IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オートラス リミテッドの特許一覧

<>
  • 特開-キメラ抗原受容体 図1
  • 特開-キメラ抗原受容体 図2
  • 特開-キメラ抗原受容体 図3
  • 特開-キメラ抗原受容体 図4
  • 特開-キメラ抗原受容体 図5
  • 特開-キメラ抗原受容体 図6
  • 特開-キメラ抗原受容体 図7
  • 特開-キメラ抗原受容体 図8
  • 特開-キメラ抗原受容体 図9
  • 特開-キメラ抗原受容体 図10-1
  • 特開-キメラ抗原受容体 図10-2
  • 特開-キメラ抗原受容体 図11
  • 特開-キメラ抗原受容体 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080185
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】キメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230601BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230601BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230601BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230601BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230601BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230601BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230601BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230601BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230601BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230601BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230601BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230601BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/28
C12N15/13
A61K35/12
A61P35/00
A61P35/02
A61P7/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023064079
(22)【出願日】2023-04-11
(62)【分割の表示】P 2020564248の分割
【原出願日】2019-05-15
(31)【優先権主張番号】1807866.7
(32)【優先日】2018-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1809773.3
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】517215973
【氏名又は名称】オートラス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マーティン プーレ
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンジェリア コカラキ
(72)【発明者】
【氏名】ショーン コルドバ
(72)【発明者】
【氏名】シモビ オヌオハ
(72)【発明者】
【氏名】サイモン トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ビアオ マ
(72)【発明者】
【氏名】マテュー フェラーリ
(57)【要約】
【課題】嵩高い細胞外ドメインを有する標的抗原に結合するキメラ抗原受容体(CAR)であって、Fab抗原結合ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)を提供すること。
【解決手段】本発明はまた、かかるCARをコードする核酸配列および構築物、かかるCARを発現する細胞、ならびにその治療における使用を提供する。第2の態様では、本発明の第1の態様のCARをコードする核酸配列を提供する。第3の態様では、本発明の第2の態様の第1の核酸配列、およびドメイン抗体(dAb)抗原結合ドメインまたはscFv抗原結合ドメインを有する第2のキメラ抗原受容体をコードする第2の核酸配列を含む核酸構築物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)に関する。特に、本発明は、Fab様抗原結合ドメインを有するCARに関する。
【背景技術】
【0002】
キメラ抗原受容体(CAR)
がん処置での使用のためのいくつかの免疫治療剤(治療用モノクローナル抗体(mAb)、二重特異性T細胞エンゲージャー、およびキメラ抗原受容体(CAR)が含まれる)が記載されている。
【0003】
キメラ抗原受容体は、モノクローナル抗体(mAb)の特異性をT細胞のエフェクター機能とつなぎ合わせたタンパク質である。その通常の形態は、抗原認識アミノ末端(バインダー)、およびT細胞活性化シグナルを伝達するエンドドメインと接続された膜貫通ドメインを有するタイプI膜貫通ドメインタンパク質の形態である。
【0004】
これらの分子の最も一般的な形態は、標的抗原を認識するモノクローナル抗体由来の単鎖可変断片(scFv)の、膜貫通ドメインを介してシグナル伝達エンドドメインと融合した融合物である。かかる分子により、その標的のscFvによる認識に応答してT細胞を活性化させる。T細胞がかかるCARを発現するとき、T細胞は、標的抗原を発現する標的細胞を認識して死滅させる。種々の腫瘍関連抗原に対するCARが開発されており、その多くが現在臨床試験段階である。
【0005】
CAR-T細胞媒介処置は小型の標的抗原(CD19またはGD2など)で成功を収めているが、キメラ抗原受容体は、嵩高い細胞外ドメインを有する抗原に応答したシグナル伝達に失敗することが多い。
【0006】
抗原遭遇後の下流シグナル伝達を効率よく作動させるにはシナプスに適切な距離が必要である。(TCRのペプチドMHCとの相互作用を介して)T細胞が抗原提示細胞と遭遇した際に、界面のタンパク質は、サイズに基づいて受動的に分離する。大きなエクトドメインを有するホスファターゼ(CD45およびCD148など)は、T細胞とAPCとの間の密接な接触領域から排除される(図1を参照のこと)。ペプチドMHCとTCRの相互作用によって形成されたシナプスは、CD45の閉塞に最適である。CD19などのより小さな抗原を標的にするCAR-T細胞の場合、シナプス形成に対する障壁はなく、かかる抗原は、複数のエピトープで効率的に標的にされ得る。図2に示すように、CD22などの大きなタンパク質は、固有の問題を引き起こす。かかるタンパク質上の膜遠位エピトープを標的にすることにより、ホスファターゼがシナプスに侵入してチロシンリン酸化を阻害する最適以下のシナプス距離が生じる可能性がある。膜近位領域を標的にすることはシナプス形成を改善し得るが、エピトープが立体的に閉塞されると、シナプス内にホスファターゼを存在させて、チロシンリン酸化(キナーゼ活性)を減弱し、それによってCARシグナルを伝達させる標的の連結が最適以下となる可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、大きいか嵩高い標的抗原を発現する標的細胞を死滅させることができる代替のCAR T細胞アプローチが必要である。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
嵩高い細胞外ドメインを有する標的抗原に結合するキメラ抗原受容体(CAR)であって、前記CARがFab抗原結合ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)。
(項目2)
前記標的抗原が、少なくとも約150Åの細胞外ドメインを有する、項目1に記載のCAR。
(項目3)
前記標的抗原が、少なくとも約400個のアミノ酸の細胞外ドメインを有する、項目1または2に記載のCAR。
(項目4)
前記標的抗原が、CD22、CD21、CEACAM5、MUC1、またはFcRL5である、前記項目のいずれかに記載のCAR。
(項目5)
前記標的抗原がCD22である、項目4に記載のCAR。
(項目6)
前記抗原結合ドメインが、
a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH)
【化81】
および
b)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する軽鎖可変領域(VL):
【化82】
を含む、項目5に記載のCAR。
(項目7)
配列番号65として示した配列を有するVHドメイン;および配列番号66として示した配列を有するVLドメインを含む、項目6に記載のCAR。
(項目8)
前記抗原結合ドメインが、a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化83】
および
b)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する軽鎖可変領域(VL):
【化84】
を含む、項目5に記載のCAR。
(項目9)
配列番号99として示した配列を有するVHドメイン;および配列番号100として示した配列を有するVLドメインを含む、項目6に記載のCAR。
(項目10)
前記項目のいずれかに記載のCARをコードする核酸配列。
(項目11)
以下の一般構造:
VH-CH-spacer-TM-endo-coexpr-VL-CL
を有し、
ここで、
VHは、第1のポリペプチドの重鎖可変ドメインをコードする核酸配列であり;
CHは、前記第1のポリペプチドの重鎖定常ドメインをコードする核酸配列であり;
spacerは、前記第1のポリペプチドのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TMは、前記第1のポリペプチドの膜貫通領域をコードする核酸配列であり;
endoは、前記第1のポリペプチドのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
VLは、第2のポリペプチドの軽鎖可変ドメインをコードする核酸配列であり;
CLは、前記第2のポリペプチドの軽鎖定常ドメインをコードする核酸配列であり;
coexprは、前記第1および第2のポリペプチドの共発現が可能な核酸配列である、項目10に記載の核酸配列。
(項目12)
項目10または11に記載の第1の核酸配列、およびドメイン抗体(dAb)抗原結合ドメインまたはscFv抗原結合ドメインを有する第2のキメラ抗原受容体をコードする第2の核酸配列を含む、核酸構築物。
(項目13)
項目10または11に記載の第1の核酸配列;ドメイン抗体(dAb)抗原結合ドメインを有する第2のキメラ抗原受容体をコードする第2の核酸配列;およびscFv抗原結合ドメインを有する第3のCARをコードする第3の核酸配列を含む、核酸構築物。
(項目14)
前記第1の核酸配列が抗CD22 Fab CARをコードし;前記第2の核酸配列が抗CD79 dAb CARをコードし;前記第3の核酸配列が抗CD19 scFv CARをコードする、項目13に記載の核酸構築物。
(項目15)
項目10または11に記載の核酸配列または項目12~14のいずれかに記載の核酸構築物を含む、ベクター。
(項目16)
項目1~9のいずれかに記載のCARを発現する細胞。
(項目17)
項目1~9のいずれかに記載の第1のCAR、およびドメイン抗体(dAb)抗原結合ドメインまたはscFv抗原結合ドメインを有する第2のキメラ抗原受容体を発現する細胞。
(項目18)
項目1~9のいずれかに記載の第1のCAR、およびドメイン抗体(dAb)抗原結合ドメインを有する第2のCAR;およびscFv抗原結合ドメインを有する第3のCARを発現する細胞。
(項目19)
前記第1のCARが抗CD22 Fab CARであり;前記第2のCARが抗CD79
dAb CARであり;前記第3のCARが抗CD19 scFv CARである、項目16に記載の細胞。
(項目20)
項目10または11に記載の核酸配列;項目12~14のいずれかに記載の核酸構築物;または項目15に記載のベクターを細胞にex vivoで導入するステップを含む、項目16~19のいずれかに記載の細胞を作製する方法。
(項目21)
項目16~19のいずれかに記載の細胞の複数を、薬学的に許容され得る担体、希釈剤、または賦形剤と共に含む、医薬組成物。
(項目22)
項目19に記載の医薬組成物を被験体に投与するステップを含む、がんを処置する方法。(項目23)
前記がんがB細胞リンパ腫または白血病である、項目22に記載の方法。
(項目24)
がんの処置で使用するための項目21に記載の医薬組成物。
(項目25)
がんを処置するための医薬組成物の製造における項目16~19のいずれかに記載の細胞の使用。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】Fab CAR(Fab)、scFv抗原結合ドメイン(scFv)を有する古典的CAR、ホスファターゼCD45、CD4/TCR/MHC複合体、およびCD2:CD58複合体の細胞外ドメインの相対サイズを示す概要図。TCR:MHC相互作用またはCAR:標的抗原相互作用のいずれかを介してT細胞が腫瘍細胞と相互作用するとき、免疫シナプスが形成され、ホスファターゼ(CD45およびCD148など)が排除される。
【0009】
図2】CD22、CD45、CD4/TCR/MHC複合体、およびCD2:CD58複合体の細胞外ドメインの相対サイズを示す概要図。CD22は、非常に大きく嵩高い細胞外ドメインを有する。これにより、CAR細胞外ドメインとCD22細胞外ドメインとの組み合わせた長さが最適なT細胞;標的細胞シナプスにとって長すぎるため、CAR T細胞の標的になり難く、このことは、ホスファターゼ(CD45およびCD148など)が効率的に排除されないことを意味する。
【0010】
図3】(A)CD22を標的にするFabCAR、およびb)CD22を標的にする古典的scFv CARについてのT細胞:標的細胞シナプスを示す概要図。驚いたことに、細胞外ドメインはscFv CAR細胞外ドメインより長くて嵩高いにも関わらず、大きくかつ嵩高い細胞外ドメインを有する標的抗原に関連する問題を解決するようであり、FabCARにより、標的細胞と遭遇した際のCAR媒介性シグナル伝達が向上し、より効率的に標的細胞を死滅させる。
【0011】
図4】FabCARまたはscFv CARを発現するT細胞によるCD22発現標的細胞の殺滅を比較したグラフ。T細胞に、Fab CARまたはCD8ストークスペーサーを有するscFv CARのいずれかを発現するウイルスベクターで形質導入した。抗原結合ドメインは、同一の抗CD22抗体(10C1または1D9-3のいずれか)に基づいていた。T細胞を、CD22発現SupT1標的細胞と24時間共培養し、標的細胞の絶対数、および非形質導入(NT)条件下で標的数にしたがって正規化したCAR中の数を計算した。正規化データを、標的細胞の生存率として示す。
【0012】
図5】標的細胞との4日間の共培養後のT細胞増殖を示すヒストグラム。CD56枯渇CAR発現T細胞をRaji標的細胞と共培養し、フローサイトメトリーによって分析して、T細胞の分裂時に生じるCell Trace Violet(CTV)の希釈を測定した。CTVで標識されたT細胞は、405nm(紫色)レーザーで励起される。以下の構築物の同一パネルを殺滅アッセイに関して試験した:すなわち、10C1 FabCAR;CD8ストークスペーサーを有する10C1 scFv CAR;1D9-3 FabCAR、およびCD8ストークスペーサーを有する1D9-3 scFv CAR。
【0013】
図6】キメラ抗原受容体の異なる結合ドメイン形式 (a)Fab CAR形式;(b)dAb CAR形式;(c)scFv CAR形式
【0014】
図7】異なる形式のCARを使用したCD19、CD22、およびCD79を標的にするCAR ORゲート (a)2つのFMD-2A配列を使用して2つの受容体のコード配列が分離されているトリシストロン性カセットを生成することができる;(b)以下の3つの異なる形式を組みわせたORゲート:CD19についてはscFv-CAR、CD22についてはFab CAR、およびCD79についてはdAb CAR。
【0015】
図8】9A8抗原結合ドメインを有するFabCARを発現するT細胞および3B4抗原結合ドメインを有するFabCARを発現するT細胞による標的細胞殺滅を比較したFACSベースの殺滅アッセイの結果を示すグラフ。
【0016】
図9】9A8抗原結合ドメインを有するFabCARを発現するT細胞および3B4抗原結合ドメインを有するFabCARを発現するT細胞を比較したSupT1標的細胞との72時間の共培養後のIL-2放出を示すグラフ。
【0017】
図10-1】種々の抗CD22 FabCARを発現するT細胞による標的細胞殺滅を比較したFACSベースの殺滅アッセイの結果を示すグラフ。標的細胞は、非形質導入SupT1細胞(A);または以下の3つのCD22発現レベルのうちの1つを示すCD22を発現するように形質導入されたSupT1細胞のいずれかであった: B-フローサイトメトリーによって検出不可能な「超低レベル」 C-細胞あたり平均255コピーのCD22を発現する「低レベル」 D-細胞あたり平均78,916コピーのCD22を発現する「高レベル」
図10-2】種々の抗CD22 FabCARを発現するT細胞による標的細胞殺滅を比較したFACSベースの殺滅アッセイの結果を示すグラフ。標的細胞は、非形質導入SupT1細胞(A);または以下の3つのCD22発現レベルのうちの1つを示すCD22を発現するように形質導入されたSupT1細胞のいずれかであった: B-フローサイトメトリーによって検出不可能な「超低レベル」 C-細胞あたり平均255コピーのCD22を発現する「低レベル」 D-細胞あたり平均78,916コピーのCD22を発現する「高レベル」
【0018】
図11】2つのFabCARを発現するときに交差対合する問題を示す概要図。
【0019】
図12】FabCAR間の交差対合を回避するための「Crossmab」および「Ortho-Fab」を示す概要図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、scFv結合ドメインと対照的にFab結合ドメインを有するCARを使用して、嵩高い抗原のCAR媒介標的化および嵩高い標的抗原を発現する標的細胞のCAR媒介殺滅の効率を改善することが可能であることを見出した。
【0021】
したがって、第1の態様では、本発明は、嵩高い細胞外ドメインを有する標的抗原に結合するキメラ抗原受容体(CAR)であって、前記CARがFab抗原結合ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)を提供する。
【0022】
標的抗原は、少なくとも約150Åの細胞外ドメインを有し得る。
【0023】
標的抗原が、少なくとも約400個のアミノ酸の細胞外ドメインを有し得る。
【0024】
標的抗原は、以下の群から選択され得る:CD22、CD21、CEACAM5、MUC1、またはFcRL5。特に、標的抗原はCD22であり得る。
【0025】
抗原結合ドメインは、以下を含み得る:
a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化1】

および
b)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する軽鎖可変領域(VL):
【化2】

【0026】
抗原結合ドメインは、以下を含み得る:
a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化3】

および
b)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する軽鎖可変領域(VL):
【化4】

【0027】
CARは、配列番号65として示した配列を有するVHドメイン;および配列番号66として示した配列を有するVLドメインを含み得る。
【0028】
CARは、配列番号99として示した配列を有するVHドメイン;および配列番号100として示した配列を有するVLドメインを含み得る。
【0029】
第2の態様では、本発明の第1の態様のCARをコードする核酸配列を提供する。
【0030】
核酸配列は、以下の一般構造:
VH-CH-spacer-TM-endo-coexpr-VL-CL
を有し得、
ここで、
VHは、第1のポリペプチドの重鎖可変ドメインをコードする核酸配列であり;
CHは、前記第1のポリペプチドの重鎖定常ドメインをコードする核酸配列であり;
spacerは、前記第1のポリペプチドのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TMは、前記第1のポリペプチドの膜貫通領域をコードする核酸配列であり;
endoは、前記第1のポリペプチドのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
VLは、第2のポリペプチドの軽鎖可変ドメインをコードする核酸配列であり;
CLは、前記第2のポリペプチドの軽鎖定常ドメインをコードする核酸配列であり;
coexprは、前記第1および第2のポリペプチドの共発現が可能な核酸配列である。
【0031】
第3の態様では、本発明の第2の態様の第1の核酸配列、およびドメイン抗体(dAb)抗原結合ドメインまたはscFv抗原結合ドメインを有する第2のキメラ抗原受容体をコードする第2の核酸配列を含む核酸構築物を提供する。
【0032】
特に、本発明の第2の態様の第1の核酸配列;ドメイン抗体(dAb)抗原結合ドメインを有する第2のキメラ抗原受容体をコードする第2の核酸配列;およびscFv抗原結合ドメインを有する第3のCARをコードする第3の核酸配列を含む核酸構築物を提供する。
【0033】
第1の核酸配列は、抗CD22 Fab CARをコードすることができ;第2の核酸配列は抗CD79 dAb CARをコードすることができ;第3の核酸配列は抗CD19 scFv CARをコードすることができる。
【0034】
第4の態様では、本発明の第2の態様の核酸配列または本発明の第3の態様の核酸構築物を含むベクターを提供する。
【0035】
第5の態様では、本発明の第2の態様のCARを発現する細胞を提供する。
【0036】
特に、本発明の第1の態様の第1のCAR、およびドメイン抗体(dAb)抗原結合ドメインまたはscFv抗原結合ドメインを有する第2のキメラ抗原受容体を発現する細胞を提供する。
【0037】
特に、本発明の第1の態様の第1のCAR;ドメイン抗体(dAb)抗原結合ドメインを有する第2のCAR;およびscFv抗原結合ドメインを有する第3のCARを発現する細胞を提供する。
【0038】
第1のCARは抗CD22 Fab CARであり得;第2のCARは抗CD79 dAb CARであり得;第3のCARは抗CD19 scFv CARであり得る。
【0039】
第6の態様では、本発明の第5の態様の細胞を作製する方法であって、本発明の第2の態様の核酸配列;本発明の第3の態様の核酸構築物;または本発明の第4の態様のベクターを細胞にex vivoで導入するステップを含む、方法を提供する。
【0040】
第7の態様では、本発明の第5の態様の細胞の複数を、薬学的に許容され得る担体、希釈剤、または賦形剤と共に含む、医薬組成物を提供する。
【0041】
第8の態様では、本発明の第7の態様の医薬組成物を被験体に投与するステップを含む、がんを処置する方法を提供する。
【0042】
がんは、例えば、B細胞リンパ腫または白血病であり得る。
【0043】
第9の態様では、がんの処置で使用するための本発明の第7の態様の医薬組成物を提供する。
【0044】
第10の態様では、がんを処置するための医薬組成物の製造における本発明の第5の態様の細胞の使用を提供する。
【0045】
本発明は、嵩高い細胞外ドメインを有する抗原を標的にするときにCAR媒介シグナル伝達および標的細胞殺滅が改善されるキメラ抗原受容体を提供する。かかる抗原は、最適以下のT細胞:標的細胞シナプスを形成するので、古典的CARを用いて標的にすることが困難である。
【0046】
かかる抗原を標的にすることができると、がん処置の全く新しい可能性が広がる。多くの潜在的に有用ながん標的抗原は、嵩高い細胞外ドメイン、例えば、CD22、CD21、CEACAM5、MUC1、またはFcRL5を有する。本発明は、これらの抗原を標的にするための改良された構築物を提供し、前記構築物は、これらの標的を単一の標的として使用することができ、重要には、CAR-T細胞の効率および安全性を高めるために複数の抗原を標的にするためのストラテジーに含めることができる。
キメラ抗原受容体
【0047】
本発明は、Fab抗原結合ドメインを有するキメラ抗原受容体に関する。
【0048】
古典的キメラ抗原受容体(CAR)は、細胞外抗原認識ドメイン(バインダー)が細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)に接続しているキメラタイプI膜貫通タンパク質である。バインダーは、典型的には、モノクローナル抗体(mAb)由来の単鎖可変断片(scFv)であるが、抗体様抗原結合部位を含む他の形式に基づくことができる。スペーサードメインは、通常、バインダーを膜から分離し、適切な配向を可能にするために必要である。使用される一般的なスペーサードメインは、IgG1のFcである。より小型のスペーサー、例えば、抗原に応じて、CD8α由来のストーク、さらにはIgG1ヒンジのみですら十分な場合がある。膜貫通ドメインは、細胞膜内にタンパク質を係留し、スペーサーをエンドドメインに接続する。
【0049】
初期のCARデザインは、FcεR1のγ鎖またはCD3ζのいずれかの細胞内部分に由来するエンドドメインを有していた。結果的に、これらの第1世代の受容体は免疫学的シグナル1を伝達し、同族標的細胞のT細胞による殺滅を引き起こすのに十分であったが、T細胞を、それが増殖および生存するように十分に活性化することはできなかった。この限界を克服するために、複合エンドドメインが以下のように構築された:T細胞共刺激分子の細胞内部分とCD3ζの細胞内部分との融合により、抗原認識後に活性化および共刺激シグナルを同時に伝達することができる第2世代の受容体が得られる。最も一般的に使用される共刺激ドメインは、CD28の共刺激ドメインである。これは最も効力のある共刺激シグナル(すなわち、T細胞増殖を引き起こす免疫学的シグナル2)を供給する。いくつかの受容体も記載されており、この受容体には、TNF受容体ファミリーエンドドメイン(生存シグナルを伝達する密接に関連するOX40および41BBなど)が含まれる。活性化、増殖、および生存シグナルを伝達することができるエンドドメインを有するさらにより効力のある第3世代のCARをここに記載している。
【0050】
CARが標的抗原に結合するとき、この結合により、CARが発現されるT細胞に活性化シグナルが伝達される。したがって、CARは、T細胞の特異性および細胞傷害性を、標的にされた抗原を発現する腫瘍細胞に向ける。
【0051】
したがって、CARは、典型的には、以下を含む:(i)抗原結合ドメイン;(ii)スペーサー;(iii)膜貫通ドメイン;および(iii)シグナル伝達ドメインを含むか、それと会合している細胞内ドメイン。
CARは、以下の一般構造を有し得る:
【0052】
抗原結合ドメイン-スペーサードメイン-膜貫通ドメイン-細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)。
抗原結合ドメイン
【0053】
抗原結合ドメインは、抗原を認識するキメラ受容体の一部である。古典的CARでは、抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体由来の単鎖可変断片(scFv)を含む(図6cを参照のこと)。ドメイン抗体(dAb)抗原結合ドメインまたはVHH抗原結合ドメインを有するCARも産生されている(図6bを参照のこと)。
【0054】
本発明のキメラ抗原受容体では、抗原結合は、例えば、モノクローナル抗体のFab断片を含む(図6aを参照のこと)。FabCARは、以下の2つの鎖を含む:抗体様軽鎖可変領域(VL)および定常領域(CL)を有する鎖;および重鎖可変領域(VH)および定常領域(CH)を有する鎖。一方の鎖はまた、膜貫通ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインを含む。CLとCHとの間の会合により、受容体が組み立てられる。
【0055】
Fab CARの2本の鎖は、以下の一般構造を有し得る:
VH-CH-スペーサー-膜貫通ドメイン-細胞内シグナル伝達ドメイン;および
VL-CL
または
VL-CL-スペーサー-膜貫通ドメイン-細胞内シグナル伝達ドメイン;および
VH-CH
【0056】
本明細書中に記載のFab型キメラ受容体について、抗原結合ドメインは、一方のポリペプチド鎖由来のVHおよび他方のポリペプチド鎖由来のVLで構成されている。
【0057】
ポリペプチド鎖は、VH/VLドメインとCH/CLドメインとの間にリンカーを含み得る。リンカーは、可動性を示し、VH/VLドメインをCH/CLドメインから空間的に分離するのに役立ち得る。
【0058】
可動性リンカーは、グリシン、トレオニン、およびセリンなどの小型で非極性の残基から構成され得る。リンカーは、(GlySer)リンカー(式中、nは反復数である)などの1またはそれより多くのグリシン-セリンリンカーの反復を含み得る。各リンカーは、50、40、30、20、または10アミノ酸長未満であり得る。
定常領域ドメイン
【0059】
ヒトには以下の2つのタイプの軽鎖が存在する:カッパ(κ)鎖およびラムダ(λ)鎖。ラムダクラスは、以下の4つのサブタイプを有する:λ、λ、λ、およびλ。Fab型キメラ受容体の軽鎖定常領域は、これらの軽鎖タイプのいずれかに由来し得る。
【0060】
本発明のキメラ受容体の軽鎖定常ドメインは、カッパ鎖定常ドメインである配列番号1として示した配列を有し得る。
配列番号1
【化5】
【0061】
哺乳動物免疫グロブリン重鎖には以下の5つのタイプが存在する:γ、δ、α、μ、およびε(それぞれ、免疫グロブリンIgG、IgD、IgA、IgM、およびIgEクラスを定義する)。重鎖γ、δ、およびαは、3つのタンデムIgドメインから構成される定常ドメインを有し、可動性を付与するヒンジを有する。重鎖μおよびεは、4つのドメインから構成される。
【0062】
本発明のFab型キメラ受容体のCHドメインは、γ免疫グロブリン重鎖に由来する配列番号2として示した配列を含み得る。
配列番号2
【化6】

スペーサー
【0063】
古典的CARは、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインと接続し、かつ抗原結合ドメインをエンドドメインから空間的に分離するスペーサー配列を含む。可動性スペーサーにより、抗原結合ドメインを異なる方向に配向させて結合を容易にすることが可能である。
【0064】
FabCAR(図6A)では、古典的キメラ抗原受容体(図6C)およびdAb CAR(図6B)において見られるように、スペーサーにより2本のポリペプチド鎖を二量体化させることができる。2本のポリペプチド鎖は、例えば、ジスルフィド架橋(複数可)を形成するのに適切な1またはそれより多くのシステイン残基を含み得る。IgG1由来のヒンジは、これに関して適切である。IgG1ヒンジに基づいたスペーサーは、配列番号3として示した配列を有し得る。
配列番号3(ヒトIgG1ヒンジ):
【化7】
【0065】
あるいは、ヒンジスペーサーは、配列番号4として示した配列を有し得る。
配列番号4(ヒンジスペーサー)
【化8】
【0066】
本発明のFabCARでは、図6Aに示すように、二量体FabCARの2つのポリペプチド(poypeptide)は同一である。これらのポリペプチドは、同一の抗体に由来する同一の抗原結合ドメインを有し、同一の標的抗原上の同一のエピトープに結合する。二量体内の第1および第2のポリペプチドは、同一の転写物からコードされたポリペプチドの単純な複製である。
膜貫通ドメイン
【0067】
膜貫通ドメインは、膜を横切るキメラ受容体の一部である。膜貫通ドメインは、膜内で熱力学的に安定な任意のタンパク質構造であり得る。これは、典型的には、いくつかの疎水性残基から構成されるαヘリックスである。任意の膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインを、キメラ受容体の膜貫通部分を供給するために使用することができる。タンパク質の膜貫通ドメインの配列および全長を、当業者がTMHMMアルゴリズム(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM-2.0/)を使用して決定することができる。あるいは、人為的にデザインされたTMドメインを使用しても良い。
エンドドメイン
【0068】
エンドドメインは、キメラ受容体のシグナル伝達部分である。エンドドメインは、キメラ受容体の細胞内ドメインの一部であり得るか、前記細胞内ドメインに会合し得る。抗原認識後、受容体がクラスター形成し、天然のCD45およびCD148がシナプスから排除され、シグナルが細胞に伝達される。最も一般的に使用されているエンドドメイン成分は、3つのITAMを含むCD3-ゼータのエンドドメイン成分である。これは、抗原への結合後にT細胞に活性化シグナルを伝達する。CD3-ゼータは、十分に適格な活性化シグナルを提供しない場合があり、さらなる共刺激シグナル伝達が必要であり得る。共刺激シグナルは、T細胞の増殖および生存を促進する。共刺激シグナルには以下の2つの主なタイプが存在する:Igファミリーに属するもの(CD28、ICOS)およびTNFファミリーに属するもの(OX40、41BB、CD27、GITRなど)。例えば、キメラCD28およびOX40を、増殖/生存シグナルを伝達させるためにCD3-ゼータと共に使用することができるか、3つ全てを共に使用することができる。
【0069】
エンドドメインは、以下を含み得る:
(i)ITAM含有エンドドメイン(CD3ゼータ由来のエンドドメインなど);および/または
(ii)共刺激ドメイン(CD28またはICOS由来のエンドドメインなど);および/または
(iii)生存シグナルを伝達するドメイン(例えば、TNF受容体ファミリーエンドドメイン(OX-40、4-1BB、CD27、またはGITRなど)。
【0070】
抗原認識部分がシグナル伝達部分由来の個別の分子上に存在するいくつかの系が記載されている(WO015/150771号;WO2016/124930号、およびWO2016/030691号に記載のものなど)。したがって、本発明のキメラ受容体は、抗原結合ドメインおよび膜貫通ドメインを含む抗原結合成分を含むことができ、この成分は、シグナル伝達ドメインを含む個別の細胞内シグナル伝達成分と相互作用することが可能である。本発明のベクターは、かかる抗原結合成分および細胞内シグナル伝達成分を含むキメラ受容体シグナル伝達系を発現し得る。
【0071】
キメラ受容体はシグナルペプチドを含み得るため、シグナルペプチドが細胞の内側で発現されるときに、新生タンパク質は小胞体、その後に細胞表面に向かい、そこで発現される。シグナルペプチドは、分子のアミノ末端に存在し得る。
標的抗原
【0072】
「標的抗原」は、本発明のキメラ受容体の抗原結合ドメインによって特異的に認識および結合される実体である。
【0073】
標的抗原は、がん細胞上に存在する抗原(例えば、腫瘍関連抗原)であり得る。
【0074】
標的抗原は、比較的長く、および/または嵩高い細胞外ドメインを有し得る。CD45の細胞外ドメインのサイズは216Åである。典型的に使用されるスペーサーに応じて、古典的CARの抗原結合ドメインは、25~75Åの範囲であり、そのようなものとして、150Åを超える抗原は、シナプス形成が不十分なために標的にするのが困難であり、それにより、前記シナプス内にホスファターゼが存在することになる。
【0075】
標的抗原は、約150Åを超える細胞外ドメインを有し得、例えば、標的抗原は、サイズが150~400Å、200~350Å、または250~310Åである細胞外ドメインを有し得る。
【0076】
標的抗原の細胞外ドメインの分子サイズとアミノ酸長との間には相関関係がある。小型の細胞外ドメインを有する抗原(EpCAM、CD19)および嵩高い細胞外ドメインを有する抗原(CEACAM5、CD22)の両方についての細胞外ドメインのサイズとアミノ酸数の例を、以下の表に示す。
【表3】
【0077】
標的抗原は、約400アミノ酸長を超える細胞外ドメインを有し得、例えば、標的抗原は、サイズが400~1000、500~900、600~800、または600~700アミノ酸長である細胞外ドメインを有し得る。
【0078】
CD22の細胞外ドメインは、その細胞外ドメイン中に7つのIgG様ドメインを有する。本発明のキメラ受容体の標的抗原は、少なくとも4、5、6、または7つのIg様ドメインに等しい長さであり得る。CD21の細胞外ドメインは、各々が約60アミノ酸の21個のショートコンセンサスリピート(SCR)を有する。本発明のキメラ受容体の標的抗原は、少なくとも15、17、19または21個のCSRに等しい長さであり得る。
【0079】
標的抗原は、T細胞:標的細胞シナプスでT細胞と標的細胞との間に最適な細胞内距離より長い細胞外ドメインを有し得る。標的細胞は、少なくとも40、50、60、または70nMである細胞外ドメインを有し得る。
【0080】
標的抗原は、CD22、CD21、CEACAM5、MUC1、またはFCRL5であり得る。
CD22
【0081】
CD22は、7つの細胞外IgG様ドメインを有し、これらは、一般にIgドメイン1~Igドメイン7として同定され、Igドメイン7は、B細胞膜に最も近位にあり、Igドメイン1はIg細胞膜から最も遠位にある。
【0082】
CD22のアミノ酸配列に関するIgドメインの位置(http://www.uniprot.org/uniprot/P20273)を、以下の表にまとめている:
【表4】
【0083】
m971、HA22、およびBL22 scFvに由来する抗原結合ドメインを有する抗CD22 CARの例は、Hasoら.(Blood;2013;121(7))に記載されている。抗体HA22およびBL22は、CD22のIgドメイン5上のエピトープに結合する。
【0084】
他の抗CD22抗体(マウス抗ヒトCD22抗体1D9-3、3B4-13、7G6-6、6C4-6、4D9-12、5H4-9、10C1-D9、15G7-2、2B12-8、2C4-4、および3E10-7;およびヒト化抗ヒトCD22抗体LT22およびイノツズマブ(G5_44)など)が公知である。表1は、各抗体についてのVH、VL、およびCDR配列(太字で下線)、およびCD22上の標的エピトープの位置をまとめている。
表1
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0085】
CD22に結合するFabCARの抗原結合ドメインは、表1に列挙したCD22抗体のいずれかに由来するVHおよび/もしくはVL配列、または少なくとも70、80、90、もしくは90%配列同一性を有し、CD22への結合能を保持するそのバリアントを含み得る。
CD21
【0086】
CR2としても公知のCD21は、補体系に関与する成熟B細胞および濾胞樹状細胞上で発現するタンパク質である。成熟B細胞上で、CD21は、CD19およびCD81とB細胞共受容体複合体を形成する。膜IgMが抗原に結合するとき、CD21は結合したC3dを介して抗原に結合する。
【0087】
成熟CD21は、膜貫通領域および細胞質領域に加えて、各々が約60アミノ酸の21個のショートコンセンサスリピート(SCR)を含む1,408アミノ酸である。
【0088】
市販のCD21に対するモノクローナル抗体(MAB4909(MDS Systems)ならびにEP3093、SP186、Bu32、SP199、1F8、およびLT21(Abcam)など)が公知である。
CEACAM5
【0089】
癌胎児性抗原関連細胞接着分子5(CEACAM5)は、癌胎児性抗原(CEA)遺伝子ファミリー(細胞接着に関与する非常に関連のある一連の糖タンパク質)のメンバーである。CEACAM5は、胎児発生中に胃腸組織で産生されるが、いくつかのがん(肺がん、膵臓がん、子宮頸部がん、および消化管がんが含まれる)によっても発現される。
【0090】
CEACAM5は、642個のアミノ酸から構成され、およそ70kDaの分子質量を有し、28個の潜在的なN結合型グリコシル化部位を有する。このタンパク質は、Ig可変領域(IgV)様ドメイン(Nと命名)、その後に6個のIg定常領域(IgC)-タイプ2様ドメイン(A1、B1、A2、B2、A3、およびB3と命名)を含む。
【0091】
市販のCEACAM5に対するモノクローナル抗体(EPR20721(Abcam)など)が公知である。
MUC1
【0092】
ムチン1またはMUC1は、その細胞外ドメインが重度にO結合型グリコシル化された糖タンパク質である。ムチンは、肺、胃、小腸、眼、およびいくつかの他の臓器内の上皮細胞の頂端表面を裏打ちしている。ムチンは、細胞外ドメイン内のオリゴサッカリドに結合する病原体による感染から身体を防御し、それにより、病原体が細胞表面に到達するのを防止する。MUC1の過剰発現は、しばしば、結腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、および膵臓がんに関連する。
【0093】
MUC1は、分子量が120~225kDaのコアタンパク質を有し、グリコシル化により250~500kDaに増加する。MUC1は、細胞表面上の200~500nmを被覆している。細胞外ドメインは、20アミノ酸の高変異反復配列(VNTR)ドメインを含み、反復数は、個体によって20から120まで変動する。最も頻度の高い対立遺伝子は、41反復および85反復を含む。これらの反復は、重度のo-グリコシル化が可能なセリン、トレオニン、およびプロリン残基が豊富である。
【0094】
市販のMUC1に対するモノクローナル抗体(EPR1203、EP1024Y、HMFG1、NCRC48、SM3、MH1、および115D8(Abcam)など)が公知である。
FCRL5
【0095】
Fc受容体様タンパク質5(FCRL5)は、免疫グロブリン受容体スーパーファミリーのメンバーであり、Fc受容体様ファミリーFCRL5は、1回貫通I型膜タンパク質であり、8個の免疫グロブリン様C2型ドメインを含む。成熟タンパク質は、106kDaである。
【0096】
FCRL5は、2個の抑制性ITIMリン酸化シグナル伝達モチーフを有する細胞質側末端を有する。FCRL5は、B細胞抗原受容体の共刺激の際にSHP1を動員することによってB細胞抗原受容体シグナル伝達を抑制し、それにより、カルシウム流入およびタンパク質チロシンリン酸化を減弱する。FCRL5およびB細胞抗原受容体を共刺激すると、ナイーブB細胞の増殖および分化が促進される。FCRL5は、成熟B細胞上および形質細胞上の両方に発現され、EBVタンパク質によって誘導される。FCRL5は、毛様細胞白血病、慢性リンパ球性白血病、マントル細胞リンパ腫、および多発性骨髄腫の患者の悪性B細胞上に過剰発現される。
【0097】
市販のFCRL5に対するモノクローナル抗体(CD307e(ThermoFisher)およびREA391(Miltenyi Biotec)など)が公知である。
【0098】
本発明者らはまた、4つの新規の抗FCRL5抗体を生成し、そのVH、VL、およびCDR配列を、表2にまとめている。CDR配列は、太字で下線を引いている。
表2
【表2-1】
【表2-2】
【0099】
ORゲート
本発明のCARを、1またはそれより多くの他の賦活性または抑制性のキメラ抗原受容体と組み合わせて使用してよい。例えば、本発明のCARを、「論理ゲート」において1またはそれより多くのCARと組み合わせて使用してよく、CAR組み合わせは、T細胞などの細胞によって発現されるとき、少なくとも2つの標的抗原の特定の発現パターンを検出することができる。少なくとも2つの標的抗原が抗原Aおよび抗原Bとして任意に示される場合、3つの可能な選択肢は以下の通りである:
「ORゲート」-T細胞は、抗原Aまたは抗原Bのいずれかが標的細胞上に存在するときに引き起こす
「ANDゲート」-T細胞は、抗原AおよびBの両方が標的細胞上に存在するときに引き起こす
「AND NOTゲート」-T細胞は、抗原Aが単独で標的細胞上に存在する場合に引き起こすが、T細胞は、抗原AおよびBの両方が標的細胞上に存在する場合に引き起こさない
【0100】
これらのCAR組み合わせを発現する操作されたT細胞を、2またはそれより多くのマーカーのがん細胞の特定の発現(または発現の欠如)に基づいて、がん細胞に精巧に特異的であるように調整することができる。
【0101】
かかる「論理ゲート」は、例えば、WO2015/075469号、WO2015/075470号、およびWO2015/075470号に記載されている。
【0102】
「ORゲート」は、標的細胞によって発現された個別の標的抗原にそれぞれ指向する2つまたはそれより多くの賦活CARを含む。ORゲートの利点は、有効性が抗原A+抗原Bとなるので、標的細胞上の有効に標的可能な抗原が増加することである。単一抗原のレベルが、CAR-T細胞が有効に標的にするのに必要な閾値未満であり得るので、このことは標的細胞上に変動するか低い密度で発現される抗原に特に重要である。また、ORゲートは、抗原回避現象が避けられる。例えば、いくつかのリンパ腫および白血病は、CD19が標的にされた後にCD19陰性になる:この現象が起こる場合、別の抗原と組み合わせてCD19を標的にするORゲートを使用すると「バックアップ」抗原が得られる。
【0103】
本発明のFabCARは、ORゲートにおいて、標的細胞によって発現される第2の標的抗原に対する第2のCARと組み合わせて使用され得る。
【0104】
抗CD22 FabCARについて、ORゲートは、B細胞内に発現する第2の抗原(CD19、CD20、またはCD79など)に対するCARを含み得る。
【0105】
第2のCARは、任意の適切な抗原結合ドメイン(例えば、scFv、ドメイン抗体(dAb)、またはFabに基づいた結合ドメイン)を有し得る。
【0106】
第2のCARは、膜貫通ドメインから抗原結合ドメインを立体的に分離し、可動性を付与するスペーサーを含み得る。種々の配列がCARのスペーサーとして一般に使用されている(例えば、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジ(上記)、またはヒトCD8ストーク)。スペーサーは、例えば、WO2016/151315号に記載のコイルドコイルドメインを含み得る。
【0107】
第2のCARは、活性化エンドドメインを含む。第2のCARは、例えば、CD3ζ由来のエンドドメインを含み得る。第2のCARは、1またはそれより多くの上記の共刺激ドメインを含み得る。例えば、第2のCARは、CD28、OX-40、または4-1BB由来のエンドドメインを含み得る。
【0108】
本発明のFabCARは、標的細胞によって発現される第2の抗原に対する第2のCARおよび第3の抗原に対する第3のCARを含むトリプルORゲートで使用され得る。
【0109】
抗CD22 FabCARについて、トリプルORゲートは、B細胞内で発現される第2および第3の抗原(CD19、CD20、またはCD79など)に対するCARを含み得る。
【0110】
特に、本発明は、以下を含むトリプルORゲートを提供する:
(i)抗CD22 FabCAR;
(ii)抗CD79 dAb CAR);および
(iii)抗CD19 scFv CAR(図7bを参照のこと)。
デュアルCAR
【0111】
本発明のORゲートは、2つ(またはそれを超える)Fab CARを含み得る。
【0112】
2つのFab CARの発現に関連する問題は、非機能性CARが作製される交差対合事象または誤対合事象である(図11)。これを回避するために、図12に模式的に示すように、「Crossmab」形式および/または「Ortho-Fab」形式が使用され得る。
【0113】
「Crossmab」は、一方の分子中で可変軽鎖(VL)が重鎖定常ドメイン(CH)に接続され;他方の分子中で可変重鎖(VH)が軽鎖定常ドメイン(CL)に接続されるように鎖間のCLドメインおよびCH1ドメインを切り換えることを含む(図12、Crossmab1および2)。
【0114】
crossmab形式のFabCARをコードする核酸構築物は、以下の構造を有し得る:
VH-CL-spacer-TM-endo-coexpr-VL-CHまたは
VL-CH-spacer-TM-endo-coexpr-VH-CL
ここで、
VHは、重鎖可変領域をコードする核酸配列であり;
CHは、重鎖定常領域をコードする核酸配列であり
spacerは、スペーサーをコードする核酸であり;
TMは、膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
endoは、エンドドメインをコードする核酸配列であり;
coexprは、第1および第2のポリペプチドの共発現を可能にする核酸配列であり;
VLは、軽鎖可変領域をコードする核酸配列であり;
CLは、軽鎖定常領域をコードする核酸配列である。
【0115】
「Ortho-Fab」は、別の組み合わせを回避するために変異が導入されている。例えば、嵩高い側鎖を有するアミノ酸を、1本の鎖(例えば、CL)中へと操作して突起を生じさせることができ、正確に対合するドメイン(例えば、CH)を突起に適応するように操作することができる。あるいは、またはさらに、帯電した側鎖を1本の鎖中へと操作し(例えば、正に荷電したアミノ酸を有するように操作されたVH)、正確に対合するドメイン(例えば、VL)を、負に荷電したアミノ酸を有するように操作することができる。
【0116】
本発明のデュアルFabCARは、野生型Fab CAR形式の配列番号69~74として示したCDRを有するCD19 Fab CAR;およびorthoFab形式またはcrossmab1 Fab CAR形式の配列番号93~98として示したCDRを有するCD22 Fab CARを含み得る。
CD79バインダー
【0117】
用語「CD79」または「表面抗原分類79」は、B細胞表面に存在するタンパク質を指し、このタンパク質は、ジスルフィド結合ヘテロ二量体を形成し、免疫グロブリン(Ig)遺伝子スーパーファミリーのメンバーである2つの膜貫通タンパク質CD79aおよびCD79bを包含する。膜貫通CD79aタンパク質およびCD79bタンパク質は、5つの異なるタイプの膜貫通Ig分子(IgM、IgD、IgG、IgE、またはIgA)(2つのIg重鎖および2つのIg軽鎖から構成されるジスルフィド結合タンパク質である)のうちのいずれか1つと細胞外末端でカップリングする。B細胞表面上でのCD79と免疫グロブリンのこの組み合わせにより、B細胞シグナル伝達受容体(BCR)が形成される。CD79aおよびCD79bの細胞質内ドメインは、抗原誘導BCR凝集の際にB細胞に活性化シグナルを伝達する免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含む。
【0118】
CD79発現は、プレB細胞および成熟B細胞(形質細胞を除く)に制限される。CD79はまた、B細胞由来悪性疾患の大部分で発現される。この発現パターンの狭さは、正常組織への標的化を最小限にしたがん標的療法有望な目標となる。
【0119】
用語「CD79a」または「CD79A」は、Ig-アルファとしても公知のB細胞抗原受容体複合体関連タンパク質アルファ鎖、MB-1膜糖タンパク質、膜結合型免疫グロブリン関連タンパク質、および表面IgM関連タンパク質を指す。CD79aのヒトイソ型は、2018年4月20日付のUniprotデータベース中のアクセッション番号P11912.1(イソ型1または長鎖)およびP11912.2(イソ型2または短鎖)に示されている。
【0120】
用語「CD79b」または「CD79B」は、Ig-ベータとしても公知のB細胞抗原受容体複合体関連タンパク質ベータ鎖、B細胞特異的糖タンパク質B29、および免疫グロブリン関連B29タンパク質を指す。CD79bのヒトイソ型は、2018年4月20日付のUniprotデータベース中のアクセッション番号P40259-1(イソ型長鎖)、P40259-2(イソ型短鎖)、およびP40259-3(イソ型3)に示されている。
【0121】
活性化Bリンパ球は、短鎖または短縮されたCD79イソ型が増量している。特定の実施形態では、本発明は、CD79aに特異的に結合するCARに関する。好ましい実施形態では、CARは、非スプライシング部分またはCD79aエクトドメイン(すなわち、配列番号67(Uniprotアクセッション番号P11912.1)として以下に示したCD79aイソ型1の残基33~143)に結合する。別の特定の実施形態では、本発明は、CD79bに特異的に結合するCARに関する。別の好ましい実施形態では、CARは、非スプライシング部分またはCD79bエクトドメイン(すなわち、配列番号68(Uniprotアクセッション番号P40259-1)として以下に示したCD79bイソ型長鎖の残基29~159)に結合する。
CD79aイソ型1-配列番号67
【化9】

CD79bイソ型2-配列番号68
【化10】
【0122】
本発明は、CD79に結合するキメラ抗原受容体(CAR)を含むORゲートを提供する。
【0123】
CARは、CD79Aに特異的に結合し得る。例えば、CARは、CD79Aエクトドメインの非スプライシング部分(配列番号67の残基33~143)に結合し得る。
【0124】
CARは、CD79Bに特異的に結合し得る。例えば、CARは、CD79Bエクトドメインの非スプライシング部分(配列番号68の残基29~159)に結合し得る。
【0125】
多数の抗CD79抗体が当該分野で公知である(例えば、JCB117、SN8、CB3.1、および2F2(ポラツズマブ))。
【0126】
CD79結合ドメインは、以下を含み得る:
a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化11】

および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
【化12】

【0127】
抗CD79 CARは、以下のVH配列を含み得る:
配列番号11-マウスモノクローナル抗体由来のVH配列
【化13】
【0128】
抗CD79 CARは、以下のVL配列を含み得る:
配列番号12-マウスモノクローナル抗体由来のVL配列
【化14】
【0129】
抗CD79 CARは、以下のscFv配列を含み得る:
配列番号13(マウス抗カニクイザル(Macaca fascicularis)CD79b 10D10 scFv)
【化15】

【化16】
【0130】
あるいは、抗CD79 CARは、以下を含む抗原結合ドメインを含み得る:a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化17】

および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
【化18】

【0131】
抗CD79 CARは、以下のVH配列を含み得る:
配列番号20-マウスモノクローナル抗体由来のVH配列
【化19】
【0132】
抗CD79 CARは、以下のVL配列を含み得る:
配列番号21-マウスモノクローナル抗体由来のVL配列
【化20】
【0133】
抗CD79 CARは、以下のscFv配列を含み得る:
配列番号22(ヒト化抗CD79b-v17 scFv)
【化21】
【0134】
あるいは、抗CD79 CARは、以下を含む抗原結合ドメインを含み得る:a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化22】

および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
【化23】

【0135】
抗CD79 CARは、以下のVH配列を含み得る:
配列番号24-マウスモノクローナル抗体由来のVH配列
【化24】
【0136】
抗CD79 CARは、以下のVL配列を含み得る:
配列番号21-マウスモノクローナル抗体由来のVL配列
【化25】
【0137】
抗CD79 CARは、以下のscFv配列を含み得る:
配列番号25(ヒト化抗CD79b v18 scFv)
【化26】
【0138】
あるいは、抗CD79 CARは、以下を含む抗原結合ドメインを含み得る:a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化27】

および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
【化28】

【0139】
抗CD79 CARは、以下のVH配列を含み得る:
配列番号24-マウスモノクローナル抗体由来のVH配列
【化29】
【0140】
抗CD79 CARは、以下のVL配列を含み得る:
配列番号27-マウスモノクローナル抗体由来のVL配列
【化30】
【0141】
抗CD79 CARは、以下のscFv配列を含み得る:
配列番号28(ヒト化抗CD79b v28 scFv)
【化31】
【0142】
あるいは、抗CD79 CARは、以下を含む抗原結合ドメインを含み得る:a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化32】

および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
【化33】
【0143】
抗CD79 CARは、以下のVH配列を含み得る:
配列番号24-マウスモノクローナル抗体由来のVH配列
【化34】
【0144】
抗CD79 CARは、以下のVL配列を含み得る:
配列番号30-マウスモノクローナル抗体由来のVL配列
【化35】
【0145】
抗CD79 CARは、以下のscFv配列を含み得る:
配列番号31(ヒト化抗CD79b v32 scFv)
【化36】
【0146】
あるいは、抗CD79 CARは、以下を含む抗原結合ドメインを含み得る:a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化37】

および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
【化38】

【0147】
抗CD79 CARは、以下のVH配列を含み得る:
配列番号32-マウスモノクローナル抗体由来のVH配列
【化39】
【0148】
抗CD79 CARは、以下のVL配列を含み得る:
配列番号33-マウスモノクローナル抗体由来のVL配列
【化40】
【0149】
抗CD79 CARは、以下のscFv配列を含み得る:
配列番号34(マウス抗CD79b SN8 scFv)
【化41】
【0150】
あるいは、抗CD79 CARは、以下を含む抗原結合ドメインを含み得る:a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化42】

および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
【化43】

【0151】
抗CD79 CARは、以下のVH配列を含み得る:
配列番号24-マウスモノクローナル抗体由来のVH配列
【化44】
【0152】
抗CD79 CARは、以下のVL配列を含み得る:
配列番号27-マウスモノクローナル抗体由来のVL配列
【化45】
【0153】
抗CD79 CARは、以下のscFv配列を含み得る:
配列番号28(ヒト化抗CD79b 2F2 scFv)
【化46】
【0154】
あるいは、抗CD79 CARは、以下を含む抗原結合ドメインを含み得る:a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化47】

および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
【化48】

【0155】
抗CD79 CARは、以下のVH配列を含み得る:
配列番号36-マウスモノクローナル抗体由来のVH配列
【化49】
【0156】
抗CD79 CARは、以下のVL配列を含み得る:
配列番号37-マウスモノクローナル抗体由来のVL配列
【化50】
【0157】
抗CD79 CARは、以下のscFv配列を含み得る:
配列番号38(マウス抗CD79a scFv)
【化51】
【0158】
CD79結合活性に負の影響を及ぼすことなく各CDRに1またはそれより多くの変異(置換、付加、または欠失)を導入することが可能な場合がある。各CDRは、例えば、1つ、2つ、または3つのアミノ酸変異を有し得る。
CD19バインダー
【0159】
いくつかの抗CD19抗体が、CAR形式で以前に記載されている(fmc63、4G7、SJ25C1、CAT19(WO2016/139487号に記載)およびCD19ALAb(WO2016/102965号に記載)など)。
【0160】
本発明のダブルまたはトリプルORゲートで用いるための抗CD19 CARは、抗原結合ドメイン(これらの抗CD19抗体のうちの1つに由来するscFv型抗原結合ドメインなど)を含み得る。
【0161】
CD19結合ドメインは、以下を含み得る:
a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化52】

および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
【化53】

【0162】
CD19結合活性に負の影響を及ぼすことなく各CDRに1またはそれより多くの変異(置換、付加、または欠失)を導入することが可能な場合がある。各CDRは、例えば、1つ、2つ、または3つのアミノ酸変異を有し得る。
【0163】
CDRは、10~約25アミノ酸の短いリンカーペプチドが接続された抗体の重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)の融合タンパク質である単鎖可変断片(scFv)の形式であり得る。scFvの配向はVH-VLであり得る(すなわち、VHがCAR分子のアミノ末端側にあり、VLドメインがスペーサーに連結しており、それに膜貫通ドメインおよびエンドドメインが続く)。
【0164】
CDRは、ヒト抗体またはscFvのフレームワーク上にグラフトされ得る。例えば、本発明のCARは、以下の配列のうちの1つからなるか、以下の配列のうちの1つを含むCD19結合ドメインを含み得る。
【0165】
抗CD19 CARは、以下のVH配列を含み得る:
配列番号75-マウスモノクローナル抗体由来のVH配列
【化54】
【0166】
抗CD19 CARは、以下のVL配列を含み得る:
配列番号76-マウスモノクローナル抗体由来のVL配列
【化55】
【0167】
抗CD19 CARは、以下のscFv配列を含み得る:
配列番号77-マウスモノクローナル抗体由来のVH-VL scFv配列
【化56】
【0168】
あるいは、抗CD19 CARは、以下を含む抗原結合ドメインを含み得る:a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化57】

および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
【化58】

【0169】
CD19結合活性に負の影響を及ぼすことなく各CDRに1またはそれより多くの変異(置換、付加、または欠失)を導入することが可能な場合がある。各CDRは、例えば、1つ、2つ、または3つのアミノ酸変異を有し得る。
【0170】
本発明のCARは、以下のアミノ酸配列のうちの1つを含み得る:
配列番号84(マウスCD19ALAb scFv配列)
【化59】

配列番号85(ヒト化CD19ALAb scFv配列-重鎖19、カッパ16)
【化60】

配列番号86(ヒト化CD19ALAb scFv配列-重鎖19、カッパ7)
【化61】
【0171】
scFvは、VH-VLの配向(配列番号84、85、および86に示す)またはVL-VHの配向であり得る。
【0172】
本発明のCARは、以下のVH配列のうちの1つを含み得る:
配列番号87(マウスCD19ALAb VH配列)
【化62】

配列番号88(ヒト化CD19ALAb VH配列)
【化63】
【0173】
抗CD19 CARは、以下のVL配列のうちの1つを含み得る:
配列番号89(マウスCD19ALAb VL配列)
【化64】

配列番号90(ヒト化CD19ALAb VL配列、カッパ16)
【化65】

配列番号91(ヒト化CD19ALAb VL配列、カッパ7)
【化66】
【0174】
CARは、少なくとも80、85、90、95、98、または99%の配列同一性を有する配列番号84~91として示した配列のバリアントを含み得るが、但し、(適切な場合に相補的なVLまたはVHドメインと併せたときに)前記バリアントの配列がCD19に結合する能力を保持していることを条件とする。
【0175】
2つのポリペプチド配列の間の同一率は、http://blast.ncbi.nlm.nih.govで自由に利用可能なBLASTなどのプログラムによって容易に決定され得る。
核酸構築物
【0176】
本発明はまた、本発明のキメラ受容体をコードする核酸構築物を提供する。
【0177】
FabCARをコードする核酸構築物(図6A)は、以下の構造を有し得る:
VH-CH-spacer-TM-endo-coexpr-VL-CLまたは
VL-CL-spacer-TM-endo-coexpr-VH-CH
ここで、
VHは、重鎖可変領域をコードする核酸配列であり;
CHは、重鎖定常領域をコードする核酸配列であり
spacerは、スペーサーをコードする核酸であり;
TMは、膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
endoは、エンドドメインをコードする核酸配列であり;
coexprは、第1および第2のポリペプチドの共発現を可能にする核酸配列であり;
VLは、軽鎖可変領域をコードする核酸配列であり;
CLは、軽鎖定常領域をコードする核酸配列である。
【0178】
上記の両構造について、2つのポリペプチドをコードする核酸配列は、構築物中でいずれかの順序であり得る。
【0179】
2つまたはそれより多くの(two of more)CARを含み、そのうちの少なくとも1つ
が本発明のFabCARであるORゲートをコードする核酸構築物も提供する。
【0180】
ダブルORゲートをコードする核酸構築物は、以下の構造を有し得る:
VH-CH-spacer1-TM1-endo1-coexpr1-VL-CL-coexpr2-AgBD-spacer2-TM2-endo2;または
VL-CL-spacer-TM1-endo1-coexpr1-VH-CH-coexpr2-AgBD-spacer2-TM2-endo2
ここで、
VHは、第1のCARの重鎖可変領域をコードする核酸配列であり;
CHは、第1のCARの重鎖定常領域をコードする核酸配列であり;
spacer1は、第1のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM1は、第1のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
endo1は、第1のCARのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
coexpr1およびcoexpr2は、同一でも異なっていてもよく、第1のCAR;ならびに第1および第2のCARの第1および第2のポリペプチドの共発現が可能な核酸配列であり;
VLは、第1のCARの軽鎖可変領域をコードする核酸配列であり;
CLは、第1のCARの軽鎖定常領域をコードする核酸配列であり;
AgBDは、第2のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
spacer2は、第2のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM2は、第2のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
endo2は、第2のCARのエンドドメインをコードする核酸配列である。
【0181】
第2のCARの抗原結合ドメインは、例えば、scFvまたはdAbであり得る。
【0182】
上記の両方の構造物について、第1のCARの2つのポリペプチドをコードする核酸配列;第1および第2のCARをコードする核酸配列は、構築物内に任意の順序で存在し得る。
【0183】
3つのCARを含み、そのうちの1つが本発明のFabCARであるトリプルORゲートをコードする核酸構築物も提供する。
【0184】
トリプルORゲートをコードする核酸構築物は、以下の構造を有し得る:
VH-CH-spacer1-TM1-endo1-coexpr1-VL-CL-coexpr2-AgBD2-spacer2-TM2-endo2-coexpr3-AgBD3-spacer3-TM3-endo3;または
VL-CL-spacer1-TM1-endo1-coexpr1-VH-CH-coexpr2-AgBD2-spacer2-TM2-endo2-coexpr3-AgBD3-spacer3-TM3
ここで、
VHは、第1のCARの重鎖可変領域をコードする核酸配列であり;
CHは、第1のCARの重鎖定常領域をコードする核酸配列であり;
spacer1は、第1のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM1は、第1のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
endo1は、第1のCARのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
coexpr1、coexpr2、およびcoexpr3は、同一でも異なっていてもよく、第1のCAR;ならびに第1、第2、および第3のCARの第1および第2のポリペプチドの共発現が可能な核酸配列であり;
VLは、第1のCARの軽鎖可変領域をコードする核酸配列であり;
CLは、第1のCARの軽鎖定常領域をコードする核酸配列であり;
AgBD2は、第2のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
spacer2は、第2のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM2は、第2のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
endo2は、第2のCARのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
AgBD3は、第3のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
spacer3は、第3のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM3は、第3のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
endo3は、第3のCARのエンドドメインをコードする核酸配列である。
【0185】
第2および第3のCARの抗原結合ドメインは、例えば、scFvまたはdAbであり得る。特に、一方のCARはdAb抗原結合ドメインを有し得、他方はscFv抗原結合ドメインを有し得る。
【0186】
特に、構築物は、図7aに示す通りであり得る。構築物は、図7bに示すように3つのCAR(すなわち、CD22に対するFabCAR;CD79に対するdAb CAR、およびCD19に対するscFV CAR)をコードし得る。
【0187】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、および「核酸」は、相互に同義であることが意図される。
【0188】
当業者は、多数の異なるポリヌクレオチドおよび核酸が遺伝暗号の縮重の結果として同一のポリペプチドをコードすることができることを理解する。さらに、当業者は、日常的な技術を使用して、ポリペプチドが発現される任意の特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映するように、本明細書中に記載のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチドを置換することができると理解すべきである。
【0189】
本発明の核酸は、DNAまたはRNAを含み得る。本発明の核酸は一本鎖または二本鎖であり得る。本発明の核酸はまた、本発明の核酸内に合成または改変されたヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであり得る。オリゴヌクレオチドに対するいくつかの異なるタイプの改変が当該分野で公知である。これらの改変には、メチルホスホナート骨格およびホスホロチオアート骨格、分子の3’末端および/または5’末端でのアクリジン鎖またはポリリジン鎖の付加が含まれる。本明細書中に記載の使用のために、当該分野で利用可能な任意の方法によってポリヌクレオチドを改変することができると理解すべきである。かかる改変は、目的のポリヌクレオチドのin vivo活性を強化し、寿命を延ばすために実施され得る。
【0190】
ヌクレオチド配列に関連する用語「バリアント」、「ホモログ」、または「誘導体」は、前記配列からか、前記配列への、1(またはそれより多くの)核酸の任意の置換、変形、改変、置き換え、欠失、または付加を含む。
【0191】
上記の構造物では、「coexpr」は、個別の実体として2つのポリペプチドの共発現が可能な核酸配列である。coexprは、核酸構築物が切断部位(複数可)によって連結した両方のポリペプチドを産生するように、切断部位をコードする配列であり得る。ポリペプチドが産生されたときに、いかなる外部の切断活性を必要とすることなく個別のペプチドに直ちに切断されるように、切断部位は自己切断され得る。
【0192】
切断部位は、2つのポリペプチドが分離するようになることが可能な任意の配列であり得る。
【0193】
用語「切断」を本明細書中で便宜上使用するが、切断部位により、古典的な切断以外の機序によってペプチドを個別の実体に分離することができる。例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)2A自己切断ペプチド(以下を参照のこと)について、以下の「切断」活性を説明するための種々のモデルが提案されている:宿主細胞プロテイナーゼによるタンパク質分解活性、自己タンパク質分解、または翻訳効果(Donnellyら(2001)J.Gen.Virol.82:1027-1041)。かかる「切断」の正確な機序は、切断部位がタンパク質をコードする核酸配列の間に配置されたときに個別の実体としてタンパク質を発現する限り、本発明の目的には重要でない。
【0194】
切断部位は、例えば、フューリン切断部位、タバコエッチ病ウイルス(TEV)切断部位であり得るか、自己切断ペプチドをコードし得る。
【0195】
「自己切断ペプチド」は、タンパク質および自己切断ペプチドを含むポリペプチドが産生されたときに、いかなる外部の切断活性も必要とせずに個別かつ分離した第1および第2のポリペプチドに直ちに「切断される」かまたは分離されるように機能するペプチドを指す。
【0196】
自己切断ペプチドは、アフトウイルスまたはカルジオウイルス由来の2A自己切断ペプチドであり得る。アフトウイルスおよびカルジオウイルスの一次2A/2B切断は、それ自体のC末端での2A「切断」によって媒介される。アフトウイルス(apthovirus)(口蹄疫ウイルス(FMDV)およびウマ鼻炎Aウイルスなど)では、2A領域は、約18アミノ酸の短い部分であり、タンパク質2BのN末端残基(保存プロリン残基)と共に、それ自体のC末端での「切断」を媒介することができる自律エレメントを示す(上記のDonellyら(2001))。
【0197】
「2A様」配列は、アフトウイルスまたはカルジオウイルス以外のピコルナウイルス、「ピコルナウイルス様」昆虫ウイルス、タイプCロタウイルス、ならびにTrypanosoma sppおよび細菌配列内の反復配列で見出されている(上記のDonnellyら(2001))。
【0198】
切断部位は、配列番号92として示した2A様配列(RAEGRGSLLTCGDVEENPGP)を含み得る。
ベクター
【0199】
本発明はまた、本発明のキメラ受容体をコードする1またはそれより多くの核酸配列を含むベクターまたはベクターのキットを提供する。かかるベクターは、宿主細胞が本発明の第1の態様のキメラポリペプチドを発現するように宿主細胞内に核酸配列(複数可)を導入するために使用され得る。
【0200】
ベクターは、例えば、プラスミドまたはウイルスベクター(レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターなど)、またはトランスポゾンベースのベクターまたは合成mRNAであり得る。
【0201】
ベクターは、T細胞またはNK細胞にトランスフェクトするか形質導入することが可能であり得る。
細胞
【0202】
本発明は、本発明のキメラ抗原受容体を含む細胞を提供する。細胞は、2つまたはそれより多くのCARを含み得る(例えば、細胞は、上記のダブルゲートまたはトリプルゲートを含み得る。
【0203】
細胞は、本発明の核酸またはベクターを含み得る。
【0204】
細胞は、細胞溶解性免疫細胞(T細胞またはNK細胞など)であり得る。
【0205】
T細胞またはTリンパ球は、細胞性免疫において中心的な役割を果たすリンパ球の1つの型である。これらは、細胞表面上のT細胞受容体(TCR)の存在によって他のリンパ球(B細胞およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)など)と区別することができる。以下にまとめているように、種々のタイプのT細胞が存在する。
【0206】
ヘルパーTヘルパー細胞(TH細胞)は、免疫学的過程(B細胞の形質細胞およびメモリーB細胞への成熟ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化が含まれる)において他の白血球を補助する。TH細胞は、その表面上でCD4を発現する。TH細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面上のMHCクラスII分子によってペプチド抗原が提示されたときに活性化されるようになる。これらの細胞は、異なるタイプの免疫応答を容易にするために異なるサイトカインを分泌するいくつかのサブタイプ(TH1、TH2、TH3、TH17、Th9、またはTFH)のうちの1つに分化することができる。
【0207】
細胞溶解性T細胞(TC細胞、またはCTL)は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、移植片拒絶にも関与する。CTLは、その表面にCD8を発現する。これらの細胞は、全ての有核細胞の表面上に存在するMHCクラスIに関連する抗原への結合によってその標的を認識する。IL-10、アデノシン、および制御性T細胞によって分泌される他の分子を介して、CD8+細胞をアネルギー状態に不活性化することができ、それにより実験的自己免疫性脳脊髄炎などの自己免疫疾患を予防する。
【0208】
メモリーT細胞は、感染から回復した後に長期間にわたって維持される抗原特異的T細胞のサブセットである。メモリーT細胞は、その同族抗原への再曝露の際に迅速に多数のエフェクターT細胞へと拡大増殖する(expand)ため、免疫系に過去の感染を「記憶」させている。メモリーT細胞は、以下の3つのサブタイプを含む:セントラルメモリーT細胞(TCM細胞)および2つのタイプのエフェクターメモリーT細胞(TEM細胞およびTEMRA細胞)。メモリー細胞は、CD4+またはCD8+のいずれかであり得る。メモリーT細胞は、典型的には、細胞表面タンパク質CD45ROを発現する。
【0209】
以前は抑制性T細胞として公知であった制御性T細胞(Treg細胞)は、免疫寛容の維持に不可欠である。その主な役割は、免疫反応の終了に向けてT細胞性免疫を停止させること、および胸腺内でのネガティブ選択過程を回避した自己反応性T細胞を抑制することである。
【0210】
CD4+Treg細胞の2つの主なクラス(内在性Treg細胞および適応Treg細胞)が記載されている。
【0211】
内在性Treg細胞(CD4+CD25+FoxP3+Treg細胞としても公知)は、胸腺内で生じ、発生中のT細胞の、TSLPで活性化されている骨髄系(CD11c+)樹状細胞および形質細胞様(CD123+)樹状細胞の両方との相互作用に関与している。内在性Treg細胞は、FoxP3と呼ばれる細胞内分子の存在によって他のT細胞と区別することができる。FOXP3遺伝子を変異させると制御性T細胞の発生が阻止され、致死性自己免疫疾患IPEXを引き起こし得る。
【0212】
適応Treg細胞(Tr1細胞またはTh3細胞としても公知)は、正常な免疫応答中に生じ得る。
【0213】
細胞は、ナチュラルキラー細胞(またはNK細胞)であり得る。NK細胞は、先天性免疫系の一部を成し得る。NK細胞は、ウイルス感染細胞からの内生シグナルに対してMHC依存性様式で迅速に応答する。
【0214】
NK細胞(先天性リンパ球系細胞群に属する)は大顆粒リンパ球(LGL)と定義され、Bリンパ球およびTリンパ球を生成する共通のリンパ球系前駆細胞から分化した第3の細胞を構成する。NK細胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃腺、および胸腺で分化および成熟し、次いで、循環内に入ることが公知である。
【0215】
本発明の細胞は、上記の細胞型のうちのいずれかであり得る。
【0216】
本発明の第1の態様のT細胞またはNK細胞は、患者自体の末梢血(第一者)から、またはドナー末梢血(第二者)または無関係のドナー由来の末梢血(第三者)由来の造血幹細胞移植においてex vivoで作り出すことができる。
【0217】
あるいは、本発明の第1の態様のT細胞またはNK細胞は、誘導前駆細胞または胚性前駆細胞のT細胞またはNK細胞へのex vivo分化に由来し得る。あるいは、溶解機能を保持し、かつ治療に役立つもの(therapeutic)として作用することができる不死化
T細胞株が使用され得る。
【0218】
これらの全ての実施形態では、キメラポリペプチド発現細胞は、多数の手段(ウイルスベクターを用いた形質導入、DNAまたはRNAを用いたトランスフェクションが含まれる)のうちの1つによってキメラポリペプチドをコードするDNAまたはRNAを導入することによって生成される。
【0219】
本発明の細胞は、被験体由来のex vivoでのT細胞またはNK細胞であり得る。T細胞またはNK細胞は、末梢血単核球(PBMC)試料に由来し得る。T細胞またはNK細胞は、本発明の第1の態様のキメラポリペプチドが得られる分子をコードする核酸で形質導入される前に、例えば抗CD3モノクローナル抗体での処置によって活性化および/または拡大増殖され得る。
【0220】
本発明のTまたはNK細胞は、以下によって作製され得る:
(i)上記列挙の被験体または他の供給源からのTまたはNK細胞を含む試料の単離;および
(ii)キメラポリペプチドをコードする1またはそれより多くの核酸配列でのTまたはNK細胞の形質導入またはトランスフェクション。
【0221】
次いで、TまたはNK細胞は、精製され得る(例えば、抗原結合ポリペプチドの抗原結合ドメインの発現に基づいて選択され得る)。
医薬組成物
【0222】
本発明はまた、複数の本発明による細胞を含む医薬組成物に関する。
【0223】
医薬組成物は、さらに、薬学的に許容され得る担体、希釈剤、または賦形剤を含み得る。医薬組成物は、必要に応じて、1またはそれより多くのさらなる薬学的に活性なポリペプチドおよび/または化合物を含み得る。かかる製剤は、例えば、静脈内注入に適切な形態であり得る。
処置方法
【0224】
本発明は、(例えば、上記の医薬組成物中の)本発明の細胞を被験体に投与するステップを含む、疾患を処置および/または予防する方法を提供する。
【0225】
疾患を処置する方法は、本発明の細胞の治療的使用に関する。本明細書中では、疾患に関連する少なくとも1つの症状を緩和、軽減、もしくは改善し、および/または疾患の進行を遅延、軽減、もしく遮断するために、疾患または状態を既に有する被験体に細胞を投与することができる。
【0226】
疾患を予防する方法は、本発明の細胞の予防的使用に関する。本明細書中では、未だ罹患しておらず、および/または疾患のいかなる症状も示していない被験体に、疾患の原因を予防するか損なわせるか、疾患に関連する少なくとも1つの症状の発生を軽減または予防するためにかかる細胞を投与することができる。被験体は、疾患の素因を有し得るか、発症リスクがあると考えられ得る。
【0227】
本方法は、以下のステップを含み得る:
(i)TまたはNK細胞を含む試料を単離するステップ;
(ii)かかる細胞を、本発明によって提供された核酸配列またはベクターで形質導入するかトランスフェクトするステップ;
(iii)(ii)由来の細胞を被験体に投与するステップ。
【0228】
T細胞またはNK細胞を含む試料は、例えば上記の被験体または他の供給源から単離され得る。T細胞またはNK細胞は、患者自体の末梢血(第一者)から、またはドナー末梢血(第二者)または無関係のドナー由来の末梢血(第三者)由来の造血幹細胞移植において単離され得る。
【0229】
本発明は、疾患の処置および/または予防で用いるための本発明のキメラポリペプチド発現細胞を提供する。
【0230】
本発明はまた、疾患の処置および/または予防のための医薬の製造における本発明のキメラポリペプチド発現細胞の使用に関する。
【0231】
本発明の方法によって処置および/または予防されるべき疾患は、がん性疾患(膀胱がん、乳がん、結腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん(腎細胞がん)、白血病、肺がん、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、膵臓がん、前立腺がん、および甲状腺がんなど)であり得る。
【0232】
疾患は、多発性骨髄腫(MM)、B細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、神経芽細胞腫、T細胞急性リンパ芽球性白血病(T-ALL)、またはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)であり得る。
【0233】
本発明の細胞は、がん細胞などの標的細胞を死滅させることが可能であり得る。標的細胞は、標的細胞付近の腫瘍分泌性のリガンドまたはケモカインリガンドの存在によって特徴付けられ得る。標的細胞は、標的細胞表面に腫瘍関連抗原(TAA)の発現と共に可溶性リガンドが存在することによって特徴付けられ得る。
【0234】
本発明の細胞および医薬組成物は、上記の疾患の処置および/または防止で使用されるためのものであり得る。
さらなる態様
【0235】
本発明はまた、9A8-1と名付けられた新規のCD22結合抗体を提供する。9A8のVH、VL、およびCDRの配列は、上記の表1に示している。
【0236】
この抗体は、CARにおいて特に良好な有効性を示す。例えば、以下の実施例3に示すように、FabCAR形式の9A8-1は、代替のCD22バインダー3B4を有する等価なCARより標的細胞殺滅およびサイトカイン放出の改善を示した。
【0237】
本発明はまた、以下の番号をつけたパラグラフにまとめた態様を提供する。
【0238】
1.以下を含む抗原結合ドメイン:
a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化67】

および
b)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する軽鎖可変領域(VL):
【化68】
【0239】
2.配列番号65として示した配列を有するVHドメイン;および配列番号66として示した配列を有するVLドメインを含む、パラグラフ1に記載の抗原結合ドメイン。
【0240】
3.パラグラフ1または2に記載の抗原結合ドメインを含む抗体。
【0241】
4.パラグラフ3に記載の抗体を含む、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)または二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)。
【0242】
5.パラグラフ1または2に記載の抗原結合ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)。
【0243】
6.FabCARである、パラグラフ5に記載のCAR。
【0244】
7.scFv CARである、パラグラフ5に記載のCAR。
【0245】
8.パラグラフ1または2に記載の抗原結合ドメイン、およびパラグラフ3に記載の抗体、パラグラフ4に記載のADCもしくはBiTE、またはパラグラフ5~7のいずれかに記載のCARをコードする核酸配列。
【0246】
9.パラグラフ5~7のいずれかに記載のCARをコードし、GC含量が少なくとも60%である、請求項8に記載の核酸配列。
【0247】
10.パラグラフ5~7のいずれかに記載のCARをコードし、GC含量が約64%である、請求項8に記載の核酸配列。
【0248】
11.伸長因子-1アルファ(EF1α)プロモーターを含む、請求項8~10のいずれかに記載の核酸配列。
【0249】
12.パラグラフ5~7のいずれかに記載のCARをコードする請求項8~11のいずれかに記載の第1の核酸配列および抗CD19 CARをコードする第2の核酸配列を含む、核酸構築物。
【0250】
13.抗CD19 CARの抗原結合ドメインが以下のを含む、請求項12に記載の核酸構築物:
a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化69】

および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
【化70】

【0251】
14.抗CD19 CARの抗原結合ドメインが、配列番号75に示したVHドメインおよび配列番号76に示したVLドメインを含む、請求項13に記載の核酸構築物。
【0252】
15.抗CD22 CARがFab形式である請求項12~14のいずれかに記載の核酸構築物であって、以下の一般構造を有する、核酸構築物:
VH-CH-spacer1-TM1-endo1-coexpr1-VL-CL-coexpr2-AgBD-spacer2-TM2-endo2;
VL-CL-spacer-TM1-endo1-coexpr1-VH-CH-coexpr2-AgBD-spacer2-TM2-endo2;
AgBD-spacer2-TM2-endo2-VH-CH-spacer1-TM1-endo1-coexpr2-VL-CL;
AgBD-spacer2-TM2-endo2-coexpr1-VL-CL-spacer-TM1-endo1-coexpr2-VH-CH
VL-CL-coexpr1-VH-CH-spacer1-TM1-endo1--coexpr2-AgBD-spacer2-TM2-endo2;
VH-CH-coexpr1-VL-CL-spacer-TM1-endo1-coexpr2-AgBD-spacer2-TM2-endo2;
AgBD-spacer2-TM2-endo2-VL-CL-coexpr2-VH-CH-spacer1-TM1-endo1;または
AgBD-spacer2-TM2-endo2-coexpr1-VH-CH-coexpr2-VL-CL-spacer-TM1-endo1
ここで、
VHは、第1のCARの重鎖可変領域をコードする核酸配列であり;
CHは、第1のCARの重鎖定常領域をコードする核酸配列であり;
spacer1は、第1のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM1は、第1のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
endo1は、第1のCARのエンドドメインをコードする核酸配列であり;
coexpr1およびcoexpr2は、同一でも異なっていてもよく、第1のCAR;および第2のCARの第1および第2のポリペプチドの共発現が可能な核酸配列であり;
VLは、第1のCARの軽鎖可変領域をコードする核酸配列であり;
CLは、第1のCARの軽鎖定常領域をコードする核酸配列であり;
AgBDは、第2のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
spacer2は、第2のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM2は、第2のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
endo2は、第2のCARのエンドドメインをコードする核酸配列である。
【0253】
16.抗CD22 CARがScFv形式である請求項12~14のいずれかに記載の核酸構築物であって、以下の一般構造を有する、核酸構築物:
AgBD1-spacer1-TM1-endo1-coexpr-AgBD2-spacer2-TM2-endo2;または
AgBD2-spacer2-TM2-endo2-coexpr-AgBD1-spacer1-TM1-endo1
ここで、
AgBD1は、第1のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
spacer1は、第1のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM1は、第1のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
endo1は、第1のCARのエンドドメインをコードする核酸配列であり、
coexprは、第1および第2のCARの共発現が可能な核酸配列であり;
AgBD2は、第2のCARの抗原結合ドメインをコードする核酸配列であり;
spacer2は、第2のCARのスペーサーをコードする核酸配列であり;
TM2は、第2のCARの膜貫通ドメインをコードする核酸配列であり;
endo2は、第2のCARのエンドドメインをコードする核酸配列である。
【0254】
17.パラグラフ8~11のいずれかに記載の核酸配列またはパラグラフ12~16のいずれかに記載の核酸構築物を含む、ベクター
【0255】
18.パラグラフ12~16のいずれかに定義の第1の核酸配列を含む第1のベクター;およびパラグラフ12~16のいずれかに定義の第2の核酸配列を含む第2のベクターを含む、ベクターのキット。
【0256】
19.レトロウイルスベクター(複数可)である、パラグラフ17または18に記載のベクターまたはベクターのキット。
【0257】
20.レンチウイルスベクター(複数可)である、パラグラフ17または18に記載のベクターまたはベクターのキット。
【0258】
21.パラグラフ5~7のいずれかに記載のCARを発現する細胞。
【0259】
22.パラグラフ5~7のいずれかに記載の第1のCARおよび抗CD19 CARである第2のCARを共発現する細胞。
【0260】
23.抗CD19 CARの抗原結合ドメインが以下を含む、請求項22に記載の細胞:
a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化71】

および
b)以下の配列を有するCDRを有する軽鎖可変領域(VL):
【化72】

【0261】
24.抗CD19 CARの抗原結合ドメインが、配列番号75に示したVHドメインおよび配列番号76に示したVLドメインを含む、パラグラフ23に記載の細胞。
【0262】
25.パラグラフ8~11のいずれかに記載のCARをコードする核酸配列;パラグラフ12~16のいずれかに記載の核酸構築物またはパラグラフ17~20のいずれかに記載のベクターもしくはベクターのキットを細胞にex vivoで導入するステップを含む、パラグラフ21~24のいずれかに記載の細胞を作製する方法。
【0263】
26.パラグラフ21~24のいずれかに記載の細胞の複数を、薬学的に許容され得る担体、希釈剤、または賦形剤と共に含む、医薬組成物。
【0264】
27.パラグラフ26に記載の医薬組成物を被験体に投与するステップを含む、がんを処置する方法。
【0265】
28.がんがB細胞白血病またはリンパ腫である、パラグラフ27に記載の方法。
【0266】
29.がんの処置で使用するためのパラグラフ21~24のいずれかに記載の細胞。
【0267】
30.がんを処置するための医薬組成物の製造におけるパラグラフ21~24のいずれかに記載の細胞の使用。
【0268】
例えば、キメラ抗原受容体、核酸配列および構築物、ベクター、細胞、医薬組成物、ならびに前節に記載の細胞を作製および使用する方法の一般的な特徴も、上記パラグラフ中に記載の対応する構成要素に適用する。
【0269】
本発明はまた、1G3-4と名付けられた新規のCD22結合抗体を提供する。1G3-4のVH、VL、およびCDRの配列は、上記の表1に示している。
【0270】
この抗体は、CARにおいて特に良好な有効性を示す。例えば、以下の実施例3に示すように、FabCAR形式の9A8-1は、代替のCD22バインダー3B4を有する等価なCARより標的細胞殺滅およびサイトカイン放出の改善が示された。
【0271】
本発明はまた、以下の番号をつけたパラグラフにまとめた態様を提供する。
【0272】
A1.以下を含む抗原結合ドメイン:
a)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化73】

および
b)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する軽鎖可変領域(VL):
【化74】

【0273】
A2.配列番号99として示した配列を有するVHドメイン;および配列番号100として示した配列を有するVLドメインを含む、パラグラフA1に記載の抗原結合ドメイン。
【0274】
A3.パラグラフA1またはA2に記載の抗原結合ドメインを含む抗体。
【0275】
A4.パラグラフA3に記載の抗体を含む、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)または二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)。
【0276】
A5.パラグラフA1またはA2に記載の抗原結合ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)。
【0277】
A6.FabCARである、パラグラフA5に記載のCAR。
【0278】
A7.パラグラフA1またはA2に記載の抗原結合ドメイン、およびパラグラフA3に記載の抗体、パラグラフA4に記載のADCもしくはBiTE、またはパラグラフA5もしくはA6に記載のCARをコードする核酸配列。
【0279】
A8.パラグラフA7に記載の核酸配列を含むベクター。
【0280】
A9.パラグラフA5またはA6に記載のCARを発現する細胞。
【0281】
A10.パラグラフA7に記載のCARをコードする核酸配列を細胞に導入するステップを含む、パラグラフA9に記載の細胞を作製する方法。
【0282】
A11.パラグラフA9に記載の細胞の複数を、薬学的に許容され得る担体、希釈剤、または賦形剤と共に含む、医薬組成物。
【0283】
A12.パラグラフA11に記載の医薬組成物を被験体に投与するステップを含む、がんを処置する方法。
【0284】
A13.がんがB細胞白血病またはリンパ腫である、パラグラフA12に記載の方法。
【0285】
A14.がんの処置で使用するためのパラグラフA9に記載の細胞。
【0286】
A15.がんを処置するための医薬組成物の製造におけるパラグラフA9に記載の細胞の使用。
【0287】
B1.以下を含む抗原結合ドメイン:
ai)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化75】

および
bi)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する軽鎖可変領域(VL):
【化76】

または
aii)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化77】

および
bii)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する軽鎖可変領域(VL):
【化78】

または
aiii)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域(VH):
【化79】

および
biii)以下の配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する軽鎖可変領域(VL):
【化80】

【0288】
B2.i)配列番号107として示した配列を有するVHドメイン;および配列番号108として示した配列を有するVLドメイン;またはii)配列番号109として示した配列を有するVHドメイン;および配列番号110として示した配列を有するVLドメイン;またはiii)配列番号111として示した配列を有するVHドメイン;および配列番号112として示した配列を有するVLドメインを含む、パラグラフ1に記載の抗原結合ドメイン。
【0289】
B3.パラグラフB1またはB2に記載の抗原結合ドメインを含む抗体。
【0290】
B4.パラグラフB3に記載の抗体を含む、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)または二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)。
【0291】
B5.パラグラフB1またはB2に記載の抗原結合ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)。
【0292】
B6.FabCARである、パラグラフB5に記載のCAR。
【0293】
B7.パラグラフB1またはB2に記載の抗原結合ドメイン、およびパラグラフB3に記載の抗体、パラグラフB4に記載のADCもしくはBiTE、またはパラグラフB5もしくはB6に記載のCARをコードする核酸配列。
【0294】
B8.パラグラフB7に記載の核酸配列を含むベクター。
【0295】
B9.パラグラフB5またはB6に記載のCARを発現する細胞。
【0296】
B10.パラグラフB7に記載のCARをコードする核酸配列を細胞に導入するステップを含む、パラグラフB9に記載の細胞を作製する方法。
【0297】
B11.パラグラフB9に記載の細胞の複数を、薬学的に許容され得る担体、希釈剤、または賦形剤と共に含む、医薬組成物。
【0298】
B12.パラグラフB11に記載の医薬組成物を被験体に投与するステップを含む、がんを処置する方法。
【0299】
B13.がんがB細胞白血病またはリンパ腫である、パラグラフB12に記載の方法。
【0300】
B14.がんの処置で使用するためのパラグラフB9に記載の細胞。
【0301】
B15.がんを処置するための医薬組成物の製造におけるパラグラフB9に記載の細胞の使用。
【0302】
例えば、キメラ抗原受容体、核酸配列および構築物、ベクター、細胞、医薬組成物、ならびに前節に記載の細胞を作製および使用する方法の一般的な特徴も、上記パラグラフ中に記載の対応する構成要素に適用する。
【0303】
本発明を、ここに、実施例によってさらに説明するが、実施例は本発明の実施において当業者を補助することを意図し、本発明の範囲を制限することを決して意図しない。
【実施例0304】
嵩高い細胞外ドメイン(CD22)を有する抗原を発現する標的細胞に対する同一の抗体に基づいて、FabCARの作用をscFv CARと比較するための一連の実験を行った。2つのタイプのCARを発現するCAR-T細胞を、細胞の傷害性および増殖に関して比較した。
実施例1-FACsに基づく殺滅(FBK)
【0305】
CARパネルを以下にまとめているように作製し、その細胞傷害能を、CD22発現標的細胞と比較した。
NT:非形質導入
10C1-D9 Fab:10C1mAbに基づいたFabCAR
【0306】
全てのCARは、CD3ζドメインおよび4-1BB共刺激ドメインを含む第2世代のエンドドメインを有していた。
【0307】
T細胞を、CD22発現SupT1標的細胞と1:1の比で共培養した。ウェルあたり5×10個の形質導入されたT細胞および等数の標的細胞を使用して、総体積が0.2mlの96ウェルプレート中でアッセイを行った。形質導入効率について正規化した後に共培養を設定した。インキュベーションから24時間後にFBKを行った。
【0308】
FBKの結果を図4に示す。試験した両方のCD22バインダー:10C1および1D9-3について、Fab抗原結合ドメインを有するCARは、標的細胞殺滅に関して、scFv抗原結合ドメインを有する等価なCARより優れていた。
実施例2-増殖アッセイ(PA)
【0309】
増殖を測定するために、実施例1に記載のCAR発現T細胞の同一のパネルを、色素Cell Trace Violet(CTV)(細胞内で加水分解されて保持される蛍光色素)で標識した。CTVは405nm(紫色)レーザーによって励起され、蛍光をパシフィックブルーチャネルで検出することができる。CTV色素を、DMSOで5mMに再構成した。T細胞を、PBS中で2×10細胞/mlに再懸濁し、1ul/mlのCTVを添加した。T細胞を、CTVと37℃で20分間インキュベートした。その後に、細胞を5Vの完全培地を添加してクエンチした。5分間のインキュベーション後、T細胞を洗浄し、2mlの完全培地に再懸濁した。室温でさらに10分間インキュベートすると酢酸加水分解が生じ、色素が保持された。
【0310】
標識したT細胞を、Raji標的細胞と4日間共培養した。ウェルあたり5×10個の形質導入されたT細胞および等数の標的細胞(比1:1)を使用して、総体積が0.2mlの96ウェルプレート中でアッセイを行った。その日の4つの時点で、T細胞をフローサイトメトリーによって分析して、T細胞が分裂するにつれて生じるCTVの希釈を測定した。共培養終了時のT細胞の存在数を計算し、T細胞の投入数と比較した増殖を倍数として表した。
【0311】
図5は、試験した両方のCD22バインダー:10C1および1D9-3について、Fab抗原結合ドメインを有するCARを発現するT細胞がscFv抗原結合ドメインを有する等価なCARよりも多く増殖したことを示す。両FabCAR構築物の曲線下面積は、等価なscFvCAR構築物と比較してX軸にそってさらにシフトした。
【0312】
実施例3-FabCAR形式の抗CD22抗体9A8-1の有効性の調査。
【0313】
CARパネルを以下にまとめているように作製し、その細胞傷害能を、CD22発現SupT1標的細胞と比較した。
NT:非形質導入
3B4:3B4mAbに基づいたFabCAR
9A8:9A8-1mAbに基づいたFabCAR
【0314】
全てのCARは、CD3ζドメインおよび4-1BB共刺激ドメインを含む第2世代のエンドドメインを有していた。
【0315】
最初に、CARを発現するT細胞が標的細胞を死滅させる能力を調査した。T細胞を、CD22発現SupT1標的細胞と1:4のE:T比で共培養した。FACSベースの殺滅アッセイを、下記のように72時間のインキュベーション後に行った。
【0316】
FBKの結果を図8に示す。9A8抗原結合ドメイン有するCARは、標的細胞殺滅に関して、3B4抗原結合ドメインを有する等価なCARより優れていた。
【0317】
次に、サイトカイン放出に関して2つのCARを比較した。CD22発現SupT1標的細胞と72時間共培養した後、IL-2発現を、下記のようにELISAによって調査した。結果を図9に示す。驚いたことに、IL-2放出レベルは、3B4抗原結合ドメインを有する等価なCARより9A8抗原結合ドメインを有するCARで高かった。
【0318】
実施例4-FabCAR形式の抗CD22抗体1g3-4の有効性の調査。
CARパネルを以下にまとめているように作製した:
NT:非形質導入
Fmc63:抗CD19 CAR(負の対照)
10C1:10C1mAbに基づいた抗CD22 FabCAR
3B4:3B4mAbに基づいた抗CD22 FabCAR
7G6:7G6mAbに基づいた抗CD22 FabCAR
9F8-2:9F8-2mAbに基づいた抗CD22 FabCAR
9A8-1:9A8-1mAbに基づいた抗CD22 FabCAR
1G3-4:1G3-4mAbに基づいた抗CD22 FabCAR
9F9-6:9F9-6mAbに基づいた抗CD22 FabCAR
【0319】
全てのCARは、CD3ζドメインおよび4-1BB共刺激ドメインを含む第2世代のエンドドメインを有していた。
【0320】
CARを発現するT細胞がSupT1標的細胞を死滅させる能力を調査した。SupT1細胞を、形質導入しないままにするか(図10、パネルA)、CD22を発現するように形質導入した。形質導入された標的細胞を、以下の3つの集団に分別した:CD22発現レベルがフローサイトメトリーによって検出不可能な集団(図10、パネルB);細胞あたり平均255コピーのCD22発現レベルが低い集団(図10、パネルC);および細胞あたり平均78,916コピーのCD22発現レベルが高い集団(図10、パネルD)。
【0321】
T細胞を、CD22発現SupT1標的細胞と1:4のE:T比で共培養した。FACSベースの殺滅アッセイを、下記のように72時間のインキュベーション後に行った。
【0322】
FBKの結果を図10に示す。全ての抗CD22 FabCARは、高レベルの標的抗原を発現する標的細胞を有効に死滅させた(図10D)。しかし、9A8抗原結合ドメインまたは1G3-4抗原結合ドメインを有するFab CARは、標的抗原発現が超低レベルですら標的細胞を死滅させた(パネルB)。
形質導入
【0323】
Gene Juice(EMD Millipore)を用いて293T細胞をRDFプラスミド(RD114エンベロープ)、gag/polプラスミド、およびCART細胞プラスミドで一過性にトランスフェクトすることによってレトロウイルスを生成し、ウイルス上清を48時間および72時間で回収した。T細胞を、TC処理したT175フラスコ中で0.5μg/mLの抗CD3抗体および抗CD28抗体を使用して刺激し、100U/mL IL-2中で保持した。TC未処理の6ウェルプレートを、製造者の指示(Takara Bio)に従ってRetronectinでコーティングし、4℃で24時間インキュベーション後、T細胞を形質導入した。3mlのウイルス上清をプレーティング後に1mlの活性化T細胞(濃度1×10細胞/ml)を添加し、次いで、100U/mLのIL-2を添加し、1000×gにて室温で40分間遠心分離し、37℃および5%COで2~3日間インキュベートした。
NK細胞およびNKT細胞の枯渇
【0324】
EasySep(商標)ヒトCD56ポジティブ選択キットを使用して、CD56枯渇(STEMCELL 18055)を行った。
細胞傷害性アッセイ
【0325】
細胞傷害性を測定するために、CART細胞を、TC処理96ウェルプレート中にてSupT1-NTおよびSupT1 CD22とエフェクター:標的比4:1(200,000:50,000細胞)と共培養した。72時間後にエフェクターT細胞と標的細胞を識別するための抗hCD34-APC(FAB7227A)、抗CD2-FITC、および抗CD3-PeCy7(300419)での染色によって読み取り、7-AAD細胞生存率色素(cell viability dye)(420403)を使用して死細胞を排除し、リン酸緩衝食塩水(10010023)をインキュベーションの間に使用して細胞を洗浄した。細胞傷害性を、MACSQuant(登録商標)Analyzer10フローサイトメーター(Miltenyi Biotec)を使用して読み取った。
サイトカイン放出
【0326】
CAR T細胞によるIL-2の産生を、4:1のE:T比での72時間後の共培養物から上清を回収し、-20℃での凍結後にELISAによって分析することによって測定した。ヒトIFN-γ ELISA MAX(商標)Deluxe Sets(BioLegend,430106)およびIL-2 ELISA MAX(商標)Deluxe
Sets(BioLegend,431806)を製造者のプロトコールにしたがって使用して、サイトカイン分析を行った。Varioskan LUX Multimodeマイクロプレートリーダー(Thermo Fisher)を使用して、ELISAシグナルを測定した。
【0327】
本出願は、2018年5月15日出願の英国特許出願第1807866.7号および2018年6月14日出願の英国特許出願第1809773.3号の利益を主張する。上記の両出願は、その全体が本明細書中で参考として援用される。
【0328】
上記明細書中に記載の全ての刊行物は、本明細書中で参考として援用される。本発明の記載の方法およびシステムの種々の修正および変形は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者に明らかである。本発明を特定の好ましい実施形態と併せて記載しているが、特許請求の範囲に記載の発明がかかる特定の実施形態に過度に制限されるべきではないと理解すべきである。実際、分子生物学または関連分野の当業者に明らかな本発明の実施のための記載の様式の種々の修正は、以下の特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12
【配列表】
2023080185000001.app
【外国語明細書】