(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080488
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】塩素バイパスダストからの貴金属回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/02 20060101AFI20230602BHJP
C22B 11/00 20060101ALI20230602BHJP
C22B 3/16 20060101ALI20230602BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230602BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20230602BHJP
C22B 3/20 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C22B7/02 B
C22B11/00 101
C22B3/16
C22B3/44 101Z
C22B3/22
C22B3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193861
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 浩平
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 建
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】三浦 啓一
(72)【発明者】
【氏名】松野 泰也
(72)【発明者】
【氏名】吉村 彰大
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA01
4K001AA04
4K001AA09
4K001AA34
4K001AA35
4K001AA41
4K001BA14
4K001CA06
4K001DB11
4K001HA10
4K001HA12
(57)【要約】
【課題】塩素バイパスダストから貴金属を効率よく回収する方法を提供すること。
【解決手段】塩素バイパスダストと、非プロトン性極性有機溶媒とを含む混合液を加熱撹拌する第1の工程と、
第1の工程後の混合液を濾過する第2の工程と、
第2の工程で分離した濾液と、無機酸水溶液とを混合し、混合液を濾過して析出物を回収する第3の工程
を含む、塩素バイパスダストからの貴金属回収方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素バイパスダストと、非プロトン性極性有機溶媒とを含む混合液を加熱撹拌する第1の工程と、
第1の工程後の混合液を濾過する第2の工程と、
第2の工程で分離した濾液と、無機酸水溶液とを混合し、混合液を濾過して析出物を回収する第3の工程
を含む、塩素バイパスダストからの貴金属回収方法。
【請求項2】
第3の工程後、第3の工程で分離した濾液と、還元剤とを混合し、混合液を濾過して析出物を回収する第4の工程を含む、請求項1記載の貴金属回収方法。
【請求項3】
非プロトン性極性有機溶媒がジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN-メチルピロリドンから選択される1以上である、請求項1又は2記載の貴金属回収方法。
【請求項4】
第1の工程において、塩素バイパスダストの質量に対して1.0質量倍以上の非プロトン性極性有機溶媒を混合する、請求項1~3のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項5】
第1の工程において、混合液を60~140℃の温度で撹拌する、請求項1~4のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項6】
第2の工程において、濾液のpHが4以下となる量の無機酸水溶液と混合する、請求項1~5のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項7】
無機酸水溶液が塩酸水溶液又は硫酸水溶液である、請求項1~6のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項8】
第4の工程において、濾液に対して0.01質量倍以上の還元剤と混合する、請求項2~7のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項9】
還元剤がアスコルビン酸、亜硫酸ソーダ及び硫酸第一鉄から選択される1以上である、請求項2~8のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項10】
第1の工程における混合液がハロゲン化銅及びハロゲン化アルカリ金属から選択される1以上のハロゲン化金属を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項11】
第1の工程における混合液中のハロゲン化金属の含有量が0.1~0.6mol/Lである、請求項1~10のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項12】
塩素バイパスダストが水洗物である、請求項1~11のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【請求項13】
貴金属が金及び/又は銀を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の貴金属回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素バイパスダストからの貴金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカをセメントキルンにて焼成すると、セメント原料や燃料から持ち込まれる塩素、アルカリ、硫黄等の揮発性成分は、プレヒータ系内で循環することで順次濃縮される。揮発性成分の中で特に塩素がプレヒータの閉塞等の問題を引き起こす原因となり得ることから、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気して塩素を除去する塩素バイパスシステムが採用されている。そして、排ガスに含まれるダストの中で微粉側に塩素が偏在していることから、ダストを分級機によって粗紛と微粉とに分離し、粗粉をセメントキルンに戻すとともに、分離された塩化カリウム等を含む微粉(塩素バイパスダスト)をセメント粉砕工程で塩素濃度の規定値を超えない範囲で添加し、セメント原料として再利用することが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、廃棄物のセメント原料化及び燃料化によるリサイクルが推進され、セメント工場で処理している廃棄物は、都市ごみ焼却主灰や、自動車シュレッダーダスト(ASR)、下水汚泥焼却灰等多岐にわたる。そのため、廃棄物の処理量が増加するにしたがい、セメントキルンに持ち込まれる塩素、硫黄、アルカリ等の揮発性成分の量も増加し、塩素バイパスダストの発生量も増加している。そのため、発生する塩素バイパスダストをすべてセメント製造工程で利用することが困難であり、今後塩素バイパスダストの発生量も更に増加することが予測されることから、新たな有効活用法の開発が急務となっている。
本発明の課題は、塩素バイパスダストから貴金属を効率よく回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
塩素バイパスダストには貴金属が含まれているところ、本発明者らは、塩素バイパスダストと特定の有機溶媒とを混合すると、混合液中で貴金属の溶解が進行して抽出されやすくなり、それを無機酸水溶液や還元剤を用いて処理することで、貴金属を効率よく選択的に回収できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔13〕を提供するものである。
〔1〕塩素バイパスダストと、非プロトン性極性有機溶媒とを含む混合液を加熱撹拌する第1の工程と、
第1の工程後の混合液を濾過する第2の工程と、
第2の工程で分離した濾液と、無機酸水溶液とを混合し、混合液を濾過して析出物を回収する第3の工程
を含む、塩素バイパスダストからの貴金属回収方法。
〔2〕第3の工程後、第3の工程で分離した濾液と、還元剤とを混合し、混合液を濾過して析出物を回収する第4の工程を含む、前記〔1〕記載の貴金属回収方法。
〔3〕非プロトン性極性有機溶媒がジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN-メチルピロリドンから選択される1以上である、前記〔1〕又は〔2〕記載の貴金属回収方法。
〔4〕第1の工程において、塩素バイパスダストの質量に対して1.0質量倍以上の非プロトン性極性有機溶媒と混合する、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の貴金属回収方法。
〔5〕第1の工程において、混合液を60~140℃の温度で撹拌する、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の貴金属回収方法。
〔6〕第2の工程において、濾液のpHが4以下となる量の無機酸水溶液と混合する、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の貴金属回収方法。
〔7〕無機酸水溶液が塩酸水溶液及び硫酸水溶液から選択される1以上である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一に記載の貴金属回収方法。
〔8〕第4の工程において、濾液に対して0.01質量倍以上の還元剤を混合する、前記〔2〕~〔7〕のいずれか一に記載の貴金属回収方法。
〔9〕還元剤がアスコルビン酸、亜硫酸ソーダ及び硫酸第一鉄から選択される1以上である、前記〔2〕~〔8〕のいずれか一に記載の貴金属回収方法。
〔10〕第1の工程における混合液がハロゲン化銅及びハロゲン化アルカリ金属から選択される1以上のハロゲン化金属を含む、前記〔1〕~〔9〕のいずれか一に記載の貴金属回収方法。
〔11〕第1の工程における混合液中のハロゲン化金属の含有量が0.1~0.6mol/Lである、前記〔1〕~〔10〕のいずれか一に記載の貴金属回収方法。
〔12〕塩素バイパスダストが水洗物である、前記〔1〕~〔11〕のいずれか一に記載の貴金属回収方法。
〔13〕貴金属が金及び/又は銀を含む、前記〔1〕~〔12〕のいずれか一に記載の貴金属回収方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、塩素バイパスダストから貴金属を効率よく選択的に回収することができる。したがって、本発明は、塩素バイパスダストの新たな有効活用法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の貴金属回収方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の塩素バイパスダストからの貴金属回収方法は、第1の工程、第2の工程及び第3の工程を必須とし、所望により第4の工程を含むものである。以下、各工程について詳細に説明する。
【0010】
〔第1の工程〕
第1の工程は、塩素バイパスダストと、非プロトン性極性有機溶媒とを含む混合液を加熱撹拌する工程である。これにより、塩素バイパスダスト中の貴金属の溶解が促進され、塩素バイパスダストから貴金属を効率よく抽出することができる。非プロトン性極性有機溶媒により塩素バイパスダスト中の貴金属の溶解が促進される理由は必ずしも明らかではないが、次のとおり推察する。
【0011】
塩素バイパスダストには、塩素、臭素等のハロゲン原子のみならず、金、銀等の貴金属に加え、銅、ナトリウム、カリウム等の金属が含まれている。塩素バイパスダストと非プロトン性極性有機溶媒を含む混合液中において、銅イオン(Cu2+)は下記式(1)に示す反応が進行し、1価のCu+として安定に存在する。
【0012】
Cu2+ + e- → Cu+ (1)
【0013】
このように、混合液中において、Cu2+は他の物質を酸化してCu+に還元されるため、Cu2+は強力な酸化剤として作用する。そして、この酸化還元電位は、金、銀等の貴金属の腐食電位よりも貴であるため、貴金属の混合液への溶解が促進され、塩素バイパスダストから貴金属が効率よく抽出される。金、銀の溶解式の一例を、それぞれ下記式(2)、(3)に示す。
【0014】
【0015】
本明細書において「塩素バイパスダスト」とは、セメント製造設備のセメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、抽気したガスを冷却後、粗粉と微粉に分級して分離された微粉をいう。
なお、本発明で使用する塩素バイパスダストは、セメント製造工程において発生するものであれば、セメント原料の種類は特に限定されない。また、セメントの製造工程に使用されるセメント原料は、都市ごみや産業廃棄物を焼却して得られる灰、例えば、汚泥、廃プラスチック類、金属くず、ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くず、鉱さい、がれき類等の産業廃棄物の他、廃自動車や廃家電製品の破砕によって発生するシュレッダーダスト、一般廃棄物を焼却して得られる灰を含んでいても構わない。
【0016】
また、本工程においては、塩素バイパスダストとして、その水洗物を使用することができる。
塩素バイパスダストの水洗方法は、塩素バイパスダストを水と接触させれば特に限定されないが、例えば、塩素バイパスダストを水槽に入れ攪拌する方法、塩素バイパスダストを水に浸漬させる方法、塩素バイパスダストに水を散布する方法が挙げられ、ドラムウォッシャー等の市販の装置を使用することもできる。
水としては、例えば、JIS A 5303付属書Cに規定される上水道水、該上水道水以外の水(例えば、河川水、湖沼水、井戸水、地下水、工業用水)を挙げることができる。
水の使用量は、塩素バイパスダストに対して、2~15質量倍が好ましく、3~12質量倍がより好ましく、4~10質量倍が更に好ましく、5~8質量倍がより更に好ましい。
水の温度は適宜選択可能であるが、5~70℃が好ましく、10~65℃がより好ましく、15~60℃が更に好ましく、18~55℃がより更に好ましい。
水洗後、水洗物を、例えば、脱水機を用いて上清と沈殿物とに分離し、沈殿物を回収すればよい。例えば、分離板型、円筒型、デカンター型等の遠心分離機や、フィルタープレスやベルトフィルターなどの脱水機など、いずれでもよく、一般的な機器を使用することができる。遠心分離の条件は、適宜選択することができる。
【0017】
非プロトン性極性有機溶媒としては、非イオン性で極性があり、強く溶媒和するものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、炭酸エチレン、炭酸ジエチル、N-メチルピロリドンを挙げることができる。非プロトン性極性有機溶媒は、1又は2以上を使用することができる。
中でも、貴金属の溶解促進及び貴金属の回収率向上の観点から、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN-メチルピロリドンから選択される1以上が好ましく、ジメチルスルホキシド及び炭酸プロピレンから選択される1以上が更に好ましい。
【0018】
非プロトン性極性有機溶媒の使用量は、貴金属の溶解促進、貴金属の抽出率向上の観点から、塩素バイパスダストの質量に対して1.0質量倍以上が好ましく、1.1質量倍以上がより好ましく、1.2質量倍以上が更に好ましい。なお、非プロトン性極性有機溶媒の使用量が過剰であると、生産効率が低下することから、非プロトン性極性有機溶媒の使用量は、塩素バイパスダストの質量に対して1.5質量倍以下が好ましく、1.4質量倍以下がより好ましく、1.3質量倍以下が更に好ましい。
【0019】
また、混合液には、塩素バイパスダスト中の銅の還元反応を増強し、貴金属の酸化反応を促進するために、ハロゲン化銅及びハロゲン化アルカリ金属から選択される1以上のハロゲン化金属を含有させてもよい。ハロゲン化銅及びハロゲン化アルカリ金属は、それぞれ単独で使用しても、併用しても構わないが、併用することが好ましい。
ハロゲン化銅としては、例えば、塩化銅(CuCl2)、臭化銅(CuBr2)を挙げることができる。ハロゲン化銅は、1又は2以上使用することができる。
ハロゲン化アルカリ金属としては、例えば、塩化カリウム(KCl)、臭化カリウム(KBr)、塩化ナトリウム(NaCl)、臭化ナトリウム(NaBr)が挙げられる。ハロゲン化アルカリ金属は、1又は2以上使用することができる。
【0020】
混合液中のハロゲン化金属の含有量は、銅の還元反応の増強、貴金属の酸化反応の促進の観点から、0.1~0.6mol/Lが好ましく、0.15~0.5mol/Lがより好ましく、0.2~0.4mol/Lが更に好ましい。
【0021】
ハロゲン化金属として、ハロゲン化銅及びハロゲン化アルカリ金属を併用する場合、ハロゲン化銅とハロゲン化アルカリ金属とのモル比(ハロゲン化銅/ハロゲン化アルカリ金属)は、銅の還元反応の増強、貴金属の酸化反応の促進の観点から、1/5~1/1が好ましく、1/3~5/6がより好ましく、1/2~3/4が更に好ましい。なお、ハロゲン化銅とハロゲン化アルカリ金属との合計含有量は、上記において説明したとおりである。
【0022】
混合液の撹拌は、公知の撹拌装置を使用することが可能である。例えば、横型筒状ドラムを回転させる構造を有する装置(掻き上げ用のバーが内側に装着された容器、解泥や粗粒からの微粒の剥離を促すためにロッドやボールを入れる又は突起や羽根を有するシャフトが挿入された構造の容器等)等の連続的に投入、排出が可能な装置の他に、コンクリートの攪拌に使用される1軸、2軸のバッチ式のミキサーを使用してもよい。
なお、塩素バイパスダストと非プロトン性極性有機溶媒は、任意の順序で装置に投入しても、両者を同時に装置に投入してもよく、混合順序は特に限定されない。また、装置への原料の投入は、間欠的に行っても、連続的に行ってもよい。
【0023】
混合液の温度は、貴金属の溶解促進、貴金属の抽出率向上の観点から、60~140℃が好ましく、85~130℃がより好ましく、90~110℃が更に好ましい。
また、混合時間は、貴金属の溶解促進、貴金属の抽出率向上の観点から、0時間超6時間以下が好ましく、1~5時間がより好ましく、2~4時間が更に好ましい。
【0024】
〔第2の工程〕
第2の工程は、第1の工程後の混合液を濾過する工程である。これにより、貴金属に富む濾液と、抽出残渣とを分離することができる。
濾過としては、例えば、自然濾過、加圧濾過、減圧濾過、遠心濾過を挙げることができる。濾過は、単独で、又は2以上組み合わせて行うことができる。また、単一の濾過方法を複数回行っても構わない。なお、ろ材としては、例えば、ろ布、スクリーンが挙げられる。
【0025】
遠心濾過は、遠心濾過機を用いて行うことが可能であり、連続式でも、回分式(バッチ式)でも構わない。遠心濾過における遠心力は適宜選択可能であるが、通常200~2000Gであり、製造効率の観点から、300~1500Gが好ましい。
【0026】
〔第3の工程〕
第3の工程は、第2の工程で分離した濾液と、無機酸水溶液とを混合し、混合液を濾過して析出物を回収する工程である。これにより、貴金属、とりわけ銀が濃縮された析出物が回収される。
無機酸水溶液として、例えば、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)フッ化水素酸(HF)、臭化水素酸(HBr)、ヨウ化水素酸(HI)、過塩素酸(HClO4)、ヨウ素酸(HIO3)、又は硫酸(H2SO4)の水溶液が挙げられる。無機酸水溶液は、1又は2以上を使用することができる。
中でも、貴金属の析出促進の観点から、塩酸水溶液及び硫酸水溶液から選択される1以上が好ましく、塩酸水溶液が更に好ましい。
【0027】
無機酸水溶液の使用量は、酸の種類等に応じて適宜選択することが可能であるが、貴金属の析出促進の観点から、濾液のpHが4以下となる量が好ましく、3.5以下となる量がより好ましく、2以下となる量が更に好ましい。
【0028】
濾液と無機酸水溶液との混合は、例えば、撹拌装置を用いることができる。撹拌装置は、撹拌槽と撹拌翼とを備えるものであれば特に限定されず、公知の装置を使用することができる。例えば、撹拌槽に、1軸ミキサー、2軸ミキサーを装着して使用してもよい。撹拌槽の大きさは、製造スケールにより応じて適宜選択することができる。また、撹拌翼は、通常回転駆動軸に固定されている。撹拌翼の形状は特に限定されず、例えば、タービン翼、パドル翼、アンカー翼、プロペラ翼、スクリュー翼、ヘリカルリボン翼等を適宜選択することができる。
【0029】
濾液と無機酸水溶液との混合時間は、適宜選択可能である。また、混合温度は、常温(20℃±15℃)でもよく、加熱しても構わない。
【0030】
混合後、貴金属の析出を促進させるために、混合液を静置してもよい。
静置は、例えば、撹拌を停止した状態を常温で保持すればよい。
静置時間は、貴金属の析出促進、貴金属の回収率向上の観点から、3~48時間が好ましく、12~36時間が更に好ましい。
【0031】
本工程においては、撹拌後の混合液、又は静置後の混合液を濾過し、析出物を回収する。
濾過の具体的態様は、上記において説明したとおりである。
回収物は、乾燥してもよい。乾燥方法は特に限定されず、公知の加熱乾燥手段を採用することができる。なお、乾燥温度は、例えば、80~300℃である。
【0032】
〔第4の工程〕
第4の工程は、第3の工程で分離した濾液と、還元剤とを混合し、混合液を濾過して析出物を回収する工程である。これにより、貴金属、とりわけ金が濃縮した析出物が回収される。
還元剤としては、貴金属を還元して貴金属を析出させることができれば特に限定されないが、例えば、クエン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、エリスロアスコルビン酸、イソアスコルビン酸、エルソルビン酸、没食子酸等の有機カルボン酸、ピロガロール、カテコール、ヒドロキノン等の多価フェノール、アミノヘキサン酸、ヒドラジン等の有機アミン、システイン、チオ尿素等の含硫黄化合物の他、亜硫酸ソーダ、硫酸第一鉄を挙げることができる。還元剤は、1又は2以上を使用することができる。
中でも、反応性が安定で、かつ貴金属を速やかに還元できることから、有機カルボン酸、亜硫酸ソーダ及び硫酸第一鉄から選択される1以上が好ましく、アスコルビン酸、亜硫酸ソーダ及び硫酸第一鉄から選択される1以上が更に好ましい。
【0033】
還元剤の使用量は、貴金属の析出促進、貴金属の回収率向上の観点から、濾液に対して0.01質量倍以上が好ましく、0.013質量倍以上がより好ましく、0.015質量倍以上が更に好ましい。還元剤の使用量の上限は、還元剤の種類により適宜選択可能であるが、濾液に対して、0.03質量倍以下が好ましく、0.02質量倍以下が更に好ましい。
【0034】
濾液と還元剤との混合は、貴金属の析出促進、貴金属の回収率向上の観点から、撹拌装置を用いることができる。撹拌装置の具体的態様は、上記において説明したとおりであるが、密閉容器による攪拌もしくは、密閉した容器を恒温振盪機に入れて攪拌しても良い。
【0035】
濾液と還元剤との混合時間は、貴金属の析出促進、貴金属の回収率向上の観点から、0.1~3.0時間が好ましく、0.5~2.5時間がより好ましく、1.0~2.0時間が更に好ましい。
また、混合温度は、常温(20℃±15℃)でも構わないが、貴金属の析出促進の観点から、加熱することが好ましい。加熱温度は、貴金属の析出促進、貴金属の回収率向上の観点から、50~90℃が好ましく、60~80℃が更に好ましい。
【0036】
撹拌後、貴金属の析出を促進するために、混合液を静置することが好ましい。
静置は、例えば、撹拌を停止した状態を保持すればよい。
静置温度は、常温(20℃±15℃)でも構わないが、貴金属の析出促進の観点から、加熱することが好ましい。加熱温度は、貴金属の析出促進、貴金属の回収率向上の観点から、35~60℃が好ましく、40~50℃が更に好ましい。
また、静置時間は、貴金属の析出促進、貴金属の回収率向上の観点から、50~100時間が好ましく、60~90時間がより好ましく、70~80時間が更に好ましい。
【0037】
次いで、撹拌後の混合液、又は静置後の混合液を濾過し、析出物を回収する。
濾過の具体的態様は、上記において説明したとおりである。
回収物は、乾燥してもよい。乾燥方法は特に限定されず、公知の加熱乾燥手段を採用することができる。なお、乾燥温度は、例えば、80~300℃である。
【0038】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、第2の工程で分離した抽出残渣には、微量の貴金属が含まれているため、
図1に示されるように、抽出残渣を塩素バイパスダストと混合し、原料として再利用してもよい。また、第3の工程、第4の工程で回収した析出物を、例えば、分級工程、風力選別工程、比重選別工程、磁力選別工程から選択される1以上の物理選別に供して貴金属の品位をより一層高めてもよい。なお、各物理選別においては、当該技術分野において一般的に使用される機器を使用することができる。
【実施例0039】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0040】
1.貴金属の分析
サンプルに王水を加え、マイクロ波試料前処理装置(ETHOS EASY、マイルストーン社製)を用いて分解したものを、分析試料として供した。分析には、ICP質量分析装置(ICP-MS7700X、Agilent社製)を用いて定量分析を実施した。
【0041】
実施例1
図1に示すフローにしたがって、塩素バイパスダストから貴金属を回収した。
(原料の調製)
塩素バイパスダストと、20℃の水とを1:6の質量比で遠沈管(容積50mL)に入れ、手動で1分間攪拌してスラリーを調製した。次に、遠心分離機(アズワン社製 CN-2060)を用いてスラリーを、180Gにて180秒間遠心分離した。遠心分離終了後、沈殿物と上澄み液を分離し、沈殿物を塩素バイパスダストの水洗物として回収した。
(第1の工程)
ジメチルスルホキシド200mLに、塩化銅(CuCl
2)と塩化ナトリウムをそれぞれ0.2mol/Lになるように溶解させ、そこに塩素バイパスダストの水洗物200gを投入し、120℃にて2時間撹拌混合した。
(第2の工程)
混合液を減圧濾過して溶解残渣を取り除き、濾液を回収した。
(第3の工程)
濾液に1M塩酸水溶液200mLを加え、混合した。その後、混合液を25℃にて24時間静置し、析出物を減圧濾過し、析出物を回収した。
(第4の工程)
第3の工程で分離した濾液にアスコルビン酸3gを加え、撹拌混合した後、40℃にて72時間静置し、析出物を減圧濾過し、析出物を回収した。
そして、第2の工程の残渣、第3の工程の析出物、第4の工程の析出物について、分析を行った。その結果を表1に示す。
【0042】
実施例2
第1の工程において、120℃にて4時間撹拌混合した以外は、実施例1と同様の操作により、析出物を回収した。そして、第2の工程の残渣、第3の工程の析出物、第4の工程の析出物について、分析を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
実施例3
第1の工程において、100℃にて2時間撹拌混合した以外は、実施例1と同様の操作により、析出物を回収した。そして、第2の工程の残渣、第3の工程の析出物、第4の工程の析出物について、分析を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
【0045】
表1から、塩素バイパスダストと非プロトン性極性有機溶媒とを含む混合液を加熱撹拌し、次いで濾過して濾液と無機酸水溶液とを混合し、そして濾過して析出物を回収することで、銀を選択的に回収できることがわかる。更に、銀を回収した濾液と還元剤とを混合し、濾過して析出物を回収することで、金を選択的に回収できることがわかる。