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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080215
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】肝細胞癌のための免疫療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230601BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230601BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230601BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230601BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230601BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230601BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20230601BHJP
【FI】
A61K39/395 U
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P35/04
A61P1/16
A61K45/00
A61P43/00 121
C07K16/28 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064789
(22)【出願日】2023-04-12
(62)【分割の表示】P 2019566957の分割
【原出願日】2018-06-26
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2017/090397
(32)【優先日】2017-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】62/524,967
(32)【優先日】2017-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514164650
【氏名又は名称】ベイジーン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ライ
(72)【発明者】
【氏名】リ、カン
(72)【発明者】
【氏名】キ、キンチョウ
(72)【発明者】
【氏名】ホウ、ジーニー
(72)【発明者】
【氏名】ウー、チョン
(57)【要約】
【課題】進行性(advanced)HCCの新しい免疫療法、特に感染HCCに対する高い応答率を有する新しい免疫療法の提供。
【解決手段】肝細胞癌(HCC)を有する患者の免疫療法のための方法であって、マクロファージ上のFcγR結合を最小化して、抗体依存性食作用を抑制するように特異的に設計された、治療的に有効な量の抗PD-1抗体又はその抗原結合断片を、その患者に投与することを含む方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞癌(HCC)を有する患者の免疫療法のための方法であって、
マクロファージ上のFcγR結合を最小化して、抗体依存性食作用を抑制するように特異的に設計された、治療的に有効な量の抗PD-1抗体又はその抗原結合断片を、その患者に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記抗PD-1抗体が、以下に列記される相補性決定領域(CDR)を含む重鎖可変領域(Vh)及び軽鎖可変領域(Vk)を含む抗体である、請求項1に記載の方法:
a)mu317 CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3(それぞれ配列番号11、12、13)、並びに
CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3(それぞれ配列番号14、15、16);
b)mu326 CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3(それぞれ配列番号17、18、19)、並びに
CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3(それぞれ配列番号20、21、22);
c)317-4B6 CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3(それぞれ配列番号31、32、33)、並びに
CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3(それぞれ配列番号34、35、36);
d)326-4A3 CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3(それぞれ配列番号37、38、39)、並びに
CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3(それぞれ配列番号40、41、42);
e)317-1H CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3(それぞれ配列番号11、59、13)、並びに
CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3(それぞれ配列番号14、15、16);
f)317-4B2 CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3(それぞれ配列番号11、60、13)、並びに
CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3(それぞれ配列番号61、15、16);
g)317-4B5 CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3(それぞれ配列番号11、60、13)、並びに
CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3(それぞれ配列番号61、15、16);
h)317-4B6 CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3(それぞれ配列番号11、32、13)、並びに
CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3(それぞれ配列番号61、15、16);
i)326-1 CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3(それぞれ配列番号17、62、19)、並びに
CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3(それぞれ配列番号20、21、22);
j)326-3B1 CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3(それぞれ配列番号17、62、19)、並びに
CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3(それぞれ配列番号20、21、22);又は
k)326-3G1 CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3(それぞれ配列番号17、62、19)、並びに
CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3(それぞれ配列番号20、21、22)。
【請求項3】
前記抗PD-1抗体が、以下に列記されるCDRの任意の組合せを含む重鎖可変領域(Vh)及び軽鎖可変領域(Vk)を含む抗体である、請求項1に記載の方法:
(a)CDR-H1(配列番号31)、CDR-H2(配列番号12、32、59又は60)及びCDR-H3(配列番号33)、
CDR-L1(配列番号14、34又は61)、CDR-L2(配列番号35)及びCDR-L3(配列番号36)、又は
(b)CDR-H1(配列番号37)、CDR-H2(配列番号18、38又は62)及びCDR-H3(配列番号39)、
CDR-L1(配列番号40)、CDR-L2(配列番号41)及びCDR-L3(配列番号42)。
【請求項4】
前記抗PD-1抗体が、以下に列記される重鎖可変領域(Vh)及び軽鎖可変領域(Vk)を含む抗体である、請求項2又は3に記載の方法:
a)mu317(それぞれ配列番号4及び6)
b)mu326(それぞれ配列番号8及び10)
c)317-4B6(それぞれ配列番号24及び26)
d)326-4A3(それぞれ配列番号28及び30)
e)317-4B2(それぞれ配列番号43及び44)
f)317-4B5(それぞれ配列番号45及び46)
g)317-1(それぞれ配列番号48及び50)
h)326-3B1(それぞれ配列番号51及び52)
i)326-3G1(それぞれ配列番号53及び54)
j)326-1(それぞれ配列番号56及び58)
k)317-3A1(それぞれ配列番号64及び26)
1)317-3C1(それぞれ配列番号65及び26)
m)317-3E1(それぞれ配列番号66及び26)
n)317-3F1(それぞれ配列番号67及び26)
o)317-3G1(それぞれ配列番号68及び26)
p)317-3H1(それぞれ配列番号69及び26)
q)317-311(それぞれ配列番号70及び26)
r)317-4B1(それぞれ配列番号71及び26)
s)317-4B3(それぞれ配列番号72及び26)
t)317-4B4(それぞれ配列番号73及び26)
u)317-4A2(それぞれ配列番号74及び26)
v)326-3A1(それぞれ配列番号75及び30)
w)326-3C1(それぞれ配列番号76及び30)
x)326-3D1(それぞれ配列番号77及び30)
y)326-3E1(それぞれ配列番号78及び30)
z)326-3F1(それぞれ配列番号79及び30)
aa)326-3B N55D(それぞれ配列番号80及び30)
ab)326-4A1(それぞれ配列番号28及び81)、又は
ac)326-4A2(それぞれ配列番号28及び82)。
【請求項5】
前記抗PD-1抗体が、配列番号83~88又は91~106のいずれかを含むIgG4重鎖エフェクター又は定常ドメインを含む抗体である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記抗PD-1抗体が、請求項2~5のいずれかに記載のドメインを含むF(ab)又はF(ab)を含む抗体である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項7】
前記抗PD-1抗体が、重鎖可変領域(Vh)、軽鎖可変領域(Vk)、及び配列番号87又は88を含むIgG4重鎖エフェクター又は定常ドメインを含み、重鎖可変領域(Vh)及び軽鎖可変領域(Vk)が以下を含む抗体である、請求項1に記載の方法。
a)mu317(それぞれ配列番号4及び6)
b)mu326(それぞれ配列番号8及び10)
c)317-4B6(それぞれ配列番号24及び26)
d)326-4A3(それぞれ配列番号28及び30)
e)317-4B2(それぞれ配列番号43及び44)
f)317-4B5(それぞれ配列番号45及び46)
g)317-1(それぞれ配列番号48及び50)
h)326-3B1(それぞれ配列番号51及び52)
i)326-3G1(それぞれ配列番号53及び54)
j)326-1(それぞれ配列番号56及び58)
k)317-3A1(それぞれ配列番号64及び26)
1)317-3C1(それぞれ配列番号65及び26)
m)317-3E1(それぞれ配列番号66及び26)
n)317-3F1(それぞれ配列番号67及び26)
o)317-3G1(それぞれ配列番号68及び26)
p)317-3H1(それぞれ配列番号69及び26)
q)317-311(それぞれ配列番号70及び26)
r)317-4B1(それぞれ配列番号71及び26)
s)317-4B3(それぞれ配列番号72及び26)
t)317-4B4(それぞれ配列番号73及び26)
u)317-4A2(それぞれ配列番号74及び26)
v)326-3A1(それぞれ配列番号75及び30)
w)326-3C1(それぞれ配列番号76及び30)
x)326-3D1(それぞれ配列番号77及び30)
y)326-3E1(それぞれ配列番号78及び30)
z)326-3F1(それぞれ配列番号79及び30)
aa)326-3B N55D(それぞれ配列番号80及び30)
ab)326-4A1(それぞれ配列番号28及び81)、又は
ac)326-4A2(それぞれ配列番号28及び82)。
【請求項8】
前記抗PD-1抗体が、重鎖可変領域(Vh)、軽鎖可変領域(Vk)、及び配列番号88を含むIgG4重鎖エフェクター又は定常ドメインを含み、重鎖可変領域(Vh)及び軽鎖可変領域(Vk)がそれぞれ配列番号24及び配列番号26を含む抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
HCCが進行性HCC及び/又は転移性HCCである、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
HCCがウィルス感染に関連するHCCである、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
HCCが、HBV感染HCC、HCV感染HCC、又はHBV/HCV共感染HCCである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
HCCが、進行性HBV感染HCC、転移性HBV感染HCC、HCV感染HCC、又は転移性HCV感染HCCである、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
HCCが、進行性HBV感染HCC、又は転移性HBV感染HCCである、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
HCCが、以前にPD-1又はPD-L1で治療されていない、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記抗PD-1抗体が、週1回、2週間に1回、3週間に1回又は4週間に1回、0.5~10mg/kgの用量で非経口的に投与される、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記抗PD-1抗体が、週1回、2週間に1回又は3週間に1回、0.5~10mg/kgの用量で投与される、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記抗PD-1抗体が、2週間に1回又は3週間に1回、0.5~10mg/kgの用量で投与される、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記抗PD-1抗体が、2週間に1回、0.5~5mg/kgの用量で、2週間に1回、5~10mg/kgの用量で、又は3週間に1回、2~5mg/kgの用量で、非経口的に投与される、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記抗PD-1抗体が、2週間に1回、0.5mg/kgの用量で、2週間に1回、5mg/kgの用量で、2週間に1回、10mg/kgの用量で、3週間に1回、2mg/kgの用量で、又は3週間に1回、5mg/kgの用量で、非経口的に投与される、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記抗PD-1抗体が約200mgの用量で非経口的に投与される、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記抗PD-1抗体が3週間に1回、投与される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
HCCを有する患者が、200IU/mL(約1000cps/mL)未満のHBVウィルス量を有する、請求項1の方法。
【請求項23】
HCCを有する患者が、活動性HBVに感染しており、治療中の3ヶ月以上の間、及び治療後6ヶ月間、抗HBV抑制が必要である、請求項1の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、米国仮出願62/524967及び国際特許出願PCT/CN2017/090397の優先権の利益を主張し、これらの出願は参照によりあらゆる目的でこれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
[発明の分野]
本明細書には、肝細胞癌(HCC)を有する患者の免疫療法のための方法であって、マクロファージ上のFcγR結合を最小化して、抗体依存性食作用を抑制するように特異的に設計された抗PD-1抗体を、その患者に投与することを含む方法が、記載される。
【背景技術】
【0003】
肝細胞癌(HCC)は、世界で最も一般的な癌の1つであり、その悪性のために、癌に関連する死亡率が世界で3番目に高い原因である。HCCは、慢性肝炎を有する患者で、慢性B型若しくはC型肝炎ウィルスの感染、又はアフラトキシン摂取後の炎症、又は過度のアルコール摂取のいずれかによって発症する。
【0004】
ほとんどのHCC患者は、最初に、進行した段階の疾患と診断されるか、又は肝機能が不十分であり、そこで潜在的に治療可能な治療法を用いることが妨げられる。進行した段階の疾患を有する患者に対する治療法の選択肢は、化学的塞栓療法又はソラフェニブを含む全身療法のいずれかに限定される。ソラフェニブは、適度の有効性及び少なからぬ毒性を有する唯一の承認された第1選択の治療である[Samonakis DN, Kouroumalis EA. Systemic treatment for hepatocellular carcinoma: Still unmet expectations. World J Hepatol. 2017; 9(2): 80-90.]。これらのアプローチは臨床結果を改善したが、HCC患者の生存期間は、進行した段階の疾患を有する患者では1年未満であり、患者は潜在的に治療可能な外科治療及び切除の後でも疾患再発の高リスクを留めている。毒性化学療法(toxic chemotherapy)は肝機能障害のためにこれらの患者が良好な忍容性を有しないことが多いため、進行したHCCのための新しい免疫療法が期待される。免疫チェックポイント抑制性受容体、プログラムされた細胞死-1(PD-1)に対するモノクローナル抗体が、HCC[El-Khoueiry AB, Sangro B, Yau T, et al. Nivolumab in patients with advanced hepatocellular carcinoma (CheckMate 040): an open-label, non-comparative, phase 1/2 dose escalation and expansion trial. Lancet. 2017; 389(10088): 2492-2502.]を含む複数の悪性腫瘍に対して抗腫瘍活性を有することが実証された[Topalian SL, Hodi FS, Brahmer JR, et al. Safety, activity, and immune correlates of anti-PD-1 antibody in cancer. N Engl J Med. 2012; 366(26): 2443-2454.]。しかし、ニボルマブについて報告されたように、HBVに感染した群の応答率は比較的低い(7%)[M. Kudo, Immune Checkpoint Blockade in Hepatocellular Carcinoma: 2017 Update, Liver Cancer 2017; 6: 1-12.]。これまでのところ、HBV感染HCCは予後不良と関連する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Samonakis DN, Kouroumalis EA. Systemic treatment for hepatocellular carcinoma: Still unmet expectations. World J Hepatol. 2017; 9(2): 80-90.
【非特許文献2】Topalian SL, Hodi FS, Brahmer JR, et al. Safety, activity, and immune correlates of anti-PD-1 antibody in cancer. N Engl J Med. 2012; 366(26): 2443-2454.
【非特許文献3】El-Khoueiry AB, Sangro B, Yau T, et al. Nivolumab in patients with advanced hepatocellular carcinoma (CheckMate 040): an open-label, non-comparative, phase 1/2 dose escalation and expansion trial. Lancet. 2017; 389(10088): 2492-2502.
【非特許文献4】M. Kudo, Immune Checkpoint Blockade in Hepatocellular Carcinoma: 2017 Update, Liver Cancer 2017; 6: 1-12.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、進行性(advanced)HCCの新しい免疫療法、特に感染HCCに対する高い応答率を有する新しい免疫療法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
肝細胞癌(HCC)を有する患者の免疫療法のための方法であって、治療的に有効な量の抗PD-1抗体又はその抗原結合断片を、その患者に投与することを含む方法が、本明細書に記載される。いくつかの態様において、抗PD-1抗体又はその抗原結合断片は、マクロファージ上のFcγR結合を最小化して、抗体依存性食作用を抑制するように特異的に設計された。
【0008】
1つの態様において、HCCは、進行性HCC及び/又は転移性HCCである。他の態様において、進行性HCCは、HBV感染HCC、又はHCV感染HCC、又はHBV/HCV共感染HCCである。好ましくは、進行性HCCは、進行性HBV感染HCC、転移性HBV感染HCC、HCV感染HCC、又は転移性HCV感染HCCである。
【0009】
いくつかの態様において、抗PD-1抗体は、WO2015/035606又はUS8735553に開示されているものである。また、WO2015/035606及びUS8735553のすべての内容は参照により本明細書に組み込まれる。WO2015/035606及びUS8735553に開示されている抗体は、プログラム死-1(PD-1)に特異的に結合し、免疫細胞におけるPD-1を介した細胞シグナル伝達及び活性を阻害する。いくつかの態様において、抗体は、そのリガンド(プログラム死-リガンド1,PD-L1)の結合のために必要とされるアミノ酸残基のセットに結合する。特に、抗PD-1抗体は、重鎖可変領域(Vh)及び軽鎖可変領域(Vk)(それぞれ配列番号24及び26を含む)、並びにIgG4重鎖エフェクター又は定常ドメイン(配列番号88を含む)を含むヒト化モノクローナル抗体(以下、PD-1に特異的に結合する「Mab-1」と言う)である。いくつかの態様において、抗体は、K45及びI93、又はI93、L95及びP97を含むPD-1残基に結合し、免疫細胞におけるPD-1を介した細胞シグナル伝達及び活性を阻害し、そのリガンドの結合に必要なアミノ酸残基のセットに結合する。
【発明の効果】
【0010】
本明細書に開示された免疫療法のための方法は、HCC、更には進行性HCC、特に感染性進行性HCCを、予防し、進行を遅延させ、軽減し、従って治療することが証明された。本明細書に開示された抗PD-1抗体の毒性プロファイルによって、有害な副作用(AE)は、一般に重篤度が低く、管理可能であり、可逆であることが示される。従って、本発明は、他のPD-1抗体と比較してHCCに優れた効果を有するPD-1抗体を提供する。
【0011】
本出願の発明者は、Mab-1による治療が、前治療を受けた進行性HCCを有する患者で一般に良好な忍容性を有することを発見した。予備的な安全性プロファイル及び抗腫瘍活性が、進行性HCCを有する患者、特にHBV感染HCC、HCV感染HCC及びHBV/HCV共感染HCCを含む感染性HCCを有する患者における継続的なMab-1の開発を支持している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本出願で用いられた抗PD-1抗体のT細胞クリアランスの可能なメカニズムを示す。すなわち、FcγR結合の欠如又は減少によって、マクロファージを介するT細胞クリアランスが阻害される。
図2】フェーズ1A/1B試験の試験デザインの概略図を示す。
図3】フェーズ1A/1B試験における、肝炎ウィルスの感染状態による腫瘍サイズの最適な変化を示す。
図4】フェーズ1A/1B試験における治療の期間と応答を示す。
図5】ベースラインと、フェーズ1A/1B試験における部分奏功を有する3人の患者の直近のCT評価を示す。
図6】フェーズ1A/1B試験における時間の経過に伴う腫瘍量の変化を示す。
図7】フェーズ1A/1B試験におけるα-フェトプロテイン(AFP)のベースラインからの変化を示す。
図8】フェーズ3試験の試験デザインを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
略語
本明細書に記載される詳細な説明及び実施例を通して、以下の表1の略語が使用される。
【0014】
表1.略号
AE 有害な副作用
BID 1日2回
CDR 相補性決定領域
DPBS ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水
IgG 免疫グロブリンG
i.p. 腹腔内
i.v. 静脈内
IFN-γ インターフェロン-γ
mAb モノクローナル抗体
MTD 最大耐量
NK ナチュラルキラー
PD-1 プログラム死-1タンパク質、Pdcd-1、又はCD279
PDX 患者由来異種移植片
p.o. 経口
QW 週1回
Q2W 2週間に1回
Q3W 3週間に1回
Q4W 4週間に1回
TIL 腫瘍浸潤リンパ球
Vh 重鎖可変領域
Vk 軽鎖可変領域
【0015】
定義
本明細書の他の箇所で特に定義されていない限り、本明細書で使用される他のすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。
【0016】
添付の特許請求の範囲を含む本明細書で使用される「a」、「an」及び「the」等の単数形の単語は、文脈が明らかに異なって示さない限り、それらの対応する複数の言及を含む。
【0017】
本明細書における用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、それらがPD-1を認識する限り、(全長モノクローナル抗体を含む)抗体及び抗体断片を具体的に包含する。抗体分子は、通常、単一特異的であるが、特定の抗原に特異的、異種特異的、又は多特異的としても記載され得る。抗体分子は、特異的結合部位によって特異的抗原決定基又は抗原上のエピトープに結合する。「抗体断片」又は「抗原結合断片」は、全長抗体の一部、一般にその抗原結合領域又はその可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv断片;ダイアボディ;線形抗体;一本鎖抗体分子;抗体断片から形成される多特異性抗体が含まれる。
【0018】
本明細書における用語「モノクローナル抗体」、「mAb」又は「Mab」は、実質的に均質な抗体の集団を意味する。すなわち、集団に含まれる抗体分子は、少量で存在し得る天然の突然変異を除いてアミノ酸配列において同一である。対照的に、通常の(ポリクローナル)抗体調製物は、典型的には、可変ドメイン、特にCDRに異なるアミノ酸配列を有する多数の異なる抗体を含み、それらはしばしば異なるエピトープに特異的である。修飾句「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体の性質を示し、特定の方法によって抗体を生産することを必要とすると解釈されるべきではない。モノクローナル抗体(mAb)は、当業者に知られる方法によって得ることができる。参照、例えば、Kohler et al.(1975);US4376110;Ausubel et al.(1987~1999);Harlow et al.(1988);及び、Colligan et al.(1993)。本明細書に開示されるmAbは、IgG、IgM、IgD、IgE、IgA、及びそれらの任意のサブクラスを含む任意の免疫グロブリンクラスのものであり得る。mAbを生産するハイブリドーマは、インビトロ又はインビボで培養することができる。個々のハイブリドーマ由来の細胞を、マウス、例えばプリスチン(pristine)で抗原刺激されたBalb/cマウスに腹腔内注射し、高濃度の所望のmAbを含有する腹水を生産するインビボ生産で、高力価のmAbをで得ることができる。アイソタイプIgM又はIgGのmAbを、当業者に周知のカラムクロマトグラフィー法を使用して、腹水、又は培養上清から精製することができる。
【0019】
一般に、基本抗体構造単位は四量体を含む。各四量体は、2つの同一の対のポリペプチド鎖を含み、各々の対は1つの「軽鎖」(約25kDa)及び1つの「重鎖」(約50~70kDa)を有する。各々の鎖のアミノ末端部分には、主に抗原認識に関与する約100~110又はそれ以上のアミノ酸の可変領域が含まれる。重鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能に関与する定常領域を規定し得る。典型的には、ヒト軽鎖はκ及びλ軽鎖として分類される。更に、ヒト重鎖は典型的にはα、δ、ε、γ又はμとして分類され、それぞれIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMとして抗体のアイソタイプが定義される。軽鎖及び重鎖内で、可変領域及び定常領域は、約12以上のアミノ酸の「J」領域で結合され、重鎖はまた約10以上のアミノ酸の「D」領域も含む。
【0020】
各々の軽鎖/重鎖(Vk/Vh)対の可変領域は、抗体結合部位を形成する。従って、一般に、未変化の抗体は2つの結合部位を有する。二官能性又は二重特異性抗体を除いて、2つの結合部位は一般に同じである。
【0021】
典型的には、重鎖及び軽鎖の両方の可変ドメインは、「相補性決定領域(CDR)」とも呼ばれる3つの超可変領域を含み、これらは比較的保存されたフレームワーク領域(FR)内に位置する。CDRは、通常、フレームワーク領域によって整列され、特定のエピトープへの結合を可能にする。一般に、N末端からC末端へ、軽鎖及び重鎖の両方の可変ドメインは、FR-1、CDR-1、FR-2、CDR-2、FR-3、CDR-3及びFR-4を含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、一般に、Kabat et al.,「免疫学的に重要なタンパク質の配列」,第5版,NIH Publ. No.91-3242(1991),国立衛生研究所,メリーランド州ベセスダ;Kabat,(1978)Adv.Prot.Chem.32:1-75;Kabat, et al.,(1977)J.Biol.Chem.252:6609-6616;Chothia, et al.,(1987)J.Mol.Biol.196:901-917,又はChothia, et al. (1989)Nature,342:878-883の定義に従う。
【0022】
用語「超可変領域」は、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を意味する。超可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」(すなわち、軽鎖可変ドメイン中のCDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3、並びに重鎖可変ドメイン中のCDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3)由来のアミノ酸残基を含む。参照、Kabat et al.,(1991)「免疫学的に重要なタンパク質の配列」,第5版,国立衛生研究所,公衆衛生局,メリーランド州ベセスダ(配列によって抗体のCDR領域を定義する)。参照、Chothia及びLesk (1987)J.Mol.Biol.196:901-917(構造によって抗体のCDR領域を定義する)。用語「フレームワーク」又は「FR」残基は、本明細書においてCDR残基として定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン残基を意味する。
【0023】
異なって示さない限り、「抗体断片」又は「抗原結合断片」は、抗体の抗原結合断片、すなわち全長抗体によって結合された抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体断片、例えば、1つ以上のCDR領域を保持する断片を意味する。抗体結合断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv断片;ダイアボディ;線形抗体;一本鎖抗体分子、例えばsc-Fv;ナノボディ、及び抗体断片から形成される多特異性抗体が含まれるが、これらに限定されない。
【0024】
特定の標的タンパク質に「特異的に結合する」抗体は、他のタンパク質と比較してその標的に優先的に結合する抗体であるが、この特異性は絶対的な結合特異性を必要としない。その結合が試料中の標的タンパク質の存在を決定する場合、すなわち、誤検知などの望ましくない結果が生じることがない場合、抗体はその意図された標的に対して「特異的」であると見なされる。本発明において有用な抗体又はその結合断片は、非標的タンパク質との親和性と比較して、少なくとも2倍、好ましくは少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも20倍、最も好ましくは少なくとも100倍高い親和性で標的タンパク質に結合するであろう。本明細書中の抗体は、所与のアミノ酸配列を含むポリペプチド、例えば、成熟ヒトPD-1分子のアミノ酸配列に結合するが、その配列を欠くタンパク質には結合しない場合、その配列を含むポリペプチドに特異的に結合すると言われる。
【0025】
本明細書における用語「ヒト抗体」は、ヒトの免疫グロブリンタンパク質配列のみを含む抗体を意味する。ヒト抗体は、マウス中で、マウス細胞中で、又はマウス細胞に由来するハイブリドーマ中で生産される場合、マウスの炭水化物鎖を含み得る。同様に、「マウス抗体」又は「ラット抗体」は、それぞれマウス又はラットの免疫グロブリン配列のみを含む抗体を意味する。
【0026】
用語「ヒト化抗体」は、非ヒト(例えば、マウス)抗体及びヒト抗体に由来する配列を含む抗体の形態を意味する。そのような抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含む。一般に、ヒト化抗体は、超可変ループの全部又は実質的に全部が非ヒト免疫グロブリンのものである可変ドメインの少なくとも1つの、典型的には2つの実質的に全部を含み、FR領域の全部又は実質的に全部がヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた、必要に応じて、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのFcの少なくとも一部を含む。ヒト化抗体を親のげっ歯類抗体と区別するのに必要な場合、接頭語「hum」、「hu」又は「h」が抗体クローンの指定に加えられる。ヒト化型のげっ歯類抗体は一般に、親のげっ歯類抗体の同じCDR配列を含むが、親和性を高めるため、ヒト化抗体の安定性を高めるため、又は他の理由のために特定のアミノ酸置換が含まれてもよい。
【0027】
用語「肝細胞癌」(HCC)は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、肝細胞で発生する癌を意味する。一般的に、肝臓癌は肝細胞癌を示す。HCCは、過剰なアルコール摂取(アルコール性脂肪性肝炎)又はアフラトキシン摂取後の炎症(非アルコール性脂肪性肝炎、時にNASHと呼ばれる)から生じることがある。HCCは、B型肝炎ウィルス(時にHBV感染HCCと呼ばれる)、C型肝炎ウィルス(時にHCV感染HCCと呼ばれる)、及びHBVとHCVの共感染(時にHBV/HCV共感染HCCと呼ばれる)等の感染が原因となることがある。いくつかの態様において、HCCは、慢性B型肝炎、慢性C型肝炎、アフラトキシン、アルコール依存症、肝硬変、非アルコール性脂肪性肝炎、ヘモクロマトーシス、α1-アンチトリプシン欠乏Wison病(α1-antitrypsin deficiency Wilson's disease)、2型糖尿病、血友病等から発生する。いくつかの態様において、HCCは、初期段階のHCC、非転移性HCC、原発性(primary)HCC、進行性HCC、局所的進行性HCC、転移性HCC、寛解期のHCC、又は再発性HCCである。
【0028】
用語「治療」又は「治療する」は、有益な又は望ましい臨床結果を得るためのアプローチである。用語「治療」又は「治療する」には、疾患に起因する1つ以上の症状の軽減、疾患の範囲の減少、疾患の安定化(例えば、疾患の悪化の予防若しくは遅延)、疾患の拡散(例えば、転移)の予防若しくは遅延、疾患の再発の予防若しくは遅延、疾患の進行の遅延若しくは鈍化、疾患の状態の改善、疾患の寛解(部分的又は合計)の提供、疾患の治療に必要な1つ以上のその他の薬品の投与量の減少、疾患の進行の遅延、生活の質の向上、及び/又は生存の延長の1つ以上が含まれるが、これらに限定されない。従って、HCCの病理学的な結果の低減も、用語「治療」に含まれる。本明細書に開示される方法は、治療のこれらの側面のいずれか1つ以上を含んでいる。
【0029】
用語「患者」は、本明細書において用語「対象」等と交換可能に用いられる。特定の態様において、患者はヒト患者である。特定の態様において、患者は、HCCを有すると診断され、HCCの治療が必要であり、及び/又はHCCのリスクがあるヒト患者である。
【0030】
用語「CDR」は、特記しない限り、Kabat番号付けシステムを用いて定義された、免疫グロブリン可変領域中の相補性決定領域を意味する。
【0031】
抗PD-1抗体
本明細書に記載の通り、抗PD-1抗体は、ヒトPD-1に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片である。
【0032】
本明細書に開示の通り、抗PD-1抗体は、表2に提供される相補性決定領域(CDR)を含む重鎖可変領域(Vh)及び軽鎖可変領域(Vk)を含む抗体である。
【0033】
【0034】
本明細書に記載の通り、抗PD-1抗体は、いくつかの態様において、表3に提供される相補性決定領域(CDR)の任意の組合せを含む重鎖可変領域(Vh)及び軽鎖可変領域(Vk)を含む抗体である。
【0035】
【0036】
本明細書に記載の通り、抗PD-1抗体は、表4に提供される重鎖可変領域(Vh)及び軽鎖可変領域(Vk)から選択される配列を含む重鎖可変領域(Vh)及び軽鎖可変領域(Vk)を含む抗体である。
【0037】
表4.本明細書で提供される例示的な抗体のVh及びVk
a)mu317(それぞれ配列番号4及び6)
b)mu326(それぞれ配列番号8及び10)
c)317-4B6(それぞれ配列番号24及び26)
d)326-4A3(それぞれ配列番号28及び30)
e)317-4B2(それぞれ配列番号43及び44)
f)317-4B5(それぞれ配列番号45及び46)
g)317-1(それぞれ配列番号48及び50)
h)326-3B1(それぞれ配列番号51及び52)
i)326-3G1(それぞれ配列番号53及び54)
j)326-1(それぞれ配列番号56及び58)
k)317-3A1(それぞれ配列番号64及び26)
1)317-3C1(それぞれ配列番号65及び26)
m)317-3E1(それぞれ配列番号66及び26)
n)317-3F1(それぞれ配列番号67及び26)
o)317-3G1(それぞれ配列番号68及び26)
p)317-3H1(それぞれ配列番号69及び26)
q)317-311(それぞれ配列番号70及び26)
r)317-4B1(それぞれ配列番号71及び26)
s)317-4B3(それぞれ配列番号72及び26)
t)317-4B4(それぞれ配列番号73及び26)
u)317-4A2(それぞれ配列番号74及び26)
v)326-3A1(それぞれ配列番号75及び30)
w)326-3C1(それぞれ配列番号76及び30)
x)326-3D1(それぞれ配列番号77及び30)
y)326-3E1(それぞれ配列番号78及び30)
z)326-3F1(それぞれ配列番号79及び30)
aa)326-3B N55D(それぞれ配列番号80及び30)
ab)326-4A1(それぞれ配列番号28及び81)、又は
ac)326-4A2(それぞれ配列番号28及び82)。
【0038】
いくつかの態様において、本明細書で提供される抗PD-1抗体は、FcγRへの結合を低下させるアミノ酸変異を含む重鎖エフェクター又は定常ドメインを含む。抗体は、高められた安定性を提供するエフェクター又は定常ドメインにおける1つ以上の変異を更に含んでもよい。いくつかの態様において、抗体はIgG4のFc領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、FcγRへの結合を低下させる1つ以上のアミノ酸変異を含むIgG4のFc領域を含む。例えば、いくつかの態様において、抗体は、FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIA及び/又はFcγRIIIBへの結合を減少させ又は排除する変異を含むIgG4のFc領域を含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、抗体は、228位(EUナンバリングシステム)にセリンのプロリンへの変異を持つIgG4のFc領域を含む。いくつかの態様において、この変異はS228P変異と呼ばれる。いくつかの態様において、抗体は、233位、234位、235位、265位、309位及び409位(EUナンバリングシステム)の1つ以上で変異を有するIgG4のFc領域を含む。例えば、いくつかの態様において、抗体は、228位の変異と、1つ以上のFcγRへの結合の低下を結果として生じる少なくとも1つの他の変異とを有するIgG4領域を含む。更なる態様において、抗体は、228位の変異と、1つ以上のFcγRへの結合の低下を結果として生じる、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、又は少なくとも6つの他の変異とを有するIgG4領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、234位及び235位に変異を有するIgG4領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、233位、235位及び235位に変異を有するIgG4領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、234位、235位及び265位に変異を有するIgG4領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、233位、234位、235位及び265位に変異を有するIgG4領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、234位、235位、265位及び409位に変異を有するIgG4領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、233位、234位、235位、265位及び409位に変異を有するIgG4領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、234位、235位、265位、309位及び409位に変異を有するIgG4領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、233位、234位、235位、265位、309位及び409位に変異を有するIgG4領域を含む。234位の変異は、フェニルアラニンからバリンへの置換、又はフェニルアラニンからアラニンへの置換であってもよい。235位の変異は、ロイシンからアラニンへの置換であってもよい。233位の変異は、グルタミン酸からプロリンへの置換であってもよい。265位の突然変異は、アスパラギン酸からバリンへの置換、又はアスパラギン酸からスレオニンへの置換であってもよい。309位の変異は、ロイシンからバリンへの置換であってもよい。409位の変異は、アルギニンからリジン、スレオニン又はメチオニンへの置換であってもよい。例示的なIgG4のFc領域が、以下の表5に提供される。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
本明細書に記載の通り、抗PD-1抗体は、配列番号83~88のいずれかを含むIgG4重鎖エフェクター又は定常ドメインを含む抗体である。
上記の各側面に記載の通り、抗PD-1抗体は、上記のドメインを含み、重鎖可変領域(Vh)、軽鎖可変領域(Vk)及びIgG4重鎖エフェクター又は定常ドメインを含むF(ab)又はF(ab)を含む抗体である。
【0046】
本明細書に記載の通り、抗PD-1抗体は、重鎖可変領域(Vh)、軽鎖可変領域(Vk)、並びに配列番号83~88及び91~106から選択される配列を含むIgG4重鎖エフェクター又は定常ドメインを含み、重鎖変数領域(Vh)及び軽鎖変数領域(Vk)が表6に提供された配列から選択される配列を含む抗体である。
【0047】
表6.例示的なVh及びVkの配列
a)mu317(それぞれ配列番号4及び6)
b)mu326(それぞれ配列番号8及び10)
c)317-4B6(それぞれ配列番号24及び26)
d)326-4A3(それぞれ配列番号28及び30)
e)317-4B2(それぞれ配列番号43及び44)
f)317-4B5(それぞれ配列番号45及び46)
g)317-1(それぞれ配列番号48及び50)
h)326-3B1(それぞれ配列番号51及び52)
i)326-3G1(それぞれ配列番号53及び54)
j)326-1(それぞれ配列番号56及び58)
k)317-3A1(それぞれ配列番号64及び26)
1)317-3C1(それぞれ配列番号65及び26)
m)317-3E1(それぞれ配列番号66及び26)
n)317-3F1(それぞれ配列番号67及び26)
o)317-3G1(それぞれ配列番号68及び26)
p)317-3H1(それぞれ配列番号69及び26)
q)317-311(それぞれ配列番号70及び26)
r)317-4B1(それぞれ配列番号71及び26)
s)317-4B3(それぞれ配列番号72及び26)
t)317-4B4(それぞれ配列番号73及び26)
u)317-4A2(それぞれ配列番号74及び26)
v)326-3A1(それぞれ配列番号75及び30)
w)326-3C1(それぞれ配列番号76及び30)
x)326-3D1(それぞれ配列番号77及び30)
y)326-3E1(それぞれ配列番号78及び30)
z)326-3F1(それぞれ配列番号79及び30)
aa)326-3B N55D(それぞれ配列番号80及び30)
ab)326-4A1(それぞれ配列番号28及び81)、又は
ac)326-4A2(それぞれ配列番号28及び82)。
【0048】
本明細書に記載の通り、いくつかの態様において、抗PD-1抗体は、それぞれ配列番号11、32及び13の重鎖CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3と、それぞれ配列番号61、15及び16の軽鎖CDR L1、CDR L2及びCDR L3と、配列番号88を含むIgG4重鎖エフェクター又は定常ドメインを含む抗体である。
【0049】
本明細書に記載の通り、いくつかの態様において、抗PD-1抗体は、重鎖可変領域(Vh)、軽鎖可変領域(Vk)、及び配列番号88を含むIgG4重鎖エフェクター又は定常ドメインを含み、重鎖可変領域(Vh)及び軽鎖可変領域(Vk)がそれぞれ配列番号24及び配列番号26を含む抗体である。
【0050】
本明細書に記載の通り、いくつかの態様において、抗PD-1抗体は、マクロファージ上のFcγR結合を最小化して、抗体依存性食作用、T細胞クリアランスの可能なメカニズムを抑制するように特異的に設計され、PD-1に対する高い親和性と結合特異性を有する特異的に設計されたヒト化IgG4モノクローナル抗体である。
【0051】
本明細書に記載される抗PD-1抗体及びその抗体断片は、WO2015/035606又はUS8735553の開示に従って調製され得る。また、その全体の開示が参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【0052】
治療方法
本明細書に記載される治療方法において、特定の用量の抗PD-1抗体は、HCCを有する患者に静脈内投与された。いくつかの態様において、HCCを有する患者は、以前にPD-1又はPD-L1の標的療法で治療されていなかった。いくつかの態様において、HCCを有する患者は、以前に別の治療薬(例えば、ソラフェニブ)で治療されていた。
【0053】
いくつかの態様において、本発明によって、それを必要とする対象におけるHCCを治療する方法であって、マクロファージ若しくはその他の抗原提示細胞の上のFcγR結合を減少させ、最小化し、又は除去するように設計された、抗PD-1抗体又はその抗原結合断片を、その対象に投与することを含む方法が提供される。いくつかの態様において、抗体は、本明細書で提供される設計されたIgG4領域を含む。例えば、いくつかの態様において、抗体は、配列番号83~88及び91~106からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する設計されたIgG4領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、それぞれ配列番号11、32及び13である重鎖CDR1、CDR2及びCDR3の配列;それぞれ配列番号61、15及び16である軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3の配列;及び、FcγRを低減するように設計されたIgG4領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、それぞれ配列番号11、32及び13である重鎖CDR1、CDR2及びCDR3の配列;それぞれ配列番号61、15及び16である軽鎖CDR1、CDR2及びCDR3の配列;及び、配列番号83~88及び91~106からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するIgG4領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、それぞれ配列番号24及び26である重鎖及び軽鎖可変領域配列、並びにFcγRを減少させるように設計されたIgG4領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、それぞれ配列番号24及び26である重鎖及び軽鎖可変領域配列、並びに配列番号83~88及び91~106からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するIgG4領域を含む。いくつかの態様において、抗PD-1抗体はMab-1である。
【0054】
いくつかの態様において、本発明は、患者におけるHCCの治療に使用するための本明細書で提供される抗体を提供する。いくつかの態様において、本発明は、HCC患者の免疫療法において使用するための本明細書で提供される抗体を提供する。いくつかの態様において、本発明は、HCCの治療のための医薬の製造において使用するための本明細書で提供される抗体を提供する。いくつかの態様において、本発明は、HCC患者における免疫療法のための医薬の製造において使用するための本明細書で提供される抗体を提供する。
【0055】
いくつかの態様において、本発明は、本明細書で提供される抗体を投与することを含む、患者におけるHCCを治療する方法であって、抗体の投与によって、全生存期間(OS)、客観的奏効率(ORR)、完全奏功率(CR)、部分奏功率(PR)、安定(SD)、無憎悪生存期間(PFS)、無病生存期間(DFS)、無イベント生存期間(EFS)、奏功期間(DoR)、無憎悪期間(TTP)、病勢コントロール率(DCR)、臨床的有用性(CBR)、又はそれらの任意の組み合わせにおいて、抗体の投与を受けなかった患者と比較して、改善を提供する方法を提供する。特定の態様において、抗体の投与によってOSの改善が提供される。
【0056】
いくつかの態様において、OSは、臨床試験のランダム化から任意の原因による死亡までの期間として定義される。いくつかの態様において、ORRは、最小の期間で事前に決められた量の腫瘍サイズの減少を伴う患者の百分率として定義される。いくつかの態様において、CRは、治療に対する応答での癌のすべての兆候の消失として定義される。いくつかの態様において、PRは、検出可能な疾患(例えば、腫瘍サイズ)における少なくとも30%の減少として定義される。いくつかの態様において、SDは、PRと認定するには十分ではない疾患の減少、及び進行性疾患と認定するには十分ではない疾患の増加(例えば、検出可能な疾患(例えば、腫瘍サイズ)における25%未満の増加から30%の減少まで)と定義される。いくつかの態様において、TTPは、、臨床試験のランダム化から腫瘍の増悪までの期間として定義される。いくつかの態様において、PFSは、、臨床試験のランダム化から腫瘍の増悪又は死亡の発生までの期間として定義される。いくつかの態様において、DFSは、臨床試験のランダム化から腫瘍の再発又は任意の原因による死亡までの期間として定義される。いくつかの態様において、EFSは、臨床試験のランダム化から、疾患の増悪、死亡、又は任意の原因による治療の中止までの期間として定義される。いくつかの態様において、DoRは、腫瘍の応答の文書化から疾患の増悪までの期間として定義される。いくつかの態様において、DCRとCBRの両方は、完全奏功、部分奏功、又は安定を達成した患者の百分率として定義される。
【0057】
いくつかの態様において、RECIST v.1.1(固形癌の治療効果判定,改訂版version 1.1)、すなわち、治療中又は治療後の癌患者における疾患の応答、増悪又は安定性を定義する公開された規則のセットが、本明細書で提供される抗体で治療された患者を評価するために使用される。
【0058】
いくつかの態様において、本発明は、HCCを有する患者に本明細書で提供される抗体を投与することを含む、HCCを有する患者を治療する方法であって、この方法によって、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくともも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、又はそれ以上の、ORR及び/又はCR及び/又はPR及び/又はDCR及び/又はCBR(又はその他の腫瘍患者の結果の既知のレートベースの測定)を達成する方法を提供する。
【0059】
いくつかの態様において、本発明は、本明細書で提供される抗体を投与することを含む患者におけるHCCを治療する方法であって、抗体の投与が、プラセボ処置と比べて、又は他の抗癌剤又は抗腫瘍剤による治療と比べて、統計的に有意な治療効果を与える方法を提供する。いくつかの態様において、統計的に有意な治療効果には、毒性又は忍容性のパラメータにおける統計的に有意な効果と組み合わせた治療効果が含まれる。いくつかの態様において、統計的に有意な効果には更に、改善されたOS、ORR、CR、PR、SD、PFS、DFS、EFS、DoR、TTP、DCR、CBR、又はこれらの任意の組み合わせが含まれる。いくつかの態様において、本明細書で提供される方法は、ソラフェニブと比較して統計的に有意な効果を提供する。いくつかの態様において、本明細書で提供される方法は、本明細書で提供される抗体(例えば、Mab-1)の約200mg,IV,Q3Wの投与を含み、この方法によって約400mgのソラフェニブ,経口,BIDの投与に比べて統計的に有意な効果が提供される。いくつかの態様において、本明細書で提供される方法は、他のPD-1又はPD-L1の標的療法に比べて統計的に有意な効果を提供する。用語「統計的に有意な治療効果」等は、対象における臨床的又は医学的な改善を結果として生じる治療の結果を指す。「統計的に有意」によって、その結果が偶然に発生する可能性が低いことが意味される。統計的な有意性は、当技術分野で知られている任意の方法で決定することができる。有意性の一般的に使用される測定値には、帰無仮説(null hypothesis)が適正である場合に、観測された事象が発生する頻度又は確率であるp値が含まれる。得られたp値が有意水準よりも小さい場合、帰無仮説は否定される。単純なケースでは、有意水準は0.05以下のp値で定義される。
【0060】
いくつかの態様において、抗PD-1抗体は、週1回、2週間に1回、3週間に1回、又は4週間に1回、0.5~10mg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、抗PD-1抗体はMab-1であり、Mab-1が、週1回、2週間に1回、又は3週間に1回、0.5~10mg/kgの用量で投与される。好ましくは、Mab-1は、2週間に1回、0.5~5mg/kgの用量で、2週間に1回、5~10mg/kgの用量で、又は3週間に1回、2~5mg/kgの用量で、投与される。最も好ましくは、Mab-1は、2週間に1回、0.5mg/kgの用量で、2週間に1回、5mg/kgの用量で、2週間に1回、10mg/kgの用量で、3週間に1回、2mg/kgの用量で、又は3週間に1回、5mg/kgの用量で、非経口的に投与される。
【0061】
いくつかの態様において、本明細書は、本明細書に記載された抗PD-1抗体を約50mg、約75mg、約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mg、約225mg、約250mg、約300mg、約325mg、約350mg、約375mg、約400mg、約425mg、約450mg、約475mg、又は約500mgの用量で投与することを含む、HCCの治療方法を提供する。いくつかの態様において、抗体は毎日、2日ごと、3日ごと、4日ごと、5日ごと、6日ごと、又は7日ごとに投与される。いくつかの態様において、抗体は毎週、10日ごと、2週間ごと、3週間ごと、4週間ごと、5週間ごと、6週間ごと、7週間ごと、又は8週間ごとに投与される。いくつかの態様において、抗体は毎月又は2月ごとに投与される。いくつかの態様において、抗体は、患者の臨床的段階、達成された治療効果、及びその他の患者の特徴に応じて、増加又は減少させた抗体の用量で、1回又は複数回投与される。特定の態様において、抗体は対象に週1回、2週間に1回、3週間に1回、又は4週間に1回、投与される。
【0062】
いくつかの態様において、医薬組成物の投与経路は、既知の方法、例えば、静脈内、腹腔内、脳内(実質内)、脳室内、筋肉内、皮下、眼内、動脈内、門脈内、又は病巣内経路による注射によって、又は持続放出システムによって、又は埋め込みデバイスによってなされる。ある態様において、医薬組成物は、ボーラス注射によって、又は連続的に注入によって、若しくは点滴装置によって投与することができる。
【0063】
ある態様において、本明細書は、それが必要な対象に、本明細書で提供された抗PD-1抗体を約200mgの用量で3週間ごと(Q3W)に静脈内(IV)に投与することを含む、HCCの治療方法を提供する。
【実施例0064】
実施例1
進行性肝細胞癌(HCC)を有する患者におけるMab-1のフェーズ1A/1B試験
【0065】
試験デザイン/患者の階層化と登録
試験デザインの目的は、フェーズ1A及びフェーズ1Bからなる、推奨されるフェーズ2の用量(RP2D)の決定及び予備的な階層化のために、腫瘍を選択することによって、HCC患者を登録することである。図2に、試験デザインを詳細に説明する。
【0066】
フェーズ1Aで、10mg/kg,Q2WのMab-1(異なって示されない限り、臨床試験で使用された抗体はMab-1である)が、最大投与量であった。最大耐量(MTD)に達していなかった。フェーズ1Bのすべての患者は、Mab-1を5mg/kg,IV点滴,Q3Wとして投与された。放射線検査は、9週間ごとに行われた。本明細書に示された結果には、5mg/kg,Q3Wで治療された進行性HCCを有する患者が含まれる。最後に、HCCを有する患者40人(n=40)が臨床試験に登録された。
【0067】
プールされたHCCの集団のサブセットの鍵となる適格性
以前にPD-1又はPD-L1の治療を受けたことがなく、組織学的又は細胞学的に確認された進行性/転移性HCCを有する成人患者(18歳以上)が登録された。
【0068】
特定の包含基準には、いかなるグレードの脳症を伴わない、難治性/局所療法に非対応、及び治療可能な治療アプローチに非対応、及びChild-Pugh分類Aのバルセロナ臨床肝臓がんのステージC又はステージBが含まれた。
【0069】
適格な患者は、B型肝炎ウィルス(HBV)ウィルス量<200 IU/mL(約1000cps/mL)を有していなければならない。活動性HBV感染を有する対象は、3ヶ月以上の治療の間、及びその後の6ヶ月間、抗HBVの抑制が必要である。
【0070】
未治療である活動性C型肝炎ウィルス(HCV)に感染している患者は、試験に受け入れなかった。
【0071】
患者の配置
大多数(n=28/40)がHBV陽性である、進行性HCCを有する患者40人が、本試験に登録された(表7)。全部で24人の患者が、本分析の時点で、治療中である。
【0072】
【0073】
予備的な抗腫瘍活性
登録された40人の進行性HCC患者のうち、全部で27人の患者が評価可能であった。そのうち、25人が測定可能な疾患を有し、少なくとも1人が評価可能なポストベースライン腫瘍評価を有し、2人が腫瘍評価の最初の予定日より前に死亡した。
【0074】
以下の臨床試験及び結果では、すべての患者がMab-1を5mg/kg,IV点滴,Q3Wとして投与され、9週間ごとに放射線検査を受けた。27人の評価可能なHCC患者において、3人の患者が少なくとも部分奏功(PR)を達成し、9人の患者が安定(SD)を達成した。部分奏功(PR)及び安定(SD)を含む、最初の病勢コントロール率(DCR)は、図3に示すように44%であり、肝炎ウィルス感染状態による腫瘍サイズの最良の変化を示す。
【0075】
図4に、Mab-1による治療期間と患者の応答を示す。図4は、最大期間が28週間であったことを示す。
【0076】
上記の通り、3人の患者が少なくとも部分奏功を達成したことが分かった。これは、図5における、ベースラインと部分奏功を有する3人の患者の直近のCT評価で確認された。
【0077】
図6はまた、HBV感染HCCを有する患者における経時的な腫瘍量の変化が有望であることを示す。
【0078】
図7は、HCC患者における放射線検査の証拠によって、全体的な最良の応答を示す。その中で、1人の患者は、60週間にわたって制御された安定(SD)を有することが示された。
【0079】
忍容性プロフィール
本明細書に記載されたMab-1の投与に伴われる有害な副作用(AE)も調査された。
【0080】
治療に関連するAEは、HCCを有する患者40人のうち21人で発生した(表8)。これらの事象の1つを除くすべてがグレード2以下であった。最も一般的な事象は、発疹(n=8)及び掻痒(n=5)であった。
【0081】
【0082】
2人の患者は、治験によって発生したAEのために治療を中止した。そのうちの一方は、治験担当医によって治療に関連していると考えられたグレード5のAEであった。HBV並びに広範囲に脳、肝臓及び肺に転移性のHCCを有する49歳のアジア人男性が、最初で唯一のMab-1の投与から直ぐに続けて、増悪の証拠(意識障害、腹痛、腹部痛、及び胸部X線の変化)を進展させた。その患者は、メチルプレドニゾロンとエンテカビルでの治療にもかかわらず、試験に入ってから約5週間後に死亡した。ウィルス血清学は陰性であった。検死は行わなかった。死亡原因は、急性肝炎に起因し、急速な疾患の増悪に直面した。
【0083】
これらの結果は、本明細書に記載された抗体(Mab-1)が忍容性を有することを確認した。その毒性プロファイルは、有害な副作用(AE)が一般に深刻度が低く、管理可能であり、可逆的であることを示す。
【0084】
この初期の報告において、患者の半数以上が試験に残っていた(n=24/40)。治療期間の中央値は64日(範囲:1~471日)であった。治療に関連するAEが原因である治療中止率は低かった(n=1/40)。この群で報告された有害な副作用は、本試験で観察された全般の安全性プロファイルと一致しており、一般に深刻度が低く、管理可能であり、可逆的であった。ほとんどの患者は、根底にあるウィルス感染(HBV+,n=28;HCV+/HBV+,n=6;HCV+,n=2)を有していた。「部分奏功」の定義の一致する腫瘍の減少(すなわち、少なくとも30%の腫瘍量の減少と定義された)が3人の患者で観察された。9人の患者が安定(SD)を達成し、そのうちのいく人かはAFPの大幅な減少も有していた。
【0085】
実施例2
切除不能な肝細胞癌(HCC)を有する患者におけるMab-1のフェーズ2試験
【0086】
試験デザイン
フェーズ2試験は、以前に治療されたHCCを有する患者における、Mab-1の有効性、安全性/忍容性、及び薬物動態(PK)を評価するようにデザインされている。安全性/忍容性の評価には、免疫に関連するAEを含む有害な副作用(AE)の監視が含まれる。
【0087】
試験集団
以下の場合に、18歳以上の成人患者が登録される。
(a)組織学的に確認されたHCC;
(b)局所療法に非対応又は局所療法後に再発、及び治療可能な治療アプローチに非対応のバルセロナ臨床肝臓がん(BCLC)のステージC又はBCLCのステージBである;
(c)切除不能なHCCに対する少なくとも1回の全身療法を受けたことがある;
(d)RECIST v.1.1で定義された、少なくとも1つの測定可能な病変を有する;
(e)Child-Pugh分類A;
(f)東部協同腫瘍学グループ(ECOG)のパフォーマンスステータスが1以下;
(g)適切な臓器機能。
【0088】
患者は以下の場合に除外される:
(a)既知の線維層板型のHCC、肉腫様のHCC、又は混合した胆管癌及びHCCの組織学検査;
(b)PD-1又はPD-L1を標的とする治療を以前に受けた;
(c)脳又は軟髄膜への転移を知得した;
(d)主幹部の門脈又は下大静脈を含む腫瘍血栓;
(e)登録前4週間以内に肝臓に局所療法を受けた;
(f)間質性肺疾患、非感染性肺炎、又は糖尿病、高血圧、肺線維症、急性肺疾患等を含む制御されていない全身性疾患の治療歴;
(g)最初の試験薬の投与の28日以内又は5半減期(いずれか短い方)以内に、任意の化学療法、免疫療法(例えば、インターロイキン、インターフェロン、サイモキシン)、又は任意の治験薬を受けた;最初の試験薬の投与から14日以内に、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、又は癌を制御するために用いられた任意の漢方薬若しくは中国特許薬を受けた;
(h)活動性自己免疫疾患又は再発する可能性のある自己免疫疾患の病歴;
(i)試験薬の投与の前14日以内にコルチコステロイド(1日10mg以上のプレドニゾン又は同等薬)又は他の免疫抑制薬のいずれで全身投与を必要とする任意の条件。
【0089】
治療
患者は、Mab-1,200mg,IV,Q3Wで治療される。
【0090】
実施例3
切除不能な肝細胞癌(HCC)を有する患者において、Mab-1と第一選択治療としてのソラフェニブの有効性と安全性を比較するフェーズ3試験
【0091】
試験デザイン
フェーズ3試験は、進行性HCCの第一選択治療としてのソラフェニブと比較して、Mab-1の有効性と安全性を評価するようにデザインされる(図8)。
【0092】
最初の目的は、2つの治療群の間で全生存期間(OS)を比較することである。盲検化された独立した審査委員会によって、RECIST v1.1に従って評価された客観的奏効率(ORR)が、鍵となる二次的な目的である。その他の二次的な目的には、様々な有効性評価(無憎悪生存期間(PFS)、奏功期間(DoR)、無憎悪期間(TTP)、病勢コントロール率(DCR)、臨床的有用性(CBR))、健康に関連する生活の質、安全性、及び忍容性の測定の点でのMab-1とソラフェニブの比較が含まれる。
【0093】
試験集団
以下の場合に、18歳以上の成人患者が登録される。
(a)切除不能で組織学的に確認されたHCC;
(b)東部協同腫瘍学グループ(ECOG)のスコアが1以下、Child-Pugh分類A;
(c)局所療法に非対応又は局所療法後に増悪、及び治療アプローチに非対応のバルセロナ臨床肝臓がん(BCLC)のステージCの疾患又はBCLCのステージBの疾患;
(d)全身療法を以前に受けていない。
【0094】
患者は以下の場合に除外される:
(a)既知の線維層板型のHCC、肉腫様のHCC、又は混合した胆管癌及びHCCの組織学検査;
(b)主幹部の門脈又は下大静脈を含む腫瘍血栓;
(c)ランダム化の前28日以内に、肝臓への局所療法又は任意の以前の免疫療法を受けた;又は、ランダム化の14日以内に、癌を制御するために用いられた任意の漢方薬若しくは中国特許薬を受けた;
(d)(スクリーニング時又は以前の病歴での)グレード2以上の肝性脳症;
(e)スクリーニング時の心膜液貯留、制御不能な胸水貯留、又はでの臨床的に相当量の腹水貯留。
【0095】
治療
患者は1:1にランダム化されて、Mab-1,200mg,IV,Q3W、又はソラフェニブ,400mg,経口,毎日2回(BID)を投与された。大血管性の浸潤の存在、肝臓外への拡散の存在、ECOGパフォーマンスステータス、病因、及び地理学によって階層化されたランダム化を伴った。疾患の増悪、耐えられない毒性、又は他の理由による治療の中止まで、治療が投与される。
【0096】
試験評価と統計分析
(a)腫瘍応答は、RECIST v.1.1に従って、1年目は9週間ごとに、2年目以降は12週間ごとに、評価される;
(b)ソラフェニブと比較したMab-1のOSの最初の有効性のエンドポイントは、非劣性で評価される;
(c)二次的なエンドポイント(盲検化された独立した審査委員会によって評価されたORR、PFS、DoR及びTTP等)は、治療比較で評価される;
(d)すべての試験は、片側検定α=0.025(又は両側検定α=0.05)で実行される;
(e)安全性と忍容性(二次的なエンドポイント)は、免疫に関連するAEを含む有害な副作用(AE)を監視することで、及び物理的検査、生命徴候、心電図を通して評価される;
(f)EORTC QLQ-HCC18(the European Organisation for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Cancer Questionnaire-Hepatocellular Carcinoma 18 Questions)、及びEORTC QLQ-C30(the European Organisation for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire-Core 30)を用いて混合モデルを使用した2つの治療群の間の健康に関連する生活の質を評価する。EQ-5D(the European Quality of Life 5-Dimensions)も要約される。
【0097】
特定の態様における上記の実施例と説明は、特許請求の範囲で定義された本発明を限定するものとしてではなく、むしろ本発明を説明するものとして理解されるべきである。容易に認識される通り、上記の特徴の多数の変更例及び組合せは、請求項に記載された本発明から逸脱することなく利用することができる。そのようなすべての変更例は、本発明の範囲内に含まれることが意図されている。引用されたすべての文献は、これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0098】
先行技術文献が本明細書で言及されている場合、その文献がいかなる国においても共通の一般的な知識の一部を形成していることを、その言及によって認めるものではないことを理解すべきである。
【0099】
請求項において、及び上記の発明の説明において、文脈が異なって言語又は必要な意味のため要求する場合を除いて、用語「含む」又は「含んでいる」等の変更は、すべてを含み意味で、すなわち本発明の様々な態様において、記載された特徴の存在を明示するために、しかし更なる特徴の存在又は追加を除外しないように、用いられている。
【0100】
本明細書で引用することで言及されたすべての出版物、特許、特許出願及び公開された特許出願の開示は、これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2023080215000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-04-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗PD-1抗体を含有する、患者の肝細胞癌(HCC)を治療するための医薬組成物であって、
前記抗PD-1抗体が、CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3(それぞれ配列番号11、32、13)、並びにCDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3(それぞれ配列番号61、15、16)を含み、
前記抗PD-1抗体が、マクロファージ上のFcγR結合を最小化して、抗体依存性食作用を抑制する、228位(EUナンバリングシステム)にプロリンへの変異を有し、任意に233位、234位、235位、265位、309位及び409位(EUナンバリングシステム)の1つ以上で変異を有するIgG4重鎖定常ドメインを含む医薬組成物
【請求項2】
前記抗PD-1抗体が、重鎖可変領域(Vh)(配列番号24)、及び軽鎖可変領域(Vk)(配列番号26)を含む、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記IgG4重鎖定常ドメインが配列番号83~88又は91~106を含む、請求項に記載の医薬組成物
【請求項4】
前記抗PD-1抗体が、重鎖可変領域(Vh)(配列番号24)、及び軽鎖可変領域(Vk)(配列番号26)を含み、前記IgG4重鎖定常ドメインが配列番号88を含む、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項5】
HCCが進行性HCC及び/又は転移性HCCである、請求項1記載の医薬組成物
【請求項6】
HCCがウィルス感染に関連するHCCである、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記ウィルス感染に関連するHCCが、HBV感染HCC、HCV感染HCC、又はHBV/HCV共感染HCCである、請求項に記載の医薬組成物
【請求項8】
HCCが、進行性HBV感染HCC、転移性HBV感染HCC、又は転移性HCV感染HCCである、請求項に記載の医薬組成物
【請求項9】
HCCが、進行性HBV感染HCC、又は転移性HBV感染HCCである、請求項に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記抗PD-1抗体が、週1回、2週間に1回、3週間に1回又は4週間に1回、0.5~10mg/kgの用量で投与される、請求項1~のいずれかに記載の医薬組成物
【請求項11】
前記抗PD-1抗体が、2週間に1回、0.5mg/kgの用量で、2週間に1回、5mg/kgの用量で、2週間に1回、10mg/kgの用量で、2週間に1回、2mg/kgの用量で、又は2週間に1回、5mg/kgの用量で、非経口的に投与される、請求項10に記載の医薬組成物
【請求項12】
前記抗PD-1抗体が1回当たり約200mg/患者の用量で非経口的に投与される、請求項10に記載の医薬組成物
【請求項13】
前記ウィルス感染に関連するHCCを有する患者が、200IU/mL(約1000cps/mL)未満のHBVウィルス量を有する、請求項に記載の医薬組成物
【請求項14】
活動性HBV感染HCCを有する患者に、抗PD-1抗体の治療中の3ヶ月以上の間、及び抗PD-1抗体の治療後6ヶ月間、HBV抑制剤を投与する、請求項1に記載の医薬組成物