(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080416
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】酢酸セルロース微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/14 20060101AFI20230602BHJP
【FI】
C08J3/14 CEP
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193744
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(72)【発明者】
【氏名】多川 眞一
(72)【発明者】
【氏名】常葉 祐司
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AB02
4F070AC12
4F070AC39
4F070AC43
4F070AE14
4F070AE28
4F070DA24
4F070DA48
4F070DB09
4F070DC07
4F070DC15
4F070DC16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ハロゲン系溶媒などの化粧品用途に忌避される溶媒を用いることなく、表面が平滑で粒度分布の変動係数が25~40%の範囲に揃っており、平均粒径4~15μmの真球状酢酸セルロース微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】低沸点有機溶媒に酢酸セルロースを溶解させ、酢酸セルロース溶液を作成する工程(A工程)と、前工程で得られた酢酸セルロース溶液中に鹸化度70~90%の部分鹸化ポリビニルアルコールを添加し、攪拌することで、油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を形成させる工程(B工程)と前工程で得られた油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液に水を滴下することで、水中油滴(O/W)型エマルジョン溶液を得る工程(C工程)と、前工程で得られた水中油滴(O/W)型エマルジョン溶液より、溶媒を除去し、酢酸セルロース微粒子を得る工程(D工程)を含有する、酢酸セルロース微粒子の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低沸点有機溶媒に酢酸セルロースを溶解させ、酢酸セルロース溶液を作成する工程(A工程)と、
前工程で得られた酢酸セルロース溶液中に鹸化度70~90%の部分鹸化ポリビニルアルコールを添加し、攪拌することで、油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を形成させる工程(B工程)と
前工程で得られた油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を攪拌しながら、水を滴下することで、水中油滴(O/W)型エマルジョンへ転相させ、水中油滴(O/W)型エマルジョン溶液を得る工程(C工程)と、
前工程で得られた水中油滴(O/W)型エマルジョン溶液より、溶媒を除去し、酢酸セルロース微粒子を得る工程(D工程)を含有する、酢酸セルロース微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記低沸点有機溶媒が、酢酸エステル系、及び/またはケトン系である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記低沸点溶媒が、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノンからなる群より選択される1種以上である請求項1または2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
前記酢酸セルロースが、酢化度53~57%の二酢酸セルロースである請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
粒子径分布がシャープで、平均粒子径が4~15μmの真球状酢酸セルロース微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料のファンデーションや制汗剤などはその使用感や光拡散効果を高めるため、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、ナイロン、ウレタン、シリコーン樹脂などのポリマー微粒子が添加され、使用されている。
【0003】
しかし、これらのポリマー微粒子は生分解性が非常に悪く、使用後、海洋や湖沼に徐々に蓄積され、生態系を汚染しているマイクロプラスチックの問題が指摘されている。
そのため、近年、自然環境で容易に分解される生分解性樹脂の球状微粒子を製造する技術開発が行われてきている。
【0004】
生分解性樹脂の中でも、生分解性に優れる樹脂の一つである、酢酸セルロース樹脂を原料として用い、粒度分布が狭く、表面が平滑で真球状の酢酸セルロース微粒子が注目されている。
【0005】
球状酢酸セルロース微粒子の製造方法として、特許文献1、2には、酢酸セルロース樹脂ペレットをアセトンに溶解し、乾式紡糸法により酢酸セルロースフィラメントを調製し、カッターで切断した後、加熱シリコーン油に投入し、冷却し、球状酢酸セルロース得る製法が記載されている。
また、塩素系溶媒を用いて、酢酸セルロース樹脂を溶解後、撹拌下、ゼラチン水溶液に滴下した後、長時間かけて脱溶媒を行うと球状酢酸セルロース微粒子が得られることが記載されている。しかしながら、これらの製造法は製造時に、酢酸セルロース粒子間の癒着や凝集体が生成し、流動性の良い酢酸セルロース微粒子を得ることは困難である。また、これらの製法では、平均粒径の小さい、酢酸セルロース微粒子を製造することが困難である。
【0006】
特許文献3には、酢酸セルロースペレットを塩化メチレンと酢酸エチル、メチルセルソルブなどの混合溶媒に溶解し、スプレイドライヤーにかけて、球状酢酸セルロース微粒子を得る製造方法が記載されている。しかしながら、この方法は、毒性の強い塩素系溶媒を用いており、化粧品用途などへの展開することが難しい。
【0007】
特許文献4には、酢酸セルロースのクロロホルム/メタノール溶液にノ二オン界面活性剤を溶解させた油層とゼラチン、両性界面活性剤を溶解させた水層とを混合、撹拌し、乳化、分散させて得た酢酸セルロース溶液の液滴表面を希苛性ソーダで加水分解し、セルロースの外殻層を作ったのち、液滴の球状を安定に保ったまま溶媒を留去させるセルロース被覆酢酸セルロース微粒子の製造方法が記載されている。しかしながら、この製法で得られた酢酸セルロース微粒子の粒子表面は平滑で、凝集や癒着が少ないため、酢酸セルロース微粒子の粒度分布が非常にせまく、化粧品用途などに用いることが困難である。
【0008】
特許文献5には、酢酸セルロース溶液と界面活性剤を含む水溶媒体を混合して、多孔質膜を用いて乳化し、安定な酢酸セルロース溶液の液滴を得た後、貧溶媒を滴下して酢酸セルロース微粒子を析出させ、ろ過により酢酸セルロース微粒子が得られる製造方法が記載されている。しかしながら、本製法は、工程が複雑であり、工業スケールでの製造に不向きである。
【0009】
特許文献6には、可塑剤を含侵させた酢酸セルロース樹脂と水溶媒ポリマーを溶融、混錬したあと、酢酸セルロース樹脂と水溶性ポリマーが相分離した樹脂ペレットとして取り出し、水溶性ポリマーを水洗、除去して、酢酸セルロース微粒子を得る製造方法が記載されている。しかしながら、この方法では、多量の可塑剤や、水溶性ポリマーの廃棄物が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭53-7759号公報
【特許文献2】特開昭53-86749号公報
【特許文献3】特開昭55-28763号公報
【特許文献4】特開平6-254373号公報
【特許文献5】特開2021-21045号公報
【特許文献6】国際公開WO2019/156116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
化粧料のファンデーションや制汗剤に酢酸セルロース微粒子を添加することで、柔らかな触感と良好な進展性が得られる。
化粧料に用いる酢酸セルロース微粒子としては、表面が平滑で粒度分布の変動係数が25~40%の範囲に揃っており、平均粒径4~15μmの真球状酢酸セルロース微粒子が好まれている。
【0012】
本発明は、ハロゲン系溶媒などの化粧品用途に忌避される溶媒を用いることなく、表面が平滑で粒度分布の変動係数が25~40%の範囲に揃っており、平均粒径4~15μmの真球状酢酸セルロース微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。酢酸セルロース微粒子の製造において、低沸点溶媒を用い、特定の鹸化度を有する部分鹸化ポリビニルアルコールを分散剤として添加し、先ず、低沸点溶媒と酢酸セルロースを攪拌し、油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を形成させた後、油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液へ攪拌しながら、水を添加することで、水中油滴(O/W)型エマルジョンへ転相させ、有機溶媒を除去することで、表面が平滑で粒度分布の変動係数が25~40%の範囲に揃っており、平均粒径4~15μmの真球状酢酸セルロース微粒子が得られることを見出した。その結果、上記目的を達成することのできる酢酸セルロース微粒子の製造方法の発明に至った。
【0014】
項1.低沸点有機溶媒に酢酸セルロースを溶解させ、酢酸セルロース溶液を作成する工程(A工程)と、
前工程で得られた酢酸セルロース溶液中に鹸化度70~90%の部分鹸化ポリビニルアルコールを添加し、攪拌することで、油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を形成させる工程(B工程)と
前工程で得られた油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を攪拌しながら、水を滴下することで、水中油滴(O/W)型エマルジョンへ転相させ、水中油滴(O/W)型エマルジョン溶液を得る工程(C工程)と、
前工程で得られた水中油滴(O/W)型エマルジョン溶液より、溶媒を除去し、酢酸セルロース微粒子を得る工程(D工程)を含有する、酢酸セルロース微粒子の製造方法。
項2.前記低沸点有機溶媒が、酢酸エステル系、及び/またはケトン系である、項1に記載の製造方法。
項3.前記低沸点溶媒が、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノンからなる群より選択される1種以上である項1または2に記載の製造方法。
項4.前記酢酸セルロースが、酢化度53~57%の二酢酸セルロースである項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、酢酸セルロース微粒子の表面が平滑で、真球状の目的の粒度分布と平均粒径の酢酸セルロース微粒子を得ることができる。本製法で得られた酢酸セルロース微粒子はファンデーションや制汗剤などの化粧料用途に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明は、低沸点有機溶媒に酢酸セルロースを溶解させ、酢酸セルロース溶液を作成する工程(A工程)と、
前工程で得られた酢酸セルロース溶液中に鹸化度70~90%の部分鹸化ポリビニルアルコールを添加し、攪拌することで、油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を形成させる工程(B工程)と
前工程で得られた油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を攪拌しながら、水を滴下することで、水中油滴(O/W)型エマルジョンへ転相させ、水中油滴(O/W)型エマルジョン溶液を得る工程(C工程)と、
前工程で得られた水中油滴(O/W)型エマルジョン溶液より、溶媒を除去し、酢酸セルロース微粒子を得る工程(D工程)を含有する、酢酸セルロース微粒子の製造方法である。
【0018】
A工程
本製造方法のA工程は、低沸点有機溶媒に酢酸セルロースを溶解させ、酢酸セルロース溶液を作成する工程である。
【0019】
A工程に用いる、酢酸セルロースは、天然の高分子であるセルロースを酢酸エステル化することにより得られる半合成高分子である。工業的に広く使用されている酢酸セルロースは、二酢酸セルロースと三酢酸セルロースの2種類に大きく分けられ、その一般的な酢化度は、それぞれ約50~57%および約60~62%である。
【0020】
本製法には、原料としていずれを用いてもよいが、好ましくは二酢酸セルロースを使用する。本発明において使用される二酢酸セルロースは、一般的に二酢酸セルロースの範疇に定義され得るものであれば特に限定されないが、酢化度が45~57%であることが好ましく、53~56%であることがより好ましい。酢化度が45~57%である二酢酸セルロースを使用することにより、低沸点有機溶媒に簡便に溶解させることができる。
【0021】
A工程に用いる酢酸セルロースを溶解する低沸点有機溶媒としては、特に制限されないが、酢酸セルロースの溶解度が高く、除去・回収を簡便となる、低沸点の有機溶媒が好ましい。なお、本発明では、低沸点とは、沸点が、200℃以下の有機溶媒であればよく、150℃以下の有機溶媒が好ましく、100℃以下の有機溶媒がより好ましい。
【0022】
低沸点有機溶媒の具体的なものとして、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブチルなど酢酸エステル系、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどケトン系、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系を例示することができる。A工程においては、上述したものを単独であるいは2種以上を混合して用いることも可能である。
【0023】
低沸点有機溶媒として、2種以上の有機溶媒を混合して用いる場合の混合比率は、適宜選択すればよいが、例えば、酢酸エチルとメチルエチルケトンの混合溶媒を用いる場合、酢酸エチルとメチルエチルケトンの混合比(重量比)は、9:1~6:4とすることが好ましい
また、上述した低沸点有機溶媒以外に、水への溶解性が高い、アセトンやエタノールなどのアルコールを少量添加して、用いてもよい。
【0024】
A工程において、酢酸セルロースを低沸点有機溶媒に溶解させることで、酢酸セルロース溶液が得られる。低沸点有機溶媒への酢酸セルロースの溶解方法は、通常用いられる方法で行えばよい。また、低沸点有機溶媒への酢酸セルロースを溶解する際に、加温(低沸点有機溶媒の沸点以下、具体的には、40~70℃程度とすることで、高濃度の酢酸セルロース溶液を得ることができる。A工程に用いる酢酸セルロースの濃度は、5~15重量%であればよい。
【0025】
B工程
本製造方法におけるB工程は、A工程で得られた酢酸セルロース溶液中に部分鹸化ポリビニルアルコールを添加し、攪拌することで、油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を形成させる工程である。
【0026】
B工程に用いる、部分鹸化ポリビニルアルコールは、鹸化度が70%~90%のものが好ましい。部分鹸化ポリビニルアルコールの鹸化度が、70%以下にものを用いると目的とする平均粒径の酢酸セルロース微粒子を得ることができない。また、部分鹸化ポリビニルアルコールの鹸化度が90%以上のものを用いると、油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を形成しなくなる。
【0027】
酢酸セルロース溶液中に添加する部分鹸化ポリビニルアルコールの添加量は、酢酸セルロース溶液に対して、0.5~5重量%であればよい。部分鹸化ポリビニルアルコールの添加量を多くすれば、得られる酢酸セルロース微粒子の平均粒径が小さくなり、部分鹸化ポリビニルアルコールの添加量を少なくすると、得られる酢酸セルロース微粒子の平均粒径が大きくなる傾向がみられる。
【0028】
本製造方法のB工程においては、部分鹸化ポリビニルアルコール以外に、通常用いられる分散剤を併用することも可能である。例えば、セルロース系水溶性樹脂(メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、ポリアクリル酸塩類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、第3燐酸塩類等が挙げられる。上述した分散剤を併用する場合、本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0029】
酢酸セルロース溶液中に部分鹸化ポリビニルアルコールを添加し、攪拌することで、油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を形成させる方法は、通常行われる方法によって行うことができる。具体的には、酢酸セルロース溶液を撹拌機で攪拌しながら、酢酸セルロース溶液中に部分鹸化ポリビニルアルコールを滴下してもよく、酢酸セルロース溶液に部分鹸化ポリビニルアルコールを添加した後、撹拌機で攪拌させてもよい。本発明において、攪拌とは、溶液が混合される状態を呈するものであればよく、例えば、撹拌機以外に、メカニカルスターラー、マグネティックスターラー、ボルテックスミキサ、遊星ミル、ボールミル、三本ロ-ル、ラインミキサー、プラネタリーミキサー、ディゾルバー等の汎用の装置を用いることも可能である。
【0030】
酢酸セルロース溶液中に部分鹸化ポリビニルアルコールを添加し、攪拌することで乳化反応が起こり、油中水滴(W/O)型エマルジョンが形成し、油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液が得られる。
【0031】
酢酸セルロース溶液と部分鹸化ポリビニルアルコールを攪拌する際の攪拌速度は、乳化反応が起こり、油中水滴(W/O)型エマルジョンが形成する速度であればよく、羽の形状などによっても適宜調整すればよい。撹拌機の攪拌速度は、2000~8000rpmの範囲であればよい。また、攪拌の際に20~50℃で加温しながら攪拌をおこなってもよい。なお、攪拌速度を早くすると得られる酢酸セルロース微粒子の平均粒径が小さくなり、攪拌速度を遅くすると得られる酢酸セルロース微粒子の平均粒径が大きくなる。
【0032】
C工程
本製造方法におけるC工程は、B工程で得られた油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を攪拌しながら、水を滴下することで、水中油滴(O/W)型エマルジョンへ転相させ、水中油滴(O/W)型エマルジョン溶液を得る工程である。
【0033】
C工程においては、B工程で得られた油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を攪拌しながら、水を滴下することで、水中油滴(O/W)型エマルジョンへ転相させることができる。
なお、添加する水は、特に限定されないが、水道水、純水、精製水、イオン交換水、蒸留水、脱塩水、水道水、超純水等を例示することができる。
【0034】
油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液の攪拌方法は、通常行われる方法によって行うことができる。具体的には、油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液を撹拌機で攪拌しながら、水を滴下してもよく、油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液に水を添加した後、撹拌機で攪拌させてもよい。本発明において、攪拌とは溶液が混合される状態を呈するものであればよく、例えば、撹拌機以外に、メカニカルスターラー、マグネティックスターラー、ボルテックスミキサ、遊星ミル、ボールミル、三本ロ-ル、ラインミキサー、プラネタリーミキサー、ディゾルバー等の汎用の装置を用いることも可能である。
【0035】
油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液に水を添加し、攪拌することで転相が起こり、水中油滴(O/W)型エマルジョンが形成し、水中油滴(O/W)型エマルジョン溶液が得られる。
【0036】
油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液に添加する水の添加量は、油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液に対して、50~300重量%の範囲であればよい。
【0037】
油中水滴(W/O)型エマルジョン溶液と水を攪拌する際の攪拌速度は、転相が起こり、水中油滴(O/W)型エマルジョンが形成する速度であればよく。羽の形状などによっても適宜調整すればよい。撹拌機の攪拌速度は、1000~5000rpmの範囲であればよい。また、攪拌の際に20~50℃で加温しながら攪拌をおこなってもよい。
【0038】
D工程
本製造方法におけるD工程は、C工程で得られた水中油滴(O/W)型エマルジョン溶液より、溶媒を除去し、酢酸セルロース微粒子を得る工程である。
【0039】
C工程で得られた水中油滴(O/W)型エマルジョン溶液からの溶媒の除去方法は、公知の方法により行うことができる。例えば、500~400mHgの減圧下、50~70℃に加熱し、溶媒を完全に除去することができる。また、一定量の溶媒を除去した後、ろ過等によって析出した酢酸セルロース微粒子を固液分離によって回収してもよい。析出した酢酸セルロース微粒子の回収方法として、フィルタ-濾過、遠心分離、サイクロン式、又はデカンタ等の方法が挙げられる。
【0040】
回収した酢酸セルロース微粒子は、さらに遠心分離機等で脱水、水洗を行った後、減圧乾燥し、粗粒子の篩別することで、目的の物性と有する酢酸セルロース微粒子が得られる
【0041】
本製造方法で得られた酢酸セルロース微粒子は、表面が平滑で粒度分布の変動係数が25~40%の範囲に揃っており、平均粒径4~15μmの真球状の酢酸セルロース微粒子であり、化粧料のファンデーションや制汗剤に用いることができる。
【0042】
平均粒径は、動的光散乱法を用いて測定することができる。具体的には、以下のとおりである。まず、酢酸セルロース微粒子を、超音波振動装置を用いて純水懸濁液とすることにより、試料を調製する。その後、レーザ回折法(株式会社堀場製作所「レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-960」、超音波処理15分、屈折率(1.500、媒体(水;1.333))により、体積頻度粒度分布を測定することにより平均粒径を測定することができる。なお、ここでいう平均粒径とは、この粒度分布における散乱強度の積算50%に対応する粒子径の値のことをいう
また、変動係数(%)は、粒径の標準偏差/平均粒子径×100によって算出することができる。
【実施例0043】
以下に実施例、比較例および試験例をあげて本発明を具体的に説明する。
【0044】
酢酸セルロース微粒子の平均粒径および変動係数の測定方法
酢酸セルロース微粒子の平均粒径は、動的光散乱法を用いて測定した。まず、純水に酢酸セルロース微粒子を混合し、超音波振動装置を用いて純水懸濁液とした。その後、レーザ回折法(株式会社堀場製作所「レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-960」超音波処理15分、屈折率(1.500、媒体(水;1.333))により、体積頻度粒度分布を求め、平均粒径を測定した。ここでいう平均粒径(μm)は、体積頻度粒度分布における散乱強度の積算50%に対応する粒子径の値とした。また、変動係数(%)は、粒子径の標準偏差/平均粒径×100によって算出した。
【0045】
実施例1
酢酸エチル69.5gおよびメチルエチルケトン29.8gを混合し、混合溶媒を作成した。混合溶媒に二酢酸セルロース(株式会社ダイセル社製、L30 、酢化度55%)12.6gを投入し、50~60℃に加熱し、撹拌溶解後、冷却して酢酸セルロース溶液を得た。(A工程)
酢酸セルロース溶液をホモミキサー撹拌容器に移し替え、部分鹸化ポリビニルアルコール48-80水溶液(部分鹸化ポリビニルアルコール48-80;1.0gを水60gに溶解したもの)を添加し、ホモミキサーの回転数6000rpm、10分、30℃で撹拌し、油中水滴型(W/O型)エマルジョン溶液を得た。(B工程)
次いで、得られた油中水滴型(W/O型)エマルジョン溶液に対して、ホモミキサーの回転数を2000rpmとし、水200mlを添加し、10分、30℃で撹拌し、転送した水中油型(O/W型)エマルジョン溶液を得た。(C工程)
水中油型(O/W型)エマルジョン溶液をエバポレーターに移し、500~400mHgの減圧下、50~60℃に加温し、有機溶媒を除去し、酢酸セルロース微粒子を析出させ、酢酸セルロース微粒子スラリーを得た。(D工程)
析出した酢酸セルロース微粒子スラリー中に粒子間癒着物や凝集物はほとんど見られなかった。続いて、酢酸セルロース微粒子スラリーを水で洗浄ろ過し、乾燥後、粗粉砕し、少量の粗粒子や凝集物を篩別し、表面平滑な真球状の酢酸セルロース微粒子を得た。平均粒径は8μm(粒度分布の変動係数;40%)であった。
【0046】
実施例2
部分鹸化ポリビニルアルコール48-80の使用量を1.5gとし、W/O型エマルジョン溶液作成時のホモミキサー回転数を8000rpmと変更した以外は実施例1と同条件で合成を行った。得られた表面平滑な真球状の酢酸セルロース微粒子の平均粒径は6μm(粒度分布の変動係数;38%)であった。
【0047】
比較例1
実施例1とB工程とC工程の順番を入れ替えた以外は、実施例1と同じ条件で合成を行った。部分鹸化ポリビニルアルコール48-80水溶液をホモミキサーの回転数6000rpmで攪拌し、その中に酢酸セルロース溶液を徐々に添加したところ、徐々に酢酸セルロース樹脂が析出し、水相と酢酸セルロース樹脂が分離し、油中水滴型(W/O型)エマルジョン溶液が得られなかった。
【0048】
比較例2
部分鹸化ポリビニルアルコール48-80水溶液を部分鹸化ポリビニルアルコール27-96(鹸化度96%)に変更した以外は、実施例1と同じ条件で合成を行った。水中油型(O/W型)エマルジョン溶液は得られたが、脱溶媒中にゲル状物質が発生し、目的とする酢酸セルロース微粒子が得られなかった。
【0049】
比較例3
部分鹸化ポリビニルアルコール48-80水溶液の代わりに乳化分散安定剤として、カルボキシメチルセルロース(日本製紙サンローズF-350HC,SLDシリーズ)2gを用いた以外は、実施例1と同じ条件で合成を行った。水中油型(O/W型)エマルジョン溶液は得られたが、非常に不安定で、弱い撹拌でも凝集が起こり、脱溶媒中にゲル状物質が発生し、目的とする酢酸セルロース微粒子が得られなかった。
【0050】
比較例4
部分鹸化ポリビニルアルコール48-80水溶液の代わりに乳化分散安定剤として、ヒドロキシエチルセルロース(住友精化製、HEC CF-Y)2gを用いた以外は、実施例1と同じ条件で合成を行った。水中油型(O/W型)エマルジョン溶液は得られたが、非常に不安定で、弱い撹拌でも凝集が起こり、脱溶媒中にゲル状物質が発生し、目的とする酢酸セルロース微粒子が得られなかった。
【0051】
比較例5
部分鹸化ポリビニルアルコール48-80水溶液の代わりに過乳化分散安定剤としてゼラチン2gを使用した以外は、実施例1と同じ条件で合成を行った。水中油型(O/W型)エマルジョン溶液が得られなかった。