(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080480
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】樹脂めっき材の製造方法、及び無電解めっき装置
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20230602BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20230602BHJP
C23C 18/20 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C08J7/00 304
C08J7/00 CER
C08J7/00 CEZ
H05K3/18 A
H05K3/18 B
H05K3/18 E
C23C18/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193849
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有本 太郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 真毅
(72)【発明者】
【氏名】竹元 史敏
【テーマコード(参考)】
4F073
4K022
5E343
【Fターム(参考)】
4F073AA06
4F073BA06
4F073BA16
4F073BA19
4F073BA22
4F073BA23
4F073BA27
4F073BA31
4F073BA32
4F073BB01
4F073CA47
4F073CA63
4F073DA11
4K022AA13
4K022AA15
4K022AA31
4K022AA41
4K022BA08
4K022CA06
4K022CA12
4K022DA01
5E343AA02
5E343AA03
5E343AA17
5E343AA18
5E343CC73
5E343DD33
5E343EE31
5E343ER02
5E343FF16
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】基材の表面に実質的に凹凸を設けることなく、且つ従来よりも制御性の高い方法で、樹脂めっき材を製造する方法を提供する。
【解決手段】樹脂めっき材の製造方法は、絶縁性の樹脂材料を含む基材を準備する工程(a)と、基材の表面に対して酸素濃度が0.01体積%~10体積%の雰囲気中で波長200nm以下の紫外線を照射して、前記基材の前記表面を含む処理対象領域をnmオーダーの大きさの空隙を含む微孔層に改質する工程(b)と、微孔層に触媒を結合させる工程(c)と、工程(c)の後、基材の上面に、触媒を介して無電解めっき層を形成する工程(d)を有する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の樹脂材料を含む基材を準備する工程(a)と、
前記基材の表面に対して酸素濃度が0.01体積%~10体積%の雰囲気中で波長200nm以下の紫外線を照射して、前記基材の前記表面を含む処理対象領域をnmオーダーの大きさの空隙を含む微孔層に改質する工程(b)と、
前記微孔層に触媒を結合させる工程(c)と、
前記工程(c)の後、前記基材の上面に、前記触媒を介して無電解めっき層を形成する工程(d)を有することを特徴とする、樹脂めっき材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(d)の実行時に、超音波による振動を付与することを特徴とする、請求項1に記載の、樹脂めっき材の製造方法。
【請求項3】
前記処理対象領域は、前記表面と、前記表面から前記表面に直交する深さ方向に3nm~50nm進行した箇所との間の領域であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹脂めっき材の製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)の後、前記工程(c)の前に、前記基材に含まれる低分子量成分を除去する工程(e)を更に有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹脂めっき材の製造方法。
【請求項5】
前記工程(e)は、前記工程(b)の実行後の前記基材をアルカリ溶液に浸漬する工程であることを特徴とする、請求項4に記載の樹脂めっき材の製造方法。
【請求項6】
絶縁性の樹脂材料を含む基材に対して波長200nm以下の紫外線を照射する前処理ユニットと、
触媒を含む溶液が貯留された第一貯留槽を含み、前記前処理ユニットによって前記紫外線が照射された後の前記基材を前記第一貯留槽内に位置させる、触媒処理ユニットと、
めっき液が貯留された第二貯留槽を含み、前記触媒処理ユニットから取り出された後の前記基材を前記第二貯留槽内に位置させる、めっき処理ユニットとを備え、
前記前処理ユニットは、窒素ガス源を含み、前記窒素ガス源から前記紫外線が照射される照射領域内に窒素が導入されることで前記照射領域の雰囲気の酸素濃度を0.01体積%~10体積%に調整した状態で、前記照射領域内に位置する前記基材に対して前記紫外線を照射することを特徴とする、無電解めっき装置。
【請求項7】
前記めっき処理ユニットは、前記第二貯留槽内の前記めっき液に対して超音波の伝達が可能な超音波発生装置を含み、前記超音波発生装置から発生された超音波が前記めっき液に伝達された状態の下で、前記触媒処理ユニットから取り出された後の前記基材を前記第二貯留槽内に位置させることを特徴とする、請求項6に記載の、無電解めっき装置。
【請求項8】
前記前処理ユニット、前記触媒処理ユニット、及び前記めっき処理ユニットを連絡する搬送路を備え、
前記基材は、前記搬送路上を移動しながら、前記前処理ユニット、前記触媒処理ユニット、及び前記めっき処理ユニットにおける各処理が実行されることを特徴とする、請求項6又は7に記載の、無電解めっき装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料を含む基材にめっきが形成されてなる樹脂めっき材の製造方法に関する。また、本発明は、このような樹脂めっき材の製造に適した無電解めっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁性の樹脂材料の表面に配線パターンを設けた配線基板が知られている。この配線基板は、従来、基材となる樹脂上にシード層と呼ばれる無電解めっき層を設け、その上層に電解銅めっき層を設けることで得られる。
【0003】
安定的な電気特性を得るためには、樹脂とシード層は強固に密着される必要がある。従来、密着性を高めるために、樹脂の表面を粗化することで凹凸を設け、凹凸が形成された樹脂の表面にシード層を形成する方法が知られている。凹凸の存在に由来するアンカー効果によって、樹脂とシード層は強固に固定される。
【0004】
ところで、近年開発が進行している5G通信と呼ばれるシステムにおいては、極めて高い周波数の電気信号が利用される。このような高周波の電流は、表皮効果と呼ばれる現象により導体の中心部は流れにくく、導体の表層部のみを流れる。導体の表面に凹凸が存在していると、信号伝送路が長くなる結果、伝送損失が増大する。従って、特に高周波の信号を扱うことが予定されている配線基板は、導体の表面の凹凸をなるべく少なくすることが要求される。
【0005】
下記特許文献1には、樹脂材料に酸素雰囲気で紫外線を照射することで、紫外線とオゾンによって樹脂材料を微細に粗化することが記載されている。この方法によれば、従来の粗化方法として知られているデスミア処理を用いる場合よりも微細に粗化できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らの検証の結果、特許文献1の方法によると樹脂材料を含む基材が容易に脆弱化することを突き止めた。言い換えれば、特許文献1の方法の場合、基材を脆弱化させずに表面の改質を行うには、極めて精緻な制御が要求されるため、実用上の問題がある。
【0008】
本発明は、基材の表面に実質的に凹凸を設けることなく、且つ従来よりも制御性の高い方法で、樹脂にめっき材が付与されてなる樹脂めっき材を製造する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、この方法の利用に適した無電解めっき装置を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る樹脂めっき材の製造方法は、
絶縁性の樹脂材料を含む基材を準備する工程(a)と、
前記基材の表面に対して酸素濃度が0.01体積%~10体積%の雰囲気中で波長200nm以下の紫外線を照射して、前記基材の前記表面を含む処理対象領域をnmオーダーの大きさの空隙を含む微孔層に改質する工程(b)と、
前記微孔層に触媒を結合させる工程(c)と、
前記工程(c)の後、前記基材の上面に、前記触媒を介して無電解めっき層を形成する工程(d)を有することを特徴とする。
【0010】
特許文献1に記載された方法によって基材が脆弱化しやすくなる理由について、本発明者らは以下のように推察している。
【0011】
基材の上面にめっき層を形成するに際しては、基材とめっき層の密着性を高めることが重要となる。基材とその上の層との密着性を高めるという点においては、基材の上層に接着層(接着シート)を形成する場合と、基材の上層にめっき層を形成する場合とで、その課題は共通する。このような背景を踏まえ、以下では、まず基材の上に接着シートを形成する際に生じ得る課題について説明する。
【0012】
従来、樹脂製の基材に対して紫外線を照射すると、
図1に模式的に示すように、基材表面の接触角は、紫外線の照射量に対して単調的に減少するものと考えられていた。接触角が小さくなることは、基材の表面に別の層を接着させた場合に両者の接着強度が高まることを意味する。従って、
図2に模式的に示すように、紫外線の照射量に対して接着強度は単調的に増加するものと考えられていた。
【0013】
つまり、基材の表面に別の層を安定的に接着させるためには、接触角の変化傾向を示す曲線が変曲点を示す箇所よりも大きい照射量、すなわち、
図1におけるQ1以上の照射量の紫外線を基材に対して照射させることで実現できると考えられていた。
【0014】
しかし、本発明者らの鋭意研究によれば、大気雰囲気で基材に対して紫外線を照射しながら、照射量と接着強度の関係を測定すると、
図3に示すように照射量を高めるのに伴って、接着強度はピーク値に達した後に低下傾向を示すことが確認された。
図3は、本発明者によって新規に確認された、基材に対する紫外線の照射量と、基材表面と他の層との間の接着強度の関係を模式的に示すグラフである。
【0015】
つまり、
図3の結果によれば、基材の表面に対して高い接着強度を付与するためには、紫外線の照射量を、限られた照射量の範囲(Qr1)内に調整する必要があることが分かる。
【0016】
図4は、実際に大気雰囲気下で基材の表面に所定の強度で紫外線を照射して、紫外線の照射時間と基材表面の接触角の関係、及び前記照射時間と接着強度の関係を測定し、グラフ化したものである。
図4において横軸は紫外線の照射時間を示し、左縦軸は接着強度を示し、右縦軸は接触角を示す。
図4は、具体的に以下の方法で測定された結果に基づいて作成されたグラフである。
【0017】
基材のサンプルとして、ポリイミド樹脂(東レデュポン社製:Kapton 100EN-C)が準備された(Kaptonは同社の登録商標)。このサンプルに対して、紫外線照射装置(ウシオ電機社製:SVC 232 Series、ピーク波長172nm)を用いて、照射距離(離間距離)3mmの箇所から、サンプルの表面に紫外線が照射された。
【0018】
照射時間を異ならせながら各サンプルに紫外線を照射した後、サンプル表面の接触角を、接触角測定装置(協和界面科学社製:DMo-501)を用いて測定した。
【0019】
次に、照射時間を異ならせながら各サンプルに紫外線を照射した後、同じサンプルの照射面同士を、接着シート(東亞合成社製、アロンマイテイAF-700)を介して貼り合わせ、100℃下でラミネートした(アロンマイテイは同社の登録商標)。その後、圧力2MPa~3MPaで押圧しながら180℃下で30分間にわたって圧着処理を行った。圧着後に得られた貼り合わせサンプルに対して、JIS K 6854-3(接着剤-はく離接着強さ試験方法 第3部:T形はく離)に準ずる方法によって、接着強度を測定した。ただし、
図4において、接着強度は相対値で示されている。
【0020】
図4の結果によれば、接着強度と照射時間の関係を示すグラフは、ピーク値を境に照射時間が長くなるほど接着強度が低下傾向を示すことが確認される。紫外線の照度が一定である場合、照射時間は照射量と比例関係にある。つまり、
図3は、
図4の傾向を模式的に示していることが分かる。
【0021】
図3~
図4の結果から、従来の方法で紫外線を基材に照射した場合、高い接着強度を示す照射量の条件が極めて限定的であることが分かる。言い換えれば、紫外線の照射量を極めて精度よくコントロールしなければ、高い接着強度が実現できないことが分かる。
図4の結果によれば、照射時間が1秒~数秒程度長くなるだけで、接着強度が落ち込むことが理解される。しかしながら、
図4に示すような接着強度と照射時間(照射量)の関係は、ピーク値を示す範囲が狭いという全体的な傾向については樹脂同士で共通であるものの、実際にどの程度の照射量にするのが好ましいかという点については、樹脂によって異なる。このため、結果的に、好ましい照射量を超えて紫外線を基材に照射してしまい、基材表面の接着強度が低くなってしまう。
【0022】
一方、好ましい照射量を超えないように照射時間を調整しようとすると、逆に接着強度がピーク値に達するために必要な照射量に達しないことが起こり得る。この場合も、基材に対して高い接着強度を付与することができない。
【0023】
上記の説明では、基材の上面に接着シートを形成する場合が想定されていた。しかし、基材の上面にめっき層を形成する際に、高い密着性を実現すべく基材の表面に紫外線を照射する場合には、接着シートを形成する場合と同様の課題が生じ得ることが理解される。つまり、基材の上面にめっき層を形成すべく、紫外線を基材に照射しようとすると、やはり、好ましい照射量を超えて紫外線を基材に照射することで基材表面の接着強度が低くなる懸念がある。また、好ましい照射量を超えないように照射時間を調整しようとすると、逆に接着強度がピーク値に達するために必要な照射量に達しないことが起こり得る。
【0024】
図5は、酸素(O
2)及びオゾン(O
3)の吸収スペクトルを示すグラフである。なお、
図5では、参考のために、Xeエキシマランプの発光スペクトルが重ね合わせられている。
図5において、横軸は波長を示し、左縦軸はエキシマランプの光強度の相対値を示し、右縦軸は、酸素(O
2)及びオゾン(O
3)の吸収係数を示す。
【0025】
上記特許文献1には、紫外線の波長に関し、150nm~400nmが好ましく、150nm~350nmがより好ましく、150nm~300nmが更に好ましい旨が記載されている。なお、特許文献1の実施例によれば、樹脂の表面処理には紫外線照射装置(SSP-16:セン特殊光源社製)が利用されており、この光源は185nmと254nmに発光スペクトルのピーク値を示すことが同社のカタログより明らかにされている。このことから、特許文献1では、基材の表面処理用の光源として低圧水銀ランプの利用が予定されていると理解される。
【0026】
低圧水銀ランプは、185nm近傍と254nm近傍に、半値幅の極めて短いピーク波長を有する紫外線を発する。
図5に示すように、185nm近傍の紫外線は、酸素に吸収されやすい。このため、大気雰囲気下で、樹脂製の基材に対して低圧水銀ランプからの紫外線を照射すると、大気中の酸素に紫外線の一部が吸収されて、以下の(1)式に従って、基底状態の原子状酸素 O(
3P) が生成される。
O
2 + hν (185nm) → O(
3P) + O(
3P) ‥‥(1)
【0027】
この原子状酸素O(3P)は、大気中の酸素(O2)と反応し、以下の(2)式に従ってオゾン(O3)を生成する。
O(3P) + O2 → O3 ‥‥(2)
【0028】
図5に示すように、オゾン(O
3)は紫外線を吸収する性質を示す。低圧水銀ランプからの紫外線がオゾン(O
3)に吸収されると、以下の(3)式に従って励起状態の原子状酸素 O(
1D) が生成される。
O
3 + hν (185nm, 254nm) → O
2 + O(
1D) ‥‥(3)
【0029】
原子状酸素 O(1D) は、反応性が極めて高い。このため、基材を構成する樹脂の高分子(CmHnOk)に作用して、分子鎖を切断する。下記(4)式において、m,m’,n,n,k,k’はいずれも整数であり、m>m’,n>n’,k>k’である。ただし、(4)式は、反応を模式的に示すものであって、正確な化学反応式とは異なることに留意されたい。
CmHnOk + O(1D) → H2O, CO, CO2 + Cm'Hn'Ok' ・・・(4)
【0030】
樹脂を構成する高分子(CmHnOk)や、(4)式の反応で生成される中間生成物は、O(1D)による作用以外に、直接紫外線が照射されることによっても、結合が一部切断される。
【0031】
低圧水銀ランプから出射される紫外線には、254nmの長波長成分が含まれるため、200nm以下の短波長成分に比べて、基材の深さ方向まで紫外線が侵入しやすい。このため、
図6に示すように、低圧水銀ランプ90からの紫外線L90の一部は基材3に対して深さ方向に進行する。つまり、基材3の表面3aから、深さ方向にd90だけ進行した箇所までの領域に対して、紫外線L90に由来するエネルギーが入力される。
【0032】
すると、上記の事情により、紫外線L90そのものや、(3)式で得られた反応性の高い O(1D) が基材3の表面3aから充分深い箇所に作用してしまう。この結果、基材3の表面3aから充分深い箇所において、基材3を構成する高分子(CmHnOk)の結合が切断され、低分子化されてしまう。この結果、分子量の小さい分子鎖同士が重なり合うような状態となり、基材3が脆弱化すると考えられる。
【0033】
図7は、基材3を構成する高分子材料の分子鎖を模式的に示す図面である。上記のように、基材3の深い箇所において、紫外線や主として O(
1D) が作用すると、分子鎖の多くの箇所で切断され、低分子物質が生成される(
図8参照)。
図8は、
図7に示す基材3の構成材料が切断され、低分子化された状態が模式的に図示されている。
【0034】
つまり、低圧水銀ランプから発せられる紫外線L90は、185nmと254nmの波長成分を有するため、基材3の表面3aを改質する一方で、長波長成分に由来して、基材3に対して深さ方向へのダメージを与える。この結果、基材3の強度が低下してしまう。
【0035】
そこで、本発明者らは、低圧水銀ランプに代えて、200nm以上の波長成分が少ない紫外線を発するキセノン(Xe)エキシマランプを光源として用い、基材に対して前記光源からの紫外線を照射することを検討した。しかし、基材に対して高い接着強度を付与することのできる紫外線の照射量が限定的であることは、
図4を参照して上述した通りである。
【0036】
本発明者らは、このように、基材に対して高い接着強度を付与することのできる紫外線の照射量が限定的となるのは、反応が極めて高速に進行していることに由来するものと考えた。特に、Xeエキシマランプ(ピーク波長が172nm近傍)のように、ピーク波長が185nm未満を示す紫外線の場合、大気中の酸素にその一部が吸収されると、以下の(5)式に従って、励起状態の原子状酸素 O(1D) が生成される。
O2 + hν (172nm) → O(1D) + O(3P) ‥‥(5)
【0037】
なお、(5)式で得られる原子状酸素 O(3P) の一部は、上述したように、(2)式及び(3)式を経て、励起状態の原子状酸素 O(1D) に変化する。
【0038】
つまり、基材に対して照射される紫外線が短波長になるほど、基材の表層のみの反応となって深さ方向へのダメージが殆どなく、反応性の高い O(1D) の生成速度が速まる。このため、基材を構成する高分子材料の分子鎖を切断する速度が速くなると考えられる。
【0039】
基材の表面を効率的に改質するためには、基材の表面近傍に存在する高分子材料の分子鎖のみを切断し、その切断によって空隙を生成するのが好ましい。なぜなら、その後に他の層を接着させるために触媒を作用させると、触媒効果を発揮する分子又は原子を含む化合物(以下、「触媒寄与化合物」と称する。)を前記空隙に入り込ませることができるためである。しかしながら、上記のように、高速で高分子材料の分子鎖を切断する反応が進行すると、基材の表面のみならず深い領域にまで同様の現象が生じ、基材が脆弱化してしまう。つまり、
図3~
図4を参照して上述した、基材に対して高い接着強度を付与することのできる限定的な照射量とは、基材の表面近傍に存在する高分子材料の分子鎖のみを切断できる程度の照射量であるといえる。
【0040】
本発明に係る方法では、紫外線を照射する雰囲気を0.01体積%~10体積%とし、大気と比べて極めて低い酸素濃度としている。これにより、上記の O(1D) の生成速度が低下されるため、基材に対して高い接着強度を付与することのできる照射量の範囲が拡げられ、制御の自由度が高まり、制御性が向上する。なお、ここでいう「制御」とは、安定した接着強度(めっき強度)を得ることのできる生産プロセスを実現するために行われる制御を意味する。
【0041】
図9は、雰囲気を低酸素濃度とした場合の、基材に対する紫外線の照射量と、基材表面と他の層との間の接着強度の関係を、
図3にならって模式的に示すグラフである。なお、
図9は、比較のために大気雰囲気における結果のグラフが重ねて表示されている。
【0042】
図9の結果によれば、雰囲気を低酸素濃度とした場合、基材の表面に対して高い接着強度を付与することのできる紫外線の照射量の範囲(Qr2)は、大気雰囲気の場合(Qr1)と比べて、大幅に拡げられることが分かる。そして、この範囲(Qr2)の照射量で紫外線を照射することで、基材の表面近傍の高分子鎖が切断され、空隙が形成される。すなわち、基材の表面近傍のみが、空隙を含む層(微孔層)に改質される。
【0043】
図10は、実際に低酸素雰囲気下で基材の表面に所定の強度で紫外線を照射して、紫外線の照射時間と基材表面の接触角の関係、及び前記照射時間と接着強度の関係を測定し、グラフ化したものである。雰囲気の酸素濃度が異なる以外、グラフ化の方法は
図4と共通である。なお、
図10では、雰囲気の酸素濃度は0.1体積%(1000ppm)とされた。
【0044】
図10の結果によれば、接着強度がピーク値を示す照射時間と比べて、数十秒~百秒程度長く紫外線を照射しても、
図4と比較して接着強度があまり低下していないことが確認される。つまり、
図10は、
図9の傾向を模式的に示していることが分かる。
【0045】
図11は、Xeエキシマランプ10からの紫外線L10を基材3に対して照射した場合の紫外線L10の進行の様子を、
図6にならって模式的に示す図面である。Xeエキシマランプ10からの紫外線L10は、172nm近傍にピーク波長を示す。
図11に示すように、紫外線L10は、基材3の表面から深さ方向に関して距離d10だけ進行する。Xeエキシマランプ10からの紫外線L10は、低圧水銀ランプから発せられる紫外線L90よりも波長帯域が短波長である。このため、距離d10は、低圧水銀ランプ90からの紫外線L90が照射された場合の進行距離d90(
図6)と比べて極めて短い。つまり、紫外線L10は、基材3の表面近傍にのみ作用する。
【0046】
紫外線L10が照射される雰囲気1が低酸素濃度とされることで、上述したように、基材3の表面3aに対して高い接着強度を付与することのできる紫外線L10の照射量の範囲が拡げられる。このような照射量で基材3の表面3aに対して紫外線L10が照射されることで、基材3を構成する高分子鎖の一部のみが切断され、オリゴマー化される。このとき、オリゴマー同士の間に空間(空隙4)が形成される(
図12参照)。
図12は、基材3を構成する高分子鎖の一部が切断されて空隙4が形成される様子を、
図8にならって模式的に図示したものである。
【0047】
つまり、上記工程(a)及び(b)の実施方法によれば、空隙4が基材3の表面3aの近傍に形成される。このため、その後に触媒を作用させる工程(c)を実行することで、基材3の表面3aを粗化することなく、触媒寄与化合物を空隙4内に入り込ませることができる。したがって、その後に無電解めっき層を形成する工程(d)を実行することにより、基材3の表面3aに対する高い密着性を有した無電解めっき層が形成される。
【0048】
つまり、本明細書において「微孔層」とは、基材3を構成する高分子鎖の一部が切断されることで生成された空隙4を含む層であり、この空隙4は、nmオーダー(1nm~数nm)の大きさである。
【0049】
微孔層の存在及びその厚みについては、基材の表面に別の層を接着させた後に断面をTEM(透過電子顕微鏡)で観察することで確認できる。詳細については後述される。
【0050】
上記の説明では、紫外線のピーク波長が172nm近傍にある場合を例に挙げたが、200nm以下の場合において同様の説明が可能である。波長が172nmより長波長で200nm以下の紫外線の場合、ピーク波長が172nmの紫外線と比べると、原子状酸素 O(1D) の生成速度は、やや遅くなることが予想されるものの、大気雰囲気で照射した場合には、照射時間が数秒長くなると接着強度が大幅に低下することは、波長が172nmの場合と同様である。ただし、紫外線の波長が200nmを超えると、上述した理由により、基材の深さ方向に進行する紫外線の割合が少しずつ高められ、基材が脆くなりやすい。
【0051】
前記工程(c)は、触媒寄与化合物を微孔層内に入り込ませることができる方法であれば、任意の方法が利用できる。典型的な一例としては、必要に応じて基材の表面電位を調整した後に、触媒寄与化合物を含む薬液に基材を浸漬させる工程が採用される。その後、必要に応じて、活性化処理が施される。
【0052】
前記工程(d)は、触媒寄与化合物が微孔層に結合した状態の基材の上面に、無電解めっき層を形成することのできる工程であれば、任意の方法が利用できる。典型的な一例としては、工程(c)の実行後に、無電解金属めっき液に基材を浸漬させる工程が採用される。
【0053】
つまり、本発明に係る方法によれば、基材の表面に対して実質的に凹凸を形成しにくい方法でありながらも、基材とめっき材との安定的な接着力を示す樹脂めっき材を製造できる。
【0054】
前記樹脂めっき材の製造方法において、前記工程(d)の実行時に、超音波による振動を付与するものとしても構わない。
【0055】
従来、パラジウム(Pd)を触媒として、次亜リン酸ナトリウムによりNiイオンを還元して、樹脂表面に無電解Ni被膜(無電解めっき層)を形成する方法が知られている。この方法は、触媒としてのPd粒子が付着された表面を含む基材を、無電解めっき液に浸漬させることで、以下の(6)式~(8)式の反応機序を経てNi2Pからなる無電解めっき層を樹脂表面に形成させる方法である。
H2PO2- + H2O → HPO3
2- + H+ + (1/2)H2 + e- …(6)
Ni2+ + 2e- → 2Ni …(7)
2Ni2+ H2PO2
- + 2H+ + 5e- → Ni2P + 2H2O …(8)
【0056】
しかし、本発明者らの鋭意研究の結果、従来の無電解めっき法によって形成された無電解めっき層と基材の界面には微細な孔(ピンホール)が存在しており、めっき不良の原因になることを突き止めた。本発明者らは、この原因が以下の点にあると推察している。
【0057】
上記(6)式によれば、反応の過程で不可避的に水素(H2)が発生する。このため、無電解めっき液に基材を浸漬させている工程中において、水素ガス由来の気泡が発生し、基材の表面に付着する。この状態で、基材の表面に無電解めっき層が形成されると、気泡が基材の表面に残存したままで無電解めっき層が形成されることになる。この結果、得られた樹脂めっき材には気泡由来のピンホールが形成され、めっき不良の原因となる。
【0058】
なお、本発明者の鋭意研究の結果、上記工程(a)~(d)を経て製造された樹脂めっき材についても、微細なピンホールが発生する場合があることが確認された。この点からも、ピンホールの発生原因は、紫外線の照射とは無関係であることが推察される。
【0059】
これに対し、上記方法によれば、無電解めっき層の形成時に超音波による振動が付与されるため、基材の表面に付着していた水素ガス由来の気泡を、基材から離脱させることができる。これにより、基材と無電解めっき層との密着性を更に向上できる。
【0060】
前記処理対象領域は、前記表面と、前記表面から前記表面に直交する深さ方向に3nm~50nm進行した箇所との間の領域であるものとしても構わない。
【0061】
上述したように、工程(b)の後、微孔層に触媒を結合させる工程(c)が実行される。触媒効果を発揮する分子又は原子を含む化合物(触媒寄与化合物)の外径は3nm程度であるため、処理対象領域の厚みが3nm未満である場合には、触媒寄与化合物が空隙内に充分に入り込まず、接着力を高める作用が限定的となる。他方、表面から深さ方向に50nm以上進行した場所は、基材自体を脆弱化させる方向に作用し、この結果、樹脂とめっき層との接着強度を低下させることにつながる。
【0062】
前記表面改質方法は、前記工程(b)の後、前記工程(c)の前に、前記基材に含まれる低分子量成分を除去する工程(e)を更に有するものとしても構わない。
【0063】
上述したように、紫外線が基材に照射されることで、紫外線そのもの又は原子状酸素 O(1D) に由来して、基材を構成する高分子が切断される。この過程で、基材を構成する樹脂と比べて分子量が極めて低い分子鎖が副次的に生成されることがある。工程(b)の後に、触媒を導入すると、この低分子鎖に触媒が取り込まれる。しかし、低分子鎖に取り込まれた触媒は接着強度の向上には寄与しない。
【0064】
上記のように、前記基材に含まれる低分子量成分を除去する工程(e)を行うことで、その後に導入される触媒の多くを、微孔層内の空隙に取り込むことができる。つまり、この方法によれば、触媒の利用量を減らしながら、高い接着強度を実現できる。
【0065】
低分子量成分を除去する工程(e)としては、例えば、アルカリ洗浄処理、温水洗浄処理、乾燥処理が挙げられる。この中では、アルカリ洗浄処理が特に好ましい。
【0066】
すなわち、前記工程(e)は、前記工程(b)の実行後の前記基材をアルカリ溶液に浸漬する工程であるものとしても構わない。
【0067】
この工程で用いられるアルカリ溶液の種類は特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、及び水酸化カリウムからなる群に属する1種以上を好適に利用できる。
【0068】
本発明に係る無電解めっき装置は、
絶縁性の樹脂材料を含む基材に対して波長200nm以下の紫外線を照射する前処理ユニットと、
触媒を含む溶液が貯留された第一貯留槽を含み、前記前処理ユニットによって前記紫外線が照射された後の前記基材を前記第一貯留槽内に位置させる、触媒処理ユニットと、
めっき液が貯留された第二貯留槽を含み、前記触媒処理ユニットから取り出された後の前記基材を前記第二貯留槽内に位置させる、めっき処理ユニットとを備え、
前記前処理ユニットは、窒素ガス源を含み、前記窒素ガス源から前記紫外線が照射される照射領域内に窒素が導入されることで前記照射領域の雰囲気の酸素濃度を0.01体積%~10体積%に調整した状態で、前記照射領域内に位置する前記基材に対して前記紫外線を照射することを特徴とする。
【0069】
上記無電解めっき装置によれば、前処理ユニットにおいて基材に対する紫外線の照射線量の制御の自由度を高めつつ、基材の表面に実質的な凹凸を形成することなく、高い密着力を有した状態で基材の表面にめっき層を形成することを可能にする。
【0070】
前記めっき処理ユニットは、前記第二貯留槽内の前記めっき液に対して超音波の伝達が可能な超音波発生装置を含み、前記超音波発生装置から発生された超音波が前記めっき液に伝達された状態の下で、前記触媒処理ユニットから取り出された後の前記基材を前記第二貯留槽内に位置させるものとしても構わない。
【0071】
前記無電解めっき装置は、前記前処理ユニット、前記触媒処理ユニット、及び前記めっき処理ユニットを連絡する搬送路を備え、
前記基材は、前記搬送路上を移動しながら、前記前処理ユニット、前記触媒処理ユニット、及び前記めっき処理ユニットにおける各処理が実行されるものとしても構わない。
【発明の効果】
【0072】
本発明によれば、従来よりも制御性の高い方法で、基材の表面に実質的な凹凸を設けることなく、基材の表面にめっき材が付与されてなる樹脂めっき材が製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【
図1】従来想定されていた、基材に対する紫外線の照射量と基材表面の接触角の関係を模式的に示すグラフである。
【
図2】従来想定されていた、基材に対する紫外線の照射量と、基材表面と他の層との間の接着強度の関係を模式的に示すグラフである。
【
図3】本発明者らの検証により導かれた、大気雰囲気下における基材に対する紫外線の照射量と、基材表面と他の層との間の接着強度の関係を模式的に示すグラフである。
【
図4】大気雰囲気下で基材の表面に所定の強度で紫外線を照射したときの、紫外線の照射時間と基材表面の接触角の関係、及び前記照射時間と接着強度の関係を示すグラフである。
【
図5】Xeエキシマランプの発光スペクトルと、酸素(O
2)及びオゾン(O
3)の吸収スペクトルとを重ねて表示したグラフである。
【
図6】低圧水銀ランプからの紫外線を基材に対して照射した場合の紫外線の進行の様子を模式的に示す図面である。
【
図7】基材を構成する高分子材料の分子鎖を模式的に示す図面である。
【
図8】基材を構成する高分子材料の分子鎖が大幅に切断されて低分子化されている様子を模式的に示す図面である。
【
図9】雰囲気を低酸素濃度とした場合の、基材に対する紫外線の照射量と、基材表面と他の層との間の接着強度の関係を模式的に示すグラフである。
【
図10】低酸素雰囲気下で基材の表面に所定の強度で紫外線を照射したときの、紫外線の照射時間と基材表面の接触角の関係、及び前記照射時間と接着強度の関係を示すグラフである。
【
図11】Xeエキシマランプからの紫外線を基材に対して照射した場合の紫外線の進行の様子を模式的に示す図面である。
【
図12】基材を構成する高分子材料の分子鎖の一部が切断されて空隙が形成されている様子を模式的に示す図面である。
【
図13】本発明に係る無電解めっき装置の構成を模式的に示す機能ブロック図である。
【
図14】無電解めっき装置の一実施形態の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図15】無電解めっき装置の別の一実施形態の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図16】前処理ユニットの構成例を模式的に示す断面図である。
【
図17】前処理ユニットの別の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図18】前処理ユニットの別の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図19】基材の表面に所定の強度で紫外線を照射したときの、紫外線の照射時間と接着強度のピーク値の関係を、雰囲気の酸素濃度別に示すグラフである。
【
図20】制御性の高低を評価するための指標となる「比率」を説明するためのグラフである。
【
図21】微孔層が形成された基材の表面に無電解めっき層が形成された状態を模式的に示す断面図である。
【
図22】無電解めっき層が上面に形成された基材に対して、無電解めっき層との界面から基材の側に向き合って深さ方向に進行しながらTEM-EDS法で分析した結果を示すグラフである。
【
図23】紫外線が照射された基材と未照射の基材のそれぞれに対して、TOF-SIMS法によって基材の構成材料よりも低分子の物質の質量分析を行った結果を示すグラフである。
【
図24A】紫外線が照射された基材と未照射の基材のそれぞれに対して、MSE試験を行った結果を示すグラフである。
【
図25】紫外線が照射された後の基材に対してアルカリ洗浄を行った場合と行わない場合とで基材の表面の接着強度を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0074】
以下において、本発明に係る樹脂めっき材の製造方法、及び無電解めっき装置の実施形態につき、適宜図面を参照して説明する。ただし、以下の各図面は模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比は、実際の寸法比とは必ずしも一致しない。また、図面間においても寸法比が相互に一致しない場合がある。
【0075】
また、以下の図面において、
図11と同一の要素については同一の符号を付して、その説明が簡略化される。
【0076】
本発明に係る樹脂めっき材の製造方法は、絶縁性の樹脂材料を含む基材3を準備する工程(a)と、基材3の表面に対して酸素濃度が0.01体積%~10体積%の雰囲気1中で波長200nm以下の紫外線L10を照射する工程(b)を有する。この工程(b)は、基材3の表面3aを含む処理対象領域(深さ方向の距離d10内の領域)をnmオーダーの大きさの空隙4(
図12参照)を含む微孔層4a(
図21参照)に改質する工程である。
【0077】
更に、本発明に係る樹脂めっき材の製造方法は、工程(b)の後に、微孔層4aに触媒を結合させる工程(c)と、基材の上面に、触媒を介して無電解めっき層を形成する工程(d)を有する。
【0078】
基材3は、絶縁性の樹脂材料であればその種類には限定されず、一例として、ポリイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、シクロオレフィンポリマー、環状オレフィン・コポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、又はエポキシ系樹脂等が挙げられる。基材3は、シート状のフィルムであっても構わないし、板状部材であっても構わない。
【0079】
図13は、本発明に係る樹脂めっき材の製造方法の利用に適した、無電解めっき装置の構成例を模式的に示すブロック図である。無電解めっき装置70は、前処理ユニット71と、触媒処理ユニット73と、めっき処理ユニット75とを含む。
【0080】
前処理ユニット71は、絶縁性の樹脂材料を含む基材3に対して、所定の紫外線を照射するユニットである。前処理ユニット71を通過することで、基材3の表面近傍に対して後述する微孔層4a(
図21参照)が形成される。
【0081】
触媒処理ユニット73は、微孔層4aが表面近傍に形成された基材3に対して、触媒を作用させるユニットである。触媒ユニット73を通過することで、微孔層4aに触媒が結合される。
【0082】
めっき処理ユニット75は、触媒が結合した基材3に対して、めっき材料を付与するユニットである。めっきユニット75を通過することで、基材3の表面に無電解めっき層が形成され、樹脂めっき材が得られる。
【0083】
図14は、無電解めっき装置70の一実施形態の構成を模式的に示すブロック図である。
図14に示す無電解めっき装置70は、処理対象となる基材3を、搬送ローラ41の駆動の下で搬送路40に沿って搬送しながら、基材3の表面に無電解めっき層の形成を行う。
図14の構成は、例えば基材3がフィルム形状である場合が想定される。
図14では、理解の容易化のために、基材3の一部が誇張して図示されている。
【0084】
前処理ユニット71は、光源装置5を含み、搬送路40に沿って搬送された基材3の表面に対して紫外線L10を照射する。前処理ユニット71を通過した後の基材3は、触媒処理ユニット73に送られる。触媒処理ユニット73は、触媒を含む溶液(触媒付与液)61aが貯留された第一貯留槽61を含む。触媒処理ユニット73に送られた基材3は、第一貯留槽61内に貯留された触媒付与液61aに浸漬される。
【0085】
触媒処理ユニット73を通過した後の基材3は、めっき処理ユニット75に送られる。めっき処理ユニット75は、めっき液62aが貯留された第二貯留槽62を含む。めっき処理ユニット75に送られた基材3は、第二貯留槽62内に貯留されためっき液62aに浸漬される。
【0086】
本実施形態では、めっき処理ユニット75は、超音波81aを発生可能な超音波発生装置81を備えている。基材3がめっき液62aに浸漬されている間、超音波発生装置81から発せられた超音波81aが、めっき液62aを介して基材3に伝達される。
【0087】
なお、
図14では図示が省略されているが、無電解めっき装置70は、触媒処理ユニット73及びめっき処理ユニット75以外のユニットを備えていても構わない。一例として、基材3の表面電位を調整するユニット、処理後の基材3を水洗処理するユニット、基材3を活性化するユニット等が必要に応じて適宜備えられる。
【0088】
なお、
図14では、前処理ユニット71、触媒処理ユニット73、及びめっき処理ユニット75が、ラインで基材3を処理する構成の場合が例示されている。しかし、これらの処理ユニットの1つ以上が、バッチ式で基材3を処理する構成であっても構わない。
図15は、触媒処理ユニット73及びめっき処理ユニット75が、バッチ式で基材3を処理する場合の構成を模式的に示す図面である。基材3が板状体である場合には、
図15に示すようなバッチ式の処理が好適に利用できる。
【0089】
図15に示すように、支持部材65に連結されたホルダ66を備え、このホルダ66よって固定された基材3が、ホルダ66の移動によって、触媒処理ユニット73に備えられた第一貯留槽61内の触媒付与液61aに浸漬されるものとしても構わない。この場合、所定時間経過後に、ホルダ66が移動することで、第一貯留槽61から基材3が取り出され、後段の処理ユニット(ここではめっき処理ユニット75)に移送される。
【0090】
めっき処理ユニット75においても、同様に、ホルダ66の移動によって、基材3が第二貯留槽62内のめっき液62aに所定時間にわたって浸漬された後、第二貯留槽62から基材3が取り出される。基材3がめっき液62aに浸漬されている間、超音波発生装置81から発せられた超音波81aが、めっき液62aを介して基材3に伝達される。
【0091】
図16は、前処理ユニット71の一構成例を模式的に示す図面である。
図16に示す前処理ユニット71は、処理対象となる基材3を搬送路40に沿って搬送しながら基材3の表面処理を行う。
【0092】
前処理ユニット71は、Xeエキシマランプ10を含む光源装置5を含む。光源装置5には照射窓6が付設されており、Xeエキシマランプ10からの紫外線L10が、照射窓6を介して搬送路40側に照射される。照射窓6は、紫外線L10を透過する部材であれば材質は不問であり、例えば合成石英ガラスで構成される。なお、光源装置5は、Xeエキシマランプ10が設置されている空間に窒素ガスが封入されているものとしてもよい。
図16に示す例では、窒素ガス源34から、Xeエキシマランプ10が設置されている空間内に、窒素ガスが導入される。この例では、排気口35が設けられており、処理時においては、窒素ガス源34から窒素ガスが常時流し続けられる場合が想定されている。ただし、この態様はあくまで一例である。
【0093】
搬送路40上に載置された基材3は、搬送路40に沿ってdX方向に移動しながら搬入口18を介して内側に取り込まれ、照射窓6に対面する箇所に接近する。その後、基材3は更にdX方向に移動しながら、照射窓6を介して紫外線L10が照射され、搬出口19より外部に取り出される。その後、基材3は、上述した後段の処理ユニット(触媒処理ユニット73等)に送られる。
【0094】
基材3が板状体である場合には、搬送路40は例えば複数の搬送ローラを備える構造を採用できる。また、基材3がシート状のフィルムである場合には、搬送路40は例えばシート状のフィルムが巻き出し用ロールと巻き取り用ロールとの間に張設され、巻き出し用ロールから巻き取り用ロールに巻き取られる構造のものを採用できる。
【0095】
光源装置5は、紫外線L10の光軸方向に関して照射窓6が搬送路40上の基材3と近接する位置に配置される。具体的には、照射窓6と基材3との離間距離は、1mm~50mmであるのが好ましく、2mm~10mmであるのがより好ましい。
【0096】
なお、ここでは、光源装置5が備える紫外光源がXeエキシマランプ10であるものとして説明するが、上述したように、ピーク波長が200nm以下の紫外線を発する光源であれば、Xeエキシマランプ10には限定されない。例えば、LEDやレーザダイオード等の固体光源であっても構わない。
【0097】
前処理ユニット71は、窒素ガス源31と、酸素含有ガス源32と、ガス混合器33とを備える。窒素ガス源31は、窒素ガスが封入されたガス源である。酸素含有ガス源32は、酸素を含むガスが封入されたガス源であり、典型的な一例としてはCDA(清浄乾燥空気)が封入されている。ガス混合器33は、窒素ガス源31からの窒素ガスと、酸素含有ガス源32からの酸素含有ガスの流量比を調整しながら混合して処理空間用ガスを生成し、送出する。ガス混合器33から送出されたこの処理空間用ガスが、基材3の雰囲気1を構成する。
図16は、この処理空間用ガスの流れる方向が基材3の流れる方向(dX方向)と同一方向である場合を例示するが、反転していても構わない。すなわち、窒素ガス源31からの窒素ガスと、酸素含有ガス源32からの酸素含有ガスとの混合ガスで構成される処理空間用ガスが、基材3の流れに逆らって、言い換えれば搬送路40における搬送方向の下流側から上流側に向かって、導入されるものとしても構わない。
【0098】
なお、上述したように、前処理ユニット71が窒素ガス源34を備える場合、窒素ガス源34は、窒素ガス源31と共通化しても構わない。
【0099】
なお、基材3が通過する空間内に不図示の酸素濃度検出器(図示せず)を設置し、同空間の雰囲気1の酸素濃度が所定の一定値になるよう、ガス混合器33がフィードバック制御されてもよい。後述する
図17に示す前処理ユニット71においても同様である。
【0100】
ガス混合器33は、基材3の雰囲気1が低酸素濃度となるように混合比が調整される。具体的には、雰囲気1の酸素濃度は0.01体積%~10体積%であり、より好ましくは0.01体積%~5体積%であり、特に好ましくは、0.1体積%~5体積%である。
【0101】
前処理ユニット71は、好ましくはサブチャンバー21,22を備える。サブチャンバー21,22は、処理空間から搬入口18又は搬出口19を介して漏洩する気体を強制的に外部に排気する。
【0102】
前処理ユニット71によれば、基材3は、搬送路40上を移動中に紫外線L10が照射されることで、基材3の表面近傍の領域が空隙4(
図12参照)を含む微孔層4a(
図21参照)に改質される。
【0103】
なお、
図16に示す前処理ユニット71の構成では、Xeエキシマランプ10が収容されている空間(光源装置5)と、基材3が通過する空間とは分離されていたが、
図17に示すように、両者が同一の空間内(処理空間8)に配置されていても構わない。
図17は、本発明に係る表面改質方法を実施するシステムの別の一構成例を、
図16にならって模式的に示す図面である。
【0104】
図17に示す前処理ユニット71は、ガス混合器33から送出された処理空間用ガスが、ガス供給管16を介して、処理空間8内に供給される。なお、
図17に示す前処理ユニット71の場合、処理空間8内のガスを強制的に外部に排気するためのガス排出口17を設けるのが好ましい。処理開始時に、いったんガス排出口17を介して処理空間8内のガスを排出した後、ガス混合器33から送出された低酸素濃度の混合ガスが、ガス供給管16を介して処理空間8内に供給されることで、基材3の雰囲気1を低酸素濃度にすることができる。
【0105】
この場合、
図17に示すように、サブチャンバー21,22を搬送路40を挟むように上下2箇所に設けるのが好適である。
【0106】
基材3の表面処理は、必ずしも搬送しながら行う必要はない。すなわち、
図16及び
図17に示す前処理ユニット71の場合であっても、Xeエキシマランプ10からの紫外線L10が照射される箇所に基材3を搬送した後、搬送路40をいったん停止させた状態で紫外線L10を照射してもよい。
【0107】
また、
図18に示すように、閉塞されたチャンバ7内で基材3に対して紫外線L10を照射するものとしても構わない。なお、
図18に示す前処理ユニット71では、
図16に示す前処理ユニット71と同様に、Xeエキシマランプ10が収容される空間7aと、基材3が載置される空間7bとが分離されている。基材3が載置される空間7bには、ガス混合器33から送出された低酸素濃度の処理空間用ガスが供給される。また、Xeエキシマランプ10が収容される空間7aには、
図16で例示した構成と同様に、窒素ガス源34から窒素ガスが導入される。この場合においても、空間7b内のガスを強制的に排気するためのガス排出口17を設けるのが好ましい。窒素ガス源34は、窒素ガス源31と共通化してもよい。
【0108】
図16~
図18に例示された前処理ユニット71によって紫外線L10が照射された後の基材3は、表面3aの近傍において、基材3を構成する高分子鎖が切断されて空隙4(
図12参照)を含む微孔層4a(
図21参照)に改質される。このときに、表面3aの近傍の一部箇所において、基材3を構成する樹脂と比べて分子量が極めて低い分子鎖が副次的に生成されることがある。そこで、紫外線L10が照射された後の基材3を取り出して、アルカリ洗浄処理、温水洗浄処理、又は乾燥処理等を施すことで、この低分子量成分を除去するものとしても構わない。この中では、アルカリ洗浄処理が特に好ましい。
【0109】
アルカリ洗浄処理としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ溶液内に、紫外線L10照射後の基材3を浸漬する方法が採用できる。このアルカリ溶液のアルカリ濃度は、4%~20%が好ましく、8%~12%がより好ましい。また、アルカリ溶液の温度は、40℃~80℃が好ましく、60℃~70℃が特に好ましい。アルカリ溶液の温度が40℃未満であると、洗浄能力が充分に発現せず、また80℃を超えると、アルカリ成分が気化しやすくなる。基材3のアルカリ溶液に対する浸漬時間は特に限定されないが、典型的には10秒以上であれば低分子材料の除去効果が期待される。
【0110】
つまり、アルカリ洗浄処理を行う場合には、前処理ユニット71と触媒処理ユニット73との間に、アルカリ洗浄処理ユニット(不図示)が設けられるものとして構わない。このアルカリ洗浄処理ユニットは、触媒処理ユニット73と同様に、所定の薬液(ここでは上述したアルカリ溶液)が貯留された貯留槽を備え、前処理ユニット71を通過した後の基材3をアルカリ溶液に浸漬できる構成であればよい。
【実施例0111】
以下、本発明についてさらに詳細に説明するために具体的な試験例を示すが、本発明はこれら試験例の態様に限定されるものではない。
【0112】
(検証1:雰囲気の酸素濃度)
図10を参照して上述した測定方法と同様の方法によって、紫外線L10の照射時間と基材3の接着強度の関係を測定した。すなわち、検証方法は以下の通りである。
【0113】
基材3のサンプルとして、ポリイミド樹脂(東レデュポン社製:Kapton 100EN-C)が準備された。このサンプルに対して、光照射装置(ウシオ電機社製:SVC 232 Series、ピーク波長172nm)を用い、雰囲気の酸素濃度を0.01体積%、0.1体積%、0.5体積%、1体積%、5体積%、10体積%、及び21体積%の7パターンで異ならせた状態で、それぞれ照射距離(離間距離)3mmの箇所からサンプルの表面に紫外線L10が照射された。なお、酸素濃度が21体積%の雰囲気とは、
図6に示す大気100に対応する。なお、上記の光照射装置は、Xeエキシマランプ10を搭載している。
【0114】
照射時間を異ならせながら各サンプルに紫外線L10を照射した後、同じサンプルの照射面同士を、接着シート(東亞合成社製、アロンマイテイAF-700)を介して貼り合わせ、100℃下でラミネートした。その後、圧力2MPa~3MPaで押圧しながら180℃下で30分間にわたって圧着処理を行った。圧着後に得られた貼り合わせサンプルに対して、JISK 6854-3に準ずる方法によって、接着強度のピーク値を測定した。
【0115】
図19は、この接着強度のピーク値の相対値を縦軸とし、紫外線L10の照射時間を横軸としてグラフ化したものである。
【0116】
図19によれば、大気雰囲気下で基材3に対して紫外線L10を照射した場合と比べて、酸素濃度が低い雰囲気下で紫外線L10を照射した場合の方が、照射時間が長くなることによる接着強度の低下の速度が緩和されていることが分かる。具体的には、大気雰囲気の場合、約6秒の照射時間で接着強度が最大値となり、照射時間が更に約6秒長くなることで、接着強度がピーク値の50%未満に低下した。
【0117】
これに対し、酸素濃度が10体積%以下の雰囲気においては、接着強度がピーク値に達する照射時間を経過してから更に20秒間にわたって紫外線L10を照射し続けても、接着強度がピーク値の50%以上を示す。特に、
図19の結果によれば、酸素濃度を低くするほど、照射時間が長くなることに伴う接着強度の低下の程度は抑制できていることが分かる。
【0118】
図19の結果からは、雰囲気の酸素濃度を大気(21%)から低下させることで、接着強度をピーク値に近い強度にするために照射できる紫外線L10の許容時間を長くできることが分かる。言い換えれば、接着強度をピーク値にするために必要な照射時間に対する前記許容時間の比率が高いほど、基材3に対して高い接着強度を付与するための紫外線L10の照射時間の自由度が向上する。つまり、前記比率が高いほど基材3に対する改質処理を行う際の制御性が向上することになる。よって、この比率の値によって、制御性の高低を評価することができる。
【0119】
図20は、制御性の高低を評価するための指標となる「比率」を説明するためのグラフである。接着強度を議論する際のばらつき度合いの許容値は5%とされるのが一般的である。このため、基材3の接着強度をピーク値にするために必要な照射時間tpを基準としたときの、前記接着強度をピーク値に近い強度(すなわちピーク値の95%以上)にするために照射できる紫外線L10の許容時間τ95の比率(τ95/tp)によって、制御性の高低を評価できる。また、別の方法としては、基材3の接着強度をピーク値にするために必要な照射時間tpが10秒以上を示す場合には、照射時間のずれが10秒以上許容されることから、制御性が高いと判定できる。
【0120】
下記表1は、
図19の結果に基づいて、雰囲気の酸素濃度に応じて上記方法によって比率(τ95/tp)を算定し、この値に基づいて基材3に対する表面処理の制御性の高低を評価した結果である。表1では、比率(τ95/tp)が0.3以上を示しており制御性が高いものを「評価A」、制御性が低いものを「評価C」とされている。
【0121】
【0122】
表1によれば、雰囲気の酸素濃度を大気よりも低下させることで、比率(τ95/tp)を0.5以上か、又は許容時間τ95を10秒以上にすることができる。この結果、照射時間を精緻に制御することなく、基材3の表面3a近傍のみを改質することが可能となる。
【0123】
(検証2:微孔層の確認)
紫外線L10を照射した後の基材3に対して、触媒を付与した後、無電解めっき層が形成されることで、絶縁性の基材3の表面に導電層が形成される。
図21は、無電解めっき層50が基材3の表面に形成された状態(すなわち、「樹脂めっき材51」)を模式的に示す断面図である。
【0124】
上述した方法によって基材3の表面に紫外線L10が照射されることで、基材3の表面3aの近傍が改質されて、空隙4(
図12参照)を含む微孔層4aが形成される。この状態で触媒が付与されると、微孔層4a内の空隙4に触媒寄与化合物が取り込まれると考えられる。
【0125】
よって、
図21に示すように、基材3の表面3a(基材3と無電解めっき層50との界面)から、基材3側に向かって深さ方向dZに進行しながら基材3の断面を分析したときに、基材3の内部に触媒に由来する物質を検出することができれば、基材3の表面3a近傍に空隙4が存在していたこと、言い換えれば微孔層4aが形成されていたことの証明となる。
【0126】
酸素濃度0.1%の雰囲気1の下で基材3に対して、検証1と同様の方法で紫外線L10を照射した後、以下の方法で無電解めっき層50を形成した。ただし、この検証では、基材3としてエポキシ系樹脂が利用されている。
【0127】
紫外線L10が照射された後の基材3を、すぐにコンディショナー液M1に浸漬して、脱脂処理と共に、基材3の表面電位をカチオンに調整した。次に、水洗処理の後、基材3をプリディップ液M2に浸漬して、基材3の表面電位をアニオンに調整した。次に、触媒付与液M3に浸漬して基材3の表面に触媒錯体を付与した。次に、水洗処理の後、基材3を活性化処理液M4に浸漬して、触媒錯体を金属に還元した。次に、水洗処理の後、基材3を無電解金属めっき液M5に浸漬することで、触媒を介して金属イオンを還元し、基材3の表面に無電解金属皮膜を形成した。なお、基材3を触媒付与液M3に浸漬する工程が工程(c)に対応し、基材3を無電解金属めっき液M5に浸漬する工程が、工程(d)に対応する。なお、基材3を準備する工程が工程(a)に対応し、基材3に対して紫外線L1を照射する工程が工程(b)に対応する。つまり、工程(a)~(d)を経て、基材3から樹脂めっき材51が製造される。
【0128】
なお、基材3を各薬液に浸漬する際には、それぞれの薬液が貯留された薬液ポッド内に、基材3を所定時間(数秒~数分)ディップさせた後、取り出すことで行われた。また、水洗処理については、洗浄水(純水)が貯留された洗浄用ポッド内に基材3を所定時間(数秒~数分)ディップさせた後、取り出すことで行われた。
【0129】
利用された各薬液は、以下の通りであった。
・コンディショナー液M1:OPC-370コンディクリーンELA(奥野製薬工業社製)
・プリディップ液M2:OPCプリディップ49L(奥野製薬工業社製)及び98%硫酸の混合液
・触媒付与液M3:OPC-50インデューサーAM及びOPC-50インデューサーCM(いずれも奥野製薬工業社製)の混合液
・活性化処理液M4:OPC-150クリスターRW(奥野製薬工業社製)及びホウ酸の混合液
・無電解金属めっき液M5:ATSアドカッパーIW-A、ATSアドカッパーIW-M、ATSアドカッパーIW-C、及び無電解銅R-N(いずれも奥野製薬工業社製)の混合液
【0130】
図22は、基材3と無電解めっき層50の界面をTEM-EDS(日本電子社製、JEM-2100PLUS)で分析した結果を示すグラフである。
図22において、横軸は、基材3と無電解めっき層50との界面から深さ方向dZへの進行距離(nm)を示す。また、
図22において、縦軸は、触媒を構成する物質であるパラジウム(Pd)の検出カウント数を有効時間で除した値(cps/ROI)であり、この値が大きいほどPdの量が多いことを意味する。
【0131】
図22によれば、基材3と無電解めっき層50との界面から、基材3側へ深さ方向dZへ30nm進行した領域には、触媒由来のPdが存在していることが分かる。
図22の結果から、基材3に空隙4が形成されてなる微孔層4aの厚みは30nm~40nmの範囲内であると推定される。
【0132】
ところで、基材3に対して紫外線L10が照射されると、上述したように、基材3を構成する高分子鎖の一部が切断され、副次的に低分子量の物質が生成される。このため、紫外線L10の照射後の基材3をTOF-SIMS法によって質量分析することで、基材3を構成する高分子材料とは異なる物質が検出されると予想される。そして、紫外線L10が基材3の表面3aの近傍にしか届いていない場合には、この領域にのみ低分子物質が検出されると予想される。
【0133】
基材3として、下記(9)式で規定される液晶ポリマー樹脂を準備し、上記と同様の方法により、酸素濃度0.1体積%の雰囲気1の下で基材3に対して紫外線L10を照射した。次に、Arガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB)により、基材3の表面に対してスパッタリングを行いながら、TOF-SIMS法によって質量分析を行った。スパッタリング及び質量分析は、共にION-TOF社製、TOF.SIMS5によって行った。なお、比較のために、同じ材料からなる基材3について、紫外線L10を照射しない状態で同様の方法で質量分析を行った。
【0134】
質量分析に際しては、(9)式で規定される液晶ポリマー樹脂の一部の分子鎖が切断されることで得られると推定される、C
6H
5Oのスペクトル強度を用いて規格化した。この結果を
図23に示す。
【0135】
【0136】
紫外線L10を照射していない基材3については、原理的にC
6H
5O由来の信号は発生しない。一方、
図23の結果によれば、紫外線L10が照射された基材3から発生したC
6H
5O由来の信号の強度は、深さ方向に進行するに連れて低下していることが確認される。そして、紫外線L10が照射された基材3から発生したC
6H
5O由来の信号の強度が、紫外線L10を照射していない基材3のC
6H
5O由来の信号の強度と同程度を示す深さ位置に達すると、もはやこれよりも深い領域には紫外線L10が実質的に照射されていないことが示唆される。
【0137】
つまり、
図23の結果からは、基材3のうち、表面3aから深さ方向に約50nmの領域にわたって、微孔層4aに改質されたことが示唆される。
【0138】
上述したように、基材3に対して紫外線L10が照射されると、基材3を構成する高分子鎖の一部が切断される。このため、紫外線L10が照射される前と比較すると、基材3の表面近傍については強度が低下すると考えられる。そこで、基材3の深さ方向の強度を、MSE(Micro Slurry-jet Erosion)試験により評価した。
【0139】
MSE試験とは、固体微粒子を用いた衝突摩耗試験であり、試験片の表面の同一箇所に一定量の微粒子を投射して、衝突によるエロージョン摩耗を発生させ、摩耗した深さを計測する試験である。深さ計測と形状測定を繰り返し行ってグラフを作成すると、基材表面に硬さの異なる層が存在する場合には、摩耗進行速度が変化することから、異なった傾きを持つグラフとなる。
【0140】
基材3として、検証1で利用されたものと同様、ポリイミド樹脂(東レデュポン社製:Kapton 100EN-C)が準備された。この基材3に対して、上記と同様の方法により、酸素濃度0.1体積%の雰囲気1の下で紫外線L10を照射した。次に、噴射装置を用いて、基材3の表面に対してアルミナ粒子を含むスラリージェットを局所的に吹き付けた後、噴射により形成された局所の最大摩耗深さを形状測定器で測定した。そして、噴射を受けた局所の投射粒子量に対する摩耗の度合い(深さ)の割合から、エロージョン率(=最大摩耗深さμm/投射粒子量g)を算出した。なお、投射粒子量は、アルミナ粒子を含むアルミナスラリーについての予め設定された関係から、スラリー流量に基づいて算出された値が採用された。
【0141】
検証に利用された装置は、以下の通りである。
・噴射装置:スラリー局所噴射摩耗装置(パルメソ社製、MSE-A)、ノズル径1mm×1mm,投射距離4mm
・形状測定器:触針式形状計測器(小坂研究所社製、PU-EU1)、触針子先端R=2μm,荷重80μN,計測倍率20,000,測長1mm,計測速度0.1mm/sec
【0142】
図24Aは、縦軸を深さ(エロージョン深さ)、横軸をエロージョン率として表記したグラフである。なお、検証の際には、基材3として、(b)紫外線L10の照射時間が25秒とされた場合、(c)前記照射時間が120秒とされた場合、及び(a)比較のために紫外線L10が照射されていない場合、の3種類が利用された。
【0143】
上記の定義から、エロージョン率が高いということは、同一量の投射粒子量の元で摩耗された深さが深いということを意味するため、その時間内にスラリージェットが吹き付けられた深さ方向の領域の基材3の機械的強度が弱いことを意味する。逆に、エロージョン率が低いということは、同一量の投射粒子量の元で摩耗された深さが浅いということを意味するため、その時間内にスラリージェットが吹き付けられた深さ方向の領域の基材3の機械的強度が強いことを意味する。
図24Aには、理解の便宜のため、機械的強度の「強弱」が模式的に付記されている。
【0144】
図24Aによれば、紫外線L10が照射された基材3に対応するグラフ(b,c)は、表面近傍の箇所で傾斜しており、ある値まで深さ方向に進行した後は、紫外線L10が未照射の基材3に対応するグラフ(a)とほぼ同じ傾きを示していることが分かる。この結果は、紫外線L10が照射されたことで、基材3の表面近傍が、深い箇所と比べて強度が低下傾向を示していることを意味する。つまり、紫外線L10が照射されたことで、基材3の表面3a付近に微孔層4aが形成されていることが示唆される。
【0145】
なお、紫外線L10が未照射の場合であっても、表面3aのごく近くの箇所で少し強度が低下しているが、これは、樹脂の製造過程で生じたものであると考えられる。
【0146】
図24Bは、
図24Aのグラフに近似線を重ねて図示したものである。近似線k1は、紫外線L10が照射されていない基材3(ポリイミド樹脂)の本来の強度に対応する試験結果の近似線である。近似線k2及びk3は、それぞれ紫外線L10が照射された基材3による結果のグラフのうちの、近似線k1と比べて大幅に傾きが変曲している領域の近似線に対応する。
【0147】
近似線k1と、近似線k2及びk3とを対比することにより、近似線k2及びk3によって示される深さ領域が、紫外線L10が照射されたことで基材3の強度が低下した領域、すなわち微孔層4aが形成されている領域であることが理解される。よって、紫外線L10を25秒間照射した基材3においては、近似線k1と近似線k2との交点の位置における深さ領域まで、微孔層4aが形成されていると結論付けられる。同様に、紫外線L10を120秒間照射した基材3においては、近似線k1と近似線k3との交点の位置における深さ領域まで、微孔層4aが形成されていると結論付けられる。
【0148】
図24Bの結果によれば、基材3としてポリイミド樹脂を用い、紫外線L10を25秒間照射すると、基材3のうちの表面3aから深さ方向に約30nmの領域にわたって、微孔層4aに改質されたものと推定できる。同様に、基材3としてポリイミド樹脂を用い、紫外線L10を120秒間照射すると、基材3のうちの表面3aから深さ方向に約50nmの領域にわたって、微孔層4aに改質されたものと推定できる。
【0149】
(検証3:アルカリ溶液による洗浄)
基材3に対して紫外線L10による処理を行った後、アルカリ洗浄を行うことによる効果を検証した。基材3のサンプルとしては、検証1と同様の材料が用いられた。
【0150】
サンプルの表面に対して、紫外線照射装置(ウシオ電機社製:SVC 232 Series、ピーク波長172nm)を用い、酸素濃度が0.2体積%の雰囲気下で、照射距離3mmの箇所から紫外線L10を照射した。その後、アルカリ洗浄処理を行わずに検証1と同様の方法で接着強度のピーク値を測定したものを実施例8とし、アルカリ洗浄処理を行った後に検証1と同様の方法で接着強度のピーク値を測定したものを実施例9として、接着強度の対比を行った。この結果を
図25に示す。
図25には、比較のために、紫外線L10の照射処理を行っていないサンプルの接着強度のピーク値が、比較例2として示されている。
【0151】
なお、実施例9は、具体的には以下の方法でアルカリ洗浄処理が行われた。
【0152】
紫外線L10が照射された後のサンプル(基材3)を、65℃に加熱されたモル濃度2.5 mol/L(10質量%濃度)NaOH水溶液に2分間浸漬させた。その後、サンプルを取り出した後、純水に1分間浸漬させて洗浄した。なお、このアルカリ洗浄処理を実行する工程が、工程(e)に対応する。
【0153】
図25によれば、基材3に対して紫外線L10による処理を行った後、アルカリ洗浄を行うことで、基材3の接着強度が更に上昇することが分かる。アルカリ洗浄が行われていない実施例8のサンプルの場合、紫外線L10の照射により副次的に生成された低分子鎖に、接着シートに含まれる接着剤の分子が結合する。この接着剤の分子は、貼り合わせに伴う接着には寄与しない。つまり、導入された接着剤のうちの一部が、基材3と他の層との間の接着に寄与していないことで、実施例9よりも接着強度が低下したものと推定される。
【0154】
実施例9の場合、基材3に対して紫外線L10による処理を行った後、アルカリ洗浄が行われることで、低分子鎖が除去された基材3の表面に接着シートを介して貼り合わせが行われる。この結果、導入された接着剤の殆どを、紫外線L10による処理によって生じた微孔層4a(
図21参照)内の空隙4(
図12参照)に取り込むことができる。これにより、実施例8よりも更に接着強度が上昇したものと考えられる。
【0155】
かかる観点から、紫外線による処理を行った後、アルカリ洗浄以外の方法で低分子材料を除去することでも、同様に接着強度を更に高める効果が得られると考えられる。
【0156】
なお、この検証3では、接着剤を用いて接着強度の検証が行われたが、微孔層4a内の空隙4内に、接着を実現するための材料を結合させるという観点からは、触媒による接着の場合と同様の議論が可能である。つまり、無電解めっき層を形成する場合であっても、アルカリ洗浄処理を事前に行うことで、接着強度をより高める効果が得られることが推定される。
【0157】
(検証4:超音波振動を付与しためっき処理)
めっき処理ユニット75におけるめっき処理時に、超音波81aを付与することによる効果を検証した。
【0158】
実施例10: 酸素濃度0.1%の雰囲気1の下で基材3に対して紫外線L10を照射した後、検証2に準じた方法で無電解めっき層50を形成した。ただし、基材3としては、検証1と同様のポリイミド系樹脂(東レデュポン社製:Kapton 100EN-C)が用いられた。このため、めっき処理時に利用された薬液は、検証2とは異なり、以下の通りとされた。
・コンディショナー液M1:トップSAPINAプリコンディショナー(奥野製薬工業社製)
・プリディップ液M2:トップSAPINAプリディップ(奥野製薬工業社製)及び98%硫酸の混合液
・触媒付与液M3:トップSAPINAキャタリストA及びトップSAPINAキャタリストC(いずれも奥野製薬工業社製)の混合液
・活性化処理液M4:トップSAPINAアクセレーター(奥野製薬工業社製)及びホウ酸の混合液
・無電解金属めっき液M5:トップSAPINAカッパーA、トップSAPINAカッパーB、トップSAPINAカッパーC、トップSAPINAカッパーD、(いずれも奥野製薬工業社製)及び25%アンモニア水の混合液
【0159】
ただし、この検証4においては、基材3を無電解金属めっき液M5に浸漬する際に、超音波発生装置81を駆動させて、超音波81aを無電解金属めっき液M5に伝達させた。超音波発生装置81としては、アズワン社製、MCS-2が用いられ、40kHzの周波数で5分間にわたって超音波81aが入力された。
【0160】
実施例11: 超音波発生装置81を駆動しなかった点を除き、実施例10と同様の方法で基材3に対してめっき処理が行われた。
比較例3: 前処理としての紫外線L10の照射を行わなかった点を除き、実施例10と同様の方法で基材3に対してめっき処理が行われた。
比較例4: 超音波発生装置81を駆動しなかった点を除き、比較例3と同様の方法で基材3に対してめっき処理が行われた。
【0161】
実施例10、実施例11、比較例3、及び比較例4のそれぞれの基材を利用して得られた樹脂めっき材の表面を、照明しながら顕微鏡による観察を行った。この結果を、表2に示す。
【0162】
【0163】
比較例3の樹脂めっき材は、めっき表面に複数のピンホールが確認された。また、比較例4の樹脂めっき材は、表面からめっきが剥がれており、めっき不良が確認された。
【0164】
実施例10の樹脂めっき材は、ピンホールが確認されなかった。実施例11の樹脂めっき材は、比較例3と同様にピンホールが確認された。しかし、実施例11の樹脂めっき材は、下記のとおり、比較例3と比べてめっきの接着力が強く、比較例3よりは樹脂めっき材としての性能が優れている。
【0165】
実施例11と比較例3の両者の樹脂めっき材に対して、それぞれ公知の方法を用いて電解銅めっき層を形成した後、JIS C 6471:1995(フレキシブルプリント配線板用銅張積層板試験方法)に規定の試験方法Aに準じて、引きはがし強さを計測した。その結果、実施例11の樹脂めっき材の引きはがし強さは9.5N/cmであったのに対し、比較例3の樹脂めっき材の場合は8.0N/cmであった。
【0166】
超音波発生装置81を用いて、超音波81aを無電解金属めっき液M5に伝達させる場合、超音波81aの周波数は、10kHz~200kHzが好ましく、20kHz~100kHzがより好ましい。200kHzを超える程度の高い周波数の超音波81aが無電解金属めっき液M5に伝達された場合、樹脂めっき材に吸着した触媒粒子やその凝集体が除去され、無電解めっき層50(
図21参照)が形成されないおそれがある。他方、超音波81aの周波数が10kHzを下回る程度に低い場合には、振動のエネルギーが十分でなく、基材3の基材の表面に付着していた気泡を除去できない場合がある。
【0167】
上記実施形態では、無電解めっき層を形成する工程(d)の実行時に、超音波81aを付与する場合を説明したが、超音波81aを付与しない場合も本発明の範囲内である。