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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080122
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】半導体発光装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/62 20100101AFI20230601BHJP
   H01L 33/54 20100101ALI20230601BHJP
【FI】
H01L33/62
H01L33/54
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047899
(22)【出願日】2023-03-24
(62)【分割の表示】P 2019076203の分割
【原出願日】2019-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀一郎
(72)【発明者】
【氏名】一ノ倉 啓慈
(57)【要約】
【課題】封止材としてシリコーン樹脂を用いる場合であっても、光取り出し効率の向上効果を得ることができ、なおかつ信頼性の高い、発光波長360nm以下の半導体発光装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】半導体発光装置1は、波長360nm以下の紫外線を発光する半導体発光素子2と、半導体発光素子2を収容する凹部3aが形成されたパッケージ基板3と、パッケージ基板3における凹部3aが開口する側の縁面3c上に形成された薄膜層5と、薄膜層5上に設けられ、シリコーン樹脂により形成されレンズ状の形状を有し、半導体発光素子2を封止する封止材4と、を備える。薄膜層5は、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)のうち少なくとも1つを含む金属により形成された金属層である。封止材4は、薄膜層5との接触角が15度以上となるように形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長360nm以下の紫外線を発光する半導体発光素子と、
前記半導体発光素子を収容する凹部が形成されたパッケージ基板と、
前記パッケージ基板における前記凹部が開口する側の縁面上に形成された薄膜層と、
前記薄膜層上に設けられ、シリコーン樹脂により形成されレンズ状の形状を有し、前記半導体発光素子を封止する封止材と、
を備える半導体発光装置であって、
前記薄膜層は、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)のうち少なくとも1つを含む金属により形成された金属層であり、
前記封止材は、前記薄膜層との接触角が15度以上となるように形成されている、
半導体発光装置。
【請求項2】
前記封止材の上面全体は、滑らかな曲面形状となるよう形成されている、
請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記薄膜層は、前記シリコーン樹脂との間において、前記シリコーン樹脂と前記パッケージ基板との濡れ性よりも小さい濡れ性を有する、
請求項1又は2に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記接触角は、30度以上80度以下である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体発光装置。
【請求項5】
凹部が形成されたパッケージ基板における前記凹部が開口する側の縁面上に所定の厚さを有する薄膜層を形成する工程と、
前記パッケージ基板の前記凹部内に、波長360nm以下の紫外線を発光する半導体発光素子を収容する工程と、
前記パッケージ基板上に前記半導体発光素子を封止するシリコーン樹脂により形成された封止材を塗布する工程と、
塗布された前記封止材を前記薄膜層との接触角が15度以上になるように形成するとともに、レンズ状の形状に形成する工程と、
前記レンズ状の形状に形成された前記封止材を硬化する工程と、を含み、
前記薄膜層は、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)のうち少なくとも1つを含む金属により形成された金属層である、
半導体発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光装置及びその製造方法に関し、特に、紫外線を発光する窒化物半導体発光素子を備えた半導体発光装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂を用いて半導体発光素子を封止する樹脂封止型の照明装置が提供されている(特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載の照明装置は、基板と、該基板に載置される半導体発光素子と、該半導体発光素子を収納するリフレクタと、前記半導体発光素子を封止する蛍光体樹脂材料と、該蛍光体樹脂材料上に形成されたレンズと、前記半導体発光素子に電気的に接続され、前記半導体発光素子が配置される側とは反対側が前記リフレクタ外部に露出している第一電極と、前記第一電極に対向する第二電極と、を備えるLEDモジュールと、該LEDモジュールを固定する回路基板と、を有している。
【0004】
上記の装置では、リフレクタの上面に設けられた凸部の上面にレンズが接して設けられており、その端部ではレンズの表面張力とレンズと封止樹脂の界面張力の釣り合いで決まる接触角によってレンズの形状が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-15404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の記載によれば、上記のレンズは、屈折率が低い樹脂材料(PMMA等のアクリル樹脂やシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂)により形成される。このうち、特に、波長360nm以下の紫外線を発光するLEDにおいては、紫外線に耐光性のあるシリコーン樹脂が用いられる。
【0007】
シリコーン樹脂を安定して硬化させるために、シリコーン樹脂には、溶媒や触媒等が混合されている。これらの溶媒や触媒は、シリコーン樹脂を高温で硬化させる時に、揮発させる必要がある。モールド等の鋳型方式による硬化成形を行う場合、溶媒や触媒成分が残留することによって、樹脂が十分に硬化できない虞や、紫外線による変性によって樹脂が劣化し発光素子の信頼性に悪影響を与える虞がある。特に、波長340nm以下の紫外線を発光するLEDにおいては、これらの影響が顕著である。この理由は、340nm以下の波長を有する紫外線によって炭素-炭素結合(いわゆる、C-C結合)が分解されるため、シリコーン樹脂の劣化が加速されるためである。また、波長360nmの紫外線LEDであっても、発光波長には幅があるため、発光波長は360nmをピークに、概ね、335nm~385nmに広がっており、340nm以下の波長の影響を受けて、やはり樹脂の劣化は促進される。このため、波長360nm以下の紫外線LEDを封止するシリコーン樹脂は、溶媒や触媒成分、残留を極力抑えるため、モールド等の鋳型方式による方法を用いない、自然成形によって硬化させることが望ましい。
【0008】
また、シリコーン樹脂は、表面張力が低く(例えば、20dyne/cm程度)、その形状を安定化させるために粘度調整用の添加物が添加されているが、波長360nm以下の紫外線LEDを封止する際においては、これらの添加物も、上記紫外線による影響を受け、シリコーン樹脂の劣化が加速される。また、シリコーン樹脂に、粘度調整用の添加物を添加しなかった場合、リフレクタとの濡れ性が高くなるため、リフレクタの凸部との接触角が一定の角度(例えば、15度)未満に制限される。
【0009】
仮に、上記の接触角を大きくするために一定量以上のシリコーン樹脂を塗布したとしても、リフレクタから溢れ出したり、あるいは、濡れ性が良好であるため、リフレクタの上部から外側の側壁を伝ってシリコーン樹脂が垂れたりする等の虞がある。また、接触角が上記の一定の角度以上になるようにシリコーン樹脂を塗布できたとしても、その後のシリコーン樹脂を加熱する硬化工程において、シリコーン樹脂の粘度が低下するため、上述したように、リフレクタから溢れ出したり、リフレクタの外側の側壁を伝ってシリコーン樹脂が垂れたりする等により、形状を維持したまま、シリコーン樹脂を硬化することは困難である。一方、形状を維持するために粘度調整用の添加物を添加したり、モールドによって成型したりする場合は、添加物あるいは、残留した溶媒や触媒成分が波長360nm以下の紫外線によって分解されるため、シリコーン樹脂の劣化が著しく加速され、素子の信頼性が著しく低下する。
【0010】
このように、波長360nm以下の紫外線LEDにおいては、自然成形での硬化により、一定の角度以上の接触角を有する形状でシリコーン樹脂をレンズ形状にすることと、高い信頼性を確保すること、を同時に達成することは困難であった。このため、製品として、信頼性を優先した場合には、シリコーン樹脂を平坦状(図4参照)あるいは、小さい曲率のレンズ形状で封止せざるを得ず、その結果、シリコーン樹脂及び空気の界面で発生する光の全反射を十分に抑制することができず、シリコーン樹脂で封止することによる光取り出し効率の向上効果が十分に得られない虞がある。
【0011】
そこで、本発明は、封止材としてシリコーン樹脂を用いる場合であっても、光取り出し効率の向上効果を得ることができなおかつ、信頼性の高い、発光波長が360nm以下の紫外線半導体発光装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、波長360nm以下の紫外線を発光する半導体発光素子と、前記半導体発光素子を収容する凹部が形成されたパッケージ基板と、前記パッケージ基板における前記凹部が開口する側の縁面上に形成された薄膜層と、前記薄膜層上に設けられ、シリコーン樹脂により形成されレンズ状の形状を有し、前記半導体発光素子を封止する封止材と、を備える半導体発光装置であって、前記薄膜層は、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)のうち少なくとも1つを含む金属により形成された金属層であり、前記封止材は、前記薄膜層との接触角が15度以上となるように形成されている、半導体発光装置及びその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、封止材としてシリコーン樹脂を用いる場合であっても、光取り出し効率の向上効果を得ることが可能であり、かつ、信頼性の高い、発光波長が360nm以下の紫外線を発光する半導体発光装置及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る窒化物半導体紫外線発光装置の構成を概略的に示す断面図である。
図2図1に示す窒化物半導体発光素子の積層構造を拡大して説明する説明図である。
図3】本発明の実施の形態に係る窒化物半導体紫外線発光装置の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図4】比較例に係る窒化物半導体紫外線発光装置の構成を概略的に示す断面図である。
図5】本発明の実施の形態に係る窒化物半導体紫外線発光装置の長期駆動試験の結果の一例を示す図である。
図6】本発明の一変形例に係る窒化物半導体紫外線発光装置の構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0016】
[実施の形態]
(窒化物半導体紫外線発光装置)
図1は、本発明の実施の形態に係る窒化物半導体紫外線発光装置の構成を概略的に示す断面図である。図1に示すように、本発明の実施の形態に係る窒化物半導体紫外線発光装置(以下、単に「発光装置」ともいう。)1は、発光波長が360nm以下の紫外線(「紫外光」ともいう。以下同様とする。)を発光する窒化物半導体発光素子(以下、単に「発光素子」ともいう。)2と、この発光素子2を収容するパッケージ基板3と、発光素子2を封止する封止材4と、パッケージ基板3上に形成され、パッケージ基板3と封止材4との間に位置して封止材4との濡れ性を抑制し、封止材4とパッケージ基板3との接触角θを大きくする薄膜層(以下、単に「薄膜」ともいう。)5と、パッケージ基板3と薄膜層5とを接着する接着層6とを備えている。
【0017】
ここで、「封止材4とパッケージ基板3との接触角θ」とは、封止材4の上面4a(すなわち、曲面)の端部に接する仮想平面(図1の斜線参照)と、パッケージ基板3の縁面3c(あるいは、後述する薄膜層5の上面)とのなす角をいう。発光装置1は、半導体発光装置の一例である。発光素子2は、半導体発光素子の一例である。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0018】
〔発光素子2〕
図2は、図1に示す発光素子2の積層構造を拡大して説明する説明図である。発光素子2には、例えば、波長360nm以下の紫外線(深紫外線を含む)を発光する発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)が該当する。図2に示すように、発光素子2は、透明基板21と、透明基板21上に形成された窒化物半導体層22と、電極23と、を有している。以下、窒化物半導体層22として、AlGaN系の窒化物半導体で形成された層を例に挙げて説明する。
【0019】
窒化物半導体層22は、透明基板21側から、AlNからなるバッファ層22a、n型AlGaNからなるnクラッド層22b、AlGaNを含む発光層22c、p型AlGaNからなるpクラッド層22d、p型GaNからなるコンタクト層22eを順次積層して構成されている。電極23は、コンタクト層22e上に形成されたアノード側電極部(p電極)23aと、nクラッド層22b上に形成されたカソード側電極部(n電極)23bと、を有している。
【0020】
発光層22cで発光した紫外線は、透明基板21を通って発光素子2の外方へと導かれる。そのため、透明基板21としては、発光した紫外線の透過率がなるべく高いものを用いることが望ましい。具体的には、透明基板21としては、発光した紫外線の透過率が70%以上のものを用いることが望ましい。透明基板21としては、サファイア基板やAlN基板等の単結晶基板を用いてよい。
【0021】
〔パッケージ基板3〕
パッケージ基板3は、略直方体状の形状を有している。パッケージ基板3は、例えば高温焼成セラミック多層基板(High Temperature Co-fired Ceramic:HTCC)や低温焼成セラミック多層基板(Low Temperature Co-fired Ceramic:LTCC)により形成される。また、パッケージ基板3は、窒化アルミニウム(AlN)、あるいはアルミナ(Al)を用いて形成される。特にAlNを用いた場合、熱伝導率が高いため、放熱性が良く、信頼性が高いという特徴がある。
【0022】
なお、パッケージ基板3は、HTCCの他に、例えば、樹脂や金属で形成してもよい。但し、シリコーン等を含む樹脂で封止する樹脂封止型の発光素子2においては、封止材4として用いる樹脂と発光素子2との界面の付近に熱がたまりやすく、また、樹脂が熱に対して比較的弱く劣化してしまう虞があることから、放熱性の高いセラミック製のパッケージ基板3を用いることが望ましい。
【0023】
また、パッケージ基板3の上面には、凹部(「キャビティ」ともいう。)3aが形成されている。発光素子2は、凹部3aに収容され、凹部3aの底面3bに実装される。好ましくは、発光素子2は、透明基板21を上側(凹部3aの開口側)とし、窒化物半導体層22を下側(凹部3aの底面3b側)として、パッケージ基板3の底面3bにフリップチップ実装されている。また、図示していないが、電極23は、金バンプ等を介して、パッケージ基板3に設けられた基板電極(不図示)に電気的に接続されている。
【0024】
〔封止材4〕
封止材4は、発光素子2を封止する。封止材4には、紫外線に対する一定の耐光性を有する材料により形成されている。ここで、「耐光性」とは、光により劣化する度合い示す指標をいう。一例として、封止材4は、シリコーンを主成分として含む樹脂(以下、単に「シリコーン樹脂」ともいう。)により形成されている。封止材4は、空気の屈折率よりも大きい屈折率(例えば、1.10~1.80程度)を有している。なおシリコーン樹脂の場合、屈折率は概ね1.40程度である。
【0025】
また、封止材4は、凹部3aに充填されるとともに、パッケージ基板3の上方に盛り上がるように形成されている。また、封止材4の上面4aは、滑らかな曲面形状(例えば半球状、あるいは半楕円球状)となるように形成されている。換言すれば、封止材4は、パッケージ基板3の凹部3aの上部に、上に向かって凸状となるレンズ状(「ドーム状」ともいう。)の形状を有するように形成されている。かかる形状により、封止材4と空気との境界における全反射を抑制して光の取り出し効率を向上させることができる。
【0026】
封止材4からの光の全反射を抑制して光の取り出し効果を向上させるためには封止材4を一定の大きさ以上の曲率を有するレンズ状に形成することが必要であり、このためには、封止材4は、パッケージ基板3との接触角θ(以下、単に「接触角θ」ともいう。)が一定以上の角度となるように形成することが必要である。この接触角θは、好ましくは、15度以上、より好ましくは、45度程度であり、30度以上80度以下であることが好ましい。
【0027】
なお、接触角θの簡易的な計算方法として、本実施の形態では、θ=2arctan(h/0.5d)を用いた。このとき、パッケージ基板3の縁面3cから封止材4の上面4aの最上点までの距離(以下、「封止材4の高さ」ともいう。)をhとし、パッケージ基板3の短辺の全長(以下、単に「短辺」ともいう。)をdとする。なお、パッケージ基板3の下面3dが略正方形の場合、短辺dとは、パッケージ基板3の下面3dを構成するいずれか1辺をいう。
【0028】
パッケージ基板3の短辺dを3.5mmとする場合、封止材4の高さhが0.7mm程度である場合に、上記計算式では、接触角が概ね45度となる。なお、パッケージ基板3が、極端に縦横比の異なる長方形であった場合や、略正方形の場合であっても、短辺の全長dが例えば、5mm以上と、3.5mmと比較して著しく長くなった場合、あるいは、封止材4の高さが例えば1.0mm以上と著しく高くなった場合、パッケージ基板3と封止材の接触面積と比較して、封止材の体積が著しく増加するため、樹脂自身の質量による形状変化ともあいまって、上記式による接触角θの簡易的な計算方法を用いることはできない。
【0029】
これらの場合は、封止材4の高さhは、短辺の全長dの7.5%以上、よりこのましくは、20%程度であることが望ましい。
【0030】
すなわち、封止材4の高さをhとし、パッケージ基板3の短辺をdとすると、hは、以下の関係式(1)
0.075×d(mm)≦h・・・(1)
を満たしていることが好ましい。なお、少なくとも、h≧0.075×d(mm)であれば、接触角θ≧15度は満たされている。
【0031】
一例として、パッケージ基板3の短辺dを3.5mmとする場合、封止材4の高さhは、0.25mm以上、よりこのましくは、0.7mm~0.8mm程度とすることが光の取り出し効果を向上させるためには望ましい値である。なお、この時の接触角θは、封止材4の高さhが、0.25mmの時に接触角θが16度程度、封止材4の高さhが、0.70mmの時に接触角θが、44度程度である。
【0032】
〔薄膜層5〕
薄膜層5は、パッケージ基板3の縁面3cと、シリコーン樹脂により形成された封止材4との濡れ性を低くし、すなわち、封止材4がパッケージ基板3の縁面3cにはじかれやすくすることによって、接触角θを大きくする機能を有する層又は薄膜である。薄膜層5は、封止材4を形成するシリコーン樹脂との間において、シリコーン樹脂とパッケージ基板3との濡れ性よりも小さい濡れ性を有する。なお、薄膜層5は、必ずしも完全な撥液性は有しなくてもよい。
【0033】
薄膜層5は、図1に示すように、パッケージ基板3の縁面3c上において、シリコーン樹脂が接する部分に形成されている。
【0034】
かかる構成とすることによって接触角θを大きくすることができるため、自然成形での硬化によって、シリコーン樹脂により形成された封止材4を大きい曲率を有するレンズ形状(例えば、接触角θが15度以上となる形状)に成形することが容易となる。
【0035】
薄膜層5は、所定の厚さを有している。具体的には、薄膜層5は、例えば、0.25μm以上、好ましくは、1.0μm以上の厚さを有している。
【0036】
薄膜層5を0.25μmよりも薄くすると、シリコーン樹脂をはじく効果が得られにくくなる虞があるためである。なお、コストの上昇を抑制するため、薄膜層5を一定の厚さ(概ね0.5~1.5μm)に制限してもよい。なお、図1では、説明の便宜上、薄膜層5を実際の厚さよりも厚く描いている点に留意されたい。
【0037】
薄膜層5は、パッケージ基板3の縁面3cにおける外側から内側の全体に亘って形成してもよい。換言すれば、薄膜層5は、パッケージ基板3の縁部3eの厚さ方向(図1の図示横方向)の全域に亘って形成してもよい。しかしながら、薄膜層5をパッケージ基板3の縁部3eの厚さ方向の全域に亘って形成することが製造工程の制約などで、困難な場合は、パッケージ基板3の縁面3cの外側、あるいは、内側、あるいはその両側に薄膜層5が形成されていない部分があってもよい。
【0038】
薄膜層5は、上述した機能(すなわち、封止材4をはじきやすくする機能)を備えるために、表面エネルギーが低く安定的な金属によって形成してよい。薄膜層5は、好ましくは、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、等の単一の金属や、これらの金属のうち2つ以上からなる合金により形成された金属層又は金属膜としてよい。
【0039】
なお、薄膜層5を形成せず、封止材4を、パッケージ基板3の縁面3c上に直接形成した場合は、接触角θが15度以上となる形状に封止材4を形成することは困難である。この理由は、封止材4の塗布中、あるいは、硬化中に、外側の側壁を伝って封止材4が垂れる等、パッケージ基板3と封止材4であるシリコーン樹脂の濡れ性の良さに起因した不具合が発生し、封止材4の形状を保持することが困難であるためである。
【0040】
〔接着層6〕
接着層6は、パッケージ基板3の縁面3cと薄膜層5の下面とを接着する。接着層6は、例えば、ニッケル(Ni)やクロム(Cr)等の金属層としてよく、さらに、ニッケル(Ni)やクロム(Cr)等の金属層とパッケージ基板3の縁面3cとの間に、タングステン(W)等の金属層がさらに形成されていてもよい。
【0041】
すなわち、接着層6は、ニッケル(Ni)又はクロム(Cr)、タングステン(W)を含んで形成されており、基板3の縁面3c側から、タングステン(W)及びニッケル(Ni)あるいは、タングステン(W)及びクロム(Cr)の2層構造でもあってよいし、これらの合金を含めた単層であってもよい。
【0042】
タングステン(W)はパッケージ基板3の金属に対する濡れ性を向上する効果があり、ニッケル(Ni)及びクロム(Cr)は、薄膜層5の密着性を向上させる効果がある。
【0043】
薄膜層5の密着性を向上させるためには、タングステン(W)及びニッケル(Ni)あるいは、タングステン(W)及びクロム(Cr)の2層構造とすることが望ましく、あるいは、これら3種からなる金属を2種類以上含む合金層の単膜あるいは積層膜でもよい。
【0044】
接着層6の厚さは、密着性を向上させる効果を得るためには、0.25μm以上であることが好ましく、より好ましくは1.0μm以上である。なお、パッケージ基板3の縁面3cと接する面においては、特にパッケージ基板素材がセラミックである場合はセラミックと一体化していてもよい。
【0045】
接着層6は、薄膜層5と同様に、パッケージ基板3の縁面3cにおける外側から内側の全体に亘って形成してもよいし、パッケージ基板3の縁部3eの厚さ方向の全域に亘って形成することが製造工程の制約などで、困難な場合は、パッケージ基板3の縁面3cの外側、あるいは、内側、あるいは両側に接着層6が形成されていない部分があってもよい。
【0046】
(本実施の形態に係る発光装置1の製造方法)
次に、本発明の実施の形態に係る発光装置1の製造方法について説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る発光装置1の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0047】
図3に示すように、本発明の実施の形態に係る発光装置1を製造する製造方法は、パッケージ基板3を準備する工程(S1)と、パッケージ基板3上に、具体的には、パッケージ基板3の縁面3cに金属により形成された接着層6及び薄膜層5を形成する工程(S2)と、パッケージ基板3に発光素子2を収容する工程、すなわち、パッケージ基板3の凹部3aの底面3bに発光素子2を実装する工程(S3)と、発光素子2が実装されたパッケージ基板3上にシリコーン樹脂により形成された封止材4を塗布してパッケージ基板3の凹部3aに充填する工程(S4)と、パッケージ基板3の上方に盛り上がった部分をレンズ状の形状に形成する工程(S5)と、レンズ状の封止材4を硬化する工程(S6)とを含む。
【0048】
ステップS2の接着層6及び薄膜層5を形成する工程は、パッケージ基板3の縁面3cにマスクを形成する工程と、縁面3cに形成されたマスクが形成されていない露出領域に金属を成膜する工程と、を含む。かかる工程により、ステップS2では、接着層6及び薄膜層5がマスクのパータンとして蒸着される。なお、接着層6及び薄膜層5は、好ましくは、縁面3cに対して略均一の厚さで形成される。1回の蒸着で接着層6及び薄膜層5を同時に形成してもよく、複数回の蒸着で接着層6及び薄膜層5をそれぞれ形成してもよい。
【0049】
接着層6及び薄膜層5は縁面3cの全面に形成されることが好ましいが、接着層6及び薄膜層5を形成するためのマスクを形成する工程の都合上、縁面3cの外側、あるいは、内側、あるいは両側に接着層6及び薄膜層5が形成されていない部分があってもよい。ただし、薄膜層5が金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)のいずれかの単一金属の単膜である場合や、これらの金属のうち2つ以上の金属からなる合金の単膜である場合には、その下部には、接着層6が形成されていることが好ましい。
【0050】
ステップS5の封止材4をレンズ状の形状に形成する工程は、接触角θを15度以上、好ましくは、45度程度となるように形成する工程を含む。
【0051】
ステップS6の封止材4を硬化する工程は、例えば、封止材4をシリコーン樹脂が硬化する硬化温度(具体的には、150度から200度)で加熱する工程を含む。このとき、薄膜層5が上述した金属により形成されている場合、硬化温度によって濡れ性が大きく変化することはないため、ステップS5で形成した封止材4の形状や接触角θを維持したまま封止材4を硬化させることができる。
【0052】
ただし、薄膜層5の撥液性には限界があることと、硬化時には、熱の影響で封止材4の粘度が減少することで、樹脂が溢れやすくなるため、接触角を60度程度とした場合は、樹脂の塗布工程あるいは、硬化工程において、封止材4の形状を維持することが困難となり、樹脂がパッケージから溢れる素子が現れ始め、接触角を80度程度とした場合は、ほぼ全数が、塗布工程、あるいは、硬化工程において、パッケージから樹脂が溢れた。このため、製造歩留りの観点から、樹脂の塗布工程、硬化工程において樹脂が溢れる可能性が極めて低く、かつ、光取り出し効果が比較的高い、接触角が45度程度を設計値とした。
【0053】
(実施例)
350mAの電流で駆動した時の光出力が約60mWである発光波長310nmの発光素子2を用いて上述した発光装置1を作製した。なお、比較例として、図4に示すように、上面4aが平坦状に形成された封止材4を有する発光装置を用意した。なお、本実施例においては、薄膜層5は、厚さ1μmの金(Au)とし、パッケージ基板3の縁面3cと薄膜層5の下面とを接着する接着層6としては、パッケージ基板3の縁面3c上に、タングステン(W)(厚さ不問)を形成しさらに、その上に、厚さ1μmのニッケル(Ni)を形成し、薄膜層5の密着性を向上させた。
【0054】
接触角θを約15度とした発光装置1(以下、「実施例1」ともいう。)では、約75mWの光出力が得られた。すなわち、実施例1では、光出力は、約1.25倍に向上した。また、パッケージ基板3の短辺dを3.5mmとし、封止材4の高さhを0.75mmとした発光装置1(以下、「実施例2」ともいう。)では、約100mWの光出力が得られた。すなわち、実施例2では、光出力は、約1.7倍に向上した。
【0055】
なお、図4に示す比較例では、光出力は、約55mWとなり、約10%減少した。実施例1及び2では、封止材4及び空気の界面で発生する光の全反射の成分を抑制した結果、光の取り出し効率が向上して光出力が向上したものと考えられる。
【0056】
発明者らは、実施例2の、発光波長310nm、封止材4の高さhを0.75mmとした発光装置1について、350mAの電流値で長期駆動試験を実施した。図5は、実施例2に係る発光装置1の長期駆動試験の結果の一例を示す図である。図5の横軸は、通電時間(時間)、縦軸は、放射束(mW)を示している。サンプルは、10個用意した。発光波長は、310nm、通電電流は、350mAとした。図5に示すように、いずれのサンプルにおいても、通電時間が2000時間を超えた時点での放射束(mW)の減衰率が5%以内に収まっている。以上の結果により、実施例2に係る発光装置1では、2000時間以上の信頼性が得られることを確認した。
【0057】
<変形例>
図6は、本発明の一変形例に係る発光装置1の構成を概略的に示す断面図である。図6に示すように、発光装置1は、接着層6を必ずしも備えなくてもよい。この場合、薄膜層5は、例えば、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)のうち1種類以上の金属と、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)のうちの1種類以上の金属を含む合金の単層、あるいは、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)のうちいずれかの金属の単層、あるいは、これらの金属を1種類以上含む金属の合金の単層からなるものであってよい。
【0058】
なお、接着層6と薄膜層5とをそれぞれ異なる層として2層構造とする構成に限定されるものではなく、接着層6と薄膜層5とを一体化して1層構造としてもよい。
【0059】
(実施の形態の作用及び効果)
本発明の実施の形態及び変形例によれば、パッケージ基板3上に薄膜層5が形成され、この薄膜層5上に封止材4を形成することにより、封止材4を薄膜層との接触角が15度以上となるように形成することができる。これにより、封止材4がシリコーン樹脂により形成されている場合であっても、自然成形による方法で封止材4を一定以上の大きさの曲率を有するレンズ状の形状にすることができ、封止材4及び空気の界面で発生する光の全反射を抑制して光取り出し効率の向上効果を得ることができる。
【0060】
また、上記の実施の形態によれば、形状を維持する目的でシリコーン樹脂の粘度を高めるために添加物を添加してすることも不要となる。このため、波長360nm以下の紫外線領域において添加物が紫外線のエネルギーによって劣化又は分解されることによって、発光素子2が劣化する等、発光素子2の信頼性に影響を与える虞を低減することができる。
【0061】
また、上記の実施の形態によれば、モールドを使用せずに自然成形による硬化で発光装置1を形成できるため、溶媒や触媒成分が残留することがない。この結果、シリコーン樹脂で発光波長360nm以下のLEDを封止した場合においても、光取り出し効率が高く、かつ、信頼性の高い半導体発光装置を提供することが可能となる。
【0062】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0063】
[1]波長360nm以下の紫外線を発光する半導体発光素子(2)と、前記半導体発光素子(2)を収容するパッケージ基板(3)と、前記パッケージ基板(3)上に形成された所定の厚さを有する薄膜層(5)と、前記薄膜層(5)上に設けられ、シリコーン樹脂により形成されレンズ状の形状を有し、前記半導体発光素子(2)を封止する封止材(4)と、を備える半導体発光装置(1)であって、前記封止材(4)は、前記薄膜層(5)との接触角が15度以上となるように形成されている、半導体発光装置(1)。
[2]前記薄膜層(5)は、前記シリコーン樹脂との間において、前記シリコーン樹脂と前記パッケージ基板(3)との濡れ性よりも小さい濡れ性を有する、前記[1]に記載の半導体発光装置(1)。
[3]前記薄膜層(5)は、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)のうち少なくとも1つを含む金属により形成された金属層である、前記[2]に記載の半導体発光装置(1)。
[4]前記薄膜層(5)と前記パッケージ基板(3)との間に、前記パッケージ基板(3)と前記薄膜層(5)とを接着する接着層(6)がさらに設けられている、前記[1]から[3]のいずれか1つに記載の半導体発光装置(1)。
[5]前記接着層(6)は、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)及びタングステン(W)のうち少なくとも1つを含んで形成されている、前記[4]に記載の半導体発光装置(1)。
[6]前記接触角は、30度以上80度以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体発光装置(1)。
[7]パッケージ基板(3)上に所定の厚さを有する薄膜層(5)を形成する工程と、パッケージ基板(3)に半導体発光素子(2)を収容する工程と、前記パッケージ基板(3)上に前記半導体発光素子(2)を封止するシリコーン樹脂により形成された封止材(4)を塗布する工程と、塗布された前記封止材(4)を前記薄膜層(5)との接触角が15度以上になるように形成するとともに、レンズ状の形状に形成する工程と、前記レンズ状の形状に形成された前記封止材(4)を硬化する工程と、を含む半導体発光装置(1)の製造方法。
【0064】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【0065】
例えば、薄膜層5は、必ずしも金属層でなくてもよい。薄膜層5は、例えば、シリコーン樹脂をはじく処理が施された層(例えば、フッ素によりコーティングされた層)でもよい。但し、シリコーン樹脂により形成された封止材4を硬化させる熱(具体的には、150度から200度の温度)によるコーティングの劣化や、コーティングされた面から封止材4が剥がれる虞があることから、コーティングされた層よりも熱的に安定している点で、金属層を用いることが好ましい。
【符号の説明】
【0066】
1…発光装置(窒化物半導体紫外線発光装置)
2…発光素子(窒化物半導体発光素子)
21…透明基板
22…窒化物半導体層
22a…バッファ層
22b…クラッド層
22c…発光層
22d…クラッド層
22e…コンタクト層
23…電極
23a…アノード電極(p電極)
23b…カソード電極(n電極)
3…パッケージ基板
3a…凹部
3b…底面
3c…縁面
3d…下面
3e…縁部
4…封止材
4a…上面
5…薄膜層
6…接着層
図1
図2
図3
図4
図5
図6