(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080475
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】インキおよび単位量物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20230602BHJP
【FI】
C09D11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193841
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 知明
(72)【発明者】
【氏名】丸島 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】小田 奈央
(72)【発明者】
【氏名】深澤 宏太
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD06
4J039BD04
4J039EA21
4J039EA44
4J039GA26
4J039GA28
(57)【要約】
【課題】容易に調色可能なインキおよび単位量物を提供する。
【解決手段】インキ組成物と、前記インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する可溶性フィルムと、を含むインキ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ組成物と、前記インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する可溶性フィルムと、
を含むインキ。
【請求項2】
前記インキ組成物は、
それぞれが可視光領域に最大吸収波長を有し、かつ互いに色の異なる第1インキ組成物、第2インキ組成物、および第3インキ組成物であり、
前記第1インキ組成物の最大吸収波長と前記第2インキ組成物の最大吸収波長との差が100nm以上であり、
前記第2インキ組成物の最大吸収波長と前記第3インキ組成物の最大吸収波長との差が100nm以上である、
請求項1に記載のインキ。
【請求項3】
前記可溶性フィルムは、互いに異なる色の前記インキ組成物を包含してなる、
請求項1または請求項2に記載のインキ。
【請求項4】
前記可溶性フィルムは、水溶性フィルムであり、
前記インキ組成物は、水溶性インキ組成物である、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載のインキ。
【請求項5】
前記可溶性フィルムは、ポリビニルアルコールを主成分としてなる、
請求項4に記載のインキ。
【請求項6】
前記インキ組成物は、筆記具用インキ組成物である、
請求項1~請求項5の何れか1項に記載のインキ。
【請求項7】
インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を単位量ごとに個別に包含してなる可溶性フィルム、からなる単位量物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキおよび単位量物に関する。
【背景技術】
【0002】
万年筆やマーカー類等の筆記具に用いられる複数色のインキ組成物を混合することで、ユーザの所望の色調のインキを調色することが行われている(例えば、特許文献1参照)。また、粉末状の描画材料または固形水彩絵具組成物と水とを、筆などを用いて混ぜることで調色することが行われている(例えば、特許文献2~5等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-10823号公報
【特許文献2】特開2000-281955号公報
【特許文献3】特許6947376号公報
【特許文献4】特開昭55-160066号公報
【特許文献5】特開昭52-038776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来技術では、所望の量のインキ組成物を水等の溶剤または他の色のインキ組成物と混合することで調色した調色インキとして使用するには、ユーザは目分量や筆の接触度合いなどを調整して調色する必要があり、容易に調色することは困難であった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、容易に調色可能なインキおよび単位量物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の本発明によって達成される。
【0007】
即ち、本発明は、上記課題を解決するために
「1.インキ組成物と、前記インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する可溶性フィルムと、を含むインキ。
2.前記インキ組成物は、それぞれが可視光領域に最大吸収波長を有し、かつ互いに色の異なる第1インキ組成物、第2インキ組成物、および第3インキ組成物であり、前記第1インキ組成物の最大吸収波長と前記第2インキ組成物の最大吸収波長との差が100nm以上であり、前記第2インキ組成物の最大吸収波長と前記第3インキ組成物の最大吸収波長との差が100nm以上である、第1項に記載のインキ。
3.前記可溶性フィルムは、互いに異なる色の前記インキ組成物を包含してなる、第1項または第2項に記載のインキ。
4.前記可溶性フィルムは、水溶性フィルムであり、前記インキ組成物は、水溶性インキ組成物である、第1項~第3項の何れか1項に記載のインキ。
5.前記可溶性フィルムは、ポリビニルアルコールを主成分としてなる、第4項に記載のインキ。
6.前記インキ組成物は、筆記具用インキ組成物である、第1項~第5項の何れか1項に記載のインキ。
7.インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を単位量ごとに個別に包含してなる可溶性フィルム、からなる単位量物。」とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、容易に調色可能なインキを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例のインキ組成物の吸収波長の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、および「比」等は、特に基準を示さない限り質量基準である。
【0011】
本実施形態のインキは、インキ組成物と、インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する可溶性フィルムと、を含む。
【0012】
可溶性フィルムは、インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する。可溶性フィルムは、例えば、インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を、単位量ごとに個別の単位量物として包含する。
【0013】
本実施形態のインキは、インキ組成物と、インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する可溶性フィルムと、を含む。このため、ユーザは、インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含した可溶性フィルムによってなる単位量物を、所望の個数調色に用いることで、所望の色への調色を容易に行うことができる。
【0014】
なお、本実施形態では、調色とは、インキ組成物を使用可能な状態の調色インキとすることを意味する。使用可能な状態とは、布等の対象物の染色や筆記具による筆記に適用することの可能な状態を意味する。具体的には、本実施形態では、調色とは、1または複数色のインキ組成物の各々の調色に用いる量の調整、および、インキ組成物に含まれる複数の成分の各々の調色に用いる量の調整、の少なくとも一方による調色インクの調整を意味する。
【0015】
また、本実施形態では、調色されたインキを、調色インキと称して説明する。
【0016】
<インキ組成物>
本実施形態のインキに含まれるインキ組成物について詳細に説明する。
【0017】
本実施形態のインキに含まれるインキ組成物は、単色のインキ組成物、および互いに色の異なる複数色のインキ組成物、の何れであってもよい。
【0018】
インキに含まれるインキ組成物が互いに色の異なる複数色のインキ組成物である場合、インキ組成物は、それぞれが可視光領域に最大吸収波長を有し、かつ互いに色の異なる第1インキ組成物、第2インキ組成物、および第3インキ組成物であることが好ましい。これらの第1インキ組成物、第2インキ組成物、および第3インキ組成物の最大吸収波長の差は、以下の関係を満たすことが好ましい。
【0019】
第1インキ組成物の最大吸収波長と第2インキ組成物の最大吸収波長との差は、100nm以上であり、第2インキ組成物の最大吸収波長と第3インキ組成物の最大吸収波長との差が100nm以上であることが好ましい。
【0020】
可視光領域とは、人の目により視認可能な光の波長範囲の領域である。JIS Z8120の定義によれば、可視光領域の下限は360nm以上400nm以下の範囲であり、上限は760nm以上830nm以下の範囲である。
【0021】
インキに含まれる複数色のインキ組成物の最大吸収波長の差が上記関係を満たすと、第1インキ組成物と第2インキ組成物、および第2インキ組成物と第3インキ組成物、の少なくとも一方の最大吸収波長の差が100nm未満である場合に比べて、可視光領域における調整可能な色調の範囲を広げることができる。
【0022】
このため、インキに含まれる複数色のインキ組成物の最大吸収波長の差が上記関係を満たすと、第1インキ組成物、第2インキ組成物、および第3インキ組成物を任意の混合比で混合することで、幅広い色調のインキを調色することができる。
【0023】
第1インキ組成物の最大吸収波長と第2インキ組成物の最大吸収波長との差、および第2インキ組成物の最大吸収波長と第3インキ組成物の最大吸収波長との差、の各々の上限値は限定されない。これらの上限値は、可視光領域の波長の下限値と上限値との差以下であればよい。
【0024】
可視光領域において、良好に幅広い色調の調整を図ることを考慮すると、第1インキ組成物の最大吸収波長と第2インキ組成物の最大吸収波長との差、および第2インキ組成物の最大吸収波長と第3インキ組成物の最大吸収波長との差は、180nm以下であることが好ましく、160nm以下であることがより好ましく、155nm以下であることがさらに好ましい。
【0025】
上述したように、第1インキ組成物、第2インキ組成物、および第3インキ組成物は、それぞれが可視光領域に最大吸収波長を有し、最大吸収波長の差が上記関係を満たし、かつ互いに色の異なるインキ組成物であることが好ましい。本実施形態では、第1インキ組成物がシアン色のインキ組成物であり、第2インキ組成物がマゼンタ色のインキ組成物であり、第3インキ組成物がイエロー色のインキ組成物である形態を一例として説明する。
【0026】
また、インキに含まれるインキ組成物が互いに色の異なる複数色のインキ組成物である場合、インキ組成物は、透明色の第4インキ組成物を更に備えることが好ましい。透明色の第4インキ組成物を更に備えることで、調色インキの濃度や明度を容易に調整することが可能となる。
【0027】
また、インキに含まれるインキ組成物が互いに色の異なる複数色のインキ組成物である場合、インキ組成物は、第5インキ組成物を更に備えることが好ましい。第5インキ組成物は、第1インキ組成物、第2インキ組成物、および第3インキ組成物のいずれか2つの最大吸収波長の間に最大吸収波長を有するインキ組成物である。
【0028】
本実施形態では、第5インキ組成物が、シアン色の第1インキ組成物の最大吸収波長とマゼンタ色の第2インキ組成物の最大吸収波長との間に最大吸収波長を有するインキ組成物である場合を一例として説明する。具体的には、本実施形態では、第5インキ組成物が、ブラック色のインキ組成物である形態を一例として説明する。
【0029】
ブラック色の第5インキ組成物を更に備えることで、調色インキの彩度を容易に調整することが可能となる。
【0030】
なお、以下では、第1インキ組成物をシアン色のインキ組成物、第2インキ組成物をマゼンタ色のインキ組成物、第3インキ組成物をイエロー色のインキ組成物、と称して説明する場合がある。また、第4インキ組成物を透明色のインキ組成物と称し、第5インキ組成物をブラック色のインキ組成物と称して説明する場合がある。また、第1インキ組成物、第2インキ組成物、第3インキ組成物、第4インキ組成物、および第5インキ組成物を総称して説明する場合には、単に、インキ組成物と称して説明する場合がある。
【0031】
また、色調調整を良化し、混色時の発色鮮明性に優れた調色インキを得ることを考慮すると、シアン色のインキ組成物の最大吸収波長は、610nm以上750nm以下であることが好ましく、マゼンタ色のインキ組成物の最大吸収波長は500nm以上560nm以下であることが好ましく、イエロー色のインキ組成物の最大吸収波長は400nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0032】
さらには、幅広い色調の調整の良化を考慮すると、シアン色のインキ組成物の最大吸収波長は、650nm以上700nm以下であることが特に好ましく、マゼンタ色のインキ組成物の最大吸収波長は、500nm以上530nm以下であることが特に好ましく、イエロー色のインキ組成物の最大吸収波長は、420nm以上450nm以下であることが特に好ましい。
【0033】
(インキ組成物)
インキ組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0034】
インキ組成物は、着色剤と、媒体と、を含む。なお、透明色のインキ組成物は、着色剤を含まない形態であってよい。
【0035】
(着色剤)
本実施形態のインキ組成物に含まれる着色剤について説明する。インキ組成物に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。
【0036】
染料としては、水性媒体に溶解もしくは分散可能であれば特に制限されるものではない。染料としては、例えば、酸性染料、塩基性染料、反応性染料、直接染料、分散染料および食用色素等の各種の染料が挙げられる。これらの染料は、単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。染料の含有量は、インキ組成物の総質量に対して、0.1質量%以上80質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上40質量%以下であることが特に好ましい。
【0037】
酸性染料としては、例えば、C.I.アシッドレッド18、C.I.アシッドオレンジ10、C.I.アシッドイエロー3、C.I.アシッドイエロー7、C.I.アシッドイエロー23(タートラジン)、C.I.アシッドイエロー42、C.I.アシッドグリーン3、C.I.アシッドグリーン16、C.I.アシッドブルー1、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー22、C.I.アシッドブルー90、C.I.アシッドブルー239、C.I.アシッドブルー248、C.I.アシッドバオレット15、C.I.アシッドバイオレット49、C.I.アシッドブラック1、C.I.アシッドブラック2、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドレッド289、C.I.アシッドレッド388、C.I.アシッドレッド87(エオシン)、C.I.アシッドレッド92(フロキシン)、C.I.アシッドレッド97、C.I.アシッドレッド51(エリスロシン)、C.I.アシッドレッド94(ローズベンガル)、アクリジンレッド(C.I.45000)、ローダミン110、ローダミン123、ローダミン6G(C.I.ベーシックレッド1)、ローダミン6Gエキストラ、ローダミン116、ローダミンB(C.I.45170)、テトラメチルローダミン過塩素酸塩、ローダミン3B、ローダミン19、スルホローダミン、ピロニンG(C.I.45005)、ローダミンS(C.I.45050)、ローダミンG(C.I.45150)、エチルローダミンB(C.I.45175)、ローダミン4G(C.I.45166)、ローダミン3GO(C.I.45215)、スルホローダミンG等が挙げられる。
【0038】
塩基性染料としては、例えば、C.I.ベーシックオレンジ2、C.I.ベーシックオレンジ14、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックブルー9、C.I.ベーシックブルー26、C.I.ベーシックバイオレット1、C.I.ベーシックバイオレット3、C.I.ベーシックバイオレット10、クリソイジン(C.I.11270)、メチルバイオレットFN(C.I.42535)、クリスタルバイオレット(C.I.42555)、マラカイトグリーン(C.I.42000)、ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、アクリジンオレンジNS(C.I.46005)、メチレンブルーB(C.I.52015)等が挙げられる。
【0039】
直接染料としては、例えば、C.I.ダイレクトレッド28、C.I.ダイレクトイエロー44、C.I.ダイレクトブルー86、C.I.ダイレクトブルー87、C.I.ダイレクトバイオレット51、C.I.ダイレクトブラック19等が挙げられる。
【0040】
食用色素としては、例えば、C.I.フードイエロー3、C.I.フードブラック2、コンゴーレッド(C.I.22120)、ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、バイオレットBB(C.I.27905)、ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、ダイレクトファストブラックG(C.I.35255)、フタロシアニンブルー(C.I.74180)等が挙げられる。
【0041】
顔料としては、例えば、無機、有機、加工顔料等が挙げられる。具体的には、顔料としては、カーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料等が挙げられる。その他、顔料として、マイクロカプセル顔料を用いてもよい。マイクロカプセル顔料は、顔料を媒体中に分散させてなる着色体を公知のマイクロカプセル化法等により樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包又は固溶化させたものである。更に、顔料としては、顔料を透明または半透明の樹脂等で覆った着色樹脂粒子や、無色樹脂粒子を顔料もしくは染料で着色したもの等を用いることもできる。
【0042】
なお、これらの顔料は、単独または2種以上組み合わせて使用してよい。顔料の含有量は、インキ組成物の全質量に対して、0.1質量%以上80質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上40質量%以下であることが特に好ましい。また、染料と顔料を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
(媒体)
次に、インキ組成物に含まれる媒体について説明する。本実施形態のインキに含まれるインキ組成物は、水溶性インキ組成物、油溶性インキ組成物、の何れであってもよい。
【0044】
(水性媒体)
水溶性インキ組成物は、媒体として水性媒体を含んでいてよい。
【0045】
水性媒体は、少なくとも水、または、水溶性有機溶剤と、を含む。
【0046】
水は特に限定されるものではなく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水等を例示できる。
【0047】
インキ組成物の全質量に対する水の含有量は、より少ない事が好ましい。例えば、インキ組成物の全質量に対する水の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0048】
インキ組成物の全質量に対する水の含有量を上記範囲とすることで、可溶性フィルムとして水溶性フィルムを用いた場合、フィルム安定性の向上を図ることができる。また、インキ組成物の水の含有量を抑制することで、インキ組成物に含まれる防腐剤の含有量を抑制することができ、皮膚感作性抑制等の安全性の向上を図ることができる。
【0049】
水溶性有機溶剤としては、例えば、(i)エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの2価アルコール、またはグリセリン等の3価のアルコール、などの多価アルコール類、(ii)メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール類、および(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシブタノール、または3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル類等が挙げられる。
【0050】
水溶性有機溶剤の含有量は、インキ組成物の全質量に対して、0.1質量%以上80質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上40質量%以下であることが特に好ましい。
【0051】
(油性媒体)
油溶性インキ組成物は、媒体として油性媒体を含んでいてよい。
【0052】
油性媒体としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤(脂肪族アルコール、芳香族アルコールなど)、ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素溶剤などの有機溶剤などが挙げられ、これらは1種で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
(その他の添加剤)
本実施形態のインキ組成物に含まれる媒体は、インキ物性や機能を向上させる目的で、pH調整剤、保湿剤、界面活性剤、樹脂、防腐剤、防錆剤、キレート剤、香料等の各種の添加剤を含んでもよい。
【0054】
pH調整剤としては、例えば、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等の塩基性無機化合物、酢酸ナトリウム、トリエタノールアミンやジエタノールアミン等のアルカノールアミンなどの水溶性の塩基性有機化合物、乳酸およびクエン酸、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどのエチレンオキシドを有するアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミンや、ジステアリルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン等のジメチルアルキルアミン等の脂肪族アミン等が挙げられる。
【0055】
pH調整剤の含有量は、インキ組成物の全質量に対して、0.1質量%以上80質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上40質量%以下であることが特に好ましい。
【0056】
保湿剤としては、例えば、尿素、ソルビット等が挙げられる。保湿剤の含有量は、インキ組成物の全質量に対して0.1質量%以上80質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。
【0057】
界面活性剤としては、インキに用いられる公知の界面活性剤を用いる事ができる。例えば、ポリオキシアルキレン系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0058】
本実施形態においては、界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン系界面活性剤およびアセチレン系界面活性剤の少なくとも一方を用いることが好ましい。
【0059】
ポリオキシアルキレン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等が挙げられる。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルは、下記一般式(1)で表される化合物であり、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとが任意の配列で重合した構造を持つコポリマーである。また、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールは、一般式(1)の式中のRがHの化合物である。
【0060】
【0061】
一般式(1)中、Rはアルキル基またはHを示し、mおよびnはそれぞれ独立して1以上40以下の整数を示す。
【0062】
アセチレン系界面活性剤としては、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤などが挙げられ、具体的には、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールおよび2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキシド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールおよび2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0063】
界面活性剤としては、調色インキのボタ落ち、滲み、および裏抜けの抑制の観点から、上記界面活性剤の内、ポリオキシアルキレン系界面活性剤を用いることが好ましく、さらには、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを用いる事がより好ましい。
【0064】
さらには、下記一般式(2)である、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを用いる事が特に好ましい。
【0065】
【0066】
一般式(2)中、a、bおよびcは、それぞれ正数を示す。
【0067】
また、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの平均分子量は、100以上100,000以下であることが好ましく、1,000以上50,000以下であることがより好ましく、5,000以上30,000以下であることがさらに好ましく、10,000以上15,000以下であることが特に好ましい。
【0068】
なお、ボタ落ちとは、調色インキを用いて筆記するペンのペン先を鉛直下向き状態にした場合、非筆記時であっても、大気圧の変化による調色インキの溢れ出し、または衝撃や振動による調色インキの漏れ出し、が生じる現象をいう。なお、以下では、鉛直下向きを、単に、下向きと称して説明する場合がある。着色剤を含まないインキ組成物である透明色のインキ組成物は、特にボタ落ちが発生しやすい傾向にある。このため、透明色のインキ組成物は、特に、界面活性剤としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを含むことが好ましい。
【0069】
界面活性剤の含有量は、インキ組成物の全質量に対して0.001質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.005質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0070】
防腐剤としては、例えば、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3オン、N-(n-ブチル)-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバマート、安息香酸ナトリウム、ベンゾトリアゾールおよびフェノール等が挙げられる。以下、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンをBITと表記する場合がある。
【0071】
防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素等が挙げられる。また、水溶性樹脂として、アクリル系樹脂、アルキッド樹脂、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等を用いることができる。さらに、樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等含むエマルジョンを添加することができる。
【0072】
さらには、インキ組成物の浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン、アニオン、カチオン系界面活性剤、ジメチルポリシロキサン等の消泡剤を添加することもできる。
【0073】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩またはアミン塩等が挙げられる。
【0074】
アルカリ成分の十分な補足、およびインキ組成物のキレート剤の配合前後の物性や性能に変化を与えにくいことなどを考慮すると、キレート剤の中でも、アミノカルボン酸およびその塩を用いることが好ましく、より考慮すれば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびその塩を用いることが好ましい。
【0075】
イエロー色の着色剤を含むインキ組成物は、用いる着色剤によっては、混合時のインキがくすんでしまうなど、混合時のインキ発色鮮明性に課題が生じたり、また、花咲き現象が生じやすい傾向がある。花咲き現象とは、水分の蒸発によってインキ組成物中の着色剤などの固形成分が筆記具のペン先に析出する現象である。
【0076】
そこで、上述した着色剤のうち、イエロー色のインキ組成物に含まれる着色剤としては、混合時のインキ発色鮮明性の向上の観点から、C.I.アシッドイエロー23(タートラジン)を用いる事が好ましい。
【0077】
また、インキ組成物に含まれる媒体は、花咲き現象の抑制の観点から、多価アルコールおよびアルカノールアミンを含むことが好ましい。また、花咲き現象の更なる抑制効果を考慮すると、インキ組成物に含まれる媒体は、尿素を更に含むことが好ましい。
【0078】
また、花咲き現象の抑制の観点から、多価アルコールについては、グリセリンを用いることが好ましい。さらには、シアン色のインキ組成物、マゼンタ色のインキ組成物、およびイエロー色のインキ組成物の全てのインキ組成物における経時安定性を良好にし、かつ混色時の調色インキのインキ安定性も考慮すると、多価アルコールは、グリセリンとジエチレングリコールを含んでなることが特に好ましい。
【0079】
また、アルカノールアミンは、アルカン骨格にヒドロキシ基とアミノ基をもつ化合物である。本実施形態においては、下記式(3)で表されるアルカノールアミンを用いることが好ましい。
【0080】
【0081】
式(3)中、R1はエチレン基、トリメチレン基、またはプロピレン基を示し、R2およびR3は、それぞれ独立に水素、メチル基、エチル基、または-R1-OH基を示す。
【0082】
このようなアルカノールアミンの具体例として、例えば、メチルエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モノエタノールアミン、プロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等を挙げることができる。
【0083】
本実施形態においては、調色インキの経時安定性、および花咲き現象の抑制を考慮すると、上記アルカノールアミンの中でも、弱塩基性であるトリエタノールアミンを用いることが好ましい。
【0084】
よって、インキ組成物に含まれる媒体は、花咲き現象の抑制、およびインキ組成物および調色インキの経時安定性を考慮すると、グリセリン、トリエタノールアミン、および尿素を含んでなることが特に好ましく、さらには、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエタノールアミン、および尿素を含んでなることが最も好ましい。
【0085】
なお、インキに含まれるインキ組成物が互いに色の異なる複数色のインキ組成物である場合、複数色のインキ組成物の各々の着色剤の含有量の差は、0質量%以上1.0質量%未満であることが好ましい。また、この含有量の差は、0質量%以上0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%以上0.1質量%以下であることが特に好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
【0086】
複数色のインキ組成物の各々の着色剤の含有量の差が上記範囲内であると、複数のインキ組成物間における着色剤の溶解状態または分散状態が略同一となる。このため、複数色のインキ組成物を混合して調色する際に、着色剤の濃度変化が起こりにくくなるため、着色剤同士の凝集や析出を抑制することができ、調色インキのインキ安定性の向上を図ることができる。
【0087】
また、複数色のインキ組成物に含まれる媒体の構成成分は、構成成分の種類が同一であることが好ましい。構成成分とは、着色剤の種類、溶剤の種類、pH調整剤の種類、界面活性剤の種類などを意味する。複数色のインキ組成物に含まれる媒体の構成成分を同一とすることで、複数色のインキ組成物を混合して調色する際に、媒体の構成成分の濃度変化が起こりにくくなるため、着色剤同士の凝集や析出を抑制することができ、調色インキのインキ安定性の向上を図ることができる。
【0088】
(インキ組成物の製造方法)
本実施形態のインキに含まれるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。例えば、上記各成分を必要量配合し、マグネットスターラー、プロペラ攪拌機、ホモジナイザー攪拌機、ホモディスパー、ホモミキサー、または自転公転攪拌機等の各種攪拌機やビーズミル等の各種分散機等にて混合し製造することができる。
【0089】
インキに含まれるインキ組成物が互いに色の異なる複数色のインキ組成物である場合、本実施形態では、添加する着色剤の種類を調整することで、それぞれが可視光領域に最大吸収波長を有し、最大吸収波長の差が前記関係を満たし、かつ互いに色の異なるシアン色のインキ組成物、マゼンタ色のインキ組成物、およびイエロー色のインキ組成物、の各々を製造する。
【0090】
また、添加する着色剤の種類を調整することで、最大吸収波長が前記関係を満たすブラック色のインキ組成物を製造することができる。すなわち、シアン色のインキ組成物、マゼンタ色のインキ組成物、およびイエロー色のインキ組成物のいずれか2つの最大吸収波長の間に最大吸収波長を有するブラック色のインキ組成物を製造することができる。
【0091】
透明色のインキ組成物は、着色剤を含まないインキ組成物として製造すればよい。
【0092】
インキ組成物の最大吸収波長は、以下の方法により測定される。具体的には、最大吸収波長は、株式会社島津製作所製の紫外可視分光光度計UV-2550を用いて、インキ組成物をイオン交換水で100,000倍に希釈した溶液を光路長10mmの石英セルに装填し、波長範囲400nm以上900nm以下、スキャンスピード中速、サンプリングピッチ2.0nmの条件により吸収波長を測定する。そして、測定結果から最大吸収波長を特定する。
【0093】
(可溶性フィルム)
可溶性フィルムについて説明する。
【0094】
可溶性フィルムは、溶剤に溶解可能なフィルムであればよい。詳細には、可溶性フィルムは、水溶性フィルム、または油溶性フィルムである。包含するインキ組成物が水溶性インキ組成物である場合には、可溶性フィルムには水溶性フィルムを用いる事が好ましい。また、包含するインキ組成物が油溶性インキ組成物である場合には、可溶性フィルムには油溶性フィルムを用いる事が好ましい。
【0095】
可溶性フィルムの厚みは、可溶性フィルムによって包含された成分が常温環境下で可溶性フィルムの外部へ流出しない厚みであればよく、包含する成分の種類、包含する成分の量、可溶性フィルムの成分、などに応じて調整すればよい。例えば、可溶性フィルムの厚みは、10μm以上200μm以下、20μm以上150μm以下、35μm以上125μm以下等の範囲であることが好ましい。
【0096】
(水溶性フィルム)
水溶性フィルムは、水に溶解する材料であればよい。水溶性フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレンオキシド、アクリルアミド、アクリル酸、セルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、セルロースアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリカルボン酸および塩、ポリアミノ酸またはペプチド、ポリアミド、ポリアクリルアミド、マレイン酸/アクリル酸のコポリマー、プルラン、デンプンおよびゼラチンを含む多糖類、キサンタンおよびカラゴムなどの天然ゴムから選択される少なくとも1種以上である。
【0097】
水溶性フィルムは、好ましくは、ポリアクリレート及び水溶性アクリレートコポリマー、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストリン、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マルトデキストリン、ポリメタクリレートから選択される少なくとも1種以上である。水溶性フィルムは、更に好ましくは、ポリビニルアルコール、プルラン、ポリビニルアルコールコポリマー及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、更に好ましくは、ポリビニルアルコール、プルラン、並びにこれらの組み合わせから選択される。
【0098】
特に好ましくは、水溶性フィルムは、ポリビニルアルコールを主成分とすることが好ましい。主成分であるとは、上記と同様に、水溶性フィルムの全重量に対するポリビニルアルコールの含有量が50重量%以上であることを意味する。
【0099】
ポリビニルアルコールは、生分解性およびガスバリア性を有する。このため、ポリビニルアルコールを主成分とした水溶性フィルムを用いることで、環境保護、および、可溶性フィルムによって包含されたインキ組成物または少なくとも一部の成分の酸化抑制を図ることができる。
【0100】
水溶性フィルムに用いられるポリビニルアルコールとしては、一般的なポリビニルアルコールに加え、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール等の各種変性ポリビニルアルコールを利用することも可能である。ポリビニルアルコールは1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0101】
水溶性フィルムに含まれる樹脂の分子量は限定されない。例えば、水溶性フィルムがポリビニルアルコールを主成分とする場合、ポリビニルアルコールの重量平均分子量は、1,000以上1,000,000以下、10,000以上300,000以下、20,000以上150,000以下、の範囲等が挙げられる。
【0102】
水溶性フィルムは、常温の水に対して、5分以内に溶解性を示すことが好ましい。溶解性は、常温の水が入った容器の中に水溶性フィルムを投入し、撹拌しながら形状が変化するまでの時間を測定すればよい。常温の水は、調色インキの調色の際に用いられる溶剤の一例である。
【0103】
水溶性フィルムの水への溶解性は、ポリビニルアルコールを主成分とする場合には、ポリ酢酸ビニルの加水分解により得られるポリビニルアルコールの加水分解度、または、架橋剤の使用、あるいは、部分ケン化(ケン化度87%~89%)等により調整される。
【0104】
水溶性フィルムの溶剤である水は特に限定されるものではなく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水等を例示できる。
【0105】
(油溶性フィルム)
油溶性フィルムは、油成分に溶解する材料であればよい。油溶性フィルムとしては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂/ケトン樹脂/フェノール樹脂/ポリビニルピロリドン/ビニルアセテート、アクリレート、アクリレート/シリコーンコポリマー、ポリブテン、ポリエチレン、ポリウレタン-14、AMP-アクリレートコポリマー、オクチルアクリルアミド/アクリレートコポリマー、ポリクオタニウム-11、ビニルカプロラクタム/ビニルピロリドン及びメチルアクリルアミドのターポリマー等の少なくとも一つが挙げられる。
【0106】
油溶性フィルムは、調色インキの調色の際に用いられる溶剤に対して、5分以内に溶解性を示すことが好ましい。溶解性は、常温の溶剤が入った容器の中に油溶性フィルムを投入し、撹拌しながら形状が変化するまでの時間を測定すればよい。
【0107】
油溶性フィルムの溶剤である油成分は特に限定されるものではなく、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤(脂肪族アルコール、芳香族アルコールなど)、ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素溶剤などの有機溶剤が例示できる。これらの中でも、安全性、油溶性フィルムとの安定性の観点から脂肪族アルコールを用いる事が好ましく、より好ましくは、低級脂肪族アルコール(炭素数1以上4以下)を用いる事が好ましい。
【0108】
(添加剤)
可溶性フィルムには、1以上の添加剤成分を含有させてもよい。例えば、グリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、及びこれらの混合物などの可塑剤が挙げられる。
【0109】
また、可溶性フィルムは、嫌悪剤を更に含んでよい。嫌悪剤は、可溶性フィルムの表面、可溶性フィルム内、または可溶性フィルムに包含されたインキ組成物またはインキ組成物に含まれる成分内、の何れか1つに含まれていればよい。
【0110】
嫌悪剤とは、口に入れたとき、又は摂取したときに不快な味をもたらす任意の化合物を意味する。不快な味には、苦味、辛味、薬味、不快臭、酸味、冷感、又はこれらの組み合わせが挙げられる。嫌悪剤は、苦味剤であってよい。好ましくは、嫌悪剤は、人体に安全であり、かつ、上記不快な味をもたらす任意の化合物であればよい。
【0111】
嫌悪剤は、例えば、ナリンギン、オクタアセチルスクロース、塩酸キニーネ、安息香酸デナトニウム、カプサイシノイド(capsicinoids)(カプサイシンなど)、バニリルエチルエーテル、バニリルプロピルエーテル、バニリルブチルエーテル、バニリンプロピレン、グリコールアセタール、エチルバニリンプロピレングリコールアセタール、カプサイシン、ジンジェロール、4-(1-メントキシメチル)-2-(3’-メトキシ-4’-ヒドロキシ-フェニル)-1,3-ジオキソラン、ペッパー油、ペッパーオレオレジン、ジンジャーオレオレジン、ノニル酸バニリルアミド、ジャンブーオレオレジン、サンショウ皮抽出物、サンショオール、サンショアミド、ブラックペッパー抽出物、シャビシン、ピペリン、スピラントール、及びこれらの混合物からなる群から選択されてよい。
【0112】
可溶性フィルムは、透明、不透明、半透明、の何れであってもよい。また、可溶性フィルムは、着色されていてもよい。また、可溶性フィルムは、印刷領域を含んでいてよい。例えば、可溶性フィルムは、包含したインキ組成物または包含したインキ組成物に含まれる成分の識別情報などを印刷した印刷領域を含んでいてよい。
【0113】
可溶性フィルムは、任意の熱成型または可塑化技術によりフィルム状に成型すればよい。
【0114】
(インキ)(単位量物)
本実施形態のインキは、インキ組成物と、インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する可溶性フィルムと、を含む。
【0115】
本実施形態のインキは、インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を単位量ごとに包含した可溶性フィルムからなる1の単位量物または複数の単位量物の群として提供される。
【0116】
単位量物は、インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を、可溶性フィルムによって予め定められた単位量ごとに個別に包含してなる物体である。
【0117】
詳細には、例えば、単位量物は、互いに色の異なる複数色のインキ組成物の各々を、予め定めた単位量ごとに個別に包含して成る。
【0118】
例えば、インキ組成物が、シアン色のインキ組成物、マゼンタ色のインキ組成物、およびイエロー色のインキ組成物、である場合を想定する。この場合、単位量物は、シアン色のインキ組成物、マゼンタ色のインキ組成物、およびイエロー色のインキ組成物、の各々を、予め定めた単位量ごとに個別に包含して成る物体であればよい。また、インキ組成物が、シアン色のインキ組成物、マゼンタ色のインキ組成物、イエロー色のインキ組成物、ブラック色のインキ組成物、および透明色のインキ組成物である場合を想定する。この場合、単位量物は、シアン色のインキ組成物、マゼンタ色のインキ組成物、イエロー色のインキ組成物、ブラック色のインキ組成物、および透明色のインキ組成物の各々を、予め定めた単位量ごとに個別に包含して成る物体であればよい。
【0119】
また、単位量物は、インキ組成物に含まれる成分を、予め定めた分類条件に沿って複数のグループに分類したグループごとに、予め定めた単位量の成分を個別に包含して成る構成であってもよい。分類条件は、予め定めればよい。
【0120】
例えば、着色剤に属する成分と着色剤以外に属する成分とを分類条件としてもよい。この場合、単位量物は、インキ組成物に含まれる着色剤と、インキ組成物に含まれる着色剤以外の成分と、を異なるグループとし、グループごとに予め定めた単位量の成分を個別に包含して成る構成であってもよい。
【0121】
また、例えば、共存した状態となると不安定となる成分が異なる単位量物となることを分類条件としてもよい。この場合、単位量物は、インキ組成物に含まれる複数の成分を、共存した状態でも安定して存在する成分の群ごとに包含した単位量物とすればよい。言い換えると、この場合、単位量物は、インキ組成物に含まれる複数の成分を、共存した状態となると不安定となる成分を異なる単位量物として可溶性フィルムによって別々に包含して成る構成とすればよい。
【0122】
また、例えば、同じ機能を有する成分を分類条件としてもよい。この場合、単位量物は、インキ組成物に含まれる複数の成分を同じ機能を有する成分の群ごとに複数のグループ分類し、グループごとに予め定めた単位量の成分を個別に包含した構成とすればよい。具体的には、例えば、調色インキの速乾性を付与するための乾燥を促す機能を有するビヒクルと、調色インキの滲みや裏抜けの抑制機能を有するビヒクルと、を別々の単位量物として可溶性フィルムによって個別に包含した構成とすればよい。
【0123】
単位量物を、インキ組成物、またはインキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を可溶性フィルムによって予め定められた単位量ごとに個別に包含してなる物体とすることで、以下の効果が得られる。
【0124】
本実施形態では、インキに含まれるインキ組成物またはインキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分は、可溶性フィルムによって包含された別々の単位量物として存在する。
【0125】
そして、これらの単位量物は、調色時に混合されることで調色インキに調整される。すなわち、可溶性フィルムによって包含されたインキ組成物またはインキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分は、調色前には別々の単位量物として存在し、調色時に初めて混合される。このため、単位量物として存在する可溶性フィルムによって包含されたインキ組成物およびインキ組成物の少なくとも一部の成分の経時安定性および析出抑制などの安定性向上を図ることができる。
【0126】
また、インキに含まれるインキ組成物またはインキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分は、可溶性フィルムによって包含された別々の単位量物として存在するため、インキ組成物を収容する容器の削減、輸送コスト削減、および、CO2排出量等のエネルギー削減を図ることができる。
【0127】
また、単位量物を、ガラス瓶などのインキ収容器に収容する場合であっても、以下の効果が得られる。ガラス瓶は、安価で成形が容易であり、かつ所望の強度が得られやすい。その反面、ガラス瓶として特に廉価で汎用性の高いソーダ石灰ガラスなどを用いた場合には、インキ組成物を長期間収容することで、インキ組成物中にガラス中のアルカリ成分が溶出する可能性が高い。この溶出したアルカリ成分と水溶性インキ組成物の成分とが反応し、析出物が形成される可能性がある。このため、この析出物により、調色インキの筆跡のかすれや、筆記不能等が生じる場合がある。
【0128】
一方、本実施形態では、インキ組成物またはインキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分は、可溶性フィルムによって包含された単位量物の状態でインキ収容器に収容される。このため、本実施形態のインキに含まれるインキ組成物は、調色前の段階では、インキ収容器に直接接触することが抑制される。よって、本実施形態のインキは、調色インキの析出物の発生を抑制することができる。
【0129】
可溶性フィルムによって包含されるインキ組成物またはインキ組成物に含まれる成分の単位量は、インキ組成物の種類や調整インキの適用対象等に応じて予め定めればよい。単位量は、例えば、0.1g以上10.0g以下、0.5g以上50.0g以下、1.0g以上100.0g以下等の範囲であるが、これらに限定されない。
【0130】
なお、可溶性フィルムによって包含されるインキ組成物またはインキ組成物に含まれる成分の少なくとも一部は、液体、固体、の何れであってもよい。固体には、例えば、粉体が含まれる。
【0131】
(単位量物の作製方法)
単位量物の作製方法は限定されない。例えば、可溶性フィルムによって上記インキ組成物または成分を単位量毎に公知の方法で包含することで、インキ組成物またはインキ組成物に含まれる成分を単位量毎に包含した単位量物を作製すればよい。
【0132】
可溶性フィルムによるインキ組成物またはインキ組成物に含まれる成分の包含には、例えば、縦型ピロー包装機、ロータリードラム包装機、プリーツ包装機等を用いればよい。
【0133】
(インキセット)
インキセットは、複数色のインキ組成物、および、複数色のインキ組成物の各々に含まれる少なくとも一部の成分、の各々を単位量毎に可溶性フィルムによって包含した複数の単位量物の群によって構成される。
【0134】
(インキ製品)
インキ組成物に含まれる少なくとも一部の成分を包含する可溶性フィルムからなる単位量物を、ガラス等のインキ収容器に収容することで、例えば、インキ製品として提供される。また、単位量物の群を、インキ製品として提供してもよい。
【0135】
また、単位量物の群または単位量物を収容したインキ収容器と、空容器、スポイト、メスシリンダ、および調色見本の少なくとも1つと、をインキ製品としてもよい。空容器は、1または複数の単位量物の混合に用いる空の容器である。スポイトは、単位量物に含まれる可溶性フィルムを溶解する溶剤を吸い上げて空容器等の別の容器等に移動させるときに用いる部材の一例である。メスシリンダは、可溶性フィルムの溶剤の定量に用いる部材の一例である。調色見本は、インキ組成物の混合比と、該混合比を実現するための単位量物の種類および個数と、該混合比によって実現される色と、の対応を示す情報の記載された紙媒体または電子媒体である。
【0136】
ユーザは、本実施形態の単位量物を所望の個数取り出して空容器などに投入し、更に、単位量物に含まれる可溶性フィルムの溶剤である水または油性成分を該空容器に注入し、混合することで、任意の色調の調色インキを調色することができる。
【0137】
また、ユーザは、調色に用いる単位量物の種類および個数の少なくとも一方を調整することで、所望の色調の調色インキを容易に調色することができる。
【0138】
なお、本実施形態の調色インキは、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィー用のペン、つけペン、各種マーカー類等の各種の筆記具用の調色インキとして用いることができる。すなわち、本実施形態のインキ組成物は、筆記具用インキ組成物として用いることができる。また、本実施形態の調色インキは、筆記具に限定されず、布や紙などの各種の染色対象媒体用の着色液としても用いることができる。
【0139】
本実施形態の調色インキの適用対象の一例である筆記具の構造および形状は特に限定されるものではない。
【0140】
例えば、筆記具としては、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップをペン先としたマーキングペンや、ボールペンチップ等をペン先としたボールペン、さらに、金属製のペン先を用いた万年筆等が挙げられる。
【0141】
なお、筆記具は、筆記具本体内部をインキ貯蔵体とし、調色インキを直に充填する構成であってもよい。また、筆記具は、調色インキを充填するインキ貯蔵体を筆記具本体内部に具備した構成であってもよい。
【0142】
インキ貯蔵体としては、筆記具本体やペン芯などに着脱自在に交換可能であり、予め調色インキが充填されたカートリッジ式や、インキ瓶などのようなインキ収容体から調色インキを充填することが可能な吸入機構を備えたインキ吸入式、などが挙げられる。
【0143】
吸入機構は、筆記具本体内に直に設ける構成であってもよく、コンバーターのように筆記具本体やペン芯などに着脱可能に装着する構成であってもよい。
【0144】
また、筆記具は、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式筆記具や、ノック式、回転式およびスライド式等の軸筒内にペン先を収容可能な出没式筆記具が挙げられる。
【0145】
また、筆記具におけるインキ供給機構についても特に限定されるものではなく、インキ供給機構は、例えば、以下の機構1~機構4等であってもよい。
【0146】
(機構1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、調色インキをペン先に供給する機構。
(機構2)一時的に調色インキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路を有するペン芯を介して調色インキをペン先に供給する機構。
(機構3)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、調色インキをペン先に供給する機構。
(機構4)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、調色インキを直接、ペン先に供給する機構。
【0147】
特には、本実施形態の調色インキを用いる筆記具は、上記(機構2)を有する筆記具、すなわち、一時的に調色インキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路を有するペン芯を備える筆記具に特に好適に用いることができる。
【0148】
これは、本実施形態の調色インキを用いると、ペン芯の機能を十分に働かせ、インキ貯蔵部から調色インキを筆記先端に供給し、かつ、インキ貯蔵部の内圧上昇に伴って溢出した調色インキを一時的に保持することが容易となるためである。また、ペン先からのインキ吐出性が良化し、カスレの少ない明瞭な筆跡を形成することが可能となるためである。また、外気温の変化やキャップの着脱などによって、インキ貯蔵体の内圧が変化した場合でも、くし溝間に調色インキが保持され、ペン先からのインキ漏れが抑制でき、優れた耐ボタ落ち性能を得ることができるためである。なお、上記筆記具の具体的例としては、万年筆、ボールペン、カリグラフィー用ペンなどが挙げられるが、中でも、本実施形態のインキ組成物は、万年筆用のインキ組成物として特に好適に用いることができる。
【実施例0149】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0150】
(シアン色のインキ組成物(1))
・ジエチレングリコール 1.00部
・グリセリン 1.00部
・トリエタノールアミン 2.00部
・尿素 1.00部
・ユニルーブ75DE-2620(日油株式会社製)
(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール) 0.05部
部
・WaterBlue105(C.I.アシッドブルー90) 2.00部
上記組成物を自転公転攪拌機により撹拌混合を行い、シアン色のインキ組成物(1)を得た。
【0151】
(インキ組成物(2)~インキ組成物(42))
インキ組成物に含まれる各成分を表1~表4に表される組成に変更した以外は、インキ組成物(1)と同様にしてインキ組成物を得た。
【0152】
作製したインキ組成物(1)~インキ組成物(36)の各々の吸収波長は、株式会社島津製作所製の紫外可視分光光度計UV-2550を用いて、インキ組成物をイオン交換水で100,000倍に希釈した溶液を光路長10mmの石英セルに装填し、波長範囲400nm以上900nm以下、スキャンスピード中速、サンプリングピッチ2.0nmの条件により測定する。そして、測定結果から最大吸収波長を特定した。特定結果を表1~表4に示した。
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
(単位量物の作製)
インキ組成物(1)~インキ組成物(42)の各々について、表1~表4に記載の各インキ組成物の配合部をg単位に換算した質量を単位量とし、ポリビニルアルコールを主成分とする水溶性フィルムである株式会社クラレ製ポバールを用いて、熱溶着することにより包含した。この包含処理により、各インキ組成物の各々について、表1~表4に記載の各インキ組成物の配合部をg単位に換算した質量ずつ個別に水溶性フィルムによって包含した単位量物の群からなるインキを作製した。
【0158】
(フィルム安定性の評価)
インキ組成物(1)~インキ組成物(42)の各々の単位量物5個を、温度20℃、湿度65%の環境下に24時間放置したときの、水溶性フィルムの状態を観察することで、耐溶解性および耐膨潤性によるフィルム安定性を評価した。評価基準を下記に示した。また、評価結果を表1~表4に示した。
【0159】
A:水溶性フィルムのフィルム形状に変化無。内包されているインキ組成物の外部への漏れ出し無。
B:水溶性フィルムのフィルム形状に変形有。内包されているインキ組成物の外部への漏れ出し無。
C:水溶性フィルムのフィルム形状に変形有。内包されているインキ組成物の外部への漏れ出し有。
【0160】
(実施例1)
シアン色のインキ組成物(5)を上記水溶性フィルムで包含した単位量物、マゼンタ色のインキ組成物(17)を上記水溶性フィルムで包含した単位量物、イエロー色のインキ組成物(27)を上記水溶性フィルムで包含した単位量物、ブラック色のインキ組成物(34)を上記水溶性フィルムで包含した単位量物、および透明色のインキ組成物(38)を上記水溶性フィルムで包含した単位量物を、実施例1で用いるインキセットとした。
【0161】
(実施例2~実施例32)
インキセットとして用いるインキ組成物の組み合わせ、すなわち水溶性フィルムで包含されたインキ組成物である単位量物を表5および表6に表される組合せに変更した以外は、実施例1と同様にしてインキセットを作製した。
【0162】
【0163】
【0164】
図1は、実施例で用いたインキ組成物(1)~インキ組成物(36)の各々の吸収波長の測定結果を示す図である。
図1中、横軸は波長を示し、縦軸は吸光度を示す。
図1中に表す吸収波長の線図とインキ組成物との対応は以下である。
【0165】
線
図A1:インキ組成物(1)
線
図A2:インキ組成物(2)(3)
線
図A3:インキ組成物(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)
線
図A4:インキ組成物(11)(12)
線
図A5:インキ組成物(13)(14)(15)(16)(17)(20)(21)
線
図A6:インキ組成物(18)
線
図A7:インキ組成物(19)
線
図A8:インキ組成物(22)(23)
線
図A9:インキ組成物(24)(25)
線
図A10:インキ組成物(26)(27)(28)(29)(30)(31)(32)(33)
線
図A11:インキ組成物(34)(35)(36)
【0166】
実施例1~実施例32のインキセットについて、シアン色のインキ組成物とマゼンタ色のインキ組成物との最大吸収波長の差、および、マゼンタ色のインキ組成物とイエロー色のインキ組成物との最大吸収波長の差を算出した。算出結果を表5および表6に示した。
【0167】
(評価)
-色調調整評価-
実施例1~実施例32のインキセットの各々について、色調調整評価を行った。
【0168】
色調調整評価として、インキセットの各々について、含まれるインキ組成物の混合比を調整し、可視光領域における調整可能な波長領域を確認した。評価基準を下記に示した。また、評価結果を表5および表6に示した。
【0169】
A:幅広い色調に調色可能。
B:幅広い色調にやや調整可能。
C:幅広い色調に調整不可能。
【0170】
―インキ安定性評価―
実施例1~実施例32のインキセットの各々について、混合時のインキ安定性を評価した。詳細には、インキセットの各々について、表に示す各実施例で用いる各色のインキ組成物を同じ個数比で(単位量体の数がインキ組成物の色間で同じ個数)混合し、さらにイオン交換水500mlを加え、調色インキを調整した。調色インキをガラス製の容器(アズワン株式会社製,製品名ラボランスクリュー管瓶No.8,110ml)に100ml入れ、容器に蓋をした状態で、50℃環境下に12週間放置した。そして、容器の底部から調色インキを採取し、当該調色インキを顕微鏡観察により観察した。インキ安定性評価の評価基準を下記に示した。また、評価結果を表5および表6に示した。
【0171】
インキ安定性評価の評価基準
A:析出物が全く見られない。
B:析出物が観察される。
【0172】
―インキ発色鮮明性評価―
実施例1~実施例32のインキセット(イエロー色、シアン色のインキ組成物を含む実施例のみ)の各々について、調色インキにより得られる筆跡の発色鮮明性を評価した。詳細には、インキセットの各々について、含まれるイエロー色のインキ組成物と、シアン色のインキ組成物、を個数比で49対1の混合比で混合し、更にイオン交換水を5,000ml加えることで、調色インキを調整した。
【0173】
調整した調色インキを、樹脂製のコンバーター(株式会社パイロットコーポレーション製、CON-40、インキ容量0.4ml)に開口部から0.4ml注入した。このコンバーターを、万年筆形態のペン先を有する筆記具(株式会社パイロットコーポレーション製、万年筆、商品名:カクノ(字幅M))に装着した。この筆記具を試験用ペンとした。この試験用ペンを暫くペン先下向き状態にし、充填されたインキをペン先まで流入させ、筆記可能な状態とした。そして、試験用ペンで任意の文字を筆記し、得られた筆跡の状態を目視により観察し、インキ発色鮮明性を評価した。インキ発色鮮明性評価の評価基準を下記に示した。また、評価結果を表5および表6に示した。
【0174】
インキ発色鮮明性評価の評価基準
A:鮮やかな色調を調整可能。
B:色調がくすみ、鮮やかな色調を調整不可能。
【0175】
実施例1~実施例32で用いたインキ組成物(1)~インキ組成物(42)は、水溶性フィルムによって包含された単位量物とされているため、水溶性フィルムによって包含されていないインキ組成物を直接容器などに入れて混合する場合に比べて、容易に調色を行うことができた。
【0176】
また、実施例1~実施例32のインキセットは、幅広い色調に調整可能であった。
【0177】
また、実施例1~実施例3に示すように、ブラック色のインキ組成物を含む実施例1のインキセットは、ブラック色のインキ組成物を含まない実施例2および実施例3のインキセットに比べて、更に幅広い色調に調整可能であった。
【0178】
また、着色剤としてタートラジンを用いたイエロー色のインキ組成物による実施例1~実施例4、実施例11~実施例17、および実施例21~実施例32は、タートラジン以外の着色剤を用いたイエロー色のインキ組成物による実施例5~実施例10に比べて、良好なインキ発色鮮明性の評価結果が得られた。
【0179】
また、含まれる複数のインキ組成物の水性媒体の構成成分の種類が同一、および、シアン色、マゼンタ色、イエロー色の着色剤の含有量の差が0質量%以上1.0質量%未満、の双方の要件を満たす実施例1~実施例4、実施例9、実施例10、実施例13、実施例26、実施例27、および実施例30~実施例32は、これらの主成分および含有量の少なくとも一方を満たさない実施例5~実施例8、実施例11、実施例12、実施例14~実施例17、実施例21~実施例25、実施例28および実施例29に比べて、インキ安定性について良好な評価結果が得られた。
本発明にかかるインキは、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィー用のペン、つけペン、各種マーカー類等各種の筆記具用インキとして用いることができる。また、本発明に係るインキは、筆記具に限定されず、布や紙などの各種の染色対象媒体用の着色液として用いることができる。