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特開2023-80527計測装置、エレベーターシステム、及び据付位置確認方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080527
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】計測装置、エレベーターシステム、及び据付位置確認方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 3/02 20060101AFI20230602BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20230602BHJP
   B66B 7/00 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
B66B3/02 P
G01B11/00 A
B66B7/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193920
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 義人
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 勇来
(72)【発明者】
【氏名】岩本 晃
(72)【発明者】
【氏名】大沼 直人
【テーマコード(参考)】
2F065
3F303
3F305
【Fターム(参考)】
2F065AA02
2F065AA04
2F065AA09
2F065AA37
2F065BB15
2F065DD03
2F065DD08
2F065FF41
2F065GG02
2F065GG04
2F065GG07
2F065JJ03
2F065MM06
2F065PP17
2F065QQ03
2F065QQ13
2F065QQ24
2F065QQ25
2F065QQ28
2F065QQ31
2F065UU03
3F303BA01
3F303CB01
3F303CB07
3F303CB15
3F305DA09
(57)【要約】
【課題】
移動体の移動に係る情報を計測する計測装置において、基準とする静止構造物に対する相対的な距離及び角度を高精度に計測し、計測装置が所定の据付位置に適切な精度で載置されているか判定し出力する。
【解決手段】
静止構造物(ガイドレール140)に対する計測装置110の据付位置を確認する際、
画像処理部240が、撮像部230で変換された電気信号に基づいて、x,y,z方向の少なくとも何れかの方向について、所定の据付設計位置に対する計測装置110の載置位置の当該方向に沿った並進誤差または当該方向を軸とする回転誤差を算出し、当該算出の結果に基づいて、載置位置が据付設計位置に適合しているか判定し、当該判定に係る据付箇所判定情報を送信する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路を移動するエレベーターかごに据え付けられて、前記エレベーターかごの移動距離または速度の少なくとも何れかを計測する計測装置であって、
前記昇降路において前記エレベーターかごの移動方向に平行な第1の方向に沿って配置された静止構造物を照射する光を送信する光送信部と、
前記光による前記静止構造物からの散乱光を撮像面に結像する結像部と、
前記撮像面に結像された散乱光の光信号を取り込み、電気信号に変換して撮像する撮像部と、
前記撮像部で変換された電気信号に基づいて前記エレベーターかごの移動距離または速度の少なくとも何れかを算出し送信する画像処理部と、
を備え、
前記静止構造物に対する前記計測装置の据付位置を確認する際、
前記第1の方向に垂直な2方向のうち前記撮像部が撮像する撮像面を含む方向を第2の方向、前記第1の方向及び前記第2の方向の何れにも直交する方向を第3の方向とすると、
前記画像処理部は、
前記撮像部で変換された電気信号に基づいて、前記第1乃至前記第3の方向の少なくとも何れかの方向について、所定の据付設計位置に対する前記計測装置の載置位置の当該方向に沿った並進誤差または当該方向を軸とする回転誤差を算出し、
当該算出の結果に基づいて、前記載置位置が前記据付設計位置に適合しているか判定し、当該判定に係る据付箇所判定情報を送信する
ことを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記光送信部の光軸は、前記静止構造物の表面の傷の方向と直交する面内に設けられ、かつ前記静止構造物に対して斜方向に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記据付箇所判定情報には、
前記載置位置が前記据付設計位置に適合しているか否かを示す判定結果と、
前記算出した並進誤差または回転誤差を用いて示される、前記据付設計位置に補正するために必要な調整情報と、が含まれる
ことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項4】
前記画像処理部は、
前記撮像部で変換された電気信号による撮像画像を所定数に分割し、
前記分割した撮像画像間における前記第1の方向の画素値の差分値に基づいて、前記第2の方向を軸とする回転誤差を算出し、
前記分割した撮像画像間における前記第2の方向の画素値の差分値に基づいて、前記第2の方向に沿った並進誤差及び前記第1の方向を軸とする回転誤差を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項5】
前記画像処理部は、
前記撮像部で変換された電気信号による撮像画像について、前記第1の方向の画素数の総和と前記第2の方向の隣接画素間の差分とを2軸にとった差分プロファイルを生成し、当該差分プロファイルの特徴に基づいて、前記据付設計位置に対する前記載置位置の誤差の要因が前記第2の方向に沿った並進誤差と前記第1の方向を軸とする回転誤差との何れにあるかを判別する
ことを特徴とする請求項4に記載の計測装置。
【請求項6】
前記画像処理部は、
前記撮像部で変換された電気信号を、前記第1の方向及び前記第2の方向について二次元のフーリエ変換を行い、得られたフーリエ強度の低下の度合いに基づいて、前記第3の方向に沿った並進誤差を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項7】
前記画像処理部が作成した前記据付箇所判定情報を受信し、当該据付箇所判定情報に含まれる情報を作業者に報知する指示部をさらに備える
ことを特徴とする請求項3に記載の計測装置。
【請求項8】
前記指示部は、
前記据付箇所判定情報の前記判定結果を出力する判定結果表示器と、
前記据付箇所判定情報の前記調整情報として、前記第1の方向を軸とする回転誤差、前記第2の方向に沿った並進誤差、前記第2の方向を軸とする回転誤差、及び前記第3の方向に沿った並進誤差を出力する補正指示器と、を有する
ことを特徴とする請求項7に記載の計測装置。
【請求項9】
前記撮像部の撮像領域の前記第2の方向の長さをWim、前記静止構造物の前記第2の方向に沿った長さをWrailとするとき、
前記画像処理部が算出可能な前記第2の方向に沿った並進誤差の最小値が
【数1】
に一致する
ことを特徴とする請求項3に記載の計測装置。
【請求項10】
前記光送信部の送信面の前記第1の方向の長さをHLED、前記撮像部の撮像領域の前記第1の方向の長さをHim、前記第3の方向に沿った前記静止構造物から前記光送信部までの距離をLとするとき、
前記画像処理部が算出可能な前記第2の方向を軸とする回転誤差の最小値が、
【数2】
に一致する
ことを特徴とする請求項3に記載の計測装置。
【請求項11】
昇降路を移動するエレベーターかごと、
前記昇降路において前記エレベーターかごの移動方向に平行な第1の方向に沿って配置されたガイドレールと、
前記エレベーターかごの動作を制御するエレベーター制御部と、
前記エレベーターかごに据え付けられて前記エレベーターかごの移動距離または速度の少なくとも何れかを計測する計測装置と、
を備え、
前記計測装置は、
前記昇降路において前記ガイドレールを照射する光を送信する光送信部と、
前記光による前記ガイドレールからの散乱光を撮像面に結像する結像部と、
前記撮像面に結像された散乱光の光信号を取り込み、電気信号に変換して撮像する撮像部と、
前記撮像部で変換された電気信号に基づいて前記エレベーターかごの移動距離または速度の少なくとも何れかを算出し送信する画像処理部と、
を有し、
前記ガイドレールに対する前記計測装置の据付位置を確認する際、
前記第1の方向に垂直な2方向のうち前記撮像部が撮像する撮像面を含む方向を第2の方向、前記第1の方向及び前記第2の方向の何れにも直交する方向を第3の方向とすると、
前記画像処理部は、
前記撮像部で変換された電気信号に基づいて、前記第1乃至前記第3の方向の少なくとも何れかの方向について、所定の据付設計位置に対する前記計測装置の載置位置の当該方向に沿った並進誤差または当該方向を軸とする回転誤差を算出し、
当該算出の結果に基づいて、前記載置位置が前記据付設計位置に適合しているか判定し、当該判定に係る据付箇所判定情報を送信する
ことを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項12】
前記画像処理部が作成した前記据付箇所判定情報を受信し、当該据付箇所判定情報に含まれる情報を作業者に報知する指示装置と、
前記計測装置の載置位置を調整する調整装置と、
をさらに備える
ことを特徴とする請求項11に記載のエレベーターシステム。
【請求項13】
前記エレベーターかごの前記ガイドレールに相対する所定の位置に開口が設けられ、
前記指示装置が、前記エレベーターかご内から視認可能に配置され、
前記調整装置が、前記エレベーターかご内から操作可能に配置される
ことを特徴とする請求項12に記載のエレベーターシステム。
【請求項14】
前記計測装置の載置位置を調整する調整装置と、
前記調整装置を制御可能なアクチュエータと、
をさらに備え、
前記調整装置は、
前記第2の方向に沿った並進方向へ前記計測装置を移動するx軸並進調整具と、
前記第2の方向を軸とする回転方向へ前記計測装置を移動するx軸周り回転調整具と、
前記第1の方向を軸とする回転方向へ前記計測装置を移動するy軸周り回転調整具と、
前記第3の方向に沿った並進方向へ前記計測装置を移動するz軸並進調整具と、
を有し、
前記アクチュエータは、前記画像処理部が作成した前記据付箇所判定情報を受信し、当該据付箇所判定情報に含まれる前記並進誤差または前記回転誤差の分だけ前記計測装置を移動させるように、前記調整装置の各調整具の動作を制御する
ことを特徴とする請求項11に記載のエレベーターシステム。
【請求項15】
昇降路を移動するエレベーターかごに据え付けられて、前記エレベーターかごの移動距離または速度の少なくとも何れかを計測する計測装置による据付位置確認方法であって、
前記計測装置は、
前記昇降路において前記エレベーターかごの移動方向に平行な第1の方向に沿って配置された静止構造物を照射する光を送信する光送信部と、
前記光による前記静止構造物からの散乱光を撮像面に結像する結像部と、
前記撮像面に結像された散乱光の光信号を取り込み、電気信号に変換して撮像する撮像部と、
前記撮像部で変換された電気信号に基づいて前記エレベーターかごの移動距離または速度の少なくとも何れかを算出し送信する画像処理部と、
を備え、
前記静止構造物に対する前記計測装置の据付位置を確認する際、
前記第1の方向に垂直な2方向のうち前記撮像部が撮像する撮像面を含む方向を第2の方向、前記第1の方向及び前記第2の方向の何れにも直交する方向を第3の方向とすると、
前記画像処理部が、
前記撮像部で変換された電気信号に基づいて、前記第1乃至前記第3の方向の少なくとも何れかの方向について、所定の据付設計位置に対する前記計測装置の載置位置の当該方向に沿った並進誤差または当該方向を軸とする回転誤差を算出し、
当該算出の結果に基づいて、前記載置位置が前記据付設計位置に適合しているか判定し、当該判定に係る据付箇所判定情報を送信する
ことを特徴とする据付位置確認方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置、エレベーターシステム、及び据付位置確認方法に関し、移動体の移動に係る情報を算出する計測装置、エレベーターシステム、及び据付位置確認方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、移動体として乗りかご(以下、「エレベーターかご」、あるいは「かご」と記す)を備えるエレベーターでは、エレベーターかごの位置や速度等を監視するための安全装置としてガバナロープが使われてきた。そして近年、ガバナロープの代わりとなる装置として、非接触式でエレベーターかごの位置及び速度を非接触で計測するセンサ(以下、「位置速度センサ」と記す)が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、エレベーターかご上に設置したイメージセンサにより昇降路内に存在する構造物を撮影し、エレベーターかごの位置及び速度を計測する光学式の位置速度センサが開示されている。この位置速度センサのような非接触式の計測装置の場合には、ガバナロープのような長尺な構造物が不要となるので、据付性及び保全性が向上するという効果があり、さらに、滑りによる測定誤差が発生しないという効果もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/239536号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された光学式の位置速度センサにおいて、かごの位置及び速度について十分な計測性能(精度)を得るためには、位置速度センサをかご上に据え付けるときに、ガイドレールに対する相対距離及び角度を計測して判定し、計測装置を高い据付精度で載置することが要求される。しかし従来は、上記のような十分な据付精度で位置速度センサを載置するためには、位置速度センサとは別に専用の計測工具が必要であった。さらに、専用の計測工具を使う場合でも、計測技術や光学調整技術に関する据付作業者の熟練度によって、据付精度が左右されるという課題があった。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、移動体の移動に係る情報を計測する計測装置において、基準とする静止構造物に対する相対的な距離及び角度を高精度に計測し、計測装置が所定の据付位置に適切な精度で載置されているか判定し出力することが可能な計測装置、エレベーターシステム、及び据付位置確認方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明においては、昇降路を移動するエレベーターかごに据え付けられて、前記エレベーターかごの移動距離または速度の少なくとも何れかを計測する計測装置であって、前記昇降路において前記エレベーターかごの移動方向に平行な第1の方向に沿って配置された静止構造物を照射する光を送信する光送信部と、前記光による前記静止構造物からの散乱光を撮像面に結像する結像部と、前記撮像面に結像された散乱光の光信号を取り込み、電気信号に変換して撮像する撮像部と、前記撮像部で変換された電気信号に基づいて前記エレベーターかごの移動距離または速度の少なくとも何れかを算出し送信する画像処理部と、を備え、前記静止構造物に対する前記計測装置の据付位置を確認する際、前記第1の方向に垂直な2方向のうち前記撮像部が撮像する撮像面を含む方向を第2の方向、前記第1の方向及び前記第2の方向の何れにも直交する方向を第3の方向とすると、前記画像処理部は、前記撮像部で変換された電気信号に基づいて、前記第1乃至前記第3の方向の少なくとも何れかの方向について、所定の据付設計位置に対する前記計測装置の載置位置の当該方向に沿った並進誤差または当該方向を軸とする回転誤差を算出し、当該算出の結果に基づいて、前記載置位置が前記据付設計位置に適合しているか判定し、当該判定に係る据付箇所判定情報を送信する、計測装置が提供される。
【0008】
また、かかる課題を解決するため本発明においては、昇降路を移動するエレベーターかごと、前記昇降路において前記エレベーターかごの移動方向に平行な第1の方向に沿って配置されたガイドレールと、前記エレベーターかごの動作を制御するエレベーター制御部と、前記エレベーターかごに据え付けられて前記エレベーターかごの移動距離または速度の少なくとも何れかを計測する計測装置と、を備え、前記計測装置は、前記昇降路において前記ガイドレールを照射する光を送信する光送信部と、前記光による前記ガイドレールからの散乱光を撮像面に結像する結像部と、前記撮像面に結像された散乱光の光信号を取り込み、電気信号に変換して撮像する撮像部と、前記撮像部で変換された電気信号に基づいて前記エレベーターかごの移動距離または速度の少なくとも何れかを算出し送信する画像処理部と、を有し、前記静止構造物に対する前記計測装置の据付位置を確認する際、前記第1の方向に垂直な2方向のうち前記撮像部が撮像する撮像面を含む方向を第2の方向、前記第1の方向及び前記第2の方向の何れにも直交する方向を第3の方向とすると、前記画像処理部は、前記撮像部で変換された電気信号に基づいて、前記第1乃至前記第3の方向の少なくとも何れかの方向について、所定の据付設計位置に対する前記計測装置の載置位置の当該方向に沿った並進誤差または当該方向を軸とする回転誤差を算出し、当該算出の結果に基づいて、前記載置位置が前記据付設計位置に適合しているか判定し、当該判定に係る据付箇所判定情報を送信する、エレベーターシステムが提供される。
【0009】
また、かかる課題を解決するため本発明においては、昇降路を移動するエレベーターかごに据え付けられて、前記エレベーターかごの移動距離または速度の少なくとも何れかを計測する計測装置による据付位置確認方法であって、前記計測装置は、前記昇降路において前記エレベーターかごの移動方向に平行な第1の方向に沿って配置された静止構造物を照射する光を送信する光送信部と、前記光による前記静止構造物からの散乱光を撮像面に結像する結像部と、前記撮像面に結像された散乱光の光信号を取り込み、電気信号に変換して撮像する撮像部と、前記撮像部で変換された電気信号に基づいて前記エレベーターかごの移動距離または速度の少なくとも何れかを算出し送信する画像処理部と、を備え、前記静止構造物に対する前記計測装置の据付位置を確認する際、前記第1の方向に垂直な2方向のうち前記撮像部が撮像する撮像面を含む方向を第2の方向、前記第1の方向及び前記第2の方向の何れにも直交する方向を第3の方向とすると、前記画像処理部が、前記撮像部で変換された電気信号に基づいて、前記第1乃至前記第3の方向の少なくとも何れかの方向について、所定の据付設計位置に対する前記計測装置の載置位置の当該方向に沿った並進誤差または当該方向を軸とする回転誤差を算出し、当該算出の結果に基づいて、前記載置位置が前記据付設計位置に適合しているか判定し、当該判定に係る据付箇所判定情報を送信する、据付位置確認方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、移動体の移動に係る情報を計測する計測装置において、基準とする静止構造物に対する相対的な距離及び角度を高精度に計測し、計測装置が所定の据付位置に適切な精度で載置されているか判定し出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係るエレベーターシステム10の構成例を示す図である。
図2】計測装置110及びエレベーター制御部130の第1の内部構成例を示す図である。
図3】計測装置110及びエレベーター制御部130の第2の内部構成例を示す図である。
図4】計測装置110及びエレベーター制御部130の第3の内部構成例を示す図である。
図5】指示部260の配置例を示す図である。
図6】指示部260の内部構成例(その1)を示す図である。
図7】指示部260の内部構成例(その2)を示す図である。
図8】指示部260の内部構成例(その3)を示す図である。
図9】計測装置110の並進誤差または回転誤差を判定する画像処理部240の内部構成例を示す図である。
図10】x方向の差分値に基づいてx軸方向に沿った計測装置110の並進誤差を判定する方法を説明するための概念図である。
図11】y方向の差分値に基づいてx軸周りの計測装置110の回転誤差(傾斜)を判定する方法を説明するための概念図である。
図12】ガイドレール140の散乱光の各散乱角方向の輝度の分布について説明するための概念図である。
図13】光送信部210からの照明光とその散乱光及び正反射光との方向を説明するための概念図(その1)である。
図14】光送信部210からの照明光とその散乱光及び正反射光との方向を説明するための概念図(その2)である。
図15】光送信部210からの照明光とその散乱光及び正反射光との方向を説明するための概念図(その3)である。
図16】x方向の差分値に基づいてy軸周りの計測装置110の回転誤差(傾斜)を判定する方法を説明するための概念図である。
図17】据付箇所判定処理においてx軸方向の並進誤差とy軸周りの回転誤差とを判別する、画像処理部240の内部構成例を示す図である。
図18】据付箇所判定処理においてz軸方向の並進誤差を判定する、画像処理部240の内部構成例を示す図である。
図19】計測装置110の据付設計位置の具体例を示す図(その1)である。
図20】計測装置110の据付設計位置の具体例を示す図(その2)である。
図21】計測装置110の据付設計位置の具体例を示す図(その3)である。
図22】計測装置110の据付設計位置の具体例を示す図(その4)である。
図23】据付作業の作業手順例を示すフローチャートである。
図24】点検作業の作業手順例を示すフローチャートである。
図25】誤差調整の作業手順例を示すフローチャートである。
図26】据付位置調整治具1600の構成例を示す図である。
図27】据付位置調整治具1700の構成例を示す図である。
図28】本発明の第2の実施形態における計測装置110及びエレベーター制御部130の内部構成例を示す図である。
図29】計測装置110を車両に適用した車両移動情報検出システム1900の構成例を示す図である。
図30】計測装置110をクレーンに適用したクレーン移動情報検出システム2000の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳述する。
【0013】
以下に詳述する本発明の各実施形態では、計測部(光送信部、結像部、及び撮像部)を用いて移動体の移動に係る情報(位置や移動距離、速度、または加速度等)を高速かつ高精度に計測する計測装置、エレベーターシステム、及び据付位置確認方法等において、基準とする静止構造物に対する相対的な距離及び角度を高精度に計測し、計測装置が所定の据付位置に適切な精度で載置されているか(すなわち、計測装置の載置位置が所定の据付位置に適合するか)を判定し、その判定結果を据付作業者または点検作業者等に報知(例えば表示)する技術に関して説明する。但し、本発明は、以下に説明する各実施形態に限定されるものではない。
【0014】
以下に詳述する本発明の各実施形態に示す計測装置は、移動体の所定の据付位置に載置され、移動体を案内する行路(移動行路)に沿った移動体の移動に係る情報(具体的には、移動体の位置(移動距離)、速度、加速度、または振動等の少なくとも何れか)を計測する。例えば、計測装置は、制御部で発生したゲート信号に応答して、移動体から被写体である静止構造物の表面に向けて、光送信部から光を照射(送信)する。そして、計測装置は、静止構造物の表面で跳ね返された光(正反射光及び拡散反射光を含み得る光であり、以下では、「散乱光」と記す)を、結像部を介して撮像部の撮像面に入射し、撮像部において光信号を電気信号に光電変換する。そして、計測装置は、変換した電気信号から生成した画像を基に、画像処理部において、移動体の移動に係る情報を計測する。そして、計測装置は、移動体の移動に係る情報に基づいて、移動体の運行制御あるいは安全装置を制御する移動体制御部に送信する。そして移動体制御部は、計測装置で算出された移動体の移動に係る情報に基づいて、移動体の運行や安全装置を制御する。
【0015】
また、いくつかの実施形態では、本発明に係る計測装置が設置される移動体として、エレベーターかごを例に挙げて説明するが、本発明を適用可能な移動体はエレベーターかごに限定されない。各実施形態で示す技術は、人工的な研磨の傷があるような静止構造物(例えば、ガイドレール、線路、道路等)に沿って移動する移動体(例えば、自動ドア、列車、車、クレーン等)にも適用できる。なお、本明細書において「光」とは電磁波を指し、具体的には、可視光の他、マイクロ波、テラヘルツ波、赤外線、紫外線、X線等の何れであってもよい。同様に、本発明を適用可能な計測システムも、エレベーターシステムに組み込まれる計測システムに限定されるものではなく、例えば、自動運転が制御される車両の位置決めシステムや、クレーンの位置決めシステム等にも適用可能である。
【0016】
また、以下の説明では、同種の要素を区別せずに説明する場合には、枝番を含む参照符号のうちの共通部分(枝番を除く部分)を使用し、同種の要素を区別して説明する場合には、枝番を含む参照符号を使用することがある。例えば、計測装置を特に区別せずに説明する場合には「計測装置110」と記載するのに対して、個々の計測装置110を区別して説明する場合には「計測装置110-A」、「計測装置110-B」のように記載することがある。
【0017】
(1)第1の実施形態
(1-1)エレベーターシステム10の構成
図1は、本発明の第1の実施形態に係るエレベーターシステム10の構成例を示す図である。
【0018】
図1に示すように、エレベーターシステム10は、建屋(図示は省略)の昇降路(移動体の移動行路)内を昇降するエレベーターかご120の上部に載置された計測装置110(個別には110-A,110-B)を含んで構成される。また、図1に示すように、エレベーターシステム10には、エレベーターかご120、エレベーター制御部130、またはガイドレール140(個別には140-A,140-B)が含まれるが、これらの構成要素の少なくとも何れかは、計測装置110に含まれるとしてもよい。
【0019】
計測装置110は、エレベーターかご120の運行を制御するために有用な信号情報(例えば、エレベーターかご120の位置、速度、または加速度等に関する信号情報)を、エレベーター制御部130に出力する。エレベーター制御部130は、エレベーターかご120の運行の制御及び安全装置の制御等を行う。なお、計測装置110は、エレベーターかご120の上部に配置場所を限定されるものではなく、上部以外、例えば側面部や下部等に配置されてもよい(詳細は後述する)。なお、図1で示した計測装置110は、計測装置110-A及び計測装置110-Bで二重化することによって冗長化された構成であるが、本実施形態における計測装置110の冗長構成は二重化構成に限定されるものではなく、冗長化せず単一系の構成で使用してもよく、あるいは三重化以上の冗長構成であってもよい。
【0020】
ガイドレール140は、計測装置110の相対的な距離及び角度を計測する際の基準となる静止構造物の一例であって、昇降路内に配置されている。ガイドレール140は、昇降路内に移動体の移動方向(図1ではy軸方向)に沿って配置され、エレベーターかご120のガイドローラに接触して、移動体(エレベーターかご120)の移動を支持する。
【0021】
以下の説明では、計測装置110の並進誤差方向及び回転誤差方向を示すために座標系を用いる。図1に示すように、移動体の移動方向をy軸方向、撮像面(図1ではガイドレール140の凸部の頂面)に垂直な方向をz軸方向、y軸とz軸のどちらにも垂直な方向をx軸方向として、座標系を定義する。なお、特段の記載がない限り、x方向、y方向、z方向という表記は、x軸方向、y軸方向、z軸方向と同義であると考えてよい。
【0022】
図2は、計測装置110及びエレベーター制御部130の第1の内部構成例を示す図である。図2に示すように、計測装置110は、光送信部210、結像部220、撮像部230、画像処理部240、かご移動関連情報出力部250、及び指示部260を有して構成される。なお、図2では、光路を矢印付きの破線で示し、電気信号の経路を矢印付きの実線で示している。
【0023】
光送信部210は、光源(図示は省略)を備え、被写体であるガイドレール140に向けて光を照射するように配置される。光送信部210の光源には、LED(Light Emitting Diode)やハロゲンランプのような時間的かつ空間的にインコヒーレントな光源を用いてもよいし、レーザー光源のような時間的かつ空間的にコヒーレントな光源を用いてもよい。
【0024】
結像部220は、光送信部210からガイドレール140の表面に向けて照射された光である出射光線(出射光)がガイドレール140の表面で散乱された散乱光を、撮像部230の撮像面に結像させる光学系として構成される。結像部220には、例えば、硝子や樹脂で構成される単一のレンズ、あるいは複数のレンズ組や、凹面鏡等を用いることができる。
【0025】
撮像部230は、結像部220からの光信号(ガイドレール140の表面における散乱輝度分布を示す光信号)であって、複数の画素(ピクセル)を含む撮像面に結像された光信号を、画素の輝度に応じた電気信号に変換し、変換した電気信号を、画像処理部240から送信される撮像の開始時刻及び終了時刻を表すタイミング信号に同期して、画像信号として画像処理部240に送信する。撮像部230には、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等を用いることができる。また、撮像部230は、二次元のエリアセンサであってもよいし、かご120の昇降方向に空間分解の機能を有する一次元のラインセンサであってもよい。
【0026】
なお、計測装置110は、光送信部210からの出射光及びその散乱光の経路中に、結像部220以外にバンドパスフィルタ等の波長選択式フィルタを設けて、所望の波長以外の外光を除去するようにしてもよい。また、計測装置110は、砂塵や埃等が内部に入らないように、計測装置110を防護する目的で、上記入射光及び散乱光の経路中に窓材等を設けるようにしてもよい。
【0027】
画像処理部240は、撮像部230から受信した画像信号(撮像面に結像された光信号が変換された電気信号)に対して画像処理を実行し、当該画像処理によって生成される撮像画像に基づいて、エレベーターかご120の移動に係る情報(具体的には、エレベーターかご120の移動距離(移動量)または速度の少なくとも何れかの計測結果であり、以後、かご移動関連情報と称する)を算出し、これらの情報をかご移動関連情報出力部250に送信する。
【0028】
かご移動関連情報の算出において、画像処理部240は、異なる複数のフレームで撮影したガイドレール140の画像を、フレーム間で比較処理して、移動量を計測する。例えば、移動中のエレベーターかご120から被写体であるガイドレール140を撮影すると、異なる時刻における被写体表面(ガイドレール140の表面)の2つの画像では、移動方向にエレベーターかご120の移動量と一致するずれが発生するため、画像処理部240は、画像間の移動方向のずれ量を算出することでエレベーターかご120の移動量を計測することができる。なお、2つの画像の比較処理の方法は、例えば、相関関数法により2つの画像間の相関関数を計算してもよいし、オプティカルフロー法により画像内の特徴点の変位ベクトルを計算してもよい。
【0029】
また、画像処理部240は、撮像部230から受信した画像信号に対して所定の演算処理(詳細は後述する)を実行することによって、ガイドレール140を基準として定められる適切な据付位置(以下、据付設計位置)に計測装置110が適切な精度で載置されているか否かを判定し(据付箇所判定処理)、その判定に係る情報(据付箇所判定情報)を指示部260に送信する。据付箇所判定情報には、現在の計測装置110が据付設計位置に対して適切な精度を有する位置に載置されているか否かを示す判定結果情報だけでなく、現在の載置位置が据付設計位置からどの方向にどの程度離れているか(あるいは、計測装置110をどの方向にどの程度移動させれば据付設計位置に補正できるか)といった調整情報も含むことができる。
【0030】
上記した画像処理部240は、具体的には、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはマイクロコントローラのような情報処理記憶媒体によって構成されてもよいし、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のような論理回路素子等によって構成されてもよい。画像処理部240は、据付箇所判定情報をエレベーター制御部130が受信可能な通信プロトコル(例えばCAN(Controller Area Network)通信、USB(Universal Serial Bus)通信等のプロトコル)に従って変換し、変換後の信号情報をかご移動関連情報出力部250に出力する。
【0031】
かご移動関連情報出力部250は、画像処理部240から受信したかご移動関連情報を計測装置110の外部に出力する。図2の場合、計測装置110は、かご移動関連情報出力部250を介してエレベーター制御部130と電気ケーブルで接続され、かご移動関連情報をエレベーター制御部130に送信する。なお、かご移動関連情報出力部250は電気ケーブルを接続するためのコネクタであってもよいし、無線通信のためのアンテナであってもよい。かご移動関連情報出力部250が出力するかご移動関連情報は、エレベーター制御部130やその他の不図示の制御装置が所定のエレベーター制御を実施するために用いられてもよいし、作業者270に報知されてもよい。また、かご移動関連情報出力部250は、作業者270に報知するために、かご移動関連情報の表示機能を有する指示部260に、かご移動関連情報を送信するようにしてもよい。
【0032】
指示部260は、画像処理部240から受信した据付箇所判定情報を計測装置の外部に表示することにより、作業者270への報知を行う。作業者270が据付作業者である場合、作業者270は指示部260の表示に基づいて、計測装置110をエレベーターかご120の上部に載置し、据付設計位置に据付する。また、作業者270が点検作業者である場合、作業者270は指示部260の表示に基づいて、エレベーターかご120の上部に載置された計測装置110が据付設計位置に据付されているかを点検する。なお、理想的な据付設計位置は、ガイドレール140からの散乱光が撮像部230の撮像面全体にむらなく一様に、かつボケが小さく入射する位置とする(詳細は後述する)。
【0033】
上記した指示部260は、具体的には、LEDや電球などの単光源を組み合わせによって構成されてもよいし、液晶ディスプレイを用いたデジタルインジケーターなどの、作業者270が視覚的に判定結果を認知できる素子によって構成されてもよい。あるいは、指示部260を構成する素子は、音声ガイダンスを送信するスピーカーやブザーなどの、作業者270が聴覚的に判定結果を認知できる素子であってもよい。
【0034】
なお、本実施形態に係るエレベーターシステム10において、計測装置110及びエレベーター制御部130の内部構成は、図2に示した構成に限定されるものではなく、例えば図3または図4に示すような構成であってもよい。
【0035】
図3は、計測装置110及びエレベーター制御部130の第2の内部構成例を示す図である。図3に示す構成では、計測装置110は、図2に示した光送信部210、結像部220、撮像部230、画像処理部240、及びかご移動関連情報出力部250に加えて、据付箇所判定情報出力部280を有して構成される。図3に示す構成では、図2では計測装置110に内蔵されていた指示部260が、エレベーター制御部130側に備えられる。図3に示す構成において、光送信部210、結像部220、撮像部230、及び指示部260が有する機能は、図2で説明した各部の機能と同様であるため、説明を省略する。また図2と同様に、図3では、光路を矢印付きの破線で示し、電気信号の経路を矢印付きの実線で示している。
【0036】
図3に示す構成では、画像処理部240は、据付箇所判定情報を指示部260ではなく据付箇所判定情報出力部280に送信する。
【0037】
そして据付箇所判定情報出力部280は、画像処理部240から受信した据付箇所判定情報を計測装置110の外部(例えばエレベーター制御部130の指示部260)に出力する。図3の場合、計測装置110は、据付箇所判定情報出力部280を介してエレベーター制御部130と電気ケーブルで接続され、据付箇所判定情報をエレベーター制御部130に送信する。なお、据付箇所判定情報出力部280は、電気ケーブルを接続するためのコネクタであってもよいし、無線通信のためのアンテナであってもよい。
【0038】
図4は、計測装置110及びエレベーター制御部130の第3の内部構成例を示す図である。図4に示す構成では、計測装置110は、図3と同様の各部を有して構成される。但し、図3との相違点として、図4に示す構成では、据付箇所判定情報出力部280が、作業者270が保有する表示端末290に据付箇所判定情報を送信する。図2及び図3と同様に、図4では、光路を矢印付きの破線で示し、電気信号の経路を矢印付きの実線で示している。
【0039】
表示端末290は、作業者270がエレベーターシステム10の設置される建屋において計測装置110の据付または点検を行う際に持ち運び可能な可搬式の端末であり、具体的には例えば、タブレット、スマートフォン、またはパーソナルコンピューターなどである。
【0040】
図4に示す構成において、画像処理部240は、据付箇所判定情報を表示端末290が受信可能な通信プロトコルに従って変換し、変換後の信号情報を据付箇所判定情報出力部280に出力する。そして、据付箇所判定情報出力部280は、画像処理部240から受信した据付箇所判定情報を表示端末290に送信し、表示端末290は受信した据付箇所判定情報を作業者270に表示する。表示端末290における情報の表示方法は特に限定されず、例えば指示部260と同様(図6図8参照)であってもよいし、より詳細な情報を画面表示する等してもよい。作業者270は、表示端末290に表示された据付箇所判定情報を確認することにより、計測装置110の据付または点検を精度よく実施することができる。
【0041】
なお、本実施形態において、作業者270は、エレベーターシステム10の設置される建屋から離れた遠方の作業現場から、遠隔操作によって計測装置110の据付または点検を行ってもよい。この場合、図2図3のように据付箇所判定情報が建屋内の指示部260に表示されても作業者270はこれを確認できない。そこで、図4の構成のように、例えばインターネットを介して表示端末290を計測装置110と通信可能に構成し、作業者270が保有する表示端末290に据付箇所判定情報が表示されるようにすることが効果的である。
【0042】
(1-2)指示部260の構成
以下に、指示部260について詳しく説明する。なお、図4で説明したように表示端末290も作業者270に報知する役割を有することから、指示部260による表示に関する以下の説明は、表示端末290にも適用可能である。
【0043】
図5は、指示部260の配置例を示す図である。また、図6図8は、指示部260の内部構成例(その1~その3)を示す図である。以下の説明では図2に示した計測装置110の構成例を用いるが、図3図4に示した構成例にも適宜、適用することができる。
【0044】
図5は、図2に示した構成における指示部260の配置例を示している。この指示部260は、図5に示したように、その表示内容を作業者270が視覚的に認知できるように、計測装置110の外部に具備される。
【0045】
そして指示部260は、図6図8に例示した各種の表示器を備えることにより、画像処理部240で生成された据付箇所判定情報に基づく情報を作業者270に対して表示する。この結果、作業者270は、このような指示部260の表示内容を確認することにより、計測装置110がガイドレール140を基準とする据付設計位置に適切な精度で載置されているかどうかという載置位置の判定結果を視覚的に認知することができ、さらに、載置位置が適切でない場合には、適切な精度で据付設計位置に載置するためにどのような補正を行えばよいかという補正情報を認知することができる。
【0046】
図6に示した指示部260は、判定結果表示器310を含んで構成される。判定結果表示器310は、計測装置110が据付設計位置に適切な精度で載置されている(載置位置が適切である)か否かを出力するものであり、例えば、LEDや電球などの単光源によって構成される。判定結果表示器310は、例えば、載置位置が適切である場合には「点灯」し、載置位置が適切ではない場合には「点滅」する。
【0047】
なお、後述する他の表示器でも同様であるが、単光源による表示方法は、点灯及び点滅に限定されるものではなく、様々な点灯パターン(点灯、点滅、消灯)や点灯色を組み合わせることができる。また、指示部260は、視覚的な表示器以外に、聴覚的な出力機器(報知器)を用いてもよく、例えば計測装置110の内部にビープ音を発するブザーを具備してもよい。この場合例えば、計測装置110が据付設計位置に適切な精度で載置されていないときにブザーを鳴らす。
【0048】
図7に示した指示部260は、判定結果表示器310に加えて、補正方向指示器320を具備する。補正方向指示器320は、計測装置110の現在の載置位置が適切ではない場合に、据付設計位置に対する現在の載置位置の並進誤差または回転誤差(傾斜)の少なくとも何れかについて、その方向を表示することにより、据付設計位置に載置するための調整方法を作業者270に報知する。補正方向指示器320は、例えば、LEDや電球などの単光源の組み合わせによって構成され、図7に示したように十字状に配置した単光源の発光パターンにより、並進誤差または回転誤差の方向(誤差が発生している方向でもよいし、補正すべき方向でもよい)を作業者270に報知する。
【0049】
図8に示した指示部260は、判定結果表示器310及び補正方向指示器320に加えて、補正量指示器330を具備する。補正量指示器330は、計測装置110の現在の載置位置が据付設計位置に適合しない場合に、据付設計位置に対する現在の載置位置の並進誤差または回転誤差(傾斜)の少なくとも何れかについて、その大きさを表示することにより、据付設計位置に載置するための調整方法を作業者270に報知する。補正量指示器330は、例えば、LEDや電球などの単光源の組み合わせによって構成され、図8に示したように複数並べて配置した単光源の発光パターンにより、並進誤差または回転誤差の大きさを作業者270に報知する。なお、補正量指示器330と同様の機能を有する聴覚的な表示器を設ける場合には、ビープ音の高低、または強弱のパターンによって調整方法を知らせてもよいし、音声ガイダンスをスピーカーから流すようにしてもよい。
【0050】
(1-3)据付箇所判定処理
以下では、画像処理部240が計測装置110が据付設計位置に適切な精度で載置されているか否かを判定する据付箇所判定処理について、詳しく説明する。
【0051】
据付箇所判定処理において画像処理部240は、据付設計位置に対する計測装置110の載置位置について、x軸方向とz軸方向に沿った変位を各軸方向に沿った並進誤差として判定し、x軸周りとy軸周りの傾斜を各軸周りの回転誤差として判定する。そして画像処理部240は、これらの誤差の量に基づいて、現在の計測装置110を適切な精度で据付設計位置に載置するために必要な補正量を算出することができる。
【0052】
なお、上記した以外のy軸方向への変位とz軸周りの傾斜については、以下の理由から調整が不要である。y軸方向に沿った変位は移動体(エレベーターかご120)の移動方向であり、据付時におけるy軸方向のずれは、ガイドレール140に対するエレベーターかご120(計測装置110)の相対的な移動距離及び速度の計測値には影響を与えない。z軸周りの傾斜は、画像処理部240において撮像画像の傾斜を画像処理によって補正できるため、調整が不要である。すなわち、異なる時刻の2枚の画像の比較処理において、相関関数法により、フレーム間のy方向だけでなくx方向の変位も計算し、かごの傾斜角を計測することが可能である。
【0053】
図9は、計測装置110の並進誤差または回転誤差を判定する画像処理部240の内部構成例を示す図である。画像処理部240は、撮像部230から受信した画像信号に対して所定の演算処理を行うことにより、x軸方向に沿った計測装置110の並進誤差、あるいは、x軸周りまたはy軸周りの計測装置110の回転誤差を判定する。
【0054】
画像処理部240は、ガイドレール140からの散乱光に係る画像信号を撮像部230から受信し、図9に示すように、撮像画像をx方向とy方向にそれぞれ2分割した計4象限(象限401,402,403,404)に分割する。画像処理部240は、各象限における画素値の合計値または平均値を算出し、当該算出した各象限の画素値からx,y方向それぞれの差分値を計算する。
【0055】
ここで、撮像画像の象限401の画素値(当該象限における画素値の合計値または平均値に相当し、以下同様)をP401とし、同様に、象限402,403,404の画素値をP402,P403,P404とする。このとき、撮像画像のx軸正側の画素値「Px,+」は「Px,+=P402+P404」から算出され、x軸負側の画素値「Px,-」は「Px,-=P401+P403」から算出される。また、撮像画像のy軸正側の画素値「Py,+」は「Py,+=P401+P402」から算出され、y軸負側の画素値「Py,-」は「Py,-=P403+P404」から算出される。
【0056】
したがって、x方向の差分値は、例えばx軸正側の画素値「Px,+」からx軸負側の画素値「Px,-」を差し引いて、「Px,+-Px,-」と定義できる。同様に、y方向の差分値は、例えばy軸正側の画素値「Py,+」からy軸負側の画素値「Py,-」を差し引いて、「Py,+-Py,-」と定義できる。
【0057】
画像処理部240は、上記のように算出したx方向の差分値及びy方向の差分値から、判定回路405において、x軸方向に沿った計測装置110の並進誤差、あるいはx軸周りまたはy軸周りの計測装置110の回転誤差の有無を判定する。それぞれの判定方法については、以下に詳述する。そして画像処理部240は、判定回路405による判定結果を指示部260に送信する。
【0058】
(1-3-1)x軸方向に沿った並進誤差の判定方法
図10は、x方向の差分値に基づいてx軸方向に沿った計測装置110の並進誤差を判定する方法を説明するための概念図である。図10では、(A)において、ガイドレール140に対してx軸方向に異なる位置にある計測装置110について、ガイドレール140と計測装置110(撮像部230による撮像領域501)との位置関係の例を示し、(B)において、上記の各位置関係における撮像画像502の概念図を示し、(C)において、計測装置110の据付設計位置に対するx方向の変位とx方向の差分値との関係の推移を示す概念図を示している。
【0059】
計測装置110は、ガイドレール140の表面の所定の撮像領域501からの散乱光を撮像部230に結像し、画像信号として画像処理部240に送信する。画像処理部240で受信する画像信号を模式的に表したものが撮像画像502である。図10では、計測装置110が据付設計位置に載置されている場合の撮像領域501-Bにおける撮像画像を撮像画像502-Bとし、計測装置110が据付設計位置からx軸の負方向に並進誤差がある場合の撮像領域501-Aにおける撮像画像を撮像画像502-Aとし、計測装置110が据付設計位置からx軸の正方向に並進誤差がある場合の撮像領域501-Cにおける撮像画像を撮像画像502-Cとしている。
【0060】
計測装置110が据付設計位置に載置されている場合、撮像部230の撮像面全体にガイドレール140からの散乱光が入射するため、撮像画像502-Bにおいて暗領域は生じない。しかし、計測装置110の載置位置が据付設計位置からx軸方向の何れかに並進し、ガイドレール140の一部が撮像領域501から外れた場合には、撮像面の一部にガイドレール140からの散乱光が入射しないため、撮像画像502-A,502-Cにおいて一部に暗領域503が生じる。
【0061】
以上を踏まえてx方向の差分値について説明する。計測装置110が据付設計位置に載置されている場合の撮像画像502-Bに基づいて算出したx方向の差分値は、x軸正側(象限402,404)の画素値の合計値とx軸負側(象限401,403)の画素値の合計値との間にほとんど差がなく、差分値はほぼ0に等しい。一方、計測装置110が据付設計位置に載置されていない場合の撮像画像502-A,502-Cに基づいて算出したx方向の差分値は、撮像画像に含まれる暗領域の面積と、ガイドレール140からの散乱光の画素値の大きさとに比例して増加することから、(C)に示す有限の差分値504が生じる。
【0062】
そこで判定回路405は、x方向の差分値(絶対値)が所定の閾値T以下であるときに、「OK」(据付設計位置からのx方向の並進誤差がない)と判定し、x方向の差分値(絶対値)が所定の閾値Tを超える場合に、「NG」(据付設計位置からのx方向の並進誤差がある)と判定し、これらの判定結果を指示部260に出力する、据付箇所判定処理を実行する。
【0063】
ここで、閾値Tについて、より定量的に説明する。撮像部230における全画素のうち、ガイドレール140からの散乱光が入射する画素を考える。これらの画素の画素値の平均値をI、標準偏差をσとし、画素値の分布が正規分布に従うと仮定する。また、撮像部230のx方向の画素数をN、y方向の画素数をNとする。
【0064】
撮像画像502-Bにおいて、x方向の差分値は、画素値のバラつきと同程度で、その大きさは、σ/(√(N×N))を標準偏差とした正規分布に従う。一方、計測装置110がx方向に並進誤差を持ち、x方向に暗領域503が生じた場合、暗領域503の面積に比例した差分値が生じる。例えば、暗領域503が画素1列分だけ発生した場合、差分値の大きさは、I×Nに略一致する。
【0065】
そこで、本実施形態では、差分値における閾値Tを、画素値のバラつき(例えば標準偏差の5倍)よりも大きく、かつ、最小の暗領域による差分値よりも小さい値として定める。このような閾値Tは、例えば以下の式1の関係式で定められる。
【数1】
【0066】
上記の式1で定められる閾値Tを用いて上記の据付箇所判定処理を行うことにより、判定回路405は、x方向の差分値が画素値のバラつきの範囲内で「0(または略0)」に一致するときはOK判定とし、x方向の少なくとも1列に暗領域が生じたときにはNG判定を出力することができる。
【0067】
次に、計測装置110のx方向の据付要求精度について説明する。据付要求精度とは、計測装置110の据付または点検において、計測装置110が据付設計位置に載置されているかを判定する際の基準となる精度であって、十分に適切な精度が要求される。理想的なx方向の据付設計位置は、ガイドレール140のx方向の中心軸505と、計測装置110の撮像範囲のx方向の中心軸506とが一致するような配置である。ガイドレール140の中心軸505から撮像範囲の中心軸506が変位してもガイドレール140からの散乱光が撮像部230の撮像面全体に入射すれば、x方向の位置変動は許容される。したがって、計測装置110の撮像範囲のx方向の幅をWim、ガイドレール140のx方向の幅をWrailとすると、x方向の並進誤差の許容量(すなわちx方向の据付要求精度)は、以下の式2の値が要求される。
【数2】
具体的には例えば、計測装置110においてWim=13mm、ガイドレール140においてWrail=15mmの場合、x方向の変位の許容量(x方向の据付要求精度)は1mmとなる。
【0068】
次に、x方向に並進誤差がある場合に、画像処理部240が、x方向の差分値の大きさと正負符号に基づいて、並進誤差の大きさと方向を算出する方法について説明する。x方向の差分値の大きさは、暗領域のx方向の幅に比例するので、調整移動量をx方向の差分値の大きさから算出することが可能である。また、x方向の差分値の符号から、左右のどちらにずれているかを判定する。
【0069】
本例では、撮像画像をx方向とy方向にそれぞれ2分割した計4象限の分割の例を示したが、分割数は4分割に限らない。例えば、x方向とy方向にそれぞれ4分割した計16象限で撮像画像を処理する内部構成を採用することにより、画像処理部240は、計4象限の場合よりも高精度に調整移動量を推定することができる。
【0070】
なお、x方向の差分量から並進誤差の大きさを算出する場合、計測装置110はすでに適切な精度(変位がWrail/2よりも小さい)で載置されている必要がある。例えば、撮像画像502-Aよりもさらに変位が大きく、象限401と象限403の画素すべてが暗領域503となり、象限402と象限404の一部にも暗領域503が生じているといったように、計測装置110の載置位置が据付設計位置から大幅にずれている場合には、撮像画像502において暗領域503以外の明領域の割合が少なくなりすぎて、上述の4分割の象限を用いた方法では並進誤差を正確に計算できない。この場合には、分割数を4分割よりも細かい画素に分割し、少ない明領域から調整移動量を推定することが必要となる。
【0071】
(1-3-2)x軸周りの回転誤差の判定方法
図11は、y方向の差分値に基づいてx軸周りの計測装置110の回転誤差(傾斜)を判定する方法を説明するための概念図である。図11では、(A)において、ガイドレール140に対してx軸周りに異なる位置にある計測装置110について、ガイドレール140と計測装置110との位置関係の例を示し、(B)において、上記の各位置関係における撮像画像602の概念図を示し、(C)において、計測装置110の据付設計位置に対するx軸周りの傾斜角とy方向の差分値との関係の推移を示す概念図を示している。
【0072】
図11では、計測装置110が据付設計位置に載置されている場合の撮像画像を撮像画像602-Bとし、計測装置110が据付設計位置からx軸周りに傾斜して載置された場合の撮像画像を撮像画像602-A,602-Cとしている。
【0073】
計測装置110が据付設計位置からx軸周りに傾斜して載置されている場合、(B)に示す撮像画像602-A,602-Cのように、緩やかに画素値が低下する。これは、後述する通り、ガイドレール140からの散乱輝度が、散乱角が大きくなるにつれて低下するためである。計測装置110が据付設計位置に載置されている場合には、y方向の差分値はほぼ0に等しい。一方、計測装置110が据付設計位置からy軸周りに傾斜して載置されている場合、左右の象限に非対称性(画素値のむら603)が現れることから、(C)に示す有限の差分値604が生じる。そのため、画像処理部240(判定回路405)は、y方向の差分値からx軸周りの計測装置110の傾斜を判定することが可能である。
【0074】
具体的には、判定回路405は、y方向の差分値(絶対値)が所定の閾値T以下であるときに、「OK」(据付設計位置からのx軸周りの傾斜(回転誤差)がない)と判定し、y方向の差分値(絶対値)が所定の閾値Tを超える場合に、「NG」(据付設計位置からのx軸周りの傾斜(回転誤差)がある)と判定、これらの判定結果を指示部260に出力する、据付箇所判定処理を実行する。なお、閾値Tは、図10を参照しながら説明したx軸方向に沿った並進誤差の判定で用いた閾値Tと同様の方法で定めることができ、同値としてもよい。
【0075】
次に、計測装置110のx軸周りの傾斜の据付要求精度について説明する。理想的な据付設計位置は、計測装置110が傾斜していない配置、すなわち、計測装置110における結像部220の光軸がz軸方向と一致している配置である。一方、x軸周りの傾斜が発生すると、結像部220の光軸とガイドレール140の凸部の頂面とが直交せず、y方向の倍率が低下する。すなわち、据付設置時のx軸周りの傾斜角をθset,xとすると、y方向の倍率はcos(θset,x)に比例して低下する。その結果、実際の移動距離に比べて、計測装置110が計測する移動距離が、cos(θset,x)に比例して低下し、系統誤差が発生する。
【0076】
この系統誤差の相対許容量をδrとすると、据付設計位置におけるx軸周りの傾斜の許容量はacos(1-δr)となる。具体的には例えば、系統誤差を0.1%以内(δr≦0.001)に抑えたい場合は、2.5度以下の精度(すなわち、θset,x≦2.5°)での据付精度が要求される。
【0077】
次に、上記の据付要求精度で計測装置110を据付または点検するときに、上述したガイドレール140からの散乱光が計測装置110の傾斜に伴って撮像部230の撮像面全体に生じる「画素値のむら」に着目して、本発明における光送信部210及び結像部220の構成について説明する。
【0078】
図12は、ガイドレール140の散乱光の各散乱角方向の輝度の分布について説明するための概念図である。詳しくは、図12では、光送信部210の光送信方向と、ガイドレール140の研磨方向と、ガイドレール140の散乱光の散乱角方向の輝度の分布(散乱角度分布)との関係を示し、挿入図701では、ガイドレール140の研磨方向による散乱光のバラつきのイメージを示している。
【0079】
ガイドレール140の研磨方向がy軸に沿った構成では、ガイドレール140の表面は研磨とは垂直なx軸方向にざらざらしている(挿入図701の(B)参照)。その結果、研磨方向(y方向)と垂直なxz面内では、研磨傷からの散乱光の方向が大きくバラつく。一方、研磨方向(y方向)に平行なyz面内では、研磨に沿ってガイドレール140の表面の傾斜は一様であるので、散乱光が発生しづらく(挿入図701の(C)参照)、正反射光の出射方向に集中して分布し、角度分布のバラつきは小さい。
【0080】
したがって、ガイドレール140の研磨方向がy軸に沿った構成であるときは、図12に示したように、光送信部210における光送信方向がxz面内になるような構成とすれば、正反射光の出射方向もxz面内になる。その結果、散乱角度分布はxz面を中心に強く分布し(挿入図701の(A)参照)、結像部220へと高輝度な散乱光が入射する。
【0081】
図13図15は、光送信部210からの照明光とその散乱光及び正反射光との方向を説明するための概念図(その1~その3)である。
【0082】
図13は、計測装置110がx軸周りの傾斜において理想的な据付設計位置(結像部220の光軸とz軸が一致)に載置されたときの状態を示している。図13のような理想的な据付設計位置では、撮像範囲での正反射光がxz面内に位置する。光送信部210からの照明光の出射位置がy方向に撮像範囲の幅と同程度に長く分布するとき、撮像範囲内からの正反射光は一様に結像部220に入射する。
【0083】
一方、図15では、計測装置110が理想的な据付設計位置に対してx軸周りに大きく傾斜しているときの状態を示している。図15のようにx軸周りの傾斜が大きく発生すると、撮像範囲で反射されて結像部220の主光線として入射するはずの正反射光を出射する位置に光源がなく、一部の撮像範囲からの正反射光が結像部220に入射しなくなる。その結果、撮像画像に緩やかな輝度低下が発生する。
【0084】
図14は、撮像範囲からの正反射光が結像部220に入射しなくなる条件を説明するための概念図である。
【0085】
図14に示すように、光送信部210のy方向の高さをHLED、撮像領域の高さをHim、ガイドレール140に対する光送信部210の変位のz成分をLとする。このとき、緩やかな画素値の低下が発生し始める傾斜角は、「atan((HLED-Him)/(2×L))/2」である。したがって、撮像範囲からの正反射光が結像部220に入射するために、光送信部210の高さHLEDの上限境界を、例えば以下の式3によって定めることができる。
【数3】
上記式3のようにHLEDを構成すれば、x軸周りの傾斜の据付要求精度「θset,x」を上回ったときに、画像処理部240(判定回路405)は据付箇所判定処理において「NG」(据付設計位置からのx軸周りの傾斜あり)と判定することが可能となる。
【0086】
なお、上記式3をx軸周りの傾斜の据付要求精度「θset,x」について解くと、以下の式4のように表される。この式4の右辺は、x軸周りの回転誤差の計測可能な最小値を示している。
【数4】
【0087】
また、計測装置110は、かご揺れによって、走行中もx軸周りに傾斜することがある。このような傾斜の発生時にもむらなく一様な画像を得るためには、光送信部210の大きさを十分に広げ、傾斜に対する裕度を設けておく必要がある。そこで、かご揺れによる傾斜の大きさを「θvib,x」とすると、光送信部210の高さHLEDの下限境界を、例えば以下の式5のように定めることで、傾斜に対する十分な裕度を確保することができる。
【数5】
【0088】
上記した式3及び式5を用いて、光送信部210のy方向の高さHLEDを具体的に計算する。例えば、計測装置110が、ガイドレール140に対する光送信部210までの変位のz成分が70mm、撮像領域の高さHimが12.8mmとなるように構成されているとする。このとき、かご揺れの大きさを1度とし、傾斜角2.5度以下の据付要求精度(倍率変動0.1%以内)で計測装置110を据え付けるためには、光送信部210のy方向の高さHLEDを撮像領域の高さHimに比べて大きくとり、その差を3.5mmよりも大きく8.9mmよりも小さく選定すれば、据付設計位置からの据付要求精度以上のx軸周りの傾斜を判定し、かつ、かご揺れが発生しても常にむらのない一様な画像を得ることが可能となる。
【0089】
(1-3-3)y軸周りの回転誤差の判定方法
図16は、x方向の差分値に基づいてy軸周りの計測装置110の回転誤差(傾斜)を判定する方法を説明するための概念図である。図16では、(A)において、ガイドレール140に対してy軸周りに異なる位置にある計測装置110について、ガイドレール140と各計測装置110との位置関係の例を示し、(B)において、上記の各位置関係における撮像画像902の概念図を示し、(C)において、計測装置110の据付設計位置に対するy軸周りの傾斜角とx方向の差分値との関係の推移を示す概念図を示している。
【0090】
図16では、計測装置110が据付設計位置に載置されている場合の撮像画像を撮像画像902-Bとし、計測装置110が据付設計位置からy軸周りに傾斜して載置された場合の撮像画像を撮像画像902-A,902-Cとしている。
【0091】
計測装置110が据付設計位置からy軸周りに傾斜して載置されている場合、(B)に示す撮像画像902-A,902-Cのように緩やかに画素値が低下する。これは、ガイドレール140からの散乱輝度が、散乱角が大きくなるにつれて低下するためである。したがって、前述したx方向の並進誤差及びx軸周り回転誤差と同様に、(C)に示したように、撮像画像902-A~902-Cに基づいて、x方向の差分値からy軸周りの計測装置110の傾斜を判定することが可能である。
【0092】
次に、本構成におけるy軸周りの傾斜に対する据付要求精度を説明する。図12を参照して前述したように、ガイドレール140の研磨傷は移動方向(y軸方向)に沿って平行についているため、研磨傷からの散乱光の角度分布はxz面内で大きくばらつく(図12の挿入図701の(A)参照)。その結果、y軸周りの傾斜が多少発生しても、散乱輝度の角度分布の広がりが大きいため、図16の(B)に示すような緩やかな画素値の低下は起こりにくく、常にむらのない一様な画像を得ることが可能である。すなわち、y軸周りの傾斜のほうがx軸周りの傾斜に比べて誤差感度が小さく、調整も容易である。
【0093】
一方で、研磨傷による散乱光の角度分布のx方向の広がり角を「θscat,x」とするとき、θscat,xを大きく上回って計測装置110がy軸周りに傾斜すると、(B)に示したような緩やかな画素値の低下(画素値のむら903)が撮像画像902-A,902-Cに発生する。したがって、y軸周りの傾斜に対する据付要求精度は、研磨傷による散乱光の角度分布のx方向の広がり角「θscat,x」によって決まる。
【0094】
(1-3-4)x軸方向の並進誤差とy軸周りの回転誤差との判別
上述した(1-3-1)で説明した図10の撮像画像502-A~502-Cと、(1-3-3)で説明した図16の撮像画像902-A~902-Cとを比較すると、どちらの撮像画像においても、x方向に緩やかな画素値の低下が発生し得ることが分かる。これは、計測装置110がx軸方向の並進誤差を有する場合とy軸周りの回転誤差を有する場合とで、類似した撮像画像が得られることを意味しており、据付設計位置に対する計測装置110の載置位置を正確に判定するためには、これらの誤差の発生要因を判別できることが好ましい。
【0095】
図17は、据付箇所判定処理においてx軸方向の並進誤差とy軸周りの回転誤差とを判別する、画像処理部240の内部構成例を示す図である。図17に示した画像処理部240は、集計回路1001及び判定回路1003を備えて構成される。
【0096】
計測装置110におけるx方向の位置変動では、ガイドレール140が撮像範囲内からずれ、撮像範囲の一部に暗領域が生じることが精度低下の要因である。一方で、計測装置110におけるy軸周りの傾斜では、傾斜によるx方向に沿った緩やかな輝度分布の低下が精度低下の要因である。
【0097】
図17に示した画像処理部240の内部構成では、撮像部230から受信した画像信号に対して、集計回路1001が、y軸方向の画素について総和を計算するとともに、x軸方向については隣接画素間の差分を計算することにより、差分プロファイル1002を生成する。このような差分プロファイル1002では、x方向の位置変動が発生した場合には、急峻かつ高いピークがガイドレール140の端において発生する(差分プロファイル1002-A)。一方、y軸周りの傾斜が発生した場合には、急峻なピークは現れず、緩やかかつ低いピークが発生する(差分プロファイル1002-B)。
【0098】
判定回路1003は、上記のような差分プロファイル1002-A,1002-Bの違いに注目し、差分プロファイル1002の高さと幅を計算し、高さ及び幅の大きさに基づいて、撮像画像における画素値の低下がx軸方向の位置変動(並進誤差)を要因とするものであるか、y軸周りの傾斜(回転誤差)を要因とするものであるか、またはその両方であるかを判別する。高さを用いた判別では、判定回路1003は、例えば画素値の平均値Iを基準にして、差分プロファイル1002における高さが平均値Iと同程度に大きい場合はx軸方向の位置変動と判別し、平均値Iよりもある程度小さい場合にはy軸周りの傾斜と判別する。このときy軸周りの傾斜の判別基準とする高さの閾値は、例えば、画素値の平均値Iの半分とする。また、幅を用いた判別では、判定回路1003は、例えば幅が画素1ピクセルと同程度に小さい場合はx軸方向の位置変動と判別し、幅が画素1ピクセルよりもある程度大きい場合にはy軸周りの傾斜と判別する。このときy軸周りの傾斜の判別基準とする幅の閾値は、例えば、数ピクセル(2~3ピクセル)とする。
【0099】
そして、判定回路1003は、据付設計位置に対する誤差の要因の判別結果を踏まえて、各誤差を解消するために必要な調整情報(調整方向と調整移動量)を特定し、計測装置110が据付設計位置に載置されているか否かの判定結果(OK判定またはNG判定)と、NG判定の場合にはその調整情報(調整方向と調整移動量)とを、据付箇所判定情報に含めて指示部260等に出力する。
【0100】
また、前述した通り、ガイドレール140からの散乱光は、ガイドレール140の表面のy軸方向の研磨傷によってx方向に大きく広がるため、y軸周りの傾斜はx軸周りの傾斜に比べて誤差感度が小さく調整も容易である。そこで、判定回路1003は、y軸周りの回転誤差を粗く調整した後に、x方向の差分値を参照してx方向の並進誤差を細かく調整するようにしてもよい。
【0101】
また、(1-3-2)で説明したx軸周りの回転誤差についても、図17に示した画像処理部240の内部構成がx軸とy軸を入れ替えた処理を同様に行うことによって、誤差の要因がx軸周りの傾斜(回転)であるかそれ以外(例えばy軸方向への変位)であるかを判別することができる。この場合、具体的には、集計回路1001が、x軸方向の画素について総和を計算するとともに、y軸方向について隣接画素間の差分を計算することにより、y軸方向に沿った差分プロファイル1002を作成する。そして判定回路1003が、差分プロファイル1002のピークの位置から、x軸周りの回転誤差の大きさ及び方向(またはその一方)を判定すればよい。
【0102】
(1-3-5)z軸方向に沿った並進誤差の判定方法
図18は、据付箇所判定処理においてz軸方向の並進誤差を判定する、画像処理部240の内部構成例を示す図である。図18に示した画像処理部240は、フーリエ変換回路1101及び判定回路1102を備えて構成される。
【0103】
図18に示した画像処理部240は、撮像部230からガイドレール140からの散乱光に係る画像信号を受信し、フーリエ変換回路1101において、x軸方向、y軸方向それぞれについて二次元のフーリエ変換を実行する。このとき、計測装置110が据付設計位置からz軸方向に変位し、撮像画像にぼやけが発生すると、図18中のグラフに示すように高い空間周波数の成分が低下する。そこで判定回路1102は、高周波成分のフーリエ強度の低下に基づき、z軸方向に沿った位置変動を判定する。例えば、ガイドレール140における撮像画像から想定される高周波成分のフーリエ強度を下回る場合には「NG」(据付設計位置からのz軸方向の並進誤差がある)と判定し、指示部260にNG信号を送信する。一方、フーリエ変換によって得られたフーリエ強度が上記想定される高周波成分のフーリエ強度以上である場合には、判定回路1102は「OK」(据付設計位置からのz軸方向の並進誤差がない)と判定し、指示部260にOK信号を送信する。なお、判定回路1102は、据付設計位置への誤差を解消するために必要な調整量(補正量)を、高周波成分のフーリエ強度の低下量から算出することができる。
【0104】
以上、(1-3-1)~(1-3-5)で説明したように、本実施形態に係る計測装置110は、画像処理部240が図9に示した内部構成を有するときに、x方向の差分値に基づいてx軸方向の並進誤差及びy軸周りの回転誤差を判定することができ、y方向の差分値に基づいてx軸周りの回転誤差を判定することができる。また、計測装置110は、画像処理部240が図18に示した内部構成を有するときに、x軸方向及びy軸方向の二次元のフーリエ変換によってz軸方向の並進誤差を判定することができる。また、計測装置110は、画像処理部240が図17に示した内部構成を有するときに、x軸方向の並進誤差とy軸周りの回転誤差の何れの誤差要因が存在するかを判別することができ、あるいは、x軸周りの回転誤差が要因であるかを判別することができる。
【0105】
そして、上述した図4図17、及び図18に示した画像処理部240の内部構成は、何れも独立しても機能するが、適宜組み合わせてもよい。例えば、図4の内部構成と図18の内部構成とを組み合わせて画像処理部240を構成することにより、調整が不要とされるy軸方向の変位とz軸周りの傾斜を除く、すべての軸に関する変位(並進誤差)及び傾斜(回転誤差)を判定することができる。さらに図17の内部構成も追加することにより、誤差の要因を精度良く判別することができ、据付設計位置判定処理の精度を高めることができる。
【0106】
(1-4)計測装置110の据付設計位置
これまで、計測装置110の据付設計位置をエレベーターかご120の上部としてきたが、本実施形態に係る計測装置110の据付設計位置はこれに限定されるものではなく、以下に例示するように、エレベーターかご120を構成する面のうち水平(または略水平)な面に対して直接的または間接的に載置する様々な構成を採用することができる。
【0107】
図19図22は、計測装置110の据付設計位置の具体例を示す図(その1~その4)である。図19図22の具体例では、エレベーターかご120からガイドレール140がよく見える位置を、計測装置110の据付設計位置に選定している。
【0108】
図19は、エレベーターかご120のガイドローラ1201の上部に位置する傘1202の上に、計測装置110を据付する例である。本構成は、現在のエレベーターかご120の構成を変更する必要がないという利点がある。また、現地の作業者が、かご上作業の際に、傘1202の上に計測装置110を載置し、固定するだけでよいことから、据付作業工数も少ない。
【0109】
図20は、エレベーターかご120のガイドローラ1201の下部に隙間を設け、その隙間に計測装置110を据付する例である。本構成は、面精度の高いエレベーターかご120の上面に設置することができるので、計測装置110の据付時の回転誤差が生じにくい。また、エレベーターかご120の設計段階で、計測装置110の据付設計位置にねじ穴やマークを用意することによって、並進誤差及び/または回転誤差を小さくし、より高い精度で計測装置110を据え付けることが可能である。
【0110】
図21は、エレベーターかご120のガイドレール140の手前に開口を設け、この開口に計測装置110を設置する例である。本構成は、計測装置110の指示部260をエレベーターかご120の内側に設けることにより、作業者270がかご内作業のみで計測装置110を据付及び点検することが可能である。そのため、作業の簡易化及び作業時間の短縮に期待できる。
【0111】
図22は、エレベーターかご120の下部(床面または床下など)に計測装置110を据付する例である。本構成は、エレベーターかご120の上部にスペースが少ない場合に有効な構成である。例えば、昇降路内の高さに制約がある天井の低い建物では、本構成を選択することが効果的である。
【0112】
なお、本実施形態における計測装置110の据付設計位置は、上記例を組み合わせて構成してもよい。例えば、冗長化による信頼性向上の目的で、計測装置110を複数据え付ける必要があるときに、一方をかご上部(図19)、もう一方をかご下部(図22)に設置する等が可能である。
【0113】
(1-5)計測装置110の据付作業及び点検作業
以下に、計測装置110を適切な据付位置(据付設計位置)に据え付ける据付作業、及び据付済みの計測装置110の位置を保守点検する点検作業について、それぞれの作業手順を詳しく説明する。なお、据付作業及び点検作業は作業者270によって実行される。また、計測装置110及びエレベーター制御部130の内部構成は、図2図4に示した構成例の何れでもよいとする。
【0114】
(1-5-1)据付作業
図23は、据付作業の作業手順例を示すフローチャートである。
【0115】
図23によればまず、作業者270は、エレベーターかご120の据付設計位置をねらって計測装置110を載置する(ステップS101)。
【0116】
次に、作業者270は、指示部260(または表示端末290)に表示される据付箇所判定情報を認知し、計測装置110が据付設計位置に載置されているか否かを確認する(ステップS102)。具体的には、作業者270は、図6図8に示した判定結果表示器310において、OK判定を意味する表示がなされているか否かを確認する。
【0117】
なお、計測装置110とエレベーター制御部130または表示端末290との接続や、計測装置110への通電といった作業は、図23に示す据付作業手順を開始する前に行っても良いし、少なくともステップS102の前までに実行していればよい。
【0118】
ステップS102の確認において計測装置110が据付設計位置に載置されていなかった場合、すなわちNG判定が出力された場合(ステップS103のNO)、作業者270は、指示部260(または表示端末290)に表示される据付箇所判定情報に基づいて、計測装置110の載置位置を調整する(ステップS104)。具体的には、指示部260または表示端末290が図7図8に示した補正方向指示器320を具備している場合、作業者270は、補正方向指示器320が示す変位や傾斜に応じて、計測装置110の載置位置を後述する据付位置調整治具を用いて調整する。なお、指示部260または表示端末290が補正方向指示器320を具備していない場合は、作業者270は、計測装置110を各方向に移動させて、自身で据付設計位置を探索する。
【0119】
ステップS104の後は、ステップS102に戻り、作業者270は、指示部260または表示端末290に表示される据付箇所判定情報に基づいて、調整後の計測装置110が据付設計位置に載置されているか否かを確認する。作業者270は、ステップS103でYESと判定されるまで、これらステップS102~S104の処理を繰り返す。
【0120】
一方、ステップS102の確認において計測装置110が据付設計位置に載置されていた場合、すなわちOK判定が出力された場合には(ステップS103のYES)、ステップS105に進む。
【0121】
そしてステップS105において、作業者270は、固定治具を用いて現在の載置位置に計測装置110を固定し、据付作業を終了する。
【0122】
以上のように、図23の据付作業を行うことにより、作業者270は、特段の計測工具を使うことなく、また、自身の計測技術や光学調整技術の熟練度に依ることなく、計測装置110を据付設計位置に十分に適切な精度で簡便に載置し据え付けることができる。
【0123】
(1-5-2)点検作業
図24は、点検作業の作業手順例を示すフローチャートである。
【0124】
図24によればまず、作業者270は、エレベーターかご120に据付されている計測装置110において、指示部260に表示される据付箇所判定情報を認知し、計測装置110が据付設計位置に載置されているか否かを確認する(ステップS201)。具体的には、作業者270は、図6図8に示した判定結果表示器310において、OK判定を意味する表示がなされているか否かを確認する。なお、作業者270は指示部260の代わりに表示端末290を利用してもよく、これは以下の処理でも同様である。ステップS201の確認により、エレベーターかご120が長期間運行されている間に、例えば、エレベーターかご120の振動、衝撃、または治具の緩みによって、計測装置110が据付設計位置からずれていないかを知ることができる。
【0125】
ステップS201の確認において計測装置110が据付設計位置に載置されている、すなわちOK判定が出力された場合(ステップS202のYES)、作業者270は、計測装置110の据付位置に関する点検作業を終了する。
【0126】
一方、ステップS201の確認において計測装置110が据付設計位置に載置されていない、すなわちNG判定が出力された場合(ステップS202のNO)、作業者270は、計測装置110の固定治具を外す(ステップS203)。
【0127】
次に、作業者270は、指示部260から表示される据付箇所判定情報に基づいて、計測装置110が据付設計位置に載置されているかどうかを確認する(ステップS204)。ステップS204の確認において計測装置110が据付設計位置に載置されていなかった場合、すなわちNG判定が出力された場合は(ステップS205のNO)、ステップS206に進む。なお、ステップS203で固定治具を外した直後は、計測装置110は据付設計位置に載置されていない状態のままであるため、ステップS204,S205の処理をスキップしてステップS206に進んでもよい。
【0128】
ステップS206では、作業者270は、指示部260に表示される据付箇所判定情報に基づいて、計測装置110の載置位置を調整する。ステップS206における調整方法は、据付作業における調整方法(図23のステップS104)と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0129】
ステップS206の後は、ステップS204に戻り、作業者270は、指示部260に表示される据付箇所判定情報に基づいて、調整後の計測装置110が据付設計位置に載置されているか否かを確認する。作業者270は、ステップS205でYESと判定されるまで、これらステップS204~S206の処理を繰り返す。
【0130】
一方、ステップS204の確認において計測装置110が据付設計位置に載置されていた場合、すなわちOK判定が出力された場合は(ステップS205のYES)、ステップS207に進む。
【0131】
そしてステップS207において、作業者270は、固定治具を用いて現在の載置位置に計測装置110を固定し、点検付作業を終了する。
【0132】
以上のように、図24の点検作業を行うことにより、作業者270は、特段の計測工具を使うことなく、また、自身の計測技術や光学調整技術の熟練度に依ることなく、計測装置110が据付設計位置に適切な精度で載置されているかを簡便に点検することができ、載置位置がずれていた場合には簡便に据付設計位置に載置し直すことができる。
【0133】
なお、図24に示した点検作業の作業手順は、保守点検だけでなく、計測装置110の整備や修理のために、計測装置110をエレベーターかご120から一旦外し(固定を解除し)、再び据付する作業全般に対して適用することができる。
【0134】
(1-5-3)誤差調整
前述した図23のステップS104、及び図24のステップS206では、作業者270が据付箇所判定情報に基づいて、据付設計位置に対する計測装置110の誤差を調整する。このような誤差調整における作業の手順を説明する。
【0135】
図25は、誤差調整の作業手順例を示すフローチャートである。
【0136】
図25によればまず、作業者270は、計測装置110のy軸周りの傾斜角度(回転誤差)を調整する(ステップS301)。誤差調整において最初に回転誤差を調整する理由は、回転軸の位置によっては、傾斜角度を変えたときに、傾斜角度だけでなく計測装置110の並進方向の位置も変動するためである。また、前述したように、y軸周りの回転誤差は、x軸周りの回転誤差に比べて計測装置110の撮像画像における誤差感度が小さいので、先にy軸周りの回転誤差を調整する。
【0137】
次に、作業者270は、計測装置110のx軸周りの傾斜角度(回転誤差)を調整する(ステップS302)。
【0138】
次に、作業者270は、計測装置110をx軸に沿って並進移動させ、x方向の変位(並進誤差)を調整する(ステップS303)。
【0139】
誤差調整ではx軸の並進誤差とz軸の並進誤差とが調整の対象となるが、x軸とz軸のうち、光学系性能(画像のぼけ)に強く影響するz軸方向の方が、計測性能に大きく影響を与える。そして、z軸の調整では画像のぼけの有無を検出するため、まず撮像範囲全体にガイドレール140が位置することを確認したうえで、画像全面をつかってぼけの大きさを計測するほうが、z軸並進誤差の計測精度があがる。そこで、まずはステップS303においてx方向の並進誤差を調整し、撮像部230の撮像範囲全体にガイドレール140が視認できることを確認する。
【0140】
そして、ステップS303の調整後、作業者270は、計測装置110をz軸に沿って並進移動させ、z方向の変位(並進誤差)を調整し(ステップS304)、誤差調整を終了する。
【0141】
(1-6)据付位置調整治具
以下では、計測装置110をエレベーターかご120に据え付ける際に、据付位置(載置位置)を調整するために用いられる据付位置調整治具について、詳しく説明する。なお、以下に説明する据付位置調整治具1600,1700は、本実施形態に係る計測装置110の一構成と考えてもよい。
【0142】
図26は、据付位置調整治具1600の構成例を示す図である。据付位置調整治具1600は、本実施形態に係る計測装置110の位置調整に使用可能な据付位置調整治具の一例である。図26に示すように、据付位置調整治具1600は、z軸周り回転調整具1610、x軸周り回転調整具1620、x軸並進調整具1630、及びz軸並進調整具1640、を含んで構成される。
【0143】
図25の誤差調整で説明したように、回転軸の位置によって計測装置110の並進位置が変動することから、据付位置調整治具1600は、まず回転誤差を調整し、次に並進誤差を調整できるよう構成される。具体的には、図26に示したように、エレベーターかご120に対して、まず回転調整具(z軸周り回転調整具1610、x軸周り回転調整具1620)を据え付け、次に回転調整具に並進調整具(x軸並進調整具1630、z軸並進調整具1640)を据え付け、最後に並進調整具(例えばx軸並進調整具1630の上面)に計測装置110を据え付ける。
【0144】
z軸周り回転調整具1610は、少なくとも二層の治具を具備する。二層の治具のうち、下層の治具はエレベーターかご120に固定される。上層の治具は、固定した下層の治具とは独立してz軸周りにのみ回転可能であり、各軸方向の並進移動及びz軸以外の軸周りの回転移動が制限される。z軸周り回転調整具1610は、例えば、手動式の回転ステージである。
【0145】
x軸周り回転調整具1620は、少なくとも二つの治具を具備する。一つの治具は、z軸周り回転調整具1610に固定される。もう一つの治具は、固定した上記治具とは独立してx軸周りのみに回転し、各軸方向の並進移動及びx軸以外の軸周りの回転移動が制限される。x軸周り回転調整具1620は、例えば、手動式の1軸ゴニオステージであってもよい。
【0146】
z軸並進調整具1640は、少なくとも二つの治具を具備する。一つの治具は、x軸周り回転調整具1620のx軸回りに回転可能な治具に固定され、もう一つの治具は、固定した上記治具とは独立してz軸方向に並進し、各軸周りの回転移動及びz軸方向以外の並進移動が制限される。z軸並進調整具1640は、例えば、手動式の並進ステージである。
【0147】
x軸並進調整具1630は、少なくとも二つの治具を具備する。一つの治具は、z軸並進調整具1640のz軸方向に並進可能な治具に固定される。もう一つの治具は、固定した上記治具とは独立してx軸方向に並進し、各軸周りの回転移動及びx軸方向以外の並進移動が制限される。x軸並進調整具1630は、例えば、手動式の並進ステージである。なお、図26において、x軸並進調整具1630とz軸並進調整具1640の位置関係が逆になってもよい。
【0148】
図27は、据付位置調整治具1700の構成例を示す図である。据付位置調整治具1700は、本実施形態に係る計測装置110の位置調整に使用可能な据付位置調整治具の別例であって、製造コストを低減する目的のもと、図26に示した据付位置調整治具1600よりも簡易な構成(例えば具備する治具の数が少ない構成)となっている。図27に示すように、据付位置調整治具1700は、z軸周り回転調整具1710、x軸周り回転調整具1720、x軸並進調整具1730、及びz軸並進調整具1740、を含んで構成される。
【0149】
図27に示したように、据付位置調整治具1700は、エレベーターかご120に対して、まず回転調整具(z軸周り回転調整具1710、x軸周り回転調整具1720)を据え付け、次に回転調整具に並進調整具(x軸並進調整具1730、z軸並進調整具1740)を据え付け、最後に並進調整具(例えばz軸並進調整具1740の上面)に計測装置110を据え付ける。また、エレベーターかご120上には、円筒状の滑らかな突起部1701が設けられる。
【0150】
z軸周り回転調整具1710は、突起部1701と嵌合する凹み1711が形成された一層の治具を具備する。z軸周り回転調整具1710は、凹み1711を突起部1701に挿嵌することにより、突起部1701を中心にしたz軸周りにのみ回転可能な構成とする。
【0151】
なお、突起部1701をエレベーターかご120に設けるときには、ガイドレール140の中心とx座標が一致するような位置に設ける。これにより、z軸周り回転調整具1710によるz軸周りの回転移動の調整が行われても、据付位置調整治具1700に載置された計測装置110のガイドレール140までの距離は変わらず、また、x軸方向の並進移動による調整の必要もなくなる。さらに、z方向の据付設計位置に位置するように突起部1701を設ければ、z軸方向の並進移動による調整も必要なくなる。
【0152】
x軸周り回転調整具1720は、ねじタップが設けられた穴がz方向の一端に形成された一つの治具を具備し、当該穴に螺合された調節ねじ1721によって固定される。x軸周り回転調整具1720は、調節ねじ1721の回転数に応じてx軸周り回転調整具1720の一方の高さが調整されることで、x軸周りの傾斜角を調整する。また、x軸周り回転調整具1720の治具の上面(x軸並進調整具1730側)には、x軸に平行な滑らかな溝1722が設けられる。この溝1722は、x軸並進調整具1730のための構造である。
【0153】
なお、x軸周り回転調整具1720は、調節ねじ1721が螺合されるねじ穴を、z方向の一端だけでなく他端にも設けた構成としてもよい。このような構成の場合、x軸周りの回転誤差を正負両方(時計回りと反時計回り)の向きに調整することが可能である。
【0154】
x軸並進調整具1730は、x軸周り回転調整具1720の溝1722と嵌合するx軸に平行な滑らかな凸部1731が下面に設けられた、一つの治具を具備する。x軸並進調整具1730は、溝1722に沿ってx軸方向に滑らせることにより、x軸方向の変位を調整する。また、x軸並進調整具1730の治具の上面(z軸並進調整具1740側)には、z軸に平行な滑らかな溝1732が設けられる。この溝1732は、z軸並進調整具1740のための構造である。
【0155】
z軸並進調整具1740は、x軸並進調整具1730の溝1732と嵌合するz軸に平行な滑らかな凸部1741が下面に設けられた、一つの治具を具備する。z軸並進調整具1740は、溝1732に沿ってz軸方向に滑らせることにより、z軸方向の変位を調整する。
【0156】
以上、図26及び図27を参照しながら、据付位置調整治具の構造例について詳しく説明した。作業者270は、このような据付位置調整治具を用いて、図25に示した誤差調整の作業手順に従って、各調整具で回転誤差及び並進誤差の調整を実施し、その完了後は、例えばねじ等で各治具を固定し、それぞれの移動を制限する。
【0157】
(2)第2の実施形態
上述した第1の実施形態は、作業者270が、計測装置110における指示部260または表示端末290の表示を基に、エレベーターかご120における計測装置110の据付位置を、据付位置調整治具1600を用いて手作業で調整するものであったが、第2の実施形態では、例えば指示部260に入力される信号をアクチュエータに入力し、アクチュエータが、計測装置110の据付位置を据付設計位置に自動調整する。
【0158】
図28は、本発明の第2の実施形態における計測装置110及びエレベーター制御部130の内部構成例を示す図である。
【0159】
図28に示すように、第2の実施形態に係るエレベーターシステム20において、計測装置110は、第1の実施形態における図3と同様に、光送信部210、結像部220、撮像部230、画像処理部240、かご移動関連情報出力部250、及び据付箇所判定情報出力部280を有して構成される。各部の機能及び構成は、図2または図3に示した各部と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0160】
また、第1の実施形態に係るエレベーターシステム10との相違点として、第2の実施形態に係るエレベーターシステム20は、計測装置110とは別に、アクチュエータ1800を含んで構成される。
【0161】
アクチュエータ1800は、第1の実施形態における据付位置調整治具1600,1700と同様に、z軸周り回転調整具、x軸周り回転調整具、x軸並進調整具、及びz軸並進調整具、を含んで構成される。但し、第1の実施形態とは異なり、作業者270による手作業ではなく、アクチュエータ1800により電子的に制御するため、例えば、電動並進ステージや、電動回転ステージ、電動ゴニオステージなどの、電動式の調整ステージを用いる。
【0162】
図28に示したように、アクチュエータ1800は、エレベーターかご120に固定され、その上に計測装置110を保持する。なお、図28では、計測装置110の据付設計位置に図19に示した例を採用しているが、図20図22に例示したようなその他の据付設計位置であっても、本実施形態を適用可能である。
【0163】
アクチュエータ1800は、計測装置110の据付箇所判定情報出力部280から、据付箇所判定情報(据付設計位置に載置されているかどうかの判定結果と、判定結果がNGの場合は調整情報(調整方向及び調整移動量)とを含む)を受信する。そして、アクチュエータ1800は、受信した据付箇所判定情報に基づいて、エレベーターかご120を基準とした計測装置110の並進移動または回転移動またはその両方を実施し、計測装置110の据付箇所判定情報からOK判定が得られるまで、計測装置110の変位(並進誤差)及び角度(回転誤差)を調整する。アクチュエータ1800による調整の手順は、図25に示した誤差調整の手順に従うとしてもよいが、作業者による作業ではないため、その他の手順(例えば、各調整具を一斉に移動させる等)であってもよい。
【0164】
以上のように第2の実施形態では、アクチュエータ1800が計測装置110の据付位置が自動で調整することができることから、作業者270の熟練度に依ることなく、計測装置110を据付設計位置に対して十分に適切な精度で簡便に据え付けることができる。
【0165】
(3)第3の実施形態
上述した第1及び第2の実施形態は、計測装置110を、エレベーターシステム10,20において移動するエレベーターかご120の位置または速度の少なくとも何れかを計測する装置に適用したものであった。しかし、本発明は、上記用途に限定されるものではなく、その他種々のシステム、装置、方法、及びプログラムに広く適用することができる。
【0166】
例えば、第1または第2の実施形態に係る計測装置110は、エレベーターの運行だけではなく、エレベーターかご120よりも高速で走行する自動車や列車等の車両(移動体)において、当該移動体の位置や速度を高精度に検出する用途に適用することが可能である。例えば、自動運転車においては、高速道路における位置監視または速度監視の目的、あるいは、駐車場、ガソリンスタンド、または充電スタンド等における高精度な位置決定の目的で、計測装置110を適用することが可能である。
【0167】
図29は、計測装置110を車両に適用した車両移動情報検出システム1900の構成例を示す図である。
【0168】
図29に示す車両移動情報検出システム1900において、計測装置110は、路面1920内(例えば、線路上)を走行する車両1910(例えば、自動車や列車)の側部または底部に配置される。計測装置110は、車両1910の移動に係る情報(具体的には例えば、車両1910の移動距離、速度、加速度等の少なくとも何れか)を計測し、車両1910の運行制御を行うために有用な信号情報を、車両制御部(不図示)に出力する。そして車両制御部は、例えば車両1910を安全に動作及び停止させるための運行制御を実施する。
【0169】
以上のように計測装置110を車両1910に適用することにより、車両移動情報検出システム1900は、より高速に移動する車両上からも、移動距離や速度等を高精度かつ短時間で測定することができるため、車両1910を安全に動作及び停止させる制御に役立てることができる。
【0170】
また例えば、第1または第2の実施形態に係る計測装置110は、クレーンの運行制御にも適用することが可能である。
【0171】
図30は、計測装置110をクレーンに適用したクレーン移動情報検出システム2000の構成例を示す図である。
【0172】
図30に示すクレーン移動情報検出システム2000において、計測装置110は、レール2020に沿って1軸方向に運行するクレーン2010の側部または底部に配置される。図30の場合、レール2020が静止構造物に相当する。
【0173】
計測装置110は、レール2020の壁面を撮像し、クレーン2010の移動に係る情報(具体的には例えば、クレーン2010の移動量または速度の少なくとも何れか)を計測し、クレーン2010の運行制御を行うために有用な信号情報を、クレーン制御部(不図示)に出力する。そしてクレーン制御部は、計測装置110から入力された情報に基づいて、クレーン2010の動作を監視し、位置異常や速度異常を検出する。
【0174】
以上のように計測装置110をクレーン2010に適用することにより、クレーン移動情報検出システム2000は、クレーン2010の運行制御においてその安全性を高めることができる。
【0175】
なお、以上に述べた各実施形態は、本発明を分かりやすく説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また例えば、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換等をすることが可能である。
【0176】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば、集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0177】
また、図面において制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0178】
10,20 エレベーターシステム
110 計測装置
120 エレベーターかご
130 エレベーター制御部
140 ガイドレール
210 光送信部
220 結像部
230 撮像部
240 画像処理部
250 かご移動関連情報出力部
260 指示部
270 作業者
280 据付箇所判定情報出力部
290 表示端末
310 判定結果表示器
320 補正方向指示器
330 補正量指示器
405,1003 判定回路
1001 集計回路
1002 差分プロファイル
1101 フーリエ変換回路
1201 ガイドローラ
1202 傘
1600,1700 据付位置調整治具
1610,1710 z軸周り回転調整具
1620,1720 x軸周り回転調整具
1630,1730 x軸並進調整具
1640,1740 z軸並進調整具
1800 アクチュエータ
1900 車両移動情報検出システム
1910 車両
1920 路面
2000 クレーン移動情報検出システム
2010 クレーン
2020 レール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図26
図27
図28
図29
図30