(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080554
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/34 20160101AFI20230602BHJP
H02P 6/21 20160101ALI20230602BHJP
【FI】
H02P21/34
H02P6/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193965
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 佑理
【テーマコード(参考)】
5H505
5H560
【Fターム(参考)】
5H505AA04
5H505DD03
5H505EE41
5H505EE49
5H505FF01
5H505GG02
5H505GG04
5H505GG06
5H505HA06
5H505HB01
5H505JJ03
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5H505JJ25
5H505KK05
5H505LL17
5H505LL22
5H505LL37
5H560AA01
5H560BB04
5H560DB13
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5H560TT15
5H560XA02
5H560XA04
5H560XA06
5H560XA12
5H560XA13
5H560XA15
(57)【要約】
【課題】モータの起動成功率を高めること。
【解決手段】ロータとステータとを有するファンモータMの回転を制御するモータ制御装置100において、回転検出部52は、ファンモータMの起動前にファンモータMの空転方向を検出し、IPM23は、ファンモータMに流れる電流である巻線電流を生成し、起動処理部53は、空転方向が逆転方向である場合、ロータとステータの回転磁界とを同期させてロータの空転の回転数を低下させる同期運転を第一区間で行った後にロータの位置決めを第二区間で行う際に、巻線電流を連続させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータとステータとを有するモータの回転を制御するモータ制御装置であって、
前記モータの起動前に前記モータの空転方向を検出する回転検出部と、
前記モータに流れる電流である巻線電流を生成する生成部と、
前記空転方向が逆転方向である場合、前記ロータと前記ステータの回転磁界とを同期させて前記ロータの空転の回転数を低下させる同期運転を第一区間で行った後に前記ロータの位置決めを第二区間で行う際に、前記巻線電流を連続させる起動処理部と、
を具備するモータ制御装置。
【請求項2】
前記起動処理部は、前記第一区間の終了時点の電流値と、前記第二区間の開始時点の電流値とを同一の電流値にすることにより前記巻線電流を連続させる、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記モータは、第一相の巻線である第一巻線と、第二相の巻線である第二巻線と、第三相の巻線である第三巻線とを有し、
前記第一巻線を流れる前記巻線電流である第一相電流と、前記第二巻線を流れる前記巻線電流である第二相電流とを検出する電流検出部、をさらに具備し、
前記起動処理部は、前記第二区間において、前記第一巻線及び前記第二巻線から前記第三巻線へ前記巻線電流を流し、前記第一相電流と前記第二相電流との差分が閾値以下になった後に前記位置決めを行う、
請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記第一相電流と前記第二相電流とを比較して前記差分を検出し、前記差分が前記閾値以下になった時点で前記起動処理部へ制御信号を出力する比較部、をさらに具備し、
前記起動処理部は、前記比較部から前記制御信号を入力された時点で前記位置決めを開始する、
請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記起動処理部は、前記第二区間に後続する第三区間で、前記ロータの位置を検出せずに前記ロータと前記ステータの回転磁界とを同期させて前記ロータを正転方向へ回転させる同期運転を行う、
請求項1~4のいずれか一つに記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機の室外機は、熱交換機と、熱交換機用のファン(以下では「室外機ファン」と呼ぶことがある)と、室外機ファンを回転させるモータ(以下では「ファンモータ」と呼ぶことがある)とを有する。
【0003】
室外機ファンが外風等による外力を受けていない場合、ファンモータの起動の際に、ファンモータは、ファンモータのロータが停止状態から所定方向(以下では「正転方向」呼ぶことがある)に回転するように運転を開始する。起動開始直後のファンモータのロータは低い回転数で回転しているため、ロータの回転によりファンモータのステータに生じる誘起電圧が小さい。このため、ファンモータの駆動を制御するモータ制御装置は、ファンモータのロータの位置(以下では「ロータ位置」と呼ぶことがある)を誘起電圧に基づいて検出することが困難である。このため、モータ制御装置は、ファンモータの起動開始時点から、ファンモータの回転速度がロータ位置の検出が可能な速度に到達するまでの間、実際のロータ位置を検出せずにロータとステータの回転磁界とを同期させる運転(以下では「同期運転」と呼ぶことがある)を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、同期運転ではモータ制御装置は実際のロータ位置を検出しないため、ファンモータの負荷の状態によってはファンモータの起動が困難となる場合がある。
【0006】
例えば、ファンモータの起動前でも、ファンモータの負荷である室外機ファンが外風等から外力を受けて空転することがある。ファンモータは正転方向に回転するように駆動されるため、ファンモータの起動前に室外機ファンがファンモータの正転方向と逆方向に(つまり、逆転方向に)空転している場合には、ファンモータの起動時の負荷(以下では「起動時負荷」と呼ぶことがある)が大きくなる。起動時負荷が大きくなると、ファンモータの起動の際の同期運転においてファンモータの起動に失敗する可能性が高くなる。
【0007】
そこで、本開示は、モータの起動成功率を高めることができる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のモータ制御装置は、ロータとステータとを有するモータの回転を制御し、回転検出部と、生成部と、起動処理部とを有する。前記空転検出部は、前記モータの起動前に前記モータの空転方向を検出する。前記生成部は、前記モータに流れる電流である巻線電流を生成する。前記起動処理部は、前記空転方向が逆転方向である場合、前記ロータと前記ステータの回転磁界とを同期させて前記ロータの空転の回転数を低下させる同期運転を第一区間で行った後に前記ロータの位置決めを第二区間で行う際に、前記巻線電流を連続させる。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、モータの起動成功率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の実施例のモータ制御装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施例の速度制御部の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施例のd軸電流制御部の構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施例のq軸電流制御部の構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施例の位相調整部の構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施例のモータ制御装置における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、本開示の実施例のモータ制御装置における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、本開示の実施例のモータ制御装置における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、本開示の実施例のモータ制御装置における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、本開示の実施例のファンモータの巻線抵抗値と逆転方向の回転速度の閾値との関係の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、本開示の実施例のモータ制御装置の動作例の説明に供する図である。
【
図12】
図12は、本開示の実施例のモータ制御装置の動作例の説明に供する図である。
【
図13】
図13は、本開示の実施例のモータ制御装置の動作例の説明に供する図である。
【
図14】
図14は、本開示の実施例の位置決めの詳細の説明に供する図である。
【
図15】
図15は、本開示の実施例の位置決めの詳細の説明に供する図である。
【
図16】
図16は、本開示の実施例の位置決めの詳細の説明に供する図である。
【
図17】
図17は、本開示の実施例の位置決めの詳細の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例において同一の構成には同一の符号を付す。
【0012】
[実施例]
<モータ制御装置の構成>
図1は、本開示の実施例のモータ制御装置の構成例を示す図である。
図1において、モータ制御装置100は、減算部11,14,15,19と、速度制御部12と、励磁電流制御部13と、d軸電流制御部16と、q軸電流制御部17と、非干渉化制御部18と、加算部20と、dq/3φ変換部21と、PWM(Pulse Width Modulation)部22と、IPM(Intelligent Power Module)23と、電流検出部24と、3φ/dq変換部25と、軸誤差算出部26と、PLL(Phase Locked Loop)制御部29と、積分部30と、1/Pn処理部31とを有する。また、モータ制御装置100は、運転制御部51と、回転検出部52と、起動処理部53と、位相調整部54と、V
d生成部55Aと、V
q生成部55Bと、Pn処理部56と、比較部61と、スイッチSW1,SW2,SW3とを有する。スイッチSW1は、入力端子SW1-1,SW1-2と出力端子SW1-0とを有し、スイッチSW2は、入力端子SW2-1,SW2-2と出力端子SW2-0とを有する。スイッチSW3は、入力端子SW3-1,SW3-2,SW3-3と出力端子SW3-0とを有する。
【0013】
IPM23は、上アームのスイッチング素子としてU相、V相、W相の各相の3個のスイッチング素子Fu,Fv,Fwを有するとともに、下アームのスイッチング素子としてX相、Y相、Z相の各相の3個のスイッチング素子Fx,Fy,Fzを有する。PWM部22は、スイッチング素子Fu,Fv,Fw,Fx,Fy,Fzのスイッチングを制御するために、U相、V相、W相、X相、Y相、Z相の6相のPWM信号をIPM23へ出力する。
【0014】
モータ制御装置100は、ファンモータMに接続され、ファンモータMの駆動及び回転を制御する。ファンモータMは、ロータとステータとを有する。また、ファンモータMは室外機ファンFに接続され、室外機ファンFを回転させる。モータ制御装置100、ファンモータM及び室外機ファンFは、例えば、空気調和機の室外機に搭載される。
【0015】
減算部11,14,15,19、速度制御部12、励磁電流制御部13、d軸電流制御部16、q軸電流制御部17、非干渉化制御部18、加算部20、dq/3φ変換部21、PWM部22、電流検出部24、3φ/dq変換部25、軸誤差算出部26、PLL制御部29、積分部30、1/Pn処理部31、運転制御部51、回転検出部52、起動処理部53、位相調整部54、Vd生成部55A、Vq生成部55B、Pn処理部56、比較部61、及び、スイッチSW1,SW2,SW3は、例えばマイクロコンピュータまたはプロセッサにより実現される。プロセッサの一例として、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等が挙げられる。
【0016】
図2は、本開示の実施例の速度制御部の構成例を示す図である。
図2において、速度制御部12は、積分定数K
Iωの係数部121と、積分部122と、比例定数K
Pωの係数部123と、加算部124とを有する。
【0017】
図3は、本開示の実施例のd軸電流制御部の構成例を示す図である。
図3において、d軸電流制御部16は、積分定数K
Idの係数部161と、積分部162と、比例定数K
Pdの係数部163と、加算部164とを有する。
【0018】
図4は、本開示の実施例のq軸電流制御部の構成例を示す図である。
図4において、q軸電流制御部17は、積分定数K
Iqの係数部171と、積分部172と、比例定数K
Pqの係数部173と、加算部174とを有する。
【0019】
図5は、本開示の実施例の位相調整部の構成例を示す図である。
図5において、位相調整部54は、積分定数K
Iの係数部541と、積分部542と、比例定数K
Pの係数部543と、加算部544とを有する。
【0020】
<モータ制御装置における処理>
図6、
図7、
図8及び
図9は、本開示の実施例のモータ制御装置における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0021】
ここで、ファンモータMの起動前でも、空転する室外機ファンFに連動してファンモータMが正転方向または逆転方向に空転することがある。以下では、正転方向の空転を「正空転」と呼び、逆転方向の空転を「逆空転」と呼ぶことがある。そこで、
図6のステップS10では、回転検出部52は、ファンモータMの起動前に、ファンモータMの空転時の回転方向(以下では「空転方向」と呼ぶことがある)と、ファンモータMの空転時の回転速度(以下では「空転速度」と呼ぶことがある)とを検出し、検出した空転方向及び空転速度を含む空転情報を運転制御部51へ出力する。運転制御部51は、回転検出部52から空転情報を取得する。例えば、回転検出部52は、ファンモータMのU相、V相、W相の各相の誘起電圧を用いて、空転方向及び空転速度を検出する。例えば、回転検出部52は、U相の誘起電圧の立ち上がりエッジの次に検出される立ち上がりエッジがV相の誘起電圧の立ち上がりエッジである場合には、空転方向が正転方向であると判定し、U相の誘起電圧の立ち上がりエッジの次に検出される立ち上がりエッジがW相の誘起電圧の立ち上がりエッジである場合には、空転方向が逆転方向であると判定する。また、空転速度が大きくなるほどファンモータMの誘起電圧の周期が小さくなるため、回転検出部52は、例えば、U相の誘起電圧の周期に基づいて空転速度を検出する。
【0022】
次いで、ステップS15では、運転制御部51は、空転情報に基づいて、空転方向が正転方向であるか逆転方向であるかを判定する。空転方向が正転方向である場合は(ステップS15:Yes)、処理はステップS20へ進み、空転方向が逆転方向である場合は(ステップS15:No)、処理はステップS30へ進む。
【0023】
ステップS20では、運転制御部51は、空転速度NIが第一閾値NP1以上であるか否かを判定する。空転速度NIが第一閾値NP1以上である場合は(ステップS20:Yes)、処理はステップS25へ進み、空転速度NIが第一閾値NP1未満である場合は(ステップS20:No)、処理はステップS300へ進む。
【0024】
ステップS25では、運転制御部51は、空転速度NIが第二閾値NP2未満であるか否かを判定する。空転速度NIが第二閾値NP2未満である場合は(ステップS25:Yes)、処理はステップS100へ進み、空転速度NIが第二閾値NP2以上である場合は(ステップS25:No)、処理はステップS10に戻る。
【0025】
一方で、運転制御部51は、空転速度NIが第三閾値NN1以上であるか否かを判定する。空転速度NIが第三閾値NN1以上である場合は(ステップS30:Yes)、処理はステップS300へ進み、空転速度NIが第三閾値NN1未満である場合は(ステップS30:No)、処理はステップS35へ進む。
【0026】
ステップS35では、運転制御部51は、空転速度NIが第四閾値NN2未満であるか否かを判定する。空転速度NIが第四閾値NN2未満である場合は(ステップS35:Yes)、処理はステップS500へ進み、空転速度NIが第四閾値NN2以上である場合は(ステップS35:No)、処理はステップS10に戻る。
【0027】
ここで、正転方向をプラス、逆転方向をマイナスとして、例えば、第一閾値NP1は+200[rpm]に、第二閾値NP2は+400[rpm]に、第三閾値NN1は-200[rpm]に、第四閾値NN2は-400[rpm]に予め設定される。例えば、第二閾値NP2及び第四閾値NN2は、外風からの外力による空転の回転数の絶対値がこれらの閾値の絶対値以上になると、室外機ファンFが十分に回転しているためファンモータMを起動する必要がないような値に設定される。また例えば、第一閾値NP1及び第三閾値NN1は、空転の回転数の絶対値がこれらの閾値の絶対値未満になると、慣性力が小さくて同期をとらずにロータの位置を所定の位置に固定する「位置決め」を行えるような値に設定される。
【0028】
ステップS100では、運転制御部51は、
図7に示す正転起動処理を行う。
【0029】
また、ステップS300では、運転制御部51は、
図8に示す低回転時起動処理を行う。
【0030】
また、ステップS500では、運転制御部51は、
図9に示す逆転起動処理を行う。
【0031】
正転起動処理、低回転時起動処理、または、逆転起動処理が行われた後、ステップS190,S390,S590では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-2を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-2を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-3を接続し、ファンモータMの運転モードを同期運転モードから、ベクトル制御の運転モード(以下では「ベクトル制御モード」と呼ぶことがある)へ移行させ、ベクトル制御でファンモータMを駆動させる。
【0032】
ファンモータMの運転モードが同期運転モードからベクトル制御モードへ移行された後、ステップS195,S395,S595では、運転制御部51は、スイッチSW1,SW2,SW3の接続状態をステップS190,S390,S590における接続状態に維持したまま、ベクトル制御でファンモータMを駆動させ続ける通常運転を行う。
【0033】
図7に示す正転起動処理において、ステップS110,S120では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-1を接続し、ファンモータMを正転方向で同期運転させる。以下では、正転方向での同期運転を「正転同期運転」と呼ぶことがある。また以下では、ステップS110で行われる正転同期運転を「第一正転同期運転」と呼び、ステップS120で行われる正転同期運転を「第二正転同期運転」と呼ぶ。
図7に示すように、第一正転同期運転の次に第二正転同期運転が行われる。
【0034】
次いで、ステップS130では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-2を接続し、ファンモータMの位相を調整する。ステップS130の処理後、処理はステップS190(
図6)へ進む。
【0035】
また、
図8に示す低回転時起動処理において、ステップS310では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-1を接続し、ファンモータMが有するロータの位置を所定の位置に固定する「位置決め」を行う。
【0036】
次いで、ステップS320,S330では、運転制御部51は、スイッチSW1,SW2,SW3の接続状態をステップS310における接続状態に維持したまま、ファンモータMを正転同期運転させる。以下では、ステップS320で行われる正転同期運転を「第三正転同期運転」と呼び、ステップS330で行われる正転同期運転を「第四正転同期運転」と呼ぶ。
図8に示すように、第三正転同期運転の次に第四正転同期運転が行われる。
【0037】
次いで、ステップS340では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-2を接続し、ファンモータMの位相を調整する。ステップS340の処理後、処理はステップS390(
図6)へ進む。
【0038】
また、
図9に示す逆転起動処理において、ステップS510では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-1を接続し、ファンモータMを逆転方向で同期運転させる。以下では、逆転方向での同期運転を「逆転同期運転」と呼ぶことがある。また以下では、ステップS510で行われる逆転同期運転を「第一逆転同期運転」と呼び、ステップS520で行われる逆転同期運転を「第二逆転同期運転」と呼ぶ。なお、電圧指令値V
*が正の値(正電圧)のときファンモータMにはファンモータMを正転方向に回転させるトルクが発生する。
【0039】
次いで、ステップS520では、運転制御部51は、スイッチSW1,SW2,SW3の接続状態をステップS510における接続状態に維持したまま第二逆転同期運転を行い、ファンモータMに印加する電圧を正の傾きで変化させる。
【0040】
次いで、ステップS530では、運転制御部51は、スイッチSW1,SW2,SW3の接続状態をステップS510における接続状態に維持したまま、位置決めを行う。
【0041】
次いで、ステップS540,S550では、運転制御部51は、スイッチSW1,SW2,SW3の接続状態をステップS510における接続状態に維持したまま、ファンモータMを正転同期運転させる。以下では、ステップS540で行われる正転同期運転を「第五正転同期運転」と呼び、ステップS550で行われる正転同期運転を「第六正転同期運転」と呼ぶ。
図9に示すように、第五正転同期運転の次に第六正転同期運転が行われる。
【0042】
次いで、ステップS560では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-2を接続し、ファンモータMの位相を調整する。ステップS560の処理後、処理はステップS590(
図6)へ進む。
【0043】
なお、ファンモータMの巻線抵抗値が大きくなるほど、ファンモータMを流れる電流が小さくなり、逆転方向に空転している室外機ファンFの同期が難しくなるため、第三閾値N
N1は、
図10に示すように、ファンモータMの巻線抵抗値が大きくなるほど、より小さい値(0に近い値、以下同様)に設定されるのが好ましい。
図10は、本開示の実施例のファンモータの巻線抵抗値と逆転方向の回転速度の閾値との関係の一例を示す図である。
【0044】
<モータ制御装置の動作>
図11、
図12及び
図13は、本開示の実施例のモータ制御装置の動作例の説明に供する図である。
図11、
図12及び
図13には、電圧指令値V
*の時間推移と、電気角速度指令値ω
e_refの時間推移とを実線で示す。また、以下の説明において、ファンモータMの電気角速度及び機械角速度は、ファンモータMの回転速度に相当する。
【0045】
以下、モータ制御装置100の動作例を、正転起動処理(ステップS100)が行われる場合と、低回転時起動動処理(ステップS300)が行われる場合と、逆転起動処理(ステップS500)が行われる場合とに分けて説明する。
【0046】
<正転起動処理が行われる場合の動作>
ファンモータMの起動において正転起動処理が行われる場合、ファンモータMの運転区間は、
図11に示すように、モータ制御装置100に通電がされていない非通電区間S0A、モータ制御装置100に通電がされた後にステップS10の処理が行われる回転情報入手区間S1A、ステップS110の処理が行われる第一正転同期運転区間S2A、ステップS120の処理が行われる第二正転同期運転区間S3A、ステップS130の処理が行われる位相調整区間S4A、ステップS190の処理が行われるモード移行区間S5A、及び、ステップS195の処理が行われる通常運転区間S6Aに区別される。以下では、電気角速度指令値ω
e_ref(目標回転速度)に対するファンモータMの実際の電気角速度を「実角速度」と呼ぶことがある。
【0047】
<回転情報入手区間S1Aにおける動作>
起動処理部53は、機械角速度指令値ωm_refを0[rpm]で一定に保つ。
【0048】
また、起動処理部53は、電圧指令値V*を0[V]で一定に保つ。
【0049】
Pn処理部56は、機械角速度指令値ωm_refにファンモータMの極対数Pnを乗算することにより0[rpm]の電気角速度指令値ωe_refを算出し、算出した電気角速度指令値ωe_refを積分部30及びVd生成部55Aへ出力する。
【0050】
V
d生成部55Aは、Pn処理部56から入力される0[rpm]の電気角速度指令値ω
e_refと、3φ/dq変換部25から入力されるq軸電流I
qとを用いて、式(1)に従って0[V]のd軸電圧指令値V
d
*を算出し、算出したd軸電圧指令値V
d
*をdq/3φ変換部21及びV
q生成部55Bへ出力する。式(1)において、「L
q」はファンモータMのq軸インダクタンスを示す。
【数1】
【0051】
V
q生成部55Bは、起動処理部53から入力される0[V]の電圧指令値V
*と、V
d生成部55Aから入力される0[V]のd軸電圧指令値V
d
*とを用いて、式(2)に従って0[V]のq軸電圧指令値V
q
*を算出し、算出したq軸電圧指令値V
q
*をdq/3φ変換部21へ出力する。よって、回転情報入手区間S1Aにおいて算出されるq軸電圧指令値V
q
*は0[V]となる。
【数2】
【0052】
回転情報入手区間S1Aでは、回転検出部52が空転方向及び空転速度ω
realを検出し、検出した空転方向及び空転速度ω
realを含む空転情報を運転制御部51及び起動処理部53へ出力する。
図11における「T
2s」は回転情報入手区間S1Aの時間を示し、予め行われる試験によって定まる所定値である。
【0053】
そして、検出された空転方向及び空転速度ωrealがステップS15,S20,S25の条件に合致したときに(ステップS15,S20,S25:Yes)、ファンモータMの運転区間は回転情報入手区間S1Aから第一正転同期運転区間S2Aに移行する。
【0054】
<第一正転同期運転区間S2Aにおける動作>
第一正転同期運転区間S2Aでは、運転制御部51は、機械角速度指令値ωm_ref及び電圧指令値V*の算出指示を起動処理部53へ出力することにより、機械角速度指令値ωm_ref及び電圧指令値V*を起動処理部53に算出させる。
【0055】
起動処理部53は、式(3)及び式(4)に従って、正転方向での機械角速度指令値ω
m_refを算出する。式(3)及び式(4)における「ω
e_ref」は電気角速度指令値を示し、式(3)における「Pn」はファンモータMの極対数を示し、式(4)における「ω
ses
*」は第一正転同期運転区間S2Aにおける起動開始電気角速度を示す。また、
図11における「T
3s」は第一正転同期運転区間S2Aの時間を示す。起動開始電気角速度ω
ses
*及び時間T
3sは、予め行われる試験によって定まる所定値であり、第一正転同期運転区間S2Aにおける電気角速度指令値ω
e_refは、目標電気角速度ω
seh
*よりも小さい値を有する起動開始電気角速度ω
ses
*で一定に保たれる。起動処理部53は、式(3)及び式(4)に従って算出した機械角速度指令値ω
m_refをPn処理部56へ出力する。
【数3】
【数4】
【0056】
また、起動処理部53は、式(5)に従って電圧指令値V
*を算出し、算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。式(5)における「V
ss
*」は第一正転同期運転区間S2Aにおける起動開始電圧を示す。起動開始電圧V
ss
*は、予め行われる試験によって定まる所定値であり、第一正転同期運転区間S2Aにおける電圧指令値V
*は、起動開始電圧V
ss
*で一定に保たれる。
【数5】
【0057】
Pn処理部56は、機械角速度指令値ωm_refにファンモータMの極対数Pnを乗算することにより式(4)に示す電気角速度指令値ωe_refを算出し、算出した電気角速度指令値ωe_refを積分部30及びVd生成部55Aへ出力する。
【0058】
Vd生成部55Aは、Pn処理部56から入力される電気角速度指令値ωe_refと、3φ/dq変換部25から入力されるq軸電流Iqとを用いて、式(1)に従ってd軸電圧指令値Vd
*を算出し、算出したd軸電圧指令値Vd
*をdq/3φ変換部21及びVq生成部55Bへ出力する。
【0059】
Vq生成部55Bは、起動処理部53から入力される電圧指令値V*と、Vd生成部55Aから入力されるd軸電圧指令値Vd
*とを用いて、式(2)に従ってq軸電圧指令値Vq
*を算出し、算出したq軸電圧指令値Vq
*をdq/3φ変換部21へ出力する。
【0060】
積分部30は、Pn処理部56から入力される電気角速度指令値ωe_refを積分することより、ファンモータMの電気角位相(dq軸位相)θeを算出し、算出した電気角位相θeをdq/3φ変換部21及び3φ/dq変換部25へ出力する。このように、ファンモータMの運転モードが同期運転モードにある場合は、起動処理部53によって算出された機械角速度指令値ωm_refに基づいて電気角位相θeが算出されるため、同期運転モードでは、実際のロータ位置は検出されない。
【0061】
dq/3φ変換部21は、積分部30によって算出された電気角位相θeを用いて、二相のd軸電圧指令値Vd
*及びq軸電圧指令値Vq
*を、三相のU相電圧指令値Vu
*、V相電圧指令値Vv
*及びW相電圧指令値Vw
*へ変換し、変換後のU相電圧指令値Vu
*、V相電圧指令値Vv
*及びW相電圧指令値Vw
*をPWM部22へ出力する。
【0062】
PWM部22は、PWMの搬送波であるキャリア信号と、U相電圧指令値Vu
*、V相電圧指令値Vv
*及びW相電圧指令値Vw
*との比較結果に基づいてPWMを行うことによりU相、V相、W相、X相、Y相、Z相の6相のPWM信号を生成し、生成したPWM信号をIPM23へ出力する。
【0063】
IPM23は、PWM信号に基づくスイッチング制御により、モータ制御装置100の外部から印加される直流電圧Vdcから、ファンモータMのU相、V相、W相のそれぞれへ印加する交流電圧(三相交流電圧)を生成し、生成した各相の交流電圧をファンモータMのU相、V相、W相へ印加することによりファンモータMを駆動する。IPM23は、ファンモータMを駆動する駆動部の一例である。
【0064】
電流検出部24は、電流検出部24が有するシャント抵抗(図示せず)を用いてIPM23の母線電流を検出し、検出した母線電流と、PWM部22から出力されるスイッチング情報SIとから、三相交流電圧の印加によってファンモータMのU相、V相、W相の各々を流れる巻線電流であるU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを検出する。スイッチング情報SIは、IPM23におけるスイッチングパターンを示す。電流検出部24は、検出したU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを3φ/dq変換部25及び比較部61へ出力する。なお、電流検出方式は、シャント電流検出方式ではなく、CT電流検出方式等を用いても良い。
【0065】
比較部61は、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwのそれぞれの大きさを比較し、比較結果に基づいて生成する切替制御信号を起動処理部53へ出力する。
【0066】
3φ/dq変換部25は、積分部30によって算出された電気角位相θeを用いて、三相のU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwを、二相のd軸電流Id及びq軸電流Iqへ変換し、変換後のq軸電流Iqを運転制御部51及びVd生成部55Aへ出力する。
【0067】
<第二正転同期運転区間S3Aにおける動作>
以下、第二正転同期運転区間S3Aにおける動作について、第一正転同期運転区間S2Aにおける動作と異なる点について説明する。
【0068】
第二正転同期運転区間S3Aでは、起動処理部53は、式(3)及び式(6)に従って、正転方向での機械角速度指令値ω
m_refを算出する。式(6)において、「ω
seh
*」は第二正転同期運転区間S3Aにおける目標電気角速度、「T
4s」は第二正転同期運転区間S3Aの時間、「T
4s-n」はファンモータMの電気角速度が目標電気角速度ω
seh
*に収束するまでに要する時間、「n」は任意の設定値、「t」は第二正転同期運転区間S3Aの開始時点からの経過時間を示し、時間T
4s及び設定値nは、予め行われる試験によって定まる所定値である。設定値nを設けることで、ファンモータMの電気角速度が目標電気角速度ω
seh
*に収束してからの待機時間が生まれ、ファンモータMの動作が安定する。また、目標電気角速度ω
seh
*は、起動処理部53によって、回転検出部52が検出した空転速度ω
realよりも小さい値に設定される。式(6)に従って電気角速度指令値ω
e_refが算出されることにより、ファンモータMの正転方向での電気角速度は、
図11に示すように、起動開始電気角速度ω
ses
*から目標電気角速度ω
seh
*に達するまで線形に増大する。起動処理部53は、式(3)及び式(6)に従って算出した機械角速度指令値ω
m_refをPn処理部56へ出力する。なお、本実施例では説明の便宜上電圧指令値V
*及び機械角速度指令値ω
m_refを線形に増大させているが、必ずしも線形に増大させる必要はなく、例えば非線形の関数を用いて増大させても良い。
【数6】
【0069】
また、起動処理部53は、式(7)に従って電圧指令値V
*を算出し、算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。式(7)において、「V
sh
*」は第二正転同期運転区間S3Aにおける目標電圧を示し、目標電圧V
sh
*は、予め行われる試験によって定まる所定値である。式(7)に従って電圧指令値V
*が算出されることにより、正電圧で与えられるファンモータMの電圧は、
図11に示すように、起動開始電圧V
ss
*から目標電圧V
sh
*に達するまで線形に増大する。
【数7】
【0070】
<位相調整区間S4Aにおける動作>
以下、位相調整区間S4Aにおける動作について、第一正転同期運転区間S2Aにおける動作と異なる点について説明する。
【0071】
位相調整区間S4Aでは、位相調整部54がスイッチSW3を介して積分部30、運転制御部51及びVd生成部55Aに接続される。スイッチSW3での入力端子SW3-1から入力端子SW3-2への切替時点で位相調整部54から出力される電気角速度ωeは目標電気角速度ωseh
*とする。これにより、スイッチSW3の切替時に生じうる異音等(所謂、切替ショック)を防止できる。
【0072】
3φ/dq変換部25は、変換後のd軸電流Idを位相調整部54へ出力し、変換後のq軸電流IqをVd生成部55Aへ出力する。
【0073】
また、起動処理部53は、式(8)に従って電圧指令値V
*を算出するため、電圧指令値V
*は目標電圧V
sh
*で一定に保たれる。起動処理部53は、式(8)に従って算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。
【数8】
【0074】
ここで、目標電圧Vsh
*は、負荷急変によるファンモータMの脱調を防止するために、比較的大きい値に設定される。よって、第二正転同期運転区間S3Aでは、ファンモータMは進角状態で回転するため、ファンモータMの位相は最適な位相からずれている可能性がある。ファンモータMの位相が最適な位相からずれたままファンモータMの運転モードが同期運転モードからベクトル制御モードへ移行すると、速度制御部12、d軸電流制御部16及びq軸電流制御部17がハンチングを起こしてしまい、ファンモータMの起動に失敗する可能性が大きくなる。
【0075】
そこで、位相調整部54は、ファンモータMの運転モードが同期運転モードからベクトル制御モードへ移行する前に、ファンモータMの位相が最適な位相になるように、ファンモータMの位相を調整する。
【0076】
位相調整部54(
図5)において、係数部541は、d軸電流I
dに積分定数K
Iを乗算し、乗算結果I
d・K
Iを積分部542へ出力する。積分部542は、乗算結果I
d・K
Iを積分し、積分結果を加算部544へ出力する。一方で、係数部543は、d軸電流I
dに比例定数K
pを乗算し、乗算結果I
d・K
pを加算部544へ出力する。加算部544は、積分部542での積分結果と係数部543での乗算結果とを加算し、加算結果を電気角速度ω
eとして出力する。ここで、積分定数K
I及び比例定数K
pは、d軸電流I
dが0に収束するような値に予め定められている。よって、位相調整部54では、d軸電流I
dが小さくなるような電気角速度ω
eが生成され、生成された電気角速度ω
eが積分部30、運転制御部51及びV
d生成部55Aへ出力される。d軸電流I
dが0になるような電気角速度ω
eが算出されることにより、ファンモータMへ印加される交流電圧の位相とファンモータMのロータの位相とが合わせられる位相調整が行われる。この位相調整は、同期運転モードで行われる。
【0077】
V
d生成部55Aは、位相調整部54から入力される電気角速度ω
eと、3φ/dq変換部25から入力されるq軸電流I
qとを用いて、式(9)に従ってd軸電圧指令値V
d
*を算出し、算出したd軸電圧指令値V
d
*をdq/3φ変換部21へ出力する。
【数9】
【0078】
積分部30は、位相調整部54から入力される電気角速度ωeを積分することより電気角位相θeを算出し、算出した電気角位相θeをdq/3φ変換部21及び3φ/dq変換部25へ出力する。
【0079】
位相調整部54が、d軸電流I
dが0になるような電気角速度ω
eを算出することにより、ファンモータMの正転方向での位相が最適な位相になる。その結果、
図11に示すように、位相調整区間S4Aにおいて、ファンモータMの正転方向での電気角速度は目標電気角速度ω
seh
*から徐々に増加する。
【0080】
また、位相調整区間S4Aでは、第一正転同期運転区間S2Aと同様に、式(2)に従ってq軸電圧指令値Vq
*が算出される。
【0081】
このように、位相調整区間S4Aでは、
図11に示すように、起動処理部53が電圧指令値V
*を目標電圧V
sh
*で一定にした状態で、位相調整部54は、3φ/dq変換部25から入力されるd軸電流I
dが0になるような電気角速度ω
eを算出する。その結果、
図11に示すように、ファンモータMの正転方向での電気角速度は目標電気角速度ω
seh
*から増加して最適値に収束する。
【0082】
なお、位相調整部54においてd軸電流Idが0に収束するまでに要する時間T5sが位相調整区間S4Aの長さとして設定されると良い。例えば、軸誤差算出部26が算出した軸誤差Δθが所定の範囲内(例えば、±20°以内)になった場合に、d軸電流Idが収束したと判定することができる。
【0083】
<モード移行区間S5Aにおける動作>
モード移行区間S5Aでは、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-2を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-2を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-3を接続する。これにより、ファンモータMの運転モードは同期運転モードからベクトル制御モードへ移行する。
【0084】
また、運転制御部51は、モード移行区間S5Aへの移行直前に位相調整区間S4Aにおいて3φ/dq変換部25によって得られたq軸電流Iqを、モード移行区間S5Aへの移行時点で、速度制御部12の積分部122の初期値に設定する。また、運転制御部51は、モード移行区間S5Aへの移行時点で非干渉化制御部18から最初に出力されるd軸非干渉化補正値Vdaをd軸電流制御部16の積分部162の初期値に設定する。また、運転制御部51は、モード移行区間S5Aへの移行時点で非干渉化制御部18から最初に出力されるq軸非干渉化補正値Vqaのマイナス値(-Vqa)をq軸電流制御部17の積分部172の初期値に設定する。
【0085】
また、モード移行区間S5Aでは、運転制御部51は、モード移行区間S5Aへの移行直前に位相調整区間S4Aにおいて位相調整部54により算出された電気角速度ωeをファンモータMの極対数Pnで除算した値を一定値の機械角速度指令値ωm_refとして減算部11へ出力する。
【0086】
減算部11は、運転制御部51から入力される機械角速度指令値ωm_refから機械角速度ωmを減算することにより機械角速度偏差Δωを算出し、算出した機械角速度偏差Δωを速度制御部12へ出力する。機械角速度ωmは、1/Pn処理部31から減算部11に入力される。
【0087】
速度制御部12(
図2)において、係数部121は、機械角速度偏差Δωに積分定数K
ωを乗算し、乗算結果Δω・K
ωを積分部122へ出力する。積分部122は、乗算結果Δω・K
ωを積分し、積分結果を加算部124へ出力する。一方で、係数部123は、機械角速度偏差Δωに比例定数K
pωを乗算し、乗算結果Δω・K
pωを加算部124へ出力する。加算部124は、積分部122での積分結果と係数部123での乗算結果とを加算し、加算結果をq軸電流指令値I
q
*として出力する。ここで、積分定数K
ω及び比例定数K
pωは、機械角速度偏差Δωが0に収束するような値に予め定められている。よって、速度制御部12では、機械角速度偏差Δωが小さくなるようなq軸電流指令値I
q
*が生成され、生成されたq軸電流指令値I
q
*が励磁電流制御部13及び減算部15へ出力される。
【0088】
励磁電流制御部13は、q軸電流指令値Iq
*からd軸電流指令値Id
*を生成し、生成したd軸電流指令値Id
*を減算部14へ出力する。
【0089】
減算部14は、d軸電流指令値Id
*からd軸電流Idを減算することによりd軸電流偏差ΔIdを算出し、算出したd軸電流偏差ΔIdをd軸電流制御部16へ出力する。
【0090】
減算部15は、q軸電流指令値Iq
*からq軸電流Iqを減算することによりq軸電流偏差ΔIqを算出し、算出したq軸電流偏差ΔIqをq軸電流制御部17へ出力する。
【0091】
d軸電流制御部16(
図3)において、係数部161は、d軸電流偏差ΔI
dに積分定数K
Idを乗算し、乗算結果ΔI
d・K
Idを積分部162へ出力する。積分部162は、乗算結果ΔI
d・K
Idを積分し、積分結果を加算部164へ出力する。一方で、係数部163は、d軸電流偏差ΔI
dに比例定数K
pdを乗算し、乗算結果ΔI
d・K
pdを加算部164へ出力する。加算部164は、積分部162での積分結果と係数部163での乗算結果とを加算し、加算結果をd軸電圧指令値V
d
**として出力する。ここで、積分定数K
Id及び比例定数K
pdは、d軸電流偏差ΔI
dが0に収束するような値に予め定められている。よって、d軸電流制御部16では、d軸電流偏差ΔI
dが小さくなるようなd軸電圧指令値V
d
**が生成され、生成されたd軸電圧指令値V
d
**が減算部19へ出力される。
【0092】
q軸電流制御部17(
図4)において、係数部171は、q軸電流偏差ΔI
qに積分定数K
Iqを乗算し、乗算結果ΔI
q・K
Iqを積分部172へ出力する。積分部172は、乗算結果ΔI
q・K
Iqを積分し、積分結果を加算部174へ出力する。一方で、係数部173は、q軸電流偏差ΔI
qに比例定数K
pqを乗算し、乗算結果ΔI
q・K
pqを加算部174へ出力する。加算部174は、積分部172での積分結果と係数部173での乗算結果とを加算し、加算結果をq軸電圧指令値V
q
**として出力する。ここで、積分定数K
Iq及び比例定数K
pqは、q軸電流偏差ΔI
qが0に収束するような値に予め定められている。よって、q軸電流制御部17では、q軸電流偏差ΔI
qが小さくなるようなq軸電圧指令値V
q
**が生成され、生成されたq軸電圧指令値V
q
**が加算部20へ出力される。
【0093】
非干渉化制御部18は、d軸とq軸との間に発生する干渉をキャンセルし、d軸とq軸とをそれぞれ独立に制御するための非干渉化補正値を生成する。例えば、非干渉化制御部18は、3φ/dq変換部25から入力されるq軸電流Iqと、PLL制御部29から入力される電気角速度ωeとから、d軸電圧指令値Vd
**を非干渉化するためのd軸非干渉化補正値Vdaを生成し、生成したd軸非干渉化補正値Vdaを減算部19へ出力する。また例えば、非干渉化制御部18は、3φ/dq変換部25から入力されるd軸電流Idと、PLL制御部29から入力される電気角速度ωeと、磁束とから、q軸電圧指令値Vq
**を非干渉化するためのq軸非干渉化補正値Vqaを生成し、生成したq軸非干渉化補正値Vqaを加算部20へ出力する。
【0094】
減算部19は、d軸電圧指令値Vd
**からd軸非干渉化補正値Vdaを減算することによりd軸電圧指令値Vd
**を非干渉化し、非干渉化後のd軸電圧指令値Vd
*をdq/3φ変換部21及び軸誤差算出部26へ出力する。
【0095】
加算部20は、q軸電圧指令値Vq
**にq軸非干渉化補正値Vqaを加算することによりq軸電圧指令値Vq
**を非干渉化し、非干渉化後のq軸電圧指令値Vq
*をdq/3φ変換部21及び軸誤差算出部26へ出力する。
【0096】
モード移行区間S5Aにおけるdq/3φ変換部21、PWM部22、IPM23及び電流検出部24の動作については、第一正転同期運転区間S2Aにおける動作と同一であるため、説明を省略する。
【0097】
3φ/dq変換部25は、積分部30によって算出された電気角位相θeを用いて、三相のU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwを、二相のd軸電流Id及びq軸電流Iqへ変換し、変換後のd軸電流Idを減算部14、非干渉化制御部18及び軸誤差算出部26へ出力し、変換後のq軸電流Iqを減算部15、非干渉化制御部18及び軸誤差算出部26へ出力する。
【0098】
軸誤差算出部26は、d軸電圧指令値Vd
*と、q軸電圧指令値Vq
*と、d軸電流Idと、q軸電流Iqとから、実際のdq軸と制御上のdq軸との間のずれを示す軸誤差Δθを算出し、算出した軸誤差ΔθをPLL制御部29へ出力する。
【0099】
PLL制御部29は、軸誤差Δθから、ファンモータMの実際の回転速度を示す電気角速度ωeを算出し、算出した電気角速度ωeを非干渉化制御部18、積分部30及び1/Pn処理部31へ出力する。
【0100】
1/Pn処理部31は、電気角速度ωeをファンモータMの極対数Pnで除算することより機械角速度ωmを算出し、算出した機械角速度ωmを減算部11へ出力する。
【0101】
積分部30は、PLL制御部29から入力される電気角速度ωeを積分することより、ファンモータMの電気角位相θeを算出し、算出した電気角位相θeをdq/3φ変換部21及び3φ/dq変換部25へ出力する。ファンモータMの運転モードがベクトル制御モードにある場合は、PLL制御部29から入力される電気角速度ωeに基づいて電気角位相θeが算出されるため、積分部30によって算出される電気角位相θeは実際のロータ位置を示す。つまり、ベクトル制御モードでは、積分部30によって実際のロータ位置が推定される。
【0102】
このように、モード移行区間S5Aでは、モード移行区間S5Aへの移行直前に位相調整区間S4Aにおいて位相調整部54により算出された電気角速度ω
eが一定値の機械角速度指令値ω
m_refとして減算部11へ入力される。また、モード移行区間S5Aへの移行直前のq軸電流I
qが積分部122の初期値として入力される。さらに、モード移行区間S5Aへの移行直前のd軸電圧V
d、q軸電圧V
qが、非干渉化制御部18での補正分を考慮して積分部162,172に入力される。よって、モード移行区間S5Aでは、ファンモータMが一定の回転速度で回転することで、速度制御部12(
図2)、d軸電流制御部16(
図3)及びq軸電流制御部17(
図4)の動作が安定する(換言すれば、回転速度を一定としたときに電圧が一定となる状態になる)。速度制御部12、d軸電流制御部16及びq軸電流制御部17の動作が安定するまでに要する時間T
6s、つまり、回転速度を一定としたときに電圧が一定となる状態になるまでに要する時間T
6sがモード移行区間S5Aの長さとして設定されると良い。また、時間T
6sとしては、少なくとも積分部162,172の時定数までの時間が確保されると良い。
【0103】
<通常運転区間S6Aにおける動作>
通常運転区間S6Aにおける運転モードはベクトル制御モードである。以下、通常運転区間S6Aにおける動作について、モード移行区間S5Aにおける動作と異なる点について説明する。
【0104】
通常運転区間S6Aでは、運転制御部51において生成される機械角速度指令値ωm_refが、運転制御部51から減算部11に入力される。
【0105】
減算部11は、モータ制御装置100の外部から入力される機械角速度指令値ωm_refから、1/Pn処理部31から入力される機械角速度ωmを減算することにより機械角速度偏差Δωを算出し、算出した機械角速度偏差Δωを速度制御部12へ出力する。
【0106】
以上、ファンモータMの起動において正転起動処理が行われる場合の動作について説明した。
【0107】
<逆転起動処理が行われる場合の動作>
ファンモータMの起動において逆転起動処理が行われる場合、ファンモータMの運転区間は、
図12に示すように、モータ制御装置100に通電がされていない非通電区間S0B、モータ制御装置100に通電がされた後にステップS10の処理が行われる回転情報入手区間S1B、ステップS510の処理が行われる第一逆転同期運転区間S2B、ステップS520の処理が行われる第二逆転同期運転区間S3B、ステップS530の処理が行われる位置決め区間S4B、ステップS540の処理が行われる第五正転同期運転区間S5B、ステップS550の処理が行われる第六正転同期運転区間S6B、ステップS560の処理が行われる位相調整区間S7B、ステップS590の処理が行われるモード移行区間S8B、及び、ステップS595の処理が行われる通常運転区間S9Bに区別される。
【0108】
<回転情報入手区間S1Bにおける動作>
起動処理部53は、機械角速度指令値ωm_refを0[rpm]で一定に保つ。
【0109】
また、起動処理部53は、電圧指令値V*を0[V]で一定に保つ。
【0110】
Pn処理部56は、機械角速度指令値ωm_refにファンモータMの極対数Pnを乗算することにより0[rpm]の電気角速度指令値ωe_refを算出し、算出した電気角速度指令値ωe_refを積分部30及びVd生成部55Aへ出力する。
【0111】
Vd生成部55Aは、Pn処理部56から入力される0[rpm]の電気角速度指令値ωe_refと、3φ/dq変換部25から入力されるq軸電流Iqとを用いて、式(1)に従って0[V]のd軸電圧指令値Vd
*を算出し、算出したd軸電圧指令値Vd
*をdq/3φ変換部21及びVq生成部55Bへ出力する。
【0112】
Vq生成部55Bは、起動処理部53から入力される0[V]の電圧指令値V*と、Vd生成部55Aから入力される0[V]のd軸電圧指令値Vd
*とを用いて、式(2)に従って0[V]のq軸電圧指令値Vq
*を算出し、算出したq軸電圧指令値Vq
*をdq/3φ変換部21へ出力する。
【0113】
回転情報入手区間S1Bでは、回転検出部52が空転方向及び空転速度ω
realを検出し、検出した空転方向及び空転速度ω
realを含む空転情報を運転制御部51及び起動処理部53へ出力する。
図12における「T
2g」は回転情報入手区間S1Bの時間を示し、予め行われる試験によって定まる所定値である。
【0114】
ここで、ファンモータMの起動時には、ファンモータMの起動直後に、相補PWMモードに切り替わることによってPWM部22から出力されるPWM信号がゼロベクトル信号となる時間が発生する。PWM信号がゼロベクトル信号であるとき、上アームのスイッチング素子Fu,Fv,Fwがオンになる一方で下アームのスイッチング素子Fx,Fy,Fzがオフになるか、または、上アームのスイッチング素子Fu,Fv,Fwがオフになる一方で下アームのスイッチング素子Fx,Fy,Fzがオンになる。このため、PWM信号がゼロベクトル信号になると、ファンモータMにおける発電電流がファンモータM内で環流するため、室外機ファンFの運動エネルギーが電気エネルギーに変換されてジュール熱として消費される。これによりファンモータMの回転が制動(いわゆる発電制動)されてファンモータMの回転速度が空転速度よりも低下する。このため、ファンモータMの起動前にファンモータMが正空転または逆空転の何れの空転をしている場合であっても、PWM信号がゼロベクトル信号になったときのファンモータMの回転速度は空転速度よりも小さい値となるため、ファンモータMの起動時点での回転速度は、ファンモータMの起動前での空転速度よりも小さい値となる。
【0115】
このように、ファンモータMの起動前にファンモータMが正空転または逆空転の何れの空転をしている場合であっても、ファンモータMの起動時点での回転速度は、ファンモータMの起動前での空転速度よりも小さい値となる。
【0116】
そこで、起動処理部53は、ファンモータMの起動前に回転検出部52によって検出された空転速度ωrealよりも小さい値を、第一逆転同期運転区間S2Bにおける起動開始電気角速度ωges1
*として設定する。
【0117】
そして、検出された空転方向及び空転速度ωrealがステップS15,S30の条件に合致せず、かつ、ステップS35の条件に合致したときに(ステップS15,S30:No,ステップS35:Yes)、ファンモータMの運転区間は回転情報入手区間S1Bから第一逆転同期運転区間S2Bに移行する。
【0118】
<第一逆転同期運転区間S2Bにおける動作>
第一逆転同期運転区間S2Bでは、運転制御部51は、機械角速度指令値ωm_ref及び電圧指令値V*の算出指示を起動処理部53へ出力することにより、機械角速度指令値ωm_ref及び電圧指令値V*を起動処理部53に算出させる。
【0119】
起動処理部53は、式(3)及び式(10)に従って、逆転方向での機械角速度指令値ω
m_refを算出する。
図12における「T
3g」は、第一逆転同期運転区間S2Bの時間を示し、予め行われる試験によって定まる所定値である。また、ファンモータMの同期を引き込みやすくするために、第一逆転同期運転区間S2Bにおける電気角速度指令値ω
e_refは、起動開始電気角速度ω
ges1
*で一定に保たれる。起動処理部53は、式(3)及び式(10)に従って算出した機械角速度指令値ω
m_refをPn処理部56へ出力する。
【数10】
【0120】
また、起動処理部53は、電圧指令値V*を0[V]で一定に保つ。
【0121】
Pn処理部56は、機械角速度指令値ωm_refにファンモータMの極対数Pnを乗算することにより式(10)に示す電気角速度指令値ωe_refを算出し、算出した電気角速度指令値ωe_refを積分部30及びVd生成部55Aへ出力する。
【0122】
また、起動処理部53は、0[V]のd軸電圧指令値Vd
*を出力することを示す指示をVd生成部55Aへ出力する。この指示に従って、Vd生成部55Aは、Pn処理部56から入力される電気角速度指令値ωe_refにかかわらず、0[V]のd軸電圧指令値Vd
*をdq/3φ変換部21及びVq生成部55Bへ出力する。
【0123】
Vq生成部55Bは、起動処理部53から入力される0[V]の電圧指令値V*と、Vd生成部55Aから入力される0[V]のd軸電圧指令値Vd
*とを用いて、式(2)に従って0[V]のq軸電圧指令値Vq
*を算出し、算出したq軸電圧指令値Vq
*をdq/3φ変換部21へ出力する。よって、第一逆転同期運転区間S2Bにおいて算出されるq軸電圧指令値Vq
*は0[V]となる。
【0124】
以上のように、第一逆転同期運転区間S2Bでは、電圧指令値V*、d軸電圧指令値Vd
*及びq軸電圧指令値Vq
*が0[V]とされるため、PWM信号はゼロベクトル信号となり、制動がかかり減速されるので十分減速するまでの時間を確保することでファンモータMの同期が引き込まれやすくなる。
【0125】
以降の動作については、第一正転同期運転区間S2Aにおける動作と同一であるため、説明を省略する。
【0126】
<第二逆転同期運転区間S3Bにおける動作>
以下、第二逆転同期運転区間S3Bにおける動作について、第一逆転同期運転区間S2Bにおける動作と異なる点について説明する。
【0127】
第二逆転同期運転区間S3Bでは、起動処理部53は、式(3)及び式(11)に従って、逆転方向での機械角速度指令値ω
m_refを算出する。式(11)において、「ω
geh1
*」は第二逆転同期運転区間S3Bにおける目標電気角速度、「T
4g」はファンモータMの電気角速度が目標電気角速度ω
geh1
*に収束するまでに要する時間、「t」は第二逆転同期運転区間S3Bの開始時点からの経過時間を示し、目標電気角速度ω
geh1
*及び時間T
4gは、予め行われる試験によって定まる所定値であり、目標電気角速度ω
geh1
*は、例えば-10[rpm]に設定される。式(11)に従って電気角速度指令値ω
e_refが算出されることにより、ファンモータMの逆転方向での電気角速度は、
図12に示すように、起動開始電気角速度ω
ges1
*から目標電気角速度ω
geh1
*に達するまで線形に減少する。よって、第二逆転同期運転区間S3Bでは、逆転方向に空転しているロータの回転数が線形に低下する。起動処理部53は、式(2)及び式(11)に従って算出した機械角速度指令値ω
m_refをPn処理部56へ出力する。
【数11】
【0128】
また、起動処理部53は、式(12)に従って電圧指令値V
*を算出し、算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。式(12)において、「V
gs
*」は第二逆転同期運転区間S3Bにおける起動開始電圧、「V
gh1
*」は第二逆転同期運転区間S3Bにおける目標電圧、「t」は第二逆転同期運転区間S3Bの開始時点からの経過時間、「T
4g」は第二逆転同期運転区間S3Bの時間を示し、起動開始電圧V
gs
*、目標電圧V
gh1
*及び時間T
4gは、予め行われる試験によって定まる所定値である。式(12)に従って電圧指令値V
*が算出されることにより、第二逆転同期運転区間S3Bでは、正電圧で与えられるファンモータMの電圧は、
図12に示すように、起動開始電圧V
gs
*から目標電圧V
gh1
*に達するまで線形に増大する。
【数12】
【0129】
ここで、ファンモータMの巻線抵抗やインダクタンス等のインピーダンスの影響により電流(トルク)の位相は電圧の位相よりも遅れるので、電圧指令値V*は機械角速度指令値ωm_refよりも進角位相で算出されることが好ましい。これにより、ファンモータMの回転速度が減速するための最適な位相関係で電流を発生させることができる。
【0130】
<位置決め区間S4Bにおける動作>
電気角速度指令値ωe_refが所定回転数に到達した後で、比較部61は、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwのうちの何れか2相の電流値を比較し、比較対象となった2相の電流値の間の差分(以下では「電流差分」と呼ぶことがある)の大きさが閾値DTH以下になった時点で、切替制御信号を起動処理部53へ出力する。
【0131】
起動処理部53は、比較部61から切替制御信号が入力されたときに、ファンモータMの運転区間を第二逆転同期運転区間S3Bから位置決め区間S4Bに切り替える。つまり、起動処理部53は、比較部61から切替制御信号を入力された時点で位置決めを開始する。また、起動処理部53は、ファンモータMの運転区間を位置決め区間S4Bに切り切り替えた時点で、機械角速度指令値ωm_refを0[rpm]に設定する。機械角速度指令値ωm_refが0[rpm]に設定されることにより、第二逆転同期運転区間S3Bの終了時点でファンモータMに流れていた電流と、位置決め区間S4Bの開始時点でファンモータMに流れる電流とが同一値となって連続する。
【0132】
また、起動処理部53は、目標電圧Vgh1
*のd軸電圧指令値Vd
*を出力することを示す指示をVd生成部55Aへ出力する。この指示に従って、Vd生成部55Aは、Pn処理部56から入力される電気角速度指令値ωe_refにかかわらず、Vgh1
*[V]のd軸電圧指令値Vd
*をdq/3φ変換部21及びVq生成部55Bへ出力する。
【0133】
また、起動処理部53は、0[V]のq軸電圧指令値Vq
*を出力することを示す指示をVq生成部55Bへ出力する。この指示に従って、Vq生成部55Bは、0[V]のq軸電圧指令値Vq
*をdq/3φ変換部21へ出力する。
【0134】
起動処理部53は、d軸電圧指令値Vd
*を目標電圧Vgh1
*に設定し、かつ、q軸電圧指令値Vq
*を0[V]に設定した上で、位置決めを行う。
【0135】
なお、
図12における「T
5g」は位置決め区間S4Bの時間を示し、予め行われる試験によって定まる所定値である。例えば、ファンモータMの最大負荷においてロータが所定の位置に固定されるまでに要する時間が時間T
5gとして設定されるのが好ましい。
【0136】
<第五正転同期運転区間S5Bにおける動作>
第五正転同期運転区間S5Bでは、運転制御部51は、機械角速度指令値ωm_ref及び電圧指令値V*の算出指示を起動処理部53へ出力することにより、機械角速度指令値ωm_ref及び電圧指令値V*を起動処理部53に算出させる。
【0137】
起動処理部53は、式(3)及び式(13)に従って、正転方向での機械角速度指令値ω
m_refを算出する。
図12における「T
6g」は第五正転同期運転区間S5Bの時間を示し、予め行われる試験によって定まる所定値である。また、ファンモータMの同期を引き込みやすくするために、第五正転同期運転区間S5Bにおける電気角速度指令値ω
e_refは、第五正転同期運転区間S5Bにおける電気角速度の初期値である初期電気角速度ω
ges2
*で一定に保たれる。起動処理部53は、式(3)及び式(13)に従って算出した機械角速度指令値ω
m_refをPn処理部56へ出力する。初期電気角速度ω
ges2
*は、例えば、5[rpm]に設定される。
【数13】
【0138】
また、起動処理部53は、式(14)に従って電圧指令値V
*を算出し、算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。よって、第五正転同期運転区間S5Bにおける電圧指令値V
*は、目標電圧V
gh1
*で一定に保たれる。
【数14】
【0139】
以降の動作については、第一正転同期運転区間S2Aにおける動作と同一であるため、説明を省略する。
【0140】
<第六正転同期運転区間S6Bにおける動作>
以下、第六正転同期運転区間S6Bにおける動作について、第五正転同期運転区間S5Bにおける動作と異なる点について説明する。
【0141】
第六正転同期運転区間S6Bでは、起動処理部53は、式(3)及び式(15)に従って、正転方向での機械角速度指令値ω
m_refを算出する。式(15)において、「ω
geh2
*」は第六正転同期運転区間S6Bにおける目標電気角速度、「T
7g」は第六正転同期運転区間S6Bの時間、「T
7g-n」はファンモータMの電気角速度が目標電気角速度ω
geh2
*に収束するまでに要する時間、「n」は任意の設定値、「t」は第六正転同期運転区間S6Bの開始時点からの経過時間を示し、時間T
7g及び設定値nは、予め行われる試験によって定まる所定値である。式(15)に従って電気角速度指令値ω
e_refが算出されることにより、ファンモータMの正転方向での電気角速度は、
図12に示すように、初期電気角速度ω
ges2
*から目標電気角速度ω
geh2
*に達するまで線形に増大する。起動処理部53は、式(3)及び式(15)に従って算出した機械角速度指令値ω
m_refをPn処理部56へ出力する。
【数15】
【0142】
また、起動処理部53は、式(16)に従って電圧指令値V
*を算出し、算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。式(16)において、「V
gh2
*」は第六正転同期運転区間S6Bにおける目標電圧を示し、目標電圧V
gh2
*は、予め行われる試験によって定まる所定値である。式(16)に従って電圧指令値V
*が算出されることにより、正電圧で与えられるファンモータMの電圧は、
図12に示すように、目標電圧V
gh1
*から目標電圧V
gh2
*に達するまで線形に増大する。
【数16】
【0143】
<位相調整区間S7Bにおける動作>
以下、位相調整区間S7Bにおける動作について、第一逆転同期運転区間S2Bにおける動作と異なる点について説明する。
【0144】
位相調整区間S7Bでは、位相調整部54がスイッチSW3を介して積分部30、運転制御部51及びVd生成部55Aに接続される。スイッチSW3での入力端子SW3-1から入力端子SW3-2への切替時点で位相調整部54から出力される電気角速度ωeは、スイッチSW3の切替直前の電気角速度とする。これにより、スイッチSW3の切替時に生じうる異音等(所謂、切替ショック)を防止できる。
【0145】
3φ/dq変換部25は、変換後のd軸電流Idを位相調整部54へ出力し、変換後のq軸電流IqをVd生成部55Aへ出力する。
【0146】
また、起動処理部53は、式(17)に従って電圧指令値V
*を算出し、算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。よって、位相調整区間S7Bでは、電圧指令値V
*は目標電圧V
gh2
*で一定に保たれる。
【数17】
【0147】
ここで、位相調整区間S4Aと同様に、位相調整部54は、ファンモータMの運転モードが同期運転モードからベクトル制御モードへ移行する前に、ファンモータMの位相が最適な位相になるように、ファンモータMの位相を調整する。例えば、起動処理部53が電圧指令値V*を目標電圧Vgh2
*で一定にした状態で、位相調整部54は、3φ/dq変換部25から入力されるd軸電流Idが0になるような電気角速度ωeを算出する。位相調整区間S4Aと同様に、d軸電流Idが0になるような電気角速度ωeが算出されることにより、ファンモータMへ印加される交流電圧の位相とファンモータMのロータの位相とが合わせられる位相調整が行われる。
【0148】
Vd生成部55Aは、位相調整部54から入力される電気角速度ωeと、3φ/dq変換部25から入力されるq軸電流Iqとを用いて、式(9)に従ってd軸電圧指令値Vd
*を算出し、算出したd軸電圧指令値Vd
*をdq/3φ変換部21へ出力する。
【0149】
積分部30は、位相調整部54から入力される電気角速度ωeを積分することより電気角位相θeを算出し、算出した電気角位相θeをdq/3φ変換部21及び3φ/dq変換部25へ出力する。
【0150】
位相調整部54が、d軸電流I
dが0になるような電気角速度ω
eを算出することにより、ファンモータMの正転方向での位相が最適な位相になる。その結果、
図12に示すように、位相調整区間S7Bにおいて、ファンモータMの正転方向での電気角速度はさらに増加して最適値に収束する。
【0151】
なお、位相調整部54においてd軸電流Idが0に収束するまでに要する時間T8gが位相調整区間S7Bの長さとして設定されると良い。例えば、軸誤差算出部26が算出した軸誤差Δθが所定の範囲内(例えば、±20°以内)になった場合に、d軸電流Idが収束したと判定することができる。
【0152】
<モード移行区間S8Bにおける動作>
モード移行区間S8Bでは、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-2を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-2を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-3を接続する。これにより、ファンモータMの運転モードは位相調整モードからベクトル制御モードへ移行する。
【0153】
また、運転制御部51は、モード移行区間S5Aと同様にして、積分部122,162,172の初期値を設定する。
【0154】
また、モード移行区間S8Bでは、モード移行区間S5Aと同様に、運転制御部51は、モード移行区間S8Bへの移行直前に位相調整区間S7Bにおいて位相調整部54により算出された電気角速度ωeをファンモータMの極対数Pnで除算した値を一定値の機械角速度指令値ωm_refとして減算部11へ出力する。
【0155】
以降の動作については、モード移行区間S5Aと同一であるため、説明を省略する。
【0156】
このように、モード移行区間S8Bでは、モード移行区間S8Bへの移行直前に位相調整区間S7Bにおいて位相調整部54により算出された電気角速度ω
eが一定値の機械角速度指令値ω
m_refとして減算部11へ入力される。また、モード移行区間S8Bへの移行直前のq軸電流I
qが積分部122の初期値として入力される。さらに、モード移行区間S8Bへの移行直前のd軸電圧V
d、q軸電圧V
qが、非干渉化制御部18での補正分を考慮して積分部162,172に入力される。よって、モード移行区間S8Bでは、ファンモータMが一定の回転速度で回転することで、速度制御部12(
図2)、d軸電流制御部16(
図3)及びq軸電流制御部17(
図4)の動作が安定する(換言すれば、回転速度を一定としたときに電圧が一定となる状態になる)。速度制御部12、d軸電流制御部16及びq軸電流制御部17の動作が安定するまでに要する時間T
9g、つまり、回転速度を一定としたときに電圧が一定となる状態になるまでに要する時間T
9gがモード移行区間S8Bの長さとして設定されると良い。また、時間T
9gとしては、少なくとも積分部162,172の時定数までの時間が確保されると良い。
【0157】
<通常運転区間S9Bにおける動作>
通常運転区間S9Bにおける動作については、通常運転区間S6Aにおける動作と同一であるため、説明を省略する。
【0158】
以上、ファンモータMの起動において逆転起動処理が行われる場合の動作について説明した。
【0159】
<低回転時起動処理が行われる場合の動作>
ファンモータMの起動において低回転時起動処理が行われる場合、ファンモータMの運転区間は、
図13に示すように、モータ制御装置100に通電がされていない非通電区間S0C、モータ制御装置100に通電がされた後にステップS10の処理が行われる回転情報入手区間S1C、ステップS310の処理が行われる位置決め区間S2C、ステップS320の処理が行われる第三正転同期運転区間S3C、ステップS330の処理が行われる第四正転同期運転区間S4C、ステップS340の処理が行われる位相調整区間S5C、ステップS390の処理が行われるモード移行区間S6C、及び、ステップS395の処理が行われる通常運転区間S7Cに区別される。
【0160】
<回転情報入手区間S1Cにおける動作>
起動処理部53は、機械角速度指令値ωm_refを0[rpm]で一定に保つ。
【0161】
また、起動処理部53は、電圧指令値V*を0[V]で一定に保つ。
【0162】
Pn処理部56は、機械角速度指令値ωm_refにファンモータMの極対数Pnを乗算することにより0[rpm]の電気角速度指令値ωe_refを算出し、算出した電気角速度指令値ωe_refを積分部30及びVd生成部55Aへ出力する。
【0163】
Vd生成部55Aは、Pn処理部56から入力される0[rpm]の電気角速度指令値ωe_refと、3φ/dq変換部25から入力されるq軸電流Iqとを用いて、式(1)に従って0[V]のd軸電圧指令値Vd
*を算出し、算出したd軸電圧指令値Vd
*をdq/3φ変換部21及びVq生成部55Bへ出力する。
【0164】
Vq生成部55Bは、起動処理部53から入力される0[V]の電圧指令値V*と、Vd生成部55Aから入力される0[V]のd軸電圧指令値Vd
*とを用いて、式(2)に従って0[V]のq軸電圧指令値Vq
*を算出し、算出したq軸電圧指令値Vq
*をdq/3φ変換部21へ出力する。
【0165】
回転情報入手区間S1Cでは、回転検出部52が空転方向及び空転速度ω
realを検出し、検出した空転方向及び空転速度ω
realを含む空転情報を運転制御部51及び起動処理部53へ出力する。
図13における「T
2i」は回転情報入手区間S1Cの時間を示し、予め行われる試験によって定まる所定値である。
【0166】
そして、検出された空転方向及び空転速度ωrealがステップS15の条件に合致し、かつ、ステップS20の条件に合致しないとき(ステップS15:YesかつS20:No)、または、ステップS15の条件に合致せず、かつ、ステップS30の条件に合致したときに(ステップS15:NoかつS30:Yes)、ファンモータMの運転区間は回転情報入手区間S1Cから位置決め区間S2Cに移行する。
【0167】
<位置決め区間S2Cにおける動作>
電気角速度指令値ωe_refが所定回転数に到達した後で、比較部61は、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwのうちの何れか2相の電流値を比較し、電流差分の大きさが閾値DTH以下になった時点で、切替制御信号を起動処理部53へ出力する。
【0168】
起動処理部53は、比較部61から切替制御信号が入力されたときに、ファンモータMの運転区間を回転情報入手区間S1Cから位置決め区間S2Cに切り替える。つまり、起動処理部53は、比較部61から切替制御信号を入力された時点で位置決めを開始する。また、起動処理部53は、ファンモータMの運転区間を位置決め区間S2Cに切り切り替えた時点で、機械角速度指令値ωm_refを0[rpm]に設定する。機械角速度指令値ωm_refが0[rpm]に設定されることにより、回転情報入手区間S1Cの終了時点でのファンモータMの電流と、位置決め区間S2Cの開始時点でのファンモータMの電流とが同一値となって連続する。
【0169】
また、起動処理部53は、第一正転同期運転区間S2Aと同様に、式(5)に従って電圧指令値V*を算出し、算出した電圧指令値V*をVd生成部55A及びVq生成部55Bへ出力する。よって、位置決め区間S2Cにおける電圧指令値V*は、起動開始電圧Vss
*で一定に保たれる。
【0170】
V
d生成部55Aは、式(18)に従ってd軸電圧指令値V
d
*を算出し、算出したd軸電圧指令値V
d
*をdq/3φ変換部21及びV
q生成部55Bへ出力する。
【数18】
【0171】
また、起動処理部53は、0[V]のq軸電圧指令値Vq
*を出力することを示す指示をVq生成部55Bへ出力する。この指示に従って、Vq生成部55Bは、0[V]のq軸電圧指令値Vq
*をdq/3φ変換部21へ出力する。
【0172】
起動処理部53は、d軸電圧指令値Vd
*を式(18)に従って設定し、かつ、q軸電圧指令値Vq
*を0[V]に設定した上で、位置決めを行う。
【0173】
なお、
図13における「T
3i」は位置決め区間S2Cの時間を示し、予め行われる試験によって定まる所定値である。例えば、ファンモータMの最大負荷においてロータが所定の位置に固定されるまでに要する時間が時間T
3iとして設定されるのが好ましい。
【0174】
<第三正転同期運転区間S3Cにおける動作>
第三正転同期運転区間S3Cでは、運転制御部51は、機械角速度指令値ωm_ref及び電圧指令値V*の算出指示を起動処理部53へ出力することにより、機械角速度指令値ωm_ref及び電圧指令値V*を起動処理部53に算出させる。
【0175】
起動処理部53は、式(3)及び式(4)に従って、正転方向での機械角速度指令値ω
m_refを算出する。式(4)における「ω
ses
*」は第三正転同期運転区間S3Cにおける起動開始電気角速度を示す。また、
図13における「T
4i」は第三正転同期運転区間S3Cの時間を示す。起動開始電気角速度ω
ses
*及び時間T
4iは、予め行われる試験によって定まる所定値であり、第三正転同期運転区間S3Cにおける電気角速度指令値ω
e_refは、目標電気角速度ω
seh
*よりも小さい値を有する起動開始電気角速度ω
ses
*で一定に保たれる。起動処理部53は、式(3)及び式(4)に従って算出した機械角速度指令値ω
m_refをPn処理部56へ出力する。
【0176】
また、起動処理部53は、式(5)に従って電圧指令値V*を算出し、算出した電圧指令値V*をVq生成部55Bへ出力する。よって、第三正転同期運転区間S3Cにおける電圧指令値V*は、起動開始電圧Vss
*で一定に保たれる。
【0177】
以降の動作については、第一正転同期運転区間S2Aにおける動作と同一であるため、説明を省略する。
【0178】
<第四正転同期運転区間S4Cにおける動作>
以下、第四正転同期運転区間S4Cにおける動作について、第三正転同期運転区間S3Cにおける動作と異なる点について説明する。
【0179】
第四正転同期運転区間S4Cでは、起動処理部53は、式(3)及び式(19)に従って、正転方向での機械角速度指令値ω
m_refを算出する。式(19)において、「ω
seh
*」は第四正転同期運転区間S4Cにおける目標電気角速度、「T
5i」は第四正転同期運転区間S4Cの時間、「T
5i-n」はファンモータMの電気角速度が目標電気角速度ω
seh
*に収束するまでに要する時間、「n」は任意の設定値、「t」は第四正転同期運転区間S4Cの開始時点からの経過時間を示し、時間T
5i及び設定値nは、予め行われる試験によって定まる所定値である。また、目標電気角速度ω
seh
*は、起動処理部53によって、回転検出部52が検出した空転速度ω
realよりも小さい値に設定される。式(19)に従って電気角速度指令値ω
e_refが算出されることにより、ファンモータMの正転方向での電気角速度は、
図13に示すように、起動開始電気角速度ω
ses
*から目標電気角速度ω
seh
*に達するまで線形に増大する。起動処理部53は、式(3)及び式(19)に従って算出した機械角速度指令値ω
m_refをPn処理部56へ出力する。
【数19】
【0180】
また、起動処理部53は、式(20)に従って電圧指令値V
*を算出し、算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。式(20)において、「V
sh
*」は第四正転同期運転区間S4Cにおける目標電圧を示し、目標電圧V
sh
*は、予め行われる試験によって定まる所定値である。式(20)に従って電圧指令値V
*が算出されることにより、正電圧で与えられるファンモータMの電圧は、
図13に示すように、起動開始電圧V
ss
*から目標電圧V
sh
*に達するまで線形に増大する。
【数20】
【0181】
<位相調整区間S5Cにおける動作>
位相調整区間S5Cにおける動作については、位相調整区間S4Aにおける動作と同一であるため、説明を省略する。
【0182】
なお、位相調整部54においてd軸電流Idが0に収束するまでに要する時間T6iが位相調整区間S5Cの長さとして設定されると良い。例えば、軸誤差算出部26が算出した軸誤差Δθが所定の範囲内(例えば、±20°以内)になった場合に、d軸電流Idが収束したと判定することができる。
【0183】
<モード移行区間S6Cにおける動作>
モード移行区間S6Cでは、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-2を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-2を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-3を接続する。これにより、ファンモータMの運転モードは位相調整モードからベクトル制御モードへ移行する。
【0184】
また、運転制御部51は、モード移行区間S5Aと同様にして、積分部122,162,172の初期値を設定する。
【0185】
また、モード移行区間S6Cでは、モード移行区間S5Aと同様に、運転制御部51は、モード移行区間S6Cへの移行直前に位相調整区間S5Cにおいて位相調整部54により算出された電気角速度ωeをファンモータMの極対数Pnで除算した値を一定値の機械角速度指令値ωm_refとして減算部11へ出力する。
【0186】
以降の動作については、モード移行区間S5Aと同一であるため、説明を省略する。
【0187】
このように、モード移行区間S6Cでは、モード移行区間S6Cへの移行直前に位相調整区間S5Cにおいて位相調整部54により算出された電気角速度ω
eが一定値の機械角速度指令値ω
m_refとして減算部11へ入力される。また、モード移行区間S6Cへの移行直前のq軸電流I
qが積分部122の初期値として入力される。さらに、モード移行区間S6Cへの移行直前のd軸電圧V
d、q軸電圧V
qが、非干渉化制御部18での補正分を考慮して積分部162,172に入力される。よって、モード移行区間S6Cでは、ファンモータMが一定の回転速度で回転することで、速度制御部12(
図2)、d軸電流制御部16(
図3)及びq軸電流制御部17(
図4)の動作が安定する(換言すれば、回転速度を一定としたときに電圧が一定となる状態になる)。速度制御部12、d軸電流制御部16及びq軸電流制御部17の動作が安定するまでに要する時間T
7i、つまり、回転速度を一定としたときに電圧が一定となる状態になるまでに要する時間T
7iがモード移行区間S6Cの長さとして設定されると良い。また、時間T
7iとしては、少なくとも積分部162,172の時定数までの時間が確保されると良い。
【0188】
<通常運転区間S7Cにおける動作>
通常運転区間S7Cにおける動作については、通常運転区間S6Aにおける動作と同一であるため、説明を省略する。
【0189】
以上、ファンモータMの起動において低回転時起動処理が行われる場合の動作について説明した。
【0190】
<位置決めの詳細>
図14、
図15、
図16及び
図17は、本開示の実施例の位置決めの詳細の説明に供する図である。
図15には、
図14における領域EL1の拡大図を示し、
図16には、
図15における領域EL2の拡大図を示す。また、
図14、
図15及び
図16には、位置決め区間S4Bにおいて行われる位置決めを一例として挙げる。位置決め区間S2Cにおける位置決めも、位置決め区間S4Bと同様にして行うことが可能である。
【0191】
図14、
図15及び
図16に示すように、起動処理部53は、第二逆転同期運転区間S3Bの終了時点でファンモータMに流れていた電流と、位置決め区間S4Bの開始時点でファンモータMに流れる電流とが連続になるようにして位置決めを行う。第二逆転同期運転区間S3BでファンモータMに流れる電流は交流電流であるため、起動処理部53は、
図15に示すとおり、モータMの回転数を目標電気角速度ω
geh1
*(例えば、-10[rpm])まで低下させる交流磁界を生成する。また、位置決め区間S4Bの開始時点でファンモータMに流れる電流は直流電流となるため、起動処理部53は、モータMの回転数を0[rpm]、つまり停止状態にする直流磁界を生成する。第二逆転同期運転区間S3Bの終了時点でファンモータMに流れていた交流電流と、位置決め区間S4Bの開始時点からファンモータMに流れる直流電流とが連続となることで、ファンモータMのステータとロータとが磁力によって吸着しあう力の向きと強さ(以下では「吸着トルク」と呼ぶことがある)も連続的に変化する。このため、第二逆転同期運転区間S3Bの終了時点におけるファンモータMの吸着トルクと位置決め区間S4Bの開始時点におけるファンモータMの吸着トルクが不連続に変化することがないため、第二逆転同期運転区間S3Bから位置決め区間S4Bに切り換わる際にロータ自体が不連続に動くことがない。つまり、ロータが第二逆転同期運転区間S3Bの終了時点に近づくにつれて減速していくため、第二逆転同期運転区間S3Bから位置決め区間S4Bに切り替わってロータが停止するまでの一連の動作が滑らかに行われる。従って、ファンモータMの吸着トルクを低下させることがなく、第二逆転同期運転区間S3Bから位置決め区間S4Bに切り替わる際のロータのがたつきが抑制された状態で位置決めを開始することができる。
【0192】
また、ファンモータMが有するU相巻線、V相巻線、W相巻線の3相の巻線のうち、何れか1相の巻線から残りの2相の巻線に向かって電流を流すような通電パターン時か、または、何れか2相の巻線から残りの1相の巻線に向かって電流を流すような通電パターン時に、ファンモータMにおける制動力が最大となる。そこで、起動処理部53は、位置決め区間S4Bで行われる位置決め時には、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwが上記のようにファンモータに流れるようにIPM23の通電パターンを制御する。
【0193】
例えば、
図17に示すように、起動処理部53は、位置決め区間S4Bでは、U相巻線、V相巻線、W相巻線のうちから選択されたV相巻線及びW相巻線からU相巻線に電流が流れるようにIPM23を制御する。これにより、V相巻線及びW相巻線の双方からU相巻線に電流が流れる。そして、起動処理部53は、V相巻線とW相巻線との間の電流差分(つまり、V相電流I
vとW相電流I
wとの間の電流差分)の大きさが閾値DTH以下になった後に位置決めを行う。
【0194】
また、電流差分が0になった時点で第二逆転同期運転区間S3Bを終了して位置決めを開始すると駆動電流と位置決め電流とが完全に連続する。しかし、例えばファンモータMを構成する部品の精度によっては、電流差分が0にならないことが想定される。そこで、電流差分に対する閾値DTHは、0より大きい値に設定されても良い。例えば、閾値DTHが
図16に示すように0.01[A]に設定された場合、電流差分が0.01[A]以下になった時点で比較部61が切替制御信号を起動処理部53へ出力しても、吸着トルクは大きく変化しない。従って、駆動電流と位置決め電流とは連続するといえる。
【0195】
以上、実施例について説明した。
【0196】
以上のように、本開示のモータ制御装置(実施例のモータ制御装置100)は、ロータとステータとを有するモータ(実施例のファンモータM)の回転を制御する。また、本開示のモータ制御装置は、回転検出部(実施例の回転検出部52)と、生成部(実施例のIPM23)と、起動処理部(実施例の起動処理部53)とを有する。回転検出部は、モータの起動前にモータの空転方向を検出する。生成部は、モータに流れる電流である巻線電流を生成する。起動処理部は、空転方向が逆転方向である場合、ロータとステータの回転磁界とを同期させてロータの空転の回転数を低下させる同期運転を第一区間(実施例の第二逆転同期運転区間S3B)で行った後にロータの位置決めを第二区間(実施例の位置決め区間S4B)で行う際に、巻線電流を連続させる。
【0197】
こうすることで、同期運転から位置決めへの移行の際に巻線電流が不連続となることを防止できるため、モータの起動成功率を高めることができる。
【0198】
また、起動処理部は、第一区間の終了時点の電流値と、第二区間の開始時点の電流値とを同一の電流値にすることにより巻線電流を連続させる。
【0199】
こうすることで、吸着トルクの低下を防止することができるため、位置決め時に確実にロータを停止させることができる。よって、以上の同期運転と位置決め制御とを組み合わせることで、外風の外力によって起動時の負荷が大きい場合でもモータの起動成功率をさらに高めることができる。
【0200】
また、モータは、第一相の巻線である第一巻線(実施例のV相巻線)と、第二相の巻線である第二巻線(実施例のW相巻線)と、第三相の巻線である第三巻線(実施例のU相巻線)とを有する。また、モータ制御装置は、電流検出部(実施例の電流検出部24)を有する。電流検出部は、第一巻線を流れる巻線電流である第一相電流(実施例のV相電流Iv)と、第二巻線を流れる巻線電流である第二相電流(実施例のW相電流Iw)とを検出する。起動処理部は、第二区間において、第一巻線及び第二巻線から第三巻線へ巻線電流を流し、第一相電流と第二相電流との差分(実施例の電流差分)が閾値以下になった後に位置決めを行う。
【0201】
例えば、モータ制御装置は、比較部(実施例の比較部61)を有する。比較部は、第一相電流と第二相電流とを比較して差分を検出し、差分が閾値以下になった時点で起動処理部へ制御信号(実施例の切替制御信号)を出力する。起動処理部は、比較部から制御信号を入力された時点で位置決めを開始する。
【0202】
こうすることで、位置決めの開始時のモータにおける制動力を大きくした上で差分が閾値以下になったときに位置決めを行うことができるため、位置決めに要する時間を短縮しつつ巻線電流を連続させることができる。
【0203】
また、起動処理部は、第二区間に後続する第三区間(実施例の第五正転同期運転区間S5B)で、ロータの位置を検出せずにロータとステータの回転磁界とを同期させてロータを正転方向へ回転させる同期運転を行う。
【0204】
こうすることで、モータの起動成功率をさらに高めることができる。
【符号の説明】
【0205】
100 モータ制御装置
M ファンモータ
23 IPM
24 電流検出部
52 回転検出部
53 起動処理部
61 比較部