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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080221
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】舶用重質燃料油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/08 20060101AFI20230601BHJP
【FI】
C10L1/08
【審査請求】有
【請求項の数】35
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064839
(22)【出願日】2023-04-12
(62)【分割の表示】P 2021065338の分割
【原出願日】2018-02-12
(31)【優先権主張番号】62/458,002
(32)【優先日】2017-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/589,479
(32)【優先日】2017-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519291010
【氏名又は名称】マゲマ テクノロジー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】クルスマン, バートランド, アール.
(72)【発明者】
【氏名】ムーア, マイケル, ジェー.
(57)【要約】
【課題】舶用重質燃料油組成物の提供。
【解決手段】ISO8217に適合した舶用重質燃料油原料(原料)中の環境汚染物を低減するプロセス。該プロセスは、所定量の上記原料を所定量の活性化ガス混合物と混合して原料混合物を得ること、上記原料混合物を1種以上の触媒と接触させて上記原料混合物からプロセス混合物を調製すること、上記プロセス混合物の気体成分及び副産物炭化水素から上記プロセス混合物の液体成分である舶用重質燃料油製品(製品)を分離すること、及び、上記製品を排出することを含む。上記製品は、舶用残渣燃料油としてISO規格に適合しており、最大硫黄含有量が0.05重量%~0.50重量%の範囲である。上記製品は、適合した低硫黄又は超低硫黄舶用重質燃料油又はそのブレンドストックとして使用できる。上記プロセスを実施するための装置も開示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100%水素化処理した高硫黄舶用重質燃料油から本質的になる低硫黄舶用重質燃料油であって、上記高硫黄舶用重質燃料油は、水素化処理前、ISO8217:2017に適合し、舶用残渣燃料油として適商品質を有するが、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%を超えるものであり、上記低硫黄舶用重質燃料油は、ISO8217:2017に適合し、舶用残渣燃料油として適商品質を有し、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%未満である、低硫黄舶用重質燃料油。
【請求項2】
上記高硫黄舶用重質燃料油の硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)は1.0重量%~5.0重量%の範囲であり、上記低硫黄舶用重質燃料油の硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)は0.5重量%~0.05重量%の範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記低硫黄舶用重質燃料油の硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)は0.1重量%未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
上記低硫黄舶用重質燃料油は、50Cの最大動粘度(ISO3104)が180mm/秒~700mm/秒の範囲、15℃の最大密度(ISO3675)が991.0kg/m~1010.0kg/mの範囲、CCAIが780~870の範囲、引火点(ISO2719)が60.0℃以上、エージングによる最大全セジメント(ISO10307-2)が0.10重量%、マイクロ法による最大残留炭素分(ISO10370)が18.00重量%~20.00重量%の範囲、最大アルミニウム+ケイ素(ISO10478)含有量が60mg/kgである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
体積基準で多量の100%水素化処理した高硫黄舶用残渣燃料油と、体積基準で少量の希釈材とから本質的になる低硫黄炭化水素燃料組成物であって、上記高硫黄舶用重質燃料油は、水素化処理前、ISO8217:2017に適合するが、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%を超えるものであり、上記低硫黄舶用重質燃料組成物は、ISO8217:2017に適合し、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%未満であり、上記希釈材は、炭化水素材料、非炭化水素材料、固体材料及びこれらの組合せからなる群より選択される、低硫黄炭化水素燃料組成物。
【請求項6】
上記100%水素化処理した高硫黄舶用残渣燃料油は上記組成物の少なくとも75体積%であり、上記希釈材は上記組成物の25体積%以下である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
上記100%水素化処理した高硫黄舶用残渣燃料油は上記組成物の少なくとも90体積%であり、上記希釈材は上記組成物の10体積%以下である、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
上記炭化水素材料は、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%を超える舶用重質燃料油;留出油系燃料;ディーゼル;軽油;舶用軽油;舶用ディーゼル油;カッター油;バイオディーゼル;メタノール、エタノール;ガス液化技術に基づいた合成炭化水素及び油;フィッシャートロプシュ油;ポリエチレン、ポリプロピレン、二量体、三量体及びポリブチレンに基づいた合成油;常圧残油;減圧残油;流動接触分解装置(FCC)スラリー油;FCCサイクル油;熱分解軽油;分解軽質軽油(CLGO);分解重質軽油(CHGO);軽質サイクル油(LCO);重質サイクル油(HCO);熱分解残油;重質コーカー留出油;ビチューメン;重質脱アスファルト油;ビスブレーカ残油;スロップ油;アスファルト質油;使用済み又は再利用モーター油;潤滑油芳香族抽出物;原油;重質原油;ディストレスト原油;並びにこれらの組合せからなる群より選択され、上記非炭化水素材料は、残留水;洗剤;粘度調整剤;流動点降下剤;潤滑性調整剤;ヘイズ除去剤;消泡剤;点火改良剤;防錆剤;腐食抑制剤;耐摩耗添加剤、酸化防止剤(フェノール化合物及び誘導体等)、コーティング剤及び表面改質剤、金属不活性化剤、静電気防止剤、イオン性及び非イオン性界面活性剤、安定剤、化粧用着色剤及び付臭剤、並びにこれらの組合せからなる群より選択され、上記固体材料は、炭素又は炭化水素固体;コークス;黒鉛固体;微小凝集したアスファルテン、鉄錆;酸化腐食固体;バルク金属粒子;塗料粒子;表面コーティング粒子;プラスチック粒子又はポリマー粒子又はエラストマー粒子、ゴム粒子;触媒微粒子;セラミック粒子;鉱物粒子;砂;クレー;土粒子;微生物;生物学的に生成した固体;並びにこれらの組合せからなる群より選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
上記低硫黄舶用燃料油は、50Cの最大動粘度(ISO3104)が180mm/秒~700mm/秒の範囲、15℃の最大密度(ISO3675)が991.0kg/m~1010.0kg/mの範囲、CCAIが780~870の範囲、引火点(ISO2719)が60.0℃以上、エージングによる最大全セジメント(ISO10307-2)が0.10重量%、マイクロ法による最大残留炭素分(ISO10370)が18.00重量%~20.00重量%の範囲、最大アルミニウム+ケイ素(ISO10478)含有量が60mg/kgである、請求項4に記載の組成物。
【請求項10】
水素化処理した舶用残渣燃料油を少なくとも50体積%含み、炭化水素材料、非炭化水素材料、固体材料及びこれらの組合せからなる群より選択される希釈材を50体積%以下含む舶用重質燃料油組成物。
【請求項11】
上記水素化処理した舶用残渣燃料油は、水素化処理前、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が5.0重量%~1.0重量%の範囲、50Cの最大動粘度(ISO3104)が180mm/秒~700mm/秒の範囲、15℃の最大密度(ISO3675)が991.0kg/m~1010.0kg/mの範囲、CCAIが780~870の範囲、引火点(ISO2719)が60.0℃以上、エージングによる最大全セジメント(ISO10307-2)が0.10重量%、マイクロ法による最大残留炭素分(ISO10370)が18.00重量%~20.00重量%の範囲、最大バナジウム含有量(ISO14597)が350mg/kg~450ppm mg/kgの範囲、最大アルミニウム+ケイ素(ISO10478)含有量が60mg/kgである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
上記水素化処理した舶用残渣燃料油は、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%~0.05重量%の範囲、50Cの最大動粘度(ISO3104)が180mm/秒~700mm/秒の範囲、15℃の最大密度(ISO3675)が991.0kg/m~1010.0kg/mの範囲、CCAIが780~870の範囲、引火点(ISO2719)が60.0℃以上、エージングによる最大全セジメント(ISO10307-2)が0.10重量%、マイクロ法による最大残留炭素分(ISO10370)が18.00重量%~20.00重量%の範囲、最大バナジウム含有量(ISO14597)が350mg/kg~450ppm mg/kgの範囲、最大アルミニウム+ケイ素(ISO10478)含有量が60mg/kgである、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
上記炭化水素材料は、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%を超える舶用重質燃料油;留出油系燃料;ディーゼル;軽油;舶用軽油;舶用ディーゼル油;カッター油;バイオディーゼル;メタノール、エタノール;ガス液化技術に基づいた合成炭化水素及び油;フィッシャートロプシュ油;ポリエチレン、ポリプロピレン、二量体、三量体及びポリブチレンに基づいた合成油;常圧残油;減圧残油;流動接触分解装置(FCC)スラリー油;FCCサイクル油;熱分解軽油;分解軽質軽油(CLGO);分解重質軽油(CHGO);軽質サイクル油(LCO);重質サイクル油(HCO);熱分解残油;重質コーカー留出油;ビチューメン;重質脱アスファルト油;ビスブレーカ残油;スロップ油;アスファルト質油;使用済み又は再利用モーター油;潤滑油芳香族抽出物;原油;重質原油;ディストレスト原油;並びにこれらの組合せからなる群より選択され、上記非炭化水素材料は、残留水;洗剤;粘度調整剤;流動点降下剤;潤滑性調整剤;ヘイズ除去剤;消泡剤;点火改良剤;防錆剤;腐食抑制剤;耐摩耗添加剤、酸化防止剤(フェノール化合物及び誘導体等)、コーティング剤及び表面改質剤、金属不活性化剤、静電気防止剤、イオン性及び非イオン性界面活性剤、安定剤、化粧用着色剤及び付臭剤、並びにこれらの組合せからなる群より選択され、上記固体材料は、炭素又は炭化水素固体;コークス;黒鉛固体;微小凝集したアスファルテン、鉄錆;酸化腐食固体;バルク金属粒子;塗料粒子;表面コーティング粒子;プラスチック粒子又はポリマー粒子又はエラストマー粒子、ゴム粒子;触媒微粒子;セラミック粒子;鉱物粒子;砂;クレー;土粒子;微生物;生物学的に生成した固体;並びにこれらの組合せからなる群より選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
上記水素化処理した舶用残渣燃料油の体積は上記組成物の少なくとも75体積%であり、上記希釈材は上記組成物の25体積%以下である、請求項10に記載の組成物。
【請求項15】
上記水素化処理した舶用残渣燃料油の体積は上記組成物の少なくとも90体積%であり、上記希釈材は上記組成物の10体積%以下である、請求項10に記載の組成物。
【請求項16】
上記水素化処理した舶用残渣燃料油の体積は上記組成物の少なくとも95体積%であり、上記希釈材は上記組成物の5体積%以下である、請求項10に記載の組成物。
【請求項17】
上記舶用重質燃料油組成物は、ISO8217:2017に適合し、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%~0.05重量%の範囲である、請求項10に記載の組成物。
【請求項18】
上記舶用重質燃料油組成物は適商品質を有する、請求項17に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
舶用燃料油には、留出油系舶用燃料油及び残渣油系舶用燃料油という2つの種類がある。留出油系舶用燃料は、舶用軽油(MGO)又は舶用ディーゼル油(MDO)としても知られているが、製油所における蒸留過程で原油から分離された石油留分からなる。軽油(ディーゼル媒体としても知られる)は、沸点範囲及び粘度が、ケロシンと、C10-19炭化水素の混合物を含む潤滑油との中間となる石油蒸留物である。軽油は、住宅の暖房に使用されたり、クレーン、ブルドーザ、発電機、ボブキャット、トラクタ、コンバイン収穫機等の重機に使用されたりしている。一般に、残渣油からの軽油回収を最大化することで、製油業者は原料を最も経済的に使用できる。なぜなら、製油業者は軽油を価値が高いガソリンや留出油に分解できるからである。ディーゼル油は軽油と非常に類似しており、ディーゼルは、主としてC10-19炭化水素の混合物を含み、これらの炭化水素は、約64%の脂肪族炭化水素、1~2%のオレフィン系炭化水素及び35%の芳香族炭化水素からなる。舶用ディーゼルは、残渣プロセスストリームを15%まで含んでもよく、場合によっては多環芳香族炭化水素(アスファルテン)を5体積%以下まで含んでもよい。ディーゼル燃料は、主に陸上輸送燃料として利用されたり、ケロシンとのブレンド成分として航空ジェット燃料に利用されたりしている。
【0002】
残渣油系燃料又は舶用重質燃料油(HMFO)は、減圧状態でも沸騰又は蒸発しない留分であるプロセス残渣油の混合物からなり、アスファルテン含有量が3~20重量%(wt%)である。アスファルテンは、複雑なろう様析出物を形成する傾向がある大きくて複雑な多環式炭化水素である。アスファルテンは析出してしまうと再溶解が難しいことで有名であり、海運業界及び船舶バンカー燃料供給業界では燃料タンクスラッジと呼ばれている。
【0003】
大型外航船は、大型2ストロークディーゼルエンジンに動力を供給するのに50年以上にわたってHMFOに頼っている。HMFOは、原油精製過程で生じた芳香族化合物、留出油及び残渣油のブレンドである。HMFOの組成に含まれる典型的なストリームには、常圧塔底油(すなわち常圧残油)、減圧塔底油(すなわち減圧残油)、ビスブレーカ残油、軽質FCCサイクル油(LCO)、重質FCCサイクル油(HCO)(FCCボトムともいう)、FCCスラリー油、重質軽油及びディレードクラッカー油(DCO)、多環芳香族炭化水素、再生陸運モーター油、並びに所望の粘度にするための少量(20体積%未満)のカッター油、ケロシン又はディーゼルが含まれる。HMFOの芳香族含有量は、上述した舶用留出燃料よりも多い。HMFO組成は複雑であり、原油供給源や、原油バレルから最大の価値を抽出するのに用いられる精製プロセスによって変化する。複数の成分からなる混合物は、一般的に、粘性があり、硫黄及び金属含有量が高く、アスファルテン量が多いという特徴があり、そのため、HMFOは、原油原料自体よりも1バレル当たりの価値が低い精製過程の製品の1つとなっている。
【0004】
産業統計によれば、販売されるHMFOの約90%は3.5重量%の硫黄を含有している。全世界でのHMFO推定消費総量が1年当たり約3億トンであるので、海運業による二酸化硫黄の年間産出量は1年当たり2100万トンを超えると推定される。船舶でのHMFO燃焼による排出物は、地球規模の大気汚染度及び地域の大気汚染度のいずれにも著しく寄与する。
【0005】
国際海事機関(IMO)により施行されたMARPOL(船舶による汚染の防止のための国際条約)は、船舶による汚染を防止するために制定された。1997年に、MARPOLに新たな附属書が追加された。すなわち、船舶からの大気排出物(SOx、NOx、ODS、VOC)及びそれらの大気汚染への寄与率を最小限にするための船舶による大気汚染の防止のための規則(附属書VI)である。排出制限が厳しくされた附属書VIの改訂案は2008年10月に採択され、2010年7月1日に施行された(以降、附属書VI(改訂版)又は単に附属書VIという)。
【0006】
MARPOL附属書VI(改訂版)では、指定された排出規制海域(ECA)での船舶運航に対する一連の厳重な排出制限が制定された。MARPOL附属書VI(改訂版)によるECAは、i)バルト海域(MARPOL附属書Iで規定):SOxのみ、ii)北海域(MARPOL附属書Vで規定):SOxのみ、iii)北米(MARPOL附属書VIの付録VIIで規定):SOx、NOx及びPM、iv)米国カリブ海域(MARPOL附属書VIの付録VIIで規定):SOx、NOx及びPMである。
【0007】
附属書VI(改訂版)は、米国において船舶からの汚染防止法(APPS)により成文化された。APPSの権限下で、米国環境保護庁(EPA)は、米国沿岸警備隊(USCG)と協議して、MARPOL附属書VI(改訂版)の全文を援用する規則を公布した。40C.F.R.§1043.100(a)(1)を参照されたい。2012年8月1日に、米国海域/ECAで運航する船舶上で使用される全ての舶用燃料油の最大硫黄含有量は、1.00重量%(10,000ppm)を超えることができず、2015年1月1日に、北米ECAで使用された全ての舶用燃料油の最大硫黄含有量は0.10重量%(1,000ppm)まで低下した。発効に際して、米国政府は、船舶運航業者が0.10重量%(1,000ppm)のUS ECA舶用燃料油硫黄基準に対してしっかりと備えなければならないことを示した。コンプライアンスを高めるために、EPA及びUSCGは、適合した低硫黄燃料油のコストを、適合した燃料油を購入できなかったと主張する正当な根拠と見なすことを拒否した。過去5年間、低硫黄HMFOに対する海運業界の需要を満たす非常に強い経済的誘因があったものの、技術的に実行可能な解決策は実現されていない。MARPOL附属書VI排出要件に適合した低硫黄HMFOを製造するプロセス及び方法に対する継続的且つ差し迫った需要がある。
【0008】
ECAのために、該ECAの内外どちらも運航する全ての外航船は、それぞれの制限に準拠するために異なる舶用燃料油で運航し、最大の経済効率を達成しなければならない。そのような場合、船舶は、ECAに入る前に、ECAに適合した舶用燃料油の使用に完全に切り替える必要があり、さらに、それをどのように行うべきかについて文書化された手順を船上で実行する必要がある。同様に、ECA適合燃料油からHMFOの使用へ戻す切替えは、ECAを出た後まで開始するべきではない。各切替えでは、上記海域に入る前に切替えを完了する時、あるいは出た後で切替えを開始する時の日付、時間及び船舶位置と共に、船上のECA適合燃料油の量を記録する必要がある。これらの記録は、船舶の旗国により定められた航海日誌に作成されるべきであり、特定の要件がなければ、記録は、例えば船舶の附属書I油記録簿に作成されるであろう。
【0009】
また、附属書VI(改訂版)では、船舶排気からの硫黄酸化物及び窒素酸化物の排出及び粒子状物質に対して全世界的な制限を設け、ハイドロクロロフルオロカーボン等のオゾン層破壊物質の意図的な排出を禁止している。改訂版MARPOL附属書VIの下、HMFOの全世界的な硫黄分上限は3.50重量%まで下げられ、2012年1月1日に施行されたが、その後、さらに0.50重量%まで下げられ、2020年1月1日に施行される。この規則は、海運業界及び舶用燃料補給業界のいずれにおいても議論が重ねられている課題である。全世界的な制限の下では、全ての船舶は、硫黄含有量が0.50重量%以下のHMFOを使用しなければならない。IMOは、適合した燃料が入手可能であるかどうかや、適合した燃料の価格にかかわらず、HMFOに対する0.50重量%という硫黄制限の順守は2020年1月1日に行われること、及び、IMOは燃料油市場がこの要件を解決すると期待していることを海運業界に対して繰り返し示してきた。低硫黄HMFOに対する国際海運業界の需要を満たす非常に強い経済的誘因があったものの、技術的に実行可能な解決策は実現されていない。MARPOL附属書VI排出要件に適合した低硫黄HMFOを製造するプロセス及び方法に対する継続的且つ差し迫った需要がある。
【0010】
IMO規則14は、順守すべき制限値及び手段の両方を規定している。これらは、一次的(汚染物質の生成が回避される)又は二次的(汚染物質は生成するが、排気ガスストリームが大気中に排出される前に除去される)と呼ばれる方法に分けることができる。一次的方法(例えば液体燃料油の船上ブレンド又は二元燃料(気体/液体)の使用が包含されるであろう)に関しては全く指針がない。二次的制御方法においては、排気ガス浄化システムについての指針(MEPC.184(59))が採択された。そのような装置を用いるにあたって、システムが認証されていれば、それ以外に、積み込まれる燃料油の硫黄含有量に対して制約は課されないであろう。多くの技術的及び経済的理由から、二次的制御法は主要な船舶会社から拒絶されており、海運業界で広くは採用されていない。二次的制御法の使用は、海運業界からは現実的な解決策と見なされていない。
【0011】
一次的制御策:MARPOL要件の順守に対する関心は、HMFOを代替燃料に置き換えることで燃焼前に舶用燃料成分中の硫黄濃度を低減する一次的制御策に集まっている。しかしながら、HMFOから代替燃料への切替えは船舶運航業者に様々な問題をもたらすものであり、それらの多くは海運業界からも製油業界からも未だに理解されていない。船舶が燃料を切り替える際の船舶推進システム(すなわち燃料システム、エンジン等)への潜在的リスクのため、転換工程は、技術的問題を回避するように安全且つ有効に行わなければならない。しかしながら、海運業界が何十年も利用するHMFOに基づいた海運インフラ及び燃料供給システムに各代替燃料が適合するのは経済的にも技術的にも困難である。
【0012】
LNG:海運業界で最も一般的な一次的制御策は、一次燃料又はHMFOに対する追加燃料としてLNGを採用することである。液化天然ガス(LNG)を一次燃料として使用する船舶の数は増加している。燃焼タービン及びディーゼルエンジンにおいて天然ガスを舶用燃料とすると、硫黄酸化物排出が取るに足りない程度になる。天然ガスの恩恵は、2015年に採択されたガス燃料及び低引火点燃料を使用する船舶の国際規約(IGFコード)をIMOが策定するなかで認識された。しかしながら、LNGは、以下に挙げる運航上の課題を海運業界に突きつける。海洋環境で低温液体を船上貯蔵するには、船舶のバンカー燃料貯蔵及び燃料移送システムの大幅な改修及び交換が必要となること;LNGの供給は、世界の主要港においてどこでも利用できるものでは決してないこと;航海に出る前に、LNG又は二元燃料エンジンの操作に関する乗組員資格の更新及び訓練が必要となること。
【0013】
硫黄非含有バイオ燃料:MARPOL要件の順守を達成するために提案された別の一次的解決策は、HMFOを硫黄非含有バイオ燃料に置き換えることである。バイオディーゼルは、石油由来ディーゼルに取って代わることにある程度成功したが、供給は制約されたままである。メタノールは、北海ECAにおいてフェリー等の沿岸船でのいくつかの近海業務に使用されてきた。バイオディーゼルやメタノール等のバイオ燃料の普及にあたっては、船主及びバンカー燃料業界に多くの課題が突きつけられる。これらの課題としては以下のものが挙げられる。燃料システムの互換性及び既存の燃料システムの適合が必要となること;メタノール及びバイオディーゼルの長期貯蔵中に水による汚染及び生物学的汚染が起こること;1トン当たりのメタノール及びバイオディーゼルの熱含量がHMFOよりも大幅に低いこと;メタノールは蒸気圧が高く、フラッシュ火災に対して重大な安全性への懸念があること。
【0014】
重質燃料油の舶用軽油又は舶用ディーゼルへの置き換え:提案されている三つ目の一次的解決策は、HMFOを舶用軽油(MGO)又は舶用ディーゼル(MDO)に単に交換することである。最初の大きな問題は、MGO及びMDOの90体積%超を構成する留出材料の世界的供給に制約があることである。MGOを生産するための有効な余剰生産能力は1年当たり1億メートルトン未満であり、その結果、年間の舶用燃料の不足量が1年当たり2億メートルトンを超えることが報告されている。製油業者は、MGOの生産量を増やす能力を欠いているだけでなく、地上輸送システム(すなわち、トラック、列車、公共交通機関、建設重機等)用の超低硫黄ディーゼル燃料からより高い価値及びより高い利益が得られるため、経済的動機も持っていない。
【0015】
ブレンド:別の一次的解決策は、HMFOを、低硫黄の舶用ディーゼル(硫黄分0.1重量%)等の硫黄含有量の低い燃料とブレンドして、硫黄含有量が0.5重量%のHMFO製品を得ることである。直線ブレンド法(線形ブレンドに基づく)では、硫黄濃度0.5重量%のHMFOを得るためには、HSFO(硫黄分3.5%)1トン毎に、S含有量が0.1重量%のMGO又はMDO材料7.5トンが必要になる。燃料ブレンドの当業者であれば、ブレンドによってHMFOの基本的特性が損なわれること、具体的には粘度及び密度が大幅に変わることがすぐに理解できるであろう。さらに、ブレンド工程の結果、燃料の粘度及び密度が変化して、もはやHMFOの要件を満たさないものになる恐れもある。
【0016】
ブレンドしていないHMFO用に異なる仕様に設計された燃料供給インフラ及び船上システムにブレンドしたHMFOを導入すると、さらなる問題が生じる恐れもある。2種類の燃料を混合する際の不相容性という現実的なリスクがある。主にパラフィン系の留出燃料(MGO又はMDO)を芳香族含有量が高いHMFOとブレンドすると、アスファルテンの溶解度の悪化につながることが多い。ブレンドした燃料では、留出材料からアスファルテン及び/又は高パラフィン物質が析出して、手に負えない燃料タンクスラッジを形成しやすい。燃料タンクスラッジは、フィルター及びセパレータ、移送ポンプ及びラインの目詰まりを起こし、貯蔵タンク中にスラッジを蓄積させ、燃料注入ポンプにくっつき(プランジャー及びバレルに沈着し)、燃料ノズルを詰まらせる。主要な推進システムに対するこのようなリスクは、外洋の貨物船には許容できない。
【0017】
最後に、HMFOと舶用留出製品(MGO又はMDO)とのブレンドは、経済的に実行可能ではない。ブレンダは、高価値製品(S含有量0.1%の舶用軽油(MGO)又は舶用ディーゼル(MDO))を取り込み、それを低価値の高硫黄HMFOと7.5:1でブレンドして、IMO/MARPOLに適合したHMFO最終製品(すなわち、S含有量0.5重量%の低硫黄舶用重質燃料油(LSHMFO))を製造することになる。LSHMFOは、1トン当たりの価格が両ブレンドストックの単独の値よりも低い価格で販売されると見込まれる。
【0018】
残渣油の処理:過去数十年の間、重油(原油、ディストレスト油又は残渣油)の処理に関する製油業界の研究努力は、これらの低価値精製プロセス油の特性を高めて、より軽質でより価値の高い油を製造することに重点が置かれていた。その課題は、原油、ディストレスト油及び残渣油が不安定な場合があり、高濃度の硫黄、窒素、リン、金属(特にバナジウム及びニッケル)及びアスファルテンを含有することであった。ニッケル及びバナジウムの大半は、ポルフィリンとのキレートを除去するのが困難である。バナジウム及びニッケルポルフィリン等の金属有機化合物は、製油所における触媒汚染及び腐食問題に関与している。硫黄、窒素及びリンは、常圧又は減圧蒸留塔の下流工程で用いられる貴金属(プラチナ及びパラジウム)触媒に対する周知の触媒毒であるため、除去される。
【0019】
常圧又は減圧残油ストリームを処理する難しさが長年知られており、多くの研究調査の課題となっている。1)より価値のある、好ましくは留出油範囲の炭化水素製品を製造すること、及び2)硫黄、窒素、リン、金属、アスファルテン等の汚染物を濃縮して、製油所ストリームから除去される形態(コークス、重質コーカー残油、FCCスラリー油)にすることという同じ目標を掲げる数々の残渣油変換プロセスが開発された。製油業界でよく知られた慣行は、反応過酷度を高めて(高温及び高圧)、より軽質でより精製された炭化水素製品を製造すること、触媒寿命を延ばすこと、及び、製油所ストリームから硫黄、窒素、リン、金属及びアスファルテンを除去することである。
【0020】
上記プロセスにおいて、得られる製品、触媒寿命、最終的にはプロセスの経済的実行可能性に対して原料の性質が著しい影響を与えることもよく知られている。代表的な論文である非特許文献1では、「結果から、試験に使用された原料に応じて活性に著しい変化が見られることが明らかとなった。この研究によって、残渣油水素化処理を行うための段階的触媒システムの触媒候補の性能評価及び選別に使用される原料を適切に選択することの重要性が確認された。」と記載されている。このことから、当業者であれば、常圧残油の有効な水素化処理に必要な条件は、減圧残油の有効な水素化処理に対しては適用できず、後者の条件もビスブレーカ残油の有効な水素化処理に対しては適用できないことなどが理解できるであろう。有効な反応条件は原料によって異なる。この理由から、現代の複合型製油所は複数の水素化処理設備を備え、各設備は特定の炭化水素ストリームを対象としており、価値が高く望ましい軽質炭化水素を製造することと、及び下流次工程に許容される製品を提供することに重点を置いている。
【0021】
重質残渣油等の重質炭化水素の処理のさらなる問題は、各中間製油所ストリームの固有の不安定性である。当業者であれば、各製油所ストリームを分離して扱うことに対して多くの実用的な理由があることを理解できる。そのような理由の1つは、各ストリームに含まれるアスファルテンの性質が予測不能なことである。アスファルテンは、製油所炭化水素ストリームから析出する傾向がある大きくて複雑な炭化水素である。当業者には分かるように、成分又は物理的条件(温度、圧力)の小さな変化であっても、本来は溶液に溶解しているであろうアスファルテンを析出させる恐れがある。溶液から析出すると、アスファルテンは基本ライン、制御バルブを即座に塞ぎ、重要な検出装置(すなわち温度及び圧力センサ)を覆い、その結果、通常は、一部の設備又は製油所全体の非常にコストのかかる重大な混乱及び運転停止につながる恐れがある。この理由から、中間製品ストリーム(常圧残油、減圧残油、FCCスラリー油等)をブレンドせず、各ストリームを別々の反応器で処理することが製油所内での長年の慣行であった。
【0022】
まとめると、全世界でのHMFO中の硫黄濃度を低減するMARPOL基準が発表されて以来、原油の製油業者はHMFOに対する低硫黄代用品を製造する技術的努力を行っていない。政府による強い経済的誘因や国際海運業界のニーズにもかかわらず、製油業者には、HMFOからの環境汚染物の除去に取り組む経済的理由がほとんどない。それどころか、世界の製油業界は、軽質炭化水素(すなわちディーゼル及びガソリン)を製造することで各油バレルからより高い価値を生み出し、環境汚染物を濃縮してますます価値の低いストリーム(すなわち残油)及び製品(石油コークス、HMFO)にすることに重点を置いている。船舶会社は、浄化(スクラビング)設備の設置や、HMFOの代用品としてより高価な低硫黄舶用ディーゼル及び舶用軽油を限定的に採用するなど、短期的解決策を重視している。外洋においては、全てではないとしてもほとんどの主要な船舶会社は、最も経済的に実行可能な燃料、すなわちHMFOを利用し続けている。HMFOを外航船に動力を供給する最も経済的且つ実用的な手段としている品質及び特性を変えることなく、HMFOから環境汚染物(すなわち硫黄、窒素、リン、金属、特にバナジウム及びニッケル)を除去するプロセス及び装置に対するニーズは、長年にわたって満たされないままである。さらに、適商性のあるISO8217HMFOに必要とされるバルク特性にも適合するIMO適合低硫黄(すなわち硫黄分0.5重量%)又は超低硫黄(硫黄分0.10重量%)HMFOに対するニーズも、長年にわたって満たされないままである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Residual-Oil Hydrotreating Kinetics for Graded Catalyst Systems:Effects of Original and Treated Feedstocks
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
舶用重質燃料油(HMFO)の望ましい特性の変化を最小限にし、副産物炭化水素(すなわち、軽質炭化水素(C~C)及び粗ナフサ(C~C20))の不必要な生成を最小限にするプロセスにおいてHMFO中の環境汚染物を低減することが一般的な目的である。
【課題を解決するための手段】
【0025】
第一の態様及び例示的実施形態は、舶用重質燃料油原料中の環境汚染物を低減するプロセスであって、所定量の上記舶用重質燃料油原料を所定量の活性化ガス混合物と混合して原料混合物を得ること、上記原料混合物を1種以上の触媒と接触させて上記原料混合物からプロセス混合物を調製すること、上記プロセス混合物を受け入れ、上記プロセス混合物の気体成分及び副産物炭化水素成分から上記プロセス混合物の液体成分である舶用重質燃料油製品を分離すること、及び、上記舶用重質燃料油製品を排出することを含むプロセスを包含する。
【0026】
第二の態様及び例示的実施形態は、体積基準で少なくとも多量、好ましくは85体積%、より好ましくは少なくとも90体積%、最も好ましくは少なくとも95体積%、の舶用重質燃料油製品から本質的になる炭化水素燃料組成物(本明細書中、舶用重質燃料組成物という)であって、上記舶用重質燃料油製品が、舶用重質燃料油原料中の環境汚染物を低減する開示プロセスから得られるか、あるいは場合によっては該プロセスを実施する装置により製造される、組成物を包含する。上記舶用重質燃料組成物における体積の残りは希釈材であってもよいが、HMFO製品と混合した際に、舶用残渣燃料のバルク特性についてISO8217:2017規格に適合しない混合物とはならず、MARPOL世界基準の硫黄分(ISO14596又はISO8754)0.5重質%よりも少ない硫黄含有量を達成する。
【0027】
第三の態様及び例示的実施形態は、HMFO原料中の環境汚染物を低減し、HMFO製品を製造する装置を包含する。上記例示的装置は、第一容器と、上記第一容器と流体連通する第二容器と、上記第二容器と流体連通する第三容器と、上記HMFO製品を排出するための上記第三容器から延びた排出ラインとを有する。上記第一容器は、所定量の活性化ガス混合物と混合した所定量の上記HMFO原料を受け入れ、得られた混合物を特定のプロセス条件下で1種以上の触媒と接触させてプロセス混合物を調製する。上記第二容器は、上記第一容器から出た上記プロセス混合物を受け入れ、上記プロセス混合物中のバルク気体成分から液体成分を分離する。上記バルク気体成分はさらなる処理へ送られる。上記液体成分は上記第三容器へと送られ、上記第三容器は、処理したHMFO製品から残留気体成分及び副産物炭化水素成分(主に軽質分及び粗ナフサ)を分離し、その後、上記HMFO製品は排出される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】HMFO製品を製造するプロセスのプロセスフロー図である。
図2】HMFO製品を製造するプラントの基本的な概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書に記載した発明概念は、当業者には周知であるはずの用語を用いているが、特定の意味を意図した用語も用いられているので、これらの用語を以下に定義する。
【0030】
舶用重質燃料油(HMFO):環境汚染物の濃度は別として、舶用残渣燃料のバルク特性についてISO8217:2017規格に適合する石油製品燃料である。
【0031】
環境汚染物:燃焼時にSOx、NOx及び粒子状物質の生成をもたらすHMFOの有機及び無機成分である。
【0032】
HMFO原料:環境汚染物の濃度は別として、舶用残渣燃料のバルク特性についてISO8217:2017規格に適合する石油製品燃料である。HMFO原料の硫黄含有量がMARPOL世界基準の硫黄分0.5重量%より多いことが好ましく、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が5.0重量%~1.0重量%の範囲であることが好ましい。
【0033】
舶用重質燃料組成物:少なくとも85体積%のHMFO製品と15体積%以下の希釈材とから本質的になる炭化水素燃料組成物であり、舶用残渣燃料のバルク特性についてISO8217:2017規格に適合し、硫黄含有量がMARPOL世界基準の硫黄分(ISO14596又はISO8754)0.5重量%よりも少ない。
【0034】
希釈材:HMFO製品に混合されたり、組み合わせられたり、添加されたりする炭化水素若しくは非炭化水素材料や、HMFO製品に懸濁される固体であり、それが含まれていても、舶用残渣燃料のバルク特性についてISO8217:2017規格に適合しない混合物となったり、MARPOL世界基準の硫黄分(ISO14596又はISO8754)0.5重質%よりも多い硫黄含有量となったりすることはない。
【0035】
HMFO製品:舶用残渣燃料のバルク特性についてISO8217:2017規格に適合する石油製品燃料であり、MARPOL世界基準の硫黄分(ISO14596又はISO8754)0.5重量%よりも少ない硫黄含有量を達成し、好ましくは、最大硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.05重量%~1.0重量%の範囲である。
【0036】
活性化ガス:HMFO原料から環境汚染物を除去するために触媒と組み合わせたプロセスで用いられるガスの混合物である。
【0037】
流体連通:第一容器又は位置から第二容器又は位置へ流体(固体を懸濁させたものであってもよい液体、気体又は両方のいずれか)を移送する能力であり、パイプ(ラインともいう)、スプール、バルブ、中間保持タンク又はサージタンク(ドラムともいう)によりなされる接続を包含してもよい。
【0038】
適商品質:意図した通常の目的(すなわち、海洋船舶の残渣燃料源としての使用)に適しており、舶用重質又は残渣バンカー燃料として市販でき、該燃料と代替可能であるような舶用残渣燃料油の品質レベルである。
【0039】
Bbl又はbbl:石油の標準的な体積単位である。1bbl=0.1589873m又は1bbl=158.9873リットル又は1bbl=42.00米国液量ガロン。
【0040】
Bpd:1日当たりのBblの略語である。
【0041】
SCF:気体の標準立方フィートの略語である。標準立方フィート(14.73psi及び60°F)は0.0283058557標準立方メートル(101.325kPa及び15℃)に等しい。
【0042】
本発明の概念を図面を参照して本明細書中でより詳細に説明する。図1は、第一の例示的実施形態に従ってHMFO原料中の環境汚染物を低減し、HMFO製品を製造するための一般化されたブロックプロセスフローを示す。所定量のHMFO原料(2)を所定量の活性化ガス(4)と混合して原料混合物を得る。利用するHMFO原料は、通常、環境汚染物は別として、ISO8217:2017に適合する舶用残渣燃料油のバルク物性及び特定の基本的化学特性を満たす。より具体的には、環境汚染物が硫黄である場合、HMFO原料中の硫黄濃度は、5.0重量%~1.0重量%の範囲であってもよい。HMFO原料は、50℃の最大動粘度(ISO3104)が180mm/秒~700mm/秒の範囲、15℃の最大密度(ISO3675)が991.0kg/m~1010.0kg/mの範囲、CCAIが780~870、引火点(ISO2719)が60.0C以上というISO8217:2017適合HMFOに必要とされるバルク物性を有するべきである。粒子状物質(PM)の生成に関連するHMFO原料の他の特性として、エージングによる最大全セジメント(ISO10307-2)が0.10重量%、マイクロ法による最大残留炭素分(ISO10370)が18.00重量%~20.00重量%の範囲、最大アルミニウム+ケイ素(ISO10478)含有量が60mg/kgであることが挙げられる。ISO要件に照らしてHMFO原料中に含まれ得ると考えられる硫黄以外の環境汚染物として、本発明のプロセスにより大幅に低減されるバナジウム、ニッケル、鉄、アルミニウム及びケイ素が挙げられる。しかしながら、当業者であれば、バナジウム含有量がこれらの他の環境汚染物の一般的な指標となることを理解するであろう。好ましい一実施形態において、バナジウム含有量はISOに適合しており、MHFO原料の最大バナジウム含有量(ISO14597)は350mg/kg~450ppm mg/kgの範囲である。
【0043】
活性化ガスの特性に関して、活性化ガスは、窒素、水素、二酸化炭素、水蒸気及びメタンの混合物から選択されるべきである。活性化ガス中のガスの混合物は、水素の理想気体分圧(PH2)が活性化ガス混合物の全圧(P)の80%を超えるべきであり、活性化ガスの水素の理想気体分圧(PH2)が活性化ガス混合物の全圧(P)の95%を超えることがより好ましい。当業者には理解されるであろうが、活性化ガスのモル含有量は別の基準であり、活性化ガスの水素モル分率は、活性化ガス混合物の全モル数の80%~100%の範囲であるべきであり、活性化ガスの水素モル分率は、活性化ガス混合物の全モル数の80%~99%であることがより好ましい。
【0044】
原料混合物(すなわちHMFO原料と活性化ガスとの混合物)を温度及び圧力についてプロセス条件とし、第一容器、好ましくは反応容器に投入してから、原料混合物を1種以上の触媒(8)と接触させて原料混合物からプロセス混合物を調製する。
【0045】
プロセス条件は、活性化ガスの量とHMFO原料の量との比が、HMFO原料に対してガスが250scf/bbl~10,000scf/bbl、好ましくはHMFO原料に対してガスが2000scf/bbl~5000scf/bbl、より好ましくはHMFO原料に対してガスが2500scf/bbl~4500scf/bblとなるように選択される。プロセス条件は、第一容器中の全圧が250psig~3000psig、好ましくは1000psig~2500psig、より好ましくは1500psig~2200psigとなるように選択される。プロセス条件は、第一容器内の表示温度が500°F~900°F、好ましくは650°F~850°F、より好ましくは680°F~800°Fとなるように選択される。製品硫黄濃度が0.5重量%未満となる脱硫を達成するために、プロセス条件は、第一容器内の液空間速度が0.05(油)/時間/m(触媒)~1.0(油)/時間/m(触媒)、好ましくは0.08(油)/時間/m(触媒)~0.5(油)/時間/m(触媒)、より好ましくは0.1(油)/時間/m(触媒)~0.3(油)/時間/m(触媒)となるように選択される。
【0046】
当業者であれば、プロセス条件が設備の水理的能力を考慮して決定されることを理解するであろう。処理設備の水理的能力は、例えば、HMFO原料が100bbl/日~100,000bbl/日、好ましくはHMFO原料が1000bbl/日~60,000bbl/日、より好ましくはHMFO原料が5,000bbl/日~45,000bbl/日、さらに好ましくはHMFO原料が10,000bbl/日~30,000bbl/日であってもよい。
【0047】
上記プロセスは、沸騰床担持遷移金属不均一触媒、固定床担持遷移金属不均一触媒、及び、沸騰床担持遷移金属不均一触媒と固定床担持遷移金属不均一触媒との組合せからなる群より選択される1種以上の触媒システムを用いてもよい。当業者であれば、固定床担持遷移金属不均一触媒が実施する上で最も技術的に容易であり、好ましいことを理解するであろう。遷移金属不均一触媒は、多孔質無機酸化物触媒担体及び遷移金属触媒を含む。多孔質無機酸化物触媒担体は、アルミナ、アルミナ/ボリア担体、金属含有アルミノシリケートを含む担体、アルミナ/リン担体、アルミナ/アルカリ土類金属化合物担体、アルミナ/チタニア担体及びアルミナ/ジルコニア担体からなる群より選択される少なくとも1種の担体である。触媒の遷移金属成分は、周期表の6族、8族、9族及び10族からなる群より選択される1種以上の金属である。好ましい例示的実施形態において、遷移金属不均一触媒は、多孔質無機酸化物触媒担体及び遷移金属触媒であり、上記多孔質無機酸化物触媒担体は好ましくはアルミナであり、上記遷移金属触媒は好ましくはNi--Mo、Co--Mo、Ni--W又はNi-Co-Moである。
【0048】
プロセス混合物(10)は、第一容器(8)から取り除かれて、1種以上の触媒と接触した状態から解放され、プロセス混合物のバルク気体成分(16)からプロセス混合物の液体成分(14)を分離するための第二容器(12)、好ましくは気液セパレータ又は高温セパレータ及び低温セパレータへと流体連通によって送られる。気体成分(16)は、目下のプロセスのバッテリーリミットを超えて処理される。この気体成分は、上記プロセスにより副産物炭化水素の一部として不可避的に生成したものであってもよいより軽質な炭化水素(大部分はメタン、エタン及びプロパンだが、一部は粗ナフサ)と活性化ガス成分との混合物からなっていてもよい。
【0049】
液体成分(16)は、HMFO製品(24)から残留気体成分(20)及び副産物炭化水素成分(22)を分離するための第三容器(18)、好ましくは燃料油製品ストリッパシステムへと流体連通によって送られる。残留気体成分(20)は、窒素、水素、二酸化炭素、硫化水素、水蒸気、及びC~C軽質炭化水素からなる群より選択されるガスの混合物であってもよい。この残留ガスは、目下のプロセスのバッテリーリミット外で処理され、第二容器(12)でプロセス混合物(10)から除去された他の気体成分(16)と混合される。液体副産物炭化水素成分(22)は、上記プロセスで不可避的に生成した凝縮性炭化水素であるが、自動車燃料ブレンドプールの一部として利用できるか、あるいは公開市場でガソリン及びディーゼルブレンド成分として販売できるC~C20炭化水素(粗ナフサ)(ナフサ-ディーゼル)及び他の凝縮性軽質液体(C~C)炭化水素からなる群より選択される混合物であってもよい。
【0050】
なお、残留気体成分は、窒素、水素、二酸化炭素、硫化水素、水蒸気、及び軽質炭化水素からなる群より選択されるガスの混合物である。アミンスクラバが硫化水素分を効果的に除去し、その後、硫化水素分は、当業者に周知の技術及びプロセスを用いて処理できる。好ましい一例示的実施形態において、硫化水素は、周知のクラウスプロセスを用いて硫黄元素に変換される。別の実施形態では、硫化水素を硫化水素酸に変換する特許プロセスを利用する。どちらにしても、硫黄は、船舶エンジンでHMFOを燃焼させる前に環境に侵入することなく除去される。浄化されたガスは、排出されるか、燃やされるか、あるいはより好ましくは再循環されて活性化ガスとして使用される。
【0051】
副産物炭化水素成分は、自動車燃料ブレンドプールに送ることができるか、フェンスを越えて隣接した製油所に販売できるか、あるいは加熱器及び燃焼タービンに火を入れるのに利用することで上記プロセスに熱電を供給できるC~C20炭化水素(粗ナフサ)(ナフサ-ディーゼル)の混合物である。これらの副産物炭化水素は、水素化分解反応によるものであるが、全プロセス物質収支の10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは2重量%未満であるべきである。
【0052】
HMFO製品(24)は、目下のプロセスのバッテリーリミットを超えて貯蔵タンクへと流体連通によって排出される。
【0053】
HMFO製品:開示された例示的プロセスから得られるHMFO製品は、舶用重質燃料油(舶用残渣燃料油又は重質バンカー燃料としても知られる)としての販売及び使用に適した適商品質を有しており、HMFO製品が、50Cの最大動粘度(ISO3104)が180mm/秒~700mm/秒の範囲、15℃の最大密度(ISO3675)が991.0kg/m~1010.0kg/mの範囲、CCAIが780~870の範囲、引火点(ISO2719)が60.0℃以上、エージングによる最大全セジメント(ISO10307-2)が0.10重量%、マイクロ法による最大残留炭素分(ISO10370)が18.00重量%~20.00重量%の範囲、最大アルミニウム+ケイ素(ISO10478)含有量が60mg/kgというバルク特性を示すISO適合(すなわちISO8217:2017)舶用残渣燃料油となるのに必要なバルク物性を示す。
【0054】
HMFO製品は、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%未満、好ましくは0.1重量%未満、より好ましくは0.05重量%未満であり、低硫黄、好ましくは超低硫黄のHMFOとしてIMO附属書VI(改訂版)要件に完全に適合する。すなわち、HMFO製品の硫黄含有量は、HMFO原料と比較して約90%以上低減している。同様に、舶用重質燃料油製品のバナジウム含有量(ISO14597)は、舶用重質燃料油原料の最大バナジウム含有量の10%未満、より好ましくは1%未満である。当業者であれば、HMFO原料の硫黄及びバナジウム含有量の大幅な低減は、プロセスがHMFO原料中の環境汚染物の大幅な低減を達成したことを示しており、同様に重要なことには、これが、ISO8217:2017適合HMFOの望ましい特性を維持しつつ達成されたということを理解するであろう。
【0055】
HMFO製品は、ISO8217:2017に適合する(及び舶用残渣燃料油又はバンカー燃料として適商性がある)だけでなく、HMFO製品の最大硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.05重量%~1.0重量%の範囲であり、好ましくは硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.05重量%ppm~0.5重量%の範囲であり、より好ましくは硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.1重量%~0.05重量%の範囲である。HMFO製品のバナジウム含有量は、バナジウム含有量が450ppm mg/kg未満であるISO8217:2017舶用残渣燃料油に必要な最大バナジウム含有量(ISO14597)の範囲内に充分収まり、好ましくはバナジウム含有量(ISO14597)が300mg/kg未満であり、より好ましくはバナジウム含有量(ISO14597)が50mg/kg~100mg/kgの範囲である。
【0056】
舶用燃料ブレンド、バンカー燃料配合、及び海運燃料の燃料物流要件における当業者であれば、さらに組成を変化させたり、ブレンドを行ったりすることなく、現在使用されている高硫黄舶用重質(残渣)燃料油又は重質バンカー燃料の代わりに直接使える低硫黄MARPOL附属書VI適合舶用重質(残渣)燃料油としてHMFO製品を販売及び使用できることがすぐに理解できるであろう。一例示的実施形態は、100%水素化処理したISO8217:2017適合高硫黄舶用重質燃料油を含む(好ましくはそれから本質的になる)ISO8217:2017適合低硫黄舶用重質燃料油であり、上記水素化処理したISO8217:2017適合高硫黄舶用重質燃料油の硫黄濃度が0.5重量%を超え、上記ISO8217:2017適合低硫黄舶用重質燃料油の硫黄濃度が0.5重量%未満である。別の例示的実施形態は、100%水素化処理したISO8217:2017適合高硫黄舶用重質燃料油を含む(好ましくはそれから本質的になる)ISO8217:2017適合超低硫黄舶用重質燃料油であり、上記水素化処理したISO8217:2017適合高硫黄舶用重質燃料油の硫黄濃度が0.5重量%を超え、上記ISO8217:2017適合低硫黄舶用重質燃料油の硫黄濃度が0.1重量%未満である。
【0057】
本発明の結果、燃料供給業界及び海運業界に対する複数の経済的及び物流的恩恵が実現される。実現可能な恩恵として、より具体的には、MARPOL附属書VI(改訂版)の排出要件を順守するために要する既存の舶用重質燃料供給インフラ(貯蔵及び移送システム)に対する変化、船上システムに対する変化が最小限であること、乗組員に追加の訓練又は資格が必要ないことなどが挙げられる。また、製油業者が実現できるであろう複数の経済的及び物流的恩恵としては、数例を挙げると、低硫黄又は超低硫黄HMFOに対する新しい市場需要を満たすために製油所作業及び製品ストリームを変更又は調整する必要がないこと;上記例示的プロセスは独立型設備として実施できるため、水素又は硫黄容量の追加に伴って製油所に設備を追加する必要がないこと;受け入れた原油から最大の価値を生み出す製品(すなわち、石油化学薬品、ガソリン及び留出油(ディーゼル)の生産)に製油所作業の重点を置いたままにできること;製油業者は、HMFO製品の環境要件を満たすためによりスイートな又は軽質な原油に切り替えることなく、既存の候補名簿の原油を使用し続けることができることなどが挙げられる。
【0058】
舶用重質燃料組成物:本発明の概念の一態様は、開示プロセスから得られるHMFO製品を含む、好ましくはそれから本質的になる燃料組成物であり、場合によっては希釈材を含んでもよい。上述したように、HMFO製品自体のバルク特性はISO8217:2017に適合し、最大硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)について全世界的なIMO附属書VI要件を満たす。超低濃度の硫黄が求められれば、本発明のプロセスはこれを達成するが、舶用燃料ブレンドの当業者であれば、低硫黄又は超低硫黄HMFO製品を主要なブレンドストックとして用いて、全世界的なIMO附属書VIに適合する低硫黄舶用重質燃料組成物を調製できることを理解するであろう。そのような低硫黄舶用重質燃料組成物は、a)HMFO製品及びb)希釈材を含む(好ましくはそれらから本質的になる)ことになる。一実施形態において、舶用重質燃料組成物の体積の大部分はHMFO製品であり、残りの分は希釈材である。舶用重質燃料組成物は、少なくとも75体積%、好ましくは少なくとも80体積%、より好ましくは少なくとも90体積%、さらに好ましくは少なくとも95体積%がHMFO製品であり、残りが希釈材であることが好ましい。
【0059】
希釈材は、HMFO製品に混合されたり、組み合わせられたり、添加されたりする炭化水素系若しくは非炭化水素系材料、又はHMFO製品に懸濁される固体粒子材料であってもよい。希釈材は、HMFO製品の組成を意図的に又は非意図的に変えるものであってもよいが、得られる混合物が、舶用残渣燃料のバルク特性についてISO8217:2017規格に適合しなかったり、MARPOL世界基準の硫黄分(ISO14596又はISO8754)0.5重質%よりも少ない硫黄含有量を有さなかったりすることがないようにする。炭化水素系材料として検討される希釈材の例としては、HMFO原料(すなわち高硫黄HMFO);交通用ディーゼル、軽油、MGO又はMDO等の留出油系燃料;カッター油(現在、舶用残渣燃料油の配合に使用される);バイオディーゼル、メタノール、エタノール等の再生可能油及び燃料;ガス液化技術に基づいた合成炭化水素及び油、例えばフィッシャートロプシュ油、ポリエチレン、ポリプロピレン、二量体、三量体、ポリブチレン等に基づいたもの等の完全合成油;製油所残油等の炭化水素油、例えば常圧残油、減圧残油、流動接触分解装置(FCC)スラリー油、FCCサイクル油、熱分解軽油、分解軽質軽油(CLGO)、分解重質軽油(CHGO)、軽質サイクル油(LCO)、重質サイクル油(HCO)、熱分解残油、重質コーカー留出油、ビチューメン、重質脱アスファルト油、ビスブレーカ残油、スロップ油、アスファルト質油;使用済み又は再利用モーター油;潤滑油芳香族抽出物、重質原油、ディストレスト原油等の原油、並びに、先行技術の高硫黄舶用重質(残渣)燃料油の場合には、水素化分解装置に送られるか、あるいはブレンドプールへと転用されるであろう同様な材料が挙げられる。非炭化水素系材料として検討される希釈材の例としては、残留水(すなわち、空気中の湿気から吸収された水、あるいはHMFO製品の炭化水素に、場合によってはマイクロエマルションとして、混和又は可溶化した水)、燃料添加物、例えば、以下に限定されないが、洗剤、粘度調整剤、流動点降下剤、潤滑性調整剤、ヘイズ除去剤(アルコキシル化フェノールホルムアミドポリマー等)、消泡剤(ポリエーテル変性ポリシロキサン等);点火改良剤;防錆剤(コハク酸エステル誘導体等);腐食抑制剤;耐摩耗添加剤、酸化防止剤(フェノール化合物及び誘導体等)、コーティング剤及び表面改質剤、金属不活性化剤、静電気防止剤、イオン性及び非イオン性界面活性剤、安定剤、化粧用着色剤及び付臭剤、並びにこれらの混合物が挙げられる。第三群の希釈材としては、HMFO製品又は舶用重質燃料組成物の取扱い、貯蔵及び輸送の結果含まれる懸濁した固体又は微粒子物質、例えば、以下に限定されないが、懸濁した粒子として含まれ得るが、それ以外ではISO8217:2017適合舶用重質(残渣)燃料としての舶用重質燃料組成物の適商品質を損なわない炭素又は炭化水素固体(コークス、黒鉛固体、微小凝集したアスファルテン等)、鉄錆等の酸化腐食固体、バルク金属微粒子、塗料又は表面コーティング粒子、プラスチック又はポリマー又はエラストマー又はゴム粒子(ガスケット、バルブ部品等の分解により生じるものなど)、触媒微粒子、セラミック又は鉱物粒子、砂、クレー等の土粒子、微生物等の生物学的に生成した固体、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0060】
HMFO製品及び希釈材のブレンドは、低硫黄舶用重質(残渣)燃料として適商品質を有するものでなければならない。すなわち、上記ブレンドは、舶用重質バンカー燃料として意図した使用に適していなければならず、通常は、外航船のバンカー燃料として代替可能でなければならない。好ましくは、舶用重質燃料組成物は、ISO8217:2017適合舶用残渣燃料油に必要とされるバルク物性と、MARPOL附属書VIの低硫黄舶用重質燃料油(LS-HMFO)として認定されるようにMARPOL世界基準の硫黄分(ISO14596又はISO8754)0.5重質%よりも少ない硫黄含有量とを保持しなければならない。上述したように、MARPOL附属書VI(改訂版)の超低硫黄舶用重質燃料油(ULS-HMFO)として認定されるように、HMFO製品の硫黄含有量は0.5重量%よりも著しく少ないもの(すなわち硫黄分(ISO14596又はISO8754)0.1重質%未満)であってもよく、同様に、舶用重質燃料組成物は、ECA海域で舶用バンカー燃料として使用するのに適したMARPOL附属書VI適合ULS-HMFOとして認定されるように配合することができる。ISO8217:2017認定燃料として認定されるために、本発明の舶用重質燃料組成物は、50Cの最大動粘度(ISO3104)が180mm/秒~700mm/秒の範囲、15℃の最大密度(ISO3675)が991.0kg/m~1010.0kg/mの範囲、CCAIが780~870の範囲、引火点(ISO2719)が60.0℃以上、エージングによる最大全セジメント(ISO10307-2)が0.10重量%、マイクロ法による最大残留炭素分(ISO10370)が18.00重量%~20.00重量%の範囲、最大アルミニウム+ケイ素(ISO10478)含有量が60mg/kgという国際的に認められた基準を満たさなければならない。
【0061】
生産プラントの説明:次に生産プラントのより詳細な例示的実施形態を参照すると、図2は、第二の例示的実施形態に従ってHMFO原料中の環境汚染物を低減してHMFO製品を製造するための上記プロセスを実施する生産プラントの概略図を示す。複数の反応器が用いられた別の実施形態の生産プラントは、本発明の範囲内であり、同時係属中の開示において説明する。
【0062】
図2において、HMFO原料(A)は、バッテリーリミット外(OSBL)から油フィードサージドラム(1)へ供給され、油フィードサージドラム(1)は、バッテリーリミット外(OSBL)からのフィードを受け入れ、設備の円滑な運転を確保するのに充分なサージ容量を提供する。フィードに同伴された水は、HMFOから除去され、OSBLで処理されるストリーム(1c)として排出される。
【0063】
HMFO原料(A)は、油フィードポンプ(3)によってライン(1b)を介して油フィードサージドラム(1)から取り出され、上記プロセスに必要な圧力まで加圧される。加圧HMFO(A’)は、その後、ライン(3a)を通過して油フィード/製品熱交換器(5)へ至り、そこで、加圧HMFOフィード(A’)は、HMFO製品(B)により部分的に加熱される。HMFO製品(B)は、硫黄含有量が5000ppmw未満、好ましくは1000ppmw未満の炭化水素ストリームである。HMFO原料及びHMFO製品中の炭化水素はC12~C70+の範囲であり、沸点範囲は350°F~1110+Fである。ライン(5a)を通過する加圧HMFO原料(A’)は、反応器フィード/エフルエント熱交換器(7)において反応器システム(E)から出たエフルエントによってさらに加熱される。
【0064】
ライン(7a)中の加熱加圧HMFO原料(A’’)は、その後、混合点(X)においてライン(23c)を介して供給された活性化ガス(C)と混合されて原料混合物(D)を調製する。混合点(X)は、当業者に周知のあらゆる気体/液体混合システム又は巻込み機構であってもよい。
【0065】
原料混合物(D)はライン(9a)を通過して反応器フィード炉(9)に至り、そこで、原料混合物(D)は特定のプロセス温度まで加熱される。反応器フィード炉(9)は、原料混合物の温度をプロセス条件に所望される温度まで上昇させるものであれば、当業者に公知の燃焼加熱炉等のあらゆる種類の加熱器であってもよい。
【0066】
完全に加熱された原料混合物(D’)は、ライン9bを介して反応器フィード炉(9)を出てから反応器システム(11)へと供給される。完全に加熱された原料混合物(D’)は反応器システム(11)に入り、そこで硫黄、窒素、金属等の環境汚染物が、完全に加熱された原料混合物のHMFO原料成分から優先的に除去される。反応器システムは触媒を含み、該触媒は、HMFO原料成分中の硫黄化合物を活性化ガス中の水素と反応させて硫化水素を生成することで該硫黄化合物を優先的に除去する。反応器システムでは、脱金属反応、脱窒素反応、並びに複雑な芳香族化合物及びアスファルテンのある程度の開環水素化反応も行われるが、炭化水素の水素化分解は最小限にするべきである。水素分圧、反応圧力、温度、及び時間空間速度で測定される滞留時間というプロセス条件は、所望の最終製品品質が得られるように最適化される。反応器システム、触媒、プロセス条件等のプロセスの様相のより詳細な考察は、以下の「反応器システムの説明」に含まれる。
【0067】
反応器システムエフルエント(E)は、ライン(11a)を介して反応器システム(11)を出てから、反応器フィード/エフルエント交換器(7)において加圧HMFO原料(A’)に対して熱を交換し、部分的に加熱する。部分的に冷却された反応器システムエフルエント(E’)は、その後、ライン(11c)を介して高温セパレータ(13)へと流れる。
【0068】
高温セパレータ(13)は、ライン(13b)へ送られる反応器システムエフルエントの液体成分(G)から、ライン(13a)へ送られる反応器システムエフルエントの気体成分(F)を分離する。ライン(13a)中の反応器システムエフルエントの気体成分は、高温セパレータ蒸気空気冷却器(15)中の空気によって冷却された後、ライン(15a)を介して低温セパレータ(17)へと流れる。
【0069】
低温セパレータ(17)は、反応器システムエフルエントの冷却された気体成分(F’)中の液体成分から残留する気体成分をさらに分離する。低温セパレータから出た気体成分(F’’)は、ライン(17a)へ送られ、アミンアブソーバ(21)に供給される。低温セパレータ(17)は、低温セパレータで凝縮された液体状の水(I)から残留する低温セパレータ炭化水素液(H)もライン(17b)中に分離する。低温セパレータで凝縮された液体状の水(I)は、ライン(17c)を介してOSBLへ送られて処理される。
【0070】
ライン(13b)中の高温セパレータから出た反応器システムエフルエントの炭化水素液体成分(G)及びライン(17b)中の低温セパレータ炭化水素液(H)は混合され、油製品ストリッパシステム(19)に供給される。油製品ストリッパシステム(19)は、HMFO製品(B)から残留水素及び硫化水素を除去し、HMFO製品(B)は、ライン(19b)で排出されてOSBLで貯蔵される。ライン(19a)中の油製品ストリッパから出たベントストリーム(M)は、OSBLにある燃料ガスシステム又はフレアシステムへと送られてもよい。油製品ストリッパシステムのより詳細な考察は、「油製品ストリッパシステムの説明」に含まれる。
【0071】
ライン(17a)中の低温セパレータから出た気体成分(F’’)は、水素、硫化水素及び軽質炭化水素(大部分はメタン及びエタン)の混合物を含む。この蒸気ストリーム(17a)は、アミンアブソーバ(21)に供給され、そこでOSBLからライン(21a)を介してアミンアブソーバ(21)に供給された薄アミン(J)と接触させて、活性化ガス再循環ストリーム(C’)を構成するガスから硫化水素を除去する。硫化水素を吸収した濃アミン(K)は、アミンアブソーバ(21)の底部を出てからライン(21b)を介してOSBLへ送られて、アミン再生及び硫黄回収が行われる。
【0072】
好ましくは、ライン(21c)中のアミンアブソーバ塔頂蒸気は、再循環圧縮器(23)及びライン(23a)を介して再循環活性化ガス(C’)として上記プロセスへ再循環され、ライン(23a)中で、ライン(23b)によりOSBLから供給された補充活性化ガス(C’’)と混合される。この再循環活性化ガス(C’)及び補充活性化ガス(C’’)の混合物は、上述したようにライン(23c)を介して上記プロセスで用いられる活性化ガス(C)を調製する。アミンアブソーバ塔頂蒸気ライン(21c)から浄化されたパージガスストリーム(H)が取り出され、ライン(21d)を介してOSBLへ送られることで、軽質炭化水素等の非凝縮性物質の蓄積が防止される。
【0073】
反応器システムの説明:図2に示す反応器システム(11)は、当業者にはすぐに理解されるように、プロセス触媒が充填された単一の反応容器と、充分な制御装置、バルブ及びセンサとを有する。
【0074】
複数の反応容器が図3Aに示すように並列に用いられるか、あるいは図3Bに示すようにカスケード状に直列に用いられる別の反応器システムは、図2に示す単一反応容器型反応器システム(11)と容易に置き換えることができる。そのような実施形態において、複数の反応容器のそれぞれは並列に置かれ、それぞれには同様にプロセス触媒が充填されており、加熱された原料混合物(D’)が共通のラインを介して供給される。3つの反応器それぞれから出たエフルエントは、共通のライン中で再混合され、混合反応器エフルエント(E)が調製され、上述したようにさらに処理される。例示された構成では、3つの反応器が並行して上記プロセスを実施することで、全反応器システムの水理的能力を効果的に増大できることになる。制御バルブ及び遮断バルブを使用することで、フィードが一方の反応容器に入らないが、他の反応容器には入れるようにすることもできる。このようにして、一方の反応器を迂回し、運転を停止させて、触媒の保守及び再充填を行うことができ、残った反応器は、加熱された原料混合物(D’)を受け入れ続ける。当業者であれば、この並列の反応容器の構成は3つという個数に限定されず、複数の追加反応容器を追加できることを理解するであろう。並列反応容器の個数に対する唯一の制限は、区画間隔と、加熱された原料混合物(D’)を各有効反応器へ供給できる能力である。
【0075】
別の例示的実施形態において、カスケード状反応容器には、除去すべき金属、硫黄等の環境汚染物に対して同じ又は異なる活性を有するプロセス触媒が充填されている。例えば、一方の反応器には、活性の高い脱金属触媒が充填されていてもよく、第二の後続又は下流反応器には、平衡状態の脱金属/脱硫触媒が充填されていてもよく、第二反応器の下流にある第三反応器には、活性の高い脱硫触媒が充填されていてもよい。これにより、各触媒に合わせるようにプロセス条件(温度、圧力、空間流速度等)をより制御し、平衡を取ることができる。このようにして、特定の反応器/触媒の組合せに供給される材料に応じて各反応器のパラメータを最適化でき、水素化分解反応を最小限にすることができる。上記例示的実施形態と同様に、カスケード状に直列にした複数の反応器を並列に用いることができ、このようにして上述した該構成の恩恵が得られる(すなわち、一方の列を「運転中」にし、他方の列を保守のために「運転停止中」にすることができたり、プラント能力を増大できたりする)。
【0076】
反応器システムを構成する反応器は、固定床、沸騰床若しくはスラリー床、又はこれらの種類の反応器の組合せであってもよい。想定されるように、運転及び保守が容易であることから、固定床反応器が好ましい。
【0077】
反応器システムにおける反応容器には、1種以上のプロセス触媒が充填されている。プロセス触媒システムの厳密な設計は、原料特性、製品要件及び運転制約の関数であり、プロセス触媒の最適化は、当業者による通常の試行錯誤により行うことができる。
【0078】
プロセス触媒は、周期表の6族、8族、9族及び10族に属する各金属からなる群より選択される少なくとも1種の金属を含み、より好ましくは、Ni--Mo、Co--Mo、Ni--W又はNi-Co-Mo等の混合遷移金属触媒が用いられる。金属は、多孔質無機酸化物触媒担体に担持されていることが好ましい。多孔質無機酸化物触媒担体は、アルミナ、アルミナ/ボリア担体、金属含有アルミノシリケートを含む担体、アルミナ/リン担体、アルミナ/アルカリ土類金属化合物担体、アルミナ/チタニア担体及びアルミナ/ジルコニア担体からなる群より選択される少なくとも1種の担体である。好ましい多孔質無機酸化物触媒担体はアルミナである。所望の原料及びプロセス条件を用いて担体の孔径及び金属充填量を体系的に変化させ、試験することで、HMFO製品の特性を最適化できる。そのような作業は当業者には周知であり、通常のものである。固定床反応器中の触媒は、最密充填又はソック充填されたものであってもよい。
【0079】
反応器システム内でその充填に用いられる触媒の選択は、原料混合物がまず脱金属を優先する触媒を有する触媒床に接触し、その下流で脱金属及び脱硫の混合活性を有する触媒床に接触し、その下流で高い脱硫活性を有する触媒床に接触することになる触媒充填スキームを設計することによって脱硫を優先するものであってもよい。実際に、高い脱金属活性を有する第一床は、脱硫床の保護床として機能する。
【0080】
反応器システムの目的は、HMFO製品仕様を満たすのに必要な過酷度でHMFO原料を処理することである。反応器システムの性能が必要レベルの脱硫を達成できるようにプロセス条件を最適化した場合に、脱金属、脱窒素及び炭化水素水素化反応もある程度起こってもよい。上記プロセスに対して副産物炭化水素として生成する炭化水素の量を低減するために、水素化分解を最小限にすることが好ましい。上記プロセスの目的は、HMFO原料から環境汚染物を選択的に除去し、不必要な副産物炭化水素(C1~C8炭化水素)の生成を最小限にすることである。
【0081】
各反応容器におけるプロセス条件は、原料、使用する触媒、及び所望されるHMFO製品の所望の最終特性に依存することとなる。条件の変化は、当業者には予想されるものであり、上記プロセスのパイロットプラント試験及び体系的な最適化により決定できる。この点を踏まえて、運転圧力、表示運転温度、活性化ガスとHMFO原料との比、活性化ガス中の水素分圧及び空間速度はいずれも、考慮すべき重要なパラメータであることが分かった。反応器システムの運転圧力は、250psig~3000psig、好ましくは1000psig~2500psig、より好ましくは1500psig~2200psigの範囲であるべきである。反応器システムの表示運転温度は、500°F~900F、好ましくは650°F~850°F、より好ましくは680°F~800Fであるべきである。活性化ガスの量とHMFO原料の量との比は、HMFO原料に対してガスが250scf/bbl~10,000scf/bbl、好ましくはHMFO原料に対してガスが2000scf/bbl~5000scf/bbl、より好ましくはHMFO原料に対してガスが2500scf/bbl~4500scf/bblの範囲であるべきである。活性化ガスは、活性化ガスの水素の理想気体分圧(PH2)が活性化ガス混合物の全圧(P)の80%を超えるように、窒素、水素、二酸化炭素、水蒸気及びメタンの混合物から選択されるべきであり、活性化ガスの水素の理想気体分圧(PH2)が活性化ガス混合物の全圧(P)の95%を超えることが好ましい。活性化ガスの水素モル分率は、活性化ガス混合物の全モル数の80%~の範囲であってもよく、活性化ガスの水素モル分率は、活性化ガス混合物の全モル数の80%~99%であることがより好ましい。反応器システム内の液空間速度は、製品硫黄濃度が0.1重量%未満となる脱硫を達成するために、0.05(油)/時間/m(触媒)~1.0(油)/時間/m(触媒)、好ましくは0.08(油)/時間/m(触媒)~0.5(油)/時間/m(触媒)、より好ましくは0.1(油)/時間/m(触媒)~0.3(油)/時間/m(触媒)であるべきである。
【0082】
反応器システムの水理的能力速度は、HMFO原料が100bbl/日~100,000bbl/日、好ましくはHMFO原料が1000bbl/日~60,000bbl/日、より好ましくはHMFO原料が5,000bbl/日~45,000bbl/日、さらに好ましくはHMFO原料が10,000bbl/日~30,000bbl/日であるべきである。所望の水理的能力は、単一反応容器型反応器システム又は複数反応容器型反応器システムにおいて達成できる。
【0083】
油製品ストリッパシステムの説明:油製品ストリッパシステム(19)は、HMFO製品から水素、硫化水素、及びディーゼルよりも軽い軽質炭化水素を除去するのに必要なストリッパ塔並びに付属機器及びユーティリティを有する。そのようなシステムは当業者には周知であり、本明細書には一般化した機能の説明を示す。高温セパレータ(13)及び低温セパレータ(7)から出た液体が、油製品ストリッパ塔(19)に供給される。水素、硫化水素、及びディーゼルよりも軽い軽質炭化水素のストリッピングは、リボイラ、生蒸気等のストリッピング媒体を使用して達成できる。油製品ストリッパシステム(19)は、塔頂凝縮器、還流ドラム及び還流ポンプを有する塔頂システムを用いて設計してもよく、あるいは塔頂システムなしで設計してもよい。油製品ストリッパの条件は、HMFO製品のバルク特性、より具体的には粘度及び密度を制御するように最適化できる。
【0084】
アミンアブソーバシステムの説明:アミンアブソーバシステム(21)は、得られる浄化ガスを再循環させて活性化ガスとして使用できるように、低温セパレータ蒸気フィードから酸性ガス(すなわち硫化水素)を除去するのに必要な気液接触塔並びに付属機器及びユーティリティを有する。そのようなシステムは当業者には周知であり、本明細書には一般化した機能の説明を示す。低温セパレータ(17)から出た蒸気が接触塔/システム(19)に供給される。OSBLから供給された薄アミン(又は他の好適な酸性ガスストリッピング流体又はシステム)を用いて、硫化水素を効果的に除去するように低温セパレータ蒸気を浄化する。アミンアブソーバシステム(19)は、再循環活性化ガス(C’)に同伴された水蒸気を除去するガス乾燥システムを用いて設計してもよい。
【0085】
本明細書に開示したプロセスを実施するためのより具体的な例示的実施形態を以下の実施例により当業者に示す。
【実施例0086】
(実施例1)
概説:パイロット試験運転の目的は、特定の条件で市販の触媒を充填した反応器によってHMFO原料を処理して、HMFOから環境汚染物、特に硫黄等の汚染物を除去することにより、MARPOLに適合したHMFO製品を製造することが可能であること、すなわち低硫黄の舶用重質燃料油(LS-HMFO)又は超低硫黄の舶用重質燃料油(USL-HMFO)の製造を実証することである。
【0087】
パイロット設備のセットアップ:HMFO原料を処理するために直列に配置された2つの434cm反応器を用いてパイロット設備をセットアップする。先頭の反応器には、市販の水素化脱金属(HDM)触媒と市販の水素化遷移(HDT)触媒とのブレンドを充填する。当業者であれば、所望の中間/遷移活性レベルを達成するようにHDM触媒及びHDS触媒の混合物を不活性材料と組み合わせて、HDT触媒層を形成及び最適化できることを理解するであろう。第二反応器には、市販の水素化遷移(HDT)と市販の水素化脱硫(HDS)とのブレンドを充填する。別の方法として、市販の水素化脱硫(HDS)触媒のみを第二反応器に充填することもできる。当業者であれば、HMFO原料の特定のフィード特性が、反応器システムにおけるHDM、HDT及びHDS触媒の比率に影響することを理解するであろう。同じフィードで異なる組合せを試験する体系的なプロセスによって、いずれの原料及び反応条件に対しても最適化された触媒の組合せが得られる。本例では、第一反応器には、2/3は水素化脱金属触媒を、1/3は水素化遷移触媒を充填する。第二反応器には、全て水素化脱硫触媒を充填する。各反応器中の触媒は、液分配を向上させ、反応器温度をより制御するためにガラスビーズ(約50体積%)と混合する。このパイロット試験運転では、上記市販の触媒としてHDM:Albemarle KFR20シリーズ又は同等物、HDT:Albemarle KFR30シリーズ又は同等物、HDS:Albemarle KFR50若しくはKFR70又は同等物を使用すべきである。パイロット設備のセットアップが完了すれば、当業者に周知の方法によりジメチルジスルフィド(DMDS)で触媒を硫化して触媒を活性化できる。
【0088】
パイロット設備の運転:活性化工程が終了すると、パイロット設備は、HMFO原料及び活性化ガスフィードを受け入れできる状態となる。本例では、活性化ガスは、工業用グレード又はそれ以上の水素ガスであってもよい。混合したHMFO原料及び活性化ガスは、以下に記載されるような速度及び運転条件でパイロットプラントへ供給する。油供給速度:108.5ml/h(空間速度=0.25/h)、水素/油比:570Nm3/m3(3200scf/bbl)、反応器温度:372℃(702°F)、反応器出口圧力:13.8MPa(g)(2000psig)。
【0089】
当業者であれば、フィード特性に応じて速度及び条件を体系的に調節及び最適化することで、所望の製品要件を達成できることが分かるであろう。上記設備は、各条件に対して定常状態に置き、分析試験が完了するように全試料を採取する。各条件の物質収支は、次の条件に移る前に閉じるべきである。
【0090】
HMFO原料特性に対して予想される影響は以下の通りである。硫黄含有量(重量%):少なくとも80%低減、金属含有量(重量%):少なくとも80%低減、MCR/アスファルテン含有量(重量%):少なくとも30%低減、窒素含有量(重量%):少なくとも20%低減、C1~ナフサ収量(重量%):3.0%以下、好ましくは1.0%以下。
【0091】
パイロット設備におけるプロセス条件を表4のように体系的に調節することで、プロセス条件の影響を評価し、用いた特定の触媒及びHMFO原料に対して上記プロセスの性能を最適化することができる。
【0092】
【表A】
【0093】
このようにして、パイロット設備の条件を最適化して硫黄分0.5重量%未満のHMFO製品、好ましくは硫黄分0.1重量%のHMFO製品を得ることができる。ULS-HMFO(すなわち硫黄分0.1重量%のHMFO製品)を製造する条件は以下の通りである。HMFO原料供給速度:65.1ml/h(空間速度=0.15/h)、水素/油比:620Nm/m(3480scf/bbl)、反応器温度:385℃(725°F)、反応器出口圧力:15MPa(g)(2200psig)。
【0094】
表5にHMFOの基本的特性に対して予想される影響をまとめる。
【0095】
【表B】
【0096】
表6には、HMFO原料及びHMFO製品の特性決定のために行う分析試験を記載する。分析試験には、ISOによってHMFO原料及びHMFO製品がISO適合舶用残渣燃料として認定され、商業取引されるのに必要とされるものが含まれる。当業者が本発明のプロセスの有効性を理解及び認識できるように追加のパラメータを示す。
【0097】
【表C】
【0098】
表7は、本発明のプロセスから予想されるHMFO原料の分析試験結果及びHMFO製品の分析試験結果を含み、LS HMFOの製造が示される。当業者には、上記条件下では、炭化水素分解のレベルが、全物質収支のほぼ10%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは1%未満のレベルまで最小限に抑えられることが分かるであろう。
【0099】
【表D-1】
【0100】
【表D-2】
【0101】
本発明のプロセスにより製造されるHMFO製品は、プロセスパラメータを体系的に変化させること、例えば、空間速度を低下させたり、使用するHMFO原料の初期硫黄含有量を少なくしたりすることによって、ULS HMFO制限値(すなわち硫黄分0.1重量%のHMFO製品)に到達する。
【0102】
(実施例2:RMG-380 HMFO)
パイロット設備のセットアップ:以下の点を変更した他は上述した実施例1と同様にしてパイロット設備をセットアップした。第一反応器には、原料に接する第一(上)層として70体積%のAlbemarle KFR20シリーズ水素化脱金属触媒と、第二(下)層として30体積%のAlbemarle KFR30シリーズ水素化遷移触媒とを充填した。第二反応器には、第一(上)層として20%のAlbemarle KFR30シリーズ水素化遷移触媒と、第二(下)層として80体積%の水素化脱硫触媒とを充填した。当業者に周知の方法によりジメチルジスルフィド(DMDS)で触媒を硫化して触媒を活性化した。
【0103】
パイロット設備の運転:活性化工程が終了すると、パイロット設備は、HMFO原料及び活性化ガスフィードを受け入れできる状態となっていた。活性化ガスは、工業用グレード又はそれ以上の水素ガスであった。HMFO原料は、硫黄含有量(2.9重量%)が多いが適商性のある市販のISO8217:2017適合HMFOであった。混合したHMFO原料及び活性化ガスは、下記表8に記載されるような速度及び条件でパイロットプラントに供給した。条件を変化させて、HMFO製品材料中の硫黄濃度を最適化した。
【0104】
【表E】
【0105】
HMFO原料の代表試料及びHMFO製品の代表試料の分析データを以下に示す。
【0106】
【表F-1】
【0107】
【表F-2】
【0108】
上記表7に記載する通り、HMFO原料及びHMFO製品の両者で観察されたバルク特性は、HMFO製品の硫黄含有量が、HMFO原料と比較して上述したように著しく低減したことを除いて、適商性のある舶用残渣燃料油としてISO8217:2017に合致していた。
【0109】
当業者であれば、本発明のプロセスにより製造された上記HMFO製品が、ISO8217:2017適合LS HMFO(すなわち硫黄分0.5重量%)だけでなく、ISO8217:2017適合ULS HMFO制限値(すなわち硫黄分0.1重量%)のHMFO製品も達成したことを理解するであろう。
【0110】
(実施例3:RMG-500 HMFO)
上記実施例2で用いたパイロット反応器への原料を、環境汚染物(すなわち硫黄(3.3重量%))が多いが適商性のある市販のISO8217:2017RMK-500適合HMFOに変更した。RMK-500高硫黄HMFO原料の他のバルク性質を以下に示す。
【0111】
【表G】
【0112】
混合した(RMK-500)HMFO原料及び活性化ガスは、下記表に示す速度及び条件でパイロットプラントに供給し、下記表に示す硫黄濃度が得られた。
【0113】
【表H】
【0114】
得られた(RMK-500)HMFO製品で観察されたバルク特性は、硫黄含有量が上記表に記載するように著しく低減したことを除いて、(RMK-500)HMFO原料に合致していた。
【0115】
当業者であれば、本発明のプロセスにより製造された上記HMFO製品が、ISO8217:2017適合RMK-500残渣燃料油のバルク性質を有するLS HMFO(すなわち硫黄分0.5重量%)HMFO製品を達成したことを理解するであろう。上記プロセスが、原料材料の水素化分解を大幅に低減する非水素化分解条件(すなわち低い温度及び圧力)下でうまく実施できることも理解されるであろう。なお、さらに高い圧力(実施例E)に条件を高めた場合、硫黄含有量がより少ない製品が得られたが、軽質炭化水素及び粗ナフサの生成には増加が見られた。
【0116】
当業者には、上述した例示的実施形態には、それらの本発明の広い概念から逸脱することなく、変更を加えることができることが理解されるであろう。したがって、開示した本発明の概念は、開示した例示的実施形態又は実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載した本発明の概念の範囲内における改変点を含むことを意図していることが理解される。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-05-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化脱硫及び水素化脱金属反応条件に供し100%水素化処理した高硫黄舶用重質燃料油から本質的になる低硫黄舶用重質燃料油であって、
上記高硫黄舶用重質燃料油は、水素化処理前、舶用残渣燃料油としてISO8217:2017表2に適合するが、環境汚染物の濃度が0.5重量%を超えるものであり、
環境汚染物は、硫黄、バナジウム、ニッケル、鉄、アルミニウム、ケイ素、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、
上記低硫黄舶用重質燃料油は、舶用残渣燃料油としてISO8217:2017表2に適合し、舶用残渣燃料油として適商品質を有し、上記環境汚染物の濃度が0.5重量%未満である、低硫黄舶用重質燃料油。
【請求項2】
硫黄の含有量ISO14596又はISO8754により決定され、
バナジウムの含有量はIP501、IP470、又はISO14597により決定され、
ニッケルの含有量はIP501又はIP470により決定され、
鉄の含有量はIP501又はIP470により決定され、
アルミニウムの含有量はIP501、IP470、又はISO10478により決定され、
ケイ素の含有量はIP501、IP470、又はISO10478により決定される、
請求項1に記載の低硫黄舶用重質燃料油。
【請求項3】
上記高硫黄舶用重質燃料油は、ISO14596又はISO8754により決定される硫黄含有量が1.0重量%~5.0重量%の範囲であり、ISO3104により決定される50℃の動粘度が180mm /秒~700mm /秒の範囲であり、ISO3675により決定される15℃の密度が991.0kg/m ~1010.0kg/m の範囲であり、CCAIが780~870であり、ISO2719により決定される引火点が60.0℃以上である、請求項1または2に記載の低硫黄舶用重質燃料油。
【請求項4】
上記低硫黄舶用重質燃料油は、ISO14596又はISO8754により決定される硫黄含有量が0.5重量%未満であり、ISO3104により決定される50℃の動粘度が180mm /秒~700mm /秒の範囲、ISO3675により決定される15℃の密度が991.0kg/m ~1010.0kg/m の範囲、CCAIが780~870の範囲、ISO2719により決定される引火点が60.0℃以上、ISO10307-2により決定されるエージングによる全セジメントが0.10重量%未満、ISO10370により決定されるマイクロ法による残留炭素分が20.00重量%未満、ISO10478により決定されるアルミニウム+ケイ素含有量が60mg/kg未満である、請求項1~3のいずれかに記載の低硫黄舶用重質燃料油。
【請求項5】
体積基準で多量の水素化脱金属及び水素化脱硫された高硫黄舶用残渣燃料油と、体積基準で少量の希釈材とから本質的になる低硫黄炭化水素燃料組成物であって、上記高硫黄舶用残渣燃料油は、水素化脱金属及び水素化脱硫反応条件であるが水素化分解が全物質収支の10%を超えない反応条件で水素化処理されており、
上記高硫黄舶用残渣燃料油は、水素化処理前、舶用残渣燃料油としてISO8217:2017に適合するが、環境汚染物の濃度が0.5重量%を超えるものであり、
環境汚染物は、硫黄、バナジウム、ニッケル、鉄、アルミニウム、及びケイ素からなる群から選択され、
上記低硫黄炭化水素燃料組成物は、舶用残渣燃料油としてISO8217:2017に適合し、環境汚染物濃度が0.5重量%未満であり、
上記希釈材は、炭化水素材料、非炭化水素材料、固体材料及びこれらの組合せからなる群より選択される、低硫黄炭化水素燃料組成物。
【請求項6】
上記環境汚染物の濃度は下記基準:
硫黄はISO14596又はISO8754、
バナジウムはIP501、IP470、又はISO14597、
ケイ素はIP501、IP470、又はISO10478、
ニッケルはIP501又はIP470、
鉄はIP501又はIP470
により決定される、請求項5に記載の低硫黄炭化水素燃料組成物。
【請求項7】
上記高硫黄舶用残渣燃料油は、ISO14596又はISO8754により決定される硫黄含有量が1.0重量%~5.0重量%の範囲であり、ISO3104により決定される50℃の動粘度が180mm /秒~700mm /秒の範囲であり、ISO3675により決定される15℃の密度が991.0kg/m ~1010.0kg/m の範囲であり、CCAIが780~870であり、ISO2719により決定される引火点が60.0℃以上である、請求項5または6に記載の低硫黄炭化水素燃料組成物。
【請求項8】
上記低硫黄炭化水素燃料組成物は、ISO14596又はISO8754により決定される硫黄含有量が0.5重量%未満であり、ISO3104により決定される50℃の動粘度が180mm /秒~700mm /秒の範囲、ISO3675により決定される15℃の密度が991.0kg/m ~1010.0kg/m の範囲、CCAIが780~870の範囲、ISO2719により決定される引火点が60.0℃以上、ISO10307-2により決定されるエージングによる全セジメントが0.10重量%未満、ISO10370により決定されるマイクロ法による残留炭素分が18.00重量%~20.00重量%の範囲、ISO10478により決定されるアルミニウム+ケイ素含有量が60mg/kg未満である、請求項5~7のいずれかに記載の低硫黄炭化水素燃料組成物。
【請求項9】
舶用残渣燃料としてISO8217:2017表2に適合し、舶用重質燃料油として適商品質を有し、環境汚染物濃度が0.5重量%未満である舶用重質燃料油製品であって、
上記環境汚染物は、硫黄、バナジウム、ニッケル、鉄、アルミニウム、ケイ素、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、
上記舶用重質燃料油製品は、水素化脱金属及び水素化脱硫されているが、実質的に水素化分解されておらず、
下記工程a)~f)を含むプロセスにより製造される、舶用重質燃料油製品:
a)所定量の舶用重質燃料油を所定量の活性化ガスと組み合わせて原料混合物を得る工程であって、
上記舶用重質燃料油は、舶用残渣燃料油としてISO8217:2017表2に適合するバルク物性を有するが、環境汚染物の濃度が0.5重量%を超えるものであり、上記環境汚染物は、硫黄、バナジウム、ニッケル、鉄、アルミニウム、ケイ素、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、工程、
b)上記原料混合物を所定の温度及び圧力条件で処理し、加熱され加圧された原料混合物を得る工程、
c)上記加熱され加圧された原料混合物を、水素化脱金属及び水素化脱硫反応条件であり且つ水素化分解が全物質収支の10重量%未満となる反応条件下で、
沸騰床担持遷移金属不均一触媒、固定床担持遷移金属不均一触媒、及び、沸騰床担持遷移金属不均一触媒と固定床担持遷移金属不均一触媒との組合せからなる群より選択される1種以上の触媒システムを利用するように構成された少なくとも1つの反応容器中で接触させることにより、プロセス混合物を得る工程であって、
上記プロセス混合物は、液体炭化水素成分、副産物炭化水素成分、バルク気体成分、及び残留気体成分を含む、工程、
d)上記プロセス混合物を、上記少なくとも1つの反応容器中で、上記1種以上の触媒システムと接触した状態から解放し、上記プロセス混合物を上記少なくとも1つの反応容器から少なくとも1つの第二容器へと流体連通によって送り、上記プロセス混合物のバルク気体成分から上記プロセス混合物の液体炭化水素成分、副産物炭化水素成分、及び残留気体成分を分離する工程、
e)上記プロセス混合物のバルク気体成分から分離した液体炭化水素成分、副産物炭化水素成分、及び残留気体成分を、流体連通によって上記少なくとも1つの第二容器から少なくとも1つの第三の反応容器に送り、上記プロセス混合物の液体炭化水素成分を上記残留気体成分及び上記副産物炭化水素成分から分離して、上記舶用重質燃料油製品を得る工程、及び
f)上記少なくとも1つの第三の反応容器から、上記舶用重質燃料油製品を排出する工程。
【請求項10】
硫黄はISO14596又はISO8754により決定され、
バナジウムはIP501、IP470、又はISO14597により決定され、
ニッケルはIP501又はIP470により決定され、
鉄はIP501又はIP470により決定され、
アルミニウムはIP501、IP470、又はISO10478により決定され、
ケイ素はIP501、IP470、又はISO10478により決定される、
請求項9に記載のプロセスにより得られる製品。
【請求項11】
上記プロセスは、工程f)で排出された多量の上記舶用重質燃料油製品を、炭化水素材料、非炭化水素材料、固体材料、及びこれらの組み合わせから選択される少量の希釈剤と混合する工程を更に含む、
請求項9または10に記載のプロセスにより得られる製品。
【請求項12】
上記高硫黄舶用重質燃料油は、ISO14596又はISO8754により決定される硫黄含有量が1.0重量%~5.0重量%の範囲であり、ISO3104により決定される50℃の動粘度が180mm /秒~700mm /秒の範囲であり、ISO3675により決定される15℃の密度が991.0kg/m ~1010.0kg/m の範囲であり、CCAIが780~870であり、ISO2719により決定される引火点が60.0℃以上である、
請求項9~11のいずれかに記載のプロセスにより得られる製品。
【請求項13】
上記舶用重質燃料油製品は、ISO14596又はISO8754により決定される硫黄含有量が0.5重量%未満であり、ISO3104により決定される50℃の動粘度が180mm /秒~700mm /秒の範囲、ISO3675により決定される15℃の密度が991.0kg/m ~1010.0kg/m の範囲、CCAIが780~870の範囲、ISO2719により決定される引火点が60.0℃以上、ISO10307-2により決定されるエージングによる全セジメントが0.10重量%未満、ISO10370により決定されるマイクロ法による残留炭素分が18.00重量%~20.00重量%の範囲である、
請求項9~12のいずれかに記載のプロセスにより得られる製品。
【請求項14】
上記触媒システムは、水素化脱硫触媒、水素化遷移触媒、水素化脱金属触媒、及びこれらの組合わせからなる群より選択され、かつ実質的な水素分解性能を有さず、
上記触媒システムは、アルミナ、アルミナ/ボリア担体、金属含有アルミノシリケートを含む担体、アルミナ/リン担体、アルミナ/アルカリ土類金属化合物担体、アルミナ/チタニア担体、及びアルミナ/ジルコニア担体からなる群より選択される多孔質無機酸化物触媒担体に、周期表の6族、8族、9族、及び10族からなる群より選択される1種以上の遷移金属成分を含浸させ、含浸後に硫化させたものからなる、
請求項9~13のいずれかに記載のプロセスにより得られる製品。
【請求項15】
上記触媒システムは、水素化脱金属触媒、水素化遷移触媒、水素化脱硫触媒、及びこれらの組合わせからなる群より選択される1種以上の固定床担持遷移金属不均一触媒を含み、
上記担持遷移金属不均一触媒は、アルミナ、アルミナ/ボリア担体、金属含有アルミノシリケートを含む担体、アルミナ/リン担体、アルミナ/アルカリ土類金属化合物担体、アルミナ/チタニア担体、及びアルミナ/ジルコニア担体からなる群より選択される触媒担体に、Ni-Mo、Co-Mo、Ni-W、及びNi-Co-Moより選択される遷移金属の混合物を含浸させ、含浸後に硫化させたものからなる、
請求項9~14のいずれかに記載のプロセスにより得られる製品。
【請求項16】
活性化ガスの量と舶用重質燃料油原料の量との比は、HMFO原料に対してガスが2500scf/bbl~舶用重質燃料油原料に対してガスが4500scf/bblの範囲である、
請求項9~15のいずれかに記載のプロセスにより得られる製品。
【請求項17】
上記少なくとも1つの反応容器において、
温度の反応条件が650°F~850°Fであり、
圧力の反応条件が1000psig~2500psigであり、
液空間速度の反応条件が0.08/時間~0.5/時間である、
請求項9~16のいずれかに記載のプロセスにより得られる製品。
【請求項18】
上記少なくとも1つの反応容器において、水理的能力速度は、舶用重質燃料油原料が5,000bbl/日~45,000bbl/日である、
請求項16または17に記載のプロセスにより得られる製品。
【請求項19】
多量の舶用重質燃料油製品と少量の希釈剤との上記混合物は、
ISO14596により決定される硫黄含有量が0.5重量%未満であり、ISO3104により決定される50℃の動粘度が180mm /秒~700mm /秒の範囲、ISO3675により決定される15℃の密度が991.0kg/m ~1010.0kg/m の範囲、CCAIが780~870の範囲、ISO2719により決定される引火点が60.0℃以上、ISO10307-2により決定されるエージングによる全セジメントが0.10重量%未満、ISO10370により決定されるマイクロ法による残留炭素分が18.00重量%~20.00重量%の範囲、ISO10478により決定されるアルミニウム+ケイ素含有量が60mg/kg未満である、
請求項11に記載のプロセスにより得られる製品。
【請求項20】
水素化脱硫及び水素化脱金属条件下であり且つ水素化分解が全物質収支の10重量%未満となる条件下で水素化処理した高硫黄舶用重質燃料油から本質的になる低硫黄舶用重質燃料油であって、上記高硫黄舶用重質燃料油は、水素化処理前、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%を超えることを除いて、表2に記載の舶用残渣燃料油としてISO8217:2017に適合し、上記低硫黄舶用重質燃料油は、表2に記載の舶用残渣燃料油としてISO8217:2017に適合し、舶用残渣燃料油として適商品質を有し、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%未満である、低硫黄舶用重質燃料油。
【請求項21】
上記高硫黄舶用重質燃料油の硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)は1.0重量%~5.0重量%の範囲であり、上記低硫黄舶用重質燃料油の硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)は0.5重量%~0.05重量%の範囲である、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
上記低硫黄舶用重質燃料油の硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)は0.1重量%未満である、請求項20または21に記載の組成物。
【請求項23】
上記低硫黄舶用重質燃料油は、50Cの最大動粘度(ISO3104)が180mm /秒~700mm /秒の範囲、15℃の最大密度(ISO3675)が991.0kg/m ~1010.0kg/m の範囲、CCAIが780~870の範囲、引火点(ISO2719)が60.0℃以上、エージングによる最大全セジメント(ISO10307-2)が0.10重量%、マイクロ法による最大残留炭素分(ISO10370)が18.00重量%~20.00重量%の範囲、最大アルミニウム+ケイ素(ISO10478)含有量が60mg/kgである、請求項20~22のいずれかに記載の組成物。
【請求項24】
水素化脱硫及び水素化脱金属条件下であり且つ水素化分解が全物質収支の10重量%未満となる条件下で水素化処理した、体積基準で多量の高硫黄舶用残渣燃料油と、体積基準で少量の希釈材とから本質的になる低硫黄炭化水素燃料組成物であって、上記高硫黄舶用重質燃料油は、水素化処理前、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%を超えることを除いて、表2に記載の舶用残渣燃料油としてISO8217:2017に適合し、上記低硫黄舶用重質燃料油は、表2に記載の舶用残渣燃料油としてISO8217:2017に適合し、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%未満であり、上記希釈材は、炭化水素材料、非炭化水素材料、固体材料、及びこれらの組合せからなる群より選択され、上記低硫黄炭化水素燃料組成物は、ISO8217:2017表2に適合する、低硫黄炭化水素燃料組成物。
【請求項25】
上記100%水素化処理した高硫黄舶用残渣燃料油は上記組成物の少なくとも75体積%であり、上記希釈材は上記組成物の25体積%以下である、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
上記100%水素化処理した高硫黄舶用残渣燃料油は上記組成物の少なくとも90体積%であり、上記希釈材は上記組成物の10体積%以下である、請求項24または25に記載の組成物。
【請求項27】
上記炭化水素材料は、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%を超える舶用重質燃料油;留出油系燃料;ディーゼル;軽油;舶用軽油;舶用ディーゼル油;カッター油;バイオディーゼル;メタノール、エタノール;ガス液化技術に基づいた合成炭化水素及び油;フィッシャートロプシュ油;ポリエチレン、ポリプロピレン、二量体、三量体及びポリブチレンに基づいた合成油;常圧残油;減圧残油;流動接触分解装置(FCC)スラリー油;FCCサイクル油;熱分解軽油;分解軽質軽油(CLGO);分解重質軽油(CHGO);軽質サイクル油(LCO);重質サイクル油(HCO);熱分解残油;重質コーカー留出油;ビチューメン;重質脱アスファルト油;ビスブレーカ残油;スロップ油;アスファルト質油;使用済み又は再利用モーター油;潤滑油芳香族抽出物;原油;重質原油;ディストレスト原油;並びにこれらの組合せからなる群より選択され、上記非炭化水素材料は、残留水;洗剤;粘度調整剤;流動点降下剤;潤滑性調整剤;ヘイズ除去剤;消泡剤;点火改良剤;防錆剤;腐食抑制剤;耐摩耗添加剤、酸化防止剤(フェノール化合物及び誘導体等)、コーティング剤及び表面改質剤、金属不活性化剤、静電気防止剤、イオン性及び非イオン性界面活性剤、安定剤、化粧用着色剤及び付臭剤、並びにこれらの組合せからなる群より選択され、上記固体材料は、炭素又は炭化水素固体;コークス;黒鉛固体;微小凝集したアスファルテン、鉄錆;酸化腐食固体;バルク金属粒子;塗料粒子;表面コーティング粒子;プラスチック粒子又はポリマー粒子又はエラストマー粒子、ゴム粒子;触媒微粒子;セラミック粒子;鉱物粒子;砂;クレー;土粒子;微生物;生物学的に生成した固体;並びにこれらの組合せからなる群より選択される、請求項24~26のいずれかに記載の組成物。
【請求項28】
上記低硫黄舶用重質燃料油は、50Cの最大動粘度(ISO3104)が180mm /秒~700mm /秒の範囲、15℃の最大密度(ISO3675)が991.0kg/m ~1010.0kg/m の範囲、CCAIが780~870の範囲、引火点(ISO2719)が60.0℃以上、エージングによる最大全セジメント(ISO10307-2)が0.10重量%、マイクロ法による最大残留炭素分(ISO10370)が18.00重量%~20.00重量%の範囲、最大アルミニウム+ケイ素(ISO10478)含有量が60mg/kgである、請求項24~27のいずれかに記載の組成物。
【請求項29】
下記工程を含む方法により得られる製品から本質的になる、低硫黄舶用燃料油:
硫黄含有量が0.5重量%を超えることを除いて、表2に記載の舶用残渣燃料油としてISO8217:2017に適合する所定量の舶用重質燃料油を、所定量の活性化ガスと混合して原料混合物を得る工程、
水素化脱硫及び水素化脱金属反応プロセス条件下であり且つ水素化分解が全物質収支の10重量%未満となる反応プロセス条件下で、上記原料混合物を、少なくとも1つの反応容器中で、固定床担持遷移金属不均一触媒、沸騰床担持遷移金属不均一触媒、不活触媒材料、及びこれらの組合わせからなる群より選択される1種以上の触媒システムと接触させることにより、プロセス混合物を得る工程、
上記プロセス混合物を、上記少なくとも1つの反応容器中で、上記1種以上の触媒システムと接触した状態から解放する工程、
上記プロセス混合物を、上記少なくとも1つの反応容器から、少なくとも1つの気液分離容器へと流体連通により移送する工程、
上記プロセス混合物を、上記少なくとも1つの気液分離容器中で、上記プロセス混合物の液体成分と上記プロセス混合物の気体成分に分離する工程、
上記プロセス混合物の液体成分を、上記少なくとも1つの気液分離容器から、少なくとも1つの炭化水素分留容器へと流体連通により移送する工程、
上記プロセス混合物の液体成分から低硫黄舶用燃料油成分を分離する工程、及び、
上記低硫黄舶用燃料油成分を低硫黄舶用燃料油として上記少なくとも1つの炭化水素分留容器から排出する工程であって、上記低硫黄舶用燃料油は、それ以上処理することなく、表2に記載の舶用残渣燃料油としてISO8217:2017に適合する工程。
【請求項30】
上記高硫黄舶用重質燃料油の硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)は1.0重量%~5.0重量%の範囲であり、上記低硫黄舶用重質燃料油の硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)は0.5重量%~0.05重量%の範囲である、請求項29に記載の低硫黄舶用燃料油。
【請求項31】
上記低硫黄舶用重質燃料油の硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)は0.1重量%未満である、請求項29または30に記載の低硫黄舶用燃料油。
【請求項32】
上記低硫黄舶用重質燃料油は、50Cの最大動粘度(ISO3104)が180mm /秒~700mm /秒の範囲、15℃の最大密度(ISO3675)が991.0kg/m ~1010.0kg/m の範囲、CCAIが780~870の範囲、引火点(ISO2719)が60.0℃以上、エージングによる最大全セジメント(ISO10307-2)が0.10重量%、マイクロ法による最大残留炭素分(ISO10370)が18.00重量%~20.00重量%の範囲、最大アルミニウム+ケイ素(ISO10478)含有量が60mg/kgである、請求項29~31のいずれかに記載の低硫黄舶用燃料油。
【請求項33】
上記プロセスは、
表2に記載の舶用残渣燃料油としてISO8217:2017に適合する上記低硫黄舶用燃料油を少なくとも75体積%と、希釈材25体積%以下とブレンドすることで、表2に記載の舶用残渣燃料油としてISO8217:2017に適合する低硫黄舶用燃料組成物を得る工程i)を更に含む、
請求項29~32のいずれかに記載の低硫黄舶用燃料油。
【請求項34】
上記希釈材は、炭化水素材料、非炭化水素材料、固体材料及びこれらの組合せからなる群より選択され、更に、上記炭化水素材料は、硫黄含有量(ISO14596又はISO8754)が0.5重量%を超える舶用重質燃料油;留出油系燃料;ディーゼル;軽油;舶用軽油;舶用ディーゼル油;カッター油;バイオディーゼル;メタノール、エタノール;ガス液化技術に基づいた合成炭化水素及び油;フィッシャートロプシュ油;ポリエチレン、ポリプロピレン、二量体、三量体及びポリブチレンに基づいた合成油;常圧残油;減圧残油;流動接触分解装置(FCC)スラリー油;FCCサイクル油;熱分解軽油;分解軽質軽油(CLGO);分解重質軽油(CHGO);軽質サイクル油(LCO);重質サイクル油(HCO);熱分解残油;重質コーカー留出油;ビチューメン;重質脱アスファルト油;ビスブレーカ残油;スロップ油;アスファルト質油;使用済み又は再利用モーター油;潤滑油芳香族抽出物;原油;重質原油;ディストレスト原油;並びにこれらの組合せからなる群より選択される、請求項29~33のいずれかに記載の低硫黄舶用燃料油。
【請求項35】
低硫黄舶用燃料油は、50Cの最大動粘度(ISO3104)が180mm /秒~700mm /秒の範囲、15℃の最大密度(ISO3675)が991.0kg/m ~1010.0kg/m の範囲、CCAIが780~870の範囲、引火点(ISO2719)が60.0℃以上、エージングによる最大全セジメント(ISO10307-2)が0.10重量%、マイクロ法による最大残留炭素分(ISO10370)が18.00重量%~20.00重量%の範囲、最大アルミニウム+ケイ素(ISO10478)含有量が60mg/kgである、請求項29~34のいずれかに記載の低硫黄舶用燃料油。