(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080426
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】モータ磁石温度推定装置およびモータ磁石温度推定方法および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/14 20160101AFI20230602BHJP
【FI】
H02P21/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193758
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】安部 義隆
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健人
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG02
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ23
5H505JJ26
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL39
5H505LL45
(57)【要約】
【課題】機械学習を用いて磁石温度を推定するモータ磁石温度推定装置を提供する。
【解決手段】学習フェーズに、回転位置センサ8がモータMの位相θを検出する。電流検出器16がインバータINVから出力された三相の電流検出値i
uvwを検出する。磁石温度センサ9がモータMの磁石温度T
pmを検出する。機械学習システム10が、dq軸電流検出値i
dqと、インバータINVのdq軸電圧指令値v
dq
*またはq軸電圧指令値V
q
*と、電気角ω
eと、磁石温度T
pmと、を入力して、各条件における磁石温度T
pmを機械学習する。推定フェーズに、回転位置センサ8がモータMの位相θを検出する。電流検出器16がインバータINVから出力された三相の電流検出値i
uvwを検出する。学習済みAI12が、dq軸電流検出値i
dqと、dq軸電圧指令値v
dq
*またはq軸電圧指令値V
q
*と、電気角ω
eと、機械学習の結果に基づいて、磁石温度T
pmを推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントローラによって制御されたインバータの出力電圧により駆動するモータの磁石温度を推定するモータ磁石温度推定装置であって、
学習フェーズおよび推定フェーズに、前記モータの位相を検出する回転位置センサと、
前記学習フェーズおよび前記推定フェーズに、前記インバータから出力された三相の電流検出値を検出する電流検出器と、
前記学習フェーズに、前記磁石温度を検出する磁石温度センサと、
前記学習フェーズに、前記学習フェーズにおける前記電流検出値を回転座標変換したdq軸電流検出値と、前記インバータの前記学習フェーズにおけるdq軸電圧指令値または前記学習フェーズにおけるq軸電圧指令値と、前記学習フェーズにおける前記位相に基づいて算出された電気角と、前記学習フェーズにおける前記磁石温度と、を入力して、各条件における前記磁石温度を機械学習する機械学習システムと、
前記推定フェーズに、前記推定フェーズにおける前記電流検出値を回転座標変換した前記dq軸電流検出値と、前記推定フェーズにおける前記dq軸電圧指令値または前記推定フェーズにおける前記q軸電圧指令値と、前記推定フェーズにおける前記位相に基づいて算出された前記電気角と、前記機械学習の結果に基づいて、磁石温度推定値を推定する学習済みAIと、
を備えたことを特徴とするモータ磁石温度推定装置。
【請求項2】
前記機械学習システムは、
入力データとしての前記学習フェーズにおける前記dq軸電圧指令値と前記学習フェーズにおける前記dq軸電流検出値と前記学習フェーズにおける前記電気角と、教師データとしての前記学習フェーズにおける前記磁石温度と、を入力して、前記入力データにおける前記磁石温度を機械学習する機械学習装置を備えたことを特徴とする請求項1記載のモータ磁石温度推定装置。
【請求項3】
前記機械学習システムは、
前記学習フェーズにおける前記q軸電圧指令値と前記学習フェーズにおけるq軸電流検出値に基づいてオブザーバ出力を出力するq軸電圧外乱オブザーバと、
入力データとしての前記オブザーバ出力と前記学習フェーズにおける前記dq軸電流検出値と前記学習フェーズにおける前記電気角と、教師データとしての前記学習フェーズにおける前記磁石温度と、を入力して、前記入力データにおける前記磁石温度を機械学習する機械学習装置と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載のモータ磁石温度推定装置。
【請求項4】
前記q軸電圧外乱オブザーバは、
以下の(1)式により前記オブザーバ出力を算出することを特徴とする請求項3記載のモータ磁石温度推定装置。
【数1】
v^
q
dis:オブザーバ出力
g
dis:q軸電圧外乱オブザーバのカットオフ周波数
s:ラプラス演算子
v
q
*:学習フェーズにおけるq軸電圧指令値
L
qn:q軸インダクタンスのノミナル値
R
an:抵抗のノミナル値
i
q:学習フェーズにおけるq軸電流検出値
【請求項5】
請求項1~4のうち何れかに記載のモータ磁石温度推定装置と、
前記モータ磁石温度推定装置で推定した前記磁石温度推定値に基づいて、前記インバータを制御する前記コントローラと、
前記モータを駆動する前記インバータと、
を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
コントローラによって制御されたインバータの出力電圧により駆動するモータの磁石温度を推定するモータ磁石温度推定方法であって、
学習フェーズに、
回転位置センサが前記モータの位相を検出し、
電流検出器が前記インバータから出力された三相の電流検出値を検出し、
磁石温度センサが前記磁石温度を検出し、
機械学習システムが、前記学習フェーズにおける前記電流検出値を回転座標変換したdq軸電流検出値と、前記インバータの前記学習フェーズにおけるdq軸電圧指令値または前記学習フェーズにおけるq軸電圧指令値と、前記学習フェーズにおける前記位相に基づいて算出された電気角と、前記学習フェーズにおける前記磁石温度と、を入力して、各条件における前記磁石温度を機械学習し、
推定フェーズに、
前記回転位置センサが前記位相を検出し、
前記電流検出器が前記インバータから出力された前記三相の電流検出値を検出し、
学習済みAIが、前記推定フェーズにおける前記電流検出値を回転座標変換した前記dq軸電流検出値と、前記推定フェーズにおける前記dq軸電圧指令値または前記推定フェーズにおける前記q軸電圧指令値と、前記推定フェーズにおける前記位相に基づいて算出された前記電気角と、前記機械学習の結果に基づいて、磁石温度推定値を推定する、
ことを特徴とするモータ磁石温度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの磁石温度推定に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では電圧センサで計測した誘起電圧を基に磁石温度を推定している。誘起電圧を用いた磁石温度推定はよく扱われるが、特許文献1では誘起電圧の周波数スペクトルの振幅に基づいた推定法を提案している。
【0003】
特許文献2ではトルクセンサを用いた磁石温度推定が提案されている。トルクセンサを用いる利点は、モータが回転していない場合に温度推定をすることができる点であると記載されている。推定法の詳細は「詳細な説明」の[0086]~[0092]に記載されている。電流・磁束・トルクの関係式に電流値とトルク計測値を代入して磁束を求め、磁束の変化から磁石温度を推定するという手法である。
【0004】
非特許文献1および特許文献3では、磁束鎖交数オブザーバを用いた手法が提案されている。
【0005】
特許文献4では、機械学習を用いたモータの状態推定を一般的な形で提案している。限られた計測信号と機械学習モデルにより、他の状態変数を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-118652号公報
【特許文献2】特開2019-170004号公報
【特許文献3】特開2021-016226号公報
【特許文献4】特開2021-090340号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】加藤崇、佐々木健介、Diego Fernandez Laborda、Daniel Fernandez Alonso、David Diaz Reigosa、磁石磁束鎖交数オブサーバを用いた可変漏れ磁束型IPMSMにおける磁石温度推定手法、電気学会論文誌D(産業応用部門誌)、Vol.140、No.4(2020)、pp265-271
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のような誘起電圧を用いる手法は電圧を計測する必要があるため、電圧センサの追加が必要である。
【0009】
特許文献2のようなトルクセンサを前提とする手法では、トルクセンサの追加が必要となる。
【0010】
非特許文献1および特許文献3のオブザーバを用いる手法はモデルを必要とするため、正確なパラメータが必要である。
【0011】
特許文献4では機械学習を用いた状態推定を一般的な形で提案しているが、磁石温度に特化したものではなく、磁石温度推定に関する技術について明確に述べられていない。
【0012】
以上示したようなことから、機械学習を用いて磁石温度を推定するモータ磁石温度推定装置を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、コントローラによって制御されたインバータの出力電圧により駆動するモータの磁石温度を推定するモータ磁石温度推定装置であって、学習フェーズおよび推定フェーズに、前記モータの位相を検出する回転位置センサと、前記学習フェーズおよび前記推定フェーズに、前記インバータから出力された三相の電流検出値を検出する電流検出器と、前記学習フェーズに、前記磁石温度を検出する磁石温度センサと、前記学習フェーズに、前記学習フェーズにおける前記電流検出値を回転座標変換したdq軸電流検出値と、前記インバータの前記学習フェーズにおけるdq軸電圧指令値または前記学習フェーズにおけるq軸電圧指令値と、前記学習フェーズにおける前記位相に基づいて算出された電気角と、前記学習フェーズにおける前記磁石温度と、を入力して、各条件における前記磁石温度を機械学習する機械学習システムと、前記推定フェーズに、前記推定フェーズにおける前記電流検出値を回転座標変換した前記dq軸電流検出値と、前記推定フェーズにおける前記dq軸電圧指令値または前記推定フェーズにおける前記q軸電圧指令値と、前記推定フェーズにおける前記位相に基づいて算出された前記電気角と、前記機械学習の結果に基づいて、磁石温度推定値を推定する学習済みAIと、を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、その一態様として、前記機械学習システムは、入力データとしての前記学習フェーズにおける前記dq軸電圧指令値と前記学習フェーズにおける前記dq軸電流検出値と前記学習フェーズにおける前記電気角と、教師データとしての前記学習フェーズにおける前記磁石温度と、を入力して、前記入力データにおける前記磁石温度を機械学習する機械学習装置を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、他の態様として、前記機械学習システムは、前記学習フェーズにおける前記q軸電圧指令値と前記学習フェーズにおけるq軸電流検出値に基づいてオブザーバ出力を出力するq軸電圧外乱オブザーバと、入力データとしての前記オブザーバ出力と前記学習フェーズにおける前記dq軸電流検出値と前記学習フェーズにおける前記電気角と、教師データとしての前記学習フェーズにおける前記磁石温度と、を入力して、前記入力データにおける前記磁石温度を機械学習する機械学習装置と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、その一態様として、前記q軸電圧外乱オブザーバは、以下の(1)式により前記オブザーバ出力を算出することを特徴とする。
【0017】
【0018】
v^q
dis:オブザーバ出力
gdis:q軸電圧外乱オブザーバのカットオフ周波数
s:ラプラス演算子
vq
*:学習フェーズにおけるq軸電圧指令値
Lqn:q軸インダクタンスのノミナル値
Ran:抵抗のノミナル値
iq:学習フェーズにおけるq軸電流検出値。
【0019】
また、その一態様として、前記モータ磁石温度推定装置と、前記モータ磁石温度推定装置で推定した前記磁石温度推定値に基づいて、前記インバータを制御する前記コントローラと、前記モータを駆動する前記インバータと、を備えた電力変換装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、機械学習を用いて磁石温度を推定するモータ磁石温度推定装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態1,2における学習フェーズの電力変換装置の構成を示す図。
【
図2】実施形態1における機械学習システムを示す図。
【
図3】実施形態1,2における推定フェーズの電力変換装置の構成を示す図。
【
図4】I
d=50A,30℃の時系列データを学習させた場合の学習結果を示す図。
【
図5】学習済みAI(I
d=50A,30℃)に同条件の別の時系列データを入力した場合の推定結果を示す図。
【
図6】複数の時系列データを合わせて学習させた場合の学習結果を示す図。
【
図7】複数のケースの学習済みAIにI
d=50A,60℃の別の時系列データを入力した場合の推定結果を示す図。
【
図9】実施形態2のq軸電圧外乱オブザーバを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本願発明におけるモータ磁石温度推定装置の実施形態1~2を
図1~
図9に基づいて詳述する。
【0023】
[実施形態1]
(機械学習を用いたモータ磁石温度推定)
本実施形態1のモータ磁石温度推定装置は、学習フェーズと推定フェーズを行う。学習フェーズは機械学習装置が磁石温度推定を学習するフェーズであり、推定フェーズは学習済みAIを用いて磁石温度を推定するフェーズである。
【0024】
図1に本実施形態1における学習フェーズの電力変換装置の構成を示す。
【0025】
コントローラ1は、電流制御器2と、二相三相変換器3と、三相二相変換器5と、極対数演算器6と、微分演算器(ラプラス演算子)7と、を備える。
【0026】
電流制御器2は、dq軸電流指令値idq
*(d軸電流指令値id
*,q軸電流指令値iq
*)とdq軸電流検出値idq(d軸電流検出値id,q軸電流検出値iq)との偏差と電気角ωeに基づいてdq軸電圧指令値vdq
*(d軸電圧指令値vd
*,q軸電圧指令値vq
*)を出力する。二相三相変換器3は、dq軸電圧指令値vdq
*を位相θeに基づいて三相電圧指令値に変換する。
【0027】
インバータINVはコントローラ1によって制御される。インバータINVは三相電圧指令値に基づいてモータ(例えば、PMモータ)Mに電圧を出力してモータMを駆動する。モータMには負荷4が接続されている。電流検出器16はインバータINVから出力された三相の電流検出値iuvwを検出する。回転位置センサ8は、モータMの位相θを検出する。磁石温度センサ(例えば、熱電対)9はモータMの磁石温度Tpmを検出する。
【0028】
極対数演算器6は、位相θに極対数pを乗算して極対数を考慮した位相θeを出力する。三相二相変換器5は、三相の電流検出値iuvwを極対数を考慮した位相θeに基づいてdq軸電流検出値idqに変換する。微分演算器(ラプラス演算子)7は、極対数を考慮した位相θeを微分して電気角ωeを出力する。
【0029】
学習フェーズでは、推定フェーズで用いる入力データ(dq軸電圧指令値vdq
*,dq軸電流検出値idq,電気角ωe)と教師データ(磁石温度Tpm)を時系列データとして取得し、機械学習システム10に入力する。
【0030】
機械学習システム10の構成を
図2に示す。機械学習装置(AI)11は、入力データとしてのd軸電圧指令値v
d
*,q軸電圧指令値v
q
*,d軸電流検出値i
d,q軸電流検出値i
q,電気角ω
e,教師データとしての磁石温度T
pmを入力する。機械学習装置(AI)11はニューラルネットワークを示す。誤差逆伝搬法により、ニューラルネットの重みを更新する。
【0031】
なお、モータ状態量に関する機械学習方法の詳細については、特許文献4に記載されている。ただし、特許文献4には、モータ状態量が磁石温度の場合についての記載はない。
【0032】
推定フェーズの電力変換装置は
図3に示すような構成とする。
図3に示すように、推定フェーズの電力変換装置は、学習フェーズの電力変換装置(
図1)と比較して磁石温度センサ9が省略され、その代わりに学習済みAI12が追加されている。
図3に示すように、電力変換装置は、モータ磁石温度推定装置と、モータ磁石温度推定装置で推定した磁石温度推定値T^に基づいて、インバータINVを制御するコントローラ1と、モータMを駆動するインバータINVと、を備える。
【0033】
推定フェーズの電力変換装置では、コントローラ1内の変数の時系列データ(dq軸電圧指令値vdq
*,dq軸電流検出値idq,電気角ωe)を学習済みAI12に入力し、磁石温度推定値T^を出力する。入力するデータはオフライン,オンラインどちらでもよい。
【0034】
学習則としては、機械学習で一般的に用いられる誤差逆伝搬法を用いた。機械学習装置11の具体的な実装パラメータとしては、中間層1層でユニット数10,中間層の活性化関数はシグモイド関数,出力層の活性化関数は恒等関数とした。
【0035】
<学習結果の例>
学習結果の例として、1つのケース(Id=50A,30℃)の時系列データを学習させた場合と、複数のケース(Id=0A,30℃,Id=0A,60℃,Id=50A,30℃,Id=50A,60℃,Id=-50A,30℃,Id=-50A,60℃)の時系列データを学習させた場合を示す。
【0036】
まず、1つのケース(I
d=50A,30℃)の10秒間のデータの学習結果を
図4に示す。
図4は、学習フェーズと推定フェーズで同じ時系列データを用いたものであり、実線は学習済AI12の出力(推定フェーズで推定した磁石温度推定値T^)、点線は正解データ(学習フェーズにおいて磁石温度センサ9で計測した磁石温度T
pm)を示している。磁石温度推定値T^(
図4の実線)が磁石温度T
pmの計測値(
図4の点線)に追従しており、高い精度で学習できていることがわかる。
【0037】
図5は、学習フェーズと推定フェーズで別の時系列データを用いたものであり、
図3の学習済AI12に別の実験データを入力し温度推定を行う。先に続く10秒間のデータを用いて磁石温度推定値T^を推定する。
図5の実線は学習済AI12の出力(推定フェーズで推定した磁石温度推定値T^)、点線は正解データ(学習フェーズにおいて磁石温度センサ9で計測した磁石温度T
pm)を示している。磁石温度T
pmの計測値(
図5の点線)は33.75から34.00℃の間で揺れているが、磁石温度推定値T^(
図5の実線)はほぼ33.75℃近くでほぼ一定の推定値を出力している。磁石温度T
pmの計測値と磁石温度推定値T^の誤差は1℃以内を満たしている。
【0038】
次に、複数のケース(I
d=0A,30℃,I
d=0A,60℃,I
d=50A,30℃,I
d=50A,60℃,I
d=-50A,30℃,I
d=-50A,60℃)の場合の学習結果を
図6に示す。各ケースの10秒間のデータを結合し、それを一つの時系列データとして機械学習装置11に学習させた。
図6は、学習フェーズと推定フェーズで同じ時系列データを用いたものである。
図6の実線は学習済AI12の出力(推定フェーズで推定した磁石温度推定値T^)、点線は正解データ(学習フェーズにおいて磁石温度センサ9で計測した磁石温度T
pm)を示している。
【0039】
磁石温度推定値T^(
図6の実線)が磁石温度T
pmの計測値(正解データ、
図6の点線)に追従しており、高い精度で学習できていることがわかる。
【0040】
図7は、学習フェーズと推定フェーズで別の時系列データを用いたものである。今回は推定フェーズでI
d=50A,60℃の時系列データを入力した。
図7の実線は学習済AI12の出力(推定フェーズで推定した磁石温度推定値T^)、点線は正解データ(学習フェーズにおいて磁石温度センサ9で計測した磁石温度T
pm)を示している。磁石温度T
pmの計測値(正解データ、
図7の点線)および磁石温度推定値T^(
図7の実線)のどちらもほぼ60℃を示しており,妥当な推定がなされているとわかる。
【0041】
以上示したように、本実施形態1によれば、学習フェーズにおいて、磁石温度,dq軸電圧指令値,dq軸電流検出値,電気角,磁石温度の時系列データがあれば、磁石温度を教師データとする機械学習を行うことができる。また、推定フェーズにおいて、dq軸電圧指令値,dq軸電流検出値,電気角の時系列データがあれば、磁石温度を推定することができる。
【0042】
[実施形態2]
(機械学習と電圧外乱オブザーバを用いた磁石温度推定)
電力変換装置の構成は学習フェーズ,推定フェーズともに実施形態1と同じとする。本実施形態2は、機械学習システム10の構成が実施形態1とは異なる。本実施形態2の機械学習システム10を
図8に示す。
図8に示すように、本実施形態2の機械学習システム10は、q軸電圧外乱オブザーバ(VDOB)13と、機械学習装置11と、を備える。
【0043】
機械学習装置(ニューラルネットワーク)11に入力する変数はオブザーバ出力v^
q
dis,d軸電流検出値i
d,q軸電流検出値i
q,電気角ω
eの4変数とする。ただし、オブザーバ出力v^
q
disは
図9のブロック線図により計算する。
【0044】
乗算器14は、q軸電流検出値iqに(Lqs+Ran)を乗算する。減算器17は、q軸電圧指令値vq
*から乗算器14の出力を減算する。乗算器15は、減算器17の出力に(gdis/(s+gdis))を乗算する。
【0045】
q軸電圧外乱オブザーバ(VDOB)13の算出を式で表現すると、以下の(1)式となる。
【0046】
【0047】
ただし、Lqnはq軸インダクタンスのノミナル値,Ranは抵抗のノミナル値,gdisはオブザーバのカットオフ周波数,sはラプラス演算子である。
【0048】
本実施形態2では、実施形態1と異なり4つの変数を機械学習装置11に入力する。磁石温度推定値T^は(2)式で計算できる。
【0049】
【0050】
ただし、Tbは基準温度,Φnは基準温度での磁束,Rnは基準温度での抵抗,αは抵抗の温度係数,βは磁束の温度係数,Ldはd軸インダクタンスである。なお、(2)式のv^q
vdobは(1)式のv^q
disと同じ値である。
【0051】
(2)式で示すように,必要十分な変数を機械学習装置11にすればよいことになる。本実施形態2の学習済みAI12は、(2)式をブラックボックスで暗にモデル化および補正したシステムであると解釈することもできる。
【0052】
以上示したように、本実施形態2によれば、学習フェーズにおいて、磁石温度,オブザーバ出力,dq軸電流検出値,電気角,磁石温度の時系列データがあれば、磁石温度を教師データとする機械学習を行うことができる。また、推定フェーズにおいて、オブザーバ出力,dq軸電流検出値,電気角の時系列データがあれば、磁石温度を推定することができる。
【0053】
<実装結果>
実施形態1と実施形態2で学習結果の誤差比較を行った。データは
図4と同様、I
d=50A,30℃の時系列データを用いた。
【0054】
それぞれ3回の学習を行った際の二乗和誤差の平均の結果として、実施形態1は7.10e-5℃^2,実施形態2は6.05e-5℃^2となった。実施形態2は実施形態1よりも機械学習装置11への入力変数が少ないが、遜色なく学習できていることがわかる。
【0055】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0056】
1…コントローラ
2…電流制御器
3…二相三相変換器
4…負荷
M…モータ
INV…インバータ
5…三相二相変換器
6…極対数演算器
7…微分演算器(ラプラス演算子)
8…回転位置センサ
9…磁石温度センサ(熱電対)
10…機械学習システム
11…機械学習装置
12…学習済AI
13…q軸電圧外乱オブザーバ
14,15…乗算器
16…電流検出器
17…減算器