(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080458
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】魚釣用スピニングリール
(51)【国際特許分類】
A01K 89/01 20060101AFI20230602BHJP
【FI】
A01K89/01 F
A01K89/01 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193814
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 栄仁
【テーマコード(参考)】
2B108
【Fターム(参考)】
2B108BA01
2B108BG04
(57)【要約】
【課題】発音性の低下を防ぎつつ、ドラグ作動時の抵抗を小さくすることができる魚釣用スピニングリールを提供することを課題とする。
【解決手段】発音体20は、周方向に交互に形成された凸部51及び凹部61を備え、凹部61は、隣り合う一方の凸部51との境となる第一頂部64と、第一頂部64に連続し径外方向に凹む第一面62と、第一面62に連続する第二面63と、第二面63に連続し当該凹部61と隣り合う他方の凸部51との境となる第二頂部65と、を備え、第二頂部65から凹部61の最深部66までの距離L2は、第一頂部64から凹部61の最深部66までの距離L1よりも長くなっていることを特徴とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体に設けられたスプール軸の先端にドラグ装置によって回転可能に摩擦結合されたスプールを備え、前記スプールの内周面に凸凹状に形成された発音体と、前記スプール軸に設けられた発音部材とが係合して構成されるスプール発音機構を備えた魚釣用スピニングリールであって、
前記発音体は、周方向に交互に形成された凸部及び凹部を備え、
前記凹部は、隣り合う一方の前記凸部との境となる第一頂部と、前記第一頂部に連続し径外方向に凹む第一面と、第一面に連続する第二面と、前記第二面に連続し当該凹部と隣り合う他方の前記凸部との境となる第二頂部と、を備え、
前記第二面は、釣糸が繰り出された時に前記スプールが回転する方向とは反対側に形成されており、
前記第二頂部から前記凹部の最深部までの距離L2は、前記第一頂部から前記凹部の最深部までの距離L1よりも長くなっていることを特徴とする魚釣用スピニングリール。
【請求項2】
前記第一面は曲面、前記第二面は傾斜面になっていることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用スピニングリール。
【請求項3】
前記発音部材は、径外方向に突出する突出部を有するクリック爪バネを備え、前記突出部が前記発音体と係合することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の魚釣用スピニングリール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣用スピニングリールに関する。
【背景技術】
【0002】
魚釣用スピニングリールは、ハンドルの回転操作に応じて前後動するスプール軸を備えており、このスプール軸にスプールが取り付けられている(特許文献1参照)。スプールは、スプール軸に対して相対回転可能に構成されており、その相対回転を報知するスプール発音機構がスプール軸とスプールとに備わっている。スプール発音機構は、スプール側に設けられた発音体と、スプール軸側に設けられた発音部材とで構成されている。
【0003】
特許文献1に示すように、発音体は、例えば、スプールの内周面に形成されたラチェット溝で構成されている。発音部材は、例えば、径外方向に突出する突出部を有するクリック爪バネで構成されている。実釣時に、釣糸の繰り出しに伴ってスプールが回転した際、クリック爪バネの突出部が、ラチェット溝の凸部及び凹部に係合することでクリック音が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、ラチェット溝の凹部が半円弧状になっているため、釣糸繰り出し時におけるスプールの回転移動距離に対するクリック爪バネの変形量が大きくなり、ドラグ作動時にクリック爪バネの弾性抵抗を受けやすくなっている。これにより、スムーズなドラグ作動が阻害されるという問題がある。また、従来の構造であると各摺動部も摩耗し易くなるため、発音性も低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するために創作されたものであり、発音性の低下を防ぎつつ、ドラグ作動時の抵抗を小さくすることができる魚釣用スピニングリールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、リール本体に設けられたスプール軸の先端にドラグ装置によって回転可能に摩擦結合されたスプールを備え、前記スプールの内周面に凸凹状に形成された発音体と、前記スプール軸に設けられた発音部材とが係合して構成されるスプール発音機構を備えた魚釣用スピニングリールであって、前記発音体は、周方向に交互に形成された凸部及び凹部を備え、前記凹部は、隣り合う一方の前記凸部との境となる第一頂部と、前記第一頂部に連続し径外方向に凹む第一面と、第一面に連続する第二面と、前記第二面に連続し当該凹部と隣り合う他方の前記凸部との境となる第二頂部と、を備え、前記第二面は、釣糸が繰り出された時に前記スプールが回転する方向とは反対側に形成されており、前記第二頂部から前記凹部の最深部までの距離L2は、前記第一頂部から前記凹部の最深部までの距離L1よりも長くなっていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、距離L2が距離L1よりも長いため、第二面から第二頂部に至るまでに発音部材がスムーズに移動する。これにより、ドラグ作動時の抵抗を小さくすることができる。また、第一面側で径外方向に深さを設けることで発音に必要な音響空間を確保することができる。また、第二面側で発音部材がスムーズに移動するため、各摺動部の摩耗を防ぐことができる。これにより、発音性の低下を防ぐことができる。
【0009】
また、前記第一面は曲面、前記第二面は傾斜面になっていることが好ましい。本発明によれば、第二面から第二頂部に至るまでに発音部材をよりスムーズに移動させることができる。
【0010】
また、前記発音部材は、径外方向に突出する突出部を有するクリック爪バネを備え、前記突出部が前記発音体と係合することが好ましい。本発明によれば、突出部を設けることで発音性をより高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る魚釣用スピニングリールによれば、発音性の低下を防ぎつつ、ドラグ作動時の抵抗を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る魚釣用スピニングリールを示す概略側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るスプールに備わる発音体とスプール軸に取り付けられた発音部材とを示す一部省略拡大横断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るスプールに備わる発音体とスプール軸に取り付けられた発音部材とを示す図であり、
図2のIII-III線に沿う断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るスプールを示す拡大縦断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る発音体のラチェット溝を示す拡大図である。
【
図6】スプール発音機構について、比較例と実施例の作用状態を比較した比較表である。
【
図7】スプール回転角が0°の時の比較例を示す拡大図である。
【
図8】スプール回転角が4°の時の比較例を示す拡大図である。
【
図9】スプール回転角が0°の時の実施例を示す拡大図である。
【
図10】スプール回転角が4°の時の実施例を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る魚釣用スピニングリールのスプールについて、適宜図面を参照して説明する。実施形態の説明において、「上下」、「前後」を言うときは、
図1に示した方向、「左右」を言うときは、
図2に示した方向を基準とする。
【0014】
図1に示すように、主として、魚釣用スピニングリールR1は、図示しない釣竿に装着するための脚部1Aが形成されたリール本体1と、リール本体1の前方に回転可能に設けられたロータ2と、このロータ2の回転運動と同期して前後方向に移動可能に設けられたスプール10とを有する。
【0015】
リール本体1には、図示しない軸受を介してハンドル軸3が回転可能に支持されており、その突出端部には、巻き取り操作されるハンドル4が取り付けられている。
ハンドル軸3には、軸筒が回り止めされて固定されている。この軸筒には、ロータ2を巻き取り駆動するための内歯が形成されたドライブギヤ6が一体的に形成されている。このドライブギヤ6は、ハンドル軸3と直交する方向に延出するとともに内部に軸方向に延出する空洞部を有する駆動軸筒7のピニオンギヤ7aに噛合している。
【0016】
駆動軸筒7は、軸受を介してリール本体1に回転可能に支持されており、その空洞部には、ハンドル軸3と直交する方向に延出し、先端側にスプール10が取り付けられるスプール軸8が、軸方向に移動可能に挿通されている。
【0017】
スプール軸8の後端部には、スプール軸8を前後動させるための公知のオシレーティング機構9が備わっている。
【0018】
駆動軸筒7はスプール10側に向けて延出しており、その前端部において、ナット7b(
図2参照)を介してロータ2が取り付けられている。なお、駆動軸筒7は、図示しない一方向クラッチにより、逆転方向の回転(釣糸放出方向の回転)が規制されている。
【0019】
ロータ2は、スプール10のスカート部10a内に位置する円筒部2a(
図2参照)と、一対のアーム部2b,2cと、を具備している。
各アーム部2b,2cの前端部には、ベール支持部材2d,2eが釣糸巻取位置と釣糸放出位置との間で回動自在に支持されており、これらのベール支持部材2d,2e間には、放出状態にある釣糸をピックアップするベール2fが配設されている。ベール2fは、一方の基端部がベール支持部材2dに一体的に設けられたラインローラ2gに取り付けられており、他方の基端部がベール支持部材2eに取り付けられている。
【0020】
スプール10は、
図1に示すように、スカート部10aと前側フランジ10bとの間に、図示しない釣糸が巻回される釣糸巻回胴部10cを備えており、円筒形状を呈している。スプール10の詳細は後記する。
【0021】
このような魚釣用スピニングリールR1において、ハンドル4を巻き取り操作すると、ロータ2がドライブギヤ6およびピニオンギヤ7aを介して回転駆動され、かつスプール10がピニオンギヤ7aおよびオシレーティング機構9を介して前後動される。これにより、図示しない釣糸が、ラインローラ2gを介してスプール10の釣糸巻回胴部10cに均等に巻回される。
【0022】
次に、スプール10の詳細について説明する。スプール10は、
図2,
図4に示すように、スプール本体11と、スプール本体11と別体に設けられた発音体20とを備えている。なお、本実施形態ではスプール本体11と発音体20とは別体になっているが、これらが一体であってもよい。
スプール本体11は、
図2に示すように、保持部材30を介してスプール軸8に取り付けられている。スプール軸8は、断面が円形状の胴部8aと、断面が略小判形状の先端部8bとを備えている。なお、先端部8bは、外周面が直線部と曲線部とを有している。胴部8aと先端部8bとの境界部分には段差部8cが形成されている。
【0023】
保持部材30は、先端部8bに取り付けられている。先端部8bには、軸直方向に貫通する透孔8dが形成されている。透孔8dには、保持部材30を係止するための係止ピン33が挿入されている。
【0024】
保持部材30は、スプール軸8の先端部8bが挿通される筒状を呈しており、基部31aと、フランジ部31bとを備えている。基部31aは、先端部8bの断面略小判形状の曲線部に装着される内径を有する円形内周部31c(
図3参照)と、円形内周部31cの前側に形成され、先端部8bの断面略小判形状の直線部と曲線部との両方に装着される断面略小判形状の内周部31d(
図2参照)とを備えている。内周部31dには、係止ピン33が挿入される貫通穴32が形成されている。貫通穴32は、スプール軸8の先端部8bの透孔8dに連通している。保持部材30は、貫通穴32を通じて係止ピン33を透孔8dに係止することにより、軸方向移動不能及び軸周り方向に回転不能に取り付けられている。
【0025】
基部31aの後部の外面には、ベアリングからなる後軸受け18bが外嵌されている。後軸受け18bは、基部31aの後端面に配置されたワッシャ34により抜け止め保持されている。ワッシャ34とスプール軸8の段差部8cとの間には、発音部材40を構成する支持部41が挟持されている。発音部材40は、金属製の支持部41と、支持部41に支持された金属製のクリック爪バネ42とを備えている。
【0026】
支持部41は、
図3に示すように、左右両側に延在する4つのフック部41aを備えている。クリック爪バネ42は、金属製の薄板状部材であって、弾性を有する。クリック爪バネ42は、正面視で全体が略U字状を呈しており、左側(径外方向)に突出する突出部44を備えている。突出部44の先端は曲面になっている。突出部44は、左側のフック部41a,41aの間に配置されている。また、クリック爪バネ42の両端部45,45は、右側のフック部41a,41aに係止されている。
【0027】
スプール本体11の内側には、
図2に示すように、保持部材30にスプール本体11を保持するための構造として、支持壁12及び中壁13が形成されている。支持壁12は、略円板状を呈しており、釣糸巻回胴部10cの内面から径方向内側に向けて一体に延在している。中壁13は、円筒状を呈しており、支持壁12の延在端にから後方へ向けて一体に延在している。中壁13の後部には、後記する螺合構造により発音体20が取り付けられている。なお、支持壁12の前側には、ドラグ装置T(
図1参照)が収容される円筒状のドラグ収容部18(
図4参照)が形成されている。ドラグ装置Tは、実釣時に魚が掛かった際、引き出される釣糸に対して制動力を付与する装置である。ドラグ装置TのドラグノブTa(
図1参照)を調整することで、スプール軸8に回転可能に保持されたスプール10に、所望の制動力を加えることができる。
【0028】
中壁13は、
図4に示すように、スプール本体11の中心軸О1と同心円状に形成されており、その内側には、
図2に示すように、保持部材30の一部及びスプール軸8の先端部8bが挿通される挿通穴19が形成されている。
中壁13は、
図2に示すように、支持壁12に連続する大径部13aと、大径部13aの後側に連続する小径部14とを備えている。中壁13の外面には、大径部13aと小径部14との境界部分に段差部16(
図4参照)が形成されている。
【0029】
大径部13aの内周面には、大径部13aの内周面を前後に仕切るリング状の仕切壁15が突出形成されている。仕切壁15の前側において、大径部13aの内周面には、ベアリングからなる前軸受け18aが内嵌されている。前軸受け18aは、大径部13aの内周面に係止された抜け止め部材13bと仕切壁15とにより抜け止め保持されている。前軸受け18aの内輪は、保持部材30の基部31aの前部外周面に装着されている。また、仕切壁15の後面は、2枚のワッシャ35を介して保持部材30のフランジ部31bの前面に当接している。
【0030】
保持部材30と中壁13との間において、前軸受け18a及び後軸受け18bは、前後方向に並んで配置されている。これにより、スプール本体11は、前後2つの軸受け18a,18bによりスプール軸8の先端部8bに安定して保持されている。
【0031】
小径部14は、
図2,
図4に示すように、発音体20が取り付けられる部位である。小径部14の後部の外周面には、螺合構造のねじ部として機能する雄ねじ部14aが形成されている。雄ねじ部14aは、挿通穴19の軸方向から見て挿通穴19と同心円状に形成されている。別言すれば、雄ねじ部14aは、スプールの中心軸О1を中心とする円と同心円上に配置されている。なお、本実施形態では、小径部14に発音体20が螺合しているが、圧入により結合させてもよい。一方、小径部14の後部の内周面には、保持部材30側に外嵌された後軸受け18bの外輪が装着されている。
【0032】
発音体20は、螺合構造によりスプール本体11の中壁13に取り付けられる部材であり、円筒状を呈している。発音体20は、全体が樹脂、例えば、炭素繊維またはガラス繊維等を含む繊維強化樹脂により形成されている。つまり、発音部材としてのクリック爪バネ42に対して、硬度差を持たせている。発音体20と、発音部材40(クリック爪バネ42)とが係合することで、スプール発音機構が構成されている。
【0033】
発音体20は、
図2,
図4に示すように、リング状の底壁21と、底壁21の径方向内側の部位から後方へ延在する内周壁22と、内周壁22の径方向外側に間隔を空けて配置され、底壁21の径方向外側の部位から後方へ延在する外周壁23とを備えている。発音体20は、底壁21と内周壁22と外周壁23とにより囲われる凹状部(凹環状の空間部)25を備えている。凹状部25は、
図4に示すように、後方に向けて環状に開口している。
【0034】
内周壁22の内周面の全体には、
図2,
図4に示すように、螺合構造の螺合ねじ部として機能する雌ねじ部22aが形成されている。雌ねじ部22aは、中壁13の雄ねじ部14aに対して螺合可能である。
【0035】
図3に示すように、外周壁23の内周面には、ラチェット溝24が形成されている。ラチェット溝24には、クリック爪バネ42の突出部44が弾発的に当接している。
図5に示すように、ラチェット溝24は、外周壁23の内周面全周に交互に形成された凸部51と凹部61とで構成されている。凹部61は、径外方向に凹んで形成されている。隣り合う凹部61,61の間に形成された部分が凸部51となる。凹部61は、第一面62と、第二面63とを備えている。凹部61に対して一方側の凸部51との境となる角部を第一頂部64とする。また、凹部61に対して他方側の凸部51との境となる角部を第二頂部65とする。また、凹部61において、スプールの中心軸О1(
図4参照)から最も遠い位置を最深部66とする。また、第一面62と第二面63との境を仮想線67で示している。
【0036】
最深部66を境にして周方向の一方側をP方向とし、他方側をQ方向とする。P方向とは、実釣時に魚が掛かって釣糸が繰り出された時にスプール10が回転する方向を意味する。第二面63は、凹部61のうちQ方向(釣糸が繰り出された時にスプール10が回転する方向とは反対側)に形成されている。
【0037】
第一面62は、第一頂部64から仮想線67まで連続する曲面(円弧状の面)になっている。一方、第二面63は、仮想線67から第二頂部65まで連続する傾斜面になっている。第二頂部65から最深部66までの距離L2は、第一頂部64から最深部66までの距離L1よりも長くなっている。つまり、最深部66は、凹部61の幅方向の中心よりも第一頂部64側(P方向側)に位置している。これにより、凹部61の形状は左右非対称になっている。
【0038】
なお、上記の距離L1,L2を満たすことを前提として、第一面62を傾斜面としてもよいし、第二面63を曲面(円弧状の面)としてもよい。また、上記の距離L1,L2を満たすことを前提として、第一面62及び第二面63をいずれも曲面としてもよいし、いずれも傾斜面としてもよい。
【0039】
外周壁23の後端部は、
図2,
図4に示すように、内周壁22の後端部よりも後方に突出しており、後方のロータ2の円筒部2aとの間に形成されるスペースを利用して、スカート部10aの内側の領域に配置されている。これにより、外周壁23で囲われる凹状部25の領域が後方に向けて拡大している。このことは、発音効果の向上に寄与する。また、外周壁23の後端部は、テーパ状に拡径しており、組み付け時のクリック爪バネ42の案内部として機能する。
【0040】
外周壁23の径方向外側には、
図4に示すように、スプール本体11の釣糸巻回胴部10c,スカート部10a(糸止め部10s)との間に隙間S1が形成されている。隙間S1は、スプール本体11に対して発音体20を取り付ける際、及び取り外す際の指入れ部として機能する。また、隙間S1により、発音体20の音が響き易くなる。
【0041】
スプール本体11に対して発音体20を取り付ける際には、スプール本体11の後方から、スカート部10aの内側に発音体20を挿入し、スプール本体11の中壁13の小径部14に発音体20の内周壁22を合わせ、発音体20を螺合方向に回転させる。これにより、雄ねじ部14aに雌ねじ部22aが螺合し、発音体20がスプール本体11(中壁13)に取り付けられる。発音体20の底壁21は、螺合により中壁13の段差部16に当て付けられるようになっており、この当て付けにより中壁13に発音体20が圧接固定される。発音体20の底壁21が段差部16に当たるため、発音体20の締め込み過ぎによる破損を防止できる。なお、取り付け後に螺合を解除することで、スプール本体11から発音体20を取り外すことができる。
【0042】
スプール本体11に発音体20を取り付けた状態では、
図2に示すように、挿通穴19の軸心(スプール本体11の中心軸О1)から径方向外側に向けて順に、後軸受け18b、発音体20、スプール本体11の外径部(釣糸巻回胴部10cやスカート部10a)が配置される。
【0043】
次に、比較例と実施例とを対比しながら、スプール発音機構の作用について説明する。
図6は、スプール発音機構について、比較例と実施例の作用状態を比較した比較表である。
図6の上段は、比較例(特許文献1の形態)を示し、下段は、実施例(本発明の実施形態)を示している。各図は、左から右に向かうにつれてスプール回転角が1°ずつ大きくなった時の係合状態を示している。図中に示す変形量Dは、突出部44の変形量を示している。変形量Dは、スプール回転角が0°の時の突出部44の先端の位置を基準とし、当該基準から突出部44の先端までの距離(径外方向の移動距離)を示している。釣糸が繰り出される際は、クリック爪バネ42は回転せず、発音体20(スプール10)が回転することにより音が発せられる。
【0044】
図7は、スプール回転角が0°の時の比較例を示す拡大図である。
図8は、スプール回転角が4°の時の比較例を示す拡大図である。
図7及び
図8に示すように、比較例のラチェット溝は、内周面の周方向に交互に形成された凸部71と凹部81とで構成されている。凹部81の形状は左右対称であって、半円弧状の曲面になっている。凹部81と隣り合う凸部71との境をそれぞれ第一頂部84、第二頂部85とする。凹部81の幅方向の中心線を中心線V1とする。
【0045】
図7に示すように、比較例のスプール回転角が0°の時、凹部81の中心線V1上に、クリック爪バネ42の突出部44の幅方向の中心線である中心線44aが位置している。この時、突出部44が凹部81に最も深く嵌った状態になっている。また、突出部44の先端の曲率に比べて凹部81の曲率が大きいため、凹部81の最深部86と突出部44とは接触せず、突出部44は第一頂部84及び第二頂部85の両方に当接(点接触)している。
図6に示すように、スプール回転角が1~3°となると突出部44が第二頂部85と接触しながら摺動する。そして、
図8に示すように、スプール回転角が4°の時、突出部44の中心線44aが凹部81の第二頂部85の近傍に位置し、変形量Dが0.25mmになっている。
【0046】
図9は、スプール回転角が0°の時の実施例を示す拡大図である。
図10は、スプール回転角が4°の時の実施例を示す拡大図である。
図9及び
図10に示すように、実施例では、凹部61の形状は、前記したように最深部66が偏心し、左右非対称であって、曲面となる第一面62と、傾斜面となる第二面63とを備えている。第一面62の曲率半径は、
図7に示す比較例の凹部81の曲率半径よりも小さくなっている。凹部61の最深部66の深さ寸法は、凹部81の最深部86の深さ寸法と同一又は概ね同一になっている。凹部61の幅方向の中心線を中心線V2とする。
【0047】
実施例のスプール回転角が0°の時、凹部61の中心線V2上に、クリック爪バネ42の突出部44の中心線44aが位置している。この時、突出部44が凹部81に最も深く嵌った状態になっている。またこの時、突出部44は、最深部66及び第二頂部65とは接触せず、第一頂部64及び第二面63に当接している。突出部44の中心線44aは、最深部66よりもQ方向側に位置している。
図6に示すように、スプール回転角が1~3°となると、突出部44が第二面63に沿って摺動する。そして、
図10に示すように、スプール回転角が4°の時、突出部44の中心線44aが凹部61の第二頂部65の近傍に位置し、変形量Dが0.19mmになっている。具体的な図示は省略するが、実施例ではスプール回転角が7°の時、変形量Dが0.25mmとなる。さらにスプール10が回転し、隣り合う凹部61の第一頂部64から突出部44が凹部61に落ち込んで0°となったとき(第二面63に突出部44の一部が当たった時)クリック音が発せられる。
【0048】
以上説明した本実施形態によれば、凹部61の距離L2が距離L1よりも長いため、Q方向側となる第二面63から第二頂部65に至るまでにクリック爪バネ42の突出部44がスムーズに移動する。換言すると、スプール回転角に対する突出部44の径外方向の移動距離が、比較例に比べて短くなりクリック爪バネ42の変形量も小さくなる。これにより、ドラグ作動時の抵抗を小さくすることができる。
【0049】
また、第一面62側で径外方向に深さを設けることで発音に必要な音響空間(凹部61と突出部44とで囲まれる空間)を確保することができる。これにより、ドラグ作動時の抵抗を小さくしつつ、精密感のある良好な音を発することができる。また、第二面63側でクリック爪バネ42の突出部44がスムーズに移動するため、各摺動部の摩耗、特に、第二面63及び第二頂部65の摩耗を防ぐことができる。これにより、ラチェット溝24の摩耗を防ぎつつ、発音性の低下を防ぐことができる。
【0050】
また、第二面63は曲面でもよいが、傾斜面とすることで、第二面63から第二頂部65に至るまでにクリック爪バネ42の突出部44をよりスムーズに移動させることができる。
【0051】
また、径外方向に突出する突出部44を有するクリック爪バネ42を有することで、ラチェット溝24と係合し易くなり、発音性をより高めることができる。また、距離L1,L2を満たすことを前提に、第一面62の曲率半径や第二面63の傾斜角度は適宜設定することができる。これにより、ラチェット溝24のピッチ数(凹部61の数)などは従来と同じように設計することができ、発音性や主要なドラグ性能は従前と同じようにすることができる。
【0052】
また、本実施形態のように、大径化が可能なスプール10の後部のスペースを利用して発音体20を設けることで、ラチェット溝24のピッチ数を多くすることができる。これにより、スプール10の回転に伴う発音ピッチも細かくでき、精密感のある発音が可能となる。
【0053】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、スプール本体11と発音体20は一体でもよいし、別体でもよい。発音体20は、スプール本体11の内周面であれば、他の部位に設けてもよい。また、第一面62と第二面63の境(仮想線67参照)は、前記した本実施形態では最深部66よりもQ方向側に設定したが、最深部66と重なる位置でもよいし、最深部66よりもP方向側に設定してもよい。
【符号の説明】
【0054】
8 スプール軸
10 スプール
11 スプール本体
20 発音体
24 ラチェット溝
51 凸部
61 凹部
62 第一面
63 第二面
64 第一頂部
65 第二頂部
66 最深部
L1 距離
L2 距離
R1 魚釣用スピニングリール