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特開2023-80606ピザ生地、ピザ類の製造方法、及びナポリタイプのピザクラストの焼き色向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080606
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】ピザ生地、ピザ類の製造方法、及びナポリタイプのピザクラストの焼き色向上方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 10/02 20060101AFI20230602BHJP
   A21D 13/41 20170101ALI20230602BHJP
   A21D 8/04 20060101ALI20230602BHJP
   A21D 2/24 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
A21D10/02
A21D13/41
A21D8/04
A21D2/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194033
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】塚本 一民
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB32
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK18
4B032DK21
4B032DK54
4B032DK55
4B032DK70
4B032DL06
4B032DL20
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】発酵時間を短時間とし、焼成温度を低くした場合でも、良好な食感を有しつつ、かつ良好な焼き色(良好な斑状の焦げ)を容易に形成することができるピザ生地、ピザ類の製造方法、及びナポリタイプのピザクラストの焼き色向上方法の提供。
【解決手段】小麦粉と、活性酵母と、グルタチオンとを含有し、原料として用いる穀粉類100質量部に対して、前記グルタチオンを0.0075~0.15質量部含有するピザ生地、小麦粉と、活性酵母と、不活性酵母とを含有し、原料として用いる穀粉類100質量部に対して、前記不活性酵母を0.5~5質量部含有するピザ生地、前記ピザ生地を焼成することを含むピザ類の製造方法、及びピザ生地に、グルタチオン及び不活性酵母の少なくともいずれかを配合することを含むナポリタイプのピザクラストの焼き色向上方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉と、活性酵母と、グルタチオンとを含有し、
原料として用いる穀粉類100質量部に対して、前記グルタチオンを0.0075~0.15質量部含有することを特徴とするピザ生地。
【請求項2】
前記活性酵母と、前記グルタチオンとの質量比(活性酵母:グルタチオン)が、1:0.0015~1:0.0375である請求項1に記載のピザ生地。
【請求項3】
小麦粉と、活性酵母と、不活性酵母とを含有し、
原料として用いる穀粉類100質量部に対して、前記不活性酵母を0.5~5質量部含有することを特徴とするピザ生地。
【請求項4】
前記活性酵母と、前記不活性酵母との質量比(活性酵母:不活性酵母)が、1:0.1~1:2.5である請求項3に記載のピザ生地。
【請求項5】
原料として用いる穀粉類100質量部に対して、膨張剤を0.5~3質量部含有する請求項1~4のいずれかに記載のピザ生地。
【請求項6】
前記膨張剤が、遅効型膨張剤である請求項5に記載のピザ生地。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のピザ生地を焼成することを含むことを特徴とするピザ類の製造方法。
【請求項8】
前記ピザ生地の混捏工程を、(1)混和ステージ・ピックアップステージ、(2)クリーンアップステージ、(3)ディベロップメントステージ、(4)ファイナルステージ、及び(5)レットダウンステージ・ブレークダウンステージの5段階に区分したときに、(2)クリーンアップステージもしくは(3)ディベロップメントステージで混捏を終了する請求項7に記載のピザ類の製造方法。
【請求項9】
発酵時間が3時間以下である請求項7または8に記載のピザ類の製造方法。
【請求項10】
焼成温度が300~420℃である請求項7~9のいずれかに記載のピザ類の製造方法。
【請求項11】
ピザ生地に、グルタチオン及び不活性酵母の少なくともいずれかを配合することを含むことを特徴とするナポリタイプのピザクラストの焼き色向上方法。
【請求項12】
ピザ生地に、更に膨張剤を配合する請求項11に記載のピザクラストの焼き色向上方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピザ生地、ピザ類の製造方法、及びナポリタイプのピザクラストの焼き色向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピザにはさまざまな種類がある。ナポリタイプのピザは、表面がカリッとして、中がもちもちした独特な食感を有する。また、生地に具材を載せて焼成する一般的なピザのほかに、簡便に製造するためにクラストをあらかじめ成形、焼成しておき、この焼成ピザクラストに具材を載せて再び焼成するタイプのピザも存在する。
【0003】
ナポリタイプのピザの外観的な特徴として、焼成時の斑状の焦げが挙げられる。この斑状の焦げ(以下、「ブラックスポット」と称することがある。)が全体的に均質に分布している方が良好な外観とされている。特に、上記した一旦ピザクラストを焼成して製造するピザ場合には、この斑状の焦げが目立つため、ピザクラストの価値に大きな影響を与える。
【0004】
良好な斑状の焦げを作るためには、発酵時間や焼成温度が大きく影響し、発酵時間は長い方が良く、焼成温度は高い方が良い。しかし、発酵時間を長くすると二次加工が難しくなり、焼成温度を高くするためには高温焼成が可能な設備が必要となる。そのため、より容易に斑状の焦げを形成する方法が求められている。
【0005】
これまでに、生地を焼成する際の温度にかかわらず、焼成時の風船状の膨らみを効率よく抑制し、外観や食感に優れたピザ類およびその製造方法を提供する技術として、成形したピザ生地の表面に、長径と短径とを有する扁平な形状の小孔を複数穿設する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
上記提案によれば、外観等に優れたピザ類を提供することができる。しかしながら、発酵時間を短時間とし、焼成温度を低くした場合でも、良好な食感を有しつつ、かつ良好な焼き色(良好な斑状の焦げ)を容易に形成することができる新たな技術に対する要望は強く、その速やかな提供が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-304735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、発酵時間を短時間とし、焼成温度を低くした場合でも、良好な食感を有しつつ、かつ良好な焼き色(良好な斑状の焦げ)を容易に形成することができるピザ生地、ピザ類の製造方法、及びナポリタイプのピザクラストの焼き色向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、小麦粉と、活性酵母と、グルタチオンとを含有し、原料として用いる穀粉類100質量部に対して、前記グルタチオンを0.0075~0.15質量部含有するピザ生地、又は小麦粉と、活性酵母と、不活性酵母とを含有し、原料として用いる穀粉類100質量部に対して、前記不活性酵母を0.5~5質量部含有するピザ生地とすることで、発酵時間を短時間とし、焼成温度を低くした場合でも、食感に優れ、かつ焼き色にも優れたピザ類を容易に製造することができることを知見した。
【0010】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 小麦粉と、活性酵母と、グルタチオンとを含有し、
原料として用いる穀粉類100質量部に対して、前記グルタチオンを0.0075~0.15質量部含有することを特徴とするピザ生地である。
<2> 前記活性酵母と、前記グルタチオンとの質量比(活性酵母:グルタチオン)が、1:0.0015~1:0.0375である前記<1>に記載のピザ生地である。
<3> 小麦粉と、活性酵母と、不活性酵母とを含有し、
原料として用いる穀粉類100質量部に対して、前記不活性酵母を0.5~5質量部含有することを特徴とするピザ生地である。
<4> 前記活性酵母と、前記不活性酵母との質量比(活性酵母:不活性酵母)が、1:0.1~1:2.5である前記<3>に記載のピザ生地である。
<5> 原料として用いる穀粉類100質量部に対して、膨張剤を0.5~3質量部含有する前記<1>~<4>のいずれかに記載のピザ生地である。
<6> 前記膨張剤が、遅効型膨張剤である前記<5>に記載のピザ生地である。
<7> 前記<1>~<6>のいずれかに記載のピザ生地を焼成することを含むことを特徴とするピザ類の製造方法である。
<8> 前記ピザ生地の混捏工程を、(1)混和ステージ・ピックアップステージ、(2)クリーンアップステージ、(3)ディベロップメントステージ、(4)ファイナルステージ、及び(5)レットダウンステージ・ブレークダウンステージの5段階に区分したときに、(2)クリーンアップステージもしくは(3)ディベロップメントステージで混捏を終了する前記<7>に記載のピザ類の製造方法である。
<9> 発酵時間が3時間以下である前記<7>または<8>に記載のピザ類の製造方法である。
<10> 焼成温度が300~420℃である前記<7>~<9>のいずれかに記載のピザ類の製造方法である。
<11> ピザ生地に、グルタチオン及び不活性酵母の少なくともいずれかを配合することを含むことを特徴とするナポリタイプのピザクラストの焼き色向上方法である。
<12> ピザ生地に、更に膨張剤を配合する前記<11>に記載のピザクラストの焼き色向上方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、発酵時間を短時間とし、焼成温度を低くした場合でも、良好な食感を有しつつ、かつ良好な焼き色(良好な斑状の焦げ)を容易に形成することができるピザ生地、ピザ類の製造方法、及びナポリタイプのピザクラストの焼き色向上方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(ピザ生地)
本発明のピザ生地の第1の態様は、小麦粉と、活性酵母と、グルタチオンとを少なくとも含み、必要に応じてさらにその他の成分を含む。
本発明のピザ生地の第2の態様は、小麦粉と、活性酵母と、不活性酵母とを少なくとも含み、必要に応じてさらにその他の成分を含む。
なお、前記第1の態様はさらに不活性酵母を含んでもよく、前記第2の態様はさらにグルタチオンを含んでもよい。
【0013】
<小麦粉>
前記小麦粉としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
<活性酵母>
前記活性酵母(以下、「イースト」と称することもある。)としては、特に制限はなく、通常製パンやピザの製造に用いられているものを適宜選択することができ、例えば、生イースト、ドライイーストなどが挙げられる。
【0015】
前記活性酵母の使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、原料として用いる穀粉類100質量部に対して、前記活性酵母を1~5質量部使用することが好ましい。前記好ましい範囲内であると、生地の物性が良好となり、生地焼成後の食感、口溶けが良好となる点で、有利である。
【0016】
本明細書において、原料として用いる穀粉類とは、上記した小麦粉、小麦粉以外の穀粉類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記小麦粉以外の穀粉類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、ライムギ粉、米粉、大麦粉、コーンフラワー、そば粉等の穀粉、澱粉類(加工澱粉含む)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
<グルタチオン>
前記第1の態様のピザ生地は、グルタチオンを含有する。
日本国内では、グルタチオンは医薬品に区分されているのが現状である。そのため、日本国内では、グルタチオンを含有する、不活性酵母、あるいは酵母から得られるエキス等の酵母加工品をピザ生地に配合することで、ピザ生地にグルタチオンを配合することができる。なお、本発明では、グルタチオン製剤を用いて、ピザ生地にグルタチオンを配合することを除外するものではない。即ち、前記グルタチオンとしては、グルタチオン製剤を使用してもよいし、不活性酵母や酵母加工品などのグルタチオン含有酵母素材を使用してもよい。
【0018】
前記グルタチオンのピザ生地における含有量(以下、「配合量」と称することもある。)としては、原料として用いる穀粉類100質量部に対して、前記グルタチオンを0.0075~0.15質量部含有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、食感や焼き色がより優れる点で、0.015~0.06質量部が好ましい。
【0019】
本発明において、前記グルタチオンの含有量とは、グルタチオン製剤やグルタチオン含有酵母素材等の外添の成分に由来するグルタチオンの量をいい、前記活性酵母に含まれるグルタチオンの量は含まれない。前記活性酵母では、酵母が生きているため、グルタチオンが菌体外に露出することがなく、前記活性酵母内に含まれるグルタチオンは、生地中で作用することができないためである。
【0020】
前記活性酵母と、前記グルタチオンとの質量比(活性酵母:グルタチオン)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な焦げが得られやすくなる点で、1:0.0015~1:0.0375が好ましく、食感や焼き色がより優れる点で、1:0.0075~1:0.03がより好ましい。前記質量比が1:0.0015未満であると、焼き色がぼけやすくなる恐れがある。また、前記質量比が1:0.0375を超えると、生地が緩みすぎ、焼き色が均一にならなくなる恐れがあり、また食感も劣るものとなる恐れがある。
【0021】
<不活性酵母>
前記第2の態様のピザ生地は、不活性酵母を含有する。
前記不活性酵母(以下、「不活化酵母」と称することがある。)とは、糖を発酵する能力を失った酵母のことをいう。
前記不活性酵母は、富化培養技術によってグルタチオンを酵母内に多く蓄積させたイースト粉末であり、酵母が不活性化しているため、酵母内のグルタチオンが生地に作用しやすい状態となっている。そのため、前記不活性酵母を用いることで、グルタチオンが生地中で作用し、前記第1の態様のピザ生地と同様の効果が得られる。
前記不活性酵母としては、市販品を用いてもよいし、活性酵母を不活性化し、調製したものを用いてもよい。
前記不活性酵母の調製方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、活性酵母を乾燥処理する方法などが挙げられる。
前記不活性酵母におけるグルタチオンの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5~15質量%が好ましい。
【0022】
前記不活性酵母のピザ生地における含有量(以下、「配合量」と称することもある。)としては、原料として用いる穀粉類100質量部に対して、前記不活性酵母を0.5~5質量部含有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、食感や焼き色がより優れる点で、1~4質量部が好ましい。
【0023】
前記活性酵母と、前記不活性酵母との質量比(活性酵母:不活性酵母)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な焦げが得られやすくなる点で、1:0.1~1:2.5が好ましく、食感や焼き色がより優れる点で、1:0.5~1:2がより好ましい。前記質量比が1:0.1未満であると、焼き色がぼけやすくなる恐れがある。また、前記質量比が1:2.5を超えると、生地が緩みすぎ、焼き色が均一にならなくなる恐れがあり、また食感も劣るものとなる恐れがある。
【0024】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、小麦粉以外の穀粉、膨張剤、塩、オリーブオイル等の油脂、砂糖、色素、香料、香辛料などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記その他の成分の中でも、膨張剤を含有することが好ましい。
【0025】
-膨張剤-
前記膨張剤は、生地の膨張性を高めて、生地のボリュームを向上させる役割を担うものであり、また、生地のつながりを脆くする役割があり、そのため、焼成中に生地の傷んだ箇所よりガスが抜けてブラックスポットが生じやすくなる。
【0026】
前記膨張剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等のアルカリ性剤;該アルカリ性剤(ガス発生基剤)と酸性剤とを含有するいわゆるベーキングパウダーが挙げられる。前記膨張剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記酸性剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、酒石酸水素カリウム(特にL-体)、リン酸二水素カルシウム、焼ミョウバン、フマル酸、フマル酸ナトリウム、塩化アンモニウム、酒石酸、リン酸ナトリウム、グルコノデルタラクトン、ピロリン酸カルシウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記膨張剤(ベーキングパウダー)は、一般的に、速効型、中間型(持続型)、遅効型に大別される。前記膨張剤は、基本的に、配合する酸性剤によって、ガスの発生の速さが変わる。
前記速効型膨張剤は、室温から蒸し温度にかけて、比較的低い温度でガスが発生する。
前記中間型膨張剤は、蒸し温度や焼き温度にかけて、広い範囲で持続的にガスが発生する。
前記遅効型膨張剤は、焼成などの比較的高い焼き温度になることで、大量のガスが発生する。
前記膨張剤の中でも、焼成段階でボリュームを向上させることができ、また、生地のつながりを脆くする役割により、焼成中に生地の傷んだ箇所よりガスが抜けてブラックスポットが生じやすくなるものとなり得る点で、遅効型膨張剤が好ましい。
【0029】
前記速効型膨張剤には、前記酸性剤として、速効性酸性剤が配合されている。
前記速効性酸性剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、酒石酸、フマル酸、フマル酸ナトリウム、塩化アンモニウムなどが挙げられる。
【0030】
前記中間型膨張剤には、前記酸性剤として、上述した速効性酸性剤と、後述する遅効性酸性剤とが組み合わせて配合されている。
【0031】
前記遅効型膨張剤には、前記酸性剤として遅効性酸性剤が配合されている。
前記遅効性酸性剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、グルコノデルタラクトン、リン酸二水素カルシウム、リン酸ナトリウム、焼ミョウバン、コーティング有機酸、ピロリン酸カルシウムなどが挙げられる。ただし、リン酸二水素カルシウム、リン酸ナトリウム、焼ミョウバンは、食品安全性等の観点から使用基準が定められ、近年忌避される傾向にある。
【0032】
前記コーティング有機酸は、表面がコート剤で被覆された有機酸である。
前記コート剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、硬化油脂、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸の金属塩等の油脂;乳化剤などが挙げられる。
前記有機酸としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、フマル酸、酒石酸などが挙げられる。
前記コーティング有機酸としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、特開2011-67195号公報又は特開2017-163887号公報に記載のベーキングパウダー組成物を用いることができる。また、市販品として、例えばオリエンタル酵母工業株式会社製の「デルトン」、「ブランニュー」、奥野製薬工業株式会社製の「トップふくらし粉860」、「トップふくらし粉950」などを用いることができる。
【0033】
前記遅効型膨張剤の中でも、ボリュームを向上させることができ、また、生地のつながりを脆くする役割により、焼成中に生地の傷んだ箇所よりガスが抜けてブラックスポットが生じやすくなる点で、遅効性酸性剤としてグルコノデルタラクトン又は油脂コーティング有機酸(前記コーティング有機酸において、前記コート剤として油脂を用いたもの)を含有するものが好ましい。
【0034】
前記膨張剤のピザ生地における含有量(以下、「配合量」と称することもある。)としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、食感や焼き色がより優れる点で、原料として用いる穀粉類100質量部に対して、膨張剤を0.5~3質量部含有することが好ましく、0.5~3質量部含有することがより好ましい。
【0035】
前記ピザ生地の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、小麦粉を主体とする原料として用いる穀粉類と、活性酵母と、グルタチオン及び不活性酵母の少なくともいずれかと、必要に応じてさらにその他の成分とを含む穀粉組成物に水を添加して、混捏、発酵して製造する方法などが挙げられる。前記ピザ生地は、後述する本発明のピザ類の製造方法における生地調製工程により好適に製造することができる。なお、前記ピザ生地は、焼成前のものである。
【0036】
<用途>
前記ピザ生地の用途(ピザ類のタイプ)としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、焼成前のピザ生地に具材などを載せて焼成するピザ類、具材などを載せずに生地のみを焼成する、いわゆるピザクラストなどが挙げられる。
これらの中でも、前記ピザ生地は、ソースや具材などが無いため、見栄えが必要であるピザクラストに好適に用いることができ、ナポリタイプのピザクラストにより好適に用いることができる。
【0037】
(ピザ類の製造方法)
本発明のピザ類の製造方法は、上記した本発明のピザ生地を焼成する焼成工程を少なくとも含み、必要に応じてさらにその他の工程を含む。
【0038】
<ピザ類>
前記ピザ類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、上記した本発明のピザ生地の「用途」の項目に記載したものと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0039】
<焼成工程>
前記焼成工程は、上記した本発明のピザ生地を焼成する工程である。前記ピザ生地は、後述する生地調製工程により製造したものであることが好ましい。
【0040】
前記焼成の温度としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、300~530℃の条件を挙げることができる。一般に、ナポリタイプのピザを製造する際には、450~530℃程度の高温焼成可能な加熱設備が必要となるが、本願発明ではこれよりも低い温度帯でも、良好な色調、食感を得ることができる。そのため、設備に係るコスト等の点で、前記焼成の温度は、300~450℃が好ましく、300~420℃がより好ましく、300~400℃がさらに好ましい。
【0041】
前記焼成の時間としては、特に制限はなく、例えば、焼成温度などに応じて適宜選択することができる。
【0042】
前記焼成の手段としては、特に制限はなく、オーブン、石窯などの公知の手段を適宜選択することができる。
【0043】
<生地調製工程>
前記生地調製工程は、前記ピザ生地を製造する工程である。前記生地調製工程としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0044】
前記生地調製工程における前記ピザ生地の混捏の程度としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
一般に、ベーカリー生地の混捏(以下、「混捏工程」と称することがある。)は、生地の外観及び物理的状態などにとって、従来より以下のように5段階に区分されている。
(1)混和ステージ・ピックアップステージ(第1段階)
(2)クリーンアップステージ(第2段階)
(3)ディベロップメントステージ(第3段階)
(4)ファイナルステージ(第4段階)
(5)レットダウンステージ・ブレークダウンステージ(第5段階)
【0045】
前記第1段階は、小麦粉と水が均一に混和される段階であり、混和ステージでは、生地は粘着性を示す。また、ピックアップステージでは、生地はグルテン膜の形成が始まり、その表面は湿った荒い状態を示す。
【0046】
前記第2段階のクリーンアップステージでは、生地は弾性と粘性を増し、乾いた状態となり、ミキサーの内壁から剥離するようになる。
【0047】
前記第3段階のディベロップメントステージでは、生地は均質で乾いた、弾性の強い状態となるが、まだ伸展性が不足している。このディベロップメントステージは、物性の弱い小麦粉を使用する生地では混捏工程の終了時期である。
【0048】
前記第4段階のファイナルステージでは、生地は伸展性が表れ始めるとともに、グルテンの結合も強くなり、引っ張ってくる。通常の強力粉を使用する生地の混捏工程の終了時期である。一般的なピザ生地はこのファイナルステージで混捏工程を終了する。
【0049】
前記第5段階のレットダウンステージでは、生地は再び湿った伸び易い状態となる。高蛋白強力粉を使用する生地やある種類の菓子パン生地では混捏工程の終了時期である。また、ブレークダウンステージでは、生地は弾性を失い、湿った粘着性の強い状態となり、半透明の光沢を示すようになる。このような生地の焼成品は満足な品質が得られない。
【0050】
前記生地調製工程では、前記混捏工程を、(4)ファイナルステージで終了することもできるが、食感や焼き色がより優れる点で、(2)クリーンアップステージもしくは(3)ディベロップメントステージで終了することが好ましく、(3)ディベロップメントステージで終了することがより好ましい。
【0051】
前記混捏した生地の発酵時間としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、3時間以下が好ましく、2時間以下がより好ましく、1時間以下がさらに好ましい。
【0052】
前記生地の発酵における温度及び湿度としては、特に制限はなく、発酵時間などに応じて適宜選択することができる。
【0053】
前記発酵した生地は、ベンチタイムを取った後、任意の形状に成形することができる。
前記ベンチタイムとしては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0054】
本発明のピザ類の製造方法によれば、従来のナポリタイプのピザクラストの製造方法と比較して、発酵時間を短時間とし、焼成温度を低くした場合でも、食感に優れ、かつ焼き色にも優れたピザ類を容易に製造することができる。
【0055】
(ナポリタイプのピザクラストの焼き色向上方法)
本発明のナポリタイプのピザクラストの焼き色向上方法(以下、「焼き色向上方法」と称することがある。)は、ピザ生地に、グルタチオン及び不活性酵母の少なくともいずれかを配合することを少なくとも含み、必要に応じてさらにその他の工程を含む。
【0056】
前記グルタチオンは、上記した本発明のピザ生地の「グルタチオン」の項目に記載したものと同様である。
【0057】
前記不活性酵母は、上記した本発明のピザ生地の「不活性酵母」の項目に記載したものと同様である。
【0058】
前記グルタチオン及び不活性酵母の少なくともいずれかの配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、上記した本発明のピザ生地の「グルタチオン」及び「不活性酵母」の項目に記載したものと同様とすることができる。
【0059】
前記焼き色向上方法は、ピザ生地に、膨張剤をさらに配合することを含むことが好ましい。
【0060】
前記膨張剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、上記した本発明のピザ生地の「膨張剤」の項目に記載したものと同様とすることができる。
前記膨張剤の配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、上記した本発明のピザ生地の「膨張剤」の項目に記載したものと同様とすることができる。
【0061】
前記焼き色向上方法は、上記した本発明のピザ類の製造方法と同様にして実施することができる。
【0062】
本発明の焼き色向上方法によれば、従来のナポリタイプのピザクラストの製造方法と比較して、発酵時間を短時間とし、焼成温度を低くした場合でも、良好な焼き色を形成することができる。
【実施例0063】
以下、試験例を示して本発明を説明するが、本発明は、これらの試験例に何ら限定されるものではない。
【0064】
(試験例1)
下記の表1-1~1-2に記載の配合にて、混捏を行った。混捏の程度は、下記の表1-1~1-2に記載のステージまで行った。なお、不活性酵母及び膨張剤は、一例として下記のものを使用した。
・ 不活性酵母 :
イーストパウダーHG(オリエンタル酵母工業株式会社製、約1.5質量%のグルタチオンが含まれている。)
・ 膨張剤 :
(A) 遅効型膨張剤(デルトン、オリエンタル酵母工業株式会社製、炭酸水素ナトリウムを26質量%、グルコノデルタラクトンを70質量%含有)
(B) 速効型膨張剤(ベーキングパウダーC#1、オリエンタル酵母工業株式会社製)
【0065】
捏ねあがったナポリタイプのピザの生地は、200gずつ分割し、まるめを行い、下記の表1-1~1-2に記載の条件にて、発酵を行った。下記の表1-1~1-2中、短時間、長時間の発酵条件は、下記のとおりである。
・ 短時間 : 27℃、相対湿度75%、30分間
・ 長時間 : 5℃、相対湿度75%、12時間
【0066】
発酵した生地は、ベンチタイムを20分間取った後、直径25cmの円形に成形し、ナポリタイプのピザ生地とした。
【0067】
成形した生地は、下記の表1-1~1-2に記載の焼成温度に設定したオーブンを用い、下記の表1-1~1-2に記載の焼成時間で焼成し、ナポリタイプのピザクラストを得た。
なお、下記の表1-1に記載の対照例は、一般的に好ましいナポリピザを製造する条件とされている長時間の発酵と、高温・短時間の焼成条件で行ったものである。
【0068】
<色調評価>
得られたピザクラスト10枚について、下記の評価基準で色調を評価し、その平均点を下記の表1-1~1-2に示した。
-評価基準-
5点 : 全体に均質な斑状の焦げがあり、鮮やかなコントラストである。
4点 : ある程度斑状の焦げがあり、やや鮮やかなコントラストである。
3点 : コントラストにやや欠けるが、斑状の焦げが一部にみられる。
2点 : 斑状の焦げが殆ど無く、ややぼけた焼色である。
1点 : 全体的に白く、ぼけた焼色である。
【0069】
<食感評価>
訓練された10名の評価者が得られたピザクラストを喫食し、下記の評価基準で食感を評価し、その平均点を下記の表1-1~1-2に示した。
-評価基準-
5点 : 歯切れの良い食感である。
4点 : やや歯切れの良い食感である。
3点 : 歯切れが悪くない。
2点 : やや噛み切りにくく、歯切れがやや悪い。
1点 : 噛み切りにくく、歯切れが悪い。
【0070】
【表1-1】
【0071】
【表1-2】
【0072】
(試験例2)
下記の表2に記載の配合にて、混捏を行った。混捏の程度は、下記の表2に記載のステージまで行った。なお、各成分は、試験例1と同様のものを使用した。
【0073】
捏ねあがったナポリタイプのピザの生地は、200gずつ分割し、まるめを行い、下記の表2に記載の条件にて、発酵を行った。下記の表2中、短時間の発酵条件は、試験例1と同様である。
【0074】
発酵した生地は、ベンチタイムを20分間取った後、直径25cmの円形に成形し、ナポリタイプのピザ生地とした。
【0075】
成形した生地は、下記の表2に記載の焼成温度に設定したオーブンを用い、下記の表2に記載の焼成時間で焼成し、ナポリタイプのピザクラストを得た。
【0076】
<評価>
得られたピザクラストについて、試験例1と同様にして、色調評価及び食感評価を行った。結果を下記の表2に示した。
【0077】
【表2】
【0078】
(試験例3)
下記の表3に記載の配合にて、混捏を行った。混捏の程度は、下記の表3に記載のステージまで行った。なお、各成分は、試験例1と同様のものを使用した。
【0079】
捏ねあがったナポリタイプのピザの生地は、200gずつ分割し、まるめを行い、下記の表3に記載の条件にて、発酵を行った。下記の表3中、短時間の発酵条件は、試験例1と同様である。
【0080】
発酵した生地は、ベンチタイムを20分間取った後、直径25cmの円形に成形し、ナポリタイプのピザ生地とした。
【0081】
成形した生地は、下記の表3に記載の焼成温度に設定したオーブンを用い、下記の表3に記載の焼成時間で焼成し、ナポリタイプのピザクラストを得た。
【0082】
<評価>
得られたピザクラストについて、試験例1と同様にして、色調評価及び食感評価を行った。結果を下記の表3に示した。
【0083】
【表3】
【0084】
上記で示したように、本発明によれば、発酵時間を短時間とし、焼成温度を低くした場合でも、良好な食感を有しつつ、かつ良好な焼き色(良好な斑状の焦げ)を有するピザ類を容易に得ることができることが確認された。