(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080289
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】慢性皮膚損傷の治療のための抗微生物剤とピルフェニドンとを含有する局所用半固体組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230601BHJP
A61K 31/4418 20060101ALI20230601BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230601BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230601BHJP
A61K 31/351 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/4418
A61P17/00
A61P43/00 121
A61K31/351
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065867
(22)【出願日】2023-04-13
(62)【分割の表示】P 2020508593の分割
【原出願日】2018-08-10
(31)【優先権主張番号】MX/A/2017/010486
(32)【優先日】2017-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MX
(71)【出願人】
【識別番号】519168561
【氏名又は名称】セル セラピー アンド テクノロジー,エス.エー. デーイー シー.ヴィ.
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】マガニャ カストロ,ホセ アグスティン ロゲリオ
(72)【発明者】
【氏名】アルメンダリズ ボルンダ,ユアン ソコロ
(57)【要約】
【課題】 本発明は、慢性皮膚損傷、特に神経障害性潰瘍によって生じた損傷の治療、好ましくは糖尿病性足病変の治療のための、また血管性潰瘍の治療における局所用医薬ゲル組成物であって、改変ジアリルジスルフィド酸化物(M-DDO)(殺菌/抗生物質剤として)及び5-メチル-1-フェニル-2(1H)-ピリドンの組合せを含む、組成物を提供する。さらに、本発明は慢性皮膚病変、及び神経障害性潰瘍によって生じた損傷を除去、低減又は予防するための薬剤の調製における、特に糖尿病性足病変の治療及び血管性潰瘍の治療における治療方法、適用及び/又は薬学的使用を記載する。
【解決手段】 慢性皮膚損傷の治療のための局所用医薬ゲル組成物であって、抗微生物剤及び5-メチル-1-フェニル-2(1H)-ピリドンの組合せと、1つ以上の薬学的に許容可能な添加剤とを含むことを特徴とする、組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性皮膚損傷の治療のための局所用医薬ゲル組成物であって、抗微生物剤及び5-メチル-1-フェニル-2(1H)-ピリドンの組合せと、1つ以上の薬学的に許容可能な添加剤とを含むことを特徴とする、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5-メチル-1-フェニル-2(1H)ピリドン及び改変ジアリルジスルフィド酸化物(M-DDO)という作用物質である抗微生物剤の組合せを含むゲル形態の局所用半固体(水溶性)医薬組成物であって、慢性皮膚損傷、特に糖尿病に起因し得る皮膚潰瘍、又は血管性潰瘍の治療において有用である、組成物に関する。また、本発明は、上記慢性皮膚損傷を治療する方法及びゲル形態の局所用医薬組成物を製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍(ulcer)という単語は、ラテン語のulcus(潰瘍)の複数形ulceraに由来する。この単語は、自然治癒の傾向が殆ど又は全く見られない、生物の任意の上皮表面からの物質の喪失による連続解離(solution)として定義される。この単語には病理過程の結果である皮膚又は粘膜物質の喪失等のより具体的な病理過程の定義も認められ、深部においては少なくとも上皮下結合組織に影響を及ぼす。外傷に起因する潰瘍は、創傷と呼ばれる。
【0003】
潰瘍は、表層若しくは深層真皮、皮下組織に達する可能性があり、又は筋膜、更には下層の骨に達する可能性がある。潰瘍は、その進行により、一般的に急性及び慢性と分類することができる。
【0004】
潰瘍化(Ulceration)は、皮膚の物質の任意の喪失であり、表層である場合、水疱破裂等の糜爛又は潰瘍形成(exulceration)と呼ばれる。胚芽層が損傷しない場合、瘢痕は見られない。
【0005】
潰瘍化は、皮膚の全ての層に及び、皮下細胞組織、更には深層面に達する可能性がある。線状である場合、亀裂(fissures)又はひび割れ(cracks)として知られる。
【0006】
慢性潰瘍化は、自然な長期にわたる瘢痕化(6週間超)の傾向が殆ど若しくは全く見られないか、又は頻繁な再発が見られる、生物の任意の上皮表面からの物質の喪失による連続解離である。
【0007】
組織再生の過程は、炎症、増殖及びリモデリングの3つの段階を経る、分解と新たな組織の合成との間の均衡によってもたらされる。組織の産生と分解との間に不均衡が生じると、治癒の傾向が僅かにしかない、潰瘍の形態の上皮病変、すなわち上皮表面の連続解離が慢性的に存在するようになる。
【0008】
潰瘍では、感染、壊死組織又は異物に起因する慢性炎症が、腫瘍壊死因子α(TNFα)、インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)等の炎症性サイトカイン、及び細胞外基質タンパク質を分解する機能を有するメタロプロテアーゼの放出を支持する。したがって、メタロプロテアーゼのレベルが上昇すると、細胞外基質の破壊が支持される。
【0009】
この病態生理学的過程において重要なサイトカインは、形質転換成長因子β-1(TGF-β1)である。TGF-β1は、線維形成過程を刺激し、特に血管内皮成長因子(VEGF)、血小板由来成長因子(PDGF)及びケラチノサイト成長因子(KGF)等の幾つかの成長因子の活性を調節する。
【0010】
慢性傷害では、患者に伴う潰瘍問題のタイプに関わらず、過程の均衡が崩れる。組織再生過程の変化は、新たな組織の産生と分解効果との間の均衡の、病変を慢性化する変化に起因すると言える。
【0011】
人口にますます影響を及ぼしている慢性潰瘍には、糖尿病性足部潰瘍、圧迫又は褥瘡性潰瘍(褥瘡)、並びに血管性、動脈性及び静脈性潰瘍がある。
【0012】
過程の変化が成長因子の発現における欠陥を示すため、これらの変化を制御することが求められており、特に血小板由来成長因子(PDGF)及び顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)が研究されている。
【0013】
残念なことに、GFは、その有望な結果にも関わらず、依然として複雑なバイオ技術プロセスによって得る必要があり、その作製が困難であるだけでなく、高コストであるという欠点を有し、これが患者の治療に影響を及ぼす。
【0014】
糖尿病性足病変
糖尿病性足病変は、糖尿病患者に見られる慢性高血糖に起因する、外因性及び内因性トリガー(外傷、局所衛生及び骨変形等)に対する素因(血管障害、ニューロパチー及び感染等)の相互作用によって生じる症候群を指す臨床単位である。
【0015】
かかる症候群は、糖尿病の合併症の1つであり、50歳超の人々における非外傷性切断の最も一般的な原因であると考えられている。切断の85%で足部の潰瘍が先行して見られ、義肢を用いて再び歩ける患者が3分の1でしかないことから、患者の生活の質が低下する。これに加えて、これらの患者のおよそ30%が1年目に死亡し、5年後に50%が他の肢の切断を被ると推定される。
【0016】
血管性潰瘍
動脈性潰瘍、
静脈性潰瘍、
に分類される。
【0017】
動脈性潰瘍
脚部での皮膚潰瘍の2番目の原因である。これらの潰瘍は、慢性動脈血管収縮、閉塞又は奇形のいずれかによる動脈血供給の喪失を伴う動脈不全によって生じる。
【0018】
閉塞、血管収縮及び動脈奇形
強皮症、壁外過程(extramural processes)、早老症、動脈硬化症、血管炎、血管攣縮性障害、血栓症、塞栓症、レイノー現象、凝固障害及び組織瘢痕において生じる。
【0019】
外観及び位置
動脈性潰瘍は、数ミリメートルから数センチメートルまでの様々な大きさであり、脚部の表面全体に生じる場合もあり、楕円形、円形又は不規則形状の、片側又は両側の、明確に定められた境界(個別に隆起した)及び萎縮性の背景、灰色又は黒色の基部を有し、僅かな肉芽組織を有する単一又は複数の潰瘍であり得る。動脈性潰瘍は通常、骨の隆起及び中足骨頭、主に中央の踝付近の(perimalleolar)領域、しばしば脚部の下3分の1の内側領域に位置する。
【0020】
静脈性潰瘍
脚部における皮膚潰瘍の最も多い原因である。下部骨盤肢における慢性潰瘍の大部分は、静脈炎後症候群又は動静脈シャントに起因する慢性静脈鬱滞に続発する。
【0021】
静脈性潰瘍は、弁膜閉鎖不全によってもたらされる慢性静脈不全によって生じる潰瘍としても定義される。
【0022】
外観及び位置
静脈性潰瘍は、不明確な境界(不規則形状及び隆起した)及び肉芽腫性の基底部を伴って見られる。静脈性潰瘍は通常、骨盤肢の内側領域に見られる。
【0023】
褥瘡
長時間にわたる2つの平面、すなわち患者の骨の隆起と外表面との間の組織の圧迫、摩擦又は連続的な摩擦によって生じる。
【0024】
開発された発明は、抗微生物剤及び5-メチル-1-フェニル-2(H)ピリドン(ピルフェニドン)の組合せを含み、慢性潰瘍の治療におけるその適用により、治療的予測を超える結果が得られた。
【0025】
抗生物質は、「微生物の成長を阻害し、それらの破壊を引き起こす能力を有する、様々な種の微生物(細菌、子嚢菌類及び真菌)によって産生されるか、又は化学的に合成される化学物質」と定義される。全身及び局所使用のための幾つかの配合物が設計されており、その適応症は、患者の感染状態の性質及び医学的基準によって決まる治療的必要性に基づく。抗微生物剤に言及する場合、抗細菌剤(抗生物質)、抗結核剤、抗真菌剤、殺菌剤から抗ウイルス剤にまで及ぶ膨大な(large arsenal of)物質が含まれる。
【0026】
局所用抗生物質剤は、皮膚科学において基本的な役割を有し、外来患者及び入院患者の両方について、高度に局在した皮膚感染における、全身的な支障のない全身用作用物質に対する選択肢となる。
【0027】
局所用抗生物質は、宿主細胞に配慮しながら、細菌細胞の発達を阻害するか、又は細菌細胞を破壊するのを可能にする、より選択的な毒性を有する。局所用抗生物質は、微生物耐性をもたらし、交差反応による感作を引き起こす可能性がある。局所用抗生物質は、以下の特性を有する場合、理想的な局所用抗生物質とみなされる:
1. 皮膚病原体に対する広範な活性
2. 持続的な抗細菌効果
3. 耐性を誘導する低い能力
4. 全身使用のための抗生物質との交差耐性の欠如
5. 良好な忍容性、低いアレルギー発生率
6. 最小限の毒性及びアレルギー発生率、又は毒性及びアレルギー発生率の欠如
7. 皮膚及び瘡蓋への浸透
8. 低いコスト
【0028】
M-DDOの抗微生物特性評価
アリシンとしても知られるジアリルジスルフィド酸化物(ODD)は、酵素アリナーゼの介入による、ニンニク(アリウム・サティバム(Allium sativum))中に見られるアリインの触媒作用の産物である。ODDは、関心の様々な薬理活性を有する硫黄化合物である。ODDは、非常に不安定な化合物であることから、その特性を急速に失う。ODDは、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、トリコモナス属の幾つかの種、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、大腸菌(Escherichia coli)、腸チフス菌(Salmonella typhi)、パラチフス菌(S. paratyphi)、志賀赤痢菌(Shigella dysenterica)及びコレラ菌(Vibro cholerae)に対してin vitro活性を有することが示されている。
【0029】
半合成の合成プロセスにより、ジアリルジスルフィド酸化物を安定化し、補因子を付加することが可能であった。得られる化合物は、改変ジアリルジスルフィド酸化物(M-DDO)と呼ばれ、アリシンよりもはるかに安定し、明らかにその特性を保持する。
【0030】
改変ジアリルジスルフィド酸化物(M-DDO)は、[1,2-ジアリル-1-(5-メチル-テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イルオキシ)ジスルフロニウム]+6-[(ベンジル,メチル,オクチルアンモニウム)(ヒドロキシメチルアミン)(メチルアミン)]-テトラヒドロ-2H-ピラン-3-オキシ]クロリドと呼ばれる化学化合物であり、その構造式を下記に示す:
【0031】
【0032】
査読制雑誌に掲載された幾つかの調査において、アリシンの活性が実証されている。しかしながら、その低い安定性が、その考え得る治療用途における制限であった。その結果として、M-DDO複合体の安定性特性を用いることで、アリシンの既知の特性の中でも、抗細菌特性及び殺菌特性に基づくその治療用途が可能となることが明らかである。この抗微生物剤は、皮膚病原体に対する広範な活性を有し、持続的な抗細菌効果を有し、その三重抗微生物作用機構により耐性を誘導する能力が低く、全身使用のための抗生物質との交差耐性を示さないことから、理想的な抗微生物剤の上述の特性を満たす。良好な忍容性、低いアレルギー発生率を有し、毒性及びアレルギー発生率を最小限にしか又は全く有しない。
【0033】
M-DDO分子は、その薬理学的使用に革新的な分子を用いることにより本発明に付加的な新規の特徴を与える、特許文献1に記載されている。
【0034】
ピルフェニドンの特性評価
補足的に、構造式を下記に示す:
【0035】
【化2】
5-メチル-1-フェニル-2(1H)-ピリドンは、線維症により生じる傷害を有する組織の修復及び線維性傷害の予防に適用されている薬物である。ピルフェニドンと呼ばれる、かかる化合物は、それ自体が既知の化合物であり、その薬理効果は、例えば特許文献2及び特許文献3に解熱及び鎮痛効果を有する抗炎症剤として記載されている。1974年10月1日付で公開された特許文献4、1976年8月10日付で公開された特許文献5、1977年8月16日付で公開された特許文献6、及び1977年10月4日付で公開された特許文献7は、ピルフェニドンを得る方法、及びピルフェニドンが以下のものとして作用することから、抗炎症剤としてのその使用を記載している:
1. 治癒の炎症段階において作用する因子(TNF-α、IL-1、IL-6)の強力な阻害剤。
2. NFkBの強力な阻害剤。この転写因子は、炎症性サイトカインTNF-α、IL-1及びIL-6をコードする遺伝子の転写の調節において最も重要である。
3. 線維芽細胞及びケラチノサイトを刺激して、創傷を「塞ぐ」ために必要なコラーゲン繊維の産生及び肉芽組織の形成を促進するサイトカインの調節因子。この一例は、主要な線維形成促進性サイトカインと考えられるTGF-β1である。
TGF-β1(形質転換成長因子β1)
4. 再上皮化剤として作用する、TGF-β3産生の強力な誘導因子。
5. 線維性組織の分解に関与するメタロプロテアーゼ(コラゲナーゼ)と呼ばれる強力な酵素モジュレーター(遺伝子及びタンパク質レベルで)。
6. 上記の酵素の作用の調節を可能にし、組織のリモデリングを助ける、TIMP(組織性メタロプロテアーゼ阻害因子)の強力なモジュレーター。
7. 組織の再生過程に関わる他の重要なサイトカイン:VEGF、PDGF、FGF、KGF等の作用のモジュレーター。これらはTGF-β3によって「調整」されるため、これらの因子の作用を調節することによって作用する多能性要素であることが証明されている。
8. 創傷の酸化-還元状態の調節因子。これは、創傷の酸化及び炎症状態を長続きさせる活性酸素種(ROS)の産生を減少させる。
9. カタラーゼ(CAT)、グルタミルシステイン合成酵素の触媒画分及び調節画分(GCLC及びGCLM)及びヘムオキシゲナーゼ1(HMO1)等の抗酸化酵素をコードする遺伝子の発現のプロモーター。
10. 先の事項に記載したこれらの事象は、活性酸素種(ROS)の隔離及び除去、並びにヒト身体内で最も強力な抗酸化系の1つである還元型グルタチオンの産生の増大をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】メキシコ国特許出願公開第2012003874号
【特許文献2】特開1974/87677号
【特許文献3】特開1976/1284338号
【特許文献4】米国特許第3,839,346号
【特許文献5】米国特許第3,974,281号
【特許文献6】米国特許第4,042,699号
【特許文献7】米国特許第4,052,509号
【発明の概要】
【0037】
本発明の第1の目的は、慢性皮膚損傷、特に神経障害性潰瘍によって生じた損傷の治療、好ましくは糖尿病性足病変の治療のための局所用医薬ゲル組成物を提供することである。血管性潰瘍も本発明を用いて治療することができる。ここで、かかる組成物は、抗微生物剤及び5-メチル-1-フェニル-2(1H)-ピリドン(ピルフェニドン)の組合せを含む。
【0038】
第2の目的は、安定しており、生分解性であり、非毒性であり、広範な作用を有し、慢性皮膚損傷に対するだけでなく、特に神経障害性潰瘍によって生じた損傷に対し、好ましくは糖尿病性足病変の治療及び血管性潰瘍の治療におけるものである、局所適用のための改変ジアリルジスルフィド酸化物(M-DDO)及び5-メチル-1-フェニル-2(1H)-ピリドンの組合せを含むゲル組成物を得ることである。
【0039】
本発明の他の目的は、慢性皮膚損傷を治療する方法、加えて、抗微生物剤及び5-メチル-1-フェニル-2(1H)-ピリドンの組合せを含む局所用ゲル医薬組成物を製造する方法を提供する。
【0040】
上記の目的は代表的なものであり、本発明を限定するとみなすべきではなく、慢性皮膚病変、及び神経障害性潰瘍によって生じた損傷を除去、低減又は予防するための薬物の調製、特に糖尿病性足病変の治療及び血管性潰瘍の治療における治療方法、適用又は薬学的使用も示される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】48cmの初期RUV及び91.7%のRRUVを有する、ピルフェニドンで治療した67歳の男性を示す図である。
【
図2】18cmの初期RUV及び88.3%のRRUVを有する、ピルフェニドンで治療した53歳の男性を示す図である。
【
図3】11.8cmの初期RUV及び71.2%のRRUVを有する、ピルフェニドンで治療した47歳の男性を示す図である。
【
図4】6.4cmの初期RUV及び93.8%のRRUVを有する、ピルフェニドンで治療した49歳の男性を示す図である。
【
図5】16cmの初期RUV及び80.9%のRRUVを有する、ピルフェニドンで治療した63歳の男性を示す図である。
【
図6】2.5cmの初期RUV及び38.8%のRRUVを有する、ケタンセリンで治療した67歳の女性を示す図である。
【
図7】5.9cmの初期RUV及び27%のRRUVを有する、ケタンセリンで治療した56歳の男性を示す図である。
【
図8】42cmの初期RUV及び26.6%のRRUVを有する、ケタンセリンで治療した53歳の女性を示す図である。
【
図9】5cmの初期RUV及び40%のRRUVを有する、ケタンセリンで治療した57歳の男性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明は、0.01%~5%(w/w)の抗微生物剤と、組成物の5%~10%(w/w)の5-メチル-1-フェニル-2(1H)-ピリドンと、組成物の85%~95%(w/w)のゲルの調製に適切な1つ以上の添加剤とを含む、5-メチル-1-フェニル-2(1H)-ピリドン(ピルフェニドン)及び或る局所用抗生物質剤の組合せを含む局所用医薬組成物に関する。
【0043】
特に、本発明は、組成物の0.01%~0.1%(重量/重量)のM-DDOと、組成物の5%~10%(重量/重量)の5-メチル-1-フェニル-2(1H)-ピリドンと、組成物の89%~95%(重量/重量)のゲルの調製に適切な1つ以上の添加剤とを含む、局所適用される、改変ジアリルジスルフィド酸化物(M-DDO)及び5-メチル-1-フェニル-2(1H)-ピリドン(ピルフェニドン)の組合せを含む局所用医薬組成物に関する。
【0044】
局所用ゲルの配合
上述の分子の組合せの局所適用は、ゲル形態の医薬組成物の配合によって明らかに増強される。
【0045】
ゲル形態の医薬組成物は、透明コロイドと呼ばれるゲル(ラテン語のgelu(冷たい)又はgelatus(凍った、静止したに由来する)である。粘膜に適用することを意図した、小さな無機粒子の懸濁液、又は通常は脂肪油を含まない液体が浸透した大きな有機分子であり得る半固体は、浸透力を有しないため、局所作用(表面から)を発揮するために用いられる。それらの共通の特性は、半固体の特性をもたらす或る種の連続構造の存在である。
【0046】
活性物質が皮膚に吸着される、浸透する、透過するか、又は吸収されるかは、その水への溶解性、その脂質-水分配係数、その解離定数、その化学構造及びその分子量等のその物理及び化学特性によって決まる。加えて、これは、医薬品形態に組み込まれた後の有効成分の特性、例えばpH、ビヒクル等の性質、並びに形態的及び機能的な変化を示し得る、通過する障壁のタイプ、並びに電荷の存在等によって決まる。
【0047】
吸収部位では、活性成分は、皮膚又は腸管上皮等の複雑な障壁であり得る脂質ロッド(lipid rod)を通過する必要がある。この通過は、以下のような幾つかの機構によって行われ得る。
【0048】
【0049】
ゲルの設計において、適切な拡張性及びテクスチャーと共に、その局所投与に適切な官能的及び流動学的特性を呈する配合物を選択することが不可欠である。調製物が患者に審美的に許容され、使用が容易であることを確認することも重要である。
【0050】
以下の幾つかの要因に留意する必要がある:
所望の治療作用を得るために必要な活性成分の選択
医薬品形態及び適切な添加剤の選択
有効成分と考え得る添加剤との適合性の評価
ビヒクルの皮膚科学的効果の検討
【0051】
ゲルは、以下のように分類することができる:
それらの性質に応じて、有機又は無機。
水性成分が水又は或る有機溶媒であるかに応じて、水性(ヒドロゲル)又は有機(有機ゲル)。
粒子の大きさに応じて、コロイド粒子又は粗粒子。
それらの機械的特性に応じて、剛性、弾性又は揺変性ゲル。
【0052】
ゲルの使用の利点は、特に耐容性良好であり、水で容易に落ち、爽やかさ(freshness)をもたらすことである。ゲルのタイプの適切な選択のためには、これらが以下の一般的特性を満たす必要があると考えられる:
pH:中性又は皮膚のpHに最も近い弱酸性。
物理的及び化学的安定性、並びに組み込まれる活性成分との適合性。
流動学的特性は、表面及び皮膚の腔に対して適切な拡張性及び適応性を有する調製物をもたらす必要がある。このため、これらが適用時の流動性の増大に続く、薬物を広げた後の初期テクスチャーの回復を特徴とする可塑性-揺変性タイプの流動を有することが推奨され、これにより薬物を治療領域に局在化及び付着させることが可能になる。
簡単な洗浄により治療領域から除去ことができること。しかしながら、この推奨は、例えば高度に閉塞性の脂肪性ビヒクルの排除を必要とし、論理的には洗うことができない病理のようないかなる場合でも、薬剤の全体的な外観に影響を与えないものとする。
可能な限り皮膚も組織も着色しないものとする。
一次刺激又は過感作効果を呈してはならない。
【0053】
ビヒクルの選択及び配合の基準は、使用される皮膚病変のタイプに基づいて確立されるものとする。患部の単純な外観又は状態がこの点で指標となり得る。
【0054】
皮膚科学的病理を3つの一般的なタイプ:急性、慢性及び先の2つの中間の総体症状である亜急性の過程又は傷害に分類することができることから、ビヒクルも、使用するのが好ましい傷害のタイプに応じて3つの群に分類される。
【0055】
一方では創傷の乾燥の可能性、他方では閉塞の特性が、一般的に、重篤及び慢性過程の治療に使用される皮膚科薬剤の配合に使用されるビヒクルのより代表的な2つの特性である。
【0056】
ゲルの調製のための添加剤には、ゲル形成剤、中和剤、湿潤剤、又は香料及び着色料がある。これらは、そのテクスチャー、粘度、安定性及び微細構造を与える様々な天然及び人工物質に由来する。
【0057】
前記ゲル化剤はカルボマー、Carbopol 940、Carbopol 940P、Neopol 40、ポリアクリル酸グリセリン、架橋アクリル酸アルキル、ポリアクリルアミド、アクリル酸ポリマー、メチルセルロース、高分子量ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウムを含む群から選択される。これらのゲル形成剤は、例えばCarbopol、Ultrez 21、Hispogel、Pemlente、Simugel 600、Sepigel 305及びMethocel Aの商品名で得ることができる。
【0058】
前記中和剤はアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、2,2’,2’’-ニトリロトリエタノールからなる群から選択される。
【0059】
前記湿潤剤はポリオール、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオールからなる群から選択される。
【0060】
前記着香料及び前記着色剤は天然エキス又は精油、抽出物、バルサム、天然エキス又は芳香性の若しくは人工の風味のある(sapid)化学化合物抽出物から単離された化合物を含む群から選択される。
【0061】
水性溶媒は、精製水及び水溶性アルコール-水の混合物を含む群から選択される。
【0062】
上記に基づいて、本発明の組成物は、例えば組成物の0.5%~1.5%(w/w)に相当する量で存在するゲル化剤、組成物の38%~45%(w/w)に相当する量で存在する湿潤剤、組成物の0.5%~1.5%(w/w)に相当する量で存在する中和剤、各々が組成物の0.01%(w/w)以下の相当量で存在する着香料及び着色剤、及び/又はゲルを100gとするのに適量(十分量(c.b.p.))で存在する溶媒を含み得る。
【0063】
このため、下記で例示されるような広範なゲル組成物を作製することが可能である。
【実施例0064】
実施例1. ゲル形態の局所用配合物
以下のものを含有するゲル組成物を調製した。
【0065】
【0066】
実施例2
以下の要素を含有する第2の組成物を調製した。
【0067】
【0068】
実施例3
以下の要素を含有する第3の組成物を調製した。
【0069】
【0070】
実施例4
その様式がゲル中の全ての成分の特性の保存にのみ限定されることを実証する、本発明の目的である組成物の第4の例を提示する。
【0071】
【0072】
次に、ゲル形態の局所用配合物を作製する方法を記載する。
1. 混合物「A」
1.1. 45Lの精製水を反応器に入れる。
1.2. 以下の材料を徐々に添加する:カルボマー940(2kg)。
1.3. 71rpm±10%で3時間30分の継続的な撹拌を開始し、3時間30分の終了の5分前にホモジナイザーの電源を入れる。
1.4. 3900rpm±10%の速度で5分間ホモジナイズする。
混合物「A」と特定する
2. 溶液「A」
2.1.1. プロピレングリコール(100kg)をストックポットに入れ、45℃~50℃で加熱し、速度制御装置を位置30に移動し、撹拌する。
2.1.2. ピルフェニドン(5-メチル-1-フェニル-2-(1H)-ピリドン)を16000Kg徐々に添加し、完全に溶解するまで45℃~50℃での加熱を維持し、位置50の制御装置速度での撹拌及び加熱を30分間維持する。
2.1.3. マクロゴールグリセロールヒドロキシステアレート40を26000Kg徐々に添加し、完全に溶解するまで一定のかき混ぜ及び45℃~50℃での加熱を維持する。速度制御装置を位置50にして撹拌及び加熱を30分間維持する。
2.1.4. 2%の改変ジアリルジスルフィド酸化物を1.6kg徐々に添加し、完全に溶解するまで一定のかき混ぜ及び45℃~50℃での加熱を維持する。制御装置速度を位置50にして撹拌及び加熱を30分間維持する。
溶液「A」と特定する
2.2. 溶液「B」
2.2.1. 15L容のステンレス鋼容器に7.4Lの精製水及び85%トリエタノールアミン2kgを入れる。
2.2.2. 均一な溶液が得られるまで300rpm±5%の速度で撹拌する。
溶液「B」と特定する
2.3. 最終混合物
2.3.1. 混合物「A」の入った反応器に、常にかき混ぜながら溶液「A」を添加する。
2.3.2. 常にかき混ぜながら溶液「B」を添加する。
2.3.3. 71rpm±10%の速度で90分間継続的に振盪する。
2.3.4. 混合時間後に、前記ホモジナイザーを3900rpm±10%の速度で15分間稼働し、同時に同じ時間にわたって撹拌を維持する。
【0073】
実験的設計
ピルフェニドン+MDDO又はケタンセリンで1ヶ月治療した糖尿病性足部潰瘍を有する患者の遺伝子挙動
臨床試験を2013年3月の時点で連邦区、大都市圏及びハリスコ州グアダラハラの病院において行い、患者を綿密に追跡した。
【0074】
糖尿病性足部潰瘍を有する20人の患者を研究した。10人を8%ピルフェニドン及び0.016%MDDO(Kitoscell Q(商標))で治療し、10人をケタンセリン(Sufrexal(商標))で治療した。
【0075】
組成物の適用の前に、損傷部位を中性石鹸及び大量の水での洗浄、又は通常用いられる任意の他の清浄方法のいずれかによって清浄にする。創傷がガーゼで覆われた患者の場合、ガーゼを除去する前に消毒液を染み込ませることにより、肉芽組織の剥離を防ぐ。壊死組織の場合には、ガーゼを除去するために創傷を清拭する必要がある。
【0076】
損傷部位を清浄にし、乾燥させた後、本発明の目的であるゲルを創傷又は潰瘍上に外縁から中心に向かって適用する。ガーゼ又は包帯を傷害の上に置くことで使用することができる。
【0077】
表1に示す臨床/形態学的分析は、治療の1ヶ月目にどの患者を或る特定の薬剤で治療した(患部を清浄にした後に8%ピルフェニドンゲル+0.016%MDDOで1日3回及びケタンセリンで1日3回)事を知らない専門医によって行われた。
【0078】
【0079】
結果
ピルフェニドン+MDDO又はケタンセリンで1ヶ月治療した糖尿病性足部潰瘍を有する患者の遺伝子挙動
糖尿病性足部潰瘍を有する20人の患者を研究した。10人を8%ピルフェニドン+0.016%M-DDO(Kitoscell Q(商標))で治療し、10人をケタンセリン(Sufrexal(商標))で治療した。
【0080】
付録1に示す臨床/形態学的分析は、治療の1ヶ月目にどの患者を或る特定の薬剤で治療した(患部を清浄にした後に8%ピルフェニドンゲル+0.016%MDDOで1日3回及びケタンセリンで1日3回)事を知らない専門医によって行われた。
【0081】
Kitoscell Qで治療した患者の相対潰瘍体積の減少率の違いが、ケタンセリンで治療した患者における潰瘍の大きさ及び寸法と比較すると明らかである。言い換えると、前者の創傷はより速く治癒する。写真に代表的な患者の画像を示す。
【0082】
炎症性サイトカインの増加は、正常な均衡を変更することでTGF-β1の産生を誘導する。これらの条件により、
図1に示されるように、再上皮化及び細胞外基質の産生の遅れが見られる。
【0083】
創傷の再生/修復の過程に関与するコラーゲン性及び非コラーゲン性タンパク質、並びにその後の再上皮化の過程に必要なタンパク質の誘導を実証するために、各患者に由来する潰瘍性組織の生検を行うことにし、これらのタンパク質の産生をコードする標的遺伝子の発現を分析した。
【0084】
これにより、ピルフェニドン+MDDOで治療した患者の83%が、治療の最初の1ヶ月でCOL1α発現の劇的かつ有意な増加を示したが、ケタンセリンで治療した患者の僅か43%が僅かな増加を示した。言及した遺伝子の各々の遺伝子発現の相対単位が、ピルフェニドン+MDDOで治療した患者において20倍~200倍高いことに注目すべきである。
【0085】
細胞外基質形成の過程における別の基本タンパク質は、TGFβ1である。
【0086】
治療の最初の1ヶ月で、ピルフェニドン+MDDOで治療した患者の50%がTGFβ1遺伝子発現の増加を示した。COL1αの高度な調節を発現した同じ患者で増加が見られた。しかしながら、このプロトコルにおいて、ケタンセリン患者を含むアームの僅か29%が増加を示した。
【0087】
ピルフェニドン+MDDOで治療した患者の40%が、治療の最初の1ヶ月でTGFβ3発現の大幅な増加を示した。COL1α及びTGFβ1の高度な調節を発現した同じ患者で増加が見られた。
【0088】
TGFβ3は、顕著な広範囲の損傷を被った後の組織の再上皮化において重要な役割を果たすタンパク質である。
【0089】
最後に、ピルフェニドン+MDDOで治療した患者の50%が、皮膚又はその内部構造の損傷に応答して細胞移動を促進し、創傷の再生を加速するKGF(ケラチノサイト成長因子)の発現の増加を示した。KGFは、上皮細胞の成長を特異的に刺激する、間葉細胞に由来するパラクリン成長因子である。
【0090】
最後に、これら全ての結果から、創傷の再生/修復におけるピルフェニドンモジュレーターの役割が実証される。この効果は、創傷の感染を回避することによるMDDOの殺菌効果によって増強され、ピルフェニドンの治療効果が可能になる。
【0091】
限られた数の実施形態に関して本発明を記載したが、実施形態の特定の特性は、本発明の他の実施形態に起因するものではない。個々の実施形態は、本発明の全ての態様を代表するものではない。幾つかの実施の形態では、組成物又は方法は、本明細書で言及されない多数の化合物又は工程を含んでいてもよい。他の実施の形態では、組成物又は方法は、本明細書に示されない化合物又は工程を含まないか、又は実質的に含まない。記載の実施形態の変形形態及び修正形態がある。