(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080401
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】鋼板の重ね合わせ溶接方法および溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 11/24 20060101AFI20230602BHJP
B23K 11/06 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
B23K11/24 350
B23K11/06 320
B23K11/24 394
B23K11/24 338
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193725
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】神野 峻秀
(57)【要約】
【課題】 鋼板の重ね合わせ溶接における溶接時の折れ込み変形発生による溶接破断という溶接トラブルを防止することができる鋼板の重ね合わせ溶接方法および溶接装置を提供する。
【解決手段】 鋼板の重ね合わせ溶接の前に、先行板と後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の合計板厚を板幅方向に沿って全幅にわたり測定し、重ね合わせ部分の重ね代を板幅方向に沿って全幅にわたり測定し、測定された合計板厚および重ね代に基づいて、溶接前に溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定し、決定された溶接条件に基づいて、重ね合わせ溶接するものであり、さらに、溶接中に合計板厚の変動と重ね代の変動を測定しながら、それに基づき溶接条件を随時変更して重ね合わせ溶接を行うことを特徴とする。これにより、溶接時の折れ込み変更発生を抑え、溶接トラブルを防止することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行板と後行板とを重ね合わせ溶接する鋼板の重ね合わせ溶接方法であって、
溶接前に前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の合計板厚を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する合計板厚測定工程および前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の重ね代を板幅方向全幅にわたり測定する重ね代測定工程と、
前記合計板厚測定工程で測定された合計板厚および前記重ね代測定工程で測定された重ね代に基づいて、溶接前に前記溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定する溶接条件決定工程と、
前記溶接条件決定工程により決定された溶接条件に基づいて、前記先行板と前記後行板とを重ね合わせ溶接する溶接工程と、
をこの順に備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接方法。
【請求項2】
先行板と後行板とを重ね合わせ溶接する鋼板の重ね合わせ溶接方法であって、
溶接前に、前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の合計板厚を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する合計板厚測定工程と、
前記合計板厚測定工程で測定された合計板厚に基づいて、溶接前に前記溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定する溶接条件決定工程と、
前記溶接条件決定工程により決定された溶接条件に基づいて、前記先行板と前記後行板とを重ね合わせ溶接する溶接工程と、
をこの順に備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接方法。
【請求項3】
先行板と後行板とを重ね合わせ溶接する鋼板の重ね合わせ溶接方法であって、
溶接前に、前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の重ね代を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する重ね代測定工程と、
前記重ね代測定工程で測定された重ね代に基づいて、溶接前に前記溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定する溶接条件決定工程と、
前記溶接条件決定工程により決定された溶接条件に基づいて、前記先行板と前記後行板とを重ね合わせ溶接する溶接工程と、
をこの順に備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接方法。
【請求項4】
前記溶接工程は、
溶接線前方の前記重ね合わせ部分の合計板厚を板幅方向に沿って全幅にわたり測定するステップと、
得られた合計板厚の測定値に基づいて、前記重ね合わせ部分の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を随時変更するステップと、
を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の鋼板の重ね合わせ溶接方法。
【請求項5】
前記溶接工程は、
溶接線前方の前記重ね合わせ部分の重ね代を板幅方向に沿って全幅にわたり測定するステップと、
得られた重ね代の測定値に基づいて、前記重ね合わせ部分の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を随時変更するステップと、
を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の鋼板の重ね合わせ溶接方法。
【請求項6】
前記溶接条件が、溶接電流値、電極輪加圧力およびスウェージング加圧力のうちの少なくともいずれか一つの条件であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の鋼板の重ね合わせ溶接方法。
【請求項7】
前記溶接工程が、電極輪とスウェージングロールを用いて加圧抵抗溶接を行うクロスシーム溶接工程であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の鋼板の重ね合わせ溶接方法。
【請求項8】
前記先行板と前記後行板が、板厚1.6~6.0mmの熱延後の鋼板であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の鋼板の重ね合わせ溶接方法。
【請求項9】
先行板と後行板とを重ね合わせ溶接する鋼板の重ね合わせ溶接装置であって、
溶接前に前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の合計板厚を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する合計板厚測定手段および前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の重ね代を板幅方向全幅にわたり測定する重ね代測定手段と、
前記合計板厚測定手段で測定された合計板厚および前記重ね代測定手段で測定された重ね代に基づいて、溶接前に前記溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定する溶接条件決定手段と、
前記溶接条件決定手段により決定された溶接条件に基づいて、前記先行板と前記後行板とを重ね合わせ溶接する溶接手段と、
を備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接装置。
【請求項10】
先行板と後行板とを重ね合わせ溶接する鋼板の重ね合わせ溶接装置であって、
溶接前に、前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の合計板厚を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する合計板厚測定手段と、
前記合計板厚測定手段で測定された合計板厚に基づいて、溶接前に前記溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定する溶接条件決定手段と、
前記溶接条件決定手段により決定された溶接条件に基づいて、前記先行板と前記後行板とを重ね合わせ溶接する溶接手段と、
を備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接装置。
【請求項11】
先行板と後行板とを重ね合わせ溶接する鋼板の重ね合わせ溶接装置であって、
溶接前に、前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の重ね代を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する重ね代測定手段と、
前記重ね代測定手段で測定された重ね代に基づいて、溶接前に前記溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定する溶接条件決定手段と、
前記溶接条件決定手段により決定された溶接条件に基づいて、前記先行板と前記後行板とを重ね合わせ溶接する溶接手段と、
を備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接装置。
【請求項12】
前記溶接手段は、
溶接線前方の前記重ね合わせ部分の合計板厚を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する手段と、
得られた合計板厚の測定値に基づいて、前記重ね合わせ部分の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を随時変更する溶接条件変更手段と、
を備えることを特徴とする請求項9ないし11のいずれか1項に記載の鋼板の重ね合わせ溶接装置。
【請求項13】
前記溶接手段は、
溶接線前方の前記重ね合わせ部分の重ね代を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する手段と、
得られた重ね代の測定値に基づいて、前記重ね合わせ部分の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を随時変更する溶接条件変更手段と、
を備えることを特徴とする請求項9ないし12のいずれか1項に記載の鋼板の重ね合わせ溶接装置。
【請求項14】
前記合計板厚測定手段が、放射線板厚計であることを特徴とする請求項9ないし13のいずれか1項に記載の鋼板の重ね合わせ溶接装置。
【請求項15】
前記重ね代測定手段が、レーザー距離計であることを特徴とする請求項9ないし14のいずれか1項に記載の鋼板の重ね合わせ溶接装置。
【請求項16】
前記溶接条件が、溶接電流値、電極輪加圧力およびスウェージング加圧力のうちの少なくともいずれか一つの条件であることを特徴とする請求項9ないし15のいずれか1項に記載の鋼板の重ね合わせ溶接装置。
【請求項17】
前記溶接手段が、電極輪とスウェージングロールを用いて加圧抵抗溶接を行うクロスシーム溶接装置であることを特徴とする請求項9ないし16のいずれか1項に記載の鋼板の重ね合わせ溶接装置。
【請求項18】
前記先行板と前記後行板が、板厚1.6~6.0mmの熱延後の鋼板であることを特徴とする請求項9ないし17のいずれか1項に記載の鋼板の重ね合わせ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の重ね合わせ溶接方法および溶接装置に関し、特に、熱間圧延後の熱延鋼板であって、板厚が1.6~6.0mmの鋼板を、クロスシーム溶接により重ね合わせ溶接を行う方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯(コイル)の生産性向上を目的に、熱間圧延工程後の熱延鋼板の酸洗工程では、連続酸洗ライン上で先行する被圧延材(以下、「先行鋼板」あるいは「先行板」ともいう。)の後端と、それに後行する被圧延材(以下、「後行鋼板」あるいは「後行板」ともいう。)の先端との接合を行って連続的に鋼帯(鋼板)を処理している。この連続酸洗ラインにおいて鋼板を接合するために適用される溶接方法としては、突き合わせ溶接であるフラッシュバット溶接やレーザー溶接、あるいは重ね合わせ溶接などがある。
【0003】
この中で、重ね合わせ溶接の一つであるマッシュシーム溶接は、レーザー溶接に比べて安価な電気抵抗溶接であるが、溶接した溶接部を次の工程である冷間圧延した際に、その溶接部に折れ込み疵が発生し、溶接破断が発生するリスクがあるため、引き続いて冷間圧延を行う場合には適していない。
【0004】
この問題点に考慮したのが、マッシュシーム溶接を改良したクロスシーム溶接である。このクロスシーム溶接は、先行板後端と後行板先端を重ね合わせ、上下の電極輪により加圧し加熱して溶接した後、溶接段差を溶接線方向に圧延する狭幅のスウェージングロール(以下、「SWR」ともいう。)を上下でクロスして圧延することにより段差折れ込み変形を防止する溶接方法である。この溶接方法を用いると、折れ込み疵を発生させない溶接を行うことができることから、その溶接部を冷間圧延しても溶接破断を抑えることができる。
【0005】
しかしながら、このクロスシーム溶接であっても、先行板や後行板の板厚の変動、先行板後端と後行板先端の重ね合わせる領域(以下、「重ね代」という。)の範囲、溶接電流値などの溶接条件が適切でない場合には、溶接部で折れ込み疵が発生し、溶接破断の原因となりうるという問題点があった。
【0006】
上述のような問題点に対して、例えば、特許文献1には、マッシュシーム溶接において、溶接開始前に溶接部の重ね代の変位量を画像センサによって検出することにより、溶接可否の判断を行い、また板材の位置変化を監視して、その変位量が許容範囲内かどうかを判定する技術が開示されている。また、特許文献2には、マッシュシーム溶接において、電極輪と隣接した位置で先行材と後行材のそれぞれの板厚を測定し、それらの実測値に基づいて溶接条件を変更する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-160070号公報
【特許文献2】特開平5-111775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、重ね代を事前に測定するのみで、溶接時の入熱量による鋼板の熱膨張等による重ね代の変動を考慮することができず、また、板厚の変動についても考慮されないため、全幅を最適な溶接条件で溶接することができないという課題があった。特許文献2では、先行材と後行材のそれぞれについて板厚を測定する技術であるために、板厚計が2台必要となる。また、板幅方向の全幅における合計板厚や重ね代については一切考慮していないため、全幅を最適な溶接条件で溶接することができないという課題があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、溶接前には溶接線に沿って板厚および重ね代を事前に測定し、さらに溶接中において、溶接時の入熱量による重ね代の変動および板厚の変動の影響を考慮して溶接条件を制御することにより、鋼板の重ね合わせ溶接における溶接時の折れ込み変形発生による溶接破断という溶接トラブルを防止することができる鋼板の重ね合わせ溶接方法および溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために、重ね合わせ溶接の重ね合わせ部分の板厚および重ね代と溶接条件との関係を検討した。
【0011】
以下、検討した内容を図面に基づいて説明する。クロスシーム溶接機の概要を
図1に示す。クロスシーム溶接機では、鋼板1aと1bの重ね合わせ部を電極輪2a、2bで溶接をした後に、スウェージングロール3a、3bにより溶接後の段差を平坦化している。
【0012】
図2に熱延後コイル(鋼板)の板厚偏差のチャートの一例を示す。
図2から、コイル溶接部に相当する先端部および後端部は、板厚が大きく変動していることが分かる。このような箇所で溶接を行った場合、溶接条件が不適となり、溶接破断トラブルが発生する原因となる。
重ね代を変化させた場合の影響について検討した結果の一例を表1に示す。
【0013】
【0014】
表1の条件で溶接した結果の溶接部の断面写真の一例を
図3に示す。
図3(a)から、条件(1)のように重ね代が大きい場合には、折れ込み疵が発生していることが分かる。
【0015】
本発明は、上述の検討などの結果から得られた知見に基づき、さらに検討を加えてなされたものであり、その構成は以下のとおりである。
〔1〕先行板と後行板とを重ね合わせ溶接する鋼板の重ね合わせ溶接方法であって、
溶接前に前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の合計板厚を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する合計板厚測定工程および前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の重ね代を板幅方向全幅にわたり測定する重ね代測定工程と、
前記合計板厚測定工程で測定された合計板厚および前記重ね代測定工程で測定された重ね代に基づいて、溶接前に前記溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定する溶接条件決定工程と、
前記溶接条件決定工程により決定された溶接条件に基づいて、前記先行板と前記後行板とを重ね合わせ溶接する溶接工程と、
をこの順に備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接方法。
〔2〕先行板と後行板とを重ね合わせ溶接する鋼板の重ね合わせ溶接方法であって、
溶接前に、前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の合計板厚を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する合計板厚測定工程と、
前記合計板厚測定工程で測定された合計板厚に基づいて、溶接前に前記溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定する溶接条件決定工程と、
前記溶接条件決定工程により決定された溶接条件に基づいて、前記先行板と前記後行板とを重ね合わせ溶接する溶接工程と、
をこの順に備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接方法。
〔3〕先行板と後行板とを重ね合わせ溶接する鋼板の重ね合わせ溶接方法であって、
溶接前に、前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の重ね代を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する重ね代測定工程と、
前記重ね代測定工程で測定された重ね代に基づいて、溶接前に前記溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定する溶接条件決定工程と、
前記溶接条件決定工程により決定された溶接条件に基づいて、前記先行板と前記後行板とを重ね合わせ溶接する溶接工程と、
をこの順に備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接方法。
〔4〕前記〔1〕ないし〔3〕のいずれか一つにおいて、前記溶接工程は、溶接線前方の前記重ね合わせ部分の合計板厚を板幅方向に沿って全幅にわたり測定するステップと、得られた合計板厚の測定値に基づいて、前記重ね合わせ部分の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を随時変更するステップと、を有することを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接方法。
〔5〕前記〔1〕ないし〔4〕のいずれか一つにおいて、前記溶接工程は、溶接線前方の前記重ね合わせ部分の重ね代を板幅方向に沿って全幅にわたり測定するステップと、得られた重ね代の測定値に基づいて、前記重ね合わせ部分の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を随時変更するステップと、を有することを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接方法。
〔6〕前記〔1〕ないし〔5〕のいずれか一つにおいて、前記溶接条件が、溶接電流値、電極輪加圧力およびスウェージング加圧力のうちの少なくともいずれか一つの条件であることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接方法。
〔7〕前記〔1〕ないし〔6〕のいずれか一つにおいて、前記溶接工程が、電極輪とスウェージングロールを用いて加圧抵抗溶接を行うクロスシーム溶接工程であることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接方法。
〔8〕前記〔1〕ないし〔7〕のいずれか一つにおいて、前記先行板と前記後行板が、板厚1.6~6.0mmの熱延後の鋼板であることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接方法。
〔9〕先行板と後行板とを重ね合わせ溶接する鋼板の重ね合わせ溶接装置であって、
溶接前に前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の合計板厚を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する合計板厚測定手段および前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の重ね代を板幅方向全幅にわたり測定する重ね代測定手段と、
前記合計板厚測定手段で測定された合計板厚および前記重ね代測定手段で測定された重ね代に基づいて、溶接前に前記溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定する溶接条件決定手段と、
前記溶接条件決定手段により決定された溶接条件に基づいて、前記先行板と前記後行板とを重ね合わせ溶接する溶接手段と、
を備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接装置。
〔10〕先行板と後行板とを重ね合わせ溶接する鋼板の重ね合わせ溶接装置であって、
溶接前に、前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の合計板厚を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する合計板厚測定手段と、
前記合計板厚測定手段で測定された合計板厚に基づいて、溶接前に前記溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定する溶接条件決定手段と、
前記溶接条件決定手段により決定された溶接条件に基づいて、前記先行板と前記後行板とを重ね合わせ溶接する溶接手段と、
を備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接装置。
〔11〕先行板と後行板とを重ね合わせ溶接する鋼板の重ね合わせ溶接装置であって、
溶接前に、前記先行板と前記後行板の溶接部となる重ね合わせ部分の重ね代を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する重ね代測定手段と、
前記重ね代測定手段で測定された重ね代に基づいて、溶接前に前記溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定する溶接条件決定手段と、
前記溶接条件決定手段により決定された溶接条件に基づいて、前記先行板と前記後行板とを重ね合わせ溶接する溶接手段と、
を備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接装置。
〔12〕前記〔9〕ないし〔11〕のいずれか一つにおいて、前記溶接手段は、溶接線前方の前記重ね合わせ部分の合計板厚を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する手段と、得られた合計板厚の測定値に基づいて、前記重ね合わせ部分の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を随時変更する溶接条件変更手段と、を備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接装置。
〔13〕前記〔9〕ないし〔12〕のいずれか一つにおいて、前記溶接手段は、溶接線前方の前記重ね合わせ部分の重ね代を板幅方向に沿って全幅にわたり測定する手段と、得られた重ね代の測定値に基づいて、前記重ね合わせ部分の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を随時変更する溶接条件変更手段と、を備えることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接装置。
〔14〕前記〔9〕ないし〔13〕のいずれか一つにおいて、前記合計板厚測定手段が、放射線板厚計であることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接装置。
〔15〕前記〔9〕ないし〔14〕のいずれか一つにおいて、前記重ね代測定手段が、レーザー距離計であることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接装置。
〔16〕前記〔9〕ないし〔15〕のいずれか一つにおいて、前記溶接条件が、溶接電流値、電極輪加圧力およびスウェージング加圧力のうちの少なくともいずれか一つの条件であることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接装置。
〔17〕前記〔9〕ないし〔16〕のいずれか一つにおいて、前記溶接手段が、電極輪とスウェージングロールを用いて加圧抵抗溶接を行うクロスシーム溶接装置であることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接装置。
〔18〕前記〔9〕ないし〔17〕のいずれか一つにおいて、前記先行板と前記後行板が、板厚1.6~6.0mmの熱延後の鋼板であることを特徴とする鋼板の重ね合わせ溶接装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶接部の重ね合わせ部分の合計板厚と重ね代の溶接線全幅に沿った測定値に基づき、溶接条件の中でも特に溶接電流値、電極輪加圧力、あるいはスウェージング加圧力を制御することにより、板厚や重ね代の溶接前後の変動に起因する折れ込み疵の発生を防ぎ、安定的に溶接を行うことができるため、溶接部の破断トラブル発生を回避し、コイルの生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るクロスシーム溶接装置の概要を示す模式断面図である。
【
図2】一般的な熱延後の鋼板の板厚変動の一例を示すグラフである。
【
図3】クロスシーム溶接による重ね代を変化させた場合の溶接後の溶接部断面写真であり、(a)が条件(1)で、(b)が条件(2)の場合である。
【
図4】本発明に係る溶接装置の一実施態様を示す模式図であり、(a)が側面断面図、(b)が正面断面図、(c)が平面図である。
【
図5】本発明の溶接条件を随時変更した場合の測定値の変化を示す模式グラフである。
【
図6】本発明に係る溶接方法を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の具体的な実施態様について、図を用いて説明する。
【0019】
[溶接装置]
まず、本発明に係る重ね合わせ溶接装置の概要について、
図1および
図4に示すクロスシーム溶接装置の一実施態様に基づいて説明する。
【0020】
図1のクロスシーム溶接装置は、クランプ(図示せず)により把持した先行板1aの後端と後行板1bの先端を、せん断機(図示せず)で同時に切断した後、平行に重ね合わせ、その部分を上下の電極輪2a、2bで挟持し、トランス11からの通電により溶接する装置である。
【0021】
電極輪2a、2bは、重ね合わせ部分を板幅方向の一方の端から他方の端まで全幅にわたって溶接していくために、板幅方向に移動する走行装置9に載置されている。上側の電極輪2aの上方には、電極輪を押して鋼板の重ね合わせ部分を加圧するための加圧装置6が設けられている。下側の電極輪2bは、走行装置9に取り付けられており、上方からの加圧を支える構造となっている。それぞれの電極輪2a、2bには回転させるための電極輪駆動用モータ4a、4bが設けられている。
【0022】
次に、電極輪2a、2bの後方(
図1では左側)には、同様に重ね合わせ部分の上下に設けられたスウェージングロール(SWR)3a、3bがある。このSWR3a、3bは、溶接部の段差を加圧・圧延して溶接形状を平坦化させるものである。また、
図4(c)に示すように、このSWR3a、3bは、電極輪2a、2bによって溶接された重ね合わせ部分が、段差のない平坦となるように、上下のロールの回転面がクロスしているのが特徴である。このクロスしている角度は、3~5°であることが好ましい。3°未満では、折れ込み疵が残存してしまう恐れがあり、5°を超えると、長手方向にかかる力が大きくなりすぎてしまうことにより設備を破損する恐れがある。このSWR3a、3bも上記の電極輪と同様に、上側SWR3aの上方には、SWRを押して鋼板の重ね合わせ部分を加圧するための加圧装置6が設けられている。下側のSWR3bは、走行装置9に取り付けられており、上方からの加圧を支える構造となっている。それぞれのSWR3a、3bには回転させるためのSWR駆動用モータ5a、5bが設けられている。
【0023】
本発明に係る溶接装置は、上述のクロスシーム溶接装置に加えて、最適な溶接条件を決定するために、合計板厚(重ね厚:T)と重ね代(L)を測定する手段を備えるものである。
図4に示すように、合計板厚測定手段としては、板厚計7が、電極輪2aの進行方向前方に配置されている。また、重ね代測定手段としては、2基のレーザー距離計8aと8bとが同様に電極輪2a、2bの進行方向前方に配置されている。レーザー距離計8aの方は、鋼板1aの端面までの距離を測定するために、鋼板1aの端面の前方側に配置され、レーザー距離計8bの方は、鋼板1bの端面までの距離を測定するために、前記レーザー距離計8aの反対側である鋼板1bの端面の後方側に配置されている。
【0024】
[溶接方法の各工程・手順]
次に、本発明に係る鋼板の重ね合わせ溶接方法の手順の概略は、以下のとおりである。
(1)溶接前に、重ね合わせ部分の合計板厚(以下、「重ね厚」ともいう。)を板厚計にて溶接線に沿って全幅測定し、あるいは重ね代をレーザー距離計にて溶接線に沿って全幅測定する。[合計板厚測定工程(P1)、重ね代測定工程(P1’)]
(2)測定した値から重ね厚または重ね代に対応した溶接条件の値を、前もって作成してある溶接条件ごとの対応表(テーブル)内から算出するか、または線形補正した数値により、各溶接条件を決定する。[溶接条件決定工程(P2)]
(3)溶接を実行する際に、前工程(P2)で決定した溶接条件に基づいて溶接を行う。
[溶接工程(P3)]
【0025】
以上のように、本発明の重ね合わせ溶接方法は、合計板厚測定工程(P1)または重ね代測定工程(P1’)、溶接条件決定工程(P2)、溶接工程(P3)を備えている。合計板厚測定工程(P1)と重ね代測定工程(P1’)は、どちらかの工程だけでも良いが、両方の工程を行うことが好ましい。
さらに、溶接工程(P3)は、合計板厚を測定するステップ(S1)または重ね代を測定するステップ(S1’)と、溶接条件を随時変更するステップ(S2)と、を備えることがより好ましい。
【0026】
ここで、本発明の対象となる鋼板は、熱間圧延後の熱延鋼板であって、その板厚が1.6~6.0mmの鋼板であることが好ましい。
以上の手順の詳細を、
図6のフローチャートに基づいて、説明する。
【0027】
[P1:合計板厚測定工程]
この工程は、溶接前に、先行板の後端と後行板の先端の溶接部となる重ね合わせ部分の合計板厚(重ね厚)を溶接線に沿って板幅方向全幅にわたり測定するものである。
【0028】
先行板の後端と後行板の先端との重ね合わせ部分は、その板幅方向の一方の端と、反対側の他方の端とを、それぞれクランプで挟んで、重ね合わせ部分の領域(重ね代)がずれないように保持されている。この重ね合わせ部分を板幅方向に沿って全幅にわたり、合計板厚を測定しておくのが、この工程である。
【0029】
この板厚の測定には、板厚計を用いるが、特に、放射線板厚計を用いるのが好ましい。放射線板厚計とは、X線、β線、γ線などの放射線を用いて鋼板などの物質を透過する際に、放射線が吸収、減衰する性質を利用して、被測定体の厚さを非接触で測定する装置である。鋼板などの鉄鋼製品の厚さ測定には、透過力の強いCs-137やAm-241のようなγ線源などが用いられる。
【0030】
なお、板厚計は、溶接時に板厚の変化がないことから、電極輪の前方であれば設置位置に制限はない。
【0031】
[P1’:重ね代測定工程]
この工程も前述の合計板厚の測定と同様に、重ね合わせ部分の重ね代を溶接線に沿って板幅方向全幅にわたり測定するものである。
【0032】
この重ね代の測定には、レーザー距離計を用いるのが好ましい。レーザー距離計とは、レーザーを用いて測定対象までの距離を測定する装置である。その原理は、レーザー光に変調を加え、元の変調光と対象からの反射光の2つの信号間の位相のずれから距離を換算する方法である。したがって、このレーザー距離計を先行板の後端側の離れた位置からレーザー光を照射し、後端までの距離を測定し、一方、後行板の先端側の離れた位置からもう一つのレーザー距離計からレーザー光を照射し、先端までの距離を測定する。それらの測定値と2つのレーザー距離計間の距離から、その差分を求めて重ね代の測定値を算出する。
【0033】
なお、重ね代は、溶接中にその熱影響により変化することから、レーザー距離計の設置位置は、電極輪に近い位置で測定することが好ましく、電極輪から100mm以内の位置に設置することがより好ましい。
【0034】
[P2:溶接条件決定工程]
前述の合計板厚測定工程で測定された合計板厚および前述の重ね代測定工程で測定された重ね代に基づいて、溶接前に溶接部の板幅方向全幅の各位置における溶接条件を決定することが好ましいが、それぞれ測定された合計板厚または重ね代だけに基づいて溶接条件を決定しても良い。
【0035】
溶接条件としては、溶接電流値、溶接電圧値、溶接速度、溶接温度、電極輪加圧力、スウェージングロール加圧力など、種々の条件があるが、重ね合わせ溶接における折れ込み変形に影響を与える条件としては、溶接電流値、電極輪加圧力およびスウェージングロール加圧力が挙げられることから、本発明の溶接条件決定には、この溶接電流値、電極輪加圧力およびスウェージングロール加圧力に注目して検討した。
【0036】
まず、溶接電流値としては、30~60kAの範囲が好ましい。30kA未満では、溶融部ができず、溶接不良となる場合があり、60kAを超えると、溶融部が鋼板上に溶け出すことによる溶接不良が発生することがある。
【0037】
電極輪加圧力は、油圧シリンダーなどにより電極輪に加える圧力であって、溶接を行う上下の電極輪で重ね合わせ部分を挟み込む圧力である。この加圧力は、15~70kPaの範囲が好ましい。15kPa未満では、重ね部鋼板同士の接触面積が小さくなることによる溶接不良が発生することがあり、70kPaを超えると、溶接部形状が崩れることによる溶接不良が発生することがある。
【0038】
スウェージングロール加圧力は、上記の電極輪加圧力と同じように、スウェージングロールに加える圧力である。この加圧力は、30~70kPaの範囲が好ましい。30kPa未満では、加圧力が小さ過ぎて重ね合わせ部分の段差がなくならないからであり、70kPaを超えると、加圧力が大き過ぎて重ね合わせ部分に欠陥や変形が生じるからである。
【0039】
次に、前記の合計板厚と重ね代の測定値から溶接条件を決定する方法について説明する。
まず、事前に、特定の溶接条件の値と、測定した重ね厚(合計板厚)および重ね代との対応関係を求めた対応表(テーブル)を作成しておく。そのテーブルの例を次の表2~表4に示す。
表2は、溶接電流値(kA)の設定テーブルの例である。
【0040】
【0041】
表3は、電極輪加圧力(kPa)の設定テーブルの例である。
【0042】
【0043】
表4は、SWR加圧力(kPa)の設定テーブルの例である。
【0044】
【0045】
上記の設定テーブルに基づき、測定した重ね厚と重ね代の値から設定値を決定する。上記の表の数値間のデータの場合には、設定値を線形補正して求めている。
【0046】
なお、上述の溶接条件決定には、重ね厚測定と重ね代測定とに基づく設定テーブルについて説明したが、重ね厚測定値のみまたは重ね代測定値のみと溶接条件との関係を求めた設定テーブルに基づいて、溶接条件を決定しても良い。この場合であっても、従来方法である溶接条件を当初の設定値だけで溶接を行う方法よりも、本発明の特徴である溶接前に板幅方向全幅にわたって重ね厚または重ね代を測定し、その測定値に基づいて溶接条件を決定しているので、溶接後の欠陥発生が減少するという優れた効果を奏するものである。
【0047】
[P3:溶接工程]
溶接工程(P3)は、前述した溶接条件決定工程(P2)により決定した溶接条件に基づいて、重ね合わせ溶接、具体的にはクロスシーム溶接を実行する工程である。
【0048】
ここで、溶接工程としては、溶接条件を決定した後、単純に溶接を実行しても良いが、次に説明するステップにより、溶接条件を随時変更しながら溶接を行うことが、より好ましい。
【0049】
[S1:合計板厚測定ステップ]
このステップは、溶接実行中に移動する板幅方向全幅にわたって、前述した板厚計により重ね合わせ部分の合計板厚(重ね厚)を測定するものである。この測定値は、次の溶接条件変更ステップ(S2)となる溶接条件変更手段へ送られる。しかし、合計板厚は、溶接前後でほとんど変化しないので、このS1のステップは省略して、溶接前の測定結果のみで行っても良い。
【0050】
[S1’:重ね代測定ステップ]
このステップは、上記の合計板厚測定ステップ(S1)と同様に、溶接実行中に移動する板幅方向全幅にわたって、前述した2基のレーザー距離計により重ね合わせ部分の重ね代を測定するものである。この測定値も、次の溶接条件変更ステップ(S2)となる溶接条件変更手段へ送られる。
【0051】
[S2:溶接条件変更ステップ]
このステップは、前述の合計板厚測定ステップ(S1)で測定された溶接途中の各位置における合計板厚値および前述の重ね代測定ステップ(S1’)で測定された溶接途中の各位置における重ね代測定値のいずれか一方または両方の測定値に基づいて、最適の溶接条件となるように、随時変更するステップである。この場合の溶接条件としては、前述したように、溶接電流値、電極輪加圧力およびSWR加圧力のいずれかに適用される。そして、以上の溶接条件を随時変更しながら溶接の終点まで溶接を制御することが好ましい。この制御方法は、フィードフォワード制御(FF制御)に相当し、測定した値を基に、それに続く溶接条件を調整する制御方法である。
【0052】
ここで、溶接条件を随時変更しながら溶接を行った一例として、溶接電流値、電極輪加圧力およびSWR加圧力を制御した結果を
図5に示す。
【0053】
図5の一番上のグラフは、OP側(板幅方向の一方の端)からDR側(板幅方向の他方の端)にわたって重ね代測定値が変化しているのが分かる。OP側からDR側に電極輪が移動しているので、溶接している熱の影響により、重ね合わせ部分が徐々に開いていく現象が起こり、重ね代の長さが減少している。
【0054】
図5の上から二つ目のグラフは、重ね厚測定値の変化の様子である。重ね厚が板幅中央部分で厚くなっているのは、板クラウンによる影響によるものである。
【0055】
図5の上から三つ目のグラフは、上記の重ね代測定値と重ね厚測定値の両方の変化を受けて、溶接条件の一つである溶接電流値を随時変更しながら溶接を実施した結果を示している。つまり、当初のOP側では、重ね代が大きく、徐々に減少していくが、重ね厚の方が中央部で最も大きくなることから、溶接電流値も中央部付近で最も上昇し、終了するDR側付近で最も小さい値となっていることが分かる。
【0056】
さらに、
図5の上から四つ目のグラフは、溶接条件の一つである電極輪加圧力を上記の溶接電流値と同様に随時変更しながら溶接を実施した結果であり、
図5の一番下のグラフは、溶接条件の一つであるSWR加圧力を同様に随時変更しながら溶接を実施した結果である。どちらも、上記の溶接電流値の推移と同様に、中央部付近で最も上昇し、終了するDR側付近で最も小さい値となっていることが分かる。
【0057】
以上のように、溶接工程において、溶接中に合計板厚と重ね代を測定し、それらの測定値に基づいて、溶接条件を随時変更することにより、最適な溶接を実施することができ、溶接後の欠陥発生を抑えることができる。
【実施例0058】
以下に、本発明の実施例について説明する。
実施した当初の設定項目を表5に示す。
【0059】
【0060】
表5の設定条件に基づき、次の溶接方法を実施した。
(1)比較例として、合計板厚と重ね代の変動を考慮しない従来のクロスシーム溶接方法で溶接を行ったもの。
(2)本発明例1は、溶接前に合計板厚を測定し、それに基づき溶接条件を決定して溶接を行ったもの。
(3)本発明例2は、溶接前に合計板厚と重ね代を測定し、それに基づき溶接条件を決定して溶接を行ったもの。
(4)本発明例3として、溶接前に合計板厚と重ね代を測定し、それに基づき溶接条件を決定した後、溶接中に合計板厚の変動と重ね代の変動を測定しながら、それに基づき溶接条件を随時変更して溶接を行ったもの。
【0061】
これらの溶接によって、それぞれの溶接部における幅方向3か所での折れ込み疵の有無を確認した結果を表6に示す。折れ込み疵が確認できた溶接箇所をNGと判定している。
【0062】
【0063】
以上の結果より、比較例である従来法による溶接方法では、折れこみ疵が存在する溶接部が発生するが、本発明による溶接方法で溶接を実施することで、合計板厚の変動を考慮した本発明例1の方法では、折れ込み疵の発生を減らすことができ、重ね代の変動をも考慮した本発明例2の方法であれば、より減少し、さらに、溶接中の測定値により溶接条件を随時変更した本発明例3の方法では、折れ込み疵の発生が0(ゼロ)の結果となった。