方法および/または本発明の集団の細胞では、天然に起こる細胞間相互作用は、好ましくは、分析対象の細胞の表現形態を形成する際に維持される。すなわち、本発明の好ましい一実施形態で用いられる細胞の単層を形成する際に、本明細書で規定される細胞間相互作用は維持される。細胞間相互作用の維持とは、天然の環境で他の細胞と相互作用する細胞は、本発明の方法の前および本明細書で提供される単層の形成時でも同様にその他の細胞あるいは同種の細胞と相互作用することを意味する。すなわち、全体の細胞間相互作用は維持されるが、細胞は必ずしも相互作用している同じ細胞と相互作用を維持するわけではない。従って、本明細書で提供される方法は、分析対象である細胞の生理学的に適切な状態を表すモデル系を提供するものである。
【0049】
上記の細胞間相互作用は、本発明の方法に用いられ、本発明の集団の細胞によって形成される細胞の表現形態を形成する際に維持されることが好ましく、従って、本発明の方法の前に形成される単層で維持されることが好ましい。一般に、細胞間相互作用は、例えば、PBMC、骨髄細胞、またはその他の細胞を含む試料で天然に起こる。当業者であれば、細胞間相互作用が天然に起こるか否か、試料の形成時に、好ましくは単層で細胞によって維持されるか否かを決定することができる。特に、当業者は当該分野でよく知られた方法を用いることができる。特に、細胞間相互作用は、検出可能な標識および/または色素、特に生存性色素を添加した際に維持される。細胞試料、好ましくは単層の形成後、細胞間相互作用は、画像処理の前に、例えば、細胞、好ましくは単層の固定によって中断されてもよい。
【0050】
細胞の表現形態、好ましくは単層の形成後、および本発明の方法の実行時に化学物質(例えば、治療薬)の添加によって細胞間相互作用は中断されてもよく、あるいは新たに形成されてもよい。本発明の方法では、そのような変化/変動を用いて化学物質治療薬が、治療応答を予測している可能性がある細胞間相互作用に影響を及ぼすか否かを決定してもよい。これに加えて、あるいはこれに代えて、変化/変動を用いて、例えば、化学物質ライブラリーから新規な治療薬/薬物のスクリーニングを行ってもよい。本発明の好ましい一実施形態では、細胞の単層を形成する前に化学物質/試験化合物/治療薬を添加する。これは、例えば、当業者に既知の供給システム(例えばLabcyte ECHOシステム)を用いて、DMSOまたは水に溶解した化学物質/試験化合物/治療薬を含む供給用液滴の形態で前充填することで行ってもよい。また、この化学物質/試験化合物/治療薬を少量(好ましくは20μl未満、15μl未満、最も好ましくは10μl未満)の培地に溶解して、試験区画、好ましくはWO2017/191203に記載のプレートなど、多壁プレートのウェルに供給してもよい。この好ましい実施形態では、化学物質/試験化合物/治療薬の添加の後で形成された単層を固定する前に分析対称の細胞を添加して細胞、好ましくはPBMCまたは骨髄細胞の単層を形成する。そして、固定した単層を適切な色素および/または抗体で染色して、本発明に従って、例えば自動化共焦点顕微鏡を用いて分析してもよい。得られた画像に基づいて、本明細書で提供されるように細胞間相互作用の傾向を決定してもよい。本発明の方法による分析対象試料を調製する工程はこの順序が好ましく、さらに優れた有益な特性を持つことが示された。
【0051】
本発明の方法に用いられる細胞の表現形態、好ましくは単層を形成する際に維持され、本発明の方法の前に維持される細胞間相互作用は、例えば、特に、特定の病気および/または健康な提供者を示すPBMC、骨髄、または単核細胞を含む他の材料での細胞間相互作用を含む。
【表1-1】
【表1-2】
【0052】
従って、細胞マーカーを用いて天然に起こる細胞間相互作用を決定/評価/検出してもよい。細胞マーカーは、特定の種類の細胞によって発現されるタンパク質であり、単独または他のタンパク質と組み合わせて、この細胞を他の種類の細胞と識別することを可能にする。すなわち、本発明の集団の細胞に含まれる細胞(例えば、提供者から得た試料に含まれる細胞)の表面または細胞内(細胞質内または内膜内を含む)に発現した細胞マーカーを用いて、集団の細胞に含まれる細胞を識別してもよい。従って、2つ以上の識別可能な亜群の細胞は異なる細胞種に属する細胞に限定されない。むしろ、前記2つ以上の識別可能な亜群の細胞が細胞マーカー(例えば、表面に発現した細胞マーカー)で識別可能である限り、これら亜群の細胞は同じ細胞種であってもよい。そのような細胞としては、例えば、病気の段階が異なる同じ細胞種の細胞が挙げられる。すなわち、上記の表に示したマーカーを用いて天然に起こる細胞間相互作用を決定/評価/検出してもよい。例えば、特に、CD11cとCD3、CD14とCD3、CD11CとCD8、CD19とCD3という細胞マーカー対を用いて、健康な提供者を示す天然に起こる細胞間相互作用を検出してもよい。しかしながら、本発明の一実施形態では第一および第二の識別可能な亜集団は同じである。
【0053】
上記の細胞マーカーを用いて細胞の表現形態、例えば本発明の集団の細胞、好ましくは単層に含まれる細胞を検出/標識して、特定の病気を示す陽性細胞の細胞間相互作用傾向を測定する場合、細胞提供者において関連付けられる病気を診断してもよく、かつ/またはその関連付けられる病気の治療を評価してもよい。また、健康な提供者を示すマーカーを用いて細胞の表現形態、例えば本発明の集団の細胞、好ましくは単層に含まれる細胞を検出/標識する場合、これらの健康な提供者について天然に起こる細胞間相互作用を評価/決定してもよい。
【0054】
上述のように、当業者は、細胞間相互作用を決定/評価/追跡/確認する手段および方法を知っている。特に、当業者は、天然に起こる細胞間相互作用と、細胞試料の調製時に導入される細胞間相互作用とを識別することができる。従って、当業者は、同種の細胞および/または異種の細胞が生体内で相互作用していることを理解している。また、当業者は、集団の細胞に含まれる識別可能な亜群の細胞の細胞が生体内で相互作用していることを理解している。従って、細胞試料に含まれる細胞の大部分は、その天然に起こる細胞間相互作用を維持している。すなわち、細胞の大部分、特に細胞試料に含まれる細胞の少なくとも50%、好ましくは細胞試料に含まれる細胞の60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%は、生体内と同じ細胞、同じ細胞種の細胞、または同じ識別可能な亜群の細胞と相互作用する。当該分野でよく知られた方法を用いて細胞間相互作用を確認/評価/決定してもよい。例えば、共焦点顕微鏡を用いて、天然の環境で相互作用する細胞間、または天然の環境では相互作用しない細胞間で細胞間相互作用があるか否かを確認/評価/決定してもよい。このような非天然の細胞間相互作用は、特に、細胞塊による場合がある。
【0055】
本発明の方法は、集団の細胞/単層に含まれる各識別可能な亜集団の細胞における数および観察された細胞間相互作用の変化/変動を制御し、これにより全体の細胞密度での細胞毒性および/または細胞成長を制御する。本発明の方法は、当該分野で理解される付着細胞株を分析する他の方法、すなわち細胞のクローン密度、クローン増殖、または細胞株単層の発達の分析を決定する他の方法と等価ではない。むしろ、本発明の方法に用いられる試料は、1種以上の他の細胞と直接接触しているが必ずしも培養物表面に付着していない細胞を主に含む高密度の培養物を含んでいてもよく、あるいは試料、好ましくは単層内のほんのわずかな細胞が試料、好ましくは単層内の他の細胞と直接物理的に接触している低密度の培養物を含んでいてもよい。本発明の方法を中間密度の付着細胞および/または非付着細胞を含む試料に用いてもよい。この試料には、細胞が1種以上の細胞と接触している個別の領域と、細胞が他の細胞と接触してない他の領域がある。従って、本発明の方法は、さらに適合させることなく、広範囲の種類の細胞試料に用いられる固有の手段を提供する。従って、本発明の方法を広範囲の用途に用いることができる。これは当該分野で既知の方法に比べて大きな利点である。本発明の方法は特定の試料に対してさらに適合させる必要が全く、あるいはほとんどないので、本発明の方法は従来の方法よりもコスト面および時間面での効率が高い。
【0056】
具体的には、自動化顕微鏡を用いた病気または健康な提供者の血液あるいは骨髄に由来する複数の単層の非付着単核細胞または付着細胞および非付着単核細胞の混合物における細胞間接触を分析するのに用いられる従来の方法は、例えば、WO2016/046346などの従来技術に記載されている。手短に言うと、細胞を処理して非付着細胞からなる単層または付着細胞および非付着単核細胞の混合物にし、所定の時間刺激に曝して、固定し、蛍光標識試薬で染色して、蛍光標識抗体など目的の特性を持つ細胞を同定する。また、WO2016/046346に記載の、細胞、特にPBMCまたは骨髄細胞の単層を提供する新規な本発明の方法を本発明に用いて分析対象の細胞の好適な画像処理試料を提供してもよい。しかしながら、本発明は好適な試料の提供よりもそのような画像分析に注目したものである。しかしながら、単核細胞の単層を調製する上記の方法とは異なり、安定した細胞環境を維持するWO2016/046346に記載の系を用いることで生理学的に適切な細胞間接触を維持する。WO2016/046346に記載の分析方法を用いた場合、閾値を規定することで細胞間接触は単層の顕微鏡画像から推測される。2個の細胞が設定した閾値よりも近ければ、これらは相互作用していると見なし、逆の場合はしていないと見なす。他の細胞と接触している細胞の数は、単核細胞単層の顕微鏡画像中の細胞総密度に依存している。さらに、2個のはっきりと識別可能な細胞種AとBの間の相互作用を分析する場合、B細胞と接触しているA細胞の数は試料全体のA細胞とB細胞の割合およびそれらの相対割合にも依存している。従って、顕微鏡画像でB細胞と接触している細胞を単純に数えても生物学的情報はほとんど得られない。細胞種A、B間の相互作用に関する本来の傾向(すなわち、細胞に関連づけられた生物学的特性による細胞間相互作用の傾向)を測定するには、B細胞に接触している細胞の数を細胞総密度と試料中のA細胞およびB細胞の分率に対して正規化する必要がある。従来の技術は、式Obs=(少なくとも1個のB細胞に隣接するA細胞の数)÷(A細胞の数)を用いてこれを達成している。ここで、Fi=(少なくとも1個の隣接細胞を持つ細胞の数)÷(全細胞の数)、Fa=(A細胞の数)÷(全細胞の数)、かつFb=(B細胞の数)÷(全細胞の数)である。よって、E=Fa*Fb*Fiであり、正規化された相互作用値はObs/Eの分率として計算される。典型的には、この分率のlog2が細胞種A、B間の相互作用に関する本来の傾向の計測値として得られる。分析される画像の細胞総密度が低く(細胞あたり1個の相互作用する細胞)、実験全体のFaおよびFbの変化が限定されている場合、従来の技術のこの方法により細胞密度(Fi)および相互作用する細胞種の分率(FaおよびFb)の変化は堅牢に正規化される。しかしながら、細胞密度が高い(細胞あたり相互作用する細胞が1個より多い)場合、および実験の過程を通してFaの変化が大きいと予測される場合(実施例3および4)、相互作用値は不正確さが増していく。本発明の方法を提供することでこの欠点が克服される。従って、本発明の方法は広範囲の試料、特に高細胞密度の試料および/または相対的な集団の細胞の変化を受ける試料に用いるのに好適である。
【0057】
特に、この技術的問題を解決するため、観察されたA種の細胞とB種の細胞との相互作用Iobs(A->B)の総数を数える。AおよびBは2つの識別可能な亜集団の細胞であり、相互作用は特定の閾値よりも近い2個の細胞として定義される。分析される細胞の総数は、A種の細胞の数とB種の細胞の数に、A種またはB種のいずれでもない細胞の数を加えたものである。
【0058】
従って、I
obs(A-B)を無作為I
rand(A-B)で除して、I
rand(A-B)により起こると予測される相互作用に対してI
obs(A-B)を正規化する。従って、本発明の方法では、AとB(すなわち第一および第二の識別可能な亜集団)間の相互作用の数が本明細書で記載の方法により決定される。第二の工程では、集団の細胞を亜群AまたはBの何れかに無作為に割り当てることで、相対的な出現に基づいて理論的に予測されるAとB(すなわち第一および第二の識別可能な亜集団)間の相互作用の数が決定される。これにより、各亜群の細胞総数が同じになる。すなわち、細胞Bまでの閾値距離にある細胞Aは、その細胞および隣接する細胞を無作為に割り当てることに依存して、AまたはBのいずれかに無作為に割り当てられた後も亜群Bの細胞と相互作用していてもよく、そうでなくてもよい。従って、観察された相互作用の総数は、AとBの細胞間相互作用の傾向に応じて、亜群AまたはBに無作為に割り当てられた細胞に基づいて予測されるよりも多くてもよいし、少なくてもよい。細胞を亜群AまたはBに無作為に割り当てて相互作用の数を信頼性高く決定するには、この工程を繰り返すのが好ましく、その結果を平均する。好ましくは、この工程を少なくとも1000回、少なくとも2000回、または少なくとも3000回繰り返す。あるいは、I
rand(A->B)は、上記の定義と同様にすべての細胞間の相互作用の総数I
totを数えることで算出されてもよく、すべての細胞中のA細胞の分率(分析されたF
A)およびすべての細胞中のB細胞の分率(分析されたF
B)を乗じたものである。従って、本発明によって測定され相互作用値(IS’)として表される相互作用の傾向は以下のように規定されてもよい。
【数1】
【0059】
閾値は、正の数として規定される。2個の細胞間の距離が閾値未満である場合、それらは相互作用していると見なされる。分析するすべての細胞について同じ固定した閾値を規定する。ここで、閾値の選択は、調査する相互作用の種類に密接に関係する。閾値が低いほど、高親和性および長期の相互作用の変化に対してより高感度である。また、閾値が高いほど、より低い親和性、従ってより過渡的な相互作用に対して高感度である。また、閾値は、細胞研究の全体的な大きさによって設定されなければならない。大きい細胞ほどより高い閾値を必要とし、小さい細胞ほどより小さい閾値を必要とする。
【0060】
用途によっては、相互作用を規定した方向に調節する陽性対照が利用できる場合、最大測定感度に繋がる最適な閾値を実験的に決定してもよい。ここで、上で規定した限界の間の閾値から合理的に選択したそれぞれについて、陽性対照と陰性対照で処理した後のIS’を算出して、陽性対照条件下でのIS’と陰性対照条件下でのIS’との差が最大になり、選択した標準偏差を最少にするような閾値を得る。典型的には、本発明の方法において、また本発明の単層の分析に選択した閾値は、分析対象の細胞の直径の約2倍の範囲内である。従って、本発明の好ましい一実施形態では、閾値は、約5μm~約35μm、より好ましくは約10μm~約20μm、さらにより好ましくは約10μm~約15μmの範囲内である。特に好ましい一実施形態では、閾値は約12μmである。すなわち、好ましい一実施形態では、第一の識別可能な亜集団の各細胞で相互作用の数は、第一の識別可能な亜集団の細胞まで約12μm未満の距離になる第二の識別可能な亜集団の細胞の数だけ増加している。この距離は、評価対象の細胞の中心から中心までを測定するのが好ましい。
【0061】
従って、本発明は、実施例3および4に示すように、細胞、特に、PBMC、骨髄、その他の付着一次単核および/または非付着一次単核、またはその他の細胞材料の顕微鏡画像に適用した際に細胞密度および/または分析する集団の細胞総数および/または亜集団の細胞総数および/または分析した亜集団の相対細胞の数における変化について堅牢に正規化する、細胞間相互作用の本来の傾向を定量する方法を提供する。
【0062】
本発明の方法および/または本発明の集団の細胞、好ましくは単層を含む試料の調製に用いられる細胞、特にPBMC、骨髄、またはその他の付着一次単核および/または非付着一次単核は、健康な(すなわち、病気を発症している、あるいは病気に対する素因を持つという疑いがない)対象者から得た試料から単離してもよく、あるいは病気を発症していることが分かっている、あるいはその疑いがある対象者から得た試料から単離してもよい。対象者の病気の状態は、当業者、例えば医師によって通常行われる標準的な方法で診断されてもよい。そのような伝統的な方法は、本発明の方法で補完あるいは置換してもよい。例えば、対象者が病気を発症している、あるいはその疑いがあるか否かを決定するため、その病気を発症していると分かっている対象者由来の試料を用いてその病気に特徴的な細胞間相互作用パターンを決定する。これに加えて、あるいはこれに代えて、健康な提供者の細胞間相互作用パターンを用いて、その病気によると思われる違いを決定してもよい。本明細書では、細胞間相互作用パターンは、本発明によって決定された1種以上の異なる細胞種間の相互作用の傾向を言う。
【0063】
従って、本発明は、病気が治療薬に反応するか、あるいは反応性を持っているかを決定する診断法に用いられる方法を提供する。例えば、健康な提供者由来の細胞間相互作用パターンを基準に用いて、病気の対象者に対して決定された細胞間相互作用パターンと比較してもよい。治療薬を添加した後、細胞間相互作用パターンの変化/変動を用いて全体の細胞間相互作用パターンが基準として用いた健康な対象者の細胞間相互作用パターンに対して変更/変化しているか否かを決定してもよい。これに代えて、あるいはこれに加えて、治療薬を添加した後、細胞間相互作用パターンの変化/変動を用いて、全体の細胞間相互作用パターンが治療薬の作用機序から予測される細胞間相互作用パターンに対して変更/変化しているか否かを決定してもよい(実施例10)。従って、本明細書で提供される方法により、単一の細胞、複数の細胞、および全体レベル(例えば集団全体の変化)での細胞応答および活性を定量することができ、従って、細胞、特にPBMCまたは骨髄の1種以上の治療薬に対する応答を評価することができる固有のシステムを提供することができる。従って、本明細書で提供される方法は、とりわけ、例えば、細胞、特にPBMCまたは骨髄が健康な対象者から得た試料から単離される場合に治療応答の評価または治療応答の尤度を提供することができる包括的なモデルとして用いられてもよい。
【0064】
好ましくは同じ病気を発症している、かつ/または同じ病気を発症する素因がある(またはその組み合わせ)2人以上の提供者から得た2つ以上の試料の単層の細胞という形態で本発明の方法または本発明の集団の細胞を用いて決定した治療応答を用いて、病気を発症している、あるいはその病気を発症する素因を持つ集団に代表的な予測基準、基線、または予測される応答を開発してもよい。これに代えて、あるいはこれに加えて、本明細書で提供される方法を診断法に用いて、細胞が単離された試料を提供した提供者が病気を発症しているか、あるいはその素因を持つか否か、かつ/またはその細胞提供者が治療薬による治療に反応するか、あるいは反応性を持つか否かを予測してもよい。本発明で記載する「病気」は、血液癌、悪性血液腫瘍、固形腫瘍癌、周辺組織に播種した固形腫瘍癌、炎症性疾患(例えば、関節炎)、アテローム性動脈硬化(病気が発症した部位またはその周辺から採取)、および病気の進行が細胞間の物理的情報交換または可溶性因子によって引き起こされる物理的情報交換によって媒介される任意の他の病気を指してもよい。
【0065】
本発明の方法を用いて個体の病気を診断するには、その個体の細胞試料中にある1種以上の細胞種の間の相互作用を測定する。これら相互作用は、病気を発症している、または病気を発症する素因を持つ個体と健康な個体で異なっている。さらに、本発明の方法を用いて特定の治療に患者が反応するか否かを決定するため、細胞試料に目的の薬物を添加したものとそうでないものとについて患者の細胞試料中の1種以上の細胞種間の相互作用を測定する。これら相互作用は、治療に反応する個体と治療に反応しない個体とで異なっている。
【0066】
例えば、リウマチ性関節炎などの病気の診断に現在の方法を用いてもよい。ここで、滑液または末梢血中の活性化B細胞(CD80+およびCD19+)とTh17細胞(CD3+およびCD28+)との相互作用の傾向を定量して、病気の診断、重症度、および病気に及ぼす薬物の効果を測定してもよい。これら活性化細胞の相互作用が近い程、リウマチ性関節炎について陽性と診断される可能性が高い。同じことを慢性反応性関節炎などの病気について行ってもよい。この病気は、細菌感染後の二次殺菌炎症に分類され、細菌性病原体を除去した後に滑液中の単球(CD14+)とT細胞(CD3+)との相互作用を定量して診断してもよい。最後の例として、血液中での常在の炎症性単球(CCR2-、CD16+)と患者の内皮細胞(CCR5+)との空間的な相互作用を決定してアテローム性動脈硬化を診断してもよい。この方法を用いてこれら病気のすべての追跡、重症度の決定、および薬物効果の定量を行ってもよい。
【0067】
本明細書で提供される方法を用いた画像内の細胞の治療応答分析は、提供者で試験した治療に対する病気の状態の応答を予測するものである。この点で本発明の方法は、当該分野で利用可能な現在の方法よりも利点がある。例えば、本明細書で提供される方法を血液癌にかかった患者由来の非付着材料の画像に適用すると、正常細胞の空間的な解像度だけでなく、病気の細胞、例えば、異常な表現型または遺伝型を持つ、あるいは病気の状態を表す細胞(例えば、健康な個体で予測される濃度に対して高いか低い濃度を持つ)の空間的な解像度も定量される。
【0068】
従って、本明細書で提供される方法を用いて、治療薬の添加後に画像内の細胞の関係を追跡してもよい。これは、治療薬の免疫調節能の定量である。また、これらの結果から、治療薬が免疫調節に対する活性を持つか否か、また患者の治療のために臨床に移せるか否かを決定することができる。
【0069】
本発明の方法で用いられ、本発明の集団の細胞、好ましくは単層に含まれる細胞の大部分は生理学的に適切な状態で観察される。これは、好ましくは細胞の60%、70%、80%、90%、95%、または100%が生理学的に適切な状態にあることを意味する。本発明の方法で用いられ、本発明の集団の細胞、好ましくは単層に含まれる細胞の上記百分率は、当該分野でよく知られた方法を用いて決定/測定/評価される。特に、細胞試料が生理学的に適切な状態で観察される細胞を含むか否かは、細胞試料/単層に含まれる細胞の定量により決定される。これは当該分野でよく知られた方法を用いて行ってもよい。特に、基準試料中の細胞と比較した画像分析により定量してもよい。この基準試料は、例えば、1つまたは複数の基準個体(例えば、1人以上の健康な提供者)の末梢血または骨髄であり、細胞試料、特にPBMCまたは骨髄細胞試料は病気の提供者由来のものである。細胞の定量は、標準的な診断手段である。細胞試料、特にPBMCおよび/または骨髄細胞に含まれる亜集団の細胞の閾値は、健康な提供者および病気の提供者について十分に裏付けされている。従って、本発明の手段および方法を用いて評価する試料中の差に基づき、生理学的適切性を決定してもよい。造血細胞に含まれる亜集団の細胞の裏付けは、例えばHallek et al. (2008)Blood 111(12)に見られる。従って、例えば、顕微鏡を用いた細胞間相互作用の決定など、定量およびさらなる手段と方法により、細胞試料が生理学的に適切な状態を示しているか否かを決定することができる。
【0070】
本発明の好ましい一実施形態では、細胞は単層の形態で分析される。特に、単層は、本発明の方法の前に形成され、これによって集団の細胞、特にPBMC集団および/または骨髄集団に対して画像処理および/または顕微鏡分析を行うことができる。従って、本明細書で用いられる単層は、画像処理装置(例えば、当該分野で既知または本明細書で記載の顕微鏡または自動化カメラ)の同一焦点面内に主に観察される単層の細胞を意味する。用語「単層」は、この層内の細胞が主に二次元の培養物を形成する、すなわち、この培養物は主に単層の単細胞であることを意味する。すなわち、この培養物内で、細胞の大部分は、他の細胞の表面または上に観察されず、凝集体(例えば、他の細胞の表面または上にある細胞を含むことによりこの層の単細胞の上にある細胞群からなる)内に観察されない。従って、本発明の意味するところの細胞単層、特にPBMC単層は、好ましくは、細胞、特にPBMC細胞の水平層を含み、この水平層は一個の単細胞、特にPBMCの高さの厚みを有する。同様に、本発明の意味するところの骨髄細胞単層は、好ましくは、単一骨髄細胞の高さの厚みを有する一水平層の骨髄細胞を含む。本明細書で用いられる用語「単層」は、培養容器内で細胞凝集体または多層構築物(すなわち、1個の細胞、特にそれぞれPBMC細胞または1個の骨髄細胞よりも高さのある細胞培養物がある領域)または細胞のない領域が観察されることを排除しない。むしろ、この用語を用いて、本発明の培養物は、(例えば顕微鏡法により)画像処理可能あるいは可視化領域が単層の細胞からなることを意味する。これは、ほとんどの場合、細胞培養物表面の単層の細胞を提供することで容易に達成される。しかしながら、当業者には自明だが、本発明の方法に細胞試料の他の形態を用いてもよい。すなわち、細胞間相互作用を定量することができる限り、任意の細胞の表現形態を本発明に用いてもよい。
【0071】
分析対象の非付着細胞、例えば、PBMCまたは骨髄細胞の場合、そのような細胞は典型的には細胞培養物の表面との強い接触や細胞間の強い接触を形成しないことが知られている。従って、本発明で用いられる細胞単層、特に本発明の様々な態様で用いられるPBMC単層は、当該分野で理解される単層の付着細胞と必ずしも等価であると見なされない。すなわち、本発明で用いられる単層の細胞は、しっかりと付着し、均等に広がり、培養物表面の大部分を覆う細胞の層を含む。むしろ、実施形態によっては、細胞単層、特に本発明の様々な態様で用いられるPBMC単層は、1種以上の他の細胞と直接接触するが必ずしも培養物表面に付着していない細胞を主に含む高密度の培養物を含んでいてもよく、あるいは細胞は単層内にあるが培養物中のいかなる他の細胞とも(物理的に直接)接触していない低密度の培養物を含んでいてもよい。また、本発明の特定の態様で用いられる細胞単層は、細胞が1種以上の細胞と接触する個別の領域と、細胞が他の細胞と接触しない他の領域とがある中程度の密度の培養物を含んでいてもよい。
【0072】
態様によっては、本発明は、病気を発症しているか、あるいは発症する素因を持っている対象者が治療薬および/または医薬組成物による治療に反応するか、あるいは反応性を持っているかを決定する方法に関する。前記治療薬および/または医薬組成物は、個体の病気、特に、悪性血液疾患、および/または骨髄および/またはリンパ組織の悪性腫瘍または炎症性疾患や自己免疫疾患など免疫系に影響を及ぼす病気の治療に用いられる化合物を含み、前記治療薬および/または医薬組成物は少なくとも2種以上の試験化合物から選択され、前記少なくとも2種以上の試験化合物のそれぞれは以下の工程を含むアッセイで一集団の細胞で試験される。前記アッセイは、(a)前記集団の細胞に含まれる第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定する工程、(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記集団の細胞における相互作用の数を決定する工程(ここで、第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである)、(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程(ここで、傾向は得られた数字につれて高くなる)、および(d)前記治療薬を添加する前の傾向と前記治療薬を添加した後の傾向を比較することで前記対象者が前記治療薬に反応するか、あるいは反応性を持っているかを決定して、細胞間相互作用の傾向の変化を決定する工程を含み、前記アッセイは前記少なくとも2種以上の試験化合物のそれぞれについて繰り返され、治療のために/前記医薬組成物の成分として細胞間相互作用の傾向を減少あるいは増加させる化合物が選択される。
【0073】
また上記方法を新規な治療薬/薬物のスクリーニング方法として用いてもよい。すなわち、本発明の一実施形態では1種以上の試験物質の添加による一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向の変化を決定することで治療薬または医薬組成物が選別されるスクリーニング方法が提供される。前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記方法は、(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定すること、(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記集団の細胞における相互作用の数を決定すること(ここで、第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数は(a)の第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである)、(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定すること(ここで、傾向は得られた数字につれて高くなる)、および(d)試験化合物の添加前と試験化合物の添加後の傾向を比較してこれにより試験化合物が細胞間相互作用の傾向を変更/変化させたか否かを決定して細胞間相互作用の傾向の変化を決定することを含む。前記少なくとも2種以上の試験化合物のそれぞれに対して前記アッセイを繰り返し、前記細胞間相互作用の傾向を減少または増加させる試験化合物を治療薬/医薬組成物として選択する。好ましくは、同じ集団の細胞の異なる画分を用いて傾向の変更/変化を測定して、試験化合物を添加する前後の相互作用の数を決定する。これは、特に細胞試料の単層が用いられる場合に有用であり、単層は分析の前に固定される。
【0074】
検出可能な標識/マーカー/色素を用いて、単層に含まれる細胞の生存率および/または細胞間相互作用を決定し、かつ/または生存率および/または細胞間相互作用の変化を決定/評価/追跡/確認することができる。このような標識/マーカー/色素は本発明の単層に含まれる1つ以上の亜集団に特異的であってもよい。そのような特異的な標識/マーカー/色素を用いる場合、これらは様々な病気で役割を果たす細胞種に対して選択されてもよく、かつ/または病気、特に悪性血液疾患、および/または骨髄および/またはリンパ組織の悪性腫瘍において生物学的機能を持つことが知られている。
【0075】
従って、特定の態様で、本発明は、病気を発症しているか、あるいは発症する素因を持っている対象者から得た一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向の変化を決定して前記対象者が病気の治療に用いられる化合物を含む治療薬および/または医薬組成物による治療に反応するか、あるいは反応性を持っているかを決定する方法に関する。前記一集団の細胞は、少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記方法は、(a)前記対象者から得た細胞試料に含まれる第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定すること、(b)前記細胞試料に含まれる細胞を前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記細胞試料中での相互作用の数を決定すること(ここで、第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである)、(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定すること(ここで、傾向は得られた数字につれて高くなる)、および(d)前記治療薬を添加する前の傾向と前記治療薬を添加した後の傾向を比較することで前記対象者が前記治療薬に反応するか、あるいは反応性を持っているかを決定して、細胞間相互作用の傾向の変化を決定することを含む。一例示的な実施形態では、第一および第二の識別可能な亜集団はそれぞれ、CD3陽性細胞およびCD34陽性細胞、またはCD34陽性細胞およびCD3陽性細胞である。好ましくは、同じ細胞試料の異なる画分を用いて傾向の変更/変化を測定し、試験化合物を添加する前後の相互作用の数を決定する。これは、特に単層の細胞試料を用いる場合に有用であり、この単層は分析の前に固定される。
【0076】
本明細書または本発明の医薬組成物に用いられる治療薬は、少なくとも2種以上の試験化合物から選択される化合物を含む。試験化合物は、医薬品としての使用に好適である限り特に限定されない。しかしながら、前記試験化合物は、病気の治療、特に悪性血液疾患、および/または骨髄および/またはリンパ組織の悪性腫瘍、炎症性疾患、および自己免疫疾患に有効であることが分かっている化合物から選択されることが好ましい。そのような病気の治療に有効であると分かっている化合物は、化学化合物および生物学的化合物(例えば、抗体)を含む。そのような病気の治療に有効であると分かっている化合物としては、これらに限定されないが、以下のものが挙げられる:アレムツズマブ、アナグレリド、三酸化ヒ素、アスパラギナーゼ、ATRA、アザシチジン、ベンダムスチン、ブリナツモマブ、ボルテゾミブ、ボスチニブ、ブレンツキシマブ・ベドチン、ブスルファン、セプレン、クロラムブシル、クラドリビン、クロファラビン、シクロホスファミド、シタラビン、ダサチニブ、ダウノルビシン、デシタビン、デニロイキンジフチトクス、デキサメタゾン、ドキソルビシン、デュベリシブ、EGCG=没食子酸エピガロカテキン、エトポシド、フィルグラスチム、フルダラビン、ゲムツズマブオゾガマイシン、ヒスタミン二塩酸塩、ホモハリングトニン、ヒドロキシ尿素、イブルチニブ、イダルビシン、イデラリシブ、イホスファミド、イマチニブ、インターフェロンα-2a(組換え型)、インターフェロンα-2b(組換え型)、静脈注射用免疫グロブリン、L-アスパラギナーゼ、レナリドミド、マシチニブ、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、ミドスタウリン、ミトキサントロン、MK-3475=ペムブロリズマブ、ニロチニブ、ペグアスパラガーゼ、ペグインターフェロンα-2a、プレリキサホル、ポナチニブ、プレドニゾロン、プレドニゾン、R115777、RAD001(エベロリムス)、リツキシマブ、ルキソリチニブ、セリネクソール(Selinexor, KPT-330)、ソラフェニブ、スニチニブ、サリドマイド、トポテカン、トレチノイン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ボリノスタット、ゾレドロナート、ABL001、ABT-199=ベネトクラックス、ABT-263=ナビトクラックス、ABT-510、ABT-737、ABT-869=リニファニブ、AC220=キザルチニブ、AE-941=ネオバスタト、AG-858、AGRO100、アミノプテリン、アスパラギナーゼエルウィニアクリサンチミー、AT7519、AT9283、AVN-944、バフェチニブ、ベクツモマブ、ベスタチン、ベータアレチン、ベキサロテン、BEZ235、BI 2536、ブパルリシブ(BKM120)、カルフィルゾミブ、カルムスチン、セリチニブ、CGC-11047、CHIR-258、CHR-2797、CMC-544=イノツズマブオゾガマイシン、CMLVAX100、CNF1010、CP-4055、クレノラニブ、クリゾチニブ、エラグ酸、エルサミトルシン、エポエチンゼータ、エプラツズマブ、FAV-201、ファブド(FavId)、フラボピリドール、G4544、ガリキシマブ、マルトール酸ガリウム、硝酸ガリウム、ギビノスタット、GMX1777、GPI-0100、Grn163l、GTI 2040、IDM-4、インターフェロンアルファコン-1、IPH 1101、ISS-1018、イクサベピロン、JQ1、レスタウルチニ、メクロレタミン、MEDI4736、MGCD-0103、MLN-518=タンヅチニブ、モテキサフィンガドリニウム、天然αインターフェロン、ネララビン、オバトクラックス、オビヌツズマブ、OSI-461、パノビノスタット、PF-114、PI-88、酪酸ピバロイルオキシメチルエステル、ピクサントロン、ポマリドミド、PPI-2458、プララトレキセート、プロロイキン、PU-H71、ラノラジン、レバスチニブ、サマリウム(153sm)レキシドロナム、SGN-30、骨格標的放射線治療(Skeletal targeted radiotherapy)、タセジナリン、タミバロテン、テムシロリムス、チオグアニン、トロキサシタビン、ビンデシン、VNP 40101M、ボラセルチブ、XL228、ヒドロキシクロロキン(Plaquenil)、レフルノミド(Arava)、メトトレキサート(Trexall)、スルファサラジン(Azulfidine)、ミノサイクリン(Minocin)、アバタセプト(Orencia)、リツキシマブ(Rituxan)、トシリズマブ(Actemra)、アナキンラ(Kineret)、アダリムマブ(Humira)、エタネルセプト(Enbrel)、インフリキシマブ(Remicade)、セルトリズマブ、ペゴル(Cimzia)、ゴリムマブ(Simponi)、トファシチニブ(Xeljanz, Xeljanz XR)、バリシチニブ、セレコキシブ(Celebrex)、イブプロフェン(処方用量)、ナブメトン(Relafen)、ナプロキセンナトリウム(Anaprox)、ナプロキセン(Naprosyn)、ピロキシカム(Feldene)、ジクロフェナク(Voltaren, Diclofenac Sodium XR, Cataflam, Cambia)、ジフルニサル、インドメタシン(Indocin)、ケトプロフェン(Orudis, Ketoprofen ER, Oruvail, Actron)、エトドラク(Lodine)、フェノプロフェン(Nalfon)、フルルビプロフェン、ケトロラク(Toradol)、メクロフェナマート、メフェナム酸(Ponstel)、メロキシカム(Mobic)、オキサプロジン(Daypro)、スリンダク(Clinoril)、サルサラート(Disalcid, Amigesic, Marthritic, Salflex, Mono-Gesic, Anaflex, Salsitab)、トルメチン(Tolectin)、ベタメタゾン、プレドニゾン(Deltasone, Sterapred, Liquid Pred)、デキサメタゾン(Dexpak, Taperpak, Decadron, Hexadrol)、コルチゾン、ヒドロコルチゾン(Cortef, A-Hydrocort)、メチルプレドニゾロン(Medrol, Methacort, Depopred, Predacorten)、プレドニゾロン、シクロホスファミド(Cytoxan)、シクロスポリン(Gengraf, Neoral, Sandimmune)、アザチオプリン(Azasan, Imuran)、およびヒドロキシクロロキン(Plaquenil)。
【0077】
以下の表は、既知の薬物と疾患の関係と、第一および第二の識別可能な亜集団の細胞を選択するのに用いることができる細胞マーカーを含む。また、この表は、それぞれの薬物によって誘導される細胞の傾向の変動/変化を示している。従って、本発明の方法ではそのような組み合わせを直接実施してもよい。
【0078】
表II:患者が特定の治療に反応するか否かを決定するのに用いることができるマーカー1およびマーカー2によって規定された細胞間相互作用の傾向に及ぼす免疫調節薬物の影響
【表2-1】
【表2-2】
【0079】
分析対象の試料、特に各単層に含まれる細胞の生存率は、当該分野でよく知られた方法で決定/評価/確認してもよい。すなわち、当業者は、例えば、細胞が生存能力を持っているか、生きているか、死んでいるか、あるいはその段階を変化させる過程(例えば、アポトーシスまたは壊死などの死)を受けているかなど、細胞の段階を決定/評価/確認する方法を知っている。従って、本発明の方法において具体的には、細胞が特定の段階にあることを認識/標識する既知のマーカー/色素を用いてもよい。これは、損傷のある膜を持つ細胞に対して選択可能な色素/標識、または後期細胞死または初期アポトーシスに対して選択可能な色素/標識を含む。例えば、固定可能な生細胞/死細胞用緑色(ThermoFisher、カタログ番号L-23101)を用いてもよい。これは、シトクロムCに対する抗体で、色素を用いてDNAの代謝回転または細胞増殖を決定する。さらに、本発明/本発明の集団の細胞、特に単層の形態で用いられる細胞試料に含まれる細胞の生存率を決定/評価/確認する手段および方法は当業者に知られている。
【0080】
当該分野でよく知られた方法を用いて細胞試料、特に単層、特にPBMC単層または骨髄細胞単層に含まれる2つ以上の識別可能な亜集団の生存率および/または細胞間相互作用の変化を決定/追跡/評価/確認してもよい。例えば、顕微鏡を用いて光学的知覚により変化を決定/追跡/評価/確認してもよい。しかしながら、高処理量の用途では、単層に含まれる個々の亜集団の生存率および/または細胞間相互作用の変化を決定/追跡/評価/確認する自動化された方法を用いるのが好ましい。このような方法は、例えば検出可能な標識によって細胞試料、好ましくは単層に含まれる亜集団を同定することを含む。従って、標識/検出された亜集団が細胞間相互作用を示すか否かを決定してもよく、細胞間相互作用は(上記のような)細胞膜を介した直接接触あるいは間接接触を含む。従って、距離パラメータ、すなわち、上で規定した標識細胞間の閾値を導入する。この閾値により、相互作用の総数、すなわち、標識細胞間で観察される細胞間相互作用の数を決定する。この手順では、1つの識別可能な亜群の1個の標識細胞は、第二の識別可能な亜群の1個以上の細胞と相互作用している場合があり、それぞれの相互作用を数える。得られた数と、無作為分布関数、すなわち、無作為細胞間相互作用により予測された数とを比較する。次いで、本発明の方法、すなわち、相互作用が無作為であるか割り当てられたものかを決定する相互作用値を用いて相互作用の傾向を算出してもよい。このような試験規約に従って、1種以上の試験物質を本発明の細胞試料に添加する前後の1種以上の試験化合物による細胞間相互作用の変化を決定/追跡/評価/確認することができる。
【0081】
従って、本発明は、生理学的に適切な多集団の細胞試料、特に画像処理研究で一次造血試料を用いて高処理量で1)~4)を決定する方法を提供する。1)生体外の細胞集団の診断あるいは単細胞分析に基づく全体レベルでの他のマーカーに及ぼす化学療法/免疫治療法/免疫抑制療法の効果、2)患者の試料において生体外での予測的化学療法を提供するこの技術の能力、3)免疫機能に及ぼす多くの、または1つの刺激(例えば、薬物)の効果を決定するこの技術の能力、および4)治療の評価でのパターンを決定する経時的な多くの患者データ集合の積算。原則として、本発明の方法では、血液、骨髄、胸水、脾臓破砕物(homogenate)、リンパ組織破砕物、皮膚破砕物由来の単核細胞など、任意の細胞試料を用いてもよい。しかしながら、単核細胞を用いるのが好ましい。当業者には自明だが、本発明の方法に用いられる単核細胞試料は、特に、PBMCおよび骨髄細胞やその他のものを含む。従って、本明細書で提供され、本発明の方法で用いられる細胞試料、好ましくは単層の一次単核細胞は、PBMCおよび/または骨髄細胞を含んでいてもよい。すなわち、本明細書で提供される手段および方法は、一般の細胞またはPBMCについて記載されており、当業者であれば自明であるが、同じ手段および方法は骨髄細胞やさらなる細胞に対して提供される。従って、骨髄細胞を用いた方法、骨髄細胞提供者が病気を発症しているか、あるいは病気を発症する素因を持っているかを決定する方法、骨髄提供者の病気または病気の素因を診断する方法、および病気を発症しているか、あるいは発症する素因を持っている対象者が骨髄細胞の使用を含む治療薬による治療に反応するか、あるいは反応性を持つか否かを決定する方法が本明細書で提供される。さらに、他の造血細胞(例えば、骨髄細胞)について本明細書で提供される薬物をスクリーニングする方法、および他の方法も開示される。
【0082】
この点に関して、骨髄は骨の内側にある柔軟性のある組織である。ヒトの赤血球は、造血として知られている過程で骨髄の中心部で作られる。白血病など特定の形態の癌を含む骨髄の病気によっては骨髄移植を行って治療してもよい。また、骨髄幹細胞を機能的神経細胞に形質変換したものもまた、炎症性腸疾患の病気の治療に用いられてもよい。従って、骨髄細胞は、例えば、炎症性腸疾患などの癌性疾患または炎症性疾患など、様々な病気の治療における有益な標的である。従って、提供者から得た骨髄試料を用いる本明細書で提供される方法は、提供者が病気を発症しているか、あるいは病気を発症する素因を持っているかを評価/決定するのに非常に有用である。また、骨髄細胞を用いる本明細書で提供される方法は、高処理量薬物スクリーニングなどにおいて様々な利点がある。
【0083】
染色可能で画像処理可能な単層を形成するのに付着細胞(マクロファージ、HeLaなど)を必要とする定説は、WO2016/046346で単層を提供することで克服された。本明細書に記載された単層以前には、化学療法誘導分子(生体指標)変化、癌性芽細胞の生存率評価、および細胞間接触、特に病気の状態が非付着細胞(例えば、血液系疾患またはリンパ腫および白血病の疾患)に現れている、あるいは反映されている場合の高処理量での決定に対して、複数の研究グループは一次患者試料での画像による単細胞スクリーニング技術を実行することができなかった。この問題を解決するため、WO2016/046346の発明者らは、手段および方法の他、「医薬観察法(pharmacoscopy)」という手法および画像分析データ処理経路を提供した。これにより、単一画像での付着細胞および非付着細胞の視覚化が可能になり、典型的には当該分野で既知の方法に比べて摂動当たり必要な材料が1/10になり、処理容量と速度は最大になった。医薬観察法は、既知の方法(例えばフローサイトメトリー)によって集めたのと同じ情報を提供することができるが、細胞レベルより小さい表現型(タンパク質の局在化/共局在化)および細胞微小環境/近隣関係など、有益な追加情報を提供する。また、WO2016/046346に記載の方法では、必要とされる細胞がより少なくなり、従って患者材料も液体の体積より少なくなり、かつ人がほとんど介入しない。これにより、医薬観察法は、並列で試験できる分子摂動の数を大きく増加させ、より詳細な評価を行えるようになっている。また、医薬観察法は、病気の細胞を本来健康な集団からより分ける必要がなく、並列で標的でない薬物の効果を制御しながら薬物媒介による生体指標の変化を追跡することができる。これらの重要な制御は、同じウェルに存在する同じ提供者からの健康な細胞の細胞間相互作用パターンを同じ画像処理視野で追跡することで細胞間相互作用のパターンおよび標的された集団の細胞の生体指標分析に対して行うことができる。本発明の方法は、WO2016/046346の手法を用いているが、さらなる予期しない大きな利点を含んでいる。特に、今では、集団の細胞で変化を受けている細胞試料(例えば、細胞が実験中に死亡した場合)および高細胞密度の細胞試料をより信頼性のある方法で分析することが可能である。
【0084】
本発明の方法を用いて、患者の血液試料内での薬物で誘導された細胞レベルより小さい生体指標および単細胞生体指標の変化の分析から、個々の患者に合わせて臨床治療転帰を予測することができる。基礎研究に加えて、医療専門家および外来診療所にとってこの技術を標準化し、完成させ、利用可能とすることは、とりわけ、個別化医薬品、予測薬理学、薬物スクリーニング、および治療の評価に有益である。
【0085】
従って、従来の技術と比較して、本明細書で提供される方法は、WO2016/046346に記載の方法よりも広い様々な用途で用いることができる。例えば、個別化医薬品、薬物スクリーニングのプログラム、一般薬物のスクリーニング、個別化薬物のスクリーニング、薬物応答の評価、薬物の免疫特性の評価、治療の評価、治療の有効性の確認、治療応答の予測、高細胞密度の細胞試料および/または細胞試料に含まれる細胞の数が変化している細胞試料の集団(薬物)応答などが挙げられる。従って、本明細書で提供される手段および方法はまた、薬物のスクリーニング、薬物の発見、個別化(すなわち、対象者/患者/個体に関連した)薬物の発見またはスクリーニングも行うことができる。例えば、一般に、本明細書で提供される健康な患者と病気の患者の細胞、特にPBMCまたは骨髄での薬物の発見および/または薬物のスクリーニングを用いて比較してもよい。また、本明細書で提供される手段および方法において、本発明の単層の出発材料としてプールされた細胞試料、特にPBMC試料または骨髄試料を用いてもよい。個別化薬物の発見では、本発明によって用いられる本発明のPBMC単層の出発材料として、対象者/個体/患者の個々のPBMC試料を用いることが好ましい。
【0086】
本発明の方法を用いて、患者、特にPBMC試料または骨髄試料から得た単一試料に由来してもよい多数の単層を用いて、多数の摂動を効率的かつ素早く検査してもよい。典型的には、1000種、少なくとも4000種、少なくとも8000種、少なくとも12000種、少なくとも16000種、少なくとも20000種、少なくとも24000種、少なくとも50000種、少なくとも75000種、90000種、あるいはそれ以上の化合物の効果をこのような単一試料から得た複数の単層で検査してもよい。特定の実施形態では、ハイコンテントデータの複数のチャネルを同時に用いて本明細書で提供される単層を画像処理して、分析してもよい。利用できるデータチャネルの数は、特に画像処理ソフトウェアと急速に発展する分野である利用可能な染色方法にのみ依存している。現在利用可能な方法により、少なくとも2つ、より典型的には、4、5、または8つのハイコンテントデータのチャネルで同時に画像処理、処理、および分析を行うことができる。
【0087】
末梢血単核細胞(PBMC)は丸い核を持つ血液細胞(単球;葉状の核に対して)である。PBMCは、リンパ球(B細胞、T細胞(CD4陽性またはCD8陽性)、およびNK細胞)、単球(樹状細胞およびマクロファージ前駆体)、マクロファージ、および樹状細胞を含む。これらの血液細胞は、感染と戦い侵入者に適応する免疫系の主要成分である。本発明の実施形態の文脈によっては、本発明のPBMC単層を作成するため、あるいはPBMC単層を含む細胞培養装置または本発明のいくつかの態様で提供される方法に使用するために、フィコールの密度勾配で精製したPBMC、好ましくはヒトPBMCを用いるのが好ましい。本発明は任意の単核細胞と共に用いてもよい。好ましい一実施形態では、本発明は、決定だけに限定されないが、以下の細胞群内の細胞および末端細胞状態を含む細胞の系統内の細胞内での相互作用値を決定することができる。そのような細胞群としては、造血幹細胞が挙げられ、これらに限定されないがリンパ球系共通前駆細胞、骨髄球系共通前駆細胞、およびその成熟系統と末端状態(前駆B細胞、B細胞、二重陰性T細胞、陽性T細胞、血漿B細胞、NK細胞、単球(マクロファージ、樹状細胞を含む))を含む。これらは、末梢血、骨髄(局所化扁平骨)、臍帯血、脾臓、胸腺、リンパ組織、および胸膜液などの病気の結果溜まった任意の流体中に観察される場合があるが、これらに限定されない。細胞は、健康な状態あるいは病気の状態のいずれであってもよい。
【0088】
当該分野で既知の方法または本明細書で記載の任意の好適な方法を用いて、本明細書で記載の方法による使用のためのPBMC細胞を全血から単離してもよい。例えば、Panda et al.によって記載された試験規約を用いてもよい(Panda, S. and Ravindran, B. (2013). Isolation of Human PBMCs. Bio-protocol 3(3): e323)。単離には密度勾配遠心分離を用いるのが好ましい。そのような密度勾配遠心分離により全血を層ごとに分離された成分、例えば、上層の血漿、その下の層のPBMC、および底部の多形核細胞(例えば、好中球および好酸球)と赤血球に分離する。赤血球、すなわち無核細胞を溶解して多形核細胞をさらに単離してもよい。そのような遠心分離に有用な共通する密度勾配液は、これに限定されないが、フィスコール(親水性多糖、例えば、Ficoll(登録商標)-Paque(GE Healthcare、スエーデン国ウプサラ)およびSepMate(登録商標)(StemCell Technologies, Inc.、独国ケルン))が挙げられる。
【0089】
当該分野で知られている任意の好適な方法を用いて、本明細書で記載の方法による使用のための骨髄細胞を骨髄から単離してもよい。特に、磁性ビーズを用いてそのような試料の他の成分から骨髄細胞を分離してもよい。例えば、MACS細胞分離試薬を用いてもよい(MiltenyiBiotec、独国ベルギッシュ・グラッドバッハ)。
【0090】
当該分野で知られているように、このような単離された培養物は小さな百分率で1つ以上の集団の他の細胞種(例えば、赤血球などの無核細胞)を含んでいてもよい。当該分野で既知であるように、かつ/または本明細書で記載するように、そのような他の集団の細胞からPBMCをさらに分離してもよい。例えば、赤血球を溶解する方法は、単離したPBMCからそのような細胞を除去するのに一般に用いられる。しかしながら、本発明の方法は、さらなる精製方法に依存しておらず、本明細書で単離されたPBMCを直接用いてもよい。従って、本明細書で開示される方法は、単離PBMCの試料中に由来する赤血球の溶解を含んでいなくてもよい。しかしながら、無核細胞(例えば、赤血球)が存在する場合、それは一般にPBMCよりも少ないと思われるが、培養物表面の下やPBMCの間に沈殿しており、画像処理に好適な単層の形成を干渉するかもしれない。従って、PBMCに対する無核細胞(例えば、赤血球)の濃度は、約500:1、より好ましくは約250:1、最も好ましくは約100:1であり、可能な限り低濃度であることが好ましい。すなわち、本明細書で開示される方法による単離PBMC試料は、PBMCに対して約100未満の無核細胞(例えば、赤血球)を含むことが最も好ましい。
【0091】
本発明の方法の実施形態によっては、および/または本発明に用いられる単層を提供するために、細胞、特にPBMCをインキュベートしてから、約100細胞/mm2(培養面積)~約30000細胞/mm2(培養面積)の密度で単離する。細胞、特にPBMCを約500細胞/mm2(培養面積)~約20000細胞/mm2(培養面積)、約1000細胞/mm2(培養面積)~約10000細胞/mm2(培養面積)、約1000細胞/mm2(培養面積)~約5000細胞/mm2(培養面積)、または約1000細胞/mm2(培養面積)~約3000細胞/mm2(培養面積)の密度でインキュベートするのが好ましい。最も好ましいのは、細胞、特にPBMCを約2000細胞/mm2(培養面積)の密度でインキュベートすることである。用語「約」は、示された値または範囲の10%以内、より好ましくは5%以内という意味である。従って、実施形態によっては、本発明の方法を用いて、密度が約100細胞/mm2(すなわち、90~110細胞/mm2(培養面積))~約30000細胞/mm2(すなわち、27000~33000細胞/mm2(培養面積))になるように培養装置で細胞、特にPBMCをインキュベートする。より好ましくは、細胞、特にPBMCを約500細胞/mm2(すなわち、450~550細胞/mm2(培養面積))~約20000細胞/mm2(すなわち18000~22000細胞/mm2(培養面積))、約1000細胞/mm2(すなわち、900~1100細胞/mm2(培養面積))~約10000細胞/mm2(すなわち、9000~11000細胞/mm2(培養面積))、約1000細胞/mm2(すなわち、900~1100細胞/mm2(培養面積))~約5000細胞/mm2(すなわち、4500~5500細胞/mm2(培養面積))、または約1000細胞/mm2(すなわち、900~1100細胞/mm2(培養面積))~約3000細胞/mm2(すなわち、2700~3300細胞/mm2(培養面積))の密度でインキュベートする。最も好ましいのは、細胞、特にPBMCを約2000細胞/mm2(すなわち1800~2200細胞/mm2(培養面積))の密度でインキュベートすることである。
【0092】
当該分野で知られている標準的な方法を用いて細胞、特にPBMCの数を決定してもよい。特に、血球計またはChan et al. (Chan et al. (2013) J. Immunol. Methods 388 (1-2), 25-32)に記載の方法を用いてPBMCの数を決定してもよい。また、当該分野でよく知られた方法を用いて骨髄細胞の数を決定してもよい。特に、血球計算を用いて骨髄細胞の数を決定してもよい。また、当該分野でよく知られた方法を用いて他の細胞を数えてもよい。
【0093】
インキュベーションは培地で行う。当業者は、細胞、特にPBMCまたは骨髄細胞の生存率を維持するのに好適な方法を知っている。しかしながら、本発明の方法に用いられる培地は特に限定されない。この点で、培地は、細胞の培養に必要な栄養素および物質を含む液体を意味する。真核細胞を培養するための液体培地は当業者に知られている(例えば、DMEM, RPMI 1640など)。培養する細胞の種類に応じて適切な培地を選択してもよい。
【0094】
例えば、PBMCまたは骨髄細胞をRPMI 1640の10%ウシ胎仔血清(FCS)中で培養してもよい。しかしながら、任意の好適な培地を選択してもよいが、培地の成分はPBMC応答および/または骨髄細胞応答に人工的に影響を及ぼさないことが分かっているものを選択する必要がある。栄養補助剤とは、細胞機能を誘導または修飾するために培地に添加される物質(例えば、サイトカイン、成長因子および分化因子、分裂促進因子、血清)のことである。栄養補助剤は当業者に知られている。真核細胞に一般に用いられる血清の一例は、牛胎仔血清である。培地には、さらにペニシリン、ストレプトマイシン、シプロフロキサシンなどの抗生物質を添加してもよい。一実施形態では、別々に個々の単位の生きた細胞材料に試験物質および/または促進剤を添加してもよい。試験物質は医薬品薬物または薬物成分であってもよい。促進剤は、細胞の維持、成長、または分化を補助する任意の物質を含んでいてもよい。特定の実施形態では、促進剤は、例えば、免疫細胞の活性化により免疫細胞に作用する物質である。免疫細胞の活性化のための促進剤は、従来技術により知られている。そのような促進剤は、ポリペプチド、ペプチド、抗体、および他の促進剤であってもよい。例えば、OKT-3、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、オリゴCPG、分裂促進因子(例えば、PWM、PHA、LPS)などが挙げられる。試験物質および促進剤を細胞培地に注入してもよい。PBMCを10%のFBS/FCS(活性化を最少にするために内毒素が低いほうが好ましいが、必ずしも必要ではない)を補充したRPMI中で培養することが好ましい。PBMC培養物は、さらにPBMC提供者由来のヒト血清を含んでいてもよい。
【0095】
本発明の意味の範囲内で用いられる用語「成長領域」は、細胞を置く培養装置内の表面を指す。本発明の意味の範囲内で用いられる「密度」は、細胞を置く培養装置内の表面の単位面積あたりの細胞量である。この培養装置は、細胞培養物、特に非細胞毒性細胞培養物に対して試験された材料と適合性がある任意の材料からなっていてもよい。そのような材料の例としては、プラスチック材料、例えば、熱可塑性プラスチック材料またはデュロプラスチック材料がある。好適なプラスチックの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエーテルエチルケトン(PEEK)、またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)がある。特に、この装置は、PBMCの培養および/または維持に好適である。当該分野で既知であり本発明に用いられる典型的な培養装置は、培養フラスコ、皿、プレート、多ウェルプレートを含む。特に有用なのが多ウェルプレートで、最少の材料要件(例えば、最少の溶媒要件)で例えば、複数の摂動について複数の培養物を個別に維持することができる。好ましい培養装置は、96ウェルプレート、384ウェルプレート、および1536ウェルプレートを含む。培養物の画像処理分析、特に、蛍光画像処理に関連して当該分野で知られているように、具体的に背景の蛍光/背景の光干渉を低減させて光の散乱を最少にし、クロストークを減少させるように設計された画像処理用の黒色の壁のプレートを用いるのが特に好ましい。培養装置を殺菌してもよい。最も好ましい一実施形態では、複数のウェルを備える多ウェル画像処理プレートが用いられる。前記ウェルの少なくともいくつかは、1つ以上の第一の側壁と底壁で形成された第一の室;1つ以上の第二の側壁で形成され、液体を導入する開口部を含み、第一の室の上に配置された第二の室;第一の室と第二の室の間に設けられ、障害阻害構造を形成する中間床を備える。前記中間床は、第一の室と第二の室の液体接続を提供する少なくとも1個の貫通孔を備え、前記貫通孔はピペットの先端を構成している。ピペットは前記貫通孔を通って第二の室から第一の室に挿入される。
【0096】
この装置は、特に自動化画像処理システムおよび分析に用いられる。従って、この装置/培養装置はそのようなシステムに用いるのに好適であることが好ましい。非限定的な一例では、この培養装置は透明であってもよい。例えば、蛍光画像処理などの画像処理に用いられる培養皿およびプレートは当該分野でよく知られており、市販されている。本発明の実践に用いられる市販の培養プレートの非限定的な一例は、Corning(登録商標)384ウェル組織培養プレート(処理済みの黒色の蓋、透明な底)(Corning Inc.、米国マサチューセッツ州)またはCorning(登録商標)384 Well Flat Clear Bottom Black Polystyrene TC-Treated Microplates(製品番号3712)。他の例はPerkin Elmer Cellcarrier(登録商標)である。
【0097】
本発明の集団の細胞、好ましくは単層の形態を当該分野で知られている任意の方法および/または本明細書で記載する任意の方法で画像処理してもよく、本明細書で提供される方法は当該分野で知られている任意の画像処理技術を用いてもよい。特定の画像処理法は重要ではなく、当業者の知識によって決定してもよい。画像処理は、色素または染色を用いてもよく、用いなくてもよく、染色された成分と染色されていない成分の両方の画像処理を含んでいてもよく、かつ/または染色が見える、あるいは見えないような条件(例えば、明視野での画像処理(蛍光染色は見えない)、UV光下(蛍光染色は見える)、あるいはこの組み合わせでの画像処理を含んでいてもよい。明視野条件での画像処理は当該分野でよく知られた標準的なもので、標準的な方法および/または本明細書で記載の方法により実行されてもよい。これに加えて、あるいはこれに代えて、本発明に従って他の標識のない画像処理を用いてもよい。そのような標識のない方法は知られており、例えば、PhaseFocus画像処理(Phase Focus Ltd、英国シェフィールド)が挙げられる。
【0098】
また、本発明の実践は検出可能な標識を前記集団の細胞、好ましくは単層、特にPBMC単層(標識のない方法に関連して、あるいは独立してのいずれか)に付加することを含んでいてもよい。この標識は顕微鏡法を用いて検出されてもよい。これら検出可能な標識は、当該分野で知られている個別の細胞構造、成分、またはタンパク質を標識してもよい。また、標識を抗体に付加して特異的に標識してもよく、これによって抗体抗原を検出することができる。好ましい一実施形態では、検出可能な標識により可視光またはUV光で標識を視覚化することができる。従って、検出可能な標識は蛍光であってもよい。多くの可視標識は当該分野で既知であり、本発明に好適である。この標識は、さらなる作用がなくても検出可能であってもよく、二次的な工程、例えば、基質の付加、酵素反応への暴露、あるいは特定の光の波長にあてた後にのみ検出可能になるものであってもよい。
【0099】
本明細書で用いられる細胞の亜集団(標的細胞)、すなわち識別可能な亜集団、特にPBMC亜集団または骨髄細胞亜集団は、標的細胞の表面または細胞内で1種以上のマーカーが発現することにより検出可能な標識によって同定されてもよい。これに代えて、あるいはこれに加えて、標的細胞の表面または標的細胞内で1種以上のマーカーが発現しないことにより亜集団を規定してもよい。1種以上のマーカー(例えば、2種のマーカー、3種のマーカー、4種のマーカーなど)が発現する、あるいは発現しないことを試験して、マーカーを発現する、あるいは発現しない細胞が実際に標的細胞(例えば、所望の亜集団の細胞の一員)であることをさらに確認することが望ましい場合がある。例えば、異なるマーカーに対する複数の抗体の「混合物(cocktail)」はそれぞれ、同じ標識または異なる標識に(直接あるいは間接に)結合していてもよい。一例として、異なるマーカーに対する抗体の混合物はそれぞれ、同じ標識に結合する結合モチーフを含んでいてもよい(例えば、それぞれ同じ二次抗体によって認識される同じ種のFcを含んでいてもよく、あるいはそれぞれビオチン化されて同じアビジン結合標識が特異的に結合していてもよい)。必要なら、2つ以上の異なる抗体または複数の抗体の混合物を用いてもよい。好ましくは、互いに区別できる少なくとも2種類の標識を用いて細胞を染色し、これによって標的細胞種の少なくとも2種類の異なるマーカーを発現する細胞を同定することができる。また、互いに区別できる少なくとも3種、4種、5種、あるいはそれ以上の異なる標識を用いて細胞を染色してもよく、これによってより多くの標的細胞種のマーカーを発現する細胞を検出することができる。必要なら、ある細胞が予め選択された数のマーカーあるいはマーカーの特定の予め選択された組み合わせを発現している場合、その細胞を標的種の細胞として同定してもよい。あるいは、ある細胞が予め選択されたマーカーを発現していない場合、その細胞を標的種の細胞として同定してもよい。また、集団内の他の細胞から標的細胞を区別することができる限り、標的細胞種のマーカーは必ずしも標的細胞に固有でなくてもよい。PBMCの場合、PBMC細胞の集団の主要成分は、樹状細胞ではCD11C、マクロファージではCD14、T細胞ではCD3(CD3を持つCD4あるいはCD8)、およびB細胞ではCD19によって表される。上記のマーカーはこれら主要クラスのPBMCの部分集団で重なっているものの、PBMCの亜集団を同定するこれらマーカーで染色することは当該分野で広く受け入れられている。さらに、本発明の方法に用いるのに好適なマーカーについてCD marker handbook(Becton, Dickinson and Co. 2010、米国カリフォルニア州)を参照してもよい。骨髄細胞に含まれる主要な細胞亜集団は、好中性後骨髄球、好中性骨髄球、分葉核好中球、正赤芽球、およびリンパ球である。
【0100】
本発明の実施において、検出可能な標識に結合させた抗体を用いることが好ましい。このような抗体により、個別の細胞構造を標的することができ、従って、(それぞれ異なる標識を担持している)そのような抗体の混合物を用いて複数の標的/細胞構造/細胞成分を同時に視覚化してもよい。単層を崩壊させないように染色は注意して行わなければならない。当業者には自明であるように、これは特に抗体型の標識を用いる場合に問題となる。というのは、通常、その使用には、正確な視覚化を干渉する、すなわち非特異的染色および/またはアッセイの「ノイズ」になる可能性がある未結合の標識を除去するために1回以上の洗浄工程が必要であるためである。従って、本発明は、染色後の洗浄要件を最少にする、あるいは不要にする検出可能な標識、特に抗体型の標識で細胞単層を染色する方法を包含している。本発明の方法は、洗浄を行わずにノイズ信号の生成を回避するような濃度で検出可能な標識を添加することを含んでいてもよい。この濃度は当該分野でよく知られた方法および/または本明細書で記載の方法で決定してもよい。従って、本発明は、抗体製造者によって推奨される濃度以上または以下で標識された抗体を用いることを包含する。
【0101】
例示的な細胞種によっては、あるマーカーが細胞内で特徴な局所化またはパターンを示していれば、細胞はそのマーカーに対してのみ陽性であると見なしてもよい。例えば、細胞骨格マーカーが細胞骨格に存在する場合にその細胞を「陽性」と見なしてもよく、細胞質染色にいくぶん分散が見られる場合は「陰性」と見なしてもよい。そのような場合、細胞を好適な条件(例えば、付着培養物)で培養して、細胞内での特徴な局所化またはパターンを確立してもよい。所定のマーカーを堅牢に検出するのに必要である可能性のある細胞骨格の構築(または他の下位細胞を組織化する過程)に好適な培養条件および時間は、当業者により容易に決定される。また、堅牢な染色の前提条件として付着培養物の必要性を低下または除去するようなマーカーを容易に選択することができる。
【0102】
タンパク質を標識するのに有用な色素は当該分野で既知である。一般に、色素は、比色分析信号、発光信号、生物発光信号、化学発光信号、リン光発光信号、または蛍光信号など、光学的に検出可能な信号を提供することができる分子、化合物、または物質である。本発明の好ましい一実施形態では、前記色素は蛍光色素である。色素の非限定的な例として、色素によっては市販されているが、CF色素(Biotium, Inc.)、Alexa Fluor色素(Invitrogen)、DyLight色素(Thermo Fisher)、Cy色素(GE Healthscience)、IRDyes (Li-Cor Biosciences, Inc.)、およびHiLyte色素(Anaspec, Inc.)が挙げられる。実施形態によっては、色素の励起波長および/または発振波長は、350nm~900nm、400nm~700nm、または450~650nmである。
【0103】
例えば、染色は、抗体、自己抗体、または患者の血清などの複数の検出可能な標識の使用を含んでいてもよい。染色は可視光および紫外光で観察可能であってもよい。染色は、着色した試薬あるいは着色した試薬を生成することができる酵素と直接または間接に結合させた抗体を含んでいてもよい。抗体が染色の成分として用いられる場合、マーカーをその抗体に直接または間接に結合させてもよい。間接結合の例としてはアビジン/ビオチン結合、二次抗体を介した結合、およびこれらの組み合わせが挙げられる。例えば、標的に特異的な抗原に結合する一次抗体と、その一次抗体またはそれに結合する分子に結合して検出可能なマーカーに結合することができる二次抗体で細胞を染色してもよい。間接結合を用いると、例えば、背景結合を低減し、かつ/または信号を増幅させることにより信号対ノイズ比を向上させることができる。
【0104】
また、染色は蛍光標識に直接または間接に結合させた(上記のように)一次抗体または二次抗体を含んでいてもよい。蛍光標識を以下のものからなる群より選択してもよい:Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 514、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 610、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 635、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、Alexa Fluor 750およびAlexa Fluor 790、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)、Texas Red、SYBR Green、DyLight Fluors、緑色蛍光タンパク質(GFP)、TRIT(テトラメチルローダミンイソチオール)、NBD(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール)、Texas Red色素、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、クレシル・ファスト・バイオレット、クレシル・ブルー・バイオレット、ブリリアント・クレシル・ブルー、パラアミノ安息香酸、エリトロシン、ビオチン、ジゴキシゲニン、5-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシフルオレセイン、TET(6-カルボキシ-2’,4,7,7’-テトラクロロフルオレセイン)、HEX(6-カルボキシ-2’,4,4’,5’,7,7’-ヘキサクロロフルオレセイン)、Joe(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシフルオレセイン)-5-カルボキシ-2’,4’,5’,7’-テトラクロロフルオレセイン、5-カルボキシフルオレセイン、5-カルボキシローダミン、Tamra(テトラメチルローダミン)、6-カルボキシローダミン、Rox(カルボキシ-X-ローダミン)、R6G(ローダミン6G)、フタロシアニン、アゾメチン、シアニン(例えば、Cy3、Cy3.5、Cy5)、キサンチン、スクシニルフルオレセイン、N,N-ジエチル-4-(5’-アゾベンゾトリアゾリル)-フェニルアミン、アミノアクリジン、および量子ドット。
【0105】
さらに、本方法の例示的な実施形態は、蛍光分子に直接または間接に結合させた抗体を用いる。そのような蛍光分子としては、臭化エチジウム、SYBR Green、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)、DyLight Fluors、緑色蛍光タンパク質(GFP)、TRIT(テトラメチルローダミンイソチオール)、NBD(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール)、Texas Red色素、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、クレシル・ファスト・バイオレット、クレシル・ブルー・バイオレット、ブリリアント・クレシル・ブルー、パラアミノ安息香酸、エリトロシン、ビオチン、ジゴキシゲニン、5-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシフルオレセイン、TET(6-カルボキシ-2’,4,7,7’-テトラクロロフルオレセイン)、HEX(6-カルボキシ-2’,4,4’,5’,7,7’-ヘキサクロロフルオレセイン)、Joe(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシフルオレセイン)-5-カルボキシ-2’,4’,5’,7’-テトラクロロフルオレセイン、5-カルボキシフルオレセイン、5-カルボキシローダミン、Tamra(テトラメチルローダミン)、6-カルボキシローダミン、Rox(カルボキシ-X-ローダミン)、R6G(ローダミン6G)、フタロシアニン、アゾメチン、シアニン(例えば、Cy3、Cy3.5、Cy5)、キサンチン、スクシニルフルオレセイン、N,N-ジエチル-4-(5’-アゾベンゾトリアゾリル)-フェニルアミン、およびアミノアクリジンが挙げられる。他の例示的な蛍光分子は以下の特許文献[例えば、米国特許第6,207,299号、6,322,901号、6,576,291号、6,649,138号(混合された疎水性/親水性重合体移動剤を量子ドットの表面に結合させる表面改質方法)、米国特許第6,682,596号、6,815,064号(合金または混合シェルの場合)を参照のこと。これら特許文献はそれぞれ引用により本明細書に組み込まれる]、および技術文書[例えば、Alternative Routes toward High Quality CdSe Nanocrystals," (Qu et al., Nano Lett., 1(6):333-337 (2001)]に記載の量子ドットが挙げられる。様々な化学的な表面性質および蛍光特性を持つ量子ドットは、とりわけ、Invitrogen Corporation, Eugene, Oreg., Evident Technologies(ニューヨーク州トロイ)、およびQuantum Dot Corporation(カリフォルニア州ヘイワード)から市販されている。量子ドットはまた、ZnSSe、ZnSeTe、ZnSTe、CdSSe、CdSeTe、ScSTe、HgSSe、HgSeTe、HgSTe、ZnCdS、ZnCdSe、ZnCdTe、ZnHgS、ZnHgSe、ZnHgTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、ZnCdSSe、ZnHgSSe、ZnCdSeTe、ZnHgSeTe、CdHgSSe、CdHgSeTe、InGaAs、GaAlAs、およびInGaNなどの合金量子ドットを含む。合金量子ドットおよびそれらを製造する方法は、例えば、米国出願公開第2005/0012182およびPCT公開WO2005/001889に開示されている。
【0106】
本発明の集団の細胞、好ましくは単層の形態を標識した後、前記方法は、検出可能な標識の信号を検出することをさらに含んでいてもよい。検出可能な標識から出る信号の種類によって、検出方法を適切に適応させてもよい。蛍光を放つ標識を検出するのに好適な検出方法を用いるのが好ましい。また検出方法は、当該分野で知られている標準的な方法により自動化してもよい。例えば、当業者により細胞の顕微鏡画像の分析および解釈を可能にする、あるいはその分析のための自動化された試験規約を確立することができる様々なコンピュータによる方法が存在する。一次画像分析では、顕微鏡画像における照射バイアスの補正、顕微鏡画像からの個々の細胞の同定、およびマーカーの強度および質感、核および細胞の直径と形状、および位置パラメータの測定を含むが、オープンソースのソフトウェアCellProfiler(例えば、バージョン2.1.1)を用いてもよい。オープンソースのソフトウェアCellProfiler Analyst (例えば、バージョン2.0)を用いた機械学習によりマーカー陽性細胞(例えば、CD34+前駆細胞または生存性色素陽性細胞)を同定してもよく、二重または三重陽性細胞を逐次識別法(sequential gating strategy)により同定してもよい。同様にCellProfiler Analystを用いてさらなる分析とヒット選択(hit selection:ハイスループットスクリーニングで所望の化合物を選択すること)のためのプレート概観を作成してもよい。
【0107】
一次画像分析の後のデータ分析にBioconductorのcellHTSパッケージ(例えば、バージョン2.14)やPipeline Pilot(例えば、バージョン9.0、Accelrys)をそれぞれ用いてもよい。このデータ分析にはプレート効果正規化、制御に基づく正規化、およびヒット選択が含まれる。
【0108】
また、本発明の実施に例えば、PerkinElmer Operetta自動化顕微鏡(PerkinElmer Technologies GmbH & Co.KG、独国ヴァルフ)など市販の自動化顕微鏡システムを用いてもよい。このシステムは、対応する画像分析ソフトウェア、例えば、PerkinElmer社のHarmonyソフトウェア(例えば、バージョン3.1.1)を含んでいてもよい。そのような自動化システムおよび/または市販のシステムを用いて、本発明の方法により顕微鏡画像から一次画像分析、陽性細胞選択、およびヒット選択を行ってもよい。
【0109】
この一次分析の後、少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向を決定する本発明の方法、細胞提供者の病気または病気の素因を決定する本発明の方法、または新規な治療薬をスクリーニングする本発明の方法を行う。前記方法は、提供者から得た細胞試料における細胞間相互作用の傾向を決定することを含み、前記提供者の細胞試料は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む。あるいは、病気を発症しているか、あるいは発症する素因を持っている対象者が治療薬による治療に反応するか、あるいは反応性を持っているか否かを決定する本発明の方法を行う。この方法は、前記対象者から得た細胞試料中の細胞間相互作用の変動を決定することを含み、前記対象者の細胞試料は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含む。
【0110】
前記方法は、過去または現在において免疫媒介疾患の治療を受けた対象者由来の細胞、特にPBMCまたは骨髄を単離すること、前記PBMCまたは骨髄細胞を刺激すること、亜集団のPBMCまたは骨髄細胞を同定すること、PBMCまたは骨髄細胞の各亜集団からの細胞間相互作用の傾向データと治療に対する対象者の応答とを比較すること、および治療に対する陽性の応答に関する特徴的な細胞間相互作用のデータを選択して、これにより治療過程を監視することをさらに含んでいてもよい。
【0111】
免疫媒介疾患を免疫不全疾患、自己免疫疾患、および過感受性疾患を含むいくつかのカテゴリーに分割してもよい。免疫不全疾患は、免疫系の一部が適切に機能しない場合に発症する。自己免疫疾患は、免疫系が病原体ではなく自分の体を攻撃した結果である。過感受性疾患は、免疫系が過剰反応して、体に損傷を与えた結果発症する。
【0112】
本発明の方法を用いて診断される病気は、集団の細胞、好ましくは単層に含まれる細胞を用いて診断される限り、特に、PBMCまたは骨髄細胞を用いて診断される、すなわち、診断される病気を発症している対象者の細胞試料(例えば、PBMCまたは骨髄細胞)に含まれ、病気と関連付けられる可能性がある識別可能な亜集団の細胞の細胞間相互作用のパターンが健康な提供者の細胞試料で予測されるパターンと異なっている限り、限定されない。例えば、本発明で提供される手段および方法を用いて診断することができる病気としては、これらに限定されないが、血液悪性腫瘍、および/または骨髄および/またはリンパ組織の悪性腫瘍または免疫媒介疾患が挙げられる。特に、PBMC単層または骨髄細胞単層において本発明で提供される手段および方法により特に診断および/または予測可能な疾患としては、これらに限定されないが、骨髄増殖性障害(すなわち、血液癌全般)、炎症性障害、潜在的ウイルス感染、細胞増殖障害、細胞走化性障害、代謝性障害、自己免疫疾患(例えば、自己リガンドによる染色、クローナル抗体に対する患者の血清、または自己抗原認識)が挙げられる。また、本発明の方法を用いて(慢性および急性)白血病、リンパ腫(成熟B細胞、成熟T細胞、NK細胞、ホジキンリンパ腫)、HIV、痛風、ショックなどを診断してもよい。すなわち、本発明の手段および方法を用いて対象者が以下のICD-10コードの病気の治療に反応するか、あるいは反応性を持っているか否かを診断あるいは決定してもよい。そのような病気としては、(これらに限定されないが)A00-B99:特定の感染疾患および寄生虫性疾患、C00-C97:悪性腫瘍、D70-77:血液形成系の他の疾患、D80-89:他で分類されていない免疫反応機構に関与する特定の障害、D82:他の主要な欠陥に関連付けられる免疫不全、D83:分類不能型免疫不全症、D84:他の免疫不全、G35-37:中枢神経系疾患、I00-I03:急性リウマチ性熱、I05-I09:慢性リウマチ性心疾患、I01:心合併を持つリウマチ熱、I06:リウマチ性大動脈弁狭窄症、I09:リウマチ性心筋炎、I70:アテローム性動脈硬化、K50:クローン病、K51:大腸炎、K52:他の非感染性胃腸炎および大腸炎、M00-M19:関節症、M05:血清反応陽性リウマチ性関節炎、M06:他のリウマチ性関節炎、M10:痛風、M11:他の結晶性関節症、M35:乾燥症候群、M32:全身性紅斑性狼瘡、N70-77:女性の骨盤器官の炎症性病気、P35-39:周産期に特異的な感染症、P50-P61:胎児および新生児の出血性疾患および血液疾患、Z22:伝染病のキャリア、Z23:単一の細菌性疾患に対する免疫化の必要、および/またはZ24:特定の単一のウイルス性疾患に対する免疫化の必要が挙げられる。
【0113】
「治療」または「治療する」は、治療学的な治療および予防的すなわち防止する手段の両方を指す。ここでの目的は、標的の病態または疾患、あるいはそれに関連付けられる1つ以上の症状を予防、改善、または遅延(低減)させることである。同様に、「反応性を持つ」または「反応する」およびこれらに類する用語は、標的の病態またはそれに関連付けられる1つ以上の症状が予防、改善、あるいは低減されることを指す。また、本明細書で用いられるこれらの用語は、病気、特に骨髄増殖性疾患、あるいはそのようなマーカーが示す兆候の発症の阻害(例えば、低減あるいは成長の阻止)、その効果の緩和、それを発症している患者の延命を指す。治療を必要とする対象者は、疾患があると診断された対象者、疾患を発症している疑いがある対象者、疾患を発症する素因がある対象者、疾患を予防しようとする対象者を含む。従って、本明細書で治療される哺乳類は、疾患を発症していると診断されていてもよく、あるいは疾患の素因を持つ、あるいはその疑いがあると診断されていてもよい。
【0114】
「反応する」または「反応性を持つ」は、治療の後に少なくとも1つの特徴が変化したPBMCまたは対象者について言う。対象者の変化した特徴は、標的の病態または疾患が緩和あるいは遅延したことであってもよい。
【0115】
本明細書で用いられる用語「予防する」、「予防すること」、および「予防」は、予防薬または治療薬の投与の結果、対象者の癌疾患の1つ以上の症状の出現および/または再発あるいは発症を予防することを指す。
【0116】
本発明で提供される手段および方法は、大部分は一次造血細胞、すなわちすべての単球細胞について記載している。当業者には自明であるが、一次造血細胞は、特にPBMCおよび骨髄細胞を含む。従って、PBMCについて記載される本発明で提供される手段および方法はまた、骨髄細胞および任意の他の単核細胞についても開示される。
【0117】
本発明の意味するところの「治療薬」は、これらに限定されないが、ポリペプチド、ペプチド、糖タンパク質、核酸、合成薬物および天然の薬物、ペプトイド(peptoide)、ポリエン、大員環化合物、グリコシド、テルペン、テルペノイド、脂肪族化合物、芳香族化合物、およびこれらの誘導体を含む分子である。好ましい一実施形態では、治療薬は合成薬物および天然の薬物などの化合物である。他の好ましい実施形態では、治療薬は、病気、障害、病状および/またはこれらに関連付けられる症状の緩和および/または治癒をもたらす。本発明の方法でスクリーニングされる1種以上の治療薬または試験化合物を重合体に封入してもよい。
【0118】
好適な治療薬は、これらに限定されないが、Goodman and OilmanのThe Pharmacological Basis of Therapeutics(例えば第9版)またはThe Merck Index(例えば第12版)に示されるものを含む。治療薬の一般的な例としては、これらに限定されないが、炎症性応答に影響を及ぼす薬物、体液の組成に影響を及ぼす薬物、電解質代謝に影響を及ぼす薬物、化学療法薬(例えば、過剰増殖性疾患、特に癌、寄生虫性感染、および微生物性疾患に対する)、抗腫瘍薬、免疫抑制剤、血液および血液形成器官に影響を及ぼす薬物、ホルモンおよびホルモン拮抗薬、ビタミンおよび栄養素、ワクチン、オリゴヌクレオチド、および遺伝子治療が挙げられる。自明であるが、例えば、2種以上の活性剤(例えば、2種の薬物)の混合物またはブレンドなどの組み合わせを含む組成物も本発明に包含される。
【0119】
一実施形態では、治療薬は薬物、プロドラッグ、抗体、またはワクチンであってもよい。本発明の方法を用いて、治療薬を患者に投与することが治療薬あるいはその治療薬と共に投与した送達媒体、賦形剤、担体などの成分に対する応答を誘導するか否かを評価してもよい。
【0120】
本発明は治療薬の正確な性質によって限定されない。非限定的な実施形態では、本発明の方法を用いて、合成小分子、天然に生じる物質、天然に生じる生物学的薬剤または合成で作製された生物学的薬剤、あるいはこれらの2つ以上の任意の組み合わせ(任意で賦形剤、担体、または送達媒体と組み合わせて)に対する応答を評価してもよい。
【0121】
用語「診断」(「診断する」あるいは「診断的」などの変化表現と共に)は、例えば、癌の同定など分子状態、病態、病気、または症状の同定、あるいは特定の治療投薬計画から恩恵を受ける可能性のある癌患者の同定を意味する。
【0122】
用語「予後」(および「予後診断する」または「予後の」などの変化表現)は、癌治療などの治療から恩恵を受ける尤度の予測を意味する。
【0123】
本明細書で用いられる用語「予測」または「予測する」は、患者が特定の治療薬によく反応する、あるいはしない尤度を意味する。一実施形態では、予測または予測することは、これらの応答の程度に関する。一実施形態では、予測または予測することは、患者が治療後(例えば、特定の治療薬での治療後)に特定の期間、病気が進行せずに生存する、あるいは病状が好転する確率に関する。
【0124】
特に指定しなければ、本明細書で用いられるすべての技術用語および科学用語は、本発明が関連する当業者が一般に理解するのと同じ意味である。本明細書で記載するのと類似または等価な方法および材料を本発明の実施または試験に用いてもよいが、以下で好適な方法および材料を記載する。矛盾する場合は、定義を含む本明細書が制御する。また、これらの材料、方法、および例は単に例示的なものに過ぎず、限定と解釈するべきではない。
【0125】
特に指定しなければ、当該分野でよく知られた従来の方法および本明細書で引用および考察した様々な一般的な参照およびより特定の参照によって本明細書で記載する一般的な方法および技術を行ってもよい。例えば、以下の文献を参照のこと:Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates (1992)、および Harlow and Lane Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1990)。
【0126】
図面および上記の記載で本発明の態様を詳細に例示・記載したが、そのような例示および記載は例示的であり、限定的ではない。自明であるように、以下の請求項の範囲および精神の範囲内で当業者により変更および修正がなされてもよい。特に、本発明は、上および下で記載する異なる実施形態の特徴を任意の組み合わせたさらなる実施形態をもその範囲に含む。
【0127】
また、上記で記載されなかったかもしれないが、本発明はまた、個々の図面に示すすべてのさらなる特徴をその範囲に含んでいる。また、図面および上記に記載の実施形態のそれぞれの代替およびその特徴のそれぞれの代替は本発明の他の態様の主題から放棄されていてもよい。
【0128】
さらに、請求項では、「含む」という表現は他の構成要素または工程を排除せず、不定冠詞「a」または「an」は複数を排除しない。単一のユニットが請求項に引用したいくつかの特徴の機能を満たしている場合がある。また、属性または値に関連する用語「本質的に」、「およそ」、「約」などはそれぞれ、まさに属性または値を規定するものである。請求項のいかなる参照符号も本発明の範囲を限定するものと解釈するべきではない。
【0129】
本特許または本願は、少なくとも1枚のカラー図面を含む。カラー図面を含む本特許または本願の公報の複製は必要な料金を支払って特許庁に申請すれば提供される。
【0130】
本発明の態様は以下の非限定的な例示的な実施例によりさらに記載され、これによって本発明の実施形態およびその多くの利点をよりよく理解することができる。以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれている。当業者には自明だが、以下の実施例で開示される技術は、本発明の実施においてよく機能するように本発明に用いられる技術を表しており、従って、その実施に好ましい態様を構成していると見なすことができる。しかしながら、当業者には自明だが、本開示の観点から、開示される特定の実施形態において多くの変更が可能であり、本発明の精神および範囲を逸脱することなく同様あるいは類似の結果が得られる。
【0131】
特に指定しなければ、例えば、Sambrook, Russell "Molecular Cloning, A Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Laboratory, N.Y. (2001)に記載されたような組換え遺伝子技術の確立された方法を用いた。その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0132】
本明細書では特許出願、製造者の取扱説明書、および科学文献を含む多くの文献が引用されている。これら文献の開示は本発明の特許性に関係するとは考えられないが、参照により本明細書に組み込まれる。より具体的には、個々の文献が具体的に個々に参照により組み込まれることが示される場合と同じ程度にすべての参照文献は参照により組み込まれる。
【実施例0133】
実施例1
実験:健康な提供者または患者由来のPBMC培養試験規約を確立して、384ウェルプレートでの画像処理用に染色可能な単層(単一画像処理可能視野/画像処理面)を得る。
【0134】
方法:医薬観察法用に考案した試験規約に従ってPBMCを培養した。第一の工程では、血液を健康な発端者または患者から採取する。典型的には、その容積は9~500mlである。血液をEDTAまたはヘパリンを含む適切な容器で保存する。次いで、血液試料を1:1の比でPBS緩衝液と混合する。精製のため、30mlの血液/PBS混合物を50ml管内の15mlのlymphoprep密度勾配液(リンパ球分離溶液)の上に載せる。これらの管を室温で30分間、2000rpmで中断せずに回転させる(遠心分離器を中断させない)。密度勾配液の上下の軟膜を除去して、他の50ml管に移す。通常、除去する容積は10~15mlである。次いで、管にPBSを充填して最終容積を50mlとし、再び遠心分離器を止めずに5分間2000rpmで回転させる。上澄みを除去して、ペレットをRPMI(20mlの10%FCSと適切な抗生物質を含む)に懸濁させる。ペレットは、5mm以下の厚さの赤血球の帯を持っていなければならない。次いで、細胞を4×105/mlまで数えて、50μlをCorning社の384ウェル画像処理プレート(黒色の壁を持つ)に20000細胞/ウェルの密度で播種する。細胞を室温で10~15分間静置して、37℃+5%CO2インキュベーターに移す。次いで、プレートを所定時間、理想としては一晩以下インキュベートする。生存性色素を加える場合、手またはロボットを使って上澄み30μlを注意深く除去して、Invitrogen live/dead fixable 488色素のPBS混合液(1:1000)を30μl加えて室温で30分間置く。自動化ピペットまたはロボットで最初の上澄みとして生存性色素を除去する。この工程では単層をかき乱すことがないようにしなければならない。生存性色素を添加しない場合、あるいは添加してすぐに、0.1%のトリトンx-114と2%のホルムアルデヒドを30μl添加して、プレートを室温で15分間インキュベートする。指で(管を)叩いて上澄みを(すべて)除去する。この段階で単層は既に固定されているので、これによって単層は乱されない。染色する場合、抗体染色を30μl加える。試験する混合液(カクテル)は、フローサイトメトリーに用いられるGFP、PE、またはAPC標識抗体との1:300希釈液である。希釈により洗浄工程を回避することができる。プレートを室温で1時間インキュベートする。上記のように指で叩いて抗体を除去し、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)のPBS(50μl)希釈液(1:100)を加える。画像処理までプレートを4℃で保存する。4つの重なっていないチャネルを備えた自動化共焦点顕微鏡(PerkenElmer Operetta)を用いて画像処理を室温で行い、分析のためデータを出力する。
【0135】
結果:発明者らの新規な試験規約を用いてPBMCを培養した後、付着および非付着PBMCは、自動化共焦点顕微鏡を用いて単一の面視野で画像処理することができる単層を形成した。これにより、384ウェルプレートまで最小にした自動化薬物スクリーニングを行うことが可能になった。顕微鏡法により、医薬観察法と言う新規に開発した方法を用いて20000細胞(±5%)の画像処理をすることができたことが確認された(
図1)。
【0136】
実施例2
実験:この実施例を行って、本発明の方法が従来技術の方法、特にWO2016/046346またはHelmuth et. al. (2010) BMC Bioinformaticsに示された方法よりも信頼性が高い結果をもたらすか否かを試験した。
【0137】
方法:A種の細胞がB種の細胞と相互作用する確率を体系的に変化させ、混合物中のA、B、およびC細胞の数とC細胞がB細胞と相互作用する確率を維持して、A、B、およびC種の細胞を含む細胞混合物に対応する合成データセットを生成した。A細胞がB細胞と相互作用する傾向は、WO2016/046346、Helmuth et. al. (2010) BMC Bioinformatics、および本発明により決定された。
【0138】
結果:A細胞が最大1個のB細胞またはC細胞と相互作用する状況で、WO2016/046346および本発明による相互作用の傾向はいずれも、A細胞がB細胞と相互作用する確率の対数に対して線的関係を示した(
図3)。しかしながら、A種の細胞が2個以上のB細胞またはC細胞と相互作用する(すなわち、ロゼッタが形成される)場合、WO2016/046346で記載の方法を用いて決定された相互作用の傾向は、A細胞がB細胞と相互作用する確率の対数に対して線的関係を示さず、相互作用の確率が増加しても平坦であった。一方、本発明では、この線的関係が維持されていた(
図4)。Helmuth et al.による相互作用値は、A細胞がB細胞と相互作用する確率の対数に対して線的関係を示さず、実際、A細胞とB細胞が相互作用する確率には全く相関関係がなかった。
【0139】
従って、本発明による細胞間相互作用の傾向の測定は、細胞が2個以上の他の細胞と相互作用する場合にダイナミックレンジが高い。これは1種の細胞が複数個、他の種類の細胞1個と相互作用することが多い一次免疫細胞の培養物で一般に観察される。この現象は「ロゼッタ」の形成として記載されることが多い。
【0140】
実施例3
実験:混合物中のA、B、およびC細胞の分率を系統的に変化させて、A細胞およびC細胞がB細胞と相互作用する確率を一定にして、A、B、およびC種の細胞を含む細胞混合物に対応する合成データセットを生成した。
【0141】
方法:WO2016/046346および本発明によりA細胞がB細胞と相互作用する傾向を決定した。用いたシミュレーションの設定では、理想的なのはA細胞とB細胞の相互作用の傾向はA細胞およびC細胞の分率の変化に対して不変でなければならない。
【0142】
結果:本発明によって決定された相互作用の傾向は、A細胞およびC細胞の分率の変化に対して不変であったが、WO2016/046346によって決定された相互作用傾向はそうではなかった(
図5)。多くの実験設定で、例えば、刺激に対する暴露に応答したA、B、およびC細胞の分率の変化は、交絡因子ではない。というのは、A、B、およびC細胞の分率は一定であると仮定することができ、刺激はほとんどの場合、細胞表面分子の発現における変化に影響する(例えば、DC表面のMHCを上方調節するとDCとT細胞の相互作用の傾向は増加する)からである。しかしながら、例えば、免疫エフェクター細胞が癌細胞または病原体感染細胞を襲う状況など、A細胞およびC細胞の分率が変化する可能性がある設定では、A細胞の分率の変化に対して堅牢な相互作用を測定することが重要である。
【0143】
実施例4:
腫瘍細胞を殺すナチュラルキラー(NK)細胞の能力を調節することができる小分子の化学物質を同定するため、異なる化合物の存在下で、ヒト末梢血単核球(PBMC)およびK562ヒト腫瘍細胞を3:1の比、約4000細胞/mm
2の密度でインキュベートした。対照として、同じ絶対数のK562細胞を同じ集合の化合物の存在下でインキュベートした。所定の設定時間で、細胞を固定して、ホルムアルデヒドとトリトンX-114を加えて透過化し、CD56に対する抗体およびDAPIで染色した。細胞の顕微鏡画像を撮影して、15,000個の細胞画像例で学習させたニューラルネットワークを用いてNK細胞をCD56に対する陽性染色で同定し、K562細胞をDAPI染色で区別した核の直径と質感で同定した。K562細胞とNK細胞との相互作用の傾向を算出し、PBMCが存在する場合と存在しない場合(陰性DMSO対照)のK562の生存率を比較した。K562細胞とNK細胞との相互作用の傾向は、PBMCが存在する場合と存在しない場合(陰性DMSO対照)のK562の生存率と直接関係していることが示され、本発明を用いて決定された相互作用の傾向により、NK細胞が媒介する腫瘍細胞の殺傷を調節する分子を同定することができることが示された(
図6)。
【0144】
実施例5:
本実施例は、本発明によって測定した相互作用値に及ぼす生物学的医薬品の効果に関する。
【0145】
抗CD3、抗CD28抗体、およびIL2からなる標準活性化混合物でT細胞を活性化させると、T細胞と抗原提示細胞(APC)(例えば、CD11c陽性細胞)はより頻繁に相互作用する。
【0146】
上記のようにして作製したPBMC単層を抗CD3抗体、抗CD28抗体と500IU/mLのIL2の混合物で48時間治療した。単層を固定して、抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体、および抗CD11c抗体の異なる組み合わせで染色し、本発明を用いて細胞間の相互作用の傾向を測定した。
【0147】
T細胞の活性化は、CD3陽性細胞、CD4陽性細胞、またはCD8陽性細胞およびCD11c陽性細胞間の測定された相互作用値を高めた。従って、この手法が確認された(
図7)。
【0148】
実施例6:
本実施例は、本発明によって測定された相互作用値に及ぼす生物学的巨大分子の効果に関する。
リポ多糖(LPS)による治療時にCD14陽性単球は群を形成する。
【0149】
上記にように作製したPBMC単層を10ng/mLのLPSで48時間治療した。単層を固定して、CD14抗体で染色し、本発明を用いて細胞間の相互作用の傾向を測定した。
【0150】
LPSによる治療で、CD14陽性細胞の群形成が明らかに顕著になった。これはCD14陽性細胞同士の測定された相互作用値が増加したことを反映しており、従ってこの手法が確認された(
図8)。
【0151】
実施例7:
目的:本実施例は、2つの細胞種間の相互作用を誘導することが分かっている生物学的薬剤の測定された相互作用傾向に及ぼす効果の決定に関する。
【0152】
方法:ブリナツモマブは、B細胞とT細胞を架橋し、T細胞を誘導してB細胞を殺すBiTE形態の二重特異性抗体である。
【0153】
WO2016/046346に記載したようにPBMC単層を作製し、ブリナツモマブまたはPBS対照(0)で48時間治療し、蛍光標識CD3抗体およびCD19抗体で染色し、自動化共焦点顕微鏡を用いて画像処理した。その後、作製した非付着細胞単層でのB細胞(CD19陽性)とT細胞(CD3陽性)の相互作用傾向を、本発明を用いて決定した。
【0154】
結果:ブリナツモマブを添加したものは、PBS対照(0)に比べてB細胞とT細胞の相互作用傾向が増加した。従って、この手法が確認された。(
図9)。
【0155】
実施例8:
本実施例は、病気の診断に関する。
滑液または末梢血内での活性化B細胞(CD80+およびCD19+)とTh17T細胞(CD3+およびCD28+)の相互作用傾向を定量してリウマチ関節炎とリウマチ性関節炎の重症度を診断することができる。これら活性化細胞の相互作用が近い程、陽性リウマチ性関節炎と診断される可能性が高い。
【0156】
慢性反応性関節炎は、細菌性感染後の二次殺菌炎症と分類される病気であるが、細菌性病原体の除去後に滑液内の単球(CD14+)とT細胞(CD3+)の相互作用を定量して診断することができる。
【0157】
アテローム性動脈硬化は、血液中の常在の炎症性単球(CCR2-、CD16+)と患者の内皮細胞(CCR5+)との空間的な相互作用を決定して診断することができる。
【0158】
実施例9:
本実施例は、小分子薬物の免疫調節能の評価および検出に関する。
クリゾチニブは非小細胞肺癌に対して承認されており、免疫調節特性は分かってない。
【0159】
健康な提供者のPBMCを様々な濃度のクリゾチニブまたはDMSO対照で治療して、治療済み/未治療の混合試料からWO2016/046346に従って得た非付着細胞単層におけるCD11C細胞とCD3細胞の相互作用の傾向を、本発明を用いて決定する。
【0160】
クリゾチニブは、相互作用値によって示されるDCとT細胞の相互作用を増加させる免疫調節傾向があり、この相互作用は、薬物の臨床作用機序では知られていない因子である可能性がある(
図10)。
【0161】
実施例10:
目的:本実施例は、2つの細胞種の間の相互作用を誘導することが分かっている生物学的薬剤の測定された相互作用傾向に及ぼす効果の決定に関する。
【0162】
方法:リツキシマブは、B細胞とNK細胞を架橋して、これらを接触させてNK細胞を誘導してB細胞を殺す抗CD20抗体である。
【0163】
WO2016/046346に記載したようにPBMC単層を作製して、リツキシマブまたはPBS対照(0)で48時間治療し、固定し、蛍光標識CD56抗体およびCD19抗体で染色して、自動化共焦点顕微鏡を用いて画像処理した。その後、作製された非付着細胞単層でのB細胞(CD19陽性)とNK細胞(CD56陽性)の相互作用傾向を、本発明を用いて決定した。
【0164】
結果:ブリナツモマブを添加したものは、PBS対照(0)に比べてB細胞とNK細胞の相互作用傾向が増加した。従って、この手法が確認された(
図11)。
【0165】
実施例11:
目的:本実施例は、病気と診断された患者が治療に反応するか否か、および生物学的作用機序を評価することができるか否かの決定に関する。
【0166】
方法:リツキシマブは、B細胞とNK細胞を架橋して、NK細胞を誘導してB細胞を殺す抗CD20抗体である。
【0167】
B細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)を発症している患者の骨髄と同じ患者のPBMCを混合して、リツキシマブまたはPBS対照で治療し、治療済み/未治療の混合試料からWO2016/046346に従って得た非付着細胞単層におけるB細胞とNK細胞の相互作用傾向を、本発明を用いて決定した。
【0168】
結果:リツキシマブに反応する患者ではB細胞とNK細胞の相互作用傾向が増加したが、臨床的に反応しない患者では相互作用は増加しなかった。
【0169】
実施例12:
目的:本実施例は、病気と診断された患者が治療に反応するか否か、および生物学的作用機序を評価することができるか否かの決定に関する。
【0170】
方法:ブリナツモマブは、B細胞とT細胞を架橋し、T細胞を誘導してB細胞を殺すBiTE形態の二重特異性抗体である。
【0171】
B細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)を発症している患者の骨髄と同じ患者のPBMCを混合して、ブリナツモマブまたはPBS対照で治療し、治療済み/未治療の混合試料からWO2016/046346に従って得た非付着細胞単層におけるB細胞とT細胞の相互作用傾向を、本発明を用いて決定した。
【0172】
結果:ブリナツモマブに反応する患者ではB細胞とT細胞の相互作用傾向が増加したが、臨床的に反応しない患者では相互作用は増加しなかった。
【0173】
実施例13:
目的:本実施例は、生物学的刺激による治療に応答して細胞間相互作用の傾向の変化を表す指紋ベクトルを構築するための同じ試料中の複数の異なる識別可能な亜集団の間の細胞間相互作用の傾向の測定に関する。
【0174】
方法:384ウェルプレート(Perkin Elmer Cell Carrier)に10%のFCS(Gibco)とペニシリン/ストレプトマイシンを含む15μLのRPMI(Gibco)に濃度15ng/mLで溶解したサイトカインを充填した。製造者試験規約(Stem Cell)に従い、赤十字社から得た軟膜からLymphoprepを用いてPBMCを単離し、数を数え、同じRPMI溶媒に20,000細胞/30μLの最終濃度で再懸濁させた。WO2016/046346に従い、PBMCの単層を形成するようにサイトカイン溶液を充填した各ウェルにこの細胞懸濁液30μLを加えた。この添加の順序により、まず細胞を加えてからサイトカインを加えるという逆の順序よりもより均一な単層が得られる。単層を37℃/5%CO2で48時間培養し、0.5%ホルムアルデヒドと0.1%トリトンX-114の溶液15μLを加えて15分間固定し、異なる蛍光標識抗体で染色して異なる識別可能な亜集団の細胞を同定した。前記ホルムアルデヒド溶液を用いることは、PBMC単層または骨髄単層の固定の設定に利点がある。というのは、これにより特定のエピトープを損傷することなく、蛍光色素分子の明るさを典型的には当該分野で用いられる濃さと同程度まで低減させずに細胞固定の所望の効果が得られる。自動化Perkin Elmer Opera Phenix蛍光顕微鏡による画像処理の後、細胞核がビニングを2倍にした顕微鏡で得た倍率10の倍画像で20画素未満かつlog2相互作用値として表わされる相互作用の傾向により分離されている場合、相互作用する細胞として、本発明に従い、相互作用する細胞の異なる識別可能な亜集団の傾向を決定した。
【0175】
結果:すべての測定された相互作用値をベクトルとしてまとめると、PBS治療細胞に対して正規化された指紋が得られた。この指紋は、サイトカインまたは他の刺激で治療したことによる細胞間相互作用の傾向の全体的な変化を記述したものである。T細胞活性化特性を持つサイトカインまたは刺激は、T細胞活性化特性を持たない刺激と比べて互いによく似た指紋を持っていた(
図13)。
【0176】
実施例14:
勾配密度遠心分離によりB細胞リンパ腫を発症している患者の胸水を集めた。この胸水は、胸腔に移行した骨髄およびPBMCで見つかる細胞種と付随する流体層の混合物からなっており、癌細胞と健康な細胞を含んでいた。また、対応する血液試料をLymphoprep勾配液に載せて精製した。WO2016/046346によって作製した対応するPBMC試料および単層由来の細胞に対して、胸水から得た細胞を滴定した。単層を異なる濃度のブリナツモマブで治療して、病理学者がエフェクターT細胞を用いてCD10陽性であると予め決定した腫瘍細胞集団の相互作用を本発明に記載の方法を用いて決定した。ブリナツモマブは、その作用モードとして腫瘍B細胞とT細胞を架橋して、T細胞が媒介する腫瘍B細胞の殺傷を誘導するよう設計されているが、そのような相互作用の変化は見られなかった(
図12)。また、腫瘍B細胞の分率は生体外でのブリナツモマブ治療では大きく変化しなかった。治療にあたった医師はブリナツモマブを患者に投与することを決定したが、患者は一時的あるいはわずかに応答したのみだった。
【0177】
実施例15:
目的:病気の診断
【0178】
方法:自己免疫疾患または炎症性疾患を発症している患者および健康な対照から末梢血を単離する。また、末梢血単核細胞(PBMC)をLymphoprep(Stem Cell社)で単離する。WO2016/046346によってPBMCの単層を作製し、IL-1b、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IL-15、TNFa、CXCL12、IL-33、および他の生体外の摂動を含む異なるサイトカインで24時間、48時間、および72時間治療する。単層を固定して、自動化蛍光顕微鏡を用いて個別のチャネルでマーカー陽性細胞のすべての可能な組み合わせ(例えば、CD3とCD11c、CD3とCD19、CD3とCD20、およびCD3とCD56など)を画像処理できるように、CD3、CD4、CD8、CD11c、CD14、CD19、CD20、およびCD56に対して蛍光標識抗体で染色する。上記マーカーの発現によって特徴付けられた、PBMC(T細胞、樹状細胞、単球、B細胞、およびNK細胞)に存在するすべての主要な細胞種の間の相互作用の傾向を本発明によって決定する。特に、2個の細胞の質量中心がこれらのおおよその平均細胞径より小さい距離、離れている場合、これらの細胞は相互作用していると見なされる。すべての試験した摂動に応答したすべての主要細胞種間の全相互作用傾向を集めて、本発明の方法に従って相互作用値として定量する。集めたこれらの相互作用値を相互作用傾向の空間で各提供者を特徴付ける指紋ベクトルとして概観する(実施例14を参照のこと)。十分な数の患者の試料および対照試料でこの分析を行って、健康な提供者の指紋の特徴、および病気の異なる亜種の指紋の特徴を決定してもよい。多次元尺度構成法(MDS)あるいは他の好適な次元縮小技術を用いて試験した各個体の指紋ベクトルを2D面に投影して、個別の群を健康な個体と病気の個体に対応させて同定してもよい。次いで、患者から得た健康な対照ではなく新しい血液試料について、その指紋の既知の指紋に対する類似性を評価することで、当該分野で知られている方法による特定の群に対応させて分類してもよい(例えば、k近傍分類子に即したユークリッド距離測定)。
【0179】
また、本明細書の実施例9では病気の診断例が提供されている。
【0180】
実施例16:
目的:新規なT細胞活性剤の発見
【0181】
方法:健康な提供者から末梢血を単離し、末梢血単核細胞をLymphoprep(Stem Cell社)で単離する。WO2016/046346に従ってPBMCの単層を作製し、異なるサイトカインおよびT細胞活性化を誘導することが分かっている試薬(例えば、IL-2、IL-15、CD3結合抗体、CD28結合抗体、超抗原、および他のT細胞活性可能が低い刺激(例えばLPS、ポリI:C、およびその他))で治療する。単層を固定し、自動化蛍光顕微鏡を用いてマーカー陽性細胞のすべての可能な組み合わせ(例えば、CD3とCD11c、CD3とCD19、CD3とCD20、およびCD3とCD56など)を画像処理できるように、CD3、CD4、CD8、CD11c、CD14、CD19、CD20、およびCD56に対して蛍光標識化抗体で染色する。上記マーカーの発現によって特徴付けられた、PBMC(T細胞、樹状細胞、単球、B細胞、およびNK細胞)に存在するすべての主要な細胞種の間の相互作用の傾向を本発明により決定し、各治療条件を特徴付ける相互作用傾向空間における指紋を生成する。十分な数の試料でこの分析を行って、T細胞活性化剤の指紋の特徴を決定してもよい(すなわち、規定された細胞間相互作用の傾向を表すベクトル、実施例14も参照のこと)。ここで、新しい、すなわち未知の刺激のT細胞活性能について、その指紋を当該分野で分かっている方法によるT細胞活性剤の既知の指紋と比較して評価してもよい(例えば、k近傍分類子に即したユークリッド距離測定)。
細胞提供者が病気を発症しているか、あるいは病気を発症する素因を持っているかを決定する方法における使用のための、細胞提供者から得た一集団の細胞であり、前記決定は、前記集団内の細胞間相互作用の傾向を決定することを含み、前記集団は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記方法は
(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との細胞間相互作用の数を決定する工程、
(b)前記集団の細胞に含まれる細胞を第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記集団の細胞における細胞間相互作用の数を決定する工程、ここで、前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである、
(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程、ここで、前記傾向は得られた数字につれて高くなる、および
(d)前記細胞間相互作用の傾向に基づいて前記細胞提供者が病気を発症しているか、あるいは病気を発症する素因があるかを決定する工程を含み、
前記病気は、骨髄増殖性障害、炎症性障害、潜在的ウイルス感染、細胞増殖障害、細胞走化性障害、代謝性障害、または自己免疫疾患であり、
工程(c)で決定される傾向は第一および第二の識別可能な亜集団を入れ替えても同じである、細胞。
病気を発症しているか、あるいは発症する素因を持っている対象者が治療薬による治療に反応するか、あるいは反応性を持つか否かを決定する診断法における使用のための細胞提供者から得た一集団の細胞であって、前記決定は、単層での細胞間相互作用の傾向を決定することを含み、前記単層は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記診断法は
(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定する工程、
(b)前記細胞試料に含まれる細胞を前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記細胞試料中での相互作用の数を決定する工程、ここで、前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである、
(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程、ここで、前記傾向は得られた数字につれて高くなる、および
(d)前記治療薬を添加する前の傾向と前記治療薬を添加した後の傾向を比較することで細胞間相互作用の傾向の変化を決定し、それにより前記対象者が前記治療薬に反応するか、あるいは反応性を持っているかを決定する工程を含み、
前記病気は、骨髄増殖性障害、炎症性障害、潜在的ウイルス感染、細胞増殖障害、細胞走化性障害、代謝性障害、または自己免疫疾患であり、
工程(c)で決定される傾向は第一および第二の識別可能な亜集団を入れ替えても同じである、細胞。
1種以上の試験物質の添加による一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向の変化を決定することで治療薬のスクリーニングを行う方法であって、前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記方法は
(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定する工程、
(b)前記細胞試料に含まれる細胞を前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記細胞試料中での相互作用の数を決定する工程、ここで、前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである、
(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程、ここで、前記傾向は得られた数字につれて高くなる、および
(d)前記1種以上の試験物質を添加する前の傾向と前記1種以上の試験物質を添加した後の傾向を比較することで細胞間相互作用の傾向の変化を決定し、それにより前記1種以上の試験物質が治療薬として適格であるか否かを決定する工程を含み、
工程(c)で決定される傾向は第一および第二の識別可能な亜集団を入れ替えても同じである、方法。
1種以上の試験物質の添加による一集団の細胞における細胞間相互作用の傾向の変化を決定することによる治療薬のスクリーニングにおける使用のための集団の細胞であって、前記集団の細胞は少なくとも2つの識別可能な亜集団の細胞を含み、前記スクリーニングは
(a)第一の識別可能な亜集団の細胞と第二の識別可能な亜集団の細胞との相互作用の数を決定する工程、
(b)前記細胞試料に含まれる細胞を前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞に無作為に割り当てて前記細胞試料中での相互作用の数を決定する工程、ここで、前記第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の絶対数はそれぞれ、工程(a)における第一および第二の識別可能な亜集団の細胞の数と同じである、
(c)(a)の結果を(b)の結果で除して細胞間相互作用の傾向を決定する工程、ここで、前記傾向は得られた数字につれて高くなる、および
(d)前記1種以上の試験物質を添加する前の傾向と前記1種以上の試験物質を添加した後の傾向を比較することで細胞間相互作用の傾向の変化を決定し、それにより前記1種以上の試験物質が治療薬として適格であるか否かを決定する工程を含み、
工程(c)で決定される傾向は第一および第二の識別可能な亜集団を入れ替えても同じである、細胞。
前記病気は骨髄増殖性障害、炎症性障害、潜在的ウイルス感染、細胞増殖障害、細胞走化性障害、代謝性障害、または自己免疫疾患である、請求項1、4、6、7、及び8の何れか一項に記載の方法。
工程(b)を繰り返して決定された相互作用の数を平均し、好ましくは工程(b)を少なくとも1000回繰り返す、請求項2、3、5、及び12の何れか1項に記載の集団の細胞。
前記病気は骨髄増殖性障害、炎症性障害、潜在的ウイルス感染、細胞増殖障害、細胞走化性障害、代謝性障害、または自己免疫疾患である、請求項2、3、5、12、13、及び14の何れか1項に記載の集団の細胞。