(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080095
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】セラミックスラリー組成物および積層セラミック部品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C09K 23/52 20220101AFI20230601BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20230601BHJP
C08G 65/32 20060101ALI20230601BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230601BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230601BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230601BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20230601BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
C09K23/52
C04B35/622
C08G65/32
C08K3/013
C08L71/02
C08L101/00
C08K3/08
C08K3/34
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041150
(22)【出願日】2023-03-15
(62)【分割の表示】P 2021547912の分割
【原出願日】2019-10-25
(31)【優先権主張番号】18203544.4
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】598067245
【氏名又は名称】ベーイプシロンカー ヘミー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクター ハフトゥング
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オケル アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンキー ギヨーム ヴォイチェフ
(72)【発明者】
【氏名】キタガワ ヨシト
(57)【要約】
【課題】セラミック材料粉末の優れた分散性を有するスラリー組成物を提供する。さらに、スラリー組成物を使用することによって製造されたグリーンシート自体は高い機械的強度を有する。
【解決手段】無機粉末と、分散剤と、溶剤とを含むスラリー組成物であって、上記分散剤は、少なくとも1つの疎水性ブロックAと少なくとも1つの親水性ブロックBとを含むブロックコポリマーであり、かつ上記ブロックAおよび上記ブロックBは、以下の一般式(I)(式中、R
1は、水素原子、1個~10個の炭素原子を有する線状または分岐状アルキル基、および4個~6個の炭素原子を有する環状アルキル基から選択される)によって表される繰返単位を含み、かつ少なくとも1つのカルボン酸基またはその塩が上記ブロックコポリマーに共有結合されている、スラリー組成物を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉末と、
分散剤と、
溶剤と、
を含むスラリー組成物であって、
前記分散剤は、少なくとも1つの疎水性ブロックAと少なくとも1つの親水性ブロックBとを含むブロックコポリマーであり、かつ前記ブロックAおよび前記ブロックBは、以下の一般式I
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、1個~10個の炭素原子を有する線状または分岐状アルキル基、および4個~6個の炭素原子を有する環状アルキル基から選択される)によって表される繰返単位を含み、かつ少なくとも1つのカルボン酸基またはその塩が前記ブロックコポリマーに共有結合されており、ここで、該共有結合にはカルボン酸エステル基が含まれ、かつ前記分散剤は、一般式(2)または(3)
【化2】
によって表されるブロックコポリマーであり、
前記一般式(2)および(3)において、
X
2は、-R
11-CO-であり、ここで、R
11は、1個~10個の炭素原子を有するアルキレン基、2個~10個の炭素原子を有するアルケニレン基、または任意に置換されたフェニレン基であり、
R
6は、-COOHであり、
R
7、R
8およびR
9は、それぞれ独立して、水素原子またはフェノキシ基であり、
R
10は、-OC
nH
2n+1または-OC
nH
2n-Phであり、ここで、nは、1~10であり、かつ、
a、bおよびcは、1~10である、スラリー組成物。
【請求項2】
前記カルボン酸エステル基は、フタル酸のモノエステル基、トリメリット酸のモノエステル基、マレイン酸のモノエステル基、ヘキサヒドロフタル酸のモノエステル基、メチルヘキサヒドロフタル酸のモノエステル基、メチルテトラヒドロフタル酸のモノエステル基、テトラヒドロフタル酸のモノエステル基、ヒミン酸のモノエステル基、またはコハク酸のモノエステル基である、請求項1に記載のスラリー組成物。
【請求項3】
少なくとも2つのカルボン酸基またはその塩は、前記ブロックコポリマーに共有結合されており、ここで、前記カルボン酸エステルは、テトラカルボン酸のジエステルである、請求項1に記載のスラリー組成物。
【請求項4】
前記ブロックコポリマーは、アルキルエーテルである少なくとも1つの末端基を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のスラリー組成物。
【請求項5】
R11は、1個~10個の炭素原子を有するアルキレン基であり、
R10は、-OCnH2n+1であり、ここで、nは、1~5であり、
aは、1~10であり、かつ、
bおよびcは、1~5である、請求項1に記載のスラリー組成物。
【請求項6】
前記無機粉末は、セラミック粉末または金属粉末である、請求項1~5のいずれか一項に記載のスラリー組成物。
【請求項7】
前記溶剤は、トルエン、エタノール、メチルエチルケトン、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテート、および水のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のスラリー組成物。
【請求項8】
バインダー樹脂をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のスラリー組成物。
【請求項9】
前記無機粉末は、チタン酸バリウムまたはニッケルまたは銀を含むまたはこれらからなり、かつ前記バインダー樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂、エチルセルロース、アクリル樹脂、およびそれらの混合物から選択される、請求項8に記載のスラリー組成物。
【請求項10】
前記分散剤のカルボン酸基は、アンモニアまたは有機アミンまたは水酸化テトラアルキルアンモニウムとの反応によってアンモニウム塩に転化されている、請求項1~9のいずれか一項に記載のスラリー組成物。
【請求項11】
積層セラミック部品を製造する方法であって、
以下の工程(1)~(3)
(1)請求項1~10のいずれか一項に記載の、前記無機粉末がセラミック粉末であるスラリー組成物をキャリアフィルム上に塗布する工程と、
(2)前記スラリー組成物を乾燥させて、前記キャリアフィルム上にセラミックグリーンシートを形成する工程と、
(3)前記キャリアフィルムを前記セラミックグリーンシートから取り外す工程と、
を繰り返して、複数のセラミックグリーンシートを形成し、そしてその後に、
得られた前記セラミックグリーンシートを積層し、そして、
前記積層されたセラミックグリーンシートを焼成することを含む、方法。
【請求項12】
前記積層セラミック部品は、積層セラミックコンデンサである、請求項11に記載の積層セラミック部品を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスラリー組成物および積層セラミック部品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機粉末含有スラリー組成物は、取り扱い易く、優れた貯蔵安定性を有し、部品を製造するための材料として使用し易い。このため、無機粉末含有スラリー組成物は多くの分野で使用されている。
【0003】
例えば、セラミック材料粉末を含有するスラリー組成物をシート状の形状に成形することによって得られるグリーンシートから、エレクトロニクスの分野で使用されるセラミック電子部品を製造することができる。スラリー組成物自体を使用するセラミック電子部品の製造例は、積層セラミックコンデンサなどの積層セラミック部品である。
【0004】
積層セラミックコンデンサとしては、コンデンサの小型化およびその容量増加のために誘電体層と電極層とが交互に積層された多重積層型が一般に使用されている。
【0005】
積層セラミックコンデンサは以下のように製造される。まず、セラミック材料粉末を含有するスラリー組成物をキャリアフィルム上にシート状の形状に成形して、セラミックグリーンシートを作製する。その後、内部電極の導体パターンをセラミックグリーンシート上に印刷する。導体パターンを印刷するために、少なくとも金属粒子とセラミック材料粉末とが混加された内部電極ペーストが使用される。すなわち、内部電極ペーストは、セラミック材料粉末を含有するスラリー組成物として使用される。セラミック材料粉末が内部電極ペースト自体に分散されているため、焼結遅延効果を達成することができ、積層材料の焼成後の積層セラミックコンデンサにおける構造欠陥を抑えることができる。
【0006】
次に、セラミックグリーンシートをキャリアフィルムから取り外し、複数のセラミックグリーンシートを積層し、加圧して、積層材料へと成形する。その後、積層材料を必要に応じてチップに切断し、引き続きこれらを焼成して、積層セラミックコンデンサが得られる。
【0007】
上述のように、積層セラミック部品を製造する方法の間に、スラリー組成物が使用され、同時にセラミックグリーンシートを取り扱う工程が実施される。
【0008】
特許文献1は、特定の構造を有するアミジニウムカチオンを一成分として含む有機酸塩からなるセラミック材料用の分散剤を使用することによってセラミック材料粉末が分散媒に分散されている分散液を使用することによって得られるグリーンシートおよびセラミック成形品を開示している。
【0009】
近年、スラリー組成物中に含まれる粉末(複数を含む)の粒子径の減少と、スラリー組成物の用途の多様化に伴う粉末(複数を含む)の用途の多様化が見られている。
【0010】
例えば、電子デバイスの小型化および高性能化の進展に伴い、そこで使用される積層セラミック部品の小型化および高性能化も求められている。その要求に呼応して、セラミック材料粉末の粒子径を減少させて、積層セラミック部品の製造に使用されるより薄いセラミックグリーンシートが得られている。しかしながら、セラミック材料粉末自体の粒子径の減少はスラリー組成物中の粉末の分散性の低下を引き起こし、セラミック材料粉末の良好な分散性を達成することは困難になっている。
【0011】
例えば、セラミックグリーンシートが分散不良の状態で、すなわちセラミック材料粉末が凝集した状態で製造されると、こうして得られたシートの焼成後にセラミック材料粉末中に異常な粒子成長が起こることとなり、その結果、セラミックグリーンシート自体を焼成することによって得られる積層セラミック部品の歩留まりの低下、電気的特性への悪影響、およびさらに長期信頼性の低下が引き起こされる。
【0012】
さらに、分散が不十分なセラミック粒子を含有する内部電極ペーストがセラミックグリーンシート上への印刷に適用されると、塗布されたペーストの表面粗さが増加することにより、内部電極ペーストが塗布されるセラミックグリーンシートの積層の間にその積層状態に悪影響が及ぼされることとなる。これは、積層セラミックコンデンサの電気的特性に悪影響をもたらし、および/またはその初期故障を引き起こす。さらに、焼成の間に金属粉末に対する焼結遅延効果が低下するため、焼成された積層セラミックコンデンサの構造欠陥などの故障が発生することとなる。
【0013】
上記のセラミック材料粉末含有スラリー組成物などのスラリー組成物には、特定の範囲の酸価を有する分散剤が効果的に使用される。分散剤としては、吸着基(アンカー基)としてリン酸基を含む分散剤が有用であり、一般的に使用されている。しかしながら、リン酸基を含む分散剤を含有するスラリー組成物を使用することによって積層セラミック部品などを製造する場合に、リン成分が残留物として残ったり、または焼成後にセラミック材料粉末中に取り込まれたりするため、得られた積層セラミック部品の電気的特性に悪影響が及ぼされることがあった。
【0014】
以上の理由から、粒子径の減少および粉末(複数を含む)の用途の多様化の進展と並行して、スラリー組成物中で優れた粉末分散性を示し、最終製品中に灰分として残らない分散剤の使用が望まれている。
【0015】
さらに、スラリー組成物中に使用される粉末(複数を含む)の粒子径の減少のため、スラリー組成物を使用することによって製造される最終製品の機械的強度が低下することがあった。例えば、セラミック材料粉末の粒子径の減少に伴いセラミックグリーンシートが薄くなることにより、セラミックグリーンシートの機械的強度が低下した。この理由から、キャリアフィルムからシートを取り外す工程でセラミックグリーンシートが破れ易くなったため、シートの取り扱い特性に問題が生じた。特許文献1は、セラミックグリーンシートの機械的強度の改善を不十分に研究しただけであって、十分な機械的強度を有するセラミックグリーンシートが得られなかった可能性がある。
【0016】
したがって、スラリー組成物を使用することによって製造されたグリーンシートは、高い機械的強度を有することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記の状況に鑑みて完成された。本発明の課題は、無機粉末が優れた分散性を示し、高い機械的強度を有するグリーンシートを得ることができるスラリー組成物を提供することである。本発明の別の課題は、分散剤が最終製品のセラミック中に灰分として残らないスラリー組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、上記課題は、
無機粉末と、
分散剤と、
溶剤と、
を含むスラリー組成物であって、
上記分散剤は、少なくとも1つの疎水性ブロックAと少なくとも1つの親水性ブロックBとを含むブロックコポリマーであり、かつ上記ブロックAおよび上記ブロックBは、以下の一般式I
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、1個~10個の炭素原子を有する線状または分岐状アルキル基、および4個~6個の炭素原子を有する環状アルキル基から選択される)によって表される繰返単位を含み、かつ少なくとも1つのカルボン酸基またはその塩が上記ブロックコポリマーに共有結合されており、ここで、該共有結合にはカルボン酸エステル基が含まれ、かつ上記分散剤は、一般式(2)または(3)
【化2】
によって表されるブロックコポリマーであり、
一般式(2)および(3)において、
X
2は、-R
11-CO-であり、ここで、R
11は、1個~10個の炭素原子を有するアルキレン基、2個~10個の炭素原子を有するアルケニレン基、または任意に置換されたフェニレン基であり、
R
6は、-COOHであり、
R
7、R
8およびR
9は、それぞれ独立して、水素原子またはフェノキシ基であり、
R
10は、-OC
nH
2n+1または-OC
nH
2n-Phであり、ここで、nは、1~10であり、かつ、
a、bおよびcは、1~10である、スラリー組成物によって解決され得る。
【0020】
カルボン酸エステル基がフタル酸のモノエステル基、トリメリット酸のモノエステル基、マレイン酸のモノエステル基、ヘキサヒドロフタル酸のモノエステル基、メチルヘキサヒドロフタル酸のモノエステル基、メチルテトラヒドロフタル酸のモノエステル基、テトラヒドロフタル酸のモノエステル基、ヒミン酸のモノエステル基、またはコハク酸のモノエステル基である場合も好ましい。
【0021】
より好ましくは、少なくとも2つのカルボン酸基またはその塩は、ブロックコポリマーに共有結合されており、ここで、カルボン酸エステルは、テトラカルボン酸のジエステルである。
【0022】
ブロックコポリマーが、アルキルエーテルである少なくとも1つの末端基を含む場合も好ましい。
【0023】
上記式(2)および(3)において、X2は、好ましくは-R11-CO-であり、ここで、R11は、1個~10個の炭素原子を有するアルキレン基であり、
R10は、-OCnH2n+1であり、ここで、nは、1~5であり、
aは、1~10であり、かつ、
bおよびcは、1~5である。
【0024】
X2が置換フェニレン基である実施形態では、可能な置換基は特に限定されない。幾つかの実施形態では、置換基はカルボン酸基である。他の実施形態では、置換基は2つのポリエーテルブロックを共に連結するさらなるカルボン酸エステル基である。
【0025】
本発明によれば、スラリー組成物のための無機粉末は、好ましくはセラミック粉末または金属粉末である。本発明によるスラリー組成物は、より好ましくは無機粉末として、チタン酸バリウムまたはニッケルまたは銀でできた粉末を含有する。
【0026】
本発明によるスラリー組成物のための溶剤がトルエン、エタノール、メチルエチルケトン、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテートおよび水からなる群から選択される場合も好ましい。
【0027】
本発明によれば、スラリー組成物はバインダー樹脂をさらに含むことができ、バインダー樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂、エチルセルロース、またはアクリル樹脂が好ましい。
【0028】
上述の課題は、本発明によれば、積層セラミック部品を製造する方法であって、以下の工程(1)~工程(3)
(1)無機粉末がセラミック粉末である本発明によるスラリー組成物をキャリアフィルム上に塗布する工程と、
(2)スラリー組成物を乾燥させて、キャリアフィルム上にセラミックグリーンシートを形成する工程と、
(3)キャリアフィルムをセラミックグリーンシートから取り外す工程と、
を繰り返して、複数のセラミックグリーンシートを形成し、そしてその後に、
得られたセラミックグリーンシートを積層し、そして、
積層されたセラミックグリーンシートを焼成する、方法によっても解決され得る。
【0029】
本発明による方法により得られる積層セラミック部品は、好ましくは積層セラミックコンデンサである。
【0030】
本発明によれば、セラミック材料粉末の優れた分散性を有するスラリー組成物が提供され得る。さらに、スラリー組成物を使用することによって製造されたグリーンシート自体は高い機械的強度を有する。さらに、分散剤から生ずる灰分は、最終製品である最終製品のセラミック部品中に残らない。
【0031】
低灰分含有量を実現するために、分散剤だけでなくスラリーも少量の灰分形成材料、特に少量のイオンを含有することが好ましい。分散剤は、多くとも100ppm、より好ましくは多くとも50ppmのイオンを含有することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施形態のスラリー組成物を使用したセラミックグリーンシートの製造例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態のスラリー組成物を使用した内部電極ペーストの製造例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態の積層セラミックコンデンサの製造例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明を実施する一実施形態は、セラミック材料粉末などの無機粉末と、分散剤と、溶剤とを含むスラリー組成物に関する。分散剤は、少なくとも1つの疎水性ブロックAと少なくとも1つの親水性ブロックBとを含むブロックコポリマーであり、ここで、ブロックAおよびブロックBは、以下の一般式Iによって表される繰返単位を含む。
【0034】
本発明の分散剤の構造単位は、ブロック状に配置されている。
【0035】
式Iの構造単位は、好ましくはアルキレンオキシドから、より好ましくは2個~10個の炭素原子を有する線状、分岐状または環状のアルキレンオキシドから、特に好ましくはエチレンオキシド、1,2-プロピレンオキシドおよび/または1,2-ブチレンオキシドから誘導される。
【0036】
本発明により使用されるブロック状コポリマーは、好ましくは、ジカルボン酸またはトリカルボン酸のモノエステル基以外のエステル部を有しない。
【0037】
本発明により使用されるブロック状コポリマーは、好ましくは開環重合を介して、特に好ましくはアニオン開環重合を介して得られる。アニオン重合は、当業者に知られる慣用の方法によって実施され得る。
【0038】
上記刊行物に記載される方法を、本発明によるコポリマーの製造のためのアニオン重合の方法として採用することができ、その方法の説明は、本明細書の開示内容の一部とみなされる。
【0039】
以下の実施例では、本発明により使用されるコポリマーの基本的な製造方法が詳細に説明されている。
【0040】
式Iの構造単位は、エポキシドの開環重合によって作製され得る。
【0041】
出発分子を、最初に極性グリシジルエーテルおよび/またはエチレンオキシドと一緒に重合させることで、親水性構造単位を得ることができる。
【0042】
あるいは、出発分子を最初に非極性グリシジルエーテルおよび/または非極性アルキレンオキシドと一緒に重合させることで、疎水性構造単位を得ることができる。例としては、アリールグリシジルエーテル、1,2-プロピレンオキシド、および/または1,2-ブチレンオキシドが含まれる。
【0043】
アニオン開環重合で使用される出発化合物の添加に応じて、ブロック状構造のコポリマーが得られる。こうして得られたコポリマーは、少なくとも1つの親水性ブロックおよび少なくとも1つの疎水性ブロックを有する。
【0044】
ブロックコポリマーを製造する方法において、モノマー(複数を含む)が80%~100%の転化率で重合されるまで、第1のブロックを重合させる。したがって、第2のブロックは、第2のブロックのモノマー(複数を含む)に加えて、最大20%の第1のブロックの残留モノマーを含み得る。有利には、第1のブロックのモノマー(複数を含む)は、80%を超える、より有利には90%を超える、そして最も有利には95%を超える転化率で重合される。好ましくは、疎水性ブロックを最初に重合させた後に、親水性ブロックの重合が行われる。
【0045】
本発明によれば、少なくとも80%の親水性モノマー単位を含むポリマーブロックは、親水性ブロックとして定義され、少なくとも80%の疎水性モノマー単位を含むポリマーブロックは、疎水性ブロックとして定義される。
【0046】
モノマー単位の極性は、以下の通りに定義される。
【0047】
親水性単位は、エチレンオキシドから誘導される式Iの構造単位である(式中、R1は水素である)。
【0048】
本発明により使用されるブロックコポリマーの個々のブロックは、一般に40個未満のモノマー単位、好ましくは30個未満のモノマー単位、より好ましくは20個未満のモノマー単位、さらにより好ましくは10個未満のモノマー単位、最も好ましくは6個未満のモノマー単位からなる。1ブロック当たりのモノマー単位の数は、-O-R4によって表される出発アルコール分子の数と、目標構造を実現するのに使用される親水性モノマーおよび疎水性モノマーの数との比率によって定義される。すなわち、出発アルコール分子と、疎水性モノマーと、親水性モノマーとを1:7:4の比率で使用することによってブロックコポリマーが合成される場合に、得られたポリマーは(完全に転化されるとみなして)7個の疎水性モノマーと4個の親水性モノマーを含む11個のモノマー単位を有するとみなされる。
【0049】
親水性モノマーと疎水性モノマーとの比率は、90:10~10:90、好ましくは80:20~20:80、より好ましくは60:40~40:60、最も好ましくは55:45~45:55であり得る。
【0050】
本発明によれば、好ましいコポリマーは、好ましくは1個~20個、より好ましくは1個~12個、さらにより好ましくは1個~5個、最も好ましくは1個~2個のカルボン酸基またはその塩を有するジブロックコポリマーである。
【0051】
重合は、好ましくは、出発化合物のヒドロキシル基の一部がアルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属アルコキシドによって0.1%~80%、好ましくは2%~20%の程度まで脱プロトン化されるように実施される。蒸留による水またはアルコールの除去後に、出発物質と出発アルコラートとの混合物が得られる。開環重合は、典型的には、触媒の存在下で溶剤を添加せずに実施される。しかしながら、該反応を、不活性溶剤を使用することによってアルコキシル化条件下で実施することもできる。
【0052】
好ましくは、重合されるグリシジルエーテルを混合機に徐々に添加して、40℃~140℃、好ましくは50℃~100℃、より好ましくは60℃~90℃の温度で重合させる。開環反応を伴うリビングアニオン重合は、生長する鎖のアルコール基とアルコラート基との間でのプロトンの迅速な交換によって制御される。重合が終わったら、酸を用いて中和を行い、得られた生成物を濾過により単離する。これは、酸性イオン交換体の補助により実施され得る。
【0053】
本発明により使用されるコポリマーの親水性ブロックが、R1が水素である式Iの構造単位から構成される場合に、アルキレンオキシドは既知の方法に従って重合され得る。
【0054】
遊離OH基を介して中間体をさらに官能化して、例えば、カルボン酸基を導入することができる。カルボキシメチル基の導入は、水素化ナトリウムおよびクロロ酢酸ナトリウムの補助により実施され得る。アルキレン架橋を介してカルボキシル基を導入するさらなる方法は、t-ブチルアクリレートまたはアクリロニトリルの付加反応に続いて加水分解することによって実施され得る。カルボキシル基はまた、中間体の遊離ヒドロキシル基と無水マレイン酸または無水コハク酸などの環状ジカルボン酸無水物との反応によってエステル結合を介して導入され得る。カルボン酸基を中間体に導入するのに使用され得る他の環状カルボン酸無水物は、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、および無水ヒミン酸である。中間体がヒドロキシル基を1つしか有しない場合は、ピロメリット酸二無水物などのテトラカルボン酸の環状無水物を使用して、2つの中間体を同時に共に連結させることによって、中間体にカルボン酸基をさらに導入することができる。2つの中間体が共に連結されている実施形態では、式(2)または(3)中のX2は、典型的には、2つの中間体を接続する置換フェニレン基である。
【0055】
【0056】
必要に応じて、また分散させる粒子に対して十分に機能する吸着基(アンカー基)を得るために、カルボン酸基を、塩基との反応によって対応する塩に転化させることもできる。適切な塩は、アンモニアとの反応あるいは適切な有機アミン、第三級アミン、好ましくはトリエチルアミン、例えばトリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、または水酸化テトラアルキルアンモニウムとの反応によって調製されるアンモニウム塩である。
【0057】
本発明によるスラリー組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲内で、本発明により使用される酸性コポリマー分散剤とは異なる湿潤剤および/または分散剤または分散助剤をさらに含み得る。これらの追加の湿潤剤、分散剤および分散剤助剤の種類は、本発明の効果が損なわれない限り特に限定されない。
【0058】
本発明のスラリー組成物は、様々な用途に使用され得る。例えば、スラリー組成物を、セラミックグリーンシートを製造するための出発材料、内部電極を製造するための出発材料(内部電極ペースト)として、または前処理剤として使用することができる。
【0059】
本発明のスラリー組成物がセラミックグリーンシートを製造するための出発材料として使用される場合に、セラミック出発材料粉末の粒子サイズが減少しても、スラリー組成物中のセラミック出発材料粉末の分散性は改善される。結果として、セラミック出発材料粉末は、スラリー組成物から得られるセラミックグリーンシート中に均一に分散され得る。これにより、セラミックグリーンシートを焼成することによって得られる積層セラミック部品の歩留まりの低下、電気的特性への悪影響、および長期信頼性の低下を防ぐことができる。また、セラミックグリーンシートの機械的強度を向上させることができ、優れた取り扱い性を有するセラミックグリーンシートを得ることができる。さらに、得られたセラミックグリーンシートは優れたシート強度を有するため、層厚が低下しても、該シートは、印刷過程、取り外し過程、および積層過程に耐える。結果として、最終製品の特性の向上および小型化を促すことができる。さらに、本発明は、吸着基としてリン酸を使用する慣用の分散剤の使用を必要としないため、焼成後の残留リン成分、およびリン成分によるセラミック出発材料粉末の汚染によって引き起こされる最終製品の電気的特性への悪影響を避けることができる。
【0060】
本発明のスラリー組成物が内部電極を製造するための出発材料(内部電極ペースト)として使用される場合に、スラリー組成物中のセラミック出発材料粉末の分散性は改善される。結果として、セラミック出発材料粉末は、スラリー組成物から製造される内部電極中に均一に分散され得る。したがって、内部電極ペーストをセラミックグリーンシート上に印刷する際に表面粗さを減少させることができ、内部電極ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートを積層するときの積層状態への悪影響を回避することができ、これにより積層セラミックコンデンサの初期故障への悪影響を回避することができる。また、焼成するときに金属粉末の優れた焼結遅延効果を維持することができ、それにより焼成後の積層セラミックコンデンサの構造欠陥などを防ぐことができる。
【0061】
本発明のスラリー組成物を粉末の前処理剤として使用すると、後続の過程で易分散性が向上し、それにより製造リードタイムおよび工程コストの削減を実現することができる。
【0062】
本発明のスラリー組成物を構成する成分およびそれらの用途を以下に詳細に説明する。しかしながら、本発明のスラリー組成物は、以下に挙げられる成分を含むスラリー組成物に限定されず、または以下に挙げられる用途によって限定されない。
【0063】
(無機粉末)
本発明で使用される分散剤は、無機粉末の優れた分散性を可能にし、様々な種類の無機粉末を使用することができるので、スラリー組成物に使用される粉末に特に制限は存在しない。無機粉末の例には、金属粉末、鉱物の粉末、セラミック出発材料粉末、および他の無機材料の粉末が含まれる。
【0064】
金属粉末の例には、白金、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、亜鉛、コバルト、インジウム、ニッケル、クロム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、カドミウムなどの粉末が含まれる。これらの金属の合金の粉末を使用することもできる。
【0065】
鉱物の粉末の例には、カオリナイト、タルク、マイカ、セリサイト、クロライト、モンモリロナイト、ハロイサイトなどの粉末が含まれる。
【0066】
セラミック出発材料粉末の例には、金属酸化物、金属炭酸塩、複合酸化物などの粉末、具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化バリウムおよび酸化アルミニウムなどの金属酸化物、炭酸マグネシウムおよび炭酸バリウムなどの金属炭酸塩、ならびにジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウムおよびチタン酸ストロンチウムなどの複合酸化物の粉末が含まれる。
【0067】
一般に、セラミック出発材料粉末の表面は、酸点および塩基点の両方を有する。セラミック出発材料粉末の場合に、塩基の量は酸の量よりも多い。溶剤中のセラミック出発材料粉末の酸点および塩基点は、例えば、逆滴定法によって決定され得る。
【0068】
本発明のスラリー組成物を使用して積層セラミックコンデンサを製造する場合に、セラミック出発材料粉末としてチタン酸バリウムを使用することが好ましい。本発明のスラリー組成物によって製造される積層セラミックコンデンサ以外の積層セラミック電子部品には、インダクタ、サーミスタ、圧電部品などが含まれる。したがって、積層セラミック電子部品の機能に応じて、セラミック出発材料粉末として、誘電性セラミック材料に加えて、磁性セラミック材料、半導体セラミック材料、圧電セラミック材料などを使用することができる。
【0069】
他の粉末の例には、水酸化アルミニウム、シリカ、バライト粉末、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、酸化アンチモン、カーボンブラック、アセチレンブラック、アニリンブラック、黄鉛、亜鉛黄、クロム酸バリウム、酸化鉄、アンバー、パーマネントブラウン、ローズブラウン、べんがら、カドミウムレッド、パーマネントレッド4R、パラレッド、ファイアレッド、コバルトパープル、マンガンパープル、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、ウルトラマリン、紺青、アルカリブルーレーキ、フタロシアニンブルー、クロムグリーン、ビリジアン、エメラルドグリーン、フタロシアニングリーン、硫酸亜鉛、ケイ酸亜鉛、硫化亜鉛カドミウム、硫酸ストロンチウムなどが含まれる。
【0070】
これらの粉末の中で、チタン酸バリウム粉末およびニッケル粉末または銀粉末を使用することが好ましい。例えば、チタン酸バリウム粉末を含むスラリー組成物をセラミックグリーンシートの出発材料として使用することができ、チタン酸バリウム粉末とニッケル粉末または銀粉末とを含むスラリー組成物を内部電極用の出発材料(内部電極ペースト)として使用することができる。
【0071】
粉末の粒子サイズに特に制限は存在しないが、動的光散乱法によって測定した場合に、粒子サイズは、好ましくは0.1nm~500nm、より好ましくは0.5nm~300nm、さらにより好ましくは1nm~200nmである。粉末が小さい粒子サイズを有しても、粉末は本発明により溶剤中に均一に分散され得るため、粉末が小さい粒子サイズを有しても、粉末が優れた分散性を示すスラリー組成物が得られる。
【0072】
スラリー組成物中の粉末の含有量は、好ましくは10重量%~80重量%、より好ましくは20重量%~70重量%、さらにより好ましくは30重量%~60重量%である。
【0073】
(分散剤)
本発明のスラリー組成物がセラミックグリーンシートの製造に使用される場合に、セラミックグリーンシートに使用される本発明による分散剤の量の至適範囲は、セラミック出発材料粉末の比表面積に応じて変動する。セラミック出発材料粉末の比表面積[単位:m2/g]を5で割ることによって得られた値を活性成分の量とみなすことによって、分散剤の標準含有量を計算することができる。例えば、チタン酸バリウム粉末をセラミック出発材料粉末として使用する場合に、粒子サイズが200nm(比表面積:5m2/g)であれば、100重量部のチタン酸バリウムに対する分散剤の標準含有量は、活性成分に関して1重量部であり、粒子サイズが100nm(比表面積:10m2/g)であれば、活性成分に関して2重量部であり、粒子サイズが50nm(比表面積:20m2/g)であれば、活性成分に関して4重量部である。
【0074】
(溶剤)
スラリー組成物に使用される溶剤に特に制限は存在せず、例えば、溶剤として、水または有機溶剤を使用することができる。有機溶剤の例には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール(IPA)、n-ブタノール、sec-ブタノール、n-オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、ベンジルアルコール、テルピネオールおよびブチルカルビトールなどのアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブおよびブチルセロソルブなどのセロソルブ、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン(DIBK)、シクロヘキサノンおよびイソホロンなどのケトン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN-メチル-2-ピロリドンなどのアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチルおよびブチルカルビトールアセテートなどのエステル、エチルエーテル、ジオキサンおよびテトラヒドロフランなどのエーテル、ナフサ、n-ヘキサンおよびシクロヘキサンなどの炭化水素、ならびにトルエン、キシレンおよびピリジンなどの芳香族化合物が含まれる。
【0075】
後述するように、バインダー樹脂としてポリビニルブチラール樹脂を使用する場合に、溶解性の観点から、アルコール、セロソルブ、または上記溶剤と他の溶剤との混合物を使用することが好ましい。
【0076】
(バインダー樹脂)
本発明のスラリー組成物は、バインダー樹脂を含み得る。バインダーとしての機能を有する限り、バインダー樹脂に特別な制限は存在しない。バインダー樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、エチルセルロースまたはアクリル樹脂を使用することが好ましい。セラミックグリーンシートを製造するための出発材料としてスラリー組成物を使用する場合に、ポリビニルブチラール樹脂またはアクリル樹脂をバインダー樹脂として使用することがより好ましく、内部電極を製造するための出発材料としてスラリー組成物を使用する場合に、エチルセルロースをバインダー樹脂として使用することがより好ましい。
【0077】
ポリビニルブチラール樹脂を使用のために製造することも、または市販の製品を使用することもできる。市販の製品の例には、クラレポバールPVA-102、PVA-103、PVA-105、PVA-110、PVA-117、PVA-120、PVA-124、PVA-126、PVA-135、PVA-CSA、PVA-CST、PVA-HC(クラレ株式会社製)、ゴーセノールNH-26、NH-20、NH-18、N-300、NM-14、NM-11、NL-05(日本合成化学株式会社製)、デンカポバールK-24E、K-17C、K-17E、K-05(電気化学工業株式会社製)などの完全けん化ポリビニルアルコール、クラレポバールPVA-617、PVA-624、PVA-613、PVA-706、PVA-203、PVA-205、PVA-210、PVA-217、PVA-220、PVA-224、PVA-228、PVA-235、PVA-217E、PVA-217EE、PVA-220E、PVA-224E、PVA-403、PVA-405、PVA-420、PVA-420H、PVA-424H、L-8、L-9、L-9-78、L-10、PVA-505(クラレ株式会社製)、ゴーセノールAH-26、AH-20、AH-17、A-300、C-500、P-610、AL-06、GH-23、GH-20、GH-17、GM-14、GM-14L、GL-05、GL-03、KH-20、KH-17、KM-11、KL-05、L-03、KP-08、KP-06、NK-05(日本合成化学株式会社製)、デンカポバールH-24、H-17、H-12、B-33、B-24T、B-24、B-20、B-17R、B-17、B-05、B-04(電気化学工業株式会社製)などの部分けん化ポリビニルアルコール、ソアノールD2908、DT2903、DC3212、DC3203、E3808、ET3803、A4412、AT4406、AT4403(日本合成化学株式会社製)などのポリビニルアルコールとエチレンとのコポリマー、S-Lec BのBL-1、BL-2、BL-2H、BL-S、BL-SH、BX-10、BX-L、BM-1、BM-2、BM-5、BM-S、BM-SH、BH-3、BH-S、BX-1、BX-3、BX-5(積水化学工業株式会社製)などのポリビニルブチラール樹脂が含まれる。
【0078】
スラリー組成物中のバインダー樹脂の含有量は、スラリー組成物を使用することによって製造されるグリーンシートの機械的特性を改善し、バインダーとしての機能をより良好に達成するという観点から、100重量部の粉末に対して、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上、さらにより好ましくは2重量部以上である。また、上記含有量は、スラリー組成物の粘度を低下させて、その取り扱い性を改善するという観点から、100重量部の粉末に対して、好ましくは20重量部以下、より好ましくは15重量部以下、さらにより好ましくは12重量部以下である。スラリー組成物がセラミック出発材料粉末とバインダー樹脂としてのポリビニルブチラール樹脂とを含む場合に、ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、100重量部のセラミック出発材料粉末に対して、好ましくは0.5重量部~20重量部、より好ましくは1重量部~15重量部、さらにより好ましくは2重量部~12重量部である。
【0079】
可塑剤
スラリー組成物は、スラリー組成物を使用することによって製造されるグリーンシートの可撓性および取り外し可能性を改善する目的で可塑剤を含み得る。使用される可塑剤に特に制限は存在せず、その例としては、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジオクチルおよびフタル酸ジブチルなどのフタル酸ジエステル、アジピン酸ジオクチルなどのアジピン酸エステル、およびトリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノエート)などのアルキレングリコールジエステルが含まれる。これらの可塑剤の中でも、低揮発性およびシートの可撓性の維持の観点からフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)およびフタル酸ジオクチルを使用することが好ましい。
【0080】
本発明のスラリー組成物中の可塑剤の含有量は、スラリー組成物を使用することによって製造されたグリーンシートの可撓性をさらに改善するという観点から、100重量部のポリビニルブチラール樹脂に対して、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上、さらにより好ましくは15重量部以上である。また、上記含有量は、スラリー組成物を使用することによって製造されたグリーンシートの取り外し可能性をさらに改善するという観点から、100重量部のポリビニルブチラール樹脂に対して、好ましくは60重量部以下、より好ましくは55重量部以下、さらにより好ましくは50重量部以下である。ポリビニルブチラール樹脂をバインダー樹脂として含むスラリー組成物を使用する場合に、可塑剤の含有量は、100重量部のポリビニルブチラール樹脂に対して、好ましくは5重量部~60重量部、より好ましくは10重量部~55重量部、さらにより好ましくは15重量部~50重量部である。
【0081】
さらなる成分
本発明のスラリー組成物は、本発明の効果を低下させない範囲内で、添加剤として帯電防止剤、滑沢剤、分散補助剤などの低分子量化合物などをさらに含み得る。
【0082】
スラリー組成物の用途
本発明のスラリー組成物は、様々な用途において有用である。本発明のスラリー組成物の例として、または本発明のスラリー組成物を使用することによって得られる製品の例として、セラミックグリーンシート、内部電極ペースト、積層セラミックコンデンサ、および前処理剤を以下に記載する。
【0083】
図1は、本発明のスラリー組成物を使用したセラミックグリーンシートを製造する方法を説明する概略図である。まず、チタン酸バリウム(BaTiO
3)などのセラミック出発材料粉末1、本発明の分散剤(図示されていない)、溶剤2、およびバインダー樹脂(図示されていない)を混合することによって、スラリー組成物3を形成する(
図1(a))。例えば、溶剤として、トルエン/エタノール混合溶剤またはメチルエチルケトン(MEK)を使用することができ、バインダー樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂またはアクリル樹脂を使用することができる。スラリー組成物3をキャリアフィルム4上に塗布し(
図1(b))、次いでスラリー組成物を乾燥させて、キャリアフィルム上にセラミックグリーンシート5を形成する(
図1(c))。
【0084】
上記説明のように、セラミックグリーンシートを製造する方法は、
セラミック出発材料粉末、本発明の分散剤、溶剤、およびバインダー樹脂を混合して、スラリー組成物を形成する工程と、
スラリー組成物をキャリアフィルム上に塗布する工程と、
キャリアフィルム上に塗布されたスラリー組成物を乾燥させて、セラミックグリーンシートを形成する工程と、
を含む。
【0085】
図2は、本発明のスラリー組成物である内部電極ペーストを製造する方法を説明する概略図である。チタン酸バリウムなどのセラミック出発材料粉末1、ニッケル粉末などの金属粉末6、本発明の分散剤(図示されていない)、溶剤2、およびバインダー樹脂(図示されていない)を混合することによって(
図2(a))、スラリー組成物(内部電極ペースト)3を形成する(
図2(b))。例えば、溶剤として、(ジヒドロ)テルピネオールと(ジヒドロ)テルピネオールアセテートとの混合溶剤を使用することができ、バインダー樹脂として、エチルセルロースを使用することができる。チタン酸バリウム粉末およびニッケル粉末を使用する場合に、内部電極ペーストは、好ましくは、100重量部のニッケル粉末に対して、10重量部~20重量部のチタン酸バリウム粉末を含有する。また、ニッケル粉末は、好ましくは50nm~300nmの粒子サイズを有し、チタン酸バリウム粉末は、好ましくは5nm~100nmの粒子サイズを有する。
【0086】
上記説明のように、内部電極ペーストを製造する方法は、セラミック出発材料粉末、金属粉末、本発明のコポリマー分散剤、溶剤、およびバインダー樹脂を混合して、スラリー組成物を形成する工程を含む。
【0087】
図3は、積層セラミックコンデンサを製造する方法を説明する概略図である。
図2に示されるように形成された内部電極ペースト7を、
図1に示されるように形成されたセラミックグリーンシート5上に、多くの電極パターンが形成されたスクリーンマスク(図示されていない)を使用して印刷する(
図3(a))。内部電極ペースト7が印刷されたセラミックグリーンシート5をキャリアフィルム4から取り外す(
図3(b))。
図3(a)および
図3(b)の工程を繰り返すことによって、複数のセラミックグリーンシートを形成する。複数のセラミックグリーンシートを積層して加圧することで、セラミック層と内部電極層とが交互に積層された積層製品8が得られる(
図3(c))。こうして形成された積層製品8を、必要に応じてチップに切断し(チップ製造工程は図示されていない)、次いで焼成する(
図3(d))。得られた焼成された積層製品8に外部電極12を形成して、両側に相対している外部電極12を有する積層セラミックコンデンサ13が得られる(
図3(e))。
【0088】
上記説明のように、積層セラミックコンデンサを製造する方法は、
セラミック出発材料粉末、本発明の分散剤、溶剤、およびバインダー樹脂を混合して、スラリー組成物を形成する工程と、
以下の工程(1)~工程(4):
(1)スラリー組成物をキャリアフィルム上に塗布する工程と、
(2)キャリアフィルム上に塗布されたスラリー組成物を乾燥させることによって、セラミックグリーンシートを形成する工程と、
(3)セラミックグリーンシート上に内部電極ペーストを印刷する工程と、
(4)内部電極ペーストを使用することによって印刷されたセラミックグリーンシートをキャリアフィルムから取り外す工程と、
を繰り返すことによって、内部電極ペーストが印刷された複数のセラミックグリーンシートを形成する工程と、
複数のセラミックグリーンシートを積層し、これを加圧することで、セラミック層と内部電極層とが交互に積層された積層製品を形成する工程と、
積層製品を焼成する工程と、
積層製品の両側に相対している外部電極を形成して、積層セラミックコンデンサを得る工程と、
を含む。
【0089】
本発明のスラリー組成物は、様々な製品の製造工程において有用な前処理剤としても適用可能である。チタン酸バリウムなどのセラミック出発材料粉末を水などの溶剤に添加し、本発明の分散剤をその溶剤に添加することで、前処理剤が製造される。これにより、チタン酸バリウム粉末が分散剤により水中に分散されているスラリー組成物(前処理剤)が得られる。必要に応じて、乾燥された前処理剤を使用することもできる。そのような場合には、分散剤をセラミック出発材料粉末の表面に付着させ、必要に応じて水などの溶剤を添加することによって前処理剤を得ることができる。
【0090】
上記説明のように、前処理剤を製造する方法は、セラミック出発材料粉末、溶剤、および本発明の分散剤を混合する工程を含む。
【0091】
また、本発明の積層セラミック部品を製造する方法は、
以下の工程(1)~工程(3):
(1)請求項1~13のいずれか一項に記載の、無機粉末がセラミック出発材料粉末であるスラリー組成物をキャリアフィルム上に塗布する工程と、
(2)スラリー組成物を乾燥させて、キャリアフィルム上にセラミックグリーンシートを形成する工程と、
(3)セラミックグリーンシートをキャリアフィルムから取り外す工程と、
を繰り返すことによって、複数のセラミックグリーンシートを形成する工程と、
取り外されたセラミックグリーンシートを積層する工程と、
積層されたセラミックグリーンシートを焼成する工程と、
を含む。
【実施例0092】
ここで、本発明を以下の実施例を参照して説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0093】
(分析的測定法)
酸価の測定
酸価は、規定の条件下で1gの物質を中和するのに必要とされるKOH量である。DIN EN ISO 2114に従って、エタノール中の0.1NのKOHによる中和反応によって酸価を決定した。
【0094】
【0095】
分散剤5*(比較例)については、中和反応のために0.1NのNaOH水溶液を使用した。
【0096】
ヒドロキシル価の測定
アルコール性ヒドロキシル基を、アセチル化によって過剰の無水酢酸と反応させた。過剰の無水酢酸を、水の添加により酢酸に分解し、エタノール性KOH溶液を使用して逆滴定する。ヒドロキシル価は、1gの物質をアセチル化した場合に結合される酢酸量に相当するKOH量(mg)であると解釈される。
【0097】
NMR測定
NMR測定を、Bruker社のDPX 300において300MHZ(1H)または75MHZ(13C)で実施した。使用された溶剤は、重水素化クロロホルム(CDCl3)および重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)であった。
【0098】
分散剤
以下の市販の原材料を使用した:
Lutensol TO 6: BASF社から購入したアルコキシレート(RO(CH2CH2O)6H、ここで、R=イソ-C13H27)、ヒドロキシル価:120mgKOH/g
Polyglycol B11/50: Clariant社から購入したn-ブタノールから開始された1:1のEO:PO比を有するポリアルキレングリコール(PAG)、ヒドロキシル価:42mgKOH/g
Polyglycol B01/20: Clariant社から購入したn-ブタノールから開始された0:1のEO:PO比を有するポリアルキレングリコール(PAG)、ヒドロキシル価:80mgKOH/g。
【0099】
ポリエーテルの合成過程で、以下のイオン交換体を使用した:
Amberlite IR-120H: Sigma-Aldrich社から購入した強酸性カチオン交換樹脂。
【0100】
ポリエーテル中間体の調製:
(ブロックポリエーテル1)
アルコキシル化を、撹拌機およびサーモスタットを備えた圧力反応器中で行った。185.3g(1当量)のメトキシプロパノールおよび1.3gのKOH(85%)を導入し、反応器を閉じ、排気し、窒素で不活性にした。反応器内の水を真空下で抜き、反応器を再び窒素で不活性にした。135℃に加熱した後に、358.2g(3当量)のプロピレンオキシドを、5barの最大圧力を超えない速度で計量供給した。計量添加が終了してから、圧力が一定になるまで135℃で反応を行った後に、453.0g(5当量)のエチレンオキシドを同様に計量供給した。計量添加が終了してから、圧力が一定になるまで135℃で反応を行った後に、室温まで冷却を行い、引き続き、酸性カチオン交換樹脂(Amberlite IR-120H)で脱アルカリ化した。得られたブロックポリエーテルのヒドロキシル価は、118mgKOH/gであった。
【0101】
(ポリエーテル2、本発明によるものではない)
アルコキシル化を、撹拌機およびサーモスタットを備えた圧力反応器中で行った。185.3g(1当量)のメトキシプロパノールおよび1.3gのKOH(85%)を導入し、反応器を閉じ、排気し、窒素で不活性にした。反応器内の水を真空下で抜き、反応器を再び窒素で不活性にした。135℃に加熱した後に、358.2g(3当量)のプロピレンオキシドと453.0g(5当量)のエチレンオキシドとの混合物を、5barの最大圧力を超えない速度で計量供給した。計量添加が終了してから、圧力が一定になるまで135℃で反応を行った後に、室温まで冷却を行い、引き続き、酸性カチオン交換樹脂(Amberlite IR-120H)で脱アルカリ化した。得られたポリエーテルのヒドロキシル価は、118mgKOH/gであった。
【0102】
(ブロックポリエーテル3)
ポリエーテル3の調製を2つの反応工程で行った。
【0103】
a)第1の反応工程では、3-フェニルプロパン-1-オールから出発してポリ(フェニルグリシジルエーテル)中間体を調製した。このために、撹拌機、凝縮器、サーモスタットおよび滴下漏斗を備えた500ml容の4つ口フラスコに、136.2g(1.0当量)の3-フェニルプロパン-1-オールおよび4.48g(0.04当量)のカリウムtert-ブチレートを充填した。窒素下で撹拌しながら、この初充填物を105℃に加熱した。穏やかな窒素流を用いて、105℃で形成されたtert-ブタノールを1時間で除去した。次いで、温度を120℃に上げ、300.34g(2.0当量)のフェニルグリシジルエーテルを1時間かけて滴加した。計量添加が終了した後に、1H NMR分析に従ってモノマーの完全な転化を確認することができるまで、120℃で4時間にわたり撹拌を続けた。
【0104】
b)第2の反応工程では、工程a)から得られた中間体を引き続きエトキシル化した。
【0105】
このアルコキシル化を、撹拌機およびサーモスタットを備えた圧力反応器中で行った。392.8g(0.9当量)のポリ(フェニルグリシジルエーテル)中間体を導入し、反応器を閉じ、排気し、窒素を使用して不活性にした。135℃に加熱した後に、396.0g(9.0当量)のエチレンオキシドを、5barの最大圧力を超えない速度で計量供給した。計量添加が終了してから、圧力が一定になるまで135℃で反応を行った後に、室温まで冷却を行った。引き続き、得られたブロックコポリマーをメタノール中に溶解させ、酸性イオン交換体のアンバーライトIR-120Hで中和した。濾過によりイオン交換体を除去した後に、メタノールを減圧下で除去した。得られたブロックポリエーテルのヒドロキシル価は、64mgKOH/gであった。
【0106】
(ブロックポリエーテル4)
a)ブロックポリエーテル4を調製するために、3-フェニルプロパン-1-オールから出発して調製され、ブロックポリエーテル3の反応工程a)に従って得られたポリ(フェニルグリシジルエーテル)中間体を、アルコキシル化反応のためのスターターとして使用した。
【0107】
b)ポリ(フェニルグリシジルエーテル)中間体のプロポキシル化/エトキシル化
アルコキシル化を、撹拌機およびサーモスタットを備えた圧力反応器中で行った。392.8g(0.9当量)のポリ(フェニルグリシジルエーテル)中間体を導入し、反応器を閉じ、排気し、窒素で不活性にした。135℃に加熱した後に、104.4g(1.8当量)のプロピレンオキシドを、5barの最大圧力を超えない速度で計量供給した。計量添加が終了してから、圧力が一定になるまで135℃で反応を行った後に、396.0g(9.0当量)のエチレンオキシドを同様に計量供給した。計量添加が終了してから、圧力が一定になるまで135℃で反応を行った後に、室温まで冷却を行った。引き続き、得られたブロックコポリマーをメタノール中に溶解させ、酸性イオン交換樹脂のアンバーライトIR-120Hで中和した。濾過によりイオン交換体を除去した後に、メタノールを減圧下で除去した。得られたブロックポリエーテルのヒドロキシル価は、56mgKOH/gであった。
【0108】
(ブロックポリエーテル5)
アルコキシル化を、撹拌機およびサーモスタットを備えた圧力反応器中で行った。136.2g(1.0mol)の3-フェニルプロパン-1-オールおよび1.0gのKOH(85%)を導入し、反応器を閉じ、排気し、窒素で不活性にした。反応器内の水を真空下で抜き、反応器を再び窒素で不活性にした。135℃に加熱した後に、232.3g(4.0mol)のプロピレンオキシドを、5barの最大圧力を超えない速度で計量供給した。計量添加が終了してから、圧力が一定になるまで135℃で反応を行った後に、352.4g(8.0mol)のエチレンオキシドを同様に計量供給した。計量添加が終了してから、圧力が一定になるまで135℃で反応を行った後に、室温まで冷却を行い、引き続き、酸性カチオン交換樹脂(Amberlite IR-120H)で脱アルカリ化した。得られたブロックポリエーテルのヒドロキシル価は、77mgKOH/gであった。
【0109】
分散剤1~分散剤11を以下に記載されるように調製した。
【0110】
(分散剤1)
撹拌機、還流凝縮器およびサーモスタットを備えた2000ml容の4つ口フラスコに、951gのブロックポリエーテル1、200gの無水コハク酸、6mlの酢酸ブチル、および0.6gのK2CO3を充填した。反応混合物を130℃に加熱し、NMR分析により無水物の完全な転化が示されるまで反応させた。その後に、存在する可能性のある固体成分を濾過により除去した。得られた分散剤は、96mgKOH/gの酸価を有していた。
【0111】
(分散剤2*、*は比較例を示す)
撹拌機、還流凝縮器およびサーモスタットを備えた2000ml容の4つ口フラスコに、935gのLutensol TO 6、200gの無水コハク酸、6mlの酢酸ブチル、および0.6gのK2CO3を充填した。反応混合物を130℃に加熱し、NMR分析により無水物の完全な転化が示されるまで反応させた。その後に、存在する可能性のある固体成分を濾過により除去した。得られた分散剤は、97mgKOH/gの酸価を有していた。
【0112】
(分散剤3*、*は比較例を示す)
撹拌機、還流凝縮器およびサーモスタットを備えた2000ml容の4つ口フラスコに、1403gのポリグリコールB01/20、200gの無水コハク酸、8mlの酢酸ブチル、および0.8gのK2CO3を充填した。反応混合物を130℃に加熱し、NMR分析により無水物の完全な転化が示されるまで反応させた。その後に、存在する可能性のある固体成分を濾過により除去した。得られた分散剤は、68mgKOH/gの酸価を有していた。
【0113】
(分散剤4*、*は比較例を示す)
撹拌機、還流凝縮器およびサーモスタットを備えた2000ml容の4つ口フラスコに、1336gのポリグリコールB11/50、100gの無水コハク酸、7mlの酢酸ブチル、および0.7gのK2CO3を充填した。反応混合物を130℃に加熱し、NMR分析により無水物の完全な転化が示されるまで反応させた。その後に、存在する可能性のある固体成分を濾過により除去した。得られた分散剤は、41mgKOH/gの酸価を有していた。
【0114】
(分散剤5*、*は比較例を示す)
撹拌機、還流凝縮器およびサーモスタットを備えた1000ml容の4つ口フラスコに、668gのポリグリコールB11/50を充填し、80℃に加熱した。55.9gのポリリン酸を少しずつ添加した。ポリリン酸の添加後に、反応混合物を、NMR分析によりポリエーテルの完全な転化が示されるまで80℃で撹拌した。得られた分散剤は、103mgKOH/gの酸価を有していた。
【0115】
(分散剤6*、*は比較例を示す)
撹拌機、還流凝縮器およびサーモスタットを備えた2000ml容の4つ口フラスコに、951gのポリエーテル2、200gの無水コハク酸、6mlの酢酸ブチル、および0.6gのK2CO3を充填した。反応混合物を130℃に加熱し、NMR分析により無水物の完全な転化が示されるまで反応させた。その後に、存在する可能性のある固体成分を濾過により除去した。得られた分散剤は、98mgKOH/gの酸価を有していた。
【0116】
(分散剤7)
撹拌機、還流凝縮器およびサーモスタットを備えた2000ml容の4つ口フラスコに、951gのブロックポリエーテル1、196gの無水マレイン酸、6mlの酢酸ブチル、および0.6gのK2CO3を充填した。反応混合物を130℃に加熱し、NMR分析により無水物の完全な転化が示されるまで反応させた。その後に、存在する可能性のある固体成分を濾過により除去した。得られた分散剤は、97mgKOH/gの酸価を有していた。
【0117】
(分散剤8)
撹拌機、還流凝縮器およびサーモスタットを備えた2000ml容の4つ口フラスコに、951gのブロックポリエーテル1、296gの無水フタル酸、6mlの酢酸ブチル、および0.6gのK2CO3を充填した。反応混合物を130℃に加熱し、NMR分析により無水物の完全な転化が示されるまで反応させた。その後に、存在する可能性のある固体成分を濾過により除去した。得られた分散剤は、89mgKOH/gの酸価を有していた。
【0118】
(分散剤9)
撹拌機、還流凝縮器およびサーモスタットを備えた2000ml容の4つ口フラスコに、877gのブロックポリエーテル3、98gの無水マレイン酸、5mlの酢酸ブチル、および0.5gのK2CO3を充填した。反応混合物を130℃に加熱し、NMR分析により無水物の完全な転化が示されるまで反応させた。その後に、存在する可能性のある固体成分を濾過により除去した。得られた分散剤は、59mgKOH/gの酸価を有していた。
【0119】
(分散剤10)
撹拌機、還流凝縮器およびサーモスタットを備えた2000ml容の4つ口フラスコに、1002gのブロックポリエーテル4、98gの無水マレイン酸、6mlの酢酸ブチル、および0.6gのK2CO3を充填した。反応混合物を130℃に加熱し、NMR分析により無水物の完全な転化が示されるまで反応させた。その後に、存在する可能性のある固体成分を濾過により除去した。得られた分散剤は、53mgKOH/gの酸価を有していた。
【0120】
(分散剤11)
撹拌機、還流凝縮器およびサーモスタットを備えた2000ml容の4つ口フラスコに、1457gのブロックポリエーテル5、196gの無水マレイン酸、8mlの酢酸ブチル、および0.8gのK2CO3を充填した。反応混合物を130℃に加熱し、NMR分析により無水物の完全な転化が示されるまで反応させた。その後に、存在する可能性のある固体成分を濾過により除去した。得られた分散剤は、69mgKOH/gの酸価を有していた。
【0121】
(分散剤12)
撹拌機、サーモスタットおよび滴下漏斗を備えた1000ml容の4つ口フラスコに、630gの実施例8で得られた分散剤8を充填し、60℃に加熱した。この温度で、101gのN,N-ジエチルエタンアミンを80℃の最高温度を超えない速度で計量供給した。60℃での計量供給が終わった後に、反応混合物を1時間撹拌した。室温に冷却した後に、分散剤8のアミン塩が得られた。得られた分散剤は77mgKOH/gの酸価を有し、酸基:アミン基の比率は1:1であった。
【0122】
(スラリー組成物)
分散剤(分散剤1または分散剤2*~分散剤6*)のうちの1つ、セラミック出発材料粉末として使用されるチタン酸バリウム粉末(粒子サイズ:100nm)、バインダー樹脂として使用されるポリビニルブチラール樹脂、可塑剤として使用されるフタル酸ジオクチル、および溶剤として使用されるトルエン/エタノール=50:50(重量比)の混合物を、表1に示される配合に従って、卓上自転公転混合機の容器へと充填し、そこに1mmの直径を有するジルコニアビーズを加えた。混合機を2500rpmで60秒間回転させて、スラリー組成物を得た。比較例1は、分散剤を使用せずに調製された。
【0123】
【0124】
得られたスラリー組成物からジルコニアビーズを除去した後に、そこに、ポリビニルブチラール樹脂をトルエン/エタノール混合溶剤中に溶解させることによって得られたビヒクル溶液を、表2に示される配合に従って添加した。その後に、得られた混合物を自転公転混合機中で2500rpmにて300秒間混合した。
【0125】
【0126】
14.7gの表2に示されるビヒクル溶液は、3.3gのポリビニルブチラール樹脂、および11.4gのトルエン/エタノール混合溶剤からなる。
【0127】
表2に示される配合を有する得られたセラミックスラリー組成物に0.3gのケイ素系表面改質剤のBYK-333を添加した後に、各混合物を卓上自転公転混合機中で2500rpmにて60秒間混合して、セラミックスラリー組成物を得た。
【0128】
表2に示される実施例1および比較例1~比較例6のセラミックスラリー組成物を、BYK Gardner社のPA-5354アプリケーターを使用することによってPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に30μmの厚さで塗布した後に、乾燥させてセラミックグリーンシートを得た。
【0129】
上記のようにして得られた分散剤1および分散剤2*~分散剤6*、セラミックスラリー組成物、ならびにセラミックグリーンシートを以下の点に関して評価した。
【0130】
灰分含有量
TA-Instrument社製のTGA Q5000を使用して、20K/分の昇温速度で、分散剤1および分散剤2*~分散剤6*に関して熱重量測定を実施して、灰分含有量を評価した。
【0131】
(粘度低下効果)
表2に示される配合に従って得られたセラミックスラリー組成物の粘度を、Brookfield社製のE型粘度計を使用することによって測定した。高い粘度低下効果は、分散剤によって実現されるセラミック出発材料粉末の優れた分散性を意味する。
【0132】
(シート強度)
得られたセラミックグリーンシートをダンベル形状に打ち抜いて、引張強度を評価するための試料を得た。これらの試料を、ZWICK社製の引張試験機Roell ZMART.PRO 1465を使用することによって100nMのロードセルを使用して1mm/分の速度で引張試験にかけた。最大破断点伸びを測定して、シート強度を評価した。結果を表3に示す。
【0133】
【0134】
表3における0.1%以下の灰分含有量は、灰分含有量がないことを意味するとみなされる。また、表3における高い最大破断点伸びは、高いシート強度を示すことが分かった。
【0135】
表3に示されるように、分散剤を使用しない比較例1では、初期分散でスラリーを形成することができず、試験を継続することができなかった。それに対して、実施例1および比較例2~比較例6では、少なくともスラリーは得られ、試験を実施することができた。チタン酸バリウム粉末の分散性は使用される分散剤に応じて変動するが、チタン酸バリウム粉末が分散剤によって分散され、それによりセラミックスラリー組成物の粘度が低下したことが理解されるべきである。
【0136】
本発明の分散剤を使用した実施例1では、灰分含有量が確認されず、セラミックスラリー組成物の粘度が低く(セラミック出発材料粉末の優れた分散性が達成され)、セラミックグリーンシートの高いシート強度が達成された。それに対して、比較例2では、灰分含有量が確認されず、高い粘度低下効果が得られたものの、セラミックグリーンシートの強度は低かった。比較例3では、灰分含有量が確認されなかったものの、粘度低下効果および得られたセラミックグリーンシートのシート強度は低かった。比較例4では、灰分含有量が確認されず、粘度低下効果が達成され、セラミックグリーンシートのシート強度は或る程度高かったものの、これらの効果は実施例1によって達成された効果よりも高くはなかった。比較例5では、粘度低下効果およびセラミックグリーンシートの高いシート強度が達成されたものの、分散剤にリンが含まれていたため、残留灰分含有量が確認された。したがって、比較例5のセラミックグリーンシートを積層セラミック部品に適用すると、電気特性に悪影響が与えられると考えられる。比較例6によれば、灰分含有量および粘度は実施例1に匹敵するが、比較例6の最大破断点伸びは実施例1の最大破断点伸びよりもはるかに低い(実施例1で得られた結果の約半分)。
【0137】
実施例1のように特定の構造を有する分散剤とセラミック出発材料粉末とを含むスラリー組成物を使用することによって、セラミック出発材料粉末の優れた分散性を得ることができ、最終製品の電気的特性への悪影響を回避することができる。また、セラミックグリーンシートの高いシート強度を達成することができ、積層セラミック部品の製造方法で必要とされる優れた取り扱い性を有するセラミックグリーンシートを得ることができる。さらに、分散剤が灰分含有量として残ることはない。
【0138】
実施例1の上述の効果は、実施例1として示される実施形態に限定されない。例えば、スラリー組成物を内部電極ペーストまたは前処理剤として使用する場合に、分散剤以外の成分およびそれらの量を変更することによって、実施例1の効果と同等の優れた効果を得ることもできる。
【0139】
換言すると、本発明のスラリー組成物を内部電極を製造するための内部電極ペーストとして使用することによって、スラリー組成物中のセラミック出発材料粉末の分散性を改善することができる。結果として、内部電極ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートを積層するときに誘電体層への悪影響を回避することができ、それにより積層セラミックコンデンサの電気的特性への悪影響およびそれらの初期故障を防ぐことができる。また、焼成するときに金属粉末の優れた焼結遅延効果を維持することができ、焼成後の構造欠陥などを防ぐことができる。したがって、より高い性能を有する積層セラミック部品を得ることができる。
【0140】
さらに、上記粉末は優れた分散性を有するため、本発明のスラリー組成物を前処理剤として使用する場合に、長期安定貯蔵が可能である。さらに、後続工程で前処理剤を使用する場合に、易分散性を高めることができ、製造リードタイムおよびプロセスコストを削減することができる。
前記溶剤は、トルエン、エタノール、メチルエチルケトン、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテート、および水のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のスラリー組成物。
前記無機粉末は、チタン酸バリウムまたはニッケルまたは銀を含むまたはこれらからなり、かつ前記バインダー樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂、エチルセルロース、アクリル樹脂、およびそれらの混合物から選択される、請求項5に記載のスラリー組成物。