(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080392
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】可溶性アノード材及びこれを用いた電解めっき方法
(51)【国際特許分類】
C25D 17/10 20060101AFI20230602BHJP
B22D 25/04 20060101ALI20230602BHJP
C25D 3/30 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C25D17/10 101B
B22D25/04 B
C25D3/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193712
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】古山 大貴
(72)【発明者】
【氏名】巽 康司
【テーマコード(参考)】
4K023
【Fターム(参考)】
4K023AA17
4K023BA17
4K023DA06
4K023DA07
4K023DA08
(57)【要約】
【課題】めっき時にスラッジの発生量が少なく、長時間にわたってめっきに使用可能な可溶性アノード材を提供する。
【解決手段】金属錫からなる板状体に形成され、板状体の主面がカソードに接続される被めっき部材に向けて配置される可溶性アノード材である。板状体には主として柱状結晶粒が含まれ、柱状結晶粒はその長手方向が板状体の主面に向くように配列され、配置された状態の板状体の主面を垂直に切断した断面において柱状結晶粒が占める割合が70%以上であり、かつ板状体の主面における1mm以上の大きさのピットの数が0.005個/cm
3未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錫からなる板状体に形成され、前記板状体の主面がカソードに接続される被めっき部材に向けて配置される可溶性アノード材であって、
前記板状体には主として柱状結晶粒が含まれ、前記柱状結晶粒はその長手方向が前記板状体の主面に向くように配列され、
前記配置された状態の前記板状体の主面を垂直に切断した断面において前記柱状結晶粒が占める割合が70%以上であり、かつ前記板状体の主面における1mm以上の大きさのピットの数が0.005個/cm3未満であることを特徴とする可溶性アノード材。
【請求項2】
前記柱状結晶粒は、その長手方向の平均長径aが5mm~50mmの範囲にあり、前記長手方向に垂直な断面における平均短径bが1mm~5mmの範囲にある請求項1記載の可溶性アノード材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の可溶性アノード材を用いてカソードに接続される被めっき部材を電解めっきする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被めっき部材が半導体基板のような平板である場合に適する金属錫からなる可溶性アノード材及びこれを用いた電解めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ等の基板の表面に設けられた微細な配線用溝、ホール、又はレジスト開口部には、配線が形成され、基板の表面には、パッケージの電極等と電気的に接続するバンプ(突起状電極)が形成されている。この配線及びバンプを形成する方法として、例えば、電解めっき法、蒸着法、印刷法、ボールバンプ法等が知られているが、半導体チップのI/O数の増加、挟ピッチ化に伴い、微細化が可能で性能が比較的安定している電解めっき法が多く用いられるようになってきている。
【0003】
電解めっきを行う装置は、一般的に、電解めっき液を貯蔵する電解槽内に互いに対向配置されたアノード材とカソードに接続される被めっき部材である基板を備え、アノード材と基板とに電圧が印加される。この通電により、基板表面にめっき膜が形成される。
【0004】
この電解めっき装置に用いられるカソード材は、可溶性アノード材と不溶性アノード材に大きく分けられる。そのうち、可溶性アノード材は、めっきをするに従って、めっき液中から減少した金属成分をアノード材の溶解によって供給することができる長所がある。
【0005】
従来、この種のめっき用アノード材として、Zrの含有量が15~50wtppm、リンの含有量が100~800wtppm、残部が銅および不可避不純物であることを特徴とする電気銅めっき用含リン銅アノードが開示されている(例えば、特許文献1(請求項1、段落[0021]、段落[0023]、段落[0024])参照。)。このアノード材は、高純度の電気銅を、高純度不活性ガス雰囲気、COガスを2~3%含む窒素ガスなどの還元ガス雰囲気、又は真空雰囲気で、1150~1300℃の温度で溶解して、酸素含有量10wtppm以下に調整するとともに、リン含有量が100~800wtppm、Zr含有量が15~50wtppmとなるようにリン、Zrを添加した溶湯を作製し、この溶湯を一方向凝固法により凝固させることにより作製される。
【0006】
特許文献1に記載された電気銅めっき用含リン銅アノードによれば、例えば、電気銅めっきにより、半導体ウエハ等への精緻な銅配線を形成する場合にも、アノードスライムの発生を抑制するとともに、半導体ウエハ等の被めっき材表面におけるスライムに起因する汚染、突起等のめっき欠陥の発生防止を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、被めっき部材である基板が大型化してきている。このため、基板に対向して配置されるめっき用アノード材も大型化する必要がある。この大型のアノード材を鋳造するに際して、鋳型を大型化すれば、大型のアノード材を製造することはできる。しかしながら、大型のアノード材を鋳造するために、特許文献1に記載される一方向凝固法で、大型の鋳型に溶湯を注入して、この溶湯を凝固させた場合、冷却媒体に近い溶湯の冷却速度と冷却媒体から離れた溶湯の冷却速度の間に差を生じるため、凝固した鋳塊(以下、インゴットという。)の結晶粒の方向が揃わない不具合があった。
【0009】
具体的には、
図5に示すように、一方向凝固用の鋳造装置1は、鋳型2と、この鋳型2を密閉するケーシング3と、鋳型の下部に設置された冷却用配管4を有する。冷却用配管4の内部に冷却水を流すことで、鋳型2に注入した溶湯5の冷却速度が上昇する。一方向凝固法では、一方向に溶湯を凝固させることによりガス成分はインゴットの最上面に放出されていき、仮にインゴットにトラップされたガスが存在していても表面研削などにより簡単に除去することができ、また通常の鋳造により得られたインゴットよりも引け巣やボイドの発生が少なく、歩留まりが向上する特長がある。一般的に、アノード材は、鋳型により鋳造したインゴットをクロス圧延にて冷間圧延し、その後機械加工を施して作製される。
【0010】
しかしながら、一方向凝固用の鋳造装置で、大型の鋳型を用いてアノード材を鋳造すると、鋳型の容積が大きく、注入された溶湯の量が多いため、溶湯中のガス抜けが困難で冷却速度が遅くなる。このため、冷却水により冷却速度を上げたとしても、
図6に示すように、インゴットを構成するそれぞれの結晶粒6aの結晶方向が一定方向に揃わず、インゴット中に巣(ピット)が比較的多く存在するアノード材6が作られる。こうしたアノード材6で電解めっきを行った場合には、結晶粒6aが途中で途切れ、不溶性で望ましくないスラッジの発生量が多くなる。その結果、スラッジがめっき液中に沈殿し、アノード材6を長時間にわたって電解めっきに使用することができない課題があった。
【0011】
本発明の目的は、めっき時にスラッジの発生量が少なく、長時間にわたってめっきに使用可能な可溶性アノード材及びこれを用いた電解めっき方法を提供することにある。
【0012】
本発明の第1の観点は、
図1及び
図2に示すように、金属錫からなる板状体に形成され、板状体の主面15aがカソード13に接続される被めっき部材16に向けて配置される可溶性アノード材15であって、板状体には主として柱状結晶粒15bが含まれ、柱状結晶粒15bはその長手方向が板状体の主面15aに向くように配列され、前記配置された状態の板状体の主面15aを垂直に切断した断面において柱状結晶粒15bが占める割合が70%以上であり、かつ板状体の主面15aにおける1mm以上の大きさのピットの数が0.005個/cm
3未満であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、
図2に示すように、柱状結晶粒15bは、その長手方向の平均長径aが5mm~50mmの範囲にあり、長手方向に垂直な断面における平均短径bが1mm~5mmの範囲にある可溶性アノード材15である。
【0014】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点の可溶性アノード材15を用いてカソード13に接続される被めっき部材16を電解めっきする方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の観点の可溶性アノード材15は、金属錫からなる板状体に形成され、板状体の主面15aがカソード13に接続される被めっき部材16に向けて配置される。板状体には主として柱状結晶粒15bが含まれ、柱状結晶粒15bはその長手方向が板状体の主面15aに向くように配列される。この可溶性アノード材15では、アノード材を構成するそれぞれの結晶粒15bが柱状であって、結晶方向が一方向に揃っており、前記配置された状態の板状体の主面15aを垂直に切断した断面において柱状結晶粒15bが占める割合が70%以上である。また板状体の主面15aにおける1mm以上の大きさのピットの数が0.005個/cm3未満である。こうした結晶粒の集合体であるアノード材15は、電解めっき時にアノード材15の結晶が柱状端部から結晶の長手方向に順次溶解する。またピットに起因したスラッジの発生が抑制される。このため、電解めっきに悪影響をもたらすスラッジの発生量が少なく、電解めっき時にアノード材15を長時間使用することができる。
【0016】
本発明の第2の観点の可溶性アノード材15では、柱状結晶粒15bの長手方向の平均長径aが5mm~50mmの範囲にあり、長手方向に垂直な断面における平均短径bが1mm~5mmの範囲にある。このため、電解めっき時にアノード材15がより均一に溶解し、スラッジの発生量がより少ない。
【0017】
本発明の第3の観点の電解めっき方法では、前記配置された状態の板状体の主面15aを垂直に切断した断面における柱状結晶粒15bが占める割合が70%以上であって、この主面15aにおける1mm以上の大きさのピットの数が0.005個/cm3未満である可溶性アノード材15を、この主面15aを被めっき部材16に向けて配置して電解めっきするため、電解めっき時にアノード材15の結晶が柱状端部から結晶の長手方向に順次溶解し、スラッジの発生を抑制して、効率的にかつ高品質の電解めっきを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の電解めっき方法に用いられる電解めっき装置を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示される電解めっき装置の断面図である。
【
図3】本発明のアノード材を製造するための鋳造装置の
図4のB-B線断面図である。
【
図4】溶融した錫を鋳込んだ状態の鋳型の
図3のA-A線断面図である。
【
図5】従来の一方向凝固法によりアノード材を製造するための鋳造装置の断面図である。
【
図6】従来の一方向凝固法により製造した大型のアノード材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0020】
〔電解めっき装置〕
図1は、本実施形態による電解めっき方法に用いられる電解めっき装置10を示す。電解めっき装置10は、電解槽11と、アノード12と、カソード13とを備える。電解槽11には電解めっき液14が貯えられ、めっき浴を構成する。本実施形態では、アノード12には可溶性アノード材15が接続され、カソード13には被めっき部材16が接続される。可溶性アノード材15及び被めっき部材16は電解めっき液14に浸漬される。
【0021】
〔可溶性アノード材〕
本実施形態の特徴ある可溶性アノード材15は、金属錫からなる板状体に形成され、
図2に示すように、その主面15aを被めっき部材16に向けて配置される。
図1の可溶性アノード材15の拡大図及び
図2に示すように、板状体には主として柱状結晶粒15bが含まれる。柱状結晶粒15bはその長手方向が板状体の主面15aに向くように配列される。
図1の可溶性アノード材15の拡大図は、被めっき部材16に対向する主面15aとは反対側の主面15cを示している。2つの主面15cと主面15aは互いに平行である。この反対側の主面15cと同様に柱状結晶粒15bの主面15aも構成される。主面15aも主面15cも結晶粒が密集し、ピットの数が極めて少ない。なお、可溶性アノード材15は99.99質量%(4N)以上の純度の錫からなることが好ましい。
【0022】
被めっき部材16に向けて配置された状態の可溶性アノード材15の板状体の主面15aを垂直に切断した断面において柱状結晶粒15bが占める割合が70%以上、好ましくは75%以上である。また板状体の主面15aにおける1mm以上の大きさのピットの数が0.005個/cm3未満、好ましくは0.003個/cm3未満である。この板状体の主面15aにおける特徴のため、電解めっき時にスラッジの発生量を抑制することができる。なお、板状体の主面15aにおいて占める柱状結晶粒15bは、柱状結晶粒の長手方向の部分ではなく、柱状結晶粒の端部を意味する。本発明においてピットは、可溶性アノード材15表面に存在する窪みだけでなく、可溶性アノード材15内部に存在する空隙もピットとみなしている。
【0023】
柱状結晶粒15bは、その長手方向の平均長径aが5mm~50mmの範囲にあり、長手方向に垂直な断面における平均短径bが1mm~5mmの範囲にあることが、電解めっき時に柱状結晶粒15bが均一に溶解するため、好ましい。平均長径aが15mm~45mmの範囲にあり、平均短径bが2mm~4mmの範囲にあることが更に好ましい。平均長径aが50mmを超えるか、又は平均短径bが1mm未満のアノード材は、鋳造することが困難であり、平均長径aが5mm未満であるか、又は平均短径が5mmを超えると、結晶粒の柱状化の程度が低いため、電解めっき時にアノード材が均一に溶解しにくい。多数の柱状結晶粒15bは、その70%以上、好ましくは75%以上の結晶粒の長手方向が可溶性アノード材15の主面15aに向くように配列されていることが、電解めっき時に均一に溶解するため、好ましい。
【0024】
〔可溶性アノード材の鋳造装置〕
上記可溶性アノード材15は、
図3に示される鋳造装置20により製造される。この鋳造装置20は、黒鉛製の鋳型21と、黒鉛製のケーシング22と、冷却用配管23と、ヒーター24を備える。
図3及び
図4に示すように、鋳型21の内部空間は、鋳型で作られるインゴットが板状体になるように形取られている。例えば鉛直方向の高さ400mm~650mm、水平方向の幅40mm~200mm、水平方向の厚さ10mm~40mmを有する。この鋳型21は、鋳造時にはケーシング22により密閉される。
【0025】
冷却用配管23、23は鋳型の両側の内部に長手方向(高さ方向)にそれぞれ設けられる。冷却用配管23、23の上部給水口23a、23aから5℃~25℃の冷却水を2L/分~20L/分の速度で流し込み、下部排水口23b、23bから排出させることにより、溶湯25の冷却速度を制御するようになっている。ヒーター24はカーボンヒータ管で構成され、鋳型21の底部に埋設される。
【0026】
このような構成の鋳造装置20を用いてアノード材14を製造するには、まず、原料として、99.99質量%(4N)以上の純度の錫を準備し、アルゴン雰囲気中で溶融し溶湯とする。溶湯を鋳型21に注入する前に予め冷却用配管23内に冷却水を流しておき、ヒーター24は230℃~280℃の温度に加熱しておく。
図3に示すように、この状態で溶湯を鋳型21の上端近くまで注入する。5割程度注入されたところで、ヒーター24の加熱を停止する。冷却水の冷却とヒーター24の加熱により、注入された溶湯25は、鋳型21の底部からではなく、鋳型21の両側部の内面から矢印cに示すように、鋳型21の中心に向かって一方向に均一に冷却されながら、凝固が進行する。ここで、
図4に示すように、溶湯25と、鋳型21の冷却用配管23が設置されている側21aとが接触している面が、
図2に示すように、可溶性アノード材15における主面15aとなる。
【0027】
鋳造条件のうち、溶湯25の冷却方法を変更することにより、可溶性アノード材15の板状体の主面15aにおいて柱状結晶粒15bが占める割合及び板状の主面15aにおける1mm以上の大きさのピットの数を変えることができる。冷却速度を高めるか、ヒーター24の加熱により、溶湯25の下側からの冷却を遅らせることにより、柱状結晶粒15bが占める割合を70%以上に高められ、かつ1mm以上の大きさのピットの数を0.005個/cm3未満に少なくすることができる。
【0028】
鋳型21により鋳造されたインゴットは、鋳型21から取り出され、取り出されたインゴットは、反りを矯正した後に、その後機械加工を施されて、
図2に示される板状の可溶性アノード材15が製造される。
【0029】
〔電解めっき方法〕
図1及び
図2に示すように、上記鋳造装置20で製造された後、機械加工を施された板状体の可溶性アノード材15は、その主面15aを被めっき部材16の主面16aに向けて配置され、電解めっき装置10のアノード12に接続される。このアノード12と、被めっき部材16が接続されたカソード13とに電圧が印加されて、通電することにより、電解めっきが行われる。
図1では、2枚の可溶性アノード材15に対して、大型の半導体基板のような1枚の被めっき部材16を配置した例を示しているが、例えば、500mm角の正方形の1枚の被めっき部材16をめっきする場合には、被めっき部材16の全面に均一なめっき皮膜を形成するために、長さ575mm、幅90mm、厚さ25mmの可溶性アノード材15を間隔40mmあけて4枚並べられる。
【0030】
本実施形態の電解めっき液14は、公知の錫めっき液であって、可溶性錫塩と、有機酸及び無機酸から選ばれた酸又はその塩と、添加剤と、溶剤と、水とを混合することによって調製される。可溶性アノード材15の電流密度は、0.1A/dm2以上50A/dm2以下の範囲、好ましくは0.5A/dm2以上20A/dm2以下の範囲に調整される。電解めっき液14の液温は、20℃以上50℃以下の範囲、好ましくは25℃以上40℃以下の範囲に調整される。
【0031】
このような方法で可溶性アノード材15と被めっき部材16に電圧を印加して通電し、電解めっきが行われると、本実施形態の特徴ある可溶性アノード材15を用いることにより、電解めっき中に発生するスラッジの発生量を0.005g/Ah以下の少ない量にすることができる。
【実施例0032】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0033】
<実施例1~2及び比較例1~2>
図3に示される鋳造装置20を用いて、溶湯25の冷却方法を変更することにより、実施例1~2及び比較例1~2の4種類の長方形の板状体の可溶性アノード材15を得た。これらの4種類の可溶性アノード材15はそれぞれ同形同大であって、長辺が575mm、短辺が90mm、厚さが25mmであった。これらの4種類の可溶性アノード材15の板状体の主面15aにおいて柱状結晶粒15bが占める割合及び板状の主面15aにおける1mm以上の大きさのピットの数(以下、単位体積当たりのピットの数という。)を次の方法により求めた。これらを以下の表1にそれぞれ示す。
【0034】
〔柱状結晶粒15bが占める割合〕
可溶性アノード材15を主面15aに対し垂直、かつ、可溶性アノード材15の長手方向に切断し、切断面をソフトエッチングした後、光学顕微鏡により観察した。ソフトエッチングの条件は、観察部を#240から#3000の耐水研磨紙で研磨した後、研磨面を濃度8質量%の希王水により腐食させた。切断面全体の粒子個数と、主面15a方向に縦長(長辺5mm以上、短辺1mm以上)の柱状結晶粒15bの個数を計測し、(柱状結晶粒15bの個数/切断面全体の粒子個数)により得られた値を、柱状結晶粒15bの占める割合とした。なお、ここで、主面15a方向に縦長の柱状結晶粒15bは、
図2に示すように、主面15aに垂直となるように直線dを引き、この直線dと柱状結晶粒15bの長辺の仮想延長線eがなす角度θが30°未満の結晶粒を示す。なお、角度θが0°、即ち、直線cと長辺の仮想延長線eが平行の場合を含む。また、直線dと長辺の仮想延長線eが垂直に交わる場合、角度θは90°となる。
【0035】
〔単位体積当たりのピットの数〕
可溶性アノード材15の各表面を拡大鏡にて観察し、直径1mm以上の窪みをピットとしてその個数を数え、その個数をXとした。次に、可溶性アノード材15を大型超音波探傷検査装置を用いて超音波検査を行い、内部に空隙が存在する箇所を特定した。その箇所を切断し、直径1mm以上の空隙の個数を数え、その個数をYとした。下記の式(1)に示すように、個数Xと個数Yの合計を可溶性アノード材15の体積Zで割ることにより単位体積当たりのピットの数を求めた。
単位体積当たりのピットの数 = (X+Y)/Z (1)
【0036】
【0037】
(Snめっき液の調製)
メタンスルホン酸Sn水溶液に、遊離酸としてのメタンスルホン酸と、添加剤とを加えた。添加剤はノニオン系界面活性剤を主成分とし、β-ナフトールを含有させた。界面活性剤は電解反応を均一に進めるために添加した。そして最後にイオン交換水を加えて、下記組成のSnめっき液を調製した。
【0038】
(Snめっき液の組成)
メタンスルホン酸Sn(Sn2+として):30g/L±3.0g/L
メタンスルホン酸(遊離酸として):100g/L±10.0g/L
ノニオン系界面活性剤:10g/L
β-ナフトール:50ppm
イオン交換水:残部
【0039】
<電解後のスラッジ発生量の測定>
このように調製された電解めっき液を用いて、
図1に示す電解槽11に40Lのめっき浴を建浴した。この電解槽11の電解めっき液14中に、4種類の可溶性アノード材15を1種類ずつ、可溶性アノード材の主面15aが銅張積層板からなる被めっき部材16に対向するように長辺をたて方向にして配置した。銅張積層板は、長辺が510mm、短辺が407mmであり、電解槽11の電解めっき液14中に、長辺をたて方向にして配置した。
【0040】
めっき浴の温度を30℃に調整し、可溶性アノード材15の電流密度を5A/dm2に調整した。この条件で電解めっきを電解量が300Ahになるまで行った。電解後、図示しないアノードバッグに蓄積されたスラッジを回収するとともに、可溶性アノード材15に付着したスラッジをろ過して回収した。これらのスラッジの質量を合計したスラッジ総量と、これを電解量当たりで換算したスラッジ量を上記表1にそれぞれ示す。なお、銅張積層板からなる被めっき部材16は、その表面に錫めっき膜が約100μmの厚さに形成された時点で、新しい銅張積層板に交換した。
【0041】
<可溶性アノード材の長期使用可能性の評価>
被めっき部材16として、長辺が510mm、短辺が407mmである銅張積層板を用いた。この銅張積層板を電解槽11の電解めっき液14中に、長辺をたて方向にして配置して、上述した電解めっき方法と同様に平板めっきを行った。添加剤であるβ-ナフトールの濃度を調整した後、めっき浴の温度を30℃に調整し、錫めっき膜の厚さが20μmになるように電解めっきを行った。
【0042】
銅張積層板表面に形成された錫めっき膜の厚さを蛍光X線分析装置(日立ハイテクノロジーズ社製、型番SFT9450)により、測定したところ、4種類の可溶性アノード材を用いたときの錫めっき膜の平均厚さは20μmであった。4種類の可溶性アノード材毎に、基板の上端部から50mmの位置、基板の中心部及び基板の下端部から50mmの位置で、それぞれ基板表面の錫めっき膜の厚さを上記蛍光X線分析装置により測定した。3箇所の測定値のうち、最大値と最小値との差が8μm以下のときを長期使用可能性が『良好』であると判定し、8μmを超えるときを長期使用可能性が『不良』であると判定した。その結果を上記表1に示す。
【0043】
表1から明らかなように、比較例1では、板状体の主面において柱状結晶粒が占める割合が72%であり、かつ板状体の主面における1mm以上の大きさのピットの数が0.008個/cm3であったため、電解めっき後のスラッジ総量は15.0gと多く、また電解量当たりのスラッジ量も0.05g/Ahと大きかった。更に可溶性アノード材の長期使用可能性は不良であり、アノード材としての性能が長期間維持されていなかったことが判った。
【0044】
また比較例2では、板状体の主面において柱状結晶粒が占める割合が55%であり、かつ板状体の主面における1mm以上の大きさのピットの数が0.06個/cm3であったため、電解めっき後のスラッジ総量は33.0gと多く、また電解量当たりのスラッジ量も0.11g/Ahと大きかった。更に可溶性アノード材の長期使用可能性は不良であり、アノード材としての性能が比較例1と同じように、長期間維持されていなかったことが判った。
【0045】
これに対して、実施例1及び2では、板状体の主面において柱状結晶粒が占める割合がそれぞれ92%及び85%であり、かつ板状体の主面における1mm以上の大きさのピットの数がそれぞれ0.001個/cm3及び0.004個/cm3であったため、電解めっき後のスラッジ総量は2.9g及び8.8gとそれぞれ少なく、また電解量当たりのスラッジ量も0.01g/Ah及び0.03g/Ahとそれぞれ小さかった。更に可溶性アノード材の長期使用可能性はともに良好であり、アノード材としての性能が長期間維持されていることが判った。