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2023-80223反射型マスクブランク、反射型マスク及び半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080223
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク、反射型マスク及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20230601BHJP
   G03F 1/32 20120101ALI20230601BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/32
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064906
(22)【出願日】2023-04-12
(62)【分割の表示】P 2021054859の分割
【原出願日】2017-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2017040043
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】池邊 洋平
(72)【発明者】
【氏名】笑喜 勉
(72)【発明者】
【氏名】尾上 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】小坂井 弘文
(57)【要約】
【課題】 位相差及び反射率の膜厚依存性が小さい位相シフト膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを提供する。
【解決手段】 前記位相シフト膜表面の反射率が3%超20%以下であって、所定の170度~190度の位相差を有するように、前記位相シフト膜は、2種以上の金属を有する合金からなる材料で構成されてなり、k>α*n+βの屈折率n、消衰係数kを満たす金属元素群を群A、k<α*n+βの屈折率n、消衰係数kを満たす金属元素群を群Bとし、前記合金は、前記群Aと前記群Bとからそれぞれ1種以上の金属元素を選択し、前記位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの前記位相差の変化量が±2度の範囲であり、かつ反射率の変化量が±0.2%の範囲となるように、組成比が調整されていることを特徴とする反射型マスクブランク。(但し、α:比例定数、β:定数とする。)
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された多層反射膜と、前記多層反射膜上に形成された位相シフト膜とを備える反射型マスクブランクであって、
前記位相シフト膜形成前の前記多層反射膜からの反射光に対する前記位相シフト膜表面のEUV光に対する反射率が3%超20%以下であって、170度~190度の位相差を有するように、前記位相シフト膜は、2種以上の金属を有する合金からなる材料で構成されてなり、
EUV光の波長における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、
下記式(1)の屈折率n、消衰係数kを満たす金属元素群を群A、下記式(2)の屈折率n、消衰係数kを満たす金属元素群を群Bとし、
前記合金は、前記群Aと前記群Bとからそれぞれ1種以上の金属元素を選択し、前記位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの前記位相差の変化量が±2度の範囲であり、かつ反射率の変化量が±0.2%の範囲となるように、組成比が調整されていることを特徴とする反射型マスクブランク。
k>α*n+β・・・・・式(1)
k<α*n+β・・・・・式(2)
(但し、α:比例定数、β:定数とする。)
【請求項2】
前記位相シフト膜表面のEUV光に対する反射率が5%超10%以下であって、
前記式(1)及び式(2)におけるαは-0.303であり、βは0.309であることを特徴とする請求項1記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記位相シフト膜表面のEUV光に対する反射率が3%超5%以下であって、
前記式(1)及び式(2)におけるαは-0.331であり、βは0.339であることを特徴とする請求項1記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記位相シフト膜表面のEUV光に対する反射率が10%超20%以下であって、
前記式(1)及び式(2)におけるαは-0.192であり、βは0.194であることを特徴とする請求項1記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
基板上に形成された多層反射膜と、前記多層反射膜上に形成された位相シフト膜とを備える反射型マスクブランクであって、
前記位相シフト膜形成前の前記多層反射膜からの反射光に対する前記位相シフト膜表面のEUV光の反射率Rが4%、6%又は12%であって、位相差θが180度となるように、前記位相シフト膜は、2種以上の金属を有する合金からなる材料で構成されてなり、
前記合金は、前記位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの位相差θの許容範囲がθ-5度≦θ≦θ+5度であり、かつ反射率Rの許容範囲が0.9R≦R≦1.1Rとなるように、EUV光の波長における屈折率n及び消衰係数kを有し、組成比が調整されていることを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記合金は、0.877~0.881の範囲に含まれる屈折率、及び0.046~0.052の範囲に含まれる消衰係数を有することを特徴とする請求項5に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記合金は、0.901~0.907の範囲に含まれる屈折率、及び0.035~0.041の範囲に含まれる消衰係数を有することを特徴とする請求項5に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記合金は、3つ以上の金属元素が含有された多元系合金であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記位相シフト膜の膜厚は、25nm以上70nm以下であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
前記多層反射膜の前記位相シフト膜側の最上層は、保護膜を備えていることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか一項に記載の反射型マスクブランクにおける前記位相シフト膜がパターニングされた位相シフト膜パターンを有することを特徴とする反射型マスク。
【請求項12】
請求項11に記載の反射型マスクを用いて半導体基板上にパターンを形成するパターン形成工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造などに使用される露光用マスクを製造するための原版である反射型マスクブランク及び反射型マスク、並びに前記反射型マスクを用いる半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造における露光装置の光源の種類は、波長436nmのg線、同365nmのi線、同248nmのKrFレーザ、及び同193nmのArFレーザと、波長を徐々に短くしながら進化してきている。より微細なパターン転写を実現するため、光源の波長として13.5nm近傍の極端紫外線(EUV:Extreme Ultra Violet)を用いたEUVリソグラフィが提案されている。EUVリソグラフィでは、EUV光に対する材料間の吸収率の差が小さいことなどから、反射型のマスクが用いられる。反射型マスクとしては、例えば、基板上に露光光を反射する多層反射膜が形成され、当該多層反射膜を保護するための保護膜の上に、露光光を吸収する位相シフト膜がパターン状に形成されたものが提案されている。露光機(パターン転写装置)に搭載された反射型マスクに入射した光は、位相シフト膜パターンのある部分では吸収され、位相シフト膜パターンのない部分では多層反射膜により反射されることにより、光像が反射光学系を通して半導体基板上に転写されるものである。位相シフト膜パターンに入射する露光光の一部が、多層反射膜により反射される光と約180度の位相差を有して反射され(位相シフト)、これによりコントラスト(解像度)を得ている。
【0003】
このようなEUVリソグラフィ用の反射型マスク及びこれを作製するためのマスクブランクに関連する技術が特許文献1~3などによって開示されている。
【0004】
特許文献1には、ハーフトーンマスクの原理をEUV露光に適用して転写解像性を向上させるために、単層膜からなるハーフトーン膜(位相シフト膜)の材料を、屈折率及び消衰係数を座標軸とする平面座標で示す図2において、四角枠で囲む領域から選択することが記載されている。具体的な単層膜の材料としては、TaMo(組成比1:1)が記載されている。
【0005】
特許文献2には、ハーフトーン型EUVマスクにおいて、反射率の選択性の自由度及び洗浄耐性の高さを持ち、射影効果(シャドーイング効果)を低減させるために、ハーフトーン膜の材料をTaとRuとの化合物とし、その組成範囲を規定することが記載されている。
【0006】
特許文献3には、ハーフトーン型EUVマスクにおいて、反射率の選択性の自由度及び洗浄耐性の高さを持ち、エッチング加工精度を高くするために、ハーフトーン膜の材料をTaとNbとを有し、Ta:Nbの組成比が略4:1~略1:2の組成範囲とすることが記載されている。
【0007】
ここで、シャドーイング効果とは、次のような現象である。例えば、反射型マスクを使用する露光装置において、入射光と反射光の光軸が重ならないように、光をマスクに対して垂直方向から少し傾けて入射させている。マスクの位相シフト膜パターンに厚みがあると、光の入射方向の傾斜に起因して、位相シフト膜パターンの厚みに基づく影が生じる。この影の分だけ転写パターンの寸法が変化してしまうことをシャドーイング効果という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-228766号公報
【特許文献2】特許第5233321号
【特許文献3】特許第5266988号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
反射型マスクの位相シフト膜は、位相シフト効果による解像性向上のため、位相シフト膜パターンのない部分での多層反射膜(保護膜付き多層反射膜を含む)から反射されるEUV光に対する位相シフト膜パターンから反射されるEUV光の反射率が3%~20%となるように設計される。
【0010】
また、位相シフト膜パターンに入射する露光光の一部の多層反射膜により反射されるEUV光と、位相シフト膜パターンのない部分での多層反射膜により反射されるEUV光とが、EUV光に対して約180度の位相差を持つように設計される。
【0011】
一方、反射型マスクにおける位相シフト効果を最大限に発揮し、さらに反射型マスクを用いて転写される転写パターンのパターンエラーを防止するために、複数枚の反射型マスクブランク間における位相シフト膜の位相差ばらつきを、所定の位相差(例えば180度)に対して所定の位相差ばらつき(例えば±2度)の範囲におさめることが要求されている。また、位相差ばらつきと同時に、所定の反射率(例えば6%)に対して所定の反射率ばらつき(例えば、±0.2%)の範囲におさめることが要求されている。
【0012】
しかし、複数枚の反射型マスクブランクを製造する際の位相シフト膜の膜厚変動は避けることができず、所定の位相差(例えば180度)に対して所望の位相差特性(例えば位相差ばらつきが±2度の範囲)を有する反射型マスクブランクを安定的に製造することは難しい。また、位相差特性と同時に、所定の反射率(例えば6%)に対して所望の反射率特性(例えば反射率ばらつきが±0.2%の範囲)を有する反射型マスクブランクとすることはさらに困難である。
【0013】
そこで、本発明は、複数枚の反射型マスクブランクを連続して製造する際に、位相シフト膜の膜厚が設計値に対して多少変動したとしても、所望の位相差特性及び所望の反射率特性を有する反射型マスクを安定的に製造することができる反射型マスクブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、複数枚の反射型マスクブランクを連続して製造する際に、位相シフト膜の膜厚が設計値に対して多少変動(例えば設計膜厚に対して±0.5%の範囲)したとしても、所望の位相差特性(例えば面間の位相差ばらつきが180度±2度の範囲)及び所望の反射率特性(例えば面間の反射率ばらつきが6%±0.2%の範囲)となるための最適条件として、反射型マスクブランクを構成する位相シフト膜の屈折率と消衰係数がスポット的に存在することを見出し、本発明に至った。
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は下記の構成を有する。本発明は、下記の構成1~10の反射型マスクブランク、下記の構成11の反射型マスク、及び下記の構成12の半導体装置の製造方法である。
【0016】
(構成1)
基板上に形成された多層反射膜と、前記多層反射膜上に形成された位相シフト膜とを備える反射型マスクブランクであって、
前記位相シフト膜形成前の前記多層反射膜からの反射光に対する前記位相シフト膜表面のEUV光に対する反射率が3%超20%未満であって、170度~190度の位相差を有するように、前記位相シフト膜は、2種以上の金属を有する合金からなる材料で構成されてなり、
EUV光の波長における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、
下記式(1)の屈折率n、消衰係数kを満たす金属元素群を群A、下記式(2)の屈折率n、消衰係数kを満たす金属元素群を群Bとし、
前記合金は、前記群Aと前記群Bとからそれぞれ1種以上の金属元素を選択し、前記位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの前記位相差の変化量が±2度の範囲であり、かつ反射率の変化量が±0.2%の範囲となるように、組成比が調整されていることを特徴とする反射型マスクブランク。
k>α*n+β・・・・・式(1)
k<α*n+β・・・・・式(2)
(但し、α:比例定数、β:定数とする。)
【0017】
本発明の構成1によれば、複数枚の反射型マスクブランクを連続して製造する際に、位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して多少変動したとしても、所望の位相差特性及び所望の反射率特性を有する反射型マスクブランクを安定的に製造することができる反射型マスクブランクを提供することができる。
【0018】
(構成2)
本発明の構成2は、前記位相シフト膜表面のEUV光に対する反射率が5%超10%以下であって、
前記式(1)及び式(2)におけるαは-0.303であり、βは0.309であることを特徴とする構成1記載の反射型マスクブランクである。
【0019】
本発明の構成2によれば、位相シフト膜表面のEUV光に対する反射率が5%超10%以下である反射型マスクブランクを複数枚連続して製造する際に、位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して多少変動したとしても、所望の位相差特性及び所望の反射率特性を有する反射型マスクブランクを安定的に製造することができる反射型マスクブランクを提供することができる。
【0020】
(構成3)
本発明の構成3は、前記位相シフト膜表面のEUV光に対する反射率が3%超5%以下であって、
前記式(1)及び式(2)におけるαは-0.331であり、βは0.339であることを特徴とする構成1記載の反射型マスクブランクである。
【0021】
本発明の構成3によれば、位相シフト膜表面のEUV光に対する反射率が3%超5%以下である反射型マスクブランクを複数枚連続して製造する際に、位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して多少変動したとしても、所望の位相差特性及び所望の反射率特性を有する反射型マスクブランクを安定的に製造することができる反射型マスクブランクを提供することができる。
【0022】
(構成4)
本発明の構成4は、前記位相シフト膜表面のEUV光に対する反射率が10%超20%以下であって、
前記式(1)及び式(2)におけるαは-0.192であり、βは0.194であることを特徴とする構成1記載の反射型マスクブランクである。
【0023】
本発明の構成4によれば、位相シフト膜表面のEUV光に対する反射率が10%超20%以下である反射型マスクブランクを複数枚連続して製造する際に、位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して多少変動したとしても、所望の位相差特性及び所望の反射率特性を有する反射型マスクブランクを安定的に製造することができる反射型マスクブランクを提供することができる。
【0024】
(構成5)
基板上に形成された多層反射膜と、前記多層反射膜上に形成された位相シフト膜とを備える反射型マスクブランクであって、
前記位相シフト膜形成前の前記多層反射膜からの反射光に対する前記位相シフト膜表面のEUV光の反射率Rが4%、6%又は12%であって、位相差θが180度となるように、前記位相シフト膜は、2種以上の金属を有する合金からなる材料で構成されてなり、
前記合金は、前記位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの位相差θの許容範囲がθ-5度≦θ≦θ+5度であり、かつ反射率Rの許容範囲が0.9R≦R≦1.1Rとなるように、EUV光の波長における屈折率n及び消衰係数kを有し、組成比が調整されていることを特徴とする反射型マスクブランク。
【0025】
本発明の構成5によれば、複数枚の反射型マスクブランクを連続して製造する際に、位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して多少変動したとしても、所望の位相差特性及び所望の反射率特性を有する反射型マスクブランクを安定的に製造することができる反射型マスクブランクを提供することができる。
【0026】
(構成6)
本発明の構成6は、前記合金は、0.877~0.881の範囲に含まれる屈折率、及び0.046~0.052の範囲に含まれる消衰係数を有することを特徴とする構成5に記載の反射型マスクブランクである。
【0027】
(構成7)
本発明の構成7は、前記合金は、0.901~0.907の範囲に含まれる屈折率、及び0.035~0.041の範囲に含まれる消衰係数を有することを特徴とする構成5に記載の反射型マスクブランクである。
【0028】
本発明の構成6又は7の反射型マスクブランクは、屈折率及び消衰係数を所定の範囲に含まれる構成とすることにより、膜厚を変えるだけで複数の反射率に対応可能な反射率の自由度が高い位相シフト膜を容易に得ることができる。
【0029】
(構成8)
本発明の構成8は、前記合金は、3つ以上の金属元素が含有された多元系合金であることを特徴とする構成1乃至7の何れか一項に記載の反射型マスクブランクである。
【0030】
本発明の構成8の反射型マスクブランクは、位相シフト膜を、3つ以上の金属元素が含有された多元系合金とすることにより、所望の位相差特性及び所望の反射率特性となるための最適な屈折率と消衰係数を備えた位相シフト膜を容易に調節することができる。
【0031】
(構成9)
本発明の構成9は、前記位相シフト膜の膜厚は、25nm以上70nm以下であることを特徴とする構成1乃至8の何れか一項に記載の反射型マスクブランクである。
【0032】
本発明の構成9の反射型マスクブランクは、位相シフト膜の膜厚が、25nm以上70nm以下であることにより、射影効果(シャドーイング効果)を低減することができる。
【0033】
(構成10)
本発明の構成10は、前記多層反射膜の前記位相シフト膜側の最上層は、保護膜を備えていることを特徴とする構成1乃至9の何れか一項に記載の反射型マスクブランクである。
【0034】
本発明の構成10の反射型マスクブランクは、多層反射膜の前記位相シフト膜側の最上層は保護膜を備えていることにより、反射型マスクブランクを用いて反射型マスクを製造する際の多層反射膜表面へのダメージを抑制することができる。したがって、反射型マスクのEUV光に対する反射特性が良好となる。
【0035】
(構成11)
本発明の構成11は、構成1乃至10の何れか一項に記載の反射型マスクブランクにおける前記位相シフト膜がパターニングされた位相シフト膜パターンを有することを特徴とする反射型マスクである。
【0036】
本発明の構成11の反射型マスクは、上述の反射型マスクブランクを用いて製造されるので、所望の位相差特性及び所望の反射率特性を有する位相シフト膜パターンを有する反射型マスクを得ることができる。
【0037】
(構成12)
構成11に記載の反射型マスクを用いて半導体基板上にパターンを形成するパターン形成工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【0038】
本発明の構成12の半導体装置の製造方法によれば、所望の位相差特性及び所望の反射率特性を備えた位相シフト膜パターンを有する反射型マスクを用いることができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明により、複数枚の反射型マスクブランクを連続して製造する際に、位相シフト膜の膜厚が設計値に対して多少変動したとしても、所望の位相差特性及び所望の反射率特性を有する反射型マスクブランクを安定的に提供することができる。
【0040】
また、本発明の反射型マスクブランクを用いることにより、所望の位相差特性及び所望の反射率特性を有する位相シフト膜パターンを有する反射型マスクを得ることができる。
【0041】
また、本発明の半導体装置の製造方法により、所望の位相差特性及び所望の反射率特性を備えた位相シフト膜パターンを有する反射型マスクを用いることができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の実施形態のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの概略構成を説明するための断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態を説明するための、EUV光(波長13.5nm)における、金属材料の屈折率nと消衰係数kの特性を示すグラフである。
図3】本発明の第1の実施形態を説明するための、EUV光(波長13.5nm)における、金属材料の屈折率nと消衰係数kの特性を示すグラフである。
図4】本発明の第1の実施形態を説明するための、EUV光(波長13.5nm)における反射率が6%の場合の所定の位相差特性及び反射率特性を満たす合金の屈折率nと消衰係数kの特性を示すグラフである。
図5】本発明の第1の実施形態を説明するための、EUV光(波長13.5nm)における反射率が4%の場合の所定の位相差特性及び反射率特性を満たす合金の屈折率nと消衰係数kの特性を示すグラフである。
図6】本発明の第1の実施形態を説明するための、EUV光(波長13.5nm)における反射率が20%の場合の所定の位相差特性及び反射率特性を満たす合金の屈折率nと消衰係数kの特性を示すグラフである。
図7】本発明の第2の実施形態を説明するための、EUV光(波長13.5nm)における反射率が4%、6%及び12%の場合の所定の位相差特性及び反射率特性を満たす屈折率nと消衰係数kの範囲を示すグラフである。
図8】本発明の第3の実施形態を説明するための、図7の重なり部分を満たす屈折率nと消衰係数kの範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0044】
[第1の実施形態]
図1に、本発明の第1の実施形態である反射型マスクブランク10の断面模式図を示す。本実施形態の反射型マスクブランク10は、基板12の上に、多層反射膜13と、EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜15とがこの順に形成されている。なお、後述する本発明の第2及び第3の実施形態においても、図1に示す構成のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク10を用いることができる。
【0045】
本発明の第1の実施形態の反射型マスクブランク10の位相シフト膜15は、位相シフト膜15の表面のEUV光(波長:13.5nm)に対する反射率は3%超20%未満であって、多層反射膜13からの反射光に対し、170度~190度の位相差を有するように、2種以上の金属を有する合金からなる材料で構成されている。
【0046】
そして、位相シフト膜15を構成する合金は、EUV光の波長(波長:13.5nm)における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、下記式(1)の屈折率n、消衰係数kを満たす金属元素群を群A、下記式(2)の屈折率n、消衰係数kを満たす金属元素群を群Bとし、前記合金は、前記群Aと前記群Bとからそれぞれ1種以上の金属元素を選択し、位相シフト膜15の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの前記位相差の変化量が±2度の範囲であり、かつ反射率の変化量が±0.2%の範囲となるように、組成比が調整されている。なお、位相差の変化量が±2度の範囲とは、狙いの位相差をθとしたときに位相差θがθ-2度≦θ≦θ+2度の範囲で示される。また、反射率の変化量が±0.2%の範囲とは、狙いの反射率をRとしたときに反射率RがR-0.2%≦R≦R+0.2%の範囲で示される。なお、本明細書において、「*」は乗算の記号である。
k>α*n+β・・・・・式(1)
k<α*n+β・・・・・式(2)
(但し、α:比例定数、β:定数とする。)
【0047】
図2は、EUV光(波長13.5nm)における、金属材料の屈折率nと、消衰係数kの関係を示すグラフである。
【0048】
本発明の位相シフト膜15を構成する合金は、位相シフト膜15表面のEUV光に対する反射率に応じて、α、βが適宜設定され、上記式(1)、式(2)の関係式を満たす金属元素群である群A、群Bからそれぞれ1種以上の金属元素を選択し、位相シフト膜15の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの前記位相差の変化量が±2度の範囲及び反射率の変化量が±0.2%の範囲となるように、組成比が調整されている。
【0049】
下記の式(3)は、位相シフト膜15の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときに、位相シフト膜15の位相差の変化量が±2度の範囲及び反射率の変化量が±0.2%の範囲となる複数の合金材料(合金A、合金B、合金C、合金D、合金E)の屈折率と消衰係数を図2にプロットしたときに、複数の合金材料(合金A、合金B、合金C、合金D、合金E)を通る近似直線である。
k=α*n+β・・・・・式(3)
【0050】
図2において、式(1)(k>α*n+β)を満たす群Aに属する金属元素としては、Pd、Ag、Pt、Au、Ir、W、Cr、Co、Mn、Sn、Ta、V、Ni、Hf、Fe、Cu、Te、Zn、Mg、Ge、Alが挙げられる。式(2)(k<α*n+β)を満たす群Bに属する金属元素としては、Rh、Ru、Mo、Nb、Ti、Zr、Y、Siが挙げられる。
【0051】
そして、例えば、2元系合金の場合、合金Aは、群Aに属するPdを選択し、群Bに属するMoを選択することにより、PdMo合金(2元系合金)とすることができる。このPdMo合金は、屈折率n及び消衰係数kを満たす合金Aの組成比を有している。
【0052】
位相シフト膜15を複数の金属元素が含有される多元系合金からなる材料とする場合には、群Aから複数元素を選択し、群Bから複数元素を選択し、これらの選択された元素を含む合金の組成比を調整することにより、屈折率n及び消衰係数kを満たす合金A、屈折率n及び消衰係数kを満たす合金B、屈折率n及び消衰係数kを満たす合金C、又は屈折率n及び消衰係数kを満たす合金Dとすることができる。
【0053】
図3は、本発明の位相シフト膜15が多元系合金として3元系合金からなる材料の場合を示す。位相シフト膜15の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときに、位相シフト膜15の位相差の変化量が±2度の範囲及び反射率の変化量が±0.2%の範囲となる3元系合金として、例えば、群Aに属するPdとTaを選択し、群Bに属するMoを選択することにより、TaPdMo合金(3元系合金)とすることができる。TaPdMo合金は、その組成比を調整することにより、上記合金A、合金B、合金C、又は合金Dとすることができる。
【0054】
<反射型マスクブランク10の構成及びその製造方法>
図1に、本発明の第1の実施形態のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク10の構成を説明するための断面模式図を示す。図1を用いて本発明の反射型マスクブランク10について説明する。
【0055】
図1に示すように、反射型マスクブランク10は、基板12の裏面側の主表面上に形成された静電チャック用の裏面導電膜11を有する基板12と、この基板12の主表面(裏面導電膜11が形成された側とは反対側の主表面)上に形成され、かつ、露光光であるEUV光を反射する多層反射膜13と、この多層反射膜13の最上層には、多層反射膜13を保護するためのルテニウム(Ru)を主成分とした材料で形成された保護膜14と、この保護膜14上に形成され、かつ、EUV光を吸収するとともに一部のEUV光を反射し、その位相をシフトさせるための位相シフト膜15を備えている。
【0056】
本明細書において、例えば、「基板12の主表面上に形成された多層反射膜13」との記載は、多層反射膜13が、基板12の表面に接して配置されることを意味する場合の他、基板12と、多層反射膜13との間に他の膜を有することを意味する場合も含む。他の膜についても同様である。また、本明細書において、例えば「膜Aが膜Bの上に接して配置される」とは、膜Aと膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。
【0057】
以下、基板12及び各層の構成を説明する。
【0058】
EUV光による露光時の熱による吸収体膜パターンの歪みを防止するため、基板12としては、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO-TiO系ガラス、又は多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0059】
基板12の両主表面のうち、反射型マスクの転写パターンとなる位相シフト膜15が形成される側の主表面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を得る観点から高平坦度となるように表面加工されている。EUV露光の場合、基板12の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。また、基板12の両主表面のうち、位相シフト膜15が形成される側と反対側の主表面は、露光装置にセットするときに静電チャックされるための裏面導電膜11が形成される表面である。裏面導電膜11が形成される表面の平坦度は、142mm×142mmの領域において、1μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.3μm以下である。
【0060】
なお、本明細書において、平坦度は、TIR(Total Indicated Reading)で示される表面の反り(変形量)を表す値である。この値は、基板12の表面を基準として最小二乗法で定められる平面を焦平面とし、この焦平面より上にある基板12の表面の最も高い位置と、焦平面より下にある基板12の表面の最も低い位置との高低差の絶対値である。
【0061】
また、EUV露光の場合、基板12として要求される表面平滑度は、基板12の、転写パターンとなる位相シフト膜15が形成される側の主表面の表面粗さが、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.1nm以下であることが好ましい。なお、表面平滑度は、原子間力顕微鏡(AFM)で測定することができる。
【0062】
さらに、基板12は、その上に形成される膜(多層反射膜13など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、基板12は、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。
【0063】
多層反射膜13は、EUVリソグラフィ用反射型マスクにおいて、EUV光を反射する機能を有する。多層反射膜13は、屈折率の異なる元素が周期的に積層された多層膜である。
【0064】
一般的には、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40~60周期程度積層された多層膜が、多層反射膜13として用いられる。多層膜は、基板12側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層した構造を有することができる。また、多層膜は、基板12側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層した構造を有することができる。なお、多層反射膜13の最表面の層、すなわち多層反射膜13の基板12と反対側の表面層は、高屈折率層とすることが好ましい。上述の多層膜において、基板12から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は最上層が低屈折率層となる。そのため、最上層の低屈折率層上にさらに高屈折率層を形成して多層反射膜13とすることが好ましい。
【0065】
本発明の反射型マスクブランク10において、高屈折率層としては、Siを含む層を採用することができる。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、B、C、N、及び/又はOを含むSi化合物でもよい。Siを含む層を高屈折率層として使用することによって、EUV光の反射率に優れたEUVリソグラフィ用反射型マスクが得られる。また、本発明の反射型マスクブランク10において、基板12としてはガラス基板が好ましく用いられる。Siはガラス基板との密着性においても優れている。また、低屈折率層としては、Mo、Ru、Rh、及びPtから選ばれる金属単体、並びにこれらの合金が用いられる。例えば波長13~14nmのEUV光に対する多層反射膜13としては、好ましくはMo膜とSi膜を交互に例えば40~60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が用いられる。なお、多層反射膜13の最上層である高屈折率層をケイ素(Si)で形成し、当該最上層(Si)と保護膜14との間に、ケイ素と酸素とを含むケイ素酸化物層を形成するようにしてもよい。これにより、マスク洗浄耐性(位相シフト膜パターンの膜剥がれ耐性)を向上させることができる。
【0066】
このような多層反射膜13の単独での反射率は、例えば、65%以上であり、上限は通常73%であることが好ましい。なお、多層反射膜13の各構成層の膜厚及び周期の数は、露光波長によるブラッグの法則を満たすように、適宜選択される。多層反射膜13において高屈折率層及び低屈折率層はそれぞれ複数存在する。すべての高屈折率層は同じ膜厚でなくてもよい。また、すべての低屈折率層は同じ膜厚でなくてもよい。また、多層反射膜13の最表面のSi層の膜厚は、反射率を低下させない範囲で調整することができる。最表面のSi(高屈折率層)の膜厚は、例えば、3~10nmとすることができる。
【0067】
多層反射膜13の形成方法は当該技術分野において公知である。例えばイオンビームスパッタリング法により、多層反射膜13の各層を成膜することで形成できる。上述したMo/Si周期多層膜の場合、例えばイオンビームスパッタリング法により、まずSiターゲットを用いて膜厚4nm程度のSi膜を基板12上に成膜し、その後Moターゲットを用いて膜厚3nm程度のMo膜を成膜する。Si膜及びMo膜の成膜を1周期として、全体で、40~60周期積層して、多層反射膜13を形成する(最上層はSi層とする)。
【0068】
本発明の反射型マスクブランク10は、位相シフト膜15側の多層反射膜13の最上層には保護膜14を有することが好ましい。
【0069】
図1に示すように、保護膜14は、後述する反射型マスクの製造工程におけるドライエッチング又は洗浄液から多層反射膜13を保護するために、多層反射膜13の上に形成される。保護膜14は、例えば、Ru(ルテニウム)を主成分として含む材料(主成分:50原子%以上)により構成される。Ruを主成分として含む材料は、Ru金属単体、RuにNb、Zr、Y、B、Ti、La、Mo、Co、及び/又はReなどの金属を含有したRu合金、又はそれらの材料にN(窒素)が含まれる材料であることができる。また、保護膜14を3層以上の積層構造とし、最下層と最上層を、上記Ruを含有する物質からなる層とし、最下層と最上層との間に、Ru以外の金属、若しくは合金を介在させたものであることができる。
【0070】
保護膜14の膜厚は、保護膜14としての機能を果たすことができる限り特に制限されない。EUV光の反射率の観点から、保護膜14の膜厚は、好ましくは、1.5~8.0nm、より好ましくは、1.8~6.0nmである。
【0071】
保護膜14の形成方法としては、公知の成膜方法を特に制限なく採用することができる。保護膜14の形成方法の具体例としては、スパッタリング法及びイオンビームスパッタリング法が挙げられる。
【0072】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態の反射型マスクブランク10は、多層反射膜13の上に位相シフト膜15を含む。位相シフト膜15は、多層反射膜13の上に接して形成することができる。また、多層反射膜13の最上層に保護膜14が形成されている場合には、保護膜14の上に接して形成することができる。
【0073】
本発明の位相シフト膜15を構成する合金は、位相シフト膜15表面のEUV光に対する反射率に応じて、α、βが適宜設定され、上記式(1)(k>α*n+β、α:比例定数、β:定数)、式(2)(k<α*n+β、α:比例定数、β:定数)の関係式を満たす金属元素群である群A、群Bからそれぞれ1種以上の金属元素を選択し、位相シフト膜15の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの前記位相差の変化量が±2度の範囲であり、かつ反射率の変化量が±0.2%の範囲となるように、組成比が調整されている。
【0074】
以下、位相シフト膜15のEUV光に対する反射率が(i)5%超10%以下、(ii)3%超5%以下、(iii)10%超20%以下の3つの場合に分けて説明する。
【0075】
(i)位相シフト膜15のEUV光に対する反射率が5%超10%以下の場合
位相シフト膜15表面のEUV光に対する反射率が5%超10%以下の場合、式(1)、式(2)は、
k>-0.303*n+0.309・・・・・式(1)
k<-0.303*n+0.309・・・・・式(2)
となる。式(1)(k>-0.303*n+0.309)を満たす群Aに属する金属元素としては、Pd、Ag、Pt、Au、Ir、W、Cr、Co、Mn、Sn、Ta、V、Ni、Fe、Hf、Cu、Te、Zn、Mg、Ge、Alが挙げられる。式(2)(k<-0.303*n+0.309)を満たす群Bに属する金属元素としては、Rh、Ru、Mo、Nb、Ti、Zr、Y、Siが挙げられる。群A、群Bから各々1種以上の金属元素を選択し、前記位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの前記位相差の変化量が±2度の範囲、及び反射率の変化量が±0.2%の範囲となるように、組成比が調整される。
【0076】
図4は、位相シフト膜15表面のEUV光に対する反射率が6%の場合の式(1)、式(2)の関係式を満たす金属元素群である群A、群Bを説明するための図である。
【0077】
位相シフト膜15の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときに、位相シフト膜15の位相差の変化量が±2度の範囲、及び反射率の変化量が±0.2%の範囲となる2元系合金としては、屈折率が0.883、消衰係数が0.042の合金A6%としては、PdMo合金、PdNb合金、PdZr合金が挙げられ、屈折率が0.905、消衰係数が0.035の合金B6%としては、RhTa合金、RuNi合金が挙げられ、屈折率が0.921、消衰係数が0.031の合金C6%としては、TaRu合金、CrRu合金が挙げられ、屈折率が0.932、消衰係数が0.027の合金D6%としては、MoTa合金、WNb合金が挙げられ、屈折率が0.940、消衰係数が0.024の合金E6%としては、TaNb合金、NiNb合金が挙げられる。
【0078】
3元系合金としては、TaPdMo合金、NiPdMo合金とすることにより、合金A6%、合金B6%、合金C6%、又は合金D6%とすることができる。
【0079】
なお、上記合金A6%、合金B6%、合金C6%、合金D6%、及び合金E6%の膜厚を、それぞれ28.2nm、35.0nm、41.5nm、48.2nm、及び55.1nmとすることにより、位相シフト膜15の位相差を約180度、反射率を約6%とすることができる。
【0080】
(ii)位相シフト膜15のEUV光に対する反射率が3%超5%以下の場合
位相シフト膜15表面のEUV光に対する反射率が3%超5%以下の場合、式(1)、式(2)は、
k>-0.331*n+0.339・・・・・式(1)
k<-0.331*n+0.339・・・・・式(2)
となる。式(1)(k>-0.331*n+0.339)を満たす群Aに属する金属元素としては、Ag、Pt、Au、Ir、W、Cr、Co、Mn、Sn、Ta、Ni、Hf、Cu、Te、Zn、Mg、Ge、Alが挙げられる。式(2)(k<-0.331*n+0.339)を満たす群Bに属する金属元素としては、Pd、Rh、Ru、Mo、Nb、V、Ti、Zr、Y、Siが挙げられる。群A、群Bから各々1種以上の金属元素を選択し、前記位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの前記位相差の変化量が±2度の範囲、及び反射率の変化量が±0.2%の範囲となるように、組成比が調整される。
【0081】
図5は、位相シフト膜15表面のEUV光に対する反射率が4%の場合の式(1)、式(2)の関係式を満たす金属元素群である群A、群Bを説明するための図である。
【0082】
位相シフト膜15の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときに、位相シフト膜15の位相差の変化量が±2度の範囲、及び反射率の変化量が±0.2%の範囲となる2元系合金としては、屈折率が0.881、消衰係数が0.047の合金A4%としては、RhAg合金、PdFe合金、PdZn合金が挙げられ、屈折率が0.905、消衰係数が0.040の合金B4%としては、RhFe合金、RhZn合金が挙げられ、屈折率が0.921、消衰係数が0.035の合金C4%としては、CrRu合金、RhHf合金が挙げられ、屈折率が0.932、消衰係数が0.031の合金D4%としては、NbW合金、ZrPt合金が挙げられ、屈折率が0.940、消衰係数が0.028の合金E4%としては、CrZr合金、WZr合金、TaNb合金が挙げられる。
【0083】
なお、上記合金A4%、合金B4%、合金C4%、合金D4%、及び合金E4%の膜厚を、それぞれ、28.4nm、34.9nm、41.4nm、48.1nm、及び55.0nmとすることにより、位相シフト膜15の位相差を約180度、反射率を約4%とすることができる。
【0084】
(iii)位相シフト膜15のEUV光に対数反射率が10%超20%以下の場合
位相シフト膜15表面のEUV光に対する反射率が10%超20%以下の場合、式(1)、式(2)は、
k>-0.192*n+0.194・・・・・式(1)
k<-0.192*n+0.194・・・・・式(2)
となる。式(1)(k>-0.192*n+0.194)を満たす群Aに属する金属元素としては、Rh、Pd、Ag、Pt、Au、Ir、W、Cr、Co、Mn、Sn、Ta、V、Ni、Ti、Hf、Cu、Te、Zn、Mg、Ge、Alが挙げられる。式(2)(k<-0.192*n+0.194)を満たす群Bに属する金属元素としては、Ru、Mo、Nb、Zr、Y、Siが挙げられる。群A、群Bから各々1種以上の金属元素を選択し、前記位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの前記位相差の変化量が±2度の範囲、及び反射率の変化量が±0.2%の範囲となるように、組成比が調整される。
【0085】
位相シフト膜15の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときに、位相シフト膜15の位相差の変化量が±2度の範囲、及び反射率の変化量が±0.2%の範囲となる2元系合金としては、屈折率が0.885、消衰係数が0.025の合金A20%としては、PdRu合金が挙げられ、屈折率が0.907、消衰係数が0.021の合金B20%としては、PdMo合金、RuGe合金が挙げられ、屈折率が0.922、消衰係数が0.018の合金C20%としては、MoCo合金が挙げられ、屈折率が0.932、消衰係数が0.016の合金D20%としては、WNb合金、MoHf合金が挙げられ、屈折率が0.940、消衰係数が0.014の合金E20%としては、HfNb合金、ZnNb合金が挙げられる。
【0086】
なお、上記合金A20%、合金B20%、合金C20%、合金D20%、及び合金E20%の膜厚を、それぞれ、28.2nm、35.0nm、41.7nm、48.6nm、及び55.4nmとすることにより、位相シフト膜15の位相差を約180度、反射率を約20%とすることができる。
【0087】
本発明の位相シフト膜15は、発明の効果を逸脱しない範囲で、酸素、窒素、炭素、ホウ素から選ばれる少なくとも1種以上を含有させることができる。
【0088】
また、位相シフト膜15の膜厚は、EUV光に対する位相差が170度~190度、反射率が3%超20%以下となるように、適宜設定される。射影効果(シャドーイング効果)低減の観点から、位相シフト膜15の膜厚は、25nm以上70nm以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、25nm以上50nm以下、さらに好ましくは、25nm以上40nm以下とすることが望ましい。
【0089】
位相シフト膜15の表面等が平滑でないと、位相シフト膜パターンのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなることがある。このため、成膜後の位相シフト膜15の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で、0.5nm以下であることが好ましく、0.4nm以下であることがより好ましく、0.3nm以下であることがさらに好ましい。
【0090】
本発明の反射型マスクブランクでは、位相シフト膜15上に、さらにエッチングマスク膜(図示せず)を形成することができる。エッチングマスク膜は、多層反射膜13の最上層に対してエッチング選択性を有し、かつ、位相シフト膜15に対するエッチングガスにてエッチング可能な(エッチング選択性がない)材料で形成される。エッチングマスク膜の形成は、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などの公知の方法により行うことができる。
【0091】
エッチングマスク膜の膜厚は、ハードマスクとしての機能確保という観点から5nm以上であることが好ましい。位相シフト膜15の膜厚を考慮すると、エッチングマスク膜の膜厚は、5nm以上20nm以下、好ましくは、5nm以上15nm以下が望ましい。
【0092】
基板12の裏面側(多層反射膜13の形成面の反対側)には、図1に示すように、静電チャック用の裏面導電膜11が形成される。静電チャック用の裏面導電膜11に求められる電気的特性は、通常100Ω/sq以下のシート抵抗である。裏面導電膜11の形成は、例えば、クロム若しくはタンタル等の金属、又はそれらの合金のターゲットを使用して、マグネトロンスパッタリング法又はイオンビームスパッタリング法により行うことができる。裏面導電膜11を、例えば、CrNで形成する場合には、Crターゲットを用い、窒素ガス等のNを含むガス雰囲気で、上述のスパッタリング法により、成膜することができる。裏面導電膜11の膜厚は、静電チャック用としての機能を満足する限り特に限定されないが、通常10~200nmである。
【0093】
なお、本発明の反射型マスクブランク10は、上述のような実施形態に限られるものではない。例えば、本発明の反射型マスクブランク10は、位相シフト膜15上に、エッチングマスクとしての機能を有するレジスト膜を備えることができる。また、本発明の反射型マスクブランク10は、多層反射膜13上に保護膜14を備えずに、多層反射膜13の上に接して位相シフト膜15を備えることができる。
【0094】
<反射型マスク及びその製造方法>
本発明は、上述の本発明の反射型マスクブランク10における位相シフト膜15がパターニングされた位相シフト膜パターンを有する反射型マスクである。上述の本発明の反射型マスクブランク10を使用して、本発明の反射型マスクを作製することができる。EUVリソグラフィ用反射型マスクの製造には、高精細のパターニングを行うことができる電子線リソグラフィ法が最も好適である。
【0095】
本実施形態では、フォトリソグラフィー法を利用した反射型マスクの製造方法について、図1に示す反射型マスクブランク10を用いる場合を例に説明する。
【0096】
まず、図1に示した反射型マスクブランク10の最表面(位相シフト膜15)の上に、レジスト膜(図示せず)を形成する。レジスト膜の膜厚は、例えば、100nmとすることができる。次に、このレジスト膜に所望のパターンを描画(露光)し、さらに現像・リンスすることによって所定のレジストパターン(図示せず)を形成する。
【0097】
次に、位相シフト膜15に対し、レジストパターン(図示せず)をマスクとして、位相シフト膜15の材料に応じて、SF等のフッ素系ガス、又はCl等の塩素系ガスを含むエッチングガスによるドライエッチングを実施することにより、位相シフト膜パターン(図示せず)を形成する。この工程において、レジストパターン(図示せず)が除去される。
【0098】
ここで、位相シフト膜15のエッチングレートは、位相シフト膜15を形成する材料、及びエッチングガス等の条件に依存する。
【0099】
上記工程によって、位相シフト膜パターンが形成される。次に、酸性又はアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄を行い、高い反射率を達成したEUVリソグラフィ用の反射型マスクが得られる。
【0100】
なお、エッチングガスは、フッ素系ガスとして、SFの他、CHF、CF、C、C、C、C、CH、CHF、C、及びF等のフッ素系ガス、並びにこれらのフッ素ガス及びOを所定の割合で含む混合ガスを用いることができる。また、他のエッチングガスとしては、例えば、Cl、SiCl、CHCl、CCl、BCl等の塩素系のガス及びこれらの混合ガス、塩素系ガス及びHeを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガス及びArを所定の割合で含む混合ガス、フッ素ガス、塩素ガス、臭素ガス及び沃素ガスから選択される少なくとも一つを含むハロゲンガス、並びにハロゲン化水素ガスからなる群から選択される少なくとも一種類又はそれ以上が挙げられ、さらに、これらのガスと、酸素ガスとを含む混合ガス等を用いることができる。
【0101】
本発明の反射型マスクの製造のためには、上述の反射型マスクブランク10を用いるので、所望の位相差特性及び反射率特性を有する位相シフト膜パターンを有する反射型マスクを得ることができる。
【0102】
<半導体装置の製造>
本発明は、上述の本発明の反射型マスクを用いて半導体基板上にパターンを形成するパターン形成工程を含む、半導体装置の製造方法である。
【0103】
上述の本発明の反射型マスクを使用して、EUVリソグラフィ用により半導体基板上に反射型マスクの位相シフト膜パターンに基づく転写パターンを形成することができる。その後、その他種々の工程を経ることで、半導体基板上に種々のパターン等が形成された半導体装置を製造することができる。転写パターンの形成には、公知のパターン転写装置を用いることができる。
【0104】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、位相差及び反射率の膜厚依存性が小さい位相シフト膜パターンを有する反射型マスクを用いることができるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【0105】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態における反射型マスクブランク10の位相シフト膜15は、第1の実施形態よりも位相差ばらつき及び反射率ばらつきの許容範囲を広げたものである。
【0106】
位相シフト膜15は、位相シフト膜15形成前の前記多層反射膜からの反射光に対する位相シフト膜表面のEUV光の反射率Rが4%、6%又は12%であって、位相差θが180度となるように、2種以上の金属を有する合金からなる材料で構成される。この合金は、位相シフト膜15の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの位相差θの許容範囲が±5度(θ-5度≦θ≦θ+5度)であり、かつ反射率Rの許容範囲が0.9R≦R≦1.1Rとなるように、EUV光の波長における屈折率n及び消衰係数kを有し、組成比が調整されている。
【0107】
図7は、EUV光(波長13.5nm)における反射率が4%、6%及び12%の場合の所定の位相差特性及び反射率特性を満たす屈折率nと消衰係数kの範囲を示すグラフである。
【0108】
図7の螺旋H6%は、EUV光に対する位相差θを180度とし、反射率Rを6%とした場合の、位相シフト膜15の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの位相差θの許容範囲が±5度(θ-5度≦θ≦θ+5度)であり、かつ反射率Rの許容範囲が0.9R≦R≦1.1Rとなる屈折率と消衰係数とをプロットしたときの集合である。ここで、位相差θの許容範囲は、175度~185度となり、反射率Rの許容範囲は、5.4%~6.6%となる。
【0109】
同様に、図7の螺旋H4%は、EUV光に対する位相差θを180度とし、反射率Rを4%とした場合であって、位相差θの許容範囲は、175度~185度となり、反射率Rの許容範囲は、3.6%~4.4%となる。また、図7の螺旋H12%は、EUV光に対する位相差θを180度とし、反射率Rを12%とした場合であって、位相差θの許容範囲は、175度~185度となり、反射率Rの許容範囲は、10.8~13.2%となる。
【0110】
上記合金は、第1の実施形態と同様に、螺旋H4%、螺旋H6%又は螺旋H12%を挟んで群A’と群B’とに分け、群A’と群B’とからそれぞれ1種以上の金属元素を選択することにより得ることができる。螺旋H6%内に含まれる元素は群A’とした場合には、例えば群A’に属する金属元素としては、Ag、Pt、Ir、W、Cr、Co、Mn、Sn、Ta、V、Ni、Hf、Fe、Cu、Te、Zn、Mg、Ge、Alが挙げられる。群B’ に属する金属元素としては、Au、Pd、Rh、Ru、Mo、Nb、Ti、Zr、Yが挙げられる。
【0111】
本発明の第2の実施形態では、位相シフト膜15の材料を上述のように構成する以外は本発明の第1の実施形態と同様に、反射型マスクブランク10及び反射型マスクを製造することができる。
【0112】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態における反射型マスクブランク10の位相シフト膜15について説明する。複数の反射型マスクブランクを製造する際に、各々異なる反射率を有する反射型マスクブランクを製造する場合があるが、所望の位相差特性及び反射率特性を有しつつ、材料(さらにはその組成比)を変えることなく複数の反射率に対応可能な位相シフト膜を得ることは困難である。本発明の第3の実施形態における位相シフト膜15は、設定膜厚を変えるだけで複数の反射率に対応可能な合金からなる材料で構成される。
【0113】
位相シフト膜15は、位相シフト膜15形成前の前記多層反射膜からの反射光に対する位相シフト膜表面のEUV光の反射率Rが4%、6%又は12%であって、位相差θが180度となるように、2種以上の金属を有する合金からなる材料で構成される。この合金は、位相シフト膜15の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの位相差θの許容範囲が±5度(θ-5度≦θ≦θ+5度)であり、かつ反射率Rの許容範囲が0.9R≦R≦1.1Rとなるように、EUV光の波長における屈折率n及び消衰係数kを有し、かつ設定膜厚を変えるだけで複数の反射率に対応することが可能なように組成比が調整されている。
【0114】
(i)反射率Rが4%、6%及び12%の3つの反射率に対応可能とする場合
図8は、図7の重なり部分を満たす屈折率nと消衰係数kの範囲を示すグラフである。図8のスポットS3A及びスポットS3Bは、反射率Rが4%、6%及び12%の3つの反射率に対応することができる屈折率と消衰係数とをプロットしたときの集合である。即ち、スポットS3A及びスポットS3Bは、図7の螺旋H4%、螺旋H6%及び螺旋H12%の重なり部分である。
【0115】
スポットS3Aは、屈折率が0.877~0.881、消衰係数が0.046~0.052の範囲に含まれる。また、スポットS3Bは、屈折率が0.901~0.904、消衰係数が0.039~0.041の範囲に含まれる。
【0116】
上記合金は、第1の実施形態と同様に、スポットS3A及びスポットS3Bを結ぶ近似直線を挟んで群A’と群B’とに分け、群A’と群B’とからそれぞれ1種以上の金属元素を選択することにより得ることができる。例えば群A’に属する金属元素としては、Ag、Pt、Au、Ir、W、Cr、Co、Mn、Sn、Ta、V、Ti、Ni、Hf、Fe、Cu、Te、Zn、Mg、Ge、Al、Siが挙げられる。群B’ に属する金属元素としては、Pd、Rh、Ru、Mo、Nb、Zr、Yが挙げられる。
【0117】
2元系合金としては、AgPd合金、PtPd合金、AuPd合金、IrPd合金、CoPd合金、SnPd合金、NiPd合金、TePd合金、CuPd合金、FePd合金、WPd合金、CrPd合金、TaPd合金、ZnPd合金、HfPd合金、GePd合金、AlPd合金、MgPd合金、AgRh合金、CuRh合金、FeRh合金、IrRu合金が挙げられる。
例えば、PtPd合金は、組成比が0.10:0.90~0.25:0.75であることが好ましい。
【0118】
(ii)反射率Rが6%及び12%の2つの反射率に対応可能とする場合
図8のスポットS2A、スポットS2B、スポットS2C、スポットS2D及びスポットS2Eは、反射率Rが6%及び12%の2つの反射率を満たすことが可能な屈折率と消衰係数とをプロットしたときの集合である。即ち、スポットS2A、スポットS2B、スポットS2C、スポットS2D及びスポットS2Eは、図7の螺旋H6%と螺旋H12%との重なり部分である。
【0119】
スポットS2Aは、上記スポットS3Aの屈折率及び消衰係数の範囲に加えて、屈折率が0.880~0.888、消衰係数が0.041~0.046の範囲に含まれる。スポットS2Bは、上記スポットS3Bの屈折率及び消衰係数の範囲に加えて、屈折率が0.901~0.907、消衰係数が0.035~0.041の範囲に含まれる。スポットS2Cは、屈折率が0.917~0.921、消衰係数が0.030~0.034の範囲に含まれる。スポットS2Dは、屈折率が0.929~0.931、消衰係数が0.027~0.028の範囲に含まれる。スポットS2Eは、屈折率が0.938~0.939、消衰係数が0.024の範囲に含まれる。
【0120】
上記合金は、第1の実施形態と同様に、スポットS2A(スポットS3A含む)、スポットS2B(スポットS3B含む)、スポットS2C、スポットS2D及びスポットS2Eを結ぶ近似直線を挟んで群A’と群B’とに分け、群A’と群B’とからそれぞれ1種以上の金属元素を選択することにより得ることができる。例えば群A’に属する金属元素としては、Ag、Pt、Au、Ir、W、Cr、Co、Mn、Sn、Ta、V、Ni、Hf、Fe、Cu、Te、Zn、Mg、Ge、Al、Siが挙げられる。群B’ に属する金属元素としては、Pd、Rh、Ru、Mo、Nb、Ti、Zr、Yが挙げられる。
【0121】
2元系合金としては、上記(i)に記載の合金に加えて、PtMo合金、AuMo合金、NiMo合金、FeMo合金、ZnMo合金、MnMo合金、AgNb合金、NiNb合金、WNb合金、TaNb合金、MnPd合金、VPd合金、TiPd合金、PtRh合金、AuRh合金、WRh合金、CrRh合金、TaRh合金、ZnRh合金、MnRh合金、HfRh合金、GeRh合金、AlRh合金、MgRh合金、CoRu合金、SnRu合金、NiRu合金、WRu合金、CrRu合金、TaRu合金、ZnRu合金、HfRu合金、GeRu合金、VRu合金、IrY合金、PtZr合金、AuZr合金が挙げられる。
例えば、PtMo合金は、組成比が0.60:0.40~0.55:0.45であることが好ましい。
【0122】
本発明の第3の実施形態では、位相シフト膜15の材料を上述のように構成する以外は本発明の第1の実施形態と同様に、反射型マスクブランク10及び反射型マスクを製造することができる。
【実施例0123】
以下、本発明を、各実施例に基づいて説明する。
【0124】
(実施例1)
<反射型マスクブランク10の作製>
次に述べる方法で、位相シフト膜15の反射率が6%の特性を有する実施例1の反射型マスクブランク10を作製した。実施例1の反射型マスクブランク10は、基板12上にMo/Si多層反射膜13と、Ru保護膜14と、位相シフト膜15が積層されており、基板12の裏面には、CrN導電膜が形成された構造を有する。
【0125】
まず、SiO-TiO系ガラス基板12を準備した。
【0126】
この基板12の裏面にCrNからなる裏面導電膜11をマグネトロンスパッタリング法により次の条件にて形成した。すなわち、Crターゲットを用い、Ar+Nガス雰囲気(Ar:N=90%:N:10%)中で、膜厚20nmになるように、裏面導電膜11を形成した。
【0127】
次に、裏面導電膜11を形成した側と反対側の基板12の主表面上に、多層反射膜13を形成した。基板12上に形成される多層反射膜13として、13.5nmのEUV光に適した、Mo/Si周期多層反射膜13を採用した。多層反射膜13は、MoターゲットとSiターゲットを使用し、イオンビームスパッタリング(Arガス雰囲気)により、基板12上にMo層及びSi層を交互に積層して形成した。まず、Si膜を膜厚4.2nmで成膜し、続いて、Mo膜を膜厚2.8nmで成膜した。これを一周期とし、同様にして40周期積層し、最後にSi膜を膜厚4.0nmで成膜し、多層反射膜13を形成した(合計膜厚:284nm)。
【0128】
引き続き、Ruターゲットを使用したイオンビームスパッタリング(Arガス雰囲気)により、多層反射膜13の最上層のSi膜上に、Ruを含む保護膜14を膜厚2.5nmで成膜した。
【0129】
次に、保護膜14上に、以下の方法で位相シフト膜15を形成した。すなわち、Arガス雰囲気中でPdMoターゲット(Pd:Mo=0.86:0.14)を使用したスパッタリングを行って、設定膜厚が28.2nmのPdMo合金からなる位相シフト膜15を形成して反射型マスクブランク10を得た。なお、この位相シフト膜15のPdMo合金の組成比は、ターゲット組成比と同様の組成比を有している。
【0130】
上述の方法で10枚の反射型マスクブランク10を作製し、それぞれの反射型マスクブランク10について、EUV光(波長13.5nm)を用いて、位相シフト膜15の屈折率、消衰係数を測定した。その結果、反射型マスクブランク10に形成された位相シフト膜15は、屈折率が0.883、消衰係数が0.042であった。
【0131】
したがって、この得られた反射型マスクブランク10の位相シフト膜15は、シミュレーションにより、位相差ばらつきは180度±1.3度であり、反射率ばらつきは6%±0.1%であった。
【0132】
<反射型マスクの作製>
次に、上述の実施例1の反射型マスクブランク10を10枚作製した。作製された10枚の各反射型マスクブランクの位相シフト膜15上に、レジスト膜を膜厚100nmで形成し、描画・現像によりレジストパターンを形成した。その後、このレジストパターンをマスクとし、フッ素系のSFガスを用いて、位相シフト膜15をドライエッチングし、位相シフト膜パターンを形成した。その後、レジストパターンを除去して、10枚の反射型マスクを作製した。
【0133】
得られた10枚の反射型マスクについて、EUV光を用いて位相シフト膜パターン表面の反射光と、多層反射膜表面の反射光による位相差及び反射率を測定したところ、位相差ばらつきは180度±1.8度であり、反射率ばらつきは6%±0.1%であり、小さい値であった。
【0134】
<半導体装置の製造>
実施例1により得られた反射型マスクをEUVスキャナにセットし、半導体基板12上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウエハに対してEUV露光を行い、この露光済レジスト膜を現像することにより、被加工膜が半導体基板12上にレジストパターンを形成した。
【0135】
実施例1の反射型マスクは、所望の位相差特性(位相差ばらつきが180度±1.3度)及び反射率特性(反射率ばらつきが6%±0.1%)を有する位相シフト膜パターンが形成された反射型マスクであるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができた。
【0136】
さらにこのレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を高い歩留まりで製造することができた。
【0137】
(実施例2)
上述の実施例1において、位相シフト膜15をTaPdMo合金(Ta:Pd:Mo=0.015:0.869:0.116、設定膜厚=28.2nm)とした以外は、実施例1と同様にして反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。
【0138】
その結果、反射型マスクブランク10に形成された位相シフト膜15は、屈折率が0.883、消衰係数が0.042であり、シミュレーションにより得られた位相差ばらつきは180度±1.3度であり、反射率ばらつきは6%±0.1%であった。また、反射型マスクの位相差ばらつきも180度±1.3度であり、反射率ばらつきも6%±0.1%であり小さい値であった。
【0139】
(実施例3~8)
上述の実施例1において、位相シフト膜15を以下の表1の材料(合金、組成比)、設定膜厚に変えた以外は実施例1と同様にして、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。また、実施例1と同様にして測定して得られた、位相シフト膜15の屈折率、消衰係数、位相差ばらつき、及び反射率ばらつきは、表2の結果となった。
【0140】
【表1】
【0141】
【表2】
【0142】
なお、上述の実施例3~実施例8において、保護膜14の材料は、位相シフト膜15をパターニングする際に使用するドライエッチングガスに対して、エッチング耐性を有する材料を適宜選定した。
【0143】
上述の結果が示す通り、実施例3~8においても、反射型マスクブランク及び反射型マスクの位相差ばらつき及び反射率ばらつきは小さい値であった。
【0144】
(実施例9~10)
実施例9は、位相シフト膜15の反射率が4%の特性を有する反射型マスクブランク10、実施例10は、位相シフト膜15の反射率が20%の特性を有する反射型マスクブランク10をそれぞれ作製した。裏面導電膜11、多層反射膜13、保護膜14は実施例1と同様である。
【0145】
上述の実施例1において、位相シフト膜15を以下の表3の材料(合金、組成比)、設定膜厚に変えた以外は実施例1と同様にして、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。また、実施例1と同様にして測定して得られた位相シフト膜15の屈折率、消衰係数、位相差ばらつき及び反射率ばらつきは、表4の結果となった。
【0146】
【表3】
【0147】
【表4】
【0148】
上述の結果が示す通り、実施例9~10において、反射型マスクブランク及び反射型マスクの位相差ばらつき及び反射率ばらつきは小さい値であった。
【0149】
実施例3~実施例10の反射型マスクは、所望の位相差特性(位相差ばらつきが180度±2度)及び所望の反射率特性(反射率ばらつきが6%±0.1%、4%±0.1%、20%±0.1%)を有する位相シフト膜パターンが形成された反射型マスクであるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができた。
【0150】
さらにこのレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を高い歩留まりで製造することができた。
【0151】
(実施例11~15)
上述の実施例1において、位相シフト膜15を以下の表5の材料(合金、組成比)、設定膜厚に変えた以外は実施例1と同様にして、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。また、実施例1と同様にして測定して得られた、位相シフト膜15の屈折率、消衰係数、位相差ばらつき、及び反射率ばらつきは、表6-1及び表6-2の結果となった。
【0152】
【表5】
【0153】
【表6-1】
【0154】
【表6-2】
【0155】
なお、上述の実施例11~実施例15において、保護膜14の材料は、位相シフト膜15をパターニングする際に使用するドライエッチングガスに対して、エッチング耐性を有する材料を適宜選定した。
【0156】
上述の結果が示す通り、実施例11~15において、反射型マスクブランク及び反射型マスクの位相差ばらつき及び反射率ばらつきは、反射率が4%、6%及び12%の何れにおいても実施例1~10よりは大きいが許容範囲内であった。また、位相シフト膜の材料及び組成比を変えずに、膜厚を変更するだけで、反射率が4%、6%及び12%の場合の何れも所望の位相差特性(位相差ばらつきが180度±5度)及び所望の反射率特性(0.9R≦R≦1.1R)を満たす位相シフト膜を得ることができた。
【0157】
実施例11~15の反射型マスクは、所望の位相差特性(位相差ばらつきが180度±5度)及び所望の反射率特性(0.9R≦R≦1.1R)を有する位相シフト膜パターンが形成された反射型マスクであるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができた。
【0158】
(実施例16~22)
上述の実施例1において、位相シフト膜15を以下の表7の材料(合金、組成比)、設定膜厚に変えた以外は実施例1と同様にして、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。また、実施例1と同様にして測定して得られた、位相シフト膜15の屈折率、消衰係数、位相差ばらつき、及び反射率ばらつきは、表8-1及び表8-2の結果となった。
【0159】
【表7】
【0160】
【表8-1】
【0161】
【表8-2】
【0162】
なお、上述の実施例16~実施例22において、保護膜14の材料は、位相シフト膜15をパターニングする際に使用するドライエッチングガスに対して、エッチング耐性を有する材料を適宜選定した。
【0163】
上述の結果が示す通り、実施例16~22において、反射型マスクブランク及び反射型マスクの位相差ばらつき及び反射率ばらつきは、反射率が6%及び12%の何れにおいても実施例1~10よりは大きいが許容範囲内であった。また、位相シフト膜の材料及び組成比を変えずに、膜厚を変更するだけで、反射率が6%及び12%の場合の何れも所望の位相差特性(位相差ばらつきが180度±5度)及び所望の反射率特性(0.9R≦R≦1.1R)を満たす位相シフト膜を得ることができた。
【0164】
実施例16~22の反射型マスクは、所望の位相差特性(位相差ばらつきが180度±5度)及び所望の反射率特性(0.9R≦R≦1.1R)を有する位相シフト膜パターンが形成された反射型マスクであるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができた。
【0165】
(比較例1~3)
比較例1として、位相シフト膜の反射率が6%の特性を有する反射型マスクブランク、比較例2は、位相シフト膜の反射率が4%の特性を有する反射型マスクブランク、比較例3は、位相シフト膜の反射率が12%の特性を有する反射型マスクブランクをそれぞれ作製した。
【0166】
上記の実施例1において、位相シフト膜を以下の表9の材料(合金、組成比)、設定膜厚に変えた以外は実施例1と同様にして、反射型マスクブランク及び反射型マスクを作製した。また、実施例1と同様にして測定して得られた、位相シフト膜の屈折率、消衰係数、位相差ばらつき、及び反射率ばらつきは、表10の結果となった。
【0167】
【表9】
【0168】
【表10】
【0169】
上述の結果が示す通り、比較例1~3においては、反射型マスクブランク及び反射型マスクの反射率ばらつきは0.9R≦R≦1.1Rの範囲内であったが、位相差ばらつきは±5度の範囲を超える値となった。
【0170】
比較例1~3の反射型マスクは、所望の位相差特性(位相差ばらつきが180度±5度の範囲)及び所望の反射率特性(反射率ばらつきが0.9R≦R≦1.1R)を満たさない位相シフト膜パターンが形成された反射型マスクであるので、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができなかった。
【0171】
さらにこのレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を高い歩留まりで製造することができなかった。
【0172】
(参考例1、2)
上述の実施例1において、位相シフト膜15を以下の表11の材料(合金、組成比)、設定膜厚に変えた以外は実施例1と同様にして、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを作製した。また、実施例1と同様にして測定して得られた、位相シフト膜15の屈折率、消衰係数、位相差ばらつき、及び反射率ばらつきは、表12-1及び表12-2の結果となった。
【0173】
【表11】
【0174】
【表12-1】
【0175】
【表12-2】
【0176】
上述の結果が示す通り、参考例1においては、反射型マスクブランク及び反射型マスクの反射率ばらつきは0.9R≦R≦1.1Rの範囲内であり、位相差ばらつきは反射率が6%の場合には±5度の範囲内であったが、反射率が4%及び12%の場合には±5度の範囲を超える値となった。また、参考例2においては、反射率ばらつきは0.9R≦R≦1.1Rの範囲内であり、位相差ばらつきは反射率が4%の場合には±5度の範囲内であったが、反射率が6%及び12%の場合には±5度の範囲を超える値となった。したがって、位相シフト膜の材料及び組成比を変えずに、膜厚を変更するだけで、反射率が4%、6%及び12%の場合の何れも所望の位相差特性(位相差ばらつきが180度±5度)及び所望の反射率特性(0.9R≦R≦1.1R)を満たす位相シフト膜を得ることはできなかった。
【符号の説明】
【0177】
10 反射型マスクブランク
11 裏面導電膜
12 基板
13 多層反射膜
14 保護膜
15 位相シフト膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-05-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された多層反射膜と、前記多層反射膜上に形成された位相シフト膜とを備える反射型マスクブランクであって、
前記位相シフト膜形成前の前記多層反射膜からの反射光に対する前記位相シフト膜表面のEUV光に対する反射率が3%超20%以下であって、170度~190度の位相差を有するように、前記位相シフト膜は、2種以上の金属を有する合金からなる材料で構成されてなり、
EUV光の波長における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、
下記式(1)の屈折率n、消衰係数kを満たす金属元素群を群A、下記式(2)の屈折率n、消衰係数kを満たす金属元素群を群Bとし、
前記合金は、前記群Aと前記群Bとからそれぞれ1種以上の金属元素を選択し、前記位相シフト膜の膜厚が設定膜厚に対して±0.5%変動したときの前記位相差の変化量が±2度の範囲であり、かつ反射率の変化量が±0.2%の範囲となるように、組成比が調整されていることを特徴とする反射型マスクブランク。
k>α*n+β・・・・・式(1)
k<α*n+β・・・・・式(2)
(但し、α:比例定数、β:定数とする。)